(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】抗体、核酸、細胞、及び医薬
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20241009BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241009BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241009BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241009BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241009BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241009BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241009BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241009BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241009BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241009BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241009BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241009BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241009BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241009BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20241009BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20241009BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C07K19/00
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P29/00
A61P37/02
A61P3/00
A61P9/00
A61P13/00
A61P27/02
A61P1/16
A61P13/12
A61P11/00
A61P17/00
A61P1/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K47/55
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2024510411
(86)(22)【出願日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2023037183
(87)【国際公開番号】W WO2024085081
(87)【国際公開日】2024-04-25
【審査請求日】2024-04-05
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2023066688
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、インキュベートタイプ(LEAP)、「研究開発課題名:リゾリン脂質メディエーター研究の医療応用」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507420835
【氏名又は名称】株式会社エヌビィー健康研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】引地 恵
(72)【発明者】
【氏名】芦田 仁己
(72)【発明者】
【氏名】中川 美樹
(72)【発明者】
【氏名】品川 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 喜好
(72)【発明者】
【氏名】青木 淳賢
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/009469(WO,A1)
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2003年,Vol.278, No.40,pp.38875-38883
【文献】Bulletin of the Korean Chemical Society,2019年,Vol.40,pp.680-685
【文献】The FASEB Journal,2000年,pp.1-16,インターネット:<URL: https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1096/fj.00-0492fje>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-19/00
C12N 15/00-15/90
A61P
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、
ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、
ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合せず、
LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有し、
インバースアゴニスト効果を有し、
下記(AB1)~(AB11):
(AB1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB2)配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB3)配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB4)配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB5)配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号42で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号43で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号45で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号46で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB6)配列番号51で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号52で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号53で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号54で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号55で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号56で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB7)配列番号61で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号62で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号63で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号64で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号65で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号66で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB8)配列番号71で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号72で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号73で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号74で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号75で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号76で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB9)配列番号81で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号82で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号83で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号84で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号85で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号86で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB10)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号92で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号93で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号94で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号95で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号96で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB11)配列番号101で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号103で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号104で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号105で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号106で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
のいずれかを満たす、抗体。
【請求項2】
ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、
ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、
ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合せず、
LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有し、
インバースアゴニスト効果を有し、
下記(C1)~(C11):
(C1)配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号9で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C2)配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C3)配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号29で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C4)配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号39で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C5)配列番号47で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号49で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C6)配列番号57で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号59で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C7)配列番号67で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号69で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C8)配列番号77で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号79で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C9)配列番号87で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号89で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C10)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号99で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C11)配列番号107で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号109で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
のいずれかを満たす、抗体。
【請求項3】
ヒト化抗体又はキメラ型抗体である、請求項
1に記載の抗体。
【請求項4】
多重特異性抗体である、請求項1~
3のいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
他の分子が結合した修飾抗体である、請求項1~
3のいずれかに記載の抗体。
【請求項6】
前記修飾抗体が、抗体薬物複合体である、請求項
5に記載の抗体。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれかに記載の抗体をコードする、核酸。
【請求項8】
請求項
7に記載の核酸を含む、細胞。
【請求項9】
請求項1~
3のいずれかに記載の抗体を有効成分として含有する、医薬。
【請求項10】
組織の線維症、細胞増殖性疾患、疼痛、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患、心血管障害、泌尿器疾患、又は眼科疾患の治療に用いられる、請求項
9に記載の医薬。
【請求項11】
組織の線維症の治療に用いられるものであり、
前記組織の線維症が、肝線維症、腎線維症、肺線維症、皮膚線維症、心血管線維症、又は消化管線維症である、請求項
10に記載の医薬。
【請求項12】
請求項4に記載の抗体を有効成分として含有する、医薬。
【請求項13】
組織の線維症、細胞増殖性疾患、疼痛、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患、心血管障害、泌尿器疾患、又は眼科疾患の治療に用いられる、請求項12に記載の医薬。
【請求項14】
組織の線維症の治療に用いられるものであり、
前記組織の線維症が、肝線維症、腎線維症、肺線維症、皮膚線維症、心血管線維症、又は消化管線維症である、請求項13に記載の医薬。
【請求項15】
請求項5に記載の抗体を有効成分として含有する、医薬。
【請求項16】
組織の線維症、細胞増殖性疾患、疼痛、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患、心血管障害、泌尿器疾患、又は眼科疾患の治療に用いられる、請求項15に記載の医薬。
【請求項17】
組織の線維症の治療に用いられるものであり、
前記組織の線維症が、肝線維症、腎線維症、肺線維症、皮膚線維症、心血管線維症、又は消化管線維症である、請求項16に記載の医薬。
【請求項18】
請求項6に記載の抗体を有効成分として含有する、医薬。
【請求項19】
組織の線維症、細胞増殖性疾患、疼痛、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患、心血管障害、泌尿器疾患、又は眼科疾患の治療に用いられる、請求項18に記載の医薬。
【請求項20】
組織の線維症の治療に用いられるものであり、
前記組織の線維症が、肝線維症、腎線維症、肺線維症、皮膚線維症、心血管線維症、又は消化管線維症である、請求項19に記載の医薬。
【請求項21】
請求項4に記載の抗体をコードする、核酸。
【請求項22】
請求項21に記載の核酸を含む、細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒトリゾフォスファチジン酸受容体1(ヒトLPA1)の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体、当該抗体をコードする核酸、当該核酸を含む細胞、及び当該抗体を有効成分として含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
リゾフォスファチジン酸(Lysophosphatidic acid;LPA)はグリセロール骨格にリン酸と脂肪酸が一つずつ結合したリゾリン脂質である。当初、LPAは脂質代謝物の中間産物の一つと考えられていたが、様々な生理作用を示す生理活性脂質メディエーターとして認知されている。例えば、細胞増殖、アポトーシスの抑制、細胞遊走、サイトカインやケモカインの産生、血小板の凝集、平滑筋収縮、細胞のトランスフォーメーションや神経突起の退縮などの細胞機能に関与している(非特許文献1、2)。
【0003】
LPAは細胞表面のG蛋白共役型受容体に結合することにより細胞内情報伝達経路を調節し、様々な生理作用を示す。LPA受容体として、LPA1、LPA2、LPA3、LPA4、LPA5、及びLPA6の6種のサブタイプが報告されている(非特許文献3)。LPA1、LPA2、及びLPA3の3種の受容体は、EDG(Endothelial Differentiation Gene)ファミリーに属しており、それぞれEDG2、EDG4、及びEDG7とも呼ばれ、相互に構造上の相同性が高い。LPA4からLPA6はnon-EDGファミリーであり、前述のEDGファミリーとの相同性は低い。
【0004】
細胞や動物モデルを用いたLPA受容体の機能調節の研究から、神経、心血管、生殖、肺、肝臓、腎臓などの臓器に対する発生生物学的、病態生理学的影響が調べられており、神経や骨の発達障害を含む、線維症、癌、神経精神障害、疼痛、心血管疾患、骨障害、不妊症、肥満などの疾患に、LPA依存的な細胞機能の障害が原因関与している可能性が示唆されている(非特許文献1、2、4、5)。
【0005】
組織の線維症は、組織治癒過程が正常に制御されないことに起因して、細胞外マトリクスの過剰蓄積により組織の不全に至る疾患である。ブレオマイシン誘発線維症モデルマウスの肺胞洗浄液のLPA濃度が上昇していること、同モデルにおいてLPA1ノックアウトマウスやLPA1拮抗薬の投与で線維化が抑制されることが報告されている(非特許文献6、7)。また、突発性肺線維症患者に対して、LPA1拮抗薬BMS-986020やBMS-986278が呼吸機能や肺線維化を改善することが示されている(非特許文献8、9)。従って、異常なLPA1依存的な細胞機能を制御することは、線維症に起因する疾患(例えば、突発性肺線維症などの肺線維症、非アルコール性脂肪肝炎などの肝線維症、糖尿病性腎症などの腎線維症、強皮症などの皮膚線維症、心血管線維症、消化管線維症など)の治療に有用である(非特許文献1、2、10、11)。
【0006】
LPA1依存的な細胞機能を制御することが治療に有用であることが示唆されている他の疾患として、例えば、線維筋痛症、癌性疼痛、糖尿病性神経障害などの神経因性疼痛や炎症性疼痛(非特許文献12~14)、リウマチ性関節炎、敗血症、ギランバレー症候群などの炎症性疾患や自己免疫性疾患(非特許文献15~17)、肥満やインスリン抵抗性糖尿病を含む代謝性疾患(非特許文献18)、アテローム性動脈硬化、脳梗塞、高血圧性腎障害を含む心血管障害(非特許文献19~21)、水頭症、統合失調症、うつ、認知症などの神経系障害(非特許文献22、23)、細胞増殖性疾患(腫瘍細胞増殖、腫瘍の浸潤転移、血管新生の制御)(非特許文献6、24,25)、前立腺肥大や尿失禁などの泌尿器疾患(非特許文献26、27)、虚血性網膜症などの眼科疾患(非特許文献28)を挙げることができる。
【0007】
LPA1、LPA2、LPA3はサブタイプにより生体内の分布が異なり、各サブタイプで異なる細胞機能や生理作用に寄与している(非特許文献1、2)。従って、副作用が少ない医薬品の有効成分として有用な物質としては、ヒトLPA1に特異的に結合し、ヒトLPA2に特異的に結合せず、ヒトLPA3に特異的に結合しない物質が望まれる。LPA1拮抗薬BMS-986020で示されている通り、複数のLPA受容体に結合し、副作用が原因で開発中止にいたる事例がある。ヒトLPA1に特異的に結合し、ヒトLPA2に特異的に結合せず、ヒトLPA3に特異的に結合しない物資を見出すことは、いまだに容易ではない。
【0008】
これまで、低分子化合物からなる複数のLPA1拮抗薬が創製されてきたが、いまだ実用化に至ったものはない(非特許文献6)。なお、ヒトLPA2、LPA3に特異的に結合せず、LPA1に特異的に結合して、LPA1依存的な細胞機能を制御する抗体があれば有用であるが、そのような抗体に関する報告は見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Aikawa S, Hashimoto T, Kano K, Aoki J. "Lysophosphatidic acid as a lipid mediator with multiple biological actions." J Biochem. 2015; 157:81-89
【文献】Yung YC, Stoddard NC, Chun J. "LPA receptor signaling: pharmacology, physiology, and pathophysiology." J Lipid Res. 2014; 55: 1192-1214
【文献】Kihara Y, Maceyka M, Spiegel S, Chun J. "Lysophospholipid receptor nomenclature review: IUPHAR Review 8." Br J Pharmacol. 2014; 171: 3575-3594
【文献】Kano K, Aoki J, Hla T. "Lysophospholipid Mediators in Health and Disease." Annu Rev Pathol. 2022; 17: 459-483
【文献】Meduri B, Pujar GV, Durai Ananda Kumar T, Akshatha HS, Sethu AK, Singh M, Kanagarla A, Mathew B. "Lysophosphatidic acid (LPA) receptor modulators: Structural features and recent development." Eur J Med Chem. 2021; 222: 113574
【文献】Tager AM, LaCamera P, Shea BS, Campanella GS, Selman M, Zhao Z, Polosukhin V, Wain J, Karimi-Shah BA, Kim ND, Hart WK, Pardo A, Blackwell TS, Xu Y, Chun J, Luster AD. "The lysophosphatidic acid receptor LPA1 links pulmonary fibrosis to lung injury by mediating fibroblast recruitment and vascular leak." Nat Med. 2008; 14: 45-54
【文献】Swaney JS, Chapman C, Correa LD, Stebbins KJ, Bundey RA, Prodanovich PC, Fagan P, Baccei CS, Santini AM, Hutchinson JH, Seiders TJ, Parr TA, Prasit P, Evans JF, Lorrain DS. "A novel, orally active LPA(1) receptor antagonist inhibits lung fibrosis in the mouse bleomycin model." Br J Pharmacol. 2010; 160: 1699-1713
【文献】Palmer SM, Snyder L, Todd JL, Soule B, Christian R, Anstrom K, Luo Y, Gagnon R, Rosen G. "Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Phase 2 Trial of BMS-986020, a Lysophosphatidic Acid Receptor Antagonist for the Treatment of Idiopathic Pulmonary Fibrosis." Chest. 2018; 154: 1061-1069
【文献】Cheng PTW, Kaltenbach RF 3rd, Zhang H, Shi J, Tao S, Li J, Kennedy LJ, Walker SJ, Shi Y, Wang Y, Dhanusu S, Reddigunta R, Kumaravel S, Jusuf S, Smith D, Krishnananthan S, Li J, Wang T, Heiry R, Sum CS, Kalinowski SS, Hung CP, Chu CH, Azzara AV, Ziegler M, Burns L, Zinker BA, Boehm S, Taylor J, Sapuppo J, Mosure K, Everlof G, Guarino V, Zhang L, Yang Y, Ruan Q, Xu C, Apedo A, Traeger SC, Cvijic ME, Lentz KA, Tirucherai G, Sivaraman L, Robl J, Ellsworth BA, Rosen G, Gordon DA, Soars MG, Gill M, Murphy BJ. "Discovery of an Oxycyclohexyl Acid Lysophosphatidic Acid Receptor 1 (LPA1) Antagonist BMS-986278 for the Treatment of Pulmonary Fibrotic Diseases." J Med Chem. 2021; 64: 15549-15581
【文献】Kim D, Li HY, Lee JH, Oh YS, Jun HS. "Lysophosphatidic acid increases mesangial cell proliferation in models of diabetic nephropathy via Rac1/MAPK/KLF5 signaling." Exp Mol Med. 2019; 51: 1-10
【文献】Ueda H. "LPA receptor signaling as a therapeutic target for radical treatment of neuropathic pain and fibromyalgia." Pain Manag. 2020; 10: 43-53
【文献】Ueda H, Neyama H, Matsushita Y. "Lysophosphatidic Acid Receptor 1- and 3-Mediated Hyperalgesia and Hypoalgesia in Diabetic Neuropathic Pain Models in Mice." Cells. 2020; 9: 1906
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【文献】Miyabe Y, Miyabe C, Iwai Y, Takayasu A, Fukuda S, Yokoyama W, Nagai J, Jona M, Tokuhara Y, Ohkawa R, Albers HM, Ovaa H, Aoki J, Chun J, Yatomi Y, Ueda H, Miyasaka M, Miyasaka N, Nanki T. "Necessity of lysophosphatidic acid receptor 1 for development of arthritis." Arthritis Rheum. 2013; 65: 2037-2047
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【文献】Szepanowski F, Winkelhausen M, Steubing RD, Mausberg AK, Kleinschnitz C, Stettner M.J "LPA1 signaling drives Schwann cell dedifferentiation in experimental autoimmune neuritis." Neuroinflammation. 2021; 18: 293
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【文献】Zhou Y, Little PJ, Ta HT, Xu S, Kamato D. "Lysophosphatidic acid and its receptors: pharmacology and therapeutic potential in atherosclerosis and vascular disease." Pharmacol Ther. 2019; 204: 107404
【文献】Gaire BP, Sapkota A, Choi JW. "BMS-986020, a Specific LPA1 Antagonist, Provides Neuroprotection against Ischemic Stroke in Mice." Antioxidants 2020; 9: 1097
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【文献】Sakamoto K, Noguchi Y, Ueshima K, Ohtake A, Sato S, Imazumi K, Takeda M, Masuda N. "Modulation of urinary frequency via type 1 lysophosphatidic acid receptors: Effect of the novel antagonist ASP6432 in conscious rats." Eur J Pharmacol. 2019; 853: 11-17
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、LPA1の細胞外ドメインに特異的に結合する新規の抗体と、それに関連する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係る抗体は、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合しない抗体である。
【0012】
好ましくは、前記抗体は、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有する。
【0013】
好ましくは、前記抗体は、配列番号1、11、21、31、41、51、61、71、81、91、又は101で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2、12、22、32、42、52、62、72、82、92、又は102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号3、13、23、33、43、53、63、73、83、93、又は103で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号4、14、24、34、44、54、64、74、84、94、又は104で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5、15、25、35、45、55、65、75、85、95、又は105で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6、16、26、36、46、56、66、76、86、96、又は106で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
【0014】
好ましくは、前記抗体は、下記(A1)~(A11):
(A1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A2)配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A3)配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A4)配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A5)配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号42で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号43で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A6)配列番号51で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号52で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号53で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A7)配列番号61で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号62で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号63で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A8)配列番号71で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号72で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号73で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A9)配列番号81で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号82で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号83で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A10)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号92で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号93で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
(A11)配列番号101で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号103で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を有する、
のいずれかを満たす。
【0015】
好ましくは、前記抗体は、下記(B1)~(B11):
(B1)配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B2)配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B3)配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B4)配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B5)配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号45で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号46で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B6)配列番号54で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号55で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号56で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B7)配列番号64で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号65で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号66で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B8)配列番号74で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号75で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号76で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B9)配列番号84で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号85で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号86で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B10)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号95で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号96で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B11)配列番号104で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号105で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号106で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
のいずれかを満たす。
【0016】
好ましくは、前記抗体は、下記(AB1)~(AB11):
(AB1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB2)配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB3)配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB4)配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB5)配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号42で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号43で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号44で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号45で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号46で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB6)配列番号51で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号52で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号53で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号54で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号55で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号56で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB7)配列番号61で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号62で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号63で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号64で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号65で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号66で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB8)配列番号71で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号72で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号73で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号74で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号75で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号76で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB9)配列番号81で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号82で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号83で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号84で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号85で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号86で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB10)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号92で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号93で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号94で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号95で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号96で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(AB11)配列番号101で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号103で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、配列番号104で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号105で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号106で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
のいずれかを満たす。
【0017】
好ましくは、前記抗体は、下記(C1)~(C11):
(C1)配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号9で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C2)配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C3)配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号29で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C4)配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号39で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C5)配列番号47で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号49で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C6)配列番号57で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号59で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C7)配列番号67で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号69で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C8)配列番号77で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号79で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C9)配列番号87で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号89で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C10)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号99で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C11)配列番号107で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号109で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
のいずれかを満たす。
【0018】
本開示の一態様に係る抗体は、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合せず、下記(C1’)~(C11’):
(C1’)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号7で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号9で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号9で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C2’)配列番号17で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号17で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号19で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号19で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C3’)配列番号27で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号27で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号29で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号29で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C4’)配列番号37で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号37で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号39で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号39で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C5’)配列番号47で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号47で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号49で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号49で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C6’)配列番号57で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号57で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号59で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号59で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C7’)配列番号67で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号67で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号69で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号69で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C8’)配列番号77で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号77で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号79で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号79で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C9’)配列番号87で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号87で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号89で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号89で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C10’)配列番号97で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号97で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号99で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号99で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(C11’)配列番号107で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号107で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号109で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、又は配列番号109で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
のいずれかを満たす。
【0019】
好ましくは、前記抗体は、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有する。
【0020】
本開示の一態様に係る第二抗体は、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合せず、上記の抗体である第一抗体と受容体との結合を競合阻害する。
【0021】
好ましくは、前記第二抗体は、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有する。
【0022】
好ましくは、前記抗体又は第二抗体は、ヒト化抗体又はキメラ型抗体である。
【0023】
好ましくは、前記抗体又は第二抗体は、多重特異性抗体である。
【0024】
好ましくは、前記抗体又は第二抗体は、他の分子が結合した修飾抗体である。
【0025】
好ましくは、前記修飾抗体が、抗体薬物複合体である。
【0026】
本開示の一態様に係る核酸は、上記の抗体又は第二抗体をコードする。
【0027】
本開示の一態様に係る細胞は、上記の核酸を含む。
【0028】
本開示の一態様に係る医薬は、上記の抗体又は第二抗体を有効成分として含有する。
【0029】
好ましくは、前記医薬は、LPA1依存的な細胞機能の障害が関与している疾患、障害、又は病状の治療に用いられる。
【0030】
好ましくは、前記医薬は、組織の線維症、細胞増殖性疾患、疼痛、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患、心血管障害、泌尿器疾患、又は眼科疾患の治療に用いられる。
【0031】
好ましくは、前記組織の線維症が、肝線維症、腎線維症、肺線維症、皮膚線維症、心血管線維症、又は消化管線維症である。
【0032】
好ましくは、前記肝線維症が、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、肝硬変、虚血再灌流、肝移植後傷害、壊死性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、原発性胆汁性肝硬変、又は原発性硬化性胆管炎である。
【0033】
好ましくは、前記肝硬変が、アルコールによる誘発、薬物による誘発、又は化学的な誘発によるものである。
【0034】
好ましくは、前記腎線維症が、増殖性糸球体腎炎、硬化性糸球体腎炎、腎性線維化性皮膚症、糖尿病性腎症、腎尿細管間質性線維症、又は巣状分節性糸球体硬化症である。
【0035】
好ましくは、前記肺線維症が、肺間質性線維症、薬物誘発サルコイドーシス、特発性肺線維症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、びまん性肺胞損傷疾患、肺高血圧症、又は新生児気管支肺形成異常である。
【0036】
好ましくは、前記皮膚線維症が、強皮症、ケロイド瘢痕化、乾癬、肥厚性瘢痕化、又は偽性強皮症である。
【0037】
好ましくは、前記心血管線維症が、アテローム性動脈硬化、冠動脈再狭窄、うっ血性心筋症、心不全、心移植、又は心筋線維症である。
【0038】
好ましくは、前記消化管線維症が、コラーゲン蓄積大腸炎、絨毛萎縮、陰窩過形成、ポリープ形成、クローン病の線維症、胃潰瘍治癒、又は腹部癒着術後瘢痕である。
【0039】
好ましくは、前記線維症が、骨に関連する線維化性疾患から生じる状態を有し、リウマチ様パンヌス形成である。
【0040】
好ましくは、前記細胞増殖性疾患が、腫瘍細胞増殖、腫瘍の浸潤転移、又は血管新生の制御である。
【0041】
好ましくは、前記細胞増殖性疾患が、血液癌又は固形癌である。
【0042】
好ましくは、前記固形癌が、乳癌、悪性乳房腫瘍、胃癌、黒色腫、非小細胞肺癌、肺腺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、肝細胞癌、前立腺癌、尿路上皮癌、腎細胞癌、又は扁平上皮癌である。
【0043】
好ましくは、前記扁平上皮癌が、口腔扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、又は咽頭扁平上皮癌である。
【0044】
好ましくは、前記疼痛が、線維筋痛症による疼痛、癌性疼痛、又は糖尿病性神経障害による疼痛である。
【0045】
好ましくは、前記炎症性疾患が、リウマチ性関節炎、敗血症、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、移植臓器拒絶反応、ギランバレー症候群、又は多発性硬化症である。
【0046】
好ましくは、前記代謝性疾患が、肥満又はインスリン抵抗性糖尿病である。
【0047】
好ましくは、前記心血管障害が、脳梗塞、高血圧性腎障害、又はレイノー現象である。
【0048】
好ましくは、前記神経系障害が、水頭症、統合失調症、うつ、又は認知症である。
【0049】
好ましくは、前記泌尿器疾患が、前立腺肥大、又は尿失禁である。
【0050】
好ましくは、前記眼科疾患が、虚血性網膜症、糖尿病性網膜症、又は加齢黄斑変性症である。
【発明の効果】
【0051】
本開示によれば、LPA1の細胞外ドメインに特異的に結合する新規の抗体と、それに関連する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1A】実施例4で行ったフローサイトメトリーの結果を表すヒストグラムであり、抗体とヒトLPA1~LPA3との結合性を示している。
【
図1B】実施例4で行ったフローサイトメトリーの結果を表すヒストグラムであり、抗体とマウスLPA1~LPA3との結合性を示している。
【
図2A】抗体(210309-1-C)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2B】抗体(210309-1-G)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2C】抗体(210309-2-A)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2D】抗体(210309-2-D)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2E】抗体(210309-4-A)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2F】抗体(210310-1-D)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2G】抗体(210420-4-E)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2H】抗体(210420-1-H)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2I】抗体(210420-3-E)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2J】抗体(211222-1-G)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図2K】抗体(211222-1-A)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3A】抗体(210309-1-C)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3B】抗体(210309-1-G)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3C】抗体(210309-2-A)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3D】抗体(210309-2-D)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3E】抗体(210309-4-A)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3F】抗体(210310-1-D)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3G】抗体(210420-4-E)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3H】抗体(210420-1-H)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3I】抗体(210420-3-E)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3J】抗体(211222-1-G)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図3K】抗体(211222-1-A)のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図4】実施例6で行ったフローサイトメトリーの結果を表すヒストグラムであり、抗体と内在性ヒトLPA1との結合性を示している。
【
図5A】抗体(210309-1-C)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5B】抗体(210309-1-G)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5C】抗体(210309-2-A)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5D】抗体(210309-2-D)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5E】抗体(210309-4-A)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5F】抗体(210310-1-D)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5G】抗体(210420-4-E)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5H】抗体(210420-1-H)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5I】抗体(210420-3-E)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5J】抗体(211222-1-G)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図5K】抗体(211222-1-A)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6A】抗体(210309-1-C)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6B】抗体(210309-1-G)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6C】抗体(210309-2-A)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6D】抗体(210309-2-D)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6E】抗体(210309-4-A)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6F】抗体(210310-1-D)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6G】抗体(210420-4-E)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6H】抗体(210420-1-H)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6I】抗体(210420-3-E)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6J】抗体(211222-1-G)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図6K】抗体(211222-1-A)のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図7A】BMS-986278のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図7B】BMS-986278のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図8】ヒトLPA1安定発現CHO細胞を用いて、LPA1リガンド非存在下で細胞内cAMP濃度の変化に対する210309-4-Aの影響を評価した結果を表すグラフである。
【
図9】210309-4-Aの各濃度におけるリゾフォスファチジン酸の用量反応曲線を示すグラフである。
【
図10A】ヒト化抗LPA1抗体の重鎖可変領域のアライメントを表す説明図である。
【
図10B】ヒト化抗LPA1抗体の軽鎖可変領域のアライメントを表す説明図である。
【
図11A】抗体(h309-4-A-BP1)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図11B】抗体(h309-4-A-SS1)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図11C】抗体(h309-4-A-SG1)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図11D】抗体(309-4-A-Chimera)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図11E】抗体(210309-4-A)のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合性評価の結果を表すグラフである。
【
図12A】抗体(h309-4-A-BP1)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図12B】抗体(h309-4-A-SS1)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図12C】抗体(h309-4-A-SG1)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図12D】抗体(309-4-A-Chimera)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【
図12E】抗体(210309-4-A)のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本開示において、相補性決定領域(complementarity determining region)をCDRと略記する。本開示において、重鎖可変領域をVH、重鎖定常領域をCH、軽鎖可変領域をVL、軽鎖定常領域をCLと、それぞれ略記することがある。本開示において「抗体」という文言は、「免疫グロブリン」に置き換えることができる。本開示において「核酸」という文言は、「DNA」又は「遺伝子」に置き換えることができる。
【0054】
<ヒトLPA1>
リゾフォスファチジン酸受容体1(lysophosphatidic acid receptor 1;LPA1)はGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一種であり、細胞膜を7回貫通し、そのN末端を細胞外に、C末端を細胞内に向けて存在している。ヒトLPA1をコードする遺伝子(cDNA)はすでに単離されており、ヒトLPA1のアミノ酸配列も知られている。当該配列情報は、遺伝子のデータベースから得ることができる(例えば、NCBI Reference Sequence: NP_001392)。その一例として、ヒトLPA1のアミノ酸配列を、配列番号111に示す。
【0055】
ヒトLPA1の各ドメインは、配列番号111に示すアミノ酸配列における以下の部分に相当すると考えられている。左側がアミノ酸番号、右側が各ドメインである。なお各ドメイン間の境界については、多少の前後が生じ得る。
【0056】
1~ 50:N末端ドメイン
76~ 83:細胞内第1ループドメイン
108~121:細胞外第1ループドメイン
145~163:細胞内第2ループドメイン
185~204:細胞外第2ループドメイン
226~255:細胞内第3ループドメイン
281~294:細胞外第3ループドメイン
316~364:C末端ドメイン
【0057】
ヒトLPA1には、配列番号111に示すもの以外に、アミノ酸置換体等の各種のバリアントが知られている。本開示における「ヒトLPA1」には、細胞外ドメインを有し且つLPA1としての機能を有する限り、前記バリアントが含まれる。
【0058】
ヒトLPA2をコードする遺伝子(cDNA)はすでに単離されており、ヒトLPA2のアミノ酸配列も知られている。当該配列情報は、遺伝子のデータベースから得ることができる(NP_004711、配列番号119)。ヒトLPA3をコードする遺伝子(cDNA)はすでに単離されており、ヒトLPA3のアミノ酸配列も知られている。当該配列情報は、遺伝子のデータベースから得ることができる(NP_036284、配列番号121)。
【0059】
<抗LPA1抗体>
本願で開示される抗体は、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合しないものである。
【0060】
一態様に係る抗体は、配列番号1、11、21、31、41、51、61、71、81、91、又は101で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2、12、22、32、42、52、62、72、82、92、又は102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号3、13、23、33、43、53、63、73、83、93、又は103で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号4、14、24、34、44、54、64、74、84、94、又は104で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5、15、25、35、45、55、65、75、85、95、又は105で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6、16、26、36、46、56、66、76、86、96、又は106で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
【0061】
一態様に係る抗体は、重鎖CDR1~3が、上記(A1)~(A11)のいずれかを満たす。
【0062】
一態様に係る抗体は、軽鎖CDR1~3が、上記(B1)~(B11)のいずれかを満たす。
【0063】
一態様に係る抗体は、重鎖CDR1~3と軽鎖CDR1~3が、上記(AB1)~(AB11)のいずれかを満たす。
【0064】
一態様に係る抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域が、上記(C1)~(C11)のいずれかを満たす。
【0065】
(C1)で特定される重鎖可変領域(配列番号7)は、(A1)又は(AB1)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号1~3)を含む。(C1)で特定される軽鎖可変領域(配列番号9)は、(B1)又は(AB1)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号4~6)を含む。(A1)、(B1)、(AB1)、又は(C1)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210309-4-A」が挙げられる。
【0066】
(C2)で特定される重鎖可変領域(配列番号17)は、(A2)又は(AB2)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号11~13)を含む。(C2)で特定される軽鎖可変領域(配列番号19)は、(B2)又は(AB2)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号14~16)を含む。(A2)、(B2)、(AB2)、又は(C2)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210309-1-C」が挙げられる。
【0067】
(C3)で特定される重鎖可変領域(配列番号27)は、(A3)又は(AB3)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号21~23)を含む。(C3)で特定される軽鎖可変領域(配列番号29)は、(B3)又は(AB3)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号24~26)を含む。(A3)、(B3)、(AB3)、又は(C3)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210309-1-G」が挙げられる。
【0068】
(C4)で特定される重鎖可変領域(配列番号37)は、(A4)又は(AB4)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号31~33)を含む。(C4)で特定される軽鎖可変領域(配列番号39)は、(B4)又は(AB4)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号34~36)を含む。(A4)、(B4)、(AB4)、又は(C4)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210309-2-A」が挙げられる。
【0069】
(C5)で特定される重鎖可変領域(配列番号47)は、(A5)又は(AB5)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号41~43)を含む。(C5)で特定される軽鎖可変領域(配列番号49)は、(B5)又は(AB5)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号44~46)を含む。(A5)、(B5)、(AB5)、又は(C5)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210309-2-D」が挙げられる。
【0070】
(C6)で特定される重鎖可変領域(配列番号57)は、(A6)又は(AB6)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号51~53)を含む。(C6)で特定される軽鎖可変領域(配列番号59)は、(B6)又は(AB6)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号54~56)を含む。(A6)、(B6)、(AB6)、又は(C6)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210310-1-D」が挙げられる。
【0071】
(C7)で特定される重鎖可変領域(配列番号67)は、(A7)又は(AB7)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号61~63)を含む。(C7)で特定される軽鎖可変領域(配列番号69)は、(B7)又は(AB7)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号64~66)を含む。(A7)、(B7)、(AB7)、又は(C7)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210420-4-E」が挙げられる。
【0072】
(C8)で特定される重鎖可変領域(配列番号77)は、(A8)又は(AB8)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号71~73)を含む。(C8)で特定される軽鎖可変領域(配列番号79)は、(B8)又は(AB8)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号74~76)を含む。(A8)、(B8)、(AB8)、又は(C8)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210420-1-H」が挙げられる。
【0073】
(C9)で特定される重鎖可変領域(配列番号87)は、(A9)又は(AB9)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号81~83)を含む。(C9)で特定される軽鎖可変領域(配列番号89)は、(B9)又は(AB9)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号84~86)を含む。(A9)、(B9)、(AB9)、又は(C9)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「210420-3-E」が挙げられる。
【0074】
(C10)で特定される重鎖可変領域(配列番号97)は、(A10)又は(AB10)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号91~93)を含む。(C10)で特定される軽鎖可変領域(配列番号99)は、(B10)又は(AB10)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号94~96)を含む。(A10)、(B10)、(AB10)、又は(C10)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「211222-1-G」が挙げられる。
【0075】
(C11)で特定される重鎖可変領域(配列番号107)は、(A11)又は(AB11)で特定される重鎖CDR1~3(配列番号101~103)を含む。(C11)で特定される軽鎖可変領域(配列番号109)は、(B11)又は(AB11)で特定される軽鎖CDR1~3(配列番号104~106)を含む。(A11)、(B11)、(AB11)、又は(C11)を満たす抗体の例としては、後述の実施例に記載された「211222-1-A」が挙げられる。
【0076】
配列番号1、配列番号21、配列番号31、配列番号41のアミノ酸配列は同じである。配列番号2、配列番号32のアミノ酸配列は同じである。配列番号6、配列番号16、配列番号26、配列番号36、配列番号46のアミノ酸配列は同じである。配列番号15、配列番号25、配列番号35、配列番号45、配列番号65、配列番号75、配列番号85、配列番号105のアミノ酸配列は同じである。配列番号24、配列番号34、配列番号54、配列番号94、配列番号104のアミノ酸配列は同じである。配列番号51、配列番号91、配列番号101のアミノ酸配列は同じである。配列番号52、配列番号92のアミノ酸配列は同じである。配列番号53、配列番号93、配列番号103のアミノ酸配列は同じである。配列番号55、配列番号95のアミノ酸配列は同じである。配列番号56、配列番号66、配列番号76、配列番号86、配列番号96、配列番号106のアミノ酸配列は同じである。配列番号61、配列番号71、配列番号81のアミノ酸配列は同じである。配列番号62、配列番号72、配列番号82のアミノ酸配列は同じである。配列番号63、配列番号73、配列番号83のアミノ酸配列は同じである。配列番号64、配列番号74、配列番号84のアミノ酸配列は同じである。
【0077】
上記抗体は、抗体の機能的断片であってもよい。ここで「抗体の機能的断片」とは、抗体(すなわち免疫グロブリン)の部分断片であって、抗原に対する作用を少なくとも1つ保持するものを指す。前記部分断片の例としては、F(ab’)2、Fab、Fv、ジスルフィド結合Fv、一本鎖抗体(scFv、VH-VL)、VH、及びこれらの重合体、並びに、これらと重鎖CH3領域との融合体が挙げられる。また、CDR1、CDR2、CDR3等の各CDR、及びこれらCDRの連結体、並びに、これらCDR又はCDR連結体と重鎖CH3領域との融合体が挙げられる。すなわち本開示の抗体には、前記したような抗体の部分断片も含まれる。抗体の部分断片を「抗体断片」と称することもある。
【0078】
上記抗体が機能的断片である場合には、例えば、以下のような効果がある。すなわち、本開示の抗LPA1抗体を後述するような医薬に応用する際に、IgG型等の全長の抗体を使用すると、標的受容体を介する細胞機能の阻害に加えて、標的組織に障害が起き、これが副作用につながる場合がある。このような場合に、可変領域だけを用いた「抗体の機能的断片」を採用すると、前記したような副作用を回避しやすくなる。
【0079】
上記抗体は、多重特異性抗体であってもよい。本態様の多重特異性抗体は、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合しないという第一の特異的結合性と、第一の特異的結合性とは異なる第二の特異的結合性を、少なくとも有する。第二の特異的結合性は、ヒトLPA1に対するものであってもよいし、他の標的分子に対するものであってもよい。多重特異性抗体の例としては、二重特異性抗体の一種であるダイアボディが挙げられる。
【0080】
上記抗体のクラス(アイソタイプ)は特に限定されない。例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等、いずれのクラスであってもよい。さらに、上記抗体のサブクラスについても特に限定はなく、例えば、IgGであれば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のいずれのサブクラスであってもよい。
【0081】
好ましい態様では、上記抗体は、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有する。LPA1依存的な細胞機能は、3量体Gタンパク質やβアレスチン等のLPA1の細胞内部分に共役して細胞内情報伝達を担うタンパク質が活性化することによって誘発される機能である。LPA1依存的な細胞機能の活性化は、LPA1リガンドの刺激によって、あるいは、LPA1リガンド非依存的にLPA1が高発現することによって誘発される。細胞機能としては、例えば、細胞内Cyclic adenosine monophosphate(cAMP)の変動、細胞内カルシウムイオンの変動、低分子量Gタンパク質RhoへのGTP結合、細胞増殖、細胞遊走、サイトカインやケモカインの産生、細胞のトランスフォーメーションなどが挙げられる。
【0082】
上記抗体が特異的に結合するLPA1の細胞外ドメインは、N末端ドメイン、細胞外第1ループドメイン、細胞外第2ループドメイン、細胞外第3ループドメインのいずれでもよい。また上記抗体は、これらの細胞外ドメインのいずれか1つのみに結合するものでもよいし、2つ以上に結合するものでもよい。
【0083】
本開示は、上記した抗LPA1抗体と「機能的に同等」な抗体を含む。機能的に同等な抗体には、上記抗体とエピトープが同一の抗体が含まれる。例えば、後述の実施例で具体的に示す11種の抗LPA1抗体のエピトープを、LPA1の部分ペプチド等を用いたエピトープマッピング法により解析する。そして、同定されたエピトープを含む合成ペプチドを抗原として用い、上記11種の抗LPA1抗体と同一のエピトープに結合する抗LPA1抗体を得ることができる。さらに、得られた抗LPA1抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列を決定し、重鎖CDR1~3と軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列を特定することができる。
【0084】
上記抗体と機能的に同等な抗体の一例として、本開示は、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合せず、上記した(C1’)~(C11’)のいずれかを満たす抗体を含む。(C1’)~(C11’)における、置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸の数は、好ましくは1~8個、より好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個である。上記したアミノ酸配列の同一性は、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。好ましい態様では、当該抗体は、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有する。
【0085】
2つの抗体についてエピトープが同一か否かを調べる方法としては、競合実験による方法が挙げられる。例えば、第一抗体たる前記11種の抗LPA1抗体又はその機能的断片と受容体との結合が、試験対象である第二抗体によって競合阻害を受ける場合には、当該第二抗体は、前記第一抗体と同じエピトープに結合するものであるといえる。そして、上記抗体と機能的に同等な抗体の一例として、本開示は、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合せず、上記抗体(第一抗体)と受容体との結合を競合阻害する第二抗体を含む。好ましい態様では、当該第二抗体は、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有する。
【0086】
<ヒト化抗体>
本開示は、ヒト化抗体である上記抗体を含む。ヒト化抗体とは、CDRがヒト以外の動物由来のもので、その他の領域(フレームワーク領域や定常領域など)がヒト由来のものである抗体を指す。ヒト化抗体を構築及び生産する方法については後述する。
【0087】
<キメラ型抗体>
本開示は、キメラ型抗体である上記抗体を含む。キメラ型抗体とは、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)がヒト以外の動物由来のもので、重鎖定常領域(CH)や軽鎖定常領域(CL)などの他の領域がヒト由来のものである抗体を指す。キメラ型抗体を構築及び生産する方法については後述する。
【0088】
<核酸>
本開示は、上記抗体をコードする核酸(DNA)を含む。当該核酸は、例えば、重鎖可変領域をコードする第一核酸、及び/又は、軽鎖可変領域をコードする第二核酸を含む。
【0089】
第一核酸がコードする重鎖可変領域は、例えば、配列番号1、11、21、31、41、51、61、71、81、91、又は101で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2、12、22、32、42、52、62、72、82、92、又は102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3、13、23、33、43、53、63、73、83、93、又は103で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む。第一核酸がコードする重鎖可変領域は、例えば、上記(A1)~(A11)のいずれかで特定される重鎖CDR1~3を含む。第一核酸がコードする重鎖可変領域は、例えば、上記(C1)~(C11)のいずれかで特定されるものである。第一核酸がコードする重鎖可変領域は、例えば、上記(C1’)~(C11’)のいずれかで特定されるものである。
【0090】
第二核酸がコードする軽鎖可変領域は、例えば、配列番号4、14、24、34、44、54、64、74、84、94、又は104で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5、15、25、35、45、55、65、75、85、95、又は105で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6、16、26、36、46、56、66、76、86、96、又は106で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む。第二核酸がコードする軽鎖可変領域は、例えば、上記(B1)~(B11)のいずれかで特定される重鎖CDR1~3を含む。第二核酸がコードする軽鎖可変領域は、例えば、上記(C1)~(C11)のいずれかで特定されるものである。第二核酸がコードする軽鎖可変領域は、例えば、上記(C1’)~(C11’)のいずれかで特定されるものである。
【0091】
上記核酸は、ベクターに組み込まれていてもよい。ベクターは、それが導入される宿主細胞の種類等によって適宜選択される。ベクターには遺伝子治療用ベクターが含まれる。この場合には、ベクターそのものを生体内に直接投与可能である。
【0092】
<細胞>
本開示は、上記核酸を含む細胞を包含する。例えば、上記核酸が組み込まれたベクターを含む細胞が、当該細胞の一例である。細胞の種類としては、上記核酸を発現可能なもの、例えば、上記ベクターが機能するものであれば、特に限定はない。例としては、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、酵母、細菌(大腸菌等)、植物細胞、昆虫細胞、などが挙げられる。
【0093】
<抗体の製造方法>
上記抗体は、遺伝子組換えの手法を用いて製造することができる。すなわち、上記核酸を発現する組換え細胞を構築し、当該細胞の培養物から上記抗体を取得することができる。
【0094】
<ヒト化抗体の構築及び調製>
ヒト化抗体を構築及び生産する方法について説明する。一例として、上記(AB1)で特定される重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を有するヒト化抗体を構築及び生産する方法について述べる。まず、各CDRをコードするDNAとして、配列番号1~6に示すアミノ酸配列をコードするDNAを調製する。DNAの調製は、PCR等の公知の方法を用いて行うことができる。化学合成により当該DNAを調製することもできる。
【0095】
次に、これらのDNAを用いて、任意のヒト抗体におけるVHのフレームワーク領域(FR)に重鎖CDR1~3が移植された可変領域をコードするDNAを作製する。同様に、任意のヒト抗体におけるVLのFRに軽鎖CDR1~3が移植された可変領域をコードするDNAを作製する。作製した各DNAを、ヒト抗体のCH又はCLをコードする配列を有するベクターに挿入し、ヒト化抗体発現ベクターを構築する。構築した発現ベクターを宿主細胞に導入することにより、ヒト化抗体を発現する組換え細胞を得る。そして、この組換え細胞を培養し、該培養物から所望のヒト化抗体を取得する。
【0096】
上記(AB2)~(AB11)で特定される重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を有するヒト化抗体についても、同様の方法で構築及び生産することができる。
【0097】
<キメラ型抗体の構築及び調製>
キメラ型抗体を構築及び生産する方法について説明する。一例として、上記(C1)で特定される重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を有するキメラ型抗体を構築及び生産する方法について述べる。まず、VHをコードするDNAとして、配列番号7に示すアミノ酸配列をコードするDNAを調製する。また、VLをコードするDNAとして、配列番号9に示すアミノ酸配列をコードするDNAを調製する。DNAの調製は、PCR等の公知の方法を用いて行うことができる。化学合成により当該DNAを調製することもできる。
【0098】
得られたVH又はVLをコードするDNAを、ヒト抗体のCH又はCLをコードする配列を有するベクターにそれぞれ挿入し、キメラ型抗体発現ベクターを構築する。なお、ヒト抗体のCH又はCLをコードする配列を有するベクターは、市場から入手できる。構築した発現ベクターを宿主細胞に導入することにより、キメラ型抗体を発現する組換え細胞を得る。そして、この組換え細胞を培養し、該培養物から所望のキメラ型抗体を取得する。
【0099】
上記(C2)~(C11)で特定されるVH及びVLを有するキメラ型抗体についても、同様の方法で構築及び生産することができる。
【0100】
<多重特異性抗体の製法>
多重特異性抗体を製造する方法としては、例えば、本開示の抗ヒトLPA1抗体又はその断片と、別の抗体又はその断片を、連結させることが挙げられる。他の例として、本開示の抗ヒトLPA1抗体又はその断片と、別の抗体又はその断片を、宿主細胞内で共に同時発現させることが挙げられる。別の連結の方法としては、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性会合、等が挙げられる。
【0101】
なお、実用化された多重特異性抗体(二重特異性抗体)の例としては、CD3とCD19に結合するビーリンサイト(登録商標)が挙げられる。他の例としては、凝固因子IXaと凝固因子Xに結合するヘムライブラ(登録商標)が挙げられる。多重特異性抗体の製造技術は当該技術分野では公知であり、これら公知の製造技術は、本開示の抗ヒトLPA1抗体にも適用できる。
【0102】
<精製方法>
上記抗体の精製方法としては特に限定はなく、公知の手法を採用することができる。例えば、前記組換え細胞の培養上清を回収し、各種クロマトグラフィー、塩析、透析、膜分離等の公知の手法を組み合わせて、上記抗体を精製することができる。抗体のアイソタイプがIgGである場合には、プロテインAを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって簡便に精製することもできる。
【0103】
<修飾抗体>
本開示の抗体は、他の分子が結合した修飾抗体であってもよい。他の分子の例としては、ペプチド、タンパク質、低分子化合物、放射性同位体、光吸収体、などが挙げられる。他の分子と結合させる方法としては、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性会合、等が挙げられる。なお、結合させる他の分子が抗体である場合には、その修飾抗体は、多重特異性抗体となり得る。この点において、多重特異性抗体は、修飾抗体の一種と捉えることができる。
【0104】
好ましい態様では、上記修飾抗体が抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate;ADC)である。コンジュゲートさせる薬物としては、抗線維化作用剤;低分子抗癌剤(細胞毒素、化学療法薬);サイトカイン等の生物学的活性を有するタンパク質又はポリペプチド;放射性同位体;光吸収体、などが挙げられる。これらの薬物を直接的に、又はリンカー若しくはキレート剤を介して間接的にコンジュゲートして、抗体薬物複合体を製造することができる。
【0105】
なお、実用化された抗体薬物複合体の例としては、低分子抗癌剤をコンジュゲートした抗体薬物複合体として、トラスツズマブにカンプトテシン誘導体を結合させたエンハーツ(登録商標)が挙げられる。放射性同位体をコンジュゲートした抗体薬物複合体として、抗CD20モノクローナル抗体にイットリウム90(90Y)標識したゼヴァリン(登録商標)が挙げられる。光吸収体をコンジュゲートした抗体薬物複合体として、セツキシマブにIR Dye700DXを結合させたアキャルックス(登録商標)が挙げられる。これらの抗体薬物複合体に含まれる薬物は、本開示の抗ヒトLPA1抗体にも適用できる。さらに、抗体薬物複合体に用いられる適切な薬物の例は当技術分野では公知であり、これら公知の薬物は、本開示の抗ヒトLPA1抗体にも適用できる。
【0106】
<医薬>
本開示は、上記抗体を有効成分として含有する医薬を包含する。当該医薬は、上記抗体と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であり得る。好ましくは、上記医薬は、LPA1依存的な細胞機能を遮断するものである。
【0107】
好ましい態様では、上記医薬は、LPA1依存的な細胞機能の障害が原因関与している疾患、障害又は病状の治療に用いられる。LPA1依存的な細胞機能の障害が原因関与している疾患、障害又は病状の例としては、肝線維症、腎線維症、肺線維症、皮膚線維症、心血管線維症、消化管線維症、及び他の線維性疾患からなる群から選択される線維症が挙げられる。
【0108】
前記肝線維症の例としては、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、肝硬変、虚血再灌流、肝移植後傷害、壊死性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、原発性胆汁性肝硬変、及び原発性硬化性胆管炎からなる群から選択される線維症が挙げられる。前記肝硬変の例としては、アルコールによる誘発、薬物による誘発、及び化学的な誘発からなる群から選択された少なくとも1つによるものが挙げられる。
【0109】
前記腎線維症の例としては、増殖性糸球体腎炎、硬化性糸球体腎炎、腎性線維化性皮膚症、糖尿病性腎症、腎尿細管間質性線維症、及び巣状分節性糸球体硬化症からなる群から選択される線維症が挙げられる。
【0110】
前記肺線維症の例としては、肺間質性線維症、薬物誘発サルコイドーシス、肺線維症、特発性肺線維症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、びまん性肺胞損傷疾患、肺高血圧症、及び新生児気管支肺形成異常からなる群から選択される線維症が挙げられる。
【0111】
前記皮膚線維症の例としては、強皮症、ケロイド瘢痕化、乾癬、肥厚性瘢痕化、及び偽性強皮症からなる群から選択される線維症が挙げられる。
【0112】
前記心血管線維症の例としては、アテローム性動脈硬化、冠動脈再狭窄、うっ血性心筋症、心不全、心移植、及び心筋線維症からなる群から選択される線維症が挙げられる。
【0113】
前記消化管線維症の例としては、コラーゲン蓄積大腸炎、絨毛萎縮、陰窩過形成、ポリープ形成、クローン病の線維症、胃潰瘍治癒、及び腹部癒着術後瘢痕からなる群から選択される線維症が挙げられる。
【0114】
前記線維症が、骨に関連する線維化性疾患から生じる状態を有し、リウマチ様パンヌス形成であってもよい。
【0115】
LPA1依存的な細胞機能の障害が原因関与している疾患、障害又は病状の他の例としては、血液癌や固形癌などの細胞増殖性疾患(腫瘍細胞増殖、腫瘍の浸潤転移、血管新生の制御)が挙げられる。
【0116】
前記血液癌の例としては、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫からなる群から選択される血液癌が挙げられる。
【0117】
前記固形癌の例としては、乳癌、悪性乳房腫瘍、胃癌、黒色腫、非小細胞肺癌、肺腺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、肝細胞癌、前立腺癌、尿路上皮癌、腎細胞癌、各種扁平上皮癌からなる群から選択される固形癌が挙げられる。前記扁平上皮癌の例としては、口腔扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、咽頭扁平上皮癌からなる群から選択される扁平上皮癌が挙げられる。
【0118】
LPA1依存的な細胞機能の障害が原因関与している疾患、障害又は病状の他の例としては、線維筋痛症、癌性疼痛、糖尿病性神経障害を含む疼痛;リウマチ性関節炎、敗血症、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、移植臓器拒絶反応、ギランバレー症候群、多発性硬化症を含む炎症性疾患や自己免疫疾患;肥満やインスリン抵抗性糖尿病を含む代謝性疾患;脳梗塞、高血圧性腎障、レイノー現象を含む心血管障害;水頭症、統合失調症、うつ、認知症を含む神経系障害;前立腺肥大や尿失禁を含む泌尿器疾患;虚血性網膜症、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症を含む眼科疾患、が挙げられる。
【0119】
<投与方法>
上記医薬は、経口あるいは非経口的に、全身あるいは局部的に投与することができる。投与の形態としては、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の場合には、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより、全身又は局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により、適宜、投与方法を選択することができる。上記抗体の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことができる。あるいは、例えば、患者あたり抗体0.001~100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、上記抗体の投与量は、これらの範囲に限定されるものではない。
【0120】
<製剤化>
上記医薬は、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。上記医薬には、薬学的に許容される担体や添加物を含めることができる。前記担体あるいは前記添加物の例としては、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに限定されず、その他常用の担体等を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリン等のタンパク質;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リシン等のアミノ酸、を含んでいてもよい。
【0121】
注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。また必要に応じて、上記抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remingto's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. 1980)等参照)。
【0122】
さらに、薬剤を徐放させる技術が知られており、上記医薬に適用し得る(Langer et al., J. Biomed. Master. Res. 15:167-277 (1981); Langer, Chem. Tech. 12:9(8-105 (1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開第58,481号;Sidman et al., Biopolymers 22: 547-556 (1983);欧州特許出願公開第133,988号)。
【0123】
<遺伝子治療への応用>
上記核酸を遺伝子治療用ベクターあるいは生体内でタンパク質に翻訳可能なmRNAに組込み、遺伝子治療薬とすることも考えられる。当該遺伝子治療薬(組換えベクター)の投与方法としては、nakedプラスミドによる直接投与の他、リポソーム等にパッケージングして投与する方法、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、HVJベクター等の各種ウイルスベクターに組み込んで投与する方法(Adolph『ウイルスゲノム法』,CRC Press,Florid(1996)参照)、コロイド金粒子等のビーズ担体に被覆(国際公開第93/17706号パンフレット等)して投与する方法、等が挙げられる。
【0124】
前記遺伝子治療薬は、生体内において上記抗体が発現され、その作用を発揮できる限り、いかなる方法により投与してもよい。好ましくは、適当な非経口経路、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、吸入、筋肉内、等の経路を介して、注射、注入、ガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による)、添鼻薬等粘膜経路を介する方法、等により十分な量が投与される。さらに、前記遺伝子治療薬は、ex vivoにおいてリポソームトランスフェクション、粒子衝撃法(米国特許第4,945,050号)、又はウイルス感染を利用して細胞に投与し、該細胞を動物に再導入することにより投与してもよい。
【0125】
さらに、本開示には、LPA1依存的な細胞機能の異常亢進によって発症する疾患又は疾病に罹患した哺乳動物の該疾患に関する治療方法と治療薬も含まれる。
ここで「治療」とは、疾患に罹患するおそれがあるか又は罹患した哺乳動物において、該疾患の病態の進行及び悪化を阻止又は緩和することを意味し、これによって該疾患の諸症状等の進行及び悪化を阻止又は緩和することを目的とする治療的処置の意味として使用される。
また、「疾患」とは、LPA1依存的な細胞機能の異常亢進に起因して発症する疾患全般のことを意味し、特に限定されるものではなく、例えば、肝線維症、腎線維症、肺線維症、皮膚線維症、心血管線維症、消化管線維症及び他の線維性疾患を含む概念である。また、血液癌、固形癌、疼痛、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患、心血管障害、神経系障害、泌尿器疾患、眼科疾患を含む概念である。治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
【0126】
<抗体固定化担体>
本開示は、上記抗体が固定化された担体(抗体固定化担体)を含む。好ましい態様では、当該抗体固定化担体は、LPA1発現細胞を含む体液を接触させて、前記体液からLPA1発現細胞を除去するために用いられる。体液の例としては、血液が挙げられる。担体に固定化される上記抗体は、1種類のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0127】
本開示の抗体固定化担体の具体的形態としては、例えば、上記抗体が水不溶性担体に固定され、容器に充填されたものが挙げられる。ここで、水不溶性担体としてはいかなる材質も使用可能であるが、成型性、滅菌性や細胞毒性が低いという点で好ましいものを列記すると、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン等の合成高分子、アガロース、セルロース、酢酸セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸塩等の天然高分子、ハイドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ、チタニア等の無機材料、ステンレス、チタン等の金属材料が挙げられる。
【0128】
担体の形状としては、粒状、綿状、織布、不織布、スポンジ状多孔質体、平板状、などが挙げられるが、体積当たりの表面積が大きいという点で粒状、綿状、織布、不織布、スポンジ状多孔質体が好ましい。例えば、抗体が固定された水不溶性担体を予め容器に充填した多孔質体フィルターに末梢血液を通過させ、疾患に関わるLPA1発現細胞を効率よく除去することができる。
【0129】
本開示の抗体固定化担体と他の構成要素とを組み合わせて、LPA1発現細胞除去用キットを作製することができる。当該他の構成要素としては、抗凝固剤、体外循環回路などが挙げられる。
【0130】
<他の開示>
本開示は、上記抗体の有効量を、LPA1依存的な細胞機能の障害が関与している疾患、障害、又は病状の患者に投与することを含む、当該疾患、障害、又は病状の治療方法、を包含する。本開示は、LPA1依存的な細胞機能の障害が関与している疾患、障害、又は病状の治療における使用のための上記抗体、を包含する。本開示は、LPA1依存的な細胞機能の障害が関与している疾患、障害、又は病状の治療に用いられる医薬を製造するための上記抗体の使用、を包含する。前記疾患、障害、又は病状には、少なくとも、組織の線維症、細胞増殖性疾患、疼痛、炎症性疾患、自己免疫疾患、代謝性疾患、心血管障害、泌尿器疾患、又は眼科疾患が含まれる。
【実施例】
【0131】
〔実施例1〕抗LPA1抗体作製のためのマウスの免疫
(1)LPA1とGroELサブユニットとの融合タンパク質を発現する遺伝子免疫用ベクターの構築
NCBIジーンバンク登録済みのヒトLPA1(NP_001392、配列番号111)を基に5’末端にGCTAGC配列、3’末端にGTCGAC配列を付加した人工遺伝子を合成した。この人工遺伝子をクローニングベクターに導入した後、得られたベクターをNheIとSalIサイトで切断してDNA断片を調製した。pCI-hCCR7・GroEL(国際公開第2012/043533号、日本国特許第5315495号に記載)を制限酵素NheIとSalIで消化し、上記で調製したDNA断片を挿入し、免疫用ベクターpCI-hLPA1・GroELを構築した。このベクターは、ヒトLPA1とGroELとの融合タンパク質を発現する。
【0132】
ヒトLPA1に代えてマウスLPA1(NP_034466、配列番号112)を用いて同様の操作を行い、免疫用ベクターpCI-mLPA1・GroELを構築した。このベクターは、マウスLPA1とGroELとの融合タンパク質を発現する。
【0133】
(2)DNA免疫
PBSにベクターpCI-hLPA1・GroEL又はpCI-mLPA1・GroELを2mg/mLの濃度になるよう溶解し、免疫用組成物を調製した。この免疫用組成物を、8週齢の各種系統のマウスの両足大腿筋に各25μLずつIn Vivo エレクトロポレーション法により免疫した(0日目)。これにより、pCI-hLPA1・GroEL又はpCI-mLPA1・GroELを両足に各50μgずつ、すなわち、1匹につき1回あたり100μgのDNA免疫を行った。その後、14日目、28日目、42日目、及び56日目にも同様にDNA免疫を行った。さらに、免疫前及び免疫後21、35、63日目に採血を行い、血清を調製した。
【0134】
(3)LPA1安定発現細胞の作製
NCBIジーンバンク登録済みのヒトLPA1(NP_001392、配列番号111)を基に人工遺伝子を合成し、pCIneoベクター(プロメガ社)に導入し、pCIneo-hLPA1を構築した。CHO-K1細胞にリポフェクトアミン2000(ThermoFisher Scientific社)を用いて、pCIneo-hLPA1を導入した。得られた細胞を、G418(プロメガ社)を含む培地で培養し、G418耐性でヒトLPA1を安定に発現する細胞をクローニングした(以下、「ヒトLPA1安定発現CHO細胞」と称する)。
【0135】
NCBIジーンバンク登録済みのマウスLPA1(NP_034466、配列番号112)を基に人工遺伝子を合成しpEF5/FRT/V5-DEST(ThermoFisher Scientific社)に導入し、pEF-FRT-mLPA1を構築した。Flp-In-CHO細胞(ThermoFisher Scientific社)に、リポフェクトアミン2000を用いて、pEF-FRT-mLPA1とpOG44プラスミド(ThermoFisher Scientific社)を同時に導入した。得られた細胞を、ハイグロマイシン(ThermoFisher Scientific社)を含む培地で培養し、ハイグロマイシン耐性でマウスLPA1を安定に発現する細胞をクローニングした(以下、「マウスLPA1安定発現CHO細胞」と称する)。
【0136】
(4)フローサイトメトリーによるヒトLPA1、マウスLPA1に対する血清中抗体の結合性評価
ヒトLPA1安定発現CHO細胞、マウスLPA1安定発現CHO細胞、及び、CHO-K1細胞若しくはCHO-FlpIn細胞(以下、陰性対照細胞と称する)を、FACSバッファー(1%FBS含有PBS)で洗浄し、Fc Block(サイテック・バイオサイエンシズ社)を細胞懸濁液の1/500量加え、4℃で30分間ブロッキングを行った。ブロッキング後、50倍希釈した免疫前及び免疫後の血清と、各細胞をインキュベートした。さらに、各細胞をFACSバッファーで洗浄し、2次抗体としてフィコエリスリン標識抗マウスIgG抗体(サザンバイオテック社)を添加した後、フローサイトメーターiQue(ザルトリウス社)を用いて、各細胞と血清中の抗ヒトLPA1抗体及び抗マウスLPA1抗体との結合を評価した。免疫後の血清中には、ヒトLPA1安定発現CHO細胞あるいはマウスLPA1安定発現CHO細胞に対して結合し、陰性対照細胞には結合しない抗体が存在していた。LPA1に対する特異的抗体価が上昇した個体をブースト及び採材に供した。
【0137】
(5)一過性発現細胞を用いたブースト及び採材
ベクターpCI-hLPA1又はpCI-mLPA1を、リポフェクトアミン2000を用いてHEK293FT細胞(ThermoFisher Scientific社)にトランスフェクションして、ヒトLPA1又はマウスLPA1を一過性に発現させた。この細胞を抗体価が上昇した個体の脾臓及び腹腔内に投与し、3日後に脾臓、鼠径リンパ節及び腸骨リンパ節を採材した。採材した各組織から脾細胞及びリンパ節由来細胞を分離し、CELLBANKER 1plus(日本全薬工業)に懸濁し、特異的抗体産生リンパ球の選抜まで-80℃で保存した。
【0138】
〔実施例2〕抗体の作製
(1)マイクロウェルを用いた特異的抗体産生リンパ球の選抜
マイクロウェルを用いた特異的抗体産生リンパ球の選抜は、国際公開第2020/171020号、日本国特許第6881801号に記載の方法に準じて実施した。すなわち、ヒトLPA1安定発現CHO細胞又はマウスLPA1安定発現CHO細胞をF-12培地(10% FBS、Penicillin/Streptomycin含有)で懸濁し、3.5×105細胞/500μLの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液をセルピッキング システム用のマイクロチャンバー(アズワン社)に充填した。マイクロチャンバーを300rpmで1分間、5回遠心し、ヒトLPA1安定発現CHO細胞又はマウスLPA1安定発現CHO細胞が各マイクロウェルに1又は2個格納されるように調製した。マイクロチャンバーをF-12培地で洗浄した後、500μLのF-12培地を入れた。CO2インキュベーターにて37℃で1時間インキュベートし、マイクロウェルの底面にヒトLPA1安定発現CHO細胞又はマウスLPA1安定発現CHO細胞を接着させた。F-12培地で10nM濃度に調整したCytoRed溶液(同仁化学研究所)を加え、さらに37℃で1時間インキュベートし細胞を染色した。F-12培地で3回洗浄して余剰のCytoRedを除去した後、1mLのF-12培地をマイクロチャンバー内に満たした。
【0139】
DNA免疫後に実施例1(5)で回収した細胞から、EasySep Mouse Biotin Positive Selection Kit(STEMCELL TECHNOLOGIES社)を用いて抗体産生細胞を濃縮した。1.1×105の抗体産生細胞を500μLのF-12培地で懸濁し、マイクロチャンバーに充填した。マイクロチャンバーを300rpmで1分間、5回遠心し、抗体産生細胞が各マイクロウェルに1又は2個格納されるように調製した。マイクロチャンバーを培地で洗浄した後、適量の培地を入れて37℃で30分間インキュベートし、抗体産生細胞から抗体を分泌させた。マイクロウェルを洗浄して上清を除去した後、RPMI1640(10% FBS含有)で500倍希釈したAlexa Fluor 488標識抗マウスIgG抗体(アブカム社)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。RPMI1640(フェノールレッド不含,1% FBS含有)にて3回洗浄した後、RPMI1640を1mL入れた。セルピッキング システム(アズワン社)にマイクロチャンバーをセットし、全てのマイクロウェルの透過光画像及び2種類の蛍光画像の情報を取得した。CytoRedの蛍光検出は、励起波長543nm、蛍光波長593nmの条件で行った。Alexa Fluor 488の蛍光検出は、励起波長482nm、蛍光波長536nmの条件で行った。透過光、CytoRed、及びAlexa Fluor 488のスキャン画像を基に、ヒトLPA1安定発現CHO細胞又はマウスLPA1安定発現CHO細胞表面に結合する抗体が存在すると判断できたマイクロウェルから、直径数μm~数十μmのキャピラリー(アズワン社)を用いて、抗体生産細胞を細胞溶解液の中に回収した。
【0140】
(2)回収した抗体産生細胞からの抗体遺伝子単離
抗体産生細胞から、MAGrahd法(Kurosawa N, Yoshioka M, Fujimoto R, Yamagishi F, Isobe M. "Rapidproduction of antigen-specificmonoclonalantibodies from a variety of animals." BMC Biol. 2012; 10: 80)にて抗体遺伝子を取得した。すなわち、(1)で回収した細胞溶解液5μLとオリゴdTマグネット5μgとを混合し、オリゴdTマグネット上に細胞由来のmRNAを捕捉した。MAGrahdリアクタートレーとネオジム磁石を使い、オリゴdTマグネットを洗浄溶液で洗浄後、逆転写反応によるcDNA合成を行った。さらにマグネットを洗浄後、5’ターミナルトランスレーショナル反応を実施した。合成した上記cDNAを用い、5’racePCR法にて、抗体重鎖可変領域(VH領域)の遺伝子と、抗体軽鎖可変領域(VL領域)の遺伝子を単離増幅した。なお、増幅産物の特異性を高めるために、PCRは2回行った。1回目のPCRでは、VH領域とVL領域を共通して増幅させる第一フォワードプライマー(配列番号113)と、VH領域を特異的に増幅させるVH第一リバースプライマー(配列番号114)と、VL領域を特異的に増幅させるVL第一リバースプライマー(配列番号115)を混合して使用した。2回目のPCRでは、1回目の増幅産物を鋳型とし、VH領域の増幅については、第二フォワードプライマー(配列番号116)と、VH領域を特異的に増幅させるVH第二リバースプライマー(配列番号117)、VL領域の増幅については第二フォワードプライマー(配列番号116)とVL領域特異的に増幅させるVL第二リバースプライマー(配列番号118)をそれぞれプライマーとして使用した。2回目のPCR後のサンプルについてアガロースゲル電気泳動を行ったところ、約750bpの位置にVH領域、約550bpの位置にVL領域に、それぞれ対応する遺伝子増幅産物が確認できた。
【0141】
(3)抗体発現ユニットの構築
TS-jPCR法(Yoshioka M, Kurosawa N, Isobe M. "Target-selective jointpolymerasechain reaction: a robust and rapid method for high-throughput production of recombinant monoclonal antibodies from single cells." BMC Biotechnol. 2011; 11: 75)にて抗体発現ユニットを構築した。すなわち、(2)で増幅したVH領域の遺伝子と、抗体重鎖定常領域の遺伝子と、遺伝子発現に必要なプロモーター領域を含む遺伝子とをPCRを用いて融合し、完全長抗体重鎖を発現する抗体発現ユニットを構築した。同様に、(2)で増幅したVL領域の遺伝子と、抗体軽鎖定常領域の遺伝子と、遺伝子発現に必要なプロモーター領域を含む遺伝子とをPCRを用いて融合し、完全長抗体軽鎖を発現する抗体発現ユニットを構築した。
【0142】
(4)哺乳動物細胞への抗体発現ユニット導入
細胞培養用6ウェルプレートに、Expi293F細胞(ThermoFisher Scientific社)を7.5×106細胞/3mL/ウェルとなるように播種した。Expifectamine 293 Reagent(ThermoFisher Scientific社)を用いて、(3)で構築した重鎖および軽鎖の2種の抗体発現ユニットをExpi293F細胞に共導入した。導入5日目に細胞上清を回収して、生産された抗体の結合性評価に用いた。
【0143】
(5)フローサイトメトリーを用いた抗体の結合性評価
ヒトLPA1安定発現CHO細胞若しくはマウスLPA1安定発現CHO細胞、及び、陰性対照細胞を、FACSバッファーで洗浄し、細胞濃度が1×107細胞/mLとなるようにFACSバッファーで懸濁した。Fc Block(サイテック・バイオサイエンシズ社)を細胞懸濁液の1/500量加え、4℃で30分間ブロッキングを行った。ブロッキング後、2×105細胞/50μLとなるように細胞を懸濁した。この細胞懸濁液と(4)で回収した細胞上清とを混合し、4℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、100μLのFACSバッファーで2回、細胞を洗浄した。二次抗体としてフィコエリスリン標識抗マウスIgG抗体(サザンバイオテック社)の希釈液を各ウェルに50μLずつ加え、4℃で1時間インキュベートした。100μLのFACSバッファーで細胞を2回洗浄した後、80μLのFACSバッファーに懸濁し、フローサイトメーターiQue(ザルトリウス社)にて細胞表面の蛍光強度を測定し抗体の結合性を評価した。ヒトLPA1安定発現CHO細胞若しくはマウスLPA1安定発現CHO細胞に結合し、陰性対照細胞に結合しなかった抗体ユニットを一次ヒット抗体とした。
【0144】
〔実施例3〕細胞内cAMPシグナル伝達の阻害評価による抗体のスクリーニング
実施例2の一次ヒット抗体に相当する培養上清より、常法に従いProtein Aアフィニティー精製によって精製抗体を調製し、以下の評価に供した。細胞内Cyclic adenosine monophosphate(cAMP)濃度はLANCE Ultra cAMP Kit(パーキンエルマー社)を用いて測定した。
【0145】
ヒトLPA1安定発現CHO細胞及びマウスLPA1安定発現CHO細胞を、0.5%BSA、100単位/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンを含むFBS無添加のHam’s F-12培地で24時間培養した。細胞は酵素不含細胞解離バッファー(ThermoFisher Scientific社)で細胞培養ディッシュから回収し、Hanks’ Balanced Salt Solution(HBSS)で細胞を洗浄した。Stimulation buffer(5mM HEPES、0.5mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)、0.1% BSAを含むHBSS)で2×105/mLになるよう細胞を懸濁し、OptiPlate-96well(パーキンエルマー社製)に1ウェルあたり12.5μL(2,500個)の細胞を分注した。各ウェルにStimulation bufferで400nMに希釈した抗体を6.25μL添加し(終濃度100nM)、室温で15分間静置した。次に、12μMのForskolin(終濃度3μM)と200nMのオレオイル-L-α-リゾフォスファチジン酸 ナトリウム塩(oleoyl-α-lysophosphatidic acid sodium salt、Merck社)(終濃度50nM)の混合液を6.25μL添加し、室温で30分間静置した。キット付属のcAMP Detection Bufferを用い、取扱説明書にしたがって希釈したEu-cAMP tracer溶液、ULight-anti-cAMP antibody溶液をそれぞれ12.5μL添加し、室温で1時間静置した後、プレートリーダーEnVision2104(パーキンエルマー社)にてTR-FRETを測定した。阻害率(%)は、Forskolinとリゾフォスファチジン酸を添加した際の実測値を阻害率0%、Forskolinのみを添加した際の実測値を阻害率100%として標準化をおこない、相対的な細胞内cAMPシグナル伝達の阻害率(%)として算出した。
【0146】
一次ヒットのうち、ヒトLPA1発現細胞及びマウスLPA1発現細胞のリゾフォスファチジン酸誘発の細胞内cAMPシグナル伝達を阻害した210309-1-C、210309-1-G、210309-2-A、210309-2-D、210309-4-A、210310-1-D、210420-4-E、210420-1-H、210420-3-E、211222-1-G、及び211222-1-Aの11種類を、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有する抗体として選択した。
【0147】
当該11種の抗体について、取得した時の抗原の種類、並びに、ヒト及びマウスLPA1発現細胞のリゾフォスファチジン酸誘発の細胞内cAMPシグナル伝達の阻害率を表1に示した。
【0148】
【0149】
〔実施例4〕フローサイトメトリーによるリゾフォスファチジン酸受容体への結合評価による抗体のスクリーニング
【0150】
リゾフォスファチジン酸受容体サブタイプのLPA1、LPA2、LPA3への結合特異性を評価するために、ヒトLPA1(配列番号111)、マウスLPA1(配列番号112)および、ジーンバンク登録済みのヒトLPA2(NP_004711、配列番号119)、マウスLPA2(NP_064412、配列番号120)、ヒトLPA3(NP_036284、配列番号121)、マウスLPA3(NP_075359、配列番号122)を基に各遺伝子の5’末端にFLAG tag配列を付加した人工遺伝子を合成した。各合成遺伝子を導入した発現ベクター10μgを、リポフェクトアミン2000を使用してHEK293FT細胞に導入し、ヒトLPA1遺伝子導入細胞、マウスLPA1遺伝子導入細胞、ヒトLPA2遺伝子導入細胞、マウスLPA2遺伝子導入細胞、ヒトLPA3遺伝子導入細胞、及びマウスLPA3遺伝子導入細胞を調製した。
【0151】
その翌日に細胞をPBSで洗浄し、酵素不含細胞解離バッファー(ThermoFisher Scientific社)によって細胞培養用ディッシュから剥がし取り、PBSで洗浄後、遠心操作により回収した。Goat serum(ThermoFisher Scientific社)をFACSバッファー(1%FBS含有PBS)で2倍希釈し、1×107/mLになるよう懸濁した。4℃で30分間静置してブロッキングした。遠心操作により細胞を集め、4×106/mLになるようFACSバッファーに細胞を懸濁しV-bottom96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific社)に25μL(1×105細胞)ずつ分注した。
【0152】
20μg/mLの、実施例3で選択された11種類の抗体(210309-1-C、210309-1-G、210309-2-A、210309-2-D、210309-4-A、210310-1-D、210420-4-E、210420-1-H、210420-3-E、211222-1-G、211222-1-A)、20μg/mLの抗FLAGマウスIgG抗体(Sigma-Aldrich社)若しくはマウスアイソタイプコントロール抗体(富士フイルム和光純薬株式会社)を25μLずつ添加し、4℃で1時間静置した。遠心操作により細胞を集め、120μLのFACSバッファーで細胞を洗浄した。この洗浄操作を2回行った。細胞沈査にFACSバッファーで500倍希釈した二次抗体、Goat Anti-Mouse IgG H&L(DyLight 650)(Abcam社製)を25μLずつ分注し、懸濁後、4℃で1時間静置した。細胞を2回洗浄した後、50μLのFACSバッファーで懸濁してV底96ウエルプレート(Greiner社製)に全量を移し、フローサイトメーター(Agilent Novocyte)を用いて抗体との結合を測定した。
【0153】
代表例として、210309-4-Aのフローサイトメーターのヒストグラムを
図1に示す。遺伝子非導入細胞を用いた場合と比較して、遺伝子導入細胞を用いた場合にヒストグラムの右方シフトが起こるか否かについて検討した。まず、抗FLAGマウスIgG抗体を一次抗体として用いた場合では、ヒトLPA1遺伝子導入細胞、ヒトLPA2遺伝子導入細胞、ヒトLPA3遺伝子導入細胞、マウスLPA1遺伝子導入細胞、マウスLPA2遺伝子導入細胞、及びマウスLPA3遺伝子導入細胞のいずれの場合も、右方シフトが観察された。一方、マウスアイソタイプコントロール抗体を一次抗体として用いた場合または二次抗体のみでは、いずれの遺伝子導入細胞でも右方シフトが観察されなかった。このことから、いずれの受容体も細胞表面に発現していることが確認された。
【0154】
一方、210309-4-Aを一次抗体として用いた場合では、ヒトLPA1遺伝子導入細胞とマウスLPA1遺伝子導入細胞でのみヒストグラムの右方シフトが観察された。このことから、210309-4-Aは、ヒトLPA1とマウスLPAの細胞外ドメインに特異的に結合するが、ヒトLPA2、ヒトLPA3、マウスLPA2、及びマウスLPA3の細胞外ドメインのいずれにも結合しないことが観察された。
【0155】
210309-4-A以外の抗体についても、
図1と同様の結果が得られた。
【0156】
210309-4-A以外の抗体を含めた11種の抗体の結合特異性を表2に示す。ヒストグラムの右方シフトが観察されたものを「+」、観察されなかったものを「-」と表示した。11種類の抗体は、いずれも、ヒトLPA1とマウスLPAの細胞外ドメインに特異的に結合するが、ヒトLPA2、ヒトLPA3、マウスLPA2、及びマウスLPA3の細胞外ドメインのいずれにも結合しないことが観察され、ヒトLPA1の細胞外ドメインに特異的に結合し、ヒトLPA2の細胞外ドメインに特異的に結合せず、ヒトLPA3の細胞外ドメインに特異的に結合しない、抗体であることが確認された。
【0157】
【0158】
〔実施例5〕抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域のCDR配列決定
実施例3で選択した210309-1-C、210309-1-G、210309-2-A、210309-2-D、210309-4-A、210310-1-D、210420-4-E、210420-1-H、210420-3-E、211222-1-G、及び211222-1-Aの11種類の抗体遺伝子を用い、相同性配列選択的組み換えクローニング(Kurosawa N, Yoshioka M, Isobe M. "Target-selective homologousrecombination cloning for high-throughput generation of monoclonal antibodies from single plasma cells." BMC Biotechnol. 2011; 11: 39)によって、pET vectorへのクローニングを行った。さらに、クローニングされた抗体重鎖可変領域(VH領域)の配列を解析するために、実施例2で使用したVH第二リバースプライマー(配列番号117)を用いてシーケンス解析を行い、VH領域の配列を決定した。同様に、クローニングされた抗体軽鎖可変領域(VL領域)の配列を解析するために、実施例2で使用したVL第二リバースプライマー(配列番号118)を用いてシーケンス解析を行い、VL領域の配列を決定した。CDRの決定にはkabat numbering法とIMGT numbering法を組み合わせて解析し、両方のナンバリング方法によって判定される領域を包括的に含む領域を、CDRとして決定した。
【0159】
各抗体の重鎖可変領域、重鎖CDR1~3、軽鎖可変領域、及び軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列(AA)、並びに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域をそれぞれコードするDNAの塩基配列を、表3-1から表3-11にまとめた。
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
〔実施例6〕フローサイトメトリーによるLPA1への結合評価
実施例5で決定した210309-1-C、210309-1-G、210309-2-A、210309-2-D、210309-4-A、210310-1-D、210420-4-E、210420-1-H、210420-3-E、211222-1-G、及び211222-1-AのVH領域とVL領域に、マウスIgG1の重鎖定常領域及びκ鎖定常領域を接続した人工遺伝子を合成した。抗体遺伝子はCHO細胞に導入し、その培養液よりアフィニティクロマトグラフィーにて精製抗体を製造し、以下の試験に供した。いずれの精製抗体もSDS―PAGE法により純度を検定したところ90%以上であることを確認した。
【0172】
ヒトLPA1安定発現CHO細胞及びマウスLPA1安定発現CHO細胞をそれぞれPBSで洗浄し、酵素不含細胞解離バッファー(ThermoFisher Scientific社)によって細胞培養用ディッシュから剥がし取り、PBSで洗浄後、遠心操作により回収した。ヒトLPA1安定発現CHO細胞及びマウスLPA1安定発現CHO細胞は、FACSバッファーで500倍希釈したFc Block(サイテック・バイオサイエンシズ社)で1×107/mLになるよう懸濁後、4℃で30分間静置してブロッキングした。遠心操作により細胞を集め、4×106/mLになるようFACSバッファーに細胞を懸濁し、V-bottom96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific社)に25μL(1×105細胞)ずつ分注した。一次抗体としては上述の方法で生産精製した11種類のLPA1抗体とマウスアイソタイプコントロール抗体(富士フイルム和光純薬株式会社)を段階希釈し、25μLずつ添加後4℃で1時間静置した。遠心操作により細胞を集め、120μLのFACSバッファーで細胞を洗浄した。この洗浄操作を2回行った。細胞沈査にFACS Bufferで500倍希釈した二次抗体、Goat Anti-Mouse IgG H&L(DyLight 650)(Abcam社製)を25μLずつ分注し、懸濁後、4℃で1時間静置した。細胞を2回洗浄した後、50μLのFACSバッファーに懸濁してフローサイトメーター(Agilent Novocyte)を用いて抗体との結合を測定した。
【0173】
横軸に抗体の濃度、縦軸にフローサイトメーターのヒストグラムの蛍光強度の中央値をプロットしたグラフを作成した。11種類の抗体は、いずれもヒトLPA1安定発現CHO細胞及びマウスLPA1安定発現CHO細胞に用量依存的に結合することが確認された。各抗体のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合の結果を
図2A~
図2Kに、各抗体のマウスLPA1安定発現CHO細胞への結合の結果を
図3A~
図3Kに示した。50%結合濃度(EC50)を算出し、表4にまとめた。
【0174】
【0175】
次に、内在的に細胞表面に発現しているLPA1へのLPA1抗体の結合を評価した。ヒトLPA1の遺伝子発現が確認されているヒト肺由来線維芽細胞株(IMR-90)を用いて検証した。上記と同様の手順で10μg/mLの精製LPA1抗体、マウスアイソタイプコントロール抗体の結合性をフローサイトメーター(Agilent Novocyte)にて測定した。その結果、11種類の抗体はIMR-90に特異的に結合することが確認された。11種類の抗体とマウスアイソタイプコントロール抗体を比較したヒストグラムを
図4に示した。
【0176】
〔実施例7〕細胞内cAMPシグナル伝達の阻害評価
実施例6で製造した抗体を、以下の試験に供した。
【0177】
細胞内Cyclic adenosine monophosphate(cAMP)濃度の変化をLANCE Ultra cAMP Kit(パーキンエルマー社)を用いて実施例3の方法に準じて測定した。2×10
5/mLの細胞濃度のヒトLPA1安定発現CHO細胞及びマウスLPA1安定発現CHO細胞12.5μLに、段階希釈した精製LPA1抗体あるいはLPA1低分子拮抗薬BMS-986278(MedKoo社)を6.25μLを添加し、室温で15分間静置した。さらに12μM Forskolin(Merck社製)(終濃度3μM)と200nM オレオイル-L-α-リゾフォスファチジン酸 ナトリウム塩(終濃度50nM)の混合液6.25μLを添加し、室温で30分間静置した後、cAMP濃度を実施例3の方法に準じて測定した。阻害率(%)は、Forskolinとオレオイル-L-α-リゾフォスファチジン酸を添加した際の実測値を阻害率0%、Forskolinのみを添加した際の実測値を阻害率100%として標準化を行い、相対的な細胞内cAMPシグナル伝達の阻害率(%)として算出した。横軸に各抗体の濃度、縦軸に阻害率(%)としてプロットした。各抗体のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を
図5A~
図5Kに、各抗体のマウスLPA1に対する阻害活性の用量依存性を
図6A~
図6Kに示した。この結果、11種類の抗体は、いずれもヒト及びマウスLPA1発現CHO細胞におけるリゾフォスファチジン酸誘発の細胞内cAMPシグナル伝達を用量依存的に阻害することが確認され、LPA1依存的な細胞機能を遮断する活性を有するものであることが示された。
【0178】
独立した3回の細胞内cAMPシグナル伝達の阻害試験の50%阻害濃度(IC
50)を算出し、平均と標準偏差を表5に示した。また、BMS-986278のヒト及びマウスLPA1発現CHO細胞のリゾフォスファチジン酸誘発の細胞内cAMPシグナル伝達阻害の用量依存性を、それぞれ
図7A及び
図7Bに示した。ヒト及びマウスLPA1に対するBMS-986278のIC
50値はそれぞれ83nMと232nMであった。この結果、11種類の抗体は、いずれも、ヒトLPA1依存的な細胞機能を遮断する活性のIC
50値においてBMS-986278と同等かより優れていることが示された。
【0179】
【0180】
〔実施例8〕細胞内cAMPシグナル伝達に対するLPA1抗体のインバースアゴニスト効果の検証
ヒトLPA1安定発現CHO細胞を用いて、LPA1リガンド非存在下で細胞内cAMP濃度の変化に対する210309-4-Aの影響を評価した。すなわち、2×10
5/mLの細胞濃度のヒトLPA1安定発現CHO細胞12.5μLに、段階希釈した実施例6で使用した210309-4-Aを6.25μL添加し、室温で15分間静置した。さらに、12μM Forskolinを6.25μL(終濃度3μM)添加し、室温で30分間静置した後、cAMP濃度を測定した。横軸に抗体の濃度、縦軸にcAMP濃度(nM)をプロットしたグラフを
図8に示した。
図8において、点線はForskolin刺激のみのcAMP濃度(2.9nM)を示す。すなわち、210309-4-Aは用量依存的にcAMPレベルを増加させることからインバースアゴニストとしての特徴を示していた。他の10種のLPA1抗体も同様の試験を実施した結果、用量依存的にcAMPレベルを増加させ、インバースアゴニストとしての特徴を示していた。本抗体が、LPA1リガンド非依存的にLPA1受容体依存的な細胞機能を遮断しうる抗体であることが示された。
【0181】
〔実施例9〕細胞内cAMPシグナル伝達に対するLPA1抗体の阻害様式の検証
また、ヒトLPA1安定発現CHO細胞を用いて、LPA1リガンドであるリゾフォスファチジン酸の用量反応曲線に対する種々の濃度の210309-4-Aの影響を評価した。すなわち、2×10
5/mLの細胞濃度のヒトLPA1安定発現CHO細胞12.5μLに一定濃度の実施例6で使用した210309-4-A(終濃度0、5、7.5、10、100nM)を6.25μL添加し、室温で15分間静置した。さらに、12μM Forskolin(終濃度3μM)とオレオイル-L-α-リゾフォスファチジン酸 ナトリウム塩(終濃度0.1~10000nM)の混合液6.25μLを添加し、室温で30分間静置した後、cAMP濃度を測定した。各抗体濃度におけるリゾフォスファチジン酸の用量反応曲線を
図9に示した。すなわち、抗体濃度が上昇すると用量反応曲線が右方シフトすることから競合型阻害の特徴を示していた。
【0182】
〔実施例10〕ヒト化抗LPA1抗体の作製
210309-4-Aの場合を例示する。210309-4-AのCDRを移植したヒト化抗体を作製するために、ヒトフレームワークを210309-4-Aとヒト生殖系列VHおよびVK遺伝子との相同性に基づいて選択した。コンピュータモデリングに基づいて、210309-4-Aの予測される抗体の立体構造を支持することができるように、選択されたヒト生殖系列VHおよびVLの配列に変異を加えた複数の抗体、「h309-4-A-BP1」、「h309-4-A-SS1」、「h309-4-A-SG1」をデザインした。h309-4-A-BP1のVH領域(配列番号123)、h309-4-A-SS1のVH領域(配列番号125)、h309-4-A-SG1のVH領域(配列番号127)、及び210309-4-AのVH領域(配列番号7)のアライメントを
図10Aに示す。h309-4-A-BP1のVL領域(配列番号124)、h309-4-A-SS1のVL領域(配列番号126)、h309-4-A-SG1のVL領域(配列番号128)、及び210309-4-AのVL領域(配列番号9)のアライメントを
図10Bに示す。
【0183】
h309-4-A-BP1、h309-4-A-SS1、及びh309-4-A-SG1のVH領域にヒトIgG1の重鎖定常領域(LALA変異を含む)(配列番号129)、VL領域にκ鎖定常領域(配列番号130)を接続した人工遺伝子を合成した。また、比較対象として、210309-4-AのVH領域にヒトIgG1の重鎖定常領域(LALA変異を含む)、VL領域にκ鎖定常領域を接続したキメラ型抗LPA1抗体「309-4-A-Chimera」の人工遺伝子も合成した。人工遺伝子をCHO細胞に導入し、その培養液よりアフィニティクロマトグラフィーにて精製抗体を製造し、以下の試験に供した。いずれの精製抗体もSDS―PAGE法により純度を検定したところ90%以上であることを確認した。
【0184】
次に、ヒトLPA1安定発現CHO細胞を用い、実施例6の方法に従ってヒトLPA1に対する結合活性の測定を行った。横軸に抗体の濃度、縦軸にフローサイトメーターのヒストグラムの蛍光強度の中央値をプロットしたグラフを作成した。各抗体のヒトLPA1安定発現CHO細胞への結合の結果を
図11A~
図11Eに示し、算出された50%結合濃度(EC50)を表6に示す。また、実施例7の方法に従って細胞内cAMPシグナル伝達の阻害活性の測定を行った。横軸に各抗体の濃度、縦軸に阻害率(%)をプロットしたグラフを作成した。各抗体のヒトLPA1に対する阻害活性の用量依存性を
図12A~
図12Eに示し、算出された50%阻害濃度(IC
50)を表7に示す。
【0185】
これらの結果のように、309-4-A-Chimeraの結合活性および阻害活性が210309-4-Aと同等であることから、ヒト抗体の定常領域への変換が結合活性および阻害活性に影響しないことを確認した。また、ヒト化LPA1抗体としてデザインしたh309-4-A-BP1、h309-4-A-SS1、及びh309-4-A-SG1の結合活性および阻害活性は、309-4-A-Chimeraと同等であることから、すべてのデザインにおいてヒト化後に結合活性および阻害活性が維持されていることを確認した。
【0186】
【0187】
【0188】
配列番号123~130のアミノ酸配列を表8に示す。
【0189】
【配列表】