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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】基板、液晶アンテナ及び高周波デバイス
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/00 20060101AFI20241008BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20241008BHJP
   H01P 3/08 20060101ALI20241008BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C03C4/00
C03C3/091
H01P3/08 100
H01Q1/38
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020508281
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010423
(87)【国際公開番号】W WO2019181706
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-08-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018053081
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 周平
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃、10GHzでの誘電正接(A)が0.1以下であり、
20℃、35GHzでの誘電正接(B)が0.1以下であり、かつ
{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの誘電正接(C)/前記誘電正接(A)}で表される比が0.90~1.10であり、
酸化物ガラスからなり、
前記酸化物ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO を50~75%含有し、
Al を0.5~15%含有し、
を7.8~24%含有し、
Al及びBを合計で19.1~31.0%含有し、
{Al/(Al+B)}で表される含有量のモル比が0.26~0.59であり、
SrOを0~7%含有し、
アルカリ土類金属酸化物を合計で7.0~14.8%含有し、
アルカリ金属酸化物を合計で0.005~0.08%含有し、
前記アルカリ金属酸化物のうち、{NaO/(NaO+KO)}で表される含有量のモル比が0.67~0.88である基板。
【請求項2】
20℃、10GHzでの比誘電率(a)が4以上10以下であり、
20℃、35GHzでの比誘電率(b)が4以上10以下であり、かつ
{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの比誘電率(c)/前記比誘電率(a)}で表される比が0.993~1.007であり、
酸化物ガラスからなり、
前記酸化物ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO を50~75%含有し、
Al を0.5~10%含有し、
を13~24%含有し、
Al及びBを合計で19.1%超31.0%以下含有し、
{Al/(Al+B)}で表される含有量のモル比が0.01~0.3であり、
SrOを0~5%含有し、
アルカリ土類金属酸化物を合計で0.1~7.0%含有し、
アルカリ金属酸化物を合計で0.005~0.05%含有し、
前記アルカリ金属酸化物のうち、{NaO/(NaO+KO)}で表される含有量のモル比が0.67以上0.88未満である基板。
【請求項3】
少なくとも一方の主面の最長部分が10cm以上であり、最短部分が5cm以上である請求項1又は2に記載の基板。
【請求項4】
厚さが0.05~2mmである請求項1~3のいずれか1項に記載の基板。
【請求項5】
50~350℃における平均熱膨張係数が3~15ppm/℃である請求項1~4のいずれか1項に記載の基板。
【請求項6】
ヤング率が40GPa以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の基板。
【請求項7】
ヤング率が70GPa以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の基板。
【請求項8】
気孔率が0.1%以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の基板。
【請求項9】
波長350nmの光の透過率が50%以上である請求項1~8のいずれか1項に記載の基板。
【請求項10】
β-OH値が0.05~0.8mm-1である請求項1~9のいずれか1項に記載の基板。
【請求項11】
酸化物基準のモル百分率表示で、Alを0.5~10%及びB13~23%含有する請求項1~10のいずれか1項に記載の基板。
【請求項12】
酸化物基準のモル百分率表示で、FeをFe換算で0~0.012%含有する請求項1~11のいずれか1項に記載の基板。
【請求項13】
液晶アンテナ又は高周波回路に用いられる請求項1~12のいずれか1項に記載の基板。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の基板を有する液晶アンテナ。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載の基板を有する高周波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板、並びに、該基板を有する液晶アンテナ及び高周波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、スマートフォン、携帯情報端末、Wi-Fi機器のような通信機器、弾性表面波(SAW)デバイス、レーダ部品、アンテナ部品等の電子デバイスにおいては、通信容量の大容量化や通信速度の高速化等を図るために、信号周波数の高周波化が進められている。このような高周波用途の通信機器及び電子デバイスに用いられる回路基板には、一般的に樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板等の絶縁基板が使用されている。高周波用途の通信機器及び電子デバイスに用いられる絶縁基板には、高周波信号の質や強度等の特性を確保するために、誘電損失や導体損失等に基づく伝送損失を低減することが求められている。
【0003】
また、IoTの拡がりにより様々なデバイスが通信機能を持つようになり、自動車などこれまで無線通信を行っていなかったものでも通信デバイスを搭載したいというニーズが出てきている。その為、例えば液晶アンテナの様な通信デバイスを自動車の屋根に取り付けて衛星と通信を行うといったことが考えられる(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特表2017-506467号公報
【文献】日本国特表2017-506471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高周波且つ大容量の通信を行う場合、広い周波数帯域で基板の誘電特性が安定していることが望ましい。しかしながら、従来の樹脂基板やガラス基板では、特にGHz帯において周波数が変化した際の誘電特性の変化量が大きく、通信デバイスの基板として使用するには不適当であった。
【0006】
また、アンテナ用途に対し、これまで通信デバイスは室内での使用がメインであった。しかし、液晶アンテナ等として自動車や船舶等、広い温度域で使用するものに取り付けられる場合、温度変化の大きい過酷環境下で使用されることが考えられる。これに対し、電子デバイスに用いられてきた従来のガラス基板では、温度変化により基板の誘電特性が変わり、回路やアンテナ性能に大きな影響を与える。
【0007】
上記実情に鑑み、本発明は、高周波信号の誘電損失を低減することができ、かつ広い温度域で安定して使用可能な基板、並びにそれを用いた液晶アンテナ及び高周波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、誘電正接又は比誘電率の周波数依存性を小さくし、かつ-40~150℃の温度域における誘電正接又は比誘電率の差を一定範囲以内とすることにより、信号処理を行う際に、環境によらず所望の誘電特性を安定して得ることができることが分かった。これにより、赤道直下の地や寒冷の地等、様々な環境下で用いられる基板や、高周波回路用の基板等にも好適に用いることができる。
【0009】
すなわち、本発明に係る基板の一態様は、20℃、10GHzでの誘電正接(A)が0.1以下であり、20℃、35GHzでの誘電正接(B)が0.1以下であり、かつ{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの誘電正接(C)/前記誘電正接(A)}で表される比が0.90~1.10である。
【0010】
また、本発明に係る基板の別の態様は、20℃、10GHzでの比誘電率(a)が4以上10以下であり、20℃、35GHzでの比誘電率(b)が4以上10以下であり、かつ{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの比誘電率(c)/前記比誘電率(a)}で表される比が0.993~1.007である。
【0011】
上記基板は、液晶アンテナ又は高周波回路に用いられる。
【0012】
また、本発明に係る液晶アンテナ又は高周波デバイスの一態様は、前記基板を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る基板によれば、温度変化による基板の誘電特性の変化を防ぐことができ、広い温度域で安定して高周波信号の誘電損失を低減することができることから、高性能で実用的な液晶アンテナや高周波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、高周波回路の構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、各種基板の10GHzにおける、誘電正接の温度依存性(図2(a))及び比誘電率の温度依存性(図2(b))を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
基板がガラスからなるガラス基板である場合、ガラス基板における各成分の含有率は、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率表示である。また「高周波」とは、周波数10GHz以上であることを意味し、好ましくは30GHz超、より好ましくは35GHz以上である。
【0016】
<基板>
本発明に係る基板の一態様(以下、第1態様とも略す。)は、20℃、10GHzでの誘電正接(A)が0.1以下であり、20℃、35GHzでの誘電正接(B)が0.1以下であり、かつ{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの誘電正接(C)/前記誘電正接(A)}で表される比が0.90~1.10であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る基板の別の態様(以下、第2態様とも略す。)は、20℃、10GHzでの比誘電率(a)が4以上10以下であり、20℃、35GHzでの比誘電率(b)が4以上10以下であり、かつ{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの比誘電率(c)/前記比誘電率(a)}で表される比が0.993~1.007であることを特徴とする。
【0018】
基板の比誘電率及び/又は誘電正接を小さくすることにより、高周波領域での誘電損失を低減することができる。
【0019】
本発明に係る基板の第1態様は、20℃、10GHzにおける誘電正接(tanδ)(A)が0.1以下であり、0.05以下が好ましく、0.01以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.003以下が特に好ましい。
【0020】
本発明に係る基板の第2態様は、20℃、10GHzにおける誘電正接(tanδ)(A)が0.1以下であることが好ましく、0.05以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましく、0.005以下がよりさらに好ましく、0.003以下が特に好ましい。
【0021】
誘電正接(A)の下限は特に制限されないが、通常0.0001以上である。
【0022】
本発明に係る基板の第1態様は、20℃、35GHzにおける誘電正接(B)が0.1以下であり、0.05以下が好ましく、0.01以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.003以下が特に好ましい。
【0023】
また、本発明に係る基板の第2態様は、20℃、35GHzにおける誘電正接(B)が0.1以下であることが好ましく、0.05以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましく、0.005以下がよりさらに好ましく、0.003以下が特に好ましい。
【0024】
誘電正接(B)の下限は特に制限されないが、通常0.0001以上である。
【0025】
誘電正接の値が温度により変化すると、デバイスの使用環境が変わった際に信号特性が変化し、所望の信号強度が得られなくなる。
【0026】
そのため、本発明に係る基板の第1態様は、-40~150℃において、任意の温度での10GHzでの誘電正接を、20℃、10GHzでの誘電正接(A)で割った値、すなわち{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの誘電正接(C)/誘電正接(A)}で表される比が0.90~1.10であり、1に近いほど好ましい。
【0027】
また、本発明に係る基板の第2態様は、{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの誘電正接(C)/誘電正接(A)}で表される比が0.90~1.10であることが好ましく、1に近いほど好ましい。
【0028】
誘電正接はガラス基板である場合にはガラスの組成等により調整することができる。誘電正接は、JIS R1641(2007年)に規定されている方法に従い、空洞共振器およびベクトルネットワークアナライザを用いて測定することができる。
【0029】
{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの誘電正接(C)/誘電正接(A)}で表される比は、-40~150℃において10℃ごとに10GHzでの誘電正接を測定し、その最大及び最小の値と、20℃、10GHzでの誘電正接(A)の値との比を求めることで算出する。
【0030】
本発明に係る基板の第1態様は、20℃、10GHzにおける比誘電率(a)が10以下であることが好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下がよりさらに好ましく、4.5以下が特に好ましい。本発明に係る基板の第1態様において、比誘電率(a)の下限は特に制限されないが、デバイスの形状を小型化できる点から4以上が好ましい。
【0031】
また、本発明に係る基板の第2態様は、20℃、10GHzにおける比誘電率(a)が10以下であり、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下がよりさらに好ましく、4.5以下が特に好ましい。本発明に係る基板の第2態様において、比誘電率(a)の下限は、デバイスの形状を小型化できる点から4以上である。
【0032】
本発明に係る基板の第1態様は、20℃、35GHzにおける比誘電率(b)が10以下であることが好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下がよりさらに好ましく、4.5以下が特に好ましい。本発明に係る基板の第1態様において、比誘電率(b)の下限は特に制限されないが、デバイスの形状を小型化できる点から4以上が好ましい。
【0033】
また、本発明に係る基板の第2態様は、20℃、35GHzにおける比誘電率(b)は10以下であり、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、5以下がさらに好ましく、4.5以下が特に好ましい。本発明に係る基板の第2態様において、比誘電率(b)の下限は、デバイスの形状を小型化できる点から4以上である。
【0034】
比誘電率の値が温度により変化すると、デバイスの使用環境が変わった際に信号特性が変化し、所望の信号強度が得られなくなる。
【0035】
そのため、本発明に係る基板の第1態様は、-40~150℃において、任意の温度での10GHzでの比誘電率を、20℃、10GHzでの比誘電率(a)で割った値、すなわち{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの比誘電率(c)/比誘電率(a)}で表される比が0.993~1.007であることが好ましく、1に近いほど好ましい。
【0036】
また、本発明に係る基板の第2態様は、-40~150℃において、任意の温度での10GHzでの比誘電率を、20℃、10GHzでの比誘電率(a)で割った値、すなわち{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの比誘電率(c)/比誘電率(a)}で表される比が0.993~1.007であり、1に近いほど好ましい。
【0037】
比誘電率はガラス基板である場合にはガラスの組成等により調整することができる。比誘電率は、JIS R1641(2007年)に規定されている方法に従い、空洞共振器およびベクトルネットワークアナライザを用いて測定することができる。
【0038】
また{-40~150℃における任意の温度、10GHzでの比誘電率(c)/比誘電率(a)}で表される比は、誘電正接と同様、-40~150℃において10℃ごとに10GHzでの比誘電率を測定し、その最大及び最小の値と、20℃、10GHzでの比誘電率(A)の値との比を求めることで算出する。
【0039】
基板を高周波回路に用いる場合、高周波デバイスの製造工程(ウエハプロセス)時における基板の撓み量を抑えて製造不良の発生等を抑制する点から、ヤング率は40GPa以上が好ましく、50GPa以上がより好ましく、55GPa以上がさらに好ましい。
【0040】
一方、ヤング率は、急激な温度差による熱応力の発生を低減させる点から70GPa以下が好ましく、67GPa以下がより好ましく、64GPa以下がさらに好ましく、60GPa以下がよりさらに好ましい。
【0041】
ヤング率はガラス基板である場合には、基板となるガラスの組成によって調整することができる。なお、ヤング率はJIS Z 2280(1993年)に規定されている方法に従い、超音波パルス法により測定することができる。
【0042】
基板を用いて高周波デバイスとして半導体パッケージ等を構成する際に、他部材との熱膨張係数差をより適切に調整しやすくする点から、50~350℃における平均熱膨張係数は3~15ppm/℃が好ましい。これにより、例えば、高周波用途の2.5Dや3D(三次元)実装タイプのガラス貫通配線基板(TGV基板)を構成する際に、半導体チップ等の他部材との熱膨張係数差をより適切に調整することができる。
【0043】
熱膨張係数はガラス基板である場合には、ガラスの組成の中でも特にアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物の含有量によって調整することができる。なお、50~350℃における平均熱膨張係数は、JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計を用いて測定することができる。
【0044】
基板の主面は、当該基板を例えば高周波回路に用いる際には配線層が形成される面であり、当該主面のうち、少なくとも一方の主面の表面粗さは、算術平均粗さRaの値として1.5nm以下とすることが、30GHzを超えるような高周波領域であっても、表皮効果が生じた配線層に対して当該表皮抵抗を低下させることができ、これにより導体損失が低減されることから好ましい。基板の主面の算術平均粗さRaは、1.0nm以下がより好ましく、0.5nm以下がさらに好ましい。主面の表面粗さは、必要に応じて主面の表面に研磨処理等を施すことにより実現することができる。
【0045】
基板がガラス基板である場合、研磨処理には、例えば酸化セリウムやコロイダルシリカ等を主成分とする研磨剤、および研磨パッドを用いた機械的研磨、研磨剤、酸性液またはアルカリ性液を分散媒とする研磨スラリー、および研磨パッドを用いた化学機械的研磨、酸性液またはアルカリ性液をエッチング液として用いた化学的研磨等を適用することができる。これら研磨処理は、ガラス基板の素材となるガラス板の表面粗さに応じて適用され、例えば予備研磨と仕上げ研磨とを組み合わせて適用してもよい。
【0046】
基板の大きさや形状は特に限定されるものではないが、例えばデバイス作製工程で大型のデバイス作製や、同一基板内に多数のデバイスを作製する場合等においては、少なくとも一方の主面の最長部分が10cm以上であり、最短部分が5cm以上であることが好ましい。
【0047】
また、少なくとも一方の主面の面積が50cm以上であることが液晶アンテナ等のデバイス製造の面では検出感度向上の点から、高周波デバイス製造の面では実装プロセスを簡略化できる点から好ましく、100cm以上がより好ましく、225cm以上がさらに好ましい。また、100000cm以下であることが基板のハンドリングの容易性の点から好ましく、10000cm以下がより好ましく、3600cm以下がさらに好ましい。
【0048】
基板の厚さは0.05mm以上であることが基板の流動時における強度等を維持する点から好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.2mm超がさらに好ましい。基板を厚くすることで、紫外線遮蔽能を高くし、紫外線で劣化する樹脂を保護することも可能となる。
【0049】
一方、高周波回路を用いた高周波デバイスや液晶アンテナの薄型化や小型化、生産効率の向上等の点から2mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.7mm以下がさらに好ましく、0.5mm以下がよりさらに好ましい。基板を薄くすることで、紫外線透過率を上げ、デバイスやアンテナ等の製造工程において紫外線硬化材料を使用して製造性を高めることも可能となる。
【0050】
基板の気孔率は、高周波デバイスを作製した際のノイズ発生等を抑制することができる点から0.1%以下が好ましく、0.01%以下がより好ましく、0.001%以下がさらに好ましい。また、液晶アンテナの観点からは表面への開気孔の露出による配線不良の発生の抑制のため0.0001%以下が好ましい。
【0051】
気孔率は、基板中に含まれる気泡を光学顕微鏡により観察し、気泡の個数ならびに直径を求めて、単位体積当たりに含まれる気泡の体積を計算することにより求めることができる。
【0052】
基板の波長350nmの光の透過率は、高周波デバイスやアンテナ等の製造工程における積層工程等で紫外線硬化型材料を使用することができ、製造性を高めることができることから50%以上が好ましい。さらに、デバイスやアンテナ等の製造工程において紫外線硬化型材料に対する紫外線の照射時間を短くし、厚み方向の紫外線硬化型材料の硬化ムラを低減するために、70%以上がより好ましい。
【0053】
上記と同様の理由で、基板の波長300nmの光の透過率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。また、波長250nmの光の透過率は5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。
【0054】
一方、デバイスやアンテナ等において紫外線で劣化する樹脂を部材として用いる場合に、基板に紫外線遮蔽能を持たせて保護材としての機能を付与する点からは、波長350nmの光の透過率は80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、30%以下がさらにより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0055】
上記と同様の理由で、基板の波長300nmの光の透過率は80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、10%以下がよりさらに好ましい。また、波長250mの光の透過率は60%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下がよりさらに好ましい。
【0056】
なお、基板の各波長の光の透過率は、可視紫外分光光度計を用いて測定することができ、反射による損失を含んだ外部透過率を用いる。
【0057】
本発明の基板は、上記特性を有するものであれば基板の種類には特に限定されず、樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板のいずれをも含み得る。ガラス基板としては、非晶質であり、ガラス転移を示す非金属の無機固体からなる基板であればよく、酸化物ガラスからなる基板がより好ましい。なお、ガラスと結晶体の混合物である結晶化ガラスや、結晶質フィラーを含有するガラス焼結体は含まない。なお、ガラスの結晶性については、例えば、X線回折測定を行い、明確な回折ピークが認められないことにより、非晶質であることを確認することができる
【0058】
基板がガラス基板である場合、ガラス基板のβ-OH値は0.05~0.8mm-1であることが好ましい。β-OH値とは、ガラスの水分含有量の指標として用いられる値であり、ガラス基板の波長2.75~2.95μmの光に対する吸光度を測定し、その最大値βmaxを基板の厚さ(mm)で割ることにより求められる値である。
【0059】
β-OH値は0.8mm-1以下とすることによって、基板の低誘電損失性をさらに向上させることができることから好ましく、0.6mm-1以下がより好ましく、0.5mm-1以下がさらに好ましく、0.4mm-1以下がよりさらに好ましい。
【0060】
一方、β-OH値を0.05mm-1以上とすることにより、極端な乾燥雰囲気での溶解や原料中の水分量を極端に減少させる必要がなく、ガラスの生産性や泡品質等を高めることができるため好ましい。β-OH値は0.1mm-1以上がより好ましく、0.2mm-1以上がさらに好ましい。β-OH値は基板におけるガラスの組成や原料の選択により調整することができる。
【0061】
ガラス基板の失透温度は、1400℃以下であることが好ましい。失透温度が1400℃以下であると、ガラスを成形する際に、成形設備の部材温度を低くすることができ、部材寿命を延ばすことができる。失透温度は1350℃以下がより好ましく、1330℃以下がさらに好ましく、1300℃以下が特に好ましい。
【0062】
ガラスの失透温度とは、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の試料の光学顕微鏡観察によって、ガラスの表面または内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値である。
【0063】
基板の製造方法の詳細については後述するが、ガラス基板である場合には、ガラス原料を溶融および硬化させることにより形成される。基板の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、一般的な溶融ガラスをフロート法により所定の板厚に成形し、徐冷後に所望形状に切断して板ガラスを得る方法等を適用することができる。
【0064】
以下、ガラス基板におけるガラスの組成について説明する。なお、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味し、概ね0.1モル%以下であるが、これに限定されるものではない。
【0065】
ガラスは、SiOを主成分とすることが好ましい。本明細書において、「主成分とする」とは、酸化物基準のモル%における成分の割合において、SiOの含有量が最大であることをいう。SiOはネットワーク形成物質であり、その含有量は、ガラス形成能や耐候性を良好にすることができ、また失透を抑制することができることから40%以上がより好ましく、45%以上がさらに好ましく、50%以上がよりさらに好ましく、55%以上が特に好ましい。一方、ガラスの溶解性を良好にする点から75%以下が好ましく、74%以下がより好ましく、73%以下がさらに好ましく、72%以下がよりさらに好ましい。
【0066】
Al及びBの合計の含有量(Alの含有量が0の場合を含む)は、ガラスの溶解性等を高めることができることから1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、7%以上がよりさらに好ましい。また、ガラスの溶解性等を維持しつつ、基板の低誘電損失性を高めることができることから、Al及びBの合計含有量は40%以下が好ましく、37%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましく、33%以下がよりさらに好ましい。
【0067】
また、{Al/(Al+B)}で表される含有量のモル比は、ガラス基板の低誘電損失性を高めることができることから0.45以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。また、{Al/(Al+B)}で表される含有量のモル比は0以上(0を含む)が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましい。
【0068】
Alの含有量は、ガラスの溶解性等を良好にすることができることから15%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。また、耐候性の向上、ガラスの分相性の抑制及び熱膨張係数の低下等に効果を発揮する成分であることから、Alを含まなくてもよいが、含む場合の含有量は0.5%以上がより好ましい。
【0069】
の含有量は、耐酸性や歪点を良好にすることができることから30%以下が好ましく、28%以下がより好ましく、26%以下がさらに好ましく、24%以下がよりさらに好ましく、23%以下が特に好ましい。また、溶解反応性の向上及び失透温度の低下等に効果を発揮する成分であることから、Bの含有量は9%以上が好ましく、13%以上がより好ましく、16%以上がさらに好ましい。
【0070】
アルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、SrO、BaOが挙げられ、これらはいずれもガラスの溶解反応性を高める成分として機能する。このようなアルカリ土類金属酸化物の合計含有量はガラス基板の低誘電損失性を高めることができることから13%以下が好ましく、11%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、8%以下がよりさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。また、ガラスの溶解性を良好に保つことができる点から、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量は0.1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。
【0071】
MgOは必須成分ではないが、比重を上げずにヤング率を上げることが可能な成分である。つまり、MgOは、比弾性率を高くできる成分であり、MgOを含有させることによりたわみの問題を軽減でき、破壊靱性値を向上させてガラス強度を上げることができる。また、MgOは溶解性も向上させる成分である。MgOは必須成分ではないが、MgOを含有させる効果を十分得ることができ、かつ熱膨張係数が低くなりすぎるのを抑えることができることから、その含有量は0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。一方、失透温度の上昇を抑える点から、MgOの含有量は13%以下が好ましく、11%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましい。
【0072】
CaOは、アルカリ土類金属中ではMgOに次いで比弾性率を高くし、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、MgOと同様に溶解性も向上させる成分である。さらに、MgOと比べて失透温度を高くしにくいという特徴も有する成分である。CaOは必須成分ではないが、CaOを含有させる効果を十分に得ることができることから、その含有量は0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。また、平均熱膨張係数が高くなりすぎず、かつ失透温度の上昇を抑えてガラスの製造時の失透を防ぐことができる点から、CaOの含有量は13%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。
【0073】
SrOは、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させる成分である。SrOは必須成分ではないが、SrOを含有させる効果を十分に得ることができることから、その含有量は0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上がよりさらに好ましく、2%以上が特に好ましい。また、比重を大きくしすぎることなく、平均熱膨張係数が高くなりすぎることも抑えられる点から、SrOの含有量は13%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。
【0074】
BaOは必須成分ではないが、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させる成分である。しかし、BaOを多く含有すると比重が大きくなり、ヤング率が下がり、比誘電率が高くなり、平均熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。そのため、BaOの含有量は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0075】
アルカリ金属酸化物としては、LiO、NaO、KO、RbO、CsOが挙げられる。このようなアルカリ金属酸化物の合計含有量は、ガラス基板の低誘電損失性を高める点から5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.2%以下がよりさらに好ましく、0.1%以下が特に好ましく、0.05%以下が最も好ましい。また、過剰な原料精製を必要とすることがなく、実用的なガラスの溶融性およびガラス基板の生産性が得られると共に、ガラス基板の熱膨張係数を調整することができることから、0.001%以上が好ましく、0.002%以上がより好ましく、0.003%以上がさらに好ましく、0.005%以上がよりさらに好ましい。
【0076】
上記アルカリ金属酸化物の中でも、特にNaO及びKOが重要となり、NaO及びKOの合計含有量が0.001~5%の範囲であることが好ましい。また、NaO及びKOを共存させることでアルカリ成分の移動が抑えられるため、ガラス基板の低誘電損失性を高めることができることから好ましい。すなわち、{NaO/(NaO+KO)}で表される含有量のモル比は0.01~0.99が好ましく、0.98以下がより好ましく、0.95以下がさらに好ましく、0.9以下がよりさらに好ましい。一方、{NaO/(NaO+KO)}で表される含有量のモル比は、0.02以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.1以上がよりさらに好ましい。
【0077】
上記各成分に加え、任意成分として例えば、Fe、TiO、ZrO、ZnO、Ta、WO、Y、La等を含んでいてもよい。中でもFeは、ガラス基板の光吸収性能、例えば赤外線吸収性能や紫外線吸収性能を制御する成分であり、必要に応じてFe換算でのFeの含有量として0.012%以下まで含有させることができる。上記したFeの含有量が0.012%以下であれば、ガラス基板の低誘電損失性や紫外線透過率を維持することができる。Feを含有する場合には、紫外線透過率の向上のために、その含有量は0.01%以下がより好ましく、0.005%以下がさらに好ましい。ガラス基板の紫外線透過率を高くすることによって、高周波デバイスやアンテナ等の製造工程における積層工程等で紫外線硬化型材料を使用することができ、高周波デバイスやアンテナ等の製造性を高めることができる。
【0078】
一方で、ガラス基板は、必要に応じてFe換算でのFeの含有量として0.05%以上含有させることも、紫外線遮蔽能を高くすることができる点から好ましい。Feの含有量は0.07%以上がより好ましく、0.1%以上がさらに好ましい。このように、ガラス基板の紫外線遮蔽能を高くすることで、紫外線で劣化する樹脂を部材として用いる場合に、ガラス基板に保護材としての機能を付与することができる。
【0079】
<基板の製造方法>
(ガラス基板)
ガラス基板は、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程、溶融ガラスから泡を除く清澄工程、溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程、およびガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程を含む製造方法により得ることができる。また、溶融ガラスをブロック状に成形し、徐冷した後に、切断、研磨を経てガラス基板を製造してもよい。
【0080】
溶解工程は、目標とするガラス基板の組成となるように原料を調製し、原料を溶解炉に連続的に投入し、好ましくは1450℃~1750℃程度に加熱して溶融ガラスを得る。
【0081】
原料には酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、塩化物等のハロゲン化物等も使用できる。溶解や清澄工程で溶融ガラスが白金と接触する工程がある場合、微小な白金粒子が溶融ガラス中に溶出し、得られるガラス基板中に異物として混入してしまう場合があるが、硝酸塩原料の使用は白金異物の生成を防止する効果がある。
【0082】
硝酸塩としては、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等を使用できる。硝酸ストロンチウムを使用することがより好ましい。原料粒度は溶け残りが生じない程度の数百μmの大きな粒径の原料から、原料搬送時の飛散が生じない、二次粒子として凝集しない程度の数μm程度の小さな粒径の原料まで、適宜使用できる。なお、造粒体の使用も可能である。
【0083】
原料の飛散を防ぐために原料含水量も適宜調整可能である。β-OH値、Feの酸化還元度(レドックス[Fe2+/(Fe2++Fe3+)])等の溶解条件も適宜調整して使用できる。
【0084】
清澄工程は、上記溶解工程で得られた溶融ガラスから泡を除く工程である。清澄工程としては、減圧による脱泡法を適用してもよく、原料の溶解温度より高温とすることで脱泡してもよい。また、実施形態におけるガラス基板の製造工程においては、清澄剤としてSOやSnOを用いることができる。
【0085】
SO源としては、Al、Na、K、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の硫酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の硫酸塩がより好ましく、中でも、CaSO・2HO、SrSO及びBaSOが、泡を大きくする作用が著しく、特に好ましい。
【0086】
減圧による脱泡法における清澄剤としては、ClまたはF等のハロゲンを使用するのが好ましい。
【0087】
Cl源としては、Al、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の塩化物が好ましく、アルカリ土類金属の塩化物がより好ましく、中でも、中でも、SrCl・6HO、およびBaCl・2HOが、泡を大きくする作用が著しく、かつ潮解性が小さいため、特に好ましい。
【0088】
F源としては、Al、Na、K、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素のフッ化物が好ましく、アルカリ土類金属のフッ化物がより好ましく、中でも、CaFがガラス原料の溶解性を大きくする作用が著しく、より好ましい。
【0089】
SnOに代表されるスズ化合物は、ガラス融液中でOガスを発生する。ガラス融液中では、1450℃以上の温度でSnOからSnOに還元され、Oガスを発生し、泡を大きく成長させる作用を有する。実施形態のガラス基板の製造時においては、ガラス原料を1450~1750℃程度に加熱して溶融するため、ガラス融液中の泡がより効果的に大きくなる。
【0090】
SnOを清澄剤として用いる場合、原料中のスズ化合物は、前記母組成の総量100%に対してSnO換算で、0.01%以上含まれるように調製する。SnO含有量を0.01%以上とすることによりガラス原料の溶解時における清澄作用が得られるため好ましく、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。一方、SnO含有量を0.3%以下とすることによりガラスの着色や失透の発生が抑えられることから好ましい。無アルカリガラス中のスズ化合物の含有量は、前記母組成の総量100%に対してSnO換算で0.25%以下がより好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.15%以下が特に好ましい。
【0091】
成形工程は、上記清澄工程で泡を除いた溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る工程である。成形工程としては、溶融ガラスをスズ等の溶融金属上に流して板状にし、ガラスリボンを得るフロート法、溶融ガラスを樋状の部材から下方に流下させるオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)、スリットから流下させるスリットダウンドロー法等、公知のガラスを板状に成形する方法を適用することができる。
【0092】
徐冷工程は、上記成形工程で得られたガラスリボンを室温状態まで制御された冷却条件にて冷却する工程である。徐冷工程としては、ガラスリボンを、成形されたガラスの徐冷点から歪点の間の温度域を、所定の平均冷却速度、R(℃/分)となるように冷却し、さらに室温状態まで所定の条件で徐冷する。徐冷したガラスリボンを切断後、ガラス基板を得る。
【0093】
徐冷工程における冷却速度Rが大きすぎると冷却後のガラスに歪みが残りやすくなる。また、仮想温度を反映するパラメータである等価冷却速度が高くなりすぎ、その結果低誘電損失特性を得られなくなってしまう。そのため、等価冷却速度が800℃/分以下となるようにRを設定することが好ましい。等価冷却速度は400℃/分以下がより好ましく、100℃/分以下がさらに好ましく、50℃/分以下が特に好ましい。一方、冷却速度が小さすぎると、工程の所要時間が長くなりすぎて、生産性が低くなる。そのため、0.1℃/以上となるように設定することが好ましく、0.5℃/分以上がより好ましく、1℃/分以上がさらに好ましい。
【0094】
ここで、等価冷却速度の定義ならびに評価方法は以下のとおりである。
【0095】
10mm×10mm×0.3~2.0mmの直方体に加工する、対象とする組成のガラスを、赤外線加熱式電気炉を用い、歪点+170℃にて5分間保持し、その後、ガラスを室温(25℃)まで冷却する。このとき、冷却速度を1℃/分から1000℃/分の範囲で振った複数のガラスサンプルを作製する。
【0096】
精密屈折率測定装置(例えば島津デバイス社製KPR2000)を用いて、複数のガラスサンプルのd線(波長587.6nm)の屈折率nを測定する。測定には、Vブロック法や最小偏角法を用いてもよい。得られたnを、前記冷却速度の対数に対してプロットすることにより、前記冷却速度に対するnの検量線を得る。
【0097】
次に、実際に溶解、成形、冷却等の工程を経て製造された同一組成のガラスのnを、上記測定方法により測定する。得られたnに対応する対応冷却速度(本実施形態において等価冷却速度という)を、前記検量線より求める。
【0098】
また、ガラス基板の製造方法において、製造時のガラス融液の搬送管中のいずれかの部分において十分撹拌し、板成形後の徐冷時に温度分布を小さくすることにより、20℃、10GHzでの誘電正接及び比誘電率の面内変動幅をより小さくすることができることから好ましい。
【0099】
以上、ガラス基板の製造方法について述べたが、製造方法は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は本発明に含まれる。例えば、本発明のガラス基板を製造する場合、溶融ガラスを直接板状に成形するプレス成形法にてガラスを板状にしてもよい。
【0100】
また、本発明のガラス基板を製造する場合、耐火物製の溶解槽を使用する製造方法に加えて、白金または白金を主成分とする合金製の坩堝(以下、白金坩堝と呼ぶ)を溶解槽または清澄槽に用いてもよい。白金坩堝を用いた場合、溶解工程は、得られるガラス基板の組成となるように原料を調製し、原料を入れた白金坩堝を電気炉にて加熱し、好ましくは1450℃~1700℃程度に加熱する。白金スターラーを挿入し1時間~3時間撹拌して溶融ガラスを得る。
【0101】
白金坩堝を用いたガラス板の製造工程における成形工程では、溶融ガラスを例えばカーボン板上や型枠中に流し出し、板状またはブロック状にする。徐冷工程は、典型的にはガラス転移点Tgに対して、Tg+50℃程度の温度に保持した後、歪点付近まで1~10℃/分程度で冷却し、その後は室温状態まで、歪みが残らない程度の冷却速度にて冷却する。所定の形状への切断および研磨の後、ガラス基板を得る。また、切断して得られたガラス基板を、例えばTg+50℃程度となるように加熱した後、室温状態まで所定の冷却速度で徐冷してもよい。このようにすることで、ガラスの等価冷却温度を調節することができる。
【0102】
<高周波回路、液晶アンテナ>
本発明の基板は、例えば携帯電話機、スマートフォン、携帯情報端末、Wi-Fi機器のような通信機器に用いられる半導体デバイスのような高周波デバイス(電子デバイス)、弾性表面波(SAW)デバイス、レーダ送受信機のようなレーダ部品等の回路基板や、液晶アンテナのようなアンテナ部品等の基板に好適であり、特に高周波信号の誘電損失を低減することができ、かつ広い温度域で安定した特性が得られることから、高周波デバイスに用いられる高周波回路や液晶アンテナ用基板により好適である。
【0103】
高周波回路用基板としては、中でも、高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに好適である。本発明の基板を該高周波デバイスの高周波回路用基板として用いることにより、高周波信号の伝送損失を低減して高周波信号の質や強度等の特性を向上させることができる。
【0104】
また、レーザ等を用いた穴あき基板としても好適であり、先述した高周波信号の質や強度等の特性を向上させるのみならず、穴を開ける際の熱衝撃に対しても高い耐性を有する。
【0105】
高周波デバイスに用いられる高周波回路の構成の一例(断面図)を図1に示すが、回路基板1は、絶縁性を有する基板2と、基板2の第1の主表面2aに形成された第1の配線層3と、基板2の第2の主表面2bに形成された第2の配線層4とを備えている。第1および第2の配線層3、4は、伝送線路の一例としてマイクロストリップ線路を形成している。第1の配線層3は信号配線を構成し、第2の配線層4はグランド線を構成している。ただし、第1および第2の配線層3、4の構造はこれに限られるものではなく、また配線層は基板2のいずれか一方の主表面のみに形成されていてもよい。
【0106】
第1および第2の配線層3、4は、導体で形成された層であり、その厚さは通常0.1~50μm程度である。第1および第2の配線層3、4を形成する導体は、特に限定されるものではなく、例えば銅、金、銀、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タングステン、白金、ニッケル等の金属、それらの金属を少なくとも1つ含む合金や金属化合物等が用いられる。
【0107】
第1および第2の配線層3、4の構造は、一層構造に限らず、例えばチタン層と銅層との積層構造のような複数層構造を有していてもよい。第1および第2の配線層3、4の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば導体ペーストを用いた印刷法、ディップ法、メッキ法、蒸着法、スパッタ等の各種公知の形成方法を適用することができる。
【0108】
本発明の基板を高周波回路に用いることによって、回路基板の高周波における伝送損失を低減することができる。具体的には、例えば周波数35GHzにおける伝送損失を好ましくは1dB/cm以下、より好ましくは0.5dB/cm以下まで低減することができる。従って、高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号の質や強度等の特性が維持されるため、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスに好適な基板および回路基板を提供することができる。これにより、高周波信号を扱う高周波デバイスの特性や品質を向上させることができる。
【0109】
さらに、本発明の基板は広い温度域で安定した特性が得られることから、熱地や寒冷の地、さらには砂漠のような温度変化の激しい地域等で用いられる高周波デバイスにも好適に用いることができる。
【0110】
また、高周波回路基板には、ユニバーサル基板や穴あき基板等と呼ばれる基板があり、例えば、母材の絶縁板に規則的なパターン(格子状等)の貫通孔と銅箔のランドが形成され、数個の前記ランド間を結ぶ銅箔の配線がエッチング形成されている。当該貫通孔の形成やエッチングのためにレーザが使用され、レーザとしては、例えばエキシマレーザ、赤外レーザ、COレーザ、UVレーザ等が挙げられる。
【0111】
液晶アンテナとは液晶技術を用い、送受信する電波の方向を制御可能な衛星通信用アンテナであり、主に船舶や飛行機、自動車等といった乗り物に好適に用いられる。液晶アンテナは主に屋外での使用が想定されることから、広い温度域での安定した特性が求められる。広い温度域とは例えば、地上と上空の温度差や、砂漠における昼夜の温度差、灼熱の砂漠中のスコール、熱地での使用、寒冷の地での使用等が挙げられる。
本発明の基板は、上述したような広い温度域でも安定した特性を供給できるため、液晶アンテナに用いることも好ましい。
【実施例
【0112】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0113】
[例1~26]
表1~4に示す組成を有し、厚さが0.5~10mm、形状が50×50mmのガラス基板を用意した。ガラス基板は、白金坩堝を用いた溶融法にて作製した。ガラスとして1kgとなるように珪砂等の原料を混合し、バッチを調合した。該目標組成の原料100%に対し、酸化物基準の質量百分率表示で、硫酸塩をSO換算で0.1%~1%、Fを0.16%、Clを1%添加した。
【0114】
原料を白金坩堝に入れ、電気炉中にて1650℃の温度で3時間加熱して溶融し、溶融ガラスとした。溶融にあたっては、白金坩堝に白金スターラーを挿入して1時間撹拌し、ガラスの均質化を行った。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形した後、板状のガラスをTg+50℃程度の温度の電気炉に入れ、1時間保持した後、冷却速度1℃/分でTg-100℃まで電気炉を降温させ、その後ガラスが室温になるまで放冷した。その後、切断、研磨加工によりガラスを板状に成形した。
【0115】
また、端面は面取り装置により(C/R)面取りを行った。ガラス板の面取り装置としては、日本国特開2008-49449号公報に記載の装置が例示され、これは、回転砥石を使ってガラス板の端部を面取りする装置である。回転砥石としては、レジンボンド又はメタルボンドの何れであってもよい。砥石に使われる砥粒としては、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(CBN)、アルミナ(Al)、炭化ケイ素(SiC)、軽石、又はガーネット等の何れか一種、又はこれらの組み合わせが例示される。
【0116】
なお、表1~4において、RO合計量*1とはアルカリ土類金属の酸化物の合計(MgO+CaO+SrO+BaO)の含有量を表し、RO合計量*2とはアルカリ金属の酸化物の合計(NaO+KO)の含有量を表す。
【0117】
[例27、28]
ポリイミド樹脂(カプトンH(東レデュポン社製)、Upilex S50(宇部興産社製))からなる樹脂基板を作製した。
【0118】
得られた基板について、35GHzおける誘電正接(20℃)、10GHzにおける誘電正接(-40~150℃)、35GHzにおける比誘電率(20℃)、10GHzにおける比誘電率(-40~150℃)、50~350℃における平均熱膨張係数、ヤング率、気孔率、波長350nmの光の透過率、β-OH値、密度、比弾性率、失透温度をそれぞれ測定した。
【0119】
結果を表5~9に示す。なお、表中の括弧書きした値は、計算により求めたものであり、-とは未測定であることを意味する。
【0120】
以下に各物性の測定方法を示す。
【0121】
(比誘電率、誘電正接)
JIS R1641(2007年)に規定されている方法に従い、空洞共振器およびベクトルネットワークアナライザを用いて測定した。測定周波数は空洞共振器の空気の共振周波数である35GHz及び10GHzとした。サンプル形状は、35GHzにおいては40mm□×板厚0.3~0.4mmの平板状、10GHzにおいては3mm×60mm×板厚0.4~0.6mmの短冊状のものを用いた。空洞共振器を恒温槽内に設置して測定温度の調整を行った。測定温度は35GHzにおいては20℃とし、10GHzにおいては-40~150℃の範囲を10℃きざみで測定した。また、樹脂基板である例27及び28については、吸湿の影響を除外する為、120℃2時間保持の除湿作業の後、乾燥容器に保管してから温度測定を実施した。
【0122】
表5~8における「誘電正接@10GHz」及び「比誘電正接@10GHz」は20℃における測定値を示す。また、図2(a)に、-40~150℃の範囲において10℃きざみで測定した10GHzでの誘電正接の値を20℃、10GHzにおける誘電正接の値で除した値をプロットし、誘電正接の温度依存性を評価した結果を示す。図2(b)に、-40~150℃の範囲において10℃きざみで測定した10GHzでの比誘電率の値を20℃、10GHzにおける比誘電率の値で除した値をプロットし、比誘電率の温度依存性を評価した結果を示す。
【0123】
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計を用いて測定した。測定温度範囲は50~350℃で、単位をppm/℃として表した。
【0124】
(ヤング率)
JIS Z 2280に規定されている方法に従い、厚さ0.5~10mmのガラスについて、超音波パルス法により測定した。単位をGPaとして表した。
【0125】
(気孔率)
ガラス基板中に含まれる気泡を光学顕微鏡により観察し、気泡の個数ならびに直径を求めて、単位体積当たりに含まれる気泡の体積を計算することにより求めた。
【0126】
(透過率)
可視紫外分光光度計を用いて、所定の厚みの鏡面研磨されたガラスの透過率を測定した。透過率は、反射による損失を含んだ外部透過率とし、ガラス厚みを0.3~0.4mmに換算した値として表した。
【0127】
(β-OH値)
上記実施形態に記載の方法で求めた。単位はmm-1として表した。
【0128】
(密度)
泡を含まない約20gのガラス塊の密度をアルキメデス法によって測定し、単位をg/cmとして表した。
【0129】
(失透温度)
白金製皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の試料の光学顕微鏡観察によって、ガラスの内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値とした。
【0130】
(比弾性率)
比弾性率は密度とヤング率の測定を用いて計算により求め、単位はGPa・cm/gとして表した。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
【表5】
【0136】
【表6】
【0137】
【表7】
【0138】
【表8】
【0139】
【表9】
【0140】
図2(a)に示すように、[-40~150℃における各温度、10GHzでの誘電正接]を[20℃、10GHzでの誘電正接]で除した値が、例4は0.93~1.06、例6は0.99~1.00、例27は0.98~1.13、例28は0.85~1.20であった。本発明に係る第1態様の実施例である例4及び例6は、比較例である例27及び28と比較して、10GHzにおける誘電正接の温度依存性が小さかった。
【0141】
また、図2(b)に示すように、[-40~150℃における各温度、10GHzでの比誘電率]を[20℃、10GHzでの比誘電率]で除した値が、例4は0.998~1.006、例6は0.994~1.013、例27は0.992~1.005、例28は0.988~1.001であった。本発明に係る第2態様の実施例である例4は、比較例である例6、例27及び28と比較して、10GHzにおける比誘電率の温度依存性が小さかった。
【0142】
本発明の基板は、10GHzにおける比誘電率および/または誘電正接の温度依存性が小さく、また、35GHzにおける誘電正接の値も小さいため、低誘電正接を必要とする高周波デバイス用基板や液晶アンテナ基板として、温度変化が大きい環境下において使用しても、誘電特性の変化が小さいため、安定した性能を発揮することができる。
【0143】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2018年3月20日付けで出願された日本特許出願(特願2018-53081)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の基板は、高周波信号の誘電損失性に優れており、広い温度域で安定した特性を示す。そのため、当該基板を用いた回路基板は、高周波信号の伝送損失性に優れ、またあらゆる環境下で使用することが可能である。
【0145】
このような基板および回路基板は、10GHzを超えるような高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号を扱う高周波電子デバイス全般や、温度変化の大きい環境下で用いられる液晶アンテナ等の部材として非常に有用である。
【符号の説明】
【0146】
1 回路基板
2 基板
2a 第1の主表面
2b 第2の主表面
3 第1の配線層
4 第2の配線層
図1
図2