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特許7570804パン類の製造方法、解凍不要加熱用冷凍パン生地、該解凍不要加熱用冷凍パン生地を用いたパン類、及び解凍不要加熱用冷凍パン生地用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】パン類の製造方法、解凍不要加熱用冷凍パン生地、該解凍不要加熱用冷凍パン生地を用いたパン類、及び解凍不要加熱用冷凍パン生地用組成物
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/08 20060101AFI20241015BHJP
   A21D 15/02 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
A21D2/08
A21D15/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019183420
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021058119
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-027057(JP,A)
【文献】特開平11-056217(JP,A)
【文献】特開2000-032904(JP,A)
【文献】特開平06-181676(JP,A)
【文献】特表2017-500853(JP,A)
【文献】特開2019-068745(JP,A)
【文献】特開2007-244306(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1806564(CN,A)
【文献】特表2021-509283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/08 - 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類と、
α化澱粉と、
増粘剤と、を含有し、
前記α化澱粉の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%である、冷凍パン生地のままで、該冷凍パン生地から発生する蒸気以外の蒸気存在下で加熱する工程を含む、パン類の製造方法。
【請求項2】
前記冷凍パン生地中の前記増粘剤の含有量は、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量部に対して、0.2~2.0質量部である、請求項1に記載のパン類の製造方法。
【請求項3】
前記増粘剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びガム質からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載のパン類の製造方法。
【請求項4】
前記冷凍パン生地は、成形済み冷凍パン生地である、請求項1から3のいずれか一項に記載のパン類の製造方法。
【請求項5】
前記冷凍パン生地を加熱前に解凍する工程を含まない、請求項1から4のいずれか一項に記載のパン類の製造方法。
【請求項6】
穀粉類と、
α化澱粉と、
増粘剤と、を含有し、
前記α化澱粉の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%であり、
前記増粘剤の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量部に対して、0.2~2.0質量部である、
解凍不要、かつ冷凍パン生地から発生する蒸気以外の蒸気存在下にて加熱用の冷凍パン生地。
【請求項7】
最終発酵を必要としない、請求項6に記載の冷凍パン生地。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の冷凍パン生地を用いたパン類。
【請求項9】
穀粉類と、
α化澱粉と、
増粘剤と、を含有し、
前記α化澱粉の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%であり、
前記増粘剤の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量部に対して、0.2~2.0質量部である、
解凍不要、かつ冷凍パン生地から発生する蒸気以外の蒸気存在下にて加熱用の冷凍パン生地用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類の製造方法、解凍不要加熱用冷凍パン生地、該解凍不要加熱用冷凍パン生地を用いたパン類、及び解凍不要加熱用冷凍パン生地用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類の製造において、成形済み冷凍パン生地を用いる技術が普及している。成形済み冷凍パン生地を用いることで生地の作製から成形までの工程を省略できるため、店舗面積の縮小や設備負担の軽減を図ることが可能であり、且つ、熟練した職人以外の者でも簡便にパンを製造することが可能である。
【0003】
成形済み冷凍パン生地を用いた焼き立てパンの提供には、少なくとも冷凍保存、解凍、最終発酵(ホイロ)及び焼成の設備が必要である。小規模な店舗や既存の喫茶店などが焼き立てパンの提供を始めるにあたり、特に障壁となっていると考えられるのが、解凍や最終発酵に必要な設備の準備である。
【0004】
上記障壁を解消する有用な技術の1つが、解凍や最終発酵を必要としない冷凍パン生地を用いた製パン技術である。例えば、特許文献1には、解凍及び醗酵をとるための専用設備を必要としない技術として、酵母を含有した穀物粉組成物と油脂組成物(折り込み油脂)を用い連続的な多層構造のパン生地を形成し、該パン生地を所望の形状に形成した後、該形成物の最厚部表面に凹みを形成せしめることを特徴とする冷凍パン生地の製造法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/87152号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術はクロワッサン生地などの多層構造を有する冷凍パン生地に関する技術であり、多層構造を有しない冷凍パン生地において解凍や最終発酵を必要とせずにパンを製造する技術は確立されていない。また、最終発酵済みの冷凍パン生地は、生地が2倍以上に膨張した状態で冷凍される。そのため輸送コストが高くなるだけでなく、衝撃に弱く、保管及び流通において破損防止の対策が必要であり、コストが増大するというデメリットがある。
【0007】
そこで、本発明は、解凍及び最終発酵を行う必要がない冷凍パン生地を用いた製パン技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本技術では、まず、
穀粉類と、
α化澱粉と、
増粘剤と、を含有し、
前記α化澱粉の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%である、冷凍パン生地を、蒸気存在下で加熱する工程を含む、パン類の製造方法を提供する。
本技術において、前記冷凍パン生地中の前記増粘剤の含有量は、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量部に対して、0.2~2.0質量部とすることができる。
本技術において、前記増粘剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びガム質からなる群より選択される少なくとも1種を含有させることができる。
本技術において、前記冷凍パン生地は、成形済み冷凍パン生地とすることができる。
本技術に係るパン類の製造方法では、前記冷凍パン生地を加熱前に解凍する工程を行う必要がない。
【0009】
本技術では、次に、
穀粉類と、
α化澱粉と、
増粘剤と、を含有し、
前記α化澱粉の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%である、解凍不要加熱用冷凍パン生地を提供する。
本技術に係る解凍不要加熱用冷凍パン生地を用いてパン類を製造する場合、最終発酵は不要である。
【0010】
本技術では、また、本技術に係る解凍不要加熱用冷凍パン生地を用いたパン類を提供する。
【0011】
本技術では、更に、
穀粉類と、
α化澱粉と、
増粘剤と、を含有し、
前記α化澱粉の含有量が、前記穀粉類及び前記α化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%である、解凍不要加熱用冷凍パン生地用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本技術によれば、加熱の前に解凍を行う必要がない冷凍パン生地が提供されうる。また、本技術に係る解凍不要加熱用冷凍パン生地は、加熱前に解凍が不要であるため、即ち、加熱前の最終発酵も不要である。本技術によれば、加熱の前に解凍及び最終発酵を行わなくても、従来の冷凍パン生地を解凍及び最終発酵して得られるパン類に近い品質のパン類が得られうる。当該パン類は、色付きや形状がよく外観が良好で、ボリューム感があり、ソフトでしっとりとした食感である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
<1.解凍不要加熱用冷凍パン生地>
本技術に係る解凍不要加熱用冷凍パン生地は、穀粉類(但し、α化澱粉を除く。以下同様。)と、α化澱粉と、増粘剤と、を必須成分とする。本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地は、一般的なベーカリー製品に用いることができる成分を用いることも可能である。
【0015】
α化澱粉の含有量は、穀粉類及びα化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%である。このような配合とすることで、解凍及び最終発酵を行わなくとも解凍不要加熱用冷凍パン生地を加熱により膨化させ、ボリューム感を付与することが可能である。また、本技術に係る解凍不要加熱用冷凍パン生地から解凍及び最終発酵を経ずに製造されたパン類は、従来の冷凍パン生地を解凍及び最終発酵して製造されたパン類に近い品質を有しており、具体的には、色付きや形状がよく外観が良好で、ボリューム感があり、ソフトで、しっとりとした食感である。つまり、本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地は、解凍及び最終発酵を必要としないことを特徴としており、加熱の前に解凍及び最終発酵させずに加熱工程を行うパン類の製造方法に好適である。
【0016】
一般的に、冷凍パン生地を解凍・最終発酵を行わずに、そのまま焼成した場合、殆ど膨化せずに、あるいは表層部に近い部分だけで膨化が起きて、表面が焼き固められてしまう。そのため、焼成品は、火抜けが悪いことにより重量が重くなり、容積が小さく、色付きが悪く、焼成中に膨化させることができても冷ましている間に表層部のシワや縮み(形状不良)が生じることが知られている。また、通常製法の場合であっても、焼成後の容積が不十分なパン類は、腰折れやシワ、形状不揃い、色付き不良などの外観上の品質不良を伴いやすいことが知られている。
【0017】
本技術により製造されるパン類は、解凍及び最終発酵を行った後に加熱工程を行った場合に比べて、計算上の比容積としてはやや小さくなる場合がある。しかしながら、通常のパン類と同等の色付きや形状であるために、十分な窯伸び(加熱膨張)が生じていると感じ取ることができ、見た目には比容積が十分に大きいと感じる(ボリューム感がある)ことができる。
【0018】
なお、「最終発酵」とは、「ホイロ」ともいい、生地を成形した後加熱する前に発酵させる工程を意味する。最終発酵は、後段の焼成工程(加熱工程)での窯伸びや火通りを最適な状態とするために一般的な製パン方法においては必要不可欠な工程であり、加熱した際の窯伸び力が発揮できる程度に成形後の生地を膨張させる目的で行われる。また、生地表面の乾燥防止やイーストの活動を活性化させるために、湿度(70%以上)や温度(生地の種類により異なるが概ね27~38℃)を制御した専用の発酵室で行われる。パン類の種類によって異なるが、一般的には、成形直後の生地の2.5倍程度に膨張させる。最終発酵が不足(最終発酵における生地の膨張が不足)すると、焼成後のパン類はボリュームに欠け、形状が不揃いとなり、火通りが悪く、重く、クチャつく食感となる。また最終発酵が過度(最終発酵における生地の膨張が過度)になると、焼成後のパン類は、外観の品質低下(腰折れやシワの発生、焼き色が付かないなど)、内相の品質低下(空洞の発生など)、食感の低下(パサつきなど)が生じてしまう。
【0019】
本明細書において「最終発酵を経ずに」・「最終発酵させずに」・「最終発酵を行わずに」とは、何れも成形後の生地を後段の加熱工程に供するのに適した生地膨張の状態とするための工程を行わないことを意味する。
【0020】
また、本明細書において、「解凍工程を経ずに」・「解凍させずに」・「解凍を行わずに」とは、何れも成形後に冷凍された生地を、凍結状態のままで後段の加熱工程に供することを意味する。
【0021】
(1)解凍不要加熱用冷凍パン生地の成分
(1-1)穀粉類
解凍不要加熱用冷凍パン生地に用いられる穀粉類は、特に限定されず、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム小麦粉などの小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉(全脂又は脱脂大豆粉、おから、豆乳粉)、オーツ麦粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉などの公知の穀粉、及び、α化澱粉以外の澱粉類(加工澱粉類を含む)から選択される1種又は2種以上でありうる。これらの中でも小麦粉(好ましくは強力粉)を含むことが好ましい。また、α化澱粉以外の澱粉類(加工澱粉類を含む)を含む場合は小麦粉(好ましくは強力粉)を併用することが好ましい。
【0022】
(1-2)α化澱粉
解凍不要加熱用冷凍パン生地におけるα化澱粉の含有量は、穀粉類及びα化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%であり、より好ましくは3.0~9.0質量%である。α化澱粉には生地中の水分量を増やす働きがあり、生地作製に必要な加水量が増す。α化澱粉を含有することにより、生地中の水分量が増え、生地の加熱工程において水蒸気膨化による生地膨張が起こり、パン類の容積が増加する。しかしながら、α化澱粉は水分の保持力は弱いため、α化澱粉の含有量を10質量%超とすると、生地のべたつきが生じて生地作製時の作業性が悪化する。また、含有量を10質量%超とすると、水蒸気膨化が過剰となり、加熱後のパン類(放冷後)において、縮みが生じてしわが発生し見た目が劣る場合がある。一方、α化澱粉の含有量を1.5質量%未満とすると、パン類のしっとりとした食感が悪化し、重い食感が生じる場合がある。
【0023】
上記α化澱粉は、好ましくはα化加工澱粉であり、より好ましくは架橋処理が施されたα化架橋澱粉である。α化架橋澱粉を用いることで、加熱前に、解凍工程及び最終発酵工程を経ずに製造されるパン類の品質をより向上させることが可能である。α化澱粉の原料となる澱粉(原料澱粉)は、植物から抽出した澱粉、及びこれらに化学的加工を施した加工澱粉であれば、特に制限はない。例えば、馬鈴薯澱粉、餅種(糯種又はワキシーともいう。)の馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、餅米澱粉などの澱粉、及びこれらの澱粉を原料として化学的な加工が施された加工澱粉が挙げられる。加工澱粉としては、どのような種類の加工澱粉でもよく、例えば、酵素処理澱粉;酸化澱粉;酸処理澱粉;酢酸澱粉(アセチル化澱粉)などのエステル化澱粉;リン酸化澱粉;ヒドロキシプロピル化澱粉などのエーテル化澱粉;リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉などの架橋澱粉;アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉及びリン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉などの複数の加工を組み合わせた加工澱粉;などが挙げられる。本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地は、これらの原料澱粉を常法によってα化処理したα化澱粉を1種又は2種以上含有しうる。本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地に用いられるα化澱粉としては、リン酸架橋を有するα化加工澱粉が更に好ましく、α化エーテル化リン酸架橋澱粉及び/又はα化リン酸架橋澱粉が特に好ましい。上記α化澱粉は、粉末状、糊状など任意の状態で用いることができる。
【0024】
(1-3)増粘剤
本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地は、更に増粘剤を含有する。解凍不要加熱用冷凍パン生地における増粘剤の含有量は、穀粉類及びα化澱粉の合計100質量部に対して、好ましくは0.2~2.0質量部であり、より好ましくは0.5~1.0質量部である。増粘剤には、生地の水分量増加に加えて水分保持力を高める働きがある。増粘剤は、α化澱粉との併用により、加水量増加に伴う生地のべたつきなどの作業性の悪化を抑制する。また、増粘剤は、加熱後のパン類の品質、特に食感(しっとりとした食感)を向上させる。加熱後の製品の食感、特にしっとりとした食感を向上させるためには、製品が一定の水分を保持している必要がある。増粘剤とα化澱粉とを併用することで、外観(色付きや形状)を良化させることができる。さらに十分な水蒸気膨化により、ボリューム感を付与し、ソフトでしっとりとした食感を実現できる。
【0025】
増粘剤は、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう。)、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう。)及びガム質からなる群より選択される少なくとも1種である。ガム質としては、例えば、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム及びタラガムなどが挙げられ、これらの中でもキサンタンガム及び/又はグアガムが好ましい。すなわち、上記増粘剤は、より好ましくは、HPMC、CMC、キサンタンガム及びグアガムからなる群より選択される少なくとも1種である。上記増粘剤は、更に好ましくはHPMC及び/又はCMCであり、特に好ましくはCMCである。
【0026】
(1-4)イースト
本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地は、従来の冷凍パン生地において通常用いられる量のイーストを含有させればよい。イーストを含有させる手段は、通常の製パン法における手段と同様に行えばよく、生地配合にイーストを直接添加する方法や予備発酵を行って添加する方法、サワー種・液種等の発酵種の形態で添加する方法などが挙げられる。イーストの種類は、特に限定されず、生イースト(圧搾パン酵母)、インスタントドライイースト、ドライイースト、セミドライイースト(アクティブドライイースト)、いわゆる天然酵母、など、パン類の製造方法で通常用いられるものであればよい。
【0027】
(1-5)その他
本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地は、本発明の効果を損なわない範囲において、上述した成分以外に、パン類用の生地に一般的に配合される他の成分を含有することができる。当該他の成分としては、例えば、小麦グルテン;ふすま、豆皮などの穀物外皮及びその加工品;大豆蛋白質、豆乳などの大豆加工品(穀粉類である大豆粉を除く);植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂などの油脂類;卵黄、卵白、全卵などの卵類;脱脂粉乳、カゼイン、チーズ、牛乳などの乳由来製品;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトースなどの糖質類;食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩類;酵素製剤;ベーキングパウダーなどの膨張剤;乳化剤、その他、pH調整剤、ビタミン類、イーストフード、甘味料、香辛料、調味料、ミネラル類、色素、香料などが挙げられる。加熱後、放冷中の縮み(外皮のシワ発生)を予防するために、小麦グルテンを添加するのがより好ましい。また加熱時の膨化を補助するために、膨張剤を用いるのが好ましい。
【0028】
酵素製剤として、マルトース生成アミラーゼを用いると、パン類の食感をよりしっとりとさせ、さらに口溶けも良好にできるので好ましい。マルトース生成アミラーゼとしては、具体的にはβ-アミラーゼ及び/又はマルトース生成α-アミラーゼを用いることができる。マルトース生成アミラーゼの含有量は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができる。β-アミラーゼを用いる場合は、5.0単位以上とすることが好ましく、10.0単位以上とすることがより好ましく、20.0~150.0単位とすることがさらに好ましい。マルトース生成α-アミラーゼを用いる場合は、3.0~30.0単位とすることが好ましく、5.0~25.0単位とすることがより好ましい。
【0029】
なお、β-アミラーゼの上記「1単位」とは、第四版既存添加物自主規格(日本食品添加物協会、2008年10月16日発刊)記載のデンプン糖化力測定法に従い測定した、1分間に1mgのブドウ糖に相当する還元力の増加をもたらす酵素量を示す。またマルトース生成α-アミラーゼの上記「1単位」とは、マルトトリオースを基質として酵素を作用させ、1分間に1μmolのマルトースを生成する酵素量を示す。マルトースの測定は、還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)を参照して行うことができる。
【0030】
(2)解凍不要加熱用冷凍パン生地の形態
一般的に、冷凍パン生地は、ミキシング後、成形前の生地を凍結した生地玉冷凍パン生地;成形後、最終発酵前の生地を凍結した成形済み冷凍パン生地;最終発酵後、加熱前の生地を凍結したホイロ済み冷凍パン生地に大別される。本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地は、上述の通り解凍及び最終発酵を必要としないことを特徴とするため、好ましくは成形済み冷凍パン生地である。
【0031】
(3)解凍不要加熱用冷凍パン生地の製造方法
上記解凍不要加熱用冷凍パン生地は、ストレート法、中種法、発酵種法、湯種法などの公知の製パン方法により製造されうる。例えば、生地用の各種成分をミキシングして混捏生地を調製し、必要に応じて、フロアタイム、分割及び丸め、ベンチタイム、成形といった工程(分割後の丸めを成形とする場合もある)を行った後に生地を凍結することで、冷凍パン生地を製造することが可能である。本技術の製造方法においては、成形後にパン生地を凍結すること、又は、成形後最終発酵させずにパン生地を凍結することが好ましい。すなわち、本技術の製造方法は、好ましくは分割及び成形後に生地を凍結する成形済み冷凍パン生地での製造方法であり、好ましくは成形後最終発酵させずに生地を凍結する成形済み冷凍パン生地の製造方法である。成形済み冷凍パン生地での製造方法において、分割及び丸めと成形の間に任意でベンチタイムを設けてもよい。
【0032】
パン生地の凍結条件は、生地の種類や大きさなどによって適宜調整されればよく、特に限定されないが、凍結温度は好ましくは-20℃以下であり、より好ましくは-30℃以下であり、急速凍結とすることが好ましい。また、凍結後の冷凍パン生地の冷凍保管条件は、生地の種類や大きさなどによって適宜調整されればよく、特に限定されないが、冷凍保管の温度は好ましくは-18℃以下であり、より好ましくは-20℃以下である。
【0033】
<2.パン類の製造方法>
本技術に係るパン類の製造方法は、上記解凍不要加熱用冷凍パン生地を、蒸気存在下で加熱する工程を含む。上記解凍不要加熱用冷凍パン生地を用いることで、加熱前に、解凍工程及び最終発酵工程を省略することが可能であり、生地を解凍及び最終発酵させずに加熱しても、従来の冷凍パン生地を最終発酵して製造されたパン類に近い品質のパン類を製造することができる。より具体的には、本技術の製造方法は、色付きや形状がよく外観が良好で、ボリューム感があり、ソフトで、しっとりとした食感のパン類を製造することができる。
【0034】
本技術のパン類の製造方法において、上記解凍不要加熱用冷凍パン生地の蒸気存在下での加熱方法は、特に限定されず、焼成、蒸し、蒸し焼きなど公知の方法が用いられうる。加熱の条件も特に限定されず、生地の大きさやパンの種類などに応じて適宜調節されればよい。蒸気を利用することで、解凍及び最終発酵を行わずに加熱した場合でも、加熱膨張(窯伸び)を促進し、容積増大効果をより高めることができる。
【0035】
<3.パン類>
本技術に係るパン類は、上記解凍不要加熱用冷凍パン生地を用いて製造され、好ましくは上記解凍不要加熱用冷凍パン生地を解凍及び最終発酵させずに蒸気存在下にて加熱してなるパン類である。パン類の種類は、イーストを含有するパンであれば特に限定されず、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、フランスパン等のハード系パン類、デニッシュペストリー、バラエティブレッド、調理パンなどが挙げられる。本技術のパン類は、従来の冷凍パン生地から解凍及び最終発酵工程を経て製造されるパン類に近い品質を有しており、色付きや形状がよく外観が良好で、ボリューム感があり、ソフトで、しっとりとした食感である。
【0036】
<4.冷凍パン生地用組成物>
本技術に係る解凍不要加熱用冷凍パン生地用組成物は、上述した解凍不要加熱用冷凍パン生地に用いられる組成物である。当該組成物は、穀粉類(但し、α化澱粉を除く)と、α化澱粉と、増粘剤と、を必須成分とする。そして、本技術の組成物において、α化澱粉の含有量は、穀粉類及びα化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%である。また、本技術の組成物には、一般的なベーカリー製品に用いることができる成分を用いることも可能である。穀粉類、α化澱粉、膨張剤、一般的なベーカリー製品に用いることができる成分の詳細については、上記解凍不要加熱用冷凍パン生地の項で説明した内容と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0037】
本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地用組成物は、前述した成分を混合して得られる冷凍パン生地用ミックスとして流通させる形態を採用することができる。また、本技術の解凍不要加熱用冷凍パン生地用組成物は、粉末状の形態であることが好ましい。
【実施例
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
本実施例で使用した原料の一部を以下に示す。
強力粉:ブルチアーレ(昭和産業株式会社)
CMC:サンローズF(日本製紙株式会社)
HPMC:メトセルF50(ユニテックフーズ株式会社)
キサンタンガム:ウルトラキサンタン(伊那食品工業株式会社)
イースト:カネカイーストGA(株式会社カネカ)
ロールイン油脂:ハイシートセレクト100(ミヨシ油脂株式会社)
【0040】
1.実験例1
実験例1では、冷凍パン生地に用いる成分の違いや含有量による本技術への効果への影響を調べた。
【0041】
<冷凍パン生地の製造>
下記表1に示す配合の原料のうちマーガリン以外をミキサーボウルに入れ、ミキサーの低速で4分間、中速で8分間ミキシングした後、マーガリンを添加し、ミキサーの低速で3分間、中速で7分間ミキシングして混捏生地を調製した。生地の捏上温度は、24℃とした。下記表1に示す条件でフロアタイムをとり、下記表1に示す条件で分割~成形を行った後、-30℃で40分間急速冷凍して冷凍パン生地を製造した。得られた冷凍パン生地は、-20℃の冷凍庫で4週間保管した。
【0042】
<パン類の製造>
上記冷凍パン生地を、解凍工程を経ずに、ベーカリー用オーブンを用いて、200℃にて、下記表1に示す時間焼成し、パンを製造した。なお、比較例7以外は、蒸気(スチーム)存在下で焼成を行った。
【0043】
<評価>
成形作業性、及び得られたパンのボリューム感、外観及び食感について、以下の基準に従って評価を行った。なお、成形作業性、及びボリューム感、外観の評価は、作業を行った製パン技術者3名の合議により行った。
【0044】
[成形作業性]
◎:非常に良い
○:作業時に問題となる不具合がなく良好である
△:許容範囲の作業性である
×:べたつき等があり、成形作業性が悪い
【0045】
[ボリューム感]
◎:ボリューム感があり、非常に良好である
○:やや小ぶりながら、ボリューム感があり、良好である
△:ボリューム感がなく(加熱膨張はあるが見た目に小さい)、劣る
×:加熱膨張が殆どなく、悪い
【0046】
[外観]
◎:色付きよく、形状も非常に良好である
○:色付きよく、形状も良好である
△:色付き悪く、形状も劣る
×:色付き悪く、形状も悪い(潰れ・裂け等がある)
【0047】
[食感]
製造翌日に、10名の専門パネルが以下の5段階で評価し、その平均点を評価点とした。
5:ソフトで非常にしっとりとした食感である
4:ソフトでしっとりとした食感で好ましい
3:ソフトでややしっとりした食感である
2:しっとりとした食感に欠け、やや重い食感で劣る
1:しっとりとした食感がなく、非常に重い食感で悪い
【0048】
結果を下記表1に示す。なお、下記表において、各成分の配合量の単位は原則「質量部」であり、穀粉類とα化澱粉との合計が100質量部となっている。
【0049】
【表1】
【0050】
上記表1の結果が示すように、α化澱粉及び増粘剤を含有しない冷凍パン生地用いた比較例1は、成形作業性の評価は良好であったが、ボリューム感、外観、及び食感が悪かった。比較例1の水分量を増加させた比較例2については、食感は若干向上したものの、しっとりとした食感に欠け、やや重い食感であり、成形作業性、ボリューム感、及び外観の評価が悪い結果であった。
【0051】
α化澱粉は含有するが、増粘剤を含有しない冷凍パン生地を用いた比較例3は、比較例1と同様に、成形作業性の評価は良好であったが、比較例1に比べると、若干食感が向上したものの、しっとりとした食感に欠け、やや重い食感であった。比較例3の水分量を増加させた比較例4は、ボリューム感、外観、及び食感の評価は良好であったが、成形作業性の評価は悪い結果であった。これに対し、α化澱粉及び増粘剤を含有する冷凍パン生地用いた実施例1は、成形作業性、ボリューム感、外観、及び食感の全ての評価が良好であった。
【0052】
増粘剤は含有するが、α化澱粉を含有しない冷凍パン生地を用いた比較例5は、成形作業性の評価は良好であったが、ボリューム感、外観、及び食感の評価は悪かった。比較例5の水分量を増加させた比較例6は、ボリューム感、及び食感の評価は良好であったが、成形作業性、及び外観の評価は悪い結果であった。これに対し、α化澱粉及び増粘剤を含有する冷凍パン生地用いた実施例1は、成形作業性、ボリューム感、外観、及び食感の全ての評価が良好であった。
【0053】
実施例1と同一の生地を用いて、パンの焼成時にスチームを入れなかった比較例7は、ボリューム感、外観、及び食感の評価が悪い結果となった。
【0054】
なお、実施例1、4、及び5の結果から、α化澱粉の含有量を穀粉類(強力粉)との合計100質量%中、1.5質量%又は10.0質量%に変更しても、また、実施例8の結果から、α化澱粉の種類を変更しても、本技術の効果が得られることが確認された。さらに、実施例1~3の結果から、増粘剤の含有量を、穀粉量及びα化澱粉の合計100質量部に対して、0.2質量部又は2質量部に変更しても、また、実施例6、及び7の結果から、増粘剤の種類を変更しても、本技術の効果が得られることが確認された。
【0055】
加えて、実施例9~11の結果から、フロアタイムの条件を変更した場合でも、実施例12の結果から、クロワッサンのような多層構造の生地であっても、本技術の効果が得られることが確認された。
【0056】
2.実験例2
実験例2では、前記実験例1において、加熱条件を変更した場合について検討した。
【0057】
前記実験例1の実施例1の冷凍パン生地を用いて、
(1)蒸し器(蒸篭)を用いて、25分蒸し調理をした。
(2)深型フライパンを用いて、蓋をして弱火3分→熱湯を加えてさらに弱火で10分→生地を反転させてさらに弱火で5分加熱調理した。
(3)スチームコンベクションオーブンを用いて、スチーム入りで180℃15分加熱調理した。
【0058】
前記(1)及び(3)の方法で加熱調理して得られたパンは、ボリューム感、外観、及び食感とも、実施例1と同等の結果であり、非常に良好であった。前記(2)の方法で加熱調理して得られたパンは、「おやき」のような形状であったが、食感は良好であった。
【0059】
3.実験例3
実験例3では、酵素による食感改良効果について検討した。
【0060】
実施例7の配合に下記の酵素を添加した以外は、実験例1と同様にしてパンを得た。
(1)β-アミラーゼとして、βアミラーゼFアマノ(天野エンザイム株式会社)を用い、50単位添加した。
(2)マルトース生成α-アミラーゼとして、ノバミル(登録商標)10000BG(ノボザイムズ社)を用い、20単位添加した。
【0061】
前記(1)及び(2)の方法で得られたパンについて、実験例1の評価基準に従い食感評価を行った。その結果、(1)(2)共に、4.8点と高評価であった。また(1)(2)共に、実施例7のパンに比べて、口溶けが良好であった。