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特許7570801ゴルフクラブ用シャフト及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ用シャフト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20241015BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20241015BHJP
【FI】
A63B53/10 A
A63B102:32
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018165584
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020036767
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-05-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山本 大介
(72)【発明者】
【氏名】滝口 郁朗
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】門 良成
【審判官】殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-288139(JP,A)
【文献】特許第5662164(JP,B2)
【文献】特開2014-79416(JP,A)
【文献】特開2003-24489(JP,A)
【文献】特開2010-284343(JP,A)
【文献】米国特許第4889575(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維強化樹脂層を有する素管を含むゴルフクラブ用シャフトであって、
前記素管の最外層の繊維強化樹脂層の、前記ゴルフクラブ用シャフトの曲げ剛性に対する寄与率が0.5%以上5%以下であり、前記最外層の繊維強化樹脂層にクロス材を含み、
前記クロス材がガラスクロスであり、前記クロス材の経糸の配向角度が前記ゴルフクラブ用シャフトの軸方向に対して-5°以上+5°以下であるゴルフクラブ用シャフト。
【請求項2】
前記最外層の繊維強化樹脂層に含有される前記強化繊維の引張弾性率が5GPa以上100GPa未満である、請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。
【請求項3】
複数の繊維強化樹脂層を有する素管を含むゴルフクラブ用シャフトであって、
前記素管の最外層の繊維強化樹脂層の、前記ゴルフクラブ用シャフトの曲げ剛性に対する寄与率が0.5%以上5%以下であり、前記最外層の繊維強化樹脂層に一方向材を含み、前記一方向材の強化繊維の配向角度が+20°以上+70°以下又は-70°以上-20°以下であるゴルフクラブ用シャフト。
【請求項4】
前記最外層の繊維強化樹脂層に含有される前記強化繊維の引張弾性率が200GPa以上500GPa未満である、請求項3に記載のゴルフクラブ用シャフト。
【請求項5】
下記評価方法で評価した水平方向の変位が18mm未満である請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用シャフト。
[水平方向の変位の評価方法]
素管の太径端部から180mmより細径端部側が振動しうるように、素管を略水平に把持する。細径端部から314.5mmの位置に、素管の水平方向両側に各一本、合計二本の支柱を設置する。
次いで素管の細径端部に重量196gの錘を装着した状態で、細径端部の変位が60mmになるよう略重力方向に荷重を与えた後、除荷して素管を振動させる。前記二本の支柱の位置をそれぞれ独立に調整し、振動する素管と二本の支柱それぞれとが接した時の、素管軸から支柱の距離を水平方向の変位とする。細径端部側から素管を見た右側の支柱と素管軸との距離を水平方向の変位(右)とし、同様に左側の支柱と素管軸との距離を水平方向の変位(左)とする。
【請求項6】
下記評価方法によって得られた真円度が0.00~0.39である請求項1~5のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用シャフト。
[真円度の評価方法]
素管の細径端部側及び太径端部側の内側に治具を差し込んで素管を略水平に固定する。
素管軸を通る任意の平面と、素管の最外面とが成す二本の線のうち一方を、0°線と定める。前記0°線を基準とし、同様に、細径端部側から見て素管周方向反時計回りに45°、90°、135°の線を定める。
外径の測定は、レーザ式CCD測長センサを用い、シャフト全長に亘って任意のm箇所(mは5以上の自然数)で行う。各測定箇所で、0°、45°、90°、135°の線を含む外径を測定し、計4m点のデータを得る。各測定箇所の測定結果をもとに、外径の平均値に対する、外径の最大値と最小値の差の割合を算出する。
すなわち、
真円度=100×(Dx,max-Dx,min)/Dx,ave・・・式(1)
(式(1)中、
x:位置[mm]
x,max:位置xにおける、シャフトの外径の最大値[mm]
x,min:位置xにおける、シャフトの外径の最小値[mm]
x,ave:位置xにおける、シャフトの外径の平均値[mm]である)
で求める。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用シャフトを備えたゴルフクラブ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用シャフトの製造方法であって、以下の工程(1)~(3)を含むゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
(1)素管の最外層として、曲げ剛性に対する寄与率が0.5~15%であるプリプレグを配置する工程
(2)前記プリプレグを加熱後冷却する工程
(3)外形を制御して研磨を行う工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブ用シャフト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(シャフト)は、拡幅した炭素繊維束に未硬化のエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸して得られるシート状のプリプレグを、棒状のマンドレルに複数枚巻回して積層した積層体を、加熱硬化した後、表面を平滑化する研磨工程を経て得られた素管に、加飾を行うことで得られる。プリプレグの形状は、プリプレグをマンドレルに巻きつけた際に巻き始めと巻き終わりが極力重なりあわないように、マンドレルの外周径を考慮して、シート形状を設計する。
研磨工程においては、ゴルフクラブ用シャフトに要求される、固有振動数などのシャフトの物性を調整する。
【0003】
マンドレルに巻回するプリプレグは、巻回時に端部同士が重なり合いが極力なくなるよう設計されているが、製造上不可避な程度に重なりが生じることがある。通常の研磨方法は、シャフトの外形に沿って圧力をかけて研磨する方法である。従って、プリプレグを巻回する際に、端と端が重なり合うことで凸状になった部分を有する積層体を加熱硬化したものを研磨すると、外形に沿って研磨することになるため、断面の形状は大きく変わらない。その結果、凸状になった箇所の剛性が高くなり、異方性が生じる。
【0004】
異方性を低減する手法としては、シャフト周方向の剛性分布の均一化と、積層の巻き位置の離散化が知られている。
【0005】
特許文献1には、金属繊維からなる振動減衰層を編組組織とすることで、シャフト周方向の重なりをなくして金属量の分布を均一化させ、金属を用いた場合の剛性分布の異方性を低減させたシャフトが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、合成樹脂を含浸した強化繊維束を、所定の間隔を設けて配向させた繊維束群とし、更に、前記繊維束群を有する繊維束強化樹脂層(重合繊維シート)を形成させて用いた管状体を開示されている。前記繊維束群の配向を、シャフトの軸方向、及びシャフトの軸方向に直交する周方向に対して傾斜させて配置することで、管状体の曲げに対する異方性の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-261473号公報
【文献】特開2012-179134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの手法では、異方性を軽減させるために金属繊維の編組層を用いたり、細幅の樹脂含浸強化繊維テープを用いた特殊な繊維束強化樹脂層を製造して組み込んだりするなど、特殊な材料の採用、及び、当該材料の使いこなしに関する設計が必要であり、製造が煩雑であり、また、用途が特殊仕様のシャフトに限定される。
【0009】
本発明では、特殊な材料を使用せずに異方性が少ないシャフトを提供すること、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、シャフトの素管の最外層の繊維強化樹脂層の、曲げ剛性に対する寄与率を特定範囲内とすること、及び素管の外径を制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の要旨は、以下の[1]~[8]の通りである。
【0011】
[1] 複数の繊維強化樹脂層を有する素管を含むゴルフクラブ用シャフトであって、前記素管の最外層の繊維強化樹脂層の、前記ゴルフクラブ用シャフトの曲げ剛性に対する寄与率が0.5%以上15%以下であるゴルフクラブ用シャフト。
[2] 下記評価方法で評価した水平方向の変位が20mm未満である[1]に記載のゴルフクラブ用シャフト。
[水平方向の変位の評価方法]
素管の太径端部から180mmより細径端部側が振動しうるように、素管を略水平に把持する。細径端部から314.5mmの位置に、素管の水平方向両側に各一本、合計二本の支柱を設置する。
次いで素管の細径端部に重量196g の錘を装着した状態で、細径端部の変位が60mmになるよう略重力方向に荷重を与えた後、除荷して素管を振動させる。前記二本の支柱の位置をそれぞれ独立に調整し、振動する素管と二本の支柱それぞれとが接した時の、素管軸から支柱の距離を水平方向の変位とする。細径端部側から素管を見た右側の支柱と素管軸との距離を水平方向の変位(右)とし、同様に左側の支柱と素管軸との距離を水平方向の変位(左)とする。
[3] 下記評価方法によって得られた真円度が0.5以下である[1]または[2]に記載のゴルフクラブ用シャフト。
[真円度の評価方法]
素管の細径端部側及び太径端部側の内側に治具を差し込んで素管を略水平に固定する。
素管軸を通る任意の平面と、素管の最外面とが成す二本の線のうち一方を、0°線と定める。前記0°線を基準とし、同様に、細径端部側から見て素管周方向反時計回りに45°、90°、135°の線を定める。
外径の測定は、レーザ式CCD測長センサを用い、シャフト全長に亘って任意のm箇所(mは5以上の自然数)で行う。各測定箇所で、0°、45°、90°、135°の線を含む外径を測定し、計4m点のデータを得る。各測定箇所の測定結果をもとに、外径の平均値に対する、外径の最大値と最小値の差の割合を算出する。
すなわち、
真円度=100×(Dx,max-Dx,min)/Dx,ave・・・式(1)
(式(1)中、
x:位置[mm]
x,max:位置xにおける、シャフトの外径の最大値[mm]
x,min:位置xにおける、シャフトの外径の最小値[mm]
x,ave:位置xにおける、シャフトの外径の平均値[mm]
である)
で求める。
[4] 前記最外層の繊維強化樹脂層に含有される前記強化繊維の引張弾性率が5GPa以上200GPa未満であって、前記最外層の強化繊維の配向方向の絶対値が、前記素管の軸方向に対して5°以下である[1]~[3]のいずれかに記載のゴルフクラブ用シャフト。
[5] 前記最外層の繊維強化樹脂層に含有される前記強化繊維の引張弾性率が200GPa以上500GPa以下であって、前記最外層の強化繊維の配向方向の絶対値が、前記素管の軸方向に対して20°以上95°以下である
[1]~[3]のいずれかに記載のゴルフクラブ用シャフト。
[6] 前記最外層の繊維強化樹脂層に含有される前記強化繊維の引張弾性率が50GPa以上100GPa未満であって、前記最外層が強化繊維の織物に樹脂を含浸した繊維強化樹脂層であり、前記織物の経糸が前記素管の軸方向に対して0°方向の繊維の配向角度が前記素管の軸方向に対して-5°以上5°以下である[1]~[3]のいずれかに記載のゴルフクラブ用シャフト。
[7] [1]~[6]のいずれか一項に記載のゴルフクラブ用シャフトを備えたゴルフクラブ。
[8] 以下の工程(1)~(3)を含むゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
(1)素管の最外層として、曲げ剛性に対する寄与率が0.5~15%であるプリプレグを配置する工程
(2)プリプレグを加熱後冷却する工程
(3)外形を制御して研磨を行う工程
【発明の効果】
【0012】
本発明のゴルフクラブ用シャフトは、最外層の曲げ剛性に対する寄与率が小さいため、異方性が発現しにくい。また、本発明のゴルフクラブ用シャフトは、シャフト軸方向に直交する断面の形状を該真円に制御しているため、前記断面の形状に起因する異方性が少ない。更に、本発明のゴルフクラブ用シャフトの製造方法によれば、従来の研磨方法による異方性に起因する不良品発生率を低下させられる。
また、本発明のシャフトは、特殊な材料を用いることなく製造することが可能である。
【0013】
なお、本明細書中において、異方性とは、シャフトの曲げ剛性の不均一性のことを示す。曲げ剛性については、後に詳述する。不均一性とは、シャフトの軸方向に直交する断面の外周の、任意の周方向の位置で、曲げ剛性の値が等しくない点があることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のゴルフクラブ用シャフトの一実施形態例を示すプリプレグの裁断形状と、巻き付け順序とを示す説明図である。
図2】本発明のゴルフクラブ用シャフトの他の一実施形態例を示すプリプレグの裁断形状と、巻き付け順序とを示す説明図である。
図3】本発明のゴルフクラブ用シャフトの更に他の一実施形態例を示すプリプレグの裁断形状と、巻き付け順序とを示す説明図である。
図4】比較例1の形態例を示すプリプレグの裁断形状と巻き付け順序を示す説明図である。
図5】実施例で用いたマンドレルの概略説明図である。
図6】本発明の一実施形態における固有振動数の測定方法を説明するための模式図である。
図7】本発明の一実施形態におけるバランスポイントを説明するための模式図である。
図8】本発明の一実施形態におけるキックポイントを説明するための模式図である。
図9】本発明の一実施形態における曲げ剛性の評価方法を説明するための模式図である。
図10】本発明の一実施形態における異方性の評価方法を説明するための模式図(側面図)である。
図11】本発明の一実施形態における異方性の評価方法を説明するための模式図(チップ端部側から見た図)である。
図12】本発明の一実施形態における0°、45°、90°、135°の線を説明するための模式図である。
図13】本発明の一実施形態における真円度の評価方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に関して具体例を示して説明する。なお、以後、本明細書では、ゴルフクラブ用シャフトをシャフト、シャフトの太径端部をバット端部、細径端部をチップ端部と表記することがある。
本実施形態における「ゴルフクラブ用シャフト」とは、ゴルフクラブに組む前のシャフト(ゴルフクラブの部品)と、ゴルフクラブの各部品をゴルフクラブに組み立てた際の、前記ゴルフクラブにおけるシャフト部分の両方を意味する。なお、ゴルフクラブにおけるシャフト部分の方がより本願発明の効果を発現する
なお、本発明は本実施形態例に限定されるものでない。
【0016】
(ゴルフクラブ用シャフト)
本発明のゴルフクラブ用シャフトは、複数の繊維強化樹脂層を有する素管と、必要に応じて加飾のための意匠性付与層を含む。
【0017】
(素管)
素管の物性がゴルフクラブ用シャフトの物性を実質的に決定する。
素管は、複数の繊維強化樹脂層を有する。繊維強化樹脂層の枚数は、後述するように、ゴルフクラブ用シャフトの機能を分担して発現するため、2枚以上であることが好ましい。
素管は、繊維強化樹脂層以外に、樹脂層、タングステンなどの金属粉末を含む樹脂層である重量調整層、金属や強化繊維以外のフィラーを含む樹脂層、樹脂粉末などを含んでいてもよい。
【0018】
(繊維強化樹脂層)
繊維強化樹脂層は、強化繊維及び樹脂組成物を含む繊維強化樹脂からなる。
以下、強化繊維及び樹脂組成物について説明する。
【0019】
(強化繊維)
(強化繊維の種類)
本発明の繊維強化樹脂を構成する繊維は、金属繊維、ボロン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維などの無機系繊維、アラミド繊維、その他の高強力合成繊維などを使用することができる。無機系繊維は軽量、かつ高強力であることから好ましく使用される。これらの中でも、比強度、比剛性に優れるため、炭素繊維が最も好ましい。これらの繊維は、1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0020】
(強化繊維の長さ)
また、長繊維、短繊維及びこれらの混合繊維など、どのような長さの繊維を用いてもよく、2種以上の繊維を混合して使用しても良い。
強度の観点で、長繊維を用いることが好ましい。
【0021】
(強化繊維の形態)
また、これらの繊維は、一方向材(繊維を一方向に引き揃えたもの)として使用しても、強化繊維を製織して織物としたクロス材として使用しても良い。
一方向材であれば、繊維軸方向の強度や弾性率などの物性を十分に活用でき、また、強化繊維に直交する方向のドレープ性に優れているため、シートラップ法で素管を製造する場合は、マンドレルに巻き付けやすく、取扱い性が良好である。 クロス材は、主に素管の最外面に意匠性を付与するために利用する。クロス材の織り方は、すだれ織などの一方向性織物、平織、朱子織、綾織などの二方向性織物、三軸織物、ノンクリンプ織物、などのいずれの織組織のクロス材であってもよいが、二方向性織物や三軸織物が、意匠性の観点で好ましい。三軸織物の場合、耐久性の観点で好ましい。
【0022】
(強化繊維の含有率)
繊維強化樹脂層の繊維体積含有率は、素管の剛性をより高くできることから、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。また、繊維強化樹脂層の繊維体積含有率は、マトリックス樹脂と強化繊維とを充分に密着させるためには、ある程度の樹脂量が必要であることから、75%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。
繊維強化樹脂層の繊維目付は特に限定しないが、各層に必要な厚さ、巻き径から適宜選択できる。
【0023】
(樹脂組成物)
本発明の繊維強化樹脂を構成する樹脂組成物は、マトリックス樹脂と、必要に応じて硬化剤、消泡剤、脱泡剤、着色剤その他の成分を含む。前記樹脂組成物に含まれるマトリックス樹脂には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することができるが、硬化後の物性が高いため、好ましくは熱硬化性樹脂が用いられる。
【0024】
熱可塑性樹脂は、加熱により粘度の高い液体状態になって、外力により自由に変形でき、冷却して外力を除去すると、固体状態でその形状を保つ。また、この過程を繰り返し行える。熱可塑性樹脂としては、特に制限は無く、成形品としての機械特性を大きく低下させない範囲で適宜選択することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、およびこれらの混合樹脂を用いることができる。
【0025】
熱硬化性樹脂は、熱または触媒の作用を受けて、分子間架橋による硬化反応が進行し、不溶不融の三次元網目構造をとる反応性ポリマーである。熱硬化性樹脂としても、特に制限は無く、成形品としての機械特性を大きく低下させない範囲で適宜選択することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、およびこれらの混合樹脂を使用することができる。中でも、エポキシ系樹脂は硬化収縮率が少なく、高い強度、剛性、及び靱性値を有するので、最も好ましく使用される。
【0026】
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などを使用し得る。これらのエポキシ樹脂は、液状のものから固体状のものまで使用できる。更に、単一種類のエポキシ樹脂又は2種類以上のエポキシ樹脂をブレンドして使用することもできる。又、エポキシ樹脂には、硬化剤を配合して用いることが多い。
【0027】
熱硬化性樹脂の硬化剤としては、熱硬化性樹脂の硬化反応を進行させ得るものであれば特に限定されないが、硬化後の物性が高いことから、アミン系の硬化剤が好ましい。
【0028】
(繊維強化樹脂層中の強化繊維の配向角度)
本実施形態の素管を構成する繊維強化樹脂層としては、例えば、素管の長手方向に対して一方向材の強化繊維の配向角度を-5°~+5°に配向したストレート層、素管の長手方向に対して一方向材の強化繊維の配向角度を85~95°に配向したフープ層、素管の長手方向に対して一方向材の強化繊維の配向角度を+20~+70°又は-20~-70°に配向したアングル層が挙げられる。なお、アングル層は、素管軸方向に対する強化繊維の配向角度が正である1枚と、強化繊維の配向角度が負である1枚の合計2枚を一組として、バイアス層として使用する。
【0029】
前記ストレート層、フープ層、及びバイアス層を構成する樹脂組成物及び強化繊維は、上述の繊維強化樹脂の説明のとおりである。
【0030】
(ストレート層)
ストレート層は、繊維強化樹脂層であり、素管の長手軸方向に対して略平行に配向した強化繊維を含有する。強化繊維が素管の長手軸方向に略平行に配向していることで、曲げ剛性や曲げ強度を高くすることができる。略平行の範囲は、素管の長手軸方向に対して-5°以上+5°以下である。
【0031】
ストレート層を形成する強化繊維の引張弾性率は50GPa以上400GPa以下が好ましい。強化繊維の引張弾性率が50GPa以上であると、曲げ剛性が十分であり、スイングリズムが良くなる。一方、強化繊維の引張弾性率が400GPa以下であれば、曲げ剛性と曲げ強度が適切な範囲になる。
【0032】
ストレート層1層の厚さは0.050mm以上0.500mm以下が好ましく、0.075mm以上0.150mm以下がより好ましい。ストレート層の厚さが前記下限以上であれば、積層枚数が多くなりすぎないため、生産性が高くなる。また、取扱い性が良くなるため、皺等の不良が発生しにくくなり、成形性が良好になる。一方、ストレート層の厚さが前記上限以下であれば、外径や曲げ剛性を均一にすることができ、品質が良好になる。
【0033】
(フープ層)
フープ層には、主に潰し剛性や潰し強度を高める効果がある。フープ層に用いた一方向材の強化繊維の配向角度が、素管の長手軸方向に対して+85~+95°又は、-85~-95°、すなわち配向角度の絶対値が85°以上95°以下であれば、素管の潰し剛性や潰し強度の両方が十分になる。フープ層を形成する強化繊維の引張弾性率は240GPa以上、400GPa以下が好ましい。強化繊維の引張弾性率が240GPa以上であると、潰し剛性が十分に確保され、潰し変形によるスイングリズムの乱れが起こりにくい。一方、強化繊維の引張弾性率が400GPa以下であると、潰し剛性と潰し強度を十分に確保できる。
【0034】
フープ層1層の厚さは0.020mm以上0.100mm以下が好ましい。フープ層の厚さが0.020mm以上であれば、十分な潰し剛性が得られる。一方、フープ層の厚さが0.100mm以下であれば、取扱い性が良くなり、皺等の発生が抑制され、成形性が良好になる。
【0035】
(バイアス層)
バイアス層には、主にねじり剛性やねじり強度を高める効果がある。
バイアス層は、繊維強化樹脂層であり、素管の長手軸方向に対して正の配向角度+α°で配向した強化繊維(+α層)を含有するアングル層と、素管の長手軸方向に対して負の配向角度-α°で配向した強化繊維を含有するアングル層(-α層)とを含有する。ここで、α°は、20°~70°、好ましくは30°~60°、更に好ましくは35°~55°である。通常、正の配向角度および負の配向角度の絶対値は、製造上不可避な誤差はあるが、同一になるよう設計する。
α°を前記範囲内とすることで、素管のねじり剛性、曲げ剛性、及び潰し剛性が十分になる。
【0036】
バイアス層を構成する+α層と-α層は、実質的に半周ずらして貼り合わせることが望ましい。+α層と-α層をずらして貼り合わせると、巻き付け端部の凹凸が大きくならないため、異方性を小さくできるうえ、外観不良や強度低下等の問題が起こりにくい。
【0037】
バイアス層を形成する強化繊維の引張弾性率は240GPa以上550GPa以下が好ましい。強化繊維の引張弾性率が240GPa以上であれば、ねじり剛性が十分であり、ボールインパクト時のヘッドのフェース面の返りが遅れないため、方向性が良好になる。一方、強化繊維の引張弾性率が550GPa以下であれば、ねじり強度を十分に確保できる。
【0038】
バイアス層1層の厚さは0.020mm以上0.150mm以下が好ましく、0.050mm以上0.125mm以下よりが好ましい。バイアス層1層の厚さが前記下限値以上であれば、積層数が多くなり過ぎないため、皺等の発生が抑制され、成形性が良好になる。一方、バイアス層の1層の厚さが前記上限値以下であれば、外径や曲げ剛性を均一にすることができる。
【0039】
(最外層)
本実施形態の素管を構成する繊維強化樹脂層のうち、最外層とは、マンドレルに巻回する繊維強化樹脂層のうち、最後に巻回するものであり、素管の最表面に位置するものである。マンドレルの周方向の巻き付け回数は1周でも良く、2周以上でも良い。
最外層をアングル層とする際は、最外層から一層分だけ内層に位置するアングル層と合わせた2枚からなるバイアス層を最外層とする。
【0040】
最外層の素管軸方向の長さは、スイング時の撓みに影響が大きいキックポイント付近を保護するため、素管全長の50%以上であることが好ましい。60%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。最外層の素管軸方向の長さは、素管全長の100%以下であることが好ましい。プリプレグの使用量を減らしつつも、最外層の機能を維持できるため、95%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0041】
最外層の配置位置は、素管の研磨工程において、研磨により外径が細くなることの影響が高い位置を保護し、また、位置決めを容易にするため、チップ端部に寄せて配置することが好ましい。
【0042】
最外層は、1枚で用いても良く、素管軸方向に2枚以上に分割して用いても良い。
1枚を用いる場合は、位置決めが容易になるため好ましい。素管軸方向に2枚以上に分割して用いる場合は、重なり部分により生じる凸部があることによる研磨時の過負荷、及び研磨不足による外形の凹凸に起因する不具合が起こらないため、それぞれの端部を重ねずに配置することが好ましい。
素管軸方向に2枚以上に分割して用いる場合の配置位置は、研磨により管壁の厚さが薄くなることによる剛性低下の影響が高いチップ端部、及び、スイング時のシャフトの撓みに影響が大きいキックポイント位置を覆うように配置することが好ましい。
【0043】
(最外層の曲げ剛性に対する寄与率)
曲げ剛性(EI)は、材料の弾性率E(単位:Pa)と断面二次モーメントI(単位:m)の積で表される。断面が中空同心円形状である場合、断面二次モーメントは下記式(2)で与えられる。I=π(D-d)/64…式(2)
D:外径(m) d:内径(m)
なお、シャフトの曲げ剛性を考える場合、材料の弾性率は、材料そのものの弾性率ではなく、シャフト長手方向に発揮する弾性率を示す。特に、シャフト長手方向に対して繊維が配向していない場合は、繊維の配向角度を考慮して算出する。
【0044】
前記最外層の曲げ剛性に対する寄与率は、シャフトの長手方向の任意の位置におけるシャフトの曲げ剛性値に対する、前記最外層の曲げ剛性値の割合を示す。具体的には、下記の方法で算出する。
[最外層の曲げ剛性に対する寄与率の測定方法]
本発明のシャフトの素管と、本発明のシャフトの最外層を含まない素管をそれぞれ1本作製し、これらのシャフトの片持ち曲げ試験の変位をそれぞれ測定する。本発明のシャフトの素管の片持ち曲げ試験の変位をa(mm)、本発明のシャフトの最外層を含まない素管の変位をb(mm)としたとき、下記式(3)に従って曲げ剛性の寄与率C(%)を計算する。
C=100×(1-a/b)…式(3)
<片持ち曲げ試験の方法>
図9に示すように、シャフトの細径端部から920mmの位置を下側から支持し、そこからさらに150mm太径側方向の位置(細径端部から1070mm)を上側から支持し、細径端部から10mmの位置に3.0kgfの荷重を加える。このときの細径端部の垂直方向の変位量が本発明における「片持ち曲げ試験での変位量」であり、単位はmmである。
ただし、シャフト全長が1070mmに満たない場合は、シャフトの細径端部から760mmの位置を下側から支持し、そこからさらに150mm太径側方向の位置(細径端部から910mm)を上側から支持して測定するものとする。
【0045】
前記式(2)を参照すると、積層された各層を比較すると、最外層の外径が最も大きくなるため、シャフトの曲げ剛性には、シャフトを構成する各層のうち、最外層の剛性が最も大きく影響することが分かる。すなわち、シャフト長手方向の弾性率が高い材料を最外層に配置すると、巻乱れが生じた場合、曲げ剛性の異方性が大きく発生する。
そのため、前記最外層の繊維強化樹脂層の曲げ剛性に対する寄与率は、0.5%以上15%以下であることが好ましく、0.5%以上10%以下であることがより好ましく、0.5%以上5%以下であることが更に好ましく、0.5%以上1.5%以下であることが特に好ましい。前記範囲内とすることで、材料による異方性の影響を極力小さくすることができる。また、前記最外層の繊維強化樹脂層を、素管の研磨工程で一部または全部が削り取られる犠牲層にしても、または表面のみ削られて全長及び全周に亘って残る層としても、前記最外層は、曲げ剛性に対する寄与率が小さいため、異方性発現に及ぼす影響が小さく、作製した素管では異方性が小さくなる。
【0046】
(最外層の強化繊維の形態・配向角度と強化繊維の種類)
前記最外層の繊維強化樹脂層がストレート層である場合、前記強化繊維の引張弾性率が5GPa以上200GPa未満であることが好ましく、10GPa以上150GPa未満であることがより好ましく、15GPa以上100GPa未満であることが更に好ましい。前記範囲内とすることで、シャフトの異方性を小さくすることができる。
【0047】
前記最外層の繊維強化樹脂層がストレート層である場合、強化繊維の配向方向の絶対値が、シャフトの軸方向に対して5°以下であることが好ましい。
【0048】
前記最外層の繊維強化樹脂層がバイアス層、もしくはフープ層である場合、前記最外層の繊維強化樹脂層に含有される前記強化繊維の引張弾性率が200GPa以上500GPa以下であることが好ましい。
【0049】
前記最外層の繊維強化樹脂層がバイアス層である場合、前記最外層の強化繊維の配向方向の絶対値が、前記シャフトの軸方向に対して20°以上70°以下であることが好ましい。
前記最外層の繊維強化樹脂層がフープ層である場合、前記最外層の強化繊維の配向方向の絶対値が、前記シャフトの軸方向に対して85°以上95°以下であることが好ましい。
【0050】
前記最外層に強化繊維を製職した織物(クロス材)に樹脂組成物を含浸したクロスプリプレグを用いる場合、前記最外層の繊維強化樹脂層に含有される前記強化繊維の引張弾性率が50GPa以上100GPa未満であることが好ましく、60GPa以上90GPaであることがより好ましく、70GPa以上90GPa以下であることが更に好ましい。前記範囲内とすることで、シャフトの軸方向に対する強化繊維の配向角度に関わらず、異方性を低減することができる。
【0051】
前記クロスプリプレグに用いるクロス材としては、前述の織組織のいずれのものも用いることができる。
【0052】
前記クロス材の経糸の配向角度を前記シャフトの軸方向に対して-5°以上5°以下とすることで、シートラップ法でシャフトを製造する際は、カットしたクロスプリプレグをマンドレルに巻き付けやすくなる。経糸とは、クロス材の製織方向に略平行な強化繊維束を示す。
【0053】
前記最外層にクロスプリプレグを用いる場合、強化繊維がガラス繊維であるクロスプリプレグを用いることが、コストの観点で好ましい。クロスプリプレグの厚さは、0.050mm以上0.500mm以下であることが好ましく、0.080mm以上0.200mm以下であることがより好ましい。
【0054】
(水平方向の変位)
本発明の素管の水平方向の変位は、20mm未満であることが好ましく、10mm未満であることがより好ましい。前記範囲内とすることで、異方性が少ないため、スイング時のシャフトのしなりがスムーズになり、プレーヤーのイメージした通りにスイングできる。すなわち、スイング時のシャフトのたわみが理論値に近くなり、理想的なスイングを行うことができる。
【0055】
本発明のシャフトの水平方向の変位は、下記評価方法で測定する。水平方向の変位における「水平方向」とは、重力の働く方向に直角で、かつ、素管軸方向に直角である方向を示す。
[水平方向の変位の評価方法]
素管の太径端部から180mmより細径端部側が振動しうるように、素管を略水平に把持する。細径端部から314.5mmの位置に、素管の水平方向両側に各一本、合計二本の支柱を設置する。
次いで素管の細径端部に重量196g の錘を装着した状態で、細径端部の変位が60mmになるよう略重力方向に荷重を与えた後、除荷して素管を振動させる。前記二本の支柱の位置をそれぞれ独立に調整し、振動する素管と二本の支柱それぞれとが接した時の、素管軸から支柱の距離を水平方向の変位とする。細径端部側から素管を見た右側の支柱と素管軸との距離を水平方向の変位(右)とし、同様に左側の支柱と素管軸との距離を水平方向の変位(左)とする。
【0056】
(異方性)
異方性の評価値は、8mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましい。前記異方性の評価値が小さいほど、シャフト周方向の物性の均一性が高いため、クラブを組む際のシャフトの周方向のセッティング角度によって、シャフトのしなり方や捩れ方が変わることがなく、イメージ通りのスイングがしやすくなる。
本発明のシャフトの水平方向の変位は、下記評価方法で測定する。
【0057】
[異方性の評価方法]
素管軸を含む任意の平面と、素管の最外面とが成す二本の線のうち一方を、0°線と定める。前記0°線を基準とし、細径端部側から見て素管周方向反時計回りに45°、90°、135°の線を定める。上記水平方向の変位の測定は、0°、45°、90°、135°のそれぞれの線が上になるように素管を把持して行い、細径端部側から見た左右それぞれにつき、水平方向の変位を測定し、計8点のデータを得る。8点のデータの最大値と最小値の差を、異方性の評価値とする。
【0058】
前記異方性の評価方法では、曲げ剛性の異方性がなければ、垂直方向に与えた荷重を除荷した後に、素管の細径端部が垂直に直線運動をする。しかし、曲げ剛性の異方性がある場合、素管の細径端部が楕円もしくは円運動をする。すなわち、異方性が小さいほど、水平方向の変位は小さくなる。また、前記異方性の評価値は、小さいほど極端な異方性がないことを示す。
【0059】
(真円度)
本発明のシャフトの素管は、下記評価方法で測定した真円度が0.5以下である。0.4以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。真円度は、0であることが理想的ではあるが、製造上不可避である誤差を考慮して、0.01以上であることが好ましい。
前述したように、曲げ剛性に対しては、複数の繊維強化樹脂層のうち、最外層の影響が最も大きい。シャフト外径に一部凸状になった箇所がある場合、当該箇所の剛性が局所的に高くなり、異方性が生じる。真円度を前記範囲内とすることで、シャフト軸に対して垂直な断面の形状による異方性の影響を低減することができる。
【0060】
[真円度の評価方法]
素管の細径端部側及び太径端部側の内側に治具を差し込んで素管を略水平に固定する。
素管軸を通る任意の平面と、素管の最外面とが成す二本の線のうち一方を、0°線と定める。前記0°線を基準とし、同様に、細径端部側から見て素管周方向反時計回りに45°、90°、135°の線を定める。
外径の測定は、レーザ式CCD測長センサを用い、シャフト全長に亘って任意のm箇所(mは5以上の自然数)で行う。各測定箇所で、0°、45°、90°、135°の線を含む外径を測定し、計4m点のデータを得る。各測定箇所の測定結果をもとに、外径の平均値に対する、外径の最大値と最小値の差の割合を算出する。
すなわち、
真円度=100×(Dx,max-Dx,min)/Dx,ave・・・式(1)
(式(1)中、
x:位置[mm]
x,max:位置xにおける、シャフトの外径の最大値[mm]
x,min:位置xにおける、シャフトの外径の最小値[mm]
x,ave:位置xにおける、シャフトの外径の平均値[mm]
である)
で求める。
【0061】
前記最外層の曲げ剛性に対する寄与率、前記水平方向の変位、前記異方性、前記真円度の測定は、シャフトから意匠性付与層を研磨により除去することで素管を得て、測定することができる。
【0062】
(意匠性付与層)
意匠性付与層は、素管の外面に付与され、模様やブランド名などを表示する加飾の役割を担う。通常は、下塗り層、中塗り層などを付与した後、加飾層により装飾を施し、その表面に透明又は半透明の塗料からなるオーバーコート層を形成する方法や、有色のスプレーコートにより加飾を施す方法などが用いられる。本明細書においては、意匠性付与層は、素管の外面に施される、繊維強化樹脂層以外の全ての層を示す。
意匠性付与層中の加飾層の材料としては、金属箔、インク、スプレーなど、美観を向上させ得るものであればいずれの材料を用いても良い。加飾の後に付与されるオーバーコート層や、下塗り層、中塗り層用の材料としては、加飾部分や素管など、隣接する層との密着性が高く、保護被膜の用途に使用され得るものであれば、いずれの種類のものであっても良い。
意匠性付与層は、素管全長に亘って付与されても良く、素管の一部に付与されても良い。
加飾層により装飾を施す方法としては、塗装や印刷によって絵柄などを部品本体上に直接又は金属層を介して設ける方法、裏面に粘着剤層を設けた基材シート上にスクリーン印刷などによって装飾が施されたタイプの粘着シートを、部品本体に貼着する方法、スプレーコートによる方法など、管状体の外面を加飾し得る方法であれば、いずれの方法であっても良い。
【0063】
(シャフトの物性)
(重量)
【0064】
本実施形態のシャフトの重量は、シャフト全長Lsに伴って変化するため、明確な重量定義が困難となる。そこで、本明細書中では、下記の式(4)によってシャフト全長Lsを1168mmに換算したときのシャフト重量を定義する。
換算後のシャフト重量M=M×(Ls/1168)・・・式(4)
M=シャフト重量
Ls=シャフト全長
本発明のシャフトがドライバーである場合は、1168≦Ls≦1219であることが好ましく、フェアウェイウッドである場合は、1067≦Ls≦1092であることが好ましく、ユーティリティである場合は、1016≦Ls≦1067であることが好ましく、アイアンである場合は、902≦Ls≦1016であることが好ましく、パターである場合は、864≦Ls≦915であることが好ましい。
前述のように、本発明のシャフトは、いずれの種類のシャフトでも良いが、本発明のシャフトがドライバーである場合は、32.5≦M≦89.5であることが好ましく、フェアウェイウッドである場合は、38.3≦M≦83.2であることが好ましく、ユーティリティである場合は、32.4≦M≦100.0であることが好ましく、アイアンである場合は、29.7≦M≦99.6であることが好ましく、パターである場合は、96.2≦M≦108.1であることが好ましい。
【0065】
(シャフトの製法)
本発明のシャフトの素管の製造方法としては、本発明の素管を製造できれば特に制限されず、公知の製造方法を適用できるが、繊維を一方向に引き揃えてなるシート状の強化繊維に、樹脂組成物を含浸させた繊維強化樹脂層(プリプレグ)を、マンドレルに複数枚巻きつけて、これを加熱後に冷却し、マンドレルを抜き取ることで成形するシートラッピング法が一例として挙げられる。
なお、前記プリプレグは、樹脂組成物に含まれるマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、前記マトリックス樹脂が未硬化の状態であるものを示し、加熱後は硬化が完了しているものとする。
また、本発明のシャフトを構成する繊維強化樹脂層は、前記樹脂組成物に含まれるマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、硬化が完了しているものを示す。
【0066】
シートラッピング法では、プリプレグとして、面積や、含有する強化繊維の配向角度が異なる複数種のものを用意し、これらを1枚ずつ順次マンドレルに巻回し、多層構造のシャフトを製造することが一般的である。プリプレグの枚数は、8~14枚程度が一般的である。
【0067】
各プリプレグの面積、各プリプレグが含有する強化繊維の配向角度、各プリプレグが含有する強化繊維の引張弾性率、各プリプレグを巻回する位置などを調整したり、プリプレグの層数を変更したり、マンドレルの形状を変更したりすることにより、本発明のシャフトを製造することができる。また、この際に、シャフトのテーパー度やシャフトの外径などの形状、及びシャフトの物性を適宜調整することができる。
【0068】
以下、本発明のシャフトの製造方法の一実施形態例について説明するが、本発明は以下の説明に限定されない。
本発明のシャフトの製造方法は、(1)最外層として曲げ剛性に対する寄与率が0.5~15%であるプリプレグを配置する工程(2)プリプレグを加熱後冷却する工程(3)外形を制御して研磨を行う工程、を含む。
【0069】
プリプレグとしては、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いたものが、硬化後の物性が高いことから好ましい。
プリプレグの加熱は、プリプレグに含まれるマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、硬化が完了するのに十分な温度と時間で行うものとする。前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、プリプレグの軟化及び成形に十分な温度と時間で行うものとする。
【0070】
外形を制御して研磨を行う方法としては、数値制御研磨が好ましい。数値制御研磨とは、研磨後の成形品の外形のCADデータに従い、外形を制御して研磨を行う方法である。数値制御研磨を行うことで、外形に起因するシャフトの異方性を低減することができる。
【0071】
更に、前記バイアス層や前記ストレート層に加え、部分的なバイアス層や部分的なストレート補強層、及び外径調整層を存在させても良い。部分的に補強層を設けることでねじり剛性や曲げ剛性を部分的に制御できる。繊維の引張弾性率や厚さは上述の範囲が好ましい。外径調整層の厚さについては、0.050mm以上0.500mm以下が好ましい。
【0072】
(シャフトの種類)
本実施形態のシャフトは、ドライバー、フェアウェイウッド、ユーティリティ、アイアン、パターなどの、いずれの種類のゴルフクラブ用シャフトでも良い。
【0073】
(ゴルフクラブ)
ゴルフクラブは、通常、シャフトのチップ端部にヘッドを取り付け、バット端部にグリップを取り付けて組み上げる。ウッド用のゴルフクラブは、通常、クラブとして通常の長さである45inch~46inchになるようにするため、シャフトの両端をカットし、シャフト全長が1100mm~1130mmにしてからヘッドを取り付けて組み上げる。
【0074】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。例えば、バイアス層は1層であってもよく、2層以上あってもよい。また、ストレート層は3層であってもよく、2層でもよく、4層以上であってもよい。
【0076】
<素管の評価方法>
(固有振動数の測定方法)
素管の固有振動数は図6で示す方法で測定した。藤倉ゴム株式会社製ゴルフクラブタイミングハーモナイザーを用い、シャフト1のチップ端部に、ヘッドを模擬した質量196gの錘4を取り付けた。バット端部から固定治具5Aまでの距離を180mmとして、シャフトの固有振動数を測定した。
【0077】
(バランスポイントの測定方法)
素管のバランスポイントの模式図を図7に示す。シャフトのチップ端部から、シャフトの重心までの距離Lを、素管の全長Lに対する比率で示した。すなわち、
バランスポイント(%)=(L/L)×100・・・(式5)
で求められる。
(キックポイントの測定方法)
キックポイントは、フォーティーン社製シャフトキックポイントゲージ「FG-105RM」を用いて、図8に示す方法で測定した。
シャフトの両端を回転可能な固定治具5B、5Cで固定し、一方の治具を移動させることにより、固定治具同士を互いに近づけることでシャフトを圧縮して、両端の距離を短縮させることで湾曲させた。このとき、シャフトの周方向に最も突出した点とチップ端部の距離L、湾曲時のシャフトの両端を直線で結んだ距離をLとし、上記LとLの比率をキックポイントの値とした。両端から加える圧縮荷重Pは、シャフトの曲げ剛性によって異なるが、両端の直線距離が圧縮前のシャフト長の98.5~99.5%になるようにかけるものとする。すなわち、
キックポイント(%)=(L/L)×100・・・(式6)
:前記シャフトの両端同士に、前記シャフトの両端の直線距離がシャフト長の98.5~99.5%となるように圧縮荷重をかけることで湾曲させた際の、シャフトの両端同士を結ぶ直線に、前記湾曲の頂点から垂線を引いた際の交点とシャフトのチップ端部との距離
:前記シャフトの両端同士に、前記シャフトの両端の直線距離がシャフト長の98.5~99.5%となるように圧縮荷重をかけることで湾曲させた際の、前記シャフトの両端同士の直線距離
で求めた。
【0078】
(最外層の曲げ剛性に対する寄与率の測定)
[最外層の曲げ剛性に対する寄与率の測定方法]の項に記載の方法で評価を行った。本発明のシャフトの素管は、チップ端部の外径が8.5mm、バット端部の外径が15.2mmとなるように設計、製造した。
【0079】
(真円度の評価)
[真円度の評価方法]に記載の方法に基づいて評価を行った。素管の外径測定には、オムロン株式会社製レーザ式CCD測長センサZX-TGを用いた。測定位置x(mm)は、チップ端側から100mm、200mm、300mm、400mm、500mm、600mm、700mm、800mm、900mm、1000mmの位置とした。0°、45°、90°、135°の角度で、それぞれの位置で外径を測定し、計40点のデータを得た。これを素管3本について繰り返し行い、計120点のデータを得た。各素管において、それぞれの位置x(mm)で、外径の最大値と最小値の差の、各位置の外径の平均値に対する割合を算出した。
【0080】
(異方性の評価)
[異方性の評価方法]の項に記載の方法で評価を行った。チップ端部から見て右側を右の変位、左側を左の変位とした。
【0081】
(実施例1)
図5に示す形状の鉄製のマンドレルを用意した。このマンドレルにおける各部分の外径、長さ、テーパー度は以下のとおりである。
P1の外径=4.15mm、P2の外径=、5.9mm、P3の外径=7.65mm、P4およびP5の外径=13.8mm、P1~P2の距離(L)=200mm、P2~P3の距離(L)=100mm、P1~P4の距離(L)=700mm、P1~P5の距離(L)=500mm、P1~P2のテーパー度=8.750/1000、P2~P3のテーパー度=17.5/1000、P3~P4のテーパー度=8.786/1000
【0082】
マンドレルにおけるプリプレグを巻き付ける位置は、細径端部から80mmから1270mmまでの部分とした。次いで、素管軸に対し配向角度+45°の強化繊維を含有するプリプレグと配向角度-45°の強化繊維を含有するプリプレグを1枚ずつ用意し、図1のパターン2左側(細径端部)において、2枚の巻き始め端部(プリプレグの図中左上端)が9mmずれるように重ねられ、図2右側端部(太径側)において、2枚の巻き始め端部(プリプレグの図中右上端)が22mmずれるように重ね、アイロンを用いて180℃で貼り合わせ、バイアス層形成用貼り合わせプリプレグ(パターン2)を得た。
続いて、マンドレルに、図1に示した形状に切断したプリプレグ(パターン1~7)を順次巻きつけて積層体とし、その上に20mm幅、厚さ0.03mmのポリプロピレン製収縮テープを、ピッチ1.5mmで巻きつけて、未硬化の前記積層体を固定した。それぞれのパターンに用いたプリプレグの物性の詳細を表1に、サイズを表5に示す。なお、パターン7には、ガラスクロスプリプレグを使用した。
パターン2は、強化繊維の配向角度が+45°及び-45°となるようにそれぞれ1枚配置して、バイアス層とした。パターン4及び5は、強化繊維の配向角度がマンドレルの軸方向に対して0°となるように配置して、ストレート層とした。パターン1、3及び6は、強化繊維の配向角度がマンドレルの軸方向に対して0°となるように配置して、部分ストレート層とした。パターン7は、平織のガラスクロスプリプレグを、経糸がマンドレルの軸方向に対して0°となるように配置した。
【0083】
次いで、これを145℃に加熱した硬化炉に2時間入れて硬化した後、硬化炉から取り出して、常温まで放冷して、前記収縮テープを剥ぎ取り、細径端部を10mm、太径端部を10mm切断して、全長を1170mmとした。次いで表面を表6に示す外径を目標値として数値制御研磨して、重量が56.84g、固有振動数が245cpm、バランスポイントが51.7%、キックポイントが44.0%の素管を得た。
【0084】
得られた素管の全長、重量、固有振動数、バランスポイント、キックポイントを表7に、最外層の曲げ剛性に対する寄与率を表8に、水平方向の変位及び異方性の評価値を表9に、真円度の値を表10に示す。
【0085】
(実施例2)
使用したプリプレグの種類を表2、サイズを表5に示したように変更し、図2に示した形状に切断したプリプレグ(パターン1~8)を用いた以外は、実施例1と同様にシャフトを製造した。結果を表7~10に示す。
【0086】
(実施例3)
使用したプリプレグの種類を表3、サイズを表5に示したように変更し、図3に示した形状に切断したプリプレグ(パターン1~7)を用いた以外は、実施例1と同様にシャフトを製造した。結果を表7~9、11に示す。
【0087】
(比較例1)
使用したプリプレグの種類を表4、サイズを表5に示したように変更し、図4に示した形状に切断したプリプレグ(パターン1~6)を用いた以外は、実施例1と同様にシャフトを製造した。結果を表7~9、11に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】














【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】












【0096】
【表9】
































【0097】
【表10】
【0098】
【表11】
【0099】
表7~11から明らかなように、実施例1~3のシャフトでは、最外層の曲げ剛性に対する寄与率が小さいため、異方性を示す評価値が小さかった。一方、比較例1のシャフトでは、最外層の曲げ剛性に対する寄与率が高いため、異方性を示す評価値が大きく、異方性が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、異方性が低いため、思い描いた通りのスイングを実現できるシャフトを提供できる。
【符号の説明】
【0101】
1 シャフト
1C 圧縮して湾曲したシャフト
11 チップ端部
12 バット端部
13 シャフト軸
2 シャフトの重心位置
3 シャフトのキックポイント位置
4 ヘッドを模擬した質量196gの錘
5A、5B,5C、5D、5E、5F、5G、5H、5I 固定治具
6 支柱
7 投光器
8 受光器
9 センサスライド用治具
シャフトの全長
、L、L、L、L 長さ
x 長さ
P 荷重
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13