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  • 特許-回転ガントリおよび粒子線治療システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】回転ガントリおよび粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20241015BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021005493
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110228
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-05-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】えび名 風太郎
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 真澄
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111249633(CN,A)
【文献】特開2019-034108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0163301(US,A1)
【文献】特開2000-202047(JP,A)
【文献】特開2017-196140(JP,A)
【文献】特開2001-210498(JP,A)
【文献】特開2015-225871(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0007848(US,A1)
【文献】英国特許出願公開第02551330(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームの照射対象の周りを回転自在な構造物と、
前記構造物に固定され、前記構造物の回転軸の方向に沿って入射した前記荷電粒子ビームを、前記回転軸から離れる方向に偏向する常伝導偏向電磁石と、
前記構造物に固定され、前記常伝導偏向電磁石を通過した前記荷電粒子ビームを、前記回転軸に向かう方向に偏向する超伝導偏向電磁石グループと、を備え、
前記超伝導偏向電磁石グループは、
縦続配置された複数の超伝導偏向電磁石を含み、
複数の前記超伝導偏向電磁石の偏向角が同一であり、
前記構造物は、内部空間が筒形状を有するハウジングを含み、
前記常伝導偏向電磁石は前記ハウジングの内側に配置され、
前記超伝導偏向電磁石グループは、前記ハウジングの外側に配置されていることを特徴とする回転ガントリ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転ガントリにおいて、
各前記超伝導偏向電磁石の偏向角は、90°を自然数Nによって除した値であり、
前記超伝導偏向電磁石グループは、
MをN以下の自然数として、N+M個の前記超伝導偏向電磁石を含み、前記常伝導偏向電磁石を通過した前記荷電粒子ビームを、前記回転軸に対して垂直であり、前記回転軸に向かう方向に偏向し、
N個の前記超伝導偏向電磁石は、前記超伝導偏向電磁石グループにおける最下流側に配置されており、
前記常伝導偏向電磁石の偏向角は、90°のM/N倍であることを特徴とする回転ガントリ。
【請求項3】
請求項2に記載の回転ガントリにおいて、
前記超伝導偏向電磁石グループにおける最下流側のN個の前記超伝導偏向電磁石の上流側に、前記回転軸に沿って直線状に配置され、前記荷電粒子ビームが通過する複数の電磁石を備えることを特徴とする回転ガントリ。
【請求項4】
請求項1に記載の回転ガントリにおいて、
前記超伝導偏向電磁石グループは、偏向角の合計が90°である最下流側の1つまたは複数の前記超伝導偏向電磁石を含み、
偏向角の合計が90°である最下流側の1つまたは複数の前記超伝導偏向電磁石の上流側に、前記回転軸に沿って直線状に配置され、前記荷電粒子ビームが通過する複数の電磁石を備えることを特徴とする回転ガントリ。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の回転ガントリと、
前記荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記加速器から取り出された前記荷電粒子ビームを前記回転ガントリに輸送するビーム輸送系と、
を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ガントリおよび粒子線治療システムに関し、特に、超伝導偏向電磁石を用いた回転ガントリおよび粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームを患者に照射する粒子線治療システムが広く用いられている。粒子線治療システムには、荷電粒子ビームの照射位置および照射方向を調整するための回転ガントリを備えるものがある。回転ガントリは、加速器によって加速された荷電粒子ビームを適切な向きに偏向する機器を、患者の回りで回転させるものである。
【0003】
荷電粒子ビームを偏向する機器としては、荷電粒子ビームが通過する領域に磁界を発生する偏向電磁石が用いられる。回転ガントリには、複数の偏向電磁石が円弧を描くように縦続配置され、各偏向電磁石が所定の角度で荷電粒子ビームを偏向する。以下の特許文献1および2には、複数の偏向電磁石が用いられた回転ガントリが記載されている。これらの特許文献に記載された回転ガントリでは、複数の偏向電磁石のうち一部に超伝導偏向電磁石が用いられている。超伝導偏向電磁石が用いられることで、回転ガントリが小型となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-34108号公報
【文献】特開2007-260222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転ガントリでは、ハウジングの奥深い位置等、整備が行い難い位置に偏向電磁石が配置される場合がある。一般に、超伝導偏向電磁石の方が、常伝導偏向電磁石に比べて整備の頻度が高い。したがって、回転ガントリに超伝導偏向電磁石を用いた場合には、整備のために費やされる労力が大きくなってしまうことがある。また、超伝導偏向電磁石は、常伝導偏向電磁石よりも構造が複雑であるという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、複数の超伝導偏向電磁石を用いる回転ガントリを小型化すると共に、構造を単純化することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転ガントリは、荷電粒子ビームの照射対象の周りを回転自在な構造物と、前記構造物に固定され、前記構造物の回転軸の方向に沿って入射した前記荷電粒子ビームを、前記回転軸から離れる方向に偏向する常伝導偏向電磁石と、前記構造物に固定され、前記常伝導偏向電磁石を通過した前記荷電粒子ビームを、前記回転軸に向かう方向に偏向する超伝導偏向電磁石グループと、を備え、前記超伝導偏向電磁石グループは、縦続配置された複数の超伝導偏向電磁石を含み、複数の前記超伝導偏向電磁石の偏向角が同一であり、前記構造物は、内部空間が筒形状を有するハウジングを含み、前記常伝導偏向電磁石は前記ハウジングの内側に配置され、前記超伝導偏向電磁石グループは、前記ハウジングの外側に配置されていることを特徴とする。また、本発明に係る回転ガントリは、荷電粒子ビームの照射対象の周りを回転自在な構造物と、前記構造物に固定され、前記構造物の回転軸の方向に沿って入射した前記荷電粒子ビームを、前記回転軸から離れる方向に偏向する1つまたは複数の常伝導偏向電磁石と、前記構造物に固定され、前記常伝導偏向電磁石を通過した前記荷電粒子ビームを、前記回転軸に対して垂直であり、前記回転軸に向かう方向に偏向する超伝導偏向電磁石グループと、を備え、前記超伝導偏向電磁石グループは、縦続配置された複数の超伝導偏向電磁石を含み、複数の前記超伝導偏向電磁石の偏向角が同一であり、各前記超伝導偏向電磁石の偏向角は、90°を自然数Nによって除した値であり、前記超伝導偏向電磁石グループは、MをN以下の自然数として、N+M個の前記超伝導偏向電磁石を含み、N個の前記超伝導偏向電磁石は、前記超伝導偏向電磁石グループにおける最下流側に配置されており、前記常伝導偏向電磁石の偏向角は、90°のM/N倍であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の超伝導偏向電磁石を用いる回転ガントリを小型化すると共に、構造を単純化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】回転ガントリを模式的に示す図である。
図2】粒子線治療システムを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
各図を参照して本発明の実施形態に係る回転ガントリおよび粒子線治療システムが説明される。複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号が付され、説明が簡略化される。また、本明細書における「円筒」等の形状を表す用語は、幾何学的に厳密に定義された形状のみを示すものではない。本明細書における形状を表す用語は、構成要素の機能を確保できる範囲で変形が加えられた形状をも示す。
【0011】
図1には、本発明の第1実施形態に係る回転ガントリ1が模式的に示されている。回転ガントリ1は、入口20に入射された荷電粒子ビームを電磁石により偏向および整形し、患者10の患部11へ照射する。回転ガントリ1は、回転軸27を中心として患者10の周りを回転自在となっている。これによって、患者10に対して複数の異なる方向から荷電粒子ビームが照射され得る。
【0012】
回転ガントリ1は、常伝導偏向電磁石21、超伝導偏向電磁石22a~22e、複数の四極電磁石23a、複数の四極電磁石23b、軌道補正電磁石24a、24b、照射ノズル25、ハウジング26および回転ガントリ支持部31を備えている。荷電粒子ビームを導く各機器、すなわち、常伝導偏向電磁石21、超伝導偏向電磁石22a~22e、各四極電磁石23a、各四極電磁石23b、軌道補正電磁石24a、24bおよび照射ノズル25は、ハウジング26に固定されている。
【0013】
ハウジング26は、回転軸27を中心軸とする円筒状の構造物である。ハウジング26は、内部空間が筒形状となっているその他の形状を有する構造物であってもよい。また、ハウジング26は、円筒状の構造物を中心軸に平行な平面で切断して形成されるアーチ状の構造物であってもよい。さらに、ハウジング26に代えて、各機器を患者10の周りで回転させる骨組みからなる構造物、あるいは、そのような骨組みを含む構造物が用いられてもよい。
【0014】
回転ガントリ1は、床面上に回転ガントリ支持部31によって支持されている。ハウジング26は回転ガントリ支持部31に支持された状態で、ハウジング26に固定された各機器と共に回転軸27の周りを回転する。ハウジング26が回転自在な角度範囲は、360°であってもよいし、360°未満であってもよい。ハウジング26が回転自在な角度範囲を、患者10の上方における180°の範囲としてハーフガントリが構成されてもよい。
【0015】
常伝導偏向電磁石21、軌道補正電磁石24a、複数の四極電磁石23a、超伝導偏向電磁石22a、22b、軌道補正電磁石24b、複数の四極電磁石23b、超伝導偏向電磁石22c~22eおよび照射ノズル25が、この順序で入口から下流側に向かって縦続配置されている。また、常伝導偏向電磁石21から照射ノズル25に至るこれらの機器は、回転軸27を含む仮想的な平面100上に配置されている。
【0016】
常伝導偏向電磁石21、軌道補正電磁石24a、複数の四極電磁石23aのうちの一部の四極電磁石および照射ノズル25は、ハウジング26の内側に固定されている。複数の四極電磁石23aのうちの残りの一部の四極電磁石、超伝導偏向電磁石22a~22e、軌道補正電磁石24bおよび複数の四極電磁石23bは、ハウジング26の外側に固定されている。
【0017】
常伝導偏向電磁石21は、回転軸27から離れる方向に反れた形状を有している。軌道補正電磁石24aおよび複数の四極電磁石23aは直線状に配置されている。超伝導偏向電磁石22aおよび22bのそれぞれは、回転軸27に向かって曲がる円弧状に形成されており、超伝導偏向電磁石22aおよび22bは、回転軸27に向かって曲がる円弧状に配置されている。軌道補正電磁石24bおよび複数の四極電磁石23bは直線状に配置されている。超伝導偏向電磁石22c~22eのそれぞれは回転軸27に向かって曲がる円弧状に形成されており、超伝導偏向電磁石22c~22eは回転軸27に向かって曲がる円弧状に配置されている。
【0018】
各機器の機能の概要が説明される。常伝導偏向電磁石21および超伝導偏向電磁石22a~22eは、回転ガントリ1の入口20へ回転軸27に沿った方向に輸送された荷電粒子ビームを偏向する。常伝導偏向電磁石21および超伝導偏向電磁石22a~22eは、回転軸27に垂直な方向から患部11へ荷電粒子ビームを照射することを可能とする。各四極電磁石23aおよび23bは、進行方向に垂直な平面内における荷電粒子ビームの形状を調整する。軌道補正電磁石24aおよび24bは、荷電粒子ビームを偏向し、回転ガントリ1内で輸送される荷電粒子ビームの軌道を補正する。照射ノズル25は、患部11に向けて荷電粒子ビームを照射する。
【0019】
各機器の動作が説明される。常伝導偏向電磁石21は、入口20に入射された荷電粒子ビームを、回転軸27から離れる方向に偏向し、軌道補正電磁石24aに入射する。軌道補正電磁石24aは、荷電粒子ビームを平面方向あるいは垂直方向に偏向し、回転ガントリ1内で輸送される荷電粒子ビームの軌道を補正し、四極電磁石23aに入射する。ここで、平面方向は軌道補正電磁石24aに対する荷電粒子ビームの入射方向に垂直であり、かつ、平面100に平行な方向である。垂直方向は、入射方向および平面方向のいずれにも垂直な方向である。
【0020】
各四極電磁石23aは、荷電粒子ビームに収束の力あるいは発散の力を印加し、進行方向に垂直な平面内における荷電粒子ビームの形状を調整する。
【0021】
超伝導偏向電磁石22aおよび22bは、各四極電磁石23aを通過した荷電粒子ビームを回転軸27に向かう方向に偏向し、軌道補正電磁石24bに入射する。軌道補正電磁石24bは荷電粒子ビームを平面方向あるいは垂直方向に偏向し、回転ガントリ1内で輸送される荷電粒子ビームの軌道を補正し、四極電磁石23bに入射する。
【0022】
各四極電磁石23bは、荷電粒子ビームに収束の力あるいは発散の力を印加し、進行方向に垂直な平面内における荷電粒子ビームの形状を調整する。
【0023】
超伝導偏向電磁石22cおよび22dは、各四極電磁石23bを通過した荷電粒子ビームを回転軸27に向かう方向に偏向し、照射ノズル25に入射する。照射ノズル25は、荷電粒子ビームを患部11の形状に合わせて走査し、患部11の治療に適した線量の分布、すなわち照射野を形成する。
【0024】
照射ノズル25には2つの走査電磁石40aおよび40bが搭載されている。走査電磁石40aおよび40bは、治療計画装置(図示省略)が定める位置へ向けて荷電粒子ビームを偏向する。荷電粒子ビームが患部11内で到達する進行方向の位置は、回転ガントリ1へ輸送される荷電粒子ビームのエネルギーを調整することにより制御される。
【0025】
このように、本実施形態に係る回転ガントリ1は、荷電粒子ビームの照射対象としての患者10の周りを回転自在なハウジング26を備えている。回転ガントリ1は、ハウジング26の回転軸27の方向に沿って入射した荷電粒子ビームを回転軸27から離れる方向に偏向する常伝導偏向電磁石21を備えている。回転ガントリ1は、さらに、常伝導偏向電磁石21および複数の四極電磁石23aを通過した荷電粒子ビームを、回転軸27に向かう方向に偏向する超伝導偏向電磁石グループとして、超伝導偏向電磁石22a~22eを備えている。超伝導偏向電磁石22a~22eの偏向角は同一である。
【0026】
超伝導偏向電磁石22a~22eは、超伝導偏向電磁石22bと超伝導偏向電磁石22cとの間に、軌道補正電磁石24bおよび複数の四極電磁石23bを介在させた上で、縦続配置されている。すなわち、上流側の1つの超伝導偏向電磁石を通過した荷電粒子ビームが、下流側の1つの超伝導偏向電磁石を通過するように複数の超伝導偏向電磁石22a~22eが配置されている。
【0027】
常伝導偏向電磁石21および超伝導偏向電磁石グループの機能は、以下のようにも表現される。常伝導偏向電磁石21は、自らから見て回転軸27から離れる側に荷電粒子ビームの軌跡の曲率中心が位置するように、荷電粒子ビームを偏向する。超伝導偏向電磁石グループを構成する複数の超伝導偏向電磁石22a~22eは、自ら見て回転軸27側に、荷電粒子ビームの軌跡の曲率中心が位置するように、荷電粒子ビームを偏向する。
【0028】
具体的に、本実施形態における常伝導偏向電磁石21は、60°の偏向角で回転軸27から離れる方向に荷電粒子ビームを偏向する。超伝導偏向電磁石22aおよび22bのそれぞれは、30°の偏向角で荷電粒子ビームを回転軸27に向かう方向に偏向し、超伝導偏向電磁石22aおよび22bは、合計60°の偏向角で回転軸27に向かう方向に荷電粒子ビームを偏向する。超伝導偏向電磁石22aおよび22bを通過した荷電粒子ビームの進行方向は、回転軸27に沿った方向となる。
【0029】
超伝導偏向電磁石22c~22eのそれぞれは、30°の偏向角で回転軸27に向かう方向に荷電粒子ビームを偏向し、超伝導偏向電磁石22c~22eは、照射ノズル25の入射位置に向けて、合計90°の偏向角で荷電粒子ビームを偏向する。
【0030】
このように、超伝導偏向電磁石22a~22eは、同一の角度で荷電粒子ビームを偏向する。したがって、超伝導偏向電磁石22a~22eに同一の構造を持たせることができ、回転ガントリ1の構成が単純化される。さらに、超伝導偏向電磁石22a~22eに用いられる部品が共通化され、回転ガントリ1の設計コストおよび製造コストが低減される。
【0031】
上記では、5個の超伝導偏向電磁石22a~22eが用いられた例が示されたが、超伝導偏向電磁石の数は任意である。各超伝導偏向電磁石の偏向角は、90°を自然数Nで除した値であってよい。また、超伝導偏向電磁石グループは、N+M個の超伝導偏向電磁石を含んでよい。ただし、Mは、N以下の自然数である。この場合、常伝導偏向電磁石21の偏向角は、90°のM/N倍である。すなわち、常伝導偏向電磁石21の偏向角は、1つの超伝導偏向電磁石の偏向角の自然数M倍である。本実施形態に係る回転ガントリ1では、自然数Nは3であり、自然数Mは2である。
【0032】
このような構成では、常伝導偏向電磁石21およびM個の超伝偏向導電磁石によって、回転軸27から外側に離れた位置で、荷電粒子ビームの進行方向が回転軸27に沿った方向に向けられる。そして、N個の超伝導偏向電磁石が、回転軸27に向かう方向に90°の偏向角で荷電粒子ビームを偏向する。荷電粒子ビームの軌跡が一旦ハウジング26の外側に向かった後、回転軸27側に戻るように各偏向電磁石が配置される。そのため、回転ガントリ1の回転軸27に沿った方向の長さが抑制される。このような回転ガントリの型は、一般にコークスクリュー型と称される。
【0033】
また、超伝導偏向電磁石グループは、偏向角の合計が90°である最下流側の1つまたは複数の超伝導偏向電磁石を含んでもよい。さらに、偏向角の合計が90°である最下流側の1つまたは複数の超伝導偏向電磁石の上流側に、回転軸27に沿って直線状に配置された複数の電磁石(軌道補正電磁石、四極電磁石等)が配置されてもよい。
【0034】
具体的に、超伝導偏向電磁石グループは、偏向角の合計が90°である最下流側の複数の超伝導偏向電磁石として、超伝導偏向電磁石22c~22eを備えている。その上流側には、軌道補正電磁石24bおよび複数の四極電磁石23bが直線状に配置されている。このような構成では、直線状に配置された軌道補正電磁石24bおよび複数の四極電磁石23bが、回転ガントリ1の半径方向の大きさを増大させないという利点がある。
【0035】
回転ガントリ1の半径は、回転軸27から荷電粒子ビームの軌道までの距離の最大値に基づいて定まる。回転軸27から荷電粒子ビームの軌道までの距離の最大値は、照射ノズル25の入射位置に向けて荷電粒子ビームを90°偏向させるために設置される複数の偏向電磁石による偏向半径と、照射ノズル25の長さによって定まる。ここで、偏向半径は、荷電粒子ビームが描く軌跡の曲率半径である。
【0036】
回転ガントリ1では、照射ノズル25の入射位置に向けて荷電粒子ビームを90°偏向するために超伝導偏向電磁石22c~22eが用いられる。仮に荷電粒子ビームを同一の偏向角だけ偏向するとした場合、超伝導偏向電磁石の方が、常伝導偏向電磁石に比べて、荷電粒子ビームの軌跡の曲率半径を小さくすることが容易である。そのため、常伝導偏向電磁石のみが用いられる場合に比べて、回転ガントリ1の半径を小さくすることが容易である。
【0037】
また、回転ガントリ1では、回転軸27から離れる方向に荷電粒子ビームを偏向する常伝導偏向電磁石21の下流側に、軌道補正電磁石24aおよび複数の四極電磁石23aが直線状に配置されている。そして、複数の四極電磁石23aの下流側に、回転軸27に向かう方向に荷電粒子ビームを偏向する超伝導偏向電磁石22a~22eが配置されている。これによって、超伝導偏向電磁石22a~22eは、常伝導偏向電磁石21に比べて、回転軸27からより離れた位置に配置されている。
【0038】
一般に、超伝導偏向電磁石は、常伝導偏向電磁石に比べて軽量である。したがって、回転軸27から離れた位置に常伝導偏向電磁石を配置する場合に比べて、回転軸27の周りに作用するモーメント力が小さくなり、ハウジング26に求められる剛性が低減される。これによって、ハウジング26が軽量化され、ひいては回転ガントリ1が軽量化される。
【0039】
また、軌道補正電磁石24bおよび複数の四極電磁石23bは、回転軸27の方向に沿った直線区間28上に配置されている。直線区間28の長さは回転ガントリ1の半径に影響しない。本実施形態に係る回転ガントリ1では、直線区間28に四極電磁石23bおよび軌道補正電磁石24bを配置することで、回転ガントリ1の半径の増大が抑えられる。
【0040】
さらに、本実施形態の回転ガントリ1によれば、以下に説明するように整備に要される労力が低減される。一般に、超伝導偏向電磁石ではコイルを冷却する必要がある。例えば、NbTi製の超電導コイルが用いられる場合には、コイルの温度は10K以下とされる。これに対し常伝導偏向電磁石では、温度を低下させる必要がない。そのため、超伝導偏向電磁石は、常伝導偏向電磁石に比べて整備に労力が要される。
【0041】
本実施形態に係る回転ガントリ1では、超伝導偏向電磁石22a~22eがハウジング26の外側に配置されている。そのため、超伝導偏向電磁石22a~22eのいずれかの整備に取り組む際に、ハウジング26を開放する作業が不要である。一方、常伝導偏向電磁石21は、ハウジング26の内側に配置されているものの、超伝導偏向電磁石22a~22eに比べて整備の頻度が低い。したがって、本実施形態の回転ガントリ1によれば、整備に要される労力が軽減される。
【0042】
上記では、常伝導偏向電磁石21から照射ノズル25に至る各機器が、仮想的な平面100上に配置された例が示されたが、各機器は、必ずしも平面100上に配置されていなくてもよい。荷電粒子ビームの軌跡が、平面100に交わるように各機器が配置されてもよい。
【0043】
また、上記では、コークスクリュー型の回転ガントリ1が示された。本発明は、アーチ状の構造物の周方向に沿って照射ノズルが移動するガントリ等、その他の構造のガントリに用いられてもよい。この場合においても、常伝導偏向電磁石から照射ノズルに至る各機器が、照射ノズルと一体的に回転する。各超伝導偏向電磁石は、常伝導偏向電磁石よりも外側を回転する。ハウジングが形成される場合、各超伝導偏向電磁石はハウジングの外側に配置され、常伝導偏向電磁石はハウジングの内側に配置されてよい。
【0044】
図2には、本発明の第2実施形態に係る粒子線治療システム2が模式的に示されている。粒子線治療システム2は、加速器51、ビーム輸送系52、回転ガントリ1および制御装置53を備えている。加速器51は、シンクロトロンやサイクロトロン等であってよい。
【0045】
制御装置53は、治療計画装置(図示省略)が作成した治療計画に基づいて加速器51、ビーム輸送系52および回転ガントリ1を制御する。加速器51は、患部11を治療するのに必要なエネルギーを有する状態となるまで荷電粒子ビームを加速する。加速された荷電粒子ビームは加速器51から取り出される。ビーム輸送系52は、加速器51から取り出された荷電粒子ビームを回転ガントリ1の入口へ輸送する。回転ガントリ1は、上記のように荷電粒子ビームの向き、形状等を調整し、荷電粒子ビームを患部11へ照射する。
【0046】
回転ガントリ1は、常伝導偏向電磁石のみが用いられた従来の回転ガントリに比べて小型である。したがって、回転ガントリ1が用いられた粒子線治療システム2もまた、従来の回転ガントリが用いられた場合に比べて小型となる。これによって、粒子線治療システム2の設置面積が狭くなり、粒子線治療システム2が収められる建屋のコストが低減される。また、上記のように回転ガントリ1の整備は容易である。そのため、粒子線治療システム2の整備に要する時間が短縮される。
【符号の説明】
【0047】
1 回転ガントリ、10 患者、11 患部、21 常伝導偏向電磁石、22a,22b,22c,22d,22e 超伝導偏向電磁石、23a,23b 四極電磁石、24a,24b 軌道補正電磁石、25 照射ノズル、26 ハウジング、27 回転軸、28 直線区間、31 回転ガントリ支持部、40a,40b 走査電磁石、51 加速器、52 ビーム輸送系、53 制御装置。
図1
図2