(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案の算出方法
(51)【国際特許分類】
B21D 11/20 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
B21D11/20 B
(21)【出願番号】P 2022507182
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021009013
(87)【国際公開番号】W WO2021182401
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2020039947
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】柴原 正和
(72)【発明者】
【氏名】生島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】前川 真奈海
(72)【発明者】
【氏名】芦田 峻
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 光
(72)【発明者】
【氏名】木谷 悠二
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓也
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-192240(JP,A)
【文献】特開2002-219522(JP,A)
【文献】特開2010-194599(JP,A)
【文献】特開2020-40092(JP,A)
【文献】特開2013-66902(JP,A)
【文献】特開平7-75835(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0105522(KR,A)
【文献】特開2009-12057(JP,A)
【文献】特開2005-118824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案の算出方法であって、
前記金属板の解析モデルの第1位置に設定した少なくとも1本の第1加熱線を含む第1加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果と目的形状とを比較する第1試行を第1加熱線の位置を変えて繰り返す第1ステップと、
繰り返した第1試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第1試行で設定した少なくとも1本の第1加熱線を第1選択加熱線として選択する第2ステップと、
第1選択加熱線と、前記解析モデルの第2位置に設定した少なくとも1本の第2加熱線とを含む第2加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果と目的形状とを比較する第2試行を第2加熱線の位置を変えて繰り返す第3ステップと、
繰り返した第2試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線を第2選択加熱線として選択する第4ステップとを備え、
前記解析モデルは、複数の要素及び複数の節点を有する有限要素モデルであり、
前記加熱方案は、第1及び第2選択加熱線を含み、
第1又は第3ステップにおいて、前記解析結果及び前記目的形状を複数のブロックに分割して、ブロック毎に、前記節点の最小二乗平面を一致させて前記解析結果と前記目的形状とを比較することを特徴とする算出方法。
【請求項3】
第1ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における変位量を用いて前記目的形状と比較され、
第3ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における曲率及び変位量の両方を用いて前記目的形状と比較される請求項1に記載の算出方法。
【請求項4】
第1ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における曲率及び変位量のうち一方を用いて前記目的形状と比較され、
第3ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における曲率及び変位量のうち他方を用いて前記目的形状と比較される請求項1に記載の算出方法。
【請求項5】
前記目的形状が正の曲率及び負の曲率のうちどちらか一方を有する形状である場合、第1及び第3ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における曲率を用いて前記目的形状と比較され、
前記目的形状が正の曲率及び負の曲率の両方を有する形状である場合、第1及び第3ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における変位量を用いて前記目的形状と比較される請求項1に記載の算出方法。
【請求項7】
前記金属板は、表面及び裏面を有し、
第1加熱条件では、第1加熱線は前記表面及び前記裏面のうちどちらか一方に設定され、
第2加熱条件では、第2加熱線は前記表面及び前記裏面のうちどちらか一方に設定され、
第4ステップは、繰り返した第2試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線を複数選択し、選択した複数の第2加熱線のうち、第1選択加熱線が設定された面と同じ面に設定された第2加熱線を第2選択加熱線として選択するステップである請求項1~6のいずれか1つに記載の算出方法。
【請求項8】
第4ステップは、繰り返した第2試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線を複数選択し、選択した複数の第2加熱線のうち曲げ量が小さい第2加熱線を第2選択加熱線として選択するステップである請求項1~7のいずれか1つに記載の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案の算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶には船首部やバルバス・バウ、船尾部などに複雑な曲面形状が存在する。これらの曲面形状を作成するために複数の鋼板に対して曲げ加工を行い、それらを溶接により接合する。曲げ加工の技術として、造船分野においては線状加熱が広く用いられている。
線状加熱とは、鋼板の表面をガスバーナーで加熱した際に発生する熱変形を利用するものであり、現在国内の多くの造船所で古くから採用されている技術である。線状加熱により鋼板の曲げ加工をする際、ガスバーナーの炎で鋼板を局所的に加熱しつつ、鋼板に水をかけることにより加熱部を急冷却すると、鋼板に塑性変形が発生する。この塑性変形は、加熱するガスバーナーの移動速度、燃焼ガスと流入酸素と混合比、バーナーと鋼板の距離などを変化させて鋼板への入熱を調整することにより制御することができる。また、線状加熱による曲げ加工は、複数の加熱線を適当な位置に配置することによって、鋼板を目的の曲面形状に近づける加工技術である。
しかし、線状加熱時に生じる変形は、縦収縮・横収縮、縦曲り・横曲がりが混在する複雑なものであり、入熱量やガスバーナーの移動速度、加熱位置等にも依存するため、予測が非常に困難であることから、線状加熱による曲げ加工は自動化が困難とされる技術の一つである。
線状加熱による曲げ加工の自動化を実現するために用いる加熱方案算出方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の加熱方案算出方法では、目的形状から算出した目的固有ひずみに基づき加熱方案を算出するため、加熱線が密集した部分において複雑な補正をする必要がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、金属板を目的形状に近づけるために最適な複数の加熱線を含む加熱方案を算出することができる算出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案の算出方法であって、前記金属板の解析モデルの第1位置に設定した少なくとも1本の第1加熱線を含む第1加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果と目的形状とを比較する第1試行を第1加熱線の位置を変えて繰り返す第1ステップと、繰り返した第1試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第1試行で設定した少なくとも1本の第1加熱線を第1選択加熱線として選択する第2ステップと、第1選択加熱線と、前記解析モデルの第2位置に設定した少なくとも1本の第2加熱線とを含む第2加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果と目的形状とを比較する第2試行を第2加熱線の位置を変えて繰り返す第3ステップと、繰り返した第2試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線を第2選択加熱線として選択する第4ステップとを備え、前記加熱方案は、第1及び第2選択加熱線を含み、第1又は第3ステップにおいて、前記解析結果及び前記目的形状を複数のブロックに分割して、ブロック毎に前記解析結果と前記目的形状とを比較することを特徴とする算出方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の算出方法により、様々な位置に設定した加熱線から目的形状に近づく加熱線の選択を繰り返し行うため、金属板を目的形状に近づけるために最適な複数の加熱線を含む加熱方案を算出することができる。また、算出した加熱方案に基づき金属板を加熱することにより、金属板を目的形状に近い形状に変形させることが可能である。
本発明の算出方法では、第1又は第3ステップにおいて、前記解析結果及び前記目的形状を複数のブロックに分割して、ブロック毎に前記解析結果と前記目的形状とを比較するため、複雑な形状を適切に評価することが可能にある。このため、複雑な目的形状の加熱方案を作成することが可能になる。また、選択加熱線の少ない加熱方案を作成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態の算出方法のフローチャートである。
【
図2】(a)~(c)は、本発明の一実施形態の算出方法の説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態の算出方法に含まれる加熱線の設定方法の説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態の算出方法に含まれる加熱線上の要素を選び出す方法の説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態の算出方法に含まれる解析結果と目的形状との比較の説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態の算出方法に含まれる解析結果と目的形状との比較の説明図である。
【
図7】(a)~(e)は、シミュレーションにおいて算出した加熱方案である。
【
図8】(a)~(d)は、算出した加熱方案に基づく構造解析の解析結果である。
【
図9】(a)はシミュレーションで用いた目的形状(椀型)であり、(b)は算出した加熱方案に基づく構造解析の解析結果である。
【
図10】
図9(a)(b)に示した破線A-A’における目的形状と解析結果とを比較したグラフである。
【
図11】
図9(a)(b)に示した一点鎖線B-B’における目的形状と解析結果とを比較したグラフである。
【
図12】(a)はシミュレーションで用いた目的形状(鞍型)であり、(b)は算出した加熱方案に基づく構造解析の解析結果である。
【
図13】シミュレーションにおいて算出した加熱方案である。
【
図14】
図12(a)(b)に示した破線A-A’における目的形状と解析結果とを比較したグラフである。
【
図15】
図12(a)(b)に示した破線B-B’における目的形状と解析結果とを比較したグラフである。
【
図16】(a)はシミュレーションで用いた目的形状(捩れ型)であり、(b)は算出した加熱方案に基づく構造解析の解析結果である。
【
図17】シミュレーションにおいて算出した加熱方案である。
【
図18】
図16(a)(b)に示した破線A-A’における目的形状と解析結果とを比較したグラフである。
【
図19】
図16(a)(b)に示した破線B-B’における目的形状と解析結果とを比較したグラフである。
【
図20】加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差の変化を示したグラフである。
【
図22】ブロック毎に解析結果と目的形状とを比較して評価値を算出する方法の説明図である。
【
図23】構造解析により作成した加熱方案(選択加熱線:200本)である。
【
図24】作成した加熱方案を用いた構造解析の結果(作成形状)及び構造解析の結果と目的形状との差分である。
【
図25】加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差(Z変位二乗誤差和)の変化を示したグラフである。
【
図26】(a)は、分割しないで解析結果を評価して構造解析を行い作成した加熱方案(選択加熱線:60本)を用いた構造解析の結果(作成形状)であり、(b)はこの構造解析の結果と目的形状との誤差である。
【
図27】(a)は、解析結果及び目的形状を100分割して解析結果を評価して構造解析を行い作成した加熱方案(選択加熱線:60本)を用いた構造解析の結果(作成形状)であり、(b)はこの構造解析の結果と目的形状との誤差である。
【
図28】加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差(Z変位二乗誤差和)の変化を示したグラフである。
【
図29】加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差(Z変位二乗誤差和)の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案の算出方法であって、前記金属板の解析モデルの第1位置に設定した少なくとも1本の第1加熱線を含む第1加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果と目的形状とを比較する第1試行を第1加熱線の位置を変えて繰り返す第1ステップと、繰り返した第1試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第1試行で設定した少なくとも1本の第1加熱線を第1選択加熱線として選択する第2ステップと、第1選択加熱線と、前記解析モデルの第2位置に設定した少なくとも1本の第2加熱線とを含む第2加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果と目的形状とを比較する第2試行を第2加熱線の位置を変えて繰り返す第3ステップと、繰り返した第2試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線を第2選択加熱線として選択する第4ステップとを備える。第1又は第3ステップにおいて、前記解析結果及び前記目的形状を複数のブロックに分割して、ブロック毎に前記解析結果と前記目的形状とを比較する。
【0009】
前記加熱方案は、第1及び第2選択加熱線を含み、前記解析モデルは、複数の要素及び複数の節点を有する有限要素モデルである。また、第1ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における曲率及び変位量のうち一方を用いて前記目的形状と比較され、第3ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における曲率及び変位量のうち他方を用いて前記目的形状と比較される。このように比較の仕方を変えることにより、計算速度・精度ともに向上させることができる。
【0010】
本発明の算出方法において、前記目的形状が正の曲率及び負の曲率のうちどちらか一方を有する形状である場合、第1及び第3ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における曲率を用いて前記目的形状と比較されることが好ましく、前記目的形状が正の曲率及び負の曲率の両方を有する形状である場合、第1及び第3ステップにおいて、前記解析結果は、前記節点における変位量を用いて前記目的形状と比較されることが好ましい。このことにより、解析結果を目的形状に着実に近づけることができる優れた加熱方案を作成することができる。
【0011】
前記金属板は、表面及び裏面を有する。第1加熱条件では、第1加熱線は前記表面及び前記裏面のうちどちらか一方に設定されることが好ましく、第2加熱条件では、第2加熱線は前記表面及び前記裏面のうちどちらか一方に設定されることが好ましい。また、第4ステップは、繰り返した第2試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線を複数選択し、選択した複数の第2加熱線のうち、第1選択加熱線が設定された面と同じ面に設定された第2加熱線を第2選択加熱線として選択するステップであることが好ましい。このことにより、選択加熱線を設定する加熱面が頻繁に入れ替わることを抑制することができ、加熱方案を利用した曲げ加工の効率性を向上させることができる。
【0012】
第4ステップは、繰り返した第2試行のうち解析結果が目的形状に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線を複数選択し、選択した複数の第2加熱線のうち曲げ量が小さい第2加熱線を第2選択加熱線として選択するステップであることが好ましい。このことにより、曲げ量が大きくなりすぎることを抑制することができ、加熱方案に含まれる選択加熱線の本数を少なくすることができる。
【0013】
以下、複数の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0014】
第1実施形態
図1は本実施形態の算出方法のフローチャートであり、
図2(a)~(c)は算出方法の説明図であり、
図3は加熱線の設定方法の説明図である。また、
図4は加熱線上の要素を選び出す方法の説明図である。
本実施形態の算出方法は、線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案6の算出方法である。また、本実施形態の算出方法は、金属板の解析モデル2の第1位置に設定した少なくとも1本の第1加熱線4を含む第1加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果3と目的形状10とを比較する第1試行を第1加熱線4の位置を変えて繰り返す第1ステップと、繰り返した第1試行のうち解析結果3が目的形状10に近づいた第1試行で設定した少なくとも1本の第1加熱線4を第1選択加熱線5として選択する第2ステップと、第1選択加熱線5と、解析モデル2の第2位置に設定した少なくとも1本の第2加熱線4とを含む第2加熱条件で有限要素法構造解析を実施し、この解析結果3と目的形状10とを比較する第2試行を第2加熱線4の位置を変えて繰り返す第3ステップと、繰り返した第2試行のうち解析結果3が目的形状10に近づいた第2試行で設定した少なくとも1本の第2加熱線4を第2選択加熱線5として選択する第4ステップとを備える。
解析モデル2は、複数の要素8及び複数の節点9を有する有限要素モデルである。第1ステップにおいて、解析結果3は、節点9における曲率及び変位量のうち一方を用いて目的形状10と比較され、第3ステップにおいて、解析結果3は、節点9における曲率及び変位量のうち他方を用いて目的形状10と比較される。
また、加熱方案6は、第1選択加熱線5及び第2選択加熱線5を含む。
【0015】
第2ステップ又は第4ステップにおいて、解析結果3が最も目的形状10に近づいた加熱線4を選択してもよく、解析結果3が2番目又は3番目に目的形状10に近づいた加熱線4を選択してもよい。
また、本実施形態のプログラムは、本実施形態の算出方法をコンピューターに実行させるように作成されている。
【0016】
本実施形態の算出方法は、有限要素法構造解析(FEM構造解析)を利用して線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案を算出する方法である。
加熱方案は、金属板を加熱し曲げ加工するためのプランである。
本実施形態の算出方法では、金属板の解析モデル2を用いる。解析モデル2には、金属板の長さ、幅、厚さなどを設定する。また、金属板の解析モデル2は、表面と裏面とを有する。また、解析モデル2を複数個の要素(メッシュ)8に分割する。要素8は、例えば、四角形又は三角形のシェルであってもよく、立方体、直方体、三角錐、三角柱などのソリッドであってもよい。また、要素8の各頂点が節点9となる。例えば、
図2(a)に示した解析モデル2では、解析モデル2は、20×20(400)個の要素8に分割され、この要素8は、4角形のシェルである。この場合、解析モデル2は格子状となり、各交点が節点9となる。
本実施形態の算出方法では、目的形状10のモデルを用いる。目的形状10は、金属板の曲げ加工の目標となる形状である。目的形状10のモデルは、金属板の解析モデル2の形状が目的形状10となるように節点9を動かして作成する。
【0017】
本実施形態の算出方法では、例えば、
図1に示したフローチャートに基づき作成したプログラムをコンピューターに実行させることにより加熱方案6を算出することができる。ここでは、
図1に示したフローチャートに沿って説明する。
まず、コンピューターに目的形状10のモデル及び解析モデル2を読み込む。
次に、解析モデル2の第1位置に加熱線4を設定する。第1位置は、解析モデル2の任意の位置にランダムに設定することができる。第1位置は、金属板の解析モデル2の表面に含まれる位置であってもよく、解析モデル2の裏面に含まれる位置であってもよい。加熱線4は直線であってもよく、曲線であってもよい。また、複数の加熱線4を設定してもよい。例えば、5本の加熱線4を設定することができる。
例えば、加熱線4が直線である場合、
図3に示したように、解析モデル2の任意の2つの節点9(x
1、y
1)、(x
2、y
2)をランダムに選択し、この2つの節点9を結ぶ直線に加熱線4を設定することができる。この場合、設定した加熱線4は、式:y={(y
2-y
1)/(x
2-x
1)}x+{(x
2y
1-x
1y
2)/(x
2-x
1)}で表すことができる。
例えば、
図2(a)に示した加熱線4aを設定することができる。また、5数の加熱線4を設定する場合、加熱線4a~4eを設定することができる。
図2(a)~(c)では、金属板の表面に設定した加熱線4又は選択加熱線5と、金属板の裏面に設定した加熱線4又は選択加熱線5とを区別していないが、加熱線4a~4v、選択加熱線5には、金属板の表面に設定されたものもあれば、金属板の裏面に設定されたものもある。
【0018】
次に、設定した加熱線4上の要素8を選び出す。要素8の各辺のうち少なくとも1つの辺が加熱線4と交わればその要素8は加熱線4上にあるとすることができる。例えば、
図4に示した解析モデル2では、要素(1)、(2)、(3)は加熱線4上にあるが、要素(4)は加熱線4上にない。複数の加熱線4を設定している場合には、複数の加熱線4上の要素8を選び出す。
【0019】
次に、解析モデル2で有限要素法構造解析を行う。有限要素法構造解析では、設定した加熱線4を線状加熱する加熱条件において、選び出した要素8にひずみを付与して解析結果3(構造解析により変形させた解析モデル)を得る。加熱条件は、加熱線4の位置に加えて入熱量を含むことができる。第1加熱線4を金属板の解析モデル2の表面に設定した場合、解析において金属板は表面側から加熱される。第1加熱線4を金属板の解析モデル2の裏面に設定した場合、解析において金属板は裏面側から加熱される。
有限要素法構造解析はFEM熱弾塑性解析であってもよく、固有ひずみ法による弾性解析であってもよい。構造解析では、ガスバーナーを用いる線状加熱を想定してもよく、レーザを用いる線状加熱(レーザーフォーミング等)を想定してもよく、誘導加熱を用いる線状加熱を想定してもよい。また、構造解析では、曲げ加工の対象となる金属板の材料物性値(ヤング率、ポアソン比、密度など)を用いる。
FEM熱弾塑性解析では、加熱条件(設定した加熱線4の位置(加熱面を含む)及び入熱量(J/mm))に対して選び出した要素8の縦収縮,横収縮,角変形,縦曲りの4成分の固有ひずみ量を算出する。FEM熱弾塑性解析では、熱及び変形履歴を逐次再現し変形解析を行うため、過渡の状況を解析できる。
【0020】
固有ひずみ法による弾性解析では、線状加熱による金属板(解析モデル2)の変形は、固有変形によって発生すると考える。この固有変形が既知であれば、線状加熱による金属板(解析モデル2)の変形が、弾性解析において加熱線4に沿って固有変形を強制ひずみとして加える事で予測可能になる。従って、固有ひずみ法による弾性解析では、予め算出した又は測定した固有ひずみを用いて構造解析をおこなう。例えば、FEM熱弾塑性解析を用いて算出した固有ひずみ、又は実際に線状加熱して変形させた金属板を測定することにより得られる固有ひずみを固有ひずみ法による弾性解析に用いることができる。また、固有ひずみ法による弾性解析は、予め算出又は測定した入熱量と固有ひずみとの関係を表す式を用いて行うことができる。
また、固有ひずみ法は、弾性解析であるため,計算時間が熱弾塑性解析に比べてかなり短時間であることが特徴として挙げられる。
【0021】
次に、解析結果3と目的形状10とを比較し、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する。そして、評価値及び設定した加熱線4の位置を記憶部に保存する。
解析モデル全体として、解析結果3と目的形状10とを比較し評価値を算出することができる。
また、解析結果3及び目的形状10を複数のブロックに分割してブロック毎に解析結果3と目的形状10とを比較し評価値を算出することができる。例えば、解析モデル2を4等分、9等分、16等分、25等分、36等分、49等分、64等分、81等分又は100等分してブロックに分けることができる。
また、解析モデル全体としての解析結果3と目的形状10との比較と、ブロック毎の解析結果と目的形状との比較との両方を行い評価値を算出することができる。
評価指標としては、例えば、節点9の面外方向変位量(変位量)又は曲率とすることができる。
図5は、解析モデル全体として解析結果3と目的形状10とを比較し、評価指標を節点9の面外方向変位量13とした場合における解析結果3と目的形状10との比較の説明図である。例えば
図5のように、解析結果3の節点9から対応する目的形状10の節点12までの面外方向の変位量d(誤差)を算出する。このように、評価指標を節点9の変位量dとすると、金属板を比較的速く目的形状に近づけることができる加熱方案を算出することができる。また、この比較において、評価値を算出することができる。
解析モデル全体として解析結果3と目的形状10とを比較する場合、評価値は、解析モデルに含まれるすべての節点12の変位量dを二乗して足し合わせた値(Σd
2)とすることができる。
【0022】
図6は、解析結果3及び目的形状10を複数のブロックに分割してブロック毎に解析結果3と目的形状10とを比較する場合における解析結果3と目的形状10との比較の説明図である。解析モデルは3次元であるが、
図6は説明のために二次元で示している。例えば、解析結果3及び目的形状10を4つのブロックA~Dに分割する。そして、ブロックAに含まれる解析結果3の節点9の最小二乗直線(回帰直線)を算出する(3次元の解析モデルでは最小二乗平面を算出する)。この最小二乗直線がx軸と平行となるようにブロックAに含まれる節点9を回転させる(三次元の解析モデルでは最小二乗平面がx軸及びy軸と平行となるように節点9を回転させる。つまり、最小二乗平面の法線ベクトルが(0、0、1)を向くように節点9を回転させる)。また、最小二乗直線(最小二乗平面)をz=0とする。回転後において、各節点のz軸座標はz
6~z
10となる。
【0023】
また、ブロックAに含まれる目的形状10の節点12の最小二乗直線(回帰直線)を算出する(3次元の解析モデルでは最小二乗平面を算出する)。この最小二乗直線がx軸と平行となるようにブロックAに含まれる節点12を回転させる(三次元の解析モデルでは最小二乗平面がx軸及びy軸と平行となるように節点12を回転させる)。また、最小二乗直線(最小二乗平面)をz=0とする。回転後において、各節点のz軸座標はz1~z5となる。このように解析結果3又は目的形状10を回転させることにより解析結果3の向きと目的形状10の向きとが同じになり、解析結果3と目的形状10との局所的な誤差を適切に評価することができる。
そして、解析結果3の節点9とそれに対応する目的形状の節点12のz軸座標の差(変位量)d1~d5を算出する。具体的には、d1=z1-z6、d2=z2-z7、d3=z3-z8、d4=z4-z9、d5=z5-z10となる。そして、ブロックAに含まれる節点の変位量d1~d5を二乗し足し合わせる(d1
2+d2
2+d3
2+d4
2+d5
2)。この得られた値がブロックAにおける評価値(二乗誤差和)となる。
【0024】
ブロックB、ブロックC及びブロックDのそれぞれについてブロックAと同様に評価値(二乗誤差和)を算出する。そして解析モデルに含まれるすべてのブロックA~Dの評価値を足し合わせることにより解析結果の評価値を算出することができる。
【0025】
解析モデル全体としての解析結果3と目的形状10との比較と、ブロック毎の解析結果3と目的形状10との比較との両方を行い評価値を算出する場合、例えば、式:評価値=(全体の二乗誤差和)α×Σ(各ブロックでの二乗誤差和)βを用いて評価値を算出することができる。α及びβは重みパラメータである。α、βは、経験則や過去のデータに基づき決定することができる。全体の二乗誤差和は全体的な形状の保持に寄与し、各ブロックでの二乗誤差和は局部的な形状を作成するのに寄与する。
【0026】
評価指標を節点9の曲率とした場合、解析結果3の節点9の曲率と、この節点9に対応する目的形状10の節点12の曲率との誤差(曲率誤差r)を算出する。このように、評価指標を曲率とすると、金属板を精度よく目的形状に近づけることができる加熱方案を算出することができる。また、この比較において、評価値を算出することができる。
解析モデル全体として解析結果3と目的形状10とを比較する場合、評価値は、解析モデルに含まれるすべての節点9の曲率誤差rを二乗して足し合わせた値(Σr2)とすることができる。
【0027】
評価指標を節点9の曲率として、解析結果3及び目的形状10を複数のブロックに分割してブロック毎に解析結果3と目的形状10とを比較する場合、ブロックに含まれるすべての節点の曲率誤差rを二乗して足し合わせることにより各ブロックの評価値(二乗誤差和)を算出し、すべてのブロックの評価値を足し合わせることにより解析結果の評価値を算出することができる。
【0028】
評価指標を節点9の変位量及び曲率の両方とした場合、各節点9の変位量d及び曲率誤差rを算出する。また、この比較において、評価値を算出することができる。
解析モデル全体として解析結果3と目的形状10とを比較する場合、評価値は、解析モデルに含まれるすべての節点12の変位量dを二乗して足し合わせた値(Σd2)と、解析モデルに含まれるすべての節点12の曲率誤差rを二乗して足し合わせた値(Σr2)との積とすることができる。例えば、評価値は、式:評価値=(Σd2)α×(Σr2)βを用いて算出することができる。α及びβは重みパラメータである。α、βは、経験則や過去のデータに基づき決定することができる。例えば、αが1のときβは5以上10以下とすることができる。
【0029】
評価指標を節点9の変位量及び曲率の両方として、解析結果3及び目的形状10を複数のブロックに分割してブロック毎に解析結果3と目的形状10とを比較する場合、各ブロックの評価値は、ブロックに含まれるすべての節点12(回転後)の変位量dを二乗して足し合わせた値(Σd2)と、ブロックに含まれるすべての節点12の曲率誤差rを二乗して足し合わせた値(Σr2)との積とすることができる。例えば、評価値は、式:評価値=(Σd2)α×(Σr2)βを用いて算出することができる。そして、すべてのブロックの評価値を足し合わせることにより解析結果の評価値を算出することができる。
評価指標に変位量を用いるか曲率を用いるか或いは変位量と曲率の両方を用いるかは、目的形状、加工効率などを考慮して決定することができる。
加熱線4の設定から評価値及び設定した加熱線4の位置の保存までのフローを1回目の試行という。
【0030】
1回目の試行が終わると、次に2回目の試行を行う。2回目の試行は、基本的には1回目の試行と同じフローであるが、2回目の試行の加熱線4は、1回目の試行の加熱線4の設定位置とは異なる位置に設定する。この位置は、解析モデル2の任意の位置にランダムに設定することができる。また、この位置は、金属板の解析モデル2の表面に含まれる位置であってもよく、解析モデル2の裏面に含まれる位置であってもよい。2回目の試行においても、加熱線4は直線であってもよく、曲線であってもよい。また、複数の加熱線4を設定してもよい。例えば、
図2(a)に示した加熱線4bを設定する。また、5本の加熱線4を設定する場合、例えば、加熱線4f~4jを設定することができる。そして、設定した加熱線4上の要素8を選び出し、有限要素法構造解析を実施し、解析結果3を得る。得られた解析結果3と目的形状10とを比較し、評価値を算出する。また、算出した評価値及び設定した加熱線4の位置を記憶部に保存する。
このような試行をX回繰り返す。例えば、
図2(a)に示したように、加熱線4の位置を加熱線4c~4kとして、それぞれの位置で試行を行うことができる。また、各試行において複数の加熱線4を設定して試行を行うことができる。例えば、5本の加熱線を設定する場合、各試行において5本の加熱線4を設定して試行を行う。試行回数は、例えば、100回以上1500回以下とすることができる。
2回目からX回目までの試行では、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に変位量を用いてもよく、曲率を用いてもよく、変位量と曲率の両方を用いてもよいが、1回目と同じ指標を用いる。また、評価値も1回目の試行と同じように算出する。
各試行のおける解析結果3は、異なる位置の加熱線4に対応した形状となり、それぞれ違う形状となり、解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)は各試行で異なる。
【0031】
次に、各試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が最も小さい試行における加熱線4を選択加熱線5として選択する。各試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が2番目、3番目、4番目又は5番目に小さい試行における加熱線4を選択加熱線5として選択してもよい。どの試行における加熱線4を選択加熱線5として選択するかは、目的形状10、曲げ量の大きさなどを考慮して決めることができる。また、試行において複数の加熱線4を設定している場合、複数の加熱線4を選択加熱線5として選択する。例えば、
図2(a)に示した加熱線4a~4kのうち加熱線4dを選択することができる。また、各試行において加熱線4を5本設定している場合、例えば、加熱線4f~4jを選択することができる。
1回目の試行から選択加熱線5を選択するまでを1回目の加熱線選択フローという。
【0032】
1回目の加熱線選択フローが終わると、次に2回目の加熱線選択フローを行う。2回目の加熱線選択フローは、基本的には1回目の加熱線選択フローと同じフローであるが、解析モデル2の任意の位置に加熱線4をランダムに設定する際に、1回目の加熱線選択フローにおいて選択した選択加熱線5と、2回目の加熱線選択フローの各試行においてランダムに設定する加熱線4の両方を設定し、選択加熱線5上の要素8及び設定した加熱線4上の要素8を選び出す。そして、この加熱条件で構造解析を行うことにより、選択加熱線5と設定した加熱線4の両方を反映した解析結果3を得ることができる。2回目の加熱線選択フローにおいても各試行で複数の加熱線4を設定してもよい。また、1回目の加熱線選択フローの各試行において設定する加熱線4の本数と、2回目の加熱線選択フローの各試行において設定する加熱線4の本数とは、違う本数であってもよい。例えば、
図2(b)に示した選択加熱線5と加熱線4lを設定することができる。また、各試行において加熱線4を5本設定している場合、例えば、1回目の加熱線選択フローにおいて選択した選択加熱線(加熱線4f~4j)と加熱線4l~4pを設定することができる。
2回目の加熱線選択フローにおいてX回まで試行を繰り返し、各試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が最も小さい試行における加熱線4を選択加熱線5として選択する。各試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が2番目又は3番目に小さい試行における加熱線4を選択加熱線5として選択してもよい。また、試行において複数の加熱線4を設定している場合、複数の加熱線4を選択加熱線5として選択する。例えば、
図2(b)に示した加熱線4l~4vのうち加熱線4sを選択することができる。また、各試行において加熱線4を5本設定している場合、例えば、加熱線4l~4pを選択することができる。
【0033】
3、4、・・・、n回目の加熱線選択フローを順におこなう。各加熱線選択フロー(A回目の加熱線選択フローという)は、基本的には1回目の加熱線選択フローと同じフローであるが、解析モデル2の任意の位置に少なくとも1本の加熱線4をランダムに設定する際に、A回目の加熱線選択フローの各試行においてランダムに設定する少なくとも1本の加熱線4と、(A-1)回目以前の加熱線選択フローにおいて選択したすべての選択加熱線5とを設定する。また、A回目の加熱線選択フローの各試行において複数の加熱線4を設定して試行を行うことができる。例えば、5本の加熱線4を設定する場合、各試行においてランダムに設定する5本の加熱線4と、(A-1)回目以前の加熱線選択フローにおいて選択したすべての選択加熱線5とを設定して試行を行う。
例えば、3回目の加熱線選択フローでは、1回目の加熱線選択フローにおいて選択した選択加熱線5(4d)と、2回目の加熱線選択フローにおいて選択した選択加熱線5(4s)と、3回目の加熱線選択フローの各試行においてランダムに設定する少なくとも1本の加熱線4とを設定する。つまり、加熱線選択フローの回数を重ねるにつれて設定する選択加熱線5の数が増えていく。
【0034】
そして、すべての選択加熱線5上の要素8及び設定した加熱線4上の要素8を選び出し、この加熱条件で構造解析を行うことにより、すべての選択加熱線5と設定した加熱線4とを反映した解析結果3を得ることができる。
A回目の加熱線選択フローにおいてX回まで試行を繰り返し、各試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が最も小さい試行における加熱線4を選択加熱線5として選択する。各試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が2番目又は3番目に小さい試行における加熱線4を選択加熱線5として選択してもよい。また、試行において複数の加熱線4を設定している場合、複数の加熱線4を選択加熱線5として選択する。
n回目の加熱線選択フローにおいて選択した選択加熱線5を含む加熱条件での解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が小さいと判断すると、加熱線選択フローの繰り返しを終了し、1~n回目の加熱線選択フローで選択した選択加熱線5を含む加熱方案6が完成する。加熱方案6は、例えば、
図2(c)のように複数の選択加熱線5を含む。
また、加熱線選択フローの回数に上限を設定することができる。この上限は、第1目的形状10に到達するために必要と考えられる選択加熱線5の数を上回る数に設定することができる。このことにより、加熱方案に含まれる選択加熱線5が多くなりすぎることを抑制することができ、加工コストが高い加熱方案となることを抑制することができる。
【0035】
本実施形態では、複数回行った加熱線選択フローのうち、一部の加熱線選択フローでは解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に変位量を用い(変位量を用いて評価値を算出する)、他の加熱線選択フローでは解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に曲率を用いることができる(曲率を用いて評価値を算出する)。つまり、A回目の加熱線選択フローから(A+1)回目の加熱線選択フローに移るときに、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標を、変位量から曲率に又は曲率から変位量に切り替える。例えば、解析結果3がある程度目的形状に近づくまでの加熱線選択フローでは、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に変位量を用い、その後の加熱線選択フローでは、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に曲率を用いることができる。変位量を用いた加熱線選択フローで選択した選択加熱線5における加熱では、加工速度を速くすることができ、曲率を用いた加熱線選択フローで選択した選択加熱線5における加熱では、加工精度を高くすることができる。従って、加工効率と加工精度を両立させることが可能になる。
また、解析結果に応じて加熱線選択フロー毎に誤差評価指標に変位量を用いるか曲率を用いるか変位量と曲率の両方を用いるかを選択しながら計算を進めてもよい。
【0036】
得られた加熱方案6に基づき金属板を線状加熱し曲げ加工することにより、金属板を目的形状に近い形状に変形させることが可能である。金属板の曲げ加工は、作業者が行ってもよく、機械で自動的に行ってもよい。機械で金属板の曲げ加工をする場合、複数の選択加熱線5を同時に加熱してもよい。
加熱方案6は、加熱線選択フローの順序に対応した選択加熱線5の順序を含むことができる。加熱方案6に基づき金属板を線状加熱し曲げ加工する際、この順序に従って、選択加熱線5を加熱することができる。このことにより、金属板を目的形状により近い形状に変形させることが可能である。
【0037】
得られた加熱方案6に基づき金属板を加工する加工方法は、A回目(A=1~n)の加熱線選択フローで選択した選択加熱線5を含む加熱条件で金属板を線状加熱し、金属板に曲げ加工を施すステップと、曲げ加工が施された金属板の立体形状を計測するステップと、計測された金属板の立体形状と、A回目の加熱線選択フローにおいて選択加熱線5を含む加熱条件で実施した有限要素法構造解析の解析結果3とを比較するステップと、比較した結果に基づき金属板の立体形状が前記解析結果3に近づくように金属板を加熱するステップとを備えることができる。
金属板の立体形状を計測するステップは、三次元測定器を用いて行うことができる。三次元測定器は、接触式であってもよく、走査レーザプローブタイプ又は光学タイプの非接触式であってもよい。このことにより、金属板を目的形状により近い形状に変形させることが可能である。
【0038】
加熱方案6に基づく金属板の加工を自動で行う加工装置は、例えば、金属板を加熱する加熱部と、加工装置を制御する制御部とを備えることができる。制御部は、加熱方案6を読み込む込むことができるように設けられ、加熱方案6に従って金属板を加熱するように加熱部を制御するように設けられる。
【0039】
第2実施形態
第2実施形態では、目的形状10に基づいて解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標を決定する。具体的には、目的形状10が正の曲率及び負の曲率のうちどちらか一方を有する形状である場合(例えば、目的形状10が椀型の場合)、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に節点9における曲率を用いる。このことにより、第1回目の加熱線選択フローから第n回目の加熱線選択フローまで、解析結果3を目的形状10に着実に近づけることができ、優れた加熱方案を作成することができる。
一方、目的形状10が正の曲率及び負の曲率の両方を有する形状である場合(例えば、目的形状10が鞍型、捩れ型などの場合)、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に節点9における変位量を用いる。このことにより、第1回目の加熱線選択フローから第n回目の加熱線選択フローまで、解析結果3を目的形状10に着実に近づけることができ、優れた加熱方案を作成することができる。
その他の構成は第1実施形態と同様である。また、第1実施形態についての記載は矛盾がない限り第2実施形態についても当てはまる。
【0040】
第3実施形態
第3実施形態では、直前の加熱線選択フローにおいて選択された選択加熱線5が設定された加熱面(金属板の表面及び裏面のうちどちらか一方)と同じ加熱面に設定された加熱線4を優先的に選択しながら加熱方案を作成していく。このことにより、選択加熱線5を設定する加熱面が頻繁に入れ替わることを抑制することができ、加熱方案を利用した曲げ加工の効率性を向上させることができる。
【0041】
具体的には、A回目の加熱線選択フローにおいて行った複数の試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が小さい複数の試行を選び出す。例えば、500回の試行を行っている場合、解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が小さい10個の試行を選び出す。また、選び出す試行の数は例えば2以上10以下とすることができる。
次に、選び出した複数の試行のうち、(A-1)回目の加熱線選択フローにおいて選択された選択加熱線5が設定された加熱面と同じ加熱面に加熱線4が設定された試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が最も小さい試行の加熱線4を選択加熱線5として選択する。このことにより、同じ加熱面に設定された選択加熱線5を続けることができる。
例えば、
図2(b)において、直前の加熱線選択フローにおいて選択された選択加熱線5(4d)が金属板の表面に設定され、金属板の表面に加熱線4sを設定した試行、金属板の裏面に加熱線4qを設定した試行及び金属板の裏面に加熱線4vを設定した試行が解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が小さい場合、加熱線4qを設定した試行及び加熱線4vを設定した試行の解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が、加熱線4sを設定した試行の解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)よりも小さい場合であっても、選択加熱線5(4d)と同じ加熱面に設定された加熱線4sを選択加熱線5として選択する。
【0042】
選び出した複数の試行のうち、(A-1)回目の加熱線選択フローにおいて選択された選択加熱線5が設定された加熱面と同じ加熱面に加熱線4を設定した試行が含まれていない場合には、選び出した複数の試行のうち、解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が最も小さい試行の加熱線4を選択加熱線5として選択する。この場合、加熱面が入れ替わる。
その他の構成は第1又は第2実施形態と同様である。また、第1又は第2実施形態についての記載は矛盾がない限り第3実施形態についても当てはまる。
【0043】
第4実施形態
第4実施形態では、加熱線選択フローにおいて曲げ量が小さい加熱線4を選択加熱線5として優先的に選択する。このことにより、曲げ量が大きくなりすぎることを抑制することができ、加熱方案に含まれる選択加熱線5の本数を少なくすることができる。なお、曲げ量が大きすぎると、この曲がりすぎた部分を修正するために選択加熱線5を設定する必要が生じ、加熱方案に含まれる選択加熱線5の本数が多くなる傾向がある。
具体的には、A回目の加熱線選択フローにおいて行った複数の試行のうち解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が小さい複数の試行を選び出す。例えば、500回の試行を行っている場合、解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が小さい10個の試行を選び出す。また、選び出す試行の数は例えば2以上10以下とすることができる。
次に、選び出した複数の試行のうち曲げ量が小さい試行で設定した加熱線4を選択加熱線5として選択する。
【0044】
例えば、
図2(a)において、加熱線4aを設定した試行、加熱線4dを設定した試行及び加熱線4jを設定した試行が解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が小さい場合、加熱線4dを設定した試行の曲げ量が加熱線4aを設定した試行及び加熱線4jを設定した試行よりも小さければ、加熱線4aを設定した試行及び加熱線4jを設定した試行の解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)が、加熱線4dを設定した試行の解析結果3と目的形状10との誤差(評価値)よりも小さい場合であっても、加熱線4dを選択加熱線5として選択する。
また、選び出した複数の試行のうち曲げ量が大きすぎる試行を、選択加熱線5の候補から除外することもできる。
その他の構成は第1、第2又は第3実施形態と同様である。また、第1、第2又は第3実施形態についての記載は矛盾がない限り第4実施形態についても当てはまる。
【0045】
第5実施形態
本実施形態では、1回目の加熱線選択フローからA回目の加熱線選択フローまでは、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に変位量を用い(変位量を用いて評価値を算出する)、(A+1)回目以降の加熱線選択フローでは、解析結果3と目的形状10との誤差を評価する指標に曲率及び変位量の両方を用いる。変位量から変位量と曲率の両方に指標を切り替えるタイミングは、例えば、(A-1)回目の加熱線選択フローで選択した選択加熱線の評価値と、A回目の加熱線選択フローで選択した選択加熱線の評価値との差が所定の値を下回ったときとすることができる。
このように指標を切り替えることにより加熱線本数の少ない加熱方案を作成することができる。
その他の構成は第1、第2、第3又は第4実施形態と同様である。また、第1、第2、第3又は第4実施形態についての記載は矛盾がない限り第5実施形態についても当てはまる。
【0046】
シミュレーション
本発明の算出方法(構造解析:固有ひずみ法による弾性解析)を用いて加熱方案(目的形状:椀型、鞍型、捩れ型)を算出し、算出した加熱方案を用いて固有ひずみ法による弾性解析(構造解析)を行うシミュレーションを実施した。
固有ひずみ法による変形解析のために要素に付与する固有ひずみは、解析モデルに対しFEM熱弾塑性解析を実施し、その変形結果より取得した。
固有ひずみ法による構造解析では、板長さ:500mm、板幅:500mmの板状の解析モデルを用い、解析モデルは、節点数、要素数がそれぞれ2,601、2,500となるように四角形のシェル要素に分割した。また、金属板の材料はSM490A(溶接構造用圧延鋼材)と仮定し、板厚は16mmと仮定した。SM490Aの材料定数を表1に示す。また、シミュレーションでは、目的形状として3種類(椀型、鞍型、捩れ型)を設定した。1本の選択加熱線の位置決定に費やす試行回数は500回とした。
【0047】
【0048】
固有ひずみを得るためのFEM熱弾塑性解析では、解析モデルは板長さを500mm,板幅を500mm,板厚16mmとし,節点数および要素数は61,711,50,000とした.溶接条件は電流150A,電圧20V,溶接速度2.286mm/sec,溶接効率は0.8とした.その結果得られた固有ひずみ(縦収縮、横収縮、縦曲率、横曲率)を表2に示す.
【0049】
【0050】
目的形状:椀型
図7(a)~(e)は、選択加熱線の本数をそれぞれ10本、20本、30本、40本、55本として算出した加熱方案であり、
図8(a)~(d)は、選択加熱線の本数をそれぞれ10本、20本、30本、40本として算出した加熱方案に基づき固有ひずみ法による構造解析を行ったときの解析結果である。
図9(a)は構造解析に用いた目的形状であり、
図9(b)は選択加熱線の本数を55本として算出した加熱方案に基づき固有ひずみ法による構造解析を行ったときの解析結果である。
図10は、
図9(a)(b)の破線A-A’において目的形状と解析結果とを比較した面外方向変位分布であり、
図11は、
図9(a)(b)の一点鎖線B-B’において目的形状と解析結果とを比較した面外方向変位分布である。
【0051】
目的形状を椀型としたシミュレーションでは、目的形状と解析結果との誤差を評価する指標に節点における曲率を採用した。また、選択加熱線の本数を10本、20本、30本、40本、55本とした。
このシミュレーションでは、
図7(a)~(e)に示した加熱方案を算出することができた。また、算出した加熱方案に基づき固有ひずみ法による構造解析を行ったところ、
図8(a)~(d)、
図9(b)に示した解析結果を得ることができた。なお、
図7の実線は金属板の表面の選択加熱線を表し、点線は金属板の裏面の選択加熱線を表す。
【0052】
図8(a)~(d)からわかるように,選択加熱線が10本の時点で椀型の傾向を捉えており、選択加熱線が20本の時点ではほぼ目的形状と一致する形状を成形できていることがわかった。それ以降では形状を微調整する、ないしは形状にほとんど影響を与えないような選択加熱線が増える様子が確認できた。また
図7に示した加熱位置に注目すると,母材の対角線方向に多く選択加熱線が配置されていることがわかった。これは中央部が落ちくぼむような椀型の形状を成形するために,角変形と縦曲りの両者を用いて母材全体を万遍なく曲げるような選択加熱線の位置が選択されていった結果であると考えられる.
また、
図9(a)(b)、
図10、
図11から
図9(b)に示した解析結果は目的形状の傾向を良好に捉えていることが確認できた。従って、本発明の算出方法により算出した加熱方案に基づき金属板を加熱することにより、金属板を目的形状に近い形状に曲げ加工できることがわかった。
【0053】
目的形状:鞍型
図12(a)は構造解析に用いた目的形状であり、
図12(b)は選択加熱線の本数を40本として算出した加熱方案に基づき固有ひずみ法による構造解析を行ったときの解析結果である。
図13は、選択加熱線の本数を40本として算出した加熱方案である。
図14は、
図12(a)(b)の破線A-A’において目的形状と解析結果とを比較した面外方向変位分布であり、
図15は、
図12(a)(b)の一点鎖線B-B’において目的形状と解析結果とを比較した面外方向変位分布である。
【0054】
目的形状を鞍型としたシミュレーションでは、目的形状と解析結果との誤差を評価する指標に節点における面外方向変位量を採用した。また、選択加熱線の本数を40本とした。
このシミュレーションでは、
図13に示した加熱方案を算出することができた。また、算出した加熱方案に基づき固有ひずみ法による構造解析を行ったところ、
図12(b)に示した解析結果を得ることができた。
図12、
図14、
図15から
図12(b)に示した解析結果は目的形状の傾向を良好に捉えていることが確認できた。
【0055】
目的形状:捩れ型
図16(a)は構造解析に用いた目的形状であり、
図16(b)は選択加熱線の本数を16本として算出した加熱方案に基づき固有ひずみ法による構造解析を行ったときの解析結果である。
図17は、選択加熱線の本数を16本として算出した加熱方案である。
図18は、
図16(a)(b)の破線A-A’において目的形状と解析結果とを比較した面外方向変位分布であり、
図19は、
図16(a)(b)の一点鎖線B-B’において目的形状と解析結果とを比較した面外方向変位分布である。
【0056】
目的形状を捩れ型としたシミュレーションでは、目的形状と解析結果との誤差を評価する指標に節点における面外方向変位量を採用した。また、選択加熱線の本数を16本とした。
このシミュレーションでは、
図17に示した加熱方案を算出することができた。また、算出した加熱方案に基づき固有ひずみ法による構造解析を行ったところ、
図16(b)に示した解析結果を得ることができた。
図16、
図18、
図19から
図16(b)に示した解析結果は目的形状の傾向を良好に捉えていることが確認できた。
【0057】
目的形状:椀形(評価指標の評価)
目的形状を椀形(
図9(a))とし、解析結果と目的形状との誤差を評価する指標を変位量、曲率、或いは変位量と曲率との両方として構造解析を行い加熱方案を作成した。
図20は、加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差の変化を示したグラフである。
図20の縦軸のZ変位二乗誤差和は、節点におけるz方向(面外方向、初期金属板の表面及び裏面に直交する方向)の変位量を二乗して合計した値である。
解析結果の評価値は、式:評価値=(Σd
2)
α×(Σr
2)
βで算出されるものを用いた。Σd
2は、解析モデルに含まれるすべての節点の変位量dを二乗して足し合わせた値であり、Σr
2は、解析モデルに含まれるすべての節点の曲率誤差rを二乗して足し合わせた値である。α及びβは、重みパラメータである。β=0のときは変位量だけで評価を行い、α=0のときは曲率誤差だけで評価を行った。α≧1、β≧1のときは変位量と曲率誤差の両方で評価を行い、βを変化させることにより曲率誤差の重みを変化させている。
曲率誤差だけで解析結果を評価した場合(α=0)、選択加熱線が50本になってもZ変位二乗誤差和は100以上であった。変位量だけで解析結果を評価した場合(β=0)、選択加熱線が5本にまで増えるまでは、Z変位二乗誤差和は大きく減少したが、その後は緩やかにZ変位二乗誤差和が減少した。また、選択加熱線が50本に達してもZ変位二乗誤差和は10以上であった。
変位量と曲率誤差との両方で解析結果を評価した場合(α≧1、β≧1)、曲率誤差だけで評価した場合及び変位量だけで評価した場合に比べ、Z変位二乗誤差和は小さくなった。特に、β=6又はβ=8とした解析では、Z変位二乗誤差和が1以下となった。
【0058】
目的形状:複雑形状(分割数の評価)
図21、
図22に示したような複雑な形状を目的形状として構造解析を行い加熱方案を作成した。この目的形状では、凸部16と凹部17が交互に配置されている。この構造解析では、解析結果と目的形状との誤差を評価する指標として、変位量を用いている。また、この構造解析では、解析結果及び目的形状を4分割、16分割又は64分割して、ブロック毎に解析結果と目的形状とを比較して評価値を算出した。また、ブロック毎に解析結果と目的形状とを比較する際に解析結果の向きと目的形状の向きとが同じになるように解析結果及び目的形状を回転させて比較している。また、分割なしでの構造解析も行った。
具体的には、解析結果を評価する際に式:評価値=(全体の二乗誤差和)
α×Σ(各ブロックでの二乗誤差和)
βを用いて評価値を算出し、評価値の小さい試行における選択加熱線を選択した。二乗誤差和は、節点におけるz方向(面外方向、初期金属板の表面及び裏面に直交する方向)の変位量を二乗して合計した値である。また、式中の「全体の二乗誤差和」は、全体的な形状の保持に寄与する値であり、式中の「各ブロックでの二乗誤差和」は、局部的な形状を作成するのに寄与する値である。また、αは全体的な誤差の重みであり、βは局部的な誤差の重みである。
【0059】
図23は構造解析により作成した加熱方案(選択加熱線:200本)である。
図24には作成した加熱方案を用いた構造解析の結果(作成形状)と、構造解析の結果と目的形状との差分とを示している。また、
図25は、加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差(Z変位二乗誤差和)の変化を示したグラフである。これらの解析では、α=1、β=12としている。
図25に示したグラフのように、分割しないで評価値を算出した構造解析(分割なし)では選択加熱線が200本になってもZ変位誤差二乗和が200以上であったが、分割数が増えるにつれZ変位誤差二乗和が小さくなっていき、64分割して算出した構造解析では選択加熱線が200本なるとZ変位誤差二乗和が約10にまで小さくなった。また、
図24のように、分割数が増えるにつれ差分が明らかに小さくなった。
【0060】
目的形状:椀形(分割数の評価)
目的形状を椀形(
図9(a))として、解析結果と目的形状との誤差を評価する指標を変位量として構造解析を行い加熱方案を作成した。この構造解析では、解析結果及び目的形状を4分割、16分割、64分割又は100分割して、ブロック毎に解析結果と目的形状とを比較して評価値を算出した。評価値は、式:評価値=Σ(各ブロックでの二乗誤差和)を用いて算出した。また、評価値を全体の二乗誤差和として分割なしでの構造解析も行った。
図26(a)は、分割しないで解析結果を評価して構造解析を行い作成した加熱方案(選択加熱線:60本)を用いた構造解析の結果(作成形状)であり、
図26(b)はこの構造解析の結果と目的形状との誤差である。
図27(a)は、解析結果及び目的形状を100分割して解析結果を評価して構造解析を行い作成した加熱方案(選択加熱線:60本)を用いた構造解析の結果(作成形状)であり、
図27(b)はこの構造解析の結果と目的形状との誤差である。
図28は加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差(Z変位二乗誤差和)の変化を示したグラフである。
【0061】
図28のように分割なしで解析結果を評価した構造解析では選択加熱線の本数が60本になってもZ変位誤差和が約30であり、この構造解析で得られた加熱方案を用いると
図26のようないびつな椀形が形成された。また、
図28のように分割数が多くなるとZ変位誤差和も小さくなり、解析結果及び目的形状を100分割して解析結果を評価した構造解析では選択加熱線の本数が60本でZ変位誤差和が約3にまで小さくなった。また、
図27のようにこの構造解析で得られた加熱方案を用いるときれいな椀形を形成することができた。これらの結果から分割数は大きいほど優れた加熱方案が得られることがわかった。
【0062】
目的形状:椀形(重みパラメータの評価)
目的形状を椀形(
図9(a))として、解析結果と目的形状との誤差を評価する指標を変位量として構造解析を行い加熱方案を作成した。この構造解析では、解析結果及び目的形状を64分割して、ブロック毎に解析結果と目的形状とを比較して評価値を算出した。評価値は、式:評価値=(全体の二乗誤差和)
α×Σ(各ブロックでの二乗誤差和)
βを用いて算出した。αは全体的な誤差の重みであり、βは局部的な誤差の重みである。αを0又は1とし、βを0、1、2、4、8、16又は32とした。
図29は加熱方案作成過程における選択加熱線の本数の増加に伴う解析結果と目的形状との誤差(Z変位二乗誤差和)の変化を示したグラフである。また、
図29にα及びβを示した。これらの結果から、βを8程度にすると優れた加熱方案が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0063】
2: 解析モデル 3:解析結果 4、4a~4v:加熱線 5:選択加熱線 6:加熱方案 8:要素 9:節点 10:目的形状 11:目的形状の要素 12:目的形状の節点 13:解析結果と目的形状との変位量 16:凸部 17:凹部 19:最小二乗直線(回帰直線)