(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】Sパラメータを求める方法及び試験測定システム
(51)【国際特許分類】
G01R 27/28 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
G01R27/28 Z
G01R27/28 P
G01R27/28 T
(21)【出願番号】P 2020099104
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-17
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391002340
【氏名又は名称】テクトロニクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョーン・ジェイ・ピカード
(72)【発明者】
【氏名】カン・タン
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0084656(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0309101(US,A1)
【文献】特開2006-201172(JP,A)
【文献】特開平03-039663(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0259573(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0204927(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数範囲についての被試験デバイスのSパラメータを求める方法であって、
上記第1周波数範囲より高い第2周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを受ける処理と、
上記被試験デバイスの実際の信号を測定する処理と、
上記被試験デバイスの望ましい信号を求める処理と、
上記第2周波数範囲についてのSパラメータ、上記被試験デバイスの上記実際の信号及び上記被試験デバイスの上記望ましい信号に基づいて、上記被試験デバイスの上記第1周波数範囲についてのSパラメータを求める処理と
を具えるSパラメータを求める方法。
【請求項2】
受けた上記第2周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータに基づいて、上記第1周波数範囲についての第1Sパラメータのための初期値を決定する処理と、
上記初期値に基づいて上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理と
を更に具える請求項1のSパラメータを求める方法。
【請求項3】
上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲についての上記第1Sパラメータと第2Sパラメータとを、所定回数のパスが完了するまでの複数回のパスの間に反復して求める処理を有している請求項2のSパラメータを求める方法。
【請求項4】
1番目のパスの間に上記第1Sパラメータの上記初期値を使用して上記第2Sパラメータを求め、後続の偶数番目のパスの夫々において、先の奇数番目のパスで求めたアップデートされた上記第2Sパラメータを用いて上記第1Sパラメータを求め、後続の奇数番目のパスの夫々において、先の偶数番目のパスで求めたアップデートされた上記第1Sパラメータを用いて上記第2Sパラメータを求める請求項3のSパラメータを求める方法。
【請求項5】
上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスの差動Sパラメータを求める処理と、上記差動Sパラメータをシングル・エンドのSパラメータに変換する処理とを有する請求項1から4のいずれかのSパラメータを求める方法。
【請求項6】
試験測定装置のプロセッサにおいて実行されると、請求項1から5のいずれかの方法を上記試験測定装置に実行させるプログラム。
【請求項7】
ステップ信号を生成するよう構成されたステップ信号発生装置と、
上記ステップ信号に基づいて被試験デバイスの実際の応答を測定するように構成された試験測定装置と、
上記被試験デバイスの望ましい信号を求め
、第1周波数範囲より上
の第2周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータ、上記被試験デバイスの上記実際の応答及び上記被試験デバイスの上記望ましい信号に基づいて、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求めるように構成される1つ以上のプロセッサと
を具える試験測定システム。
【請求項8】
上記第1周波数範囲の上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲について
の第1Sパラメータと第2Sパラメータとを、所定のしきい値を満たすまで反復して求める処理を含む請求項7の試験測定システム。
【請求項9】
最初のループ処理中に、上記第1Sパラメータ
の初期値を使用して上記第2Sパラメータを求め、後続の偶数番目のループ処理の夫々において、先の奇数番目のループ処理で求めたアップデートされた上記第2Sパラメータを用いて上記第1Sパラメータを求め、後続の奇数番目のループ処理の夫々において、先の偶数番目のループ処理で求めたアップデートされた上記第1Sパラメータを用いて上記第2Sパラメータを求める請求項8の試験測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験測定システムにおいて使用されるプローブなどのデバイスの特性を評価することに関し、特に、従来は測定が困難であった低周波数におけるデバイスのSパラメータを求める方法と、関連する試験測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プローブのような被試験デバイスのSパラメータのデータ・セットは、例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)によって、VNAで測定可能な最低周波数f1から測定可能な最高周波数f2までの周波数範囲で測定できる。通常、VNAがSパラメータを適切に測定できる最も低い周波数f1は、25MHzである。Sパラメータを測定するとき、プローブは、通常、フィクスチャに取り付けられる。フィクスチャのSパラメータは、別途、得ることができ、次いで、プローブ及びフィクスチャの組み合わせのSパラメータを得る。プローブのSパラメータは、取得されたフィクスチャ及びプローブの組み合わせのSパラメータから、フィクスチャをディエンベッドすることで求められる。この手法は、f1からf2の周波数範囲において、ほとんどのプローブでうまく機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-024197号公報
【文献】特開2015-064357号公報
【文献】特開2015-064356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くのプローブのチップ(先端部)は、所定の抵抗値を有しているが、ダブル・データ・レート(DDR)メモリ測定用のインターポーザと組み合わせて使用するプローブでは、プローブのチップの抵抗は、インターポーザ回路に移動させているので、プローブには、独自のSパラメータ・データ・セットがある。このプローブのチップは、0.0オームの抵抗値であり、プローブのそのままの(raw:生の、未処理の)Sパラメータでは、150ns(ナノ秒)のオーダーで大きなオーバーシュートと長い減衰時間を有するということなったりする。このプローブ・チップのインピーダンスは、直流(DC、つまり、ゼロHz)から25MHzの範囲内で、50kオームから50オームに変化することがある。よって、f1より下の周波数を含む、こうした低い周波数では、プローブ・チップの抵抗値が変化していき、既存のフィクスチャをディエンベッドする方法では、プローブのSパラメータの測定が充分には機能しない。
【0005】
そこで、本発明の実施形態は、こうした従来の課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述のように、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)を用いることで、従来から被試験デバイス(DUT)の周波数範囲f1~f2(第2周波数範囲と呼ぶ)のSパラメータを求めることができている。本発明では、VNAでは通常測定できない、直流(DC)からVNAで測定可能な最低周波数f1までの低周波数範囲(第1周波数範囲と呼ぶ)のSパラメータを求めることを可能にする。
【0007】
具体的には、本発明によれば、第1周波数範囲(例えば、DC~f1)についての被試験デバイス(例えば、プローブ)に関するSパラメータを求めることができ、例えば、第1周波数範囲より高い第2周波数範囲(例えば、f1~f2)についての被試験デバイスのSパラメータを受ける処理と、被試験デバイスの実際の信号を測定する処理と、被試験デバイスの望ましい信号を求める処理と、第2周波数範囲のSパラメータ、被試験デバイスの実際の信号及び被試験デバイスの望ましい信号に基づいて、被試験デバイスの第1周波数範囲についてのSパラメータを求める処理とを具えている。
【0008】
実際の信号は、例えば、被測定デバイスにステップ信号を供給して、被測定デバイスから得られる信号をオシロスコープ等の試験測定装置で測定しても良い。被試験デバイスの望ましい信号は、あるべき理想的な信号を数学的に求めても良い。第2周波数範囲のSパラメータは、上述のように、VNAを用いるなど、既知の方法を用いて求めても良い。そして、これらデータから、第1周波数範囲の被測定デバイスのSパラメータは、演算によって求められるが、このとき、最初は、暫定的なSパラメータの初期値を設定し、これを複数回のループ処理によって、本来の値に近づけることによって求めても良い。
【0009】
本発明の目的、効果及び他の新規な点は、以下の詳細な説明を添付の特許請求の範囲及び図面とともに読むことによって明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、フィクスチャに接続された
図1の被試験デバイスの例である。
【
図3】
図3は、
図2のフィクスチャに接続された被試験デバイスの簡略化した例である。
【
図4】
図4は、本発明のいくつかの実施形態による試験測定システムのブロック図である。
【
図5】
図5は、
図4の試験測定装置で利用できるスミス・チャートの例である。
【
図6】
図6は、望ましい信号と測定される実際の信号の時間的な位置関係の例を示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態による低周波数範囲で被試験デバイスのSパラメータを求めるフローチャートの例である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態による低周波数範囲で被試験デバイスのSパラメータを求める処理の詳細な例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述のように、現在、被試験デバイスのSパラメータは、ベクトル・ネットワーク・アナライザを使用して、測定可能な最低周波数f1から最高周波数f2までの周波数範囲で測定され、このとき、f1はゼロではなく、例えば、25MHzである。即ち、ベクトル・ネットワーク・アナライザは、通常、測定する周波数を低くしていってDCまでを測定することはできない。プローブの場合、典型的な開始周波数値f1は、25MHzである。本発明の実施形態は、被試験デバイスのSパラメータを、ゼロ周波数、即ち、直流(DC)からf1まで測定することを可能にする。
【0012】
図1は、被試験デバイス100の一例を示し、これは、3つのポート102、104及び106を有する高インピーダンスのプローブとして示されている。被試験デバイス100のSパラメータは、f1からf2までの周波数に関する既知の手法を使用して測定される。いくつかの実施形態では、被試験デバイス100は、例えば、高インピーダンスのアクティブ・プローブでも良い。しかし、本発明の実施形態は、被試験デバイスがプローブに限定されるものではなく、f1よりも低い周波数範囲について、Sパラメータを測定する必要がある任意の被試験デバイスでも良い。
【0013】
図2に示すように、被試験デバイス100は、フィクスチャ200に接続することができる。周波数f1からf2までのフィクスチャ200のSパラメータは、別途、測定され、次いで、被試験デバイス100とフィクスチャ200をまとめたSパラメータをf1からf2まで測定する。フィクスチャ200のSパラメータが既知なので、f1からf2までの被試験デバイス100のSパラメータは、測定された被試験デバイス100及びフィクスチャ200のSパラメータから、フィクスチャ200のSパラメータをディエンベッドすることによって得られる。フィクスチャ200は、50オームのソース・インピーダンス入力202を有していても良い。
【0014】
しかし、現在、ダブル・データ・レート(DDR)メモリの測定用のインターポーザを使用する場合、プローブのチップ抵抗は、インターポーザ回路に位置を変えており、プローブは、独自のSパラメータ・データ・セットを有する。インターポーザは、典型的には、メモリ集積回路(IC)チップと、このメモリICチップが通常装着されるプリント基板の間に挿入されるデバイスである。インターポーザは、メモリICチップとプリント基板間の信号をサンプリングする小型プリント基板又はフレキシブル回路である。オシロスコープなどの試験測定装置は、信号を測定するのに、プローブを介してインターポーザに接続できる。チップ抵抗がインターポーザ回路に移動しているので、被試験デバイス100のチップ102及び104は0.0オームの抵抗を有し、被試験デバイスのそのまま(raw:未処理の)Sパラメータ・データ・セットでは、大きなオーバーシュートと、150ナノ秒のような長い減衰時間といった特性になることがある。入力チップ102及び104のインピーダンスは、DCからf1までの範囲内で、5kオームから50オームに変化する。従って、既存のフィクスチャをディエンベッドする方法では、この周波数範囲のSパラメータを適切に測定できない。
【0015】
図3は、被試験デバイス100と信号源(ソース)の簡略化されたモデルを示す。このモデルでは、ポート102及び104は、1つの第1差動ポートとして扱われる。ポート106は、シングル・エンドのポートとして扱われる。信号源のインピーダンス300は、被試験デバイス100から見たとき、25オームである。DCからf1までの周波数範囲において、被試験デバイス100のステップ応答に最も大きな影響を与えるのは、差動sd11及び差動sd21のSパラメータであることが判明した。他のSパラメータは、影響が非常に小さいため、DCからf1までの範囲では、単純なポイント複製処理又は線形外挿(extrapolation)処理を利用して、システムの伝達関数に含めてしまっても良いであろう。もしこれらを組み入れる場合は、f1からf2までの事前に測定したSパラメータと共に、これらの値を、以下で詳しく説明する解法において既知の値の一部として値を使用しても良い。
【0016】
図4に示すように、被試験デバイス100のSパラメータを求める処理には、試験測定システム400を用いることができ、これには、フィクスチャ200及び被試験デバイス100に接続されたステップ信号発生装置402と、オシロスコープのような試験測定装置404とがある。試験測定装置404には、1つ以上のプロセッサ406及びメモリ408があっても良い。いくつかの実施形態では、試験測定装置404が、DCからf1までの被試験デバイス100のSパラメータを求めることができる。他の実施形態では、試験測定装置404から受けた情報に基づいて、遠隔にあるプロセッサ及び他のハードウェアが、DCからf1までの被試験デバイスのSパラメータを求めるのに使用されても良い。このように、以下の実施形態では、説明を簡潔にするため、プロセッサ406を使用するとして説明するが、本発明の実施形態は、試験測定装置404内のプロセッサ406の使用に限定されるものではない。
【0017】
以下で詳しく説明するように、被試験デバイス100のsd11及びsd21値を決定するために、回路シミュレーションに基づいて、sd11に関する初期概算値又は推測値を作成しても良く、次いで、各変数に関する最終値が見つかるまで、sd21に関して解く処理と、sd11に関して解く処理との間で切り替えながら複数回のループ処理(multiple iteration)が行われる。
【0018】
例えば、プロセッサ406は、
図5に示すように、スミス・チャートを用いて、sd11及びsd21の値を求めるための最初のループ処理に使用するsd11の値を推定しても良い。
図5は、スミス・チャート500の例を示す。ポイント502、504、506及び508は、f1からf2までの実測されたSパラメータ510に基づいて決定される。実測のSパラメータ510は、周波数f1(例えば、25MHz)の開始ポイント509から始まる曲線で示されている。ポイント502、504、506、506及び508は、理論上あり得る位置に(そして、この例では、6.25MHz毎に)外挿すること(extrapolation)によって求められる。
【0019】
被試験デバイス100に関するsd11及びsd21を求める処理を開始するため、数式1は、
図3に示す被試験デバイス100について、被試験デバイス100の簡略化したSパラメータ・モデルに基づく伝達関数Hを示す。
【0020】
H=sd21/{1-sd11・(-1/3)} (1)
【0021】
フィクスチャ200は、各ポイント202において50オームで終端される。従って、第1差動プローブ・チップ(
図3のチップ102及び104)の位置から見た信号源(ソース)のインピーダンスは、25オームである。これは、数式(1)において、-1/3の反射係数として表される。差動モードの場合、その比率は100と50オームの間なので、チップ負荷の反射係数は、依然として-1/3である。例えば、Γ=(50-100)/(50+100)であり、ここで、100は、差動状態に関する基準インピーダンスであり、プローブ・チップの負荷は、一方のチップ102について25オーム、もう一方のチップ104について25オームで、合計50オームである。
【0022】
Sパラメータsd11及びsd21を求めるために、理想的なステップ応答信号D(
図6に、望ましい差動信号600として示す)を発生させて、被試験デバイス100を通過して取り込まれたステップ応答信号X(
図6に実際の信号602として示す)と比較される。なお、理想的なステップ応答信号Dは、被試験デバイス100を回路から外したとした場合の被試験デバイスのチップ位置における波形である。
【0023】
実際の信号Xと理想の信号Dとを数学的に関係づけるために、数式(2)に示すように、数式(1)の伝達関数Hを理想の信号Dに適用する。
【0024】
X=D・H (2)
【0025】
数式(1)を数式(2)に代入すると、システム方程式(3)になる。
【0026】
X=D・sd21/(1+sd11/3) (3)
【0027】
数式(3)は、数式(4)に示すように、非線形な形式から線形な形式へ変形できる。次いで、数式(4)は、以下で詳細に説明する最小平均二乗(LMS)演算プロセスに利用できる。数式(4)では、Dは、プローブの理想的なステップ信号がどうあるべきかに基づいて生成され、実際の信号Xは、
図4に示す試験測定システム400を用いて試験測定装置404によって得られる。
【0028】
C=D・sd21-(X/3)・sd11-X=0 (4)
【0029】
Sパラメータのゼロ位相の基準は、時間領域(タイム・ドメイン)レコードの先頭であり、
図6に示している。望ましいステップ信号600は、時間レコードの開始位置に、時間的に位置付けされ、ここは、被試験デバイスのチップのゼロ位相基準位置である。プローブによる遅延604があるので、取り込まれた実際のステップ信号602は、数式(4)を解く前に、その群遅延(group delay)が、プローブの差動のsd21の群遅延と等しくなるように、時間的に移動させても良い。これら群遅延は、サブ・サンプル位置内に正確に位置づけされる。これは、たとえ小さくても誤差があると、最終的なプローブのSパラメータから作成された最終的なフィルタが、ステップ応答に傾きを発生させるからである。
【0030】
望ましい信号D600と実際の信号X602の両方のデータ・セットは、f1からf2までの被試験デバイスの測定されたSパラメータと、同じ長さ及び周波数間隔を有するようにリサンプリングしても良い。信号DとXは、その導関数を得て、高速フーリエ変換(FFT)を実行することによって周波数領域に変換できる。周波数領域が、数式(4)の開始時点での最初の領域である。以下の数式(5)及び(6)において、x(t)とd(t)は、時間領域でリサンプリングされたステップ応答である。
【0031】
X(f)=fft{d(x(t))/dt} (5)
【0032】
D(f)=fft{d(d(t))/dt} (6)
【0033】
上記数式(4)は、DCからf1までの周波数範囲におけるsd11とsd21の未知のポイント(複数)を解くための出発点として使用されるシステム方程式である。ただし、LMSの問題の解法では、時間領域サンプルに基づいて式を変換する必要がある。逆高速フーリエ変換(IFFT)は、全てのサンプルが周波数領域で既知である必要があるため、これには利用できない。従って、解法は、逆離散フーリエ変換(IDFT)に基づいて数式を表し、解かれる未知の値に対して、これを既知の値に組み入れる。
【0034】
上述のように、f1からf2までのポイントは、既知の方法を用いて測定され、メモリ408に記憶しても良い。DCからf1までの範囲のsd11のポイントは、
図5に示すように、等価のモデル回路を用いて推定できる。望ましい信号と実際の信号の値は、高速フーリエ変換の導関数を計算し、次いで、高速フーリエ変換を計算することによって得られる。このように、最初の数式(4)で解かれる未知数は、DCからf1までのsd21の値である。
【0035】
IDFTの定義は、数式(7)に示される。
【0036】
j2=-1
【0037】
【0038】
指数方程式は、一般的に、回転因子(twiddle factor)とも呼ばれる変数Wによって表すことができる。これは、式(8)に従って定義される。
【0039】
Wn,m=ej・2・π・m・(n-1)/N (8)
【0040】
実際には、X、D、sd21及びsd11の長さNは、等しく、また、数千ポイントになる。そこで、解法の構造を簡略化すると共に理解するために、8個のサンプルの例示的な行列の設定を用いて、既知及び未知のサンプル・ポイントについて、IDFTを実行する処理を表してみることにする。そこで、以下では、説明を簡単にするため、N=8とする。しかし、当業者であればわかるように、実際には、Nは、典型的には数千ポイントにもなる。
【0041】
例示的な場合では、Cの最初の2ポイントは不明だが、残りのポイントは既知と仮定する。また、C(N)の複素共役ポイントの1つも不明である。それは、C(1)の複素共役である。
【0042】
周波数領域におけるシステム伝達関数ベクトルCは、数式(9)の右側の列ベクトルである。回転行列(twiddle matrix)にCを乗算するとIDFTを表し、解の時間領域サンプルが得られる。時間領域の表現では、数式(9)に示すように、やはりゼロに等しい。
【0043】
【0044】
変数Cをシステム方程式に代入すると、数式(10)が得られる。
【0045】
【0046】
システム方程式の周波数領域値は、Cの列の値で示され、Wは、IDFTが時間領域に変換するのに必要な複数の回転値(twiddle values)からなる行列と等しい。
【0047】
Mは、求めようとする未知のポイントの数に等しい。この例では、Mは、sd11及びsd21についての2である。
【0048】
m:=M … N-M
【0049】
数式(10)は、数式(11)に示すように、未知の項を式の左側とし、既知の項が式の右側にあるように変形できる。数式(11)において、C7は、C1の共役と等しい。
【0050】
【0051】
Yを数式(11)の右側のIDFTベクトルの既知の部分と等しいと置くと、W・C=Yとなる。
【0052】
数式(11)では、未知の変数C(1)と、C(1)の共役は、独立していない。そこで、C(0)及びC(1)を解くために、P行列を作成して、それぞれの実数部分と虚数部を分離しても良い。変数Cは、システム方程式であり、これは、望ましいステップ応答Dと、実際のステップ応答Xと共に、sd21とsd11に基づいて書かれていることに注意されたい。Cの値が求められたら、所望のsd21又はsd11は、Cの値から計算される。
【0053】
【0054】
Pは、変換行列であり、Cの値の配列を、求めようとする未知の値の実数部と虚数部とからなる同等の長さの配列に変換する。
【0055】
Uを、数式(13)に示すものとする。
【0056】
U=W・P (13)
【0057】
数式(13)を数式(12)に代入すると、数式(14)となる。
【0058】
U・L=Y (14)
【0059】
数式(14)のLMSの解は、次の通りである。
【0060】
【0061】
【0062】
数式(16)のベクトルLは、値が求められたCの未知の値の実数部と虚数部が含まれる。
【0063】
次のステップは、Lの実数部と虚数部を再結合してCのそれら位置に戻し、未知の値を得る(抽出して求める)ことである。最初のループ処理では、sd11の推定値が使用されるため、sd21の値がLから得られる。sd21を得たら、次のループ処理でsd11を得るために、これらの値が使用される。即ち、以下で詳しく論じるように、sd21は、奇数番の処理パス中に得られ、sd11は、偶数番の処理パス中に得られる。
【0064】
奇数番処理パス中にsd21を得るのに、次の数式(17)が使用される。
【0065】
sd21={C+X・(sd11/3)+X}/D (17)
【0066】
偶数番処理パスの場合、sd11は、次の数式(18)を使用して得る。
【0067】
sd11=-3・(C+X-D・sd21)/X (18)
【0068】
sd11及びsd21の反復処理で使用されるポイント(f1からf2までは、従来の方法で測定したポイント)は、ループ処理中には変化しない。しかし、各パスが終わる毎に、DCからf1までのsd11及びsd21の値は、アップデートされる。
【0069】
最終的なsd11及びsd21の値が求められたら、それらの値は、3ポートの被試験デバイスのs32及びs31用に、それらのシングル・エンドの値に変換して戻しても良い。数式(19)は、シングル・エンドSパラメータに基づき、ミックス・モードで導出したSmを示す。
【0070】
【0071】
DCからf1のような低周波数において、被試験デバイス100のSパラメータs31及びs32は良く整合し、数式(20)に示すように、s32が負のs31に等しいという結果になる。
【0072】
s32=-s31 (20)
【0073】
先の数式(19)の行列から、次のようになる。
【0074】
sd21=(s31-s32)/2 (21)
【0075】
数式(20)を数式(21)に代入し、s31とs32について解くと、次のようになる。
【0076】
s31=sd21 (22)
【0077】
s32=-sd21 (23)
【0078】
数式(19)の左上のインピーダンス項のs12とs21の値は、ゼロに等しいとみなすことができる。
【0079】
これで、シングル・エンドのs11及びs22の値を見つけることができる。更に、s12及びs21のシングル・エンドが、ゼロであると仮定する。
【0080】
s11=s22 (24)
【0081】
s21=s12=0 (25)
【0082】
数式(19)のミックス・モード行列から、次のようになる。
【0083】
sd11=(s11+s22)/2 (26)
【0084】
数式(24)を数式(26)に代入すると、シングル・エンドのs11及びs22を解くことができ、sd11が得られる。
【0085】
s11=sd11 (27)
【0086】
s22=sd11 (28)
【0087】
求めたSパラメータ値s11、s22、s32及びs31は、被試験デバイス100のメモリに保存して、被試験デバイス100を動作させているときに使用し、より正確な測定が行えるようにしても良い。
【0088】
図7は、本発明の実施形態による低周波範囲に関する被試験デバイスのSパラメータを求めるフローチャートを示す。工程700では、f1からf2の周波数範囲全体(f1はゼロより大きい)のSパラメータについて、既知の方法を利用して求めるか、そうでなければ、予め求めたものを受ける。
【0089】
工程702では、s11とs22の初期推定値を、等価回路モデルとスミス・チャートに基づいて生成又は決定し、プローブ・チップのs11の初期推定値を作成することができる。数式27及び28で上述したように、s11とs22の両方が、sd11と等しい。従って、s11及びs22のこれら初期値は、sd11の最初の開始値として利用できる。
【0090】
工程704で、実際の信号を取得しても良い。これは、
図4の試験測定システム400を使用し、オシロスコープで非常に多数の平均を取ることで行っても良い。差動ステップ信号発生装置402は、被試験デバイス100の2つの入力ポート102及び104に、フィクスチャ200を介して接続されても良い。被試験デバイス100は、差動モードで動作させても良く、差動波形x(t)は、試験測定装置404によって取得される。
【0091】
工程706では、被試験デバイス100のチップにおける波形を表す望ましいステップ応答信号d(t)が生成される。望ましいステップ応答信号は、被試験デバイス100がディエンベッドされたと仮定するか、又は、被試験デバイス100の全てがフィクスチャによる影響(effect:効果)から構成されると仮定するかのいずれかに基づいて生成されても良い。しかし、実施形態によっては、低周波数での波形の周波数ポイントは、被試験デバイスの位置における理想に比較的近いので、理想的な望ましい応答を使用しても良い。
【0092】
工程708では、望ましいステップ応答d(t)と実際のステップ応答x(t)をリサンプルし、工程700で測定されたSパラメータで表されるレコード長及びサンプル・レートに整合させ、次いで、上述の数式(6)及び(7)を使用して、周波数領域のD(f)及びX(f)へ変換しても良い。
【0093】
工程710では、変換された実際の信号X(f)と変換された望ましい信号D(f)の群遅延が、被試験デバイス100のSパラメータに関する群遅延と整合するように調整される。これを行うには、まず、各変数のアンラップした位相の負の導関数(derivative:微分)を取ることによって、各変数の群遅延を計算する。D(f)の群遅延は、ゼロに調整される。これは、被試験デバイスのSパラメータの基準点が、時間レコードの開始時点でゼロの時点だからである。従って、信号の望ましいステップ遷移は、被試験デバイスのSパラメータ・データに関して、この時点でなければならない。X(f)の群遅延は、被試験デバイス100の差動のsd21の群遅延と等しくなるように調整される。
【0094】
工程712では、プロセッサ406又は遠隔にある別のプロセッサなどのプロセッサが、差動のsd21及びsd11の値を求めるために、数式(4)の伝達関数のようなシステムの伝達関数を生成しても良い。しかし、本発明の実施形態は、数式(4)に示すような伝達関数に限定されるものではない。被試験デバイスのもっと多数のSパラメータを含む伝達関数や、試験フィクスチャ200の影響をもっと詳細に表すSパラメータを含む伝達関数など、より複雑な伝達関数も実現できる。
【0095】
工程714では、sd21及びsd11に関するSパラメータの値が、複数回の反復処理で求められ、次いで、数式(19)~(28)を利用してシングル・エンドの値に変換される。そして、シングル・エンドの値は、被試験デバイス100のメモリに格納され、このデバイス(例えば、プローブ)100の通常の動作中に使用されても良い。
【0096】
図8は、本発明のいくつかの実施形態による工程714を更に詳細に示したものである。Sパラメータsd21及びsd11は、
図8に示すように、処理パスが所定回数に達するまで繰り返されるか、又は、数式(4)の伝達関数が所定の許容範囲(例えば、誤差ゼロと見なせる範囲)内に入るまで、複数回の反復処理を通して、暫定的な推定値を徐々に本当の値に近づけることによって求められる。
【0097】
工程800では、パス(一連のプログラム処理、この例では繰り返すので、ループ処理)を行う回数(パス回数)が設定される。
図8の例では、パス回数が4に設定されているが、パス回数には、任意の数を設定できる。また、工程800では、これから最初のパスが始まるので、パス番号(何回目のパスかを表す)は、1に設定される。パス回数は、過去の実績等に基づき事前に適切な値に設定されるか又はユーザによって設定できる。工程802では、パス番号が偶数であるか奇数であるか否かを判断する。パス番号が奇数なら工程804に進み、sd21を解く(値を求める)ための数式(17)を使用して、DCからf1までのsd21が求められる。最初のパス(即ち、パス番号=1)の間、sd11の値は、工程702で求めた初期推定値である。後続のパスでは、sd11の値は、直前のパスの工程806で求めた値である。
【0098】
工程802において、もしパス番号が偶数なら工程806に進み、工程804で最後に求めたsd21の値と、数式(18)とを使用して、DCからf1までのsd11が求められる。工程808では、システムは、現在のパス番号が工程800で設定されたパス回数より小さいか否か判断する。ここで、もし「Yes」(即ち、パス番号がパス回数より小さい)なら、工程810に進んでパス番号を1つ増加させ、次いで、システムは、工程802に戻る。
【0099】
上述のようにしてパスを繰り返し、パス番号が1つずつ増加して、設定されたパス回数と等しくなったパスでは、工程808において「No」となり、工程812に進む。工程812では、求められたsd21及びsd11の値が、被試験デバイス100のDCからf1までのSパラメータ・モデルについてのシングル・エンドの値であるs32、s31、s11及びs22に変換される。これらの値は、f1~f2のSパラメータとともに、被試験デバイス100のメモリに記憶しても良く、これによって、これらSパラメータを被試験デバイス100(例えば、プローブ)の通常の動作中に使用することで、DCからf2まで、正確な測定を行うことが可能となる。即ち、Sパラメータを用いてプローブの出力信号を補正することによって、プローブが存在しても、あたかもプローブが存在しないかのように、測定する信号に影響を与えないようにできる。言い換えると、プローブのチップに受けた信号が、プローブを通過した後のプローブの出力信号として、そのまま現れる(上述の例で言えば、理想信号Dと取り込む信号Xが一致する)ようにできる。
【0100】
本発明の態様は、特別に作成されたハードウェア、ファームウェア、デジタル・シグナル・プロセッサ又はプログラムされた命令に従って動作するプロセッサを含む特別にプログラムされた汎用コンピュータ上で動作できる。本願における「コントローラ」又は「プロセッサ」という用語は、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、ASIC及び専用ハードウェア・コントローラ等を意図する。本発明の態様は、1つ又は複数のコンピュータ(モニタリング・モジュールを含む)その他のデバイスによって実行される、1つ又は複数のプログラム・モジュールなどのコンピュータ利用可能なデータ及びコンピュータ実行可能な命令で実現できる。概して、プログラム・モジュールとしては、ルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含み、これらは、コンピュータその他のデバイス内のプロセッサによって実行されると、特定のタスクを実行するか、又は、特定の抽象データ形式を実現する。コンピュータ実行可能命令は、ハードディスク、光ディスク、リムーバブル記憶媒体、ソリッド・ステート・メモリ、RAMなどのコンピュータ可読記憶媒体に記憶しても良い。当業者には理解されるように、プログラム・モジュールの機能は、様々な実施例において必要に応じて組み合わせられるか又は分散されても良い。更に、こうした機能は、集積回路、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)などのようなファームウェア又はハードウェア同等物において全体又は一部を具体化できる。特定のデータ構造を使用して、本発明の1つ以上の態様をより効果的に実施することができ、そのようなデータ構造は、本願に記載されたコンピュータ実行可能命令及びコンピュータ使用可能データの範囲内と考えられる。
【0101】
開示された態様は、場合によっては、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア又はこれらの任意の組み合わせで実現されても良い。開示された態様は、1つ以上のプロセッサによって読み取られ、実行され得る1つ又は複数のコンピュータ可読媒体によって運搬されるか又は記憶される命令として実現されても良い。そのような命令は、コンピュータ・プログラム・プロダクトと呼ぶことができる。本願で説明するコンピュータ可読媒体は、コンピューティング装置によってアクセス可能な任意の媒体を意味する。限定するものではないが、一例としては、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ記憶媒体及び通信媒体を含むことができる。
【0102】
コンピュータ記憶媒体とは、コンピュータ読み取り可能な情報を記憶するために使用することができる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、コンピュータ記憶媒体としては、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、電気消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)、フラッシュメモリやその他のメモリ技術、コンパクト・ディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)、DVD(Digital Video Disc)やその他の光ディスク記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置やその他の磁気記憶装置、及び任意の技術で実装された任意の他の揮発性又は不揮発性の取り外し可能又は取り外し不能の媒体を含んでいても良い。コンピュータ記憶媒体としては、信号そのもの及び信号伝送の一時的な形態は排除される。
【0103】
通信媒体とは、コンピュータ可読情報の通信に利用できる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、通信媒体には、電気、光、無線周波数(RF)、赤外線、音又はその他の形式の信号の通信に適した同軸ケーブル、光ファイバ・ケーブル、空気又は任意の他の媒体を含むことができる。
【0104】
実施例
以下では、本願で開示される技術の理解に有益な実施例が提示される。この技術の実施形態は、以下で記述する実施例の1つ以上及び任意の組み合わせを含んでいても良い。
【0105】
実施例1は、第1周波数範囲(例えば、DC~f1)についての被試験デバイスに関するSパラメータ(scattering parameters)を求める方法であって、
上記第1周波数範囲より高い第2周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを受ける処理と、
上記被試験デバイスの実際の信号を測定する処理と、
上記被試験デバイスの望ましい信号を求める処理と、
上記第2周波数範囲のSパラメータ、上記被試験デバイスの上記実際の信号及び上記被試験デバイスの上記望ましい信号に基づいて、上記被試験デバイスの上記第1周波数範囲についてのSパラメータを求める処理と
を具えている。
【0106】
実施例2は、実施例1の方法であって、受けた上記第2周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータに基づいて、上記第1周波数範囲についての第1Sパラメータの初期値を決定する処理と、上記初期値に基づいての上記第1周波数範囲について上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理とを更に具えている。
【0107】
実施例3は、実施例2の方法であって、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲についての上記第1Sパラメータと、第2Sパラメータとを、所定回数のパスが完了するまでの複数回のパスの間に反復して求める処理を含んでいる。
【0108】
実施例4は、実施例3の方法であって、このとき、1番目のパスの間に上記第1Sパラメータの上記初期値を使用して上記第2Sパラメータを求め、後続の偶数番目のパスの夫々において、先の奇数番目のパスで求めたアップデートされた上記第2Sパラメータを用いて上記第1Sパラメータを求め、後続の奇数番目のパスの夫々において、先の偶数番目のパスで求めたアップデートされた上記第1Sパラメータを用いて上記第2Sパラメータを求める。
【0109】
実施例5は、実施例1から4のいずれかの方法であって、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスの差動Sパラメータを求める処理と、上記差動Sパラメータをシングル・エンドのSパラメータに変換する処理とを含む。
【0110】
実施例6は、実施例1から5のいずれかの方法であって、上記実際の信号と上記望ましい信号の夫々をリサンプリングしてレコード長を整合させる処理と、リサンプリングされた上記実際の信号とリサンプリングされた上記望ましい信号を周波数領域に変換する処理と更に具えている。
【0111】
実施例7は、実施例6の方法であって、上記被試験デバイスの群遅延に整合するように、変換及びリサンプリングされた上記実際の信号並びに変換及びリサンプリングされた上記望ましい信号の群遅延を調整する処理を更に具えている。
【0112】
実施例8は、実施例1から7のいずれか方法であって、上記被試験デバイスのメモリに、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスについてのSパラメータを記憶する処理を更に具えている。
【0113】
実施例9は、実施例1から8のいずれか方法であって、このとき、上記第1周波数範囲は、ゼロ・ヘルツ(DC)とベクトル・ネットワーク・アナライザで測定可能な最低周波数(例えば、25メガ・ヘルツ)との間である。
【0114】
実施例10は、試験測定システムであって、
ステップ信号を生成するよう構成されたステップ信号発生装置と、
上記ステップ信号に基づいて被試験デバイスの実際の応答を測定するように構成された試験測定装置と、
上記被試験デバイスの望ましい信号を求め、第1周波数範囲より上の第2周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータ、上記被試験デバイスの上記実際の応答及び上記被試験デバイスの上記望ましい信号に基づいて、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求めるように構成される1つ以上のプロセッサと
を具えている。
【0115】
実施例11は、実施例10の試験測定システムであって、1つ以上の上記プロセッサが、上記第2周波数範囲のSパラメータに基づいて上記第1周波数範囲の第1Sパラメータの初期値を求め、上記初期値に基づいて上記第1周波数範囲の上記被試験デバイスのSパラメータを決定するよう更に構成されている。
【0116】
実施例12は、実施例11の試験測定システムであって、上記第1周波数範囲の上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲についての第1Sパラメータと第2Sパラメータとを、所定のしきい値を満たすまで反復して求める処理を含んでいる。
【0117】
実施例13は、実施例12の試験測定システムであって、最初のループ処理中に、上記第1Sパラメータの初期値を使用して上記第2Sパラメータを求め、後続の偶数番目のループ処理の夫々において、先の奇数番目のループ処理で求めたアップデートされた上記第2Sパラメータを用いて上記第1Sパラメータを求め、後続の奇数番目のループ処理の夫々において、先の偶数番目のループ処理で求めたアップデートされた上記第1Sパラメータを用いて上記第2Sパラメータを求める。
【0118】
実施例14は、実施例10から13のいずれかの試験測定システムであって、上記第1周波数範囲の上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲の上記被試験デバイスの差動Sパラメータを求める処理と、上記差動Sパラメータをシングル・エンドのSパラメータに変換する処理とを含む。
【0119】
実施例15は、実施例10から14のいずれかの試験測定システムであって、1つ以上の上記プロセッサが、上記実際の応答と上記望ましい信号の夫々をリサンプリングしてレコード長を整合させ、リサンプリングされた上記実際の応答及びリサンプリングされた上記望ましい信号を周波数領域に変換するよう更に構成されている。
【0120】
実施例16は、実施例15の試験測定システムであって、1つ以上の上記プロセッサが、上記被試験デバイスの群遅延に整合するように、変換及びリサンプリングされた上記実際の信号並びに変換及びリサンプリングされた上記望ましい信号の群遅延を調整するよう更に構成されている。
【0121】
実施例17は、実施例10から16のいずれかの試験測定システムであって、このとき、上記被試験デバイスは高インピーダンスのアクティブ・プローブである。
【0122】
実施例18は、実施例10から17のいずれかの試験測定システムであって、このとき、上記第1周波数範囲は、ゼロ・ヘルツ(DC)とベクトル・ネットワーク・アナライザで測定可能な最低周波数(例えば、25メガ・ヘルツ)との間である。
【0123】
実施例19は、1つ以上のコンピュータ可読記憶媒体であって、試験測定装置の1つ以上のプロセッサによって実行された場合、上記試験測定装置に、
被試験デバイスの実際の信号を測定する処理と、
上記被試験デバイスの望ましい信号を求める処理と、
第1周波数範囲より高い第2周波数範囲のSパラメータ、上記被試験デバイスの上記実際の信号及び上記被試験デバイスの上記望ましい信号に基づいて、上記第1周波数範囲のSパラメータを求める処理と
を実行させる命令を有している。
【0124】
実施例20は、実施例19の1つ以上のコンピュータ可読記憶媒体であって、上記命令は、上記試験測定装置に、
上記第2周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータに基づいて、上記第1周波数範囲についての第1Sパラメータの初期値を決定する処理と、
上記初期値に基づいて上記第1周波数範囲について上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理と
を更に実行させる。
【0125】
実施例21は、実施例20の1つ以上のコンピュータ可読記憶媒体であって、上記第1周波数範囲についての上記被試験デバイスのSパラメータを求める処理が、上記第1周波数範囲についての上記第1Sパラメータと、第2Sパラメータとを、所定回数のパスが完了するまでの複数回のパスの間に反復して求める処理を含んでいる。
【0126】
開示された主題の上述のバージョンは、記述したか又は当業者には明らかであろう多くの効果を有する。それでも、開示された装置、システム又は方法のすべてのバージョンにおいて、これらの効果又は特徴のすべてが要求されるわけではない。
【0127】
加えて、本願の記述は、特定の特徴に言及している。本明細書における開示には、これらの特定の特徴の全ての可能な組み合わせが含まれると理解すべきである。ある特定の特徴が特定の態様又は実施例の状況において開示される場合、その特徴は、可能である限り、他の態様及び実施例の状況においても利用できる。
【0128】
また、本願において、2つ以上の定義されたステップ又は工程を有する方法に言及する場合、これら定義されたステップ又は工程は、状況的にそれらの可能性を排除しない限り、任意の順序で又は同時に実行しても良い。
【0129】
説明の都合上、本発明の具体的な実施例を図示し、説明してきたが、本発明の要旨と範囲から離れることなく、種々の変更が可能なことが理解できよう。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲を除いて限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0130】
100 被試験デバイス(プローブ)
102 ポート(入力チップ)
104 ポート(入力チップ)
106 ポート
200 フィクスチャ
400 試験測定システム
402 差動ステップ信号発生装置
404 試験測定装置
406 プロセッサ
408 メモリ