(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ゴム粒子、複合粒子及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/445 20060101AFI20241015BHJP
C08G 77/48 20060101ALI20241015BHJP
C08G 81/00 20060101ALI20241015BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20241015BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20241015BHJP
C08L 67/07 20060101ALI20241015BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C08G77/445
C08G77/48
C08G81/00
C08J3/12 Z CFH
C08J7/04 Z
C08L67/07
C08L83/05
(21)【出願番号】P 2022537944
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026331
(87)【国際公開番号】W WO2022019179
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020124630
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 祥士
(72)【発明者】
【氏名】大木 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】井口 良範
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊司
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-040214(JP,A)
【文献】特開2001-040097(JP,A)
【文献】特開2006-045559(JP,A)
【文献】特開平08-297380(JP,A)
【文献】特開平08-073664(JP,A)
【文献】特開平08-209037(JP,A)
【文献】特開2001-114899(JP,A)
【文献】特開平03-277645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C08G 81/00- 81/02
C08J 3/00- 7/18
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ-ε-カプロラクトン
ポリオールの分子鎖末端
水酸基を脂肪族不飽和基で置換した、脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル、及び
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
のヒドロシリル化架橋物であり、但し、前記(A)成分の前記脂肪族不飽和基が一分子中に2個存在し、且つ前記(B)成分の前記ケイ素原子に結合した水素原子が一分子中に2個存在する組み合わせの場合を除くものである、粒子形状が球状で、体積平均粒径が0.1~50μmであるゴム粒子。
【請求項2】
(B)成分が、下記一般式(1):
【化1】
(R
1はそれぞれ独立に非置換又は置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基であり、R
2は互いに独立に水素原子又は非置換もしくは置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基であり、1≦m≦1000、0≦n≦1000、ただし、n=0の場合、2つのR
2は共に水素原子であり、2つのR
2が共に水素原子でない場合、nは2以上である)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである、請求項1に記載のゴム粒子。
【請求項3】
(B)成分が、下記一般式(2):
【化2】
(R
3はフェニル基を除く、非置換又は置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基であり、0≦a≦500、1≦b≦1000、1≦a+b≦1000、0≦c≦1000、ただし、c=0の場合、2つのR
2は共に水素原子であり、2つのR
2が共に水素原子でない場合、cは2以上である)で表される、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである請求項2に記載のゴム粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム粒子の表面に、ポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカが被覆されている複合粒子。
【請求項5】
下記(i)~(iii)の工程を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム粒子を製造する方法。
(i)ポリ-ε-カプロラクトン
ポリオールの分子鎖末端
水酸基を脂肪族不飽和基で置換した、脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル(A)及びケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)で構成される油相成分に、界面活性剤を含む水相成分を添加し乳化することで、O/W型エマルションを得る工程
(ii)ヒドロシリル化反応性触媒存在下で、エマルション中の(A)成分及び(B)成分からなる油相成分をヒドロシリル化反応により硬化させ、ゴム粒子の水分散液(C)を得る工程
(iii)工程(ii)で得られたゴム粒子の水分散液(C)から連続相である水を乾燥除去させることにより、ゴム粒子を得る工程
【請求項6】
下記(i)~(v)の工程を含む請求項4に記載の複合粒子を製造する方法。
(i)ポリ-ε-カプロラクトン
ポリオールの分子鎖末端
水酸基を脂肪族不飽和基で置換した、脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル(A)及びケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)で構成される油相成分に、界面活性剤を含む水相成分を添加し撹拌することで、O/W型エマルションを得る工程
(ii)ヒドロシリル化反応性触媒存在下で、エマルション中の(A)成分及び(B)成分からなる油相成分をヒドロシリル化反応により硬化させ、ゴム粒子の水分散液(C)を得る工程
(iii’)工程(ii)で得られたゴム粒子の水分散液(C)に、アルカリ性物質(E)を添加する工程
(iv)工程(iii’)で得られたアルカリ性物質を添加したゴム粒子水分散液に、下記一般式(3):
【化3】
(R
4は炭素数が1~6の一価炭化水素基、R
5は非置換又は置換の炭素数が1~20の一価炭化水素基又は-OR
4)
で表されるオルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種(F)を添加し、縮合反応させることにより、ゴム粒子の表面をポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカで被覆し、複合粒子の水分散液を得る工程
(v)工程(iv)で得られた複合粒子の水分散液から連続相である水を乾燥除去させることにより、複合粒子を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム粒子、複合粒子及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム弾性を有するシリコーンゴム粒子は、樹脂の応力緩和剤として使用されている。例えば、電子、電気部品のパッケージングに用いられるエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂においては、電気部品の発熱による膨張によってパッケージに応力がかかっても割れにくくするために、ゴム粒子を配合することが行われている。また、化粧料においても、柔らかな感触、なめらかさ等の使用感及び伸展性を付与する目的で使用されている。
【0003】
シリコーンゴム粒子として、シリコーンゴム粒子がポリオルガノシルセスキオキサン樹脂で被覆された複合粒子(特許文献1:特開平7-196815号公報)や、シリコーンゴム粒子がシリカなどの金属酸化物微粒子で被覆された複合粒子(特許文献2:特開平4-348143号公報)等も提案されている。これらの複合粒子は、凝集性が低く、分散性が高いことが特徴である。
【0004】
また、熱可塑性樹脂等に対して良好な分散性を有する粒子として、特許文献3:特開2001-40214号公報には、脂肪族飽和結合を有する有機化合物とケイ素原子結合水素原子を有する含ケイ素有機化合物からなる液状組成物をヒドロシリル化反応により架橋してなる有機架橋粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-196815号公報
【文献】特開平4-348143号公報
【文献】特開2001-40214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂や化粧料等に配合されるこのようなシリコーンゴム粒子が環境中に廃棄された場合、粒径が非常に小さいことから、回収が大変困難であるため、陸水を経てそのまま海洋へと流出してしまうことが考えられる。陸水や海洋に廃棄されたシリコーンゴム粒子は粒子構造内に分解構造を有していないことから環境分解されず、環境中に残存し続けることが予測される。
【0007】
加えて、海洋中のマイクロプラスチックは環境中の有害物質や病原菌を吸着する特性があり、生態系に悪影響を及ぼすことが懸念され、マイクロプラスチックが規制される動きが出始めている。このような背景から、使用後に環境中で分解し、粒子(固体)として残存し続けないシリコーンゴム粒子が求められつつある。シリコーンゴム粒子が環境分解するためには、ゴム粒子の架橋構造が環境中で分解(切断)される必要があるが、シリコーンゴム粒子は構造上、分解性を有していない為、架橋構造中に分解性官能基を含む構造を導入しなければならない。
【0008】
特許文献3に具体的に示されているのは、両末端アリル基含有ポリプロピレンオキサイドをケイ素原子結合水素原子含有オルガノポリシロキサンで架橋した粒子及びヘキサジエンをジメチルポリシロキサン・メチルハイドロジェンポリシロキサンで架橋した粒子であり、これらの粒子は環境中で分解されるための因子となる分解性官能基が含まれていないため、分解性に乏しい。
したがって、本発明は、高い分散性及び高い分解性を有する、ポリシロキサン構造を含むゴム粒子、複合粒子及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、ポリエステル構造及びポリオルガノシロキサン構造を含む共重合体からなるゴム粒子及び複合粒子が、上述した課題を解決することを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は下記ゴム粒子、複合粒子及びその製造方法を提供するものである。
[1].
ポリエステル構造及びオルガノポリシロキサン構造を含む共重合体からなるゴム粒子。
[2].
粒子形状が球状で、体積平均粒径が0.1~50μmである[1]に記載のゴム粒子。
[3].
共重合体が、
(A)脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル、及び
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
のヒドロシリル化架橋物であり、但し、前記(A)成分の前記脂肪族不飽和基が一分子中に2個存在し、且つ前記(B)成分の前記ケイ素原子に結合した水素原子が一分子中に2個存在する組み合わせの場合を除くものである[1]又は[2]に記載のゴム粒子。
[4].
(A)成分の脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステルが、
直鎖又は分岐鎖構造を有するポリエステル又はポリエステル共重合体の分子鎖末端を脂肪族不飽和基で置換したものである[3]に記載のゴム粒子。
[5].
(A)成分が有するポリエステル構造が、ポリ-ε-カプロラクトンである[4]に記載のゴム粒子。
[6].
(B)成分が、下記一般式(1):
【化1】
(R
1はそれぞれ独立に非置換又は置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基であり、R
2は互いに独立に水素原子又は非置換もしくは置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基であり、1≦m≦1000、0≦n≦1000、ただし、n=0の場合、2つのR
2は共に水素原子であり、2つのR
2が共に水素原子でない場合、nは2以上である)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである、[3]~[5]のいずれか1項に記載のゴム粒子。
[7].
(B)成分が、下記一般式(2):
【化2】
(R
3はフェニル基を除く、非置換又は置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基であり、0≦a≦500、1≦b≦1000、1≦a+b≦1000、0≦c≦1000、ただし、c=0の場合、2つのR
2は共に水素原子であり、2つのR
2が共に水素原子でない場合、cは2以上である)で表される、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである[6]に記載のゴム粒子。
[8].
[3]~[7]のいずれか1項に記載のゴム粒子の表面に、ポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカが被覆されている複合粒子。
[9].
下記(i)~(iii)の工程を含む[3]~[7]のいずれか1項に記載のゴム粒子を製造する方法。
(i)脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル(A)及びケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)で構成される油相成分に、界面活性剤を含む水相成分を添加し乳化することで、O/W型エマルションを得る工程
(ii)ヒドロシリル化反応性触媒存在下で、エマルション中の(A)成分及び(B)成分からなる油相成分をヒドロシリル化反応により硬化させ、ゴム粒子の水分散液(C)を得る工程
(iii)工程(ii)で得られたゴム粒子の水分散液(C)から連続相である水を乾燥除去させることにより、ゴム粒子を得る工程
[10].
下記(i)~(v)の工程を含む[8]に記載の複合粒子を製造する方法。
(i)脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル(A)及びケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)で構成される油相成分に、界面活性剤を含む水相成分を添加し撹拌することで、O/W型エマルションを得る工程
(ii)ヒドロシリル化反応性触媒存在下で、エマルション中の(A)成分及び(B)成分からなる油相成分をヒドロシリル化反応により硬化させ、ゴム粒子の水分散液(C)を得る工程
(iii’)工程(ii)で得られたゴム粒子の水分散液(C)に、アルカリ性物質(E)を添加する工程
(iv)工程(iii’)で得られたアルカリ性物質を添加したゴム粒子水分散液に、下記一般式(3):
【化3】
(R
4は炭素数が1~6の一価炭化水素基、R
5は非置換又は置換の炭素数が1~20の一価炭化水素基又は-OR
4)
で表されるオルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種(F)を添加し、縮合反応させることにより、ゴム粒子の表面をポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカで被覆し、複合粒子の水分散液を得る工程
(v)工程(iv)で得られた複合粒子の水分散液から連続相である水を乾燥除去させることにより、複合粒子を得る工程
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム粒子及び複合粒子は、粒子中に分解性官能基であるエステル基(ポリエステル構造)を含有しており、水分存在環境にて架橋構造が切断されるため、分解性を有する。特に、粒子中のポリエステル構造として、微生物認識骨格のポリ-ε-カプロラクトン構造を有する粒子は、ゴム粒子の環境分解性も期待できる。
したがって、本発明のゴム粒子及び複合粒子は、凝集性が低く、分散性が高く、分解性を有する粒子であり、環境負荷低減材料として期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のゴム粒子はポリエステル構造及びオルガノポリシロキサン構造を含む共重合体からなるゴム粒子であり、複合粒子は、該ゴム粒子の表面をポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカで被覆した粒子である。
【0013】
[ゴム粒子]
本発明のゴム粒子の形状は特に限定されないが、球状が好ましい。本発明において、「球状」とは、粒子形状が真球のみを指すのではなく、アスペクト比(最長軸の長さ/最短軸の長さ)の値が平均して、通常1~4、好ましくは、1~2、より好ましくは、1~1.6、さらにより好ましくは、1~1.4の範囲にある、変形した楕円体も含むことを意味する。粒子の形状は、例えば光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて観察することで確認でき、アスペクト比は顕微鏡写真から任意に100個の粒子の最長軸及び最短軸の長さをそれぞれ計測し、平均値として算出した値である。
【0014】
ゴム粒子の体積平均粒径は0.1~50μmが好ましく、より好ましくは0.5~40μmであり、1~20μmがさらに好ましい。ゴム粒子の体積平均粒径が0.1μm未満であると、粒子の流動性が低く、凝集性が高くなる。また、ポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカで被覆する際、均一に被覆することが困難となる。50μmより大きいと、なめらかさが低下し、またざらつき感が出る場合がある。本発明において、粒径は、電気抵抗法で測定した体積平均粒径である。
【0015】
ゴム粒子の成分であるゴムは、タックが生じていないことが好ましく、そのゴム硬度は日本ゴム協会基準規格(SRIS)に規定されているアスカーゴム硬度計C型による測定で5~90が好ましく、より好ましくは、20~85、さらにより好ましくは、40~85である。ゴム硬度が5未満であると、凝集性が高くなり、分散性が悪くなる。
【0016】
本発明のゴム粒子は、
(A)脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル、及び
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(但し、前記(A)成分の前記脂肪族不飽和基が一分子中に2個存在し、且つ前記(B)成分の前記ケイ素原子に結合した水素原子が一分子中に2個存在する組み合わせの場合を除く)
の液状組成物をヒドロシリル化反応により共重合させた粒子であることが好ましい。
【0017】
(A)成分の脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステルは、例えば、直鎖又は分岐鎖構造を有するポリエステル又はポリエステル共重合体の分子鎖末端を脂肪族不飽和基で置換したものである。
即ち、(A)成分は、直鎖又は分岐鎖構造で、ポリエステル構造(ポリエステル繰り返し単位)を少なくとも1つ有し、かつ、分子鎖末端に脂肪族不飽和基を有するものである。この(A)成分は、例えばポリエステル、ポリエステル共重合体、ポリエステルポリオール等の分子鎖末端を脂肪族不飽和基で置換することで得られる。
前記ポリエステルとしては、例えばポリ-ε-カプロラクトン、ポリ-β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリグリコール酸、ポリエチレンアジペート、ポリヒドロキシ酪酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタラート等の芳香族ポリエステルが挙げられ、より分解性が高いと考えられる脂肪族ポリエステルが好ましい。
【0018】
また、前記ポリエステル共重合体としては、前記ポリエステルと、別種のポリマーとの共重合体が挙げられる。この別種のポリマーは、前記ポリエステルから選択されても構わないし又はポリエーテルやポリカーボネート等のポリエステル以外のポリマーでも構わない。このポリエステル共重合体は、前記理由から脂肪族ポリエステルどうしの共重合体が好ましく、例えばL-乳酸/ε-カプロラクトン共重合体、L-乳酸/グリコール酸共重合体等が挙げられる。
【0019】
上記ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートオール、ポリテトラメチレンアジペートジオール、ポリエチレンアジペートジオール等のポリエステルポリオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール、ポリ-ε-カプロラクトントリオール、ポリ-ε-カプロラクトンテトラオール等のポリラクトンポリオールが挙げられるが、好ましくは、ポリラクトンポリオールで、さらに好ましくは、下記式(4)に示すポリ-ε-カプロラクトンジオール、下記式(5)に示すポリ-ε-カプロラクトントリオール、下記式(6)に示すポリ-ε-カプロラクトンテトラオールである。
【化4】
【0020】
ポリ-ε-カプロラクトンポリオールとしては、炭素数2~20の脂肪族多価アルコールへのラクトンの重付加物等が挙げられ、式中R6~R8はこの炭素数2~20の脂肪族多価アルコール残基であり、式中k、l、m及びnは1≦k+l+m+n≦100を満たす整数である。
【0021】
上記式(4)中のR6は炭素数2~20の脂肪族基であり、該脂肪族基は炭素数2~20の脂肪族炭化水素基であり、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよく、具体的には下記の脂肪族二価アルコールから誘導される残基である。前記脂肪族二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコール等の直鎖アルコール;1,2-、1,3-又は2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール及び4-メチルオクタンジオール等の分岐アルコール;1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘプタンジオール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等の脂環式アルコール等が挙げられる。ポリ-ε-カプロラクトンジオールの市販品としては、例えばプラクセル205U[(株)ダイセル製]等が挙げられる。
【0022】
上記式(5)中のR7は炭素数2~20の脂肪族基であり、該脂肪族基は炭素数2~20の脂肪族炭化水素基であり、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよく、具体的には下記の脂肪族三価アルコールから誘導される残基である。脂肪族三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。ポリ-ε-カプロラクトントリオールの市販品としては、例えばプラクセル305[(株)ダイセル製]等が挙げられる。
【0023】
上記式(6)中のR8は炭素数2~20の脂肪族基であり、該脂肪族基は炭素数2~20の脂肪族炭化水素基であり、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよく、具体的には下記の脂肪族四価アルコールから誘導される残基である。脂肪族四価アルコールとしては、例えば、ペンタエリトリトール等が挙げられる。この市販品としては、例えばプラクセル410[(株)ダイセル製]等が挙げられる。
【0024】
(A)成分の製造方法としては、上記で例示した、直鎖又は分岐鎖構造を有するポリエステル、ポリエステル共重合体又はポリエステルポリオールに、脂肪族不飽和基を分子片末端に有する分子をエステル結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミド結合、スルフィド結合などを介して導入する方法が挙げられる。具体的には、例えば上記ポリラクトンポリオールなどに、上記結合を形成する脂肪族不飽和基を分子片末端に有する分子として、反応時のポリエステルの安定性や反応率が優れる酸ハロゲン化物などを反応させればよく、入手のしやすさ、コストの面から酸塩化物が好ましい。また、脂肪族不飽和基は、分子末端部位に有するのが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセネル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基、ノルボルネン基、ジシクロペンタジエニル基等の環状不飽和基等が挙げられるが、好ましくはアルケニル基である。アルケニル基を分子末端に有する酸塩化物としては、例えば4-ペンテノイルクロリド、6-ヘプテノイルクロリド、8-ノネノイルクロリド、10-ウンデセノイルクロリド等が挙げられる。
【0025】
(A)成分は液状であることが好ましく、ゲルパーミエ―ションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が200~10000であることがより好ましい。さらに好ましくは300~5000である。分子量が200より小さいと、分解性が悪くなるおそれがあり、10000より大きいと、ゴム粒子の調製が困難となる。
【0026】
(B)成分のケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造としては、直鎖状、環状、分岐状のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましく、下記(1)式に示した構造であるものが好ましい。
式(1)中、R
1は、それぞれ独立に、非置換又は置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基である。R
2は、互いに独立に、水素原子又は非置換もしくは置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基である。mは1≦m≦1000の数、nは0≦n≦1000の数であり、好ましくは1≦m≦500、1≦n≦500である。n=0の場合、2つのR
2は水素原子であり、2つのR
2が共に水素原子でない場合、nは2以上である。
【化5】
【0027】
R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘニコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;及びこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等の原子及び/又はアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、グリシドキシ基、カルボキシル基等の置換基で置換した炭化水素基等が挙げられる。
【0028】
式(1)中、R2は水素原子又は非置換もしくは置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基である。R2の非置換又は置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基としては、上記R1と同じものが例示される。
【0029】
(B)成分はさらに下記式(2)で示されるジフェニルシロキシ単位を含むオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが好ましい。式(2)中、R
1及びR
2は、式(1)中のものと同じものを示し、R
3は、それぞれ独立に、フェニル基以外の非置換又は置換の炭素数が1~30の一価炭化水素基である。
【化6】
【0030】
式(2)中、R3としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘニコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基;トリル基、ナフチル基等のフェニル基以外のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;及びこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等の原子及び/又はアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、グリシドキシ基、カルボキシル基等の置換基で置換した炭化水素基等が挙げられる。
【0031】
式(2)中、a、b及びcは、0≦a≦500、1≦b≦1000、1≦a+b≦1000、0≦c≦1000で、好ましくは0≦a≦250、1≦b≦500、1≦c≦500の範囲である。ただしc=0の場合、2つのR2は共に水素原子であり、2つのR2が共に水素原子でない場合、cは2以上である。
【0032】
(A)脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステルと、(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分の脂肪族不飽和基と(B)成分の水素原子のどちらかが、少なくとも3個となる組成がより好ましい。(A)成分と(B)成分との配合比は、(A)成分の脂肪族不飽和基1個に対し、B成分のヒドロシリル基が0.5~2.0個となるような比率が好ましい。
【0033】
(A)成分及び(B)成分を架橋させるヒドロシリル化触媒は、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が例示されるが、白金系触媒であることが好ましい。白金系触媒の具体的例としては、例えば白金(白金黒を含む)単体、白金担持カーボン又はシリカ、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体、塩化白金酸-ビニル基含有シロキサン錯体等が挙げられる。白金系触媒の配合量は、ヒドロシリル化反応触媒としての触媒量でよい。具体的には、触媒中の白金質量換算で、0.1~500ppm程度、好ましくは0.1~200ppm程度、さらに好ましくは0.5~100ppm程度の量である。0.1ppm未満では硬化が遅くなるうえ触媒毒の影響を受けやすくなる。一方、500ppm超では、ゴム粒子に着色が見られることや、経済面で好ましくない。
【0034】
[(A)成分の製造方法]
(A)成分の製造方法としては、例えば下記が挙げられるが、この製造方法には限定されない。上記式(4)~(6)に示したポリラクトンポリオール、ないしポリエステルポリオール成分1モルに、発生する塩化水素を捕捉するための塩基を2.2~8.0モル、好ましくは、2.5~6.0モルの過剰量を混合し、そこに上記脂肪族不飽和基を分子末端に有する酸塩化物を2.0~7.0モル、好ましくは2.2モルを超え6.0モル以下の過剰量を滴下し、加熱下で30分~6時間、好ましくは1時間~2時間反応させる。反応後、反応生成物を抽出、水洗、吸着工程にて副生成物を除去し、溶媒留去することで(A)成分を得ることができる。
【0035】
塩基としては、反応により生成する塩化水素を捕捉するために添加され、ポリラクトンポリオール、ないしポリエステルポリオールや酸塩化物と反応しないものが使用できる。このような塩基としては、三級アミンが好ましく、より好ましくはトリエチルアミンである。
【0036】
抽出工程にて反応生成物の粘度調製の為に疎水性有機溶媒を用いてもよい。疎水性有機溶媒としては特に限定されないが、溶解性などの点からトルエンが好ましい。
【0037】
吸着は、水洗工程で除去しきれない塩基の塩酸塩や、脱水、脱色、脱臭のための工程である。使用できる吸着材は公知のものでよく、複数を組み合わせて使用してもよい。吸着材として好ましくは硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム等の乾燥剤、活性炭、キョーワードシリーズ(協和化学工業(株)製)である。
【0038】
[ゴム粒子の製造方法]
本発明のゴム粒子は、例えば、次の工程(i)~(iii)を有する方法により製造することができる。
(i)
(A)脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステルと、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンで構成される油相成分に、
界面活性剤を含む水相成分を添加し撹拌することで、O/W型エマルションを調製する。
(ii)
そのO/W型エマルション中で(A)成分及び(B)成分からなる油相成分を上記ヒドロシリル化触媒存在下で硬化させることでゴム粒子の水分散液(C)を得ることができる。
(iii)
このゴム粒子の水分散液の連続相である水を乾燥除去させることにより、ゴム粒子を得ることができる。
【0039】
工程(i)
工程(i)で用いられる界面活性剤は、特に限定されず、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤又は両イオン性界面活性剤である。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0040】
ここで用いる非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0041】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪族アルキロールアミドの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、N-アシルタウリン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、モノアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルアミノ酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、ジアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0042】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルジメチルアンモニウム塩、ジポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、トリポリオキシエチレンアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、モノアルキルアミン塩、モノアルキルアミドアミン塩等が挙げられる。
【0043】
両イオン性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルジメチルカルボキシベタイン、アルキルアミドプロピルジメチルカルボキシベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0044】
界面活性剤としては、少量で上記硬化性液状シリコーン組成物を乳化することができ、微細な粒子とすることができる点から、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0045】
界面活性剤の添加量は、エマルション100質量部に対して0.01~20質量部が好ましく、より好ましくは0.05~10質量部である。0.01質量部未満であると、乳化ができないことや、微細な粒子とすることができないような問題が生じる。20質量部より多くすると、後記する複合粒子製造工程でゴム粒子にポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカを被覆させることが困難となる。
【0046】
また、このエマルション中における油相成分である、(A)成分の脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステルと、(B)成分のケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有量は、エマルション100質量部に対して1~80質量部が好ましく、より好ましくは10~60質量部である。1質量部より少ないと、効率的に不利となり、80質量部より多いとゴム粒子の水分散液として得ることが困難となる。
【0047】
乳化を行うには、公知の乳化分散機を用いればよく、一般的な乳化分散機としては、ホモミキサー等の高速回転剪断型撹拌機、ホモディスパー等の高速遠心放射型撹拌機、ホモジナイザー等の高圧噴射式乳化分散機、コロイドミル、超音波乳化機等が挙げられる。
【0048】
工程(ii)
このようにして調製したエマルション中の油相成分は、上記のヒドロシリル化触媒存在下にて硬化させることで、ゴム粒子の分散液を得ることができる。このヒドロシリル化触媒は、エマルション調製前の油相に加えてもよいし、エマルション調製後に添加してもよい。エマルション調製後に添加する場合に、ヒドロシリル化触媒が分散しない可能性があるが、その場合は界面活性剤をヒドロシリル化触媒と混合させてから添加すればよい。ヒドロシリル化は室温で行ってもよく、反応が完結しない場合には、100℃未満の加熱下で行ってもよい。ヒドロシリル化反応時間は適宜選択される。この方法により体積平均粒径が0.1~50μmであるゴム粒子の水分散液を得ることができる。
【0049】
工程(iii)
得られたゴム粒子の水分散液から連続相である水を乾燥除去することにより、ゴム粒子を得ることができる。ゴム粒子の水分散液からの水の乾燥除去は、例えば、常圧下又は減圧下に加熱することにより行うことができ、具体的には、分散液を加熱下で静置して水分を除去する方法、分散液を加熱下で撹拌流動させながら水分を除去する方法、スプレードライヤーのように熱風気流中に分散液を噴霧、分散させる方法、流動熱媒体を利用する方法等が挙げられる。なお、この操作の前処理として、加熱脱水、濾過分離、デカンテーション等の方法で分散液を濃縮してもよいし、必要ならば分散液を水やアルコールで洗浄してもよい。
【0050】
[複合粒子]
複合粒子の表面に被覆しているポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカは、その形状は特に限定されないが、後記の製造方法の場合、粒状となる。その粒径は小さい方が好ましく、具体的には500nm以下である。オルガノシルセスキオキサン又はシリカは、ゴム粒子表面の一部又は全部でもよいが、ゴム粒子表面全体に渡り、おおよそ隙間なく被覆されていることが好ましい。なお、被覆の状態、形状及び粒径は、粒子表面を電子顕微鏡にて観察することにより確認することができる。
【0051】
粒子表面に被覆しているポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカの量は特に限定されないが、ゴム粒子100質量部に対し0.5~200質量部となる比率が好ましく、より好ましくは1~50質量部となる比率である。
【0052】
[複合粒子の製造方法]
本発明の複合粒子は、
(C)ゴム粒子水分散液、
(D)水(任意)、
(E)アルカリ性物質、
を含む液に、
(F)下記一般式(3)で表されるオルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種、
を添加し、加水分解縮合反応させることにより、ゴム粒子の表面をポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカで被覆することで得られる。
【化7】
式(3)中、R
4はそれぞれ独立に炭素数が1~6の一価炭化水素基であり、R
5は非置換もしくは置換の炭素数が1~20の一価炭化水素基又は-OR
4である。
即ち、本発明の複合粒子は、次の工程(i)~(v)を有する方法により製造することができる。
(i)脂肪族不飽和基を一分子中に少なくとも2個有するポリエステル(A)及びケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)で構成される油相成分に、界面活性剤を含む水相成分を添加し撹拌することで、O/W型エマルションを得る工程
(ii)ヒドロシリル化反応性触媒存在下で、エマルション中の(A)成分及び(B)成分からなる油相成分をヒドロシリル化反応により硬化させ、ゴム粒子の水分散液(C)を得る工程
(iii’)工程(ii)で得られたゴム粒子の水分散液(C)に、アルカリ性物質(E)を添加する工程
(iv)工程(iii’)で得られたアルカリ性物質を添加したゴム粒子水分散液に、一般式(3)で表されるオルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種(F)を添加し、縮合反応させることにより、ゴム粒子の表面をポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカで被覆し、複合粒子の水分散液を得る工程
(v)工程(iv)で得られた複合粒子の水分散液から連続相である水を乾燥除去させることにより、複合粒子を得る工程
複合粒子の製造方法の工程(i)及び(ii)は、前記ゴム粒子の製造方法の工程(i)及び(ii)と同様である。また、工程(iii’)において、任意成分として(D)水を添加してもよい。
【0053】
工程(iii’)
(D)水
水は特に限定されず、精製水等が用いられ、上記工程(ii)で得られたゴム粒子の水分散液中の水及び必要に応じて添加した水が含まれる。
【0054】
(E)アルカリ性物質
アルカリ性物質は、オルガノトリアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応の触媒として作用するものであれば、任意のものであってよいが具体的に、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン等のアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の四級アンモニウムヒドロキシド等を用いることができ、より好ましくは、水溶性、触媒活性に優れ、揮発により除去が容易なアンモニアであり、これには一般に市販されているアンモニア水溶液を用いればよい。
【0055】
(E)成分の添加量は、(C)~(E)を含む液の25℃におけるpHが9.0~13.0となる量であるのが好ましく、より好ましくは10.0~12.5の範囲となる量である。pHが10.0よりも低いと、オルガノトリアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応が十分に進行せず、pHが13.0よりも高いと、加水分解速度が大きくなり、ゴム粒子表面以外の部分で加水分解縮合反応が生じ、被覆性が低くなる。
【0056】
(F)成分を添加する際に(G)カチオン性界面活性剤及びカチオン性水溶性高分子化合物から選ばれる1種以上を配合してもよい。
カチオン性界面活性剤及びカチオン性水溶性高分子化合物は、加水分解したオルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランの縮合反応を促進させ、ポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカを生成させる作用がある。また、生成したポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカをゴム粒子表面に吸着させる場合がある。
【0057】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルジメチルアンモニウム塩、ジポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、トリポリオキシエチレンアルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩、モノアルキルアミン塩、モノアルキルアミドアミン塩等が挙げられる。このうち、アルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましく、より好ましくはラウリルトリメチルアンモニウム塩及びセチルトリメチルアンモニウム塩である。
【0058】
カチオン性水溶性高分子化合物としては、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの重合体、ビニルイミダゾリンの重合体、メチルビニルイミダゾリウムクロライドの重合体、アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、エピクロルヒドリン/ジメチルアミン重合体、エチレンイミンの重合体、エチレンイミンの重合体の4級化物、アリルアミン塩酸塩の重合体、ポリリジン、カチオンデンプン、カチオン化セルロース、キトサン及びこれらに非イオン性基やアニオン性基を持つモノマーを共重合する等したこれらの誘導体等が挙げられる。このうち、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの重合体が好ましい。
【0059】
(G)成分の添加量は、(C)~(E)を含む液中の水100質量部に対し0.001~2質量部が好ましく、より好ましくは、0.005~1質量部の範囲である。2質量部より多い添加量では、ゴム粒子表面に被覆されないポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカが生じるおそれがある。
【0060】
(F)上記一般式(3)で表されるオルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種
ゴム粒子を被覆するポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカは、ゴム粒子に既記の一般式(3)で示される、オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種を添加することで形成されるものである。この式中R4は炭素数が1~6の一価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。式中R5は、非置換又は置換の炭素数が1~20の一価炭化水素基又は-OR4である。非置換又は置換の炭素数が1~20の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;フェニル、トリル基などのアリール基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;β-フェニルエチル基、β-フェニルプロピル基のようなアラルキル基;クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などの1価ハロゲン化炭化水素基;さらにはこれら一価炭化水素基をエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基などで置換した基が挙げられる。
R5が非置換又は置換の炭素数が1~20の一価炭化水素基の場合、ゴム粒子を被覆するのはポリオルガノシルセスキオキサンになり、R5が-OR4の場合、ゴム粒子を被覆するのはシリカとなる。
被覆に用いられるオルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランは具体的に、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-メタクルロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフロロヘキシルトリメトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフロロデシルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが挙げられる。
【0061】
(F)成分の添加量は、(C)~(E)を含む液中の水100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。これが20質量部より多いと塊状物の発生するおそれがある。
【0062】
工程(iv)
(C)~(E)、(G)を含む液に、(F)オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種を添加し、オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランを加水分解、縮合させることにより、ゴム粒子の表面をポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカで被覆する。具体的には、(C)ゴム粒子水分散液、(D)水(任意)に、(E)アルカリ性物質、(G)カチオン性界面活性剤及びカチオン性水溶性高分子化合物から選ばれる1種以上(任意)を溶解させた水溶液に、(F)オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物から選ばれる一種を添加し、加水分解、縮合させる。この縮合物、すなわちポリオルガノシルセスキオキサン又はシリカは、ゴム粒子の表面を被覆し、複合粒子が形成される。
【0063】
オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物の添加は、プロペラ翼、平板翼等の通常の撹拌機を用いて撹拌下で行うことが好ましい。オルガノトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン及びそれらの加水分解物は時間をかけて添加することが好ましく、滴下時間は1分~6時間が好ましく、より好ましくは10分~3時間である。
【0064】
滴下中の系内温度は0~60℃であることが好ましく、より好ましくは0~40℃の範囲である。この範囲の温度であると、ゴム粒子表面上にポリオルガノシルセスキオキサン及びシリカを被覆することができる。
【0065】
工程(v)
加水分解、縮合反応完了後、得られた本発明の複合粒子の水分散液から連続相である水を乾燥除去することによって、複合粒子を得ることができる。水の除去は、例えば、反応後の水分散液を常圧下又は減圧下に加熱することにより行うことができ、具体的には、分散液を加熱下で静置して水分を除去する方法、分散液を加熱下で撹拌流動させながら水分を除去する方法、スプレードライヤーのように熱風気流中に分散液を噴霧、分散させる方法、流動熱媒体を利用する方法等が挙げられる。なお、この操作の前処理として、加熱脱水、濾過分離、遠心分離、デカンテーション等の方法で分散液を濃縮してもよいし、必要ならば分散液を水やアルコールで洗浄してもよい。
【0066】
反応後の水分散液から水を乾燥除去することにより得られた生成物が凝集している場合には、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル等の粉砕機で解砕することにより、ゴム粒子表面がポリオルガノシルセスキオキサン及びシリカで被覆された複合粒子を得ることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、例中、動粘度は25℃において測定した値であり、濃度及び含有率を表す「%」は「質量%」を示す。ゴム硬化物の針入度は、日本ゴム協会基準規格(SRIS)の規格に準じて測定した値である。(A)成分の分子量は、下記条件で測定したGPCによるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量である。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.60mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperHM-N
TSKgel SuperH2500
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度0.5質量%のTHF溶液)
【実施例1】
【0068】
[アルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトンの合成1]
攪拌機と、滴下ロートと、温度計と、冷却管を備えた1リットルのガラスフラスコに、ポリ-ε-カプロラクトンジオール(商品名:プラクセル205U、(株)ダイセル製、分子量530、水酸基価212.4mg/g)200g、トルエン200g及びトリエチルアミン95.8gを加え、温調を55℃にして混合し、ここにウンデセン酸クロライド168.9g(ポリ-ε-カプロラクトンジオールの水酸基1個に対し、酸塩化物の塩素が1.1個となる添加量)を滴下ロートで滴下し、滴下後2時間熟成させた。熟成後、水200g及びトルエン100gを加え、水相を分液ロートへ移し、トルエン100gで抽出した。抽出後、油相を水450g一回、飽和食塩水450g二回で水洗し、次いで硫酸マグネシウム、活性炭、キョーワード700(協和化学工業(株)製)を各10g添加し、2時間振盪させた。振盪後、加圧ろ過により硫酸マグネシウム、活性炭、キョーワード700を除き、60℃、10mmHg以下の条件で溶媒留去することで、アルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン1(下記式(7))を得た。
【化8】
(R
6は脂肪族基を示し、2≦m+n≦5、重量平均分子量:862)
【0069】
[ゴム粒子の作製]
合成した上記のアルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン1を171gと、下記式(8)で示される、動粘度が23mm
2/sのフェニルハイドロジェンポリシロキサン83.46g(ビニル基1個に対しヒドロシリル基が1.1個となる配合量)とを1Lの容器に仕込み、ホモミキサーを用いて1500rpmで撹拌溶解させた。次いで、ポリオキシエチレンラウリルエーテル1.35gと水31.5gを加え、ホモミキサーで、5000rpmで撹拌したところ、O/W型エマルションとなり増粘が認められ、更に10分撹拌を続けた。次いで、1500rpmで撹拌しながら、水258.54gで希釈し、白色のエマルションを得た。
【化9】
【0070】
このエマルションを錨型撹拌翼による撹拌装置の付いた容量1Lのガラスフラスコに移し、15~20℃に温調した後、撹拌下で白金-ビニル基含有ジシロキサン錯体のイソドデカン溶液(白金含有量0.5%)1gとポリオキシエチレンラウリルエーテル0.68gの混合溶解物を滴下し、30分~1時間撹拌した。次いで、温調を40℃にして2日撹拌し、ゴム粒子の水分散液を得た。
【0071】
得られた水分散液中のゴム粒子の形状を光学顕微鏡にて観察したところ、球状であり、体積平均粒径を電気抵抗法粒度分布測定装置(マルチサイザー3、ベックマン・コールター(株)製)を用いて測定したところ、体積平均粒径は5μmであった。
【0072】
得られたゴム粒子の水分散液を入口温度150℃、出口温度80℃に設定したスプレードライヤーを用いて水を乾燥させたところ、白色~淡黄色の粉体状のゴム粒子が得られた。
【0073】
また、ゴム粒子を構成するゴムの硬度を以下のように測定した。アルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン1、上記式(8)で表されるフェニルハイドロジェンポリシロキサン及び白金-ビニル基含有ジシロキサン錯体のイソドデカン溶液(白金含有量0.5%)を上記割合で混合し、厚みが10mmになるようアルミシャーレに流し込んだ。40℃で2日放置後、べたつき(タック)の無い平状ゴムを得た。この硬度を、AskerC硬度計で測定したところ、63であった。
【実施例2】
【0074】
[複合粒子の作製]
実施例1と同様にして、ゴム粒子の水分散液を得た。得られたゴム粒子の水分散液357gを錨型撹拌翼による撹拌装置の付いた2Lのガラスフラスコに移し、水602.5g、28%アンモニア水溶液19g及び40%ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体水溶液(商品名:MEポリマーH40W、東邦化学工業(株)製)1gを添加した。このときの液のpHは11.3であった。5~10℃に温調した後、メチルトリメトキシシラン20.5g(ゴム粒子100質量部に対し、加水分解、縮合反応後のポリメチルシルセスキオキサンが6.7質量部となる量)を25分かけて滴下し、この間の液温を5~10℃に保ち、さらに1時間撹拌を継続させた。次いで、55~60℃まで加熱し、その温度を保ったまま1時間撹拌を行い、メチルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を完結させた。
【0075】
ゴム粒子の水分散液中でメチルトリメトキシシランを加水分解、縮合反応させた液を、加圧ろ過器を用いて水分約30%に脱水した。脱水物を錨型撹拌翼による撹拌装置の付いた容量2Lのガラスフラスコに移し、水1000gを添加し、30分間撹拌を行った後、加圧ろ過器を用いて脱水した。脱水物を再度錨型撹拌翼による撹拌装置の付いた容量2Lのガラスフラスコに移し、水1000gを添加し、30分間撹拌を行った後、加圧ろ過器を用いて脱水した。脱水物を熱風流動乾燥機中で105℃の温度で乾燥し、乾燥物をジェットミルで解砕し、流動性のある粒子を得た。
【0076】
得られた粒子を電子顕微鏡で観察したところ、ゴム粒子表面が全面に渡り、粒状形状のポリオルガノシルセスキオキサンで被覆した複合粒子(ポリオルガノシルセスキオキサン被覆ゴム粒子)となっていることが確認された。
【0077】
得られた複合粒子を、界面活性剤を用いて水に分散させて、電気抵抗法粒度分布測定装置(マルチサイザー3、ベックマン・コールター(株)製)を用いて測定したところ、粒度分布は上記ゴム粒子の水分散液と同等で、体積平均粒径は5μmであった。
【実施例3】
【0078】
実施例1と同様にして、ゴム粒子の水分散液を得た。得られたゴム粒子の水分散液265gを錨型撹拌翼による撹拌装置の付いた容量2Lのガラスフラスコに移し、水651.1g、2.8%アンモニア水溶液2.2g及び30%ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(商品名:カチオンBB、日油(株)製)12g(水100質量部に対しラウリルトリメチルアンモニウムクロライドが0.44部となる量)を添加した。この時のpHは、10.4であった。5~10℃に温調した後、テトラメトキシシラン70.7g(ゴム粒子100質量部に対し、加水分解、縮合反応後のシリカが27質量部となる量)を60分かけて滴下し、この間の液温を5~10℃に保ち、さらに3時間撹拌を行った。次いで70~75℃まで加熱し、その温度を保ったまま1時間撹拌を行い、テトラメトキシシランの加水分解、縮合反応を完結させた。
【0079】
得られた複合粒子を、界面活性剤を用いて水に分散させて、電気抵抗法粒度分布測定装置(マルチサイザー3、ベックマン・コールター(株)製)を用いて測定したところ、粒度分布は前記のゴム粒子の水分散液と同等で、体積平均粒径は5μmであった。この粒子を電子顕微鏡で観察したところ、ゴム粒子表面が粒状形状のシリカで被覆した複合粒子となっていることが確認された。
【実施例4】
【0080】
[アルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトンの合成2]
実施例1において、ポリ-ε-カプロラクトンジオール(商品名:プラクセル205U、(株)ダイセル製)200gの代わりに、ポリ-ε-カプロラクトンテトラオール(商品名:プラクセル410、(株)ダイセル製、分子量1030、水酸基価216.7mg/g)、200g用い、トリエチルアミン95.8gから98.4gに、ウンデセン酸クロライド168.9gから173.5g(水酸基1個に対し、酸塩化物が1.1個となる添加量)に変更し、その他は実施例1と同様にして合成を行い、アルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン2(重量平均分子量:1698)を得た。
【化10】
(R
9は脂肪族基を示し、4≦k+l+m+n≦9、重量平均分子量:1698)
【0081】
[ゴム粒子の作製]
実施例1において、合成した上記のアルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン1を171gに代えて、アルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン2を170gと、上記式(8)で示される、動粘度が23mm2/sのフェニルハイドロジェンポリシロキサン85.32g(ビニル基1個に対しヒドロシリル基が1.1個となる配合量)を用い、その他は実施例1と同様にしてゴム粒子の水分散液を得た。得られた水分散液中のゴム粒子の形状を光学顕微鏡にて観察したところ、球状であり、体積平均粒径を電気抵抗法粒度分布測定装置(マルチサイザー3、ベックマン・コールター(株)製)を用いて測定したところ、体積平均粒径は5μmであった。この水分散液を実施例1と同様に、スプレードライヤーを用いて水を除去させたところ、白色~淡黄色の粉体が得られた。また、ゴム粒子を構成するゴムの硬度を実施例1と同様に測定したところ、このゴムの硬度は82であった。
【実施例5】
【0082】
実施例4で得たゴム粒子の水分散液から、実施例2と同様にして、ポリオルガノシルセスキオキサンで被覆した複合粒子を得た。得られた複合粒子を、界面活性剤を用いて水に分散させて、電気抵抗法粒度分布測定装置(マルチサイザー3、ベックマン・コールター(株)製)を用いて測定したところ、粒度分布は上記ゴム粒子の水分散液と同等で、体積平均粒径は5μmであった。
【実施例6】
【0083】
実施例4において得たゴム粒子の水分散液を用いて、実施例3と同様にして、シリカ被覆複合粒子を得た。得られた複合粒子を、界面活性剤を用いて水に分散させて、電気抵抗法粒度分布測定装置(マルチサイザー3、ベックマン・コールター(株)製)を用いて測定したところ、粒度分布は前記のゴム粒子の水分散液と同等で、体積平均粒径は5μmであった。この粒子を電子顕微鏡で観察したところ、ゴム粒子表面が粒状形状のシリカで被覆した複合粒子となっていることが確認された。
【0084】
[比較例1]
[平状シリコーンゴム作製]
下記式(10)で示される、動粘度が600mm
2/sのメチルビニルポリシロキサン25gと、下記式(11)で示される、動粘度が27mm
2/sのメチルハイドロジェンポリシロキサン1g(ビニル基1個に対しヒドロシリル基が1.1個となる配合量)とを100mLの容器に仕込み、撹拌溶解させた。次いで、白金-ビニル基含有ジシロキサン錯体のイソドデカン溶液(白金含有量0.5%)を0.06g加え撹拌し、厚みが10mmになるようアルミシャーレに流し込み、40℃で2日放置することで、シリコーン粒子のゴム組成の平状ゴムを作製した。ゴムの硬度を実施例1と同様に測定したところ、このゴムの硬度は60であった。
【化11】
【0085】
[ゴムの加水分解性評価(平状ゴム硬度経時測定)]
上記実施例1で得られたアルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン1と上記式(8)で示したフェニルハイドロジェンポリシロキサンで構成される平状ゴム(ゴム硬度:63)と、上記実施例4で得られたアルケニル基含有ポリ-ε-カプロラクトン2と上記式(8)で示したフェニルハイドロジェンポリシロキサンで構成される平状ゴム(ゴム硬度:82)と、比較例1で得られた上記式(10)で示したメチルビニルポリシロキサンと上記式(11)で示したメチルハイドロジェンポリシロキサンで構成される平状ゴム(ゴム硬度:60)について、下記方法で加水分解性を評価した。
温度70℃、湿度90%の恒温恒湿器(IW222型、ヤマト科学(株)製)の中に上記平状ゴムサンプル3種を入れ静置し、ゴム硬度の変化を日単位で測定した。
また、温度70℃の乾燥機(DNE601型、ヤマト科学(株)製)の中と、室温、湿度~65%環境下(使用環境想定)に実施例1で得られた平状ゴム(ゴム硬度:63)を静置し、ゴム硬度の変化を日単位で測定した。
【0086】
【0087】
実施例1、4の恒温恒湿器に静置していた平状ゴムサンプルは、ヒドロシリル化触媒存在下でアルケニル基有するポリ-ε-カプロラクトンと、ケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンにより架橋された構造を有し、温度70℃、湿度90%の高温多湿環境下においてゴム硬度が低下していることから、分解性を有すものと推察される。一方、比較例1の平状ゴムサンプルは、ゴムを構成する成分に、ポリエステルのような加水分解性官能基を有するものを使用しておらず、高温多湿環境下においてもゴム硬度が一定であることから、分解性を有さないと推測される。実施例1の70℃乾燥機に静置していた平状ゴムサンプルは、その熱により硬化が少し進んだためと推察されるゴム硬度の上昇が確認されたが、ゴム硬度の低下が生じていないことから、水分の存在下でなければ分解が生じないと推察される。実施例1の使用環境を想定した、室温、湿度~65%環境下に静置していた平状ゴムサンプルは、95日の測定期間においてゴム硬度の低下が生じていないことから、この測定期間において実使用環境では安定であると推察される。