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特許7570234熱安定性を改善するためのタンパク質製剤のための添加剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】熱安定性を改善するためのタンパク質製剤のための添加剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/08 20060101AFI20241011BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241011BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/26
A61K38/00
A61K38/43
A61K39/00 G
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020556891
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2019059755
(87)【国際公開番号】W WO2019201894
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】18167611.5
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンクランツ,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】チェス,ジャネット
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特表平03-501604(JP,A)
【文献】国際公開第2017/180594(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0209503(US,A1)
【文献】国際公開第2010/132508(WO,A1)
【文献】特表2003-516366(JP,A)
【文献】国際公開第2011/014418(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0230944(US,A1)
【文献】特表2015-520173(JP,A)
【文献】国際公開第2017/007837(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/132363(WO,A1)
【文献】米国特許第04297344(US,A)
【文献】特開昭51-148090(JP,A)
【文献】特表2016-510976(JP,A)
【文献】特開2007-236975(JP,A)
【文献】特表2006-504801(JP,A)
【文献】特表2015-504092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/08
A61K 47/18
A61K 47/02
A61K 47/26
A61K 38/00
A61K 38/43
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体タンパク質製剤の熱安定性を増大させるための方法であって、タンパク質溶液を、製剤に対して0.25~4M/lのメリビオース、マルトース、ラクツロースおよびそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの賦形剤と組み合わせるステップを含み、タンパク質が、50℃~60℃で6時間熱安定化される、前記方法。
【請求項2】
製剤が、タンパク質を製剤に対して0.05から2mg/mlの濃度で含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質が、ウイルス、弱毒ウイルス、ウイルス様粒子、ウイルス由来のタンパク質、ウイルスタンパク質サブユニット、ウイルスタンパク質サブユニットを含むワクチンおよび酵素からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質が、ウイルスタンパク質サブユニットを含むワクチンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質が、炭疽病PA(炭疽病防御抗原)、破傷風トキソイド、およびジフテリアトキソイド(CRM197)の群から選択されるワクチンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質が、酵素である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質が、乳酸脱水素酵素およびリゾチームの群から選択される酵素である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
製剤のpH値が、pH6~8に調整される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
製剤のpH値が、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ヒスチジン、イミダゾール、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、HEPES、トリス、ビス-トリス、重炭酸アンモニウム、および他の炭酸塩の群から選択されるバッファーの添加によって制御される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
製剤が、タンパク質を安定化させるためのポリマーを少なくとも0.1%w/vの量で、および/または界面活性剤を少なくとも0.005%w/vの量で含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
製剤は、含んでいるタンパク質を安定化させるためならびに溶液のpHおよびモル浸透圧濃度を調整するために、二価のカチオンを0.1から100mMまでの範囲の濃度でおよびアミノ酸を約0.1から1%w/vまでの範囲の濃度で含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
液体タンパク質製剤であって、タンパク質溶液、および製剤に対して0.25~4M/lのメリビオース、マルトース、ラクツロースおよびそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの賦形剤を含み、タンパク質が、50℃~60℃で6時間熱安定化されている、前記製剤。
【請求項13】
さらに、pH7.6のバッファー溶液、および少なくとも1つの還元剤を含み、タンパク質が乳酸脱水素酵素である、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
元剤1mM DTT(1,4-ジチオスレイトール)であることを特徴とする、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
a) 炭疽病PAおよびマルトースまたは炭疽病PAおよびラクツロースを含有し、ならびに50℃の温度で少なくとも72時間安定である、
または
b) 炭疽病PAおよびメリビオースを含有し、ならびに55℃の温度で少なくとも72時間安定である、
または
c) 炭疽病PAおよびメリビオースを含有し、ならびに60℃の温度で少なくとも6時間安定である
ことを特徴とする、請求項12に記載の製剤。
【請求項16】
a) CRM197およびマルトースを含有し、ならびに50℃の温度で少なくとも72時間安定である、
もしくはCRM197およびメリビオースを含有し、ならびに50℃の温度で少なくとも96時間安定である、
または
b) CRM197およびメリビオースを含有し、ならびに60℃の温度で少なくとも24時間安定である
もしくはCRM197およびマルトースを含有し、ならびに60℃の温度で少なくとも48時間安定である
ことを特徴とする、請求項12に記載の製剤。
【請求項17】
予防接種溶液として製剤化された、請求項12に記載の製剤。
【請求項18】
医薬品注射バイアルにおける使用のための溶液として仕上げられるための予防接種溶液として製剤化された、請求項17に記載の製剤。
【請求項19】
さらなる投薬、希釈またはプロセシングのために、容器中に充填された、請求項12に記載の製剤。
【請求項20】
免疫アッセイ検査キットの一部としてのまたは分析のための調製物および瓶詰めにおける、請求項12に記載の製剤。
【請求項21】
請求項12に記載の製剤、およびタンパク質溶液の使用の方法を実行するための書面の情報または分析情報を含むキット。
【請求項22】
請求項12に記載の製剤、ならびに、前もって仕上げて小さい埋め込み型ポンプへまたは治療用途のための他のデバイスへ導入することによってタンパク質溶液の使用の方法を実行するための書面の情報を含む、請求項21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性および非活性化に対して熱安定性を改善するために好適である賦形剤を含むタンパク質製剤に関する。とりわけ、本発明は、ワクチン製剤の熱安定化のための添加剤およびこれらの製剤の調製のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術水準
タンパク質またはペプチドは、様々な医薬の形態、例えばワクチンにて、商業的には用いられる。これらの多くは、タンパク質および、タンパク質に基づく構造体/複合体を含む。該タンパク質は、組換えDNA技術または他の手段によってしばしば生成される。ワクチン製剤中に利用されるタンパク質は、細菌性またはウイルス起源のものであり得る。該タンパク質は、これらに限定されないが、毒素、トキソイドまたは変異タンパク質を含む群へ分類され得る。さらにまた、ワクチンは、エピトープワクチン、化学的に不活性化された毒素(トキソイド)、糖タンパク質、または、薬学的に活性な物質が担体タンパク質に共有結合される、抱合されたタンパク質の形態で、該細菌性またはウイルスのタンパク質/ペプチドに由来し得る。これらの実体は、タンパク質-タンパク質抱合体(例として破傷風トキソイド)、融合-タンパク質、タンパク質-多糖類抱合体、タンパク質-核酸抱合体、タンパク質-DNA抱合体、タンパク質-RNA抱合体、タンパク質-小分子抱合体、タンパク質-色素抱合体、タンパク質-アラム吸着物、ルミネセンスのまたはバイオルミネセンスのタンパク質、ビオチン化タンパク質を包含することができる。加えて、タンパク質は、ウイルスのフラグメントの構成ブロックの一つを形成する。
【0003】
化学的視点から、タンパク質は、数千から数百万Daまでの範囲にわたる相対的な分子量を有する線状の非分枝のポリペプチド鎖へ、ペプチド結合によって一緒に共有結合された、アミノ酸残基から構成される大きな有機分子または高分子である。薬物としてのタンパク質の有用な特性は、ユニークな三次元的にフォールドされた立体構造、すなわちタンパク質の三次構造、を採用するポリペプチド鎖に依存する。このユニークなフォールドが、タンパク質が、それが認識する分子について高度に選択的である理由である。しかしながら、ユニークな三次元構造を維持するための能力は、確実に、ヒトおよび動物の疾患におけるポリペプチドの使用に問題を抱えさせる障害の1つである。
【0004】
したがって、分解に対するワクチンまたはタンパク質粒子の効能を維持することは、正しい予防接種サービスを提供することにおける大きな課題であり、これは、溶液中の生物材料を含む生物材料が、熱、酸化試薬、塩等々に起因して不活性化を起こしやすいことが周知であるからである。
【0005】
ワクチン中で用いられたウイルス粒子、細菌および他の感染物質は、周囲温度で短期間の後、容易に不活性化されてもよいが、低い温度保管はコストがかかる。短時間でさえ高温度への曝露は、低い温度でさえもワクチン活性の喪失につながり、ワクチン使用を制限し、コストを上げ、それにより、とくに発展途上国の第三世界諸国においてワクチン流通を制限する。
【0006】
文献から、ワクチン接種プログラムの最大80%のコストは、コールドチェーンの問題(ワクチンを冷たく保つため)に起因することが知られ、これは、ワクチンを冷たく保つためおよびそれらの有効性を維持するために必要不可欠であることを意味する。
【0007】
典型的には、これは、ワクチンを、産生から投与までの全ての時間において冷蔵された状態に保つことが必須であり、これは、とくに発展途上国の遠隔地において主要な取り組みである。
【0008】
コールドチェーン問題と呼ばれる、ワクチンを劣化から保護することに関連する高コストおよびリスクは、世界的なワクチン接種プログラムの拡大のための最も重要な課題の一つとして世界保健機関によって認識されてきた。したがって、予防接種製剤を安定化させるための様々なアプローチがあり、低コストで生体適合性のある添加剤の添加によってこの問題を解決するためおよびウイルス粒子の分解を遅延させるための試みがなされてきている。例えば、緑色蛍光タンパク質発現アデノウイルスの半減期を37℃にて(7日から>30日までは室温にて)~48hから21日まで増大させるために、アニオン性金ナノ粒子(10-8~10-6M)またはポリエチレングリコール(PEG、分子量8,000Da、10-7~10-4M)の添加によって、アデノウイルスタイプ5の保管時間を改善することが提案される。安定化効果はまた、低濃度で添加されるスクロースからも知られる。PEGおよびスクロースの添加は37℃にて10日間保管されたウイルスについて、インビボで免疫原性を維持し得ることが見出された。しかし、これらの安定化効果は、60℃を超える高温度では保管安定性を達成するためには十分ではない。しかしながら、後者は、熱帯地域におけるワクチン製剤の安全な使用のために必要であり、そのため、ワクチン製剤のような液体タンパク質製剤が目下、60℃を超える温度への熱安定性をもたらすであろういかなる特定の熱安定剤または賦形剤なしに、生成されることは驚きである。この理由の1つは、とりわけ、添加剤の現行のワクチンへの添加が、通常、保健当局によるコストのかかる承認プロセスを再び通過することを意味し、これは商業的に魅力的でない。したがって、添加剤または賦形剤の添加によって、好ましくは、医薬組成物について適合性のある成分として既に認識されたものによって、ワクチン製剤を上昇された温度にて不活化に対して安定化させるためことが所望されるだろう。Pellicca, M. et al.のレビューで言及されたとおり、1つのアプローチは、スクロースのワクチン製剤への添加とされてきた[Pelliccia, M. et al. Additives for vaccine storage to improve thermal stability of adenoviruses from hours to months. Nat. Commun. 7, 13520 doi: 10.1038/ncomms13520 (2016)]。トレハロース、グリセロール、グルコース、マルトースおよびラフィノースはまた、この使用のために示唆されてきたが、所望される効果は、40℃よりも高い温度ではなく、高濃度でのみ見出され得る。最も有効な熱安定化添加剤であるPEGは、Pellicca, M. et al.によって報告されたとおり、ヒトの最大50%はそれに対してアレルギー反応を示すことから、ワクチン製剤について好適ではないことが証明されてきた。
【0009】
WO2012/125658A1において、免疫原の、具体的には不安定な免疫原の安定化されたワクチン組成物の産生のためのプロセスが提供され、ここで、経口顆粒は、約25℃から約50℃の温度にて、好ましくは約30℃にて、抗原性ウイルス培養物と共にエアロゾル化されるので、免疫原コートが粒子上で乾燥される。ワクチン製品は、安定化されたワクチン組成物を生むために、約0.1%w/wおよび10%w/wの間の水分含有量を有する粒子を含有する。
【0010】
US 2013/209503 A1において、凍結乾燥された(freeze-dried)および凍結乾燥された(lyophilized)ワクチン組成物はまず、スクロース、ラクトース、トレハロース、デキストロース、キシロース、セロビオース、ラフィノース、イソマルトースおよびシクロデキストリンからなる群から選択されたアモルファスの賦形剤と、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、トリス、スクシナート、およびアセタートバッファーからなる群の塩から選択されたバッファーとの組み合わせによって安定化される多糖類-タンパク質抱合体を提供することによって、安定化される。
【0011】
加えて、対応するタンパク性の製剤のより高い温度での安定性問題を、同様のやり方、但し注射剤溶液が適用に先立ち再構築される必要があるということを犠牲にして、解決するために試みる一連の刊行物および特許文献がある。後者は、しかしながら、発展途上国においておよび危機的地域においては重大な問題となるであろう。ここで、上昇された周囲温度と関連して、タンパク質製剤の数時間の安定性における改善ですら、改善を表すだろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的
熱安定性およびコールドチェーン中断は、とくに貧困に苦しむ国の遠隔地への、安定したワクチン用量の送達を確実にする上での主要な障害である。目下、ワクチンは出荷時に冷蔵されるが、継続的な冷蔵が保証され得ないことから、発展途上国に出荷されたすべての液体の25%およびすべての凍結乾燥されたワクチン用量の50%が失われる。
【0013】
本発明の主要な目的は、好ましくは同等の製品と同じ品質で入手可能とされ得る、かつ、最大60℃およびこれを超える温度で保管される場合に長時間安定である、熱的に安定化されたワクチン製剤を提供することである。
【0014】
本発明の短い概要および主題
下に列挙されたクラスの分子の1つからの賦形剤は、最適化された濃度での水性バッファー中で製剤化されたタンパク質またはペプチドへ添加される。タンパク質またはペプチドの融解温度Tmは、それによって実質的に上昇されるので、最大60℃およびそれより上の高温度が耐容され得る。
【0015】
本発明の別の主題は、下に開示された賦形剤であり、それらは、好適な濃度でワクチン製剤に充分な熱安定化を与えるので、それらのフォールドされたタンパク質構造を充分に長時間維持すると同時に、それらは60℃より上の温度で保管され得る。
【0016】
本発明は、タンパク質の安定化された溶液を有利には約2.0mg/mlの相対的に高い濃度で送達し、これは少なくとも1つの安定化剤を含み、それは、含まれているタンパク質の分解および不活性化を最小化し、それは、それらの有効性を維持するうえでプラスの影響を直接的に有し、および本発明のこれらの製剤が保管されることおよび熱帯地域の未発達の市場へ輸送されることさえも可能とする。
【0017】
より具体的に、本発明は、請求項1においておよび請求項2~16に記載の特定の態様において特徴づけられた、液体タンパク質製剤の熱安定化のための方法に関する。本発明はまた、請求項17~24において特徴づけられたおよび請求項1~16に記載の該方法に従って調製された製剤を含む。本発明のさらなる態様は、安定化されたタンパク質製剤の使用のための請求項25~27のキットを本質とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、最良の実施を示す添加された賦形剤の、結果の概要を提示する。
図2図2は、最適な条件下での夫々の賦形剤によって与えられた融解温度における変化についての結果の概要を提示する。
図3a図3は、蛍光分光法によってアッセイされた、50℃での炭疽病PAの保管安定性を示す。図3a)(左)は、フォールドされた画分を示す。
図3b図3b)(右)は、正規化された転移温度を示す。
図4a図4は、55℃での炭疽病PAの保管安定性を示す。図4a)(左)は、フォールドされた画分を示す。
図4b図4b)(右)は、正規化された転移温度を示す。
【0019】
図5a図5は、60℃での炭疽病PAの安定性を示す。図5a)(左)は、フォールドされた画分を示す。
図5b図5b)(右)は、正規化された転移温度を示す。
図6図6は、50℃でのCRM197の安定性を示す。
図7図7は、55℃でのCRM197の保管安定性を示す。
図8図8は順に、60℃でのCRM197の保管安定性を示す。
図9図9は、LDHの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補の効果を示す。
【0020】
図10図10は、LDHの融解温度における変化であるdTmを示す。
図11図11は、LDHの平均アンフォールド温度に対する、ラクツロース、グルコン酸マグネシウム、ポリスクロース400、マンニトール、マルトースおよび酢酸アンモニウムの効果を示す。
図12図12は、リゾチームの平均アンフォールド温度に対するヒドロキシ-プロリン、L-シトルリン、L-オルニチン(ornitine)、リン酸二水素カリウム、ラクトビオン酸、メグルミン、エクトイン、ミオ-イノシトールおよびスルホン酸メチルの効果を示す。
図13図13は、リゾチーム:イオン性液体において検査された第二の群の物質の結果を示す。
図14図14は、リン酸二水素カリウムのラクトビオン酸との組み合わせについての結果を概略する。
【0021】
図15図15は、リン酸二水素カリウムおよび4-OH-プロリンの組み合わせについての結果を概略する。
図16図16は、リン酸二水素カリウムおよび塩化コリン/ソルビトールの組み合わせについての結果を概略する。
図17図17は、コリンCl/ソルビトールおよびラクトビオン酸の組み合わせの添加の結果を概略する。
図18図18は、塩化コリン/ソルビトールおよび4-OH-プロリンの組み合わせの結果を概略する。
図19図19は、糖を用いる熱安定化炭疽病PAについての結果を示す。
【0022】
図20図20は、オスモライトを用いる熱安定化炭疽病PAについての結果を示す。
図21図21は、塩およびイオン性液体を用いる熱安定化炭疽病PAについての結果を示す。
図22図22は、糖を用いる熱安定化Tdについての結果を示す。
図23図23は、オスモライトを用いる熱安定化Tdについての結果を示す。
図24図24は、イオン性液体を用いる熱安定化Tdについての結果を示す。
【0023】
図25図25は、糖を用いるCRMの熱安定化についての結果を示す。
図26図26は、オスモライトを用いるCRMの熱安定化についての結果を示す。
図27図27は、イオン性液体を用いるCRMの熱安定化についての結果を示す。
図28図28は、例として炭疽病PAの結果を示す。
図29図29:Tagg vs. Tmを示す。
図30図30は、決定された転移温度を示す。
図31図31は、各タンパク質および賦形剤の組み合わせについて、すべての結果の概要を与える。
【0024】
本発明の詳細な記載
および好ましい態様
本発明は、液体タンパク質またはペプチド製剤を得る方法に関し、該製剤は熱安定化され、そして所望される場合には、組換えDNA技術または他の手段によって生成されてもよいタンパク質、タンパク質-抱合体、すなわち、タンパク質-糖類、タンパク質-ヌクレオチド、タンパク質-RNA/DNAまたはタンパク質-ペプチド、破傷風トキソイドのようなホルムアルデヒド処理タンパク質のような架橋タンパク質、ならびに、細菌またはウイルス起源のもの、ウイルスタンパク質サブユニット、酵素、ホルモンまたはその他であり得る、ワクチン製剤において利用された最終的にはより大きい構造体またはその他のタンパク質を含む、直接的に使用可能な製剤である。結果的に、以下において、タンパク質製剤に関して参照するときは、どちらか一方を含有する特定の製剤について明確に言及されない限り、それは常にペプチド製剤をも意味される。
【0025】
本発明はまた、安定化された製剤に関し、ここで、温度が最大60℃の値まで上がるときでさえも、タンパク質はそれらのフォールドされた有効な構造を維持する。本発明はまた、最大3日または4日さえもの間それらの安定化を維持するような製剤に関する。
有利なことに、安定化されたタンパク質製剤は、任意に緩衝化されたおよび含有されるタンパク質にとって最適な範囲にそれらのpHが調整されたものを有する溶液へ、有効量での選択された賦形剤を添加することによって容易に得られ得る。製剤はまた、還元剤を含有してもよい。
【0026】
本発明の液体製剤は、タンパク質を0.05~1.8mg/mlの間の範囲にある濃度で含んで調製される。添加された賦形剤の熱安定化効果は、含有されるタンパク質の融解温度の増大によって証明される;同時に、タンパク質融解温度の増大は、製剤中のタンパク質の増大した熱安定性の指標である。特定の実験によって、一方では、タンパク質および添加された賦形剤の種類に応じて、異なる量の賦形剤が、含有されるタンパク質の所望される安定化を獲得するために添加されなければならず、他方では、含有されたタンパク質に応じて安定化溶液中のpH値が調整されればまた有利であることが見出された。賦形剤に応じて、0.25から4Mまでの範囲にある濃度は、所望されるタンパク質安定化のために、タンパク質溶液中で有用であり、保管中ならびに室温よりも高い温度へ、とくに40℃よりも高い温度へ曝露中に、分解および活性化を最小化する。これまでに記述されたとおり、タンパク質の信頼性のある安定化は、とりわけ溶液のpHにもまた依存する。タンパク質に応じて、最適pHはpH6から8の間の範囲であり得、有利には、好適なバッファーと共に設定される。
【0027】
そうすると、タンパク質溶液は、上昇した温度による非活性化の影響に対して安定化され得る。添加されたタンパク質および賦形剤に応じて、最大20℃の安定化が以下の実験により決定され得る。熱安定性を改善すべく、タンパク質の融解温度の少なくとも5℃までの増大が、特別な賦形剤の添加によって決定されることができる実験のみが、考慮された。
【0028】
さらなる使用のため、そのように安定化された製剤は、さらなる投薬、希釈またはプロセシングのために、瓶に充填され得る。しかしながら、それらはまた、さらなるプロセシングまたは希釈が必須とされない限り、任意に医薬品注射バイアルにおける使用のための溶液として仕上げられ得る予防接種溶液として製剤化され得る。さらにまた、別の形態の用途において、そのように安定化されたタンパク質溶液は、免疫アッセイ検査キットまたは分析のための調製物および瓶詰めで提供され得る。また、貯蔵製剤はその様式で安定化され得、これに続く充填仕上げのために世界的に出荷される。
【0029】
熱安定化されたタンパク質製剤を含むキットはまた、該タンパク質製剤の使用の方法を実行するために必要なまたは便利な溶液を含有する、他の容器手段を含んでもよい。容器手段は、ガラス、プラスチックまたは箔製であり得、かつ、バイアル、瓶、パウチ、管、袋、等々であり得る。キットは、第一の容器手段に含有された試薬の量などの、タンパク質溶液の使用の方法を実行するための手順または分析情報などの、使用の方法を実行するための手順または分析情報などの書面の情報を含有してもよい。容器手段は、別の容器手段であってもよく、例えば、書面の情報を伴う箱または袋である。
【0030】
液体であることから、本発明のさらなる態様において、本発明の医薬組成物は、生体へ注入されるために後に仕上げられるために、事前に製剤化され得る。代替態様において、医薬組成物は、小さい埋め込み型ポンプへまたは治療用途のための他のデバイスへ導入されるために前もって仕上げられ得る。
【0031】
本発明における使用のための熱安定剤として好適な賦形剤は、種々のタイプの有機分子から選択され得る。これらの物質の本発明に従う使用のための必要条件は、それらがタンパク質またはペプチドに適合すること、およびそれらが、適正な濃度で用いられた場合、動物およびヒト生物の両方において副作用またはアレルギー反応を引き起こすことなく、生理学的に耐容されることである。
【0032】
タンパク質を含む液体製剤は、本発明に従って添加された賦形剤に加えて、アミノ酸、タンパク質、キレート剤、バッファー、塩、防腐剤、安定剤、抗酸化剤、乳化剤、可塑剤または潤滑剤などの1つ以上の追加の化合物を含んでもよい。
【0033】
ペプチドは、アミノ酸間のペプチド結合を含有する有機化学化合物である。それらの数に従って、オリゴペプチドは、多くのアミノ酸を有するいくつかのポリペプチドと区別される。長いポリペプチド鎖はまたタンパク質と称され、とりわけタンパク質生合成によって生成されるものである。ペプチドおよびタンパク質のこの化学的関係性に起因して、以下においてタンパク質が言及された場合には、両方のクラスの物質が意味される。
【0034】
文献中、「熱安定性」なる表現は頻繁に用いられるが、しばしば誤解を招く様式で用いられる。文献中、これは大抵、タンパク質溶液が、40℃未満のわずかに上昇した温度で保管され得ることを意味するのみである。40℃-これは多くのタンパク質のアンフォールド転移中間点(Tm)(例として炭疽病PA Tm=48℃)をなおもまだ大幅に下回っている-へ保管温度を増大させることによって、タンパク質の自発的なアンフォールド速度が上昇される。平衡熱力学の点では、タンパク質が任意の時点で自発的にアンフォールドしてもよいという一定の確率があるが、しかしながら、かかるアンフォールド事象の可能性は温度依存的である。保管温度を上昇させることによって、潜在的なアンフォールド事象の頻度は増大させられ、およびしたがって、タンパク質製剤の長期保管が短縮された期間中に評価され得る。
【0035】
ここで、本発明に従って、「熱安定性」なる表現は、タンパク質またはペプチドがもっぱら、40℃より高い温度での、好ましくは50℃より高い温度での、とくに最大60℃での保管中に、そのネイティブでアンフォールドされていない形態でとどまるという文脈中で用いられる。
【0036】
本分析努力は、熱ストレスをうけたタンパク質の熱力学的転移中間点を決定することによる、熱安定性に向けられる。この目的達成のために、モデル分子のまたは選択された賦形剤の効果は、高温での(これは、40℃より高い、好ましくは最大60℃の温度でを意味する)モデルタンパク質の構造に対するそれらの安定化効果について、試験される。同時に、実験は、どの濃度範囲において熱安定化賦形剤が有効であるかを分析する。
【0037】
定義により、>5℃のdTmを導く賦形剤は、良好な安定剤である。dTmが<5℃および>0℃である場合、賦形剤は乏しい安定剤として定義される。負のdTmは、分子をタンパク質不安定剤として同定する。
【0038】
転移中間点Tmは、蛍光分光法によって決定され、これは、タンパク質を0.05~1.8mg/mlの濃度で含むタンパク質溶液を用いるナノ示差操作蛍光定量法(nanoDSF)によることを意味する。
【0039】
調製されたタンパク質溶液は加熱速度1℃/分で加熱され、350/330nmでの蛍光発光の比率が、記録されおよび温度に対してプロットされる。典型的には、その結果得られる曲線はボルツマン関数と似ており、この曲線の屈曲点は平均アンフォールド温度Tmを表す。この曲線から、Tmにおける変化は、式Tm賦形剤からTmネイティブを引くことによって決定され、これがdTmを産出する。
【0040】
「フォールドされた画分」なる表現は以下において用いられ、液体製剤におけるネイティブなタンパク質の量を表す。第二に、「熱変性中間点」なる表現はまた、タンパク質の安定性に関連して用いられ、いずれかの方向への10%の偏差は許容し得るものとして定義される。転移中間点における如何なる変化は、より高い温度へのものもまた、タンパク質構造の変化またはデータ品質のいずれかの結果であることに、注記することが重要である。後者は、例えばタンパク質の凝集によってまたは無数の他の効果によって影響され得る。したがって、転移温度は、初期測定値から10%未満逸脱するように求められる。
【0041】
本明細書で使用されるとおり、「糖」なる用語は、相対的に低い分子量の水溶性炭水化物の群のいずれかを指す。糖なる用語は、還元糖(マルトースなど)、非還元糖(スクロースなど)、糖アルコール(ソルビトールなど)および糖酸(ラクトビオン酸など)を含む。
【0042】
本明細書で規定されるすべての範囲は、範囲の下限および上限を包括することを意図する。「約」なる用語は、与えられた範囲を少し包含することを意味される。本出願全体を通して、「約」なる用語は、値は、値を決定するために採用されている方法のための誤差の標準偏差を含むことを示すために用いられる。
【0043】
請求項および/または明細書における「含む」なる用語と併せて用いられる場合の「a」または「an」なる語の使用は、「1つの」を意味してもよいが、「1以上の」、「少なくとも1つの」、および「1つまたは1つより上の」の意味とも一致する。
【0044】
本明細書および請求項(単数または複数)で用いられるとおり、「含む(comprising)」なる語(および「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの任意の形態の「含む(comprising)」)、「有する(having)」なる語(および「有する(have)」および「有する(has)」などの任意の形態の「有する(having)」)、「含む(including)」なる語(および「含む(includes)」および「含む(include)」などの任意の形態の「含む(including)」)または「含有する(containing)」(および「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの任意の形態の「含有する(containing)」)は、包括的またはオープンエンドであり、追加的で記載のない要素または方法ステップを除外するものではない。
【0045】
また、本明細書に記載の如何なる数値も下限値から上限値までのすべての値を含むこと、すなわち、列挙された最低値および最高値の間の数値のすべての可能な組み合わせは、本出願において明示的に記述されているとみなされるものであることが、具体的に理解される。例えば、範囲が1%から20%として記述される場合、2%から5%まで、10%、15%まで、または3%から4.5%まで等々の値は、本出願において明示的に列挙されることが意図される。
【0046】
「接触」とは、少なくとも2の別個の種を、それらが相互作用または反応し得るように接触させるプロセスを指す。
【0047】
「賦形剤」は一般に、治療剤の安定性を保証するまたは増大させるために、すなわち長期安定性のために添加される化合物または材料を指す。
【0048】
「安定した」製剤または組成物は、そこにおける生物学的に活性な材料またはタンパク質が本質的に、その物理的な安定性および/または化学安定性および/または生物活性を保管時に保持するものである。安定性は、選択された期間の間、選択された温度にて測定され得る。傾向分析は、材料が実際にその期間保管される前の予想保管寿命を見積もるために用いられ得る。
【0049】
「薬学的に許容し得る」とは、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等を伴わない、ヒトおよび下等動物の組織と接触する使用のために好適であり、合理的なベネフィット/リスク比に見合い、およびそれらの意図された使用のために有効である活性剤、塩、および賦形剤を指す。
【0050】
既に上に言及されたとおり、本発明のタンパク質溶液は、特定のpHへ調整される。安定したpHを維持するためには、好適なバッファーがタンパク質溶液へ添加される。
【0051】
バッファーは、溶かされるタンパク質を溶解するおよび/または分散するために好適なキャリア液の形態で添加され得る。バッファーは、大抵、薬学的に許容されるバッファー系から選択される。好ましいバッファーは、酸、塩基、無機化合物、有機化合物または溶媒または希釈剤の添加の際のpHの変化に耐える能力を伴う薬学的に許容されるバッファー系である。リン酸塩またはクエン酸塩などの緩衝構成要素は、ワクチン含有溶液のpHを制御するために、ならびに溶液のモル浸透圧濃度を調整するために含まれる。約pH4から約pH10までの範囲へ、好ましくは約pH6から約pH8までの範囲へ調整される溶液のpHを伴い、バッファー濃度は、5mMから2Mまでの範囲であってもよい。
【0052】
薬学的に許容し得るバッファーは、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ヒスチジン、イミダゾール、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、HEPES、トリス、ビス-トリス、重炭酸アンモニウム、および他の炭酸塩からなる群から選択されてもよい。バッファーは、約pH4から約pH10までの、好ましくは約pH6からpH8までの、しかしまた約pH6から約pH7までもの範囲にわたるpHを含んでも良い。
【0053】
1以上のタイプ(単数または複数)の糖がタンパク質溶液へ添加される場合、糖は、モノマー性および/またはダイマー性分子から好ましくは選択され、とりわけ、グルコースガラクトース、マルトース、マルツロース、メリビオース、スクロース、トレハロース、ラクトース、ラクツロース、フルクトース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、セロビオース、パラチノース、ツラノース、ソホロース、ニゲロースおよびそれらの組み合わせの群から選出され得る。最も好ましくは、糖は、マルトース、メリビオース、ラクトース、ラクツロース、セロビオース、マルツロース、パラチノース、ツラノース、ソホロース、ニゲロースの群から選択される。水性の熱安定化された溶液中の糖の量は、極めて低い濃度からかなりの高濃度までの範囲にわたってもよい。よって、安定化のために、選択された糖はある程度少量で添加され得るが、しばしば、含有された糖がある程度高濃度である場合、つまり、溶液への添加が数モルの量のときに、タンパク質の特に有効な熱安定化がある。よって、選択される賦形剤が0.25~4M/lタンパク質溶液の量で添加される場合、特に良好な安定化結果が達成され得ることが、実験により見出されてきた。
【0054】
水性溶液はさらに、薬学的に許容し得る界面活性剤、ポリマー、アミノ酸、および他の薬学的に許容し得る賦形剤を含み得る。ポリマーは、タンパク質を安定化させるために含まれ得る。これらのポリマーは、0.1%w/v以上の量で添加され得る。界面活性剤は、表面張力を減少させるためおよびタンパク質分子を表面から動かすために添加され得る。界面活性剤はまた、他の製剤構成要素の可溶性を増大させてもよい。界面活性剤は、該タンパク質含有製剤の0.005%重量以上の量で含まれてもよい。
【0055】
二価のカチオンおよびアミノ酸は、タンパク質を安定化させるためおよび溶液のpHおよびモル浸透圧濃度を調整するために、含められ得る。二価のカチオンの濃度は0.1mMから約100mMまでの範囲にわたってもよく、アミノ酸は約0.1%から約1%(w/v)までの範囲の濃度で含有されてもよい。
【0056】
要約するに、これは、本発明に従う何のタンパク質またはペプチド溶液が用いられることになるかに応じて、および溶液に含有されるタンパク質またはペプチドの特性に応じて、最終的な製剤の異なる構成要素が添加され得ることを意味する。
【0057】
好ましくは、本発明に従い、熱安定化賦形剤または熱安定化賦形剤の組み合わせは、以下のクラスの分子から選択される:
1)オスモライト:トリメチルアミン-N-オキシド;ベタイン、4-ヒドロキシルプロリン;オルニチン(rnithine);シトルリン;N-アセチル-セリン;ヒドロキシルエクトイン;ミオ-イノシトール、アロ-イノシトール、L-カイロ-イノシトール、D-カイロ-イノシトール
2)イオン性液体:リン酸二水素コリン;塩化コリンと、糖、糖アルコールまたはポリオール(例としてグルコース、スクロース、グリセロールまたはソルビトール)との水和した深共晶混合物;2-ヒドロキシエチル-トリメチルアンモニウムL-(+)-ラクタート、
3)塩:リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウムまたはリン酸二水素ナトリウムなどのリン酸二水素塩化合物、酢酸アンモニウム、
4)糖:マルトース、メリビオース、ラクトース、ラクツロース、セロビオース、マルツロース、パラチノース、ツラノース、ソホロース、ニゲロース
5)糖酸およびそれらの塩:ラクトビオン酸、ラクトビオン酸カルシウム、グルコン酸マグネシウムまたはグルコン酸カルシウム
6)アミノ糖:メグルミン
7)糖アルコール:マンニトール、マルチトール、ソルビトール、
【0058】
熱安定化賦形剤は、様々な濃度でタンパク質製剤へ添加される。タンパク質濃度は、0.05および1.8mg/ml以内である。増大した熱安定性は100mMの賦形剤で始まって検出され得るが、しかしながら最良の結果は、0.4~4Mのレジームで得られる。塩化コリンと第二の構成要素との水和した深共晶混合物について、および2-ヒドロキシエチル-トリメチルアンモニウムL-(+)-ラクタートについて、濃度は体積%で表現される。上昇された熱安定性は15%から始まって検出され得、最良の結果は95%溶液を用いて得られる。
【0059】
本発明の水性タンパク質溶液は、ガラスまたはプラスチック/樹脂製のいずれかのバイアル中などの一次容器において、または箔パウチデバイスまたは任意の他の好適なおよび適合性のデバイスとして、提供され得る。所望される後続の使用に応じて、このように提供された溶液は、数μlから最大で多量リットルの量にて存在し得る。
【0060】
本発明は、薬学および医学において用いられる溶液中のタンパク質またはペプチドが、上昇した温度の不安定化および不活性化影響に対して保護され得る(これはタンパク質が熱安定化され得ることを意味している)方法を提供する。とりわけ、この安定化効果は、タンパク質活性/または薬物の効能の不活性化および喪失を一般にもたらすタンパク質アンフォールドおよび凝集の、開始に対する保護に関する。本発明の方法は、マイクログラム量で用いられ得る、ウイルスのタンパク質サブユニットを含む任意のタンパク質にまたはワクチンに適用可能である。タンパク質は、ワクチンの構成要素としてのタンパク質であり得るが、酵素、ホルモン、または、酵素、抗体、ナノボディまたはモノボディなどの他の治療的にもしくは分析的に用いられるタンパク質でもあり得る。タンパク質のタイプにおよびその用途に応じて、溶液は、異なる量、パッケージングまたはデバイスにおいて提供されるが、所望される用途組成物のために必要な他のものと組み合わせてもまた提供される。結果的に、それらはバイオアッセイの一環であってもよく、または、適用または分析用または診断用キット、または酵素を含有する分子生物学キットにおける溶液として既に存在してもよい。これは、該タンパク質が、ワクチンにおいておよび疾患を有する対象の試料中の病原体の検出のための診断用アッセイにおいて含まれ得ることを意味する。疾患の病原体は、感染、腫瘍、またはアレルゲンまたはその他からのものであり得る。
【0061】
上に記載のとおり、本発明は、対応するタンパク質製剤の熱安定化に関する。計画された実験的プログラムを通じて、選択された添加剤の熱安定性に対する影響が上に列挙した試料タンパク質を用いて調査された。
【0062】
上に列挙された好適な賦形剤の添加による熱安定化を、可能な限り異なるタンパク質について検査するために、実験が以下の試料タンパク質を用いて実行された:
酵素、とくに、モデル酵素として、乳酸脱水素酵素、およびリゾチーム、
および
ワクチンタンパク質、とくに、モデルワクチンとして、炭疽病PA(炭疽病防御抗原)、破傷風トキソイド、およびジフテリアトキソイド(CRM197)。
【0063】
1以上の賦形剤の添加による有効な熱安定化を実証するために、液体製剤は、該タンパク質を0.05から1.8mg/mlの間の範囲にある濃度で含んで調製される。そうするためには、タンパク質の貯蔵溶液が調製される。また、賦形剤貯蔵溶液は、適用可能なバッファー中で調製される。タンパク質、賦形剤および必要であればバッファーは、例に記載された製剤を生産するために組み合わされる。「例」の章において示されるとおり、これらのタンパク質の融解温度(Tm)は、最も効率的なおよび最も適用可能な熱安定剤の存在下で検査され、これは、タンパク質融解温度の増大は、液体製剤中のタンパク質の増大した熱安定性の指標であるからである。
【0064】
変性温度または融解温度Tmの決定は、少量に対して示差走査蛍光定量法 (NanoDSF: Prometheus.標準キャピラリーを装備したNT48, NanoTemper Technologies GmbH)を用いて、ハイスループット様式で実行され得る。加えて、いくつかの製剤について、Tmは、該製剤中のタンパク質についての追加の構造情報を得るために、円二色性分光法を用いて決定された(Hellmaからの0.1 cm quartz Suprasilキュベットタイプ110-QSを用いる分光旋光計J-815、Jasco Deutschland GmbH)。
【0065】
タンパク質およびペプチドは、一般に、ポリペプチド鎖内の残基の多数の弱い相互作用によって安定化される、安定した三次元構造へフォールドする。製剤の温度を上昇させることによって、増大した熱運動および他の因子は、タンパク質の変性を引き起こす。タンパク質の熱安定性を定量化するために、Tmと称される温度が用いられる。
【0066】
Tmは、モデルタンパク質の熱誘導変性について、ここで得られた平衡転移中間点の温度を表す。ネイティブから非ネイティブな状態(アンフォールドされた/部分的にアンフォールドされた)への2つの状態転移を仮定すると、Tmは、両方の状態が均等に集まる温度を表す。転移中間点の測定は、物質の速度論的な安定性に影響を受け、およびしたがって、等しい条件下で得られたかかる値のみが比較可能である。ここで報告されたすべてのTm値は、加熱速度1℃/分で記録された。賦形剤の添加に際して上昇されたTm値は、タンパク質の安定化を示し表す。
【0067】
タンパク質の変性は、タンパク質の特定の光学特性を利用する様々な分光技法によって測定され得る。
【0068】
示差走査蛍光定量法は、天然タンパク質原性のアミノ酸トリプトファンの特定の発光特性を利用する蛍光ベースの方法である。インドール側鎖の蛍光発光は、その2つの別個の双極子軸に起因してソルバトクロミックである。より親油性の環境であるタンパク質の内部へ埋め込まれた場合、トリプトファンは典型的には、大体328~330nmの最大蛍光発光を示す。タンパク質が変性される場合、トリプトファン残基は、周囲の水から進行的によりシールドされなくなる。したがって、トリプトファンの最大発光は350nmに近づく。より長い波長へのこのスペクトル偏移は、赤方偏移と称される。NanoDSFは、この偏移を、タンパク質の発光を330nmおよび350nmで記録することならびにその比率vs.温度をプロットすることによって、記録する。これは典型的には、正の振幅を伴ってシグモイド曲線をもたらす。蛍光分光分光法は、主に三次構造転移を探る。タンパク質の蛍光スペクトルはそこに含有されるアミノ酸のすべての発光スペクトルのオーバーレイを表し、したがって、特定のタンパク質の発光特性は上で述べた値から異なってもよいことが注記されるべきである。
【0069】
CD分光法は、キラル物質、またはタンパク質などの非対称構造を伴う大きな分子によって、円偏光の差分吸収を利用する。用いられた波長レジームに応じて、CD分光法は、タンパク質の二次または三次構造を探るために用いられ得る。ここで、我々は、CD分光法を、もっぱらタンパク質の二次構造についての情報を得るために用いる。ネイティブにフォールドされたタンパク質は、それらの構造上の組成に基づき、極めて特徴的なCDスペクトルを呈する。熱誘導アンフォールドに際し、円偏光の吸収の差は低減され、CDシグナルはゼロに近づく。Tmを決定するため、特定の波長、典型的には222nm、218nm、208nmまたは196nmでのCD-シグナルは、温度に対してプロットされ、その後シグモイド関数に適合される。
【0070】
用いられた方法を問わず、タンパク質の構造上の特色を報告する、タンパク質の特定の特性がある。賦形剤の添加に際し転移中間点が上昇される場合、添加された賦形剤はタンパク質を安定化させる。加えて、シグモイド曲線の急勾配は、賦形剤の添加により改変され得る。曲線の急勾配は、タンパク質の速度論的な安定性を反映する。Tmがどの温度でタンパク質がアンフォールドするかを述べる一方で、アンフォールド曲線の急勾配は、どのくらい速く該転移が生じるかを示し表す。
【0071】
蛍光分光法の場合、追加の特色はシグモイド曲線の挙動を変更させ得る。該曲線は、これまでに記載された赤方偏移の代わりに、より低い波長への蛍光の偏差を示し表す負の振幅を示し得る。これは、タンパク質凝集によって説明され得る。すべてのトリプトファン残基がタンパク質内に埋められない場合、ネイティブにフォールドされたタンパク質の発光は、330nmよりも大きい波長であり得る。アンフォールドに際し、トリプトファン残基は水へより暴露されるだろうが、しかしながら凝集に際し、該残基は、凝集体の親油性コア内に埋められる。負の振幅にも拘わらず、シグモイド適合は、タンパク質の熱安定性を反映する温度を決定するためになお用いられ得る。
【0072】
現在、タンパク質の熱安定化のためにどの添加剤または賦形剤が最適であるか、および所望された効果を生むためにそれらがどんな量で添加されなければならないかを評価するために、第一のステップにおいて、モデルワクチンとして炭疽病PAを伴う検査製剤が調製され、3日間に渡って試験された。詳細な製剤組成は、「例」の章における表1において概略される。これらの実験の目的は、異なる起源のタンパク質組成物の数日にわたる熱安定化のために最も好適な賦形剤または賦形剤の混合物を探すことである。
【0073】
現在まで安定化剤は高濃度で用いられなければならないので、かかる組成物は、プレフィルドシリンジを調製するためには用いられ得ず、これは、患者が安定化剤に恐らく耐容しないであろうからである。希釈ステップは、したがって、患者への投与に先立って必要となる。これらの実験の別の主眼はまた、インビトロアッセイにおける使用のための安定化剤の恐らく耐容可能な最高レベルを決定することでもある。実験結果に基づいて、タンパク質濃度が調整され得、および、ワクチン貯蔵溶液が生成され得、その両方は、溶質タンパク質についての熱保護を提供し得るが、希釈後に患者へなおも有効に投与され得る。
【0074】
例えば、メリビオースは最大250mMの濃度まで患者によって最も高い可能性で耐容され得ることが見出されてきた。先のスクリーニングからは、しかしながら、少なくとも2.25Mのメリビオースが高温度で炭疽病PAを安定化させるために必須となることが知られる。したがって、タンパク質濃度は、2250mM(貯蔵)/250mM(最終的な値)=9の因数によって増大される。しかし、患者使用のためには、この安定化されたワクチン貯蔵製剤を、少なくとも9倍量に希釈することが必須となる。
【0075】
これらの考慮事項に従って、どの賦形剤が、40℃より高い、好ましくは60℃より高い温度で最も可能な熱安定化にとって生理学的に許容し得る添加剤として最適であるかを、上で列挙されたモデルタンパク質について試験するために、検査製剤が調製される。
液体医薬製剤において患者に許容し得るものとして認識されている、入手可能な潜在的な賦形剤から、ラクツロースおよびマルトースが有望な温度安定化添加剤として最初に選択されてきており、および対応するタンパク質製剤がこれらの添加剤を伴って調製されおよび試験されてきた。TMAO、リン酸二水素コリン、およびメリビオースもまた同じ条件下で検査され、結果はラクツロースおよびマルトースのものと比較された。
【0076】
まず、試料はこれらの試料は、好適に蛍光分光法の対象となった選択された賦形剤とともにスパイクされ、すべてのタンパク質試料がネイティブにフォールドされていることを確認し、および次いでそれらが、上昇されたタンパク質レベル(最大1.8mg/ml)を含む上昇された温度で、タンパク質を安定化させるのに好適であるかどうかを決定する。これらの検査に続き、インキュベーションが、特定された温度、とくに4℃でおよび50~60℃の間の範囲で、ならびに適切であれば、より高い温度で実行される。
検査はとりわけ、メリビオースが安定化添加剤としてタンパク質製剤へ添加される場合、融解曲線によっておよび転移中間点の決定によって実証され得るとおり、一般により良い熱安定化が生じ、かつ、製剤は、より高い温度で一般に安定であり、より高い融点を有することを示してきた。
【0077】
より長い期間にわたる様々な賦形剤の熱安定化効果を確認するために、6時間、24時間、32時間、48時間および72時間のインキュベーション期間後、少量の試料が採取され、含んでいるタンパク質の構造上の状態および安定性が、蛍光分光法を用いて評価される。
【0078】
試験されたタンパク質含有試料がなおもネイティブであるかまたは損傷されているかどうかの状態を決定するため、いまでは、実験期間の間に2つのパラメータが、蛍光分光法によって繰り返しモニターされる。第一のパラメータは、液体製剤中の損傷されたまたはアンフォールドされたタンパク質の量を指す。第二のパラメータは、熱変性中間点を指す。(しかしながら、決定された転移温度の偏差が10%未満であることが、決定されたデータの品質および信頼性に不可欠である。この偏差は、凝集または他の影響などの様々な効果によって引き起こされてもよい。)
【0079】
実行された実験に基づき、タンパク性の製剤について、温度安定性における有意な改善が、本発明に従って選択された賦形剤の添加によって達成され得ることが見出されてきた。例えば、そのネイティブな製剤において、炭疽病PAは、48℃のアンフォールド転移温度を有し、これは、50℃でのまたはこれを超えての保管を許容しないだろう。この温度にて、炭疽病PAは即時に変性する。しかし、実験は、製剤が好適な量のTMAOまたはリン酸二水素コリンを含む場合に、炭疽病PAが最大50℃で安定することを示してきた。さらにまた、メリビオース、マルトースは、液体炭疽病PA製剤を55℃で少なくとも3日間安定化させるのに好適である。保管中に保管温度が60℃まで上昇されると、製剤は、メリビオースを伴って製剤化された場合には、少なくとも6時間安定し続ける。
【0080】
しかしながら、同等の結果がすべての場合で常にみられるわけではない。例えば、液体製剤中のCRM197の熱安定性の評価は、炭疽病PA製剤のそれとはやや異なる。そのネイティブな製剤中、CRM197は、蛍光分光法でアッセイされる場合、二相のアンフォールド転移を示す。初期転移は、構造の局部的な喪失に関する一方で、全体的な尺度では、タンパク質は構造的に無傷のままである。これが、CRM197の安定性を研究するために種々の基準が適用されなければならない理由である。このケースにおいて、2つの改変のための条件が必須となる。第一に、中央値アンフォールド温度は読み出し情報として用いられ得ず、これは、立体構造の組み換えが構造の局部的な喪失に起因して生じるからであり、これは、選択された賦形剤を単に添加することによっては安定化され得ない。加えて、その初期転移における変化が第二のアンフォールド温度の決定に影響を及ぼし、それに基づく全体的な構造状態の誤った査定につながるかもしれない。第二に、CRMの温度依存領域に与えられた損傷の程度は、350nmから330nmの蛍光発光比率に影響を及ぼしている。ここで検査された賦形剤の効果を評価するために、すべての結果は、約50℃でインキュベートされたおよび変性されたそのネイティブな製剤中のタンパク質を含む製剤において測定された結果と比較される。同じ条件下で、CRM197は、53℃の温度でそのネイティブな製剤中のアンフォールドを示す。メリビオースまたはマルトースの対応するCRM197製剤への添加によって、アンフォールドは、製剤が50℃でインキュベートされる場合、少なくとも72時間大きく抑制される。この温度にて、しかしまた55℃にても、メリビオースの添加は96時間までもの間安定化効果を有する一方で、マルトースはCRM197を72時間のみしか安定化させない。60℃でのインキュベーションは、比率を反転させる。測定された結果は、CRM197がマルトースによって60℃で48時間安定化される一方で、メリビオースがCRMを60℃での24時間のインキュベーション期間のみ安定化させることを示す。さらにまた、TMAO、リン酸二水素コリン、ラクツロースは、CRM197にとって好適な安定剤であることが証明されてきた。50℃でインキュベートされる場合、これらの賦形剤はまた少なくとも72時間の時間安定化させる一方、メリビオースおよびマルトースは、これまでに記載したとおり、なおもまだ55℃および60℃で安定化させる。
【0081】
TMAO、リン酸二水素コリン、ラクツロース、メリビオース、およびマルトースをタンパク質製剤へ添加することによって、タンパク質が最大1.8mg/mlの濃度で含有される製剤は、3日間熱安定化され得る。タンパク質は、ワクチンタンパク質であってもよい。それは、炭疽病PA(炭疽病防御抗原)または例えばCRM197または同様のタンパク質などのタンパク質であってもよい。タンパク質は、異種発現タンパク質または過剰発現タンパク質であってもよい。
【0082】
実験は、タンパク質として炭疽病PAまたはCRMを含有する液体タンパク質製剤のための、最良の安定化を同定する。炭疽病PA製剤は、バッファーとしての5mM HEPES、および50mM NaClを含有する。安定化賦形剤として、メリビオースは2.25Mの濃度で含有され、製剤のpH値は7.5である。該CRM製剤は、バッファーとしての20mM HEPES、および150mM NaClを含有する。安定化賦形剤として、メリビオースは2.4Mの濃度で含有され、この製剤のpH値は8.0である。
【0083】
炭疽病PAおよびCRM197を伴う先の実験および調査のために言及されたとおり、モデルタンパク質としての酵素である乳酸脱水素酵素およびリゾチームを伴う製剤はまた、熱安定化されるために検査される。表1の賦形剤は、好適な濃度で添加され、それらの可能性のある熱安定化効果について検査される。これに関連して、さらなる潜在的な熱安定剤は検査され、および、4つの生分解性の化合物でありかつ人体内で規則的に見つけられ得る化合物に基づき選択および調製される、イオン性液体の群から選択される:塩化コリンは胆汁中で見つけられる一方、グルコース、スクロース、ソルビトール、およびグリセロールは、夫々の糖または脂肪経路における天然代謝物である。
これに関連して、該ワクチンおよび酵素タンパク質の熱安定化のためにここで実行された調査によって、溶液中に含有されたタンパク質に応じて、添加された賦形剤の濃度は、効果を示すために調整されなければならないことが見出されてきた。同じ賦形剤が、その濃度におよびタンパク質タイプに応じて、異なる効果を示し得ることもまた見出されてきた。
【0084】
驚くべきことに、見出された結果に基づくと、選択された賦形剤がある物質クラスに属するという事実から、それがまた溶液中の具体的なタンパク質のための良好な熱安定化添加剤でもあるということは容易に推測され得ず、これは、関係する物質が、別のタンパク質と良好な結果を提供するからである。
調査の概略された結果は、検査されたタンパク質の融解温度において最も大きい変化を与えた添加賦形剤、および最も広い適用性を示す添加賦形剤、および検査された3つすべてのワクチンタンパク質のために安定剤として好適である添加賦形剤は、極めて異なる物質群に属することを示す。
これらの賦形剤は、TMAO、リン酸二水素コリン、メリビオース、マルトースおよびラクツロースである。
【0085】
a) TMAOは、250mMの濃度で始まる熱安定化効果を示す。最適な安定化結果は、溶液中1~4Mの範囲にある濃度で得られる。
b) リン酸二水素コリンは、1モル濃度の溶液で始まる熱安定化効果を示す。最適な結果は、濃度が2~4Mの範囲にある場合の組成物について、見出される。
c) メリビオースは、250mMで始まる熱安定化効果を示す。ここで、最適な結果は、濃度が1から2.5Mの間の範囲にある場合の組成物について、見出される。
d) マルトースは、500mMで始まる熱安定化効果を示す。最適な結果は、濃度が1Mおよび1.8Mの間の範囲にある場合の組成物について、見出され、
および
e) ラクツロースは、250mMで始まる熱安定化効果を示す。最適な結果は、濃度が0.5Mおよび1.7Mの間の範囲にある場合の組成物について、見出される。
【0086】
対応する結果は、以下の「例」の章において示されおよびコメントされる。
【0087】
さらにまた、モデルタンパク質として酵素である乳酸脱水素酵素およびリゾチームを伴う製剤もまた、ここで調査される。上述の賦形剤は、好適な濃度で添加され、それらの可能性のある熱安定化効果について検査される。それに応じて実行された、乳酸脱水素酵素を安定化させるための実験は、4-ヒドロキシ-プロリン、L-オルニチン、ラクトビオン酸およびリン酸二水素カリウムが良好な熱安定剤である(これは、該賦形剤がLDHの熱転移中間点を5℃以上上昇させることを意味する)ことを示した。
【0088】
これに加え、イオン性液体である4つの生分解性のイオン性液体の群からのさらなる潜在的な熱安定剤は、人体内で規則的に見つけられ得る化合物に基づき、選択および調製される:塩化コリンは、胆汁中で見つけられる一方、グルコース、スクロース、ソルビトール、およびグリセロールは、夫々の糖または脂肪経路における天然代謝物である。対応するイオン性液体は、水和した深共晶混合物として、3つのステップで調製される。最初に、0.5モルの塩化コリンが、2つの糖の構成要素であるソルビトールおよびグルコースの夫々の量と混合され、0.2モルの量で用いられる(比率5:2)。グリセロールは、0.5モルの量で用いられる(比率1:1)。スクロースは、0.125モルの量で用いられ(比率4:1)、20%w/w H2Oが添加される。
ここで検査は、乳酸コリン、ならびに、塩化コリンの、ソルビトール、グルコース、およびスクロースとの水和した深共晶混合物が、乳酸脱水素酵素のための良好な熱安定剤であることを示してきた。
【0089】
4-ヒドロキシプロリン、L-オルニチン(ornitine)、リン酸二水素カリウム、ラクトビオン酸、およびメグルミンは、乳酸脱水素酵素(LDH)に対する必須とされる熱安定化効果を示す。LDHを熱安定化させるために好適であるとして同定される賦形剤は、ワクチンタンパク質を熱安定化させるための実験においてもまた用いられる。これらのスクリーニング実験は、ラクツロースおよびマルトースは、ワクチンタンパク質を伴う製剤中の良好な熱安定剤であることを示してきた。
【0090】
酵素であるリゾチームを伴う実験において、乳酸コリン、ならびに塩化コリンの、ソルビトール、グルコース、およびスクロースとの水和した深共晶混合物は夫々、良好な熱安定剤として同定された。
【0091】
しかしながら、添加された賦形剤の熱安定化効果が毎ケースにおいては満足のいくものではなかったため、組み合わせて用いられた2つの賦形剤の相乗的な効果が、2つの分子の熱安定化効果を改善するであろう場合には、追加の検査がなされた。以下において、塩およびイオン性液体は、互いに、ならびに、オスモライトおよび糖酸と組み合わされる。すべての実験は、対応するネイティブな製剤(50 mM リン酸ナトリウム、1mM DTT(1,4-ジチオスレイトール)、pH7.6)中で、乳酸脱水素酵素を用いて実行される。タンパク質濃度は、0.05mg/mlの濃度へ調整される。
【0092】
ここで、リン酸二水素カリウムおよびラクトビオン酸は組み合わせて、個々の構成要素から予想され得るとおり、LDHへの同様のレベルの熱安定性を誘発することが見出される。結果は、対応する塩および糖酸が、かかるタンパク質溶液中で互いに適合する場合、それらの使用が相加的な効果をもたらす結果になるであろうことを示唆する。この結果は、LDHに対して同様のレベルの熱安定化効果を誘発する、リン酸二水素カリウムと4-ヒドロキシル-プロリンとの組み合わせの使用によって確認される。
【0093】
リン酸二水素カリウムの、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物(モル比5:2)との組み合わせを用いる結果は、さほど明確ではなく、以下に概略され得る:
塩およびイオン性液体の熱安定化効果は、
- 塩がイオン性液体と比較して過剰に存在する場合、適合的かつ相加的である
- イオン性液体が塩と比較して過剰に存在する場合、不適合であるが、なおも熱安定化する
ように挙動する。
【0094】
しかし、モデルタンパク質である乳酸脱水素酵素の組成物での、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物(モル比5:2)とラクトビオン酸との異なる組み合わせの効果は、異なる。これに関連して、このモデル組成物におけるイオン性液体と糖酸との相互作用について、以下のことが結論づけられてもよい:
- イオン性液体と糖酸との相互作用は、濃度依存的である。
- イオン性液体と糖酸との相互作用は、イオン性液体対糖酸の比率にもまた依存する。
- 充分に多い過剰のイオン性液体が用いられる場合、タンパク質の熱安定性に対する両方の賦形剤の相乗的な効果が観察される。
- かかる相乗的な効果のために必須とされるイオン性液体:糖酸の比率は、イオン性液体の画分が増大することに伴って増大する。
- 糖酸の濃度は、2つの賦形剤の相乗的な効果を観察するために、最小で0.25Mでなければならない。
【0095】
乳酸脱水素酵素を含むモデルタンパク質組成中、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物(モル比5:2)と、アミノ酸である4-ヒドロキシル-プロリンとの異なる組み合わせの効果は、検査された全範囲の濃度および比率にわたりLDHに対して相乗的な熱安定化効果を有し、2つの単一の構成要素について予想された効果よりも5%から36%高い熱安定性をもたらす。
【0096】
ワクチンタンパク質におけるこれらの組み合わせの効果は、同様である。
【0097】
この第三の群の選択された賦形剤において、定義に従うと、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素コリン、乳酸コリン、および塩化コリンの、ソルビトール、グルコース、およびスクロースとの水和した深共晶混合物は夫々、いくつかの条件下で、良好な熱安定剤として分類され得ることが見出される。
【0098】
実行されたすべての検査の評価後、以下のことが見出される
【0099】
1. 上昇された温度の有害な影響に対して、タンパク質製剤を安定させ得る数多の賦形剤がある。
a. 安定化化合物/分子または賦形剤は、4-OH-プロリン;L-オルニチン;ラクトビオン酸;リン酸二水素カリウム;2-ヒドロキシエチル-トリメチルアンモニウムL-(+)-ラクタート;塩化コリンと、ソルビトールまたはグルコースまたはスクロースまたはグリセロールのいずれかの第二の構成要素との、水和した深共晶混合物;ラクトース;ラクツロース;マルトース;メリビオース;メグルミン;リン酸二水素コリン;TMAO;ベタイン;ヒドロキシルエクトイン;エクトイン;ミオ-イノシトール;シトルリン;酢酸アンモニウム;グルコン酸マグネシウム;マンニトール;トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムメチルスルファートから選択される群に属する。
【0100】
b. とくに効率的な熱安定剤は:4-OH-プロリン;L-オルニチン;ラクトビオン酸;リン酸二水素カリウム;2-ヒドロキシエチル-トリメチルアンモニウムL-(+)-ラクタート;塩化コリンといずれかの第二の構成要素:ソルビトールまたはグルコースまたはスクロースとの水和した深共晶混合物;ラクトース、ラクツロース、マルトース、メリビオース、メグルミン、リン酸二水素コリン、TMAO、ベタイン、ヒドロキシルエクトインである。
c. 最も効率的なおよび広く適用可能な賦形剤は、TMAO、リン酸二水素コリン、ラクツロース、マルトース、メリビオースである。
【0101】
2. 必須とされた濃度範囲は各賦形剤について異なり、各個の賦形剤が
a) 特定のタンパク質を安定化させる、
および
b) タンパク質がなおも有効である5℃よりも多い温度を超えて、特定のタンパク質を安定化させる
範囲もまた然りである。
【0102】
3. 実験は、表4に列挙された賦形剤の各々が、60℃よりも高い温度でタンパク質を安定させることができることを開示する。
4. 該賦形剤は、生物学/生化学で用いられる広いスペクトルのバッファー(HEPES、リン酸塩バッファー、ヒスチジンバッファー、クエン酸塩バッファー)に適合する。
【0103】
5. 該賦形剤は、6から8の間のpH範囲において用いられ得る。
6. 該賦形剤は、還元剤(すなわちDTT)に適合する。
7. 該賦形剤は、塩化物塩に適合する。
8. 実験は、メリビオースおよびマルトースがタンパク質凝集を抑制するために好適であることを示す。
【0104】
9. 検査された賦形剤は、タンパク質の三次構造を安定化させることによって、タンパク質のモルテングロビュール状態を安定化させることによって、または溶解されたモノマーの凝集を抑制することによって、熱安定化を提供する。
[モルテングロビュールは、コンパクトで部分的にフォールドされたタンパク質の立体構造であり、これは、ネイティブな状態と比べて、ネイティブに近いコンパクトさ、実質的な二次構造、ほぼ検出可能ではない三次構造および増大した溶媒曝露された疎水性表面積を有する。(Anthony L Fink、University of California、Santa Cruz、California、USA、オンライン公開2001)]
【0105】
10. 2つの賦形剤の組み合わせの使用は、極めて異なる効果を有し得る:
a. 糖酸と組み合わされる塩は、相加的挙動を示す:その結果得られるTmにおける変化は、個々の構成要素により誘発されたアンフォールド温度における変化の和と同様である。
b. オスモライトと組み合わされる塩は、相加的挙動を示す:その結果得られるTmにおける変化は、個々の構成要素により誘発されたアンフォールド温度における変化の和と同様である。
c. オスモライトと組み合わされる塩は、相加的挙動を示す:その結果得られるTmにおける変化は、個々の構成要素により誘発されたアンフォールド温度における変化の和と同様である。
d. 塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物と組み合わされた塩は、複雑な挙動を示す:
i. 相加的挙動を示す一方で、塩はイオン性液体を超過して用いられる、
ii. なおも熱安定化させるが、イオン性液体が塩を超過して用いられる場合、2つの個々の構成要素の和よりも非効率的であり、
【0106】
e. ラクトビオン酸と組み合わされた、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物:
i. イオン性液体と糖酸との相互作用は、濃度依存的である
ii.イオン性液体と糖酸との相互作用は、イオン性液体対糖酸の比率にもまた依存する。
iii. 充分に多い過剰のイオン性液体が用いられる場合、我々は、タンパク質の熱安定性における両賦形剤の相乗的な効果を観察する。
iv. かかる相乗的な効果のために必須とされるイオン性液体対糖酸の比率は、イオン性液体の画分が増大することに伴って増大する。
v. 糖酸の濃度は、2つの賦形剤の相乗的な効果を観察するために、少なくとも0.25Mでなければならない。
f. オスモライト/アミノ酸と組み合わせる、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物は、2つの個々の構成要素の効果から予想されるものより5%~36%大きい熱安定性を導くLDHに対する相乗的な熱安定化効果を有する。
【0107】
上に記載の結果、しかしまたメリビオースおよびマルトースの添加による凝集抑制は、これまでに試験された賦形剤の影響を研究するために、検査溶液中に一群の異なるタンパク質を製剤化することによって得られる。選択されたタンパク質は、細菌および動物起源のものである。これらのタンパク質の中には、酵素、孔形成剤、および2つの不活性化された毒素があった。1つの毒素は突然変異によって不活性化され、一方で第二のものはホルムアルデヒド架橋によって不活性化された。
【0108】
これらの結果がかかる異なるタンパク質とともに得られてきたため、これらの結果から、これらの選択された賦形剤の添加は、可溶性タンパク質が主要の構成要素として含有される製剤において、同様の効果を生むことが推察され得る。
これらの効果は、追加の構成要素が夫々のタンパク質に共有結合するとき、例えば該タンパク質がタンパク質-タンパク質抱合体(例として破傷風トキソイド)、融合-タンパク質、タンパク質-多糖類抱合体、タンパク質-核酸抱合体、タンパク質-DNA抱合体、タンパク質-RNA抱合体、タンパク質-色素抱合体、タンパク質-ビオチン抱合体またはタンパク質-アラム吸着物である場合にもまた生じるという、これらの結果とは別の結論もまた許容可能である。
【0109】
本明細書に開示されたとおり、特定のタンパク質製剤の調製は、上に記載のとおりおよび以下の例に示されるとおりの方法によって実行され得る。
【0110】
本記載は供された例と組み合わせて、当業者に本発明を包括的に実施させることを可能とする。
【0111】
本発明を図示するために以下に供された例は、以下の節において見出された結果に関連して詳細にコメントされるだろう。これらのコメントは、様々なタンパク質製剤の文脈において本発明を広く記載するためにもまた役立つ。
【0112】
さらなるコメントがなくとも、したがって当業者が最も広い範囲において上の記載を活用することができるであろうことが推測される。
【0113】
何かが不明確である場合、引用されたおよび当業者に知られた刊行物および特許文献が参考にされるべきと理解される。結果的に、引用された書類は、本記載の開示内容の一部としてみなされ、参照により本明細書に組み込まれる。
【0114】
より良い理解のためおよび本発明を図示するために、本発明の保護範囲内である例が以下に提供される。これらの例はまた、可能なバリアントを図示するためにも役立つ。
【0115】
さらにまた、当業者には言わずもがな、供された例および残りの記載の両方において、組成物中に存在する構成要素の量は、全体としての組成物に基づいて、100重量%またはモル%までしか常に合計されず、より高い値が示し表されたパーセント範囲から生じ得たとしても、このパーセンテージを超え得ない。別様に明記されない限り、%データはしたがって、体積データで示される比率を除き、重量%またはモル%である。
【0116】

ここで、乳酸脱水素酵素(ウサギの筋肉)およびリゾチーム(鶏卵、白色)ならびに炭疽病防御抗原(炭疽病PA)、破傷風トキソイドおよびジフテリアトキソイド(CRM197)のようなワクチンタンパク質などのモデルタンパク質が、上で列挙された1つ以上の賦形剤の添加による有効な熱安定化を実証するために、用いられる。液体製剤は、タンパク質を0.05から1.8mg/mlの間の範囲にある濃度において含むように、調製される。以下に描写されるのは、検査された最も効率的なおよび最も適用可能な熱安定剤の存在下での、これらのタンパク質の融解温度である。タンパク質の融解温度の増大は、製剤中のタンパク質の増大した熱安定性の指標である。
【0117】
材料および方法
表1
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0118】
1) オスモライト:
TMAO
a) バッファーは緩衝剤(リン酸二水素ナトリウム、HEPES、ヒスチジン)からなって調製され、pHの7または7.5または8が調整される。
b) TMAOは、4.2Mの濃度でバッファー溶液中に溶解され、pHは、pH7または7.5または8に再調整される。
c) ワクチンタンパク質、炭疽病防御抗原またはCRM197または破傷風トキソイドは、賦形剤へ添加される。タンパク質濃度は0.1mg/mlである。賦形剤濃度は4Mである。
d) タンパク質-賦形剤混合物の融解温度は、示差走査蛍光定量法によって測定され、賦形剤フリーのタンパク質溶液と比較される
e) 結果:TMAOは
炭疽病防御抗原の融解温度を20℃
破傷風トキソイドの融解温度を3℃
ジフテリアトキソイドの融解温度を7℃
増大させる。
【0119】
2) イオン性液体:
リン酸二水素コリン
a) リン酸二水素コリンは、4Mの濃度で水中に溶解され、pHは、pH7または7.5または8に調整される
b) ワクチンタンパク質、炭疽病防御抗原またはCRM197または破傷風トキソイドは、賦形剤へ添加される。タンパク質濃度は0.1mg/mlである。賦形剤濃度は3Mである
c) タンパク質-賦形剤ミックスの融解温度は、示差走査蛍光定量法で測定され、賦形剤フリーのタンパク質溶液と比較される
d) 結果:リン酸二水素コリンは
炭疽病防御抗原の融解温度を19℃
破傷風トキソイドの融解温度を5℃
ジフテリアトキソイドの融解温度を13℃
増大させる。
【0120】
3) 塩:
リン酸二水素カリウム
a) バッファー溶液は、緩衝剤(リン酸二水素ナトリウム、HEPES、ヒスチジン)を含んで調製され、pHは7、7.5または8の値に調整される。
b) リン酸二水素カリウムは、1.2Mの濃度でバッファー溶液中に溶解され、pHは、pH7または7.5または8に再調整される。
c) ワクチンタンパク質、炭疽病防御抗原またはCRM197または破傷風トキソイドは、賦形剤へ添加される。タンパク質濃度は0.1mg/mlである。賦形剤濃度は1Mである。
d) タンパク質-賦形剤ミックスの融解温度は、示差走査蛍光定量法によって測定され、賦形剤フリーのタンパク質溶液と比較される。
e) 結果:リン酸二水素カリウムは
炭疽病防御抗原の融解温度を10℃
破傷風トキソイドの融解温度を2℃
ジフテリアトキソイドの融解温度を5℃
増大させる。
【0121】
4) 糖:
ラクツロース
a) バッファーは、緩衝剤(リン酸二水素ナトリウム、HEPES、ヒスチジン)からなって調製され、pHの7または7.5または8が調整される
b) ラクツロースは、2Mの濃度でバッファー溶液中に溶解され、pHは、pH7または7.5または8に再調整される
c) ワクチンタンパク質、炭疽病防御抗原またはCRM197または破傷風トキソイドは、賦形剤へ添加される。タンパク質濃度は0.1mg/mlである。賦形剤濃度は1.7Mである
d) タンパク質-賦形剤ミックスの融解温度は、示差走査蛍光定量法によって測定され、賦形剤フリーのタンパク質溶液と比較される
e) 結果:ラクツロースは
炭疽病防御抗原の融解温度を18℃
破傷風トキソイドの融解温度を20℃よりも多く(装置は、かかる高温でのTmの正確な測定を許可しない)
ジフテリアトキソイドの融解温度を24℃
増大させる。
【0122】
追加の結果:メリビオースによる凝集予防
(図28および29)
メリビオースは、2.75Mの濃度でバッファー溶液中に溶解されpHの7または7.5または8が調整される。
炭疽病防御抗原またはCRM197または破傷風トキソイドのワクチンタンパク質懸濁液が、賦形剤溶液へ添加される。タンパク質濃度は0.1mg/mlである。賦形剤濃度は、2Mまたは2.4Mまたは2.5Mである。
【0123】
結果:
ジフテリアトキソイドの凝集は、2Mまたは2.4Mの賦形剤を用いる場合、最大80℃までの温度へ抑制される。2.5Mの賦形剤が用いられる場合、凝集は観察されない。2.4Mまたは2.5Mの賦形剤が用いられる場合、破傷風トキソイドの凝集は抑制される。
【0124】
5) 糖酸およびそれらの塩:
例 ラクトビオン酸
a) バッファーは、緩衝剤(HEPES、ヒスチジン)からなって調製され、pHの7または7.5が調整される
b) ラクトビオン酸は0.6Mの濃度でバッファー溶液中に溶解され、pHはpH7または7.5に再調整される
c) ワクチンタンパク質、炭疽病防御抗原または破傷風トキソイドは、賦形剤に添加される。タンパク質濃度は0.1mg/mlである。賦形剤濃度は0.5Mである。
d) タンパク質-賦形剤ミックスの融解温度は、示差走査蛍光定量法によって測定され、賦形剤フリーのタンパク質溶液と比較される
e) 結果:ラクトビオン酸は
炭疽病防御抗原の融解温度を7℃
破傷風トキソイドの融解温度を4℃
増大する。
【0125】
6) アミノ糖:
メグルミン
a) バッファー溶液は、緩衝剤(リン酸ナトリウムまたはクエン酸ナトリウム)からなって調製され、pHの6または7.6が調整される
b) メグルミンは3Mの濃度でバッファー溶液中に溶解され、pHはpH6または7.6に再調整される[pHが7.6の場合、1 mM DTT(1,4-ジチオスレイトール)が添加される]
c) タンパク質、乳酸脱水素酵素またはリゾチームは、賦形剤溶液へ添加される。タンパク質濃度は0.1mg/mlである。賦形剤濃度は1.5Mである。
d) タンパク質-賦形剤ミックスの融解温度は示差走査蛍光定量法によって測定され、賦形剤フリーのタンパク質溶液と比較される。
e) 結果:メグルミンは
乳酸脱水素酵素の融解温度を3℃
リゾチームの融解温度を6℃
増大させる。
【0126】
7) アミノアルコール:例 マンニトール
a) バッファー溶液は、緩衝剤(リン酸ナトリウム)からなって調製され、pHの6または7.6が調整される。
b) マンニトールは0.5Mの濃度でバッファー溶液中に溶解され、pHはpH7.6に再調整され、1mM DTTが添加される。
c) タンパク質、乳酸脱水素酵素は、タンパク質濃度が0.1mg/mlとなる結果になる量で、賦形剤溶液へ添加される。賦形剤濃度は0.45Mである。
d) タンパク質-賦形剤ミックスの融解温度は、示差走査蛍光定量法によって測定され、賦形剤フリーのタンパク質溶液と比較される。
e) 結果:マンニトールは
乳酸脱水素酵素の融解温度を2℃
増大させる。
【0127】
図1は、最良の実施を示す添加された賦形剤の、結果の概要を提示する。これは、結果が、検査されたタンパク質の融解温度において最大の変化を与えた、かつ、最も広い適用可能性を示す添加賦形剤を概略したものであることを意味する。これらの賦形剤は、検査された3つすべてのワクチンタンパク質にとっての安定剤として好適である。驚くべきことに、これらは、それら自体が極めて異なる物質群に属する以下の賦形剤であることが見出されてきた:
f) TMAOは、250mMの濃度で始まる熱安定化効果を示す。最適な安定化結果は、溶液中で1~4Mの範囲にある濃度で得られる。
g) リン酸二水素コリンは、1モル濃度の溶液で始まる熱安定化効果を示す。最適な結果は、濃度が2~4Mの範囲にある場合の組成物について、見出される。
h) メリビオースは、250mMで始まる熱安定化効果を示す。ここで、最適な結果は、濃度が1から2.5Mの間の範囲にある場合の組成物について、見出される。
i) マルトースは、500mMで始まる熱安定化効果を示す。最適な結果は、濃度が1Mおよび1.8Mの間の範囲にある場合の組成物について、見出され、
j) ラクツロースは、250mMで始まる熱安定化効果を示す。最適な結果は、濃度が0.5Mおよび1.7Mの間の範囲にある場合の組成物について、見出される。
【0128】
図2は、最適な条件下での夫々の賦形剤によって与えられた融解温度における変化についての結果の概要を提示する:
【0129】
実験設定および考慮事項
熱安定化のためにどの添加剤または賦形剤が最適か、および所望される効果を生むためにはそれらがどんな量で添加されなければならないかを評価するために、ワクチンとして炭疽病PAを伴う検査製剤が調製され、3日間に渡って試験された。詳細な製剤組成は、この章の最後の表2において概略される。これらの実験の目的は、タンパク質組成物の数日にわたる熱安定化のために、最も好適な賦形剤または賦形剤の混合物を探すことである。
【0130】
現在まで、安定化剤は高濃度で用いられなければならないので、かかる組成物は、患者が安定化剤を恐らく耐容しないであろうから、プレフィルドシリンジを調製するために用いられ得ない。希釈ステップはしたがって、患者への投与に先立って必要となる。これらの実験の別の主眼はまた、インビトロアッセイにおける使用のための安定化剤の、恐らく耐容可能な最高レベルを決定することでもある。実験の結果に基づいて、タンパク質濃度が調整され得、および、ワクチン貯蔵溶液が生成され得、その両方は、溶質タンパク質についての熱保護を提供し得るが、希釈後に患者へなおも有効に投与され得る。
【0131】
例えば、メリビオースは、極めて高い可能性で最大250mMの濃度まで患者に耐容され得ることが見出される。先のスクリーニングから、少なくとも2.25Mのメリビオースは、高温度で炭疽病PAを安定化させるために必須となることが知られる。したがって、タンパク質濃度は、2250mM(貯蔵)/250mM(最終的な値)=9の因数によって増大される。したがって、少なくとも9倍の量のワクチン貯蔵製剤が必須とされる。
【0132】
これらの考慮事項に従い、検査製剤は、温度安定化添加剤としてのTMAO、リン酸二水素コリン、ラクツロース、マルトースおよびメリビオースの研究のために調製される。蛍光分光法は、すべてのタンパク質試料がネイティブにフォールドされるかどうかおよび選択された賦形剤がまた上昇されたタンパク質濃度(最大1.6mg/ml)を熱安定化させ得ることを確認するために用いられる。次いでインキュベーションが以下の温度で実行される:
4℃: ネイティブ(賦形剤なし):これらは変化しない対照試料である。
50℃: ネイティブ(賦形剤なし)、TMAO、リン酸二水素コリン、ラクツロース、マルトース
55℃: TMAO、リン酸二水素コリン、ラクツロース、メリビオース、マルトース
60℃: TMAO、リン酸二水素コリン、ラクツロース、メリビオース、マルトース
65℃: メリビオース
【0133】
メリビオースは、転移中間点に基づいてより高い熱安定性を誘発することから、すべての他の賦形剤よりも高い温度で検査される。
【0134】
6時間、24時間、32時間、48時間および72時間の各インキュベーション期間後、少量の試料が採取され、含まれているタンパク質の構造上の状態および安定性は、蛍光分光法を用いて評価される。
【0135】
表2:本願明細書で用いられた検査製剤の概要。
【0136】
分析パラメータ
以下の節で提供される結果は、蛍光分光法によって決定された2つのパラメータに基づく。これらの2つのパラメータの変化は、炭疽病PAがなおもネイティブであるかどうか、またはそれが損傷されているかどうかを決定するために、経時的にモニターされる。下に記載された両方の読み出し情報は、含まれているタンパク質が、実験の期間を通してずっと安定し続けるかどうかを調べるために、必須である。
【0137】
50℃を超えた温度で安定化された炭疽病PA
そのネイティブな製剤において、炭疽病PAは48℃のアンフォールド転移温度を有し、これは50℃またはそれ以上でのタンパク質の保管を許さないであろう。図3は、蛍光分光法によってアッセイされた、50℃での炭疽病PAの保管安定性を示す。
【0138】
図3: 50℃での炭疽病PAの安定性。
図3a) (左)フォールドされた画分。ネイティブに製剤化された炭疽病PAは、ネイティブにフォールドされたタンパク質における即時の衰退を示す。検査されたすべての熱安定剤は、かかる減衰を防止する。
図3b) (右)正規化された転移温度。赤線の間のデータは、タンパク質が安定であることを示し表す。
【0139】
熱安定化賦形剤無しでは、炭疽病PAは即時に変性する。すべての選択された賦形剤は、安定化させ、50℃で72時間の保管を許容する。
【0140】
図4は、55℃での炭疽病PAの保管安定性を示す。
図4: 55℃での炭疽病PAの安定性。
図4a) (左) フォールドされた画分。
図4b) (右) 正規化された転移温度。赤線の間のデータは、タンパク質が安定していることを示し表す。
【0141】
検査製剤が55℃でインキュベートされる場合、メリビオースおよびマルトースは両方、3日間の期間にわたる55℃での保管を許容するために、充分な熱安定化を導くことを可能にすることが見出される。
【0142】
加えて、炭疽病PAは、3日間60℃でインキュベートされた。言及されている結果は、図5に示される。
【0143】
図5: 60℃での炭疽病PAの安定性。
図5a) (左) フォールドされた画分。赤線の下のデータは安定したタンパク質を示し表す。
図5b) (右) 正規化された転移温度。赤線の間のデータはタンパク質が安定していることを示し表す。
【0144】
60℃で、本願明細書で用いられる賦形剤の熱安定化能力は終了となる。メリビオースだけは、6時間を超えてしかし24時間未満で、60℃への短時間曝露を許容することができる。
【0145】
50℃を超えた温度で安定化されたCRM197
そのネイティブな製剤において、CRM197は、蛍光分光法でアッセイされる場合、二相のアンフォールド転移を示す。初期転移は、構造の局部的な喪失に関する一方で、全体的な尺度では、タンパク質は構造的に無傷のままである。本願明細書で用いられた賦形剤は、CRMの全体的な構造上の安定性に対する効果を有する一方で、構造のより多い局部的な喪失は予防し得ない。したがって、CRMの安定性特性を研究する際に、炭疽病PAについて同じ基準は用いられ得ない。
【0146】
データ解釈のため、以下の2つの改変が必須となる:第一に、中央値アンフォールド温度は読み出し情報として用いられ得ない。立体構造の組み換えが構造の局部的なの喪失に起因して生じることが既に設立され、これは本願明細書で用いられた賦形剤によって安定化され得ない。さらにまた、この初期転移における変化は第二のアンフォールド温度の決定に影響を及ぼし、それに基づく全体的な構造状態の誤った査定につながるかもしれない。第二に、CRMの熱に不安定な領域において与えられた損傷の程度は、350nmから330nmの蛍光発光比率に影響を与える。したがって、構造上の損傷の程度は、構造の喪失の実際の度合いではなく、上限になる可能性がある。本願明細書において検査された賦形剤の効果を評価するために、すべての結果は、50℃でインキュベートされるおよび変性させられるそのネイティブな製剤中のタンパク質に、比較される。
【0147】
そのネイティブな製剤において、CRM197は53℃の全体的なアンフォールド温度を有し、これは50℃での長期保管を許さない。したがって、陰性対照は、50℃でインキュベートされた、ネイティブに製剤化されたCRMとなる。図6中、メリビオースおよびマルトースの効果は、CRMの熱安定性に対して示される。
【0148】
図6: 50℃でのCRM197の安定性。メリビオースおよびマルトースは、熱的に誘発されたアンフォールドを3~4日間明確に抑制する。
結果は、マルトースがCRM197を50℃で72時間安定化させることを示す。メリビオースは、CRMを50℃で96時間安定化させる。
【0149】
図7は、55℃でのCRM197の保管安定性を示す。
図7: 55℃でのCRM197の安定性。メリビオースおよびマルトースは、熱的に誘発されたアンフォールドを、3~4日間明確に抑制する。
結果は、マルトースが、CRM197を55℃で72時間安定化させることを示す。メリビオースは、CRMを55℃で96時間安定化させる。
【0150】
図8は順に、60℃でのCRM197の保管安定性を示す。
図8: 60℃でのCRM197の安定性。メリビオースおよびマルトースは、熱的に誘発されたアンフォールドを、3~4日間明確に抑制する。
【0151】
6時間フォールドされた画分は、55℃または50℃と比較して、60℃にてより大きいことが目立つ一方、ネイティブに製剤化されたおよび完全に変性されたCRMに対してなおも明確な差がある。これらの検査の結果は、マルトースがCRM197を60℃で48時間安定化させることを示す。メリビオースは、CRMを60℃で24時間安定化させる。
【0152】
タンパク質としての熱安定化酵素のためのさらなる実験
炭疽病PAおよびCRM197を伴う先の実験および調査のために記載されたとおり、モデルタンパク質としての酵素である乳酸脱水素酵素およびリゾチームを伴う製剤はまた、ここで調査される。上述の賦形剤は、好適な濃度で添加され、それらの可能な熱安定化効果について検査される。
【0153】
塩化コリンに基づくイオン性液体の調製
イオン性液体である4つの生分解性のイオン性液体の群からの、さらなる潜在的な熱安定剤は、人体内で規則的に見つけられ得る化合物に基づき選択されおよび調製される:塩化コリンは胆汁中で見つけられる一方、グルコース、スクロース、ソルビトール、およびグリセロールは、夫々の糖または脂肪経路における天然代謝物である。
【0154】
イオン性液体は、3つのステップで水和した深共晶混合物として調製される。最初に、0.5モルの塩化コリンは、2つの糖であるソルビトールおよびグルコースの構成要素の夫々の量と混合され、0.2モルの量で用いられる(比率5:2)。グリセロールは、0.5モルの量で用いられる(比率1:1)。スクロースは、0.125モルの量で用いられる(比率4:1)。次いで、調製された混合物は、攪拌しながら2時間100℃まで加熱される。グリセロールおよびソルビトール以外のどの物質も、この温度にて液体形態を取らないであろうところ、これらの具体的な混合物は融解し始める。続いて、20%w/wが混合物へ添加され、固体物質が完全に融解される場合、生成されたイオン性液体は、それらが、それらの液体形態を維持する室温まで冷却される。
【0155】
このやり方で調製されたイオン性液体を伴う熱安定化のために用いられた物質の量を、水/バッファー中にただ単に溶解される他の賦形剤と比較するためには、その結果得られる液体の体積が決定され、そこにある塩化コリンの濃度が、溶解されたかのように算出される。典型的には、約100~150mlのイオン性液体が、3.3~4Mのモル濃度の塩化コリンを表すように、調製される。
【0156】
b. 実験アプローチ
前に記載されたとおり、含まれているタンパク質のアンフォールド転移中間点は、蛍光分光法によって決定され、これは、ナノ示差操作蛍光定量法(nanoDSF)によって、ハイスループットスクリーニングが許容されることを意味する。
【0157】
ここで、タンパク質が0.05~0.1mg/mlの濃度で用いられる一方、賦形剤は、適用されたバッファー溶液中のそれらの可溶性に近い濃度まで滴定される。次いで、適切な量のタンパク質溶液は、適切な量の賦形剤溶液と混合され、混合物は15分間室温にて平衡化される。
【0158】
調製されたタンパク質溶液は、加熱速度1℃/分で加熱され、350/330nmでの蛍光発光の比率が記録され、温度に対してプロットされる。典型的には、その結果得られる曲線は、ボルツマン関数と似ており、この曲線の屈曲点は、平均アンフォールド温度Tmを表す。
【0159】
この曲線から、Tmにおける変化は、式Tm賦形剤からTmネイティブを引くことによって決定され、これがdTmを産生する。
【0160】
定義により、>5℃のdTmを導く賦形剤は、良好な安定剤である。dTmが<5℃および>0℃の場合、賦形剤は、乏しい安定剤として定義される。負のdTmは分子をタンパク質不安定剤として同定する。
【0161】
c. モデル酵素としての乳酸脱水素酵素を用いる結果
乳酸脱水素酵素(LDH)は、pH7.6での50mMリン酸ナトリウム、1mM DTT中へ製剤化される。LDHに対する分子の効果を探るために、該分子は、厳密にこのバッファー中で製剤化されたタンパク質へ、様々な濃度で添加される。タンパク質は0.05mg/mlの濃度で用いられる。
【0162】
図9:は、LDHの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補の効果を示す。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。LDHを5℃より多く安定化させることができる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。
【0163】
図9は、この段階では極めて多様な群の化合物からの第一の賦形剤の一式、およびLDHの融解温度に対するそれらの効果を示す。
4-ヒドロキシ-プロリン、オルニチン、ラクトビオン酸およびリン酸二水素カリウムは、定義に従うと、良好な熱安定剤である一方で、しかしながら、エクトイン、ミオ-イノシトール、およびシトルリンなどの他のものは、LDHのTmに対する相対的に小さい効果に起因して、検査された目的のために好適ではない。
【0164】
図10は、LDHの融解温度における変化であるdTmを示し、これは、Na-Ser、OH-Lys、乳酸コリン、コリンCl/ソルビトール、コリンCl/グリセロール、コリンCl/グルコース、コリンCl/スクロースの添加とともに決定される。
【0165】
図10: LDHの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補の効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。LDHを5℃より多く安定化させるために好適な分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。水和した深共晶液体について、他の賦形剤についてのものと同じプロットを用いるために、塩化コリンのモル濃度は、用いられた材料の重量および調製された液体の体積に基づいて推計された。
【0166】
この一式の賦形剤において、乳酸コリン、およびリン酸二水素コリンの、ソルビトール、グルコース、およびスクロース夫々との水和した深共晶混合物は、良好な熱安定剤として同定され、第二のプレスクリーニングステップに進んだ。
【0167】
次の検査において、ラクツロース、グルコン酸マグネシウム、ポリスクロース400、マンニトール、マルトースおよび酢酸アンモニウムのLDHの熱安定性に対する影響が検査される。これらの賦形剤は、本願明細書におけるLDHを熱安定化させるために好適であると同定される。図11:は、LDHの平均アンフォールド温度に対する、ラクツロース、グルコン酸マグネシウム、ポリスクロース400、マンニトール、マルトースおよび酢酸アンモニウムの効果を示す。
【0168】
黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。LDHを5℃より多く安定化させることができる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。
【0169】
とくにラクツロースおよびマルトースは、良好な熱安定剤として同定される。酢酸アンモニウム、グルコン酸マグネシウム、およびマンニトールは、タンパク質-安定剤としてもまた同定される。
【0170】
d. モデル酵素としてのリゾチームを用いる結果
リゾチームは、20mM クエン酸Na、55mM NaCl、1mM DTT、pH6.0で製剤化される。リゾチームに対する分子の効果を探るために、該分子は、厳密にこのバッファー中で製剤化されたタンパク質へ、様々な濃度で添加される。タンパク質は、0.1mg/mlの濃度で用いられる。
【0171】
図12: リゾチームの平均アンフォールド温度に対するヒドロキシ-プロリン、L-シトルリン、L-オルニチン(ornitine)、リン酸二水素カリウム、ラクトビオン酸、メグルミン、エクトイン、ミオ-イノシトールおよびスルホン酸メチルの効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。
【0172】
この一式の分子から、ヒドロキシプロリン、L-オルニチン(ornitine)、リン酸二水素カリウム、ラクトビオン酸、およびメグルミンは、必須とされた熱安定化効果を示す。エクトイン、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムメチルスルファート(MeOSO3)、およびシトルリンは、リゾチームを充分に安定化させない。
【0173】
図13は、リゾチーム:イオン性液体において検査された第二の群の物質の結果を示す。
図13: LYZの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補の効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。LYZを5℃より多く安定化させることができる分子は、これまでに言及された定義に従って、良好な熱安定剤として同定される。水和した深共晶液体について、他の賦形剤についてのものと同じタイプのプロットを用いるために、塩化コリンのモル濃度は、用いられた材料の重量および調製された液体の体積に基づいて推計される。
【0174】
ここで検査された賦形剤候補のうち、乳酸コリン、およびリン酸二水素コリンのソルビトール、グルコース、およびスクロース夫々との水和した深共晶混合物は、良好な熱安定剤として同定された。
【0175】
少なくとも1つのモデルタンパク質を、5℃以上で安定化させた各賦形剤のために用いられた濃度範囲の概要は、表3中に見出され得る。典型的には、モル賦形剤濃度が与えられる。イオン性液体については、1つの構成要素のみのモル濃度は誤解を招くであろうから、用いられた賦形剤の体積パーセントが与えられる。
【0176】
【表3】
【0177】
乳酸脱水素酵素を用いる賦形剤の組み合わせの効率を示す結果
初期の実現性査定のため、互いに組み合わされる様々な賦形剤の相溶性が検査される。目標は、組み合わせて用いられた2つの賦形剤の相乗的な効果が、2つの分子の熱安定化効果を改善することになるどうかを解明することである。塩およびイオン性液体は、互いに、かつ、オスモライトおよび糖酸と組み合わされる。すべての実験は、対応するネイティブな製剤(50mM リン酸ナトリウム、1mM DTT、pH7.6)中の乳酸脱水素酵素を用いて実行される。タンパク質濃度は、0.05mg/mlの濃度に調整される。LDHは、2つの賦形剤を様々な比率および濃度で含む溶液へ添加される。調製された組成物は、室温にて15分間インキュベートされる。次いで、LDHの平均アンフォールド温度は、上に記載のとおりのナノ示差走査蛍光定量法を用いて、1℃/分の加熱速度で測定される。
【0178】
図14は、リン酸二水素カリウムのラクトビオン酸との組み合わせについての結果を概略する
図14: モデルタンパク質である乳酸脱水素酵素に対するリン酸二水素カリウムおよびラクトビオン酸の種々の組み合わせの効果 - 青字は、組み合わされた製剤のTmにおいて測定された変化。黒および赤で積み重ねられたのは、個々の賦形剤について個別に決定されたTmにおける変化である。青いバーが積み重ねられた黒および赤のバーを上回る場合、相乗的な効果が検出されるだろう。
【0179】
組み合わせにおいてリン酸二水素カリウムおよびラクトビオン酸は、個々の構成要素から予想され得るとおり、LDHへの同様のレベルの熱安定性を誘発することが見出される。相対的に言えば、この組み合わせを用いる場合、熱安定化有効性が90%および104%の間で観察され得る。
【0180】
これは、対応する塩および糖酸が、かかるタンパク質溶液中で適合性があり、相加的な効果を導くという結論を導く。
【0181】
図15は、リン酸二水素カリウムおよび4-OH-プロリンの組み合わせについての結果を概略する。
図15: モデルタンパク質である乳酸脱水素酵素中の、リン酸二水素カリウムおよびラクトビオン酸の種々の組み合わせの効果。青字は、組み合わされた製剤のTmにおいて測定された変化。黒および赤で積み重ねられたのは、個々の賦形剤について個別に決定されたTmにおける変化である。青いバーが積み重ねられた黒および赤のバーを上回る場合、相乗的な効果を結論付けなければならないだろう。
【0182】
組み合わせにおいてリン酸二水素カリウムおよび4-OH-プロリンは、個々の構成要素が添加された場合に予想され得るとおり、LDHに対する同様のレベルの熱安定化効果を誘発することが見出される。相対的に言えば、これらの化合物が組み合わせて用いられる場合、95%から100%の間の範囲における熱安定化有効性が観察され得る。
【0183】
したがって、塩およびオスモライトの熱安定化効果は適合性があり、相加的な様式で作用することが結論付けられる。
【0184】
図16は、リン酸二水素カリウムおよび塩化コリン/ソルビトールの組み合わせについての結果を概略する。
図16: モデルタンパク質である乳酸脱水素酵素中の、リン酸二水素カリウム、および塩化コリンとソルビトールとの水和した深共晶混合物(モル比5:2)の種々の組み合わせの効果。青字は、組み合わされた製剤のTmにおいて測定された変化。黒および赤で積み重ねられたのは、個々の賦形剤について個別に決定されたTmにおける変化である。青いバーが積み重ねられた黒および赤のバーを上回る場合、相乗的な効果を結論付けなければならないだろう。
【0185】
ここで、リン酸二水素カリウムの、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物(モル比5/2)との組み合わせは、後者が前者と比較して過剰に用いられる場合、不適合であることが観察される。塩と比較して過剰のイオン性液体を伴うと、58%から81%の有効性が見出される。しかしながら、塩がイオン性液体を超えて添加される場合、両方の熱安定化効果は、99~102%の範囲で相加的である。
【0186】
結果的に、塩およびイオン性液体の熱安定化効果は:
- 塩がイオン性液体と比較して過剰に存在する場合、適合的かつ相加的であり
- イオン性液体が塩と比較して過剰に存在する場合、不適合であるが、なおも熱安定化する
ように挙動する。
【0187】
図17は、コリンCl/ソルビトールおよびラクトビオン酸の組み合わせの添加の結果を概略する。これらの結果は、前に検査された組み合わせのデータよりも複雑である。
図17: モデルタンパク質である乳酸脱水素酵素の組成物中の、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物(モル比5:2)とラクトビオン酸との種々の組み合わせの効果。青字は、組み合わされた製剤のTmにおいて測定された変化。黒および赤で積み重ねられたのは、個々の賦形剤について個別に決定されたTmにおける変化である。青いバーが積み重ねられた黒および赤のバーを上回る場合、相乗的な効果を結論付けなければならないだろう。
【0188】
異なる相互作用が含有しているイオン性液体の濃度に応じて観察される:イオン性液体の低濃度のみが用いられ(0.5M)、かつラクトビオン酸の添加が2:1の比率である場合、相乗的な効果が受けられ、かつおよびモデルタンパク質は個々の構成要素よりも安定化される。
【0189】
1.5モル濃度のイオン性液体を伴うと、同様の効果が観察されるが、これらの条件下では、より大きな過剰のイオン性液体が、相乗的な効果を生むために必須である。過剰のイオン性液体が6倍に増大された場合、相乗的な安定化が見出される。極めて高濃度(2.5M)のイオン性液体では、ラクトビオン酸の小さい濃度の効果のみが探られ得る。ラクトビオン酸に対して10倍過剰のイオン性液体を用いることは、両方の相乗的な効果を導く。しかしながら、0.15Mラクトビオン酸(16:1)のみが用いられる場合、相加的な効果が観察される可能性が高い。
【0190】
モデル組成物中のイオン性液体と糖酸との相互作用について、以下のことが結論付けられる:
- イオン性液体と糖酸との相互作用は、濃度依存的である
- イオン性液体と糖酸との相互作用は、イオン性液体と糖酸の比率にもまた依存する
- 充分に多い過剰のイオン性液体が用いられる場合、我々は、両方の賦形剤のタンパク質の熱安定性に対する相乗的な効果を観察する
- かかる相乗的な効果のために必須とされるイオン性液体:糖酸の比率は、イオン性液体の画分が増大することに伴って増大する
- 糖酸の濃度は、2つの賦形剤の相乗的な効果を観察するために、最小で0.25Mでなければならない。
【0191】
図18は、塩化コリン/ソルビトールおよび4-OH-プロリンの組み合わせの結果を概略する。
図18: 乳酸脱水素酵素を含むモデルタンパク質組成物中の、塩化コリンおよびソルビトールの水和した深共晶混合物(モル比5:2)と4-ヒドロキシル-プロリンとの種々の組み合わせの効果。青字は、組み合わされた製剤のTmにおいて測定された変化。黒および赤で積み重ねられたのは、個々の賦形剤について個別に決定されたTmにおける変化である。青いバーが積み重ねられた黒および赤のバーを上回る場合、相乗的な効果を結論付けなければならないだろう。
【0192】
測定された結果は、検査された濃度のおよび比率の全範囲にわたるイオン性液体のアミノ酸との組み合わせがLDHに対する相乗的な熱安定化効果を有し、2つの単一の構成要素から予想された効果よりも、5%から36%高い熱安定性を引き起こすことを示す。
【0193】
用いられた賦形剤の組み合わせ、それらの濃度範囲およびそれらのLDHに対する効果の概要は、以下の表4中に見出され得る。
表4:
【0194】
ワクチンタンパク質を用いる熱安定化賦形剤のためのスクリーニング
以下の章において、3つのかなり異なるワクチンタンパク質を用いる賦形剤分子についての、スクリーニングの結果が議論される。すべての潜在的な賦形剤分子が、すべてのワクチンタンパク質について検査されるわけではない。目標は、3つの極めて異なるタンパク質の平均アンフォールド温度を、60℃を超える温度まで上昇させ得る賦形剤分子を同定することである。
【0195】
実験アプローチ
我々は、我々のタンパク質のアンフォールド転移中間点を決定するために、蛍光分光法を採用する。具体的には、我々は、ハイスループットなスクリーニングを許容するナノ示差操作蛍光定量法を用いる。
【0196】
タンパク質は0.1mg/mlの濃度で用いられ、これは、市販のワクチン用量におけるタンパク質濃度に十分に対応する。賦形剤は、それらの可溶性限界に近い濃度まで滴定される。すべての賦形剤は、リン酸二水素コリンを例外として、ワクチンタンパク質のネイティブな製剤バッファー中に調製される。後者は水中で溶解され、pHは、ネイティブなワクチンタンパク質製剤のpHと一致するように調整される(詳細については以下を参照)。このケースにおいて、リン酸二水素塩イオンは緩衝剤として作用するだろう。タンパク質は賦形剤と混合され、15分間室温にて平衡化させる。
【0197】
炭疽病防御抗原を用いる熱安定化賦形剤についてのスクリーニング
炭疽病防御抗原(炭疽病PA)は、炭疽病ワクチンの主要タンパク質成分である。そのネイティブな製剤は、50mM NaClを7.5のpHで伴う5mM HEPESである。ネイティブな平均アンフォールド温度は48℃である。3つの分類の賦形剤は、炭疽病PA:糖、イオン性液体/塩、およびオスモライトを安定化させるための検査において用いられる。得られた結果は、様々な目的のために幅広く用いられた賦形剤であるトレハロースを用いる結果と比較される。
【0198】
図19は、糖を用いる熱安定化炭疽病PAについての結果を示す。
図19: 炭疽病PAの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補としての糖の効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。炭疽病PAを5℃より多く安定化できる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングの対象となる。
【0199】
この第一の群において、ラクツロース、メリビオース、およびマルトースは、良好な熱安定剤として同定され、さらなる査定のために用いられることになる。既に相対的な低濃度(250mM)にて、必須とされる5℃の追加の熱安定性が観察される。ほとんど30℃で、メリビオースは、炭疽病PAのTmをより高い温度へシフトするのに明確に最も有効である。この群において検査されたすべての糖は、トレハロースよりも効率的な熱安定剤である。
【0200】
図20は、オスモライトを用いる熱安定化炭疽病PAについての結果を示す
図20: 炭疽病PAの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補としてのオスモライトの効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。炭疽病PAを5℃より多く安定化できる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングの対象となる。
【0201】
この第二の群において、数個の知られたタンパク質安定剤があり、例えばタウリンなどのものであり、これは、本願明細書で用いられたワクチンタンパク質を安定化させることができない。オスモライトのうち、TMAO、ベタイン、4-ヒドロキシル-プロリン、ヒドロキシエクトイン、およびラクトビオン酸は、本定義に従うと、良好な熱安定剤であり、したがってさらなる検査のために選択されることが見出される。しかしながら、TMAOのみは熱安定剤としてトレハロースを上回る。
【0202】
図21は、塩およびイオン性液体を用いる熱安定化炭疽病PAについての結果を示す。
図21: 炭疽病PAの平均アンフォールド温度における賦形剤候補の効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。炭疽病PAを5℃より多く安定化させることができる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。水和した深共晶液体について、他の賦形剤についてのものと同じタイプのプロットを用いるために、塩化コリンのモル濃度は、用いられた材料の重量および調製された液体の体積に基づいて推計された。
【0203】
この第三の分子の群において、上の定義に従うと、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素コリン、乳酸コリン、および塩化コリンの、夫々ソルビトール、グルコース、およびスクロースとの水和した深共晶混合物は、いくつかの条件下では、良好な熱安定剤として分類され得ることが見出される。
【0204】
破傷風トキソイドを用いる熱安定化賦形剤のためのスクリーニング
破傷風トキソイド(Td)は、破傷風菌(Clostridium tetanii)毒素の不活性型であり、および毒素モノマーのホルムアルデヒド架橋によって調製される。ホルムアルデヒド架橋生成物は、大きなタンパク質複合体であり、これは、もはや毒性はないが、免疫系によって認識されるための抗原構造をなおも提供する。そのネイティブな製剤は、pHの7.0での100mM NaClを伴う100mMヒスチジンである。ネイティブな平均アンフォールド温度は、67℃である。
【0205】
3つの分類の賦形剤は、Tdを安定化させるための努力において用いられる:糖、イオン性液体/塩、およびオスモライトは、様々な目的のために幅広く用いられる賦形剤であるトレハロースの得られた結果と比較される。
【0206】
図22は、糖を用いる熱安定化Tdについての結果を示す。
図22: Tdの平均アンフォールド温度における賦形剤候補としての糖の効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。Tdを5℃より多く安定化させることができる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。
【0207】
この第一の群において、ラクツロース、メリビオース、およびマルトースは、良好な熱安定剤として同定される。最高温度の線は、影響を受けた賦形剤濃度について完全なアンフォールド転移が観察され得なかったことを示し表し、これは、機器が試料をそれ以上加熱し得ず、アンフォールド転移が不完全であったからである。これまでに議論された炭疽病PAについての実験におけるように、ラクツロース、メリビオース、およびマルトースは、トレハロースよりも効率的な熱安定剤である。
【0208】
図23は、オスモライトを用いる熱安定化Tdについての結果を示す。
図23: Tdの平均アンフォールド温度における賦形剤候補としてのオスモライトの効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。Tdを5℃より多く安定化できる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。
【0209】
この第二の賦形剤の群において、我々は、ヒドロキシエクトインのみが良好な熱安定剤として同定され得ることを観察する。それまた、トレハロースよりも性能が高いこの群において検査された唯一の物質でもある。
【0210】
図24は、イオン性液体を用いる熱安定化Tdについての結果を示す。
図24: Tdの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補の効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。Tdを5℃より多く安定化できる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。水和した深共晶液体について、他の賦形剤についてのものと同じタイプのプロットを用いるために、塩化コリンのモル濃度は、用いられた材料の重量および調製された液体の体積に基づいて推計された。
【0211】
この第三の賦形剤の群において、リン酸二水素コリンは、この群において最も効率的な熱安定剤であり、また、トレハロースよりも効率的であることが観察される。塩化コリンの夫々ソルビトール、グルコース、およびスクロースとの水和した深共晶混合物は、良好な熱安定剤として分類され得る。
【0212】
ジフテリアトキソイドCRM197を用いる熱安定化賦形剤のためのスクリーニング
ジフテリアトキソイド(CRM197)は、コリネバクテリアジフテリア毒素の不活性型である。点突然変異の導入は、毒素を無害なものとするが、免疫系によって認識されるための抗原構造をなおも提供する。そのネイティブな製剤は、pHの8.0での150mM NaClを伴う20mM HEPESである。CRM197の、蛍光分光法を用いてモニターされたタイプのアンフォールドである、三次構造アンフォールドは、むしろ複雑である:それは、局部的な構造上の変化を表している第一の転移を伴って二相の転移においてアンフォールドする一方で、第二の転移はタンパク質の全体的なアンフォールドを表す。どの温度も、CRM197の免疫を誘発するための能力に具体的に関連づけられ得ないことから、両方の転移は、我々の賦形剤の有効性に関して分析される。またここで、3つの分類の賦形剤:糖、イオン性液体/塩、およびオスモライトが用いられ、様々な目的のために幅広く用いられる賦形剤であるトレハロースと共に得られた結果と比較される。
【0213】
図25は、糖を用いるCRMの熱安定化についての結果を示す。
図25: CRMの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補としての糖の効果。赤線は、dTm=5℃を示し表す。CRMを局部的に(クローズド記号)および全体的に(オープン記号)5℃より多く安定化できる分子は、賦形剤候補として考慮され、必須とされる場合には、種々のワクチンタンパク質と共にスクリーニングされる。
【0214】
この第一の群において、ラクツロース、メリビオース、およびマルトースは、トレハロースよりも性能の高い良好な熱安定剤であるとして同定される。
【0215】
図26は、オスモライトを用いるCRMの熱安定化についての結果を示す。
図26: CRMの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補としてのオスモライトの効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。CRMを局部的に(閉じられた記号)および全体的に(オープンの記号)5℃より多く安定化できる分子は、賦形剤候補として考慮される。
【0216】
この第二の賦形剤の群において、TMAOのみが良好な熱安定剤として同定され得ることが観察される。
【0217】
図27は、イオン性液体を用いるCRMの熱安定化についての結果を示す。
図27:CRMの平均アンフォールド温度に対する賦形剤候補の効果。黒線は、dTm=0℃を示し表す。赤線は、dTm=5℃を示し表す。CRMを5℃より多く安定化させることができる分子は、異なるモデルタンパク質を伴う第二のスクリーニングに供される。水和した深共晶液体について、他の賦形剤についてのものと同じタイプのプロットを用いるために、塩化コリンのモル濃度は、用いられた材料の重量および調製された液体の体積に基づいて推計された。
【0218】
この第三の賦形剤の群において、局部のアンフォールド転移(Tm1)は、さほど安定化されないが、リン酸二水素コリンは、良好な熱安定剤として分類され得ることが観察される。リン酸二水素コリンの他に、すべての他のコリンベースのイオン性液体は、CRMをトレハロースよりも効率的に熱安定化させる。しかしながら、塩化コリンベースのイオン性液体は、CRMの第一のアンフォールド転移において実質的な不安定化効果を有する。これはおそらく、これらのイオン性液体中に存在する高い量の電荷によって生じる。
【0219】
ワクチンタンパク質のコロイド安定性に対する賦形剤効果の査定
5つの分子が高温度でタンパク質に安定性を誘発するための潜在的な賦形剤として同定されてきた後、これらの分子は、より詳細な評価に供される。ここで鍵となる側面は、選択される賦形剤がタンパク質のコロイド安定性に対して何らかの効果を有するかどうかを決定することである。換言すれば、タンパク質が、賦形剤の存在下で凝集する傾向の変化を示すかどうかを決定することが必要である。凝集が予防される場合、夫々の賦形剤は追加の利益を示すであろう。
【0220】
タンパク質の凝集挙動を評価するために、動的光散乱が用いられる。タンパク質の流体力学半径が測定され、この値はタンパク質が、モノマーであるかまたは凝集された状態を有するかどうか評価するために用いられ得る。5つの選択される賦形剤は、ワクチンタンパク質を0.1mg/mlの濃度で含む溶液へ添加される。先の節におけるように、各ワクチンタンパク質は、そのネイティブな製剤中で製剤化され、各賦形剤は、ワクチンタンパク質の対応するネイティブな製剤中で調製される。また、この一式の実験において、リン酸二水素コリンは、いかなるバッファー構成要素もなしで調製されるが、賦形剤貯蔵溶液のpHは、ワクチンタンパク質製剤のpHと合致するように調整される。
【0221】
ワクチンタンパク質および賦形剤は一緒に混合され、0.1mg/mlワクチンタンパク質含量および賦形剤の所望された濃度を伴う検査製剤を生成する(詳細は以下に与えられる)。
【0222】
ワクチンタンパク質の上昇した温度でのコロイド安定性を評価するため、試料は、Dynapro Plate Reader III (Wyatt Technology)中へ配置される316ウェルプレートにロードされる。ワクチンタンパク質の流体力学半径Rhは、室温にて決定される。次いで、プレートは5分間40℃まで加熱され、次いで室温まで冷され、ここでRhは再度決定される。このように、40~80℃の範囲にある種々の温度は、10℃刻みでアッセイされる。
【0223】
図28は、例として炭疽病PAの結果を示す。
図28: 上昇した温度での5分インキュベーション後の炭疽病PAの流体力学半径。
ネイティブに製剤化された炭疽病PAについて、低い流体力学半径が室温にて観察される。この低いRhが40℃での5分インキュベーションによって影響を受けるようには見られない。しかしながら、これに続く50℃での5分後には、Rhにおける劇的な増大が観察され、50℃にて炭疽病PAが凝集されることを示し表す。この温度は、Taggと称される。これにより、ネイティブに製剤化された炭疽病PAについて、凝集温度Taggは50℃であることが結論付けられる。様々な賦形剤の添加は、Taggを最大80℃の温度まで上昇させる。
【0224】
Taggにおいて観察された変化が、事実上、凝集の抑制であるかどうか、またはタンパク質のより高い立体構造上の安定性の単なる結果であるかどうかを分析するために、TaggがTmに対してプロットされ、それは、図29中に示される。
【0225】
図29: Tagg vs. Tm。10℃刻みを用いてTaggについて探られることから、Tm周辺の10℃間隔は、凝集がアンフォールドに厳重に付随すると考えられるところ(緑エリア)で定義される。
Taggがそのレジームを超えて上昇される場合、賦形剤は凝集を抑制すると考えられる(黄色エリア)。Taggがそのレジームを下回って低減される場合、賦形剤は凝集を促進すると考えられるだろう(赤エリア)。
【0226】
メリビオースは、CRM(2Mおよびそれ以上)および破傷風トキソイド(2.4M)の凝集を抑制することが観察される。後者は凝集しないことから、図29中で対応するデータポイントがない。さらにまた、マルトースは、CRM(1.5Mおよびそれ以上)の凝集を抑制しており、これはまた、図21中のデータポイントを完全に欠如させる。
【0227】
ワクチンタンパク質の二次構造安定性に対する賦形剤の効果の査定
ワクチンタンパク質の三次構造を探ることに加えて、5つの賦形剤は、ワクチンタンパク質の二次構造含量に対するそれらの効果を報告する分析方法に供される。
【0228】
各賦形剤の1つの濃度は、3つすべてのワクチンタンパク質で分析される。我々が用いるタンパク質濃度は、0.5mg/mlである。さらにまた、この設定において光検出に干渉しないようにするために、先の実験におけるものとは異なるバッファー系を用いることが必要である。しかしながら、バッファーにおけるこの変化は、この研究において用いられたタンパク質の安定性に影響しないことが示され得る。
【0229】
ワクチンタンパク質は、夫々のネイティブな製剤におけるものと同じpHレベルを維持する、5mMリン酸二水素ナトリウムおよび塩化ナトリウム(50~150mM)を含むバッファー中で製剤化される。スペクトルは、280~200nm(いくつかのケースにおいては210nm)から、1nmのデータピッチ、100μmのスリット幅、応答2秒、100nm/sのスピードおよび1mm光路長で記録される。3つのスペクトルは、各温度について平均化される。
【0230】
図30は、決定された転移温度を示す。
図30 新たに同定された熱安定剤を含有する製剤中の炭疽病PA、破傷風およびジフテリアトキソイドの転移温度
【0231】
結果を概略する前、データを適切な文脈に入れることが重要である2つの注記すべき所見がある:
【0232】
第一に、炭疽病PAについて、2つの熱誘導転移が観察される。各転移がどのように炭疽病PAの能力に影響を及ぼし、タンパク質の免疫原性に影響を及ぼすかについての事前情報なしに、より低い転移温度が分析のために用いられる。ラクツロースを伴う製剤中、2つのアンフォールド転移は、むしろ狭い温度レジーム中に生じ、そのいずれも、必須とされる的確さを伴って決定され得ない。したがって、構造上の変化が生じなかった箇所で、最高温度が記録される。概して、炭疽病のアンフォールド温度は、転移中間点ではなく、より低い限界としてみなされるべきである。
【0233】
第二に、極めて高温度でさえも、二次構造における変化が観察されない条件がある。しかしながら、DLSおよび蛍光測定からの情報は、全体の安定性および賦形剤の作用のモードを正しく評価するために必須である。
【0234】
表5は、実験の結果を概略する:
【0235】
ワクチンタンパク質安定性に対する5つの選択される賦形剤の効果
ワクチンタンパク質の立体構造上のおよびコロイド安定性に対する、3つの異なる物質群から選択される賦形剤の効果が決定される。立体構造上の安定性について、二次および三次構造に対する効果間で差別化することが可能である。
【0236】
図31は、各タンパク質および賦形剤の組み合わせについて、すべての結果の概要を与える。
図31: 炭疽病PA、CRM197および破傷風トキソイドについて得られた蛍光、CDおよびDLSデータの概要。60℃での黒線は、所望される安定性標的を表す。手元の情報とともに、各タンパク質に対する各賦形剤の効果が説明され得る。
【0237】
i) TMAO:用いられた一式の賦形剤のうち、TMAOは極めて良好な熱安定剤のなかで最も弱いようにみえる。
ii) リン酸二水素コリン:このイオン性液体は、TMAOよりも強い熱安定剤であり、CRMをTMAOよりも安定させる。
【0238】
i) メリビオース:ここで検査された糖は一般に、最良の熱安定化を示す。メリビオースは、検査された3つすべてのワクチンタンパク質について、トレハロースよりも効率的な熱安定剤である。メリビオースは、破傷風およびCRMについて、凝集を抑制させる。
ii) マルトース:その熱安定化効果は、メリビオースと同様である。マルトースは、すべてのワクチンタンパク質を、60℃を大幅に超えて安定化させているが、メリビオースは、より強い安定化効果を有するようにみえる。マルトースは、検査された3つすべてのワクチンタンパク質について、トレハロースよりも効率的な熱安定剤である。他方、マルトースはもっと低い濃度で用いられ、この賦形剤をもっと容易に用いるようにさせる。マルトースは、CRMの凝集、ならびにCRMおよびTdの二次構造アンフォールドを抑制する。
iii) ラクツロース:前に言及された糖と同様、ラクツロースは、すべてのワクチンタンパク質を、60℃を超える温度まで安定化させる。しかしながら、他の糖は対照的に、CRMの二次構造アンフォールドが観察され、凝集予防はない。しかし、ラクツロースは、熱安定剤として、マルトースと同様の有効性を示し、3つすべてのワクチンタンパク質について、トレハロースよりも効率的である。両方の糖は、同様の濃度(1.7Mラクツロースおよび1.8Mマルトース)で用いられ、一方でメリビオースは、より濃縮された溶液が適用される(2.4M)場合、有効である。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31