(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】VUV波長域用の光学素子、光学装置、及び光学素子を製造する方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/11 20150101AFI20241009BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20241009BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
G02B1/11
G02B5/08 A
G03F7/20 501
(21)【出願番号】P 2022580896
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2021064874
(87)【国際公開番号】W WO2022002524
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】102020208044.5
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス ランゲ
(72)【発明者】
【氏名】ラリッサ ヴァルター(ゲブ マイヤー)
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-117044(JP,A)
【文献】特表2011-505592(JP,A)
【文献】特開2005-202375(JP,A)
【文献】特開2011-150286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/11
G02B 5/08
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(7a、8a)及び該基板(7a、8a)に塗布されたコーティング(15)を備えた、VUV波長域用の光学素子(7、8、26、27、28)であって、
前記コーティング(15)は、少なくとも1つのドーパントイオン(A
x+)をドープしたフッ化物材料(M
x+F
x
-)を含む少なくとも1つのフッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)と、少なくとも1つのフッ化物層(16、16a、…、16n)とを有し、
前記フッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)は、前記フッ化物層(16、16a、…、16n)の前記基板(7a、8a)から遠い側に塗布され、前記フッ化物層(16、16a、…、16n)から環境へのフッ素の拡散を防止
し、
前記フッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)のドープフッ化物材料は化学構造式M
x+
F
x
-
:A
x+
を有して固溶体を形成せず、M
x+
F
x
-
は前記フッ化物材料であり、A
x+
は前記ドーパントイオンであることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項
1に記載の光学素子において、前記フッ化物材料(M
x+F
x
-)は、金属ホスト格子イオン(M
x+)を有し、該金属ホスト格子イオンのイオン半径は、前記ドーパントイオン(A
x+)のイオン半径と20%以下の差がある光学素子。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の光学素子において、前記フッ化物材料(M
x+F
x
-)のホスト格子イオン(M
x+)は、前記ドーパントイオン(A
x+)と同じ価数(x)を有する光学素子。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の光学素子において、前記ドーパントイオン(A
x+)は、少なくとも1つの不対価電子を有する電子構成を有する光学素子。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の光学素子において、前記フッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)は、VUV波長域の放射線に対して透明である光学素子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の光学素子において、前記ドーパントイオン(A
x+)は、Gd
3+、Eu
2+、Mn
2+、Fe
3+、Ru
3+、及びTl
+を含む群から選択される光学素子。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の光学素子において、前記フッ化物材料(M
x+F
x
-)は、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Al
3+、La
3+、及びY
3+を含む群から選択されたホスト格子イオン(M
x+)を有する光学素子。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の光学素子において、前記フッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)の
前記ドープフッ化物材料(M
x+F
x
-:A
x+)は、RbF:Tl
+、KF:Tl
+、MgF
2:Mn
2+、SrF
2:Eu
2+、BaF
2:Eu
2+、LaF
3:Gd
3+、YF
3:Gd
3+、AlF
3:Fe
3+を含む群から選択される光学素子。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の光学素子において、前記フッ素捕捉剤層(17、7n)は、前記コーティング(15)のキャッピング層を形成し、又は前記フッ素捕捉剤層(17m)は、前記フッ化物層(16m)とさらに別の層との間の拡散バリアを形成する光学素子。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の光学素子において、前記コーティング(15)は、VUV波長域の放射線(5、25)に対する反射コーティング又は反射防止コーティングを形成する光学素子。
【請求項11】
請求項
4に記載の光学素子において、前記ドーパントイオン(A
x+)は、半充填軌道を有する電子構成を有する光学素子。
【請求項12】
VUV波長域用の光学装置であって、請求項1~
11のいずれか1項に記載の少なくとも1つの光学素子(7、8、26、27、28)を備えた光学装置。
【請求項13】
請求項
12に記載の光学装置において、前記光学装置は、ウェーハ検査システム(2)又はVUVリソグラフィ装置(1)である光学装置。
【請求項14】
VUV波長域用の、請求項1~
11のいずれか1項に記載の光学素子(7、8、26、27、28)を製造する方法であって、
基板(7a、8a)にコーティング(15)を塗布するステップ
を含む方法において、前記コーティング(15)を塗布するステップは、少なくとも1つのドーパントイオン(A
x+)をドープしたフッ化物材料(M
x+F
x
-)を含む少なくとも1つのフッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)を塗布するステップ
を含み、
前記コーティング(15)は、少なくとも1つのフッ化物層(16、16a、…、16n)を有し、前記フッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)は、前記フッ化物層(16、16a、…、16m)の前記基板(7a、8a)から遠い側に塗布されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項
14に記載の方法において、前記フッ素捕捉剤層(17、17a、…、17n)は、前記ドーパントイオン(A
x+)をドープした前記フッ化物材料(M
x+F
x
-:A
x+)の堆積により塗布される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年6月29日の独国特許出願第102020208044.5号の優先権を主張し、その全開示内容を参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、基板及び基板に塗布されたコーティングを備えたVUV波長域用の光学素子に関する。本発明は、VUV波長域用の光学装置、例えば前述のように形成された少なくとも1つの光学素子を有するウェーハ検査システム又はVUVリソグラフィシステムと、基板にコーティングを塗布するステップを含む光学素子を製造する方法とにも関する。
【背景技術】
【0003】
本願の文脈では、VUV波長域は100nm~200nmの波長域(DIN5031 Part7によるVUV波長域)を意味すると理解される。
【0004】
VUV波長域用に設計され且つ例えばウェーハの検査に適した光学装置又はシステム(例えば、特許文献1参照)は、ミラー、窓、又はビーム分割器等の広帯域用の照射安定光学素子を必要とする。
【0005】
特に160nm未満の波長については、高パワーの照射を受けた場合に長い寿命を有するコーティング又は層を開発することは困難である。この理由の1つは、これらの波長での照射の場合、光のエネルギーが一光子過程で層に欠陥を発生させるのに十分なことである。欠陥(F中心)の発生は、VUV波長域の放射線での照射の場合にフッ化物層での劣化過程の開始を引き起こし、これは例えば以下のステップを有し得る。
【0006】
1.フッ化物のバンド端付近のエネルギーを有するVUV波長域の放射線の吸収、及び続いて伝導帯及び/又は励起状態及び/又はバンド端付近の欠陥状態への電子の励起
2.イオン格子(色中心)でのエネルギー差の放出による以前に励起された電子の緩和
3.このメカニズムの結果として、フッ素欠陥及び格子間フッ素の発生
4.表面を通したフッ素原子の拡散及びフッ素の損失
5.フッ化物の金属原子の酸化及び層の吸収の増大
【0007】
フッ化物系材料のレーザ安定性の向上又は上記劣化過程の回避には、様々な既知の手法がある。
【0008】
特許文献2は、アルミニウムから製造され誘電体で、例えばMgF2等のフッ化物系材料で保護されたミラーの反射率の低下をVUV波長域用のマンジャンミラーを用いることにより回避することを提案している。
【0009】
特許文献3は、少なくとも表面の照射中に吸着質、特に水を内部に供給するよう設計又は構成されたガス入口を有する水検査システムの形態の光学装置を記載している。当該装置に配置された光学素子の表面への吸着質の供給は、表面の劣化の軽減を意図している。
【0010】
特許文献4は、レーザ安定性が高いといわれる250nm未満の波長の放射線を透過する光学素子を記載している。光学素子は、Caコロイドの形成を防止するための少なくとも1つの材料をドープしたフッ化カルシウム結晶からなる。CaとF中心との組み合わせの結果として形成されたCaコロイドは、光学素子のレーザ安定性の低下の原因と考えられる。F中心は、光学素子のバルクからのフッ素が表面に到達してそれから環境に放出されると形成される。光学素子は、フッ化物、酸化物、及びフッ素化酸化物の群から選択される少なくとも1つの材料でのコーティングを有し得る。
【0011】
特許文献5は、アルカリ金属-アルカリ土類金属固溶体、アルカリ土類金属-アルカリ土類金属固溶体、又はアルカリ土類金属-ランタン固溶体を含む、160nm未満の波長で屈折リソグラフィシステムにおいて用いる結晶材料を記載している。
【0012】
特許文献6は、約0.2ppm未満のナトリウム濃度を有するフッ化カルシウム結晶を作製する方法を記載している。このような結晶は、193nmの波長のレーザ放射での照射時に高いレーザ安定性を有するといわれている。
【0013】
特許文献7は、高いレーザ安定性を有する金属フッ化物からなる本体を有し、本体に金属フッ化物固溶体の少なくとも1つの層でコーティングを任意に塗布した光学素子を記載している。金属フッ化物固溶体は、組成(MFn)1-x(RFn+m)xを有することができ、ここでMは周期表の1族又は2族の化学元素を示し、Rは周期表の2族、3族、又は4族の元素を示し、n及びmは整数である。
【0014】
特許文献8は、研磨された金属又はシリコン表面の形態の少なくとも1つの反射光学素子を備えた光学装置を記載している。反射面は、AlF3、LiF、NaF、MgF2、CaF2、LaF3、GdF3、HoF3、ErF3、Na3AlF6、Na5Al3F15、ZrF4、HfF4、SiO2、Al2O4、MgO、及びそれらの組み合わせの群からの材料の1つ又は複数の薄層を有する保護層を有し得る。
【0015】
特許文献9は、VUV波長域用の反射光学素子を製造する方法を記載している。反射光学素子の寿命は、少なくとも1つの第1及び少なくとも1つの第2薄層を基板に塗布することにより延び、2つの薄層の一方は金属フッ化物薄層であり、他方は酸化物薄層である。酸化物薄層は、その下の層を保護するためのものである。特許文献9は、160nm未満の波長で酸化物薄層が大きな反射損失につながり得るとも述べている。反射率損失は、低電場強度の領域に酸化物薄層を位置決めすることにより低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許出願公開第2016/0258878号明細書
【文献】独国特許出願公開第102019219177.0号明細書
【文献】PCT/EP2019/083632号
【文献】米国特許出願公開第2010/0108958号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/0094129号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1 394 590号明細書
【文献】国際公開第2008/071411号
【文献】独国特許出願公開第10 2018 211 498号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2018 211 499号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、VUV波長域の放射線での照射の場合に長寿命化を可能にする、光学素子、少なくとも1つの当該光学素子を有する光学装置、及び光学素子を製造する方法を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、一態様において、コーティングが、少なくとも1つの好ましくは金属ドーパントイオンをドープしたフッ化物材料を含む少なくとも1つのフッ素捕捉剤層を有する、上述のタイプの光学素子により達成される。
【0019】
本発明によれば、特にフッ化物材料のバンド端付近の160nm未満のVUV波長の放射線での照射の場合に、前述の劣化過程をステップ4で中断することにより、格子間フッ素原子の移動度がフッ素捕捉剤層の「フッ素捕捉剤」により大幅に低下することで、光学素子の寿命を延ばすことが提案される。光学素子は、フッ化物系機能性光学素子又はフッ化物で保護された光学素子、例えば(Al)ミラー、又はフッ化物で保護された透過光学素子であり得る。
【0020】
「フッ素捕捉剤」効果をもたらすために、通常はイオン結晶であるフッ素捕捉剤層のフッ化物材料(例えば、LaF3)に(正に帯電した)ドーパントイオン(陽イオン、例えばGd3+)をドープすることが提案される。この陽イオンは、その層内でVUV照射時に一光子過程により生成されたフッ素原子/フッ化物イオンを結合することができ、したがって表面からのフッ素損失を抑制することができる。特に、ドーパントイオン(例えば、Gd3+)は、格子間に拡散したフッ素/フッ化物(この場合は例えば、H中心(F2
-格子間)又はVk中心欠陥(2つの隣接した格子サイトを介したF2
-結合))と共に、フッ素種の移動度を低下させる錯体を形成する。
【0021】
ハロゲン化物の、特にフッ化物のドーピングは、電子的に読み取り可能なx線線量計の輝尽性x線蓄積フィルム(「蓄積性蛍光体」)から知られている。潜像を生成するか又は情報を蓄積するために、このようなx線蓄積フィルムの材料の照射時に発生した電子正孔対、例えばBaFBr:Eu2+又はCsBr:Eu2+は、ドーピングにより局所的に捕捉される。例えば、論文「Photostimulable X-Ray Storage Phosphors: a Review of Present Understanding」(H. von Seggern, Braz. Jour. Phys. 29, 254-267 (1999))又は論文「Storage Phosphors for Medical Imaging」(P. Leblans et al., Materials 4, 1034-1086 (2011))を参照されたい。
【0022】
本発明の光学素子は、フッ素原子の拡散を回避するか又は少なくとも大幅に減速させるためにドーピングを利用する。これは、VUV波長域の放射線での照射時と同じ欠陥がx線での照射時に各フッ化物材料で最初に発生することを利用している。
【0023】
一実施形態において、コーティングは、少なくとも1つのフッ化物層を有し、フッ素捕捉剤層は、フッ化物層の基板から遠い側に塗布される。この場合、フッ素捕捉剤層は、フッ化物層から環境へのフッ素の拡散を防止する働きをする。しかしながら、コーティングがフッ化物層及びそれに塗布されたフッ素捕捉剤層を含むことが絶対に必要というわけではなく、コーティングは、透明基板、ミラー等の保護層として例えば働くフッ素捕捉剤層のみを(フッ化物層を含まずに)含んでもよい。
【0024】
一実施形態において、フッ化物材料は、好ましくは金属ホスト格子イオンを有し、そのイオン半径は、ドーパントイオンのイオン半径と20%以下、好ましくは15%以下の差がある。概して、安定した固溶体又は安定した層を形成するために(ベガード則)、ドーパントイオンのイオン半径とフッ化物材料の陽イオンのイオン半径との間のずれが小さい(15%未満)ことが必要である。
【0025】
ドーパントイオンのイオン半径RDからのフッ化物材料の(金属)ホスト格子イオンのイオン半径RIのずれは、ここで次式により求められる。
(RI-RD)/RI
【0026】
さらに別の実施形態において、フッ化物材料のホスト格子イオンは、ドーパントイオンと同じ価数(イオン電荷)を有する。これは、イオン格子の安定性の十分条件だが必要条件ではない。x線蓄積フィルムについては、1価のホスト格子、例えばLi+F-の場合に異なる価数(2価、3価、…)の金属ドーパントイオン(例えば、Mg、Ti、Ce系)を用いることが可能であると実証されている。
【0027】
さらに別の実施形態において、ドーパントイオンは、少なくとも1つの不対価電子を有する電子構成、好ましくは半充填軌道を有する電子構成を有する。ドーパントイオンの不対価電子は、格子間フッ素との錯体形成に概して必要である。ドーパントイオンが半充填軌道を有する場合、すなわち各軌道で最大の価電子数の半分を有する場合、これは化学的に特に安定した構成である。ここで示す条件も、フッ素捕捉剤層のドーパントイオンに対する十分条件だが必要条件ではない。例えば、x線蓄積フィルムの場合、KbR:In+又はRbBr:Ga+等の組み合わせが実証されており、その場合はsイオン対がハロゲン捕捉剤として機能すると思われる。
【0028】
さらに別の実施形態において、フッ素捕捉剤層は、VUV波長域の放射線に対して透明である。VUV波長域の放射線での照射時に、フッ素捕捉剤層は、劣化を回避するために最小量の放射線を吸収すべきである。フッ素捕捉剤層の透明性は、光学素子が透過光学素子である場合にも概して必要である。したがって、ドーパントイオンは、そのVUV放射線吸収が最小限であるように選択されるべきである。
【0029】
一実施形態において、ドーパントイオンは、Gd3+、Eu2+、Mn2+、Fe3+、Ru3+、及びTl+を含む群から選択される。これらのドーパントイオンは、電子構成に関する上記条件を満たし、VUV波長域の放射線に対して比較的低吸収である。これらのドーパントイオンを、適当なイオン半径及び場合によっては同じ価数を有するフッ化物材料の金属ホスト格子イオンと結合することも可能である(下記参照)。
【0030】
さらに別の実施形態において、フッ化物材料は、Li+、Na+、K+、Rb+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Al3+、La3+、及びY3+を含む群から選択されたホスト格子イオンを有する。ここに示す(非網羅的な)材料リストからの陽イオンを有するフッ化物材料は、フッ素捕捉剤層の形成に対する適正が良好であることが分かっている。
【0031】
原理上、フッ素捕捉剤層のドープフッ化物材料(すなわち、フッ素捕捉剤層の材料)は、概して以下の化学構造式を有するべきである(固溶体がない場合。下記参照)。
Mx+Fx
-:Ax+
式中、Mはフッ化物材料のホスト格子イオンMx+の(一般的に金属)原子(例えば、Mg、La、…)を示し、AはドーパントイオンAx+のドーパント原子(例えば、Gd、Mn、Eu、…)を示し、xは金属原子M又はドーパント原子Aの価数(イオン電荷)を示す。
【0032】
さらに別の実施形態において、フッ素捕捉剤層のドープフッ化物材料は、RbF:Tl+、KF:Tl+、MgF2:Mn2+、SrF2:Eu2+、BaF2:Eu2+、LaF3:Gd3+、YF3:Gd3+、AlF3:Fe3+を含む群から選択される。これらの材料は、上記化学構造式と、ドーパントイオンのイオン半径、価数、及び電子構成に対する上述のさらなる条件とを満たし、したがってフッ素捕捉剤層として特に適している。
【0033】
ドープフッ化物材料のドーパントイオンは、0.1at%~2.0at%又は0.2at%~1.0at%の比較的低い濃度を有し得る。x線蓄積フィルムの材料のドーパント濃度のオーダであるドーパント濃度のこのような値範囲は、有利であることが分かっている。
【0034】
さらに別の実施形態において、ドーパントイオンは、フッ化物材料と固溶体(金属陽イオンの場合は合金)を形成するさらに別のフッ化物材料に存在する。この場合に所定の組成を有する2つのフッ化物材料は、
(Mx+Fx
-)y(Ax+Fx
-)1-y
という化学組成を有するいわゆる固溶体系を形成し、ここでyはy=0~y=1、好ましくはy=0.1~y=0.9の値をとり得る。本願の文脈では、固溶体は、状態図でミシビリティギャップを有する2つのフッ化物の擬二成分混合物を意味するとも理解される。
【0035】
擬二成分系の固溶体の一例は、x=0~1の(LaF3)(1-x)(GdF3)xである。固溶体の形態のフッ素捕捉剤層を単純な方法で(共蒸着により、下記参照)塗布することができる。誘電体用途の場合、例えば反射又は反射防止コーティングの場合、コーティング設計毎に固溶体の2つのフッ化物材料の実部n及び虚部kの値を考慮する必要がある。
【0036】
さらに別の実施形態において、フッ素捕捉剤層はコーティングのキャッピング層を形成するか、又はフッ素捕捉剤層はフッ化物層とコーティングのさらに別の層、特にさらに別のフッ化物層との間の拡散バリアを形成する。前者の場合、フッ素捕捉剤層は、コーティングの最上層、すなわち基板から最も離れている層を形成する。この場合のフッ素捕捉剤層は、フッ素がその下のフッ化物層から環境へ逃げるのを防止する働きをする。しかしながら、フッ素捕捉剤層がフッ化物層とさらに別の層、例えばさらに別のフッ化物層との間に形成されて、2つの周囲層間で拡散バリアとして働く可能性もある。同一のコーティングが、コーティングのキャッピング層としてのフッ素捕捉剤層及び拡散バリアとしての少なくとも1つのさらなるフッ素捕捉剤層の両方を有し得ることが明らかであろう。
【0037】
さらに別の実施形態において、コーティングは、(高)反射コーティング又は反射防止コーティングを形成する。いずれの場合も、コーティングは、2つの層がそれぞれ異なる屈折率を有する複数の層対を有する多層コーティングを形成し得る。ドーピングに起因して、又は場合によっては他の理由で、フッ素捕捉剤層は、これが塗布されるフッ化物層の屈折率とは通常は異なる屈折率を有する。したがって、フッ素捕捉剤層及びフッ化物層は、機能性多層コーティングの層対を形成し得る。
【0038】
この場合のコーティングは、干渉効果によりコーティングの反射効果又は反射防止効果をもたらすために、概して同一の厚さを有する所定の数の層対を有する。したがって、この実施形態において、フッ素捕捉剤層は、フッ素原子の格差を防止するだけでなく保護層としても働くので二重の機能を果たすが、光学効果も有してコーティングの反射又は反射防止コーティングに寄与する。
【0039】
コーティングが反射コーティングである場合、光学素子は、通常は反射光学素子、例えばミラーである。この場合のミラー又は反射コーティングは、例えばアルミニウム層を有することができ、その反射効果は、フッ化物層又はフッ素捕捉剤層(単数又は複数)により高められる。同時に、フッ化物層又はフッ素捕捉剤層(単数又は複数)は、アルミニウム層を劣化から保護する働きもする。
【0040】
コーティングが反射防止コーティングの形態をとる場合、光学素子は、通常は透過光学素子の形態をとる。この場合、光学素子は、例えば、MgF2、CaF2、LiF、…から例えば形成された好ましくは結晶性の、特にイオン性の基板を有し得る。
【0041】
本発明のさらに別の態様は、前述の少なくとも1つの光学素子を備えた、VUV波長域用の光学装置、特にウェーハ検査システム又はVUVリソグラフィ装置に関する。
【0042】
光学素子は、VUV波長域の放射線用の反射光学素子であり得るか、又は代替的にはVUV波長域の放射線を通過させるよう構成された透過光学素子であり得る。代替的には、光学素子は、VUV波長域の放射線の波長又は例えば偏光に応じて放射線を透過又は反射するビーム分割器であり得る。
【0043】
本発明のさらに別の態様は、コーティングの塗布時に少なくとも1つのフッ素捕捉剤層を塗布する上述のタイプの方法であって、フッ素捕捉剤層は少なくとも1つのドーパントイオンをドープしたフッ化物材料を含む方法に関する。気相からの堆積又は別のタイプのコーティング法により通常は行われるフッ素捕捉剤層の塗布には、様々な選択肢がある。
【0044】
好ましくは、フッ素捕捉剤層は、フッ化物材料とドーパントイオンを含有するさらに別のフッ化物材料との同時堆積により塗布される。本方法のこの変形形態において、フッ素捕捉剤層は、2つのフッ化物系(透明)材料の共蒸着により堆積される。この場合、通常は2つの蒸発源が堆積に用いられ、そのうちの一方はフッ化物系の結晶格子のフッ化物材料を含み、他方はドーパントを含有するフッ化物材料を含む。この場合は堆積により、2つのフッ化物の擬二成分混合物を形成することができ(例えばLaF3及びGdF3から、例えばx=0~1である(LaF3)1-x(GdF3)xの形態のLaF3:Gd3+が得られる)、すなわち堆積により、状態図でミシビリティギャップのない固溶体が形成される。共蒸着のためには、2つのフッ化物材料がコーティング材料の形態をとり、非吸湿性であり、且ついかなる取り扱い上の懸念も伴わなければ有利である(すなわち、危険又は安全に関する注意事項がなく、健康又は環境を危険にさらさない)。
【0045】
代替的な変形形態において、フッ素捕捉剤層は、ドーパントイオンをドープしたフッ化物材料の堆積により塗布される。この場合、適当な合成により、ドーピング用のホスト格子を構成するフッ化物材料に、適当なフッ素捕捉剤材料又は適当なドーパントイオンが予めドープされる。この場合のフッ素捕捉剤層のプレドープ材料は、後続のコーティング法で例えば気相からの堆積により基板に又はフッ化物層に化学量論的に転写される。
【0046】
さらに別の態様において、コーティングは、少なくとも1つのフッ化物層を含み、少なくとも1つのフッ素捕捉剤層層は、フッ化物層の基板から遠い側に塗布される。概して、フッ素捕捉剤は、フッ化物層との間の層へのフッ素の拡散を回避するためにフッ化物層に直接塗布されるが、これは必要不可欠ではない。
【0047】
本発明のさらに他の特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照した本発明の以下の例示的な実施例の説明から、また特許請求の範囲から明らかになる。個々の特徴のそれぞれを、単独で又は本発明の一変形形態において複数の任意の組み合わせで実施することができる。
【0048】
実施例を概略図に示し、以下の説明において解説する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】VUVリソグラフィ装置の形態のVUV波長域用の光学装置の概略図である。
【
図2】ウェーハ検査システムの形態のVUV波長域用の光学装置の概略図である。
【
図3a】キャッピング層としてフッ素捕捉剤層を有するコーティングを有する透過光学素子の概略図である。
【
図3b】複数のフッ素捕捉剤層を有する反射コーティングを有する反射光学素子の概略図である。
【
図4a】フッ素捕捉剤層の堆積時の光学素子の基板の概略図である。
【
図4b】フッ素捕捉剤層の堆積時の光学素子の基板の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図面の以下の説明において、同一の参照符号を同一又は機能的に同一のコンポーネント
に用いる。
【0051】
図1は、特に約110nm~約200nm又は160nmの範囲の波長用のVUVリソグラフィ装置の形態の光学装置1の概略図を示す。VUVリソグラフィ装置1は、必須コンポーネントとして、照明系2及び投影系3の形態の2つの光学系を有する。露光プロセスの実行のために、VUVリソグラフィ装置1は、放射源4を有し、これは例えば、例えば193nm、157nm、又は126nmのVUV波長域の波長の放射線5を発するエキシマレーザとすることができ、VUVリソグラフィ装置1の一体部品であり得る。
【0052】
放射源4が発した放射線5は、照明系2を用いて、レチクルとも称するマスク6を十分に照明することができるように処理される。
図1に示す例では、照明系2は、透過光学素子及び反射光学素子の両方を有する。代表的に、
図1は、放射線5を集束させる透過光学素子7と、例えば放射線5を偏向させる反射光学素子8とを示す。既知のように、照明系2において、多種多様な透過光学素子、反射光学素子、又は他の光学素子を任意の方法で、比較的複雑な方法でも、相互に組み合わせることが可能である。
【0053】
マスク6は、半導体コンポーネントの製造の状況では、露光される光学素子9、例えばウェーハに投影系3を用いて転写される構造を表面に有する。図示の例では、マスク6は、透過光学素子として設計される。代替的な実施形態において、マスク6は反射光学素子としても設計され得る。投影系2は、図示の例では少なくとも1つの透過光学素子を有する。図示の例は、2つの透過光学素子10、11を代表的に示し、これらは、例えばマスク6上の構造をウェーハ9の露光に望まれるサイズに縮小する働きをする。投影系3の場合にも、特に反射光学素子を設けることができ、任意の光学素子を所望に応じて既知の方法で相互に組み合わせることが可能である。透過光学素子のない光学装置をVUVリソグラフィに用いることもできることを指摘しておく。
【0054】
図2は、ウェーハ検査システム21の形態の光学アセンブリの例示的な実施形態の概略図を示す。以下で行う説明は、マスク検査用の検査システムにも同様に当てはまる。
【0055】
ウェーハ検査システム21は、放射源24と共に光学系22を有し、放射源24から放射線25が光学系22によりウェーハ29へ向けられる。この目的で、放射線25は、凹面ミラー26によりウェーハ29へ反射される。マスク検査システム2の場合、ウェーハ29の代わりに検査対象のマスクを配置することが可能となる。ウェーハ29で反射、回折、及び/又は屈折した放射線は、光学系22の一部を同様に形成するさらに別の凹面ミラー28により、透過光学素子27を介してさらなる評価のために検出器30へ案内される。放射源24は、例えば、本質的に連続した放射スペクトルを提供するために1つの放射源のみ又は複数の個別の放射源の組み合わせであり得る。変更形態において、1つ又は複数の狭帯域放射源24を用いることも可能である。好ましくは、放射源24が発生する放射線25の波長又は波長帯は、100nm~200nmの範囲、より好ましくは110nm~190nmの範囲にある。
【0056】
図1に示す例では、照明系2は、ハウジング12を有し、そこに形成された内部13に透過光学素子7とミラーの形態の反射光学素子8とが配置される。これに対応して、
図2のウェーハ検査システム21の光学系22は、ハウジング32を有し、そこに形成された内部33に2つのミラー26、28と透過光学素子27とが配置される。
【0057】
図1のリソグラフィ装置1は、内部13に不活性ガスを例えば希ガスの形態で、すなわちHe、Ne、Ar、Kr、Xeの形態又は窒素(N
2)の形態で供給する働きをするガス入口14も有する。これに対応して、
図2のウェーハ検査システム21は、光学系22のハウジング32の内部33に不活性ガスを供給する働きをするガス入口34も有する。
【0058】
図3aは、
図1の透過光学素子7を例として詳細図に示す。透過光学素子7は、例えばMgF
2の形態のイオン結晶の基板7aを有し、通常は高い強度を有する放射源4からの放射線5を照射される。基板7aを例えば照射時の転位から保護するために、コーティング15が基板7aの表面に塗布され、これは、図示の例ではフッ化物層16及びフッ素捕捉剤層17が塗布されたものである。
【0059】
VUV波長域の放射線5での光学素子7の照射の場合、高い放射強度に起因して、フッ素欠陥を発生させ格子間フッ素を形成するフッ化物層16の劣化があり得る。フッ化物層16の表面を通したフッ素原子の環境への拡散を抑制するために、
図3aに示す例では、フッ素捕捉剤層17をフッ化物層16に塗布することが可能である。フッ化物層16の材料は、例えば、MgF
2、AlF
3、LiF、LaF
3、GdF
3、BaF
2、又は別の透明なフッ化物材料であり得る。
【0060】
図2に示す透過光学素子27は、イオン結晶からなる基板27aとコーティング15(図示せず)とを有し、コーティング15は、フッ素捕捉剤層17の形態の個別層を有するという点で
図3aに示すコーティング15とは異なる。したがって、透過光学素子27のコーティング15は、
図3aに関連して記載したフッ素捕捉剤層17と同じ方法で形成され得るフッ素捕捉剤層17からなる。
【0061】
図3bは、
図1の反射光学素子8を例として詳細図に示す。反射光学素子8は、例えばフッ化物系材料又はケイ素からなる基板8aを有する。反射コーティング15が、VUV放射線5の反射のために基板8aに塗布される。反射コーティング15は、基板8aに隣接して配置されたアルミニウム層18と、フッ化物層16a、…、16n及び各フッ化物層16a、…、16nに塗布されたフッ素捕捉剤層17a、…、17nをそれぞれ有する一連のn個の層対とを含む。コーティングが1つの層対16a、17a(n=1)のみを有し得ることが明らかであろう。
【0062】
反射コーティング15のキャッピング層を形成する最上フッ素捕捉剤層17nを除いて、フッ素捕捉剤層17a、…、17mは、2つの隣接するフッ化物層16b、…、16nの間毎に拡散バリアとして働く。層対16a、17a、…、16n、17nは、第1にアルミニウム層18を酸化から保護すると共に第2にVUV波長域の放射線5に対するコーティング15の反射率を高める働きをする。したがって、各層対16a、17a、…、16n、17nの屈折率は、VUV波長域内の所望の波長域内で高反射率が成立するように相互に合わせられる。
図2に示す反射光学素子26、28にも同様に反射コーティング15が設けられるか又は設けることができることが明らかであろう。
【0063】
図3bに示す反射光学素子8の場合、透過光学素子27の場合のように、保護層及びキャッピング層として働く単一のフッ素捕捉剤層17をアルミニウム層18に塗布することが可能である。よって、反射光学素子8のコーティング15が
図3bに示すように1つ又は複数のフッ化物層16a、…、16nを有することは必須ではない。
【0064】
反射コーティングではなく反射防止コーティングを形成するために、層対16a、17a、…、16n、17nを
図3aに示す透過光学素子7に塗布することもできる。この目的で、各層対層対16a、17a、…、16n、17nの層厚及び材料対は適当に調整される。このような反射防止コーティング15が
図3bに示す図の場合のようなアルミニウム層を有しないことが明らかであろう。
【0065】
図3bに示す反射光学素子8の場合も、アルミニウム層18をなくすことが任意に可能であり、つまり反射コーティング15は、フッ化物層16a、…、16n及び各フッ化物層16a、…、16nに塗布されたフッ素捕捉剤層17a、…、17nからなる層対のみを有する誘電体多層コーティングの形態をとり得る。
【0066】
反射防止効果ではなく、コーティング15は、ビーム分割器効果を有することもでき、すなわち放射線の第1部分を透過して放射線の第2部分を反射することもできる。この場合の(部分)透過光学素子7、27は、ビーム分割器を形成する。
【0067】
図3a、
図3bに示すフッ素捕捉剤層17、17a~17nは、少なくとも1つの一般的に金属ドーパントイオンA
x+をドープした、イオンホスト格子としてのフッ化物材料M
x+F
x
-から形成される。フッ素捕捉剤層17、17a~17nのドープフッ化物材料は、以下の化学構造式を有する。
M
x+F
x
-:A
x+
式中、Mはフッ化物材料のホスト格子イオンM
x+の(一般的に金属)原子を示し、AはドーパントイオンA
x+のドーパント原子を示し、xは金属原子又はドーパント原子の価数(イオン電荷)を示す。
【0068】
フッ素捕捉剤効果を有する安定した層を形成する可能性があるフッ素捕捉剤層17の製造のためのドーパントイオンAx+に適した材料は、以下の基準を用いて選択され得る。
【0069】
ドーパントイオンAx+に不可欠な特性は、フッ化物材料Mx+Fx
-の(金属)ホスト格子イオンMx+のイオン半径RIと同様のイオン半径RDを有することである。つまり、金属ホスト格子イオンMx+のイオン半径RIに、ドーパントイオンAx+のイオン半径RDと20%以下、特に15%以下の差がある(又はその逆である)べきである。
【0070】
ホスト格子イオンMx+のイオン半径RIとドーパントイオンAx+のイオン半径RDとの間のずれは、ここで次式により求められる。
(RI-RD)/RI
【0071】
ドーパントイオンAx+に対する十分だが必要でない条件は、フッ化物材料Mx+Fx
-のホスト格子イオンMx+がドーパントイオンAx+と同じ価数xを有することである。ホスト格子イオンMx+及びドーパントイオンAx+が同じ価数、すなわち同じイオン電荷xを有することが有利だが、必要不可欠ではない。
【0072】
フッ素捕捉剤層17については、ドーパントイオンAx+が少なくとも1つの不対価電子を有する電子構成を有すれば同様に有利である。ドーパントイオンAx+の不対価電子は、格子間フッ素との錯体形成に概して必要であり、これはフッ素種の移動度を低下させる。特に、半充填軌道を有する電子構成が有利であることが分かっている。ドーパントイオンAx+が半充填軌道を有する場合、これは、化学的に特に安定した構成を構成する。
【0073】
フッ素捕捉剤層17及びフッ化物層16は、概してVUV波長域の放射線5に対して透明である。したがって、ドーパントイオンAx+は、VUV波長域で高吸収のいかなる材料も含有すべきでない。
【0074】
以下の表1は、ホスト格子イオンMx+及びドーパントイオンAx+に適した材料と、それらのイオン半径、配位、及び電子構成を示す。イオン半径に関して報告された値は、以下のソースからのものである:http://abulafia.mt.ic.ac.uk/shannon/ptable.php。
【0075】
【0076】
イオン半径の差に関して、ホスト格子イオンMx+又はフッ化物材料とドーパントイオンAx+との適当な対を以下の表2に示し、共蒸着による各フッ素捕捉剤層17、17a、…、17nの製造に可能なフッ化物材料の組み合わせ(下記参照)も記載する。
【0077】
【0078】
前述の材料の組み合わせのうち、以下のものが特に有利であると分かった:LaF3:Gd3+、MgF2:Mn2+、SrF2:Eu2+、BaF2:Eu2+、YF3:Gd3+、AlF3:Fe3+。
【0079】
フッ素捕捉剤層17、17a、…、17nのための前述の材料の組み合わせの全てについて、ドーパントイオンAx+がドープフッ化物材料(Mx+Fx
-:Ax+)において0.1at%~2.0at%、特に0.2at%~1.0at%の濃度を有すれば有利である。
【0080】
ドーパントイオンAx+の濃度をさらに高めた場合、フッ素捕捉剤層17、17a、…、17nは、フッ化物材料Mx+Fx
-及びさらに別のフッ化物材料Ax+Fx
-からなる
(Mx+Fx
-)y(Ax+Fx
-)1-y
という化学組成を有する擬二成分混合物又は固溶体を通常は形成し、ここでyはy=0~y=1、好ましくはy=0.1~y=0.9の値をとり得る。このような固溶体は、例えば共蒸着(下記参照)により形成され得る。
【0081】
図3a、
図3bに関連して記載した光学素子7、8は、例えば
図4a、
図4bに関連して以下に記載するように製造され得る。各光学素子7、8の製造時に、各基板7a、8aはコーティングシステム(図示せず)に導入され、コーティングシステムには、基板7a、8aに堆積するフッ化物材料を蒸発させるようそれぞれ設計された2つの蒸発源19a、19bが配置されている。
図4a、
図4bに示すように、基板7a、8aは、堆積中にその中心軸周りに回転する。
【0082】
図4aに示す例では、第1蒸発ステップにおいて、フッ化物層16の材料、図示の例ではLaF
3の第1蒸発源を蒸発させることにより、フッ化物層16を基板7aに堆積させる。
図4aの例では、ホスト格子材料、この例ではLaF
3に、ドーパントイオン、例えばGd
3+を予めドープし、第2蒸発源19bに導入する。所望の厚さを有するフッ化物層16が基板7aに塗布されたら、例えばLaF
3:Gd
3+の形態のフッ素捕捉剤層のドープ材料をフッ化物層16に化学量論的に堆積させるために第2蒸発源19bを起動する。
【0083】
図4bに示す例では、第1蒸発源19aを起動することにより、第1フッ化物層16aを
図4aに関連して記載したように堆積させる。
図4bに示す例では、第2蒸発源19bは、ドーパントイオンA
x+を含有するさらに別のフッ化物材料A
x+F
-
x(この例ではGdF
3)を含む。この場合、第1フッ素捕捉剤層17aは、2つの蒸発源の同時起動(共蒸着)で、2つの蒸発源19a、19bからの2つのフッ化物材料のx=0~1である擬二成分混合物又は固溶体(LaF
3)
(1-x)(GdF
3)
xを形成することにより堆積される。表2に記載した材料の場合の共蒸着は、
図4aに関連して記載したのと同様に行うことができる。
【0084】
要約すると、各フッ化物層(単数又は複数)16、16a、…、16nの劣化を防止または明確に減速することができるので、前述のフッ素捕捉剤層17、17a、…、17nは、各光学素子7、8、26、27、28の寿命を延ばすことができる。このように、各光学素子7、8、26、27、28の頻繁な交換をなくすことが可能である。160nm未満の波長で概して非常に吸収が大きい他の材料、例えば酸化物材料の保護層の塗布をなくすことが、通常は同様に可能である。照射時に光学素子7、8、26、27、28を潜在的に保護することを意図したガスの供給を回避することも可能であり、又はこのようなガスの濃度又は分圧を明確に低減することが概して可能である。