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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023553024
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2022031666
(87)【国際公開番号】W WO2024042597
(87)【国際公開日】2024-02-29
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 欣秀
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/123725(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/192210(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハに形成された処理対象の膜の加工残量を閾値と比較する工程と、
非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有する物質を含む有機ガスを供給しつつ、前記半導体ウエハを加熱して前記処理対象の膜と前記有機ガスとの化合物を形成する工程と、
前記比較する工程の結果に基づいて、前記化合物を形成する工程の後に前記半導体ウエハをさらに加熱して所定の温度まで昇温させて前記半導体ウエハの表面から前記化合物を脱離させる工程と、
を備えた半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記化合物を脱離させる工程は、加工残量が閾値以下である場合、前記有機ガスの供給を停止した後に前記半導体ウエハを複数の段階で加熱して前記所定の温度まで昇温させる工程である、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記化合物を脱離させる工程は、加工残量が閾値より大きい場合、前記有機ガスを供給しつつ前記半導体ウエハを加熱して連続して前記所定の温度まで昇温させる工程である、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記化合物を脱離させる工程は、
加工残量が閾値以下である場合、前記有機ガスの供給を停止した後に前記半導体ウエハを複数の段階で加熱して前記所定の温度まで昇温させて前記化合物を脱離させる第1の脱離工程と、
前記加工残量が閾値より大きい場合、前記有機ガスを供給しつつ前記半導体ウエハを加熱して連続して前記所定の温度まで昇温させて前記化合物を脱離させる第2の脱離工程とを含み、
前記加工残量がなくなるまで、前記化合物を形成する工程と前記第1の脱離工程と前記第2の脱離工程を行う、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記有機ガスが、フェノール骨格を有し、OH基が結合している炭素原子からみて隣接する位置に、OH基、OCH基、OCOCH基、OCONH基、NH2基、N(CH)基のうちのいずれか1つの置換基を有した請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記有機ガスが、フェノール骨格を有し、OH基が結合している炭素原子からみて隣接する位置に、CN基、CH=CH-CH基、CH=CH-CN基、CH=CH-COCH基のうちのいずれか1つの置換基を有した請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記有機ガスが、2―シアノフェノールまたはo-ヒドロキシ桂皮酸エステルを含む請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記有機ガスが、カルボニル基を有する脂肪族4員環化合物であって、電子供与性原子として前記カルボニル基のO原子と4員環の環を形成しているO原子を有し、前記O原子には少なくとも1個の炭素原子が配置された請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記有機ガスが、βブチロラクトンを含む請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
内部に処理室を有する真空容器と、前記処理室の内部に配置された処理対象の膜を表面に有した半導体ウエハが上面に載置されるステージと、前記処理室内に有機ガスを供給する処理ガス供給器と、前記処理室内を排気する排気装置と、前記半導体ウエハを加熱して所定の温度まで昇温するヒータと、制御部とを有した半導体製造装置であって、
前記有機ガスは非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有し、
前記制御部は、
前記処理対象の膜の加工残量を閾値と比較する工程と、非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有する物質を含む前記有機ガスを前記処理室に供給しつつ、前記半導体ウエハを加熱して前記処理対象の膜と前記有機ガスとの化合物を形成する工程と、前記比較する工程の結果に基づいて、前記化合物を形成する工程の後に前記半導体ウエハをさらに加熱して所定の温度まで昇温させて前記半導体ウエハの表面から前記化合物を脱離させる工程と、を制御する、半導体製造装置。
【請求項11】
前記化合物を脱離させる工程は、加工残量が閾値以下である場合、前記有機ガスの供給を停止した後に前記半導体ウエハを複数の段階で加熱して前記所定の温度まで昇温させる工程を含む、請求項10に記載の半導体製造装置。
【請求項12】
前記化合物を脱離させる工程は、加工残量が閾値より大きい場合、前記有機ガスを前記処理室に供給しつつ前記半導体ウエハを加熱して連続して前記所定の温度まで昇温させる工程を含む、請求項10に記載の半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最先端の半導体デバイスに対する小型化、高速・高性能化、省電力化の要求はますます加速している。新たな材料の採用が進み、またこれらの材料をナノメートルレベルの超高精度に加工(例えば、成膜およびエッチング)することが求められている。
【0003】
このような技術の例としては、特表2018-500767号公報(特許文献1)に開示されるものが従来から知られていた。特許文献1では、Al膜やHfO膜、ZrO膜を原子層レベルの超高精度に加工するために、F(フッ素)などのハロゲンを含有する反応性ガスを被加工膜と反応させてフッ化物に変換した後、さらに配位子交換剤となる有機金属化合物と反応させて揮発性を有する有機金属錯体に変換して、有機金属錯体を揮発して除去する技術が開示されている。より具体的には、Al膜の場合には、F含有の反応性ガスと反応させてAlF(フッ化物)へ変換し、配位子交換剤であるトリアルキルアルミと反応させてAl(CH)Fx-1に変換し、200℃~300℃の加熱下でAl(CH )F x-1 揮発させて除去する。このような一連の処理によって、Al膜を原子層レベルの高精度なエッチング加工が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-500767号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Younger Lee and Steven M. George, Journal of Vacuum Science & Technology A 36(6) 061504 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者らは、様々な元素を含む材料のナノメートルレベルの超高精細加工を検討する過程で、多種類の材料が多重に積層した多層膜への適用という観点で検討を進めてきた。このような検討の結果、発明者らは、多層膜の層間拡散の防止という観点から、相対的に低温の条件で実施可能なエッチング技術が求められていると判断した。
【0007】
上記の特許文献1は、400℃以下で選択的なエッチングを実現できるという観点で有望な技術とみられる。しかしながら、検討の結果、次のような点について改善の余地があると考えられる。
【0008】
具体的には、F含有の反応性ガスと配位子交換剤という2種類の全く異なるガスが用いられるため、ガスを供給するためのガス供給系およびその制御が複雑になり、エッチング処理装置が大型化あるいは高額化するという虞がある。
【0009】
また、F含有の反応性ガスによる処理と配位子交換剤による処理の間には、2種類のガスが混合することを防止するためにチャンバ内のガス置換を行なって反応を休止させる期間を設ける必要がある。さらに、第1の反応が休止した状態から第2の反応が開始するまでの間には反応誘導期間を設ける必要もある。このように、第1のガス供給を停止して第2のガス供給を開始しても直ちに第2の反応を開始することができず、結果として、サイクル時間が長くなり、エッチング効率が低下するという虞がある。
【0010】
また、配位子交換反応によって生成された揮発性を有する有機金属錯体は、通常、熱的にはそれほど安定ではない。そのため、ウエハ表面から揮発した後にチャンバ外へ排出されるまでの間に、その一部が熱分解して異物となって処理チャンバ内で滞留し、ウエハ表面へ再付着するという虞がある。このような点について、上記従来技術では十分に考慮されていなかった。
【0011】
本発明の目的は、複雑なガス供給系を必要とせずに、処理の効率を確保し、異物の発生を抑制することが可能な半導体装置の製造方法および半導体製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の半導体装置の製造方法の一つは、半導体ウエハに形成された処理対象の膜の加工残量を閾値と比較する工程と、非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有する物質を含む有機ガスを供給しつつ、前記半導体ウエハを加熱して前記処理対象の膜と前記有機ガスとの化合物を形成する工程と、前記比較した結果に基づいて、前記化合物を形成する工程の後に前記半導体ウエハをさらに加熱して所定の温度まで昇温させて前記半導体ウエハの表面から前記化合物を脱離させる工程と、を備える。
【0013】
また、代表的な本発明の半導体製造装置の一つは、内部に処理室を有する真空容器と、前記処理室の内部に配置された処理対象の膜を表面に有した半導体ウエハが上面に載置されるステージと、前記処理室内に有機ガスを供給する処理ガス供給器と、前記処理室内を排気する排気装置と、前記半導体ウエハを加熱して所定の温度まで昇温するヒータと、制御部とを有した半導体製造装置であって、前記有機ガスは非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有し、前記制御部は、前記処理対象の膜の加工残量を閾値と比較する工程と、非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有する物質を含む有機ガスを前記処理室に供給しつつ、前記半導体ウエハを加熱して前記処理対象の膜と前記有機ガスとの化合物を形成する工程と、前記比較した結果に基づいて、前記化合物を形成する工程の後に前記半導体ウエハをさらに加熱して所定の温度まで昇温させて前記半導体ウエハの表面から前記化合物を脱離させる工程と、を制御する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複雑なガス供給系を必要とせずに、処理の効率を確保し、異物の発生を抑制することが可能な半導体装置の製造方法または半導体製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態にかかる半導体製造装置の構成を模式的に示す図である。
図2図2は、半導体製造装置において行われるウエハ処理を示すフローチャートである。
図3図3は、ステップS103B乃至S106Bを含む工程Bのタイムチャートを示す図である。
図4図4は、ステップS103A乃至S107Aを含む工程Aのタイムチャートを示す図である。
図5図5は、半導体製造装置において行われる変形例のタイムチャートを示す図である。
図6図6は、錯体化ガスの成分の分子構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者は、分子内の少なくとも2か所に電子供与性原子を有する有機ガスに被エッチング膜を暴露させることにより、熱安定性が高く、かつ、高揮発性の有機金属錯体が1ステップで生成するという現象を見出した。発明者は、この現象を活用して高効率なエッチングを実現できるという知見を得た。
【0017】
分子内の少なくとも2か所に電子供与性原子を有する有機化合物を含む有機ガスにおいて、電子供与性原子は被エッチング膜の金属元素の陽電荷に電子を供与することによって、電子供与型かつ逆供与型の強固な配位結合を有する熱的に安定な有機金属錯体を形成する。本発明では、このような有機金属錯体を採用したことにより、上記従来技術の課題である有機金属錯体の熱的不安定性を解消することができる。
【0018】
また、実施形態における有機金属錯体の内部では、被エッチング膜の金属元素の陽電荷がエッチングガス中にある2か所の電子供与性原子から供与される電子によって電荷的に中和されている。このようにして電荷中和されると、隣接分子間に作用する静電吸着が消滅し、有機金属錯体の揮発性(昇華性)が高められる。また、有機ガスに被エッチング膜を暴露させるという1ステップで高揮発性の有機金属錯体を生成できるので、従来技術に採用されていた反応休止時間を設ける必要がなくなり、その結果として、エッチング効率の低下も回避することができる。
【0019】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について図1から図6を参照しながら説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0020】
(装置の構成)
図1は、本発明の実施形態にかかる半導体製造装置の構成を模式的に示す図である。
【0021】
処理室1は、円筒形の金属容器であるベースチャンバ11により構成される。その内部には被処理試料である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」ともいう。)2を載置するためのウエハステージ(以下、「ステージ」ともいう。)4が設置されている。ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)放電方式を用いたプラズマを発生させるために、処理室1の上方には、石英チャンバ12と石英チャンバ12の外側に配置したICPコイル34と高周波電源20によって構成されるプラズマ発生部が設けられている。
【0022】
なお、本発明は必ずしもICPプラズマを使用する必要はないので、プラズマ発生部を省いた構成にも本発明を適用可能である。しかし、本発明が対象とする処理よりも前の工程、あるいは後の工程において、ICPプラズマを用いたプロセス、例えば原子層毎に積層するALD(Atomic Layer Deposition)処理やプラズマを利用したALE(Plasma Enhanced Atomic Layer Etching)処理を行うことが想定される。このため、図1に示したように、ICPプラズマ発生部を含む構成を説明する。
【0023】
ICPコイル34には、プラズマ生成のための高周波電源20が整合器22を介して接続され、高周波電源20の周波数には、数十MHzの周波数帯が用いられる。石英チャンバ12の上部には天板6、シャワープレート5、ガス分散板17が設けられている。ウエハ2の処理のために供給されるガス(処理ガス)は、ガス分散板17の外周にある間隙を通じて処理室1に導入される。
【0024】
本実施形態における処理ガスは、集積マスフローコントローラ制御部51内に配置されたマスフローコントローラ50-1~50-3によって流量が調整される。処理ガスは複数のガス種を含んでおり、ガス種毎にマスフローコントローラ50-1~50-3が設けられている。図1においては、Ar、O、Hの3種類の処理ガスが、それぞれ対応するマスフローコントローラ50-1、50-2、50-3によって、供給を制御される。他の処理ガス、例えば、ハイドロフルオロカーボンCHFやクロロカーボンCHClなどのハロゲン系有機ガス、CHやCHOCHなどの非ハロゲン系有機ガスなどと、ガス種毎に対応するマスフローコントローラを加える構成としてもよい。なお、図1の集積マスフローコントローラ制御部51は、ウエハ2裏面とウエハ2が載置されるステージ4の誘電体膜上面との間に供給されるHe冷却ガスの流量を調節するマスフローコントローラ50-4も含む。マスフローコントローラ50-4は、集積マスフローコントローラ制御部51とは別に設ける構成でも構わない。
【0025】
本実施形態では、処理ガスの少なくとも一部に有機ガスが用いられる。有機ガスは、有機ガス気化供給器47を用いて液体原料を気化させて得ることができる。
有機ガス気化供給器47の内部には、液体原料である薬液44を収納するタンク45が設けられる。タンク45の周囲に設けられたヒータ46によって薬液44が加熱され、タンク45上部に薬液44の蒸気が充満する。必要に応じて霧化器やバブラーを設置してもよいが、それらを設置する場合には、エアロゾル微粒子起因の異物が処理室1の内部に堆積しないように配慮する。例えば、処理室1の内部をクリーニングするための運転レシピをあらかじめ準備しておいて、そのレシピを定期的に実施する。
【0026】
薬液44は、有機エッチングガスの原料となる液体である。薬液44の蒸気はマスフローコントローラ50-5によって所望の流量、速度となるように制御されながら、処理室1内に注入される。薬液44の蒸気が処理室1内に導入されない間は、バルブ53およびバルブ54を閉じて、処理室1からタンク45を遮断する。薬液44の蒸気を流す配管は、必要に応じて、その内壁表面で薬液44の蒸気が凝縮・結露しないように配管を加熱あるいは保温し、必要に応じて、パージガスを流通させておく。
【0027】
また、適宜、マスフローコントローラ50-5から処理室1の間の配管における温度および圧力をモニターすることを通じて蒸気が凝縮・結露する予兆を検知し、必要に応じて、加温条件を調整すると良い。また、薬液44の蒸気を流す配管内壁表面に薬液44の有機気ガスの分子が吸着・貯蔵して配管が腐食することを避けるために、マスフローコントローラ50-5から処理室1へ薬液44の蒸気を供給する処理が終了した後には、Arなどの不活性ガスあるいは薬液44を溶解可能な溶媒等の蒸気を薬液44の蒸気を流す配管内に流通させて残留ガスを追い出すガスパージの機構(図示せず)と、ガスパージ後に該配管内を真空に保つための機構(図示せず)も設けられている。これらの機構(ガスパージ機構および真空機構)により、仮に、該配管内に薬液44の蒸気が凝縮・結露することになっても次のウエハの処理をする際の悪影響を最小化できる。
【0028】
なお、薬液44を用いる場合を説明したが、液体原料としては、常温で液体の場合のみならず、固体を融解液化、あるいは溶媒等に溶解して溶解液化した液化原料を用いてもよい。固体を融解液化してなる液化原料の場合には、霧化器を使って極微細粒子化させれば容易に気化させることができ、高濃度蒸気を利用しやすい。また、溶媒等に溶解して溶解液化してなる液化原料の場合には、気化後の圧力は当該原料の蒸気圧と溶媒の蒸気圧との和であり、この性質を利用することよって処理ガス中の有効成分の供給濃度の調整が容易に行われる。
【0029】
処理室1の下部には、処理室を減圧するための真空排気配管16が設けられている。真空排気配管16は、ポンプ15に接続されている。ポンプ15は、例えばターボ分子ポンプやメカニカルブースターポンプやドライポンプ、あるいはこれらを組み合わせて構成される。また、調圧機構14は、真空排気配管16の流路断面積を増減させることによって、処理室1内から排出されるガス等の流量を調節する。調圧機構14は、例えば、流路内に横切る方向に軸を有して配置され軸周りに回転する複数枚の板状のフラップや、流路内部をその軸方向を横切って移動する板部材から構成される。
【0030】
ステージ4と石英チャンバ12との間には、ウエハ2を加熱するためのIR(Infra-red:赤外線)ランプユニットが設置されている。IRランプユニットは、ステージ4上方にリング状に配置されたIRランプ62、IRランプ62からの出射光を下方に向けて反射させるためにIRランプ62を覆うように配置されている反射板63、およびIR光透過窓74を含む。
【0031】
本実施形態のIRランプ62は、ベースチャンバ11または円筒形のステージ4の上下方向の中心軸の周りに同心状または螺旋状に水平配置された多重の円形状のランプである。後述するウエハ加熱が実現できるならば、IRランプ62の配置はこれに限定されない。本実施形態では、可視光から赤外光領域の波長帯の光が用いられ、この光をIR光と呼ぶ。図1に示した構成においては、IRランプ62として石英チャンバ12の周囲を3周分のIRランプ62-1、62-2、62-3が設置されている。IRランプ62は3周分に限定されず、例えば2周、4周であってもよい。
【0032】
IRランプ62にはIRランプ用電源64が接続されている。IRランプ用電源64は、IRランプ62-1、62-2、62-3に供給する電力を独立に制御する機能を持ち、ウエハ2を加熱する際の熱量を調節する。
【0033】
ガス流路75は、IRランプユニットに囲まれるように配置されている。マスフローコントローラ50(50-1~50-3および50-5)によって供給が制御される処理ガスは、石英チャンバ12からガス流路75を通じて処理室1に流れる。ガス流路75には、石英チャンバ12で発生させたプラズマの成分の中でイオンや電子を遮蔽し、中性ガスや中性ラジカルのみを透過させるための、複数の貫通孔が設けられたスリット板(イオン遮蔽板)78が配置されている。プラズマを使用しない場合には、処理ガスはイオンや電子を含まない中性ガスであるため、スリット板78は、処理ガスの流れを整流する整流板として機能する。
【0034】
また、処理ガスがスリット板78の貫通孔を通過する際に、処理ガスが適度に予熱されるように貫通孔の寸法や配置が適正化されている。さらに、スリット板78の設置箇所は、当該予熱機能を発揮できるように、IRランプユニットの位置を考慮して配置されている。
【0035】
ステージ4の内部には、ステージ4を冷却するための冷媒の流路39が形成されている。チラー38は、冷媒を供給し、流路39内に冷媒を循環させる。また、ウエハ2を静電吸着するための静電吸着用電極30がステージ4に埋設されており、静電吸着用電極30には静電吸着用電源31が接続されている。
【0036】
また、ウエハ2の冷却効率を高めるために、ステージ4に載置されたウエハ2の裏面とステージ4との間にHeガスが供給される。Heガスはステージ4の内部および上面に設けられた供給管路を経て、ステージ4上面の開口部からウエハ2裏面とステージ4上面の間の隙間に導入される。
【0037】
ウエハ2を吸着した状態で加熱や冷却を行なう場合、ウエハ2とステージ4の熱膨張率の差に起因してウエハ2の裏面に擦り傷がつくリスクがある。このため、ステージ4の少なくともウエハ載置面には樹脂製の耐食性コーティングを行い、ウエハ2裏面での擦り傷発生が防止される。なお、ステージ4のウエハ載置面に施すコーティングは、処理ガスあるいはそのプラズマ、ラジカル等によって、ステージ4が侵されることも防止する機能がある。
【0038】
また、ステージ4の内部には、ステージ4の温度を測定するための熱電対70が設置されている。熱電対70は、熱電対温度計71に接続されている。
【0039】
ウエハ2の温度を測定するための別の手段として、光ファイバ92-1、92-2がステージ4の中心付近、径方向の中間付近、径方向の外周付近の3箇所に設置されていてもよい。光ファイバ92-1は、ステージ4の内部を通るように設けられており、外部IR光源93から出力された外部IR光をウエハ2の裏面にまで導いてウエハ2の裏面に照射する。
【0040】
一方、光ファイバ92-2は、光ファイバ92-1により照射されたIR光のうちウエハ2を透過・反射したIR光を集めて分光器96へ伝送する。外部IR光源93で生成された外部IR光は光路スイッチ94、光分配器95を経て複数光路に分岐(図は3光に分岐した構成例)し、光路ごとに別々の系統の光ファイバ92-1を介してウエハ2裏面のそれぞれの位置に照射される。
【0041】
ウエハ2において吸収または反射されたIR光は、光ファイバ92-2によって捕捉されて分光器96へ伝送される。検出器97は、波長帯毎のスペクトル強度分布(分光スペクトル)のデータを検出する。分光スペクトルのデータは、制御部40の演算部41に送られて、所定の演算処理を経てウエハ2の温度を求めるために用いられる。また、分光計測する光について、ウエハのどの計測点における光を分光計測するかを切り替える仕組みにより、それぞれの場所の温度を求めることができる。
【0042】
なお、ここで使用する光ファイバは、マスフローコントローラ50-1、50-2、50-3、50-5を経て供給される処理ガスあるいはそのプラズマ、ラジカル等によって侵されることがないように、パッキン等を用いてしっかりと密封されていることは言うまでもない。しかし、本願発明の半導体製造装置を使い続けて密封部のパッキン等が劣化して密封が漏れてもすぐに計測能力が低下することがないように、供給される処理ガスあるいはそのプラズマ、ラジカルなどとは反応しにくい材質の光ファイバ材を利用することが望ましい。例えば、マスフローコントローラ50-5から供給される処理ガスがF(フッ素)原子を含む場合は、石英製ファイバではなくて中空ファイバなどを使用することが望ましい場合がある。
【0043】
制御部40は、高周波電源20からICPコイル34への高周波電力供給のオン(出力あり)およびオフ(出力なし)を制御する。また、制御部40は、所望のタイムチャート(詳細は後述)が定めるタイミングに従って石英チャンバ12へガスが供給されるように、集積マスフローコントローラ制御部51や有機ガス気化供給器47を制御する。制御部40は更に真空排気配管16およびポンプ15を制御して、処理室1の内部が所望の圧力範囲となるように調整する。
【0044】
制御部40は、更に、ウエハ2をステージ4上に固定し、ウエハ2が所望の温度および温度分布となるように加熱及び冷却を行なうための制御も行なう。具体的には、熱電対温度計71から出力されるウエハ2の温度情報や検出器97から出力される分光スペクトルから演算されるウエハ2の温度情報に基づいて、静電吸着用電源31への印加電圧を調整し、かつマスフローコントローラ50-4の制御によるHeガスの流量調整やIRランプ用電源64やチラー38を制御することにより、ウエハ2の温度および温度分布を所定範囲内に保持する。
【0045】
(ウエハ処理)
次に、図2を参照して、本実施形態の半導体製造装置において行われるウエハ処理を説明する。図2は、半導体製造装置において行われるウエハ処理を示すフローチャートである。ここで、ウエハ2にはウエハ処理の処理対象の膜(以下、「処理対象膜」「被処理膜」ともいう。)が予め形成されている。処理対象膜はAlなどの典型金属元素を含有する膜であり、この膜をエッチングする処理について説明する。なお、典型金属元素とは、典型元素のうち、Si半金属元素やCなどの非金属元素を含まないものを指す。また、フローチャートにおける処理は、制御部40によって制御される。
【0046】
<ウエハ処理の準備段階>
図2に示す各ステップが行われる前に、ウエハ2は、搬送用ロボットアーム等によって搬送される。ウエハ2は、ベースチャンバ11に設けられたウエハ搬入出口を通り、処理室1内に導入され、ステージ4に載置される。
【0047】
ステージ4に載置されたウエハ2は、ステージ4内部に設けられている静電吸着機構によって吸着され、ステージ4上に固定される。ウエハ2の上面には、半導体デバイスの回路の構造を構成するパターン形状に加工された、処理対象膜を含む積層膜構造が予め形成されている。
【0048】
本実施形態の処理対象膜は酸化アルミニウム(Al)であるが、本実施形態の技術はこれら以外の種類の材料の膜にも適用できる。例えば、Alのように典型金属元素を含む膜に限定されず、遷移金属元素を含む膜にも適用できる。処理対象の膜を含む膜構造は、公知のスパッタ法、PVD(物理的気相成長:Physical Vapor Deposition)法、ALD(原子層堆積:Atomic Layer Deposition)法、CVD(化学的気相成長:Chemical Vapor Deposition)法などを用いて所望の回路を構成できる膜厚となるように成膜される。また、回路のパターンに則った形状となるようフォトリソ技術を使って加工されていることもある。
【0049】
また、制御部40は、ウエハ2の温度を調整する。本実施形態では、ウエハ2の温度が第1の温度(詳細は後述)に到達したことが判定されると、ウエハ2の処理対象膜に対するエッチング処理が開始される。
【0050】
<フローチャートにおけるウエハ処理>
最初のステップS101は、ウエハ2に形成された処理対象膜について、エッチングされるべき残り膜厚さを判定するステップである。本ステップでは、当該ウエハ2を用いて製造される半導体デバイスの設計、仕様の値を適宜参照して、処理対象膜の残り膜厚さ(以下、「加工残量」ともいう。)が制御部40において判定される。本ステップは、処理対象膜に対しウエハ2が搬入されてから初めてエッチング処理を施す場合および既にエッチング処理が施されている場合の両方の場合に行われる。制御部40の演算部41は、内部に配置された記憶装置に格納されたソフトウエアを読み出し、これに記載されたアルゴリズムに則って演算を行う。制御部40は、処理室1に搬入される前の当該ウエハ2に実施された処理による累積の加工の量(以下、「累積加工量」ともいう。)の値と処理室1に搬入された後に実施された処理による累積加工量とを算出し、ウエハ2を用いて製造される半導体デバイスの設計、仕様の値に基づいて本願発明の技術による追加の加工が必要か否か、を判定する。また、本実施形態では、加工量は物理吸着層の層単位で判定される。数層の物理吸着層が被覆するまでの時間は厳密には被加工試料の形状や加工段階などにも依存するので、事前の実験に基づいて決定された値に安全裕度を持たせて設定することが望ましい。
【0051】
なお、図2に示された処理が少なくとも1回施された結果としての累積加工量は、ステップS103~ステップS109からなる1纏まりの処理サイクルの累積回数と、予め取得された当該処理サイクル1回あたりの加工量(サイクル加工レート)とから簡易的に求めることができる。このようにして求めた累積加工量の値は、あくまでも簡易的に推算した値であるため、当該試料の表面分析や膜厚モニタリング装置(図示せず)の出力結果、加工形状や表面粗さなどの様々なプロセスモニタリングの計測結果、あるいはこれらの組み合わせから判定されてもよく、必要に応じて、サイクル加工レートからの簡易推計累積加工量と組み合わせ、修正・補正することが望ましい。
【0052】
ステップS101において、加工残量が0と判定された場合、または0とみなせる許容値δ0を設定し加工残値が許容量δ0より小さいと判定された場合には、処理対象の膜に対して処理を終了する。必要に応じて、例えば、ICPプラズマを用いるRIE(Reactive-ion Etching)エッチング等のプラズマを用いるエッチング処理を行なってもよい。
【0053】
加工残量が0でない(或いはδ0以上である)と判定された場合には、次のステップS102に移行する。ステップS102においては、ウエハ2に形成された処理対象の膜の加工残量を所定の閾値と比較する。閾値より大きいと判定された場合にはステップS103Bに移行し、閾値以下と判定された場合にはステップS103Aに移行する。以降の説明においては、ステップS103Bから以降ステップS106Bまでの工程を工程Bと称し、ステップS103AからステップS107Aまでの工程を工程Aと称す。
【0054】
次に、図3および図4の参照も加えながら、本実施形態の半導体製造装置100において行われるウエハ処理を説明する。
【0055】
(工程B)
図3は、ステップS103B乃至S106Bを含む工程Bのタイムチャートを示す図である。図4は、ステップS103A乃至S107Aを含む工程Aのタイムチャートを示す図である。なお、これらの図は、本実施形態のウエハ2のエッチング処理中におけるウエハ2の温度、ガス供給および排気の動作を模式的に示している。図において示される温度、温度勾配や制御時間は、被エッチング材、処理ガスの種類(組成)、半導体デバイスの構造等を考慮して適宜に選択される。
【0056】
まず、図3のチャート230に示されるように、ウエハ2には静電吸着が行われまたウエハ2裏面にHeガスが導入されている。このようにして、チャート240に示されるように、ウエハ2の温度が第1の温度T1に維持される。
【0057】
図2のステップS103Bにおいて、図3のチャート200に示されるように、タンク45に溜められた薬液44の蒸気の供給がマスフローコントローラ50-5によって開始される。薬液44の蒸気は、処理室1内部に載置されたウエハ2の処理対象膜を、揮発性を有する有機金属錯体へと変換するための成分を有しており、エッチング処理のための有機ガスである。
【0058】
この有機ガスは、処理対象膜と反応して有機金属錯体を形成させるためのガスなので、本開示では簡便のために、以下、錯体化ガスと呼ぶこともある。本実施形態では、錯体化ガスの供給条件(供給量、供給圧力、供給時間、ガス温度等)や錯体化ガスの種類は、当該半導体デバイス内の処理対象膜の元素組成、形状、膜厚、デバイス内の膜構成を考慮して決定される。制御部40からの制御信号に基づいて、マスフローコントローラ50-5が制御される。
【0059】
図2のステップS103Bにおいて、ウエハ2に形成されている処理対象膜の表面に錯体化ガス分子の物理吸着層が形成される。制御部40は、ステップS103Bにおいて必要最小限の層数の物理吸着層が形成されることを判定する。このステップは、ウエハ2の温度を錯体化ガスの沸点と同等かそれよりも低い温度範囲に維持して実施される。図3のチャート240に示されるように、ウエハ2は第1の温度T1に設定されており、第1の温度T1が錯体化ガスの沸点に基づいて設定された温度範囲にある。なお、チャート230に示されるように、ウエハ2には静電吸着が行われず、またHeガスの供給も停止されている。
【0060】
図2のステップS103Bにおいて所定の錯体化ガスを供給した後、ステップS104Bに移行して、ウエハ2の温度を第2の温度T2に昇温する。ステップS104において、非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有する物質を含む有機ガスを供給しつつ、ウエハ2を加熱することにより、処理対象膜と有機ガスとの化合物が形成される。このステップにおいて、錯体化ガスの供給が継続されている状態でIRランプ62にIRランプ用電源64から電力を供給してIR光を放射させ、ウエハ2にIR光が照射される。図3のチャート220に示されるように、IRランプ62の電力は、所定の期間だけ上昇されたのちに低下させ、その後、一定に保つように制御される。このIR光照射により、チャート240に示されるように、ウエハ2が加熱されて速やかに第2の温度T2に昇温される。ウエハ2を加熱して第1の温度T1より高い所定の第2の温度T2まで昇温させてその温度に維持することによって、処理対象膜の表面における反応が活性化され、膜表面に物理吸着している錯体化ガスの分子の吸着の状態が物理吸着状態から化学吸着状態に変化する。
【0061】
さらに、次のステップS105Bにおいて、ウエハ2の温度が第4の温度T4に昇温される。このステップにおいて、処理室1内への錯体化ガスの供給が継続されている状態でIRランプ62から放射されるIR光を照射してウエハ2を加熱し、図3のチャート240に示されるように、ウエハ2の温度を第2の温度T2より高い第4の温度T4に昇温させる。チャート220に示されるように、IRランプの電力は、所定の期間だけ上昇されたのちに低下させ、その後、一定に保つように制御される。このIR光照射により、チャート240に示されるように、ウエハ2が加熱されて速やかに第4の温度に昇温される。第4の温度T4まで昇温させてその温度に維持することによって、(1)処理対象膜表面に生成した有機金属錯体が揮発して当該膜表面から脱離して除去される第1の現象、および(2)継続的に供給されている錯体化ガスが処理対象膜の表面と反応して有機金属錯体が形成される第2の現象、が並行して進行する。ステップS105Bについて、処理対象膜表面の特定の小さな領域を微視的に見れば、当該領域の膜表面で(1)→(2)→(1)→(2)という順で膜表面の錯体の揮発(脱離)による除去と新しい錯体の形成とが断続的あるいは段階的に進行するが、当該処理対象膜の表面を全体として見た場合には、実質的には連続的なエッチングが進むと捉えることができる。
【0062】
その後、図2のステップS106Bに移行し、錯体化ガスの供給を停止して、処理室1の内部を排気する。ステップS106Bにおいて、ステップS102の工程における比較の結果に基づいて、ステップS104Bの工程の後にウエハ2をさらに加熱して所定の温度まで昇温させてウエハ2の表面から有機金属錯体を脱離させる。ステップS106Bにおいては、有機ガスを供給しつつウエハ2を加熱して連続して前記所定の温度まで昇温させる。図3のチャート200に示されるように、錯体化ガスの供給が停止される。上記ステップS101からS105BおよびS106Bの工程が実施されている間は、ポンプ15は継続して駆動している。ポンプ15と処理室1とを連結する真空排気配管16を経由して、処理室1の排気が継続している。
【0063】
ステップS106Bにおいては錯体化ガスの供給が停止されるので、処理対象膜から揮発した有機金属錯体を含むガスが全て処理室1から排気される。この時、錯体化ガスを供給するための配管、具体的にはマスフローコントローラ50-5から処理室1までの配管内に滞留している未反応の錯体化ガスも処理室1を経由して真空排気配管16およびポンプ15によって排出される。また、S106Bの後に実施される工程においても、排気が継続して行なわれる。
【0064】
(工程A)
一方、図2のステップS103Aにおいて、図4のチャート200に示されるように、錯体化ガスの供給が開始される。制御部40においてステップS103Aにおいて必要最小限の層数の物理吸着層が形成された後、ステップS104Aに移行して、IRランプ62から放射されるIR光を照射してウエハ2を加熱し、図4のチャート240に示されるように、ウエハ2の温度を第2の温度T2に昇温させる。図4のチャート220に示されるように、IRランプの電力は、所定の期間だけ上昇されたのちに低下させ、その後、一定に保つように制御される。
【0065】
工程Bのステップ103Bの場合と同様に、錯体化ガスの供給条件(供給量、供給圧力、供給時間、温度)や錯体化ガスの種類(組成)は、当該半導体デバイス内の処理対象膜の元素組成、形状、膜厚、デバイス内の膜構成を考慮して決定される。また、ステップS104Aでは、ステップS104Bの場合と同様に、ウエハ2の温度が第2の温度T2への昇温された後にその温度に維持することによって、処理対象膜の表面における反応が活性化され、膜表面に物理吸着している錯体化ガスの分子の吸着の状態が物理吸着状態から化学吸着状態に変化する。ステップS104において、非共有電子対を保有する置換基を少なくとも2つ分子内に有する物質を含む有機ガスを供給しつつ、ウエハ2を加熱して処理対象膜と有機ガスとの化合物が形成される。
【0066】
ステップS104Aの処理によって錯体化ガスは処理対象膜の表面に化学吸着した状態となるが、この状態では、錯体化ガスの分子と、処理対象膜に含まれる金属原子、例えば処理対象膜がAl膜の場合のAl原子、との間は化学的な結合で強固に固定されている。言い換えると、錯体化ガスの分子は、処理対象膜の表面に“ピン止め”されているとも言える。
【0067】
その結果として、錯体化ガスの分子が処理対象膜の表面から拡散していく拡散速度は遅い。処理対象膜の表面に形成された化学吸着層を介して錯体化ガス分子が処理対象膜の内部へと拡散する速度は、特に遅い。膜内部への拡散が遅いことに起因するレベリング(表面均質化)効果により、S103AからS107Aまでのステップの間に処理対象膜の表面凹凸が平滑化される。なお、錯体化ガスの分子がピン止めされている状態は、ステップS104Bにおいても発生していると考えられる。
【0068】
次のステップS105Aにおいて、錯体化ガスの供給を停止して、処理室1の内部を排気する。処理室1の内部を排気することにより、処理対象膜の表面に化学吸着している状態の錯体化ガスを残すほかは、未吸着状態や物理吸着状態となっている錯体化ガスは全て処理室1から排気される。また、錯体化ガスを供給するための配管、具体的にはマスフローコントローラ50-5から処理室1までの配管内に滞留している未反応の錯体化ガスも処理室1を経由して真空排気配管16およびポンプ15、該配管に付設されたガスパージ機構および真空機構によって排出される。
【0069】
次のステップS106Aにおいて、ウエハ2の温度が第3の温度T3に昇温される。ステップS106Aおよび後述するS107Aにおいて、ステップS102の工程における比較の結果に基づいて、ステップS104Aの工程の後にウエハ2をさらに加熱して所定の温度まで昇温させてウエハ2の表面から有機金属錯体を脱離させる。ステップ106AおよびステップS107Aにおいては、有機ガスの供給を停止した後にウエハ2を複数の段階で加熱して所定の温度まで昇温させる。制御部40からの指令信号に応じて、ステップS104Aから継続照射されているIRランプ62からのIR光の照射強度を大きくしてウエハ2の温度を第3の温度T3へ昇温させる。図4のチャート220に示されるように、IRランプの電力は、所定の期間だけ上昇されたのちに低下させ、その後、一定に保つように制御される。このIR光照射により、チャート240に示されるように、ウエハ2が加熱されて速やかに第3の温度T3に昇温される。このステップにおいてウエハ2の温度が第3の温度T3に昇温された後にその温度に維持されることによって、処理対象膜の表面に化学吸着している状態の錯体化ガスの分子は、膜表面の処理対象膜との間の錯体化反応により、揮発性の有機金属錯体へ徐々に変換される。このステップでは、図4のチャート200に示されるように、錯体化ガスの供給は停止されている。上述の通り、化学吸着して処理対象膜の表面に固定化されている以外には錯体化ガスは処理室1内には存在していない。有機金属錯体層の生成量は化学吸着層の量によってほぼ規定され、有機金属錯体層の厚みは化学吸着層の厚みと同等あるいはそれ以下となる。
【0070】
次のステップS107Aにおいて、ウエハ2の温度が第4の温度T4に昇温される。継続して出射され続けているIRランプ62からのIR光の照射強度をさらに大きくしてウエハ2の温度を第4の温度T4へ昇温させ、ウエハ2の温度を第4の温度T4に維持する。図4のチャート220に示されるように、IRランプの電力は、所定の期間だけ上昇されたのちに低下させ、その後、一定に保つように制御される。このIR光照射により、チャート240に示されるように、ウエハ2が加熱されて速やかに第4の温度T4に昇温される。この工程において、前のステップS106Aで形成された有機金属錯体が揮発し脱離する温度が維持され、当該有機金属錯体が処理対象の膜の表面から除去される。
【0071】
(工程Aおよび工程Bの作用)
ステップS103A→ステップS104A→ステップS105A→ステップS106A→ステップS107Aの一連の工程から構成される工程Aと、ステップS103B→ステップS104B→ステップS105B→ステップS106Bの一連の工程から構成される工程Bとは、ウエハ2を第2の温度T2へ昇温させて遷移金属を含有する膜の表面に化学吸着層を生成する点は同じである。しかし、当該化学吸着層が有機金属錯体へ変換されるステップ以降において両者は異なる処理になっている。
【0072】
すなわち、工程Aに示されるように、錯体化ガスの供給を停止した状態で有機金属錯体が揮発して除去される第4の温度T4まで当該有機金属錯体またはこれを表面に有する膜の温度が上昇すると、化学吸着層から変換された1層から数層程度の有機金属錯体の揮発除去が終了して、その直下にある処理対象膜が処理室1内に露出した時点で反応は終息する。一方、工程Bに示されるように、錯体化ガスの供給を継続したまま有機金属錯体が揮発して除去される第4の温度T4まで昇温すると、化学吸着層から変換された1層~数層程度の有機金属錯体の揮発除去が終了して、その直下にある未反応の処理対象膜が露出すると、その露出した処理対象膜は第4の温度T4に加温されて反応活性度が増加しているので、錯体化ガスとの接触によって直接的に有機金属錯体に変換される。さらに、生成した有機金属錯体は速やかに揮発し除去されることになり、全体として連続的な処理対象の膜のエッチングが進行する。
【0073】
工程Bは、処理対象膜が直接的に有機金属錯体に変換され、さらに揮発し除去されるという反応であるから、処理対象膜表面に存在する化学的に高活性な微小の領域、例えば、結晶粒界や特定の結晶方位などが優先的に有機金属錯体へ変換されて除去されるという現象を呈する。また、化学吸着層が生成する際には自己組織的な面配向成長過程となるが、工程Bではこの自己組織的な面配向成長過程を経ないまま直接的に有機金属錯体層が生成することになるので、その有機金属錯体層は配向性をほとんど持たない。その結果として、処理後の処理対象膜の表面は平坦化されず、むしろ、凹凸が増大して粗面化が進む。
【0074】
一方、工程Aは、化学吸着層が形成される際の自己組織的配向の作用、および自己組織的に配向成長した化学吸着層内で錯体化ガス分子の拡散速度が抑制される作用により、処理対象膜、例えばAl膜の表面は平坦化が進むことになる。
【0075】
なお、第4の温度T4は、錯体化ガス分子の分解開始温度や有機金属錯体分子の分解開始温度よりも低く、かつ、有機金属錯体分子の揮散開始温度よりも高くなるように、ウエハ2の処理前に事前に評価を行なったうえで設定される。また、有機金属錯体分子の分解開始温度と揮散開始温度との温度差が小さくて、半導体製造装置100の仕様、例えば、ステージ4上面の面方向についての温度の均一性の特性を鑑みた場合に当該温度差が不十分な場合には、有機金属錯体分子の揮散開始温度を低下させるための既存の方法、例えば、平均自由程を広げるために処理室1内を減圧する等の方法を適用してもよい。
【0076】
事前の評価により、有機金属錯体分子の分解開始温度が揮散開始温度よりも低温であると判明した場合には、当該被加工膜の材質と当該エッチング用有機ガス分子との組み合わせが不適切なので、後述するエッチング用有機ガスの候補材料の中から別の物質を選定しなおす。なお、この当該被加工膜の材質と当該エッチング用有機ガス分子との組み合わせの不整合を積極的に活用することにより、多層膜構造のなかの特定材質の層だけを選択的にエッチングすることができる。
【0077】
(工程Aおよび工程B以降のステップ)
次に、工程Aおよび工程Bの後に実施する共通のステップについて説明する。ステップS108に移行してウエハ2の冷却が開始される。図3および図4のチャート220に示されるようにIRランプの電力供給が停止されることになるが、S108開始前に錯体化ガスを確実に排気する処理が行なわれる。図3および図4のチャート200に示されるように、S108開始前の時点で既に錯体化ガスの供給は停止し、かつ、錯体化ガスを供給するための配管、具体的にはマスフローコントローラ50-5から処理室1までの配管内に残留・滞留している未反応の錯体化ガスも既に排気終了しているはずである。しかし、何らかのトラブル・想定外事象等によってどこかに残留している場合には、それが異物発生原因となるリスクがあるので、本実施形態では処理室1を経由して真空排気配管16およびポンプ15によって排出する操作が再度実施される。
【0078】
また、配管内壁に吸着・貯蔵している錯体化ガスを排除するために、冷却ステップS108に移行する前に、マスフローコントローラ50-5から処理室1までの配管内部を不活性ガスで満たしその後に排気する、いわゆるパージ操作も行なわれる。マスフローコントローラ50-1、50-2、50-3、50-4、50-5から処理室1までの配管内に残留・滞留しているガスを確実に排気するために、必要に応じて、捨てガス経路(図示せず)が設けられていてもよい。
【0079】
工程AおよびBのいずれのフローの場合にも、ステップS108に移行してウエハ2の冷却が開始され、ステップS109においてウエハ2の温度が所定の第1の温度に到達したことが検出されるまで、ウエハ2の冷却が続けられる。図3および図4のチャート230に示されるように、ウエハ2の静電吸着が行われかつウエハ2裏面にHeガスが供給される。基板冷却ステップS108では、ステージ4とウエハ2との間に冷却ガスが供給されることが望ましい。冷却ガスとしては、例えばHeやArなどが好適であり、Heガスを供給すると短い時間で冷却できるので加工生産性が高まる。なお、上述の通り、ステージ4の内部にはチラー38に接続された流路39が設けられているので、ステージ4の上に静電吸着しているだけでHe等の冷却ガスを流さない状態でもウエハ2は徐々に冷却される。
【0080】
上述の通り、ステージ4の内部には、ステージ4の温度を測定するための熱電対70やウエハ温度を検知するための光ファイバ92などが複数個所に配置されており、それぞれ対応する熱電対温度計71や検出器97などに接続されている。ウエハ2やウエハステージ4の温度を適切に計測するための手段であれば測温手段として代替可能である。これらの測温手段によって得られた信号に基づいて、ステージ4が予め定められた所定の温度、例えば図3および図4のチャート240に示されるように第1の温度T1に到達したことが制御部40により検出されると、ウエハ2の処理対象膜をエッチングする処理の1つのサイクルが終了する。
【0081】
ウエハ2の温度が第1の温度T1に到達したことが制御部40に判定され、第1回目のサイクル処理が終了した後、ステップS101に戻って加工残量が0に到達したか否かが判定される。上記のように、加工残量が0に到達したことが制御部40に判定されると、ウエハ2の処理対象膜のエッチング処理が終了され、加工残量が0より大きいと判定された場合には再度ステップS102に移行して工程Aまたは工程Bのいずれかの処理が実施される。
【0082】
具体的には、判定結果が「加工残大」となった場合には、上述の通り、ステップS103BからS106B、S108、S109の順に処理を行なう。一方、S102の判定結果が「加工残小」となった場合には、ステップS103AからS107A、S108、S109の順に処理を行なう。
【0083】
ウエハ2の処理を終了する場合は、冷却用のHeガスの供給が停止される。さらに、Heガス供給経路と真空排気配管16との間を接続する捨てガス経路上に配置されたバルブ52が閉から開になってウエハ2裏面からHeガスを排出する工程と、さらに、ウエハ2の静電吸着の解除の工程が実施される。
【0084】
この後、ベースチャンバ11のウエハ搬入出口を通して、処理済みウエハ2が搬送ロボットに受け渡され、次に処理されるべき未処理のウエハ2が搬入される。当然ながら、次に処理されるべき未処理のウエハ2がない場合にはウエハ搬入出ゲートが閉塞されて、半導体製造装置100による半導体デバイスを製造する運転が停止する。
【0085】
なお、本実施形態では、上記の工程Aおよび工程Bの各々で設定される第2の温度T2、第3の温度T3、第4の温度T4は、工程Aと工程Bの間で必ずしも同じ値である必要はない。ウエハ2の処理前に事前に慎重に検討されて適切な当該温度の範囲が設定しうる。制御部40はウエハ2の処理対象膜の仕様に応じて工程Aおよび工程Bにおける各ステップの温度を設定する。
【0086】
[実施例1]
次に、本実施形態の半導体製造装置において実施される半導体製造方法を具体的な事例に即して説明する。
【0087】
本実施例では、ウエハ2のエッチング処理を開始する前の段階として、ウエハ2を搬送して処理室1内のステージ4上に吸着して保持させる。ウエハ2の表面には所望のパターン形状に加工された典型金属元素を含有する処理対象膜、例えばAl膜表面があらかじめ成膜されており、その一部が露出した状態となっている。
【0088】
ウエハ2をステージ4上に静電吸着して保持させた後、処理室1の内部を減圧してウエハ2を加熱する。ウエハ2が加熱されて温度を上昇することにより、ウエハ2の表面に吸着されている気体(水蒸気など)や異物を脱離させる。
【0089】
ウエハ2の表面に吸着されているガス成分が十分に脱離したことが確認されると、処理室1内部が減圧された状態を維持したまま、ウエハ2の加熱が停止されてウエハ2の冷却が開始される。この工程において加熱や冷却は公知の手段を用いることができ、例えば、加熱としては、ステージ4内部に配置されたヒータの熱伝導やランプから放射された光の輻射が用いられる。
【0090】
これら加熱以外にも、例えば、処理室1内に形成したプラズマによる表面の灰化(アッシング)やクリーニング等を用いてウエハ2に付着した異物の除去が行われても良い。なお、ウエハ2の表面が十分に清浄で吸着・付着物などがないことが確実に分かっている場合などにはこのウエハ加熱工程は省略してもよいが、処理室1、特に処理室1の内壁をウォームアップするという観点から、実施することが望ましい。
【0091】
ウエハ2の温度が低下して予め定められた第1の温度T1あるいはそれ以下の温度に到達したことが制御部40によって判定されると、図2に示されたフローチャートに沿ってウエハ2の処理が行なわれる。なお、ウエハ2が処理の開始前、例えば処理室1内に搬入される前に、ウエハ2の処理対象の膜を処理する際のガスの種類や流量、処理室1内の圧力等の処理の条件、いわゆる処理のレシピが制御部40において検出される。例えば、ウエハ2の刻印等を読み取るなどの方法で各ウエハ2のID(Identification)番号を取得し、制御部40に接続されたネットワーク等通信用の設備を通して生産管理データベースからデータを参照して当該ID番号に対応するウエハ2のデータを取得する。データとしては、処理の来歴やエッチング処理の対象となる処理対象膜の組成や厚さ、形状、当該対象の処理対象膜をエッチングする量(目標とする残り膜厚さ、エッチングする深さ)やエッチングの終点の条件等が含まれる。
【0092】
例えば、ウエハ2に実施する処理が、所定の閾値(例えば0.5nm)より小さい0.2nmのAl膜を除去するエッチング処理であることが制御部40により検出された場合を仮定する。この場合には、アルミニウム(3+)および酸素(2-)のイオン半径はそれぞれ約0.5オングストローム、約1.3オングストロームであることから、原子または分子層ほぼ1層分のAlを除去する処理であると判定され、図2のステップS102における「加工残量≦閾値」と判定される。そして、工程Aのフロー(S103A→S104A→S105A→S106A→S107A)に従って、膜の処理を実施するように制御部40から半導体製造装置100の各部に信号が発信される。なお、工程Aを1サイクル行うごとに処理対象膜がエッチングされる量は予め計測されており、工程Aのサイクル処理量の計測値に基づいて上記の所定の閾値が設定される。
【0093】
一方、制御部40において、例えば所定の閾値(例えば0.5nm)を超えるAl膜5nm厚を除去する処理であると判定された場合には、10層分以上、20層近いAl層を除去しなければならない。上記の1層ずつエッチングする場合には当該処理を10回以上繰り返すことになり、処理の時間がn倍で大きくなって生産性が損なわれてしまう。そこで、先ず、複数層(例えば7~8層あるいはそれ以上)を纏めて除去し、その後に残る膜層を1層ずつ除去する処理を行う。本実施例では、このような場合に図2の「加工残量>閾値」と判定された後に移行する工程Bのフロー(S103B→S104B→S105B→S106B)に従って処理対象の膜を少なくとも1回実施して処理した後、工程Aのフロー(S103A→S104A→S105A→S106A→S107A)を実施し、工程Bのフローと工程Aのフローの合計でAl膜5nm厚が除去される。工程Bを1サイクル行うごとに処理対象膜がエッチングされる量は予め計測されており、工程Bのサイクル処理量の計測値とエッチング除去量に基づいて工程Bの繰り返し回数が設定される。
【0094】
図2に示される工程Aの最初のステップS103Aおよび工程Bの最初のステップS103Bは、処理対象膜の表面に錯体化ガスの物理吸着層を形成させる処理であり、錯体化ガスの沸点と同等かそれよりも低い温度にウエハ2の温度を維持して実施される。例えば、錯体化ガスの沸点が約300℃である場合には、ウエハ2の温度を250℃から280℃程度、あるいは最高温度が約300℃までの範囲に設定することが一般的である。
【0095】
例えば、2-シアノフェノールは、沸点約300℃の有機物であり、錯体化ガスに適している。2-シアノフェノールを使用する場合の好ましい第1の温度T1は200℃程度から280℃までの範囲であり、さらに好ましくは220℃から270℃の範囲である。第1の温度T1が200℃を下回ると、次のステップS104A、S104Bに移行する段階での温度昇降のために時間がかかるため、生産性が低くなってしまうリスクがある。逆に第1の温度T1が280℃を上回ると、2-シアノフェノールの吸着効率(付着特性)が低下するため、短時間で所定量の吸着を行なわせるために2-シアノフェノールのガス流量を大きくせねばならず、ガスの消費量が増大し運転コストを増大させてしまう虞がある。
【0096】
このように、ステップS103AまたはS103Bにおいて物理吸着層が形成された後、ステップS104A、S104BにおいてIRランプ62から出射されたIR光によってウエハ2が加熱され、速やかに第2の温度に昇温される。これにより、処理対象膜の表面の錯体化ガスの吸着状態を物理吸着状態から化学吸着状態に変化させる。この工程における昇温は、処理対象膜の表面に吸着した錯体化ガスの分子の吸着状態に変化を引き起こすための活性化エネルギーを与えるためである。
【0097】
第2の温度は、処理対象膜の表面の状態と錯体化ガスの特性(反応性)の両者の影響を考慮して決定される。処理対象膜としてのAl膜に対して、例えば、2-シアノフェノールを主成分とする錯体化ガスが供給された場合、第2の温度は220℃から310℃程度の範囲にあり、処理対象膜の状態や後述する第3の温度とのバランス等を総合的に考慮して、その範囲で適正な条件が確定される。2-シアノフェノールを主成分とする錯体化ガスの場合、220℃よりも低いと化学吸着層への変換に要する時間が長く掛かり、310℃を超えると化学吸着状態で留まらずに有機金属錯体にまで変換されてしまう。また、減圧下で供給する場合は、後述の通り有機金属錯体が揮散し始める温度を超えているので、膜厚の制御性が低下してしまう虞がある。
【0098】
次に、工程Bの場合には、錯体化ガスの供給を維持したまま、IRランプ62を使った赤外線加熱をさらに続けると共にIRランプ62に供給する電力を増やして第4の温度にまで昇温させる(ステップS105B)。第4の温度は、処理対象膜の表面材料と錯体化ガスとが反応して生成する揮発性有機金属錯体の熱分解が生じる温度よりも低く、かつ、昇華あるいは揮散が開始する温度と同じ又はそれ以上の温度に設定される。
【0099】
ステップS105Bにおいては、ウエハ2の温度を第4の温度に設定した後、少なくともステップS106Bで錯体化ガスの供給が停止されるまで期間、ウエハ2の温度が第4の温度T4に維持される。このようなフローにより、工程Bにおいて処理対象膜の表面が実質的に連続してエッチングされる。
【0100】
一方、工程Aの場合、ステップS105Aに示されるように2-シアノフェノールなどの錯体化ガスの供給を停止して、処理室1の内部を排気した後に、ステップS106Aに示されるようにIRランプ62を用いてウエハ2を加熱して第3の温度まで昇温させる。Al膜の温度が第3の温度に所定期間維持されることでAl膜の表面に生成された化学吸着層が有機金属錯体に変換される。
【0101】
第3の温度は、第2の温度と同等またはこれより高くかつ有機金属錯体分子の揮散開始温度よりも低い範囲内であって、半導体製造装置100や制御部40での温度制御の安定性や熱電対温度計71あるいはその代替温度計測手段によるウエハ2やウエハステージ4の温度計測精度などを考慮して、適正な範囲内の値に設定される。処理対象膜としてAl膜、錯体化ガスとして2-シアノフェノールを主成分とする混合ガスを用いるエッチング処理の場合、発明者の実験によると有機金属錯体分子の揮散開始温度は減圧条件下で270℃付近であったことを鑑みて、第3の温度として適正な最高温度は250℃付近となる。
【0102】
また、ステップS106Aで設定される第3の温度にウエハ2が所定の期間維持された後に、ステップS107Aにおいては、IRランプ62から出射されるIR光の強度を少し大きくして、ウエハ2の温度を第4の温度に昇温させる。ウエハ2が第4の温度T4に維持されることにより、化学吸着層から変換された有機金属錯体が揮発除去される。ステップS107A開始時点では、有機金属錯体は1~数層、せいぜい5層しか生成していないので、第4の温度に到達後には、速やかに揮発除去される。
【0103】
有機金属錯体が揮発して除去されると、処理対象膜、あるいは処理対象膜の下に配置されているシリコン化合物などの層が露出した時点で、1サイクル分の反応は終息する。なお、処理対象膜として例えばAl膜、錯体化ガスとして2-シアノフェノールを主成分とする混合ガスを用いた処理の場合、第4の温度の好適な範囲はおおむね270℃から400℃の範囲である。270℃よりも低温だと昇華・揮散する速度が遅くて処理の効率が損なわれてしまい、逆に400℃を超えると有機金属錯体が昇華・揮散する過程で該錯体の一部が熱分解して異物化し、ウエハ2表面や処理室1内部に付着してしまう等の虞がある。
【0104】
[変形例1]
次に、図5を参照して、エッチング処理の変形例を説明する。ウエハの温度を第2の温度に昇温することと同時に錯体化ガスを供給する点で、実施形態および実施例1と異なる。以下の説明において、上述の実施形態および実施例1と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0105】
図5は、半導体製造装置において行われる変形例のタイムチャートを示す図である。
【0106】
まず、図2に示した実施形態と同様に、ステップS101、S102が行われ、エッチング処理の加工残量の検出の工程と当該残量と閾値との比較が行われる。次に、制御部40によってウエハ2の温度が予め規定された第1の温度あるいはそれ以下であることを判定された後、ステップS103Cが行われる。ステップS103Cにおいて、チャート200に示されるように処理室1内に錯体化ガスが供給され、処理対象膜の表面に錯体化ガスの分子を吸着させて物理吸着層を形成させる処理が開始される。
【0107】
ステップS103Cを開始後速やかに、チャート220に示されるように、IRランプ62に電力が供給されて赤外線が放射され、これによりチャート240に示されるようにウエハ2が加熱されてウエハ2の温度が速やかに第2の温度T2に昇温される。チャート240に示されるように、予め定められた期間の間、ウエハ2の温度を第2の温度に維持しつつ、処理室1へ錯体化ガスの供給が継続される。このため、ステップS103Cの期間中に、処理対象膜の表面に錯体化ガス成分の物理吸着層が形成される反応と当該物理吸着層が化学吸着層に転換される転換反応とが並列して連続的に進行する。
【0108】
その際、上述の通り、処理対象膜の表面に形成された化学吸着層を介して処理対象膜の内部へと錯体化ガス分子が拡散する速度は遅いので、化学吸着層の膜厚は処理時間に対して飽和する。概略第2の温度T2に保ちながら、所定の時間、錯体化ガスの供給を続ける処理を行なって化学吸着層の膜厚を飽和させた後に、チャート200に示されるように次のステップS105Cにおいて錯体化ガスの供給を停止する。
【0109】
図5に例示したプロセスフローでは、錯体化ガスを供給するステップS103Cの実施前の段階、言い換えるとウエハ2の温度があらかじめ規定された第1の温度T1あるいはそれ以下の時点から、チャート250に示されるようにポンプ15を駆動させ処理室1の内部圧を減圧状態に保っている。このため、ステップS105Cにおいて錯体化ガスの供給を停止すると、表面に化学吸着している状態の錯体化ガスを残すほかは、未吸着状態や物理吸着状態となっている錯体化ガスは全て処理室1の外に排気および除去される。なお、処理室1の内壁等に物理吸着したエッチング用有機ガスを処理室1の外への排気および除去を促進するためには、チャート260に示されるように少量のArガスを処理室1内部に供給し続けることが好ましい。
【0110】
Arガスの供給量や処理室1内の圧力は、処理対象膜や錯体化ガスの組成に応じて適宜調整が必要であるが、2-シアノフェノールを主成分とする錯体化ガスを用いてAl膜をエッチングする場合には、Ar供給量200sccm以下、処理室内圧力は0.5から3.0Torr程度が好ましい。さらに、好ましいAr供給量は概略100sccm、処理室内圧力は1.5Torr程度である。
【0111】
なお、Ar供給量が200sccmを超えて大きくなると、処理室1内での錯体化ガスの有効濃度が低くなって処理対象膜の表面への吸着効率が低下し、エッチング速度の低下を招くリスクが高まる。一方で、処理室内圧力が0.5Torrを下回ると、処理室1内での錯体化ガスの滞留時間が短くなって錯体化ガスの使用効率が低下するリスクが高まる。処理室内圧力が3Torrを上回るように調節するには、Ar供給量を200sccmあるいはそれ以上に設定することになり、処理対象膜の表面への錯体化ガスの吸着効率が低下し、エッチング速度の低下を招く危険性が高まる。
【0112】
次に、チャート220に示されるようにIRランプ62を使った赤外線加熱によって、チャート240に示されるようにウエハ2の温度を第4の温度T4にまで昇温させる。ステップS106Cにおいて、ウエハ2の温度は、所定の時間、概略第4の温度T4に保持される。第4の温度T4への昇温および温度保持の過程で化学吸着層から有機金属錯体への変換と該機金属錯体の揮発除去が進む。処理対象膜としてAl膜、錯体化ガスとして2-シアノフェノールを主成分とするガスを用いた場合、第4の温度T4の好適な範囲は270℃~400℃の範囲である。270℃よりも低温だと昇華または揮散が遅くて実用的なエッチング速度が得られず、逆に400℃を超えると有機金属錯体が昇華・揮散する過程で400℃以下の箇所に該有機金属錯体の一部が熱分解してしまい、ウエハ2の表面や処理室1内に異物として再付着する虞が大きくなる。
【0113】
処理対象膜、あるいは処理対象膜の下に配置されているシリコン化合物などの層が露出した時点で、有機金属錯体の揮発除去の処理は終了となる。その後、チャート220に示されるようにIRランプ62を使った赤外線加熱が停止されると、チャート240に示されるようにウエハ2からの放熱によって温度が下がり始める。半導体ウエハ2の温度が第2の温度T2あるいはそれ以下の温度に到達することで、1サイクル分の処理が終了となる。
【0114】
この後、ステップS102を経てS103C処理から始まる第2回目以降のサイクル処理を所望の回数繰り返すことにより、所定膜厚のエッチングを実現できる。図5に示した変形例は、図4に例示したもの簡略版であり、設定される温度の数を減らし、さらに特に時間がかかるS108の冷却ステップの温度幅を狭めたことによって1サイクルあたりの時間が短縮されている。
【0115】
[変形例2]
次に、上記したウエハ2のエッチング処理のさらに別の例を説明する。
【0116】
本例で使用するウエハ2の表面には所望のパターン形状に加工された典型金属元素を含有する第1の処理対象膜、例えばAl膜の他に、周期表第5周期より下の遷移金属元素を含有する第2の処理対象膜、例えばHfO膜があらかじめ成膜されており、その一部が露出した状態となっている。この例では、第1の処理対象膜としてのAl膜と、第2の処理対象膜としてのHfO膜とをそれぞれ選択的にエッチングするために、第1の処理対象膜のみをエッチングするための第1のエッチングガスと第2の処理対象膜のみをエッチングするための第2のエッチングガスを使いわける。
【0117】
以下により具体的に説明するが、ここに記載した膜構成(第1の処理対象膜と第2の処理対象膜の膜厚比など)はあくまでも一例であり、用途・目的に応じて必要な膜厚に調整しうる。第1の処理対象膜としてAl膜2.0nm厚と第2の処理対象膜としてHfO膜5.0nm厚が交互に積み重なってAl-HfO-Alという積層構成となっており、その最上層Al膜の上にパターン形成されたレジストが配置されている。最上層Al膜の一部がレジストパターン開口部から露出した状態で、ウエハ2表面に形成されている。
【0118】
このように処理対象膜を含み積層された膜構造を有するウエハ2は、上記の実施形態および実施例1と同様に処理室1内へ導入されて、ウエハステージ4上に吸着され固定された状態で、処理が施される層のエッチングすべき量が判定され、加工すべき厚みに応じて、工程Aあるいは工程Bのプロセスが選定され、選択された工程が実施される。この際に、異種の材料が積層した積層膜のうち、Alの層のみ、あるいはHfOの層のみを選択的にエッチングする場合には、それぞれAl膜2.0nm厚のみをエッチングするエッチング材を用いる処理ステップとHfO膜5.0nm厚のみをエッチングするエッチング材を用いるステップとを順次実施する。
【0119】
以下に、Al膜2.0nm厚のみ、HfO膜5.0nm厚のみの順にエッチングを実施する処理フローの例を説明する。最初にエッチングすべきAl膜は2.0nm厚であり、十分に大きい残膜厚なので1原子層ずつエッチングするのではなく、複数層分が連続的にエッチングされ除去される。つまり、図2の工程Bのプロセスを選定し、S103BステップでAl膜のエッチングに好適な第1の錯体化ガスを供給する工程からエッチング処理を開始する。
【0120】
本変形例において第1の錯体化ガスとしては、例えば2-シアノフェノールが挙げられる。2-シアノフェノールを主たる有効成分とする錯体化ガスはマスフローコントローラ50-5-1(図示せず)によって処理室1に供給される。その際、2-シアノフェノールは常圧下100℃以下では蒸気圧が小さいので、供給配管が加熱されると共に、配管内部が2kPa程度あるいはそれ以下の圧力まで減圧されることが望ましい。必要に応じて、減圧や加熱以外の気化促進手段、例えば超音波霧化、適切な溶媒に溶解させて得られる溶液を霧化、などの気化促進手段と組み合わせることにより、効率的に錯体化ガスを供給することができる。
【0121】
S103BステップでAl膜の最表面層には2-シアノフェノールが吸着して吸着層が生成し、S104B、S105B、S106Bと順次処理を進めることにより、Al と2-シアノフェノールの反応により得られた有機Al錯体層が生成した後に揮散除去される。その後、2.0nm厚のAl膜を除去するまでに必要な回数の工程Bのプロセスおよび工程Aのプロセスを実施してAl膜が除去されると、その下層にあるHfO膜5.0nm厚が露出する。
【0122】
なお、HfO膜は2-シアノフェノールと反応しないため、工程Bのプロセスのみを繰り返す事によってHfO膜上のAl膜を完全に除去することは可能であるが、工程BのプロセスだけでAl膜を除去する場合には、レジスト開口の裾部でサイドエッチングが生じて、所望のパターン形状、パターン寸法が得られなくなる場合がある。そこで、本例では、工程Bのプロセスが終了して、工程Aのプロセスに切り替えられるタイミングは、残り膜厚さよりも、Al膜の少なくとも一部が除去されてその下層のHfO膜の一部が露出しているか否かを基準として行われることが望ましい。ただし、本例で下層のHfO膜の一部が露出するような状態になった状態では、上層のAl膜の残膜厚も十分に小さいと言える。従って、HfO膜の一部が露出するような状態になった時点でのAl残り膜厚さを図2のS102ステップにおける閾値として用いることができる。
【0123】
次に、HfO膜の選択エッチングを実施する。第2の錯体化ガスとしては、例えば非特許文献1に記載されているHFとTiClである。HFガスをマスフローコントローラ50-5-2(図示せず)から1秒間供給した後に、パージガスとして窒素を30秒間、その後にTiClマスフローコントローラ50-5-3(図示せず)から2秒間、パージガスとして窒素を30秒間という4工程からなる処理を繰り返すことにより、HfO膜をエッチングできる。
【0124】
この処理条件下ではAl膜はエッチングされないが、HfO膜が選択的かつコンフォーマルにエッチングされるので、上記のAl膜のエッチング形状にならう形状にHfO膜のエッチングが進む。Al膜のエッチング形状は最上層のレジスト膜開口パターン形状にならって加工されているので、HfO膜にもその形状が転写されるのである。所望形状のHfO膜5.0nm厚が除去されるまでに約250回の繰り返し処理が行われると、HfO膜の下層にあるAl膜2.0nm厚が露出する。
【0125】
このようにして、本願発明の技術は公知技術と適宜組み合わせて使い分けることによって多層構造体の高精度選択加工を実現することができる。本実施形態では具体的にAl-HfO-Alという積層膜のうちの上層側から所望形状のAl-HfOを選択的に除去できることを説明した。ここで例示した以外の膜材料の組合わせおよび除去すべき膜厚の場合には、適宜、事前に適切な錯体化ガスを選定し、必要に応じて公知の技術と組み合わせることにより、多種類の積層膜でもエッチングが可能である。ただし上述の通り、公知技術では1層をエッチングするために多種類のエッチングガスを組み合わせて使う点に実用上の制約があることに留意が必要である。
【0126】
[錯体化ガスの成分]
次に、図6を用いて本願発明に好適な錯体化ガスの成分について説明する。図6は、錯体化ガスの成分の分子構造を示す図である。
【0127】
錯体化ガスの主たる有効成分は、被エッチング膜の中に含まれる金属原子の陽電荷に対して電荷的な相互作用、具体的には電子供与的な作用を示す非共有電子対を有する原子(電子供与性原子)を2個、あるいは2か所以上に有しており、かつ、その電子供与性原子同士が直接的に結合せず、電子供与性原子間には少なくとも1個以上の炭素原子がある(O-Oなどではなく、O-C-Oなどになっている)分子構造を有する物質である。
【0128】
なお、金属膜の中に含まれる金属原子の陽電荷に対して電子供与的な作用を示すπ電子を保有するならば、非共有電子対を有する原子の替わりとして機能する場合がある。例えば、インドール環の窒素原子上の電子対電子はインドール環全体のπ共役に組み込まれているが、インドール環全体として金属原子の陽電荷に対して電子供与的な作用を示す。エッチングガス有効成分の分子が金属原子の陽電荷に対して電子供与的な作用を示す分子構造を2か所以上に有していると、被エッチング膜の金属元素の陽電荷に対して電子供与することによって電子供与型かつ逆供与型の強固な配位結合を形成して熱的に安定な錯体化合物を形成する。
【0129】
このような分子構造をもつ物質の具体例としては、例えば、下記分子構造式(1)~分子構造式(3)の特徴を有する物質がある。このような分子構造を有する物質を少なくとも1種類含めて、必要に応じて、これらを適切な希釈材に溶解させて得られる液体を錯体化ガスの原料となる薬液44として用いる。適切な希釈材に溶解させた液体を用いることにより、希釈材が錯体化ガスの有効成分の気化を促進し、さらに、気化した希釈材がキャリアガスとして機能することにより、スムーズな供給が可能となる。
【0130】
(分子構造式(1))
図6(1)に例示される分子構造は、非共有電子対を持つOH基がベンゼン環に結合したフェノール骨格を有する。該OH基が結合している炭素原子からみて隣接する位置Y(オルト位置)に電子供与的な作用を示す置換基として、OH基、OCH基、OCOCH基、OCONH基、NH基、N(CH)基などから選ばれる1つの置換基を有する。また、該OH基が結合している炭素原子からみてベンゼン環の対角位置X(パラ位置)にハロゲン原子(F、Cl、Br、I)のいずれかが結合していても良い。
【0131】
(分子構造式(2))
図6(2)に例示される分子構造は、電子供与的な作用を示す非共有電子対を持つ部分構造であるOH基がベンゼン環に結合したフェノール骨格を有する。該OH基が結合している炭素原子からみて隣接する位置X(オルト位置)にはCN基、CH=CH-CH基、CH=CH-CN基、CH=CH-COCH基などから選ばれる1つの置換基を有している。該OH基が結合している炭素原子からみてベンゼン環の対角位置X3(パラ位置)にはCH=O基、CN基、NO基などから選ばれる1つの置換基が結合していても良い。
【0132】
オルト位置にCN基を有している場合が2シアノフェノールであり、オルト位置にCH=CH-COCH基を有している場合がo-ヒドロキシ桂皮酸エステルであり、CN基やCH=CH-COCH基の不飽和結合箇所に非共有電子対を有する原子の替わりとして電子供与的に機能するπ電子を保有している。またCN基やCH=CH-COCH基が保有する誘起的電子吸引作用により、該OH基の反応活性が高められている。
【0133】
なお、位置XおよびXはHを有する。また、位置Xには、H、CH=O基、CN基、NO基、SOCH基、CH=CH-CH基、CH=CH-CN基、CH=CH-COCH基などから選ばれる1つの置換基を有する。
【0134】
(分子構造式(3))
図6(3)に例示される分子構造は、カルボニル基を有する脂肪族4員環化合物であって、該カルボニル基は非共有電子対を持つ部分構造であるO原子と結合している。この構造は、電子供与的な作用を示す非共有電子対を有する原子(電子供与性原子)として4員環の外側に突き出したカルボニル基のOと4員環の環を形成しているOの2個を保有し、電子供与性原子間には少なくとも1個の炭素原子が配置されている物質である。具体例を挙げると、位置Rがメチル基の場合がβブチロラクトンである。
【0135】
図6(1)や(2)に例示される分子構造は電子供与的な作用を示す原子、あるいは置換基を少なくとも2か所に保持しており、被エッチング膜に含まれる金属原子が保持する陽電荷との間で静電的な相互作用を示して効率的な吸着が起こる。吸着状態で加熱されることにより、電子供与的な作用を示す原子と被エッチング膜に含まれる金属原子との間でお互いの電荷を打ち消しあうように2本の配位結合が生成して有機金属錯体となる。
【0136】
上述の通り、この配位結合は、電子供与型かつ逆供与型の強固な結合であり、しかもその結合を2か所で形成しているため、熱的に安定な錯体化合物である。単なる酢酸や単なるギ酸と典型金属との反応で得られる金属酢酸塩や金属ギ酸塩では結合は1か所であるためその安定性は必ずしも高くない。それに対し、本願発明の技術で中間生成する有機金属錯体は、これらのカルボン酸塩類と比べて熱的な安定性は著しく改善されており、その結果として、揮散し除去されやすいのである。
【0137】
図6(3)に例示される分子構造は、図6(1)や(2)の分子構造よりも分子断面積が小さいので、低温で揮発しやすい特性を有し、比較的簡易な構造の気化供給器47でも効率的に気化できる。この分子構造を持つ物質が被エッチング膜の表面に吸着すると、被エッチング膜に含まれる金属原子が保持する陽電荷との間での静電的な相互作用によって脂肪族4員環が開環した後に金属元素を環内に取り込んだ5員環あるいは6員環構造の有機金属錯体に変換される。得られた環状の有機金属錯体は熱的に安定な錯体化合物であり、その結果として、容易に揮散して除去される。
【0138】
[作用・効果]
本実施形態において、エッチングに用いられる処理ガスは有機ガス1種類である。そのため、複雑なガス供給系を要することなく、半導体装置を製造することができる。また、ガス置換等の必要もないため、エッチング効率を低下させない。また、化合物は熱的に安定性が高い性質を有するため、排気中に異物となることがない。
したがって、本実施形態によれば、複雑なガス供給系を必要とせずに、処理の効率を確保し、異物の発生を抑制することが可能な半導体装置の製造方法および半導体製造装置を提供することができる。
【0139】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0140】
1・・・処理室、
2・・・半導体ウエハ、
3・・・放電領域、
4・・・ウエハステージ、
5・・・シャワープレート、
6・・・天板、
11・・・ベースチャンバ、
12・・・石英チャンバ、
14・・・調圧機構、
15・・・ポンプ、
16・・・真空排気配管、
17・・・ガス分散板、
20・・・高周波電源、
22・・・整合器、
30・・・静電吸着用電極、
31・・・静電吸着用電源、
34・・・ICPコイル、
38・・・チラー、
39・・・流路、
40・・・制御部、
41・・・演算部、
45・・・タンク、
46・・・ヒータ、
47・・・気化供給器、
50-1~50-5・・・マスフローコントローラ、
51・・・集積マスフローコントローラ制御部、
52、53、54・・・バルブ、
60・・・容器、
62・・・IRランプ、
63・・・反射板、
64・・・IRランプ用電源、
70・・・熱電対、
71・・・熱電対温度計、
74・・・IR光透過窓、
75・・・ガス流路、
78・・・スリット板、
81・・・Oリング、
92・・・光ファイバ、
93・・・外部IR光源、
94・・・光路スイッチ、
95・・・光分配器、
96・・・分光器、
97・・・検出器、
98・・・光マルチプレクサー、
100・・・半導体製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6