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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス配索構造
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/00 20060101AFI20241008BHJP
   H02G 3/04 20060101ALI20241008BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20241008BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20241008BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20241008BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H05K7/00 H
H02G3/04
B60R16/02 620Z
H01B7/00 301
H01B7/08
H05K9/00 L
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021036319
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136619
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】達川 永吾
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健作
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-268716(JP,A)
【文献】特開2016-226219(JP,A)
【文献】特開2020-155242(JP,A)
【文献】特開平08-098328(JP,A)
【文献】特開平04-215213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/00
H02G 3/04
B60R 16/02
H01B 7/00
H01B 7/08
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体で形成された車両のボディに電気的に接続された導体からなる第1筐体と、
前記ボディに電気的に接続された導体からなる第2筐体と、
導体で管状のシールド及び前記シールドに内包された複数の電線を有するワイヤハーネスと、
を有し、
前記シールド層は多層であり、
前記電線の数と前記シールド層の層数が同じであり、
前記シールド層の層間に絶縁層を有し、
前記ワイヤハーネスは、前記ボディに非接触で前記第1筐体の上部と前記第2筐体の上部との間に位置し、
前記複数の電線は、前記第1筐体に収容された電装品と前記第2筐体に収容された電装品とを電気的に接続し、
前記シールドは、前記第1筐体及び前記第2筐体に電気的に接続されている
ワイヤハーネス配索構造。
【請求項2】
前記ワイヤハーネスの全体が前記ボディから離れている
請求項1に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項3】
前記複数の電線は、偏平電線である
請求項1又は請求項2に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項4】
前記偏平電線は、複数本の導体を有し、前記導体が横並びに並んでいる
請求項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項5】
前記ワイヤハーネスは、絶縁性及び磁性を有する磁性層を有し
記磁性層は、前記シールドの層間、前記シールドの層間と最内層の前記シールドの内側と最外層の前記シールドの外側、又は最内層の前記シールドの内側と最内層の前記シールドの外側にある
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項6】
前記磁性層の各層は、形状が相似であり、同一の材質である
請求項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項7】
前記シールドの各層は、形状が相似であり、同一の材質である
請求項1、5、6のいずれか一項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項8】
複数の前記電線は、有する導体の形状、前記導体の断面積及び前記導体の材質が同じである
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項9】
前記ボディは平板である
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項10】
少なくとも、前記ワイヤハーネスにおいて前記ボディに対向する面、前記第1筐体において前記第2筐体に対向する面、前記第2筐体において前記第1筐体に対向する面及び前記ボディにおいて前記ワイヤハーネスに対向する面のいずれかは、絶縁性及び磁性を有する
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【請求項11】
複数の前記電線を含む経路のインダクタンスと前記シールドを含む経路のインダクタンスとの結合係数が0.7以上1以下である
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のワイヤハーネス配索構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネス配索構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に配索される導電路での放射ノイズを抑える発明として、例えば特許文献1-3に開示された発明がある。特許文献1に開示されたワイヤハーネスは、纏められた複数の電線を一括して包囲するシールド部材と、シールド部材の外周に配置される外装部材とを備えている。纏められた複数の電線は、隣り合う電線間の静電容量が所定の静電容量となるように互いに所定の間隔をあけて整列されている。シールド部材は、隣り合う各電線の電線間に介在し、纏められた複数の電線の中心軸の位置まで進入するように配置されており、外装部材は、シールド部材を外側から押さえ付けるように配置されている。
【0003】
特許文献2に開示された導電路集合体は、ハイブリッド自動車のインバータ及びモータを電気的に繋ぐ第一のバスバー、第二のバスバー及び第三のバスバーと、ストレーキャパシティを生じさせる容量部とを有する。第一のバスバー、第二のバスバー及び第三のバスバーは、同じ形状に形成され且つ幅方向両側に対向配置部を備え、各対向配置部は、向かい合う面の面積が同じになるように形成されている。第一のバスバーの対向配置部の一方又は他方は、第二のバスバーの対向配置部の一方又は他方と向かい合うように配置され、第三のバスバーの対向配置部の一方又は他方は、第一のバスバーの対向配置部の他方又は一方と向かい合うように配置されるとともに、第三のバスバーの対向配置部の他方又は一方は、第二のバスバーの対向配置部の他方又は一方と向かい合うように配置されている。さらに、第一のバスバー、第二のバスバー及び第三のバスバーは、各対向配置部同士の間隔が同じになるように配置形成され、容量部を対向配置部の間に形成し、第一のバスバー、第二のバスバー及び第三のバスバーの各接続用端部にインピーダンス整合部を形成している。
【0004】
特許文献3に開示された自動車用のシールド線は、導体を絶縁被覆層で被覆したコア線と、該コア線の外周を被覆する3層構造の遮蔽層を備えている。遮蔽層は、内層と外層を2本の導体と平行に配線して両面を絶縁フィルムでラミネートしたフラットハーネスで構成すると共に、該内外層の間に高透磁率合金シートの両面を絶縁フィルムでラミネートした中間層とからなる。このシールド線では、内外層の長さ方向の両端で中間層を挟んだ状態で導体同士を接続してループ状の導電路を形成し、通電時にコア線の導体に発生する漏れ磁界を中間層の高透磁率合金シートで集束し、該中間層で集束した磁界によりループ状の導電路に誘導電流を発生させて漏れ磁界を外部に放出させない構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-32933号公報
【文献】特許第6019474号公報
【文献】特開2009-289640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたワイヤハーネスによれば、シールド部材が隣り合う各電線の電線間に介在するように配置されることから、電線間の静電容量が所定の静電容量となるように各電線を互いに所定の間隔をあけて整列させることができる。これにより、電線間の静電容量を所望の静電容量に調整することができ、ワイヤハーネスのインピーダンスを増加させることができる。ワイヤハーネスのインピーダンスを増加させることにより、回路全体のインピーダンスの整合を図り、反射を抑制することができ、ひいてはサージの発生を抑制することができる。しかしながら、特許文献1に開示されたワイヤハーネスでは、複数の電線の配置や収容方法が複雑であるため、製造が難しいという問題がある。また、特許文献1に開示されたワイヤハーネスでは、複数の電線間で互いに間隔を空ける必要があるため、ワイヤハーネスのサイズが大きくなり、自動車内におけるスペースが狭くなるという問題がある。
【0007】
特許文献2に開示された導電路集合体によれば、インピーダンス整合部の形成により、インバータの出力インピーダンスとモータの入力インピーダンスとがマッチングする。これによりインバータとモータとの間においてノイズが放射され難い環境が形成される。インピーダンス整合部の形成は、例えば幅を変える等の場合において、緩やかに変化させれば反射防止に効果的であり、サージの発生を抑制することができる。しかしながら、特許文献2に開示された導電路集合体では、曲げ加工された3本のバスバーを集約するときに、静電容量の調整のために厳しい加工公差が必要となり、製造が難しいという問題がある。
【0008】
特許文献3に開示されたシールド線によれば、コア線の導体からの漏れ磁界が外部に放出されるのを大幅に低減またはゼロに近似させることができるため、シールド線が磁界発生源とならないようにすることができる。よって、漏れ磁界を大幅に減少でき、近接位置に配線される電線に対する漏れ磁界によるノイズを減少または無くすことができ、サージの発生を抑制することができる。しかしながら、特許文献3に開示されたシールド線では、円周上に平行配線した導体を遮蔽層とし、ラミネートしているため、シールド金属管や編組線に比べ高価となる。また、特許文献3に開示されたシールド線では、長さ方向の両端で高透磁率合金シートを挟んで導体を接続しないといけないため、製造の工数が増え、特にこの接続部に車両の振動などで劣化が生じるとシールド性能が劣化してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ワイヤハーネスのサイズを抑えてサージの発生を抑える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るワイヤハーネス配索構造は、導体で形成された車両のボディに電気的に接続された導体からなる第1筐体と、前記ボディに電気的に接続された導体からなる第2筐体と、導体で管状のシールド及び前記シールドに内包された複数の電線を有するワイヤハーネスと、を有し、前記ワイヤハーネスは、前記ボディに非接触で前記第1筐体の上部と前記第2筐体の上部との間に位置し、前記複数の電線は、前記第1筐体に収容された電装品と前記第2筐体に収容された電装品とを電気的に接続し、前記シールドは、前記第1筐体及び前記第2筐体に電気的に接続されている。
【0011】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、前記ワイヤハーネスの全体が前記ボディから離れている構成としてもよい。
【0012】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造は、前記第1筐体と前記第2筐体は高さが異なり、前記ワイヤハーネスは、前記第1筐体と前記第2筐体のうち高さの低いものの上部以上に位置している構成としてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、前記複数の電線は、偏平電線である構成としてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、前記偏平電線は、複数本の導体を有し、前記導体が横並びに並んでいる構成としてもよい。
【0015】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、前記シールドは多層であり、前記電線の数と前記シールドの層数が同じであり、前記シールドの層間に絶縁層を有する構成としてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、前記ワイヤハーネスは、絶縁性及び磁性を有する磁性層を有し、前記シールドは多層であり、前記磁性層は、前記シールドの層間、前記シールドの層間と最内層の前記シールドの内側と最外層の前記シールドの外側、又は最内層の前記シールドの内側と最内層の前記シールドの外側にある構成としてもよい。
【0017】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、前記磁性層の各層は、形状が相似であり、同一の材質である構成としてもよい。
【0018】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、前記シールドの各層は、形状が相似であり、同一の材質である構成としてもよい。
【0019】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、複数の前記電線は、有する導体の形状、前記導体の断面積及び前記導体の材質が同じである構成としてもよい。
【0020】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造は、前記第1筐体、前記第2筐体及び前記ボディにおいて、前記ワイヤハーネスから前記ボディまでの間に位置する部分は平板である構成としてもよい。
【0021】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、少なくとも、前記ワイヤハーネスにおいて前記ボディに対向する面、前記第1筐体において前記第2筐体に対向する面、前記第2筐体において前記第1筐体に対向する面及び前記ボディにおいて前記ワイヤハーネスに対向する面のいずれかは、絶縁性及び磁性を有する構成としてもよい。
【0022】
本発明の一態様に係るワイヤハーネス配索構造においては、複数の前記電線を含む経路のインダクタンスと前記シールドを含む経路のインダクタンスとの結合係数が0.7以上1以下である構成としてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかるワイヤハーネス配索構造によれば、ワイヤハーネスのサイズを抑えてサージの発生を抑えるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、第1実施形態に係る配索構造の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、図1のA-A線断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る配索構造の変形例を示す模式図である。
図4図4は、第2実施形態に係るワイヤハーネスの断面図である。
図5図5は、第3実施形態に係るワイヤハーネスの断面図である。
図6図6は、第4実施形態に係る配索構造の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る配索構造の概略構成を示す模式図であり、図2は、図1のA-A線断面図である。配索構造1Aは、自動車のボディ3に設置された電気接続箱40と電気接続箱50とをワイヤハーネス10Aによって接続した構造である。
【0027】
電気接続箱40及び電気接続箱50は、導電性を有する自動車のボディ3に電気的且つ機械的に接続されている。電気接続箱40は、例えば電気自動車のモータ4を収容したアルミダイカストの筐体であり、導電性を有する。電気接続箱40は、本体41と接続部42を有する。電気接続箱40は、第1筐体の一例である。本体41は、中空の箱型である。接続部42は、中空な角管の形状であり、中空部の前後方向の一方側が外部へ開口し、中空部の他方側が本体41の内部空間に通じている。接続部42は、本体41において電気接続箱50に対向する面の上端側である上部に設けられている。電気接続箱50は、例えば電気自動車のインバータ5を収容したアルミダイカストの筐体であり、導電性を有する。電気接続箱50は、本体51と接続部52を有する。電気接続箱50は、第2筐体の一例である。本体51は、中空の箱型である。接続部52は、中空な角管の形状であり、中空部の前後方向の一方側が外部へ開口し、中空部の他方側が本体51の内部空間に通じている。接続部52は、本体51において電気接続箱40に対向する面の上端側である上部に設けられている。接続部42と接続部52は、角管の形状に限定されるものではなく、例えば円管や楕円管の形状であってもよい。
【0028】
ワイヤハーネス10Aは、3本の被覆電線11A、シールド層12及び外装体13を有する。ワイヤハーネス10Aは、断面が矩形の外装体13にシールド層12が内包され、断面が矩形のシールド層12にさらに3本の被覆電線11Aが内包された構成である。ワイヤハーネス10Aは、ボディ3に対して非接触で接続部42と接続部52との間に配索される。
【0029】
被覆電線11Aは、例えば径方向に沿った断面が円形状や楕円形状の導体101Aと、導体101Aの外周に形成された被覆102とを有する。導体101Aは、例えば複数の素線を撚って構成した芯線である。導体101Aを構成する各素線は、例えばアルミニウム素線であり、純度の高いアルミニウムやアルミニウム合金からなる。導体101Aの一端は、端子やコネクタ等を介してインバータ5に接続され、他端は、端子やコネクタ等を介してモータ4に接続される。被覆102は、絶縁性を有する例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、またはノンハロゲン材料などの樹脂からなる。被覆102を構成する樹脂には、可塑剤などの添加材が添加されていてもよい。
【0030】
シールド層12は、電流を通電可能なアルミニウムやアルミニウム合金で形成された中空管又は編組であり、複数の被覆電線11Aを内包する。シールド層12は、銅、錫メッキ銅で形成されていてもよい。シールド層12は、本体41及び本体51に電気的に接続される。外装体13は、例えば合成樹脂で形成されており、シールド層12を被覆している。
【0031】
図1に示すように、配索構造1Aを側面から見たとき、インバータ5からモータ4へ電流が流れると、右ネジの法則により磁束が図2に示す左右方向へ通過するため、本体51、接続部52、ワイヤハーネス10A、接続部42、本体41及びボディ3で形成される経路は、コイルと見なすことができる。具体的には、ワイヤハーネス10Aは、被覆電線11Aとシールド層12とを備えているため、前述の経路は、被覆電線11Aの経路からなる電線経路と、接続部42、接続部52及びシールド層12の経路からなるシールド経路とに分けることができ、電線経路で形成されるコイルと、シールド経路で形成されるコイルとがあるものとみなすことができる。本実施形態では、この電線経路で形成されるコイルと、シールド経路で形成されるコイルとの磁気結合における相互インダクタンス成分を大きくすることで、特性インピーダンスをモータ4の特性インピーダンスに近づけてサージの発生を抑制する。
【0032】
具体的には、前後方向で電気接続箱40と電気接続箱50との間の距離をXとし、上下方向でボディ3から被覆電線11Aの導体101Aの中心までの距離をZとした場合、電線経路で形成されるコイルの面積をSとすると、S=XZとなる。また、配索構造1Aを左右方向から見たときに見える接続部42の面積をSとし、左右方向から見たときに見える接続部52の面積をSとした場合、シールド経路で形成されるコイルの面積をSとすると、S=S-S-Sとなる。
【0033】
電線経路で形成されるコイルのインダクタンスをLとすると、L=μN /Yとなり、シールド経路で形成されるコイルのインダクタンスをLとすると、L=μN /Yとなる。ここでμは透磁率である。シールド層12が被覆電線11Aを内包しているため、μは、電線経路とシールド経路とで同一と見なす。μは高いほうが好ましい。Nは、電線経路で形成されるコイルの巻き数である。図2示すように、被覆電線11Aの数が3である場合、N=3となる。Nは、シールド経路で形成されるコイルの巻き数である。図2示すように、シールド層12の数が1である場合、N=1となる。Yは、左右方向に並んだ左端の導体101Aの左端から、左右方向に並んだ右端の導体101Aの右端までの距離であり、電線経路で形成されるコイルの長さに相当する。Yは、接続部42及び接続部52の左右方向の幅であり、シールド経路で形成されるコイルの長さに相当する。また、電線経路で形成されるコイルとシールド経路で形成されるコイルの相互インダクタンスをMとすると、M=k√Lとなる。なお、kは結合係数であり、0<k≦1である。電線経路で形成されるコイルの形状と、シールド経路で形成されるコイルの形状について、幾何学的形状が合致すれば漏れ磁束が少なくなり、kは理想的な1となる。kは、簡易的には、k≒√L/Lで表され、0.7以上で1以下が望ましい。
【0034】
相互インダクタンスのMを大きくするには、電線経路で形成されるコイルの面積であるSと、シールド経路で形成されるコイルの面積であるSとを大きくすればよい。第1実施形態においては、ワイヤハーネス10Aは、本体41の上部に設けられた接続部42と、本体51の上部に設けられた接続部52とを介してボディ3の上方へ配索されるため、SとSとを大きくすることができる。SとSとを大きくすることにより、相互インダクタンス成分が大きくなるため、特性インピーダンスをモータ4の特性インピーダンスに近づけてサージの発生を抑制することができる。なお、SとSとを大きくするために、Xの値を大きくしてもよい。
【0035】
なお、第1実施形態においては、絶縁性及び磁性を有する磁性シートを、電気接続箱40の表面、ボディ3の上面、電気接続箱50の表面及びワイヤハーネス10Aの下面に張り付ける構成としてもよい。図3は、配索構造1Aにおいて、磁性シート6を貼り付ける領域を示す模式図である。例えば、図3に示すように、磁性シート6を電気接続箱40において電気接続箱50に対向する面と、ボディ3の上面において電気接続箱40と電気接続箱50との間の領域に貼り付ける。また、図示を省略しているが、電気接続箱50において電気接続箱40に対向する面、接続部42の下面、接続部52の下面及びワイヤハーネス10Aの下面にも磁性シート6を張り付ける。磁性シート6の比透磁率は、-40℃~120℃の温度範囲で、10kHz~1MHzの周波数範囲において1000以上であることが好ましく、例えばNi-Zn系フェライトが好ましい。配索構造1Aが磁性シート6を有する構成によれば、シールド経路に磁束が集中し、漏れ磁束を減らして前述のL及びLが増加するため、特性インピーダンスが向上し、サージの発生を抑制することができる。なお、電気接続箱40において電気接続箱50に対向する面、ボディ3の上面において電気接続箱40と電気接続箱50との間の領域、電気接続箱50において電気接続箱40に対向する面、接続部42の下面、接続部52の下面及びワイヤハーネス10Aの下面の全てに磁性シート6を張り付けるのではなく、少なくともいずれか一つに磁性シート6を張り付ける構成であってもよい。また、ボディ3に磁性シート6を張り付ける場合、上方から見てワイヤハーネス10A、接続部42及び接続部52に重なる領域に磁性シート6を張り付ける構成であってもよい。
【0036】
また、第1実施形態においては、ワイヤハーネス10Aの構成を変更し、被覆電線11Aの各々が被覆102の外周面に導電性を有するシールド層を有し、シールド層12Aを有していない構成としてもよい。この場合、被覆102の外周面に形成されるシールド層の各々が電気接続箱40と電気接続箱50に電気的に接続される。この構成の場合、シールド経路で形成されるコイルの巻き数であるNが増え、且つNと電線経路で形成されるコイルの巻き数であるNとが同じになるため、インダクタンスが整合しやすく、特性インピーダンスが向上してサージを抑制することができる。また、電線経路で形成されるコイルとシールド経路で形成されるコイルの巻き数や面積が合致するため、結合係数が理想の1に近くなり、相互インダクタンスも向上するという効果も得られる。なお、被覆電線11Aの各々に形成されるシールド層は、同形状で同材料であるとインダクタンスの整合が取れるので好ましく、より好ましくは、被覆電線11Aの各々の導体101と各々のシールドインダクタンスが合っているのが好ましい。
【0037】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、電気接続箱40と電気接続箱50との間に配索されるワイヤハーネスの構成が第1実施形態と異なる。他の構成については、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略し、以下の説明においては、第1実施形態との相違点について説明する。
【0038】
第2実施形態に係る配索構造は、ワイヤハーネス10Aに替えてワイヤハーネス10Bを有する。図4は、第2実施形態に係るワイヤハーネス10Bの断面図であり、断面を電気接続箱50側から電気接続箱40の方向へ見た図である。ワイヤハーネス10Bは、2つの偏平電線11B、シールド層12及び外装体13を有する。偏平電線11Bは、左右方向に横並びに並んだ20本の導体101Bが被覆102で被覆された電線である。導体101Bは、導体101Aより直径が小さく、例えば純度の高いアルミニウムやアルミニウム合金からなる。導体101Bの一端は、端子やコネクタ等を介してインバータ5に接続され、他端は、端子やコネクタ等を介してモータ4に接続される。2つの偏平電線11Bは、上下方向に積層されてシールド層12に内包されている。偏平電線11Bを内包したシールド層12は、外装体13に被覆されている。
【0039】
第2実施形態においては、上下方向で積層された2つの偏平電線11B同士が接する面の位置からボディ3までの距離を前述のZとしている。また、第2実施形態においては、左右方向に並んだ左端の導体101Bの左端から、左右方向に並んだ右端の導体101Bの右端までの距離を前述のYとし、ワイヤハーネス10Bが通る接続部42及び接続部52の左右方向の幅を前述のYとしている。また、偏平電線11Bの数が2であるため、前述のNは、N=2となり、シールド層12の数が1であるため、前述のNはN=1となる。
【0040】
第2実施形態においては、ワイヤハーネス10Bが内包する電線が偏平電線11Bであり、導体101Bの直径が小さいため、ワイヤハーネス10Bの上下方向の幅がワイヤハーネス10Aより狭くなっている。ワイヤハーネス10Bの上下方向の幅が狭くなっているため、導体101Bの中心までの距離であるZを大きくすることができる。Zを大きくすることにより前述のSとSが大きくなるため、相互インダクタンス成分が大きくなり、特性インピーダンスをモータ4の特性インピーダンスに近づけてサージの発生を抑制することができる。
【0041】
また、ワイヤハーネス10Bの上下方向の幅がワイヤハーネス10Aより狭くなっているため、接続部42及び接続部52の上下方向の幅は、ワイヤハーネス10Bの上下方向の幅に対応して第1実施形態より狭くなっている。接続部42及び接続部52の上下方向の幅が狭くなると、前述のS及びSが狭くなるため、前述のSの値とSの値が近くなる。Sの値とSの値が近くなると、漏れ磁束が少なくなり、結合係数であるkの値が1に近づくため、相互インダクタンス成分が大きくなり、特性インピーダンスをモータ4の特性インピーダンスに近づけてサージの発生を抑制することができる。
【0042】
また、第2実施形態においては、偏平電線11Bを用いるため、導体101Bの放熱性が向上し、ワイヤハーネス10Bのサイズを低減することができる。なお、偏平電線11Bの偏平率(偏平電線11Bの左右方向の幅/偏平電線11Bの上下方向の幅)は、3以上50以下であるのが好ましい。偏平電線11Bの偏平率が3未満の場合、Zの値を大きくすることが難しくなる。また、偏平電線11Bの偏平率が50を超える場合、Y及びYの値が大きくなり、L及びLが大きくなるため、相互インダクタンス成分が小さくなる。
【0043】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態においては、電気接続箱40と電気接続箱50との間に配索されるワイヤハーネスの構成が第1実施形態と異なる。他の構成については、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略し、以下の説明においては、第1実施形態との相違点について説明する。
【0044】
第3実施形態に係る配索構造は、ワイヤハーネス10Aに替えてワイヤハーネス10Cを有する。図5は、第3実施形態に係るワイヤハーネス10Cの断面図であり、断面を電気接続箱50側から電気接続箱40の方向へ見た図である。第3実施形態に係る電気接続箱40は、接続部42に替えて楕円管の形状の接続部42Cを有する。なお、電気接続箱50も、接続部52に替えて楕円管の形状の接続部を有する。ワイヤハーネス10Cは、3つの偏平電線11C、シールド層12A、12B、12C、絶縁層14A、14B及び外装体13を有する。偏平電線11Cは、左右方向に横並びに並んだ10本の導体101Bが被覆102で被覆された電線である。3つの偏平電線11Cは、上下方向に積層されている。シールド層12A、12B、12Cは、電流を通電可能なアルミニウムやアルミニウム合金で形成された中空管又は編組である。なお、シールド層12A、12B、12Cは、銅、錫メッキ銅で形成されていてもよい。シールド層12A、12B、12Cは、本体41及び本体51に電気的に接続される。絶縁層14A、14Bは、絶縁性を有する合成樹脂で形成された層である。
【0045】
本実施形態においては、シールド層12Aが3つの偏平電線11Cを内包する。絶縁層14Aは、シールド層12Aを内包し、シールド層12Bは、絶縁層14Aを内包する。また、絶縁層14Bは、シールド層12Bを内包し、シールド層14Cは、絶縁層14Bを内包する。絶縁層14Aは、シールド層12Aとシールド層12Bとの間を絶縁し、絶縁層14Bは、シールド層12Bとシールド層12Cとの間を絶縁する。シールド層14Cは、外装体13に被覆されている。
【0046】
第3実施形態においては、積層された3つの偏平電線11の中央の偏平電線11Cの導体101Bの中心からボディ3までの距離を前述のZとしている。また、第3実施形態においては、左右方向に並んだ左端の導体101Bの左端から、左右方向に並んだ右端の導体101Bの右端までの距離を前述のYとし、ワイヤハーネス10Cが通る接続部の左右方向の幅を前述のYとしている。また、第3実施形態においては、偏平電線11Cの数が3であるため、前述のNは、N=3となり、シールド層の数が3であるため、前述のNは、N=3となる。
【0047】
第3実施形態においては、ワイヤハーネス10Cは、シールド層12A、12B、12Cを有しており、Nの数が第1実施形態や第2実施形態より多いため、前述のLの値が大きくなり、サージの発生を抑制することができる。また、第3実施形態においては、Nの数とNの数を合わせることにより、電線経路で形成されるコイルと、シールド経路で形成されるコイルとでインダクタンスの値や巻き数が近似する。このため、結合係数が1に近くなり、相互インダクタンス成分が大きくなるため、サージの発生を抑制することができる。
【0048】
なお、シールド層12A、12B、12Cは、層毎に形状が中空管と編組とで異なっていてもよく、また、材料についても層毎に異なる材料であってもよいが、同じ形状で且つ同じ材料である方が好ましい。シールド層12A、12B、12Cを同じ形状で同じ材料とすることにより、シールド層12A、12B、12C間のインダクタンス整合が取れる。また、シールド層12A、12B、12Cと絶縁層14A、14Bの左右方向に沿った断面形状については、偏平電線11Cの左右方向に沿った断面の外周の形状と相似であるのが好ましい。偏平電線11Cの断面の外周の形状と、シールド層12A、12B、12Cと絶縁層14A、14Bの断面形状を相似とすると、漏れ磁束を減らして結合係数であるkを大きくすることができる。
【0049】
また、第3実施形態においては、絶縁層14A、14Bを、磁性を有する構成としてもよい。この磁性を有する層の比透磁率は、-40℃~120℃の温度範囲で、10kHz~1MHzの周波数範囲において1000以上であることが好ましく、例えばNi-Zn系フェライトが好ましい。シールド層12Aとシールド層12Bとの間と、シールド層12Bとシールド層12Cとの間に磁性を有する層を設けると、前述のL及びLが増加するため、特性インピーダンスが向上し、サージの発生を抑制することができる。なお、シールド層12Aの内側とシールド層12Cの外側のいずれか一方に絶縁性及び磁性を有する層を設けるようにしてもよい。また、前述の構成の場合、磁性を有する層の数はシールド層の数-1であるが、シールド層12Aの内側とシールド層12Cの外側にも絶縁性及び磁性を有する層を設け、磁性を有する層の数をシールド層の数+1としてもよい。また、磁性を有する絶縁層をシールド層12Aの内側とシールド層12Cの外側の少なくとも一方に設け、絶縁層14A、14Bは磁性を有していない構成としてもよい。
【0050】
[第4実施形態]
次に本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態においては、電気接続箱40の構成が第1実施形態と異なる。他の構成については、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略し、以下の説明においては、第1実施形態との相違点について説明する。
【0051】
図6は、第4実施形態に係る配索構造の概略構成を示す模式図である。第4実施形態においては、電気接続箱40は、電気接続箱50と対向する面に本体41の強度を保つためのリブ43や低電圧の配線7を接続するためのコネクタ44を有する。
【0052】
第4実施形態の構成は、電気接続箱40と電気接続箱50との間において前述の電線経路と前述のシールド経路とが形成される一点鎖線で示した領域Rにはリブ43やコネクタ44、配線7が位置しない構成、即ち、領域Rには接続部42、接続部52及びワイヤハーネス10A、ボディ3のみが位置する構成である。
【0053】
この構成によれば、結合係数のk、前述のシールド経路のインダクタンスであるL、及び相互インダクタンスである前述のMの低下を防ぐことができ、特性インピーダンスをモータ4の特性インピーダンスに近づけてサージの発生を抑制することができる。なお、第4実施形態においては、前述のZの値を150mm以上500mm以下とするのが好ましく、前述のXの値を500mm以上3500mm以下とするのが好ましい。ZやMがこれらの値より小さい場合、Lの形成の効果が小さく、これらの値より大きい場合、ワイヤハーネス10Aの重量増や配索のスペースの減少を招くためである。また、前述のYは、ワイヤハーネス10Aのが内包する電線数や前述のYの値にもよるが、30mm以上300mm以下が好ましい。Yが30mm未満である場合、ワイヤハーネス10Aにかかる電圧が高圧であるため、ワイヤハーネス10Aの製造が困難となり、Yが300mmを超える場合、シールド経路のインダクタンスの効果が小さくなるためである。
【0054】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0055】
上述した実施形態においては、電気接続箱40にはモータ4が収容され、電気接続箱50にはインバータ5が収容されているが、電気接続箱40に収容されるのがインバータであり、電気接続箱50に収容されるのがバッテリーであってもよい。
【0056】
本発明においては、電気接続箱40は、モータ4の筐体であってもよく、電気接続箱50は、インバータ5の筐体であってもよい。
【0057】
本発明においては、電気接続箱40が接続部42、42Cを有しておらず、電気接続箱50が接続部52を有していない構成であってもよい。この構成の場合、S=Sとなるため、漏れ磁束が少なくなり、結合係数であるkの値が1に近づくため、相互インダクタンス成分が大きくなり、特性インピーダンスをモータ4の特性インピーダンスに近づけてサージの発生を抑制することができる。
【0058】
本発明においては、例えば電気接続箱40の上下方向の高さが、電気接続箱50の上下方向の高さより高い場合、接続部42の上下方向の位置を接続部52の上下方向の位置より高い位置に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1A 配索構造
3 ボディ
4 モータ
5 インバータ
6 磁性シート
7 配線
10A、10B、10C ワイヤハーネス
11A 被覆電線
11B、11C 偏平電線
12、12A、12B、12C シールド層
13 外装体
14A、14B 絶縁層
40、50 電気接続箱
41、51 本体
42、52、42C 接続部
43 リブ
44 コネクタ
101A、101B 導体
102 被覆
図1
図2
図3
図4
図5
図6