(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】光導波路デバイスの製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
G02B 6/13 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
G02B6/13
(21)【出願番号】P 2023501988
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007511
(87)【国際公開番号】W WO2022180828
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】郷 隆司
(72)【発明者】
【氏名】森脇 摂
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅
(72)【発明者】
【氏名】柳原 藍
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/240707(WO,A1)
【文献】特開2007-199116(JP,A)
【文献】特開2009-188385(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025085(WO,A1)
【文献】特開2014-089403(JP,A)
【文献】特開2002-184669(JP,A)
【文献】特開2004-361813(JP,A)
【文献】国際公開第03/025643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路デバイスの製造方法であって、
光導波路のレジストパターンが露光される前のウェハを観察して、前記ウェハ内に生じている異物または欠陥の少なくとも一方を検出することと、
前記検出の結果に基づいて、前記光導波路のパターンと異物または欠陥の前記少なくとも一方とが重ならないように
、かつ前記ウェハにおける前記光導波路のパターンの数が最大となるように前記光導波路の前記レジストパターンを前記ウェハに露光することと、
を含む、光導波路デバイスの製造方法。
【請求項2】
光導波路デバイスの製造方法であって、
光導波路のレジストパターンが露光される前のウェハを観察して、前記ウェハ内に生じている異物または欠陥の少なくとも一方を検出することと、
前記検出の結果に基づいて、前記光導波路のパターンと異物または欠陥の前記少なくとも一方とが重ならないように前記光導波路の前記レジストパターンを前記ウェハに露光することと、
を含む、光導波路デバイスの製造方法であって、
異物または欠陥の前記少なくとも一方の前記ウェハ内の位置または領域を示す異物・欠陥マップを作成することと、
前記光導波路のパターンを形成するためのフォトマスクを取得することと、
作成した前記異物・欠陥マップおよび取得した前記フォトマスクに基づいて、前記フォトマスクにおけるショットレイアウトを調整することであって、前記光導波路のパターンと異物または欠陥の前記少なくとも一方とが重ならず、且つ、前記フォトマスクにおける前記ショットレイアウトにおける前記光導波路のパターンの数が最大となるように、前記フォトマスクにおける前記ショットレイアウトを調整することと、
をさらに含み、
前記光導波路の前記レジストパターンを前記ウェハに露光することは、前記ショットレイアウトを調整した後の前記フォトマスクを用いることを含む
、製造方法。
【請求項3】
光導波路デバイスの製造方法であって、
光導波路のレジストパターンが露光される前のウェハを観察して、前記ウェハ内に生じている異物または欠陥の少なくとも一方を検出することと、
前記検出の結果に基づいて、前記光導波路のパターンと異物または欠陥の前記少なくとも一方とが重ならないように前記光導波路の前記レジストパターンを前記ウェハに露光することと、
を含む、光導波路デバイスの製造方法であって、
異物または欠陥の前記少なくとも一方の前記ウェハ内の位置または領域を示す異物・欠陥マップを作成することと、
前記光導波路のパターンを形成するための複数のフォトマスクを取得することと、
作成した前記異物・欠陥マップに基づいて、前記複数のフォトマスクからフォトマスクを選択することであって、前記光導波路のパターンと異物または欠陥の前記少なくとも一方とが重ならず、且つ、前記フォトマスクにおけるショットレイアウトにおける前記光導波路のパターンの数が最大となるように、前記複数のフォトマスクからフォトマスクを選択することと、
をさらに含み、
前記光導波路の前記レジストパターンを前記ウェハに露光することは、前記光導波路の前記複数のフォトマスクから選択した前記フォトマスクを用いることを含む
、製造方法。
【請求項4】
光導波路デバイスの製造方法であって、
光導波路のレジストパターンが露光される前のウェハを観察して、前記ウェハ内に生じている異物または欠陥の少なくとも一方を検出することと、
前記検出の結果に基づいて、前記光導波路のパターンと異物または欠陥の前記少なくとも一方とが重ならないように前記光導波路の前記レジストパターンを前記ウェハに露光することと、
を含む、光導波路デバイスの製造方法であって、
異物または欠陥の前記少なくとも一方の前記ウェハ内の位置または領域を示す異物・欠陥マップを作成することと、
作成した前記異物・欠陥マップに基づいて、フォトマスクを生成することであって、前記光導波路のパターンと異物または欠陥の前記少なくとも一方とが重ならず、且つ、前記フォトマスクにおける前記光導波路の前記レジストパターンの数が最大となるように、前記フォトマスクにおける前記光導波路のパターンの位置または向きの少なくとも一方を変えることを含む、ことと、
をさらに含み、
前記光導波路の前記レジストパターンを前記ウェハに露光することは、前記光導波路の位置または向きの少なくとも一方
を変えて生成した前記フォトマスクを用いることを含む
、製造方法。
【請求項5】
前記フォトマスクにおける前記光導波路のパターンと前記異物または欠陥の前記少なくとも一方との重なり量を関数化して評価関数として使用することをさらに含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
異物または欠陥の前記少なくとも一方に対して重み付けすることをさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記光導波路に対して重み付けすることをさらに含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記フォトマスクにおける前記ショットレイアウトを調整することは、
前記異物・欠陥マップの基準と前記光導波路のパターンの基準とを一致させること
を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記フォトマスクを用いて前記ウェハに作成された各チップのダイシングをレーザダイシング装置へ指示することをさらに含む、請求項2から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
プロセッサおよびメモリを備えた光導波路デバイス製造システムであって、
前記メモリは、前記プロセッサに、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実行させるプログラムを記録した、光導波路デバイス製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイスに関する。より詳細には、光導波路デバイスの製造方法および製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ、フォトダイオード、光波長合分波器、光スイッチなどは光ファイバ通信のキーとなる光デバイスである。半導体レーザは、光の発振器として、情報信号を重畳するためのキャリアとなる光波を生成する。フォトダイオードは、光信号の強度を電気信号に変換する素子として動作する。また、アレイ導波路格子に代表される光波長合分波器は、異なる光の波長を合波・分波する素子として波長分割多重通信に用いられる。さらに光スイッチは、光の経路をルーティングする素子としてROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexing)システムにおいて重要な機能を持つ。これらの光デバイスは、光集積回路として構成され得る。光ファイバ通信においては、伝送媒体である光ファイバはもちろん、光信号処理を行うこれら光デバイスの光集積回路が重要な役割を果たす(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
光集積回路は、一般に基板上に形成された光導波路により構成される。光導波路は、光信号が伝搬するコアとそれを取り囲むクラッドからなる。半導体レーザやフォトダイオードは、InPなどの半導体材料により構成され、アレイ導波路格子や光スイッチは、主に石英ガラスからなる光導波路材料により構成される。
【0004】
図1は、従来技術の光導波路の製造方法を示す図である。ここでは、石英系ガラスからなる石英系平面光波回路を例に典型的な製造工程を説明する。最初に、1:下部クラッド堆積工程において、シリコン基板(ウェハ)11上に下部クラッド12となるガラス膜を堆積する。下部クラッド12は、火炎堆積法(FHD:Flame Hydrolysis Deposition)により堆積されたP
2O
5やB
2O
3を添加したSiO
2からなる。FHD法で堆積されたスート状のガラス粒子を1000℃以上の高温で加熱し、透明な下部クラッド12を得る。次に2:コア堆積工程において、同じくFHD法を用いて、下部クラッド12よりも高い屈折率を有するコア13となる薄膜ガラスを堆積する。コア13の堆積にあたっては、GeO
2をSiO
2に添加することにより、所望の屈折率値を得ることができる。1:下部クラッド堆積工程と同様に1000℃以上の高温で加熱し、透明なコア13を形成する。
【0005】
3:フォトレジスト成膜工程において、スピンコートにより基板上にフォトレジスト膜14を成膜する。次に、4:回路パターン露光工程において、フォトマスク15を介してUV光16をフォトレジスト膜に照射することにより、マスクパターンに応じた回路パターンを露光する。そして、5:フォトレジスト現像工程において、フォトレジスト膜の回路パターンを現像し、フォトレジストパターン17を得る。
【0006】
次に、6:エッチング工程において、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)により、フォトレジストパターン17をコアに転写し、コアパターン18を得る。さらに、7:レジスト除去工程において、コア上に残ったフォトレジストをアッシングにより除去する。最後に、8:上部クラッド堆積工程において、上述の1:下部クラッド堆積工程における下部クラッド堆積と同様の方法によって、上部クラッド19を堆積する。
【0007】
上述の製造工程によって得られる光導波路に対して、光回路のパターンサイズや光学特性など種々の検査が行われる。従来、これらの検査結果を製造工程に反映するにあたっては、上述の
図1の一連の工程が全て終了した後、それぞれの工程に対して、検査結果を反映した製造条件を設定していた。検査結果のこのような反映方法では、それぞれの工程における製造誤差が累積していく。この累積誤差のため、
図1に示した工程の後工程になるほど、各工程で得られる検査結果の精度が低くなり、検査結果の反映が不正確になる問題があった。一工程が終了した時点で得られた検査結果から、当該工程の製造条件を再設定することにより、製造誤差の累積を抑えることもできる。しかしながらこのような反映方法では、製造中のデバイスの特性を補正できない問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Miya, "Silica-based Planar Lightwave Circuits: Passive and Thermally Active Devices," IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 6, no. 1, pp. 38-45, Jan.-Feb. 2000
【文献】I. Ogawa, et al., 100-Gbit/s Optical Receiver Front-end Module Technology, NTT Technical Review, Vol. 9 No. 3 Mar. 2011
【文献】Lee Kha Shiuann, "Laser as a Future Direction for Wafer Dicing : Parametric Study and Quality Assessment," 2006 Thirty-First IEEE/CPMT International Electronics Manufacturing Technology Symposium, Petaling Jaya, 2006, pp. 506-509
【発明の概要】
【0009】
光集積回路の検査結果を製造工程へ効果的、効率的に反映させることが求められている。例えば、上述したように、光導波路デバイスの製造工程においてリソグラフィーにより光導波路パターンを作成することが一般的である。リソグラフィーの工程の一つである露光の直前の時点でウェハ内に既に欠陥が生じている場合がある。露光により作製された光導波路パターンがその欠陥と重なると、光導波路デバイスの歩留まりが悪くなる。したがって、光導波路パターンがウェハ内に既に生じている欠陥と重ならないようにすることで、光導波路デバイスの歩留まりを低減することが求められている。
【0010】
本発明の1つの実施態様は、光導波路デバイスの製造方法であって、露光の前の段階においてウェハの観察を行い、ウェハ内に生じている異物または欠陥の少なくとも一方を検出することと、光導波路パターンが異物または欠陥の少なくとも一方と重ならないように、かつウェハにおける光導波路のパターンの数が最大となるように露光を行う(露光の位置をずらす)ことすることと、を含む。
【0011】
光集積回路の製造工程の品質およびスループットを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来技術の典型的な光導波路の製造方法の一連の工程を説明する図である。
【
図2】実施形態1の光回路の製造方法の概要を示す図である。
【
図3】実施形態1の一般化したフィードフォワードシステムの図である。
【
図4】実施形態2の光導波路デバイスの製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図5】実施形態2の光導波路デバイスの製造方法の一例を説明する図である。
【
図6】(a)は従来の光導波路デバイスの製造方法による光導波路パターンを説明する図であり、(b)は実施形態2の光導波路デバイスの製造方法による光導波路パターンを説明する図である。
【
図7】導波路バターン中の重み付の一例を説明する図であり、(a)はマッハツェンダー干渉計(MZI:Mach-Zehnder Interferometer)の場合を説明する図であり、(b)は偏波多重光ハイブリッド(DPOH:Dual Polarization Optical Hybrid)の場合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者らは、従来技術の光回路の製造工程における検査結果の反映について、検査結果から得られる情報データの利用方法を新しい視点から見直した。
図1に示した従来技術の一連の製造方法では、最終段階の検査結果を得た後で、検査結果に基づいた情報を先行する前の工程にフィードバックしていた。その結果として、最終段階で取得される光特性などの検査結果の値は、各工程における累積的な誤差を含んだものであった。またフィードバックによる工程改善の点でも、直接関係の無い工程へも含めて、累積的な誤差を含んだ情報に基づいて工程条件の変更・調整が成されていた。フィードバック量や精度、フィードバックの行き先やタイミングの点で十分に効果的なものとは言えなかった。
【0014】
しかしながら、ある工程で得られる加工結果の情報、例えばフォトレジスト現像工程で得られるレジストパターン幅の情報を、その現像工程の間に知ることができれば、後工程であるエッチング工程においてパターン幅の情報を反映することができる。また、コア堆積工程で得られるコアの膜厚や屈折率を、その堆積工程の間に知ることができれば、後工程で形成される光導波路の光学特性を予測することもできる。このように、先行する前工程で得られる光導波路構成要素の特性値を、その前工程中に取得することにより、引き続く後工程の加工条件に反映し、その後工程で得られる光学特性の予測に用いることができる。
【0015】
本開示の一連の発明では、複数の製造工程で得られる工程情報、工程データは、それらの情報、データが得られているその工程中、さらに引き続く次の工程へ「フィードフォワード」される。このようなフィードフォワードによる製造工程の改善は、製造工程のスループットの点でも好都合である。
【0016】
以下の実施形態は、光回路(光導波路デバイス)の製造工程で取得できる検査結果・データを、より効率的に精度良く工程に反映できる製造方法について開示する。本明細書では、最初に、図面を参照しながら、本開示の光回路の製造方法の基本的概念から説明を始める。
【0017】
[実施形態1]
本実施形態の光回路の製造方法では、製造工程における一工程を実施中に形成され、取得される、光デバイスの構成要素または特性についてのデータに着目する。このデータは、リアルデータまたは現在のデータと言うこともできる。光デバイスの構成要素または特性について計測を行い、その計測して得られたデータに基づいて、後工程の製造条件を調整しまたは補正を行う(以下この方式を「フィードフォワードシステム」とも言う)。フィードフォワードシステムにより、光デバイスの光学特性のばらつきを抑制し、最終的に得られる光デバイスについて所望の光学特性を得ることを可能にする。
【0018】
図2は、本開示の実施形態1に係る光導波路を含む光回路の製造方法を示す図である。フィードフォワードシステムは、一工程で形成される光デバイスの構成要素について「計測」を行い、この計測結果に基づいて光学特性推定処理21によって「光学特性推定」を行う。そして、推定結果に基づき、プロセスコントロール処理22によって後工程のプロセスの「制御」を行う。
【0019】
例えば、
図2の下部クラッド堆積工程1で形成される下部クラッド膜の屈折率および厚さ、コア堆積工程2において堆積するコア層の屈折率および厚さを「計測」する。
【0020】
これらの測定結果に基づいて、平均的なプロセスを経た場合の最終的な光学特性を推定する。そしてこの推定に基づいて、後工程であるエッチング工程6において、エッチングの強度またはエッチング時間を「制御」する。
【0021】
具体的には、「計測」したコア層の膜厚および屈折率、クラッド膜の屈折率に加え、エッチングによって形成されるパターンのコア幅を仮定の条件にして、推定を行う。この推定された光学特性において、コア幅が設計よりも太かった場合と細かった場合のどちらが設計光学特性に近いかを考慮し、設計光学特性により近くなるようエッチング工程6でコア幅を調整する。エッチング工程6の調整方法としては、エッチング時間を短く/長くする、または、エッチング強度を弱く/強くすることにより、コア幅を太く/細くする方法などが考えられる。
【0022】
上述のように本発実施形態のフィードフォワードシステムは、光デバイスを製造する複数の工程のうち、前工程の工程中あるいはその工程後に、形成された光デバイスの構成要素の形状、特性等を測定する。この測定結果に基づいて、後工程における製造条件を調整または補正を行う。
【0023】
図3は、実施形態1のフィードフォワードシステムを一般化して示した図である。フィードフォワードシステムは、M個の工程からなる光デバイスの製造手順を含み、製造対象物である光デバイスを、工程1、工程2・・・、工程i、・・・工程j、・・・工程Mの順序で実施する。ここで、i<jのとき、工程jは工程iより時間的に後の工程である。フィードフォワードシステムは、計測データ処理部31および制御データ処理部32を含む。計測データ処理部31は、
図2で説明した光学特性推定処理21を実行し、制御データ処理部32は、
図2で説明したプロセスコントロール処理22を実行する。計測データ処理部31および制御データ処理部32は、CPU、RAM、ROMなどを有して構成されるコンピュータの形態とすることができる。
【0024】
図3のフィードフォワードシステムにおいて、実線は製造対象物の工程に従った流れを示している。また、破線はそれぞれの工程の「計測」によって得られる計測データを、また、一点鎖線はそれぞれの工程に対する「制御」のための制御データを、それぞれ示している。
図3のように、本実施形態のフィードフォワードシステムは、工程iで、その工程の製造装置またはその計測装置から計測データを取得し、計測データ処理部31へと転送する。計測データ処理部31は、転送された計測データに基づいて、工程iで形成される光デバイスの構成要素の形状または特性を予測する。また、計測データに基づいて、最終的に得られる光デバイスの光学特性を、工程iにおいて予測することもできる。
【0025】
計測データ処理部31で導出された予測値は、制御データ処理部32に渡される。制御データ処理部32は、予測値に基づいて、後工程である工程jにおける製造条件を求める。制御データ処理部32は、工程jが実施される際に、求めた製造条件に応じて、製造装置に設定する工程j用の制御データを供給する。後工程jを実施する際に供給される、前工程に基づく制御データは、前工程iに基づく制御データのみであっても良いし、前工程のいくつかに基づく複数種類の制御データであっても良い。制御データの形態は、実際に構成される製造装置および製造対象物などの条件に応じて定められることはもちろんである。
【0026】
[実施形態2]
本実施形態では、上述の実施形態1のフィードフォワードシステムを用いた光導波路デバイスの製造方法および製造システムについて説明する。実施形態1でも述べたように、
図3のフィードフォワードシステムでは、各工程における製造装置またはその計測装置から計測データを取得し、計測データ処理部31へと転送する。計測データ処理部31および制御データ処理部32は、製造条件を更新したり、更新のための光学特性の予測を行ったりして、製造工程にフィードフォワードする。
【0027】
(1)異物・欠陥の検査のフィードフォワード
光導波路デバイスの作製プロセス中にウェハに異物付着や欠陥が存在すると、光導波路の形状が崩れたり断線や反射が発生したりする。このような異物または欠陥は、光集積回路の不良・故障の原因となる。光集積回路の異物または欠陥による不良モードは、異物・欠陥箇所に光信号が通過する光導波路が形成されてしまうことで発生する。光導波路が異物・欠陥と重なった場合、異物・欠陥箇所での伝搬損失増加、反射の発生、光信号の不通等が発生する。
【0028】
一方、光導波路が形成されない場所の異物・欠陥は不良の原因とはならない。光導波路が異物または欠陥が離れている場合、光信号は光導波路に閉じ込められており、異物・欠陥は光信号に影響を及ぼさない。したがって、顕微鏡像等により光集積回路の品質に影響を与えるウェハ内に生じている異物・欠陥を検査して、検査結果をフィードフォワードして、光導波路パターンが欠陥と重ならないように露光を行う(露光の位置をずらす)ようにすることが望ましい。
【0029】
(異物・欠陥の検査)
図4は、本実施形態の光導波路デバイスの製造方法の一例を説明するフローチャートである。
図4におけるステップS1~S2、S3~8は
図1にて前述した光導波路製造の各工程を示している。また、ステップS9に示すダイシング工程は、それまでに製造された光導波路のウェハを切断してチップ化する工程である。
【0030】
以上の製造工程において、本例では、ステップS2においてコア13となる薄膜ガラスを堆積する。その後、ステップS401の異物・欠陥検査工程において、ウェハに体積されたコア13となる薄膜の異物・欠陥を検査して、ウェハの表面の画像のデータおよび異物・欠陥の位置または領域のデータを取得する。異物・欠陥を検査は、光学顕微鏡を用いたウェハ表面の撮像や、ウェハ表面からの反射光測定により実施することができる。例えば光学特性推定処理21は、ウェハの表面を撮像しまたはウェハの表面の画像を受信し、撮像した画像または受信した画像に基づいて薄膜に生じた異物・欠陥の位置または領域を識別する。異物・欠陥の位置または領域は、基準(例えば、座標系の原点)からの相対的な位置または領域とすることができる。ウェハのオリフラ(オリエンテーションフラット)またはノッチを基準してもよく、ウェハに生成したマーカ(例えば、十字パタンの中心)を基準にしてもよい。基準となるマーカは、レーザ描画または他の方法によりウェハに生成されたものでもよい。マーカは、SOI基板のBOX層へ生成されてもよい。光学特性推定処理21は、ウェハの表面の画像のデータとともに異物・欠陥の位置または領域のデータを、制御データ処理部へ供給する。ウェハの表面の画像のデータは、異物・欠陥の位置または領域のデータを含んでもよい。ウェハの表面の画像のデータは、異物・欠陥の位置または領域を強調するデータ(色データや輝度データ)を含んでもよい。異物・欠陥の位置または領域の色を強調するデータは、ウェハの表面の画像のデータをコンピュータ処理する際に有用である。このようにステップS401において光学特性推定処理21により取得され制御データ処理部32へ供給されるウェハの表面の画像のデータおよび異物・欠陥の位置または領域のデータは、ウェハ上の異物・欠陥マップとして利用することができる。
【0031】
(異物・欠陥の検査結果に基づいたショットレイアウトを算出)
図4のステップS402の最適なショットレイアウトを算出する工程において、ステップS401で取得した異物・欠陥の位置または領域のデータ(ウェハ上の異物・欠陥マップ)に基づいて、光導波路パターンが欠陥と重ならないようにフォトマスクにおける回路パターン(光導波路パターンを含むチップ)をウェハ上に転写する配置(ショットレイアウト)を算出する。その後、ステップS3でフォトレジスト膜を製膜し、ステップS4で回路パターンを露光する。これにより、上述したように、検査結果をフィードフォワードして、光導波路パターンが欠陥と重ならないように露光を行うことができる。
【0032】
図5は本実施形態の光導波路デバイスの製造方法の一例を説明する図である。
図4に示す製造工程のステップS1において、基板1001の上面に下部クラッド1002を堆積する。次いで、ステップS2において、下部クラッド1002の上面にコアとなる薄膜ガラス1003を堆積する。
図5には、薄膜ガラス1003の表面に設けられた異物・欠陥の位置または領域の基準となるマーカ200も示されている。薄膜ガラス1003が堆積されると、異物・欠陥検査が行われる。さらに異物・欠陥検査の結果に基づいて最適なショットレイアウトが算出される。次いでステップS3においてフォトレジスト膜1004が成膜される。その後、ステップS4において、フォトマスク1005を介して算出されたショットレイアウトを用いてUV光をフォトレジスト膜1004に照射することにより、マスクパターンに応じた回路パターン1006が露光される。その後、ステップS6~S9において、エッヂング、レジスト除去、上部クラッド堆積およびダイシングが行われる。
【0033】
図6(a)は従来の光導波路デバイスの製造方法による光導波路パターンを説明する図である。光導波路デバイスは、製造工程中は光導波路パターンを含むチップとしてウェハ上に形成される。ウェハからダイシングされた1つのチップが1つの光導波路デバイスとなる。従来の光導波路デバイスの製造方法では、光導波路を作成するためのレジストパターンが形成されたフォトマスクは、一連の製造工程の途中で異物・欠陥検査の結果を反映することなく、1つのウェハから作成できるチップの数を最大化するとともに、チップのダイシング回数を最小化するようにダイシングラインに沿ってチップが細密充填される配列されるように予め決められた位置に露光されている。したがって、
図6(a)に示すように、ウェハに存在する異物・欠陥にチップ内の光導波路パターンが重なる場合がある。
【0034】
図6(b)は実施形態2の光導波路デバイスの製造方法による光導波路パターンを説明する図である。本実施形態の光導波路デバイスの製造方法では、一連の製造工程の途中で異物・欠陥検査の結果を反映して、光導波路のレジストパターンが異物・欠陥と重ならないように、かつ1つのウェハから作成できるチップの数を最大化するように、マスクのショットレイアウトおよびレジストパターンが作成される。したがって、
図6(b)に示すように、ウェハに存在する異物・欠陥にチップ内の光導波路パターンが重ならなくなる。本実施形態の光導波路デバイスの製造方法では、フォトマスクにおけるチップの各辺が周囲のチップと重ならず、ダイシングラインが直線でなくなるが、自由な線でダイシングが可能なレーザダイシングを用いること、ウェハからチップをダイシングすることが可能である。
図6(a)では42個のチップのうち、1つの異物・欠陥が重なった2つのチップが不良となるが、
図6(b)では42個のすべてのチップが異物・欠陥を重ならない。
【0035】
例えば、
図4のステップS402において制御データ処理部32は、計測データ処理部31から提供された異物・欠陥の位置または領域のデータ(ウェハ上の異物・欠陥マップ)と、フォトマスクに形成される光導波路のレジストパターンとを参照して、光導波路と異物・欠陥の重なり量を関数化し、重なり量が最少化(または最大化)するように、フォトマスク内のチップのレイアウトを調整する。より具体的には、ウェハ上の異物・欠陥マップの基準と光導波路のレジストパターンの基準とを一致させてから、異物・欠陥が光導波路に重ならないように、マスクのショットレイアウトを調整することで、高精度な調整ができる。画像のパターンマッチングを用いて異物・欠陥マップと光導波路のレジストパターンを一致させる場合には、ウェハ上の基準を利用するとよい。ウェハ上の複数の基準を利用することで、座標の回転ずれを防止することができる。
【0036】
(最適なマスクレイアウトの算出アルゴリズム)
異物・欠陥検査の結果に基づいた最適なショットレイアウトの算出アルゴリズムについて説明する。
【0037】
本実施形態の光導波路デバイスの製造方法では、ウェハ上に形成される光導波路とウェハ上の異物・欠陥の重なり量を関数化して評価関数として使用する。評価関数は、以下の式1と表すことができる。WGmap(x,y)は、予想される出来上がりウェハ面内の光導波路の分布である(例えば、光導波路がある座標(x,y)の値を1とし、導波路がない座標(x,y)の値を0とすることができる)。G(x,y)はウェハ面内異物・欠陥の分布である(例えば、異物・欠陥がある座標(x,y)の値を1とし、異物・欠陥がない座標(x,y)の値を0とすることができる)。
【数1】
【0038】
また、フォトマスクに配置されるチップ内の各領域に対して重み付けをすることもできる。さらに、異物・欠陥に対して重み付けをすることもできる。この場合、f(x、y)は、以下の式2とすることができる。n
wg(x,y)は、チップ内の領域に対する重みである。n
g(x,y)は、異物・欠陥に対する重みである。・は内積である。
【数2】
【0039】
このように、本実施形態の光導波路デバイスの製造方法では、ウェハ面内での積分値である評価関数Fの値が最小となるようにフォトマスク内のチップのレイアウトを調整する。
【0040】
制御データ処理部32は、
図4のステップS4において、ステップS402において調整したチップのレイアウトで回路パターンが露光されるように、レジストパターン生成機へショットレイアウトの生成を指示する。その後、制御データ処理部32は、
図4のステップS5からS8を経て、ステップS9において、ステップS402において調整したチップのレイアウトにしたがってウェア面上に作成された各チップのダイシングをレーザダイシング装置へ指示する。
【0041】
ここまでは、同一のマスクを使用し、その転写座標を調整することを前提に説明した。しかしながら、異なるフォトマスクを複数用意し、異物・欠陥マップと光導波路のレジストパターンが重ならないように使用するフォトマスクを選択してもかまわない。この時、ショットレイアウトを生成する際の自由度としてフォトマスクの選択と露光座標の少なくとも一方を用いる。つまり、
図4のステップS402において複数のフォトマスクに対応する複数のショットレイアウトのうちの最適なショットレイアウトを算出し(選択し)、当該最適なショットレイアウトに対応するフォトマスクを生成し、S4において所定の露光座標に対して複数のフォトマスクのうちから選択した1つ(最適なショットレイアウトに対応するフォトマスク)を用いて回路パターンを露光する、または
図4のステップS402において複数のフォトマスクに対応する複数のショットレイアウトのうちの最適なショットレイアウトを算出し(選択し)、S4において露光座標を選択して最適なショットレイアウトに対応するフォトマスクを用いて回路パターンを露光することができる。同様に、異物・欠陥マップと光導波路のレジストパターンが重ならないようにフォトマスクをその都度作製してもかまわない。この時、上述したショットレイアウトの調整にかわり、フォトマスクにおけるチップの座標と回転(向き)の少なくとも一方を自由度として異物・欠陥マップと光導波路のパターンが重ならないようにマスクパターンを生成する。つまり、
図4のステップS402において、少なくとも1つの光導波路のパターンの位置または向きを残りの光導波路のパターンの位置または向きと異ならせた、最適なショットレイアウトを算出し(生成し)、当該最適なショットレイアウトに対応するフォトマスクを生成し、S4において最適なショットレイアウトに対応するフォトマスクを用いて回路パターンを露光することができる。
【0042】
(チップ内の領域毎の重み付け)
チップ内の領域毎の重みであるnwg(x,y)は、チップに含まれる光導波路パターンのうち、チップにより提供される機能が異物・欠陥による影響を受けやすい箇所程、大きな値とすることができる。例えば、光導波路パターンの位相を制御する箇所(光路長を調整する箇所)の重みを増やすことができる。
【0043】
図7(a)は、チップに含まれる光導波路パターンの一例として、MZIを示す。2つの方向性結合器105の間の2つの光導波路は、曲げ導波路101と直線導波路103をそれぞれ含む。直線導波路103の両側に、断熱溝が設けられ、さらに、下側の直線導波路103には、薄膜ヒータが設けられている。MZIは、2つの方向性結合器105の間の2つの光導波路の光路長差を制御することで、出力ポートを切り替える。したがって、曲げ導波路101と直線導波路103に異物・欠陥が重なると、チップにより提供される機能が影響を受けることになる。このように、曲げ導波路101と直線導波路103の位置または領域に対する重みn
wg(x,y)の値を、他の光導波路の領域よりも、大きくしてもよい。
【0044】
図7(b)は、チップに含まれる光導波路パターンの他の例として、2つの偏波分離器(PBS:Polarization Beam Splitter)と2つの90度光ハイブリッドを1つのチップに集積したDPOHを示す。PBSは、2つのカプラを結合する2つの光導波路のうちの一方の光導波路の近傍に溝を形成して、直交する偏波間にπの位相を付与することで、TE偏波をクロスポートから出力し、TM偏波をスルーポートから出力する。2つのカプラを結合する2つの光導波路の光路長差でTE偏波とTM偏波とが分離されるため、異物・欠陥が重なると、チップにより提供される機能が影響を受けることになる。90度光ハイブリッドは、2×2MMIカプラをメッシュ状に光導波路で結合し、PBSから入力されたTE偏波およびTM偏波について、同相成分と直交成分を分離して出力する。2×2MMIカプラを結合する光導波路の光路長差で分離される偏波成分が変わるため、異物・欠陥が重なると、チップにより提供される機能が影響を受けることになる。このように、干渉計における光導波路の位相誤差を生じ易い位置または領域に対する重みn
wg(x,y)の値を、他の光導波路の領域よりも、大きくしてもよい。
【0045】
(異物・欠陥に対する重み付け)
異物・欠陥に対する重みng(x,y)は、チップに含まれる光導波路のコアの全幅に対する、異物・欠陥と重なっているコアの幅の割合が大きいほど、大きな値とすることができる。例えば、光導波路のコアと重なり、コアの幅の約80%に相当する異物・欠陥の位置または領域に対する重みを増やすことができる。このような異物・欠陥は、光導波路を導波する光の損失の原因となるので、重みを大きくすることで、評価関数Fの値を大きくするように作用する。
【0046】
異物・欠陥に対する重みng(x,y)は、一定以下のサイズの異物・欠陥が分布から除外されるような値とすることができる。例えば、光導波路のコア幅の10分の1以下のゴ異物・欠陥が無視されるような値としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の1つの実施態様の光導波路デバイスの製造方法によれば、光導波路パターンを露光する前の段階においてウェハの観察を行い、ウェハ内に生じている欠陥を検出し、検出結果に基づいて、光導波路パターンが欠陥と重ならないように光導波路パターンを露光することにより、製造工程の品質およびスループットを向上することができる。