(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】下水汚泥発酵原料及び下水汚泥の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/02 20060101AFI20241010BHJP
B09B 3/60 20220101ALI20241010BHJP
【FI】
C02F11/02 ZAB
B09B3/60
(21)【出願番号】P 2020165711
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 智恵美
(72)【発明者】
【氏名】中村 政登
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健史
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕之
(72)【発明者】
【氏名】古賀 明宏
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0136812(KR,A)
【文献】特開2003-009655(JP,A)
【文献】特開2015-013263(JP,A)
【文献】特開平11-228267(JP,A)
【文献】米国特許第05422015(US,A)
【文献】特開平09-074899(JP,A)
【文献】国際公開第2014/092101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
C02F 11/00-11/20
C04B 18/08
C05B 1/00-21/00
C05C 1/00-13/00
C05D 1/00-11/00
C05F 1/00-17/993
C05G 1/00-5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥と、
セメントキルンの塩素バイパス設備から採取したクリンカダストの水洗残渣とを含み、
前記水洗残渣を、前記下水汚泥100質量部に対して0.2質量部以上10質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料。
【請求項2】
栄養助材を更に含む、請求項1に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項3】
前記栄養助材を、前記下水汚泥100質量部に対して5質量部以上50質量部以下含む、請求項2に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項4】
通気助材を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項5】
前記通気助材を、前記下水汚泥100質量部に対して5質量部以上50質量部以下含む、請求項4に記載の下水汚泥発酵原料。
【請求項6】
下水汚泥
と、セメントキルンの塩素バイパス設備から採取したクリンカダストの水洗残渣
とを含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備え、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記水洗残渣を0.2質量部以上10質量部以下含む前記下水汚泥発酵原料を用いる、下水汚泥の処理方法。
【請求項7】
栄養助材及び通気助材を更に含む前記下水汚泥発酵原料を用い、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記栄養助材を5質量部以上50質量部以下含み、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記通気助材を5質量部以上50質量部以下含む、請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
前記下水汚泥発酵原料を密閉式且つ縦型の発酵槽内で好気発酵させる、請求項6又は7に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥を好気発酵させるための原料及び下水汚泥の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥は、有機物及び水を含む泥状の物質であり、生活活動に伴う下水処理の過程で不可避的に排出されるものである。下水汚泥は、その排出量が下水処理量の増加に伴って増えており、都市ゴミと同様に、その処理が問題となっている。下水汚泥を処理するために、例えば該汚泥を焼却処理して、その際に生じた熱をエネルギー源として利用する試みが行われているが、更なる効率的な焼却処理を行うために、下水汚泥の含水率を下げることが望まれている。
【0003】
下水汚泥の含水率を安価に低下させる技術として、下水汚泥を好気発酵させる技術が知られている。例えば、特許文献1~3には、脱水効率の向上及び悪臭防止等のために、有機汚泥と、フライアッシュとを混合して発酵する方法が開示されている。
【0004】
また特許文献4には、下水汚泥に通気性改善材を添加して好気発酵させて含水率を低下させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-185881号公報
【文献】特開平09-074899号公報
【文献】特開平11-228257号公報
【文献】特開2005-111374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、好気性発酵を安定的に行うためには、通気量の他に、処理対象物に含まれる微生物の栄養源となる栄養素及び水の量、pHなどの各種条件の最適化が必要である。悪臭などの環境汚染防止の観点から密閉条件で好気発酵を行う場合、通気量が不足する傾向にあることに起因して、嫌気性発酵が進行して発酵系全体のpHが低くなり、有機物の分解速度が遅くなる。その結果、対象物の好気発酵処理が十分に行えないことがある。
【0007】
嫌気性発酵が進行し低pHとなった発酵系全体のpHを中性又はアルカリ性側に調整して良好な好気性発酵状態を維持することを目的として、例えば畜糞や有機性廃棄物などの原料に、アルカリ性になった堆肥等のアルカリ性物質を投入する方法がある。しかし、好気発酵処理の対象物として下水汚泥を使用する場合、下水汚泥の緩衝作用により発酵系全体のpHはあまり変化せず、pHを所望の範囲に調整することが困難となる場合がある。特に、密閉式縦型発酵槽などの大規模な連続式装置で下水汚泥を処理する場合には、原料投入口近傍での発酵状態と排出口近傍で発酵状態とが異なるため、発酵条件の調整が困難であった。
【0008】
上記のように、下水汚泥の好気発酵において、pH調整により発酵を促進させる場合には、好気発酵の促進効果を安定して得られる配合が求められていた。この点に関して、特許文献1~4に記載の技術では、好気発酵処理過程における発酵条件を適切に調整することや、密閉時あるいは圧縮時での発酵条件の最適化に関しては何ら検討されていない。
【0009】
そこで本発明は、発酵状態に応じて配合を都度調整することなく、簡便かつ安定的に発酵促進できる下水汚泥発酵原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、クリンカダストの水洗残渣を下水汚泥へ添加することで、発酵対象物である下水汚泥の発酵が安定して促進されることを見出し、本発明を成すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下水汚泥と、クリンカダストの水洗残渣とを含み、
前記水洗残渣を、前記下水汚泥100質量部に対して0.2質量部以上10質量部以下含む、好気発酵処理用の下水汚泥発酵原料を提供するものである。
【0012】
また本発明は、下水汚泥及びクリンカダストの水洗残渣を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備え、
前記下水汚泥100質量部に対して、前記水洗残渣を0.2質量部以上10質量部以下含む前記下水汚泥発酵原料を用いる、下水汚泥の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、下水汚泥に特定の材料を添加するという簡便な操作のみで、好気発酵を速やかに進行させることができ、下水汚泥を安定して発酵させることができる。これにより、セメント工場のような工業地域や、下水処理場のような下水汚泥の発生元において、性状の異なる複数の下水汚泥を大量に発酵処理することができ、資源の有効利用に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、密閉式縦型発酵槽の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例及び比較例における好気発酵評価に用いた発酵容器の外観及び寸法を示す斜視図であり、
図2(b)は温度測定時における各部材の配置位置を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の下水汚泥発酵原料は、その材料として、下水汚泥と、クリンカダストの水洗残渣とを含む。この下水汚泥発酵原料は、下水汚泥の好気発酵処理に好適に用いられるものである。
【0017】
本発明に用いられる下水汚泥は、下水処理の過程で生じる廃棄物であり、有機物、無機物及び水を含む泥状の物質である。下水汚泥は、典型的には、活性汚泥法方式の排水処理設備から排出される余剰汚泥を脱水したものである。このような下水汚泥としては、例えば下水処理場で発生する一般下水汚泥、し尿処理施設で発生するし尿汚泥および浄化槽汚泥などが挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて用いることができる。下水汚泥は、未消化汚泥としてそのまま用いてもよく、あるいは、消化汚泥などの下水汚泥の自己発酵処理物を用いてもよい。
【0018】
本発明の下水汚泥発酵原料は、クリンカダストの水洗残渣(以下、単に「水洗残渣」ともいう。)をさらに含む。本発明者は、意外にも、産業廃棄物として扱われる水洗残渣を下水汚泥発酵原料として再利用することによって、下水汚泥の効率的な好気発酵を促進できることを見出した。また、水洗残渣は典型的には産業廃棄物であるので、この水洗残渣を下水汚泥とともに再利用することによって、廃棄物量を低減して、資源の有効利用及び環境保護に寄与するという利点も併せて奏されることも見出した。
【0019】
クリンカダストとは、セメント製造工程において塩素含有量の多い原燃料を使用した際に、セメント工場設備のセメントキルン内に生じる塩素分を含む排ガスの一部を塩素バイパス設備により抽気し、その抽気した排ガスを冷却した際に発生、回収されるダスト(粒状物または粉状物)のことである。このダストには、揮発成分である塩素、アルカリ、硫黄等と仮焼原料由来の遊離石灰やその他成分が多く存在している。本発明における水洗残渣は、例えばクリンカダストを水洗した水洗物を乾燥等の脱水処理をすることによって得ることができる。水洗残渣は、クリンカダストと比較して、塩素、アルカリ、硫黄等の含有量が低減している。
【0020】
本発明で用いられる水洗残渣は、遊離石灰の含有量が高い微粒子が含まれており、典型的には当該微粒子の集合体である。詳細には、水洗残渣は、例えばCaOやCa(OH)2等のカルシウム化合物を含有する脱水ケーキやその乾燥粉末である。
【0021】
本発明で用いられる水洗残渣は、平均粒子径が0.5mm~4mmであることが好ましく、0.5mm~2mm以下の粒状のものが更に好ましく使用できる。このような粒子径を有する水洗残渣を用いることによって、水洗残渣の反応表面積を大きくして、遊離酸化カルシウム等の水洗残渣中のアルカリ分を適切なアルカリ供給速度で下水汚泥に供給して、後述する微視的な領域におけるpH調整効果を効果的に発現させることができる。その結果、下水汚泥の好気発酵性が更に向上する。
水洗残渣の平均粒子径は、JIS Z8815-1995「ふるい分け試験方法通則」に規定される各種のふるい分け試験方法で測定した粒度分布のD50とすることができる。
【0022】
上述の水洗残渣として、JCAS I-01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」により測定される遊離酸化カルシウム含有量が好ましくは10%以上、更に好ましく15%以上25%以下であるものを用いる。遊離酸化カルシウム含有量がこのような範囲にあることによって、下水汚泥に対するアルカリの供給量が適度な量となり、後述の微視的な領域におけるpH調整効果を効果的に発現させて、下水汚泥の好気発酵性を更に向上させることができる。上述の方法で測定される遊離酸化カルシウム含有量は「質量%」として表される。
【0023】
なお水洗残渣は産業廃棄物であるため、本発明の効果に寄与するための粒子構造や成分の全部を解析することは実質的に不可能であり、その構造及び特性によって特定するには著しく過大な経済的支出及び時間を要する。そのため、水洗残渣には、本出願の出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情、すなわち「不可能・非実際的事情」が存在する。
【0024】
本発明の下水汚泥発酵原料における水洗残渣の含有量は、下水汚泥100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.4質量部以上5質量部以下、更に好ましくは1質量部以上2質量部以下である。このとき、基準となる下水汚泥の質量は含水状態での質量とする。このような範囲にあることによって、下水汚泥の好気発酵を簡便に促進し、発酵の進行状態を高いレベルで安定化させることができる。
【0025】
本発明の下水汚泥発酵原料に水洗残渣を特定の添加量で含有させることによって、好気発酵が効率的に進行する理由を、本発明者は以下のように推測している。
水洗残渣は遊離酸化カルシウム分を含み、水と接触するとアルカリ性を示す。下水汚泥に水洗残渣を添加した場合、下水汚泥が有するpH緩衝作用により、系全体のpH上昇(マクロ的なpH上昇)はほぼ観察されないが、微視的環境である水洗残渣の存在領域(例えば水洗残渣粒子の表面及び近傍のミクロな領域)ではpHがアルカリ性側に調整される。そして、pHが上昇したミクロな領域では、好気性微生物による有機物の分解に適したpHとなるまで上昇し、その結果、好気発酵が効率よく進行していると考えられる。
【0026】
一方で、水洗残渣の添加量が上述した範囲よりも少ない場合は、アルカリの供給が不足して、下水汚泥の微視的なpHを上昇させることが困難となり得る。また添加量が水洗残渣の添加量が上述した範囲よりも多い場合は、水洗残渣の含有量が下水汚泥の含有量や微生物の存在量に比べて過剰となり、pHが過剰に高い領域を局所的に且つ複数形成してしまい、好気発酵が促進されにくくなる。したがって、水洗残渣の含有量を上述の範囲に制御することによって、下水汚泥発酵原料全体のpHはほぼ変化していないが、有機物の分解に適するpHとなった微視的な領域が下水汚泥発酵原料中に均一に分布して形成されるので、下水汚泥の好気発酵を簡便に且つ効率良く進行させることができる。
【0027】
本発明の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥及び水洗残渣のみから構成されていてもよく、これに加えて、下水汚泥、水洗残渣以外の他の資材(以下、これを単に「資材」ともいう。)を更に含むことも好ましい。
【0028】
資材としては、例えば、下水汚泥発酵原料を発酵に供する際に安定的な好気発酵を促すための材料が挙げられ、具体的には、下水汚泥の含水率を低減させたり、下水汚泥発酵原料の発酵時における通気性を向上させたり、好気発酵に寄与する微生物の栄養源となる易分解性有機分を供給したりする等を目的とした材料が挙げられる。
【0029】
好気発酵に寄与する微生物の栄養源を下水汚泥発酵原料に供給するための資材として、下水汚泥発酵原料は栄養助材を更に含むことが好ましい。このような栄養助材の具体例としては、食品汚泥、廃白土、肉骨粉、製紙スラッジ、廃食油、生ごみ、し尿、家禽や家畜などの糞、堆肥等が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。また堆肥としては、市販品を用いてもよく、汚泥発酵物(本発明の下水汚泥発酵原料を好気発酵処理して生成された発酵物)を用いてもよい。
【0030】
これらのうち、栄養助材として肉骨粉を用いることが、下水汚泥と混合した際の栄養成分(油脂、たんぱく質、窒素等の成分)を好気性微生物の活動に最適な条件となるように簡便に調整しやすくして、下水汚泥の好気発酵を更に促進できる点で好ましい。また、栄養助材として堆肥を用いることが、堆肥中に存在する多様な好気性微生物を下水汚泥発酵原料中に十分に供給して、下水汚泥の好気発酵を更に促進できる点で好ましい。特に、好気発酵の進行を栄養面及び好気性微生物の多様性の面の双方から最適な範囲に簡便に調整しやすくして、下水汚泥の好気発酵をより一層促進させる観点から、栄養助材として肉骨粉及び堆肥を組み合わせて用いることも好ましい。
【0031】
下水汚泥発酵原料に栄養助材を更に含む場合、下水汚泥発酵原料における栄養助材の含有量は、下水汚泥100質量部に対して、好ましくは5質量部以上50質量部以下、より好ましくは10質量部以上35質量部以下、更に好ましくは15質量部以上25質量部以下である。このとき、基準となる下水汚泥及び栄養助材の質量はいずれも含水状態での質量とする。また栄養助材を複数種含む場合、栄養助材の含有量はその総量に基づく。このような範囲にあることによって、好気性微生物の活動に必要な栄養成分のバランスを簡便に調整しやすくできるので、下水汚泥の好気発酵を更に促進して、発酵の進行状態を高いレベルで安定化させることができる。
【0032】
下水汚泥発酵原料に栄養助材を更に含む場合、栄養助材の固形分発熱量が3000kcal/kg以上であるものを用いることが好ましく、3300kcal/kg以上であるものを用いることが更に好ましい。3500kcal/kg以上であるものを用いることが更に好ましい。この固形分発熱量は、栄養助材一種あたりの発熱量である。一般的に、固形分発熱量が高いことは、好気発酵の進行に有用な栄養成分の一つである有機分が多く含まれていることを意味するので、このような発熱量を有する栄養助材を用いることによって、好気発酵を更に促進させることができ、下水汚泥の発酵処理を効率よく行うことができる。このような発熱量を有する栄養助材としては、例えば肉骨粉、家禽や家畜などの糞、堆肥等が挙げられる。
【0033】
下水汚泥発酵原料の通気性を向上させて下水汚泥の好気発酵を促すための資材として、下水汚泥発酵原料は通気助材を更に含むことが好ましい。通気助材を含むことによって、下水汚泥発酵原料の圧縮の状態に依存せず、下水汚泥発酵原料の通気性を簡便に改善することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的に行うことができる。特に、例えば後述する縦型発酵槽を用いて好気発酵する場合、下水汚泥発酵原料の堆積に起因して発酵槽内の下水汚泥が圧縮され、下水汚泥の好気発酵が進行しづらくなるところ、通気助材を含むことによって、過度の圧縮状態となることを更に抑制しつつ通気性を更に確保することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的かつ効果的に進行させることができる点で有利である。
【0034】
通気助材としては、例えば、稲わら、もみがら、草木又はこれらの乾燥物若しくは破砕物などの有機系通気助材や、パーライト、ゼオライト、珪藻土、若しくはフライアッシュ等の石炭灰などの無機系通気助材等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて用いることができる。これらのうち、石炭灰を用いることによって、比較的微細な粒子であり且つCaOやMgO等の酸化物成分を含むことに起因して、下水汚泥発酵原料中の分散性が高く、フロック(粒子の凝集物)の形成を均一に行うことができるので、好気発酵時における通気性を更に高められる点で好ましい。
【0035】
下水汚泥発酵原料に通気助材を更に含む場合、下水汚泥発酵原料における通気助材の含有量は、下水汚泥100質量部に対して、好ましくは5質量部以上50質量部以下、より好ましくは5質量部以上30質量部以下、更に好ましくは5質量部以上15質量部以下である。このとき、基準となる下水汚泥及び通気助材の質量はいずれも含水状態での質量とする。通気助材を複数種含む場合、通気助材の含有量は総量に基づく。
このような範囲にあることによって、発酵開始から終了までの長い期間にわたって、下水汚泥発酵原料が過度の圧縮状態となることを抑制しつつ通気性を均一に確保することができ、下水汚泥の好気発酵を安定的かつ効果的に進行させることができる。特に、石炭灰は下水汚泥や水洗残渣と同様に産業廃棄物として扱われるところ、石炭灰を下水汚泥とともに再利用することによって、資源の有効利用及び環境保護に寄与するという利点も奏される。
【0036】
通気助材として石炭灰を用いる場合、石炭灰の嵩密度が好ましくは0.2g/cm3以上1.5g/cm3以下であり、且つブレーン比表面積が好ましくは1000cm2/g以上20000cm2/g以下である。かさ密度は、例えばJIS R1628に従って測定することができる。またブレーン比表面積は、例えばJIS R5201に従って測定することができる。
【0037】
上述した栄養助材及び通気助材等の各種資材の形状は特に制限はなく、例えば、固形状、顆粒状、粉末状、ペースト状、流動状、液状等の形状としてもよい。資材の合計総含有量は、用いられる材料の物性や目的に応じて適宜調整できるが、下水汚泥100質量部に対する資材の総質量部は、好ましくは1質量部以上180質量部以下、更に好ましくは5質量部以上100質量部以下とすることができる。このとき、基準となる下水汚泥の質量は、含水状態での質量とする。
【0038】
発酵初期の時点から好気発酵を安定的に進行させるために十分な水分量を確保する観点から、下水汚泥発酵原料全体の含水率は、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。含水率は、例えば市販のハロゲン水分計を用いて、120℃の加熱温度で乾燥したときの乾燥前後の質量の差に基づいて測定することができる。またこれに代えて、JIS A1203「土の含水比試験方法」に準じて測定することができる。下水汚泥発酵原料の含水率は、例えば、所望の含水率となるように原材料を選択したり、原材料又は下水汚泥発酵原料に対して、水を添加したりすることによって適宜調整することができる。
【0039】
このような材料を含む下水汚泥発酵原料は、例えば下水汚泥及び水洗残渣と、必要に応じて各種資材とを混合するか又は堆積させて、混合物又は堆積物として製造することができる。詳細には、下水汚泥および水洗残渣と、必要に応じて各種資材とを混合して下水汚泥発酵原料を得る方法、又は、屋内若しくは屋外で、各材料を任意の順序で堆積させた堆積物として下水汚泥発酵原料を得る方法等が挙げられる。あるいは、材料のうちいずれかを発酵槽等の容器に供給し、次いで他の原料を任意の順序で該容器内に供給して、該容器内で各原料を交互に若しくはランダムに堆積させた堆積物とし、これをそのままで、又はこれに加えて、該堆積物を発酵槽等の容器内で混合した混合物として、下水汚泥発酵原料を得る方法が挙げられる。
【0040】
上述の下水汚泥発酵原料は、堆積物及び混合物のいずれの形態であっても、下水汚泥の好気発酵処理の用途に適したものとなる。下水汚泥発酵原料は、これをそのまま屋外又は屋内に配するか、あるいはこれを堆積物又は混合物として容器内に収容して、下水汚泥の好気発酵処理を行うことができる。
【0041】
詳細には、下水汚泥発酵原料は、これを堆肥舎内に堆積させたり、これを開放系又は密閉系の発酵槽に収容したりして、下水汚泥を好気発酵させることができる。下水汚泥発酵原料を発酵槽に供給して好気発酵処理に供する場合、発酵槽内の撹拌設備の有無あるいは撹拌方法は問わず、発酵初期から長期間にわたり安定的に好気発酵を行い、下水汚泥を効率良く処理することができる。悪臭などの周囲環境への悪影響を低減する観点から、下水汚泥発酵原料中の下水汚泥を好気発酵処理させる場合、密閉系の発酵槽内で好気発酵させることが好ましい。密閉系とは、好気発酵時において固体及び液体の進入が防止され、且つ空気等の気体の進入が妨げられない反応系を指し、開放系とは、好気発酵時において固体、液体及び気体の進入が妨げられない反応系を指す。
【0042】
特に、本発明の下水汚泥発酵原料は、密閉可能且つ縦型の発酵槽(以下、これを「密閉式縦型発酵槽」ともいう。)を用いて、密閉状態で好気発酵させて下水汚泥を発酵処理する場合に、成分の配合やpH等の環境条件を発酵状態に応じて都度変更しなくとも、下水汚泥の好気発酵を長期間にわたり安定的に進行させることができるので好適である。つまり、下水汚泥を発酵処理する方法として、下水汚泥及び水洗残渣と、必要に応じて資材とを任意の順序で密閉式縦型発酵槽内に供給するか、あるいはこれらの原料を含む混合物を密閉式縦型発酵槽内に供給して、好気発酵させる工程を有することが好ましく、当該工程は密閉系で行われることが更に好ましい。密閉式縦型発酵槽は、該発酵槽内を撹拌する撹拌設備を備えて、発酵槽内に供給された各原料を連続的に又は断続的に撹拌してもよい。
【0043】
密閉式縦型発酵槽を用いて密閉状態で好気発酵させる場合、下水汚泥発酵原料の堆積に起因して発酵槽内の下水汚泥発酵原料が圧縮され、下水汚泥の好気発酵が進行しづらくなるところ、好ましくは石炭灰等の通気助材を含むことによって、発酵槽内の下水汚泥発酵原料が過度の圧縮状態となることを抑制しつつ通気性を確保することができ、非圧縮状態と圧縮状態とのいずれであっても、下水汚泥の好気発酵を安定的かつ効果的に進行させることができる点で有利である。
【0044】
図1には、本発明の下水汚泥発酵原料を発酵処理に好適に用いられる密閉式縦型発酵槽の一実施形態が示されている。密閉式縦型発酵槽10は、設置面に対して鉛直方向に延びており、下水汚泥および水洗残渣と、必要に応じて資材の混合物を収容可能な筒状の槽部20を有し、その上部に、該混合物を槽部20に投入可能な投入口30と、該槽部20の下部に、好気発酵処理された下水汚泥発酵原料を槽部20外へ排出可能な排出口40とを備えている。投入口30及び排出口40はともに開閉可能又は脱着可能な蓋状部材(図示せず)が設けられ、該蓋状部材を投入口30及び排出口40に装着することによって、発酵槽10における槽部20を密閉可能に構成されている。つまり、密閉式縦型発酵槽10は密閉系で下水汚泥の好気発酵を行って、下水汚泥を処理することができるものである。
【0045】
好気発酵効率をより向上させる観点から、密閉式縦型発酵槽10は、例えば槽部20の外周面に断熱材を配する等の方法によって、断熱構造を有していることが好ましい。また、密閉式縦型発酵槽10は、発酵槽内の原材料を混合して、成分の存在状態や通気性を均一にするための攪拌設備50を備えていることも好ましい。
図1に示す攪拌設備50は、例えば槽部20内に設けられた攪拌翼51と、該攪拌翼51に接続された攪拌軸52と、槽部20外に設けられたモータ(図示せず)とを備えている。攪拌翼51は、攪拌軸52を介して槽部20外に設けられたモータに接続されており、モータを駆動源として一定方向に回転するようになっている。攪拌設備50を更に備えることによって、下水汚泥発酵原料の好気発酵効率を一層向上させることができる。
【0046】
また、密閉式縦型発酵槽10は、空気や酸素などの酸素含有気体を発酵槽内に供給するための空気流通設備60と、槽部20内の気体を槽部20外へ排気可能な排気口70とを備えていることも好ましい。
図1に示す形態では、酸素含有気体Fは、槽部20外に設けられた空気流通設備60から、好ましくは中空の攪拌軸52及び攪拌翼51の各内部を介して、攪拌翼51の鉛直方向下方側に供給できるようになっている。攪拌翼51の鉛直方向下方側には、酸素含有気体Fを流通可能な気体流通孔(図示せず)を複数備えていることも好ましい。槽部20内に存在する酸素含有気体及び好気発酵によって生じたガスは、排気口70を介して、排気空気として槽部20の上部から排気される。
【0047】
酸素含有気体の供給効率を高めて、下水汚泥の好気発酵効率を高める観点から、酸素含有気体Fは槽部20の鉛直方向下方側から供給され、且つ、酸素含有気体F及びガスは、槽部20の鉛直方向上方側から排気されることが好ましい。下水汚泥発酵原料は、投入口から連続的又は断続的に発酵槽における槽部20内に投入し、下水汚泥発酵原料を発酵槽内で2週間程度好気発酵させ、その後、発酵した下水汚泥発酵原料を汚泥発酵物として排出口から排出する。
【0048】
下水汚泥発酵原料を好気発酵に供することで生成される汚泥発酵物は、例えば肥料、土壌改良材、園芸用土壌等の緑農地材料、セメントクリンカ原料、固形燃料等の用途に用いることができ、資源の有効利用が可能となる。特に、汚泥発酵物は、これを石灰石などの原料と混合してセメントクリンカ原料として使用することが、生成された汚泥発酵物の使用量を増加させて資源の有効利用に一層寄与できる点から好ましい。また、この汚泥発酵物は、下水汚泥発酵原料の調製にあたって、本発明の栄養助材として再利用することも可能であり、この点でも資源の有効利用に寄与する。
【0049】
また本発明では、産業廃棄物であるクリンカダストの水洗残渣を発酵原料の材料の一つとして利用していることから、水洗残渣の有効利用を促進し、環境負荷を低減できる点でも有利である。
【0050】
上述の説明から明らかなとおり、本明細書は、下水汚泥発酵原料だけでなく、下水汚泥発酵原料の製造方法、並びに下水汚泥発酵原料を用いた下水汚泥の処理方法も開示する。
下水汚泥の処理方法は、下水汚泥及びクリンカダストの水洗残渣を含む下水汚泥発酵原料を好気発酵させて、該下水汚泥を処理する工程を備えるものである。本処理方法に用いられる下水汚泥発酵原料に含まれる下水汚泥、水洗残渣、並びに必要に応じて含まれる栄養助材及び通気助材の種類及びその含有量に関しては、上述した説明が適宜適用される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下に示す原料における含水率の測定は、ハロゲン水分計(アズワン株式会社製HM1105)を用いて120℃の加熱温度で乾燥したときの質量差から算出した。また、以下に示す発熱量は、固形分発熱量を示す。表中、「‐」で示す欄は非含有であるか、又は測定不能であったことを示す。
【0052】
〔実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-3〕
[下水汚泥発酵原料の調製]
以下の(1)~(3)に示す下水汚泥及び水洗残渣と、資材として栄養助材(堆肥)を以下の表1に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水量が57.4質量%~65.6質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。
【0053】
(1)下水汚泥:下水処理場から入手した未消化汚泥(含水率84.36質量%)
(2)水洗残渣:セメントキルンの塩素バイパス設備から採取したダストを水洗したダスト粒子(宇部興産株式会社製、含水率26.7質量%、遊離酸化カルシウム含有量16.2質量%、平均粒子径1.6mm)
(3)堆肥:農業用堆肥市販品(含水率28質量%)
【0054】
[好気発酵試験]
実施例及び比較例の下水汚泥発酵原料を好気発酵処理に供して、下水汚泥の好気発酵の進行度合を試料の温度変化として評価した。発酵容器として500mL容量のポリビーカーと、該ビーカーの側面および底面を覆う簡易断熱容器を用いた。これらの配置位置及び寸法は、
図2(a)に示すとおりとした。各実施例及び比較例の下水汚泥発酵原料を、ポリビーカーへ約400mLずつ収容し、試料を調製した。
【0055】
次いで、各試料を収容したポリビーカーを
図2(b)に示すように断熱容器に設置し、ポリビーカー内の試料中心部にT型熱電対(株式会社チノー製)を挿入した。熱電対にデータロガーを接続し、試料の温度を連続的に計測可能な状態で好気発酵に供した。これらの実験は20℃に設定した室内で、12日間、16日間又は20日間行った。好気発酵の進行度合は、測定された最高温度をピーク温度とし、ピーク温度と、ピーク温度に至るまでに要した日数にて評価した。実験開始温度(20℃)よりもピーク温度が高く且つピーク温度に至るまでに要した日数が短いほど、下水汚泥の好気発酵が速やかに効率的に進行していることを意味する。結果を以下の表1に示す。
【0056】
【0057】
表1に示すように、下水汚泥および水洗残渣を含み、かつ水洗残渣含有量を所定の範囲とした実施例1-1~1-2の下水汚泥発酵原料は、各比較例と比較してピーク温度が高く、かつピーク温度の到達所要日数が短いことが判る。したがって、実施例の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥に特定の材料を添加するという簡便な操作で、安定的に下水汚泥の好気発酵を早期かつ効率よく進行させることができる。
なお比較例1-2及び1-3の下水汚泥発酵原料は、観察期間中において、発酵原料の温度が実験開始温度(20℃)と同程度に維持され、明確なピーク温度が観察されなかった。したがって、比較例1-2及び1-3の組成を有する下水汚泥発酵原料は好気発酵が進行していないことも判る。
【0058】
〔実施例2-1~2-3および比較例2-1~2-3〕
以下の実施例および比較例は、栄養助材および通気助材の有無による好気発酵への影響を評価したものである。なお実施例2-1~2-3および比較例2-1~2-3は、上述した実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-3と実験条件が異なるので、結果の相互比較は行うことはできない。
【0059】
実施例1-1~1-2で用いた上述の材料(1)~(3)に加えて、資材としての栄養助材((4)肉骨粉)および通気助材((5)石炭灰)とを以下の表1に示す含有割合でそれぞれ混合して、含水量が58.6質量%~68.2質量%の下水汚泥発酵原料を調製した。この発酵原料を、実施例1-1と同様に好気発酵試験を行った。結果を以下の表2に示す。
【0060】
(4)肉骨粉:肥料用肉骨粉(含水率0.7質量%、発熱量3600kcal/kg)
(5)石炭灰:石炭火力自家発電所より採取した石炭灰(宇部興産株式会社製、含水率0質量%)
【0061】
【0062】
表2に示すように、下水汚泥および水洗残渣を含み、かつ水洗残渣含有量を所定の範囲とし、さらに栄養助材や通気助材を含む実施例2-1~2-3の下水汚泥発酵原料は、比較例と比較してピーク温度が高く、かつピーク温度の到達所要日数が短いことが判る。したがって、実施例の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥に特定の材料を添加するという簡便な操作で、安定的に下水汚泥の好気発酵を早期かつ効率よく進行させることができる。
なお比較例2-1~2-3の下水汚泥発酵原料は、観察期間中において、発酵原料の温度が実験開始温度(20℃)と同等に維持され、明確なピーク温度が観察されなかった。したがって、比較例2-1~2-3の組成を有する下水汚泥発酵原料は好気発酵が進行していないことも判る。
【0063】
以上のことから、実施例の下水汚泥発酵原料は、下水汚泥に特定の材料を添加するという簡便な操作で、安定的に下水汚泥の好気発酵を早期かつ効率よく進行させることができる。