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  • 特許-義歯安定剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】義歯安定剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/891 20200101AFI20241011BHJP
   A61K 6/884 20200101ALI20241011BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20241011BHJP
【FI】
A61K6/891
A61K6/884
A61K6/887
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020112503
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011385
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山口 知美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智和
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-099706(JP,A)
【文献】特開2016-010525(JP,A)
【文献】特開平10-182392(JP,A)
【文献】特開平09-227327(JP,A)
【文献】特開昭57-202366(JP,A)
【文献】特表平10-501242(JP,A)
【文献】米国特許第04474902(US,A)
【文献】米国特許第04530942(US,A)
【文献】米国特許第04514528(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水膨潤性高分子、(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール、(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコール、及び(E)ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、義歯安定剤。
【請求項2】
前記(A)成分が、カルボキシメチルセルロース、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の義歯安定剤。
【請求項3】
(A)水膨潤性高分子、(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール、及び(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコールを含み、
前記(A)成分が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及び/又はその塩との組み合わせであり、
前記(C)成分が、マクロゴール4000、マクロゴール6000、及びマクロゴール20000からなる群より選択される少なくとも1種である、義歯安定剤。
【請求項4】
更に、(E)ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、請求項に記載の義歯安定剤。
【請求項5】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの重合度が5~12である、請求項1、2、又は4に記載の義歯安定剤。
【請求項6】
更に、(D)油性基剤を含む、請求項1~5のいずれかに記載の義歯安定剤。
【請求項7】
前記(B)成分がマクロゴール400であり、前記(C)成分がマクロゴール4000である、請求項1~のいずれかに記載の義歯安定剤。
【請求項8】
義歯安定剤に、(A)水膨潤性高分子、(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール、(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコール、及び(E)ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させる、持続性及び交換時期の適正化が図られる粘着特性を義歯安定剤に付与する方法。
【請求項9】
義歯安定剤に、(A)水膨潤性高分子、(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール、及び(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコールを含有させる、持続性及び交換時期の適正化が図られる粘着特性を義歯安定剤に付与する方法であって、
前記(A)成分が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及び/又はその塩との組み合わせであり、
前記(C)成分が、マクロゴール4000、マクロゴール6000、及びマクロゴール20000からなる群より選択される少なくとも1種である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着力の持続性があり、且つ交換時期の適正化が図られる義歯安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯安定剤は、加齢に伴う顎堤の吸収や変形等により生じた不適合義歯床を、口蓋粘膜に固定し、咬合、咀嚼、会話等の機能を補う歯科用製剤である。
【0003】
現在市販されている義歯安定剤は、義歯を固定するメカニズムの違いから、密着タイプと粘着タイプに大別される。密着タイプの義歯安定剤は、義歯床と口腔粘膜の間隙を補隙して、適合性を改善することで吸着性を向上させるものである。一方、粘着タイプの義歯安定剤は、口腔内や義歯の水分を吸収して膨潤することで、高い粘着力を発揮し、義歯の維持力を増加させるものであり、製品形状により、更に、クリームタイプ、粉末タイプ、テープタイプに分類されている(非特許文献1参照)。
【0004】
一般に、義歯安定剤の粘着力は、密着タイプよりも粘着タイプの方が優れている。また、粘着タイプのクリーム状義歯安定剤は、ワセリンや流動パラフィン等の油性基剤中に、カルボキシメチルセルロース等の水膨潤性高分子が分散された非水系の製剤であり、当該水膨潤性高分子が義歯床と口腔粘膜との間で唾液と接触して膨潤することにより、粘着力を発揮し、義歯を安定化している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hidekazu H. (2003) Type and Characteristics of Denture Adhesives., The Journal of Japan Prosthodontic Society 47(3): 474-483.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の粘着タイプの義歯安定剤では、使用開始時から粘着力が最大値に到達した後に粘着力が徐々に低下するという粘着特性を示す。義歯安定剤は、粘着力が最大値に到達した以降は、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った時点で、早めに交換することが望ましいが、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回っても、直ちには違和感(義歯のぐらつき等)が生じないため、使用者にとって義歯安定剤の適切な交換の時期を自覚し難いという欠点があった。そのため、義歯安定剤の交換時期の適正化を図るには、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った時点から、義歯のぐらつき等の違和感が生じる程度に粘着力が低下するまでの期間を短くすること(即ち、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った以降は、使用者に早めに違和感を自覚させること)が有効になるが、従来技術では、粘着力の持続性を備えさせつつ、そのような粘着特性を備えさせるための製剤技術は開発されていない。
【0007】
本発明の目的は、粘着力の持続性があり、且つ交換時期の適正化が図られる義歯安定剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、水膨潤性高分子、平均分子量200~600のポリエチレングリコール、及び平均分子量2000~40000のポリエチレングリコールを含む義歯安定剤は、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を維持できる期間が長く、しかも義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った時点から、義歯のぐらつき等の違和感が生じる程度に粘着力が低下するまでの期間が短く、粘着力の持続性があり、且つ、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った以降は、使用者に早めに違和感を自覚させることができ、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った時点から早い段階での交換を促せることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)水膨潤性高分子、(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール、及び(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコールを含む、義歯安定剤。
項2. 更に、(D)油性基剤を含む、項1に記載の義歯安定剤。
項3. 更に、(E)ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、項1又は2に記載の義歯安定剤。
項4. 前記(A)成分が、カルボキシメチルセルロース、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の義歯安定剤。
項5. 前記(B)成分がマクロゴール400であり、前記(C)成分がマクロゴール4000である、項1~4のいずれかに記載の義歯安定剤。
項6. 義歯安定剤に、(A)水膨潤性高分子、(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール、及び(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコールを含有させる、持続性及び交換時期の適正化が図られる粘着特性を義歯安定剤に付与する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の義歯安定剤は、義歯を十分に安定に固定できる粘着力(例えば15kPa)を維持できる期間が長いため、持続性に優れている。
【0011】
更に、本発明の義歯安定剤は、義歯を十分に安定に固定できる粘着力(例えば15kPa)を下回った時点から、義歯のぐらつき等の違和感が生じる程度の粘着力(例えば5kPa未満)に低下するまでの期間が短いため、使用者に対して、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った時点から早い段階での交換時期を自覚させることができ、交換時期の適正化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験例1で使用したレオメータに装着した試料ホルダ及び感圧軸の構成を示す図である。Aは試料ホルダの上面図、Bは試料ホルダの断面図、Cは荷重検出部に接続されている状態の感圧軸の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.義歯安定剤
本発明の義歯安定剤は、水膨潤性高分子((A)成分と表記することもある)、平均分子量200~600のポリエチレングリコール((B)成分と表記することもある)、及び平均分子量2000~40000のポリエチレングリコール((C)成分と表記することもある)を含み、非水系の義歯安定剤であることを特徴とする。以下、本発明の義歯安定剤について詳述する。
【0014】
[(A)水膨潤性高分子]
本発明の義歯安定剤は、水膨潤性高分子を含有する。水膨潤性高分子は、唾液と接触して膨潤して粘着力を増大させる役割を果たす。
【0015】
本発明で使用される水膨潤性高分子の種類については、水と接触して膨潤する性質を示す高分子化合物であればよく、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、グアガム、トラガントガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、寒天、アラビアガム、カラギーナン等が挙げられる。
【0016】
前記水膨潤性高分子の内、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体とは、アルキルビニルエーテルモノマーと無水マレイン酸とを重合させた共重合体である。当該共重合体を構成するアルキルビニルエーテルにおいて結合しているアルキル基は、低級アルキル基であることが好ましく、具体的には、炭素数1~8個のアルキル基、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基、更に好ましくはメチル基が挙げられる。アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体として、具体的には、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(メトキシエチレン/無水マレイン酸共重合体)、エチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、ジビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、プロピルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、及びイソブチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
また、前記水膨潤性高分子は塩の形態であってもよい。前記水膨潤性高分子の塩は、水膨潤性高分子の種類に応じて適したものであればよい。例えば、カルボキシメチルセルロースの塩の場合であれば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩が挙げられる。また、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の塩の場合であれば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、亜鉛塩、ストロンチウム塩、及びこれらを2種以上含む混合塩、好ましくはナトリウム塩とカルシウム塩をともに含む混合塩が挙げられる。
【0017】
これらの水膨潤性高分子の中でも、好ましくは、カルボキシメチルセルロース、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体、及びこれらの塩が挙げられる。
【0018】
これらの水膨潤性高分子は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
粘着力の持続性及び交換時期の適正が図られる粘着特性をより一層好適に具備させるという観点から、本発明で使用される水膨潤性高分子の好適な一例として、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及び/又はその塩との組み合わせが挙げられる。カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及び/又はその塩とを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩100重量部当たり、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及び/又はその塩が10~240重量部、好ましくは30~220重量部、より好ましくは50~200重量部が挙げられる。
【0020】
本発明の義歯安定剤における(A)成分の含有量としては、例えば、(A)成分の総量で30~75重量%、好ましくは35~70重量%、より好ましくは40~65重量%が挙げられる。
【0021】
[(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール]
本発明の義歯安定剤は、平均分子量200~600のポリエチレングリコールを含む。
【0022】
(B)成分として使用されるポリエチレングリコールの平均分子量は、200~600であればよいが、粘着力の持続性及び交換時期の適正が図られる粘着特性をより一層好適に具備させるという観点から、好ましくは300~500、より好ましくは350~450、更に好ましくは380~420が挙げられる。本発明において、(B)成分として使用されるポリエチレングリコールの平均分子量は、第十七改正日本薬局方の医薬品各条中の「マクロゴール400」の欄に規定されている平均分子量試験に記載された方法で求められる値である。
【0023】
(B)成分として使用されるポリエチレングリコールの好適な一例としてマクロゴール400が挙げられる。
【0024】
本発明の義歯安定剤における(B)成分の含有量としては、例えば、10~50重量%、好ましくは15~45重量%、より好ましくは20~40重量%が挙げられる。
【0025】
[(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコール]
本発明の義歯安定剤は、平均分子量2000~40000のポリエチレングリコールを含む。前記(B)成分と(C)成分の併用、即ち平均分子量が異なる2種のポリエチレングリコールを併用することによって、粘着力の持続性を高めつつ、義歯安定剤の交換時期を認識し易くする作用を備えさせることが可能になる。
【0026】
(C)成分として使用されるポリエチレングリコールの平均分子量は2000~40000であればよいが、粘着力の持続性及び交換時期の適正が図られる粘着特性をより一層好適に具備させるという観点から、好ましくは2500~30000、より好ましくは2500~25000、更に好ましくは2600~20000が挙げられる。本発明において、(C)成分として使用されるポリエチレングリコールの平均分子量は、第十七改正日本薬局方の医薬品各条中の「マクロゴール400」の欄に規定されている平均分子量試験に記載された方法で求められる値である。
【0027】
(C)成分として使用されるポリエチレングリコールの好適な一例としてマクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000が挙げられる。
【0028】
本発明の義歯安定剤における(C)成分の含有量としては、例えば、0.5~10重量%、好ましくは0.5~8重量%、より好ましくは1~5重量%が挙げられる。
【0029】
また、発明の義歯安定剤において、(B)成分と(C)成分の比率としては、例えば、(B)成分100重量部当たり、(C)成分が2~15重量部、好ましくは3~13重量部、より好ましくは4.5~11重量部が挙げられる。
【0030】
[(D)油性基剤]
本発明の義歯安定剤をクリームタイプにする場合には、油性基剤((D)成分と表記することもある)が含まれる。
【0031】
油性基剤の種類については、特に制限されないが、例えば、炭化水素油、高級アルコール、エステル油、高級脂肪酸、植物油、動物油、シリコーン油等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは炭化水素油が挙げられる。
【0032】
炭化水素油として、具体的には、流動パラフィン(軽質流動パラフィン、重質流動パラフィン)、ワセリン(白色ワセリン、黄色ワセリン)、ゲル化炭化水素(プラスチベース等)、ポリブテン、水添ポリイソブテン、スクワラン、スクワレン等が挙げられる。これらの炭化水素油の中でも、好ましくは流動パラフィン、より好ましくは軽質流動パラフィンが挙げられる。
【0033】
これらの油性基剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本発明の義歯安定剤における(D)成分の含有量としては、例えば、(D)成分の総量で1~15重量%、好ましくは2~10重量%、より好ましくは4~10重量%が挙げられる。
【0035】
[(E)ポリグリセリン脂肪酸エステル]
本発明の義歯安定剤は、必要に応じて、ポリグリセリン脂肪酸エステル((E)成分と表記することもある)が含まれていてもよい。特に、本発明の義歯安定剤が油性基剤と共にポリグリセリン脂肪酸エステルを含んでいる場合には、粘着力の持続性、及び義歯安定剤の交換時期を認識し易くする作用をより一層向上させることが可能になる。
【0036】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、脂肪酸又はその重合体とポリグリセリンとのエステルである。
【0037】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、エステル結合の数(ポリグリセリン1分子当たり、結合している脂肪酸の数)としては、例えば1~10、好ましくは1~8、より好ましくは1~5が挙げられる。
【0038】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数としては、例えば、8~30、好ましくは12~22、より好ましくは12~18が挙げられる。
【0039】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの重合度(グリセリンの結合数)としては、例えば、2~12、好ましくは5~12、より好ましくは8~12、更に好ましくは10が挙げられる。
【0040】
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの中でも、粘着力の持続性及び交換時期の適正が図られる粘着特性をより一層好適に具備させるという観点から、好ましくはラウリン酸ポリグリセリル及びペンタオレイン酸ポリグリセリルの少なくとも1種、より好ましくはラウリン酸ポリグリセリルとペンタオレイン酸ポリグリセリルとの組み合わせが挙げられる。ラウリン酸ポリグリセリルとペンタオレイン酸ポリグリセリルとを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、ラウリン酸ポリグリセリル100重量部当たり、ペンタオレイン酸ポリグリセリルが1~250重量部、好ましくは10~250重量部、より好ましくは25~75重量部が挙げられる。
【0042】
本発明の義歯安定剤における(E)成分の含有量としては、例えば、(E)成分の総量で1~10重量%、好ましくは2~8重量%、より好ましくは3~5重量%が挙げられる。
【0043】
[その他の成分]
本発明の義歯安定剤は、前述する成分の他に、必要に応じて、賦形剤、(E)成分以外の乳化剤、湿潤剤、pH調整剤、粘度調整剤、可塑剤、防腐剤、殺菌剤、色素、香料、矯味剤、清涼化剤、甘味剤等が含まれていてもよい。
【0044】
[形態、使用方法等]
本発明の義歯安定剤は、水は実質的に含まれない非水系の製剤であることが好ましい。ここで、「水は実質的に含まれない」とは、不可避的に混入する水分を除いて、水が添加されていないことを指す。
【0045】
本発明の義歯安定剤は、クリームタイプ、粉末タイプ、テープタイプ等の形状のいずれであってもよいが、好ましくはクリームタイプである。
【0046】
本発明の義歯安定剤の使用方法は、従来の義歯安定剤と同様である。例えば、クリームタイプの場合であれば、水分を除いた義歯床(入れ歯の土台)の歯茎(または上顎)と接触する面全体に薄く伸ばしながら塗布し、歯茎(又は上顎)に装着すればよい。また、粉末タイプの場合であれば、水分が少し付着した状態の義歯床(入れ歯の土台)の歯茎(または上顎)と接触する面全体に均一に薄く振りかけ、余分な粉末を振り落として、歯茎(又は上顎)に装着すればよい。テープタイプの場合であれば、水分を除いた義歯床(入れ歯の土台)の歯茎(または上顎)と接触する面に貼付して、歯茎(又は上顎)に装着すればよい。
【0047】
2.粘着特性の付与方法
本発明は、義歯安定剤に、(A)水膨潤性高分子、(B)平均分子量200~600のポリエチレングリコール、及び(C)平均分子量2000~40000のポリエチレングリコールを含有させる、持続性及び交換時期の適正化が図られる粘着特性を義歯安定剤に付与する方法を提供する。
【0048】
本発明における「持続性及び交換時期の適正化が図られる粘着特性を義歯安定剤に付与する方法」とは、義歯安定剤に対して、義歯を十分に安定に固定できる粘着力(例えば15kPa以上)を維持できる期間が長く、しかも義歯を十分に安定に固定できる粘着力(例えば15kPa)を下回った時点から義歯のぐらつき等の違和感が生じる程度の粘着力(例えば5kPa未満)に低下するまでの期間が短い粘着特性を具備せるための方法である。
【0049】
当該方法に使用される(A)~(C)成分の種類や含有量、他に配合される成分の種類や含有量、義歯安定剤の形態等については、前記「1.義歯安定剤」の欄に記載の通りである。
【実施例
【0050】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
なお、以下の実施例、比較例等で使用した主な成分の入手元等は以下の通りである。
・メトキシエチレン/無水マレイン酸共重合体ナトリウム/カルシウム塩:アイエスピー・ジャパン製
・カルボキシメチルセルロースナトリウム:第一工業製薬株式会社製
・マクロゴール400:平均分子量が380~420のポリエチレングリコール
・マクロゴール4000:平均分子量が2600~3800のポリエチレングリコール
・マクロゴール6000:平均分子量が7300~9300のポリエチレングリコール
・マクロゴール20000:平均分子量が20000のポリエチレングリコール
・ラウリン酸ポリグリセリル:重合度が10のポリグリセリンにラウリン酸1個がエステル結合しているポリグリセリン脂肪酸エステル
・ペンタオレイン酸ポリグリセリル:重合度が10のポリグリセリンにオレイン酸5個がエステル結合しているポリグリセリン脂肪酸エステル
【0052】
試験例1
表1に記載の組成のクリーム状義歯安定剤を調製した。得られた各義歯安定剤の粘着特性を以下の方法で評価した。
【0053】
以下に示す試料ホルダ及び感圧軸を用いて、レオメータにより水存在下での義歯安定剤の粘着特性を評価した。
<試料ホルダ>
支持体1の上に円筒形の水槽2(内径50mm)が固定され、更に当該水槽中に設置されている円柱状のテーブル3(直径22mm、JIS K 6178-2:2015の規定に適合するメタクリル樹脂板製)が設置されている試料ホルダ。図1のAに試料ホルダの構成の上面図を示し、図1のBに試料ホルダの構成の断面図を示す。
【0054】
<感圧軸>
円形基部(直径20mmのプランジャー;JIS K 6178-2:2015の規定に適合するメタクリル樹脂板製)を持つ感圧軸。図1のCに、荷重検出部5に接続されている状態の感圧軸4の概略図を示す。
【0055】
具体的には、義歯安定剤0.1gを試料ホルダのテーブル上に塗布した後に、試料ホルダの水槽内に37℃の蒸留水を加えて、義歯安定剤を蒸留水中に浸漬させた。この状態で、試料ホルダの支持体をレオメータの試料台に固定し、試料台を50mm/分の速度で感圧軸に向けて動かして義歯安定剤と感圧軸の円形基部を圧着させ、荷重が9.8Nになった時点で、試料台を50mm/分の速度で逆方向に引っ張り、感圧軸に係る最大力を記録した、当該最大力を感圧軸の円形基部底面の面積で除して単位面積当たりの力を粘着力(kPa)として求めた。前記操作終了後直ちに、義歯安定剤が蒸留水中に浸漬した状態のままで、同操作を再度行った。この操作を粘着力が5kPa未満になるまで繰り返し行った。
【0056】
「粘着力の最大値」、「粘着力が最大値に到達するまでの操作回数」、「15kPa以上の粘着力が認められた操作回数」、及び「5kPa以上15kPa未満の粘着力が認められた操作回数」を表1に示す。
【0057】
義歯安定剤は、粘着力が15kPa以上であれば、義歯を十分に安定に固定でき、粘着力が15kPaを下回ると、ぐらつき等の違和感はないものの、義歯の固定が徐々に不十分になり、粘着力が5kPaを下回ると、ぐらつき等の違和感が生じることが確認されている。また、試験に供した義歯安定剤は、いずれも操作回数1回目で、粘着力は15kPa以上であり、前記操作を繰り返すと、経時的に粘着力が増大し、粘着力が最大値になった後に粘着力が低下していき、最終的に粘着力が5kPa未満になった。つまり、「15kPa以上の粘着力が認められた操作回数」は、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を維持できる期間と相関があり、「5kPa以上15kPa未満の粘着力が認められた操作回数」は、義歯を十分に安定に固定できなくなった時点からぐらつき等の違和感が生じるまでの期間と相関がある。
【0058】
この結果、水膨潤性高分子を含み、ポリエチレングリコールを含まない義歯安定剤(比較例1)は、15kPa以上の粘着力が認められた操作回数が少なく、更に5kPa以上15kPa未満の粘着力が認められた操作回数が多くなっていた。これに対して、水膨潤性高分子と共に、マクロゴール400と、マクロゴール4000、マクロゴール6000又はマクロゴール20000とを含む義歯安定剤(実施例1~6)は、15kPa以上の粘着力が認められた操作回が多く、更に5kPa以上15kPa未満の粘着力が認められた操作回数が少なくなっており、義歯を安定に固定できる粘着力が長期間持続し、しかも、義歯を十分に安定に固定できる粘着力を下回った時点から早い段階での交換時期を自覚させ易い特性を有していた。
【0059】
【表1】
【符号の説明】
【0060】
1 支持体
2 水槽
3 テーブル
4 感圧軸
5 荷重検出部
図1