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特許7569650エッチング方法、および、エッチング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】エッチング方法、および、エッチング装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20241010BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
H01L21/302 101F
H05H1/46 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020167050
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059358
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】橋本 篤明
(72)【発明者】
【氏名】隣 嘉津彦
【審査官】原島 啓一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-160962(JP,A)
【文献】特開2005-203408(JP,A)
【文献】特開2015-015315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/86
H05H 1/00-1/54
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象膜を備えた複数の基板を前記基板間に隙間を空けて積み重ねた状態で同時に加熱すること、および、
前記基板の外周から前記基板の中心に向けて前記隙間のなかにエッチングガスとエッチングを阻害する吸着ガスとを供給して前記吸着ガスが前記基板上に吸着する位置を温度により変化させ、エッチング速度が高くなる位置を変え、前記複数の基板における対象膜を同時にエッチングすること、を含むエッチング方法であって、
前記エッチングすることは、
前記基板の径方向における第1位置のエッチング速度が最も高くなる第1温度でエッチングすることと、
前記基板の前記径方向における第2位置のエッチング速度が最も高くなる第2温度でエッチングすることと、を含み、前記第2位置は、前記第1位置とは異なる位置であり、前記第2温度は、前記第1温度とは異なる温度である
エッチング方法。
【請求項2】
前記第1温度でのエッチングと前記第2温度でのエッチングとの間に前記第1温度から前記第2温度に前記基板の温度を変えることを含み、
前記基板の温度を変えることは、前記エッチングガスと前記吸着ガスとの供給を停止して前記隙間のなかに不活性ガスを供給することを含む
請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記エッチングすることは、前記第1温度でのエッチングと前記第2温度でのエッチングとを交互に繰り返すことを含む
請求項1または2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記第1位置は、前記基板の前記中心であり、
前記第2位置は、前記基板の前記外周である
請求項1から3のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記第1温度は、前記基板の径方向において前記第2位置のエッチング速度が最も低くなる温度であり、
前記第2温度は、前記基板の径方向において前記第1位置のエッチング速度が最も低くなる温度である
請求項1から4のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記エッチングすることは、
前記基板の径方向において第3位置のエッチング速度が最も高くなる第3温度でエッチングすることをさらに含み、前記第3位置は、前記第1位置および前記第2位置とは異なる位置であり、前記第3温度は、前記第1温度および前記第2温度とは異なる温度である
請求項1から5のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項7】
対象膜を備えた複数の基板を前記基板間に隙間を空けて積み重ねた状態で支持する支持部と、
前記複数の基板を同時に加熱する加熱部と、
前記基板の外周から前記基板の中心に向けて前記隙間のなかにエッチングガスとエッチングを阻害する吸着ガスとを供給する供給部と、
前記加熱部の駆動と前記供給部の駆動とを制御する制御部と、を備えたエッチング装置であって、
前記制御部は、
前記加熱部の駆動を制御して、前記基板の径方向における第1位置のエッチング速度が最も高くなる第1温度に前記基板を加熱した状態で、前記供給部の駆動を制御して、前記エッチングガスと前記吸着ガスとを供給して前記吸着ガスが前記基板上に吸着する位置を温度により変化させ、エッチング速度が高くなる位置を変え、前記複数の基板における前記対象膜を同時にエッチングし、
前記加熱部の駆動を制御して、前記基板の前記径方向における第2位置のエッチング速度が最も高くなる第2温度に前記基板を加熱した状態で、前記供給部の駆動を制御して、前記エッチングガスと前記吸着ガスとを供給して前記複数の基板における前記対象膜を同時にエッチングし、
前記第2位置は、前記第1位置とは異なる位置であり、前記第2温度は、前記第1温度とは異なる位置である
エッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング方法、および、エッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板の表面に形成された自然酸化膜をエッチングによって除去する酸化膜除去装置が知られている。酸化膜除去装置は、マイクロ波を用いて生成したプラズマ中に含まれるラジカルを用いて自然酸化膜のエッチャントを生成し、生成されたエッチャントによって自然酸化膜をシリコンを含む錯体に変える。錯体の熱分解温度は、自然酸化膜の熱分解温度よりも低い。そして、酸化膜除去装置は、錯体とともにシリコン基板を加熱することによって、錯体をシリコン基板上から気化させる。これにより、酸化膜除去装置は、自然酸化膜をシリコン基板から除去する。酸化膜除去装置は、一度に複数のシリコン基板を処理することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-9739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、エッチャントを用いた熱反応を複数の基板において同時に進めるエッチング方法は、自然酸化膜の除去技術として広く普及している。近年では、新たな適用対象としてポリシリコン膜が検討されはじめている。一方で、複数の基板をまとめて処理するエッチング方法では、エッチングの均一性を基板面内で高めるという要請が適用対象の広がりとともに強まっている。
【0005】
本発明は、基板の面内におけるエッチングの均一性を向上可能にしたエッチング方法、および、エッチング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのエッチング方法は、対象膜を備えた複数の基板を前記基板間に隙間を空けて積み重ねた状態で同時に加熱すること、および、前記基板の外周から前記基板の中心に向けて前記隙間のなかにエッチングガスと吸着ガスとを供給して前記複数の基板における対象膜を同時にエッチングすることを含む。前記エッチングすることは、前記基板の径方向における第1位置のエッチング速度が最も高くなる第1温度でエッチングすることと、前記基板の前記径方向における第2位置のエッチング速度が最も高くなる第2温度でエッチングすることと、を含む。前記第2位置は、前記第1位置とは異なる位置であり、前記第2温度は、前記第1温度とは異なる温度である。
【0007】
上記課題を解決するためのエッチング装置は、対象膜を備えた複数の基板を前記基板間に隙間を空けて積み重ねた状態で支持する支持部と、前記複数の基板を同時に加熱する加熱部と、前記基板の外周から前記基板の中心に向けて前記隙間のなかにエッチングガスと吸着ガスとを供給する供給部と、前記加熱部の駆動と前記供給部の駆動とを制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記加熱部の駆動を制御して、前記基板の径方向における第1位置のエッチング速度が最も高くなる第1温度に前記基板を加熱した状態で、前記供給部の駆動を制御して、前記エッチングガスと前記吸着ガスとを供給して前記複数の基板における前記対象膜を同時にエッチングし、前記加熱部の駆動を制御して、前記基板の前記径方向における第2位置のエッチング速度が最も高くなる第2温度に前記基板を加熱した状態で、前記供給部の駆動を制御して、前記エッチングガスと前記吸着ガスとを供給して前記複数の基板における前記対象膜を同時にエッチングする。前記第2位置は、前記第1位置とは異なる位置であり、前記第2温度は、前記第1温度とは異なる位置である。
【0008】
上記エッチング方法およびエッチング装置によれば、基板外周から基板中心に向けて吸着ガスが供給される場合、吸着ガスが吸着しやすい低温では、吸着ガスの到達する確率が高い基板外周で吸着ガスが吸着しやすく、反対に、吸着ガスが吸着しにくい高温では、吸着ガスが基板中心まで到達しやすく、これにより、基板中心で吸着ガスが吸着しやすくなる。基板外周から基板中心に向けて供給されたエッチングガスは、吸着ガスの吸着していない表面で熱反応を進行させる。結果として、基板の温度が低温と高温とに変わることによって、エッチングの進みやすい部分の位置が基板の径方向で変わることになる。そして、上記エッチング方法によれば、第1温度のエッチングが基板面内の第1位置で最も進み、また第2温度のエッチングが第1位置とは異なる第2位置で最も進むことになる。そのため、基板の径方向においてエッチングの進む度合いが偏ることを抑え、ひいては、基板面内におけるエッチングの均一性を高めることが可能となる。
【0009】
上記エッチング方法において、前記第1温度でのエッチングと前記第2温度でのエッチングとの間に前記第1温度から前記第2温度に前記基板の温度を変えることを含み、前記基板の温度を変えることは、前記エッチングガスと前記吸着ガスとの供給を停止して前記隙間のなかに不活性ガスを供給することを含んでもよい。
【0010】
上記エッチング方法によれば、第1温度から第2温度に基板の温度を変える際に、基板間の隙間に対して不活性ガスを供給するから、不活性ガスが供給されない場合に比べて、基板の温度が第1温度から第2温度に変わりやすくなり、かつ、基板間での温度のばらつきが抑えられる。
【0011】
上記エッチング方法において、前記エッチングすることは、前記第1温度でのエッチングと前記第2温度でのエッチングとを交互に繰り返すことを含んでもよい。このエッチング方法によれば、第1温度でのエッチングと第2温度でのエッチングとを繰り返すことによって、基板の面内におけるエッチングの均一性を高めつつ、繰り返しの回数によって、対象膜の厚さを調整することが可能である。
【0012】
上記エッチング方法において、前記第1位置は、前記基板の前記中心であり、前記第2位置は、前記基板の前記外周であってもよい。このエッチング方法によれば、基板の中心においてエッチング速度が最も高い状態でのエッチングと、基板の外周においてエッチング速度が最も高い状態でのエッチングとが行われるから、基板の面内におけるエッチングの均一性を寄り高めることができる。
【0013】
上記エッチング方法において、前記第1温度は、前記基板の径方向において前記第2位置のエッチング速度が最も低くなる温度であり、前記第2温度は、前記基板の径方向において前記第1位置のエッチング速度が最も低くなる温度であってよい。
【0014】
上記エッチング方法によれば、第1温度でのエッチング、および、第2温度でのエッチングでは、エッチング速度が最も高い位置と、エッチング速度が最も低い位置とが互いに入れ替わるから、一方の温度においてエッチング速度が最も高い位置と、他方の温度においてエッチング速度が最も低い位置が異なる場合に比べて、基板の面内におけるエッチングの均一性が高まる。
【0015】
上記エッチング方法において、前記エッチングすることは、前記基板の径方向において第3位置のエッチング速度が最も高くなる第3温度でエッチングすることをさらに含み、前記第3位置は、前記第1位置および第2位置とは異なる位置であり、前記第3温度は、前記第1温度および前記第2温度とは異なる温度であってよい。
【0016】
上記エッチング方法によれば、径方向の3箇所の各々においてエッチング速度が最も高くなる状態でエッチングを行うから、基板の面内におけるエッチングの均一性をさらに高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態におけるエッチング装置の構成を示す装置構成図。
図2図1が示すエッチング装置が備える処理チャンバーの構成を示す装置構成図。
図3】一実施形態におけるエッチング方法を説明するためのタイミングチャート。
図4】試験例におけるエッチングの温度とエッチング量の面内分布との関係を示すグラフ。
図5】試験例1におけるエッチング量の面内分布を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から図5を参照して、エッチング方法およびエッチング装置の一実施形態を説明する。以下では、エッチング装置、エッチング方法、および、試験例を順に説明する。
【0019】
[エッチング装置]
図1および図2を参照して、エッチング装置を説明する。
図1が示すエッチング装置10は、複数の基板を同時にエッチングすることが可能である。エッチング装置10は、処理チャンバー11と搬出入チャンバー12とを備えている。処理チャンバー11は、エッチング対象である対象膜を備えた基板に対するエッチングを行う。搬出入チャンバー12は、処理前の基板を搬出入チャンバー12の外部から搬入し、かつ、処理後の基板を搬出入チャンバー12の外部に搬出する。
【0020】
処理チャンバー11と搬出入チャンバー12との間には、ゲートバルブ13が位置している。ゲートバルブ13は開放された状態と閉鎖された状態とを有する。ゲートバルブ13が開放されることによって、処理チャンバー11が区画する空間が、搬出入チャンバー12が区画する空間に繋がる。これに対して、ゲートバルブ13が閉鎖されることによって、処理チャンバー11が区画する空間が、搬出入チャンバー12が区画する空間から隔てられる。
【0021】
処理チャンバー11は、第1加熱部11A、排気部11B、および、第2加熱部11Cを備えている。第1加熱部11Aは、処理チャンバー11内に位置する複数の基板を同時に加熱する。第1加熱部11Aは、例えば、処理チャンバー11が区画する空間の温度を所定のチャンバー温度に調整することによって、空間内に位置する基板の温度を所定の基板温度に調整する。チャンバー温度と基板温度とは互いに同じ温度でもよいし、互いに異なる温度でもよい。排気部11Bは、処理チャンバー11内を所定の圧力に減圧する。第2加熱部11Cは、第1加熱部11Aと同様に、処理チャンバー11内に位置する複数の基板を同時に加熱する。第2加熱部11Cは、例えば、第1加熱部11Aに比べて局所的な加熱が可能である。また例えば、第2加熱部11Cは、第1加熱部11Aに比べて、基板をより高い温度まで加熱することが可能である。
【0022】
処理チャンバー11は、供給部を備えている。供給部は、基板の外周から基板の中心に向けて基板間の隙間のなかにエッチングガスと吸着ガスとを供給する。本実施形態において、供給部は、例えば以下の機能部を備えている。すなわち、供給部は、エッチングガス供給部21、および、吸着ガス供給部22を備えている。
【0023】
エッチングガス供給部21は、放電用ガス供給部21Aと非放電用ガス供給部21Bとを備えている。放電用ガス供給部21Aは、基板が備える対象膜のエッチングに用いられるガスであって、かつ、後述する励起部での放電に用いられるガスである。放電用ガスは、例えば、アンモニア(NH)ガス、および、窒素(N)ガスの混合ガスである。非放電用ガス供給部21Bは、励起部での放電に用いられないガスである。すなわち、非放電用ガス供給部21Bが供給するガスは、励起されない状態で処理チャンバー11内に供給される。非放電用ガスは、例えば、三フッ化窒素(NF)ガスである。なお、非放電用ガスは、少なくともフッ素(F)を含むガスであってよい。各供給部21A,21Bは、例えばマスフローコントローラーであり、各供給部21A,21Bが供給するガスを貯蔵するボンベに接続されている。本実施形態では、放電用ガスと非放電用ガスとがエッチングガスに含まれる。
【0024】
吸着ガス供給部22は、基板が有する対象膜に吸着することが可能なガスを処理チャンバー11内に供給する。吸着ガスは、対象膜をエッチングする機能を有しない。吸着ガスは、エッチングガスを失活させる機能をさらに有してもよい。吸着ガスは、例えばNHガスである。吸着ガス供給部22は、例えばマスフローコントローラーであり、吸着ガス供給部22が供給するガスを貯蔵するボンベに接続されている。
【0025】
供給部は、不活性ガス供給部23を備えている。不活性ガス供給部23は、基板を加熱するための不活性ガスを処理チャンバー11内に供給する。不活性ガスは、例えば、Nガス、または、アルゴン(Ar)ガスなどであってよい。本実施形態において、不活性ガス供給部23と第1加熱部11Aとが、複数の基板を加熱する加熱部に含まれる。
【0026】
放電用ガス供給部21Aは、配管によって処理チャンバー11に接続されることによって、放電用ガスの励起によって生じた励起種を含むガスを基板の外周に供給する。非放電用ガス供給部21B、吸着ガス供給部22、および、不活性ガス供給部23は、共通する1つの配管であって、かつ、放電用ガス供給部21Aを処理チャンバー11に接続する配管とは異なる配管によって、処理チャンバー11に接続されてよい。あるいは、各供給部21B,22,23は、個別の配管によって処理チャンバー11に接続されてもよい。
【0027】
エッチング装置10は、励起部24を備えている。励起部24は、上述した放電用ガスが処理チャンバー11内に供給される前に、放電用ガスを励起する。励起部24は、放電管24A、導波管24B、および、マイクロ波源24Cを備えている。放電管24Aには、導波管24Bを介してマイクロ波源24Cが発振したマイクロ波が照射される。放電用ガスが放電管24Aに供給された状態で、放電管24Aにマイクロ波が照射されることによって、放電用ガスが励起される。すなわち、放電用ガスからプラズマが生成される。放電用ガスが上述したNHおよびNガスの混合ガスである場合には、放電用ガスの励起によって、H、NH、NH 、および、N が生成される。
【0028】
搬出入チャンバー12には、冷却用ガス供給部12Aが接続されている。冷却用ガス供給部12Aは、処理後の基板を冷却するための冷却用ガスを搬出入チャンバー12内に供給する。冷却用ガスは、例えばNガスであってよい。冷却用ガス供給部12Aは、例えばマスフローコントローラーであり、冷却用ガスを貯蔵するボンベに接続されている。
【0029】
エッチング装置10は、制御部10Cをさらに備えている。制御部10Cは、第1加熱部11Aの駆動と、供給部の駆動とを制御する。なお、制御部10Cは、第1加熱部11Aおよび供給部に限らず、上述した他の機能部の駆動を制御することによって、エッチング装置10による対象膜のエッチングを可能にする。
【0030】
制御部10Cは、加熱部の駆動を制御して、基板の径方向における第1位置のエッチング速度が最も高くなる第1温度に基板を加熱した状態で、供給部の駆動を制御して、エッチングガスと吸着ガスとを供給して複数の基板における対象膜を同時にエッチングする。第1温度での対象膜のエッチングが、第1エッチング工程である。また、制御部10Cは、加熱部の駆動を制御して、基板の径方向における第2位置のエッチング速度が最も高くなる第2温度に基板を加熱した状態で、供給部の駆動を制御して、エッチングガスと吸着ガスとを供給して複数の基板における対象膜を同時にエッチングする。第2温度での対象膜のエッチングが、第2エッチング工程である。
【0031】
制御部10Cは、記憶部10CMを備えている。記憶部10CMは、基板内における特定の位置と、当該位置におけるエッチング速度との関係を、基板の温度ごとに示すデータを記憶している。データでは、各基板の温度に対して、最もエッチング速度が高い基板内の位置と、最もエッチング速度が低い基板内の位置とが関連付けられている。例えば、基板は円形状を有し、基板内の位置は基板の径方向における位置である。
【0032】
図2は、処理チャンバー11の構造を示している。なお、図2では、処理チャンバー11が備える第1加熱部11A、排気部11B、および、第2加熱部11C以外の機能部を説明する便宜上、これらの図示が省略されている。
【0033】
図2が示すように、エッチング装置10は、基板Sを支持する支持部10Aを備えている。支持部10Aは、複数の基板Sを基板S間に隙間Gを空けて積み重ねた状態で支持する。なお、図2では、支持部10Aが処理チャンバー11内に位置しているが、エッチング装置10は、搬出入チャンバー12と処理チャンバー11との間において支持部10Aを移動させることが可能な機構を備えている。これにより、エッチング装置10は、ゲートバルブ13が開放されている状態において、支持部10Aを搬出入チャンバー12から処理チャンバー11に、もしくは、処理チャンバー11から搬出入チャンバー12に移動させる。
【0034】
上述したように、基板Sは例えば円形状を有している。例えば、基板Sはシリコン基板であり、基板Sが備える対象膜はポリシリコン膜である。複数の基板Sは、複数の基板Sが積み重なる方向において隙間Gを空けた状態で支持部10Aによって支持されている。隙間Gは、例えば10mm以上30mm以下である。
【0035】
処理チャンバー11の外周面には、シャワーヘッド11Dが取り付けられている。シャワーヘッド11Dは、処理チャンバー11の外周面に取り付けられた面に複数の開口を有している。処理チャンバー11の外周面は、シャワーヘッド11Dの開口と対向する位置開口を有している。シャワーヘッド11Dには、放電用ガス供給部21Aが放電管24Aを介して接続されている。なお、図2が示す例では、供給部が2つの放電用ガス供給部21Aを備え、かつ、各放電用ガス供給部21Aが異なる放電管24Aによってシャワーヘッド11Dに対して別々に接続されている。処理チャンバー11には、シャワーヘッド11Dを介してH、NH、NH 、および、N が供給される。
【0036】
上述したように、供給部21B,22,23は、放電用ガス供給部21Aが接続された配管とは異なる配管によって、処理チャンバー11に接続されている。当該配管は、支持部10Aが処理チャンバー11内に配置されている状態において、基板Sが積み重なる方向から見て、支持部10Aが位置する領域の外部に接続される。
【0037】
処理チャンバー11は、回転部11Eを備えている。回転部11Eは、支持部10Aが処理チャンバー11内に位置している場合に、支持部10Aに接続することが可能である。回転部11Eは、支持部10Aに接続した状態において、支持部10Aの中心軸を回転軸として支持部10Aを回転させる。回転部11Eは、対象膜に対するエッチングの開始から終了までにわたって、支持部10Aを回転させる。そのため、基板Sでは、基板Sの径方向における所定の位置でのエッチング速度は、基板Sの周方向においてほぼ一定である。
【0038】
処理チャンバー11は、温度測定部11Fを備えている。温度測定部11Fは、処理チャンバー11内の温度を測定する。温度測定部11Fは、制御部10Cに接続されている。温度測定部11Fによる温度の測定結果は、制御部10Cに入力される。
【0039】
制御部10Cは、例えば、温度測定部11Fによる第1エッチング工程の測定結果に基づいて第2エッチング工程における基板の温度を定める。例えば、制御部10Cは、記憶部10CMに記憶されたデータを用いて、第1エッチング工程での測定結果においてエッチング速度が最も低い基板内の位置を特定し、特定された基板内の位置におけるエッチング速度が最も高くなる温度を第2エッチング工程における基板の温度として特定する。特定された基板内の位置におけるエッチングの速度が最も高くなる温度が複数存在する場合には、制御部10Cは、記憶部10CMに記憶されたデータを用いて、第1エッチング工程の測定結果においてエッチング速度が最も低い基板内の位置を特定する。そして、制御部10Cは、特定された基板内の位置におけるエッチング速度が最も高くなる温度を第2エッチング工程における基板の温度に特定する。
【0040】
[エッチング方法]
図3を参照してエッチング方法を説明する。
エッチング方法は、対象膜を備えた複数の基板Sを基板S間に隙間Gを空けて積み重ねた状態で同時に加熱すること、および、基板Sの外周から基板Sの中心に向けて隙間Gのなかにエッチングガスと吸着ガスとを供給して複数の基板Sにおける対象膜を同時にエッチングすることを含む。エッチングすることは、基板Sの径方向における第1位置のエッチング速度が最も高くなる第1温度でエッチングすることと、基板Sの径方向における第2位置のエッチング速度が最も高くなる第2温度でエッチングすることとを含む。以下、図3を参照して、エッチング方法を詳しく説明する。
【0041】
エッチング装置10において複数の基板Sがエッチングされる際には、まず、複数の基板Sが、1つの基板Sと当該基板Sと隣り合う基板Sとの間に隙間Gが形成されるように、支持部10Aに配置される。支持部10Aに対する基板Sの配置は、搬出入チャンバー12内に位置する支持部10Aに対して行われてもよいし、搬出入チャンバー12外に位置する支持部10Aに対して行われてもよい。支持部10Aが処理チャンバー11に搬入される前に、第1加熱部11Aは、処理チャンバー11の加熱を開始する。
【0042】
次いで、複数の基板Sを支持した支持部10Aが、搬出入チャンバー12から処理チャンバー11に搬入される。この際、処理チャンバー11内の温度は、基板Sの温度よりも高い。支持部10Aが処理チャンバー11内における所定の位置に設置され、かつ、支持部10Aが回転部11Eに接続された後、排気部11Bが、処理チャンバー11内を排気する。この際に、ゲートバルブ13は閉じている。そして、回転部11Eが、支持部10Aを回転させる。
【0043】
図3が示すように、不活性ガス供給部23がNガスを処理チャンバー11内への供給を開始することによって、各基板Sに対するNガスの吹き付けが開始される(タイミングt0)。不活性ガス供給部23は、所定の時間が経過する時点(タイミングt1)までNガスの供給を継続する。なお、不活性ガス供給部23がNガスを供給する期間は、例えば、基板Sの目標温度である第1温度に応じて予め実験などによって定められる。タイミングt0からタイミングt1までの期間が、第1加熱工程である。
【0044】
不活性ガス供給部23は、所定の時間が経過した時点においてNガスの供給を停止する。同時に、エッチングガス供給部21がエッチングガスの供給を開始し、かつ、吸着ガス供給部22が吸着ガスの供給を開始する(タイミングt1)。エッチングガス供給部21のうち、放電用ガス供給部21Aは、NHガスとNガスとの混合ガスを供給する。非放電用ガス供給部21Bは、NFガスを供給する。吸着ガス供給部22は、NHガスを供給する。この際に、各ガスは、基板Sの外周から基板Sの中心に向けて流れる。
【0045】
各供給部21,22がガスの供給を開始した時点から所定の時間が経過した時点において、マイクロ波源24Cが、導波管24Bを通じた放電管24Aに対するマイクロ波の照射を開始する(タイミングt2)。放電管24Aに供給された放電用ガス供給部21Aからプラズマの生成が開始され、処理チャンバー11に対するH、NH、NH 、および、N の供給が開始される。これにより、第1温度でのポリシリコン膜のエッチングが開始される。なお、タイミングt1からタイミングt2までの期間の長さは、例えば、Nガスが処理チャンバー11内から排気されるまでに要する時間、または、各供給部21,22から供給されるガスの流量が安定するまでに要する時間などによって定められる。
【0046】
第1エッチング工程において設定される第1温度は、第2温度よりも低い温度である。また、第1温度は、処理チャンバー11の温度よりも低い温度である。基板Sの温度が比較的低い場合には、基板Sに付着したNH分子に対して基板Sから熱エネルギーが与えられにくいため、基板Sに対してNH分子が吸着しやすい。特に、NHガスの供給元からの距離が小さい基板Sの外周において、NH分子の吸着量が増大する。これによって、基板Sの外周におけるエッチング速度は、基板Sの中心におけるエッチング速度よりも大幅に低い。
【0047】
マイクロ波の供給が開始された時点から所定の時間が経過した時点において、マイクロ波源24Cがマイクロ波の照射を停止し、かつ、各供給部21,22がガスの供給を停止する(タイミングt3)。なお、タイミングt2からタイミングt3までの期間の長さは、例えば、第1エッチング工程における対象膜のエッチング量に応じて定められる。
【0048】
マイクロ波の供給が停止した時点から所定の時間が経過した時点において、不活性ガス供給部23が、Nガスの供給を開始する(タイミングt4)。これにより、Nガスが各基板Sに吹き付けられることによって、基板Sの温度が上昇する。不活性ガス供給部23は、所定の時間が経過する時点(タイミングt5)までのNガスの供給を継続する。なお、不活性ガス供給部23がNガスを供給する期間は、例えば、基板Sの目標温度である第2温度に応じて予め実験などによって定められる。第2温度は、処理チャンバー11の温度よりも低い温度である。タイミングt4からタイミングt5までの期間が、第2加熱工程である。
【0049】
このように、本開示のエッチング方法は、第1温度でのエッチングと第2温度でのエッチングとの間に第1温度から前記第2温度に前記基板の温度を変えることを含む。基板Sの温度を変えることは、エッチングガスと吸着ガスとの供給を停止して隙間Gのなかに不活性ガスを供給することを含む。
【0050】
これにより、第1温度から第2温度に基板の温度を変える際に、基板S間の隙間Gに対して不活性ガスを供給するから、不活性ガスが供給されない場合に比べて、基板Sの温度が第1温度から第2温度に変わりやすくなり、かつ、基板S間での温度のばらつきが抑えられる。
【0051】
なお、タイミングt3からタイミングt4までの期間の長さは、例えば、タイミングt3まで処理チャンバー11に供給されていたエッチングガスおよび吸着ガスが処理チャンバー11から排気されるまでに要する時間に設定される。
【0052】
不活性ガス供給部23は、所定の時間が経過した時点においてNガスの供給を停止する。同時に、エッチングガス供給部21がエッチングガスの供給を開始し、かつ、吸着ガス供給部22が吸着ガスの供給を開始する(タイミングt5)。各供給部21,22は、タイミングt1からタイミングt3の間に供給したガスと同一のガスを供給する。
【0053】
各供給部21,22がガスの供給を開始した時点から所定の時間が経過した時点において、マイクロ波源24Cが、導波管24Bを通じた放電管24Aに対するマイクロ波の照射を開始する(タイミングt6)。そのため、タイミングt2と同様に、処理チャンバー11に対するH、NH、NH 、および、N の供給が開始される。これにより、第2温度でのポリシリコン膜のエッチングが開始される。なお、タイミングt5からタイミングt6までの期間の長さは、タイミングt1からタイミングt2までの期間の長さと同様の方法によって定められてよい。
【0054】
マイクロ波の供給が開始された時点から所定の時間が経過した時点において、マイクロ波源24Cがマイクロ波の照射を停止し、かつ、各供給部21,22がガスの供給を停止する(タイミングt7)。なお、タイミングt6からタイミングt7までの期間の長さは、例えば、第2エッチング工程における対象膜のエッチング量に応じて定められる。その後、タイミングt8において、第2加熱部11Cが基板Sの加熱を開始し、所定の期間にわたって基板Sの加熱が行われる。これにより、基板Sに付着した副生成物が除去される。
【0055】
第2エッチング工程において設定される第2温度は、第1温度よりも高い温度である。基板Sの温度が比較的高い場合には、基板Sに付着したNH分子に対して基板Sから熱エネルギーが与えられやすいから、基板Sに対してNH分子が吸着しにくい。基板Sの外周においてNH分子の吸着量が減少して、基板Sの外周から供給されるエッチングガスが基板Sの外周において反応することによって、基板Sの中心におけるエッチング速度よりも大幅に高くなる。これによって、エッチングガスの供給元からの距離が小さい基板Sの外周でのエッチング速度が、基板Sの中心におけるエッチング速度よりも大幅に高くなる。
【0056】
このように、本開示のエッチング方法によれば、基板Sの外周から基板Sの中心に向けて吸着ガスが供給される場合、吸着ガスが吸着しやすい低温では、吸着ガスの到達する確率が高い基板Sの外周において吸着ガスが吸着しやすい。反対に、吸着ガスが吸着しにくい高温では、吸着ガスが基板Sの中心まで到達しやすく、これにより、基板Sの中心において吸着ガスが吸着しやすくなる。基板Sの外周から基板Sの中心に向けて供給されたエッチングガスは、対象膜の表面のうち、吸着ガスの吸着していない部分において熱反応を進行させる。結果として、基板Sの温度が低温と高温とに設定されることによって、エッチングの進みやすい部分の位置が基板Sの径方向において変わる。そして、第1温度でのエッチングが基板Sの面内における第1位置で最も進み、また、第2温度でのエッチングが第1位置とは異なる第2位置で最も進むことになる。そのため、基板Sの径方向においてエッチングの進む度合いが偏ることを抑え、ひいては、基板Sの面内におけるエッチングの均一性を高めることが可能である。
【0057】
第1エッチング工程でのエッチング、および、第2エッチング工程でのエッチングは、反応律速領域、すなわち、基板Sの温度を上げることによってエッチングレートが高まる領域において行われることが好ましい。上述したように、エッチング装置10は、複数の基板Sを同時に処理することが可能なバッチ方式の装置であるから、枚葉式の装置に比べて、装置の大型化が余儀なくされる。こうした装置における温度の昇降は、処理の効率を向上させることに対して大きな妨げとなる。そのため、各工程でのエッチングは、反応律速領域で行われることが好ましい。
【0058】
なお、上述した第1位置は、基板Sの中心であってよく、第2位置は、基板Sの外周であってよい。これにより、基板Sの中心においてエッチング速度が最も高い状態でのエッチングと、基板Sの外周においてエッチング速度が最も高い状態でのエッチングとが行われるから、基板Sの面内におけるエッチングの均一性を寄り高めることができる。
【0059】
また、上述した第1温度は、基板Sの径方向において第2位置のエッチング速度が最も低くなる温度であり、第2温度は、基板Sの径方向において第1位置のエッチング速度が最も低くなる温度であってよい。これにより、第1温度でのエッチング、および、第2温度でのエッチングでは、エッチング速度が最も高い位置と、エッチング速度が最も低い位置とが互いに入れ替わる。そのため、一方の温度においてエッチング速度が最も高い位置と、他方の温度においてエッチング速度が最も低い位置が異なる場合に比べて、基板Sの面内におけるエッチングの均一性が高まる。
【0060】
本実施形態では、第1温度でのエッチングと第2温度でのエッチングとをそれぞれ1回ずつしか行わないエッチング方法を例示している。しかしながら、エッチング方法において、エッチングすることは、第1温度でのエッチングと第2温度でのエッチングとを交互に繰り返すことを含んでもよい。この場合には、第1温度でのエッチングと第2温度でのエッチングとを繰り返すことによって、基板の面内におけるエッチングの均一性を高めつつ、繰り返しの回数によって、対象膜の厚さを調整することが可能である。
【0061】
また、本実施形態では、第1位置においてエッチング速度が最も高くなるエッチングと、第2位置においてエッチング速度が最も高くなるエッチングとのみを含むエッチング方法を例示している。しかしながら、エッチング方法において、エッチングすることは、基板Sの径方向において第3位置のエッチング速度が最も高くなる第3温度でエッチングすることをさらに含んでもよい。第3位置は、第1位置および第2位置とは異なる位置であり、第3温度は、第1温度および第2温度とは異なる温度である。この場合には、径方向の3箇所の各々においてエッチング速度が最も高くなる状態でエッチングを行うから、基板Sの面内におけるエッチングの均一性をさらに高めることが可能である。
【0062】
[試験例]
図4を参照して試験例を説明する。
[基板温度とエッチング速度との関係]
ポリシリコン膜を有したシリコン基板の温度を、48℃、53℃、57℃、63℃、および、70℃に設定して、以下の条件でポリシリコン膜をエッチングした。なお、上述した実施形態と同様に、2つの放電管を有し、かつ、2つの放電管がシャワーヘッドにおける別々の位置に接続されたエッチング装置を用いた。また、各放電管に供給される放電ガスの流量を同一に設定した。
【0063】
[エッチング条件]
・放電用ガス NガスおよびNHガス
・Nガスの流量 3000sccm
・NHガスの流量 50sccm
・非放電用ガス NFガスおよびNHガス
・NFガスの流量 2300sccm
・NHガスの流量 50sccm
・マイクロ波源の電力 2800W
・処理チャンバー内の圧力 200Pa
・エッチング時間 300秒
【0064】
処理後の基板において、基板の径方向における複数の位置において対象膜の厚さを測定した。これにより、基板の各位置におけるエッチング量を算出した。エッチング量の算出結果は、図4が示す通りであった。
【0065】
図4が示すように、基板の温度が48℃である場合には、基板の中心においてエッチング速度が最も高く、かつ、基板の中心からの距離が大きくなるほどエッチング量が小さくなることが認められた。基板の温度が53℃である場合には、基板の中心におけるエッチング速度が最も小さく、かつ、基板の中心から100mm離れた位置においてエッチング速度が最も高いことが認められた。基板の温度が57℃である場合には、基板お中心においてエッチング速度が最も低く、かつ、基板の中心から100mm離れた位置においてエッチング速度が最も小さいことが認められた。
【0066】
これに対して、基板の温度が63℃または70℃である場合には、基板の中心においてエッチング速度が最も低く、かつ、基板の中心から50mm以上離れた領域では、基板の中心からの距離が大きくなるほど、エッチング速度が高くなることが認められた。また、基板の温度が53℃から70℃まで上昇するほど、基板の径方向において、エッチング速度が最も高い位置が、基板の外周に向けて移行することが認められた。言い換えれば、基板の温度が上昇するほど、基板の径方向において、基板の中心を含む領域であって、エッチング速度が最も低い領域が拡張される傾向を有することが認められた。
【0067】
このように、図4が示すグラフによれば、基板の温度が低いほど、基板の外周において対象膜のエッチングを阻害するNH分子の吸着が進むから、基板の外周におけるエッチング速度が低いと言える。これに対して、基板の温度が高いほど、基板の中心を含む領域において対象膜のエッチングを阻害するNH分子の吸着が進むから、基板の外周におけるエッチング速度が高いと言える。
【0068】
[試験例1]
以下の条件によって、シリコン基板が備えるポリシリコン膜のエッチングを行った。なお、上述した実施形態と同様に、2つの放電管を有し、かつ、2つの放電管がシャワーヘッドにおける別々の位置に接続されたエッチング装置を用いた。また、各放電管に供給される放電ガスの流量を同一に設定した。
【0069】
[第1加熱工程]
・不活性ガス Nガス
・Nガスの流量 3000sccm
・処理チャンバー内の圧力 200Pa
・処理時間 80秒
・目標温度(第1温度) 48℃
【0070】
[第1エッチング工程]
・放電用ガス NガスおよびNHガス
・Nガスの流量 6000sccm
・NHガスの流量 50sccm
・非放電用ガス NFガスおよびNHガス
・NFガスの流量 2300sccm
・NHガスの流量 50sccm
・マイクロ波源の電力 1800W
・処理チャンバー内の圧力 200Pa
・エッチング時間 168秒
・第1温度 48℃
【0071】
[第2加熱工程]
・不活性ガス Nガス
・Nガスの流量 3000sccm
・処理チャンバー内の圧力 200Pa
・処理時間 700秒
・目標温度(第2温度) 70℃
【0072】
[第2エッチング工程]
・放電用ガス NガスおよびNHガス
・Nガスの流量 3000sccm
・NHガスの流量 50sccm
・非放電用ガス NFガスおよびNHガス
・NFガスの流量 2300sccm
・NHガスの流量 50sccm
・マイクロ波源の電力 1400W
・処理チャンバー内の圧力 140Pa
・エッチング時間 180秒
・第2温度 70℃
【0073】
上記条件によってエッチングしたポリシリコン膜のエッチング量を基板の各位置において測定した。測定結果は、図5に示す通りであった。なお、基板の中心を通る1つの直線であるX軸に沿うエッチング量と、基板の中心を通り、かつ、X軸に直交するY軸に沿うエッチング量とを測定した。
【0074】
図5が示すように、第1温度および第2温度の各々のみによって同程度のエッチングを行う場合に比べて、X軸およびY軸の両方において、ポリシリコン膜のエッチング量における面内での均一性が高まることが認められた。
【0075】
以上説明したように、エッチング方法、および、エッチング装置の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)基板Sの径方向においてエッチングの進む度合いが偏ることを抑え、ひいては、基板Sの面内におけるエッチングの均一性を高めることが可能である。
【0076】
(2)第1温度から第2温度に基板の温度を変える際に、基板S間の隙間Gに対して不活性ガスを供給するから、不活性ガスが供給されない場合に比べて、基板Sの温度が第1温度から第2温度に変わりやすくなり、かつ、基板S間での温度のばらつきが抑えられる。
【0077】
(3)第1位置が基板Sの中心であり、第2位置が基板Sの外周である場合には、基板Sの中心においてエッチング速度が最も高い状態でのエッチングと、基板Sの外周においてエッチング速度が最も高い状態でのエッチングとが行われるから、基板Sの面内におけるエッチングの均一性を寄り高めることができる。
【0078】
(4)第3温度でのエッチングを行う場合には、径方向の3箇所の各々においてエッチング速度が最も高くなる状態でエッチングを行うから、基板Sの面内におけるエッチングの均一性をさらに高めることが可能である。
【0079】
なお、上述した実施形態は以下のように変更して実施することができる。
[エッチング方法]
・上述したように、エッチング方法において第3温度でのエッチングを行ってもよいし、行わなくてもよい。第3温度でのエッチングを行わなくとも、第1温度でのエッチングおよび第2温度でのエッチングを行うことによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0080】
・第1温度は、基板の径方向において第2位置のエッチング速度が最も低くなる温度でなくてもよいし、第2温度は、基板の径方向において第1位置のエッチング速度が最も低くなる温度でなくてもよい。この場合であっても、第1温度でのエッチングおよび第2温度でのエッチングを行うことによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0081】
・第1位置は基板Sの中心以外の位置であってよく、また、第2位置は基板Sの外周以外の位置であってもよい。この場合であっても、第1温度でのエッチングおよび第2温度でのエッチングを行うことによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0082】
・エッチング方法において、上述したように、第1温度でのエッチングと第2温度でのエッチングとを1回ずつのみ行ってもよいし、第1温度でのエッチングと第2温度でのエッチングとを交互に繰り返してもよい。
【0083】
・基板Sの温度を第1温度から第2温度に変える際には、基板Sの隙間Gのなかに不活性ガスを供給することに代えて、例えば、第1加熱部11Aにおける設定温度を変えることによって、基板Sの温度を第1温度から第2温度に変えてもよい。
【0084】
・第1温度は、第2温度よりも低い温度であってもよい。この場合には、例えばエッチング装置10が冷却部を備え、処理チャンバー11の温度、ひいては基板Sの温度を下げることによって、基板Sの温度を第1温度から第2温度に変えることが可能である。この場合であっても、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0085】
なお、上述したように、第1温度が第2温度よりも低く、かつ、第1温度および第2温度の両方が処理チャンバー11の温度よりも低い場合には、基板Sの温度を第1温度から第2温度に変える際に、基板Sの冷却に必要な時間、および、第1加熱部11Aにおける設定温度の変更が不要である。これにより、基板Sのエッチングにおける効率を高めることが可能である。
【0086】
・対象膜は、ポリシリコン以外の材料から形成されてもよい。対象膜は、例えばアモルファスシリコンなどのシリコンを含む膜から形成されてよい。対象膜がアモルファスシリコンから形成される場合には、ポリシリコンと同様のエッチングガスおよび吸着ガスを採用することができる。
【符号の説明】
【0087】
10…エッチング装置
10A…支持部
11…処理チャンバー
11A…第1加熱部
11F…温度測定部
21…エッチングガス供給部
21A…放電用ガス供給部
21B…非放電用ガス供給部
22…吸着ガス供給部
23…不活性ガス供給部
S…基板
図1
図2
図3
図4
図5