(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/484 20060101AFI20241010BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20241010BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241010BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241010BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241010BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20241010BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241010BHJP
【FI】
A61K36/484
A61K36/9068
A61P25/28
A61P43/00 121
A61P27/02
A61P39/02
A23L33/105 ZNA
(21)【出願番号】P 2021537396
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030292
(87)【国際公開番号】W WO2021025139
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019145563
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克典
(72)【発明者】
【氏名】小林 久美子
(72)【発明者】
【氏名】東 清史
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2007-0095485(KR,A)
【文献】特開2007-230938(JP,A)
【文献】KANNO, Hitomi, et al.,Glycyrrhiza and Uncaria Hook contribute to protective effect of traditional Japanese medicine yokuka,Journal of Ethnopharmacology,2013年07月06日,Vol. 149,p. 360-370
【文献】TOHDA, Chihiro, et al.,Repair of amyloid β(25-35)-induced memory impairment and synaptic loss by a Kampo formula, Zokumei-,Brain Research,2003年11月14日,Vol. 990,p. 141-147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草乾姜湯エキスを含む漢方エキスを含有する、Aβによる神経細胞傷害抑制剤
(但し、続命湯を含む神経細胞傷害抑制剤を除く)。
【請求項2】
前記甘草乾姜湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、甘草1に対し、乾姜が0.1~1.5である、請求項1に記載の神経細胞傷害抑制剤。
【請求項3】
前記甘草乾姜湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、甘草1に対し、乾姜が0.2~1.0である、請求項1又は2に記載の神経細胞傷害抑制剤。
【請求項4】
1日分の適用量が0.1~15gとなる量で前記漢方エキスを含有する、請求項1~3のいずれかに記載の神経細胞傷害抑制剤。
【請求項5】
1日分の適用量が0.2~4.5gとなる量で前記漢方エキスを含有する、請求項1~4のいずれかに記載の神経細胞傷害抑制剤。
【請求項6】
Aβによる神経細胞傷害が認められる疾患又は症状の予防、改善又は治療に用いるための、請求項1~5のいずれかに記載の神経細胞傷害抑制剤。
【請求項7】
前記疾患又は症状が、アルツハイマー病、軽度認知障害、レビー小体認知症、ダウン症候群、遺伝性アミロイド性脳出血オランダ型、グアムのパーキンソニズム認知症複合、脳アミロイド血管症、封入体筋炎、前頭側頭認知症、加齢性黄斑変性症、又はピック病である、請求項6に記載の神経細胞傷害抑制剤。
【請求項8】
食品組成物に含まれる、請求項1~7のいずれかに記載の神経細胞傷害抑制剤。
【請求項9】
Aβによる神経細胞傷害抑制剤
(但し、続命湯を含む神経細胞傷害抑制剤を除く)を製造するための、甘草乾姜湯エキスを含む漢方エキスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病などの神経変性疾患において、アミロイドβペプチド(Aβ)がオリゴマー化したことによって形成されたアミロイド線維(Aβオリゴマー)が、疾患患者の大脳や海馬に検出されている。Aβオリゴマーの脳内への蓄積は、神経変性疾患の発症に深く関わると考えられており、Aβイメージング法によって算出された脳内のAβオリゴマー量と、アルツハイマー病の診断に用いられているミニメンタルステート検査の点数が逆相関することが示されている(非特許文献1)。
【0003】
Aβオリゴマーと神経変性疾患との関連性としては、脳室内にAβオリゴマーを注入した動物では、アミロイド線維の蓄積が認められ、認知・学習障害などヒトアルツハイマー病様症状を示したこと、アミロイド線維の蓄積を抑制することにより、アルツハイマー病様症状が改善したことが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
Aβオリゴマーと神経細胞との関連性としては、非ヒト哺乳動物由来の培養神経細胞を用いた実験系において、Aβオリゴマーが神経細胞に傷害を与えることが示されている。
【0005】
これらの知見は、Aβオリゴマーの形成やAβオリゴマーによる神経細胞傷害を抑制することにより、アルツハイマー病をはじめとする多くの神経変性疾患の発症予防につながることを示すものである。
【0006】
また、アルツハイマー病において、最も特徴的な神経病理的な変化の1つは神経突起の変性であり、マウスにおいて、神経突起の変性に伴い、神経細胞に特異的に発現する微小管関連タンパク質2(MAP-2:Microtubule-Associated Protein-2)の量が低下することが知られている(非特許文献3)。MAP-2は神経前駆細胞から成熟した神経細胞へ分化が始まると発現し始め、成熟した神経細胞においては樹状突起にほぼ特異的に局在することが知られており、MAP-2は樹状突起を伸展した生存神経細胞数の指標となり得る。これまで、アルツハイマー病のモデルマウスにおいて、神経細胞内にAβオリゴマーが蓄積すると同時にMAP-2の量が減少し、また、培養したマウス神経細胞において、Aβオリゴマーの添加によってMAP-2の量が減少することが示されている(非特許文献4および5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ng, S., Villemagne, V.L., Berlangieri, S., Lee, S.T., Cherk, M., Gong, S.J., Ackermann, U., Saunder, T., Tochon-Danguy, H., Jones, G., Smith, C., O’Keefe, G., Masters, C.L. and Rowe, C.C. (2007). Visual assessment versus quantitative assessment of 11C-PIB PET and 18F-FDG PET for detection of Alzheimer’s disease. The Journal of Nuclear Medicine 48, 547-52頁.
【文献】Walsh, D.M., Klyubin, I., Fadeeva, J.V., Cullen, W.K.,Anwyl, R., Wolfe, M.S., Rowan, M.J. and Selkoe, D.J. (2002). Naturally secreted oligomers of amyloid beta protein potently inhibit hippocampal long-term potentiation in vivo. Nature 416, 535-39頁.
【文献】Adlard, P.A. and Vickers, J.C. (2002). Morphological distinct plaque types differentially affect dendritistic structure and organization in the early and late stages of Alzheimer’s disease. Acta Neuropathologica 103, 377-83頁.
【文献】Takahashi, R.H., Capetillo-Zarate, E., Lin, M.T., Milner, T.A. and Gouras, G.K. (2013). Accumulation of intraneuronal beta-amyloid 42 peptides is associated with early changes in microtubule-associated protein 2 in neurites and synapses. PLoS ONE 8, e51965.
【文献】Fifre, A., Sponne, I., Koziel, V., Kriem, B., YenPotin, F.T., Bihain, B.E., Olivier, J.L., Oster, T. and Pillot, T. (2006). Microtubule-associated protein MAP1A, MAP1B, and MAP2 proteolysis during soluble amyloid beta-peptide-induced apoptosis. Synergistic involvement of calpain and caspase-3. The Journal of Biological Chemistry 281, 229-40頁.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、甘草エキスを含む漢方エキスがAβによる神経細胞傷害を抑制することができることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0011】
項1. 甘草エキスを含む漢方エキスを含有する、Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物.
項2. 前記漢方エキスが、甘草エキス以外の生薬エキスを含まない、又は乾姜エキス、大棗エキス、小麦エキス、生姜エキス、及び桔梗エキスからなる群より選択される少なくとも1種の生薬エキスをさらに含有する、項1に記載の組成物.
項3. 前記漢方エキスが、乾姜エキス、大棗エキス、及び小麦エキスからなる群より選択される少なくとも1種の生薬エキスをさらに含有する、項1又は2に記載の組成物.
項4. 前記漢方エキスが、甘草乾姜湯エキス及び甘麦大棗湯エキスからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の組成物.
項5. 前記甘草乾姜湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、甘草1に対し、乾姜が0.1~1.5である、項4に記載の組成物.
項6. 前記甘草乾姜湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、甘草1に対し、乾姜が0.2~1.0である、項4又は5に記載の組成物.
項7. 前記甘麦大棗湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、甘草1に対し、大棗が0.5~2.0、小麦が2.6~6.6である、項4に記載の組成物.
項8. 前記甘麦大棗湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、甘草1に対し、大棗が0.7~1.7、小麦が3.5~4.5である、項4又は7に記載の組成物.
項9. 1日分の適用量が0.1~15 gとなる量で前記漢方エキスを含有する、項1~8のいずれかに記載の組成物.
項10. 1日分の適用量が0.2~4.5 gとなる量で前記漢方エキスを含有する、項1~9のいずれかに記載の組成物.
項11. Aβによる神経細胞傷害が認められる疾患又は症状の予防、改善又は治療に用いるための、項1~10のいずれかに記載の組成物.
項12. 前記疾患又は症状が、アルツハイマー病、軽度認知障害、レビー小体認知症、ダウン症候群、遺伝性アミロイド性脳出血オランダ型、グアムのパーキンソニズム認知症複合、脳アミロイド血管症、封入体筋炎、前頭側頭認知症、加齢性黄斑変性症、又はピック病である、項11に記載の組成物.
項13. 食品組成物である、項1~12のいずれかに記載の組成物.
また、本発明は、下記の態様も包含する。
【0012】
項14.Aβによる神経細胞傷害を抑制する方法における使用のための、甘草エキスを含む漢方エキスを含有する組成物.
項15.甘草エキスを含む漢方エキスを含有する組成物をAβによる神経細胞傷害の抑制を必要とする対象に適用する(例えば摂取させる、接種する、又は投与する)ことを含む、Aβによる神経細胞傷害を抑制する方法.
項16.Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物を製造するための、甘草エキスを含む漢方エキスの使用.
項17.Aβによる神経細胞傷害を抑制するための、甘草エキスを含む漢方エキスを含有する組成物の使用.
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0015】
本発明は、その一態様において、甘草エキスを含む漢方エキスを含有する、Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物(本明細書において、「本発明の組成物」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0016】
1.成分
甘草エキスは、生薬エキスの1種であり、生薬である甘草の抽出物である限り、特に制限されない。甘草の原料植物は、特に制限されるものではないが、代表的にはウラルカンゾウ、スペインカンゾウ、Glycyrrhiza inflata等のカンゾウ属植物が挙げられる。甘草は、原料植物において、生薬として使用し得る部位である限り特に制限されず、通常、原料植物の根及びストロンを含む。甘草の状態は、特に制限されず、通常、乾燥状態である。抽出は、生薬エキスの抽出方法として一般的に採用されている方法で行うことができ、具体的には、例えば水又は含水エタノールを抽出溶媒として用いて、甘草を常温乃至高温条件下で抽出処理する方法が挙げられる。甘草エキスを含む生薬エキスは、例えば抽出液、抽出液の希釈物、抽出液の濃縮物(液状物、半液状物、固形状物を含む)等であり得る。甘草エキスとしては、1種単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0017】
漢方エキスとしては、生理学的に許容されるものであればよく、構成する生薬エキスの種類や配合比率についても特に制限されず、食品に使用可能な生薬エキス、医薬に使用される生薬エキス等を広く採用することができる。漢方エキスは、1種の生薬エキスからなる、1種の生薬エキスを含む、或いは2種以上の生薬エキスを含む、組成物である。漢方エキスは、例えば抽出液、抽出液の希釈物、抽出液の濃縮物(液状物、半液状物、固形状物を含む)等であり得る。本発明では、漢方エキスの中でも、甘草エキスを含む漢方エキスが使用される。甘草エキスを含む漢方エキスとしては、例えば甘草乾姜湯エキス、甘麦大棗湯エキス、甘草湯エキス、桔梗湯エキス、安中散エキス、胃苓湯エキス、黄耆建中湯エキス、黄連湯エキス、乙字湯エキス、葛根湯エキス、葛根湯加川キュウ辛夷エキス、甘草瀉心湯エキス、帰耆建中湯エキス、キュウ帰膠艾湯エキス、響声破笛丸エキス、杏蘇散エキス、駆風解毒散(湯)エキス、荊芥連翹湯エキス、桂枝加葛根湯エキス、桂枝加芍薬湯エキス、桂枝加芍薬大黄湯エキス、桂枝湯エキス、桂枝人参湯エキス、桂麻各半湯エキス、堅中湯エキス、香砂平胃散エキス、香砂養胃散エキス、香砂六君子湯エキス、香蘇散エキス、五虎湯エキス、五積散エキス、柴陥湯エキス、柴胡桂枝湯エキス、柴胡清肝湯エキス、柴芍六君子湯エキス、滋陰降火湯エキス、滋陰至宝湯エキス、四逆散エキス、四君子湯エキス、治打撲一方エキス、炙甘草湯エキス、芍薬甘草湯エキス、十味敗毒湯エキス、潤腸湯エキス、小建中湯エキス、小柴胡湯エキス、小青竜湯エキス、升麻葛根湯エキス、秦ギョウキョウ活湯エキス、秦ギョウ防風湯エキス、清肺湯エキス、蘇子降気湯エキス、大黄甘草湯エキス、竹茹温胆湯エキス、調胃承気湯エキス、桃核承気湯エキス、当帰建中湯エキス、当帰四逆湯エキス、当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス、独活葛根湯エキス、二朮湯エキス、人参湯エキス、排膿湯エキス、麦門冬湯エキス、半夏瀉心湯エキス、平胃散エキス、加味平胃散エキス、補中益気湯エキス、麻黄湯エキス、麻杏甘石湯エキス、麻杏ヨク甘湯エキス、ヨク苡仁湯エキス、抑肝散エキス、六君子湯エキス、苓姜朮甘湯エキス、苓桂朮甘湯エキス等が挙げられる。
【0018】
本発明の一態様においては、特に限定されないが、例えば、Aβによる神経細胞傷害を抑制作用の観点から、好ましくは、漢方エキスは、甘草エキス以外の生薬エキスを含まない、又は乾姜エキス、大棗エキス、小麦エキス、生姜エキス、及び桔梗エキスからなる群より選択される少なくとも1種の生薬エキスをさらに含有し、より好ましくは乾姜エキス、大棗エキス、及び小麦エキスからなる群より選択される少なくとも1種の生薬エキスをさらに含有し、さらに好ましくは乾姜エキスをさらに含有する。このような漢方エキスとしては、特に限定されないが、例えば、Aβによる神経細胞傷害を抑制作用の観点から、好ましくは甘草乾姜湯エキス、甘麦大棗湯エキス、甘草湯エキス、桔梗湯エキス等が挙げられ、より好ましくは甘草乾姜湯エキス、甘麦大棗湯エキス等が挙げられ、さらに好ましくは甘草乾姜湯エキスが挙げられる。なお、漢方エキスが甘草エキス以外の生薬エキスを含む場合、漢方エキスは、特に限定されないが、例えば、各生薬エキスの混合物であることもできるし、各原料生薬の混合物の抽出物であることもできる。
【0019】
生姜エキスは、生薬である生姜の抽出物である限り、特に制限されない。生姜の原料植物は、特に制限されるものではないが、代表的にはショウガ(Zingiber officinale Roscoe)等のショウガ属植物が挙げられる。生姜は、原料植物において、生薬として使用し得る部位である限り特に制限されず、通常、原料植物の根茎を含む。生姜の状態は、特に制限されず、乾燥状態又は非乾燥状態である。抽出は、生薬エキスの抽出方法として一般的に採用されている方法で行うことができ、具体的には、例えば水又は含水エタノールを抽出溶媒として用いて、生姜を常温乃至高温条件下で抽出処理する方法が挙げられる。生姜エキスとしては、1種単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0020】
乾姜エキスは、生薬である乾姜の抽出物である限り、特に制限されない。乾姜の原料植物は、特に制限されるものではないが、代表的にはショウガ(Zingiber officinale Roscoe)等のショウガ属植物が挙げられる。乾姜は、原料植物において、生薬として使用し得る部位である限り特に制限されず、通常、原料植物の根茎を含む。乾姜の状態は、特に制限されず、通常、乾燥状態である。抽出は、生薬エキスの抽出方法として一般的に採用されている方法で行うことができ、具体的には、例えば水又は含水エタノールを抽出溶媒として用いて、乾姜を常温乃至高温条件下で抽出処理する方法が挙げられる。乾姜エキスとしては、1種単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
大棗エキスは、生薬である大棗の抽出物である限り、特に制限されない。大棗の原料植物は、特に制限されるものではないが、代表的にはZizyphus jujuba Miller var. inermis Rehder等のナツメ属植物が挙げられる。大棗は、原料植物において、生薬として使用し得る部位である限り特に制限されず、通常、原料植物の果実を含む。大棗の状態は、特に制限されず、通常、乾燥状態である。抽出は、生薬エキスの抽出方法として一般的に採用されている方法で行うことができ、具体的には、例えば水又は含水エタノールを抽出溶媒として用いて、大棗を常温乃至高温条件下で抽出処理する方法が挙げられる。大棗エキスとしては、1種単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
小麦エキスは、生薬である小麦の抽出物である限り、特に制限されない。小麦の原料植物は、特に制限されるものではないが、代表的にはTriticum aestivum等のコムギ属植物が挙げられる。小麦は、原料植物において、生薬として使用し得る部位である限り特に制限されず、通常、原料植物の果実を含む。小麦の状態は、特に制限されず、通常、乾燥状態である。抽出は、生薬エキスの抽出方法として一般的に採用されている方法で行うことができ、具体的には、例えば水又は含水エタノールを抽出溶媒として用いて、小麦を常温乃至高温条件下で抽出処理する方法が挙げられる。小麦エキスとしては、1種単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
桔梗エキスは、生薬である桔梗の抽出物である限り、特に制限されない。桔梗の原料植物は、特に制限されるものではないが、代表的にはPlatycodon glandiflorum (Jacq.) A. DC.等のキキョウ属植物が挙げられる。桔梗は、原料植物において、生薬として使用し得る部位である限り特に制限されず、通常、原料植物の根またはコルク皮を除いた根を含む。桔梗の状態は、特に制限されず、通常、乾燥状態である。抽出は、生薬エキスの抽出方法として一般的に採用されている方法で行うことができ、具体的には、例えば水又は含水エタノールを抽出溶媒として用いて、桔梗を常温乃至高温条件下で抽出処理する方法が挙げられる。桔梗エキスとしては、1種単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0024】
漢方エキスを得るための原料生薬の質量比は、特に制限されず、各漢方エキスにおいて公知の質量比に従った又は準じた質量比を採用することができる。甘草乾姜湯エキスを得るための原料生薬の質量比としては、特に限定されないが、例えば、好ましくは、甘草1に対し、乾姜が0.1~1.5であり、より好ましくは、甘草1に対し、乾姜が0.2~1.0である。別の例として、甘麦大棗湯エキスを得るための原料生薬の質量比としては、特に限定されないが、例えば、好ましくは、甘草1に対し、大棗が0.5~2.0、小麦が2.6~6.6であり、より好ましくは、甘草1に対し、大棗が0.7~1.7、小麦が3.5~4.5である。別の例として、特に限定されないが、例えば、桔梗湯エキスを得るための原料生薬の質量比としては、好ましくは、甘草1に対し、桔梗が0.1~2.0であり、より好ましくは、甘草1に対し、桔梗が0.1~1.2である。
【0025】
漢方エキスとしては、1種単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
2.用途
甘草エキスを含む漢方エキスは、Aβオリゴマーの形成を抑制し、またAβによるMAP-2プロモーター活性低下を抑制することができる。このため、該漢方エキスは、Aβによる神経細胞傷害を抑制するための組成物、Aβオリゴマー形成抑制用組成物、AβによるMAP-2プロモーター活性低下を抑制するための組成物等の成分として利用することが期待される。また、該漢方エキスは、上記作用を有するので、Aβによる神経細胞傷害が認められる疾患又は症状の予防、改善又は治療に利用することができる。このような疾患又は症状としては、例えば神経変性疾患(又は神経変性状態)、より具体的には、例えば、アルツハイマー病、軽度認知障害、レビー小体認知症、ダウン症候群、遺伝性アミロイド性脳出血オランダ型、グアムのパーキンソニズム認知症複合、脳アミロイド血管症、封入体筋炎、前頭側頭認知症、加齢性黄斑変性症、ピック病等が挙げられる。
【0027】
Aβはアミロイドβタンパクであって、複数の分子種を包含する総称である。Aβが2分子以上からなる重合体をAβオリゴマーと称する。Aβとしては、例えば疎水性ペプチドであるAβ1-42(分子量4,514)、Aβ1-40(分子量4,329.8)等が挙げられる。これらの中でも、特にAβ1-42オリゴマーが神経細胞傷害に与える影響が比較的大きいと考えられている。Aβオリゴマーは、特に制限されないが、例えばAβの2~50量体であってもよく、Aβの2~30量体であってもよい。Aβオリゴマーは、特に制限されないが、例えば、培養液やリン酸緩衝液などの溶媒中において、室温や37℃に静置することによって自然に形成させることができる。
【0028】
神経細胞は細胞核のある細胞体、他の細胞からの入力を受ける樹状突起、他の細胞に出力する軸索に分けられ、樹状突起と軸索を介した情報伝達という重要な機能を担う。本明細書における神経細胞傷害とは、樹状突起に存在するMAP-2の遺伝子やタンパク質の量が減少することを指し、さらには、情報伝達機能に障害がおきる可能性をいう。
【0029】
本発明の組成物は、一態様として、治療的又は非治療的用途(例えば予防、改善等)に使用することができる。また、本発明の組成物は、対象、特に限定されないが、例えば、ヒトを含む哺乳動物(特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタなど、好ましくはヒト)に対して適用する(例えば摂取させる、接種する、又は投与する)ことができる。
【0030】
本発明の組成物中の漢方エキスの含有量は、Aβによる神経細胞傷害の抑制作用が発揮され得る量である限り、特に制限されない。該含有量は、特に限定されないが、例えば1日分の適用量が0.1~15 gとなる量であることが好ましく、1日分の適用量が0.2~4.5 gとなる量であることがより好ましい。漢方エキスが甘草乾姜湯エキスである場合について、特に限定されないが、より具体的には次のとおりである。甘草乾姜湯エキス1日量としては、特に限定されないが、例えば、生薬である甘草0.5~10 g、乾姜0.2~5 gを抽出したエキス0.1~10 gが好ましい。より好ましくは、甘草0.5~4 g、乾姜0.2~2 gを抽出したエキス0.2~5 gである。更に好ましくは、甘草0.5~2 g、乾姜0.2~1 gを抽出したエキス0.2~2 gである。漢方エキスが甘麦大棗湯エキスである場合について、特に限定されないが、より具体的には次のとおりである。甘麦大棗湯エキス1日量としては、特に限定されないが、例えば、生薬である甘草0.5~10 g、大棗0.6~12 g、小麦2~40 gを抽出したエキス0.1~15 gが好ましい。より好ましくは、例えば、甘草0.5~5 g、大棗0.6~6 g、小麦2~20 gを抽出したエキス0.5~10 gである。更に好ましくは、例えば、甘草1~2 g、大棗1.2~2.4 g、小麦4~8 gを抽出したエキス1~4.5gである。漢方エキスが甘草湯である場合について、特に限定されないが、より具体的には次のとおりである。甘草湯エキス1日量としては、特に限定されないが、例えば、生薬である甘草0.1~16 gを抽出したエキス0.1~6 gが好ましい。より好ましくは、例えば、甘草0.2~8 gを抽出したエキス0.1~3 gである。更に好ましくは、例えば、甘草0.5~2 gを抽出したエキス0.2~0.7 gである。漢方エキスが桔梗湯である場合について、特に限定されないが、より具体的には次のとおりである。桔梗湯エキス1日量としては、特に限定されないが、例えば、生薬である甘草0.1~16 g、桔梗0.1~8 gを抽出したエキス0.1~6 gが好ましい。より好ましくは、例えば、甘草0.2~8 g、桔梗0.2~4 gを抽出したエキス0.1~3 gである。更に好ましくは、例えば、甘草0.3~3 g、桔梗0.2~2 gを抽出したエキス0.2~1 gである。
【0031】
本発明の組成物は、甘草エキスを含む漢方エキスのみからなるものとすることができ、あるいは甘草エキスを含む漢方エキス以外の追加の成分を含むものとすることもできる。本発明の組成物中の甘草エキスを含む漢方エキスの配合量は、形態、剤型、症状などに応じて適宜設定することができる。このような追加の成分を含む場合、本発明の組成物中の甘草エキスを含む漢方エキスの割合は、特に限定されず、典型的には0.1~99.9質量%である。例えば、漢方エキスが甘麦大棗湯エキスである場合については、該割合としては、特に限定されないが、好ましくは1~42質量%、より好ましくは3~30質量%を例示することができる。別の例として、漢方エキスが甘草乾姜湯エキスである場合については、該割合としては、特に限定されないが、好ましくは0.3~50質量%、より好ましくは0.5~15質量%を例示することができる。別の例として、漢方エキスが甘草湯エキスである場合については、該割合としては、特に限定されないが、好ましくは0.3~31質量%、より好ましくは0.5~22質量%を例示することができる。別の例として、漢方エキスが桔梗湯エキスである場合については、該割合としては、特に限定されないが、好ましくは3~32質量%、より好ましくは9.5~16質量%を例示することができる。
【0032】
本発明の組成物は、その形態を特に問うものではなく、例えば、ゼリー状、粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状、液状、懸濁液状、乳液状などの製剤形態を有し得る。
【0033】
本発明の組成物の適用方法としては、特に限定されないが、例えば、好ましくは、経口適用である。また、経口適用以外の適用方法も可能であり、例えば、本発明の組成物には、効率的な体内輸送を目的として、基剤が配合されてもよい。当該基剤には、一般的なゲル化剤が用いられ、適度な保存安定性が求められるため、特に限定されないが、例えば、ゼラチン以外のものが好ましい。そのようなゲル化剤としては、特に限定されないが、例えば、カラギーナン、ローカストビーンガム(カロブビーンガム)、キサンタンガム、ポリアクリル酸、ジェランガム、サイリウムシードガム、タラガム、グァーガム、寒天、ペクチン、アルギン酸などが好ましい。
【0034】
本発明の組成物は、食品、医薬品、医薬部外品、飼料などとして使用することができる。また、本発明の組成物は、食品、医薬品、医薬部外品、飼料などの添加剤についての意味も包含するものである。
【0035】
本明細書における食品とは、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品)、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品などについての意味も包含する。
【0036】
食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。食品の種類は、特に限定されず、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、炭酸飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、日本酒、果実酒、洋酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、キャンデー、ゼリー、クッキー、ケーキ、チョコレート、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、旨味調味料、ふりかけ、スープの素等)などが挙げられる。食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0037】
食品をサプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤、ゼリー等が挙げられる。
【0038】
食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができ、1日当たりの漢方エキスの摂取量としては、例えば、前述の適用量が挙げられる。
【0039】
医薬品及び医薬部外品として調製する場合、漢方エキスをそのまま使用するか、又は医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、フィルムコート錠、発泡錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、ゼリー、シロップ、ペーストなどの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。医薬品において許容される無毒性の担体としては、例えば、結合剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0040】
上記の医薬品及び医薬部外品の投与方法は特に限定されず、例えば、経口投与、直腸投与、経腸投与、口腔内投与、動脈内投与、静脈内投与、経皮投与などにより行うことができる。
【0041】
医薬品及び医薬部外品の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができ、1日当たりの漢方エキスの投与量としては、例えば、前述の適用量が挙げられる。
【0042】
各漢方エキスは既に医薬品として販売されているものもあるが、入手性の観点より、本発明の組成物は、特に限定されないが、例えば、一態様として、食品として使用されることが好ましい。
【0043】
食品、医薬品、医薬部外品等には、例えば、アルツハイマー病などの神経変性疾患の発症の予防や遅延を促す、認知機能の低下を抑える等の表示が付されていてもよい。
【0044】
本発明の組成物は、一態様として、他の組成物と併用することもできる。例えば、本発明の組成物をアルツハイマー病などの神経変性疾患の発症の予防や、発症の遅延を促すことが期待できる素材および組成物と併用することで、アルツハイマー病などの神経変性疾患の予防や、発症の遅延を促す効果を更に高めることができる。
【0045】
本発明の組成物は、特に限定されないが、例えば、一態様として、継続して摂取することが好ましい。例えば、1週間以上継続して摂取することが好ましく、2週間以上継続して摂取することがより好ましく、3週間以上継続して摂取することが更に好ましい。
【0046】
本発明の組成物は、一態様として、Aβによる神経細胞傷害を抑制するために有効な1日分の適用量の漢方エキスを含むものとすることができる。この場合、本発明の組成物は、1日分の有効適用量を適用できるように包装されていてもよい。このように1日分の有効適用量が適用できる限り、包装形態は一包装であっても、又は複数包装であってもよい。また、1日分の有効適用量を複数包装とする場合には、1日分の有効適用量の複数包装をセットとすることもできる。
【0047】
包装形態として、一定量を含有できる形態であれば特に限定されず、例えば、袋、包装紙、紙容器、ソフトバック、缶、ボトル、カプセルなどが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
実施例1.Aβによるマウス神経細胞傷害に対する抑制試験
a)MAP-2プロモーター遺伝子と緑色ルシフェラーゼ(SLG)遺伝子の融合遺伝子を含むマウスES安定形質転換株の作製
マウスES細胞は非特許文献(Le Coz, F. et al. J. Toxicol. Sci. 40, 251-261 (2015))記載の方法で取得した。プラスミドベクターpGL4.17(Promega製、カタログ番号:E6721)を制限酵素EcoRV及びBamHIで切断し、マウスMAP-2遺伝子の上流5kbのプロモーター遺伝子と、KOZAK配列(ctgcagcccaccacc(配列番号1))を付したSLG遺伝子をinfusion法で連結させた。マウスMAP-2遺伝子の上流5kbのプロモーター配列はマウスES細胞のゲノムDNAを鋳型として、プライマー(5'- atacgcaaacggatcgggcctatgagttccatcttag-3’ (配列番号2)、及び5'- ggtggtgggctgcagctgggcgcggaaagaggacg-3’ (配列番号3))を用いてPCR法で増幅した。KOZAK配列を付したSLG遺伝子はInvitrogenにて人工合成した。Infusion法にてそれぞれの断片を結合させた後、DNAシークエンサーによってMAP-2プロモーター遺伝子及びSLG遺伝子の配列を確認し、MAP-2-Lucプラスミドと称した。
【0050】
次に、MAP-2-Lucプラスミドを制限酵素SalIと反応させて直線化し、アガロースゲルで精製したプラスミドをlipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific製、カタログ番号:11668089)を用いてマウスES細胞に導入した。遺伝子導入したマウスES細胞をトリプシン処理して単一細胞とし、100-150μg/ml G418(Thermo Fisher Scientific製、カタログ番号:11811031)を含む培地に分散して96ウエルプレートに1細胞/ウエルになるようにマウス胎児線維芽細胞(リプロセル製、カタログ番号:RCHEFC003)の上に播種した。数回、継代した後、残った細胞を薬剤耐性株として79株得た。それぞれの細胞株を下記に記載する神経細胞へ分化させ、分化誘導0日及び11日のルシフェラーゼ活性(発光値)をTriple Luciferase Assay System(Promega製)を用いて測定し、分化誘導0日と比べて分化誘導11日に10倍以上の活性が認められたクローンをMAP-2-Luc/マウスES細胞と称した。
【0051】
b)神経細胞への分化
MAP-2-Luc/マウスES細胞は、10% KnockOut Serum Replacement (KSR; Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:10828028)、1% 牛胎児血清、0.1mM 非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 2-メルカプトエタノール、2U/ml 白血病阻止因子(オリエンタル酵母工業製、カタログ番号:NIB 47081000)及び100μg/ml G418を含む Glasgow’s MEM培地 (G-MEM; Thermo Fisher Scientific製、カタログ番号:11710035)中で維持した。
【0052】
神経細胞への分化は、以下の通りにして行った。すなわち、MAP-2-Luc/マウスES細胞を10% KSR、2mM グルタミン、0.1mM 非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 2-メルカプトエタノール及び1μM SB431542(Sigma-Aldrich製、カタログ番号:S4317)を含むG-MEM培地に懸濁し、6000細胞/ウエルでNunclon sphera 96Uプレート(Thermo Fisher Scientific製、カタログ番号:174929)に播種して6日間培養した後、培地をGlutaMax及びN2サプリメント(富士フィルム和光製、カタログ番号:141-08941)を含むDMEM/F12培地(以下、分化用培地、という)に交換した。この条件下で分化19日まで培養して神経分化させた。
【0053】
分化誘導19日に、神経細胞分散液(DSファーマバイオメディカル製、カタログ番号:SBMBX9901D-2A)で細胞塊を分散させ、神経培地(1% 200mM グルタミン酸、2% B27を含むNeurobasal medium)で懸濁し、96ウエル白色透明ボトムのポリ-D-リシンコートプレート(BDファルコン製、カタログ番号:356651)に6.4×104細胞を播種し、培養を行った。
【0054】
c)Aβ
1-42
によるMAP-2プロモーター活性低下に対する各エキスの抑制効果の測定
生薬エキスとして、各種漢方エキス(甘麦大棗湯エキス(松浦薬業製、製造番号:T-1808)、甘草乾姜湯エキス(松浦薬業製、製造番号:T-1808)、桔梗湯エキス(松浦薬業製、製造番号:T-1808)、又は甘草湯エキス(松浦薬業製、製造番号:T-1808))、又はイチョウ葉エキス(Herb Green Health製))を使用して、AβによるMAP-2プロモーター活性低下に対する各エキスの抑制効果を測定した。各漢方エキスの原料生薬の種類及びその質量比を表1に示す。具体的には以下のようにして行った。
【0055】
【0056】
乾燥ヒトAβ1-42(株式会社ペプチド研究所製、カタログ番号:4349-v)に1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)を加えて溶解し、室温で16時間放置した後に2時間真空乾燥して-20℃で保存した。HFIP処理した乾燥Aβ1-42にDMSOを加えて100μMとした。
【0057】
神経分化させたMAP-2-Luc/マウスES細胞を神経培地で培養した9日目に、Aβ1-42の終濃度が10μMとなるよう、100μM Aβ1-42を添加した。次に、5種類の漢方エキスを検体としてそれぞれ培地に添加して、5日間培養した。各培地において、甘麦大棗湯エキスの濃度、甘草乾姜湯エキスの濃度、桔梗湯エキスの濃度、又は甘草湯エキスの濃度、及びイチョウ葉エキスの濃度は、それぞれ750μg/ml、75μg/ml、75μg/ml、25μg/ml、250μg/mlとした。その後、Triple Luciferase Assay System用いてルシフェラーゼ活性を測定した。Aβ1-42によるMAP-2プロモーター活性低下に対する抑制率は以下の通りにして算出した。
【0058】
【0059】
その結果、表2に示すように、甘草エキスを含む漢方エキス(甘草乾姜湯エキス、甘麦大棗湯エキス、桔梗湯エキス、及び甘草湯エキス)は、Aβ1-42によるMAP-2プロモーター活性低下に対して抑制効果を示した。また、上記漢方エキスの中でも、甘草乾姜湯エキス及び甘麦大棗湯エキス(特に甘草乾姜湯エキス)は高い抑制効果を示した。
【0060】
【0061】
実施例2.Aβオリゴマーの形成に対する抑制効果の測定
HFIP処理した乾燥Aβ1-42にDMSOを加えて500μMとした後に、PBSで希釈した5μM溶液を96ウエルブラックプレート(Greiner製、カタログ番号:655900)の各ウエルに90μlずつ添加した。また、対照として、1% DMSOを含むPBSを各ウエル90μlずつ添加した。次に、5種類の漢方エキスを検体として、各検体10μlをそれぞれ培地に添加して混和した後に、37℃インキュベーター中で5日間静置した。各培地において、甘麦大棗湯エキスの濃度、甘草乾姜湯の濃度エキス、及び甘草湯エキスの濃度は、それぞれ750μg/ml、75μg/ml、25μg/mlとした。各反応液10μl をチオフラビンT溶液(10mM リン酸緩衝液(pH7.5)、5μMチオフラビンT、100mM NaCl)100μlに加え、室温で30分間混和してAβ1-42オリゴマー形成のレベルを蛍光測定(Ex=435nm、Em= 485nm)した。Aβオリゴマーの形成に対する阻害率は以下の通りにして算出した。
【0062】
【0063】
その結果、表3に示すように、甘麦大棗湯エキス、甘草乾姜湯エキス及び甘草湯エキスは、Aβオリゴマーの形成に対し、高い抑制効果を示した。
【0064】
【0065】
実施例1及び実施例2における以上の結果から、甘草エキスを含む漢方エキスは、Aβオリゴマーの形成を抑制し、Aβによる神経細胞傷害を抑制することができることが分かった。
【配列表】