(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20241009BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20241009BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241009BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241009BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2020143709
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057398(JP,A)
【文献】特開2016-188322(JP,A)
【文献】特開2012-024889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0021675(US,A1)
【文献】特開2019-071413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、
重量平均分子量が2000以上100000以下であるコラーゲンペプチドと、を含み、
pHが4.0未満であ
り、
ポリシリコン、酸化ケイ素および窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられる、研磨用組成物。
【請求項2】
前記砥粒が負のゼータ電位を有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記コラーゲンペプチドの重量平均分子量が20000以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒が、コロイダルシリカを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、
ポリシリコン、酸化ケイ素および窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の研磨方法を有する、
ポリシリコン、酸化ケイ素および窒化ケイ素を含む半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、シリコン酸化物(酸化ケイ素)、シリコン窒化物(窒化ケイ素)といったSi含有材料を研磨することがあり、トランジスタの構造によっては、各Si含有材料の研磨レートを制御することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、水溶性高分子とコロイダルシリカおよびフュームドシリカから選ばれる少なくとも一種の砥粒とを含有し、酸化剤を含有せず、pHが1~8である研磨用組成物が開示されている。このような研磨用組成物によれば、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
各Si含有材料の研磨レートを制御したいとの要求の中には、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨する一方で、他のSi含有材料よりもポリシリコンを選択的に研磨したいという要求も存在している。
【0007】
よって、本発明は、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨でき、かつシリコン酸化物およびシリコン窒化物の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比が十分に高い(すなわち、選択比が高い)研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を積み重ねた。その結果、砥粒と、重量平均分子量が2000以上100000以下であるコラーゲンペプチドと、を含み、pHが4.0未満である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨でき、かつシリコン酸化物およびシリコン窒化物の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比が十分に高い研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0011】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0012】
<研磨用組成物>
本発明の一形態は、砥粒と、重量平均分子量が2000以上100000以下であるコラーゲンペプチドと、を含み、pHが4.0未満である、研磨用組成物である。かかる構成により、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨でき、かつシリコン酸化物およびシリコン窒化物の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比を十分に高くする(すなわち、選択比を高くする)ことができる。
【0013】
本形態の研磨用組成物により、上記効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、コラーゲンペプチドのペプチド結合中の窒素原子上の電子がポリシリコンを求核攻撃し、またポリシリコン表面を親水化することにより、ポリシリコンの研磨速度を向上できると考えられる。一方、コラーゲンペプチドは、シリコン酸化物およびシリコン窒化物に対する保護膜として機能するため、シリコン酸化物およびシリコン窒化物の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比を十分に高くする(すなわち、選択比を高くする)ことができると考えられる。このメカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0014】
[砥粒]
本形態の研磨用組成物は、砥粒を含む。
【0015】
一実施形態において、本形態に係る砥粒の具体例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子が挙げられる。砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカがより好ましく、コロイダルシリカが特に好ましい。よって、好ましい実施形態では、本形態に係る砥粒は、コロイダルシリカを含む。
【0016】
コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法などが挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本形態に係る砥粒として好適に用いられる。中でも、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0017】
好ましい実施形態では、ポリシリコンの研磨速度をより向上できるとの観点から、本形態に係る砥粒は、負のゼータ電位を有する。ここで、「ゼータ電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。
【0018】
砥粒のゼータ電位は、例えば-80mV以上-5mV以下であり、好ましくは-70mV以上-10mV以下であり、さらに好ましくは-60mV以上-20mV以下であり、最も好ましくは-50mV以上-30mV以下である。砥粒がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、本発明の効果をより発揮することができる。
【0019】
本形態に係る砥粒は、pH4.0未満で負のゼータ電位を有するように、砥粒の表面が修飾されていてもよい。かような砥粒は、例えば、アルミニウム、チタンまたはジルコニウムなどの金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープすることや、有機酸を固定化することにより得ることができる。中でも、好ましいのは、表面に有機酸が固定化されてなる砥粒である。さらに好ましいのは、有機酸を表面に化学的に結合させたシリカである。かような形態であると、pH4.0未満で、負のゼータ電位を有することができる。前記有機酸は、特に制限されないが、スルホン酸、カルボン酸、リン酸などが挙げられ、好ましくはスルホン酸である。なお、有機酸を表面に固定したシリカは、シリカの表面に上記有機酸由来の酸性基(例えば、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基など)が(場合によってはリンカー構造を介して)共有結合により固定されていることになる。ここで、リンカー構造とは、シリカの表面と、有機酸との間に介在する任意の構造を意味する。よって、有機酸を表面に固定したシリカは、シリカの表面に有機酸由来の酸性基が直接共有結合により固定されていてもよいし、リンカー構造を介して共有結合により固定されていてもよい。これらの有機酸をシリカ表面へ導入する方法は特に制限されず、メルカプト基やアルキル基などの状態でシリカ表面に導入し、その後、スルホン酸やカルボン酸に酸化するといった方法の他に、上記有機酸基に保護基が結合した状態でシリカ表面に導入し、その後、保護基を脱離させるといった方法がある。
【0020】
有機酸を表面に固定したシリカの具体的な合成方法として、有機酸の一種であるスルホン酸をシリカの表面に固定するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたシリカを得ることができる。本発明の実施例のスルホン酸が表面に修飾されているコロイダルシリカも同様にして製造している。
【0021】
カルボン酸をシリカの表面に固定するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photo labile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたシリカを得ることができる。
【0022】
本形態に係る砥粒の平均一次粒子径の下限は、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、7nm以上であることがさらに好ましく、10nm以上であることが最も好ましい。また、本形態に係る砥粒の平均一次粒子径の上限は、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましく、20nm以下が最も好ましい。このような範囲であれば、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨することができる。砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0023】
本形態に係る砥粒の平均二次粒子径の下限は、2nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。また、本形態に係る砥粒の平均二次粒子径の上限は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が最も好ましい。このような範囲であれば、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨することができる。砥粒の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0024】
本形態に係る砥粒の形状は、特に制限されず、球状であっても非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱等の多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、繭型形状(中央部にくびれを有する形状)、会合型球形状(複数の粒子が一体化している形状)、金平糖形状(表面に複数の突起を有する形状)、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられる。
【0025】
本形態に係る砥粒の含有量(濃度)は、研磨用組成物に対して、例えば0.1質量%以上25質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、最も好ましくは2質量%以上5質量%以下である。このような範囲であると、ポリシリコンに対する研磨速度をより向上させることができる。研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0026】
[コラーゲンペプチド]
本形態の研磨用組成物は、重量平均分子量が2000以上100000以下であるコラーゲンペプチドを含む。
【0027】
コラーゲンペプチドは、コラーゲンが低分子化されたものである。コラーゲンを低分子化する方法としては、特に制限されず、例えばコラーゲンをアルカリ処理する方法が挙げられる。コラーゲンペプチドは、例えばウシ、ブタなどの皮、魚類(ヒラメ、サケ、スズキ等)の皮、鱗等に由来するコラーゲンから生成することができる。
【0028】
コラーゲンペプチドは、[Gly-Xaa-Yaa]の構造式で表されるトリペプチド構造を含む。ここで、Glyはグリシンを表す。XaaおよびYaaは、アミノ酸を表す。XaaおよびYaaとなるアミノ酸としては、例えばプロリン(Pro)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、セリン(Ser)等が挙げられる。
【0029】
コラーゲンペプチドの重量平均分子量は、ポリシリコンの研磨速度をより向上させるとの観点から、好ましくは2000以上20000以下であり、より好ましくは2000以上10000以下であり、さらに好ましくは2000以上5000以下である。
【0030】
本明細書において、コラーゲンペプチドの重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値を採用する。なお、市販品を用いる場合には、供給元から提供される製品情報の値を採用する。
【0031】
コラーゲンペプチドの含有量(濃度)は、例えば0.01質量%以上20質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上1質量%以下であり、最も好ましくは0.2質量%以上0.5質量%以下である。
【0032】
[分散媒]
本形態の研磨用組成物は、分散媒を含んでもよい。分散媒としては、水が好ましい。不純物による研磨用組成物の他の成分への影響を防ぐ観点から、できる限り高純度な水を使用することが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。通常は、研磨用組成物に含まれる分散媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上が水であることがより好ましく、99体積%以上が水であることがさらに好ましく、100体積%が水であることが特に好ましい。
【0033】
また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0034】
[pH調整剤]
本形態の研磨用組成物は、pHを4.0未満にするために、pH調整剤を含むことができる。
【0035】
pH調整剤は、pH調整機能を有する化合物であれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。pH調整剤は、pH調整機能を有するものであれば特に制限されないが、例えば、酸、アルカリ等が挙げられる。
【0036】
酸としては、無機酸または有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、特に制限されないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等が挙げられる。これらの中でも、無機酸が好ましく、マレイン酸がより好ましい。
【0037】
アルカリとしては、特に制限されないが、例えば、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、テトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン等が挙げられる。
【0038】
pH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0039】
pH調整剤の含有量は、特に制限されず、pH値を後述する好ましい範囲内の値とする
ことができる量であることが好ましい。
【0040】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、キレート剤、増粘剤、酸化剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の公知の添加剤をさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよい。
【0041】
[研磨用組成物のpH]
本形態の研磨用組成物のpHは、4.0未満であれば、特に制限されず、使用する砥粒およびコラーゲンペプチドの組み合わせに応じて、適宜調整することができる。pHの下限としては、例えば1.0以上であり、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上である。pHの上限としては、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3.0以下である。
【0042】
pHの値は、pHメーター(株式会社 堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))によって確認することができる。
【0043】
[研磨用組成物の電気伝導度]
本形態の研磨用組成物の電気伝導度の上限は、砥粒の凝集をより抑制できるとの観点から、好ましくは4.0mS/cm以下であり、より好ましくは3.0mS/cm以下である。本形態の研磨用組成物の電気伝導度の下限は、溶解性の観点から、好ましくは0.1mS/cm以上であり、より好ましくは0.5mS/cm以上である。電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製 型番:DS-71)によって確認することができる。
【0044】
電気伝導度調整剤としては、特に制限されないが、塩化合物を使用することができる。塩化合物としては、例えば、酸の塩、塩基の塩等が含まれ、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、クエン酸アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられ、中でも硫酸アンモニウムが好ましい。塩化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
電気伝導度調整剤の含有量(濃度)は、所望の電気伝導度に応じて、適宜調整することができる。
【0046】
[研磨対象物]
本形態の研磨用組成物を用いて研磨する研磨対象物は、特に制限されず、酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0047】
本形態に係る研磨対象物は、好ましくは多結晶シリコン(ポリシリコン)を含み、より好ましくは多結晶シリコン(ポリシリコン)、酸化ケイ素(SiO2)および窒化ケイ素(SiN)を含む。よって、本形態の研磨用組成物は、好ましくはポリシリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で用いられ、より好ましくはポリシリコン、酸化ケイ素および窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられる。
【0048】
酸化ケイ素を含む膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0049】
金属を含む膜としては、例えば、タングステン(W)膜、窒化チタン(TiN)膜、ル
テニウム(Ru)膜、白金(Pt)膜、金(Au)膜、ハフニウム(Hf)膜、コバルト
(Co)膜、ニッケル(Ni)膜、銅(Cu)膜、アルミニウム(Al)膜、タンタル(
Ta)膜などが挙げられる。
【0050】
<研磨用組成物の製造方法>
本形態の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒およびコラーゲンペプチドと、必要に応じて他の成分とを、分散媒中で撹拌混合することにより得ることができる。pH調整剤は、研磨用組成物のpHを4.0未満とするために、適宜用いることができる。したがって、本発明は、砥粒とペプチド結合含有化合物とを混合することを有する、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0051】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0052】
<研磨方法および半導体基板の製造方法>
本発明の一形態は、上記研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法である。
【0053】
また、本発明の一形態は、上記研磨方法を有する半導体基板の製造方法である。
【0054】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0055】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0056】
研磨条件については、たとえば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、たとえば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の一形態に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0057】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0058】
本発明の一形態に係る研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、たとえば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例】
【0059】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0060】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒としてスルホン酸修飾コロイダルシリカ(平均一次粒子径14nm、平均二次粒子径33nm)を3質量%、およびコラーゲンペプチド(重量平均分子量85000)を0.3質量%の最終濃度となるよう、イオン交換水に添加した。その後、室温(25℃)で30分撹拌混合し、pH調整剤としてマレイン酸を用いてpH2.5に調整して、研磨用組成物を調製した。
【0061】
(実施例2)
コラーゲンペプチド(重量平均分子量85000)をコラーゲンペプチド(重量平均分子量15000)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0062】
(実施例3)
コラーゲンペプチド(重量平均分子量85000)をコラーゲンペプチド(重量平均分子量2000)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0063】
(実施例4)
pHを1.5に調整したこと以外は、実施例2と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0064】
(実施例5)
pHを3.5に調整したこと以外は、実施例2と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0065】
(比較例1)
砥粒としてスルホン酸修飾コロイダルシリカ(平均一次粒子径14nm、平均二次粒子径33nm)を3質量%の最終濃度となるよう、イオン交換水に添加した。その後、室温(25℃)で30分攪拌混合し、pH調整剤としてマレイン酸を用いてpH2.5に調整して、研磨用組成物を調製した。
【0066】
(比較例2)
pHを4.5に調整したこと以外は、比較例1と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0067】
(比較例3)
コラーゲンペプチド(重量平均分子量85000)をコラーゲンペプチド(重量平均分子量300000)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0068】
(比較例4)
コラーゲンペプチド(重量平均分子量85000)をグリシンに変更したこと以外は、実施例1と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0069】
(比較例5)
pHを4.5に調整したこと以外は、実施例1と同様にして研磨用組成物を調製した。
【0070】
上記で調製した研磨用組成物の組成を表1に示す。
【0071】
[ゼータ電位の測定]
上記で調製した実施例1~5および比較例1~5の研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、研磨用組成物に含まれるスルホン酸修飾コロイダルシリカのゼータ電位を算出した。結果を表2に示す。
【0072】
[研磨用組成物のpHの測定]
研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0073】
[研磨用組成物の電気伝導度の測定]
研磨用組成物調製後の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製 型番:DS-71)により測定した。結果を表2に示す。
【0074】
[研磨速度の評価]
研磨対象物として、
・200mmウェハ(Poly-Si(ポリシリコン))
・200mmウェハ(SiN(窒化ケイ素膜))、
・200mmウェハ(TEOS(酸化ケイ素膜))、
を準備し、上記で得られた研磨用組成物を用いて、各ウェハを以下の研磨条件で研磨し、研磨速度を測定した。また選択比を算出した。
【0075】
研磨条件
研磨機:200mmウェハ用CMP片面研磨機
研磨パッド:ポリウレタン製パッド(IC1010:ロームアンドハース社製)
圧力:4.0psi(約27.6kPa)
プラテン(定盤)回転数:90rpm
ヘッド(キャリア)回転数:87rpm
研磨用組成物の流量:200ml/min
研磨時間:1分間。
【0076】
研磨速度
研磨速度(研磨レート)は、以下の式により計算した。
【0077】
【0078】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA)株式会社製 型
番:ASET)によって求めて、その差を研磨時間で除することにより評価した。結果を
表2に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表2に示すように、実施例の研磨用組成物は、比較例の研磨用組成物に比べて、ポリシリコンを高い研磨速度で研磨できることが分かる。さらに、実施例の研磨用組成物は、比較例の研磨用組成物に比べて、TEOSまたはSiNに対するポリシリコンの研磨速度の比の値が大きく、ポリシリコンをより選択的に研磨できることが分かる。