(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】圧電積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/80 20230101AFI20241008BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20241008BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20241008BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20241008BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20241008BHJP
H10N 30/074 20230101ALI20241008BHJP
H10N 30/071 20230101ALI20241008BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H10N30/80
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/853
H10N30/88
H10N30/074
H10N30/071
H04R17/00 330H
(21)【出願番号】P 2020068252
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 稔顕
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和俊
(72)【発明者】
【氏名】木村 健司
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155276(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107194345(CN,A)
【文献】国際公開第2019/058978(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/175013(WO,A1)
【文献】特開2018-170343(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0055088(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/80
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/853
H10N 30/88
H10N 30/074
H10N 30/071
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に出力側下部電極膜および入力側下部電極膜を製膜する工程と、
前記出力側下部電極膜上に、酸化膜である出力側圧電膜を製膜する工程と、
前記出力側圧電膜を保護する保護膜を製膜する工程と、
前記入力側下部電極膜上に、窒化膜である入力側圧電膜を製膜する工程と、
前記保護膜をエッチングにより除去することで、前記出力側圧電膜を露出させる工程と、
前記出力側圧電膜上に出力側上部電極膜を製膜し、前記入力側圧電膜上に入力側上部電極膜を製膜する工程と、を行うことで、
前記出力側下部電極膜と前記出力側圧電膜と前記出力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波出力部と、前記入力側下部電極膜と前記入力側圧電膜と前記入力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波入力部と、が前記基板を上面から見たときに互いに重ならないように配置された積層体を作製する工程を有する圧電積層体の製造方法。
【請求項2】
前記保護膜は、二酸化ケイ素からなる
膜である請求項1に記載の圧電積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電積層体、圧電積層体の製造方法、および圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体が、例えばp-MUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)の超音波センサ等に用いられることがある。圧電体の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の強誘電体が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。また、超音波センサ等に用いられる圧電材料として、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)系の強誘電体、あるいは、窒化アルミニウム(AlN)が用いられることもある(例えば特許文献2参照)。近年、圧電体を有する超音波センサにおいて、さらに高性能な超音波センサが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-146020号公報
【文献】特開2019-165307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高性能な超音波センサを提供可能な圧電積層体等を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられる出力側下部電極膜と、
前記出力側下部電極膜上に設けられ、酸化膜である出力側圧電膜と、
前記出力側圧電膜上に設けられる出力側上部電極膜と、
前記基板上に設けられる入力側下部電極膜と、
前記入力側下部電極膜上に設けられ、窒化膜である入力側圧電膜と、
前記入力側圧電膜上に設けられる入力側上部電極膜と、を備え、
前記出力側下部電極膜と前記出力側圧電膜と前記出力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波出力部と、前記入力側下部電極膜と前記入力側圧電膜と前記入力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波入力部と、が前記基板を上面から見たときに互いに重ならないように配置されている圧電積層体、圧電素子、および超音波センサが提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
基板上に出力側下部電極膜および入力側下部電極膜を製膜する工程と、
前記出力側下部電極膜上に、酸化膜である出力側圧電膜を製膜する工程と、
前記出力側圧電膜を保護する保護膜を製膜する工程と、
前記入力側下部電極膜上に、窒化膜である入力側圧電膜を製膜する工程と、
前記保護膜をエッチングにより除去することで、前記出力側圧電膜を露出させる工程と、
前記出力側圧電膜上に出力側上部電極膜を製膜し、前記入力側圧電膜上に入力側上部電極膜を製膜する工程と、を行うことで、
前記出力側下部電極膜と前記出力側圧電膜と前記出力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波出力部と、前記入力側下部電極膜と前記入力側圧電膜と前記入力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波入力部と、が前記基板を上面から見たときに互いに重ならないように配置されている積層体を作製する工程を有する圧電積層体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高性能な超音波センサを提供可能な圧電積層体、圧電素子を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の変形例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる超音波センサの概略構成の一例を示す図である。
【
図4】(a)は出力側圧電膜を製膜する前の積層体10aの断面構造の一例を示す図であり、(b)は出力側圧電膜を製膜した後の積層体10bの断面構造の一例を示す図であり、(c)は出力側圧電膜を所定形状に成形した後の積層体10cの断面構造の一例を示す図であり、(d)は保護膜を製膜した後の積層体10dの断面構造の一例を示す図であり、(e)は入力側圧電膜を製膜した後の積層体10eの断面構造の一例を示す図であり、(f)は保護膜を除去した後の積層体10fの断面構造の一例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態の変形例にかかる圧電積層体の断面構造を示す図である。
【
図6】(a)は出力側圧電膜を製膜する前の積層体40aの断面構造の一例を示す図であり、(b)は出力側圧電膜を製膜し、所定形状に成形した後の積層体40bの断面構造の一例を示す図であり、(c)は保護膜を製膜した後の積層体40cの断面構造の一例を示す図であり、(d)は入力側下部電極膜を製膜した後の積層体40dの断面構造の一例を示す図であり、(e)は入力側圧電膜を製膜した後の積層体40eの断面構造の一例を示す図であり、(f)は保護膜を除去した後の積層体40fの断面構造の一例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態の変形例にかかる圧電積層体の断面構造を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態の変形例にかかる圧電積層体の断面構造を示す図である。
【
図9】(a)は出力側圧電膜を製膜する前の積層体42aの断面構造の一例を示す図であり、(b)は出力側圧電膜を製膜した後の積層体42bの断面構造の一例を示す図であり、(c)は保護膜を製膜した後の積層体42cの断面構造の一例を示す図であり、(d)は入力側圧電膜を製膜した後の積層体42dの断面構造の一例を示す図であり、(e)は保護膜を除去した後の積層体42eの断面構造の一例を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態の変形例にかかる圧電積層体の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0010】
(1)圧電積層体の構成
図1に示すように、本実施形態にかかる圧電膜を有する積層体(積層基板)10(以下、圧電積層体10とも称する)は、基板1と、基板1上に設けられた(製膜された)下部電極膜2と、下部電極膜2上に設けられた(製膜された)出力側圧電膜3Aと、出力側圧電膜3A上に設けられた(製膜された)出力側上部電極膜4Aと、下部電極膜2上に設けられた(製膜された)入力側圧電膜3Bと、入力側圧電膜3B上に設けられた(製膜された)入力側上部電極膜4Bと、を備えて構成されている。なお、本実施形態では、下部電極膜2が、出力側下部電極膜2Aとして機能するとともに入力側下部電極膜2Bとしても機能する。
【0011】
基板1としては、熱酸化膜またはCVD(Chemical Vapor Deposition)酸化膜等の表面酸化膜(SiO
2膜)1bが形成された単結晶シリコン(Si)基板1a、すなわち、表面酸化膜を有するSi基板を好適に用いることができる。また、基板1としては、
図2に示すように、その表面にSiO
2以外の絶縁性材料により形成された絶縁膜1dを有するSi基板1aを用いることもできる。また、基板1としては、表面にSi(100)面またはSi(111)面等が露出したSi基板1a、すなわち、表面酸化膜1bまたは絶縁膜1dを有さないSi基板を用いることもできる。また、基板1としては、SOI(Silicon On Insulator)基板、石英ガラス(SiO
2)基板、ガリウム砒素(GaAs)基板、サファイア(Al
2O
3)基板、ステンレス(SUS)等の金属材料により形成された金属基板を用いることもできる。単結晶Si基板1aの厚さは例えば300μm以上1000μm以下とすることができ、表面酸化膜1bの厚さは例えば1nm以上4000nm以下とすることができる。
【0012】
下部電極膜2は、例えば、白金(Pt)を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、単結晶膜または多結晶膜(以下、これらをPt膜とも称する)となる。Pt膜を構成する結晶は、基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、下部電極膜(Pt膜)2の表面(出力側圧電膜3Aの下地となる面)は、主にPt(111)面により構成されていることが好ましい。Pt膜は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、Pt以外に、金(Au)、ルテニウム(Ru)、またはイリジウム(Ir)等の各種金属、これらを主成分とする合金、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、略称:SRO)またはニッケル酸ランタン(LaNiO3、略称:LNO)等の金属酸化物等を用いて製膜することもできる。また、下部電極膜2は、上記各種金属または金属酸化物等を用いて製膜した単層膜であってもよく、あるいは、Pt膜とPt膜上に設けられたLNOからなる膜との積層体や、Pt膜とPt膜上に設けられたSROからなる膜との積層体等であってもよい。下部電極膜2の厚さは例えば100nm以上400nm以下とすることができる。
【0013】
基板1と下部電極膜2との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO2)、ニッケル(Ni)、ルテニウム酸化物(RuO2)、イリジウム酸化物(IrO2)等を主成分とする密着層6が設けられていてもよい。密着層6は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。密着層6の厚さは例えば1nm以上200nm以下とすることができる。
【0014】
出力側圧電膜3Aは、酸素(O)を含み窒素(N)を含まない膜、すなわち酸化膜で構成されている。なお、ここでいう「Nを含まない膜」とは、Nを全く含まない膜の他、不可避的不純物として微量のNを含む膜も含むものとする。出力側圧電膜3Aは、圧電定数が高い膜であることが好ましい。これにより、後述の電圧印加部11aにより所定の電圧が印加された際に出力側圧電膜3Aを大きく変形させ、後述の出力側振動部を大きく振動させることが可能となる。その結果、後述の超音波出力部から送信される超音波の強度を高めることが可能となり、被験対象物に対する超音波の振動深さ(深度)を深くすることが可能となる。出力側圧電膜3Aの圧電定数は例えば100pm/V以上、好ましくは170pm/V以上とすることができる。なお、出力側圧電膜3Aの圧電定数の上限は特に限定されないが、現在の技術では、その上限は200pm/V程度である。また、出力側圧電膜3Aは、入力側圧電膜3Bよりも高い圧電定数を有していることが好ましい。
【0015】
出力側圧電膜3Aは、例えば、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)、すなわち、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)を含み、組成式(K1-xNax)yNbO3で表されるアルカリニオブ酸化物を用いて製膜することができる。上述の組成式中の係数x[=Na/(K+Na)]は、0<x<1の範囲内の大きさとする。好ましくは、上述の組成式中の係数xは0<x<1の範囲内の大きさとし、係数y[=(K+Na)/Nb]は、0.7≦y≦1.50の範囲内の大きさとする。出力側圧電膜3Aは、KNNの多結晶膜(以下、KNN膜3Aとも称する)となる。KNNの結晶構造は、ペロブスカイト構造となる。KNN膜3Aは、スパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ゾルゲル法等の手法を用いて製膜することができる。KNN膜3Aの厚さは例えば0.5μm以上5μm以下とすることができる。
【0016】
KNN膜3Aを構成する結晶は、基板1の表面(基板1が例えば表面酸化膜1bまたは絶縁膜1d等を有するSi基板1aである場合はSi基板1aの表面、以下同様)に対して(001)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、KNN膜3Aの表面(出力側上部電極膜4Aの下地となる面)は、主にKNN(001)面方位により構成されていることが好ましい。基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向させたPt膜上にKNN膜3Aを直接製膜することで、KNN膜3Aを構成する結晶を、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向させることが容易となる。例えば、KNN膜3Aを構成する結晶群のうち80%以上の結晶を基板1の表面に対して(001)面方位に配向させ、KNN膜3Aの表面のうち80%以上の領域をKNN(001)面とすることが容易となる。
【0017】
KNN膜3Aを構成する結晶群のうち半数以上の結晶が柱状構造を有していることが好ましい。また、KNN膜3Aを構成する結晶同士の境界、すなわちKNN膜3Aに存在する結晶粒界は、KNN膜3Aの厚さ方向に貫いていることが好ましい。例えば、KNN膜3Aでは、その厚さ方向に貫く結晶粒界が、KNN膜3Aの厚さ方向に貫いていない結晶粒界(例えば基板1の平面方向に平行な結晶粒界)よりも多いことが好ましい。
【0018】
KNN膜3Aは、銅(Cu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、およびバナジウム(V)からなる群より選択される少なくとも1つの金属元素(以下、単に「金属元素」とも称する)を含んでいることが好ましい。KNN膜3Aは、CuおよびMnのうち少なくともいずれかを含んでいることがより好ましい。CuおよびMnのうち少なくともいずれかを含むとは、Cuのみを含み場合、Mnのみを含む場合、CuおよびMnの両方を含む場合がある。
【0019】
KNN膜3Aは、上記金属元素を、KNN膜3A中のニオブ(Nb)の量に対して例えば0.2at%以上2.0at%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましい。すなわち、KNN膜3A中の上記金属元素の濃度は例えば0.2at%以上2.0at%以下であることが好ましい。なお、KNN膜3A中に、Cu、Mn、Fe、およびVのうち複数種類の金属元素が含まれている場合の金属元素の濃度は、複数種類の金属元素の合計濃度となる。
【0020】
KNN膜3A中の金属元素の濃度が0.2at%以上であることで、KNN膜3Aの絶縁性(リーク耐性)を向上させつつ、フッ素系エッチング液に対する耐性(エッチング耐性)を向上させることが可能となる。KNN膜3Aの絶縁性が向上することで、後述の電圧印加部11aにより、より高い電圧を印加することができるようになる。結果として、KNN膜3Aの変形量をより大きくすることが可能となる。KNN膜3Aのエッチング耐性が向上することで、すなわち、KNN膜3Aがエッチングされにくいことで、圧電積層体10の作製プロセスで、KNN膜3Aの圧電性能や品質が低下することを抑制することができる。
【0021】
KNN膜3A中の金属元素の濃度が2.0at%以下であることで、KNN膜3Aの比誘電率を、超音波発生用の振動子等の用途に好適な大きさとすることができ、後述するように超音波発生用の振動子に適用された際の消費電力の増加等を抑制することが可能となる。
【0022】
KNN膜3Aは、K、Na、Nb、および上記金属元素以外の副次的な成分を、上記金属元素を所定の範囲内で添加することで得られる効果を損なわない範囲内、例えば5at%以下の範囲内(副次的な成分を複数種類含む場合は、その合計濃度が5at%以下となる範囲内)で含んでいてもよい。副次的な成分としては、リチウム(Li)、Ta、アンチモン(Sb)等が例示される。
【0023】
出力側上部電極膜4A(以下、上部電極膜4Aとも称する)は、例えば、Pt、Au、アルミニウム(Al)、Cu等の各種金属またはこれらの合金を用いて製膜することができる。上部電極膜4Aは、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法を用いて製膜することができる。上部電極膜4Aは、下部電極膜2AのようにKNN膜3Aの結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、上部電極膜4Aの材料、結晶構造、製膜手法は特に限定されない。なお、KNN膜3Aと上部電極膜4Aとの間には、これらの密着性を高めるため、例えば、Ti、Ta、TiO2、Ni、RuO2、IrO2等を主成分とする密着層が設けられていてもよい。上部電極膜4Aの厚さは例えば10nm以上5000nm以下とすることができ、密着層を設ける場合には密着層の厚さは例えば1nm以上200nm以下とすることができる。
【0024】
入力側圧電膜3Bは、窒素(N)を含み酸素(O)を含まない膜、すなわち窒化膜で構成されている。なお、ここでいう「Oを含まない膜」とは、Oを全く含まない膜の他、不可避的不純物として微量のOを含む膜も含まれるものとする。入力側圧電膜3Bは比誘電率が低い膜であることが好ましい。これにより、超音波の受信感度を高めることが可能となる。具体的には、後述の入力側振動部の振動が小さい場合であっても、入力側圧電膜3Bを変形させ、その変形により電圧を発生させることが可能となる。入力側圧電膜3Bの比誘電率は例えば25以下、好ましくは15以下とすることができる。なお、入力側圧電膜3Bの比誘電率の下限は特に限定されないが、現在の技術では、その下限は8程度である。また、入力側圧電膜3Bは、出力側圧電膜3Aよりも低い比誘電率を有していることが好ましい。
【0025】
入力側圧電膜3Bは、例えば、アルミニウム(Al)を含む窒化物、すなわち、窒化アルミニウム(AlN)を用いて製膜することができる。入力側圧電膜3Bは、AlNの多結晶膜(以下、AlN膜3Bとも称する)となる。AlN膜3Bは、スパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等の手法を用いて製膜することができる。AlN膜3Bの厚さは例えば0.3μm以上5μm以下とすることができる。AlN膜3Bの厚さは、上記範囲内で、できるだけ厚いことが好ましく、これにより、超音波の受信感度を高めることが可能となる。
【0026】
AlN膜3Bを構成する結晶は、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、AlN膜3Bの表面(入力側上部電極膜4Bの下地となる面)は、主にAlN(001)面により構成されていることが好ましい。基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向させた下部電極膜2B上にAlN膜3Bを直接製膜することで、AlN膜3Bを構成する結晶を、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向させることが容易となる。例えば、AlN膜3Bを構成する結晶群のうち80%以上の結晶を基板1の表面に対して(001)面方位に配向させ、AlN膜3Bの表面のうち80%以上の領域をAlN(001)面とすることが容易となる。
【0027】
AlN膜3Bを構成する結晶群のうち半数以上の結晶が柱状構造を有していることが好ましい。また、AlN膜3Bを構成する結晶同士の境界、すなわちAlN膜3Bに存在する結晶粒界は、AlN膜3Bの厚さ方向に貫いていることが好ましい。例えば、AlN膜3Bでは、その厚さ方向に貫く結晶粒界が、AlN膜3Bの厚さ方向に貫いていない結晶粒界(例えば基板1の平面方向に平行な結晶粒界)よりも多いことが好ましい。
【0028】
AlN膜3Bは、スカンジウム(Sc)を含むAlN膜(Sc-AlN膜)であってもよく、マグネシウム(Mg)とジルコニウム(Zr)とを含むAlN膜(MgZr-AlN膜)であってもよく、Mgとハフニウム(Hf)とを含むAlN膜(MgHf-AlN膜)であってもよい。これにより、AlN膜3Bの圧電定数を向上させることができ、その結果、超音波の受信感度を確実に高めることが可能となる。
【0029】
入力側上部電極膜4B(以下、上部電極膜4Bとも称する)は、上述の上部電極膜4Aと同様の構成とすることができる。すなわち、上部電極膜4Bは、例えば、Pt、Au、Al、Cu等の各種金属またはこれらの合金を用いて製膜することができる。また、上部電極膜4Bは、モリブデン(Mo)、Ru等の各種金属またはこれらの合金を用いて製膜することもできる。例えば、上部電極膜4Bは、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法を用いて製膜することができる。上部電極膜4Bは、下部電極膜2のようにAlN膜3Bの結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、上部電極膜4Bの材料、結晶構造、製膜手法は特に限定されない。なお、AlN膜3Bと上部電極膜4Bとの間には、これらの密着性を高めるため、例えば、Ti、Ta、TiO2、Ni等を主成分とする密着層が設けられていてもよい。上部電極膜4Bの厚さは例えば10nm以上5000nm以下とすることができ、密着層を設ける場合には密着層の厚さは例えば1nm以上200nm以下とすることができる。
【0030】
下部電極膜2と、KNN膜3Aと、上部電極膜4Aとを備えた積層部により、超音波出力部(以下、「出力部」とも称する)が構成される。なお、密着層6や、基板1に形成される後述の出力側振動部等を出力部に含めて考えてもよい。出力部とは、超音波を発生させて送信(出力)する部分である。出力部は、下部電極膜2と上部電極膜4Aとの間に接続される後述の電圧印加部11aにより下部電極膜2と上部電極膜4Aとの間に電界(電圧)を印加することでKNN膜3Aが変形し、このKNN膜3Aの変形により出力側振動部が振動し、この出力側振動部の振動により生じた超音波を出力するように構成されている。
【0031】
下部電極膜2と、AlN膜3Bと、上部電極膜4Bとを備えた積層部により、超音波入力部(以下、「入力部」とも称する)が構成される。なお、密着層6や、基板1に形成される後述の入力側振動部等を入力部に含めて考えてもよい。入力部とは、出力部から出力されて被験対象物で反射した超音波を受信(入力)する部分である。入力部は、超音波を受信し、入力側振動部が振動することでAlN膜3Bが変形するように構成されている。このAlN膜3Bの変形により下部電極膜2と上部電極膜4Bとの間に電圧が発生する。
【0032】
出力部および入力部は、基板1(圧電積層体10)を上面から見たときに互いに重ならないように配置されている。これにより、出力部と入力部とが互いに干渉することを抑制できる。その結果、圧電積層体10を用いて作製される後述の超音波センサ30のセンシング精度を高めることができる。ここで、「基板1を上面から見たとき」とは、「KNN膜3A、AlN膜3B等が設けられた基板1の主面を垂直方向上方から見たとき」を意味する。なお、ここでいう「垂直方向」とは、出力部から送信される超音波の伝搬方向または入力部で受信する超音波の伝搬方向の少なくともいずれかと一致する方向である。
【0033】
出力部と入力部との間の距離dは、これらが互いに干渉しない(接触しない)距離であって、できるだけ短い距離であることが好ましい。すなわち、出力部および入力部は互いに接していないけれども、これらの間の距離dはできるだけ短い方が好ましい。例えば、出力部と入力部との間の距離(最長距離)dは500μm以下であることが好ましい。出力部と入力部とは、MEMS製造技術で可能な距離まで近づけられていることがより好ましい。これにより、後述の超音波センサ30を、高性能にしつつ、出力部および入力部の集積度を高めて小型にすることが可能となる。
【0034】
(2)圧電素子、超音波センサの構成
図3に、本実施形態にかかる超音波センサ30の概略構成図を示す。超音波センサ30は、1つの圧電素子20と、この圧電素子20に接続される電圧印加部11aおよび電圧検出部11bと、を少なくとも備えている。超音波センサ30の用途としては、p-MUT等が例示される。
【0035】
圧電素子20は、出力側圧電膜3Aおよび入力側圧電膜3Bを有する素子を意味し、上述の圧電積層体10を所定の形状に成形することで得られる。圧電積層体10を所定の形状に成形する際、例えば、出力部に対応する基板1の位置に出力側振動部を形成し、入力部に対応する基板1の位置に入力側振動部を形成する。圧電積層体10が有する基板1に例えばメンブレン構造やカンチレバー構造を形成することで、出力側振動部、入力側振動部を形成することができる。
図3には、基板1にメンブレン構造が形成されている圧電素子20を例示している。
【0036】
出力側振動部および入力側振動部の共振周波数は同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、共振周波数に応じて、出力側振動部の幅を入力側振動部の幅よりも大きくする等、出力側振動部および入力側振動部の幅を、それぞれ異ならせてもよい。また例えば、共振周波数に応じて、出力部に対応する位置の基板1の厚さを入力部に対応する位置の基板1の厚さよりも厚くする等、出力側振動部および入力側振動部を構成する基板1の厚さをそれぞれ異ならせてもよい。
【0037】
電圧印加部11aは、下部電極膜2(出力側下部電極膜2A)と上部電極膜4Aとの間に電圧を印加するための手段であり、電圧検出部11bは、下部電極膜2(入力側下部電極膜2B)と上部電極膜4Bとの間に発生した電圧を検出するための手段である。電圧印加部11a、電圧検出部11bとしては、公知の種々の手段を用いることができる。
【0038】
電圧印加部11aを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4Aとの間に接続することで、上述の出力部を超音波発生用の振動子として機能させることができる。電圧印加部11aにより下部電極膜2と上部電極膜4Aとの間に電圧を印加することで、KNN膜3Aを変形させることができる。この変形動作により、出力側振動部が振動し、この振動により超音波を発生させることができる。
【0039】
電圧検出部11bを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4Bとの間に接続することで、入力部をセンサとして機能させることができる。入力部が超音波を受信し、入力側振動部が振動することでAlN膜3Bが変形すると、その変形によって下部電極膜2と上部電極膜4Bとの間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出部11bによって検出することで、入力部が受信した超音波の大きさを測定することができる。
【0040】
超音波センサ30は、出力部から被験対象物に向かって超音波を送信し、被験対象物で反射した超音波を入力部で受信するように構成されている。したがって、例えば、電圧検出部11bにより検出される電圧の大きさを複数回検出し、電圧の変化を観察することで、被験対象物の有無の判定を行うことができる。また例えば、電圧印加部11aによる電圧印加開始から電圧検出部11bによる電圧検出までの時間を複数回測定し、この時間の変化を観察することで、被験対象物までの距離を知ることができる。
【0041】
(3)圧電積層体、圧電素子、超音波センサの製造方法
以下では、上述の圧電積層体10、圧電素子20、および超音波センサ30の製造方法について、
図4(a)~(f)を参照しながら説明する。
【0042】
(下部電極膜の製膜)
まず、基板1を用意し、基板1のいずれかの主面上に、例えばスパッタリング法により密着層6(Ti層)および下部電極膜2(Pt膜)をこの順に製膜する。これにより、
図4(a)に示すような積層体10aが得られる。なお、いずれかの主面上に、密着層6や下部電極膜2が予め製膜された基板1(すなわち積層体10a)を用意してもよい。
【0043】
密着層6を形成する際の条件としては、下記の条件が例示される。
温度(基板温度):100℃以上500℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下
放電パワー:1000W以上1500W以下、好ましくは1100W以上1300W以下
雰囲気:アルゴン(Ar)ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
時間:30秒以上3分以下、好ましくは30秒以上2分以下
【0044】
下部電極膜2を製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。スパッタリング製膜時に用いるターゲットとしては、例えばPtからなる金属ターゲットを用いることができる。
製膜温度(基板温度):100℃以上500℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下
放電パワー:1000W以上1500W以下、好ましくは1100W以上1300W以下
製膜雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
製膜時間:3分以上10分以下、好ましくは4分以上7分以下
【0045】
(出力側圧電膜の製膜)
下部電極膜2の製膜が完了したら、積層体10a上(下部電極膜2上)にKNN膜3Aを例えばスパッタリング法により製膜する。KNN膜3Aの組成比は、例えばスパッタリング製膜時に用いるターゲット材の組成を制御することで調整可能である。ターゲット材は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、Cu粉末(又はCuO粉末、Cu2O粉末)、MnO粉末等を混合させて焼成すること等により作製することができる。ターゲット材の組成は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、Cu粉末(又はCuO粉末、Cu2O粉末)、MnO粉末等の混合比率を調整することで制御することができる。
【0046】
KNN膜3Aを製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。なお、製膜時間は製膜するKNN膜3Aの厚さに応じて適宜設定する。
製膜温度(基板温度):350℃超700℃以下、好ましくは550℃以上650℃以下
放電パワー:2000W以上2400W以下、好ましくは2100W以上2300W以下
製膜雰囲気:Arガス+酸素(O2)ガスの混合ガス雰囲気(酸素(O)含有雰囲気)
雰囲気圧力:0.2Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
O2ガスに対するArガスの分圧(Ar/O2分圧比):30/1~20/1、好ましくは27/1~23/1
製膜速度:0.5μm/hr以上2μm/hr以下、好ましくは0.5μm/hr以上1.5μm/hr以下
【0047】
これにより、
図4(b)に示すような積層体10bが得られる。また、上述の条件下でKNN膜3Aを製膜することにより、高品質なKNN膜3A、例えば圧電定数が100pm/V以上であるKNN膜3Aを製膜することができる。
【0048】
KNN膜3Aの製膜が完了したら、エッチング等によりKNN膜3Aを所定形状(所定パターン)に成形する。これにより、
図4(c)に示すような積層体10cが得られる。
【0049】
(保護膜の製膜)
続いて、KNN膜3Aを保護する保護膜12を製膜する。保護膜12は、KNN膜3Aを保護する(覆う)ように設ける。
【0050】
保護膜12は、AlN膜3Bの製膜雰囲気(N含有雰囲気)において還元されることなく、すなわち劣化することなく、KNN膜3Aを保護することができる材料であって、例えばフッ素(F)を含有するエッチング液を用いたウェットエッチング等により容易に除去することができる材料を用いて製膜することができる。保護膜12は、例えば、酸化シリコン(SiO2)を用いて製膜することができる。保護膜12は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法、蒸着法等により製膜することができる。保護膜12の厚さは、KNN膜3Aの表面を連続的に覆うことができる厚さ、すなわち、保護膜12が連続膜となる厚さとすることができる。なお、以下では、「AlN膜3Bの製膜雰囲気」を、「N含有雰囲気」とも称する。
【0051】
保護膜12をプラズマCVD法により製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。
製膜温度(基板温度):200℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上400℃以下、より好ましくは350℃
放電パワー:70W以上150W以下、好ましくは70W以上120W以下、より好ましくは100W
原料:テトラエトキシシラン(略称:TEOS)
製膜雰囲気:O2ガス雰囲気
雰囲気圧力:50Pa以上100Pa以下、好ましくは60Pa以上70Pa以下、より好ましくは67Pa
【0052】
なお、製膜時間は、製膜する保護膜12の厚さに応じて適宜設定する。製膜時間は、例えば5分以上15分以下とすることができる。具体的には、厚さが400nmである保護膜12を製膜する場合、製膜時間は11分とすることができる。
【0053】
上述の条件下で保護膜12を製膜することにより、連続膜であってKNN膜3Aを覆う保護膜12を製膜することができる。保護膜12は、N含有雰囲気においてKNN膜3Aの還元を抑制する膜として作用し、KNN膜3Aを保護する。この保護作用により、AlN膜3Bの製膜時に、KNN膜3AがN含有雰囲気に曝されることを抑制できる。これにより、KNN膜3AがAlN膜3Bの製膜中にN元素により還元されて劣化すること、すなわち、N元素によりKNN膜3A中の酸素が取り去られ、KNN膜3Aが劣化することを抑制することが可能となる。結果として、KNN膜3Aの圧電性能や品質が変わる(例えば絶縁性が低下する)ことを抑制することが可能となる。
【0054】
保護膜12の製膜が完了したら、保護膜12を所定のパターンに成形する。例えば、AlN膜3Bを製膜することとなる基板1上の位置から保護膜12をエッチング等により除去する。これにより、
図4(d)に示すような積層体10dが得られる。
【0055】
(入力側圧電膜の製膜)
続いて、AlN膜3Bを例えばスパッタリング法により製膜する。ターゲット材としては、例えば、Alからなる金属ターゲットを用いることができる。
【0056】
AlN膜3Bを製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。なお、製膜時間は製膜するAlN膜3Bの厚さに応じて適宜設定する。
製膜温度(基板温度):300℃以上350℃以下
放電パワー:600W以上900W以下、好ましくは700W以上800W以下
製膜雰囲気:Arガス+窒素(N2)ガスの混合ガス雰囲気(N含有雰囲気)
雰囲気圧力:0.5Pa以上2.0Pa以下、好ましくは0.7Pa以上1.0Pa以下
N2ガスに対するArガスの分圧(Ar/N2分圧比):1/10~1/2、好ましくは1/7~1/3、より好ましくは1/6~1/4
製膜速度:0.3μm/hr以上2μm/hr以下、好ましくは0.3μm/hr以上1μm/hr以下、より好ましくは0.3μm/hr以上0.5μm/hr以下
なお、製膜雰囲気は、Arガスとアンモニア(NH3)ガスとの混合ガス雰囲気であってもよい。
【0057】
これにより、
図4(e)に示すような積層体10eが得られる。また、上述の条件下でAlN膜3Bを製膜することにより、高品質なAlN膜3B、例えば比誘電率が25以下であるAlN膜3Bを製膜することができる。なお、上述のように、KNN膜3Aは保護膜12で覆われていることから、KNN膜3AがN含有雰囲気に存在するN元素により還元されることは殆どない。
【0058】
AlN膜3Bの製膜が完了したら、例えばフッ素(F)を含有するエッチング液を用いたウェットエッチングにより、保護膜12を除去する。これにより、KNN膜3Aが露出する。また、保護膜12をリフトオフ層として保護膜12上に形成された不要なAlN膜3Bが除去される。すなわち、AlN膜3Bが製膜されるべき領域のみに、AlN膜3Bが残される。その結果、
図4(f)に示すような積層体10fが得られる。なお、Fを含有するエッチング液としては、例えば、フッ化水素(HF)を4.32mol/L、フッ化アンモニウム(NH
4F)を10.67mol/Lの濃度で含むバッファードフッ酸(BHF)溶液を用いることができる。
【0059】
(上部電極膜の製膜)
そして、KNN膜3AおよびAlN膜3B上に、例えばスパッタリング法により上部電極膜4A,4BとしてのPt膜をそれぞれ製膜する。上部電極膜4A,4Bを製膜する際の条件は、上述の下部電極膜2を製膜する際の条件と同様の条件とすることができる。これにより、
図1に示すような圧電積層体10が得られる。
【0060】
そして、この圧電積層体10をエッチング等により所定の形状に成形することで、
図3に示すような圧電素子20が得られ、圧電素子20に電圧印加部11aまたは電圧検出部11bの少なくともいずれかを接続することで、超音波センサ30が得られる。
【0061】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0062】
(a)圧電積層体10が出力側圧電膜3A(KNN膜3A)と入力側圧電膜3B(AlN膜3B)とを有しており、KNN膜3Aを備えた積層部により構成される出力部とAlN膜3Bを備えた積層部により構成される入力部とが、基板1を上面から見た際に互いに重なっていない。これにより、KNN膜3AとAlN膜3Bとを、それぞれ独立して駆動させることが可能となる。また、圧電積層体10では、出力側圧電膜3Aを圧電定数が比較的高い酸化膜(すなわちKNN膜3A)で構成し、入力側圧電膜3Bを比誘電率が比較的低い窒化膜(すなわちAlN膜3B)で構成している。このような圧電積層体10を用いることで、被験対象物に対する超音波の浸透深さが深く、かつ、分解能が高い(受信感度が高い)超音波センサ30を得ることが可能となる。すなわち、高性能な超音波センサ30を得ることが可能となる。
【0063】
(b)本実施形態によれば、出力部と入力部とを有する圧電積層体10、圧電積層体10を加工することで得られる圧電素子20、および圧電素子20を用いて作製される超音波センサ30を、MEMS製造のプロセスにおいて一括で形成することができる。すなわち、高性能な超音波センサ30を、製造プロセスの複雑化を招くことなく作製することが可能となる。
【0064】
(c)出力部と入力部とが互いに接していないことで、出力部と入力部とが互いに干渉することを抑制できる。例えば、出力側振動部の振動が入力側振動部に伝わることを抑制できる。これにより、超音波センサ30のセンシング精度を高めることができる。すなわち、超音波センサ30をより高性能にすることができる。
【0065】
(d)圧電積層体10では、出力部と入力部との間の距離が例えば500μm以下、好ましくは300μm以下である。好ましくは、出力部と入力部とは、MEMS製造技術で可能な距離まで近づけられている。これにより、超音波センサ30のセンシング精度を高めつつ、出力部および入力部の集積度を高めることができる。すなわち、高性能かつ小型な超音波センサ30を得ることができる。
【0066】
(e)KNN膜3Aを製膜した後であってAlN膜3Bを製膜する前に、KNN膜3Aを保護する保護膜12を設けることにより、AlN膜3Bの製膜中にKNN膜3AがN含有雰囲気に曝されることを抑制できる。これにより、KNN膜3Aが、N含有雰囲気中のN元素により還元されて劣化することを抑制でき、その結果、KNN膜3Aの圧電性能や品質が低下することを抑制できる。すなわち、高品質かつ高性能なKNN膜3Aを有するKNN膜3Aと、高品質かつ高性能なAlN膜3Bと、を備える圧電積層体10を得ることができる。例えば、高い圧電定数を有するKNN膜3Aと、低い比誘電率を有するAlN膜3Bと、を有する圧電積層体10を得ることができる。
【0067】
(f)KNN膜3AはCu、Mn、Fe、およびVからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含んでいることから、例えばBHF溶液等のフッ素系エッチング液に対するKNN膜3Aのエッチング耐性を高めることができる。これにより、BHF溶液等を用いたウェットエッチングにより保護膜12を除去する際、KNN膜3Aがエッチングされることを防止することが可能となる。その結果、KNN膜3Aの圧電性能や品質の低下を確実に抑制することが可能となる。なお、KNN膜3Aのエッチング耐性を向上させる効果は、上記金属元素のうちCuをKNN膜3A中に添加した場合に特に高めることができることを本願発明者は確認済みである。
【0068】
ここで、参考までに、従来の超音波センサについて説明する。従来の超音波センサでは、PZT膜等の酸化膜からなる圧電膜を有する圧電素子を用い、超音波の送受信を行っている。しかしながら、このような超音波センサでは、超音波の浸透深さは深いものの、圧電膜の比誘電率が高く、センサの分解能が低い(すなわち、受信感度が低い)という課題がある。一方、従来の超音波センサにおいて、超音波センサの分解能を高くするために、AlN膜等の窒化膜からなる圧電膜を有する圧電素子を用い、超音波の送受信を行うことも考えられる。しかしながら、このような超音波センサでは、分解能は高いものの、圧電膜の圧電定数が低く、超音波の浸透深さが浅いという課題がある。このような課題に対し、本実施形態では、酸化膜で構成された出力側圧電膜3A(KNN膜3A)と、窒化膜で構成された入力側圧電膜3B(AlN膜3B)とを有し、KNN膜3Aを含む出力部で超音波の送信を行い、AlN膜3Bを含む入力部で超音波の受信を行うように構成されている。これにより、本実施形態によれば、超音波の浸透深さが深くかつ分解能が高い高性能な超音波センサ30等を得ることが可能となる。
【0069】
また、酸化膜からなる圧電膜を有する超音波送信用の素子と、窒化膜からなる圧電膜を有する超音波受信用の素子と、の少なくとも2つの個別の圧電素子を用意し、これら少なくとも2つの圧電素子を、振動部が形成された基板の振動部上にそれぞれ設けることで超音波センサを構成することも考えられる。しかしながら、このような超音波センサを作製する際、圧電素子を基板上に貼り付ける(接着する)プロセス等が必要となる。このため、超音波センサの製造プロセスが複雑になる場合がある。また、圧電素子を基板上に貼り付けるプロセスでは、隣接する圧電素子間の距離を1mm程度、最短でも500μm程度にしかできないため、複数の圧電素子の集積度を高めることが難しいという課題もある。これに対し、本実施形態によれば、KNN膜3Aを含む出力部と、AlN膜3Bを含む入力部とを有する圧電積層体10(圧電素子20、超音波センサ30)を、MEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することが可能である。すなわち、本実施形態によれば、製造プロセスの複雑化を招くことなく、超音波の浸透深さが深くかつ分解能が高い高性能な超音波センサ30を作製することが可能である。また、本実施形態では、MEMS製造のプロセスにおいて一括で圧電積層体10等を作製することから、出力部と入力部とを、MEMS製造技術で可能な距離まで近づけることが可能となる。このように、本実施形態によれば、高性能かつ小型な超音波センサ30を、MEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することが可能となる。
【0070】
(5)変形例
本実施形態は、以下の変形例のように変形することができる。なお、以下の変形例の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0071】
(変形例1)
図5に示すように、出力側下部電極膜2A(以下、下部電極膜2Aとも称する)と、下部電極膜2A上に設けられた入力側下部電極膜2B(以下、下部電極膜2Bとも称する)とを備えて構成された圧電積層体40であってもよい。
【0072】
下部電極膜2Aは上述の実施形態の下部電極膜2と同様の構成とすることができる。
【0073】
下部電極膜2Bは、例えば、ハフニウム(Hf)またはモリブデン(Mo)の少なくともいずれかを用いて製膜することができる。下部電極膜2Bは、単結晶膜または多結晶膜となる。下部電極膜2Bを構成する結晶は、基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、下部電極膜2Bの表面(入力側圧電膜3Bの下地となる面)は、主にHf(111)面またはMo(111)面により構成されていることが好ましい。下部電極膜2Bは、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2Bは、上述の下部電極膜2と同様に構成することもできる。下部電極膜2Bは例えばPtを用いて製膜することもできる。また、下部電極膜2Bは、例えばAl、Cu、または銀(Ag)を用いて製膜することもできる。下部電極膜2Bの厚さは例えば100nm以上400nm以下とすることができる。なお、
図5には示していないが、下部電極膜2Aと下部電極膜2Bとの間には、これらの密着性を高めるため、上述の密着層6と同様の密着層が設けられていてもよい。
【0074】
本変形例では、下部電極膜2AとKNN膜3Aと上部電極膜4Aとを備えた積層部により出力部が構成される。また、下部電極膜2BとAlN膜3Bと上部電極膜4Bとを備えた積層部により入力部が構成される。なお、AlN膜3Bの下方に位置する下部電極膜2Aを入力部に含めて考えてもよい。
【0075】
図5に示す圧電積層体40の製造方法について、
図6(a)~(f)を参照しながら説明する。
【0076】
まず、基板1を用意し、基板1のいずれかの主面上に、例えばスパッタリング法により密着層6(Ti層)および下部電極膜2Aをこの順に製膜する。密着層6、下部電極膜2Aを形成する際は、上述の実施形態の密着層6、下部電極膜2を形成する際の条件と同様の条件とすることができる。これにより、
図6(a)に示すような積層体40aが得られる。
【0077】
続いて、KNN膜3Aを、上述の実施形態と同様の手順、条件により製膜し、KNN膜3Aを所定のパターンに成形する。これにより、
図6(b)に示すような積層体40bが得られる。その後、保護膜12を、上述の実施形態と同様の手順、条件により製膜し、所定のパターンに成形する。これにより、
図6(c)に示すような積層体40cが得られる。
【0078】
そして、下部電極膜2Bを例えばスパッタリング法により製膜する。これにより、
図6(d)に示すような積層体40dが得られる。本変形例では、
図6(d)に示すように、保護膜12上にも下部電極膜2Bが製膜されることとなる。
【0079】
下部電極膜2Bを製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。スパッタリング製膜時に用いるターゲットとしては、例えばHfまたはMoからなる金属ターゲットを用いることができる。
製膜温度(基板温度):100℃以上500℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下
放電パワー:1000W以上1500W以下、好ましくは1100W以上1300W以下
製膜雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
製膜時間:3分以上10分以下、好ましくは4分以上7分以下
【0080】
そして、AlN膜3Bを、上述の実施形態と同様の手順、条件により製膜する。これにより、
図6(e)に示すような積層体40eが得られる。その後、上述の実施形態と同様の手順、条件により保護膜12を除去する。これにより、KNN膜3Aが露出する。また、保護膜12をリフトオフ層として保護膜12上に形成された不要な下部電極膜2BおよびAlN膜3Bも除去される。すなわち、下部電極膜2BおよびAlN膜3Bが製膜されるべき領域のみに、下部電極膜2BおよびAlN膜3Bが残される。その結果、
図6(f)に示すような積層体40fが得られる。その後、上述の実施形態と同様の手順、条件により、上部電極膜4A,4Bを製膜する。これにより、
図5に示すような圧電積層体40が得られる。
【0081】
その他の点は、上述の実施形態と同様の構成、製法とすることができる。本変形例によっても、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、本変形例によっても、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。
【0082】
(変形例2)
図7に示すように、下部電極膜2AがKNN膜3Aに対向する基板1上の位置のみに設けられ、下部電極膜2BがAlN膜3Bに対向する基板1上の位置のみに設けられて構成された圧電積層体41であってもよい。下部電極膜2Aは下部電極膜2と同様の構成とすることができ、下部電極膜2Bは、上述の変形例1と同様の構成とすることができる。
【0083】
本変形例では、下部電極膜2AとKNN膜3Aと上部電極膜4Aとを備えた積層部により出力部が構成される。また、下部電極膜2BとAlN膜3Bと上部電極膜4Bとを備えた積層部により入力部が構成される。
【0084】
その他の点は、上述の実施形態や変形例と同様の構成とすることができる。本変形例によっても、上述の実施形態等と同様の効果を得ることができる。すなわち、本変形例によっても、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。
【0085】
また、本変形例によれば、出力部から被験対象物に向かって超音波を送信しつつ、被験対象物で反射した超音波を入力部で受信することも可能となる。これにより、例えば、超音波センサ30で電圧検出部11bにより検出される電圧の大きさを連続で検出することが可能となる。また例えば、超音波センサ30で電圧印加部11aによる電圧印加開始から電圧検出部11bによる電圧検出までの時間を連続で測定することが可能となる。このように、本変形例によれば、超音波センサ30における超音波の送受信の自由度を高めることも可能となる。
【0086】
(変形例3)
図8に示すように、AlN膜3BがKNN膜3A上に設けられて構成された圧電積層体42であってもよい。
【0087】
本変形例では、下部電極膜2とKNN膜3Aと上部電極膜4Aとを備えた積層部により出力部が構成される。また、下部電極膜2とAlN膜3Bと上部電極膜4Bとを備えた積層部により入力部が構成される。なお、AlN膜3Bの下方に位置するKNN膜3Aを入力部に含めて考えてもよい。
【0088】
図8に示す圧電積層体42の製造方法について、
図9(a)~(e)を参照しながら説明する。
【0089】
まず、基板1を用意し、基板1のいずれかの主面上に、例えばスパッタリング法により密着層6(Ti層)および下部電極膜2を、上述の実施形態と同様の手順、条件により、この順に製膜する。これにより、
図9(a)に示すような積層体42aが得られる。
【0090】
続いて、KNN膜3Aを、上述の実施形態と同様の手順、条件により製膜する。これにより、
図9(b)に示すような積層体42bが得られる。その後、保護膜12を、上述の実施形態と同様の手順、条件によりKNN膜3A上に製膜する。そして、保護膜12を所定のパターンに成形する。例えば、AlN膜3Bを製膜することとなる基板1上の位置、すなわちKNN膜3A上の位置から保護膜12をエッチング等により除去する。これにより、
図9(c)に示すような積層体42cが得られる。そして、AlN膜3Bを、上述の実施形態と同様の手順、条件により製膜する。これにより、
図9(d)に示すような積層体42dが得られる。その後、上述の実施形態と同様の手順、条件により保護膜12を除去する。これにより、KNN膜3Aの所定領域が露出する。また、保護膜12をリフトオフ層として保護膜12上に形成された不要なAlN膜3Bも除去される。すなわち、AlN膜3Bが製膜されるべき領域のみにAlN膜3Bが残される。その結果、
図9(e)に示すような積層体42eが得られる。その後、上述の実施形態と同様の手順、条件により、上部電極膜4A,4Bを製膜する。これにより、
図8に示すような圧電積層体42が得られる。
【0091】
その他の点は、上述の実施形態や変形例と同様の構成とすることができる。本変形例によっても、上述の実施形態や変形例と同様の効果を得ることができる。すなわち、本変形例によっても、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。なお、本変形例のように、AlN膜3BがKNN膜3A上に設けられている場合であっても、入力部は入力側振動部の振動を感度よく検知できることを本願発明者等は確認済みである。
【0092】
本変形例は
図8に示す態様に限定されない。例えば、
図8に示す下部電極膜2を下部電極膜2Aとして機能させ、KNN膜3AとAlN膜3Bとの間に、変形例1と同様の構成の下部電極膜2Bが設けられていてもよい。
【0093】
(変形例4)
上述の実施形態では、KNN膜3Aを製膜した後に、AlN膜3Bを製膜する例について説明したが、このような態様に限定されない。すなわち、AlN膜3Bを製膜した後に、KNN膜3Aを製膜してもよい。
【0094】
本変形例では、AlN膜3Bを製膜した後KNN膜3Aを製膜する前に、AlN膜3Bを覆うように保護膜12を、上述の実施形態と同様の手順、条件により製膜する。そして、KNN膜3Aを製膜することとなる基板1(下部電極膜2)上の位置から保護膜12をエッチング等により除去する等、保護膜12を所定のパターンに成形する。それから、KNN膜3Aを上述の実施形態と同様の手順、条件により製膜する。KNN膜3Aの製膜が完了したら、上述の実施形態と同様の手順、条件により保護膜12を除去する。これにより、AlN膜3Bが露出するとともに、保護膜12上に形成された不要なKNN膜3Aが除去される。このように、本変形例では、保護膜12は、不要なKNN膜3Aを除去するリフトオフ層として機能する。
【0095】
その他の点は、上述の実施形態や変形例と同様の構成とすることができる。本変形例によっても、上述の実施形態等と同様の効果を得ることができる。すなわち、本変形例によっても、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。
【0096】
(変形例5)
図10に示すように、基板1と、基板1上に設けられた下部電極膜2Bと、下部電極膜2B上に設けられた入力側圧電膜(AlN膜)3Bと、入力側圧電膜3B上に設けられた出力側下部電極膜2Aと、出力側下部電極膜2A上に設けられた出力側圧電膜(KNN膜)3Aと、出力側圧電膜3A上に設けられた上部電極膜4Aと、入力側圧電膜3B上に設けられた上部電極膜4Bとを備えて構成された圧電積層体43であってもよい。
【0097】
本変形例では、下部電極膜2AとKNN膜3Aと上部電極膜4Aとを備えた積層部により出力部が構成される。なお、KNN膜3Aの下方に位置する下部電極膜2BおよびAlN膜3Bを出力部に含めて考えてもよい。また、下部電極膜2BとAlN膜3Bと上部電極膜4Bとを備えた積層部により入力部が構成される。
【0098】
その他の点は上述の実施形態や変形例と同様とすることができる。本変形例によっても、上述の実施形態や変形例と同様の効果を得ることができるすなわち、本変形例によっても、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。
【0099】
また、本変形例では、AlN膜3B上に下部電極膜2Aを設け、下部電極膜2A上にKNN膜3Aを設けている。これにより、本変形例においても、KNN膜3Aを、下部電極膜2A上、すなわちPt膜上に直接製膜することから、KNN膜3Aを構成する結晶を(001)面方位に優先配向させること容易となる。しかしながら、下部電極膜2Aは設けられていなくてもよい。すなわち、下部電極膜2Bを上述の実施形態の下部電極膜2と同様に構成し、下部電極膜2を出力側下部電極膜2Aとして機能させるとともに、入力側下部電極膜2Bとして機能させてもよい。
【0100】
(変形例6)
基板1として、CMOS等の半導体回路が形成された基板を用いることもできる。CMOS等の回路が形成された基板1上にKNN膜3Aを製膜する場合、CMOS等の半導体回路の破壊を抑制する観点から、500℃未満、より好ましくはAlN膜3Bの製膜温度以上500℃未満の温度条件下で製膜することが好ましい。KNN膜3Aを500℃未満の温度条件下で製膜することで、KNN膜3Aの製膜時における基板1に形成された半導体回路の破壊を抑制することが可能となる。KNN膜3AをAlN膜3Bの製膜温度以上の温度条件下で製膜することで、上述の実施形態等のように、KNN膜3Aを製膜した後にAlN膜3Bを製膜する場合であっても、KNN膜3AがAlN膜3Bの製膜雰囲気において還元されることを確実に抑制することが可能となる。なお、KNN膜3Aを500℃未満の低温で製膜した場合であっても、圧電定数が100pm/V以上であるKNN膜3Aを得ることができることを本願発明者等は確認済みである。
【0101】
その他の点は上述の実施形態や変形例と同様とすることができる。本変形例によっても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。すなわち、本変形例によっても、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。
【0102】
(変形例7)
出力部と入力部とは、互いに接していてもよい。また、出力側振動部と入力側振動部とがそれぞれ個別に独立して形成されていることで、出力側振動部と入力側振動部とが互いに干渉することを抑制することができる。本変形例によっても、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。ただし、出力部と入力部とが互いに干渉することを確実に抑制し、超音波センサ30のセンサ性能の低下を確実に抑制する観点から、出力部と入力部とは互いに接していない方が好ましい。
【0103】
(変形例8)
上述の実施形態では、AlN膜3BがAlNの多結晶膜である場合について説明したが、AlN膜3BはAlNの単結晶膜であってもよい。本変形例によっても、上述の実施形態や変形例等と同様の効果を得ることができる。
【0104】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0105】
上述の実施形態や変形例では、出力側圧電膜3AがKNN膜である場合について説明したが、これに限定されない。出力側圧電膜3Aは、上記KNNの他、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、すなわち、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)を含み、組成式Pb(Zr1-xTix)O3(0<x<1)で表される化合物を用いて製膜することもできる。また、出力側圧電膜3Aは、チタン酸ビスマスナトリウム(BNT)、すなわち、ビスマス(Bi)、Na、Tiを含み、組成式(Bi1-xNax)TiO3(0<x<1)で表される化合物を用いて製膜することもできる。また、出力側圧電膜3Aは、ビスマスフェライト(BFO)、すなわち、組成式BiFeO3で表される化合物を用いて製膜することもできる。出力側圧電膜3AをPZT、BNT、BFOを用いて製膜した場合であっても、上述の実施形態等と同様の効果を得ることができる。すなわち、高性能な超音波センサ30を得ることができ、また、このような超音波センサ30をMEMS製造のプロセスにおいて一括で作製することができる。
【0106】
上述の実施形態や変形例では、入力側圧電膜3BがAlN膜である場合について説明したが、これに限定されない。入力側圧電膜3Bは、AlN膜と同等の圧電性能を示す他の窒化膜であってもよい。
【0107】
また、例えば出力側圧電膜3Aは、CuやMn等の上記金属元素に加えて、あるいは上記金属元素に代えて、上記金属元素と同等の効果を奏する他の金属元素を、所定の濃度で含んでいてもよい。
【0108】
上述の実施形態では、圧電積層体10、圧電素子20を用いて超音波センサ30を得る場合について説明したが、これに限定されない。圧電積層体10、圧電素子20を用いて、インクジェットプリンタ用のヘッド、スキャナー用のMEMSミラー、角速度センサ、圧カセンサ、加速度センサ等の用途に用いられる圧電デバイスを得てもよい。
【0109】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0110】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられる出力側下部電極膜と、
前記出力側下部電極膜上に設けられ、酸化膜である出力側圧電膜と、
前記出力側圧電膜上に設けられる出力側上部電極膜と、
前記基板上に設けられる入力側下部電極膜と、
前記入力側下部電極膜上に設けられ、窒化膜である入力側圧電膜と、
前記入力側圧電膜上に設けられる入力側上部電極膜と、を備え、
前記出力側下部電極膜と前記出力側圧電膜と前記出力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波出力部と、前記入力側下部電極膜と前記入力側圧電膜と前記入力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波入力部と、が前記基板を上面から見たときに互いに重ならないように配置されている圧電積層体が提供される。
【0111】
(付記2)
付記1に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記超音波出力部と前記超音波入力部とは互いに接していない。
【0112】
(付記3)
付記1または2に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記出力側圧電膜は前記入力側圧電膜よりも圧電定数が大きく、前記入力側圧電膜は前記出力側圧電膜よりも比誘電率が低い。
【0113】
(付記4)
付記1~3のいずれか1項に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記出力側圧電膜は、ニオブ酸カリウムナトリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ビスマスナトリウム、またはビスマスフェライトのいずれかを用いて製膜されている。
【0114】
(付記5)
付記1~4のいずれか1項に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記出力側圧電膜は、ニオブ酸カリウムナトリウムを用いて製膜され、CuおよびMnのうち少なくともいずれかを、前記出力側圧電膜中に含まれるニオブの量に対して0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含んでいる。
【0115】
(付記6)
付記1~5のいずれか1項に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記入力側圧電膜は、窒化アルミニウムを用いて製膜されている。
【0116】
(付記7)
付記6に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記入力側圧電膜は、スカンジウム(Sc)を含むか、マグネシウム(Mg)とジルコニウム(Zr)とを含むか、あるいはマグネシウム(Mg)とハフニウム(Hf)とを含む。
【0117】
(付記8)
付記1~7のいずれか1項に記載の圧電積層体であって、好ましくは、
前記基板には、半導体回路が形成されている。
【0118】
(付記9)
本発明の他の態様によれば、
基板上に出力側下部電極膜および入力側下部電極膜を製膜する工程と、
前記出力側下部電極膜上に、酸化膜である出力側圧電膜を製膜する工程と、
前記出力側圧電膜を保護する保護膜を製膜する工程と、
前記入力側下部電極膜上に、窒化膜である入力側圧電膜を製膜する工程と、
前記保護膜をエッチングにより除去することで、前記出力側圧電膜を露出させる工程と、
前記出力側圧電膜上に出力側上部電極膜を製膜し、前記入力側圧電膜上に入力側上部電極膜を製膜する工程と、を行うことで、
前記出力側下部電極膜と前記出力側圧電膜と前記出力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波出力部と、前記入力側下部電極膜と前記入力側圧電膜と前記入力側上部電極膜とを備えた積層部により構成される超音波入力部と、が前記基板を上面から見たときに互いに重ならないように配置された積層体を作製する工程を有する圧電積層体の製造方法が提供される。
【0119】
(付記10)
付記9に記載の方法であって、好ましくは、
前記保護膜は、前記保護膜は、二酸化ケイ素(SiO2)からなる膜である。
【0120】
(付記11)
付記9または10に記載の方法であって、好ましくは、
前記基板として、半導体回路が形成された基板を用意し、
前記出力側圧電膜を製膜する工程では、500℃未満の温度条件下で前記出力側圧電膜を製膜する。好ましくは、前記出力側圧電膜を製膜する工程では、前記入力側圧電膜を製膜する工程における前記入力側圧電膜の製膜温度以上500℃未満の温度条件下で前記出力側圧電膜を製膜する。
【0121】
(付記12)
本発明のさらに他の態様によれば、
付記1~8のいずれか1項に記載の圧電積層体と、
前記出力側下部電極膜と前記出力側上部電極膜との間に接続される電圧印加手段と、
前記入力側下部電極膜と前記入力側上部電極膜との間に接続される電圧検出手段と、を備え、
前記電圧印加手段により前記出力側下部電極膜と前記出力側上部電極膜との間に所定の電界を印加することで前記出力側圧電膜が変形し、前記出力側圧電膜の変形により生じた超音波が前記超音波出力部から送信され、被験対象物で反射した前記超音波を前記超音波入力部が受信し、前記入力側圧電膜が変形することで前記入力側下部電極膜と前記入力側上部電極膜との間に生じた電圧を前記電圧検出手段により検出する圧電素子、超音波センサが提供される。
【0122】
(付記13)
付記12に記載の素子であって、好ましくは、
前記超音波出力部に対応する前記基板の位置および前記超音波入力部に対応する前記基板の位置には、振動部(例えばメンブレン構造、カンチレバー構造)がそれぞれ形成されている。
【符号の説明】
【0123】
1 基板
2A 出力側下部電極膜
2B 入力側下部電極膜
3A 出力側圧電膜(KNN膜)
3B 入力側圧電膜(AlN膜)
4A 出力側上部電極膜
4B 入力側上部電極膜
10,40~43 圧電積層体