(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】キク白さび病抵抗性を判定する方法、製造方法、プライマーセット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20241010BHJP
A01H 1/02 20060101ALI20241010BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20241010BHJP
A01H 6/14 20180101ALI20241010BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241010BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
A01H1/02 Z
A01H5/00 Z
A01H6/14
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020152274
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、農林水産省委託プロジェクト研究「平成29年度実需者等のニーズに対応した園芸作物のDNAマーカーの開発委託事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】住友 克彦
(72)【発明者】
【氏名】磯部 祥子
(72)【発明者】
【氏名】白澤 健太
(72)【発明者】
【氏名】平川 英樹
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530330(JP,A)
【文献】特表2019-528770(JP,A)
【文献】鹿児島県農業開発総合センター,花のお役立ち情報,2016年,No. 7,pp. 1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
A01H
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キク白さび病抵抗性を判定する方法であって、
キク属(Chrysanthemum属)の植物において、下記(a)又は(b)の塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基;
(b)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基;
をキク白さび病抵抗性に関する分子マーカーとして検査する工程を含む、方法。
【請求項2】
上記キク属の植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a’)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基がAであるとき、又は、
(b’)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基がCであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基がAであり、かつ、配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基がCであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記検査する工程において、前記分子マーカーを含む領域を増幅するプライマーセットを用いて、前記植物のDNAにおける前記領域を増幅する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プライマーセットは、配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基、及び、配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基を含む領域を増幅するプライマーセットである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記キク属の植物が、イエギク種(Chrysanthemum morifolium)に属する植物である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を製造する製造方法であって、
キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物と、他のキク属の植物とを交雑する交雑工程と、
前記交雑工程により得られたキク属の植物又はその後代系統のキク属の植物から、請求項1から7のいずれか1項に記載された方法によって、キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を判別する判別工程とを含む、製造方法。
【請求項9】
前記交雑工程の前に、請求項1から7のいずれか1項に記載された方法により、被験キク属植物からキク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を判別する判別工程をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
キク属の植物
のDNAにおける、キク白さび病抵抗性に関する分子マーカー
を含む領域を増幅するプライマーセットであって、
上記分子マーカーは、下記(a)又は(b)の塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基;
(b)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基;
である、
プライマーセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キク白さび病抵抗性を判定する方法、製造方法、分子マーカー、キク白さび病抵抗性関連遺伝子、キク白さび病抵抗性のキク属植物に関する。
【背景技術】
【0002】
キク白さび病は、キクの葉の裏面に淡黄色の隆起やピンクがかった小膿疱を形成する病害である。この病害は、1895年に日本で最初に発見されたPuccinia horiana菌に感染することで発生し、現在では世界中に広がっている。Puccinia horiana菌は、多くのキク種に感染する。キクは、世界中で最も重要な観賞用植物の1つである栽培品種であり、切り花、鉢物、及び庭園植物として提供されている。キク白さび病は、キクの商業生産において重大な経済的損失をもたらすものであり、防除技術が不可欠である。
【0003】
Puccinia horiana菌は殺菌剤耐性体の数が増加しており、登録された殺菌剤の数が減少していることから、化学的な制御は困難である(非特許文献1)。さらに、湿度を低下させる等の環境制御は、露地栽培や半被覆栽培の場合には適用できず、常に適用可能ではない。
【0004】
病害制御の最も効果的な方法の一つは、抵抗性栽培品種を用いることである。抵抗性キク品種は広く研究されている。そのような研究にはキク白さび病抵抗性の遺伝様式の知見が含まれ、単一の顕性遺伝子を有する抵抗性品種の多くが見いだされている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Cook,R.T.A., Plant Pathol. 50: 792,2001
【文献】De Jong, J. and W. Rademaker, Euphytica,35: 945-952,1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1及び2に記載したように、キク白さび病に対して様々な研究がなされているが、これまでのところ、キク白さび病抵抗性育種に利用可能な、キク白さび病抵抗性に関連するDNAマーカーは知られていない。キク栽培品種であるイエギク種(Chrysanthemum morifolium)は同質6倍体ゲノムを有し、この複雑なゲノムでは、2つの対立遺伝子における一遺伝子性遺伝とした場合、単一の遺伝子座において全部で7の異なる対立遺伝子パターンが生成され得る。このように、マーカーの分離パターンが複雑となることから、キク白さび病抵抗性に関連するDNAマーカーの開発は遅れている。
【0007】
キク白さび病抵抗性に関連するDNAマーカーは、キク白さび病抵抗性育種におけるマーカー支援育種(MAS)として用いられ、キク属の植物におけるキク白さび病抵抗性の判定に有益である。
【0008】
本発明の一態様は、キク属の植物におけるキク白さび病抵抗性を判定するための技術の提供を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、キク属(Chrysanthemum属)の植物において、下記(a)又は(b)の塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基;
(b)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基;
をキク白さび病抵抗性に関する分子マーカーとして検査する工程を含む、方法である。
【0010】
本発明の一態様に係るキク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を製造する製造方法は、キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物と、他のキク属の植物とを交雑する交雑工程と、前記交雑工程により得られたキク属の植物又はその後代系統のキク属の植物から、上記キク白さび病抵抗性を判定する方法によって、キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を判別する判別工程とを含む、製造方法である。
【0011】
本発明の一態様に係るキク属の植物における、キク白さび病抵抗性に関する分子マーカーは、下記(a)又は(b)の塩基自体(SNP)か、当該相当する塩基を含む連続したポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基;
(b)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基;
である、分子マーカーである。
【0012】
本発明の一態様に係るキク白さび病抵抗性関連遺伝子は、上記分子マーカーに連鎖しており、ゲノム上で当該分子マーカーからの距離が2M以内に位置している。
【0013】
本発明の一態様に係るキク属植物は、上記キク白さび病抵抗性関連遺伝子を有する、上記製造方法によって得られる、キク白さび病抵抗性のキク属植物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、キク属の植物におけるキク白さび病抵抗性を判定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】キク白さび病抵抗性品種“サザンペガサス”の葉と、キク白さび病に罹患した葉とを比較する画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0017】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、核酸は、DNAの形態(例えば、cDNA若しくはゲノムDNA)、又は、RNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNA又はRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。本明細書において使用される場合、塩基の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記を使用する。
【0018】
本発明の一形態は、キク属の植物におけるキク白さび病抵抗性を判定するための技術である。本発明の一形態は、キク属の植物のゲノムに存在する、キク白さび病に対する抵抗性又は感受性を決定するキク白さび病抵抗性遺伝子の遺伝子型を判定することで、キク属の植物における白さび病抵抗性を判定する。
【0019】
キク属の植物は、Chrysanthemum属の植物であり、例えば、イエギク種(Chrysanthemum morifolium)に属する植物であり得る。イエギク種の中でもスプレー菊に分類される植物であり得る。
【0020】
また、キク属の植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物であり得る。育種素材の候補植物としては、例えば、交配に用いる親植物、及び、遺伝子組換え技術を利用した分子育種に用いられる植物が含まれる。また、育種のプロセスで得られた植物としては、例えば、Chrysanthemum属の植物を属内交雑した植物、イエギク種に属する植物を種内交雑した植物、及びこれらの後代系統である。また、キク属の植物は、イエギク種に属する植物とキク属の野生種との交雑植物のように種間交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。さらに、キク属の植物は、“サザンペガサス”品種の植物であるか、当該品種の植物と、他のイエギク種に属する植物との交雑植物又はその後代系統であり得る。
【0021】
本明細書において、植物とは、植物体の一部又は全部であってもよい。植物体の一部としては、例えば、繁殖素材(例えば、葉、枝、種子等)等が挙げられる。
【0022】
キク白さび病は、Puccinia horiana菌(以下、キク白さび病菌ともいう)に感染することでキクに病斑が形成される病気を意味している。また、キク白さび病抵抗性とは、キク白さび病菌への感染による病斑の形成及び拡大を抑制又は阻害する能力、を意図している。したがって、キク白さび病抵抗性を示す植物は、キク白さび病菌に感染もしくはキク白さび病菌を接種しても病斑が全く発生しない若しくはごく少量の病斑しか発生しない、または、発生した病斑が拡大しないことが意図される。
図1に示すように、罹病性品種においてキク白さび病に罹患した葉には病斑が見られるが、抵抗性の“サザンペガサス”では葉に病斑が見られない。
【0023】
イエギク種に属する植物は、54の染色体を有する同質6倍体である。イエギク種に属する植物における各染色体は、例えば、ゲノムの塩基配列情報は、キクタニギク種(Chrysanthemum seticuspe)のゲノム(CSE_r1.0)の塩基配列情報を参照して決定することができる。キクタニギク種のゲノムの塩基配列情報は、例えば、MumGARDENのwebサイト(http://mum-garden.kazusa.or.jp)から入手可能である。
【0024】
〔キク白さび病抵抗性に関する分子マーカー〕
本発明の一態様に係る分子マーカーは、キク属植物における、キク白さび病抵抗性に関する分子マーカーであって、下記(a)又は(b)の塩基自体(SNP)か、当該相当する塩基を含む連続したポリヌクレオチド:(a)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基;(b)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基;である。
【0025】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、キク属植物におけるキク白さび病抵抗性遺伝子を規定する分子マーカーである。このような分子マーカーには、SNPマーカー、AFLP(分子増幅断片長多型)マーカー、RFLPマーカー、マイクロサテライトマーカー、SCARマーカー、CAPSマーカー等が含まれる。SNPマーカーは、1個のSNPであってもよいし、2個以上のSNPの組み合わせであってもよい。本発明の一態様に係る分子マーカーは、キク属植物におけるキク白さび病抵抗性の判定に利用することができる。
【0026】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、(i)SNPに相当する塩基自体、(ii)SNPを含む連続したポリヌクレオチド、又は、(iii)2つのSNP間の領域の連続したポリヌクレオチドであり得る。
【0027】
(i:SNPマーカー)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNPマーカーであり得る。SNPは、DNAの塩基配列中のある特定の領域内に一塩基の変異が見られるDNA多型を意味している。
【0028】
「配列番号X(X=1~2)で表される塩基配列(塩基配列Xとする)のY番目(X=1のときYは63、X=2のときYは21)の塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーである。「配列番号Xで表される塩基配列のY番目の塩基に相当する塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーと同一視できるSNPマーカーである。塩基配列Xは、基準となるキク属の植物(“サザンペガサス”)由来の塩基配列であり、他のキク属の植物においては、SNPマーカーの部分以外でも塩基配列が異なる部分が含まれ得る。
【0029】
すなわち、他のキク属の植物において、塩基配列Xに対応する塩基配列X’(すなわち植物間で高度に保存されている塩基配列)が存在する場合、「配列番号Xで表される塩基配列のY番目の塩基に相当する塩基」とは、ホモロジー検索等の手法によって、Y番目の塩基に相当するとされた塩基配列X’上の塩基を指す。例えば、後述する(a2)や(a3)に記載のポリヌクレオチドや、(b2)や(b3)に記載のポリヌクレオチドが示す塩基配列が、塩基配列X’の一例である。
【0030】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、例えば、本実施例に記載されたSCSE_SC023417.1_15736及びSCSE_SC003182.1_58579である。SCSE_SC023417.1_15736及びSCSE_SC003182.1_58579は、本発明者らが新たに同定したSNPマーカーであり、当業者は、これらのSNPマーカーの塩基配列に基づき、当該SNPマーカーのゲノム上の位置を特定することができる。
【0031】
SCSE_SC023417.1_15736(以下、SNP(a)ともいう)は、配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基がAである多型を示している。すなわち、SNP(a)がAであるとき、キク属植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定することができる。
【0032】
SCSE_SC003182.1_58579(以下、SNP(b)ともいう)は、配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基がCである多型を示している。すなわち、SNP(b)がCであるとき、キク属植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定することができる。
【0033】
本発明の一態様に係る分子マーカーとして、SNP(a)とSNP(b)とを組み合わせて用いてもよい。例えば、SNP(a)がAであり、かつ、SNP(b)がCであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定してもよい。このように、SNP(a)及びSNP(b)をハプロタイプブロックとして解析してもよい。
【0034】
(ii:SNPを含むポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(a)ともいう)であってもよい。ポリヌクレオチド(a)は、(a1)配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(a2)配列番号1の塩基配列において、63番目の塩基以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、キク属植物のキク白さび病抵抗性を判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(a3)配列番号1の塩基配列において、63番目の塩基以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キク属植物のキク白さび病抵抗性を判定する機能を有するポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチド(a)におけるSNP(a)に相当する塩基がAであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定することができる。
【0035】
前記(a1)のポリヌクレオチドは、例えば、配列番号1に示す塩基配列に基づき、キク白さび病抵抗性を有する抵抗性植物(例えば、抵抗性の“サザンペガサス”)から得ることができる。
【0036】
前記(a2)のポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列において、SNP(a)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に、数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1、2または3個)の塩基の修飾(置換、欠失、挿入または付加)を含むものであり得る。このようなポリヌクレオチドの塩基配列は、当該技術分野における当業者にとって明らかであり、上述したデータベースに登録されているキクタニギク種のゲノム配列を参照することにより、又は、抵抗性植物のゲノム上におけるSNPの近傍領域の塩基配列を解読することにより、決定することができる。
【0037】
前記(a3)のポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列において、SNP(a)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に対して、例えば、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するものであり得る。このような塩基配列の同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、2つの塩基配列をアライメントとすることによって決定することができる。
【0038】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(b)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(b)ともいう)であってもよい。ポリヌクレオチド(b)は、(b1)配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(b2)配列番号2の塩基配列において、21番目の塩基以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、キク属植物のキク白さび病抵抗性を判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(b3)配列番号2の塩基配列において、21番目の塩基以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キク属植物のキク白さび病抵抗性を判定する機能を有するポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチド(b)におけるSNP(b)に相当する塩基がCであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定することができる。
【0039】
前記(b1)のポリヌクレオチドは、例えば、配列番号2に示す塩基配列に基づき、抵抗性植物から得ることができる。
【0040】
前記(b2)のポリヌクレオチドは、配列番号2に示す塩基配列において、SNP(b)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に、数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1、2または3個)の塩基の修飾(置換、欠失、挿入または付加)を含むものであり得る。このようなポリヌクレオチドの塩基配列は、当該技術分野における当業者にとって明らかであり、上述したデータベースに登録されているキクタニギク種のゲノム配列を参照することにより、又は、抵抗性植物のゲノム上におけるSNPの近傍領域の塩基配列を解読することにより、決定することができる。
【0041】
前記(b3)のポリヌクレオチドは、配列番号2に示す塩基配列において、SNP(b)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に対して、例えば、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するものであり得る。このような塩基配列の同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、2つの塩基配列をアライメントとすることによって決定することができる。
【0042】
なお、ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)は、SNP(a)及びSNP(b)を含む領域を増幅するプライマーセットにより増幅されるPCR増幅産物であり得る。
【0043】
本発明の一態様に係る分子マーカーとして、ポリヌクレオチド(a)とポリヌクレオチド(b)とを組み合わせて用いてもよい。例えば、ポリヌクレオチド(a)におけるSNP(a)に相当する塩基がAであり、かつ、ポリヌクレオチド(b)におけるSNP(b)に相当する塩基がCであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定してもよい。このように、ポリヌクレオチド(a)及びポリヌクレオチド(b)をハプロタイプブロックとして解析してもよい。
【0044】
(iii:2つのSNP間のポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)とSNP(b)との2つのSNP間の領域の連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(c)ともいう)であってもよい。ポリヌクレオチド(c)は、SNP(a)及びSNP(b)のいずれかの部位を含んでいることが好ましい。ポリヌクレオチド(c)は、例えば、抵抗性植物における対応するSNP(a)及びSNP(b)のSNP間の領域を参照することで得られる。ポリヌクレオチド(c)の塩基配列は、抵抗性植物の塩基配列と少なくとも部分的に一致する。
【0045】
上述した分子マーカーを用いてキク属植物においてキク白さび病抵抗性を判定する方法としては特に限定されず、例えば、SNPを検出する公知のSNP分析方法を用いることができる。このような公知のSNP分析方法には、キク属植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が含まれる。なお、上述した分子マーカーは、6倍体のキク属植物における6ゲノムのうちの少なくとも1つで見られればよく、6ゲノムのうちの少なくとも1つで抵抗性の遺伝子型であれば、抵抗性ありと判定できる。
【0046】
すなわち、SNP(a)又はSNP(b)を含む領域を増幅するプライマーセットを用いて、キク属植物の被検体のDNAにおける前記領域を増幅してもよい。キク属植物の被検体のDNAにおける前記領域の増幅は、キク属植物の被検体から抽出したDNAを鋳型にして、SNPを含む領域を増幅するプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行うことができる。そして、得られた増幅断片におけるSNPの塩基(遺伝子型)を決定し、決定された塩基(遺伝子型)とキク白さび病抵抗性との関係を示すデータに基づいて、キク属植物におけるキク白さび病抵抗性を判定する。
【0047】
PCRにおいて用いるプライマーセットは、標的のSNPを含む領域のDNA断片を増幅することができるものである限り、特に限定されず、増幅断片の長さが短くなるようにプライマーセットを設計してもよい。例えば、プライマー増幅断片の長さが、好ましくは、200塩基対(bp)以下、150bp以下、120bp以下、又は100bp以下となるようにプライマーセットを設計する。プライマーセットは、フォワードプライマーである第1のプライマーと、リバースプライマーである第2のプライマーとが含まれる。これらのプライマーの長さは、例えば、15bp以上、16bp以上、17bp以上、18bp以上、または19bp以上であってもよく、50塩基bp以下、40bp以下、または30bp以下であってもよい。
【0048】
SNP(a)を含む領域を増幅するプライマーセットは、例えば、配列番号3に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第1のプライマーと、配列番号4に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第2のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、キク白さび病抵抗性のキク属植物においては配列番号5に示す塩基配列からなるPCR増幅産物が得られ、SNP(a)に相当する塩基を検出することができる。
【0049】
SNP(b)を含む領域を増幅するプライマーセットは、例えば、配列番号6に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第3のプライマーと、配列番号7に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第4のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、キク白さび病抵抗性のキク属植物においては配列番号8に示す塩基配列からなるPCR増幅産物が得られ、SNP(b)に相当する塩基を検出することができる。
【0050】
また、プライマーセットは、SNP(a)及びSNP(b)の両方を含む領域を増幅するプライマーセットであることが好ましい。これにより、SNP(a)及びSNP(b)をハプロタイプブロックとして解析することができる。
【0051】
〔キク白さび病抵抗性関連遺伝子〕
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性関連遺伝子は、上述したいずれかの分子マーカーに連鎖しており、ゲノム上で当該分子マーカーからの距離が2cM以内に位置している。
【0052】
キク白さび病抵抗性関連遺伝子は、キク白さび病抵抗性を供与する質的形質遺伝子を意味しており、SNP(a)及びSNP(b)の少なくとも一方に連鎖している。キク白さび病抵抗性関連遺伝子は、キク属植物のゲノム上におけるこれらのSNPからの遺伝距離が2cM以内に位置していることが好ましく、1cM以内であることがより好ましい。例えば、キク白さび病抵抗性関連遺伝子は、SNP(a)からの距離が0.8cMであり、SNP(b)からの距離が1.9cMである。キク白さび病抵抗性関連遺伝子は、キク属植物のゲノム上において、SNP(a)とSNP(b)との間に位置している。
【0053】
キク白さび病抵抗性関連遺伝子は、キク属植物におけるキク白さび病抵抗性の有無を判定することができる。キク属植物の被検体において、キク白さび病抵抗性関連遺伝子の有無を検出することで、キク属植物におけるキク白さび病抵抗性を判定することができる。キク属植物の被検体において、キク白さび病抵抗性関連遺伝子の有無を検出する方法は特に限定されず、上述した分子マーカーを用いて従来公知の方法により検出することができる。
【0054】
また、キク白さび病抵抗性関連遺伝子をキク属植物に導入することで、キク属植物にキク白さび病抵抗性を付与することもできる。キク白さび病抵抗性関連遺伝子をキク属植物に導入する方法は特に限定されず、従来公知の遺伝子工学的手法を採用することができる。
【0055】
〔キク白さび病抵抗性のキク属植物〕
本発明の一態様に係るキク白さび病抵抗性のキク属植物は、上述のキク白さび病抵抗性関連遺伝子を有し、後述する製造方法によって得られる植物である。キク白さび病抵抗性のキク属植物は、上述した分子マーカーで特定される上述したキク白さび病抵抗性関連遺伝子領域を有し、キク白さび病に対して抵抗性を示す植物である。
【0056】
本発明の一態様に係るキク白さび病抵抗性のキク属植物は、後述する製造方法に示すように、キク白さび病抵抗性を有するキク属植物と、他のキク属の植物とを交雑して得られた植物及びその後代系統から、上述した分子マーカーを用いてキク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を判別することで得られる。なお、キク白さび病抵抗性関連遺伝子を遺伝子工学的に導入したキク白さび病抵抗性のキク属植物についても、本発明の範疇に含まれる。
【0057】
〔キク白さび病抵抗性を判定する方法〕
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、キク属(Chrysanthemum属)の植物において、下記(a)又は(b)の塩基自体(SNP)か、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチド:(a)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基;(b)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基;をキク白さび病抵抗性に関する分子マーカーとして検査する工程を含む。
【0058】
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、上述したSNP(a)及びSNP(b)、並びに、ポリヌクレオチド(a)~ポリヌクレオチド(c)のいずれかの分子マーカーを用いて、キク属植物の被検体において、キク白さび病抵抗性を判定する。本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、キク属植物の被検体のゲノム上において、キク白さび病抵抗性関連遺伝子の有無を上述した分子マーカーにより特定することで、キク属植物の被検体のキク白さび病に対する抵抗性の有無を判定する。
【0059】
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法において、キク属植物の被検体は、キク白さび病抵抗性の有無が不明なキク属植物であり、例えば、キク白さび病抵抗性のキク属植物とキク白さび病感受性のキク属植物との交雑植物及びその後代系統であり得る。
【0060】
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、上述したいずれかの分子マーカーを用いて、キク白さび病抵抗性を判定する。すなわち、本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、(a’)配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基がAであるとき、又は、(b’)配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基がCであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定することができる。また、本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、配列番号1に示す63番目の塩基に相当する塩基がAであり、かつ、配列番号2に示す21番目の塩基に相当する塩基がCであるときに、当該植物はキク白さび病抵抗性を持つと判定してもよい。
【0061】
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法において用いる分子マーカーの詳細については、上述した本発明の一形態に係る分子マーカーの説明を援用する。
【0062】
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法において、分子マーカーを用いてキク属植物のキク白さび病抵抗性を検査する方法としては特に限定されず、公知のSNP分析方法を用いることができ、例えば、キク属植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が挙げられる。すなわち、本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法は、前記検査する工程において、前記分子マーカーを含む領域を増幅するプライマーセットを用いて、前記植物のDNAにおける前記領域を増幅してもよい。このようなプライマーセットの詳細については、上述したプライマーセットの説明を援用する。
【0063】
SNP分析におけるPCRは、単独のプライマーセットを含む反応系でDNA断片を増幅するシングルプレックスPCR、または、複数のプライマーセットを含む反応系で遺伝子増幅するマルチプレックスPCR、のいずれであってもよい。マルチプレックスPCRの場合は、異なる波長を有する蛍光物質(例えば、NED、6-FAM、VIC、PET)により標識したプライマーセットを混合してもよい。
【0064】
PCRの反応条件は、用いるDNAポリメラーゼおよびPCR装置の種類、増幅断片の長さ等に応じて適宜に設定され得る。サイクル条件としては、変性工程、アニーリング工程および伸長工程の3工程を1サイクルとする3ステップPCR法、および、変性工程とアニーリングおよび伸長工程との2工程を1サイクルとする2ステップPCR法を適用することができる。PCR反応条件の一例としては、90~100℃で40~60秒(例えば、95°Cで50秒)、90~100℃(例えば、95℃)で5秒の30~60サイクル(例えば、40サイクル)、アニーリング10~20秒(例えば、15秒)、及び65~80℃で10~30秒(例えば、72℃で20秒)。アニーリング温度は、60~70℃(例えば、66℃)の初期アニーリング温度から50~60℃(例えば、56℃)の最終アニーリング温度まで、所定サイクル毎に段階的に低下させる条件が挙げられる。鋳型となるDNAの状態に応じて、SNPを安定的に検出するために、PCR反応条件を調整してもよい。
【0065】
SNP分析におけるPCRとして、PCRによる増幅およびSNPマーカーの特定を行うTaqMan(登録商標)-PCR法のようなリアルタイムPCRを用いてもよい。すなわち、プライマーセットを用いて増幅した増幅断片に含まれるSNPを検出するTaqMan(登録商標)プローブをさらに用いてもよい。リアルタイムPCR法を用いることにより、高処理能力の識別方法を提供することができる。なお、PCRにより増幅した増幅断片においてSNPを特定する方法としては、自動DNAシークエンサー等を用いて増幅断片の塩基配列を決定することにより、解析してもよい。
【0066】
キク属植物の被検体から、PCRにより増幅するDNAを抽出する方法としては、特に限定されず、公知のDNA抽出方法を用いることができる。また、市販のDNA抽出キットを用いて、DNAを抽出してもよい。被検体の種類および夾雑物の量等に応じて、DNA抽出工程の前に、適宜に前処理を行ってもよい。また、被検体から抽出されたDNAは、PCR反応において鋳型として用いるために、必要に応じて洗浄または精製してもよい。さらに、被検体から抽出されたDNAを2種類の制限酵素で消化した制限酵素切断断片をPCRにより増幅してもよい。
【0067】
本発明の一形態に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法によれば、分子マーカーによりキク属植物におけるキク白さび病抵抗性の有無を判定することができるので、判定結果に基づきキク白さび病抵抗性のキク属植物及びその後代系統を選抜することができる。
【0068】
〔製造方法〕
本発明の一形態に係る製造方法は、キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を製造する方法であって、キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物と、他のキク属の植物とを交雑する交雑工程と、前記交雑工程により得られたキク属の植物又はその後代系統のキク属の植物から、上述したキク白さび病抵抗性を判定する方法によって、キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を判別する判別工程とを含む。
【0069】
したがって、上述した分子マーカー、キク白さび病抵抗性関連遺伝子、キク白さび病抵抗性のキク属植物、及びキク白さび病抵抗性を判定する方法に関する説明を、キク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を製造する方法の説明に援用する。
【0070】
交雑工程において、親植物として使用するキク白さび病抵抗性を有するキク属の植物は、本発明に係るキク白さび病抵抗性のキク属植物であり得る。また、交雑工程において用いるキク白さび病抵抗性を有するキク属の植物は、本発明に係るキク白さび病抵抗性を判定する方法により選抜されたキク白さび病抵抗性のキク属植物であってもよい。すなわち、本発明の一形態に係る製造方法は、前記交雑工程の前に、上述したいずれかのキク白さび病抵抗性を判定する方法により、被験キク属植物からキク白さび病抵抗性を有するキク属の植物を判別する判別工程をさらに含み得る。
【0071】
判別工程は、上述したいずれかのキク白さび病抵抗性を判定する方法により、交雑工程により得られたキク属の植物又はその後代系統のキク属の植物から、上述したキク白さび病抵抗性を判定する。
【0072】
本発明の一形態に係る製造方法によれば、分子マーカーによりキク属植物におけるキク白さび病抵抗性の有無を判定し、判定結果に基づき選抜したキク白さび病抵抗性のキク属植物を製造することができる。
【0073】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0074】
〔材料及び方法〕
(植物材料及びDNA抽出)
F1母集団を、感受性“NARO_cgs0302033”と抵抗性“サザンペガサス”との交配種由来とした。合計128個のF1苗を、市販の園芸用の土(クレハ園芸培土、クレハ化学製)を含むプラスチックポット(内径12cm、ポット1個あたり1苗)に植え、18℃~25℃、自然日長+6時間の暗期中断条件の温室内で、採穂用株として維持した。DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen製)を用いて、茎頂(生重量30mg)からゲノムDNAを抽出した。
【0075】
(キク白さび病に対する植物の感受性/抵抗性の表現パターンの検査)
キク白さび病菌(Puccinia horiana)を含む罹病葉を、2017年に農研機構において育成した“フローラル優香”植物から回収し、接種材料源として用いた。単一の冬胞子堆を用いて、無病の“秀芳の力”植物体に接種し、その後継代維持した。
【0076】
キク白さび病菌の接種試験は、生育チャンバ内において発泡スチロール箱(長さ50.8cm×幅36.0cm×深さ34.9cm)を用いて行った。F1集団の各個体及び両親の未発根穂木を、園芸培地(Metro Mix 360;Scotts製)を含む200穴のセルトレイに挿し、発泡スチロール箱の底に置いた。箱の上部開口をプラスチックネット(5mmメッシュ)により覆った。“秀芳の力”の発病葉を約1cm2の小片に切断し、3cm×3cmの密度として、ネット上に冬胞子堆を下に向けて配置した。高湿度条件を確保するために、切片、箱の内側、及び接種材料を保持するネットに、スプレー器を用いて脱塩水を噴霧した。箱を密閉し、19℃暗黒とした生育チャンバ内に搬入した。接種開始から16時間後に、200穴のセルトレイをプラスチックの透明容器(長さ37.5cm×幅24.7cm×高さ12.9cm)内に入れ、生長チャンバ内に搬入し、22℃・16時間の明期条件で維持した。病徴を、接種後28日間評価した。
【0077】
上記の接種試験を3回行った。3回の分析において病徴が視認されなかったF1植物は、さらに3回の追加の分析を行った。植物上に少なくとも1つの冬胞子堆がいずれかの分析において観察された場合、「感受性(S)」とした。合計6回の分析を通して冬胞子堆が全く観察されなかった植物は、「抵抗性(R)」と評価した。
【0078】
(dd-RAD-Seq分析)
dd-RAD-Seqライブラリーを生成するために、PstI及びMspIの2つの制限酵素により、F1集団及びその親系統からのゲノムDNAを消化した。ライブラリーのヌクレオチド配列を、HiSeq4000 (Illumina)プラットフォームにおいて決定した。
【0079】
(データ処理及びシンプレックスSNPデータマイニング)
リード及びシンプレックスSNP決定のデータ処理を、以下に要約するように行ったdd-RAD-Seq分析から得たリードを、参照として用いたC. seticuspeのゲノム配列(CSE_r1.0)上にマッピングした。SNP候補を抽出し、得られた配列アライメントからSNPを決定した。
【0080】
各SNP座において、F1全個体のリードデータをプールし、各SNP座において変異型塩基を有するリード数を総リード数によって割ることで、各位置の対立遺伝子頻度を算出した。対立遺伝子頻度及び集団内でのヘテロ個体の出現頻度にしたがって、シンプレックスSNP及びダブルシンプレックスSNPを選択した。
【0081】
(ゲノムワイド関連解析)
遺伝子型と表現型との間の関連性を、TASSELプログラムを用いて、一般線形モデルにより分析した。
【0082】
(連鎖解析)
連鎖解析をJoinMap 4.1 software (Kyazma B.V.製)により行った。キク白さび病抵抗性に有意に関連するSNPマーカーのdd-RAD-seq遺伝子型データ及びキク白さび病抵抗性の表現型データをJoinMap 4.1 softwareにインポートし、初期回帰マッピングパラメータを用いてマップを構築した。
【0083】
(キク白さび病抵抗性連鎖SNPマーカー)
“サザンペガサス”におけるキク白さび病抵抗性に関連する2つのSNPに対応する対立遺伝子特異的プライマーを設計した(表1)。
【0084】
【表1】
親個体及びF1個体から抽出したゲノムDNA 8ngを用いて、PCRによりSNP遺伝子型を確認した。以下の条件によりタッチダウンPCRを実行した:95°Cで50秒、95℃で5秒の40サイクル、アニーリング15秒、及び72℃で20秒。アニーリング温度は、66℃の初期アニーリング温度から56℃の最終アニーリング温度まで、3サイクル毎に2℃ずつ段階的に低下させた。Thermal Cycler Dice Real-Time system (TaKaRa Bio製)上においてTB Green Premix Ex Taq II Tli RNase H plus kit(TaKaRa Bio製)を用いて、PCRを行った。
【0085】
(独立集団におけるSNPマーカーと抵抗性連鎖の有効性)
感受性“イエロークイン”と“サザンペガサス”との交配種由来の63のF1植物の母集団を準備し、SNPマーカーが他の独立集団においても有効か否かを調査した。抵抗性連鎖SNPマーカーであるSCSE_SC023417.1_15736を用いて、当該独立集団のキク白さび病に対する抵抗性及び遺伝子型を評価した。
【0086】
〔結果〕
(表現型データ)
接種開始後28日目に病徴の評価を行った。キク白さび病感受性“NARO_cgs0302033”と抵抗性“サザンペガサス”との交配種の128のF1個体は、抵抗性:感受性が73:55(おおむね1:1)に分離した。このことは、“サザンペガサス”がキク白さび病抵抗性に対して、単一の顕性遺伝子を有することを示している。
【0087】
(SNP選抜)
1サンプルあたり約2.9Mの高品質リードを、F1母集団(n=128)及び親品種から得た。配列リードの80.1%を参照ゲノムであるC.seticuspeのゲノム(CSE_r1.0)にマッピングできた。合計73,338のSNP候補を同定した。対立遺伝子頻度値及びカイ2乗検定(P>0.01)によりシンプレックスおよびダブルシンプレックスSNPを選択した。
【0088】
11,515のシンプレックスおよびダブルシンプレックスSNPマーカーのGLM分析により、キク白さび病抵抗性に有意に関連する22のSNPマーカーを同定した。
【0089】
(連鎖解析)
“サザンペガサス”においてキク白さび病抵抗性に関連する21のシンプレックスSNPは、連鎖解析によって1つの連鎖群を形成し、これらのSNPマーカーが遺伝的に連鎖することが明らかとなった。“サザンペガサス”のキク白さび病抵抗性遺伝子の遺伝子座は、SCSE_SC003182.1_58579とSCSE_SC023417.1_15736との間に位置し、前者から1.9cM、後者から0.8cMの位置であった。dd-RAD-seqデータを用いたGWASによると、これらのSNPマーカーは、形質に有意に関連している(それぞれp=2.18×10-23及び2.85×10-31)。
【0090】
dd-RAD-seqは、SNPマーカーであるSCSE_SC003182.1_58579及びSCSE_SC023417.1_15736の遺伝子型が、感受性“NARO_cgs0302033”では、それぞれT及びGのホモ接合である。一方で、抵抗性“サザンペガサス”では、それぞれTTTTTC及びGGGGGAのヘテロ接合である。それゆえに、“GGGGGA”は、SCSE_SC023417.1_15736のSNP部位における対立遺伝子のパターンであり、SNPの対立遺伝子及びPhr1遺伝子座は、“サザンペガサス”ゲノムにおける相引である。
【0091】
(SNPマーカー-抵抗性関連性のPCR分析)
PCR分析の結果(
図2)、SCSE_SC023417.1_15736の遺伝子型を決定した。128のF1植物において、SCSE_SC023417.1_15736におけるホモ接合(GGGGGG):ヘテロ接合(GGGGGA)の分離は、52:76であり、1:1に概ね一致していた。抵抗性の親由来のA対立遺伝子を有する76個体のうち、72のF1植物はキク白さび病抵抗性を表し、4のF1植物は感受性であった。感受性の親のG対立遺伝子を有する52のF1植物のうち51は感受性であったが、1のF1植物が抵抗性を示した。これらの結果は、5のF1植物においてSCSE_SC023417.1_15736のA対立遺伝子とPhr1との間に組換えがあったことを示している。
【0092】
PCR分析により、SCSE_SC003182.1_58579の遺伝子型を決定した。128のF1植物において、SCSE_SC003182.1_58579におけるホモ接合(AAAAAA):ヘテロ接合(AAAAAC)の分離は、51:77であり、1:1に概ね一致していた。抵抗性の親由来の多型を有する77個体のうち、68のF1植物はキク白さび病抵抗性を表し、9のF1植物は感受性であった。感受性の親のA対立遺伝子を有する51のF1植物のうち、48は感受性であったが、3のF1植物が抵抗性を示した。これらの結果は、12のF1植物においてSCSE_SC003182.1_58579のC対立遺伝子とPhr1との間に組換えがあったことを示している。
【0093】
(独立個体におけるSNPマーカー-抵抗性連鎖の検証)
感受性“イエロークイン”と“サザンペガサス”とを交配して得られた集団において、キク白さび病抵抗性に対するSNPマーカーSCSE_SC023417.1_15736の連鎖を検証した。この集団におけるキク白さび病抵抗性の分離は、R:Sが32:31の比率であった。これは1:1の分離に一致する。抵抗性“サザンペガサス”由来の多型を有するF1植物は全て、キク白さび病抵抗性を示した。“サザンペガサス”由来の多型を有さない32のF1植物の内、31のF1植物はキク白さび病感受性であり、1のF1植物はキク白さび病抵抗性であった。SCSE_SC023417.1_15736は、独立した集団においても有用なSNPマーカーであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、農業分野、植物育種分野等に利用することができる。
【配列表】