IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

<>
  • 特許-微細構造体の製造方法 図1
  • 特許-微細構造体の製造方法 図2
  • 特許-微細構造体の製造方法 図3
  • 特許-微細構造体の製造方法 図4
  • 特許-微細構造体の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】微細構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20241011BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20241011BHJP
   G02B 5/00 20060101ALN20241011BHJP
   G02B 1/02 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G02B1/04
G02B5/00 Z
G02B1/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021554886
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039860
(87)【国際公開番号】W WO2021090705
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2019203525
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】水谷 康弘
(72)【発明者】
【氏名】高谷 裕浩
(72)【発明者】
【氏名】中西 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】江崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】牧浦 良彦
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-523468(JP,A)
【文献】特表2013-531818(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0226139(US,A1)
【文献】特開2015-169803(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190247(WO,A1)
【文献】中西弘樹ほか,“タルボット効果による多重露光リソグラフィを用いた3次元ナノ周期構造の作製”,精密工学会誌,日本,公益社団法人精密工学会,2019年08月05日,85巻, 8号,pp.710-716,DOI: 10.2493/jjspe.85.710
【文献】Harun H. SOLAK et al.,“Displacement Talbot lithography: a new method for high-resolution patterning of large areas”,Optics Express,米国,OSA,2011年05月16日,Vol. 19, No. 11,pp.10686-10691,DOI: 10.1364/OE.19.010686
【文献】P. J. P. CHAUSSE et al.,“Understanding resolution limit of displacement Talbot lithography”,Optics Express,米国,OSA,2019年02月20日,Vol. 27, No. 5,pp.5918-5930,DOI: 10.1364/OE.27.005918
【文献】江崎隆ほか,“タルボット効果を用いた広範囲3次元リソグラフィ(第3報) -高分子膜への構造転写手法の開発-”,精密工学会学術講演会講演論文集,日本,公益社団法人精密工学会,2019年08月20日,pp.542-543,DOI: 10.11522/pscjspe.2019A.0_542
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に孔を含む微細構造体の製造方法であって、
(1)基板上にエネルギー線活性樹脂を均一厚みに塗工する工程と、
(2)前記塗工したエネルギー線活性樹脂層をプリベーク(加熱)する工程と、
(3)前記(2)で得られた樹脂層に対し回折格子を上面に設置し、エネルギー線を斜め方向から照射し、樹脂層にパターンを生成する工程と、
(4)前記(3)で得られた樹脂層を現像液により化学反応させ、硬化閾値を超えるエネルギー線照射を受けた部分を溶解させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった部分を硬化させる工程、または硬化閾値を超えるエネルギー線照射を受けた部分を硬化させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった部分を溶解させる工程と、
(5)前記(4)により得られた基板を純水にて洗浄処理することにより溶解部を溶出させ、微細構造体を得る工程
を含み、
前記微細構造体はエネルギー線活性樹脂を含むシートであり、
少なくとも内部まで、傾斜を有する孔が造形されており、
前記微細構造体内部の孔は、タルボット距離が下記(数1)で規定される造形パターンの形状をしており、
隣り合うタルボット構造との関係式が下記(数2)及び(数3)を満たし、
【数1】
【数2】
【数3】
但し、(数1)~(数3)において、
T :タルボット距離(nm)
n:露光マスクの回折格子の、回折格子に照射される紫外線(UV)の屈折率
d:露光マスクの回折格子のピッチ間距離(nm)
λ:微細構造体の製造時に照射する紫外線(UV)の光波長(nm)
ΔX:照射面から見て1列目の照射スポット部分と、隣り合う3列目の照射スポット部分の水平距離(nm)
θi:紫外線(UV)の照射角度
平面方向に周期性のある形状を有することを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項2】
前記エネルギー線の斜め方向からの照射が、垂直方向から30~50°の傾斜位置である請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項3】
前記エネルギー線活性樹脂がレジスト用樹脂である請求項1又は2に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項4】
前記エネルギー線活性樹脂がポジ型レジスト用樹脂である請求項1~のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項5】
前記周期性のある形状が、格子ピッチ:波長λ≦格子ピッチdであり、かつピッチデューティ比:0.2~0.7である請求項1~のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項6】
前記構造体内部の孔は、表裏面に貫通している請求項1~のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
前記構造体内部の孔は、溝及び/又は穴を含む請求項1~のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
前記構造体内部の孔は、独立気泡状態である請求項1~のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項9】
前記周期性のある形状が、規則性のある形状である請求項1~のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項10】
前記傾斜を有する孔は、垂直方向から15~30°傾斜している請求項1~のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タルボット効果を用いて加工する微細構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブミクロンオーダーの3次元構造体に注目が集まっている。半導体デバイスおよび微小電気機械システム(MEMS)における微細構造の部品や生物が有する機能性微細構造を模したバイオミメティクス構造体、屈折率が異なる物質を光の波長と同程度の間隔で並べることで構成される、ナノ構造のフォトニック結晶があげられる。これらのサブミクロンオーダーの3次元構造体、特に周期構造を持つ構造体は、機能性の材料として注目が集まっている。微細構造体を作製する手法としては、リソグラフィ、エッチング、ナノインプリント、レーザー微細加工、原子間力顕微鏡(AFM)による原子操作及び自己組織化手法、等がある。これらの方法において、構造の多次元化に伴い、加工に要する時間が長くなり、加工効率を向上させることが求められている。また、複雑な構造の作製も要求されており、周期性を任意に制御可能な高い加工自由度と加工精度も求められている。しかしながら、加工効率と加工自由度はトレードオフの関係にあり、簡易な手法でありながら多次元加工成形を実現する技術が確立されておらず、構造体の開発が行われている。また、加工精度を高めるだけでなく、加工領域をミリメートルオーダーの広範囲の領域とすることも構造体を製造する上で求められている。
【0003】
微細構造体を簡便に製造する方法には、レジスト用樹脂を材料として、3次元リソグラフィ技術を用いて作製する手法があげられ、特に,タルボット効果を用いた3次元リソグラフィ加工は、特定の波長と回折格子を用いることで、周期的なパターンを大面積に一括して成形することが容易となり、加工効率は極めて高い。しかし、タルボット効果を用いたリソグラフィは、周期を制御するパラメータが波長と格子ピッチとなり、周期の制御が2次元に限定されるため加工自由度が低いという問題があり、加工領域を3次元構造体の「表面」や「内部」に限定せずに任意の形状を加工する技術は確立されてなかった。
【0004】
特許文献1には、タルボット効果を用いたリソグラフィ加工の技術が開示されているが、エッチング用スクリーンマスクの加工を目的とした技術であるため、構造体の内部加工は行われていない。特許文献2には、タルボット効果を用いて高精度のパターンが形成可能なマスク及びパターン形成する方法が開示されているが、構造体を作製する技術ではない。特許文献3には、エッチングにより周期構造の凹部又は孔を形成することがされているが、微細構造を簡易に作製することは困難である。非特許許文献1には、タルボット効果による光造形手法を応用して金属ナノ粒子を分散させる構造の提案であるが、実際タルボット効果による明確な階層構造を作製するまでは至っていない。非特許文献2には、1次元層構造および2次元周期構造における広範囲のナノ構造を作製することが開示されているが、構造体の精度や構造維持に問題があり、周期性のある構造体には至っていない。非特許文献3および非特許文献4には、多重露光の数値解析の結果から3次元ナノ周期構造が作製できる可能性が示唆されているが、構造体の精度や構造維持に問題があり、実用レベル構造体には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2016-190247号明細書
【文献】特開2015-169803号公報
【文献】特開2006-343671号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】タルボット効果を用いた金属3次元ナノ構造の作製(第1報)、格子形状の影響解析及び作製プロセスの検証(2016年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集)
【文献】タルボット効果を用いた広範囲3次元リソグラフィ(第1報)、波面制御および定在波を援用した機能性構造の作製(2017年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集)
【文献】タルボット効果を用いた広範囲3次元リソグラフィ(第2報)、多重露光を援用した3次元ナノ周期構造の作製(2019年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集)
【文献】タルボット効果による多重露光リソグラフィを用いた3次元ナノ周期構造の作製(精密工学会誌/Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol.85, No.8, 2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上説明のとおり、レジスト用樹脂による3次元構造体に関して、有用な技術として着目され従来から研究がなされているが、本格的な実用化には至っていない。これは、3次元構造の周期性を制御することが難しいためである。
本発明は、これら従来の課題を解決するため、構造体の表面及び内部の周期性まで制御した微細成形加工ができる3次元構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内部に孔を含む微細構造体の製造方法であって、
(1)基板上にエネルギー線活性樹脂を均一厚みに塗工する工程と、
(2)前記塗工したエネルギー線活性樹脂層をプリベーク(加熱)する工程と、
(3)前記(2)で得られた樹脂層に対し回折格子を上面に設置し、エネルギー線を斜め方向から照射し、樹脂層にパターンを生成する工程と、
(4)前記(3)で得られた樹脂層を現像液により化学反応させ、硬化閾値を超えるエネルギー線照射を受けた部分を溶解させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった部分を硬化させる工程、または硬化閾値を超えるエネルギー線照射を受けた部分を硬化させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった部分を溶解させる工程と、
(5)前記(4)により得られた基板を純水にて洗浄処理することにより溶解部を溶出させ、微細構造体を得る工程
を含み、
前記微細構造体はエネルギー線活性樹脂を含むシートであり、
少なくとも内部まで、傾斜を有する孔が造形されており、
前記微細構造体内部の孔は、タルボット距離が下記(数1)で規定される造形パターンの形状をしており、
隣り合うタルボット構造との関係式が下記(数2)及び(数3)を満たし、
【数1】
【数2】
【数3】
但し、(数1)~(数3)において、
T :タルボット距離(nm)
n:露光マスクの回折格子の、回折格子に照射される紫外線(UV)の屈折率
d:露光マスクの回折格子のピッチ間距離(nm)
λ:微細構造体の製造時に照射する紫外線(UV)の光波長(nm)
ΔX:照射面から見て1列目の照射スポット部分と、隣り合う3列目の照射スポット部分の水平距離(nm)
θi:紫外線(UV)の照射角度
平面方向に周期性のある形状を有する微細構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の微細構造体は、露光の入射角とタルボット距離の調整により、構造体の表面や内部に孔空け加工でき、構造体の表面及び内部まで周期性を制御して微細成形加工ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは本発明の基本概念を説明するため、フォトレジスト樹脂の上面に露光マスクを設置し、紫外線(UV)を照射する模式的断面図、図1Bは同、フォトレジスト樹脂内に光が照射された部分を説明する模式的断面図である。
図2図2Aは従来例の露光を示す模式的断面図、図2Bは本発明の一実施形態の露光の模式的断面図である。
図3図3A-Eは本発明の一実施形態の製造方法を示す模式的断面図であり、図3Fは模式的斜視図である。
図4図4Aは本発明の実施例1の微細構造体の内部を示す模式的斜視図、図4Bは同、写真である。
図5図5Aは比較例の微細構造体の内部を示す模式的斜視図、図5Bは同、写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、エネルギー線活性樹脂を含むシートに傾斜を有する孔が造形されている。前記傾斜を有する孔は、垂直方向から15~30°の範囲で傾斜しているのが好ましい。さらに好ましくは、16°~27°の範囲がよい。これにより連続孔が形成できる。構造体の内部の孔は、タルボット距離が前記(数1)で規定される造形パターンの形状をしており、隣り合うタルボット構造(孔)との関係式が下記(数2)及び(数3)を満たし、平面方向に周期性のある形状を有する。
【0013】
エネルギー線活性樹脂はレジスト用樹脂が好ましく、より好ましくはポジ型レジスト用樹脂である。ポジ型レジスト用樹脂はエネルギー線を露光させることにより、露光部は溶液に溶ける性質を有し、微細加工に好適である。ネガ型レジスト用樹脂は、ポストベーク処理による高温に曝されるため、樹脂にひずみが生じ、正確な周期性を持った微細構造体を得にくい。
【0014】
前記周期性のある形状は、格子ピッチ:波長λ≦格子ピッチdであり、かつピッチデューティ比:0.2~0.7が好ましい。これにより、より微細な加工ができる。前記周期性のある形状は、規則性のある形状が好ましい。これにより均一性の高い微細構造体となる。
【0015】
前記構造体内部の孔は、表面から内部まで存在していてもよいし、表裏面に貫通していてもよい。この孔は、溝及び/又は穴を含む概念である。
【0016】
本発明の微細構造体の製造方法は、下記の工程を含む。
(1)基板上にエネルギー線活性樹脂を均一厚みに塗工する工程。
(2)前記塗工したエネルギー線活性樹脂層をプリベーク(加熱)する工程。
(3)前記(2)で得られた樹脂層に対し回折格子を上面に設置し、タルボット効果が得られるエネルギー線を斜め方向から照射し、樹脂層にパターンを生成する工程。
(4)前記(3)で得られた樹脂層を現像液により化学反応させ、硬化閾値を超えるエネルギー線照射を受けた樹脂部分を溶解させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった樹脂部分を硬化させる工程、または硬化閾値を超えるエネルギー線照射を受けた部分を硬化させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった部分を溶解させる工程。
(5)前記(4)により得られた樹脂を純水にて洗浄処理することにより溶解部を溶出させ、微細構造体を得る工程。
【0017】
前記(1)のエネルギー線活性樹脂を均一厚みに塗工する手段は、一例としてスピンコート法が使用できる。スピンコート法は比較的小さな面積で薄く均一膜厚で塗工できる。
前記(2)のプリベーク(加熱)条件は、メーカー推奨値の0~100℃で1~5分程度が好ましい。
前記(3)のパターンを生成工程のエネルギー線の斜め方向からの照射は、垂直方向から30~50°の角度が好ましく、より好ましくは35~45°の角度である。これにより連続孔が形成できる。また、露光量は100~300mJ/cm2、露光回数は1回がそれぞれ好ましい。
前記(3)と(4)の間に、露光後のレジストを安定化させるためにポストベーク(加熱)するのが好ましい。ポストベーク条件は、30~100℃で1~60分程度が好ましい。
前記(5)の洗浄処理は、一例としてスピンコート法が使用できる。
【0018】
本発明の微細構造体の一例は次のとおりである。
(1)加工領域は1回の露光で1辺が20mmの面積まで可能である。さらに広い面積を加工する場合は、露光を繰り返すことにより可能である。
(2)構造体の厚みは500nm~100μmが可能である。より好ましくは700nm~50μm、さらに好ましくは1~20μmである。
(3)微細加工できる孔の長さ(深さ方向の長さ)は、10nm~3000nmが好ましい。より好ましくは100~1500nmである。
(4)周期性は、1~20周期まで可能であり、好ましくは2周~10周程度である。
【0019】
本発明で使用するタルボット効果は次のとおりである。
(1)平面波が回折格子に入射した際に,フレネル領域の回折光同士が干渉することで周期的な光強度分布が3次元的に繰り返される現象である。
(2)周期的な光強度分布を回折格子で発生させ,リソグラフィの露光に用いることで,大面積に周期的な微細構造を一括で3次元的に加工することが可能である。
【0020】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1Aは本発明の基本概念を説明するための図面であり、フォトレジスト樹脂3の上面に光学フィルター(露光マスク)2を設置し、紫外線(UV)1を照射する模式的断面図である。フォトレジスト樹脂3はポジ型フォトレジスト用樹脂を使用し、光学フィルター(露光マスク)2は一例としてポリカーボネート製の回折格子を使用する。フォトレジスト樹脂3と光学フィルター(露光マスク)2の間隔を距離lとする。X,Yは面方向、Zは深さ方向である。詳細は図面内に示すとおりである。図1Bは同、フォトレジスト樹脂3内に光が照射された露光部分4を説明する模式的断面図である。露光された光強度分布はドット模様で示しており、ドット数が多いほど露光強度が高い。露光強度は,一番強い光強度で規格化しているため任意単位(a.u.と表記)とした。
【0021】
図2Aは従来例の露光を示す模式的断面図である。フォトレジスト樹脂3の表面に対して垂直方向から紫外線(UV)1を照射すると、露光部分5a,5bができる。ZTはタルボット距離(nm)である。すなわち、照射面から見て同一照射線の1列目の照射スポット部分の中心点と、3列目の照射スポット部分の中心点の垂直距離(nm)である。
【0022】
図2Bは本発明の一実施形態の露光の模式的断面図である。紫外線(UV)1の照射角度Θiは30~50°が好ましい。この範囲で照射すると、フォトレジスト樹脂3内部には連続した露光部6が形成される。露光部6を後に溶解させると、この部分は連続孔となる。Δxは照射面から見て1列目の照射スポット部分の中心点P1と、隣り合う3列目の照射スポット部分の中心点P2の水平距離(nm)である。
【0023】
図3A-Eは本発明の一実施形態の製造方法を示す模式的断面図であり、図3Fは模式的斜視図である。
(1)図3Aは、基板10上にバッハー層(buffer layer)11として、厚み10μmのフォトレジスト樹脂を硬化させたシートを配置し、その上にスピンコートにより、フォトレジスト樹脂液13を塗工し、フォトレジスト樹脂層12aとした状態を示す。
(2)図3Bは、前記塗工したフォトレジスト樹脂層12aをホットプレート14上でプリベーク(加熱)し、フォトレジスト樹脂層12bとした状態を示す。
(3)図3Cは、前記(2)で得られたフォトレジスト樹脂層12bの上に光学フィルター(露光マスク)15を載せ、紫外線(UV)16を斜め方向から照射し、フォトレジスト樹脂層12cに露光パターン17を形成した状態を示す。
(4)図3Dは、前記(3)で得られたフォトレジスト樹脂層12cを安定化させるためにポストベーク(加熱)する状態を示す。次いで、図3Eは、ポストベーク(加熱)したフォトレジスト樹脂層12dをスピンコートにより、現像液で化学反応させ、硬化閾値を超える紫外線(UV)照射を受けた部分17を溶解させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった樹脂部分19を硬化させる状態を示す。フォトレジスト樹脂層12eは孔18が空いた状態となる。
(5)図3Fは、前記(4)により得られた樹脂19を純水にて洗浄処理することにより溶解部を溶出させ、微細構造体となった状態を示す。
【0024】
本発明の好ましい加工条件は次のとおりである。
(1)樹脂材料
ポジ型レジストを用いるのが好ましい。例えばポジ型UV硬化樹脂が好ましい。ネガ型を用いると、バッハー層を配置させる工程が必要となる。また、ネガ型を用いると、ポストベーク処理による高温に曝されるため、樹脂にひずみが生じ、正確な周期性を持った微細構造体の製造ができにくい。樹脂加工温度(プリベーク)は、0~100℃が好ましい。これは樹脂メーカーの推奨される樹脂硬化温度域である。
(2)洗浄液:樹脂に非侵襲な液体であれば可能である。純水を使用するのが好ましい。
(3)光波長:レーザーによるUV光を用いる。例えばλ=360nmである。波長領域としては0.1nm~380nmが使用できる。エネルギー線は、紫外線(UV-A,B,C)、X線、電子線等が用いられる。
(4)回折格子:1枚以上の光学フィルターを使用する。例えばポリカーボネートの光学フィルターを用いる。格子ピッチ:波長λ≦格子ピッチdで規定される。ピッチデューティ比:0.2~0.7であり、好ましくは0.4~0.6である。一例として、格子ピッチ:747nm、格子高さ:150nmを使用する。これはDVD表面を利用できる。DVD以外の回折格子としては、表1に記載のものを使用できる。
【0025】
【表1】
【0026】
(5)加工パターン
規則性のある溝構造が形成できる。周期性があり、1~20周期まで任意に変更可能である。表面は鋭角にも平面にも造形可能である。
(6)加工特徴
(a)1ショット露光を行い、位相シフトによらない精密な加工を行う。
(b)露光状態・時間によって、加工状態を変更できる。光閾値を越えたら樹脂硬化が起こる。硬化は露光時間で制御する。
(c)照射光は、基材面の垂直方向から30~50°の入射角とする。
(d)タルボット距離を前記(数1)に規定する式で求める。これがタルボット効果の及ぼす範囲となる。加工特性は、前記(数2)及び(数3)で規定する。
この結果、下記のようになる。
(i)隣り合うタルボット距離を伸ばすことで、隣り合う加工領域を結合する。
(ii)隣り合う波長距離Xを制御することで、前後の加工領域を結合する。
【実施例
【0027】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
次のとおり実験した。
(1)スピンコーターを用い、基板10の上のバッハー層11上に厚みが均一なUV硬化樹脂のSIPR-3251-6.0(ShinEtsuMicroSi社製)樹脂層12aを形成した。厚みは6μmであった(図3A)。
(2)(1)により形成した樹脂層12aをホットプレート14に載せて、100℃で2分間プリベーク(加熱)処理を行い、樹脂層12aに含まれる溶媒を揮発させ、樹脂層12bとした(図3B)。
(3)(2)で得られた樹脂層12bに対し、ポリカーボネート製、屈折率n=1.59の回折格子15(ピッチ幅:747nm)を上面に設置した。紫外線LED面光源(波長λ=360nm)の光16を垂直方向から40°の角度で1ショット露光し、樹脂層12cにパターンを生成した(図3C)。このとき、前記数式1~3を満たすようにした。
(4)(3)で得られた樹脂層12cをSIPR-3251用現像液(現像液は樹脂購入時に付属)により化学反応させ、SIPR-3251の光硬化閾値を超える光照射を受けた部分を溶解させ、樹脂層12dとした(図3D)。次いで、樹脂層12dをスピンコートにより、現像液で化学反応させ、硬化閾値を超える紫外線(UV)照射を受けた部分18を溶解させ、エネルギー線硬化閾値に満たなかった樹脂部分19を硬化させた。フォトレジスト樹脂層12eは樹脂部19に孔18が形成された状態となった(図3E)。
(5)前記(4)により得られた樹脂19を純水にて洗浄処理することにより溶解部を溶出させ、微細構造体を得た(図3F)。
【0028】
(比較例1)
紫外線LED面光源(波長λ=360nm)の光16を垂直方向から照射した以外は実施例1と同様に実施した。
以上の条件と結果を表2にまとめて示す。
【0029】
【表2】
【0030】
図4A-Bに示すとおり、実施例1で得られた微細構造体(シート)20は、樹脂部21の内部まで、傾斜を有する連続孔22が周期性をもって造形されていた。
これに対して比較例1で得られた微細構造体(シート)23は、図5A-Bに示すとおり、樹脂部24の内部に独立気泡状態の孔25が造形されていた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の微細構造体は、樹脂層内部に溝、貫通孔、連続気泡などが形成されており、フィルターを含むフォトニック構造体、バイオミメティクス構造体、機能性部材等に応用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1,16 紫外線(UV)
2,15 光学フィルター(露光マスク)
3 フォトレジスト樹脂
4,5a,5b 露光部分
6 連続した露光部
10 基板
11 バッハー層
12a-12f フォトレジスト樹脂層
13 フォトレジスト樹脂液
14 ホットプレート
17 露光パターン
18 孔
19 樹脂部
20,23 微細構造体
21,24 樹脂部(シート)
22 傾斜を有する連続孔
25 独立気泡状態の孔
図1
図2
図3
図4
図5