(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法および加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/082 20140101AFI20241009BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20241009BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20241009BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20241009BHJP
【FI】
B23K26/082
B23K26/073
B23K26/21 A
B23K26/382
(21)【出願番号】P 2020154810
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】亀田 信治
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-279730(JP,A)
【文献】特開2020-134872(JP,A)
【文献】特開2016-093826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0232553(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/082
B23K 26/073
B23K 26/21
B23K 26/382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを出射する光源装置と、
レンズを有し、前記光源装置から出射されるレーザビームを、前記レンズを介して集光し、集光されたレーザビームで対象物を照射するレーザヘッドと、
前記対象物上に形成される、長軸と短軸を持つ楕円形状を有するレーザビームスポットを揺動させる揺動機構と、
前記レーザビームスポットの長軸方向における第1揺動周波数が、楕円スポットの短軸方向における第2揺動周波数よりも高い揺動モードに従って前記揺動機構を制御する制御装置と、
を備える、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記第2揺動周波数に対する前記第1揺動周波数の比率は2.0以上100以下である、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第2揺動周波数に対する前記第1揺動周波数の比率は、レーザビームの走査方向に応じて調整される、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記揺動機構はガルバノスキャナである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記レンズはfθレンズである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記光源装置は半導体レーザダイオードを備える、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記光源装置は、ピーク波長が異なる複数の半導体レーザダイオードを備え、
前記光源装置は、前記複数の半導体レーザダイオードから出射される複数のレーザビームを同軸に重畳して波長結合ビームを生成して出射する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記レーザビームスポットの揺動軌跡は、Y
1
=sin(2πf
1
t)、X
1
=sin(2πf
2
t)の数式に基づいて決定され、ここで、f
1
は前記第1揺動周波数、f
2
は前記第2揺動周波数、tは時間であり、
前記レーザビームスポットは、前記レーザビームスポットの長軸がX
1
軸方向、前記レーザビームスポットの短軸がY
1
軸方向に平行になるように前記対象物上に形成される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
光源装置から出射されるレーザビームを集光して、長軸と短軸を持つ楕円形状を有するレーザビームスポットを対象物上に形成することと、
前記レーザビームスポットの長軸方向における第1揺動周波数が、前記レーザビームスポットの短軸方向における第2揺動周波数よりも高い揺動モードに従って前記レーザビームスポットを揺動させながら、前記レーザビームを走査することと、
を包含するレーザ加工方法。
【請求項10】
請求項
9に記載のレーザ加工方法を用いて加工物を溶接する工程を含む加工物の製造方法。
【請求項11】
請求項
9に記載のレーザ加工方法を用いて加工物の表面に穴あけ加工を行う工程を含む加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置、レーザ加工方法および加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザダイオード(以下、「LD」と記載する)の高出力化に伴い、材料にLD光を直接照射して加工するレーザビームの光源として用いる技術が開発されつつある。このような技術は、ダイレクトダイオードレーザ(DDL)技術と称されている。
【0003】
特許文献1は、加工物上に形成されたレーザビームスポットを揺動させながらレーザビームを走査することによって加工物を溶接することが可能なファイバレーザ装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザビームの走査方向による加工線幅の差を低減し、対象物をレーザ加工することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のレーザ加工装置は、非限定的で例示的な実施形態において、レーザビームを出射する光源装置と、レンズを有し、前記光源装置から出射されるレーザビームを、前記レンズを介して集光し、集光されたレーザビームで対象物を照射するレーザヘッドと、前記対象物上に形成される、長軸と短軸を持つ楕円形状を有するレーザビームスポットを揺動させる揺動機構と、前記レーザビームスポットの長軸方向における第1揺動周波数が、楕円スポットの短軸方向における第2揺動周波数よりも高い揺動モードに従って前記揺動機構を制御する制御装置と、を備える。
【0007】
本開示のレーザ加工方法は、非限定的で例示的な実施形態において、光源装置から出射されるレーザビームを集光して、長軸と短軸を持つ楕円形状を有するレーザビームスポットを対象物上に形成することと、前記レーザビームスポットの長軸方向における第1揺動周波数が、前記楕円スポットの短軸方向における第2揺動周波数よりも高い揺動モードに従って前記レーザビームスポットを揺動させながら、前記レーザビームを走査することと、を包含する。
【0008】
本開示の加工物の製造方法は、非限定的で例示的な実施形態において、上記のレーザ加工方法を用いて加工物を溶接する工程を含む。
【0009】
本開示の他の加工物の製造方法は、非限定的で例示的な実施形態において、上記のレーザ加工方法を用いて加工物の表面に穴あけ加工を行う工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、レーザビームの走査方向による加工線幅の差を低減し、対象物をレーザ加工することが可能になる、レーザ加工装置、レーザ加工方法および当該レーザ加工方法を含む加工物の製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の例示的な実施形態に係るレーザ加工装置の構成例を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本開示の例示的な実施形態に係るガルバノスキャナの典型的な構成例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本開示の例示的な実施形態に係る制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図4A】
図4Aは、レーザビームの走査方向が楕円スポットの短軸方向に平行である様子を例示す図である。
【
図4B】
図4Bは、レーザビームの走査方向が楕円スポットの短軸方向に対して90°で交差する様子を例示す図である。
【
図4C】
図4Cは、レーザビームの走査方向が楕円スポットの短軸方向に対して45°で交差する様子を例示す図である。
【
図5A】
図5Aは、レーザビームスポットの揺動パターンの例を示すグラフである。
【
図5B】
図5Bは、レーザビームスポットの揺動パターンの例を示すグラフである。
【
図5C】
図5Cは、レーザビームスポットの揺動パターンの例を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、比較例における、X
1軸およびY
1軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線をそれぞれ例示するグラフである。
【
図6B】
図6Bは、
図5Cの例の揺動パターンに従ってビームスポットを揺動させた場合の、X
1軸およびY
1軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線をそれぞれ例示するグラフである。
【
図7】
図7は、レーザビームスポットの円形の揺動パターンを例示するグラフである。
【
図8】
図8は、波長ビーム結合によって結合したレーザビームを出射する光源装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態は、例示であり、本開示によるレーザ加工装置、レーザ加工方法および加工物の製造方法は、以下の実施形態に限られない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、材料、ステップ、そのステップの順序等は、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、以下に説明する様々な態様は、あくまでも例示であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の組み合わせが可能である。
【0013】
図面が示す構成要素の寸法、形状等は、わかり易さのために誇張されている場合があり、実際のレーザ加工装置における寸法、形状および構成要素間の大小関係を反映していない場合がある。また、図面が過度に複雑になることを避けるために、一部の要素の図示を省略することがある。
【0014】
以下の説明において、実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略することがある。特定の方向または位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」およびそれらの用語を含む別の用語)を用いる場合がある。しかしながら、それらの用語は、参照した図面における相対的な方向または位置をわかり易さのために用いているに過ぎない。参照した図面における「上」、「下」等の用語による相対的な方向または位置の関係が同一であれば、本開示以外の図面、実際の製品、製造装置等において、参照した図面と同一の配置でなくてもよい。
【0015】
図1は、本開示の実施形態に係るレーザ加工装置1000の構成例を模式的に示すブロック図である。レーザ加工装置1000は、光源装置100と、揺動機構200およびレンズ240を有するレーザヘッド300と、デジタルアナログコンバータ(D/Aコンバータ)400と、制御装置500とを備える。本実施形態において、D/Aコンバータ400および制御装置500は、レーザ加工装置1000の構成要素として説明する。ただし、これらはレーザ加工装置1000に外部接続される構成要素であってもよい。その場合、制御装置500はD/Aコンバータ400を介してレーザ加工装置1000の本体に外部接続される。この接続は有線接続であっても無線接続であってもよい。
【0016】
レーザ加工装置1000は、さらに、カメラなどの撮像装置を備え得る。例えば、溶接前の接合面の状態、溶接中の溶融状況、および/または溶接後の溶接ビードの状態をカメラでモニタすることが可能となる。カメラで取得される撮像データは、例えば、レーザ加工装置1000の駆動を開始または停止させるトリガとして利用され得る。
【0017】
レーザ加工装置1000は制御装置500から出力される命令に従って動作する。レーザ加工装置1000は、楕円形状を有するレーザビームスポットを対象物上に形成し、当該レーザビームスポットを揺動させながらレーザビームを走査する。以下、レーザビームスポットは単に「ビームスポット」と記載する。レーザ加工装置1000は、例えば切断、穴あけ、マーキングなどの加工を行ったり、金属材料を溶接したりする装置として利用することが可能である。
【0018】
光源装置100はLDを有し、レーザ光Lを揺動機構200に向けて出射する。LDの個数は特に限定されず、必要な光出力または放射照度に応じて決定される。LDは、例えば窒化物半導体系材料から形成された近紫外、青紫、青色、または緑色のレーザ光を出力する半導体レーザダイオードであり得る。レーザ光の波長は、加工対象の材料に応じて選択され得る。例えば、銅、真鍮、アルミニウムなどを加工する場合、中心波長が例えば350nm以上550nm以下の範囲に属するLDが好適に採用され得る。複数のLDを用いる場合、各LDから放射されるレーザ光の波長は同一である必要はなく、中心波長が異なるレーザ光が重畳されてもよい。これについては後で詳しく説明する。LDは、半導体レーザパッケージによってパッケージ化され得る。半導体レーザパッケージの内部は、クリーン度の高い窒素ガスまたは希ガスなどの不活性ガスによって充填され、気密に封止され得る。気密封止することにより、レーザ光による集塵の影響を抑制することができる。ただし、気密封止することは必須ではない。
【0019】
揺動機構200は、ドライバ210、モータ220およびミラー230を有する。揺動機構200は、対象物W上に形成される楕円のビームスポットSを揺動するように構成される。揺動機構200の例はガルバノスキャナである。本実施形態では、揺動機構200としてガルバノスキャナが採用される。ガルバノスキャナを利用することによって、極めて高精細にビームスポットの位置制御を行うことが可能となる。
【0020】
図2は、ガルバノスキャナ200Aの構成例を示す模式図である。本実施形態におけるガルバノスキャナ200AはX
2Y
2軸の2軸走査を行うことが可能である。X
2Y
2座標系は、ビームスポットの位置制御を説明するためのものであり、対象物Wまたはそれを置くステージ上のローカルな座標系である。この座標系の向きは、上述した楕円スポットのローカルな座標系の向きに一致させてもよいし、一致させなくてもよい。
図2において、簡単のために、レーザ光Lの光軸上の光線が破線で示されている。簡単のために、第1スキャンミラー231とビームスポットSとの間の光路上に配置されるレンズ240が省略されている。
【0021】
ガルバノスキャナ200Aは、ドライバ210、第1モータ221、第2モータ222、第1スキャンミラー231および第2スキャンミラー232を有する。第1モータ221、第2モータ222は、それぞれ、ガルバノモータと称され、第1スキャンミラー231、第2スキャンミラー232は、それぞれ、ガルバノミラーと称される場合がある。
【0022】
第1スキャンミラー231は、第1モータ221のシャフトに取り付けられ、回転軸θ1の周りを回転可能に支持されている。第2スキャンミラー232は、第2モータ222のシャフトに取り付けられ、回転軸θ2の周りを回転可能に支持されている。第1スキャンミラー231を回転軸θ1の周りに回転させることにより、ビームスポットSをX2軸方向に沿って移動することができる。第2スキャンミラー232を回転軸θ2の周りに回転させることにより、ビームスポットSをY2軸方向に沿って移動することができる。本実施形態において、ビームスポットSは、X2軸方向に沿って、例えば0mm以上100mm以下の範囲内を移動することができ、Y2軸方向に沿って、例えば0mm以上100mm以下の範囲内を移動することができる。ガルバノスキャナ200Aは、X2Y2座標系におけるX2Y2平面内において例えば80mm×80mmの範囲内の加工領域をレーザビーム走査することが可能である。ただし、加工領域の範囲は、後述するfθレンズの焦点距離に依存する。
【0023】
ドライバ210は、第1モータ221および第2モータ222に接続されている。ガルバノスキャナ200Aは、第1スキャンミラー231および第2スキャンミラー232のそれぞれの、ミラーの位置を示す回転角度を検出するための位置センサを有する。位置センサの例はロータリーエンコーダまたは磁気センサである。ドライバ210は、制御装置500から出力される位置指令値を受信する。ドライバ210は、位置センサから出力されるセンサ出力が示す第1スキャンミラー231の位置が位置指令値に正確に追従するように第1モータ221を駆動する。これと同様にして、ドライバ210は、位置センサから出力されるセンサ出力が示す第2スキャンミラー232の位置が位置指令値に正確に追従するように第2モータ222を駆動する。例えば、制御装置500からドライバ210への指令値の送信は電圧制御によって行われ得る。ドライバ210は、第1モータ221および第2モータ222にそれぞれ指令電圧を供給して各モータを駆動する。これにより、第1モータ221は指令電圧に比例した角度だけ回転軸θ1の周りを回転し、第2モータ222は指令電圧に比例した角度だけ回転軸θ2の周りを回転する。
【0024】
図2の例において、光源装置100から出射されるレーザ光Lは第1スキャンミラー231および第2スキャンミラー232によってそれぞれ反射されて伝搬方向を変える。第2スキャンミラー232は、光源装置100から出射されるレーザ光Lを反射して第1スキャンミラー231に向ける。第1スキャンミラー231は、第2スキャンミラー232によって反射されたレーザ光Lを反射して対象物Wに向ける。ただし、光学系の構成はこの例に限定されない。例えば、第2スキャンミラー232の回転軸θ
2が延びる方向に平行にレーザ光Lが揺動機構200に入射する場合、更なるミラーを追加して反射光を第2スキャンミラー232に向けることによって、レーザ光Lの伝搬方向を変えることが可能である。
【0025】
揺動機構200は、ビームスポットSを所定のパターンで揺動させることに加えて、例えば、
図4Aから
図4Cの例に示される走査方向WLに沿って所定の速度でビームスポットSを移動させて、レーザビームを走査する役割を果たす。レーザビームの走査速度は例えば2mm/sec程度である。
【0026】
揺動機構200は、ガルバノスキャナに限定されず、例えば、ガルバノスキャナとポリゴンスキャナとの組み合わせであってもよい。ガルバノスキャナ200Aは2軸走査に限定されず、3軸などの多軸走査を行い得る。例えば3軸走査を行うことによって、立体形状の対象物Wに対しても精密にマーキング処理を行うことができる。また、ガルバノスキャナに代えて、あるいはガルバノスキャナとともに、X2Y2平面内において移動が可能な可動ステージを揺動機構として採用することによって、ビームスポットSの位置制御を行うことも可能である。
【0027】
【0028】
レーザヘッド300は、揺動機構200およびレンズ240を有する。レーザヘッド300は、光源装置100から出射されるレーザ光Lを、レンズ240を介して集光し、集光されたレーザビームで対象物Wを照射する。レンズ240は収束レンズであり、fθレンズであることが好ましい。fθレンズはテレセントリック型または非テレセントリック型のいずれであってもよい。fθレンズを利用することで、対象物Wに平坦な像面を形成することが可能となる。本実施形態において、fθレンズの焦点距離は例えば300mm程度である。焦点距離の長いfθレンズを用いることにより、レーザビームの走査範囲を拡大することができる。逆に、焦点距離の短いfθレンズを用いることにより、加工線幅を細くし、より精密な加工ができる。
【0029】
本実施形態におけるD/Aコンバータ400は、例えば16bitの分解能を有する。D/Aコンバータ400は、制御装置500から出力されるデジタル信号の指令値に基づいてアナログ信号の電圧指令値を生成し、ドライバ210に出力する。
【0030】
制御装置500の典型例は、パーソナルコンピュータである。制御装置500は、D/Aコンバータ400を介して揺動機構200のドライバ210に接続される。
【0031】
図3は、制御装置500のハードウェア構成例を示すブロック図である。制御装置500は、入力装置501、表示装置502、通信I/F503、記憶装置504、プロセッサ505、ROM(Read Only Memory)506およびRAM(Random Access Memory)507を備える。これらの構成要素はバス508を介して相互に通信可能に接続される。
【0032】
入力装置501は、ユーザからの指示をデータに変換してコンピュータに入力するための装置である。入力装置501は、例えばキーボード、マウスまたはタッチパネルである。
【0033】
表示装置502は、例えば液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。表示装置502は、例えば、揺動機構200を制御するための各種の条件を入力する入力欄などを表示する。
【0034】
通信I/F503は、主に、制御装置500からD/Aコンバータ400に指令値のデータを送信するためのインタフェースである。指令値が転送可能であればその形態、プロトコルは限定されない。例えば、通信I/F503は、USB、IEEE1394(登録商標)、またはイーサネット(登録商標)などに準拠した有線通信を行うことができる。通信I/F503は、Bluetooth(登録商標)規格および/またはWi-Fi(登録商標)規格に準拠した無線通信を行うことができる。いずれの規格も、2.4GHz帯または5.0GHz帯の周波数を利用した無線通信規格を含む。
【0035】
記憶装置504は、例えばソリッドステートドライブ(SSD)、磁気記憶装置、光学記憶装置またはそれらの組み合わせである。光学記憶装置の例は光ディスクドライブなどである。磁気記憶装置の例は、ハードディスクドライブ(HDD)、フロッピーディスク(FD)ドライブまたは磁気テープレコーダである。
【0036】
プロセッサ505は、半導体集積回路であり、中央演算処理装置(CPU)またはマイクロプロセッサとも称される。プロセッサ505は、ROM506に格納された、揺動機構200を制御するための命令群を記述したコンピュータプログラムを逐次実行し、所望の処理を実現する。プロセッサ505は、CPUを搭載したFPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはASSP(Application Specific Standard Product)を含む用語として広く解釈される。
【0037】
ROM506は、例えば、書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)、または読み出し専用のメモリである。ROM506は、プロセッサの動作を制御するプログラムを記憶している。ROM506は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。複数の集合体の一部は取り外し可能なメモリであってもよい。
【0038】
RAM507は、ROM506に格納された制御プログラムをブート時に一旦展開するための作業領域を提供する。RAM507は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。
【0039】
以下、楕円のビームスポットSの揺動パターンについて詳しく説明する。
【0040】
LDのエミッタ領域から出射されるレーザビームは拡がりを有する発散光である。LDから出射されるレーザビームは、レーザビームの伝搬方向に直交する断面において楕円形状のファーフィールドパターンを形成する。ファーフィールドパターンとは、LDの出射端面から離れた位置におけるレーザビームの光強度分布によって規定される。ファーフィールドパターンの楕円形状において、楕円の短軸方向は遅軸方向と呼ばれ、長軸方向は速軸方向と呼ばれる。
【0041】
図4Aから
図4Cは、LDから出射され収束レンズで集光されるレーザビームを所定の方向に走査した場合、その走査方向に依存して加工線幅が変化することを説明するための図である。
図4Aから
図4Cのそれぞれにおいて、LDから出射され、収束レンズによって集光されたレーザビームの像面におけるビームスポットSの楕円形状が示され、レーザビームの走査方向WLが破線で示されている。例えば溶接を例に説明すると、走査方向WLは、溶接線に沿う方向である。加工線の境界が点線で示されている。説明の便宜上、ビーム断面に対してローカルなX
1Y
1Z
1座標系を像面上に導入する。X
1Y
1Z
1座標系において、レーザビームスポットの短軸方向および長軸方向は、それぞれ、Y
1軸方向およびX
1軸方向に平行である。レーザビームの伝搬方向はZ
1軸方向に平行である。
【0042】
図示されるように、X1軸方向およびY1軸方向において、ビームの発散角やビーム半径が、それぞれ異なるために、像面に形成されるビームスポットSの断面形状は、長軸と短軸を持つ楕円になる。楕円の長軸はX1軸方向(つまり、遅軸方向)に平行であり、短軸はY1軸方向(つまり、速軸方向)に平行である。
【0043】
先ず、ビームスポットSの形状が円形である場合を考える。その場合、加工線幅は走査方向WLに依存することなく変化しない。これに対し、ビームスポットSの形状が楕円である場合、加工線幅は走査方向WLに依存して変化する。
図4Aの例において、走査方向WLはY
1軸方向、つまり短軸方向に平行である。その場合、加工線幅PW
1は楕円の長軸のスポット径W
xに相当する。
図4Bの例において、走査方向WLはX
1軸方向、つまり長軸方向に平行である。その場合、加工線幅PW
2は楕円の短軸のスポット径W
yに相当する。
図4Cの例において、走査方向WLはX
1軸方向に対し45°で交差し、斜め方向である。その場合、加工線幅PW
3は、加工線幅PW
1またはPW
2とは異なる。結果として、溶接部(または接合面)が、例えば円領域を有する場合において、特定の走査方向に対して加工線幅の制約を受けて加工することが困難になる場合が起こり得る。
【0044】
本実施形態においては、制御装置500は、楕円のビームスポットSの長軸方向における第1揺動周波数f1が、短軸方向における第2揺動周波数f2よりも高い揺動モードに従って揺動機構200を制御する。換言すると、ビームスポットSの遅軸方向における振動数が速軸方向における振動数よりも高い。第2揺動周波数f2に対する第1揺動周波数f1の比率R(=f1/f2)は、概ね、楕円のビームスポットSの楕円率に基づいて決定され得る。例えば、楕円のビームスポットSの長軸の長さが200μm、短軸の長さが40μmmである場合における楕円率は5となるため、比率Rを5とすることができる。
【0045】
比率Rはレーザビームの走査方向に応じて調整してもよい。例えば楕円率が5である場合において、比率Rを5に決定するのではなく、レーザビームの走査方向を考慮して比率の最適値を決定してもよい。例えば、走査速度と揺動振動数の関係で決まる値を取ることで、走査方向による加工線幅の差を最小化することができる。
【0046】
本実施形態においては、比率Rは、例えば2.0以上100以下の範囲に設定され得る。後述するように、走査方向に依存せずに光量積算値を均一にする観点から、比率Rは、例えば4.0以上100以下の範囲に設定されることが好ましい。また、ビームスポットSの揺動による移動速度がビーム走査速度に比べて小さすぎると、ビーム走査のコースが蛇行する可能性がある。このため、ビーム走査が蛇行しないように、言い換えると、楕円のビームスポットSを揺動させることによって円形スポット状の照射領域を実効的に形成するように、ビーム走査速度よりも十分に高い速度でビームスポットSを移動させるように揺動周波数を設定することが好ましい。本実施形態において、ビーム走査速度が例えば2mm/sec程度である場合、第1揺動周波数f1は数十Hz程度に設定され、第2揺動周波数f2はそれ以下に設定され得る。
【0047】
図5Aから
図5Cは、それぞれ、ビームスポットSの揺動パターンの例を示すグラフである。これらの図には、ビームスポットSの楕円の中心の軌跡が示されている。本実施形態において、X
1軸方向におけるスポット径W
xは200μm~300μmであり、Y
1軸方向におけるスポット径W
yは40μm~50μmである。X
1軸方向における振幅Aは、例えば、600μm以上1000μm以上であり得る。Y
1軸方向における振幅Bは、例えば、振幅Aと同様に600μm以上1000μm以上であり得る。
【0048】
本実施形態において、ビームスポットSの揺動軌跡は、Y
1=sin(2πf
1t)、X
1=sin(2πf
2t)の数式に基づいて描かれる。ここで、2πfは角振動数であり、tは時間(秒)である。
図5Aの例において、比率Rは2、つまり、f
1=2f
2である。楕円のビームスポットSは、長軸がX
1軸(つまり遅軸)方向に、短軸がY
1軸(つまり速軸)方向に平行になるように対象物W上に形成される。
【0049】
図5Bの例において、比率Rは4、つまり、f
1=4f
2である。比率Rを2以上に設定することにより、短軸方向よりも長軸方向におけるレーザビームの走査回数を増やすことができる。
【0050】
図5Cの例において、比率Rは6、つまり、f
1=6f
2である。この例において、X
1軸方向におけるパス数は12であり、Y
1軸方向におけるパス数は2である。例えば、
図4Aに示されるビームスポットSの長軸の長さW
xが150μm、短軸の長さW
yが30μmであるとする。その場合、楕円率は5となるが、レーザビームの走査方向による加工線幅の差を低減する観点から、この例のように比率Rは6に設定され得る。
【0051】
図6Aは、比較例における、X
1軸およびY
1軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線をそれぞれ例示するグラフである。横軸はX
1Y
1平面内における座標位置(mm)を示し、縦軸は照射されるレーザ光の光量積算値(A.U.)を示す。光量積算値は、ビームスポットSの揺動軌跡を規定する関数と、ビームスポット断面のエネルギー分布に基づいて規定される関数との2次元畳み込み演算を行うことによって算出される。
【0052】
この比較例において、ビームスポットSの揺動軌跡は、X
1=sin(t)、Y
1=cos(t)の数式に基づいて描かれる。すなわち、比率Rは1であり、
図7に示されるように軌跡の形状は円である。この場合、X
1軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線は、Y
1軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線とは相違する。より詳細には、それぞれの座標位置において、長軸方向に沿った光量積算値は、短軸方向に沿った光量積算値よりも小さい。この比較例によれば、X
1軸方向において十分な照射量が得られないことが分かる。
【0053】
図6Bは、
図5Cの例の揺動パターン(比率R=6)に従ってビームスポットSを揺動させた場合の、X
1軸およびY
1軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線をそれぞれ例示するグラフである。比率Rを6に設定することにより、長軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線は、短軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線に概ね一致する。Y
1軸方向に例えば30°または45°で交差する斜め方向に沿った光量積算値でプロットした曲線も、長軸方向および短軸方向に沿った光量積算値でプロットした曲線に概ね一致する。この例によれば、長軸方向における第1揺動周波数f
1を短軸方向における第2揺動周波数f
2よりも6倍高く設定することにより、長軸方向におけるレーザ光の照射量不足を解消することが可能となる。その結果、レーザビームの走査方向に依存することなく、略均一な光エネルギーを対象物Wに与えることができる。比率Rを高く設定するほど、対象物上に形成されるビームスポットを、疑似的な円形スポットに近づけることができる。
【0054】
本実施形態に係るレーザ加工装置によれば、ビームスポットの長軸方向における揺動周波数が短軸方向における揺動周波数よりも高い揺動モードに従って楕円のビームスポットを揺動させることによって、疑似的な円形スポットを対象物上に形成することができる。その結果、レーザビームの走査方向(例えば
図4Aから
図4Cを参照)による加工線幅の差を低減し、対象物を加工することが可能となる。また、ビーム整形用のシリンドリカルレンズ等のレンズを特に必要としないために、それらのレンズアライメントなどが不要となり、かつ、製品コストを抑えることが可能となる。ここで、円形スポットとは真円を意味しているが、揺動の結果、対象物上に形成されるビームスポットSは真円に限定されない。つまり、揺動させたビームスポットの長軸と短軸の長さの差が、揺動前のビームスポットの長軸と短軸の長さの差よりも低減していればよい。
【0055】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工装置によれば、少なくとも1つの半導体レーザダイオードを備えるDDL装置が提供される。その結果、DDL装置は光ファイバ結合器や光ファイバを必要としないために、ファイバレーザ装置と比較して、製品コストを抑えることが可能となる。
【0056】
以下、
図8を参照しながら、レーザ加工装置が備える光源装置の他の構成例を説明する。
【0057】
光源装置100Aは、ピーク波長が異なる複数のLDを有し得る。光源装置100Aは、複数のLDから出射される複数のレーザビームを同軸に重畳して波長結合ビームを生成して出射することが可能である。
【0058】
まず、「波長ビーム結合」を行う光源装置の基本的な構成例を説明する。
図8は、波長ビーム結合によって結合したレーザビームを集光する光源装置100Aの構成例を示す図である。
図8の例では、Y軸が紙面に垂直であり、光源装置100AのXZ面に平行な構成が模式的に記載されている。波長結合ビームWBの伝搬方向は、Z軸方向に平行である。
【0059】
図示されている光源装置100Aは、図示されている例において、ピーク波長λが異なる複数のレーザビームLをそれぞれ出射する複数のレーザモジュール22と、複数のレーザビームLを結合して波長結合ビームWBを生成するビームコンバイナ26とを有している。
図8には、5個のレーザモジュール22
1~22
5が記載されている。
【0060】
光源装置100Aは、ピーク波長λが異なる複数のレーザビームLを同軸に重畳して波長結合ビームWBを生成して出射する。本開示における「波長結合ビーム」の用語は、波長ビーム結合によってピーク波長λが異なる複数のレーザビームLが同軸上に結合して形成されたレーザビームを意味する。波長ビーム結合によれば、ピーク波長λが異なるn本のレーザビームを同軸上に結合することにより、光出力だけではなくフルエンス(Fluence、単位:W/cm2)も、各レーザビームLが有する大きさの約n倍にまで高めることが可能になる。
【0061】
図の例において、ビームコンバイナ26は反射型回折格子である。ビームコンバイナ26は、回折格子に限定されず、例えばプリズムなどの他の波長分散性光学素子であってもよい。異なる角度で反射型回折格子に入射したレーザビームLの-1次の反射回折光が、同一方向に出射される。図では、簡単のため、各レーザビームLおよび波長結合ビームWBの中心軸のみが記載されている。
【0062】
レーザモジュール22から反射型回折格子(ビームコンバイナ26)までの距離をL1、隣接するレーザモジュール22の角度、言い換えると、隣接する2本のレーザビームLの角度をΦ(ラジアン:rad)とする。図示される例において、距離L1および角度Φは、レーザモジュール221~225で共通の大きさを有している。レーザモジュール22の配列ピッチ(エミッタ間ピッチ)をPとすると、Φ×L1=Pの近似式が成立する。
【0063】
本開示の実施形態に係るレーザ加工方法は、光源装置から出射されるレーザビームを集光して、長軸と短軸を持つ楕円形状を有するビームスポットを対象物上に形成することと、ビームスポットの長軸方向における第1揺動周波数が、楕円スポットの短軸方向における第2揺動周波数よりも高い揺動モードに従ってビームスポットを揺動させながら、レーザビームを走査することと、を包含する。当該レーザ加工方法は、例えば上述したレーザ加工装置1000を用いて実施され得る。当該レーザ加工方法を利用して、多様な種類の材料に切断、穴あけ、マーキングなどの加工を行ったり、金属材料を溶接したりすることが可能である。
【0064】
ある実施形態において、加工物の製造方法は、上述したレーザ加工方法を用いて加工物を溶接する工程を含む。楕円のビームスポットを接合部上に形成し、本実施形態による揺動モードに従ってビームスポットを揺動させながら、レーザビームを溶接線に沿って走査して溶接部を溶接することによって、精密な溶接作業を必要とする加工物を製造することができる。また、他の実施形態において、加工物の製造方法は、上述したレーザ加工方法を用いて楕円のビームスポットを加工物の表面に形成し、その表面に穴あけ加工を行う工程を含む。この製造方法によれば、精密な穴あけ加工を必要とする加工物を製造することができる。
【0065】
本実施形態に係るレーザ加工方法、および当該レーザ加工方法を含む加工物の製造方法によれば、長軸方向における揺動周波数を短軸方向における揺動周波数よりも高く設定して楕円のビームスポットを揺動させることによって、レーザビームの走査方向による加工線幅の差を低減し、対象物を加工することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示のレーザ加工装置、レーザ加工方法は、例えば各種材料の切断、穴あけ、局所的熱処理、表面処理、金属の溶接、3Dプリンティングなどに利用され得る。
【符号の説明】
【0067】
22:レーザモジュール
26:ビームコンバイナ
100、100A:光源装置
200:揺動機構
200A:ガルバノスキャナ
210:ドライバ
220:モータ
221:第1モータ
222:第2モータ
230:ミラー
231:第1スキャンミラー
232:第2スキャンミラー
240:レンズ
300:レーザヘッド
400:D/Aコンバータ
500:制御装置
501:入力装置
502:表示装置
503:通信I/F
504:記憶装置
505:プロセッサ
506:ROM
507:RAM
508:バス
1000:レーザ加工装置
L:レーザ光(レーザビーム)
S:レーザビームスポット
W:対象物
WB:波長結合ビーム