(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】前立腺癌の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20241009BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20241009BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20241009BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
A61K31/454
A61P35/00
A61P13/08
A61P35/04
A61P43/00 111
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022084991
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2019504790の分割
【原出願日】2017-07-28
【審査請求日】2022-06-24
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397060175
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【氏名又は名称】星川 亮
(72)【発明者】
【氏名】ゴッタルディス,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ホーキンス,レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】ヤマダ,ダグラス エイチ.
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】Drugs of the Future,2013年,Vol.38, No.10,p.679-685
【文献】The New England Journal of Medicine,2015年,Vol.373, No.18,p.1697-1708
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌の治療を要するヒトの前立腺癌を治療する方法での使用のための医薬組成物であって、ニラパリブ又はその塩を含み、前記方法が前記ヒトに
治療的に有効な量のニラパリブ又はその塩を投与することを含み、
前記ヒトが、BRCA-1及びBRCA-2からなる群から選択される遺伝子において少なくとも1つのDNA修復異常を有し、かつ、前記前立腺癌が転移性である、医薬組成物。
【請求項2】
前記前立腺癌が、転移性去勢抵抗性前立腺癌又は転移性ホルモン未治療前立腺癌である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記前立腺癌が、抗アンドロゲン抵抗性である、請求項2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
ニラパリブ又はその塩が、約30mg ニラパリブ/日~約400mg ニラパリブ/日の量で投与される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
ニラパリブ又はその塩が、約300mg ニラパリブ/日の量で投与される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
ニラパリブ又はその塩が、約200mg ニラパリブ/日の量で投与される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
ニラパリブ又はその塩が、100mg ニラパリブ経口剤形で1日1回経口投与される、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記ヒトが、少なくとも1ラインのタキサンによる化学療法を受けたことのある、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記前立腺癌が、少なくとも1ラインのエンザルタミド、アパルタミド、又はアビラテロン酢酸塩による抗アンドロゲン療法に曝されたことのある、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記DNA修復異常がゲノム損傷である、請求項
1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記ゲノム損傷が、ホモ接合性欠失、ヘテロ接合性欠失+有害突然変異、又はヘテロ接合性コピー中性喪失+有害突然変異である、請求項
10に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
該当なし。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、安全かつ/又は有効量のニラパリブをヒトに投与することによるヒトにおけ
る転移性ホルモン未治療前立腺癌の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌は、男性における最も一般的な非皮膚悪性腫瘍であり、西欧諸国における男性
の癌死因の第2位となっている。前立腺癌は、前立腺の異常細胞の制御されない増殖によ
り生じる。前立腺癌の腫瘍が発生すると、テストステロンなどのアンドロゲンが前立腺癌
の腫瘍増殖を促進する。その初期段階において、局在性の前立腺癌は、例えば、前立腺の
外科的除去及び放射線治療を含む局所的治療によって治療されることが多い。しかしなが
ら、男性の1/3でそうであるように、局所的治療により前立腺癌が治癒できない場合、
疾患は治癒不能な転移性疾患(すなわち、身体の1つの部分から他の部分に癌が転移する
疾患)に進行してしまう。
【0004】
転移性前立腺癌の治療法であるアンドロゲン除去療法(「ADT」)又はアンドロゲン
抑制療法は、睾丸でのテストステロンの産生を低下させるために行われる。ADTでは、
外科的去勢(精巣摘出)を行うか、又は黄体形成ホルモン放出ホルモン(「LHRH」)
のアンタゴニスト又はアゴニストを使用する。LHRHアンタゴニストの例としては、デ
ガレリクスが挙げられる。LHRHアゴニストの例としては、ゴセレリン酢酸塩、ヒスト
レリン酢酸塩、ロイプロリド酢酸塩、及びトリプトレリンパルモ酸塩が挙げられる。
【0005】
アビラテロン酢酸塩はアビラテロンのプロドラッグであり、アンドロゲン生合成におけ
る主要酵素である17αヒドロキシラーゼ/C17,20リアーゼ(シトクロムP450
c17[CYP17])を阻害する。アビラテロン酢酸塩とプレドニゾンとの併用は、以
前にドセタキセルを含む化学療法を受けている転移性去勢抵抗性前立腺癌(「mCRPC
」)に罹患した男性の治療に承認されている。mCRPCに罹患した患者におけるアビラ
テロン酢酸塩(1,000mg/日の錠剤用量)及びプレドニゾン(5mgを1日2回)
治療の有効性及び安全性は、いずれも第3相の多国籍、無作為化、二重盲検プラセボ対照
試験であるCOU-AA-301及びCOU-AA-302の結果によって確立される。
試験COU-AA-301は、アビラテロン酢酸塩によるCYP17阻害を利用してアン
ドロゲン除去療法(「ADT」)により実現される濃度よりも低い濃度にまで更にテスト
ステロン濃度を低下させることがmCRPCを有する患者の生存率を改善させることを示
した最初の第3相試験であった。COU-AA-302は、プラセボとプレドニゾンの併
用と比較して、アビラテロン酢酸塩とプレドニゾンの併用で治療を行った、mCRPCを
有する化学療法治療歴のない患者において、全生存率(「OS」)及びX線像に基づいた
無増悪生存率(「rPFS」)が有意に改善することを示した。
【0006】
予後因子が高リスクであるmHNPCを有する被験者におけるrPFS及びOSの改善
において、ADT単独と比較してアビラテロン酢酸塩と低用量のプレドニゾン及びADT
との併用が優れているか否かを判定するためのデータが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、DNA修復異常を有する患者を含むmCRPC患者におけるニラパリブに
よるPARP阻害による去勢抵抗性前立腺癌及び転移性去勢抵抗性前立腺癌を含む前立腺
癌の治療。この治療は、化学療法に続いて行ってもよいし、又は化学療法治療歴のない被
験者に行ってもよい。この治療は、例えばエンザルタミド、アパルタミド、及びビカルタ
ミドなどのAR標的剤に続いて行うことができる。したがって、ニラパリブは、別の治療
選択肢を与えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前立腺癌の治療を要するヒトの前立腺癌を治療する方法であって、ヒトに治
療有効量のニラパリブを投与することを含む、これからなる、及び/又はこれから本質的
になる方法に関する。
【0009】
一実施形態において、本発明は、前立腺癌の治療を要するヒトの前立腺癌を治療する方
法であって、ヒトに治療有効量のニラパリブを投与することを含む、これからなる、及び
/又はこれから本質的になる方法であって、前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌(「CRP
C」)、転移性去勢抵抗性前立腺癌、及び/又は抗アンドロゲン抵抗性前立腺癌である、
方法に関する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、前立腺癌の治療を要するヒトの前立腺癌を治療する方法
であって、ヒトにニラパリブを投与することを含む、これからなる、及び/又はこれから
本質的になる方法であって、ヒトが、BRCA-1、BRCA-2、FANCA、PAL
B2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、及び/又はATMからなる群から選択され
る少なくとも1つのDNA修復異常を有する、方法に関する。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、前立腺癌の治療を要するヒトの前立腺癌を治療する方法
であって、ヒトにニラパリブを投与することを含む、これからなる、及び/又はこれから
本質的になる方法であって、ヒトが、BRCA-1又はBRCA-2のいずれかである少
なくとも1つのDNA修復異常を有する、方法に関する。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、前立腺癌の治療を要するヒトの前立腺癌を治療する方法
であって、ヒトにニラパリブを、好ましくは約30mg/日~約400mg/日、より好
ましくは300mg/日の量で、最も好ましくは3つの100mgの経口剤形で1日1回
経口投与することを含む、これからなる、及び/又はこれから本質的になる方法に関する
。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、前立腺癌、抗アンドロゲン抵抗性前立腺癌、去勢抵抗性
前立腺癌、及び転移性去勢抵抗性前立腺癌を治療するためのニラパリブを含む組成物に関
する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ニラパリブがヒト前立腺腫瘍細胞株の増殖をインビトロで阻害することを示す。
【
図2】ニラパリブが2つのヒト前立腺腫瘍細胞株におけるPAR生成をインビトロで抑制することを示す。
【
図3】フローサイトメトリーによって測定された際に、ニラパリブ治療が22RV1細胞においてγ-H2AXの増大を用量依存的に誘導することを示す。
【
図4】ニラパリブが、インビトロで22RV1、LNCaP AR-TB、及びC4-2B細胞にγ-H2AXを誘導することを示す。
【
図5】ニラパリブ治療が、NSG雄性マウスのC4-2B-luc前立腺腫瘍の増殖を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「被験者」なる用語は、治療、観察、又は試験の対象とされたことがあるか、又は対象
である哺乳動物、最も好ましくはヒトを指す。
【0016】
「治療」なる用語は、病態に冒された被験者の処置のことを指し、癌細胞を殺滅するこ
とにより病態を緩和する作用ばかりでなく、病態の進行の阻害をもたらす作用のことも指
し、進行の速度の低下、進行の速度の停止、病態の改善、及び病態の治癒を含む。予防措
置としての治療(すなわち、予防法)も含まれる。
【0017】
「治療有効量」なる用語は、研究者、獣医師、医師、又は他の臨床専門家が組織系にお
いて得ようとする、治療される疾患、症候群、病態、若しくは障害の症状の緩和又は部分
的緩和を含む生物学的又は薬剤応答を生じるニラパリブの量のことを指す。
【0018】
「安全かつ有効な量」とは、ヒトにおいて疾患の進行及び許容されない毒性の予防又は
緩和をもたらすニラパリブの量のことを指す。
【0019】
「組成物」なる用語は、時として治療有効量の指定成分を含む医薬製品、並びに指定さ
れた量の指定成分の組み合わせから直接又は間接的に得られる任意の製品のことを指す。
【0020】
本明細書で使用するところの「薬学的に許容される」なる用語は、適切な医療判断の範
囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症をともなうこ
となく、妥当な有益性/危険性の比に見合う、ヒトの組織と接触した使用に適した化合物
、材料、組成物、及び/又は剤形に関する。各担体、賦形剤などは、製剤の他の成分との
適合性を有するという意味においていずれも「許容される」ものでなければならない。
【0021】
本明細書で使用するところの「アンドロゲン受容体」なる用語は、野生型アンドロゲン
受容体、並びに去勢抵抗性前立腺癌に関連するアンドロゲン抵抗性AR及び/又はAR突
然変異体を含むものとする。
【0022】
本明細書で使用するところの「抗アンドロゲン剤」なる用語は、体内で通常は反応性を
有する組織に対するアンドロゲンの生物学的作用を、防止又は阻害することができるホル
モン受容体アンタゴニスト化合物群のことを指す。いくつかの実施形態において、抗アン
ドロゲン剤は小分子である。抗アンドロゲン剤としては、エンザルタミド、アパルタミド
、及びアビラテロン酢酸塩が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用するところの「第1世代抗アンドロゲン剤」なる用語は、野生型ARポ
リペプチドに対してアンタゴニスト活性を示す薬剤を指す。しかしながら、第1世代抗ア
ンドロゲン剤は、CRPCにおいて潜在的にアゴニストとして作用し得るというという点
で第2世代抗アンドロゲン剤と異なっている。
【0024】
例示的な第1世代抗アンドロゲン剤としては、これらに限定されるものではないが、フ
ルタミド、ニルタミド、及びビカルタミドが挙げられる。
【0025】
本明細書で使用するところの「第2世代抗アンドロゲン剤」なる用語は、野生型ARポ
リペプチドに対して完全アンタゴニスト活性を示す薬剤を指す。第2世代抗アンドロゲン
剤は、例えばCRPCのようなARの発現レベルが増加している細胞で完全アンタゴニス
トとして作用するという点で第1世代抗アンドロゲン剤と異なっている。例示的な第2世
代抗アンドロゲン剤としては、4-[7-(6-シアノ-5-トリフルオロメチルピリジ
ン-3-イル)-8-オキソ-6-チオキソ-5,7-ジアザスピロ[3.4]オクト-
5-yl]-2-フルオロ-Nメチルベンズアミド(ARN-509としても知られる;
CAS番号956104-40-8);4-(3-(4-シアノ-3-(トリフルオロメ
チル)フェニル)-5,5-ジメチル-4-オキソ-2-チオキソイミダゾリジン-l-
イル)-2-フルオロ-N-メチルベンズアミド(MDV3100又はエンザルタミドと
しても知られる;CAS番号:915087-33-1)及びRD162(CAS番号9
15087-27-3)が挙げられる。いくつかの実施形態において、第2世代AR抗ア
ンドロゲン剤は、ARポリペプチドのリガンド結合部位で又はその付近でARポリペプチ
ドに結合する。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「第3世代抗アンドロゲン剤」は、以下に述べるように
、野生型ARポリペプチド、及びARポリペプチドのリガンド結合ドメイン(LBD)内
に突然変異が生じるARポリペプチドの突然変異体に対して完全アンタゴニスト活性を示
す薬剤を指す。第3世代抗アンドロゲン剤は、例えばCRPCのようなARの発現レベル
が増加している細胞において完全アンタゴニストとして作用するという点で第1世代抗ア
ンドロゲン剤と異なっている。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「突然変異体」は、(基準と比べて)改変された核酸又
はポリペプチド、あるいは、そのような改変された核酸又はポリペプチドを含むか若しく
は発現している細胞又は生体を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、特に断らないかぎり、(ARの拮抗作用により影響を受け
た疾病、症候群、病状又は疾患に言及する場合の)「影響する」又は「影響される」とい
う用語は、疾病、症候群、病状又は疾患の1つ以上の症状又は所見の頻度及び/又は重症
度の低下を含み、並びに/又は疾病、症候群、病状若しくは疾患の1つ以上の症状若しく
は所見の発生の予防、又は疾病、病状、症候群又は疾患の発生の予防を含む。
【0029】
本発明の実施形態には、ニラパリブのプロドラッグが含まれる。一般的には、このよう
なプロドラッグは、インビボで必要な化合物に容易に変換可能な化合物の機能的誘導体で
ある。したがって、本発明の治療又は予防の方法の実施形態において、「投与すること」
という用語には、具体的に開示された化合物による、又は具体的には開示されていない場
合もあるが患者への投与後にインビボで特定の化合物に変換される化合物による、記載さ
れた様々な疾病、病状、症候群及び疾患の治療又は予防が包含される。適切なプロドラッ
グ誘導体の選択及び調製に関する通常の手順は、例えば、「Design of Pro
drugs」、H.Bundgaard編、Elsevier,1985に記載されてい
る。
【0030】
アンドロゲン受容体(AR)
アンドロゲンは、標的組織の細胞内でアンドロゲン受容体(AR)という特定の受容体
に結合する。ARは身体の多くの組織で発現し、テストステロン(T)及びジヒドロテス
トステロン(DHT)などの内因性のアンドロゲンリガンドの生理学的及び病理生理学的
作用が発現する受容体である。構造的には、ARは、リガンド結合ドメイン(LBD)、
DNA結合ドメイン、及びアミノ末端ドメインの3つの主な機能ドメインで構成されてい
る。ARに結合し内因性のARリガンドの作用を模倣する化合物がARアゴニストと呼ば
れるのに対して、内因性のARリガンドの作用を阻害する化合物はARアンタゴニストと
呼ばれる。受容体へのアンドロゲンの結合は、受容体を活性化させ、受容体を標的遺伝子
に隣接したDNA結合部位に結合させる。ここから受容体は補助活性化因子タンパク質及
び基本転写因子と相互作用して遺伝子の発現を制御する。したがって、その受容体を介し
て、アンドロゲンは細胞内の遺伝子発現に変化を生じさせる。これらの変化は、細胞の代
謝産物、分化、又は増殖に標的組織の生理学的状態において目に見える結果を最終的にも
たらす。前立腺において、アンドロゲンは、アンドロゲン感受性組織の細胞質中に存在す
るARに結合することにより、前立腺組織及び前立腺癌細胞の増殖を刺激する。
【0031】
選択的にARを調節する化合物は、これらに限定されるものではないが、前立腺癌、良
性前立腺肥大症、女性の多毛症、脱毛症、拒食症、乳癌、にきび、骨疾患などの筋骨格に
関する病状、造血に関する病状、神経筋肉疾患、リウマチ疾患、癌、AIDS、悪液質を
はじめとする様々な疾患、状態、及び癌の治療又は予防に、男性避妊に用いられるホルモ
ン補充療法(HRT)に、男性機能向上に、男性生殖に関する病状に、及び一次又は二次
男性性腺機能低下症において臨床的に重要である。
【0032】
去勢抵抗性前立腺癌
内因性ホルモン(例えばテストステロン)の作用を阻害する薬剤(抗アンドロゲン剤)
は極めて効果的であり、前立腺癌の治療に日常的に用いられている(アンドロゲン除去療
法)。これらのアンドロゲン除去療法は、初期には腫瘍増殖の抑制に効果的であるが、ほ
とんどすべての症例で最終的には効果を失い、CRPCにつながる。すべてではないが大
部分の前立腺癌細胞は、初期にはアンドロゲン除去療法に反応する。しかしながら、前立
腺癌細胞はアンドロゲン除去療法によって作り出される選択圧に応答してきており、その
時点で治療に反応しなくなっているため、時間の経過とともに前立腺癌細胞の生存集団が
生じる。原発癌は用いられる療法に反応しなくなっているばかりか、癌細胞が原発腫瘍か
ら分離し血流中を移動して、疾患を離れた部位(特に骨)に転移させ得る。これは、転移
性去勢抵抗性前立腺癌(「mCRPC」)として知られる。他の作用の中でも、これは患
者に顕著な痛み、更に骨の脆弱性を生じる。
【0033】
いくつかの実施形態では、患者の前立腺癌は、これらに限定されないが、エンザルタミ
ド、アパルタミド、及びアビラテロン酢酸塩などの抗アンドロゲン治療に対して抵抗性又
は非反応性である(「抗アンドロゲン抵抗性」)。
【0034】
ニラパリブ(2-[4-[(3S)-ピペリジン-3-イル]フェニル]インダゾール
-7-カルボキサミド)の調製については、2010年2月16日出願の米国仮特許出願
第60/921,310号の利益を主張する、2011年12月6日発行の発明の名称が
「Amide Substituted Indazoles as Poly(ADP
-Ribose)Polymerase(PARP)Inhibitors」である米国
特許第8,071,623号、並びに2008年1月8日出願の米国仮特許出願第61/
010,333号の利益を主張する、2013年5月7日発行の発明の名称がPharm
aceutically Acceptable Salts of 2-[4-[(3
S)-piperidin-3-yl]phenyl]-2H-indazole-7-
carboxamide」である米国特許第8,436,185号に見ることができ、こ
れらの文献をいずれも本明細書に参照によって援用する。
【0035】
本発明は、ニラパリブ及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も提供する。有効
成分を含む医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性若しくは油性懸
濁液、分散性の粉末若しくは顆粒、エマルション、硬質若しくは軟質カプセル、又はシロ
ップ剤若しくはエリキシル剤などの経口使用に適した形態とすることができる。
【0036】
経口使用を目的とした組成物は、医薬組成物の製造の技術分野では既知のいずれかの方
法にしたがって調製することができ、かかる組成物は、医薬的に洗練された、味のよい製
剤を提供するために甘味剤、香味剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1つ
以上の薬剤を含むことができる。錠剤は、有効成分を、錠剤の製造に適した無毒性の薬学
的に許容される賦形剤と混合された状態で含有する。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カ
ルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、又はリン酸ナトリウムなど
の不活性希釈剤;例えば、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、コーンス
ターチ、又はアルギン酸などの顆粒化及び崩壊剤;例えば、デンプン、ゼラチン、ポリビ
ニルピロリドン又はアカシアなどの結合剤;及び、例えばステアリン酸マグネシウム、ス
テアリン酸、又はタルクなどの潤滑剤とすることができる。錠剤はコーティングされてい
なくてもよく、又は薬剤の不快な味を隠すか若しくは消化管における崩壊及び吸収を遅ら
せ、これにより長期にわたって持続する作用をもたらすための既知の技術によりコーティ
ングされていてもよい。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはヒドロキ
ヒプロピルセルロースのような水溶性マスキング材料、又はエチルセルロース、酢酸酪酸
セルロースのような時間遅延材料を用いることができる。
【0037】
経口使用のための製剤は、有効成分が、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又
はカオリンのような不活性の固体希釈剤と混合されたハードゼラチンカプセルとして、あ
るいは有効成分が、例えばポリエチレングリコールのような水溶性担体、又は例えばピー
ナッツ油、流動パラフィン、若しくはオリーブ油などの油性媒質と混合されたソフトゼラ
チンカプセルとして与えることもできる。
【0038】
水性懸濁液は、活性物質を水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合された状態で含有す
る。かかる賦形剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロー
ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリド
ン、トラガカントガム、及びアカシアガムなどの懸濁化剤であり、分散剤又は湿潤剤は、
例えばレシチンなどの天然に存在するホスファチド、又はアルキレンオキシドと脂肪酸と
の縮合生成物(例えばステアリン酸ポリオキシエチレン)、又はエチレンオキシドと長鎖
脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えばヘプタデカエチレンオキシセタナール)、又は
エチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物
(例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、又はエチレンオキシドと脂
肪酸及びヘキシトール無水物から誘導された部分エステルとの縮合生成物(例えばポリエ
チレンソルビタンモノオレエート)とすることができる。水性懸濁液は、例えばp-ヒド
ロキシ安息香酸エチル又はp-ヒドロキシ安息香酸nープロピルなどの1種類以上の防腐
剤、1種類以上の着色剤、1種類以上の香味剤、及びスクロース、サッカリン又はアスパ
ルテームなどの1種類以上の甘味剤も含むことができる。
【0039】
油性懸濁液は、有効成分を、例えばアラキス油、オリーブ油、ごま油若しくはココナッ
ツ油などの植物油、又は流動パラフィンなどの鉱物油中に懸濁することによって配合する
ことができる。油性懸濁液は、例えば蜜蝋、硬質パラフィン、又はセチルアルコールなど
の増粘剤を含んでもよい。上記に記載したもののような甘味剤及び香味剤を添加すること
で味のよい経口製剤を得ることができる。これらの組成物は、ブチル化ヒドロキシアニソ
ール又はαートコフェロールなどの酸化防止剤の添加によって保存することができる。
【0040】
水を加えることによる水性懸濁液の調製に適した分散性の粉末及び顆粒によって、分散
剤又は湿潤剤、懸濁化剤、及び1種類以上の防腐剤と混合された有効成分が得られる。適
当な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤は、既に上記に述べたものに例示される。例えば、甘
味剤、香味剤、及び着色剤などの更なる賦形剤が存在してもよい。これらの組成物は、ア
ルコルビン酸などの酸化防止剤の添加によって保存することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物は、水中油型エマルションの形態とすることもできる。油相は、例
えばオリーブ油又はアラキス油などの植物油、又は例えば流動パラフィンなどの鉱物油、
又はこれらの混合物とすることができる。適当な乳化剤は、天然に存在するホスファチド
(例えば大豆レシチン)、及び脂肪酸とヘキシトール無水物とから誘導されたエステル又
は部分エステル(例えばソルビタンモノオレエート)、及び当該部分エステルとエチレン
オキシドとの縮合生成物(例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)であり
得る。エマルションは、甘味剤、香味剤、防腐剤、及び酸化防止剤を更に含むこともでき
る。
【0042】
シロップ剤及びエリキシル剤は、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソル
ビトール、又はスクロースなどの甘味剤と配合することができる。かかる配合物は、粘滑
剤、防腐剤、香味剤及び着色剤、並びに酸化防止剤を更に含むことができる。医薬組成物
は、滅菌注射水溶液の形態とすることができる。使用することができる許容されるビヒク
ル及び溶媒としては、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。
【0043】
滅菌注射製剤は、有効成分が油相中に溶解された滅菌注射水中油型マイクロエマルショ
ンとすることもできる。例えば、有効成分を最初に大豆油とレシチンとの混合物中に溶解
することができる。次いで、この油性溶液を水とグリセロールとの混合物中に導入し、処
理してマイクロエマルションを形成する。
【0044】
注射溶液又はマイクロエマルションは、局所ボーラス注射により患者の血流中に導入す
ることができる。あるいは、溶液又はマイクロエマルションを、本化合物の一定の循環濃
度が維持されるような形で投与することが有利となる場合もある。このような一定濃度を
維持するには、連続的な静脈内送達装置を利用することができる。かかる装置の一例とし
て、Deltec CADD-PLUS(商標)モデル5400静脈内ポンプがある。
【0045】
医薬組成物は、筋肉内及び皮下投与用の滅菌注射水性又は油脂性懸濁液の形態とするこ
ともできる。この懸濁液は、上記に述べたような適当な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を使
用して既知の技術にしたがって配合することができる。滅菌注射製剤は、無毒性の非経口
的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射溶液又は懸濁液、例えば1,3-ブタンジオ
ール溶液とすることもできる。更に、滅菌不揮発性油が、溶媒又は懸濁媒質として便宜よ
く使用される。この目的では、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含むいずれの無菌
性不揮発性油も用いることができる。更に、オレイン酸などの脂肪酸も注射製剤の調製に
使用することができる。
【0046】
ニラパリブは、薬剤の直腸投与用の坐剤の形態で投与することもできる。これらの組成
物は、薬剤を、通常の温度では固体であるが直腸内の温度で液体であり、したがって直腸
内で溶けて薬剤を放出する適当な非刺激性賦形剤と混合することにより調製することがで
きる。そのような材料としては、カカオ脂、グリセリン化ゼラチン、硬化植物油、分子量
の異なるポリエチレングリコールとポリエチレングリコールの脂肪酸エステルとの混合物
が挙げられる。
【0047】
局所的使用には、本化合物を含有するクリーム、軟膏、ゼリー、溶液又は懸濁液などが
用いられる。(本出願の目的では、局所適用は、マウスウオッシュ及びうがい薬を含む。
)
【0048】
ニラパリブは、適当な鼻腔内ビヒクル及び送達装置の局所的使用により鼻腔内形態で、
又は当業者には周知の経皮パッチの形態を用いて経皮的経路により投与することができる
。経皮的送達系の形態で投与するには、用量投与は当然のことながら投与レジメン全体を
通じて間欠的ではなく連続的に行われる。ニラパリブは、カカオ脂、グリセリン化ゼラチ
ン、硬化植物油、分子量の異なるポリエチレングリコールとポリエチレングリコールの脂
肪酸エステルとの混合物などの基剤を用いた坐剤として送達することもできる。
【0049】
ニラパリブが被験者に投与される際、選択される用量レベルは、これらに限定されるも
のではないが、特定の化合物の活性、個人の症状の重症度、投与経路、投与時間、化合物
の排出速度、治療の継続期間、併用される他の薬剤、化合物、及び/又は材料、並びに患
者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康状態、及び既往歴を含む様々な因子に応じて決
められる。ニラパリブの量及び投与経路は最終的には医師の判断に委ねられるが、用量は
一般的に、顕著な有害な又は有毒な副作用を生じることなく作用部位において所望の効果
を得る局所濃度を実現するようなものである。
【0050】
インビボ投与は、治療過程の全体を通じて1回用量で、連続的に又は間欠的(例えば適
当な間隔で分割用量で)に行うことができる。最も効果的な投与の手段及び用量を決定す
る方法は当業者には周知であり、治療に用いられる製剤、治療の目的、治療される標的細
胞、及び/又は治療される被験者によって異なる。単回又は複数回の投与を、治療を行う
医師によって選択される用量レベル及びパターンで行うことができる。
【0051】
一般に、ニラパリブの適当な用量は、1日当たり、被験者の体重1kg当たり約100
μ~約250mgの範囲である。活性化合物が塩、エステル、プロドラッグなどである場
合、投与される量は親化合物に基づいて計算されるため、使用される実際の重量はそれに
比例して大きくなる。
【0052】
前立腺癌の治療におけるニラパリブ又はその医薬組成物の治療有効量としては、約30
mg/日~約400mg/日のニラパリブの用量範囲、又はその範囲内の任意の特定の量
若しくは範囲、詳細には約300mg/日、及び、3つの100mgの経口剤形での1日
1回の経口投与が挙げられる。
【0053】
投与されるニラパリブの最適用量は容易に決定することができ、使用される特定の化合
物、投与形態、製剤の強度、及び疾患、症候群、病状、又は障害の進行状態によって異な
る。更に、被験者の性別、年齢、体重、食事、及び投与時間などの、治療される特定の被
験者に関連する因子により、適切な治療レベル及び所望の治療効果を得るために用量を調
節する必要性が生じる。したがって、上記の用量は平均的な場合の例である。当然、より
高いか又はより低い用量範囲が有効であるような個々の例が存在し得るが、それらは本発
明の範囲内に含まれる。
【0054】
ニラパリブは、ニラパリブの使用がこれを必要とする被験者に求められる場合には、上
記の組成物及び投与レジメンのいずれかによって、又は当該技術分野において確立されて
いる組成物及び投与レジメンによって投与することができる。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために記載するものであり、本明細書に付属す
る「特許請求の範囲」に記載される発明をいかなる意味においても限定することを目的と
したものではなく、またそのように解釈されるべきではない。
【0056】
(実施例1)
ヒト前立腺腫瘍株におけるニラパリブのインビトロ細胞毒性
ニラパリブの細胞毒性を複数のヒト前立腺腫瘍株においてインビトロで試験した。いず
れの腫瘍株も、BRCA-1又はBRCA-2欠損として知られているものではない。
【0057】
方法:
ニラパリブのインビトロ細胞毒性を5つの前立腺癌細胞株C4-2B、LNCaP、L
NCaP AR.TB、VCaP、及び22Rv1で評価した。C4-2B、LNCaP
、LNCaP AR.TB、及び22Rv1細胞株は、10%熱不活化ウシ胎児血清(F
BS)(Life Technologies #16140-071)及び非必須アミ
ノ酸(NEAA)(Life Technologies #11140-050)を添
加したRPMI1640+GlutaMAX(商標)-I培地(Life Techno
logies #61870-036)中で増殖させ、VCaP細胞は、10% FBS
及びNEAAを添加したDMEM+GlutaMAX(商標)-I培地(Life Te
chnologies ##10569-010)中で増殖させた。VCaP細胞は7日
間ごとに継代培養し、他の株は3~4日ごとに株分けした。
【0058】
各細胞株の細胞増殖動態を、複数の密度で細胞を播種し、最大7日間の間隔で増殖を観
察することにより測定した。Promega Cell TiterGlo試薬(#G7
571)を用いて増殖を測定して、化学発光ルシフェリンールシフェラーゼ反応により細
胞ATPを測定した。プレートはPerkin-Elmer Envisionプレート
リーダーで読み取り、発光値をプロットして対数期増殖となった播種密度及び所望の時点
におけるCell TiterGloアッセイの直線範囲内の細胞密度を特定した。
【0059】
ニラパリブ細胞毒性実験では、細胞を簡単にトリプシン処理して収穫し、各株を100
μLの培地中で96ウェルプレートの内側の60個のウェルに適当な密度で播種して7日
間の処理に供した。各プレートの外側のウェルは、試験ウェルからの蒸発を低減させるた
めにダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;Life Technologies
#14190-144)で満たした。細胞を37℃の加湿した5% CO2インキュベ
ーター中のプレート内で一晩静置した。50μLの適当な培地に溶かした3Xニラパリブ
(最終濃度500、125、31.3、7.8、1.95、0.49、0.12、0.0
3μM)を加えて三重のウェルとすることにより、処理を開始した。最終ビヒクル濃度は
0.5% DMSOとした。
【0060】
細胞を7日間培養した。処理後の相対細胞生存率を、上記のように、Cell Tit
erGlo試薬を用いて測定した。発光出力値はすべて、非処理のコントロールウェルの
平均発光量に基づいた阻害率(%)に対して正規化し、ビヒクルコントロールウェルの平
均阻害率(%)を各処理値から引いた。阻害率(%)をGraphPad Prism
7.00でμM濃度の対数値に対してプロットした。非線形回帰及びEC50値の計算を
、log(アゴニスト)/反応--可変傾き(4パラメータ)あてはめを用いて行った。
【0061】
結果:
細胞毒性アッセイの結果を
図1及び表1に示す。各細胞株の増殖は、ニラパリブの濃度
を増大させることにより用量依存的に低下した。C4-2B細胞はEC
50値が約1.2
μMであり、感受性が最も高いようであった。VCaP細胞はEC
50値が4.1μMで
あり、感受性が最も低いようであった。
【0062】
【0063】
(実施例2)
ニラパリブによるPAR形成の阻害
ポリ(ADP)リボース(PAR)の形成を阻害するニラパリブの能力を2つのヒト前
立腺腫瘍株でインビトロで試験した。いずれの腫瘍株も、BRCA-1又はBRCA-2
欠損として知られているものではない。
【0064】
方法:
ニラパリブを用いたPAR阻害を、C4-2B及びVCaPの2つのヒト前立腺癌細胞
株で評価した。C4-2B細胞株は10% FBS及びNEAAを添加したRPMI16
40+GlutaMAX(商標)-I培地中で増殖させ、3~4日ごとに株分けした。V
CaP細胞は、FBS及びNEAAを添加したDMEM+GlutaMAX(商標)-I
培地中で増殖させ、7日間ごとに継代培養した。
【0065】
細胞を簡単にトリプシン処理して収穫し、各株を1mLの培地中で6ウェルプレートに
適当な密度で播種した。更に500μLの完全培地を各ウェル当たり1.5mLの総体積
で加えた。細胞を37℃の加湿した5% CO2インキュベーター中のプレート内で一晩
静置した。翌日、培地をプレートから除去し、細胞を1mL無血清培地(それぞれRPM
I又はDMEM)を用いて洗浄した。1mLの適当な培地に溶かしたニラパリブ(0.1
% DMSO中、最終濃度100、10、1、0.1、0.01、及び0μM)を加えて
三重のウェルとすることにより、処理を開始した。プレートをインキュベーターに2時間
戻した。
【0066】
処理後、HT PARP in vivo Pharmacodynamic Ass
ay II(Trevigen #4520-096-K)で与えられた試薬及び手順を
用いて抽出物を調製した。培地を各ウェルから除去し、別々のラベル付けされたマイクロ
チューブに入れ、プレートを氷上に置いた。各チューブを1500rpmで4分間高速回
転させて、薬剤とのインキュベーションの間にプレートから分離したすべての細胞をペレ
ット化した。250μLの100mM PMSF(エタノール溶液、Sigma #93
482)及び250μLの100X Protease Inhibitor Cock
tail(Thermo Scientific #78429)を加えた24.5mL
の細胞溶解試薬を用いて溶解バッファーを調製した。溶解バッファー(300μL)を氷
上でプレートの各ウェルに加えた。接着細胞は溶解バッファー中に掻き落とし、氷上に少
なくとも15分間保持した。上清をマイクロチューブから除去し、6ウェルプレートから
の細胞ライセートを対応するチューブの各チューブに加えた。SDS(20w/v%)を
加えて最終SDS濃度を1%とした。細胞抽出物を95~100℃に5分間加熱した。室
温に冷却した後、0.01体積の100Xマグネシウムカチオンと3μLのDNaseを
各チューブに加えた。チューブを短時間ボルテックスし、37℃のインキュベーターに9
0分間戻した。インキュベーション後、チューブを室温で10000倍のGで10分間遠
心した。ペレットが存在していた場合にはこれをピペットチップを使用して除去し、抽出
物を96ウェル希釈プレートに移した。細胞抽出物を、タンパク質の定量化及びPAR
ELISAアッセイで使用するまで-80℃で凍結した。ELISAアッセイプロトコル
を製造者の指示にしたがって行った。
【0067】
タンパク質の定量化は、Biorad Quick Startウシ血清アルブミンス
タンダードセット(#5000207)が付属した界面活性剤適合性のBiorad D
Cタンパク質アッセイキットII(#500-0002)を、製造者の96ウェルプレー
トプロトコルにしたがって使用して行った。ELISA溶解バッファーをスタンダードに
添加し、同じ体積のPBSをすべての試料ウェルに加えてタンパク質の測定値に対する溶
解バッファーの影響を補正した。試料は二重でアッセイを行った。バッファーA’(25
μL)をプレートのすべてのウェルに加え、200μLのバッファーBを各ウェルに直ち
に加えた。プレートをシェーカー上で室温にて15分間インキュベートした。吸光度を、
SoftMax Proバージョン6.3ソフトウェアでDCタンパク質アッセイプロト
コルを使用して、Molecular Devices M5プレートリーダーで750
nmで読み取った。標準曲線の線形回帰、試料タンパク質の値の補間、及び複製試験の平
均化をソフトウェアで行った。データをエクセルにエクスポートし、試料の希釈について
補正を行った。
【0068】
PAR ELISAスタンダード及び試料の発光値をGraphPad Prismバ
ージョン7で分析し、標準曲線の線形回帰及び試料の値の補間を計算した。補間したPA
Rの値(PAR(pg)/mL)を試料の希釈について補正し、対応するタンパク質濃度
で割ってタンパク質1mg当たりのPAR(pg)を求めた。これらの値をGraphP
ad Prism v7でグラフ化した。
【0069】
結果:
PARアッセイの結果を
図2に示す。PARは、各細胞株でニラパリブの濃度を増大さ
せることにより用量依存的に低下した。
【0070】
(実施例3)
ニラパリブは、ヒト前立腺腫瘍株にインビトロでγ-H2AXを誘導する
DNAに二本鎖切断を誘導するニラパリブの能力を、22RV1、LNCaP AR.
TB、及びC4-2Bの3つのヒト前立腺癌株で測定した。DNAの二本鎖切断に続いて
、隣接するヒストンγ-H2AXのリン酸化が起きるが、このリン酸化は抗体染色及びフ
ローサイトメトリーによって測定することができる。
【0071】
方法:
22RV1、LNCaP AR.TB、及びC4-2B細胞株を上記で概略を述べたよ
うにして増殖させた。細胞株を3~4日ごとに継代した。
【0072】
各細胞株について、2×105個の細胞を体積1mLの培地中で12ウェルプレート(
Falcon #353043)の各ウェルに播種した。細胞を、37℃の加湿した5%
CO2インキュベーター中、一晩静置した後、2X濃縮の連続希釈したニラパリブを含
む1mLの培地を加えて、200、100、50、25、12.5、6.25、3.13
、1.57、0.78、0.39、0.2、及び0.1μMの最終濃度を三重のウェルで
得た。最終濃度は0.2% DMSOとし、各細胞株についてビヒクルビヒクル及び培地
のコントロールの三重のウェルも得た。プレートを更に18時間インキュベートした。
【0073】
薬剤との18時間のインキュベーション後、細胞の各ウェルを、2mLの培地を15m
Lの円錐チューブ(Corning #430798)に最初に移すことにより収穫した
。次に、500μLの細胞解離バッファー(Gibco #13151-014)をウェ
ルに加え、5分間静置した。1mLのピペットを使用して、1mLの培地をウェルに加え
、ピペット操作により細胞を剥離させ、細胞を含んだ培地を対応する15mLの円錐チュ
ーブに移した。チューブを1200rpmで5分間遠心し、上清を捨て、ペレット化した
細胞を再懸濁して96ウェルV字底プレート(Costar #3896)に移した。プ
レートを1800rpmで3分間遠心し、上清を捨ててから、ウェルを200μLのDP
BSで洗浄した。このプロセスを合計で3回の洗浄で繰り返した。次に、細胞を、希釈率
1:800のInvitrogen Live/Dead fixable aqua(
Invitrogen #L34957)を含んだ100μLのDPBSで4℃で20分
間染色した。次に、細胞を150μLのBD Pharmingen Stain Bu
ffer(染色バッファー;BD #554657)で洗浄し、1800rpmで3分間
遠心した。細胞を200μLの染色バッファーで2回、再び洗浄し、次いでDPBSで1
回洗浄した。
【0074】
細胞を100μLの-20℃の70%エタノール/H2Oで固定し、プレートを-20
℃で2時間保存した。細胞を、各洗浄間で3分間、2200rpmで遠心して染色バッフ
ァーで3回洗浄した。次に、細胞を100μLの希釈率1:1の染色バッファー及びAX
ELLビオチンフリーFc受容体ブロッカー(Accurate Chemical &
Scientific Corp #NB309)と4℃で20分間インキュベートし
た。細胞を150μLの染色バッファーで洗浄した後、2200rpmで3分間、遠心し
、上清を捨て、次に細胞を0.2v/v%のTriton X-100を含んだ50μL
の染色バッファー(Acros Organics #21568-2500)と2時間
、室温の暗所で希釈率1:100のγ-H2AX抗体(Biolegend #6134
08)とともにインキュベートした。
【0075】
細胞を、0.2v/v%のTriton X-100を含んだ200μLの染色バッフ
ァーで1回洗浄してから、200μLの染色バッファーのみで1回洗浄した。細胞を80
μLの染色バッファーに再懸濁し、50μLをBD Fortessaフローサイトメー
ターで分析した。TreeStar FlowJo v9.8.5を使用してデータを分
析した。データを生細胞にゲーティングし、ダブレットを区別した後、全体の集団をγ-
H2AX抗体シグナルについて評価した。結果をGraphPad Prism v7で
グラフ化した。
【0076】
結果:
異なる濃度のニラパリブの影響を示した22RV1細胞株の代表的なヒストグラムを図
3に示す。薬剤で処理した試料をビヒクル及び培地のコントロールと比較し、
図4にグラ
フで示す。γ-H2AXシグナルがビヒクルコントロールを有意に上回る最低濃度を表2
に示す。これらの結果は、各前立腺腫瘍株でニラパリブがγ-H2AXを用量依存的に誘
導することを示すものである。
【0077】
【0078】
(実施例4)
ニラパリブは、マウスにおいてC4-2Bヒト前立腺腫瘍の増殖を阻害する。
【0079】
ニラパリブの活性を、非肥満糖尿病(NOD)重症複合免疫不全(scid)γ(NO
D.Cg-Prkdc Il2rg/SzJ)(NSG)マウスにおいて予め確立したヒ
ト前立腺皮下C4-2Bモデルで試験した。この腫瘍モデルは、BRCA-1又はBRC
A-2欠損とは考えられていない。
【0080】
方法:
ビヒクルは、4℃の暗所で調製し保持した0.5%メチルセルロース(Methoce
l(商標)F4M)とした。すべての配合物は体重1kg当たり体積10mLを投与する
ように作られた。NSG雄性マウス(Jackson Laboratories社)を
使用した。実験手順を実施するのに先立って動物を1週間馴化した。マウスを、12時間
の明暗周期下で、温度19~22℃、湿度35~40%の使い捨てのIVCケージ(In
novive、San Diego,CA,USA)にグループ分けして収容した(ケー
ジ当たり5匹ずつ)。マウスにオートクレーブした高脂質(6%)の実験動物用飼料及び
水を自由摂取させた。
【0081】
マウスの右脇腹に、LNCaP C4-2B-lucタグ付き細胞(体積200μlの
Cultrex(登録商標):RPMI1640培地中、1×106個の腫瘍細胞(1:
1の比)を注射した。処理群当たり10匹のマウスで腫瘍体積(腫瘍体積=241±14
mm3)についてマウスを無作為化した。マウスに、ビヒクル又は以下に示すようなニラ
パリブを含んだビヒクルのいずれかを、10mL/kgの投与体積で強制摂食(経口)に
より毎日投与した。処理の開始=1日目。マウスは実験24日目まで処理した。
【0082】
グループ1:0mg/kgのビヒクル(0.5%メトセルF4M)を1日1回経口投与
。
グループ2:0.5%メトセルF4Mに加えた25mg/kgのニラパリブを1日1回
経口投与。
グループ3:0.5%メトセルF4Mに加えた50mg/kgのニラパリブを1日1回
経口投与。
【0083】
個々の各動物について、体重及び腫瘍体積[aはノギスで測定して求めた腫瘍の長さを
表し、bは幅を表すものとして、式:腫瘍体積(mm3)=(a×b2/2)を用いた]
を実験全体を通じて週2回測定した。予め確立された腫瘍について、腫瘍増殖の時間的経
過を平均±平均の標準誤差(SEM)として表す。
【0084】
結果:
ビヒクルで処理したマウスは、実験およそ22日目から腫瘍体積の倫理的な限界値に達
し始めた(個々の腫瘍体積については
図5を参照)。腫瘍体積データを、実験24日目ま
で示した(10匹のビヒクル処理マウスのうち9匹が実験に残った)。処理の18、22
、及び24日後、50mg/kgのニラパリブを毎日経口投与したグループ3は、腫瘍増
殖の有意な阻害/遅延を示し、これらの期間の腫瘍増殖阻害(TGI)値は約40%であ
った。腫瘍増殖の有意差は、18、22及び24日目で認められた(
*p<0.05、
*
*p<0.01、
***p<0.001)。25mg/kgのニラパリブを投与したマウ
スは、有意な腫瘍増殖阻害を示さなかったが、約12%のある程度のTGIが22及び2
4日目に認められた。
【0085】
(実施例5)
多施設共同のオープン試験を行って、少なくとも1ラインのタキサンによる化学療法及
び少なくとも1ラインの抗アンドロゲン療法(例えば、アビラテロン酢酸塩、エンザルタ
ミド、アパルタミド)を受けたことのあるmCRPC及びDNA修復異常を有する18才
以上の男性被験者において、300mgのニラパリブの1日1回投与の有効性及び安全性
を評価する。試験は、およそ100人の被験者で行う。被験者は、試験期間中、及び試験
薬の最後の投与の30日後まで安全性について監視を行う。治療は、疾患の進行、許容さ
れない毒性、死亡、又はスポンサーが試験を中止するまで継続する。
【0086】
試験は、バイオマーカー評価のみを行う事前スクリーニングフェーズ、スクリーニング
フェーズ、治療フェーズ、及びフォローアップフェーズの4つのフェーズからなる。有効
性評価には以下のもの、すなわち、腫瘍測定値:胸部、腹部、及び骨盤のCT又はMRI
スキャン、並びに全身の骨スキャン(99mTc)、血清PSA、生存率状態、CTC、
及び症候性骨関連事象(SSE)が含まれる。
【0087】
ニラパリブ(300mg)は、1日1回経口投与されるカプセル(3×100mg)と
して与えられる。カプセルはまるごと飲み込まなければならない。被験者は朝(食物とと
もに、又は食物なしで)に用量を服用しなければならない。試験薬剤とはみなされないが
、去勢手術を行っていない被験者は定期的に処方されるGnRHaを継続して服用しなけ
ればならない。すべてのGnRHa療法は、eCRFの併用薬セクションに記録されなけ
ればならない。
【0088】
治療サイクルは28日間と規定される。被験者はサイクル1の1日目にニラパリブの服
用を開始する。各治療サイクルにおける充分な量のニラパリブを各サイクルの初日に配布
する。被験者が1つの用量を服用し損なった場合、被験者がおよそ12時間の範囲内で覚
えていた場合にはその用量を補充しなければならない。そうでない場合、被験者は、服用
し損ねた用量を補うことなく、翌日に次の用量を服用しなければならない。服用し損ねた
用量はeCRFに記録しなければならない。
【0089】
バイオマーカー評価を行うための事前スクリーニングフェーズ
事前スクリーニングフェーズでは、可能性のある被験者がDNA修復異常についてバイ
オマーカー陽性であるかを評価する。すべての被験者は、事前スクリーニングフェーズの
ための特定のICFに署名し、ベースラインとなる人口統計学的特性及び疾患特異的な病
歴を提供することが求められる。事前スクリーニングフェーズは、スクリーニングフェー
ズの前の任意の時点で行うことができる。
【0090】
バイオマーカー陽性を判定するためのプロセスは、血液に基づいたアッセイが利用可能
となる前に事前スクリーニングフェーズに入る被験者では、血液に基づいたアッセイが利
用可能となった後で事前スクリーニングフェーズに入る被験者と比較して異なる。これら
2つのプロセスについて以下に述べる。
【0091】
血液に基づいたアッセイが利用可能となる前にバイオマーカー陽性を判定するためのプ
ロセス
被験者は事前スクリーニングのICFに署名する。被験者が以前にFoundatio
nOne(登録商標)遺伝子パネルによる腫瘍組織の分析を行っている場合、被験者の承
諾の後、FoundationOne(登録商標)のデータを検討して表1に定義される
基準に基づいて適性を判定することができる。被験者がバイオマーカー陽性である場合、
スクリーニングフェーズに入る適性を有するものとする。被験者が以前にFoundat
ionOne(登録商標)遺伝子パネルによる腫瘍組織の分析を行っていない場合、被験
者は、スポンサーにより承認された試験によってバイオマーカー陽性について分析された
、保管された腫瘍組織又は最近採取された(推奨される)腫瘍組織のいずれかを有してい
なければならない。被験者がバイオマーカー陽性である場合、スクリーニングフェーズに
入る適性を有するものとする。
【0092】
事前スクリーニングフェーズにおいてすべての被験者から血液試料も採取し、血液に基
づいたアッセイが利用可能となるときに備えて保存しておく。血液に基づいたアッセイが
利用可能となった時点で、保存された血液試料を腫瘍組織試料の結果との一致について分
析する。この分析は、血液に基づいたアッセイが利用可能となった後の任意の時点で行う
ことができる。
【0093】
血液に基づいたアッセイが利用可能となった後でバイオマーカー陽性を判定するための
プロセス
被験者は事前スクリーニングのICFに署名する。被験者の血液を採取し、バイオマー
カー陽性についての分析用に送付する。被験者が以前にFoundationOne(登
録商標)遺伝子パネルによる腫瘍組織の分析を行っている場合、被験者の承諾の後、Fo
undationOne(登録商標)のデータを検討して表1に定義される基準に基づい
て適性を判定することができる。被験者がバイオマーカー陽性である場合、被験者はスク
リーニングフェーズに入る適性を有するものとし、血液に基づいた分析の結果を待つ必要
はない。FoundationOne(登録商標)遺伝子パネルが陰性である場合、被験
者は、血液に基づいたアッセイによりバイオマーカー陽性であると判定されれば、依然と
して適性を有するものとみなすことができる。被験者が以前にFoundationOn
e(登録商標)遺伝子パネルによる腫瘍組織の分析を行っておらず、保管された組織が利
用可能である場合、保管された腫瘍組織を取得及び分析する要請が開始される。血液に基
づいたアッセイの結果がバイオマーカー陽性である場合、被験者はスクリーニングフェー
ズに入る適性を有するものとし、保管された腫瘍組織に基づいた分析の結果を待つ必要は
ない。保管された腫瘍組織に基づいた分析の結果が利用可能である場合、これを血液に基
づいた結果と併せて一致及びブリッジング試験に用いることができる。
【0094】
試験スポンサーの判断により、血液に基づいたアッセイの結果が陰性である場合には、
保管された腫瘍組織に基づいた結果を用いて適性を判定してもよい。
【0095】
保管された腫瘍組織がない場合、被験者は腫瘍組織の採取に同意しなければならない。
【0096】
血液に基づいたアッセイの結果がバイオマーカー陽性である場合、一致及びブリッジン
グ試験で後で使用するために、サイクル1の1日目よりも前に最近の腫瘍組織を採取しな
ければならない。最近採取された腫瘍組織の分析は、試験期間の任意の時点で行うことが
でき、被験者がスクリーニングフェーズに入る前に結果が必要とされない場合がある。
【0097】
試験スポンサーの判断により、血液に基づいたアッセイの結果が陰性である場合には、
最近採取された腫瘍組織を用いて適性を判定してもよい。
【0098】
事前スクリーニングフェーズにおいて被験者がバイオマーカー陽性であると判定された
後、30日以内にスクリーニングフェーズを開始しなければならない。
【0099】
スクリーニングフェーズ
すべてのバイオマーカー陽性の被験者は、スクリーニングフェーズでのあらゆる試験関
連の手順の実施に先立って主要試験のICFに署名しなければならない。このフェーズで
は、適性の基準を再検討し、「時間及び事象のスケジュール」に示されるようにして完全
な臨床評価を行う。特に指定されないかぎり、スクリーニング手順はサイクル1の1日目
の35日前までに行われる。イメージングはサイクル1の1日目の8週間前まで許容され
る。スクリーニングによる臨床的安全性の臨床検査評価は、サイクル1の14日目以内に
行われるならサイクル1の1日目の評価で使用することができる。
【0100】
すべての選択基準を満たさないか、又は除外基準を満たす被験者はもう一度、再スクリ
ーニングすることができる。再スクリーニングは調査者の判断に委ねられ、スポンサーの
承認及び同意を必要とする。再スクリーニングを行う被験者は、再スクリーニングに先だ
って新しいICFに署名しなければならない。予定された登録の35日以内に再スクリー
ニングされる被験者は、最初のスクリーニングの臨床検査結果、コンピューター断層撮影
(CT)/磁気共鳴イメージング(MRI)、及び骨スキャン(サイクル1の1日目の8
週間以内である場合)を用いて、再スクリーニングの理由ではないにしても適性を判定す
ることができる。
【0101】
治療フェーズ
治療フェーズは、サイクル1の1日目に始まり、試験薬剤が中断されるまで継続する。
試験薬剤の投与前又はスクリーニングの際のサイクル1の1日目に測定された最後の測定
値(どちらか最後の値)が、ベースライン値として定義される。各サイクルの来院は、特
に指定されないかぎり、±3日の範囲を有する。試験の来院は、サイクル1の1日目の日
付から計算する。被験者には、画像を要する来院の±7日以内にイメージングを行うこと
ができる。治療フェーズの間の治療来院及び評価については、「時間及び事象のスケジュ
ール」を参照されたい。
【0102】
PK及び薬カ学に関する試料採取日には、被験者は試験来院の朝に自宅で試験薬剤を服
用してはならない。試験薬剤は現場で服用しなければならない。PK及び薬カ学に関する
試料採取日及び時間の詳細は、「時間及び事象のスケジュール」に示されている。PK試
料採取に関する更なる詳細についてはセクション9.3に示す。PK及び薬カ学に関する
血液試料の取り扱い及び保管手順の詳細は、実験マニュアルに示されている。
【0103】
臨床評価及び臨床検査は、臨床的に必要であれば、より頻繁に繰り返して行うことがで
きる。試験薬剤による治療は、疾患の進行、許容されない毒性、死亡、又はスポンサーが
試験を中止するまで継続する。被験者が試験薬剤を一旦中止した場合、被験者は試験薬剤
の最後の投与後30日以内に治療終了(End-of-Treatment)(EoT)時の来院を完了し
、フォローアップフェーズに入らなければならない。
【0104】
治療終了時の来院
治療終了時の来院は、試験薬剤の最後の投与後30日以内又は新たな抗前立腺癌治療薬
の投与前(どちらか早い方)に予定されなければならない。被験者がEoT来院のために
検査所に来院することができない場合、被験者には試験薬剤の最後の投与後30日以内に
生じるAEを収集するために連絡が取られなければならない。
【0105】
フォローアップフェーズ
被験者が治療フェーズを完了した時点で、生存フォローアップ及びSSEを、来診、電
話での問診、カルテ審査、又はその他の都合のよい方法によって3ヶ月ごとに実施する。
因果関係にかかわらず死亡例及び試験薬剤に関連すると考えられるSAEは、事象の発見
又は通知の24時間以内に収集し報告する。フォローアップ情報が電話での連絡により得
られる場合、ソースドキュメントでの検討を行うために通話内容を書き取った記録がなけ
ればならない。
【0106】
DNA修復異常についてのバイオマーカー陽性試料
被験者がバイオマーカー陽性であるかを評価するため、被験者にとってより便利であり
ながら、バイオマーカー陽性状態を決定するための組織に基づいた分析よりも速やかな方
法を提供する、血液に基づいたアッセイが試験期間中に利用できるようになり得る。血液
に基づいたアッセイが利用可能となる前に、腫瘍組織(保管されているか、又は最近採取
されたもの)の分析を行う必要がある。どの時点で試験に入ったかにかかわらず、すべて
の被験者が分析(すなわち、一致試験及びブリッジング試験)に使用できる同じバイオマ
ーカーデータを有するように、腫瘍組織及び血液試料の両方を事前スクリーニングのイン
フォームドコンセントフォーム(ICF)に署名したすべての被験者から得る。バイオマ
ーカー陽性を判定するためのプロセスは、血液に基づいたアッセイが利用可能となる前に
事前スクリーニングフェーズに入る被験者では、血液に基づいたアッセイが利用可能とな
った後で事前スクリーニングフェーズに入る被験者と比較して異なる。しかしながら、腫
瘍組織及び血液の両方におけるバイオマーカー陽性の状態はすべての被験者について評価
を行う。
【0107】
試験に適性を有すると判断されるためには、被験者は腫瘍組織(保管されているか、又
は最近採取されたもの)又は利用可能な場合には血液検査によってバイオマーカー陽性で
あることが確認されなければならない。この試験で対象とされるバイオマーカー及びバイ
オマーカー陽性の基準を表3に示す。二対立遺伝子損失の代理となるもの(例えばコピー
数の喪失をともなう突然変異の同時発現頻度)を定義するために分析を行い、これらの代
理を、かかる情報が入手可能になった際にバイオマーカー陽性の判定に用いることができ
る。
【0108】
【表3】
すべての遺伝子における一対立遺伝子喪失は、二対立遺伝子喪失に関する既存のアルゴ
リズムの有効性が確認されるまで試験へのエントリーは許容される。
【0109】
循環腫瘍細胞
血液試料を「時間及び事象のスケジュール」に示された時点でCellsaveチュー
ブに採取する。CTCの計数は、中央臨床検査室で評価して試験薬剤への反応を評価する
。
【0110】
RNA用の全血
全血試料をPaxgeneチューブに採取する。前立腺腫瘍に見られる複数のリボ核酸
(RNA)転写産物がRNA中で検出可能であり、これらの試料の分析は、ニラパリブに
よって生じ得る抵抗性の潜在的な機序の評価を可能とする。
【0111】
循環腫瘍DNA
治療過程で採取した血漿試料を用いて、循環腫瘍DNA(ctDNA)により経時的に
観察されるDNA修復異常のレベル又は種類の変化についてスクリーニングし、ニラパリ
ブに対する抵抗性の潜在的なマーカーについて監視する。
【0112】
上記の明細書は、説明を目的として与えられる実施例とともに本発明の原理を教示するものであるが、本発明の実施には、以下の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内に含まれるすべての通常の変形例、適合例及び/又は改変例が包含される点が理解されるであろう。
以下の態様を包含し得る。
[1] 前立腺癌の治療を要するヒトの前立腺癌を治療する方法であって、前記ヒトに安全かつ有効量のニラパリブを投与することを含む、方法。
[2] 前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌又は転移性去勢抵抗性前立腺癌である、上記[1]に記載の方法。
[3] 前記前立腺癌が抗アンドロゲン抵抗性である、上記[2]に記載の方法。
[4] 前記ヒトが、BRCA-1、BRCA-2、FANCA、PALB2、CHEK2、BRIP1、HDAC2、及びATMからなる群から選択される少なくとも1つのDNA修復異常を有する、上記[3]に記載の方法。
[5] 前記DNA修復異常が、BRCA-1又はBRCA-2である、上記[4]に記載の方法。
[6] 前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌である、上記[5]に記載の方法。
[7] 前記前立腺癌が、転移性去勢抵抗性前立腺癌である、上記[5]に記載の方法。
[8] ニラパリブが、約30mg/日~約400mg/日の量で投与される、上記[6]に記載の方法。
[9] 前記投与されるニラパリブの量が、約300mg/日である、上記[8]に記載の方法。
[10] ニラパリブが、3つの100mgの経口剤形での1日1回の経口投与として投与される、上記[9]に記載の方法。
[11] ヒトの去勢抵抗性前立腺癌及び抗アンドロゲン抵抗性前立腺癌を治療する方法であって、前記ヒトに3つの100mgの経口剤形のニラパリブを1日1回投与することを含む、方法。