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特許7570976粒子線加速器、および、粒子線治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】粒子線加速器、および、粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/00 20060101AFI20241015BHJP
   H05H 7/08 20060101ALI20241015BHJP
   H05H 7/10 20060101ALI20241015BHJP
   H05H 7/04 20060101ALI20241015BHJP
   A61N 5/10 20060101ALN20241015BHJP
【FI】
H05H13/00
H05H7/08
H05H7/10
H05H7/04
A61N5/10 H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021098983
(22)【出願日】2021-06-14
(65)【公開番号】P2022190590
(43)【公開日】2022-12-26
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堀 知新
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝道
(72)【発明者】
【氏名】羽江 隆光
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-035728(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0028220(US,A1)
【文献】D. W. Storm et al.,NEVIS SYNCHROCYCLOTRON BEAM STATUS REPORT,IEEE Transactions on Nuclear Science,米国,IEEE,1975年06月01日,Vol. NS-22, No. 3,pp. 1408-1410
【文献】Novel Variable-energy Accelerator fot Particle Beam Therapy,Hitachi Review,日本,Hitachi LTD,2020年03月,Vol. 69, No. 3, 386-387,pp. 133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/00
H05H 7/08
H05H 7/10
H05H 7/04
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周が円形の一対の磁極を含み、一対の前記磁極間の加速空間内に主磁場を発生させる主磁場発生装置と、
前記加速空間にイオンを導入するイオン導入装置と、
前記イオンに高周波電場を印加して加速し、前記加速空間を周回するイオンビームを形成し、前記イオンビームを所望のエネルギーまで加速する高周波加速装置と、
前記加速空間内を周回する前記所望のエネルギーの前記イオンビームの通過する所定の領域に、所定のタイミングで磁場を印加し、前記所望のエネルギーの前記イオンビームの周回軌道を変位させる第1の動磁場印加装置および第2の動磁場印加装置と、
前記磁極の周縁部の所定の位置に形成されたリジェネレータ勾配磁場領域と、
前記磁極の外周に配置され、前記所望のエネルギーの前記イオンビームを取り込む開口を備え、取り込んだ前記イオンビームを前記加速空間から外部へ誘導する出射チャネルとを有し、
前記主磁場発生装置は、前記イオンビームの周回軌道が、前記加速空間の前記出射チャネル方向の端部側で密、前記加速空間の前記出射チャネルとは反対方向の端部側で疎となる強度分布の主磁場を形成し、
前記イオン導入装置が前記加速空間にイオンを導入する位置は、前記磁極の中心よりも前記出射チャネル寄りの位置であり、
前記第1の動磁場印加装置が磁場を印加する第1の領域は、前記所望のエネルギーの前記イオンビームの周回軌道の周方向に沿った位置であって、前記周回軌道が密となる位置、を覆う領域であり、
前記第2の動磁場印加装置が磁場を印加する第2の領域は、前記第1の動磁場印加装置が磁場を印加する領域に対して、前記イオン導入装置が前記加速空間にイオンを導入する位置を挟んで、逆側の前記加速空間が疎となる位置、を覆う領域であって、前記第1の領域よりも面積が大きい領域であり、
前記リジェネレータ勾配磁場領域には、前記磁極の外周に近づくにつれ増大する傾斜磁場が形成され、
リジェネレータ勾配磁場領域が設けられている位置は、前記動磁場印加装置の磁場が印加される前は、前記所望のエネルギーの前記周回軌道のイオンビームは通過せず、前記動磁場印加装置の磁場が印加されることにより変位した前記周回軌道のイオンビームが通過する位置であることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子線加速器であって、前記所望のエネルギーの前記周回軌道は、予め定めたエネルギー範囲の複数の周回軌道のいずれかであり、
前記リジェネレータ勾配磁場領域に形成されている前記傾斜磁場の勾配は、前記主磁場の勾配よりも大きいことを特徴とする粒子線加速器。
【請求項3】
請求項1に記載の粒子線加速器であって、
前記第1の動磁場印加装置が磁場を印加する前記第1の領域は、前記イオン導入装置が前記加速空間にイオンを導入する位置よりも、前記出射チャネルの開口寄りの領域であり、印加する磁場は、前記主磁場を強める方向の磁場であることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項4】
請求項1に記載の粒子線加速器であって、前記磁極の周縁部の所定の位置には、ピーラ勾配磁場領域が形成され、
ピーラ勾配磁場領域は、前記第1の動磁場印加装置の磁場によって変位した前記周回軌道のイオンビームが通過する領域であって、前記磁極の外周に近づくにつれ磁場が減少する、ことを特徴とする粒子線加速器。
【請求項5】
請求項4に記載の粒子線加速器であって、前記ピーラ勾配磁場領域は、前記磁極の周縁部に配置された磁性体によって形成されていることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項6】
請求項4に記載の粒子線加速器であって、前記ピーラ勾配磁場領域は、前記磁極を加工することにより形成されていることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項7】
請求項1に記載の粒子線加速器であって、前記リジェネレータ勾配磁場領域は、前記磁極周縁部に配置された磁性体によって形成されていることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項8】
請求項3に記載の粒子線加速器であって、
前記第2の動磁場印加装置が印加する磁場は、前記主磁場を弱める方向の磁場であることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項9】
請求項1に記載の粒子線加速器であって、前記周回軌道を変位させる方向は、前記出射チャネルに近づく方向であることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項10】
請求項1に記載の粒子線加速器であって、前記周回軌道を変位させる方向は、前記磁極の中心と前記出射チャネルの開口とを結ぶ線に直交する方向であることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項11】
外周が円形の一対の磁極を含み、一対の前記磁極間の加速空間内に主磁場を発生させる主磁場発生装置と、
前記加速空間にイオンを導入するイオン導入装置と、
前記イオンに高周波電場を印加して加速し、前記加速空間を周回するイオンビームを形成し、前記イオンビームを所望のエネルギーまで加速する高周波加速装置と、
前記加速空間内を周回する前記所望のエネルギーの前記イオンビームの通過する所定の領域に、所定のタイミングで磁場を印加し、前記所望のエネルギーの前記イオンビームの周回軌道を変位させる第1の動磁場印加装置および第2の動磁場印加装置と、
前記磁極の周縁部の所定の位置に形成されたリジェネレータ勾配磁場領域と、
前記磁極の外周に配置され、前記所望のエネルギーの前記イオンビームを取り込む開口を備え、取り込んだ前記イオンビームを前記加速空間から外部へ誘導する出射チャネルとを有し、
前記主磁場発生装置は、前記イオンビームの周回軌道が、前記加速空間の前記出射チャネル方向の端部側で密、前記加速空間の前記出射チャネルとは反対方向の端部側で疎となる強度分布の主磁場を形成し、
前記イオン導入装置が前記加速空間にイオンを導入する位置は、前記磁極の中心よりも前記出射チャネル寄りの位置であり、
前記高周波加速装置は、前記加速空間にイオンが導入される前記位置を中心とする扇形のディー電極を含み、
前記第1の動磁場印加装置は、前記扇形のディー電極の半径方向の一方の端面に沿って配置され、印加する磁場は、前記主磁場を強める方向の磁場であり、
前記第2の動磁場印加装置は、前記扇形のディー電極の半径方向の他方の端面に沿って配置され、印加する磁場は、前記主磁場を弱める方向の磁場であることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項12】
請求項11に記載の粒子線加速器であって、前記リジェネレータ勾配磁場領域には、前記磁極の外周に近づくにつれ増大する傾斜磁場が形成され、
リジェネレータ勾配磁場領域が設けられている位置は、前記動磁場印加装置の磁場が印加される前は、前記所望のエネルギーの前記周回軌道のイオンビームは通過せず、前記動磁場印加装置の磁場が印加されることにより変位した前記周回軌道のイオンビームが通過する位置であることを特徴とする粒子線加速器。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の粒子線加速器を備えたことを特徴とする、粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線加速器、ならびにそれを備えた粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療は放射線治療の一種であり、腫瘍に陽子線や炭素線などのイオンビーム(以下、簡単のためビームと略す)を照射してがん細胞を破壊する治療方法である。粒子線治療を施すための粒子線治療システムは、イオンを生成するイオン源、多量のイオンを加速する粒子線加速器(以下、簡単のため加速器と略す)、ビームを治療室まで輸送するビーム輸送系、腫瘍に対するビーム照射方向を変える回転ガントリ、回転ガントリから腫瘍にビームを照射する照射系、および、これらの構成要素を制御する制御系を備えている。
【0003】
特許文献1には、一対の磁石の間に主磁場を形成し、磁石間にイオン源からイオンを入射し、加速電極によってイオンを加速して、周回軌道の半径を徐々に増加させ、所定のエネルギーまで加速されたイオンをビーム出射経路から外部に取り出す構造の加速器が開示されている。特許文献1の加速器では、環状の複数の周回軌道の中心が加速されるにつれ徐々にずれるように主磁場を形成し、周回軌道同士が近づいている集約領域と、周回軌道同士が離れている疎領域とを形成している。周回軌道の疎の領域を覆うように配置したマスレスセプタムコイルから、磁石の径方向の特定の位置にのみ、選択的に磁場(キッカ磁場)を印加し、特定の周回軌道のビームを設計軌道からずらし、半周下流の集約領域の近傍に配置されたセプタム電磁石に入射させる。セプタム電磁石は、入射したビームにさらに磁場を印加して偏向し、ビーム出射経路に導いて加速器から出射させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6714146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、可変エネルギービームを出射する方法として、(1)偏芯した主磁場分布によってビーム軌道が集約した領域を生成し、(2)取り出したいエネルギーのビームに対して、マスレスセプタムコイルに通電して、動磁場(時間軸方向にオン/オフされる磁場)を印加してビーム軌道を変位させ、(3)集約領域の近傍に配置されたセプタム電磁石に到達したビームを、セプタム電磁石の印加する磁場によって周回軌道から離脱させる、という方法が開示されている。このビーム取り出し過程において、(2)の過程におけるマスレスセプタムの励磁時間を短くすることができれば、ビーム取り出し制御の時間応答性が向上する。
【0006】
本発明の目的は、出射制御に関するビームの時間応答性を向上させ、より高精度な出射制御ができる可変ビームエネルギー加速器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の粒子線加速器は、主磁場発生装置と、イオン導入装置と、高周波加速装置と、動磁場印加装置と、リジェネレータ勾配磁場領域と、出射チャネルとを有する。主磁場発生装置は、外周が円形の一対の磁極を含み、一対の磁極間の加速空間内に主磁場を発生させる。イオン導入装置は、加速空間にイオンを導入する。高周波加速装置は、イオンに高周波電場を印加して加速し、加速空間を周回するイオンビームを形成し、イオンビームを所望のエネルギーまで加速する。動磁場印加装置は、加速空間内を周回する所望のエネルギーのイオンビームの通過する所定の領域に、所定のタイミングで磁場を印加し、所望のエネルギーのイオンビームの周回軌道を変位させる。リジェネレータ勾配磁場領域は、磁極の周縁部の所定の位置に形成されている。出射チャネルは、磁極の外周に配置され、所望のエネルギーのイオンビームを取り込む開口を備え、取り込んだイオンビームを加速空間から外部へ誘導する。イオン導入装置が加速空間にイオンを導入する位置は、磁極の中心よりも出射チャネル寄りの位置である。動磁場印加装置が磁場を印加する領域は、所望のエネルギーのイオンビームの周回軌道の周方向に沿った位置であって、周回軌道を変位させる方向の位置、を覆う領域である。リジェネレータ勾配磁場領域には、磁極の外周に近づくにつれ増大する傾斜磁場が形成されている。リジェネレータ勾配磁場領域が設けられている位置は、動磁場印加装置の磁場が印加される前は、所望のエネルギーの前記周回軌道のイオンビームは通過せず、動磁場印加装置の磁場が印加されることにより変位した周回軌道のイオンビームが通過する位置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、可変エネルギービーム出射のために印加する動磁場を小さくすることができるため、ビーム出射制御の時間応答性が向上し、より高精度な出射制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1における粒子線治療システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】実施例1における粒子線治療システムの加速器内に配置された主磁場磁石1の斜視図である。
図3】実施例1における主磁場磁石1の垂直平面位置の断面図である。
図4】実施例1における主磁場磁石1の中間平面位置の断面図である。
図5】実施例1における主磁場磁石1の主磁場の分布を示すグラフである。
図6】実施例1における主磁場磁石1の加速空間内の周回軌道を示す図である。
図7】実施例1における主磁場磁石1のバンプコイル52,53の形成する磁場の分布を示すグラフである。
図8】実施例2における主磁場磁石の中間平面位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【0011】
<<<実施例1>>>>
図1を用いて実施例1の粒子線治療システムの全体構成を説明する。本実施例では、加速するイオンは水素イオン、すなわち陽子(プロトン)であり、治療に用いるために出射するビームエネルギーはおよそ70MeVから225MeVである。
【0012】
図1において、粒子線治療システム1001は、建屋(図示省略)の床面に設置される。この粒子線治療システム1001は、イオンビーム発生装置1002、ビーム輸送系1013、回転ガントリー1006、照射装置1007および制御システム1065を備えている。
【0013】
<イオンビーム発生装置1002>
イオンビーム発生装置1002は、イオン源1003と、イオン源1003が接続された加速器1004を有する。加速器1004の詳細は後述する。
【0014】
<ビーム輸送系1013>
ビーム輸送系1013は、照射装置1007に達するビーム経路1048を有しており、このビーム経路1048に、加速器1004から照射装置1007に向かって、複数の四極電磁石1046、偏向電磁石1041、複数の四極電磁石1047、偏向電磁石1042、四極電磁石1049、1050、および偏向電磁石1043、1044がこの順に配置されることで構成されている。
【0015】
ビーム輸送系1013のビーム経路1048の一部は、回転ガントリー1006に設置されており、偏向電磁石1042、四極電磁石1049、1050および偏向電磁石1043、1044も回転ガントリー1006に設置されている。ビーム経路1048は、加速器1004に設けられた出射チャネル1019に接続されている。
【0016】
<回転ガントリー1006>
回転ガントリー1006は、回転軸1045を中心に回転可能に構成されており、照射装置1007を回転軸1045の周りで旋回させる回転装置である。
【0017】
照射装置1007は、二台の走査電磁石1051、1052、ビーム位置モニタ1053および線量モニタ1054を備えている。これら走査電磁石1051、1052、ビーム位置モニタ1053および線量モニタ1054は、照射装置1007の中心軸、すなわち、ビーム軸に沿って配置されている。走査電磁石1051、1052、ビーム位置モニタ1053および線量モニタ1054は照射装置1007のケーシング(図示省略)内に配置されている。
【0018】
ビーム位置モニタ1053および線量モニタ1054は、走査電磁石1051、1052の下流に配置される。走査電磁石1051および走査電磁石1052は、それぞれイオンビームを偏向し、イオンビームを照射装置1007の中心軸に垂直な平面内において互いに直交する方向に走査する。ビーム位置モニタ1053は照射されるビームの通過位置を計測する。線量モニタ1054は照射されるビームの線量を計測する。
【0019】
照射装置1007は、回転ガントリー1006に取り付けられており、偏向電磁石1044の下流に配置される。
【0020】
<治療台1055>
照射装置1007の下流側には、患者1056が横たわる治療台1055が、照射装置1007に対向するように配置される。
【0021】
<制御システム1065>
制御システム1065は、中央制御装置1066、加速器・輸送系制御装置1069、走査制御装置1070、回転制御装置1088およびデータベース1072を有する。
【0022】
中央制御装置1066は、中央演算装置(CPU)1067、および、CPU1067に接続されたメモリ1068を有する。加速器・輸送系制御装置1069、走査制御装置1070、回転制御装置1088およびデータベース1072は、中央制御装置1066内のCPU1067に接続されている。
【0023】
粒子線治療システム1001は、更に治療計画装置1073を有している。治療計画装置1073は、データベース1072に接続されている。治療計画装置1073は、粒子線の照射エネルギーや照射角度などを定める治療計画を生成し、データベース1072に保存する。
【0024】
この治療計画に基づいて、中央制御装置1066は、加速器・輸送系制御装置1069、走査制御装置1070および回転制御装置1088を制御し、照射が実行される。
【0025】
具体的には、中央制御装置1066のCPU1067は、データベース1072に保存されている治療計画から粒子線治療システム1001を構成する各機器の照射に関係する各種の動作生業プログラムを読み込み、読み込んだプログラムを実行して、加速器・輸送系制御装置1069、走査制御装置1070、回転制御装置1088を介して指令を出力することで、粒子線治療システム1001内の各機器の動作を制御する。
【0026】
なお、実行される動作の制御処理は、一つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに分かれていてもよく、それらの組み合わせでもよい。また、プログラムの一部またはすべては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていてもよい。更には、各種プログラムは、プログラム配布サーバや外部記憶メディアによって各計算機にインストールされてもよい。
【0027】
また、各制御装置は、各々が独立した装置で有線あるいは無線のネットワークで接続されたものであっても、二つ以上が一体化していてもよい。
【0028】
<加速器1004の詳細>
次に、図1図4を用いて、イオンビーム発生装置1002の円形加速器1004についてくわしく説明する。図2は、円形加速器1004の主磁場磁石1の斜視図、図3は、主磁場磁石1を垂直平面3の位置の断面図、図4は、主磁場磁石1の中間平面2の位置の断面図である。
【0029】
円形加速器1004は、図2図4に示した主磁場磁石(主磁場発生装置)1と、主磁場磁石1内に配置された高周波加速空胴1037と、出射チャネル1019とを備えている。イオン源1003は主磁場磁石1の上に配置されている。また、図1に示すように、円形加速器1004には、高周波電源1036と、ビーム電流測定装置1098と、コイル励磁用電源1057が接続されている。
【0030】
(主磁場磁石1)
加速器1004を構成する主磁場磁石1の詳細について説明する。
【0031】
図2に示すように主磁場磁石1は、鉛直方向から見て略円盤状の形状をなす上リターンヨーク4と下リターンヨーク5と、一対の上部磁極8と下部磁極9と、コイル6とを備えて構成される。
【0032】
上リターンヨーク4と下リターンヨーク5は、中間平面2に対してほぼ上下対称な形状を有している。この中間平面2は、おおむね主磁場磁石1の鉛直方向中心を通り、加速中のビームが描く軌道面にほぼ一致する。
【0033】
また上リターンヨーク4と下リターンヨーク5は、中間平面2に垂直、かつ、おおむね主磁場磁石1の中間平面2に対する中心を通過する平面である垂直平面3に対して、ほぼ面対称な形状をしている。なお、図2では、中間平面2の主磁場磁石1に対する交差部分を一点鎖線、垂直平面3の主磁場磁石1に対する交差部分を破線で示している。
【0034】
図3に示すように、上リターンヨーク4と下リターンヨーク5に囲まれた空間内には、コイル6が中間平面2に対して面対称に配置されている。コイル6は、超電導コイルであり、クライオスタット(図示省略)の内部に設置され、液体ヘリウムなどの冷媒、または冷凍機(図示省略)からの伝熱によって冷却される。コイル6は、図1に示したコイル引出配線1022によってコイル励磁用電源1057に接続されている。
【0035】
上リターンヨーク4および下リターンヨーク5に囲まれた空間内のコイル6の内側には真空容器7が設けられている。真空容器7の内部には、上部磁極8と下部磁極9が中間平面2を挟んで面対称に配置されており、それぞれ上リターンヨーク4と下リターンヨーク5とに結合されている。
【0036】
これら上リターンヨーク4と下リターンヨーク5、ならびに、上部磁極8と下部磁極9は、例えば、不純物濃度を低減させた純鉄や、低炭素鋼等によって構成されている。真空容器7は、ステンレスなどによって構成されている。コイル6は、ニオブチタン等の超電導体を用いた超電導線材で構成されている。
【0037】
上述した構成の主磁場磁石1は、中間平面2を中心とする加速空間20に対して、上下方向の磁場を印加する主磁場を形成する。主磁場は、中間平面2内においてほぼ一様であるが、わずかに強度分布が形成されている。すなわち、図5のように、主磁場の強度は、上部磁極8と下部磁極9の中心02からY軸方向にずれた予め定めた位置O1において、最も大きく、上部磁極8と下部磁極9の外周に近づくにつれて徐々に磁場強度が低下する。
【0038】
出射チャネル1019は、主磁場分布の中心O1に近いY軸上の磁極8,9の外周部、すなわち、加速空間の外側に配置されている。出射チャネル1019は、Y軸近傍に開口1019aを有し、この開口1019aから所望のエネルギーのイオンビームを取り込んで加速空間20から外部へ誘導する。所望のエネルギーのイオンビームは、加速空間20内を周回している状態から後述するバンプコイル(動磁場発生装置)52によって軌道位置をずらされ、さらに勾配磁場磁石31(ピーラ)によって、軌道から外れて、出射チャネル1019に入射する。これについては、後で詳しく説明する。
【0039】
出射チャネル1019は、電磁石を備えており、開口1019aから取り込んだイオンビームに磁場を印加してイオンビームを整え、ビーム輸送系1013へと送る。上リターンヨーク4と下リターンヨーク5には、貫通孔18が設けられ、ビーム輸送系1013の先端が設置されている。
【0040】
電磁石への給電線は、上リターンヨーク4と下リターンヨーク5に設けられた貫通孔15から外に引き出され、図1に示した出射チャネル用電源1082に接続されている。
【0041】
(イオン源(イオン導入装置)1003)
主磁場磁石1の上には、イオン導入装置として、ここではイオン源1003が設置されている。上リターンヨーク4および上部磁極8には、イオン源1003のイオンを加速空間20の位置O1に導く貫通孔24が設けられている。貫通孔24の中心軸(イオン入射軸)12は、中間平面2に垂直で位置O1を通っている。
【0042】
イオン源1003は、貫通孔24の上部に配置され、貫通孔24を通してイオンを主磁場強度最大の位置O1に導入する。主磁場は、イオンビームの入射する位置O1で最大値であり、そこから外周に近づくにつれ単調減少しているため、弱収束の原理によってビーム周回運動を安定化させることができる。
【0043】
なお、イオン源1003は、主磁場磁石1の内部に設置してもよい。この場合は、貫通孔24は、不要である。
【0044】
(高周波加速空胴1037)
高周波加速空胴1037は、中間平面2を挟んで配置された一対のディー電極1037aを含む。ディー電極1037aは、扇形である。扇形の頂点(中心)が主磁場強度最大の位置O1近傍に位置し、上部磁極8および下部磁極9の中心の位置O2を含めてビーム軌道の半周を覆うように配置されている。
【0045】
扇形のディー電極1037aの半径方向の端面に対向するように、接地電極(図示せず)が配置され、ディー電極1037aの半径方向の端面と、接地電極との間には、イオンビームを加速する加速電場が形成される。
【0046】
ディー電極1037aを位置O1を頂点とする扇形に形成することにより、周回するイオンビームの進行方向が電場と平行になるように、すなわち、各周回軌道の中心をとおってX軸に平行な軸が各周回軌道と交差する位置に加速電場を印加することができる。
高周波加速空胴1037は、上リターンヨーク4および下リターンヨーク5の間に、Y軸方向に沿って設けられた貫通孔16を通って外に引き出され、導波管1010と接続されている。導波管1010には、高周波電源1036が接続されている。
【0047】
高周波電源1036は、導波管1010を通して、高周波加速空胴1037に電力を入力する。これにより、ディー電極1037aと接地電極の間にビームを加速する高周波電場が励起される。
【0048】
なお、本実施例では、図6のように、ビームの加速に伴い、周回軌道の軌道半径が徐々に増大する。そのため、高周波加速空胴1037は、共振周波数をビームのエネルギーに対応して変調させる。周波数の変調は、高周波加速空胴1037のインダクタンスか静電容量を調整することにより行われる。高周波加速空胴1037のインダクタンスや静電容量の調整方法は公知の方法を用いることができる。たとえば静電容量を調整する場合は、高周波空洞に可変容量キャパシタを接続し、容量を制御する。
【0049】
(周回軌道の疎密)
上記構成により、イオン源1003から導入されたイオンは、高周波電場で励起されてイオンビームとなり、加速空間20を周回する。このとき、加速空間20における主磁場は、図5に示すように、磁極8,9の中心軸13の位置O2からずれた位置O1で最大であり、磁極8,9の外周に近づくにつれ徐々に低減する分布であるため、最もエネルギーの小さいビームは、位置O1を中心とする軌道に沿って周回する。ビームは、高周波電場によって加速されるにつれ、軌道半径が大きくなるとともに、軌道の中心が磁極8,9の中心軸13の位置O2に徐々に近づく。最大エネルギーのビームの周回軌道127は、磁極8,9の外周にほぼ沿った形状となり、その中心O2は、おおむね磁極8,9の中心軸13と一致する。
【0050】
これにより、図6に示すように、位置O1とY軸方向の加速空間20の端部の位置Y1との間で、周回軌道が密になり、位置O1と、磁極8,9の中心の位置O2を挟んで逆側のY軸方向の端部の位置Y2との間では、周回軌道が疎になる。
【0051】
このような軌道の疎密を利用して、本実施例では、所定の範囲のエネルギーのビームを出射させることができる。例えば、図4のように、取り出すビームのうち最高エネルギーに相当するビームの周回軌道127は、その中心が、おおむね磁極8,9の中心軸13の位置O2と一致する。取り出すビームのうち最低エネルギーに相当するビームの周回軌道126は、その中心O3が、位置O2と、主磁場分布の最大強度の位置O1とを結ぶ線分上にある。
【0052】
(動磁場印加装置(バンプコイル)52、53)
本実施例では、第1の動磁場印加装置として一対のバンプコイル52と、第2の動磁場印加装置として一対のバンプコイル53が、それぞれ中間平面2を挟んで面対称の位置であって、高周波加速空胴1037の外部に配置されている。バンプコイル52とバンプコイル53は、加速空間内を周回する所望のエネルギーのイオンビームの通過する所定の領域に、所定のタイミングで磁場を印加し、所望のエネルギーのイオンビームの周回軌道を位置Y1に近づけるようにY軸方向に変位させる。
【0053】
バンプコイル52は、イオン源1003が加速空間20にイオンを導入する位置O1よりも、出射チャネル109寄りの加速空間20の領域に磁場を印加するように配置されている。図7に示したように、バンプコイル52が印加する磁場の向きは、主磁場を強める方向である。
【0054】
具体的には、バンプコイル52は、出射チャネル1019の開口1019aが配置されている位置Y1およびその近傍に、主磁場を強める方向の磁場を発生する。また、出射させたいエネルギーのイオンビームが位置Y1に最接近する位置とその近傍に磁場を印加できればよい。よって、出射させたい最小エネルギーのイオンビームの周回軌道126から、最大エネルギーのイオンビームの周回軌道127が位置Y1に最接近する位置とその近傍に磁場を印加するようにバンプコイル52を構成する。
【0055】
一方、バンプコイル53は、イオン源1003が加速空間20にイオンを導入する位置O1を挟んで、バンプコイル52とは逆側の加速空間20に磁場を印加する位置に配置されている。図7に示したように、バンプコイル53が印加する磁場の向きは、主磁場を弱める方向(主磁場と逆向き)である。
【0056】
具体的には、バンプコイル53は、位置Y1に対してベータトロン振動の位相がπずれる位置Y2およびその近傍に、主磁場を弱める方向の磁場を発生させる。また、出射させたいエネルギーのイオンビームが位置Y2に最接近する位置とその近傍に磁場を印加できればよい。よって、バンプコイル53が磁場を印加する範囲は、出射させたい最小エネルギーのイオンビームの周回軌道126から、最大エネルギーのイオンビームの周回軌道127までの周回軌道が、位置Y2に最接近する位置とその近傍に磁場を印加するようにバンプコイル53を構成する。位置Y2近傍は、イオンビームの周回軌道が疎になる領域であるため、バンプコイル53が磁場を印加する領域の面積は、バンプコイル52より大きくなる。
【0057】
バンプコイル52、53を配置すべき位置等は、後で数式を用いて説明する。
【0058】
なお、本実施例の装置は、バンプコイル52とバンプコイル53を配置しているが、バンプコイル52のみを配置してもよい。バンプコイル52のみでも、所望のエネルギーの周回軌道を位置Y1に近づけることができる。
【0059】
(勾配磁場磁石31)
磁極8,9の周縁部の所定の位置には、勾配磁場磁石(ピーラ)31および勾配磁場磁石(リジェネレータ)32が配置され、それぞれピーラ勾配磁場領域およびリジェネレータ勾配磁場領域を形成している。出射チャネル1019は、周方向において勾配磁場磁石31および勾配磁場磁石32の間に位置し、かつ、径方向において、勾配磁場磁石31および勾配磁場磁石32の外側に配置されている。
【0060】
勾配磁場磁石31が形成するピーラ勾配磁場領域は、バンプコイル52、53の磁場によって変位した周回軌道のイオンビームが通過する領域に設定されている。また、ピーラ勾配磁場領域の磁場分布は、径方向外側に向かって磁場が減少する傾斜磁場である。
【0061】
また、勾配磁場磁石32が形成するリジェネレータ勾配磁場領域は、バンプコイル52、53の磁場によって変位した周回軌道のイオンビームが通過する領域であって、出射チャネルに入射しなかったイオンビームが通過する領域に設定されている。また、リジェネレータ勾配磁場領域は、径方向外側に向かって磁場が増大する傾斜磁場である。
【0062】
なお、勾配磁場磁石31、32は、下部磁極9と一体で形成されたものとしてもよいし、別部材として製作した後で下部磁極9に溶接やボルト締めなどの公知の方法で係合してもよい。
【0063】
また、勾配磁場磁石31、32を配置せず、下部磁極9の表面に磁性体をさらに付加する、あるいは下部磁極9の対向表面形状を加工することにピーラ勾配磁場領域およびリジェネレータ勾配磁場領域を形成することもできる。
【0064】
なお、径方向外側に減少する傾斜磁場であるピーラ勾配磁場領域は、省略することも可能である。磁極外周面より外側でヨーク内周面にいたるまでの領域における磁場は、径方向外側に向かって減少していくため、これをピーラ勾配磁場領域として利用することも可能である。
【0065】
(ビーム電流測定装置1098)
加速器1004には、加速された内部のビームの電流を測定するビーム電流測定装置1098が備えられている。ビーム電流測定装置1098は、移動装置1017および位置検出器1039を含んでいる。
【0066】
<<加速器1004の動作>>
加速器1004により、イオンを加速して、所望のエネルギーのイオンビームを出射させる際の各部の動作について説明する。
【0067】
中央制御装置1066の制御下で、加速器・輸送系制御装置1069は、イオン源1003でイオンを生成させ、貫通孔24を通して中間平面2の位置O1に導入する。加速器・輸送系制御装置1069は、高周波加速空胴1037により加速電場を発生させ、イオンを加速し、イオンビームを形成し、さらに加速する。イオンビームは、周回運動しながらエネルギーが増大していく。
【0068】
イオンビームが、出射させたいエネルギーに到達したタイミングで、加速器・輸送系制御装置1069は、高周波加速空胴1037をオフにし、バンプコイル52および53をオンにする。これにより、周回しているイオンビームは、主磁場に重畳して、動磁場が印加される。
【0069】
これにより、イオンビームは、ビーム軌道が、径方向(位置Y1へ近づく方向)に変位し、勾配磁場磁石31と勾配磁場磁石32が形成する傾斜磁場が作用する領域をビームが通過するようになる。
【0070】
すると、2/2共鳴といわれる水平方向ベータトロン振動の共鳴が発生し、イオンビームが水平方向に発散して出射チャネル1019の開口1019aに到達する。出射チャネル1019によって、イオンビームは周回軌道から完全に離脱し、貫通孔18を通って加速器1004の外部に取り出される。
【0071】
以上のビーム出射過程において、バンプコイル52および53によって生じるビーム軌道変位の大きさは、平衡軌道から勾配磁場磁石31と勾配磁場磁石32が作用する領域を通過する程度の距離で充分であり、磁極の径方向外側に設置された出射チャネル1019に到達するほど大きな変位を生じさせる必要はない。
【0072】
従って、バンプコイル52および53によって印加する動磁場の大きさは、特許文献1のマスレスセプタムに比較して10倍程度小さくできる。
【0073】
さらに、バンプコイル52をビーム軌道の集約領域に、バンプコイル53をビーム軌道の拡大領域というように、バンプコイルを二カ所に設置しているので、一カ所に設置する場合と比較して2倍のビーム変位を引き起こすことができる。
【0074】
以上のように、本実施例では、バンプコイル52、53の励磁量を小さくすることができるので、バンプコイル52のONからビーム出射に至るまでの時間応答が向上している。すなわち、より高精度なビーム出射制御が可能となっている。
【0075】
<<バンプコイル52,53の磁場の大きさと範囲>>
バンプコイル52および53によって印加する動磁場の大きさと、イオンビームの軌道の変位量との関係について数式を用いてさらに説明する。
【0076】
イオンビームの平衡軌道に沿った周方向位置をsで表すと、s=s0に磁場を単位量追加した時の、位置sにおけるビーム変位量δは、線形光学の範囲で、式(1)により表される。
【0077】
【数1】
ここで、βはビームの水平方向ベータトロン振幅、νは水平方向ベータトロン振動数である。sおよびs0は周方向位置である。ψ(s)-ψ(s0)はベータトロン振動の位相差を示す。
【0078】
本実施例では、ビームに勾配磁場磁石31、32による勾配磁場を作用させ、2/2共鳴と呼ばれるビームの水平方向の共鳴を利用してビームを取り出す。このため、水平方向ベータトロン振動数νは1に近くなるように設計しておく。これは、ベータトロン振動の位相が、ビームが一周する間におよそ2π増えることを意味している。
【0079】
よって、sとs0がほぼ半周ずれていているときに、位相差ψ(s)-ψ(s0)がほぼπとなり、cosの引数はほぼ0となる。
【0080】
また、sとs0が一致するときに、cosの引数はほぼπとなる。
【0081】
従って、ビーム変位を極大にしたい位置をsとすると、追加する磁場の周方向位置s0は、sと同じか、sと位相がπずれた位置、およびそれらの近傍が効率的である。
【0082】
すなわち、位置s(実施例の位置Y1)において径方向外側にビーム変位を生じさせたいときは、位置s(位置Y1)およびその近傍には主磁場を強める方向の磁場を追加し、位置s(位置Y1)と位相がπずれた位置(位置Y2)およびその近傍には、主磁場を弱める方向の磁場を追加すればよい。
【0083】
これを実現するために、本実施例では、出射チャネル1019の開口1019aが配置されている位置Y1およびその近傍に主磁場を強める方向の磁場を発生するバンプコイル52を配置している。具体的には、バンプコイル52は、出射させたいエネルギーのイオンビームに磁場を印加できればよい。よって、出射させたい最小エネルギーのイオンビームの周回軌道126から、最大エネルギーのイオンビームの周回軌道127が位置Y1に最接近する位置とその近傍に磁場を印加するようにバンプコイル52を構成する。
【0084】
またバンプコイル53は、位置Y1に対してベータトロン振動の位相がπずれる位置Y2およびその近傍を覆うように配置し、主磁場を弱める方向の磁場を発生させる。具体的には、バンプコイル53が磁場を印加する範囲は、出射させたい最小エネルギーのイオンビームの周回軌道126から、最大エネルギーのイオンビームの周回軌道127が位置Y2に最接近する位置とその近傍に磁場を印加するようにバンプコイル53を構成する。位置Y2近傍は、イオンビームの周回軌道が疎になる領域であるため、バンプコイル53が磁場を印加する領域の面積は、バンプコイル52より大きくなる。
【0085】
上述してきたように、本実施例によれば、出射制御に関するビームの時間応答性を向上させ、より高精度な出射制御ができる可変ビームエネルギー加速器を提供することができる。
【0086】
なお、本実施例では、動磁場を印加することでビーム変位を生じさせたが、バンプコイル52やバンプコイル53の直上および直下の位置における上部磁極8や下部磁極9の表面形状を加工して局所的に磁極間隔を狭めたり広げたりしておくことで、ビーム加速中にビームが不安定化しない程度まで静的にバンプ磁場を付加しておく構成にすることもできる。その場合、ビーム出射開始のためにバンプコイル52やバンプコイル53が印加すべき動磁場をさらに小さくすることができる。
【0087】
<<<実施例2>>>
実施例2における粒子線治療システムの加速器を図8を用いて説明する。
【0088】
図8は、実施例2の加速器の中間平面2における断面図である。
【0089】
実施例1では、バンプコイル52,53により、所望のエネルギーのイオンビームの周回軌道をY軸方向に変位させ、位置Y1に近づけることにより、勾配磁場磁石31の形成するピーラ勾配磁場領域に到達させる構成であったが、実施例2では、X軸方向に変位させ、ピーラ勾配磁場領域に到達させる。
【0090】
具体的には、実施例2では、勾配磁場磁石31が、Y軸上に配置され、その右側(反時計周りにずれた位置)に勾配磁場磁石32が配置されている。
【0091】
勾配磁場磁石31および勾配磁場磁石32が作用するピーラ勾配磁場領域およびリジェネレータ勾配磁場領域を、出射させたいイオンビームの軌道がバランスよく通過するためには、中間平面2上で垂直平面3に垂直な方向(正のX方向)に変位させることが好ましい。
【0092】
そのため、実施例2では、出射させたい最小エネルギーのイオンビームの周回軌道126から、最大エネルギーのイオンビームの周回軌道127までの各軌道において、位置Y1から反時計回りに90度ずれた位置に、バンプコイル54を配置する。さらに、バンプコイル54の位置から反時計回りに180度ずれた位置にバンプコイル55を配置する。バンプコイル54からは主磁場を強める方向の磁場を印加し、バンプコイル55からは主磁場を弱める方向の磁場を印加する。
【0093】
イオンビームの周回軌道は、図6に示したようにY軸方向に偏心しているため、位置Y1から反時計回りに90度ずれた位置は、各軌道によってY軸方向の位置がずれているため、バンプコイル54,55は、Y軸に対して傾斜した形状となる。
【0094】
また、イオンビームの各周回軌道において位置Y1から反時計回りに90度と、そこから180度ずれた位置は、高周波加速空胴1037が加速電場を印加する位置、すなわち、ディー電極1037aの半径方向の端面の位置に一致している。従って、バンプコイル54およびバンプコイル55は、高周波加速空胴1037のディー電極1037aの半径方向の端面に沿って配置されている。
【0095】
これにより、そして、バンプコイル54では主磁場を強める方向の磁場を印加し、バンプコイル55では主磁場を弱める方向の磁場を印加することで、ビーム軌道は正のX方向に変位する。
【0096】
実施例2の加速器1004の動作について説明する。
【0097】
加速器・輸送系制御装置1069は、実施例1と同様に、イオン源1003でイオンを生成させ、貫通孔24を通して中間平面2の位置O1に導入させ、高周波加速空胴1037により加速させる。
【0098】
イオンビームが、出射したいエネルギーに到達したタイミングで高周波加速空胴1037をオフにし、バンプコイル54および55をオンにし、ビームに動磁場を印加する。
【0099】
これにより、ビーム軌道が、+X方向に変位し、勾配磁場磁石31と勾配磁場磁石32が作用する領域をビームが通過するようになる。
【0100】
すると、2/2共鳴といわれる水平方向ベータトロン振動の共鳴が発生し、ビームが水平方向に発散して出射チャネル1019に到達し、出射チャネル1019の開口1019aに到達する。ビームは周回軌道から完全に離脱し、貫通孔18を通って加速器1004の外部に取り出される。
【0101】
なお、実施例2では、バンプコイル54、55の2つを配置したが、いずれか一方のみでも実施例2と同様にX軸方向に軌道を変位させることができる。
【0102】
実施例2の粒子線治療システムにおいて、上述した以外の構成、動作および効果、ならびに、変形のバリエーションは、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【符号の説明】
【0103】
1…主磁場磁石、2…中間平面、3…垂直平面、4…上リターンヨーク、5…下リターンヨーク、6…コイル、7…真空容器、8…上部磁極、9…下部磁極、13…中心軸、15…貫通孔、16…貫通孔、18…貫通孔、20…加速空間、24…貫通孔、31…勾配磁場磁石、32…勾配磁場磁石、52…バンプコイル、53…バンプコイル、54…バンプコイル、55…バンプコイル、109…出射チャネル、126…周回軌道、127…周回軌道、1001…粒子線治療システム、1002…イオンビーム発生装置、1003…イオン源、1004…加速器、1006…回転ガントリー、1007…照射装置、1010…導波管、1013…ビーム輸送系、1017…移動装置、1019…出射チャネル、1019a…開口、1022…コイル引出配線、1036…高周波電源、1037…高周波加速空胴、1037a…ディー電極、1039…位置検出器、1041…偏向電磁石、1042…偏向電磁石、1043…偏向電磁石、1044…偏向電磁石、1045…回転軸、1046…四極電磁石、1047…四極電磁石、1048…ビーム経路、1049…四極電磁石、1051…走査電磁石、1052…走査電磁石、1053…ビーム位置モニタ、1054…線量モニタ、1055…治療台、1056…患者、1057…コイル励磁用電源、1065…制御システム、1066…中央制御装置、1068…メモリ、1069…輸送系制御装置、1070…走査制御装置、1072…データベース、1073…治療計画装置、1082…出射チャネル用電源、1088…回転制御装置、1098…ビーム電流測定装置、O1…位置、O2…位置、O3…位置、Y1…位置、Y2…位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8