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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】多層麺及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20241008BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20241008BHJP
【FI】
A23L7/109 B
A23L7/109 A
A23L7/109 C
A23L7/10 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020121209
(22)【出願日】2020-07-15
(65)【公開番号】P2022018243
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 幹数
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033357(JP,A)
【文献】特開平08-009909(JP,A)
【文献】特開2015-033362(JP,A)
【文献】特開平11-192063(JP,A)
【文献】特開2019-050756(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0637730(KR,B1)
【文献】特開2016-002044(JP,A)
【文献】特開平11-151071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
A23L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含む多層麺であって、
前記外層が、GA-SX小麦粉を含み、
前記GA-SX小麦粉は、BSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉であり、
外層におけるGA-SX小麦粉の含有率が内層におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高いことを特徴とする、多層麺。
【請求項2】
外層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率と内層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率の差が3質量%以上である、請求項1に記載の多層麺。
【請求項3】
GA-SX小麦粉の含有率が異なる生地を少なくとも2種類用意し、
前記GA-SX小麦粉が、BSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉であり、
少なくとも2種類の麺帯のうち、GA-SX小麦粉の含有率が最も高い生地1を用いて麺の表面を形成する外層を作成し、前記GA-SX小麦粉の含有率が最も高い生地1より低いGA-SX小麦粉含有率の生地2を、前記外層に隣接する内層として積層する工程を含むことを特徴とする、多層麺の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層麺及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茹で麺類は、一般的に、小麦粉等の穀粉を主原料とした製麺用粉体原料に加水及び混捏して得られた粗生地を、ロール圧延機等で圧延成形又は押出機で押出成形して麺帯に成形し、適切な厚さに圧延した後に適切な幅及び長さに切断して生麺とするか、あるいは、前記粗生地を押出機で押出成形された麺線を適切な長さに切断して生麺とし、その後得られた生麺をα化処理して製造される。このような茹で麺類は、茹でた直後に喫食すると、茹で麺内部の適度な弾力(粘弾性)と茹で麺表面付近の適度な柔らかさとを兼ね備えた麺内外の食感差と、茹で麺表面のつるみ(麺表面の滑らかさ)とがあり優れた食感を有している。しかしながら、このような食感は、茹でた後の時間経過に伴って劣化することがある。また、このような茹で麺を冷凍処理すると、解凍後の食感が茹でた直後の食感よりも劣ることがある。そのため、茹で麺をチルド麺や冷凍麺として提供するには、このような食感の劣化を抑制する必要があった。
【0003】
このような課題を解決するために、種々検討がなされている。例えば特許文献1には、かん粉又は食塩の含有率が内層麺部と外層麺部で異なることを特徴とする三層冷凍麺が開示されている。特許文献2には、特定の澱粉類を主体とする原材料を用いて得られる外層と、蛋白質を添加した小麦粉を主体とした原材料を用いて得られる内層からなる三層麺であって、外層と内層の厚さの比率が特定の範囲内であることを特徴とした三層麺が開示されている。特許文献3には、マイクロ波照射した内層部と、マイクロ波照射されていない外層部からなることを特徴とする多層麺が開示されている。これらは、外層と内層の麺帯の性質に差異を持たせ、麺の外側を柔らかく、麺の内側を比較的硬くすることで、麺の外側の食感と内側の食感とに差をつけ、麺類の茹でた直後の食感(茹で立て感)を再現しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平08-009909号公報
【文献】特開2008-029273号公報
【文献】特開平09-206013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、外層用麺帯と内層用麺帯への澱粉類や蛋白質類、増粘剤、酵素製剤等の改良剤等によって原料配合に差を設けること、マイクロ波処理等によって物理的に内層麺帯あるいは外層麺帯を変性させて麺帯の性質に差を設けること等により、常温、チルド、冷凍等の保存に適した三層麺を製造することが行われている。しかしながら、このような三層麺には、不自然なつるみ(過剰な滑らかさ)が生じる(特に外層用麺帯への澱粉類の配合量が多いと不自然なつるみが顕著になる)、小麦粉の風味が損なわれる、原料費等のコストが上昇する、製造工程が煩雑になる、といった問題がある。
【0006】
本発明の目的は、茹でた後に保存(常温、チルド又は冷凍)しても、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面のつるみを有する多層麺及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、外層と内層とを含む多層麺において、外層における特定の小麦粉の含有率を内層よりも高くすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含む多層麺であって、
前記外層が、GA-SX小麦粉を含み、
前記GA-SX小麦粉が、BSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉であり、
外層におけるGA-SX小麦粉の含有率が内層におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高いことを特徴とする、多層麺。
[2]外層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率と内層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率の差が3質量%以上である、[1]に記載の多層麺。
[3]GA-SX小麦粉の含有率が異なる生地を少なくとも2種類用意し、
前記GA-SX小麦粉が、BSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉であり、
少なくとも2種類の生地のうち、GA-SX小麦粉の含有率が最も高い生地1を用いて麺の表面を形成する外層を作成し、前記GA-SX小麦粉の含有率が最も高い生地1より低いGA-SX小麦粉含有率の生地2を、前記外層に隣接する内層として積層する工程を含むことを特徴とする、多層麺の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、茹でた後に保存(常温、チルド又は冷凍)しても、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面の自然なつるみを有する多層麺及びその製造方法を提供することができる。更に、食感改良の目的として使用する澱粉等の小麦粉以外の原料の使用を低減でき、且つ、煩雑な製造工程を必要としないため、多層麺の小麦本来の風味を維持できると共に製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多層麺は、麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含む。前記内層は、麺の表面を形成する2つの前記外層の間に位置している。本発明において、「多層麺」とは、製麺原料から複数の麺用生地を調製し、得られた麺用生地を複合して製麺して得られる、複数の層を有する麺を意味する。本発明の多層麺は、麺の厚み(積層)方向において、外層-内層-外層からなる三層麺であってもよく、外層-内層1-内層2-内層1-外層からなる五層麺であってもよく、同様にして七層麺であってもよい。本発明の多層麺は、麺の表面を形成する外層と、前記外層に隣接する内層とを含んでいればどのような形態であってもよく、例えば、外層、内層、及び外層が層状に積層された形態のものであってもよく、内層の全方向が外層で覆われた形態のものであってもよい。本発明の多層麺は、外層及び内層が層状に積層された形態のものであることが好ましい。
【0011】
本発明の多層麺に使用される小麦粉は、GA-SX小麦粉と、任意にGA-SX以外の小麦粉とを含む。上記外層は、GA-SX小麦粉を含む。上記内層は、GA-SX小麦粉を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
上記GA-SX小麦粉とは、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉を意味する。
【0012】
普通系コムギは、異質6倍体であり、その染色体には同祖染色体であるA、B、Dの3つのゲノムがそれぞれ1~7番まで存在する(1A~7A、1B~7B、1D~7D)。 「GBSSI」とは、アミロースの合成に関与する顆粒結合性澱粉合成酵素であり、GBSSI-A1、GBSSI-B1、GBSSI-D1が、それぞれ7A、4A、7D染色体上に座上する遺伝子によってコードされている。
「SSIIa」とは、アミロペクチンの分岐鎖合成に関与する澱粉合成酵素であり、SSIIa-A1、SSIIa-B1、SSIIa-D1が、それぞれ7A、4A、7D染色体上に座上する遺伝子によってコードされている。
【0013】
「酵素活性を欠損する」とは、コムギ植物体内で正常な酵素活性を有するタンパク質が機能していないこと、好ましくは正常な酵素活性を有するタンパク質が発現していないことをいう。具体的には、遺伝子配列の変異(一つ又は複数の塩基の置換、欠失、挿入、逆位、転座等の変異をいい、遺伝子領域全体の欠失も含む)、mRNA転写の欠損、タンパク質翻訳の欠損、コムギ植物体内での酵素活性の阻害等の態様が考えられ、野生型の酵素活性の10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満にまで酵素活性が低下ないし欠失していれば、いずれの態様であってもよい。
【0014】
GA-SX小麦粉としては、酵素活性を欠損した2種類のSSIIaの組み合わせにより、以下の小麦粉が挙げられる。
GA-SA小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-B1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉;
GA-SB小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-B1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-A1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉;
GA-SD小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-D1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-A1及びSSIIa-B1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉。
これらの小麦粉のうち、本発明の効果に優れることから、GA-SA小麦粉が好ましい。
上記GA-SX小麦穀粒のタンパク質含量は特に限定されないが、8~13質量%が好ましく、9~12質量%がより好ましい。上記GA-SX小麦粉のタンパク質含量は特に限定されないが、7~12質量%が好ましく、8~10質量%がより好ましい。このようなGA-SX小麦粉は、公知の方法、例えば特開2013-188206号公報に記載の方法に従って製造することができる。
【0015】
上記GA-SX以外の小麦粉は、GA-SX小麦以外の小麦から製粉して得られる小麦粉であれば特に限定されず、例えば、GBSSI(GBSSI-A1、GBSSI-B1及びGBSSI-D1)及びSSIIa(SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1)の6種の酵素活性の欠損の組み合わせ(ただし、GA-SXを除く)で酵素活性を欠損した小麦並びにGBSSI及びSSIIaのいずれの酵素活性も欠損していない小麦穀粒から製粉して得られた小麦粉等が挙げられる。上記GA-SX以外の小麦粉は、一般に使用される強力粉、中力粉、薄力粉及びそれらの混合物を含んでもよい。
【0016】
本発明では、外層におけるGA-SX小麦粉の含有率が内層におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高い。すなわち、外層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率(質量%)が、内層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率(質量%)よりも高い。含有率をこのように調整することで、茹でた麺を常温、チルド又は冷凍保存した後に可食状態にした際に(例えばチルド又は冷凍した茹で麺を電子レンジや沸騰水を用いて加熱した際に)、茹で立てのような麺内外の食感差、すなわち茹で立て感が良好で、麺表面の自然なつるみを有する多層麺が得られる。
【0017】
例えば、多層麺が三層麺である場合、外層におけるGA-SX小麦粉の含有率が内層におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高く、五層麺である場合、外層におけるGA-SX小麦粉の含有率が内層2におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高く、且つ、好ましくは内層1におけるGA-SX小麦粉の含有率が内層2におけるGA-SX小麦粉の含有率と同等である、又は内層1におけるGA-SX小麦粉の含有率が内層2におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高い。すなわち、麺の内部方向に進むにつれてGA-SX小麦粉の含有率が小さくなるような勾配とすることが好ましい。
【0018】
なお本発明において「茹で立て感が良好」とは、茹でた直後の麺内部が適度に弾力を有していて硬く、一方で麺外部は適度に柔らかく、麺の内外で明らかな食感差があることをいう。
また、本発明において「つるみを有する」とは、茹で立てのような麺表面の自然な滑らかさを有することをいう。
【0019】
本発明では、上記外層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率と上記内層における小麦粉全量に対するGA-SX小麦粉の含有率の差が3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。上記含有率の差は100質量%であってもよい。上記含有率の差が上記下限値以上であることで、茹でた麺を常温、チルド又は冷凍保存した後に喫食しても、茹で立てのような麺内外の食感差及び麺表面の自然なつるみを感じやすくなる。
上記外層におけるGA-SX小麦粉の含有率は、上記外層における小麦粉全量に対して3~100質量%であることが好ましく、5~100質量%であることがより好ましく、10~100質量%であることが更に好ましく、50~100質量%であることが最も好ましい。上記内層におけるGA-SX小麦粉の含有率は、上記外層におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも低ければ、特に限定されない。上記内層は、GA-SX小麦粉を含まないことも好ましい。
【0020】
本発明の多層麺は、GA-SX小麦粉及びGA-SX小麦粉以外の小麦粉以外に、麺類の製造に使用される通常の原料であればいずれも好適に使用することができる。そのような原料として、ライ麦粉、大麦粉、米粉等の小麦粉以外の穀粉類;タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉等の澱粉類;澱粉類を化学変性、物理変性、酵素変性等させた変性澱粉類(エーテル化、アセチル化、架橋化、α化、湿熱処理、乾熱処理、アミラーゼ処理等、およびこれらの組み合わせ);グアーガム、ペクチン、キサンタンガム、カラギーナン、寒天、セルロース誘導体等の増粘剤;グルテン、卵白、全卵、小麦蛋白、乳蛋白、大豆蛋白、緑豆蛋白等の蛋白質類;卵白粉等の卵加工粉末;脱脂粉乳等の乳加工粉末;アミラーゼ、トランスグルタミナーゼ等の酵素製剤;乳化剤;無機塩類;保存料;ビタミン類;カルシウム等の栄養強化剤;着色料等が挙げられる。上記外層及び内層における上記原料の含有率(量)は任意であるが、麺の内部と麺の表面付近との食感差をより明瞭にする目的や、より良好な麺表面のつるみを得る目的で、これらの原料の1つ以上の含有率を外層と内層とで異なるように調節してもよい。
本発明の多層麺に含まれるGA-SX小麦粉及びGA-SX小麦粉以外の小麦粉以外の原料の含有量は、多層麺に含まれる小麦粉全量に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
本発明の多層麺の固形成分全量に対する小麦粉の割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0021】
一方で、本発明によれば、澱粉等の小麦粉以外の特殊原料を使用せずとも本発明の効果が奏される。よって、麺表面のつるみを良好にし、且つ多層麺の小麦粉の風味を良好にする観点からは、外層に含まれる小麦粉の量に対する澱粉類の含有率は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%であることが更に好ましく、0質量%であっても(外層が澱粉類を含まなくても)よい。
【0022】
本発明の多層麺は、GA-SX小麦粉を使用する以外は、定法に従って通常の多層麺と同様にして、麺の表面を形成する外層に隣接するように内層を積層させることによって製造することができる。具体的には、GA-SX小麦粉の含有率が異なる生地を少なくとも2種類用意し、少なくとも2種類の生地のうち、GA-SX小麦粉の含有率が最も高い生地1を用いて麺の表面を形成する外層を作成し、前記GA-SX小麦粉の含有率が最も高い生地1より低いGA-SX小麦粉含有率の生地2を、前記外層に隣接する内層として積層する。
【0023】
以下に本発明の多層麺の製造方法の一例を示す。
まず、外層用製麺原料に加水し、混捏して外層用の粗生地を得た後、該粗生地を圧延又は複合圧延ないし押出成形して外層用麺帯を得る。同様にして内層用製麺原料を用いて内層用麺帯を得る。この時、外層用麺帯におけるGA-SX小麦粉の含有率は、内層用麺帯におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高い。得られた外層用麺帯が最外層となるように内層用麺帯と外層用麺帯を重層して複合し、圧延、成形及び切断工程を経ることで三層麺を得ることができる。
また、内層用生地を複数種類用意して外層用麺帯におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも低いGA-SX小麦粉含有率を有する内層用麺帯1及び2を用意し(好ましくは、内層用麺帯1におけるGA-SX小麦粉含有率は、内層用麺帯2におけるGA-SX小麦粉含有率よりも高い)、麺の表面から外層用麺帯、内層用麺帯1、内層用麺帯2の順となるように積層して、五層麺を得ることもできる。
同様の手順によって、外層用麺帯におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも低いGA-SX小麦粉含有率を有する内層用麺帯1、2及び3を用意し(好ましくは、内層用麺帯1におけるGA-SX小麦粉含有率は、内層用麺帯2におけるGA-SX小麦粉含有率よりも高く、内層用麺帯2におけるGA-SX小麦粉含有率は、内層用麺帯3におけるGA-SX小麦粉含有率よりも高い)、麺の表面から外層用麺帯、内層用麺帯1、内層用麺帯2、内層用麺帯3の順となるように積層して、七層麺を得ることもできる。
1枚の外層用麺帯と1枚の内層用麺帯の厚さの比率は、特に限定されないが、内層用麺帯の厚さに対する外層用麺帯の厚さの比を1.0:0.5~3.0とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明の多層麺は、棒状、線状又は柱状に成形した内層用生地を、それらの長手方向側面が露出しないように外層用生地をシート状に成形した麺帯で被覆し、圧延、成形、切断工程を経て多層麺とすることもできる。この時、外層用生地におけるGA-SX小麦粉の含有率は、内層用生地におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高い。この場合も、1枚の外層用生地と1枚の内層用生地の厚さの比率は、特に限定されず、内層用生地の厚さに対する外層用生地の厚さの比を1.0:0.5~3.0としてもよい。
【0025】
更に、本発明の多層麺は、包餡機のような吐出口が二重ノズルになっている装置を用い、内側ノズルから内層用生地を、外側ノズルから外層用生地を同時に押し出して、麺線又は麺線用生地を得た後、任意に成型し、切断工程を経て多層麺とすることもできる。この時、外層用生地におけるGA-SX小麦粉の含有率は、内層用生地におけるGA-SX小麦粉の含有率よりも高い。この場合も、1枚の外層用生地と1枚の内層用生地の厚さの比率は、特に限定されず、内層用生地の厚さに対する外層用生地の厚さの比を1.0:0.5~3.0としてもよい。
【0026】
本発明の多層麺は、公知の麺類であればいずれの麺類であってもよく、例えば、中華麺、うどん、冷や麦、素麺、パスタ類等の小麦粉を主原料とする麺類;蕎麦、米粉麺等の小麦粉以外の穀粉を主原料とする麺類等が挙げられる。本発明の多層麺は、生麺、LL(ロングライフ)麺、茹で麺、チルド麺、冷凍麺等に利用することができる。本発明の多層麺は、小麦粉を主原料とするチルド麺類であることが好ましい。
【0027】
上記多層麺の厚みは、麺類の種類に応じて適宜調節することができる。上記厚みは特に制限されないが、0.5~3.0mmであることが好ましく、0.7~2.5mmであることがより好ましい。また、麺類の形状や長さも特に制限されない。例えば、麺類の長さは、10~350mmであることが好ましい。本発明の多層麺の内層に対する外層の厚さ(1層分)は、1:0.5~3.0であることが好ましく、1:0.7~2.0であることがより好ましい。上記多層麺の内層に対する外層の厚さは、多層麺を製造する際に使用する外層用麺帯(生地)及び内層用麺帯(生地)の厚さを同程度に設定することで、上記の範囲に容易に調節することができる。
【実施例
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
<製造例1:本発明の三層麺の製造>
実施例1
(1)内層用麺帯の製造
100質量部の標準的な小麦粉(中力粉、日本製粉株式会社製、「さぬき菊」)と食塩水39質量部(食塩4質量部、水35質量部)とをミキサーに投入し、高速で3分間混捏し、生地を掻き落とした後、更に低速で10分間混捏して粗生地を得た。得られた粗生地を15分間室温で熟成させ、熟成させた粗生地をロール圧延機で麺帯に成形し、2枚を重ねて再度ロール圧延機に通して複合圧延し、厚さが薄くなるように順次圧延し、最終厚さ5mmの内層用麺帯を得た。
(2)外層用麺帯の製造
上記(1)内層用麺帯の製造において、標準的な小麦粉100質量部に代えて、GA-SA小麦粉100質量部を用いた以外は同様にして最終厚さ5mmの外層用麺帯を得た。
(3)三層麺の製造
外層用麺帯、内層用麺帯、外層用麺帯の順に積層して1枚の内層用麺帯を2枚の外層用麺帯で挟み込み、ロール圧延機に通して3枚の麺帯を複合させ、厚さが薄くなるように順次圧延し、最終厚さ2.5mmの三層麺帯を得た。番手10の切刃に通し、長さ250mm毎に切断して三層生麺を得た。
【0030】
実施例2~10及び比較例1~2
内層用麺帯及び外層用麺帯の組成を表1及び2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして三層生麺を得た。
【0031】
<製造例2:標準的な三層麺の製造>
外層用麺帯の原料として、GA-SA小麦粉100質量部に代えて、80質量部の標準的な小麦粉(中力粉、日本製粉株式会社製、「さぬき菊」)と20質量部のエーテル化タピオカ澱粉(松谷化学工業株式会社製、「さくら」)とを用いた以外は製造例1と同様にして三層麺を得た。
【0032】
<製造例3:標準的な単層麺の製造>
100質量部の標準的な小麦粉(中力粉、日本製粉株式会社製、「さぬき菊」)と食塩水39質量部(食塩4質量部、水35質量部)とをミキサーに投入し、高速で3分間混捏し、生地を掻き落とした後、更に低速で10分間混捏して粗生地を得た。得られた粗生地を15分間室温で熟成させ、熟成させた粗生地をロール圧延機で麺帯に成形し、2枚を重ねて再度ロール圧延機に通して複合圧延し、厚さが段階的に薄くなるように3回圧延機に通して圧延し、最終厚さ2.5mmの標準的な麺帯を得た。番手10の切刃に通し、長さ25mm毎に切断して標準的な生麺(単層麺)を得た。
【0033】
<麺の評価1:GA-SA小麦粉の配合割合>
実施例1~10及び比較例1~2で得られた生麺を、生麺の約15倍の質量の茹で水で15分間茹で、水冷した後水切りした。得られた茹で麺180gを樹脂製容器に盛り付け、蓋をして密封し、庫内温度8℃の冷蔵庫で保管した。保管24時間後、1500Wで40秒間電子レンジ加熱し、試食評価に供した。試食評価は、下記評価基準表1に従って熟練パネラー10名で実施し、その平均値を求めた。
なお、製造例3に従って製造した標準的な単層麺を茹でた直後の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ5点とし、製造例2に従って製造した標準的な三層麺を上記麺の評価と同様に冷蔵保存した後に電子レンジ加熱した際の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ3点とし、製造例3に従って製造した標準的な単層麺を上記麺の評価と同様に冷蔵保存した後に電子レンジ加熱した際の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ1点として、相対的に評価した。結果を表1及び2に示す。
【0034】
評価基準表1
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から、外層用麺帯がGA-SA小麦粉を含み、かつ内層用麺帯がGA-SA小麦粉を含まない場合(実施例1~5)、外層用麺帯にGA-SA小麦粉を含まない場合(比較例1及び2)に比べて茹で立て感及びつるみが良好となり、特に実施例1~4の三層麺は、茹で立て感及びつるみが優れており、外層用麺帯のGX-SA小麦粉の含有量が多くなるにつれて茹で立て感及びつるみがより良好になった。なお、外層用麺帯がGA-SA小麦粉を含まない場合、内層用麺帯にGA-SA小麦粉を配合しても茹で立て感及びつるみは改善されなかった(比較例1及び2)。
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果から、B-Aの値が大きくなるほど麺表面部と麺内部との食感差が大きくなり、茹で立て感がより良好になった。また、表1における結果と同様に、外層用麺帯のGA-SA小麦粉の含有量が多くなるにつれて麺のつるみがより良好になった。実施例10の三層麺の茹で立て感は、製造例2で製造した標準的な三層麺の茹で立て感よりも若干低いものの、許容できるレベルであり、外層用麺帯にGA-SA小麦粉を含まない比較例1及び2よりも良好であり、かつ麺のつるみが良好なものであった。
【0039】
<麺の評価2:GA-SA小麦粉を含む冷やし三層麺>
冷蔵庫で保管した茹で麺を取り出し、電子レンジ加熱することなく、冷やし麺用麺つゆをかけて試食評価した以外は麺の評価1と同様にして試食評価に供した。なお、製造例3に従って製造した標準的な単層麺を茹でた直後に氷冷水で冷却し、水切り後の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ5点として、相対的に評価した。
その結果、表1及び2の評価点と大差がなく、茹で麺を冷蔵保存し、その後冷やした状態で喫食しても、茹で立てのような麺内外の食感差や麺表面のつるみを感じることができた。
【0040】
<麺の評価3:GA-SA小麦粉を含む冷凍三層麺>
茹で麺を冷蔵庫で保管する代わりに、水切りした茹で麺を-30℃で20分間急速冷凍した後、庫内温度-20℃の冷凍庫で2週間保管した後に、沸騰湯浴中で30秒間加熱した麺を試食評価した以外は麺の評価1と同様にして試食評価に供した。なお、製造例3に従って製造した標準的な単層麺を茹でた直後の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ5点とし、製造例3に従って製造した標準的な単層麺を茹でて水切りした後に-30℃で20分間急速冷凍した後、庫内温度-20℃の冷凍庫で2週間保管した後に、沸騰湯浴中で30秒間加熱した麺の「茹で立て感」及び「つるみ」をそれぞれ1点として、相対的に評価した。
その結果、表1及び2の評価点と大差がなく、茹で麺を冷凍保存した後に解凍しても、茹で立てのような麺内外の食感差や麺表面のつるみを感じることができた。