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特許7569779ボイスコイルモータ用ヨーク及びボイスコイルモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ボイスコイルモータ用ヨーク及びボイスコイルモータ
(51)【国際特許分類】
   G11B 21/02 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
G11B21/02 612H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021181895
(22)【出願日】2021-11-08
(65)【公開番号】P2023069775
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】金子 正樹
(72)【発明者】
【氏名】渡会 啓介
(72)【発明者】
【氏名】玉村 拓也
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-127372(JP,U)
【文献】特開2006-134368(JP,A)
【文献】特開2007-220197(JP,A)
【文献】特開2009-238336(JP,A)
【文献】特開2002-298525(JP,A)
【文献】米国特許第04692999(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルモータ用ヨークであって、前記ヨークの磁石接着面に、接着される磁石の輪郭と略同一形状の接着領域を規定したとき、前記接着領域の内側に、環状の溝を有するとともに、前記磁石接着面における前記環状の溝で取り囲まれた領域が接着剤塗布領域であるボイスコイルモータ用ヨーク。
【請求項2】
前記環状の溝の環状形状が、前記磁石の輪郭と略相似形状である請求項1に記載のボイスコイルモータ用ヨーク。
【請求項3】
前記環状の溝が周方向に連続的に又は断続的に形成されている請求項1又は2に記載のボイスコイルモータ用ヨーク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のボイスコイルモータ用ヨークを一対と、前記一対のヨークのそれぞれの前記接着剤塗布領域に塗布された接着剤と、前記一対のヨークのそれぞれの前記接着領域に前記接着剤を介して接着された一対の希土類磁石とを備えるボイスコイルモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ用ヨーク及びボイスコイルモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ボイスコイルモータ(以下、VCMと称する。)はハードディスクドライブ(以下、HDDと称する。)内のアクチュエータを駆動するために用いられる磁気回路部品である。一般的にHDDの動作中、アクチュエータに備え付けられたコイルに電流が流れるとローレンツ力によりアクチュエータはディスク上の特定の位置に移動して、アクチュエータ先端のヘッドを使用して、磁気ディスク上のデータの読み書きを行う。
【0003】
HDDは、特許文献1に記載されているように、HDDの各部品の固有振動周波数が近くなると、共振が発生し、振動や騒音などの面で品質的な問題が生じることが知られている。特にVCMについては、特許文献2に記載されているように、VCMの固有周波数とVCM以外のHDD構成部品の固有周波数が一致、または近接していると共振を起こしてアクチュエータが振動し、ディスクの読み書き動作に悪影響を及ぼしたり、騒音が発生する等の不具合が起きやすい。これを低減するために、従来よりHDD内の部品のそれぞれの固有振動数が一致、または近接しないように設計されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-331545号公報
【文献】特開2015-130224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的にVCMは、一対のヨークと、各ヨークの内面に接着された円弧状の磁石と、磁石間に空隙を維持してヨーク同士を固定するピンとで構成されている。磁石はヨークに接着剤によって貼り付けられている。磁石をヨークに接着する工程では、ヨークか磁石、またはその両方に接着剤を塗布したうえで両方を接触させて接着する。本願発明者らは、この時、磁石とヨークとを接着する接着剤の塗布面積が大きいと、組み立てたVCMの固有振動周波数が高く、接着剤の塗布面積が小さいと、固有振動周波数が低くなるという知見を得た。しかしながら、接着剤の塗布面積は、ヨークの平面状態や接着剤量のばらつきによって接着剤の広がり方が安定しないことから制御しにくく、VCMの固有振動周波数を安定させることが難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであり、ボイスコイルモータの固有振動周波数を安定化させるとともに、容易にボイスコイルモータを大量生産することが出来るボイスコイルモータ用ヨーク及びボイスコイルモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、ボイスコイルモータ用ヨークであって、前記ヨークの磁石接着面に、接着される磁石の輪郭と略同一形状の接着領域を規定したとき、前記接着領域の内側に、環状の溝を有するとともに、前記磁石接着面における前記環状の溝で取り囲まれた領域は接着剤塗布領域であるというものである。
【0008】
前記環状の溝の環状形状は、前記磁石の輪郭と略相似形状であることが好ましい。
【0009】
前記環状の溝は、周方向に連続的に又は断続的に形成されていてもよい。
【0010】
本発明は、別の態様として、ボイスコイルモータであって、上述したボイスコイルモータ用ヨークを一対と、前記一対のヨークのそれぞれの前記接着剤塗布領域に塗布された接着剤と、前記一対のヨークのそれぞれの前記接着領域に前記接着剤を介して接着された一対の希土類磁石とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヨークの磁石接着面に、接着剤を塗布する領域を取り囲むように環状の溝を設け、この環状の溝で取り囲まれた領域を接着剤塗布領域とすることで、接着剤の塗布面積のばらつきを低減することができ、VCMの固有振動周波数を安定化させることができるとともに、固有振動周波数が安定化したVCMを容易に管理、大量生産することができるので、HDDの共振の発生を低減し、HDDの歩留まりを向上することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るVCMの一実施の形態を示す概略斜視図である。
図2図1のVCMを矢線IIから見た概略正面図である。
図3図1のVCMを分解したヨークと磁石を示す概略斜視図である。
図4図1のVCMを分解したヨークを示す概略斜視図である。
図5図1のVCMを分解したヨークと磁石を示す概略平面図である。
図6図1のVCMを分解したヨークを示す概略平面図である。
図7】従来のヨークを示す概略斜視図である。
図8】実施例1~5及び比較例1~5のヨークを用いた実験結果であって、接着剤塗布量に対するVCMの振動周波数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るボイスコイルモータ用ヨーク及びボイスコイルモータの一実施の形態について説明する。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施の形態のVCM10は、一対のヨーク1と、各ヨーク1の内側表面にそれぞれ接着された一対の円弧状の磁石2と、一対の磁石2間に空隙を維持して一対の磁石2を挟むように一対のヨーク1同士を固定するピン3とで主に構成されている。なお、図1及び図2では、ヨーク1全体が平面状の板として表されているが、ヨーク1は磁石2との接着面の外周部分において一部に起伏や段差などを有していてもよい。
【0015】
ヨーク1を構成する材質は、一般的には、冷間圧延鋼板(SPCC)材からなっているが、特にこれに限定されるものではない。また、磁石2は、ニッケルメッキ処理を施された希土類焼結磁石が用いられることが一般的であるが、特にこれに限定されるものではない。そして、図3に示すように、VCM10を分解すると、磁石2はヨーク1の内側面である磁石接着面1sに接着剤(図示省略)によって貼り付けられた状態となっている。
【0016】
接着剤としては、特に限定されるものではないが、アクチュエータなどに異物が付着しないようにする点から低アウトガスの接着剤が用いられる。例えば、アクリル系やエポキシ系などの接着剤が挙げられる。接着剤の塗布量は、特に限定されるものではなく、設計に応じて適宜選択できる。一般的には、接着剤の粘度や接着強度を考慮に入れ、磁石2がある程度のせん断力でもヨーク1から剥がれず、かつ磁石2から接着剤がはみ出さない程度の量を塗布する。
【0017】
本実施の形態のVCM10では、図4に示すように、さらに磁石2をヨーク1から分解すると、ヨーク1の磁石接着面1sには環状の溝4が設けられている。環状の溝4は、ヨーク1の磁石接着面1sに接着される磁石2の輪郭と略同一形状の接着領域の内側に位置する。例えば、図5に示すように、磁石2がヨーク1の磁石接着面1sに貼り付けられた状態の平面図では、破線で表す環状の溝4が、磁石2の輪郭2c、すなわち磁石2の接着領域の内側に位置している。そして、図6に示すように、磁石2がヨーク1から分解された状態の平面図では、ヨーク1の磁石接着面1sにおいて環状の溝4で取り囲まれた領域を、接着剤を塗布する接着剤塗布領域5とする。
【0018】
このような構成とすることで、図7のような従来の溝のないヨーク11では磁石接着面1sに接着剤を塗布すると、接着剤量の違いによって接着剤の広がり方がばらばらで、接着剤が塗布される面積を一定にすることが困難であったのに対し、図6に示すように、本実施の形態では、接着剤塗布領域5に接着剤を塗布し、磁石の接着領域2cに磁石2を載置した際、接着剤の塗布量が多い場合であっても、環状の溝4に接着剤がトラップされることで、接着剤塗布領域5を取り囲む環状の溝4よりも外側に接着剤が広がらず、接着剤が塗布される面積を安定させることが出来る。これにより、VCM10の固有振動周波数の変動を抑えることができ、HDDの共振を低減することが出来る。
【0019】
また、環状の溝4を、ヨーク1の磁石接着面1sにおいて磁石の接着領域2cの内側に設けることで、接着剤が磁石2からはみ出してしまうことを防ぐことが出来る。環状の溝4は、例えば、磁石の接着領域2cの輪郭から0.5mm以上小さくなるように設けることが好ましく、0.7mm以上小さくなるように設けることがより好ましい。一方、この環状の溝4を設ける位置の下限は、特に限定されず、接着強度を維持する観点から接着剤塗布領域5が小さくなりすぎない程度に適宜設定すればよい(例えば、接着剤塗布領域5の面積が磁石の接着領域2cの面積の20%以上となる程度など)。
【0020】
図4図6では、ヨーク1上に磁石2をより確実に接着し固定する観点から、環状の溝4で取り囲まれる接着剤塗布領域5の形状が、磁石の接着領域2cの形状と略相似する形状の場合について示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、接着剤塗布領域5の形状は、豆形や、楕円形、弓形などの形状であってもよい。
【0021】
また、環状の溝4は、図4図6では、周方向に連続的に設けられている場合について示したが、本発明はこれに限定されず、周方向に断続的に設けられていてもよい。環状の溝4を周方向に断続的に設ける場合は、接着剤が接着剤塗布領域5からはみ出ることを防ぐため、環状の溝4の周方向において断続部分の長さは僅かにし、1箇所から数箇所にすることが好ましい。
【0022】
環状の溝4の深さは、特に限定されないが、VCM10の設計に従って接着剤をトラップできる程度に適宜選択することが出来るが、例えば、0.05~0.3mmとすることが好ましく、0.1~0.3mmとすることがより好ましい。環状の溝4の幅についても同様に、例えば、0.5~1.5mmとすることが好ましい。なお、環状の溝4は、ヨーク1を加工できる公知の加工装置であれば、容易に設けることが出来る。
【0023】
接着剤の塗布量については上述の通り、適宜設定することが出来るが、接着剤の塗布量が極端に少ない場合、環状の溝4に接着剤がトラップされず、接着剤塗布領域5の内側における接着剤の塗布面積が安定しない場合がある。また、接着剤の広がり方は、ヨーク1の磁石接着面1sの平面度にも影響を受ける。よって、環状の溝4にトラップされる程度の接着剤の塗布量をあらかじめ実験的に求めることが好ましい。なお、ヨーク1の磁石接着面1sの平面度を良くすることが好ましく、これにより、塗布された接着剤の広がりの程度が把握しやすくなる。
【実施例
【0024】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
市販されているVCMのSPCC材の一対のヨークの各磁石接着面に、接着される磁石の輪郭と略同一形状の接着領域を規定し、この接着領域から0.7mm内側に磁石の輪郭と略相似形状の深さ0.1mm、幅1.0mmの環状の溝を設け、この溝の内側のヨーク表面を接着剤塗布領域と規定した。この接着剤塗布領域に、所定の塗布量にて接着剤を塗布し、塗布量に応じて実施例1~5とした。また、比較のため、上記ヨークに溝を設けずに実施例と同様の塗布量にて接着剤を塗布し、これを比較例1~5とした。
【0026】
そして、実施例、比較例それぞれのヨークに磁石を接着してVCMを作製し、このVCMをHDDベースに取り付けてアクチュエータに電流を印加して加振させ、レーザードップラ振動計(型番:PSV-400、Polytec社)にて、それぞれのVCMの振動周波数を測定した。その結果を表1及び図6に示す。
【0027】
表1及び図6に示すように、接着剤の塗布量が増加するに従い、溝のない比較例1~5のヨークを用いたVCMでは振動周波数も同様に増加傾向にあるのに対して、溝が有る実施例1~5のヨークを用いたVCMでは、振動周波数の増加傾向が認められなかった。このように、環状の溝を設けた実施例1~5のヨークを使用したVCMは、接着剤の増減に対して振動周波数の変化が抑えられていることがわかった。
【0028】
【表1】
【0029】
さらに、実施例1及び比較例1と同様の条件のヨークを各々25個用意し、上記と同様にしてVCMの振動周波数を測定した結果を表2に示す。振動周波数の最小値から最大値までの範囲を見ると、実施例1と同じ条件の場合は範囲が小さく、また、標準偏差も実施例1の場合は小さいことが認められた。このように、環状の溝を設けた実施例1~5のヨークを使用したVCMは、振動周波数のばらつきも安定化したことがわかった。
【0030】
【表2】
【符号の説明】
【0031】
1 ヨーク
2 磁石
2c 磁石の輪郭(磁石の接着領域)
3 ピン
4 溝
5 接着剤塗布領域
10 ボイスコイルモータ(VCM)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8