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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】レーザ装置及びパルス幅変更方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/102 20060101AFI20241010BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20241010BHJP
   H01S 3/1123 20230101ALI20241010BHJP
   H01S 3/23 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
H01S3/102
H01S3/10 D
H01S3/1123
H01S3/23
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021546950
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035306
(87)【国際公開番号】W WO2021054401
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019170783
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「粒子加速のためのパワーレーザーの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】平等 拓範
(72)【発明者】
【氏名】川崎 泰介
(72)【発明者】
【氏名】ヤヒア ヴァンサン
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0041736(US,A1)
【文献】特開2015-079873(JP,A)
【文献】特開2002-062553(JP,A)
【文献】特開2018-098449(JP,A)
【文献】特表2016-518024(JP,A)
【文献】国際公開第2014/118925(WO,A1)
【文献】特開2012-216769(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119585(WO,A1)
【文献】特開2008-270549(JP,A)
【文献】特表2007-532005(JP,A)
【文献】特開2004-337925(JP,A)
【文献】特表2003-536266(JP,A)
【文献】特表2003-518440(JP,A)
【文献】特開平11-261134(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0173254(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109616860(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0123314(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0112651(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103022862(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0278199(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0279167(US,A1)
【文献】米国特許第05235606(US,A)
【文献】特許第6793893(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ光を出力するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出力された前記パルスレーザ光を増幅するとともに、前記パルスレーザ光のパルス幅を変更して出力するパルス幅制御部と、
を備え、
前記パルス幅制御部は、
前記パルスレーザ光を増幅する第1レーザ増幅器と、
前記第1レーザ増幅器と、前記レーザ光源との間に配置されており、前記パルスレーザ光のパルス波形を操作するパルス波形操作部と、
を有し、
前記パルス波形操作部は、前記パルスレーザ光の立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうちの少なくとも一方を調整可能に構成されている第2レーザ増幅器であり、
前記第2レーザ増幅器は、
利得媒質と、
前記利得媒質への励起光の供給状態を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記パルスレーザ光の波形を操作するように、前記供給状態を制御し、
前記パルス幅は、前記パルスレーザ光の半値全幅であり、
前記立ち上がり時間は、前記パルスレーザ光の最大強度に対して10%~90%まで強度が増加するまでの時間であり、
前記立ち下がり時間は、前記最大強度に対して90%~10%まで強度が低下する時間である、
レーザ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記パルスレーザ光が前記利得媒質に入力された後も前記励起光を前記利得媒質に供給するか、前記パルスレーザ光が前記利得媒質に入力される前に前記励起光の供給を停止するかを切り替える、
請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
パルスレーザ光を出力するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出力された前記パルスレーザ光を増幅するとともに、前記パルスレーザ光のパルス幅を変更して出力するパルス幅制御部と、
を備え、
前記パルス幅制御部は、
前記パルスレーザ光を増幅する第1レーザ増幅器と、
前記第1レーザ増幅器と、前記レーザ光源との間に配置されており、前記パルスレーザ光のパルス波形を操作するパルス波形操作部と、
を有し、
前記パルス波形操作部は、前記パルスレーザ光の立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうちの少なくとも一方を調整可能に構成されている第2レーザ増幅器であり、
前記第2レーザ増幅器は、
利得媒質と、
前記利得媒質へ入力される前記パルスレーザ光のエネルギーを変化させるパルスエネルギー調整部と、
前記利得媒質への励起光のエネルギーを変化させる励起エネルギー調整部と、
を有し、
前記パルス幅は、前記パルスレーザ光の半値全幅であり、
前記立ち上がり時間は、前記パルスレーザ光の最大強度に対して10%~90%まで強度が増加するまでの時間であり、
前記立ち下がり時間は、前記最大強度に対して90%~10%まで強度が低下する時間である、
レーザ装置。
【請求項4】
前記パルス波形操作部は、前記パルスレーザ光の立ち上がり時間をtr及び立ち下がり時間をtfとした場合、tr/tfを0より大きく1未満の範囲で調整するように構成されている、
請求項1~の何れか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記パルス波形操作部は、tr/tfを0.85未満に調整するように構成されている、
請求項に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記パルス波形操作部は、前記パルスレーザ光のパルス幅を維持しながら前記パルスレーザ光の波形を操作するように構成されている、
請求項1~の何れか一項に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記レーザ光源は、マルチモードの前記パルスレーザ光を出力し、
前記パルス幅制御部は、
前記レーザ光源と前記パルス波形操作部との間に、前記マルチモードのうちの一つのモードを選択するモード選択部を有する、
請求項1~のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置及びパルス幅変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザ光のパルス幅を制御する技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1では、パルスレーザ光をレンズと光ファイバを用いて波長毎に時間差を付けることによってパルス幅を一旦伸張した後に、パルスレーザ光の増幅を行う。その後、レンズと回折格子を用いて空間に振り分けられた各波長を再び同一時間に集めることでパルスを圧縮している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許5235606号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、パルスレーザ光を伸張するための部品(特許文献1では、レンズと光ファイバ)及び増幅後にパルス幅を圧縮する部品(特許文献1では、2つの回折格子)が必要となる。更に分散を利用しているためレーザ装置が大型化する。
【0005】
そこで、本発明は、装置の小型化を図るとともに、パルス幅を変更可能なレーザ装置及びパルス幅変更方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るレーザ装置は、パルスレーザ光を出力するレーザ光源と、上記レーザ光源から出力された上記パルスレーザ光を増幅するとともに、上記パルスレーザ光のパルス幅を変更して出力するパルス幅制御部と、を備え、上記パルス幅制御部は、上記パルスレーザ光を増幅する第1レーザ増幅器と、上記第1レーザ増幅器と、上記レーザ光源との間に配置されており、上記パルスレーザ光のパルス波形を操作するパルス波形操作部と、を有する。
【0007】
上記レーザ装置では、パルスレーザ光の波形を操作した後に、第1レーザ増幅器でパルスレーザ光を増幅する。これにより、パルス幅を変更可能である。
【0008】
上記パルス波形操作部は、上記パルスレーザ光の立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうちの少なくとも一方を調整可能に構成されていてもよい。これにより、パルス波形を操作可能である。
【0009】
上記パルス波形操作部は、上記パルスレーザ光の立ち上がり時間をtr及び立ち下がり時間をtfとした場合、tr/tfを0より大きく1未満の範囲で調整するように構成されていてもよい。これにより、レーザ光源から出力されたパルスレーザ光のパルス幅より短いパルス幅を有するパルスレーザ光をレーザ装置から出力可能である。
【0010】
上記パルス波形操作部は、tr/tfを0.85未満に調整するように構成されていてもよい。
【0011】
上記パルス波形操作部は、上記パルスレーザ光のパルス幅を維持しながら上記パルスレーザ光の波形を操作するように構成されていてもよい。
【0012】
上記パルス波形操作部は、可飽和吸収体を有してもよい。上記パルス波形操作部は、回折格子対を有してもよい。上記パルス波形操作部は、チャープ型回折格子を有してもよい。
【0013】
上記パルス波形操作部は、第2レーザ増幅器を有してもよい。上記第2レーザ増幅器は、利得媒質と、上記利得媒質への励起光の供給状態を制御する制御部と、を有してもよい。上記制御部は、上記パルスレーザ光の波形を操作するように、上記供給状態を制御してもよい。
【0014】
上記制御部は、上記パルスレーザ光が上記利得媒質に入力された後も上記励起光を上記利得媒質に供給するか、上記パルスレーザ光が上記利得媒質に入力される前に上記励起光の供給を停止するかを切り替えてもよい。
【0015】
上記パルス波形操作部は、第2レーザ増幅器を有し、上記第2レーザ増幅器は、利得媒質と、上記利得媒質へ入力される上記パルスレーザ光のエネルギーを変化させるパルスエネルギー調整部と、上記利得媒質への励起光のエネルギーを変化させる励起エネルギー調整部と、を有してもよい。
【0016】
上記レーザ光源は、マルチモードの上記パルスレーザ光を出力してもよい。上記パルス幅制御部は、上記レーザ光源と上記パルス波形操作部との間に、上記マルチモードのうちの一つのモードを選択するモード選択部を有してもよい。
【0017】
本発明の他の側面に係るパルス幅変更方法は、レーザ光源からパルスレーザ光を出力する出力工程と、上記パルスレーザ光を増幅するとともに、上記パルスレーザ光のパルス幅を変更して出力するパルス幅制御工程と、を備え、上記パルス幅制御工程は、上記レーザ光源から出力された上記パルスレーザ光を増幅する増幅工程と、上記増幅工程の前に、上記パルスレーザ光の波形を操作するパルス波形操作工程と、を有する。
【0018】
上記方法では、パルスレーザ光の波形を操作した後に、第1レーザ増幅器でパルスレーザ光を増幅する。これにより、パルス幅を制御可能である。
【0019】
上記パルス波形操作工程では 上記パルスレーザ光の立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうちの少なくとも一方を調整することによって、上記パルスレーザ光の波形を操作してもよい。
【0020】
上記パルス波形操作工程では、上記パルスレーザ光の立ち上がり時間をtr及び立ち下がり時間をtfとした場合、tr/tfを0より大きく1未満の範囲で調整してもよい。
【0021】
上記パルス波形操作工程では、tr/tfを0.85未満に調整してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、装置の小型化を図るとともに、パルス幅を変更可能なレーザ装置及びパルス幅変更方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、一実施形態に係るレーザ装置の概略構成を示す図面である。
図2図2は、図1に示したレーザ装置が有するパルス波形操作部(パルス波形操作部)の一例を示す模式図である。
図3図3は、図1に示したレーザ装置が有するパルス波形操作部(パルス波形操作部)の他の例を示す模式図である。
図4図4は、パルス波形の一例を説明するための図面である。
図5図5は、シミュレーションモデルの概略構成を示す図面である。
図6図6は、シミュレーション結果を示す図面である。
図7図7は、レーザ装置の変形例を示す図面である。
図8図8は、レーザ装置の他の変形例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0025】
図1に示したように、本実施形態に係るレーザ装置10は、レーザ光源20と、パルス幅制御部30とを備える。
【0026】
レーザ光源20は、パルスレーザ光L1を出力する。レーザ光源20が出力するパルスレーザ光L1のパルス幅は、例えば、0.1ps~10ns又は1ps~1nsである。パルスレーザ光L1の波長は、例えば、157nm~3.4μm又は650nm~2.1μmである。レーザ光源20は、たとえばレーザ発振器でもよい。レーザ光源20の例は、受動Qスイッチマイクロチップレーザーである。本明細書において、パルス幅は、半値全幅である。
【0027】
パルス幅制御部30は、パルスレーザ光L1を増幅するとともに、パルス幅を変更して出力する。パルス幅制御部30は、レーザ増幅器(第1レーザ増幅器)31とパルス波形操作部32とを有する。パルス幅制御部30は、図1に示したように、終端ミラー33、偏光回転素子34及び偏光ビームスプリッタ35を有してもよい。本実施形態では、終端ミラー33、偏光回転素子34及び偏光ビームスプリッタ35を有する形態を説明する。
【0028】
レーザ増幅器31は、増幅用利得媒質31aと、励起光供給部31bと、駆動部(制御部、励起エネルギー調整部)31cとを有する。
【0029】
増幅用利得媒質31aは、パルスレーザ光L1の光路上に配置されており、パルスレーザ光L1を増幅する光部品である。増幅用利得媒質31aは、パルスレーザ光L1を増幅可能な材料によって形成されていればよい。増幅用利得媒質31aの材料としては、例えば、Nd:YAG(ネオジウム添加イットリウムアルミニウムガーネット)、Nd:YVO(ネオジウム添加YVO)、Yb:YAG(イッテルビウム添加YAG)、Yb:ガラス(イッテルビウム添加ガラス)、Er:YAG(エルビウム添加YAG)等が挙げられる。増幅用利得媒質31aの形状は限定されないが、例えば、ロッド状、板状等である。
【0030】
励起光供給部31bは、増幅用利得媒質31aを励起する励起光を、増幅用利得媒質31aに供給する少なくとも一つの光源を有する。励起光供給部31bが有する光源の例は、レーザダイオード(LD)である。図1では、側面励起の場合を例示している。
【0031】
駆動部31cは、励起光供給部31bに電気的に接続されている。駆動部31cは、励起光供給部31bを駆動し、励起光の供給状態(例えば励起光のエネルギー、励起光の供給のON/OFF等)を制御する。
【0032】
増幅用利得媒質31aの励起方法は、上述した例に限定されない。励起光供給部31bと駆動部31cとが直接接続され(或いは一つの装置として構成され)、励起光供給部31bからファイバを介して増幅用利得媒質31aに励起光が供給されてもよい。図1に示したような側面励起の代わりに、例えば、レーザ装置10の構成に応じて、端面励起であってもよい。励起光の波長は、増幅用利得媒質31aを励起可能な波長であればよい。
【0033】
終端ミラー33は、パルスレーザ光L1の光路上であって、増幅用利得媒質31aからみてレーザ光源20と反対側に配置されている。終端ミラー33は、パルスレーザ光L1を、増幅用利得媒質31a側に反射する。
【0034】
偏光回転素子34は、パルスレーザ光L1の光路上であって、増幅用利得媒質31aと偏光ビームスプリッタ35の間に配置されている。偏光回転素子34は、偏光ビームスプリッタ35を通過したパルスレーザ光L1及び終端ミラー33によって反射され増幅用利得媒質31aを通過したパルスレーザ光L1の偏光方向を回転する。偏光回転素子34は、終端ミラー33によって反射され戻ってきたパルスレーザ光L1が、偏光ビームスプリッタ35で反射されるように、パルスレーザ光L1の偏光を回転すればよい。偏光回転素子34の例は、ファラデー回転素子である。
【0035】
偏光ビームスプリッタ35は、パルスレーザ光L1の光路上であって、レーザ光源20と増幅用利得媒質31aとの間に配置されている。偏光ビームスプリッタ35は、レーザ光源20から出力されたパルスレーザ光L1を透過する一方、偏光回転素子34によって偏光方向が回転されたパルスレーザ光L1を反射する。偏光ビームスプリッタ35で反射されたパルスレーザ光L1がレーザ装置10から出力されるパルスレーザ光L2である。
【0036】
パルス波形操作部32は、パルスレーザ光L1の光路上であって、レーザ光源20とレーザ増幅器31(具体的には増幅用利得媒質31a)との間に配置されている。本実施形態では、レーザ装置10は、偏光ビームスプリッタ35を備えていることから、パルス波形操作部32は、レーザ光源20と偏光ビームスプリッタ35との間に配置されている。
【0037】
パルス波形操作部32は、レーザ光源20から出力されたパルスレーザ光L1のパルス波形を操作する波形操作機構である。パルス波形操作部32は、例えば、パルス幅を実質的に維持するように、パルス波形を操作する。上記実質的にパルス幅を維持するようにパルス波形を操作するとは、パルス波形の操作において、若干のパルス幅の変動が生じることは許容し得ることを意味する。
【0038】
パルス波形操作部32は、パルスレーザ光L1のパルス波形において、パルスの立ち上がり時間と、立ち下がり時間の少なくとも一方を調整可能なように構成されている。立ち上がり時間及び立ち下がり時間の定義は、パルスレーザ光に関する技術分野において通常用いられる定義で良い。例えば、パルスレーザ光の最大強度に対して10%~90%まで強度が増加するまでの時間を立ち上がり時間と定義するとともに、上記最大強度に対して90%~10%まで強度が低下する時間を立ち下がり時間と定義してもよい。
【0039】
上記立ち上がり時間をtrとし、立ち下がり時間をtfとした場合、パルス波形操作部32は、例えば、tr/tfが0より大きくなるように、パルス波形を操作してもよい。パルス波形操作部32は、例えば、tr/tfが0より大きく1未満になるように、パルス波形を操作してもよい。パルス波形操作部32は、例えば、tr/tfが0.85未満となるようにパルス波形を操作してもよい。
【0040】
パルス波形操作部32は、パルス波形を操作可能に構成されていれば限定されない。
【0041】
例えば、パルス波形操作部32は、パルスの先頭で高い利得を持ち、パルス半ば以降で利得が急速に低下する機能を有するように構成されていてもよい。
或いは、パルス波形操作部32は、例えばパルス前半では高速で損失飽和することで立ち上がりのコントラストを高め、パルス後半では損失が急速に回復する機能を有するように構成されていてもよい。
【0042】
パルス波形操作部32の一例は、可飽和吸収体である。可飽和吸収体の例は、Cr:YAG、可飽和吸収ミラー等である。
【0043】
パルス波形操作部32は、図2に示したレーザ増幅器(第2レーザ増幅器)321であってもよい。レーザ増幅器321は、利得媒質321aと、励起光供給部321bと、駆動部(制御部)321cとを有する。
【0044】
利得媒質321aの材料の例は、増幅用利得媒質31aの場合と同様とし得る。利得媒質321aの材料は、増幅用利得媒質31aの材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
励起光供給部321bは、利得媒質321aに励起光を供給する少なくとも一つの光源を有する。励起光供給部321bが有する光源の例は、LDである。図2では、側面励起の場合を例示している。しかしながら、励起方法は、側面励起に限定されず、端面励起でもよい。励起光の波長は、利得媒質321aを励起可能な波長であればよい。
【0046】
駆動部321cは、励起光供給部321bに電気的に接続されている。駆動部321cは、励起光供給部321bを駆動し、励起光の供給状態(例えば励起光のエネルギー、励起光の供給のON/OFF等)を制御する。
【0047】
レーザ増幅器321における増幅用利得媒質31aの励起方法も、レーザ増幅器31の場合と同様に、上記例示した励起方法に限定されない。
【0048】
パルス波形操作部32がレーザ増幅器321である場合、励起光の供給状態を制御することによって、パルスレーザ光L1の波形を操作する。
【0049】
例えば、駆動部321cによって、パルスレーザ光L1が利得媒質311aに入力された後も励起光を利得媒質321aに供給するか、パルスレーザ光L1が利得媒質311aに入力される前に励起光の供給を停止するかを切り替える。これにより、パルスレーザ光L1の利得を制御できるので、パルス波形を操作可能である。
【0050】
駆動部321cは、例えばレーザ光源20とも電気的に接続されており、駆動部321cがレーザ光源20を制御してもよいし、又は、レーザ装置10は、駆動部321c及びレーザ光源20を制御する制御装置を別途有してもよい。この場合、例えば、前述したように、パルスレーザ光L1の利得媒質311aへの入力状態に応じて、励起光の供給状態を制御し易い。
【0051】
パルス波形操作部32は、図3に示したレーザ増幅器321Aであってもよい。レーザ増幅器321Aは、利得媒質321aへ入力されるパルスレーザ光L1のエネルギーを変化させるパルスエネルギー調整部321dを、利得媒質321aの前段(パルスレーザ光L1の入力側)に配置されている点で、図2のレーザ増幅器321と相違する。
【0052】
パルスエネルギー調整部321dの例は、アッテネータである。レーザ増幅器321Aでは、駆動部321cは、パルスエネルギー調整部321dで調整されるパルスエネルギーに応じて励起光のエネルギーを調整することによって、パルス波形を操作すればよい。
【0053】
ここで、パルスレーザ光L1の進行方向をz方向とし、パルスレーザ光L1のパルス波形を下記式(1)で表す。
【0054】
【数1】
式(1)において、σ及びμは、フィティング係数である。
【0055】
図4は、式(1)で表されたパルス波形の例を示す図面である。図4の横軸は時間を示しており、縦軸は、強度(任意単位:a.u.)を示している。パルスレーザ光L1の進行方向をz方向としていることから、式(1)のzは、時間tに等価であり、図4では、式(1)中のzを時間tに置き換えたパルス波形を示している。図4において、左側がパルスレーザ光L1の先頭側である。式(1)において、レーザ光源20から出力されたパルスレーザ光L1のパルス波形ではσ及びμが任意の値をとる。図4では、レーザ光源20からパルス幅が670psのパルスレーザ光L1が出力されている場合を示している。
【0056】
パルス波形操作部32で、パルス波形を操作することは、パルス波形操作部32によって、式(1)におけるσの異なるパルス波形を形成することに相当する。例えば、図4に示したように、σを0.05より大きくすることで、パルスの立ち上がりが早いパルス波形とし得る。
【0057】
上記レーザ装置10を用いたパルス幅変更方法を説明する。
【0058】
まず、レーザ光源20からパルスレーザ光L1を出力する(出力工程)。次に、パルスレーザ光L1を増幅するとともに、パルスレーザ光L1のパルス幅を変更してレーザ装置10から出力する(パルス幅制御工程)。パルス幅制御工程を具体的に説明する。
【0059】
パルス幅制御工程では、レーザ光源20から出力されたパルスレーザ光L1を、パルス波形操作部32によって操作する(パルス波形操作工程)。
【0060】
パルス波形が操作されたパルスレーザ光L1は、偏光ビームスプリッタ35及び偏光回転素子34を順に通過してレーザ増幅器31(具体的には、増幅用利得媒質31a)に入力される。偏光回転素子34を通過する際、パルスレーザ光L1の偏光方向が回転される。レーザ増幅器31に入力されたパルスレーザ光L1は、レーザ増幅器31によって増幅される(増幅工程)。図1に示したレーザ装置10では、レーザ増幅器31を通過したパルスレーザ光L1は、終端ミラー33で反射される。終端ミラー33で反射されたパルスレーザ光L1は、レーザ増幅器31を再度通過する。よって、本実施形態の増幅工程では、パルスレーザ光L1は、増幅用利得媒質31aによって、2回増幅される。
【0061】
終端ミラー33で反射されレーザ増幅器31を再度通過したパルスレーザ光L1は、偏光回転素子34を通過した後、偏光ビームスプリッタ35に入力される。偏光回転素子34の通過によって、パルスレーザ光L1の偏光は更に回転される。これにより、偏光ビームスプリッタ35に、偏光回転素子34側から入力されたパルスレーザ光L1は、偏光ビームスプリッタ35によって反射され、レーザ装置10からパルスレーザ光L2として出力される。
【0062】
上記のように、レーザ装置10及びそれを用いたパルス幅変更方法では、レーザ光源20から出力されたパルスレーザ光L1のパルス波形を、レーザ増幅器31に入力する前に操作する。このようにパルス波形が操作されたパルスレーザ光L1をレーザ増幅器31で増幅することによって、パルス幅を調整できる。
【0063】
この点を、シミュレーション結果を参照して具体的に説明する。図5は、シミュレーションモデル40を示す図面である。シミュレーションモデル40は、図1に示した構成のモデルであり、図5に示したように、偏光ビームスプリッタ35、偏光回転素子34、増幅用利得媒質31a及び終端ミラー33を備えた構成とした。偏光ビームスプリッタ35、偏光回転素子34、増幅用利得媒質31a及び終端ミラー33の配置は、図1に示した場合と同様とした。シミュレーションでは、偏光ビームスプリッタ35に入射パルス光L3が入力されたと仮定した。入射パルス光L3が、図1におけるパルス波形操作部32から出力され偏光ビームスプリッタ35に入力されるパルスレーザ光L1に相当する。
【0064】
入射パルス光L3の条件は以下の通りであった。
・エネルギー:5mJ
・ビーム径(入射パルス光L3の直径):2.4mm
・パルス幅:670ps
【0065】
増幅用利得媒質31aとして、Nd:YAGロッドを仮定した。Nd:YAGロッドの条件は以下のとおりであった。
・ロッド長:126mm
・ロッド径(直径):5mm
・ドーピング率:1at.%
・Nd:YAGの飽和フルエンス(Saturation fluence):667mJ/cm
・Nd:YAGの蛍光寿命(Fluorescent life time): 230μs
【0066】
Nd:YAGロッドの励起条件は次のとおりであった。
・励起パワー:6kW
・励起パルス幅:250μs
【0067】
更に、以下の条件を設定した
・ストークス効率(Stokes efficiency) :0.76
・1at.%における量子効率:0.8
・パルス幅250μsの励起光による蓄積効率(storage efficiency):0.66
【0068】
シミュレーションでは、シミュレーションモデル40の偏光ビームスプリッタ35に、入射パルス光L3を入力した場合において、増幅用利得媒質31aによって図1に示したレーザ装置10と同様に増幅され偏光ビームスプリッタ35から出力される出力パルス光L4のパルス幅を算出した。更に、入射パルス光L3のパルス幅をτinとし、出力パルス光L4のパルス幅をτoutとして、パルス幅の変化率(τout/τin)を算出した。
【0069】
シミュレーションでは、入射パルス光L3のパルス立ち下がり時間tfに対する立ち上がり時間trの比(tr/tf)を変化させながら、上記変化率(τout/τin)を算出した。立ち上がり時間trを、パルスレーザ光L1の最大強度に対して10%~90%まで強度が増加するまでの時間とし、パルス立ち下がり時間tfを、上記最大強度に対して90%~10%まで強度が低下する時間とした。
【0070】
図6は、シミュレーション結果を示す図面である。図6の横軸は、パルス立ち下がり時間tfに対する立ち上がり時間trの比(tr/tf)を示しており、縦軸は、変化率(τout/τin)を示している。図6には、増幅用利得媒質31aの励起エネルギーが0.45J、1.5J及び4.5Jの場合の結果を示している。
【0071】
図6に示したように、比(tr/tf)を変化させることで、変化率(τout/τin)が変化していることが理解できる。すなわち、入射パルス光L3の波形を操作することによって、増幅後のパルスレーザ光である出力パルス光L4のパルス幅が変化していることが理解できる。
【0072】
具体的には、比(tr/tf)が1以上の場合、パルス幅が延びる(パルスが伸張する)一方、比(tr/tf)が1から小さくなるにつれて、変化率が小さくなっていることが理解され得る。比(tr/tf)が0.85未満の場合、変化率が1より小さい(パルスが圧縮されている)。比(tr/tf)が1から小さくなるにつれて、変化率が小さくなるのは、そのようなパルスが増幅用利得媒質に入射するとパルスの先頭で強く誘導放出が生じ、パルスの後ろ側で利得の不足が生じるためと考えられる。
【0073】
更に、増幅用利得媒質31aの励起エネルギーを変化させることで、増幅後のパルスレーザ光(図5の出力パルス光L4)のパルス幅も変化することが理解され得る。具体的には、励起エネルギーが強い方が、パルス幅の変化量が大きい。
【0074】
レーザ装置10及びそれを用いたパルス幅変更方法では、レーザ増幅器31にパルスレーザ光L1が入射する前に、パルスレーザ光L1のパルス波形を操作することで、出力されるパルスレーザ光L1のパルス幅を制御できる。
【0075】
そのため、例えば、増幅用利得媒質の前で、パルスレーザ光を一度伸張した後、増幅用利得媒質を通過したパルスレーザ光を改めて圧縮することで、パルス幅を小さくする場合に比べて、レーザ装置10の小型化を図ることが可能である。
【0076】
更に、パルス波形操作部32に例えば図2及び図3に示したようなレーザ増幅器321、321Aのように、増幅作用のある機構(或いは素子)を用いる形態では、パルス波形を操作しながらパルスレーザ光L1を増幅することも可能である。その結果、出力パルス光であるパルスレーザ光(図1のパルスレーザ光L2)の強度を一層増大できる。
【0077】
更に、例えば、比(tr/tf)を0.85未満(特に、0.1以下)とすることによって、パルスを圧縮可能である。例えば、レーザ光源20から出力されるパルスレーザ光L1のパルス幅が、10ps~1000psであれば、レーザ装置10から200fs~20psのパルス幅のパルスレーザ光L2を出力可能である。200fs~20psのパルス幅であっても、レーザ加工に有効である。そのため、レーザ装置10は、小型化を図りながら、レーザ加工に有効なパルス幅を有するパルスレーザ光L2を出力可能な構成を有し得る。前述したように、増幅用利得媒質31aの励起エネルギーを変化させることで、増幅後のパルスレーザ光(図5の出力パルス光L4)のパルス幅も変化するため、パルス幅を調整する際には、励起エネルギーが高い方がよい。例えばより高い(例えば18kW以上の)励起エネルギーであれば、上述したように、パルス幅が10ps~1000psのパルスレーザ光L1を、パルス幅が200fs~20psのパルスレーザ光L2として一層出力し易い。
【0078】
(変形例)
図7は、変形例に係るレーザ装置10Aの構成を示す図面である。レーザ装置10Aは、終端ミラー33の代わりに、増幅用利得媒質31aの端面(レーザ光源20と反対側の端面)に、パルスレーザ光L1を反射する高反射コーティング膜(HRコーティング膜)31dを設けている点で、レーザ装置10の場合と相違する。高反射コーティング膜31dの例は、パルスレーザ光L1に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜である。この相違点以外のレーザ装置10Aの構成は、レーザ装置10の場合と同様である。
【0079】
レーザ装置10Aは、レーザ光源20と、増幅用利得媒質31aとの間にパルス波形操作部32を備える。これにより、レーザ光源20から出力されたパルスレーザ光L1が増幅用利得媒質31aに入力される前に、パルスレーザ光L1の波形を操作可能である。その結果、レーザ装置10Aは、レーザ装置10と同様の作用効果を有する。
【0080】
以上、本発明の種々の実施形態、変形例及び実験例を説明した。しかしながら、本発明は、例示した種々の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される範囲が含まれるとともに、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0081】
例えば、図8に示したように、パルス幅制御部30は、図1に示した偏光ビームスプリッタ35、偏光回転素子34及び終端ミラー33を有しなくてもよい。図8に示したレーザ装置10Bのパルス幅制御部30Aは、パルス波形操作部32と、レーザ増幅器(第1レーザ増幅器)31とを有する。レーザ装置10Bでは、レーザ光源20から出力されたパルスレーザ光L1は、パルス波形操作部32を通過した後、レーザ増幅器31で一度増幅された後、レーザ装置10Bから出力される。すなわち、レーザ増幅器31で一度増幅され出力されたパルスレーザ光(パルスレーザ光L2)がレーザ装置10Bの出力光である。この場合も、レーザ増幅器31に入力される前にパルス波形操作部32でパルスレーザ光L1の波形が操作される。そのため、図1及び図7に示したレーザ装置10,10Aの場合と同様の作用効果を有する。
【0082】
パルス波形操作部は、回折格子対又はチャープ型回折格子を用いて、パルス波形を上記実施形態で例示したように操作してもよい。レーザ加工分野では、通常、パルス圧縮するため、パルス波形操作部は、上記比(tr/tf)が0.85未満になるように、回折格子対又はチャープ型回折格子を構成すればよい。
【0083】
レーザ光源から出力されるパルスレーザ光がマルチモードのレーザ光である場合、例えば、パルス波形操作部とレーザ光源との間に、モードを選択するモード選択部を設けてもよい。モード選択部の例は、VBG(volume bragg grating)である。
【0084】
パルス波形操作部が、第2レーザ増幅器を有する形態において、第2レーザ増幅器は、図2及び図3に示した例に限定されない。
【0085】
レーザ装置から出力されるパルスレーザ光(図1の場合、パルスレーザ光L2)のパルス幅を積極的に伸張する場合、パルス波形操作部によって、例えば、前述した比(tr/tf)が1以上となるように、パルス波形操作部に入力されるパルスレーザ光(図1の場合、パルスレーザ光L1)の波形が操作されてもよい。
【0086】
以上説明した種々の実施形態、変形例などは、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0087】
10,10A,10B…レーザ装置、20…レーザ光源、30,30A…パルス幅制御部、31…レーザ増幅器(第1レーザ増幅器)、32…パルス波形操作部(パルス波形操作部)、321,321A…レーザ増幅器(第2レーザ増幅器)、321a…利得媒質、321c…駆動部(制御部)、321d…パルスエネルギー調整部、L1…パルスレーザ光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8