(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】高温超電導線材の接続構造及びその形成方法ならびに高温超電導線材及び高温超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01R 4/68 20060101AFI20241008BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20241008BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01R4/68
H01R43/00 Z
H01B12/06
(21)【出願番号】P 2021562761
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045328
(87)【国際公開番号】W WO2021112250
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019220412
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、高温超電導実用化促進技術開発/高磁場マグネットシステムの開発/高温超電導高安定磁場マグネットシステム開発に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中井 昭暢
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181561(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038826(WO,A1)
【文献】特開2014-130730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/68
H01R 43/00
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または合金からなる帯状の基材、および
前記基材の表面側に形成された酸化物超電導層
を有する2つの高温超電導線材である第1および第2の超電導線材と、
前記第1および第2の超電導線材のそれぞれの前記酸化物超電導層である第1および第2の超電導層の表面同士を、互いに対向させた位置関係で、前記第1および第2の超電導線材同士を接合して、前記第1および第2の超電導線材の間に形成した超電導接続部を含む接合部と、
を備える高温超電導線材の接続構造であって、
前記第1および第2の超電導線材のうちの少なくとも一方の超電導線材の基材は、同一基材において、前記接合部を構成する第1部分の方が、前記接合部を構成しない第2部分よりも厚
く、
前記少なくとも一方の超電導線材の基材は、前記第1部分が、前記基材である第1基材と、前記第1基材の裏面側に位置する断片状の第2基材とを含む少なくとも2つの基材で構成され、
前記接続構造は、前記第2基材の裏面に、セラミック層をさらに有することを特徴とする、高温超電導線材の接続構造。
【請求項2】
前記少なくとも一方の超電導線材は、前記第1基材の熱膨張係数をα1、前記第2基材の熱膨張係数をα2、前記酸化物超電導層の熱膨張係数をα3とするとき、
α1>α3かつα2>α3の関係を満たす、請求項
1に記載の高温超電導線材の接続構造。
【請求項3】
前記第1基材の熱膨張係数α1が、10.5×10
-6/K以上である、請求項1
または2に記載の高温超電導線材の接続構造。
【請求項4】
前記第1基材と前記第2基材の間に、融点が800℃よりも高く、かつ高温酸化しにくい特性をもつ金属層をさらに有する、請求項
1~3のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
【請求項5】
前記金属層が、Ag、AuおよびPtの群から選択される少なくとも1種の貴金属または合金で形成されている、請求項
4に記載の高温超電導線材の接続構造。
【請求項6】
前記少なくとも一方の超電導線材の基材は、前記第1部分の厚さが60μm以上100μm以下であり、前記第2部分の厚さが30μm以上55μm以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
【請求項7】
前記第1および第2の超電導線材の酸化物超電導層は、いずれも厚さが0.1μm以上である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
【請求項8】
前記第1および第2の超電導線材の酸化物超電導層は、いずれもREBCO系超電導材料からなる、請求項1~
7のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の接続構造を有する高温超電導線材。
【請求項10】
請求項
9に記載の高温超電導線材を用いて形成した高温超電導コイル。
【請求項11】
金属または合金からなる帯状の基材、前記基材の表面側に形成された酸化物超電導層および前記酸化物超電導層の表面に形成された保護層を有する2つの高温超電導線材である第1および第2の超電導線材のそれぞれの保護層の一部を剥離して露出した前記酸化物超電導層の表面部分に、超電導接続部を形成する金属を含む有機金属溶液を塗布し乾燥させて塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を第1温度で加熱することによって、仮焼成膜を形成する仮焼成工程と、
前記仮焼成膜を形成した前記第1および第2の超電導線材の前記仮焼成膜の表面同士を、互いに対向させた位置関係で接触させて、前記第1温度よりも高い第2温度で加熱することによって、前記第1および第2の超電導線材の間に超電導接続部を形成し、前記超電導接続部によって前記第1および第2の超電導線材を接合する接合部を形成する本焼成工程と
を含む高温超電導線材の接続構造の形成方法であって、
少なくとも前記本焼成工程を行う前に、前記第1および第2の超電導線材のうちの少なくとも一方の超電導線材の基材は、同一基材において、前記接合部を構成する第1部分の方が、前記接合部を構成しない第2部分よりも厚
く、
前記少なくとも一方の超電導線材の基材は、前記第1部分が、前記基材である第1基材と、前記第1基材の裏面側に位置する断片状の第2基材とを含む少なくとも2つの基材で構成され、
前記接続構造は、前記第2基材の裏面に、セラミック層をさらに有することを特徴とする、高温超電導線材の接続構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超電導線材の接続構造及びその形成方法ならびに高温超電導線材及び高温超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の基材に酸化物超電導層が形成された超電導線材(以下、単に「超電導線材」という場合がある。)は、電流損失が低いため、例えば、MRI(核磁気共鳴画像法:Magnetic Resonance Imaging)装置やNMR(核磁気共鳴:Nuclear Magnetic Resonance)装置等の磁気コイルの巻き線として使用されている。しかしながら、このようなコイルでは閉ループを形成し、永久電流を流すために超電導線材同士を接続する必要がある。
【0003】
超電導線材同士を接続する方法としては、例えば特許文献1に、MOD法(塗布熱分解法:Metal Organic Deposition法/有機金属堆積法)を用いる手法が提案されている。このMOD法による超電導線材の接続は、2つの超電導線材の接続端部の保護層を除去し、露出させた酸化物超電導層の表面に該酸化物超電導層を構成する金属を含むMOD液をスピンコート法またはスプレーコート法によって塗布してMOD塗膜を形成し乾燥させた後、これら2つの超電導線材の上記MOD膜同士を当接して加圧しながら酸化物超電導層の結晶化温度まで加熱することによって、接合するものである。上記MOD液は、例えば、RE(Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)およびHo(ホルミウム)等の希土類元素)とBa(バリウム)とCu(銅)とが約1:2:3の割合で含まれているアセチルアセトナート系MOD溶液が使用される。これにより、2つの超電導線材同士を、半田付けによる接合よりも低抵抗に接続することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように金属製の基材に酸化物超電導層が形成された2つの超電導線材同士を接合したものでは、経時にともなうヒートサイクル等による熱膨張および熱収縮の繰り返し変化によって、酸化物超電導層および金属製の基材の各熱膨張係数の差異に起因して、接合された2つの超電導線材は、接合部の幅方向断面で見たときに、酸化物超電導層の接合(接続)面同士が、幅端部位置で離隔するような反り変形が生じ易く、その結果、接合部の接触面積が小さくなり、接合部を形成する2つの酸化物超電導層が剥がれ易くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、金属製の基材に、酸化物超電導層が形成された2つの超電導線材のうちの少なくとも一方の超電導線材の基材の適正化を図ることにより、ヒートサイクル等による熱膨張および熱収縮の繰り返し熱変形が生じても、接合部を形成する2つの超電導線材を構成する超電導層の剥離を有効に抑制することが可能な高温超電導線材の接続構造およびその形成方法ならびに高温超電導線材および高温超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、金属製の基材に酸化物超電導層が形成された第1および第2の超電導線材同士を接合して、第1および第2の超電導線材の間に形成した超電導接続部を含む接合部を形成するに際し、第1および第2の超電導線材のうちの少なくとも一方の超電導線材の基材は、同一基材において、接合部を構成する第1部分の方が、接合部を構成しない第2部分よりも厚くすることによって、ヒートサイクル等による熱膨張および熱収縮の繰り返し熱変形が生じても、接合部を形成する2つの超電導線材の反り変形を有効に抑制して、超電導接続部での超電導層の剥離を有効に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)金属または合金からなる帯状の基材、および前記基材の表面側に形成された酸化物超電導層を有する2つの高温超電導線材である第1および第2の超電導線材と、前記第1および第2の超電導線材のそれぞれの前記酸化物超電導層である第1および第2の超電導層の表面同士を、互いに対向させた位置関係で、前記第1および第2の超電導線材同士を接合して、前記第1および第2の超電導線材の間に形成した超電導接続部を含む接合部と、を備える高温超電導線材の接続構造であって、前記第1および第2の超電導線材のうちの少なくとも一方の超電導線材の基材は、同一基材において、前記接合部を構成する第1部分の方が、前記接合部を構成しない第2部分よりも厚いことを特徴とする、高温超電導線材の接続構造。
(2)前記少なくとも一方の超電導線材の基材は、前記第1部分が、前記基材である第1基材と、前記第1基材の裏面側に位置する断片状の第2基材とを含む少なくとも2つの基材で構成されている、上記(1)に記載の高温超電導線材の接続構造。
(3)前記少なくとも一方の超電導線材は、前記第1基材の熱膨張係数をα1、前記第2基材の熱膨張係数をα2、前記酸化物超電導層の熱膨張係数をα3とするとき、α1>α3かつα2>α3の関係を満たす、上記(2)に記載の高温超電導線材の接続構造。
(4)前記第1基材の熱膨張係数α1が、10.5×10-6/K以上である、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
(5)前記第1基材と前記第2基材の間に、融点が800℃よりも高く、かつ高温酸化しにくい特性をもつ金属層をさらに有する、上記(2)~(4)のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
(6)前記金属層が、Ag、AuおよびPtの群から選択される少なくとも1種の貴金属または合金で形成されている、上記(5)に記載の高温超電導線材の接続構造。
(7)前記第2基材の裏面に、セラミック層をさらに有する、上記(2)~(6)のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
(8)前記少なくとも一方の超電導線材の基材は、前記第1部分の厚さが60μm以上100μm以下であり、前記第2部分の厚さが30μm以上55μm以下である、上記(1)~(7)のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
(9)前記第1および第2の超電導線材の酸化物超電導層は、いずれも厚さが0.5μm以上である、上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
(10)前記第1および第2の超電導線材の酸化物超電導層は、いずれもREBCO系超電導材料からなる、上記(1)~(9)のいずれか1項に記載の高温超電導線材の接続構造。
(11)上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の接続構造を有する高温超電導線材。
(12)上記(11)に記載の高温超電導線材を用いて形成した高温超電導コイル。
(13)金属または合金からなる帯状の基材、前記基材の表面側に形成された酸化物超電導層および前記酸化物超電導層の表面に形成された保護層を有する2つの高温超電導線材である第1および第2の超電導線材のそれぞれの保護層の一部を剥離して露出した前記酸化物超電導層の表面部分に、超電導接続部を形成する金属を含む有機金属溶液を塗布して乾燥させて塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を第1温度で加熱することによって、仮焼成膜を形成する仮焼成工程と、前記仮焼成膜を形成した前記第1および第2の超電導線材の前記仮焼成膜の表面同士を、互いに対向させた位置関係で接触させて、前記第1温度よりも高い第2温度で加熱することによって、前記第1および第2の超電導線材の間に超電導接続部を形成し、前記超電導接続部によって前記第1および第2の超電導線材を接合する接合部を形成する本焼成工程とを含む高温超電導線材の接続構造の形成方法であって、少なくとも前記本焼成工程を行う前に、前記第1および第2の超電導線材のうちの少なくとも一方の超電導線材の基材は、同一基材において、前記接合部を構成する第1部分の方が、前記接合部を構成しない第2部分よりも厚いことを特徴とする、高温超電導線材の接続構造の形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属製の基材に酸化物超電導層が形成された超電導線材同士を接続する際の超電導層の接続部において、上記金属製の基材の厚さを実効的に厚くすることにより、ヒートサイクル等による熱膨張および収縮の繰り返し熱変形が生じても、接合部を形成する2つの超電導層の剥離を抑制することが可能な高温超電導線材の接続構造およびその形成方法ならびに高温超電導線材および高温超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に従う第1実施形態の超電導線材の接続構造を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明に従う第2実施形態の超電導線材の接続構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明に従う第3実施形態の超電導線材の接続構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明に従う第4実施形態の超電導線材の接続構造を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明に従う第2実施形態の超電導線材の接続構造の形成方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
{高温超電導線材の接続構造}
図1は、第1実施形態に係る高温超電導線材(以下、単に「超電導線材」という場合がある。)の接続構造を模式的に示す斜視図である。
第1実施形態に係る超電導線材の接続構造Aは、
図1に示すように、金属または合金からなる帯状の基材1、1、および基材1、1の表面側にそれぞれ形成された酸化物超電導層(以下、単に「超電導層」ともいう)からなる超電導層2、2を有する2つの高温超電導線材である第1の超電導線材3(以下、単に「超電導線材3」という場合がある。)および第2の超電導線材4(以下、単に「超電導線材4」という場合がある。)と、超電導線材3および超電導線材4のそれぞれの超電導層2、2の表面同士を、互いに対向させた位置関係で、第1および第2の超電導線材3、4同士を接合して、第1および第2の超電導線材3、4の間に形成した超電導接続部5を含む接合部6とを備え、第1の超電導線材3および第2の超電導線材4のうちの少なくとも一方の超電導線材(
図1では「第1の超電導線材3」)の基材1は、同一基材1において、接合部6を構成する第1部分7の方が、接合部6を構成しない第2部分8よりも厚いことを特徴としている。
【0013】
(基材)
基材1は、帯状の金属基板または合金基板で構成されている。基材1の材料としては、例えば、強度および耐熱性に優れた、Co(コバルト)、Cu(銅)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Ag(銀)等の金属、またはこれらの合金が挙げられる。特に、耐食性および耐熱性が優れているという観点から、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)等のNi基合金、またはステンレス鋼等のFe基合金を用いることが好ましく、特にハステロイ(登録商標)に代表されるNi-Fe-Mo系合金を用いることがより好ましい。
ここで、本発明で用いることができる第1基材1を構成する材料として例示されるCo、Cu、Cr、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)、およびステンレス鋼の各熱膨張係数を表1に示す。
【0014】
【0015】
これらの金属または合金の中で、本発明では、第1基材1を熱膨張係数が10.5×10-6/K以上の金属または合金である、Co、Cu、Ni、Mn、Fe、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)、またはステンレス鋼で構成することが好ましい。このように構成すれば、優れた耐食性および耐熱性を有する接続構造Bが得られる。
【0016】
(超電導層)
超電導層2は、酸化物超電導層であって、基材1の表面側に形成されている。超電導層2は、超電導層の転移温度が液体窒素の沸点(-196℃:77K)よりも高い酸化物超電導層から形成され、特に希土類系の高温超電導材料であるREBCO系超電導材料(REBa2Cu3O7-δ)から構成されることが好ましい。REBCO系酸化物超電導材料としては、例えば、REBa2Cu3O7-δ(RE系超電導層)等の超電導層が好ましい。なお、REは、Y(イットリウム)、Nd(ネオジウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)等の単一の希土類元素、または複数の希土類元素である。また、δは、酸素不定比量であって、例えば0以上1以下であり、超電導転移温度が高いという観点から0に近いほど好ましい。なお、酸素不定比量は、オートクレーブ等の装置を用いて高圧酸素アニール等を行えば、δは0未満、すなわち、負の値をとることもある。超電導層2の厚さは、性能、機械的強度、および生産性の調和を考慮すると、0.1~10μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。
【0017】
(接合部)
接合部6は、第1の超電導線材3の超電導層2および第2の超電導線材4の超電導層2の間に形成された超電導接続部5と、超電導接続部5とそれぞれ接する第1の超電導線材3の超電導層2および第2の超電導線材4の超電導層2とを有する。超電導接続部5は、超電導層2と同じ超電導層の組成から構成されていることが好ましく、特に、RE系超電導層の形成に必要な原料が含まれる組成物(溶液)を用いて形成することができる。このような溶液として、例えば、RE(Y、Gd、SmおよびHo等の希土類元素)と、Baと、Cuとが、約1:2:3の割合で含まれているアセチルアセトナート系、ナフテナート系のMOD溶液等を使用することができる。MOD溶液を第1および第2の超電導線材3、4のそれぞれの表面上に塗布し乾燥させて塗膜を形成した後、これら2つの超電導線材の上記塗膜同士を当接して加圧しながら酸化物超電導層の結晶化温度(例えば760~800℃)まで加熱して焼成することにより、結晶性の超電導接続部5を得ることができる。
【0018】
(第1部分および第2部分の厚さの関係)
本実施形態では、第1の超電導線材3および第2の超電導線材4のうちの少なくとも一方の超電導線材(
図1では「第1の超電導線材3」)の基材1は、同一基材1において、接合部6を構成する第1部分7の方を、基材1の接合部6を構成しない第2部分8の厚さよりも厚くすることによって、第1実施形態の超電導線材の接続構造Aを形成する際の加熱およびその後の冷却時に、第1部分7の剛性を高めて、第1部分7を含む接合部全体の変形量が小さくするように構成する。本発明では、このように第1部分7の実効厚さを第2部分8の実効厚さよりも厚くすることによって、熱処理による加熱および冷却時における第1部分7の熱変形を低下させることによって、第1部分7、超電導層2、および接合部6の変形量を小さくし、これによって、超電導線材の接続構造Aの反りを抑えることができる。上記少なくとも一方の超電導線材である第1の超電導線材3の基材1は、第1部分7の厚さが60μm以上100μm以下、かつ第2部分8の厚さが30μm以上55μm以下であることが好ましく、第1部分の厚さ7が70μm以上150μm以下、かつ第2部分の厚さ8が30μm以上50μm以下であることがより好ましい。このように構成すれば、接続構造Aを形成する際の加熱およびその後の冷却を比較的多くの回数繰り返しても、第1部分7の剛性、第1部分7を含む接合部全体の変形量、および当該高温超電導線材を適度に調和させて、接続構造Aの反りを抑える効果を向上させることができる。
なお、ここでは、第1実施形態に係る超電導線材の接続構造Aとして、
図1に示すように、第1部分7を第1の超電導線材3のみに形成した例について説明したが、接続構造Aはこのような例のみに限定されるものではなく、例えば、第1部分7を第1の超電導線材3および第2の超電導線材4の両方に形成し、それぞれの第1部分7、7が互いに略対称の位置関係となるように構成してもよい。このように構成すれば、第1実施形態の超電導線材の接続構造Aの反りを抑える効果をより向上させることができる。
【0019】
[第2実施形態]
次に、本発明に従う第2実施形態の超電導線材の接続構造Bについて説明する。なお、以下で説明する第2~第4実施形態では、第1実施形態と重複する部分については、その説明を省略することとし、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。また、超電導線材の接続構造の構成要素は、第1実施形態と同一の構成要素については同じ符号を付すこととする。
【0020】
図2は、第2実施形態に係る超電導線材の接続構造Bを模式的に示す断面図である。第1実施形態の接続構造Aでは、接合部6を構成する第1部分7の実効厚さを、接合部6を構成しない第2部分8の実効厚さよりも厚くした構造を有しているのに対して、第2実施形態の接続構造Bでは、接合部60を構成する第1部分70が、第1基材1aの超電導層2が位置する表面とは反対の裏面側に、断片状の第2基材9を配置することによって、接合部60を構成する第1部分70の実効厚さを、接合部60を構成しない第2部分8の実効厚さよりも厚くしたものである。すなわち、接続構造Bは、接続構造Aを構成する第1の超電導線材3に代えて、第1部分70が、第1基材1aの裏面側に配置した断片状の第2基材9を有する第1の超電導線材30(以下、単に「超電導線材30」という場合がある。)を適用するとともに、超電導線材30に対向して配置され、第1基材1aと第1基材1aの表面側に配置した超電導層2とを有し該超電導層2と超電導線材30の超電導層2を対向させて超電導接続部5を介して接合部60を構成する第2の超電導線材40(以下、単に「超電導線材40」という場合がある。)を有して構成されている。
【0021】
本実施形態は、超電導線材30の第1部分70が、第1基材1aの裏面側に位置する断片状の第2基材9を含むことによって、第1部分70の厚さが第2基材9の厚さ分だけ、第2部分8の厚さより厚くしたものである。本実施形態によれば、第2基材9を各種の熱膨張係数を有する材料の中から適宜選択することによって、高温超電導線材の接続構造Bの反りの効果の程度を所望の程度に設定することができる。
【0022】
(断片状の第2基材)
第2基材9は、超電導線材の接続構造Bの反りを抑える効果をより高めるために、第1基材1aの熱膨張係数をα1、第2基材9の熱膨張係数をα2、超電導層2の熱膨張係数をα3とするとき、α1>α3かつα2>α3の関係を満たすように構成することが好ましい。
このように構成すれば、第2実施形態の超電導線材の接続構造Bを形成する際の加熱および冷却時に、第2部分8に比べて第1部分70の変形量がより小さくなって、第2実施形態の超電導線材の接続構造Bの反りをより効果的に抑えることができる。
なお、ここでは、第2実施形態に係る接続構造Bとして、
図2に示すように、第2基材9を超電導線材30の第1部分70のみに形成した例について説明したが、接続構造Bはこのような例のみに限定されるものではなく、例えば、第2基材9を超電導線材30および超電導線材40の両方に形成し、それぞれの第1部分70、70が互いに略対称の位置関係となるように構成してもよい。このように構成すれば、第2実施形態の超電導線材の接続構造Bの反りを抑える効果をより向上させることができる。
【0023】
第1基材1aが、第1実施形態で例示したハステロイC276(登録商標)、インコネル600(登録商標)、またはステンレス鋼(SUS304)で構成される場合、これらの熱膨張係数は、それぞれ11.2×10-6/K(25~100℃)、11.5~13.3×10-6/K(20~1000℃)、17.3×10-6/K(0~100℃)であることから、上記(1)の関係を満足する断片状の第2基材9の材料として、例えば、Ti(熱膨張係数:8.4×10-6/K(20℃))、Pt(8.8×10-6/K(25℃))が挙げられる。あるいは、第2基材9を第1基材1aと同じ材料で構成してもよい。
【0024】
(金属層)
超電導線材30は、第1基材1aと第2基材9との間に、第1基材1aと第2基材9とを接合する層として金属層10を形成することが好ましい。金属層10は、融点が800℃よりも高く、かつ高温酸化しにくい特性をもつ金属で構成することが好ましい。このように構成すれば、金属層10によって第1基材1aと第2基材9との密着性および接合強度が高まるとともに、前述のMOD法で超電導接続部5を形成する際の熱処理温度(760~800℃)に対し耐熱性を有する超電導線材の接続構造Bが得られる。このような特性を有する金属層10は、Ag、AuおよびPtの群から選択される少なくとも1種の貴金属または合金で形成されることが好ましい。金属層10をAg、AuおよびPtの群から選択される少なくとも1種の貴金属または合金で形成すれば、上記した接合性と耐熱性に優れた金属層10を、比較的簡便に形成することができる。
【0025】
超電導線材30、40は、超電導接続部5を除く超電導層2の全面にわたって被覆する保護層11をさらに有することが好ましい。このように構成することによって、超電導層2、2の表面を露出させずに有効に保護することができる。保護層11は、Ag、AuおよびCuのうちの少なくとも1種を含む金属または合金層であることが好ましく、Agの金属層であることがより好ましい。保護層11の厚さは、1~50μmであることが好ましく、1.5~5μmであることがより好ましい。保護層11を超電導層2、2の表面上に形成した場合は、超電導層2、2の表面を露出させずに有効に保護することができる。
【0026】
[第3実施形態]
次に、本発明に従う第3実施形態の超電導線材の接続構造Cについて説明する。
図3は、第3実施形態に係る接続構造Cを模式的に示す断面図である。第1実施形態の接続構造Aの第1部分7および第2実施形態の接続構造Bの第1部分70が、金属材料のみで構成されているのに対して、第3実施形態の接続構造Cでは、接合部61を構成する第1の超電導線材31(以下、単に「超電導線材31」という場合がある。)の部分が、超電導層2、第1基材1a、金属層10、第2基材9、セラミック層20および保護層11の積層順で構成されたものである。なお、ここでいう接続構造Cは、第1の超電導線材31と、第2の超電導線材40と、これら第1および第2の超電導線材31、40の間に形成した接合部61を含んで構成されたものである。
【0027】
(断片状の第2基材の第1基材と対向する面に配置するセラミック層)
セラミック層20は、第2基材9の金属層10が位置する表面とは反対側に位置する裏面側に配置されることによって、第1部分71の熱処理後の熱変形量を、接続構造Aの第1部分7および接続構造Bの第1部分70のそれぞれの熱処理後の熱変形量に比べて小さくすることによって、反りの低減効果をより一層向上させるものである。すなわち、セラミック材料は、一般に金属材料に比べ熱膨張係数が小さいため、第2基材9の裏面側にセラミック層20を形成した接続構造Cでは、MOD法等における熱処理後の熱変形量が低下する効果を奏する。
なお、ここでは、第3実施形態に係る接続構造Cとして、
図3に示すように、セラミック層20を有する第2基材9を、超電導線材31の第1部分71のみに形成した例について説明したが、接続構造Cはこのような例のみに限定されるものではなく、例えば、第2基材9を、超電導線材31および超電導線材40の両方に形成しそれぞれの第1部分71、71が略対称の位置関係となるように構成してもよい。このように構成すれば、第3実施形態の超電導線材の接続構造Cの反りを抑える効果をより向上させることができる。
本発明で用いるセラミック層として適用可能なセラミック材料は、特に限定されない。本発明では、セラミック層20を超電導層2と同じ材料で構成することが特に好ましい。表2に超電導層2を構成するセラミック材料および他の主要なセラミック材料のそれぞれの熱膨張係数を示す。
【0028】
【0029】
[第4実施形態]
次に、本発明に従う第4実施形態の超電導線材の接続構造Dについて説明する。
図4は、第4実施形態に係る接続構造Dを模式的に示す断面図である。第1~3実施形態の接続構造A、B、Cでは、各接続構造に含まれる第1および第2の超電導線材の一方の超電導線材の裏面側のみに第1部分7、70、71を形成して、それぞれの接合部6、60、61を構成する第1部分7、70、71の各実効厚さを厚くしていたのに対し、第4実施形態の接続構造Dでは、上記第1および第2の超電導線材30、41の両方の接合部62を構成する第1基材1a、1aの各裏面側に断片状の第2基材9、9を、それぞれ金属層10、10を介して形成して、第1の超電導線材30および第2の超電導線材41のそれぞれに第1部分72、72および第2部分8、8を形成し、第1部分72の各実効厚さを第2部分8の各実効厚さよりも厚くすることによって、高温超電導線材の接続構造の反りの低減化を図るものである。すなわち、接続構造Dは、接続構造Bの第2の超電導線材40に代えて、第2の超電導線材41の構成として、接合部62を構成する第1基材1a、1aのそれぞれの裏面側に、金属層10、10を介して、断片状の第2基材9、9を形成した構成を有している。なお、ここでいう接続構造Dは、第1の超電導線材30と、第2の超電導線材41と、これら第1および第2の超電導線材30、41の間に形成した接合部62を含んで構成されたものである。
【0030】
このように構成すれば、第1の超電導線材30の第1部分72および第2の超電導線材41の第1部分72の両方の実効厚さを厚くしたことによる相乗効果によって、第1~3の実施形態に比べて反りの低減化効果が一段と向上した接続構造Dを得ることが可能となる。
なお、第3実施形態で説明したように、接合部を構成する2つの第1部分72、72の各裏面側に、それぞれセラミック層20、20を形成すれば、上記反りの低減化効果がさらに一段と向上させることができる。その際、セラミック層20を超電導層2と同じ材料で形成すれば、上記反りの低減化効果をより一層向上させることができる。さらに、これらセラミック層20、20のそれぞれの上に第3実施形態と同様の保護層11、11を形成することができる。
【0031】
(高温超電導線材の接続構造を有する高温超電導線材)
上述した実施形態の高温超電導線材の接続構造は、ヒートサイクル等による熱膨張および収縮の繰り返し熱変形が生じても、接合部を形成する2つの超電導層の剥離を抑制することが必要な各種高温超電導線材、例えば、MRIやNMR等の磁気コイルの巻き線に適用することが好適である。
【0032】
(高温超電導線材の接続構造の形成方法)
本実施形態の高温超電導線材の接続構造A、B、C、Dの形成方法を説明する。なお、ここでは、接続構造B(
図2)の形成方法について説明するが、接続構造A、C、Dの形成方法についても基本的に同様である。
図5に示すように、まず、金属または合金からなる帯状の基材1、基材1の表面側に形成された酸化物超電導層2および酸化物超電導層2の表面に形成された保護層11を有する2つの超電導線材である第1および第2の超電導線材30、40を用意する。このうち、第1および第2の超電導線材30、40のうちの少なくとも一方の超電導線材30は、基材1が、接合部60を構成する第1部分70を、接合部60を構成しない第2部分8よりも厚く形成したもの、あるいは、接合部60を構成する第1部分70を、接合部60を構成する第1部分70の方が、接合部60を構成しない第2部分8よりも厚いものを準備する(超電導線材の準備工程S1)。次に、工程S1で準備した第1および第2の超電導線材30、40のそれぞれの保護層11、11の一部を剥離して除去し、酸化物超電導層2、2を露出させる(保護層の除去工程S2)。続いて、工程S2で露出させた酸化物超電導層の2、2の表面部分に、超電導接続部5を形成する金属を含む有機金属溶液を塗布し乾燥させて塗膜を形成する(有機金属溶液の塗膜の形成工程S3)。その後、工程S3で形成した塗膜を第1温度(好適には450~550℃)まで加熱することによって、塗膜中の有機物を除去し仮焼成膜を形成する(仮焼成膜の形成工程S4)。次に、工程S4で形成した仮焼成膜を有する第1および第2の超電導線材30、40の仮焼成膜同士を、互いに対向させた位置関係で接触させて、第1温度よりも高い第2温度(好適には760~820℃)で加熱することによって、第1および第2の超電導線材30、40の間に超電導接続部5を形成し、第1および第2の超電導線材30、40ならびに超電導接続部5によって接合部60を形成する本焼成工程を行う(本焼成による接合部の形成工程S5)。このように工程S1から工程S5までを順に行うことによって、ヒートサイクル等による熱膨張および熱収縮の繰り返し熱変形が生じても、接合部を形成する2つの超電導線材を構成する超電導層の剥離を有効に抑制することが可能な高温超電導線材の接続構造を形成することができる。
加えて、本実施形態では、工程S5の後に、酸素雰囲気下で熱処理を施して、接合部を構成する膜の酸素欠損部に酸素を補充する酸素補充熱処理をさらに行ってもよい。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
<供試材の作製>
まず、高温超電導線材(以下、単に「超電導線材」という場合がある。)として、厚さ50μm、幅6mのハステロイ(登録商標)製基材1の表面に、厚さ1.6μmのGdBCOからなる超電導層2および厚さ2μmのAgからなる保護層11を順次形成するとともに、裏面に厚さ2μmのAgからなる金属層10を形成してなる超電導線材を準備した(
図2、参照)。次に、上記超電導線材に対し、上記保護層11の一部を除去した除去部にMOD溶液を塗布しMOD塗膜を形成した後、窒素および酸素の混合ガス雰囲気下、500℃で上記MOD塗膜中の有機溶剤を蒸発させ表面側にMOD仮焼成膜を形成した超電導線材を作製し、これを供試材とした。
【0035】
(実施例1)
上記供試材の上記MOD仮焼成膜の表面側とは反対側の裏面側に、厚さ50μm、長さ20mm、幅6mmのハステロイ(登録商標)製基材9(以下、「ハステロイ(登録商標)製ダミー基材9」という場合がある。)を配置したもの1本と、上記ハステロイ(登録商標)製ダミー基材9を配置していない供試材1本とを準備した。次に、これらのそれぞれの上記MOD仮焼成膜の表面側同士を互いに対向させて配置した後、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガス雰囲気下、加熱温度800℃、圧力100MPaの条件で本焼成を行い、上記MOD仮焼成膜を結晶化させることによって、結晶化MOD層からなる接合部60を形成して2本の超電導線材30、40を接合させた。このようにして、2本の超電導線材30、40のうちの1本の超電導線材30において、接合部60を構成する第1部分70の方が上記接合部を構成しない第2部分8よりも厚い超電導線材の接続構造Bを作製し、これを実施例1とした(
図2、参照)。
【0036】
(実施例2)
上記供試材の上記MOD仮焼成膜の表面側とは反対側の裏面側に、上記ハステロイ(登録商標)製ダミー基材9を配置したもの2本を準備した。次に、これらのそれぞれの上記MOD仮焼成膜の表面側同士を互いに対向させて配置した後、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガス雰囲気下、加熱温度800℃、圧力100MPaの条件で本焼成を行い、上記MOD仮焼成膜を結晶化させることによって、結晶化MOD層からなる接合部62を形成して2本の超電導線材30、41を接合させた。このようにして、上記2本の超電導線材30、41において、接合部62を構成する第1部分72、72の方が接合部62を構成しない第2部分8、8よりも厚い超電導線材の接続構造Dを作製し、これを実施例2とした(
図4、参照)。
【0037】
(実施例3)
上記供試材の上記MOD仮焼成膜の表面側とは反対側の裏面側に、厚さ50μm、長さ20mm、幅6mmの炭素鋼製基材9(以下、「炭素鋼製ダミー基材9」という場合がある。)を配置したものを2本準備した。次に、これらのそれぞれの上記MOD仮焼成膜の表面側同士を互いに対向させて配置した後、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガス雰囲気下、加熱温度800℃、圧力100MPaの条件で本焼成を行い、上記MOD仮焼成膜を結晶化させることによって、結晶化MOD層からなる接合部62を形成して2本の超電導線材30、41を接合させた。このようにして、2本の超電導線材30、41において、接合部62を構成する第1部分72、72の方が接合部62を構成しない第2部分8、8よりも厚い超電導線材の接続構造Dを作製し、これを実施例3とした(
図4、参照)。
【0038】
(実施例4)
上記供試材の上記MOD仮焼成膜の表面側とは反対側の裏面側に、厚さ50μm、長さ20mm、幅6mmの上記供試材の裏面側を対向させて配置したものを2本準備した。次に、これらのそれぞれの上記MOD仮焼成膜の表面側同士を互いに対向させて配置した後、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガス雰囲気下、加熱温度800℃、圧力100MPaの条件で本焼成を行い、上記MOD仮焼成膜を結晶化させることによって、結晶化MOD層からなる接合部を形成して2本の超電導線材を接合させた。このようにして、2本の超電導線材において、接合部を構成する超電導線材の部分の方が上記接合部を構成しない超電導線材の部分よりも厚い超電導線材の接続構造を作製し、これを実施例4とした(不図示)。
【0039】
(比較例)
2本の上記供試材を準備し、これらのMOD仮焼成膜を互いに対向させ、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガス雰囲気下、加熱温度800℃、圧力100MPaの条件で本焼成を行い、上記MOD仮焼成膜を結晶化させることによって、結晶化MOD層からなる接合部を形成した。このようにして、上記2本の超電導線材のいずれにおいても、上記接合部を構成する超電導線材の部分と上記接合部を構成しない超電導線材の部分とが同じ厚さを有する超電導線材の接続構造を作製し、これを比較例とした。
【0040】
<評価>
実施例1~4および比較例1の反りの低減化効果について確認するために、以下のような試験を行って剥離性の程度を調査し評価を行った。その結果を表3に示す。
【0041】
【0042】
表3に示す結果より、実施例1~4は、いずれも上記接合部を構成する超電導線材に、上記ハステロイ(登録商標)製基材、上記炭素鋼製基材、または上記超電導線材を配置することによって、上記接合部を構成する超電導線材の部分の方が、上記接合部を構成しない超電導線材の部分よりも厚くなっているので、上記接合部を構成する超電導線材の部分と、上記接合部を構成しない超電導線材の部分とが同じ厚さとなっている比較例に比べて、「剥離なし」の割合が顕著に高く、「部分的に剥離」および「剥離あり」の割合が低くなっており、反りの低減化効果が向上していることが明らかとなった。特に、上記超電導線材の接続構造に含まれる2本の超電導線材の両方の接合部を構成する超電導線材に、該超電導線材と同じ材質の基材を配置した接続構造では、全ての試料で「剥離なし」の評価結果が得られており、反りの低減化効果が顕著に向上している。なお、上記接続部を構成する超電導線材に、上記ハステロイ(登録商標)製基材、上記炭素鋼製基材以外の金属として、例えば各種ステンレス鋼製基材や各種インコネル(登録商標)製基材を配置した接続構造、あるいは、上記超電導線材以外のセラミック材料を含む基材として、例えば、Al2O3を配置した接続構造についても評価を行ったが、いずれも比較例に比べて、「剥離なし」の割合が顕著に高く、「部分的に剥離」および「剥離あり」の割合が低くなっており、反りの低減化効果が向上していることが確認された。
【0043】
以上、本発明に係る高温超電導線材の接続構造を、高温超電導線材や、この高温超電導線材を用いて形成した高温超電導コイルに適用すれば、ヒートサイクル等による熱膨張および熱収縮の繰り返し熱変形が生じても、接合部を形成する2つの超電導線材を構成する超電導層の剥離を有効に抑制することができるため、安定した超電導特性を発揮することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々の改変を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1、1a 基材、第1基材
2 酸化物超電導層
3、30、31 第1の超電導線材
4、40、41 第2の超電導線材
5 超電導接続部
6、60、61、62 接合部
7、70、71、72 第1部分
8 第2部分
9 基材、第2基材
10 金属層
11 保護層
20 セラミック層
A 第1実施形態の接続構造
B 第2実施形態の接続構造
C 第3実施形態の接続構造
D 第4実施形態の接続構造