(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】固体スープ及び固体スープの風味劣化抑制方法。
(51)【国際特許分類】
A23L 23/10 20160101AFI20241010BHJP
A23L 29/00 20160101ALN20241010BHJP
【FI】
A23L23/10
A23L29/00
(21)【出願番号】P 2021059150
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 陽太郎
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-159754(JP,A)
【文献】特開2019-058129(JP,A)
【文献】特開昭60-075266(JP,A)
【文献】特開平06-181725(JP,A)
【文献】特開平01-174328(JP,A)
【文献】特開2016-086692(JP,A)
【文献】特開2004-166631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00
A23L 29/00
A23L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテキンを2~20ppm、シクロデキストリンを18~180ppm、トコフェロールを20~500ppm含むことを特徴とする固体スープ。
【請求項2】
カテキンを2~20ppm、シクロデキストリンを18~180ppm、トコフェロールを20~500ppm配合することを特徴とする固体スープの風味劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存中の固体スープの風味劣化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、即席麺類や即席カップスープなどの食品では、お湯等に溶かして使用する粉末スープや真空凍結乾燥された固形スープなどの固体スープが使用されている。これらの固体スープは、即席麺などの他の食品と共に容器に直接充填(直充填)されている場合もあるが、アルミ入りのプラスチック包材に密封されて商品に添付されていることが多い。
【0003】
アルミ入りのプラスチック包材は光や水分を透過しないため、封入された固形スープは吸湿による固結及び風味劣化並びに光による退色及び風味劣化は少ないが、長期間保存することにより経時的に変色したり、風味が変質したり、異臭が発生したりする。長期保存による風味の劣化は、特に鰹節、昆布などの出汁系の成分を有する和風スープで顕著にみられ、薬品のような刺激臭である劣化臭(カルキ臭)が発生する。
【0004】
食品の不快臭を消臭する方法として、特許文献1~4の方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6525097号公報
【文献】特開2019-4707号公報
【文献】特公平7-14328号公報
【文献】特公昭60-36268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、保存中の風味劣化が抑制された固体スープ及び固体スープの風味劣化抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、和風スープの保存中に発生する劣化臭を抑制する方法について鋭意研究した結果、偶然にも特定の成分を固体スープに配合することにより、保存中に発生する劣化臭が抑制されることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、カテキンを2~20ppm、シクロデキストリンを18~180ppm、トコフェロールを20~500ppm含むことを特徴とする固体スープである。
【0009】
また、カテキンを2~20ppm、シクロデキストリンを18~180ppm、トコフェロールを20~500ppm配合することを特徴とする固体スープの風味劣化抑制方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、保存中の風味劣化が抑制された固体スープ及び固体スープの風味劣化抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
(カテキン)
本発明に係るカテキンは、茶抽出物などに含まれる天然のものや、合成物でもよく、(+)-カテキン、(-)-エピカテキン、(+)-ガロカテキン、(-)-エピガロカテキン、(-)カテキンガレート、(-)-エピカテキンガレート、(-)-ガロカテキンガレート及び(-)-エピガロカテキンガレートが挙げられる。
【0013】
本発明に係るカテキンは、固体スープに2~20ppmとなるように配合することが好ましい。多すぎるとカテキン由来のえぐみを感じるようになり、少なすぎると保存中の劣化臭発生などの風味劣化を抑えられない。
【0014】
(シクロデキストリン)
本発明に係るシクロデキストリンは、α、β及びγの何れのシクロデキストリンでもよく、マルトシルデキストリンなどの分岐デキストリンでもよく、さらにメチル化、エチル化、プロピル化及びヒドロキシプロピル化等のシクロデキストリン誘導体であってもよい。より好ましくは、β-シクロデキストリン、または分岐β-シクロデキストリン、もしくはこれらのヒドロキシプロピル化した誘導体が好ましい。
【0015】
本発明に係るシクロデキストリンは、固体スープ内に18~180ppm含まれることが好ましい。多すぎると製造後の固体スープ自体の香りが弱く、味がぼけ、少なすぎると保存中の劣化臭発生などの風味劣化を抑えられない。
【0016】
(トコフェロール)
本発明に係るトコフェロールは、α、β、γ、δが存在するが何れも使用できる。総トコフェロールとして、固体スープ中に20~500ppm配合することが好ましい。多すぎると、スープが濁り、味がぼけ、少なすぎると保存中の劣化臭発生などの風味劣化を抑えられない。
【0017】
(その他原料)
本発明に係る固体スープのその他の原料としては、通常の固体スープの製造に使用する原料であれば、特に制限なく使用できる。例えば、食塩、塩化カリウム、乳酸カルシウム、砂糖、グラニュー糖、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどの結晶物、各種澱粉、デキストリン、醤油、鰹節、昆布、蛋白加水分解物、ペプチド、アミノ酸、畜肉、魚介、野菜、果実、油脂、色素、香料などの粉末、エキスまたは液体の何れも使用できる。
【0018】
本発明は、特に和風出汁の固体スープの保存中に経時的に発生する薬品的な臭いである劣化臭(カルキ臭)を抑制する効果があり、鰹節、昆布及び醤油の粉末、エキスまたは液体を原料に含むものに特に効果を発揮する。また、これら以外の原料を含む場合であっても、保存による経時的な風味の劣化(変質)を抑制することができ、製造直後に近い風味を長期間維持することができる。
【0019】
(固体スープ)
本発明に係る固体スープは、粉末素材を混ぜ合わせただけの粉末スープから、粉末素材を流動層などで造粒した造粒スープ、液体スープを凍結乾燥した固形スープ、液体スープをスプレードライなどにより粉末化した粉末スープなど、固体状のスープであればよい。
【0020】
本発明に係る固体スープは、即席麺などの他の食品と共に喫食容器に直充填されるものでもよく、アルミ入り包材などに密封され、添付されるものでもよい。通常、アルミ入り包材に密封されると水分、酸素及び光などによる劣化は受けないため、保存中の風味劣化は起こりにくいと考えられているが、熱による影響により経時的に変質、劣化がおき、異臭が発生したり、風味が変質したりする(本発明においては、保存中に発生する異臭も、変質した臭いも風味劣化とする)。特に和風スープなどの鰹節、昆布及び醤油の粉末、エキスまたは液体を原料に含む固体スープにおいて、保存中に経時的に薬品的な臭い(カルキ臭)である劣化臭が発生するが、アルミ入り包材に密封されていることで臭いが包材内に留まり蓄積し、異臭を強く感じるようになる。他の食品と共に喫食容器に直接充填される固体スープであっても、固体スープの製造から使用までの間に長期間アルミ入り包材に保存されるため、低温での保存が必要となる。本発明に係る固体スープによれば、カルキ臭などの劣化臭の発生を抑え、長期保存しても風味の変質が少ない固体スープを提供することができるだけでなく、製造後の風味も良好なものとなる。また、和風スープ以外のスープであっても、保存による経時的な風味の劣化(変質)を抑制することができ、製造直後に近い風味を長期間維持することができる。
【0021】
以下に実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
<実験1>添加物の検討
下記表1に記載された粉末資材を混合し、粉末スープ(うどん用和風スープ)を作製した。
【0023】
【0024】
(試験例1)
作製した作製した粉末うどんスープ100gを8gずつアルミ包材に入れ密封し、粉末スープサンプルを作製した。
【0025】
(試験例2)
作製した粉末うどんスープ100gに抹茶抽出物(カテキン10重量%配合)を4mg(カテキンとして4ppm配合)添加し、混合した後、8gずつアルミ包材に入れ密封し、粉末スープサンプルを作製した。
【0026】
(試験例3)
作製した粉末うどんスープ100gにβ-シクロデキストリンを3.6mg(シクロデキストリンとして36ppm配合)添加し、混合した後、8gずつアルミ包材に入れ密封し、粉末スープサンプルを作製した。
【0027】
(試験例4)
作製した粉末うどんスープ100gにトコフェロール製剤(総トコフェロール含量25重量%)を40mg(総トコフェロールとして100ppm配合)添加し、混合した後、8gずつアルミ包材に入れ密封し、粉末スープサンプルを作製した。
【0028】
(試験例5)
作製した粉末うどんスープ100gに抹茶抽出物(カテキン10重量%配合)を4mg(カテキンとして4ppm配合)、β-シクロデキストリンを3.6mg(シクロデキストリンとして36ppm配合)添加し、混合した後、8gずつアルミ包材に入れ密封し、粉末スープサンプルを作製した。
【0029】
(試験例6)
作製した粉末うどんスープ100gに抹茶抽出物(カテキン10重量%配合)を4mg(カテキンとして4ppm配合)、β-シクロデキストリンを3.6mg(シクロデキストリンとして36ppm配合)、トコフェロール製剤(総トコフェロール含量25重量%)を40mg(総トコフェロールとして100ppm配合)添加し、混合した後、8gずつアルミ包材に入れ密封し、粉末スープサンプルを作製した。
【0030】
実験1の各試験区のサンプルを45℃の恒温室で2週間保存(強制劣化試験)し、劣化臭(カルキ臭)の発生具合について官能評価を行った。評価については、香気分析を行うベテランパネラー5人により行い、各試験区のサンプルを発泡ポリスチレン製の容器に入れて、500mlの熱湯を入れて喫食し、下記の基準で評価を行った。
【0031】
(評価基準)
5:劣化臭(カルキ臭)の改善効果が顕著であり、風味が非常に良好
4:劣化臭(カルキ臭)の改善効果が明らかであり、風味が良好
3:劣化臭(カルキ臭)の改善効果を感じるが、カルキ臭を感じる
2:劣化臭(カルキ臭)の改善効果が軽微であり、カルキ臭を強く感じる
1:劣化臭(カルキ臭)の改善効果がなく、試験例1と同程度以上に劣化臭を感
じる
【0032】
実験1の評価結果を下記表2に示す。
【0033】
【0034】
実験1で示すようにカテキン、β-シクロデキストリン及びトコフェロールの単体だけでは、強制劣化試験で発生する劣化臭(カルキ臭)の発生を抑えられず、かなり強く感じた。試験例5で示すようにカテキンとβ-シクロデキストリンを併用することにより、ある程度劣化臭が抑えられているが、試験例6で示すようにカテキン、β-シクロデキストリン、トコフェロールをすべて併用することにより、さらに劣化臭の発生が抑えられ、劣化臭をほとんど感じなくなった。
【0035】
<実験2>各資材の適正配合の検討
(試験例7)
抹茶抽出物(カテキン10重量%配合)を2mg(カテキンとして2ppm配合)添加する以外は、試験例6の方法で粉末スープサンプルを作製した。
【0036】
(試験例8)
抹茶抽出物(カテキン10重量%配合)を20mg(カテキンとして20ppm配合)添加する以外は、試験例6の方法で粉末スープサンプルを作製した。
【0037】
(試験例9)
β-シクロデキストリンを1.8mg(シクロデキストリンとして18ppm配合)添加する以外は、試験例6の方法で粉末スープサンプルを作製した。
【0038】
(試験例10)
β-シクロデキストリンを18mg(シクロデキストリンとして180ppm配合)添加する以外は、試験例6の方法で粉末スープサンプルを作製した。
【0039】
(試験例11)
トコフェロール製剤(総トコフェロール含量25重量%)を10mg(総トコフェロールとして25ppm配合)添加する以外は、試験例6の方法で粉末スープサンプルを作製した。
【0040】
(試験例12)
トコフェロール製剤(総トコフェロール含量25重量%)を200mg(総トコフェロールとして500ppm配合)添加する以外は、試験例6の方法で粉末スープサンプルを作製した。
【0041】
実験2の各サンプルについて実験1同様に強制劣化試験を行い、官能評価を行った。また、実験2については、強制劣化試験前の風味についても評価を行った。評価方法は、試験例1の強制劣化試験前の風味を基準として、下記の通り行った。評価結果について表3に記載する
【0042】
(評価基準)
5:スープの風味に影響がない
4:スープの風味にやや影響があるが概ね良好
3:スープの風味に影響があるが概ね可
2:スープの風味に影響があり不可
1:スープの風味に著しく影響があり喫食不可
【0043】
【0044】
試験例6~8の結果より、カテキンの配合量が低くなると強制劣化後に劣化臭(カルキ臭)が発生するようになり、カテキンの配合量が多くなると強制劣化前のスープにエグ味を感じるようになった。よって、本発明におけるカテキンの好ましい配合量としては、2~20ppmの範囲と考える。
【0045】
試験例6及び試験例9、10で示すように、β-シクロデキストリンの配合量が少なくなると強制劣化後に劣化臭(カルキ臭)が発生するようになり、β―シクロデキストリンの配合量が多くなると、強制劣化前のスープの香り全体が弱くなった。よって、本発明におけるβ-シクロデキストリンの好ましい配合量としては、18~180ppmの範囲と考える。
【0046】
試験例6及び試験例11、12で示すように、トコフェロールの配合量が少なくなると強制劣化後に劣化臭(カルキ臭)が発生するようになり、トコフェロールの配合量が多くなると、強制劣化前のスープが濁り、味がぼやけるようになった。よって、本発明におけるトコフェロールの好ましい配合量としては、25~500ppmの範囲と考える。
【0047】
なお、実験1及び実験2では、保存中の劣化臭の発生が顕著に起きるうどん用和風スープに係るものであるが、和風スープよりも保存中に劣化が起こりにくい他の固体スープに対しても本発明は有効であり、保存中の風味の劣化(変質を含む)を抑制することができる。実施例では示さないが、流動層造粒した醤油ラーメン用の粉末スープでも保存中におこる風味の劣化(変質)を抑えることができた。