(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】分析システム、分析方法、及び分析システム用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/84 20060101AFI20241015BHJP
G01N 30/80 20060101ALI20241015BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20241015BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
G01N30/84 J
G01N30/80 C
G01N30/86 V
G01N30/86 D
G01N30/74 Z
(21)【出願番号】P 2023510259
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047819
(87)【国際公開番号】W WO2022209073
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021058164
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】若林 慧
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕之
(72)【発明者】
【氏名】森長 佳世
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-132235(JP,A)
【文献】特開2009-180618(JP,A)
【文献】特開2001-000801(JP,A)
【文献】特開2015-186787(JP,A)
【文献】国際公開第2009/044428(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/027652(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0357200(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を成分毎に分離する液体クロマトグラフと、
前記液体クロマトグラフにより分離された液体試料を移動相とともにプレートの複数箇所に分取するフラクションコレクタと、
前記フラクションコレクタにより分取された分取液を乾燥させた状態で分析する分析装置とを備える分析システムであって、
前記分取液の乾燥に要する乾燥時間を算出する乾燥時間算出部と、
前記乾燥時間算出部により算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力する出力部とを備えることを特徴とする分析システム。
【請求項2】
前記出力部が、前記乾燥時間又は前記乾燥時間を把握可能なシンボルをディスプレイに表示する、請求項1記載の分析システム。
【請求項3】
前記分取液の乾燥が開始されたことを示す乾燥開始信号を受け付けて乾燥経過時間をカウントするタイマをさらに備え、
前記出力部が、前記タイマからの出力に基づいて残りの前記乾燥時間をディスプレイに表示する、請求項1又は2記載の分析システム。
【請求項4】
前記乾燥時間算出部が、前記プレートに前記分取液が分取される前に、その分取液の前記乾燥時間を算出するように構成れており、
前記プレートに前記分取液が分取され終わると、そのことが前記乾燥開始信号として前記タイマに出力される、請求項3記載の分析システム。
【請求項5】
1つのラックに複数枚の前記プレートがセットされるとともに、これら複数枚の前記プレートに分取された前記分取液を一挙に乾燥できる構成において、
前記乾燥時間算出部が、前記複数枚のプレートそれぞれに対応する前記乾燥時間を算出し、
前記出力部が、前記乾燥時間算出部により算出された前記各プレートに対応する前記乾燥時間のうち、律速段階にある前記乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力する、請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の分析システム。
【請求項6】
前記乾燥時間算出部が、前記分取液の単位時間に蒸発する液量、前記プレートに分取される前記分取液の流量、前記分取液を前記プレートの一箇所に分取する時間、周囲の温度、又は周囲の湿度のうちの1つ又は複数をパラメータとして前記乾燥時間を算出する、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の分析システム。
【請求項7】
前記乾燥時間が経過したことをユーザに報知する報知部をさらに備える、請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の分析システム。
【請求項8】
前記分析装置が、乾燥した試料をラマン分光法により分析するラマン分光分析装置である、請求項1乃至7のうち何れか一項に記載の分析システム。
【請求項9】
液体試料を成分毎に分離する液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフにより分離された液体試料を移動相とともにプレートの複数箇所に分取するフラクションコレクタと、前記フラクションコレクタにより分取された分取液を乾燥させた状態で分析する分析装置とを用いた分析方法であって、
前記分取液の乾燥に要する乾燥時間を算出し、
当該算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報
を出力することを特徴とする分析方法。
【請求項10】
液体試料を成分毎に分離する液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフにより分離された液体試料を移動相とともにプレートの複数箇所に分取するフラクションコレクタと、前記フラクションコレクタにより分取された分取液を乾燥させた状態で分析する分析装置とを備えた分析システムに用いられるプログラムであって、
前記分取液の乾燥に要する乾燥時間を算出する乾燥時間算出部と、
前記乾燥時間算出部により算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力する出力部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする分析システム用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィを用いた分析システム、分析方法、及び分析システム用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の分析システムとしては、特許文献1に示すように、液体クロマトグラフィの原理を用いた装置(液体クロマトグラフ)により液体試料を分離して分析し、その分離された液体試料を移動相とともにプレートの複数箇所に分取して、例えばラマン分光法などの別の原理を用いた装置により分析するものがある。
【0003】
このような分析システムにおいて、プレートに分取した分取液をそのまま手で別の装置にセットしようとすると、プレート上で分取液が動いてコンタミが含まれてしまったり、空気中の物質が液体試料に混入してしまったりする恐れがあることから、分取液を分取した後に乾燥させるようにしている。
【0004】
しかしながら、分取液の乾燥に要する時間は、例えば分取された液体試料の液量などに応じて変わるので、どのくらい待てば乾燥が完了するのかを把握することができず、その後の分析における作業段取りを立てることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、プレートに分取された分取液の乾燥時間を把握できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る分析システムは、液体試料を成分毎に分離する液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフにより分離された液体試料を移動相とともにプレートの複数箇所に分取するフラクションコレクタと、前記フラクションコレクタにより分取された分取液を乾燥させた状態で分析する分析装置とを備える分析システムであって、前記分取液の乾燥に要する乾燥時間を算出する乾燥時間算出部と、前記乾燥時間算出部により算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力する出力部とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このように構成された分析システムによれば、出力部が、乾燥時間算出部により算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力するので、プレートに分取された分取液の乾燥時間を把握することができ、その後の分析の段取りを立てやすくなり、ひいては分析作業の高効率化を図れる。
【0009】
前記出力部が、前記乾燥時間又は前記乾燥時間を把握可能なシンボルをディスプレイに表示することが好ましい。
このような構成であれば、乾燥時間を直感的に把握することができる。
【0010】
前記分取液の乾燥が開始されたことを示す乾燥開始信号を受け付けて乾燥経過時間をカウントするタイマをさらに備え、前記出力部が、前記タイマからの出力に基づいて残りの前記乾燥時間をディスプレイに表示することが好ましい。
このような構成であれば、残りの乾燥時間を時々刻々と更新させることができるので、その時々の乾燥時間をリアルタイムに把握することができる。
【0011】
前記乾燥時間算出部が、前記プレートに前記分取液が分取される前に、その分取液の前記乾燥時間を算出するように構成されており、前記プレートに前記分取液が分取され終わると、そのことが前記乾燥開始信号として前記タイマに出力されることが好ましい。
このような構成であれば、分取液の分取が終了したことを契機にタイマのカウントが開始されるので、表示される乾燥時間の信頼性を向上させることができる。
【0012】
1つのラックに複数枚の前記プレートがセットされるとともに、これら複数枚の前記プレートに分取された前記分取液を一挙に乾燥できる構成において、前記乾燥時間算出部が、前記複数枚のプレートそれぞれに対応する前記乾燥時間を算出し、前記出力部が、前記乾燥時間算出部により算出された前記各プレートに対応する前記乾燥時間のうち、律速段階にある前記乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力することが好ましい。
このような構成であれば、表示内容をシンプルにしつつ、複数枚のプレートに分取された全ての分取液が乾燥するまでの乾燥時間を把握することができる。
【0013】
前記乾燥時間算出部が、前記分取液の単位時間に蒸発する液量、前記プレートに分取される前記分取液の流量、前記分取液を前記プレートの一箇所に分取する時間、周囲の温度、又は周囲の湿度のうちの1つ又は複数をパラメータとして前記乾燥時間を算出することが好ましい。
このようなパラメータを用いることで乾燥時間の算出精度を向上させることができる。
【0014】
前記乾燥時間が経過したことをユーザに報知する報知部をさらに備えることが好ましい。
このような構成であれば、仮にその場から離れていても乾燥時間が経過したことを知ることができ、スムーズに次の工程へ進むことができる。
【0015】
前記分析装置が、乾燥した試料をラマン分光法により分析するラマン分光分析装置であることが好ましい。
このように分取した分取液を乾燥させすることにより試料が濃縮されるので、ラマン分光法による検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0016】
また、本発明に係る分析方法は、液体試料を成分毎に分離する液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフにより分離された液体試料を移動相とともにプレートの複数箇所に分取するフラクションコレクタと、前記フラクションコレクタにより分取された分取液を乾燥させた状態で分析する分析装置とを用いた分析方法であって、前記分取液の乾燥に要する乾燥時間を算出し、前記乾燥時間算出部により算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力することを特徴とする方法である。
【0017】
さらに、本発明に係る分析システム用プログラムは、液体試料を成分毎に分離する液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフにより分離された液体試料を移動相とともにプレートの複数箇所に分取するフラクションコレクタと、前記フラクションコレクタにより分取された分取液を乾燥させた状態で分析する分析装置を備えた分析システムに用いられるプログラムであって、前記液体試料の乾燥に要する乾燥時間を算出する乾燥時間算出部と、前記乾燥時間算出部により算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力する出力部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするものである。
【0018】
このような分析方法及び分析システム用プログラムによれば、上述した分析システムと同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、分析用プレートに分取された分取液の乾燥時間を把握することができ、その後の分析の段取りを立てやすくなり、ひいては分析作業の高効率化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態における分析システムの構成を示す模式図。
【
図2】同実施形態における情報処理装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図3】同実施形態における出力部が表示する画面の一態様。
【
図4】その他の実施形態における情報処理装置の機能を示す機能ブロック図。
【符号の説明】
【0021】
100・・・分析システム
S ・・・液体試料
Z ・・・移動相
SS ・・・分取液
PL ・・・プレート
10 ・・・クロマトグラフ
20 ・・・フラクションコレクタ
30 ・・・ラマン分光分析装置
40 ・・・情報処理装置
41 ・・・乾燥時間算出部
42 ・・・出力部
43 ・・・算出用データ格納部
44 ・・・タイマ
DP ・・・ディスプレイ
D1 ・・・乾燥時間表示領域
D2 ・・・ラック表示領域
D3 ・・・付随情報表示欄
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明に係る分析システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態の分析システム100は、液体クロマトグラフィとラマン分光法との双方を利用したLC-ラマン分析を行うものであり、いわゆるハイフネイティッド技術の一種である。
【0024】
具体的にこの分析システムは、
図1に示すように、クロマトグラフ10、フラクションコレクタ20、及び、ラマン分光分析装置30と、これらの動作の設定、データ解析、分析結果の表示等を統合管理する情報処理装置40と、を備えている。クロマトグラフ10、フラクションコレクタ20、及び、ラマン分光分析装置30は、それぞれのハードウェアの動作やデータ解析を行うための専用のソフトウェアである制御演算器1C、2C、3Cを備えている。情報処理装置40はオーバーレイソフトとして動作するように構成されており、情報処理装置40と各機器の制御演算器1C、2C、3Cとが連携することで、1つの分析システム100として一体的に動作する。
【0025】
各機器について詳述する。
【0026】
クロマトグラフ10は、液体クロマトグラフィにより液体試料Sを成分ごとに分離し検出するものである。
【0027】
具体的にクロマトグラフ10は、
図1に示すように、貯留部11に貯留された移動相Zをポンプ12により流路13に吸い上げるとともに、その流路13に液体試料Sを注入し、移動相Zとともに液体試料Sを分離カラム14に送液することで、液体試料Sを成分ごとに分離するように構成されたものである。分離カラム14の下流側には液体試料Sの分離された成分を検出する成分検出器15が設けられている。
【0028】
なお、移動相Zは、例えば複数種類の液体が混合された混合液であり、ここでは水とエタノール等の有機溶媒との混合液である。ただし、移動相Zとしては、単一の液体からなるものであっても良いし、濃度勾配を有するグラジエント溶媒であっても良い。
【0029】
また、クロマトグラフ10は、ポンプP等の各機器の制御を司るとともに成分検出器15の出力に基づいて液体試料Sのクロマトグラムを生成するLC制御演算器1Cをさらに備えている。このLC制御演算器1Cは、専用又は汎用のコンピュータにより構成され、メモリに格納されているクロマトグラフ専用のプログラムが実行され、各機器が協業することによりその機能が実現される。
【0030】
フラクションコレクタ20は、
図1に示すように、クロマトグラフ10の成分検出器15の下流側に設けられ、成分検出器15を通過した液体試料Sを移動相Zとともに分取するものである。この実施形態では、フラクションコレクタ20は、複数のウエルWがマトリクス状に形成されたプレートPLに対して液体試料Sから分取される複数の試料成分をそれぞれ異なるウエルWに滴下するように構成されている。なお、以下ではフラクションコレクタ20によりプレートPLに分取される液体を分取液SSと言い、この分取液SSは、移動相Zに液体試料S由来の成分が含まれてなるもののみならず、移動相Zのみからなるものも含む概念である。
【0031】
フラクションコレクタ20の構成について詳述すると、成分検出器15の出口流路に接続された移動式プローブ21を具備し、ステージ22上に載置されているプレートPLのウエルWに対して分取液SSを所定量ずつ次々に滴下するように構成されている。
【0032】
また、フラクションコレクタ20は、複数のプレートPLが格納されるスタッカ24を備えている。このスタッカ24は、ウエルWに対して分取液SSが滴下される前のプレートPLや分取液SSがウエルWに滴下された後に乾燥(乾固)するまでプレートPLを待機させるためのものである。スタッカ24の3段のラックA、B、Cに対してそれぞれ最大で3枚のプレートPLを載置できる。スタッカ24とステージ22との間のプレートPLの移動は図示しない搬送機構によって行われる。後述するようにスタッカ24内にあるウエルWに対して分取液SSの滴下が行われたプレートPLについて乾燥が完了してすでに搬送可能な状態であるか、又は、乾燥が完了して搬送可能になるまでの乾燥時間が情報処理装置40によって出力される。
【0033】
加えて、フラクションコレクタ20は、移動式プローブ21等の制御を司るとともに各プレートPLの各ウエルWへの滴下状態等に関する情報であるフラクション情報を生成するフラクション制御演算器2Cをさらに備えている。このフラクション制御演算器2Cは、専用又は汎用のコンピュータにより構成され、メモリに格納されているクロマトグラフ専用のプログラムが実行され、各機器が協業することによりその機能が実現される。
【0034】
次にラマン分光分析装置30について説明する。ラマン分光分析装置30は、プレートPL上のウエルWに滴下された分取液SSを乾燥させた状態で、分取液SSに含まれる試料成分をラマン分光法に基づいて分析するものである。なお、プレートPLについてはフラクションコレクタ20において乾燥が終了した状態のものをユーザがラマン分光分析装置30に運び設置しているが、フラクションコレクタ20とラマン分光分析装置30との間でオートワークチェンジャによってプレートPLが搬送されるようにしてもよい。
【0035】
ラマン分光分析装置30は、
図1に示すように、分取液SSを保持するプレートPL上のウエルWにレーザ光等の励起光を照射する光照射器31と、励起光が照射されることにより分取液SSに含まれる試料成分から発生するラマン散乱光を分光する分光器32と、分光されたラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出器33と、光を照射しているウエルWの顕微鏡写真を撮像するカメラ34とを備えている。
【0036】
加えて、ラマン分光分析装置30は、光照射器31が射出するレーザ光がプレートPL上において照射される位置の制御等やラマン散乱光検出器33の出力に基づいてラマンスペクトルを生成するラマン制御演算器3Cをさらに備えている。このラマン制御演算器3Cは、専用又は汎用のコンピュータにより構成され、メモリに格納されているラマン分光分析装置専用のプログラムが実行され、各機器が協業することによりその機能が実現される。
【0037】
情報処理装置40は、LC制御演算器1C、フラクション制御演算器2C、ラマン制御演算器3Cと有線又は無線のネットワークで接続されるとともに、各制御演算器1C、2C、3Cとの間で種々の情報を送受信するものであり、具体的にはCPUやメモリ等を備えた専用又は汎用のコンピュータにより構成されている。
【0038】
然して、本実施形態の情報処理装置40は、前記メモリに格納されている分析システム用プログラムに従って、CPUやその他の周辺機器を協働させることにより、
図2に示すように、分取液SSの乾燥に要する乾燥時間を算出する乾燥時間算出部41と、乾燥時間算出部41により算出された乾燥時間又はこの乾燥時間を把握可能な情報を出力する出力部42とを備えている。
【0039】
乾燥時間算出部41は、プレートPL上の一箇所に分取された分取液SSが乾燥するまでに要する時間を乾燥時間として算出するものであり、具体的には
図2に示すように、算出用データ格納部43に格納されている算出式やルックアップテーブルなどの算出用データを取得し、この算出用データに基づいて乾燥時間を算出するように構成されている。
【0040】
この乾燥時間算出部41は、上述したフラクション制御演算器2Cによる移動式プローブ21の制御に用いられる分取条件を用いて乾燥時間を算出するものである。本実施形態の乾燥時間算出部41は、分取液SSの単位時間当たりに蒸発する液量(以下、蒸発係数という)、プレートPLに単位時間当たりに分取される分取液SSの流量(以下、分取流量という)、及び分取液SSをプレートPLの一箇所に分取する時間(以下、分取時間という)をパラメータに含む算出式を用いて乾燥時間を算出するように構成されており、具体的には下記の算出式を用いている。
乾燥時間=分取流量×分取時間÷蒸発係数
【0041】
上述したパラメータは、例えば入力手段等を用いてユーザが予め設定することができる。具体的に蒸発係数は、例えば液体試料Sの種類、分析環境の温度、又は分析環境の湿度のうちの一つ又は複数の条件に基づいて定めることができ、分取流量及び分取時間は、上述したフラクションコレクタ20の動作前に設定したものを用いることができる。
【0042】
本実施形態の乾燥時間算出部41は、プレートPLに分取液SSが分取される前に、その分取液SSの乾燥時間を算出するように構成されている。すなわち、乾燥時間算出部41は、上述したフラクションコレクタ20の動作前に、予め設定された上述のパラメータを取得して乾燥時間を算出し、その算出した乾燥時間を前記メモリの所定領域に一時的に記憶させる。
【0043】
ここで、本実施形態の分析システム100は、先に
図1を参照しながら説明したように、複数枚のプレートPLがセットされてそれらを一体的に支持するラックA、B、Cを備えている。ここでは複数段に設けられたラックA、B、Cが、互いに独立して乾燥空間(ここでは、スタッカ24の内部空間)に出し入れ可能な構成としてある。
【0044】
かかる構成において、分取される分取液SSの分取流量や分取時間などはプレートPLそれぞれで異なる場合があることから、ここでの乾燥時間算出部41は、複数枚のプレートPLそれぞれに対応する乾燥時間を算出するように構成されている。
【0045】
出力部42は、
図3に示すように、乾燥時間又は乾燥時間を把握可能なシンボル等をディスプレイDPに表示するものであり、この実施形態ではディスプレイDP上の予め設定された乾燥時間表示領域D1に乾燥時間をデジタル表示するものである。なお、ここでの乾燥時間表示領域D1は、上述したフラクションコレクタ20の設定時にユーザが操作する操作案内表示D0と同一画面上に設定されている。ただし、乾燥時間表示領域D1の大きさや位置は
図3に示すものに限らず、適宜変更して構わない。
【0046】
本実施形態の情報処理装置40は、
図2に示すように、分取液SSの乾燥が開始されたことを示す乾燥開始信号を受け付けて乾燥経過時間をカウントするタイマ44をさらに備えており、出力部42が、このタイマ44からの出力に基づいて残りの乾燥時間をディスプレイDPに表示する。
【0047】
より具体的に説明すると、プレートPLに分取液SSが分取され終わると、そのことを示す信号が乾燥開始信号としてフラクションコレクタ20から(具体的にはフラクション制御演算器2Cから)タイマ44に出力され、これを契機にタイマ44のカウントが開始される。
【0048】
そして、出力部42は、このタイマ44からの出力に基づいて、表示させる乾燥時間を時々刻々と減らしながら更新していき、これにより乾燥時間表示領域D1には残りの乾燥時間がリアルタイムに表示される。
【0049】
ところで、本実施形態では、複数枚のプレートPLが共通のラックA、B、Cに一体的に支持されており、このラックA、B、Cが複数段に設けられているところ、出力部42は、
図3に示すように、複数段に設けられたラックA、B、Cそれぞれに対応するシンボルをディスプレイDPの予め設定されたラック表示領域D2に表示し、そのシンボルに対応させた位置に乾燥時間を表示している。すなわち、このラック表示領域D2は、乾燥時間表示領域D1と同一画面上に設定されており、ここでは上述した操作案内表示D0とも同一画面上に設定されている。ただし、ラック表示領域D2の大きさや位置は
図3に示すものに限らず、適宜変更して構わない。
【0050】
ここで、1つのラック(以下、代表してラックAと記載する)に対応させて表示される乾燥時間は、このラックAが支持する複数枚のプレートPLのうち、乾燥に最も長い時間を要するものの乾燥時間である。具体的には、上述したように乾燥時間算出部41が1つのラックAに支持された複数枚のプレートPLそれぞれに対応する乾燥時間を算出していることから、出力部42は、これらの乾燥時間のうち、律速段階にある乾燥時間、言い換えれば最も長い乾燥時間をそのラックAのシンボルに対応させた位置に表示させる。
【0051】
本実施形態の出力部42は、1つのラックAに支持されている複数枚のプレートPLの全てが乾燥を終えている場合、そのラックAに対応する乾燥時間を非表示とする。
【0052】
さらに、この出力部42は、共通のラックAに支持されるプレートPLの少なくとも1枚が乾燥中である場合と、そうでない場合とで、そのラックAのシンボルの色や形状等の表示態様を切り替えるように構成されている。また、ここでの出力部42は、共通のラックAに支持されるプレートPLの全てが乾燥時間を経過した場合に、そのことを示すシンボルや「OK」などの文字列を、ディスプレイDPの予め設定された付随情報表示欄D3に、そのラックAのシンボルに対応させた位置に表示させる。すなわち、この付随情報表示欄D3は、ラック表示領域D2と同一画面上に設定されており、ここでは上述した乾燥時間表示領域D1及び操作案内表示D0とも同一画面上に設定されている。ただし、付随情報表示欄D3の大きさや位置は
図3に示すものに限らず、適宜変更して構わない。
【0053】
このように構成された分析システム100によれば、出力部42が、乾燥時間算出部41により算出された乾燥時間を出力するので、プレートPLに分取された分取液SSの乾燥時間を把握することができ、その後の分析の段取りを立てやすくなり、ひいては分析作業の高効率化を図れる。
【0054】
また、出力部42が、残りの乾燥時間を時々刻々と更新させるので、その時々の乾燥時間をリアルタイムに把握することができる。
【0055】
さらに、分取液SSの分取が終了したことを契機にタイマ44のカウントが開始されるので、表示される乾燥時間の信頼性を向上させることができる。
【0056】
そのうえ、1つのラックAに対応する乾燥時間として、そのラックAに支持される複数枚のプレートPLのうち乾燥に最も時間の要するものの乾燥時間を表示するので、表示内容をシンプルにしつつ、複数枚のプレートPLに分取された全ての分取液SSが乾燥するまでの乾燥時間を把握することができる。
【0057】
加えて、乾燥時間算出部41が、蒸発係数、分取流量、及び分取時間をパラメータに含む算出式に基づいて乾燥時間を算出するので、乾燥時間の算出精度を向上させることができる。
【0058】
さらに加えて、液体クロマトグラフィにより分離した液体試料SをプレートPLに分取して乾燥させてラマン分光分析装置30により分析するので、試料を濃縮することができ、ラマン分光法による検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0059】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0060】
例えば、出力部42としては、前記実施形態では乾燥時間をディスプレイDPに表示するものであったが、必ずしも乾燥時間そのものを表示する必要はなく、例えば時計を模したシンボルや残りの乾燥時間によって変色するシンボルなど、乾燥時間を把握可能な情報(以下、乾燥時間情報ともいう)を表示するものであっても良い。また、別の態様としては、出力部42が乾燥終了時刻を乾燥時間情報として表示するものであっても良い。
【0061】
また、出力部42としては、乾燥時間又は乾燥時間情報を必ずしもディスプレイDPに表示する機能を備えている必要はなく、乾燥時間又は乾燥時間情報を例えばユーザの携帯端末などに出力する機能を備えていても良い。このような構成であれば、ユーザの携帯端末が、取得した乾燥時間又は乾燥時間情報をそのディスプレイに表示することで、ユーザは分取液SSの乾燥時間を把握することができる。
【0062】
さらに、出力部42としては、乾燥時間又は乾燥時間情報を必ずしも操作案内表示D0と同一画面上に表示させる必要はなく、操作案内表示とは別のディスプレイDPに表示させても良い。
【0063】
そのうえ、出力部42としては、乾燥時間又は乾燥時間情報を例えば音や振動などで出力するものであっても良い。
【0064】
加えて、出力部42としては、必ずしも残りの乾燥時間を更新するものである必要はなく、乾燥時間又は乾燥時間情報を例えば乾燥の開始時などに一度表示し、その表示内容を変更させずに表示し続ける構成であっても良い。
【0065】
また、情報処理装置40としては、
図4に示すように、乾燥時間算出部41により算出された乾燥時間に基づいて、乾燥時間が経過したことをユーザに報知する報知部45としての機能をさらに備えていても良い。この報知部45の具体的な実施態様としては、乾燥時間が経過した際に例えば音、光、振動などによりそのことを報知する態様を挙げることができる。
【0066】
さらに、情報処理装置40はとしては、必ずしもクロマトグラフ10、フラクションコレクタ20、及び、ラマン分光分析装置30を統合管理するものである必要はなく、これらとは独立して、分取液SSの乾燥時間を出力し、その乾燥時間又は乾燥時間情報を出力するものであっても良い。
【0067】
また、情報処理装置40を構成する各部については、通常のコンピュータによってその機能が実現されるものに限られない。例えばタブレット端末やスマートフォン等の携帯端末に統合管理装置用ソフトウェアをインストールし、各装置と電子端末間で無線通信によるデータの授受を行うことにより実施形態で説明した各部の機能が実現されるようにしてもよい。
【0068】
加えて、本発明の分析システム100としては、液体試料Sを液体クロマトグラフィにより分離するように構成されていれば良く、例えば液体クロマトグラフ10を構成する成分検出器15などは必ずしも備える必要はない。また、本発明の分析システム100としては、必ずしもラマン分光分析装置30を備えている必要はなく、液体クロマトグラフィにより分離された液体試料Sを例えば赤外分光法、核磁気共鳴、又は飛行時間型質量分析法などの原理を用いて分析する分析装置を備えていても良い。
【0069】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、プレートに分取された分取液の乾燥時間を把握することができる。