(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】極性基含有2-アルケニルモノマー共重合体及びその製造方法、並びに酸素バリア性積層体
(51)【国際特許分類】
C08F 218/12 20060101AFI20241016BHJP
C08F 216/08 20060101ALI20241016BHJP
C08F 212/36 20060101ALI20241016BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20241016BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08F218/12
C08F216/08
C08F212/36
B32B27/08
B32B27/32 C
(21)【出願番号】P 2020175317
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】藤部 聡
(72)【発明者】
【氏名】黒田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】太田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-530760(JP,A)
【文献】特開平07-238120(JP,A)
【文献】特開平10-274632(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115813(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/123199(WO,A1)
【文献】特開2019-069597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 218/12
C08F 216/08
C08F 236/20
B32B 27/08
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)、式(2)、及び式(3)
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表し、l、m、及びnはそれぞれのモノマー構造単位のモル比を表す数値であり、l又はmのいずれか一方が0であってもよい。)
で示されるモノマー構造単位を有する共重合体であって、以下の要件(A)、(B)、及び(C)を満たす共重合体。
(A)式(1)で示されるモノマー構造単位のモル比l、式(2)で示されるモノマー構造単位のモル比m、及び式(3)で示されるジアルケニルモノマー構造単位のモル比nが、次式:
0.1≦[n/(l+m+n)]×100≦65の関係を満たす。
(B)重量平均分子量Mwが10,000~1,000,000である。
(C)ゲル化しておらず、所定の溶媒に溶解する。
【請求項2】
0.1≦[n/(l+m+n)]×100≦20の関係を満たす、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
Xが、-C
6H
4-である請求項1又は2のいずれかに記載の共重合体。
【請求項4】
R
1、R
2及びR
4が水素原子である請求項1~3のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項5】
R
3がメチル基である請求項1~4のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項6】
l又はmのいずれか一方が0である請求項1~5のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項7】
前記所定の溶媒が、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、2-ブタノール、n-ブタノール、エチルセロソルブ、及びブチルセロソルブからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1~6のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項8】
少なくとも1層のプラスチックフィルムと、請求項1~7のいずれか一項に記載の共重合体を含む少なくとも1層の酸素バリア層とを含む、酸素バリア性積層体。
【請求項9】
前記プラスチックフィルムがポリプロピレンフィルムである請求項
8に記載の酸素バリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基含有2-アルケニルモノマー共重合体及びその製造方法、並びに酸素バリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの極性基を有するビニルモノマーの重合体は広く知られている。例えば、ポリビニルアルコール(以降、PVOHと省略することがある)及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(以降、EVOHと省略することがある)は、酢酸ビニルのラジカル重合又はエチレンと酢酸ビニルのラジカル共重合で得られるポリ酢酸ビニル又はエチレン-酢酸ビニル共重合体をけん化することによって製造される。PVOH及びEVOHは、その優れたガスバリア性を活かして、食品包装用途など広い分野で使用されている。
【0003】
一方、アリル基を有するモノマーの重合は、酢酸ビニルのようなビニルモノマーと比べて難しく、その重合体は殆ど知られていない。その主な理由は、アリル基を有するモノマーをラジカル重合させた場合、アリル位炭素原子上に存在する水素原子引き抜きによるモノマーへの退化的連鎖移動反応が進行するため、重合度の低いオリゴマーしか得られなかったためである(Chem.Rev.58,808(1958)(非特許文献1))。
【0004】
特開昭58-49792号公報(特許文献1)には、炭化水素油組成物として、エチレン・酢酸アリル共重合体、エチレン-酢酸アリル-酢酸ビニル三元共重合体が記載されている。合成方法はラジカル重合法であり、実施例によると、極限粘度で0.12dl/g程度の低分子量体のみが得られていた。
【0005】
特開2004-256620号公報(特許文献2)及びPolym.Adv.Technol.,18,953(2007)(非特許文献2)には、酢酸アリル又はアリルアルコールのラジカル重合において、得られるポリマーの高分子量化を目的として、ブレンステッド酸又はルイス酸を添加する方法が記載されている。しかし、これらの重合方法では、ブレンステッド酸又はルイス酸をモノマーに対して当量以上加える必要性があり、製造コスト及び酸の除去の面で改善の余地があった。また、これらの重合系では低分子量のオリゴマーも副生するため、ポリマー単離のために透析膜を使用しており、工業的な応用には大きな課題を残した。
【0006】
特開2011-68881号公報(特許文献3)及びJ.Am.Chem.Soc.,133,1232(2011)(非特許文献3)には、周期表第10族の有機金属錯体を配位重合触媒として使用したエチレンと酢酸アリル又はアリルアルコールとの共重合が記載されている。これらの重合方法により、数平均分子量Mnが数万程度のエチレン-酢酸アリル共重合体又はエチレン-アリルアルコール共重合体が得られている。しかし、これらの方法では高価な金属錯体を重合触媒として使用しており、さらにはアリルモノマーが数モル%程度しか取り込まれていないポリマーしか得られておらず、工業化には課題が残されていた。
【0007】
オリゴマーレベルの低分子量体しか得られない重合において、分子量の向上を目的として、ジアルケニルモノマーなどを共重合させる方法が知られている。この方法をアリルモノマーに適用することは、Pure&Appl.Chem.,61,2051(1989)(非特許文献4)、及びChromatographia,11,137(1978)(非特許文献5)に記載されている。しかし、いずれの文献においても、共重合体をガスクロマトグラフィーの固定相として使用していることから、共重合体が高度に架橋してポリマー鎖が複雑に絡み合った網目構造を有する高分子ゲルであることは明らかである。このような高分子ゲルは、溶媒に溶解しないため射出成形、キャスト成形などでの成形性に劣り、さらにはその成形品の機械強度は低い。また、非特許文献4及び非特許文献5で得られている共重合体のアリルモノマー含有率はそれぞれ40%又は10%である。このようにアリルモノマーの含有率が低い共重合体は、例えばガスバリア性などのアリルモノマーに由来する有用な物性を発現させることができない。このため、この方法を利用した極性基含有アリルポリマーの工業生産はこれまでに実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭58-49792号公報
【文献】特開2004-256620号公報
【文献】特開2011-68881号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Chem.Rev.58,808(1958)
【文献】Polym.Adv.Technol.,18,953(2007)
【文献】J.Am.Chem.Soc.,133,1232(2011)
【文献】Pure&Appl.Chem.,61,2051(1989)
【文献】Chromatographia,11,137(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、高分子量でありかつ所定の溶媒に可溶な極性基含有2-アルケニルモノマー共重合体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、極性基含有2-アルケニルモノマーとジアルケニルモノマーのラジカル共重合を行うことにより、新規な構造を有し、種々の応用が可能な高分子量の極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体が提供可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本明細書においては、「極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体」は、その他のモノマーユニットをマイナー成分として含む三元系以上の共重合体をも含む。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]~[21]に関する。
[1]
式(1)、式(2)、及び式(3)
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表し、l、m、及びnはそれぞれのモノマー構造単位のモル比を表す数値であり、l又はmのいずれか一方が0であってもよい。)
で示されるモノマー構造単位を有する共重合体であって、以下の要件(A)、(B)、及び(C)を満たす共重合体。
(A)式(1)で示されるモノマー構造単位のモル比l、式(2)で示されるモノマー構造単位のモル比m、及び式(3)で示されるジアルケニルモノマー構造単位のモル比nが、次式:
0.1≦[n/(l+m+n)]×100≦65の関係を満たす。
(B)重量平均分子量Mwが10,000~1,000,000である。
(C)ゲル化しておらず、所定の溶媒に溶解する。
[2]
0.1≦[n/(l+m+n)]×100≦20の関係を満たす、[1]に記載の共重合体。
[3]
Xが、-C
6H
4-である[1]又は[2]のいずれかに記載の共重合体。
[4]
R
1、R
2及びR
4が水素原子である[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体。
[5]
R
3がメチル基である[1]~[4]のいずれかに記載の共重合体。
[6]
l又はmのいずれか一方が0である[1]~[5]のいずれかに記載の共重合体。
[7]
前記所定の溶媒が、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、2-ブタノール、n-ブタノール、エチルセロソルブ、及びブチルセロソルブからなる群より選ばれる少なくとも一種である[1]~[6]のいずれかに記載の共重合体。
[8]
式(4)
【化2】
(式中、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。)
で示される2-アルケニルエステル化合物、及び式(5)
【化3】
(式中、R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表す。)
で示されるジアルケニル化合物をラジカル重合開始剤の存在下で共重合することを含む、式(2)及び式(3)
【化4】
(式中、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表し、m及びnはそれぞれのモノマー構造単位のモル比を表す数値である。)
で示されるモノマー構造単位を有する共重合体の製造方法。
[9]
式(4)
【化5】
(式中、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。)
で示される2-アルケニルエステル化合物、及び式(5)
【化6】
(式中、R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表す。)
で示されるジアルケニル化合物をラジカル重合開始剤の存在下で共重合した後に、触媒存在下、アルコール溶媒中でけん化することを含む、式(1)、式(2)及び式(3)
【化7】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、但しR
1とR
2は同一であり、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表し、l、m、及びnはそれぞれのモノマー構造単位のモル比を表す数値であり、mは0であってもよい。)
で示されるモノマー構造単位を有する共重合体の製造方法。
[10]
式(6)
【化8】
(式中、R
1は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。)
で示される2-アルケニルアルコール化合物、及び式(5)
【化9】
(式中、R
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表す。)
で示されるジアルケニル化合物をラジカル重合開始剤の存在下で共重合することを含む、式(1)及び式(3)
【化10】
(式中、R
1及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表し、l及びnはそれぞれのモノマー構造単位のモル比を表す数値である。)
で示されるモノマー構造単位を有する共重合体の製造方法。
[11]
mが0である[9]に記載の共重合体の製造方法。
[12]
R
1、R
2及びR
4が水素原子である[8]~[11]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[13]
R
3がメチル基である[8]~[12]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[14]
前記ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度が50℃以下である、[8]~[13]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[15]
重合温度が20~70℃の範囲である、[8]~[14]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[16]
式(4)で示される2-アルケニルエステル化合物と式(6)で示される2-アルケニルアルコール化合物の合計モル量をx、式(5)で示されるジアルケニル化合物のモル量をyとしたときに、次式:
0.1≦[y/(x+y)]×100≦65
の範囲でラジカル重合を行うことを特徴とする、[8]~[15]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[17]
少なくとも1層のプラスチックフィルムと、[1]~[7]のいずれかに記載の共重合体を含む少なくとも1層の酸素バリア層とを含む、酸素バリア性積層体。
[18]
前記プラスチックフィルムがポリプロピレンフィルムである[17]に記載の酸素バリア性積層体。
[19]
プラスチックフィルムに、[1]~[7]のいずれかに記載の共重合体を溶媒に溶解した溶液を塗布又は流延し、乾燥することを含む酸素バリア性積層体の製造方法。
[20]
前記溶媒がアルコールである[19]に記載の酸素バリア性積層体の製造方法。
[21]
前記溶媒がエタノールであり、前記プラスチックフィルムがポリプロピレンフィルムである[19]又は[20]のいずれかに記載の酸素バリア性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来製造が困難であった高分子量でありかつ所定の溶媒に可溶な極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体を得ることができる。
【0014】
本発明の極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体は、エステル構造、水酸基などの極性官能構造を有していることから、ポリオレフィンなどに添加される接着性、印刷性などの表面特性の改質剤、無極性のポリオレフィンと極性の高い他の樹脂との相溶化剤、顔料などの分散剤に加えて、塗料、インキ、接着剤、バインダー、可塑剤、滑剤、潤滑油、界面活性剤などとして使用することができる。また、本発明の共重合体は溶媒に可溶なため、フィルム又はシートへの成形が容易であり、食品包装材、ガソリンタンクなどへの適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例3で得られた共重合体の
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】実施例3で得られた共重合体のSECクロマトグラムである。
【
図3】実施例8で得られたけん化体の
1H-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではない。
【0017】
1.極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体
一実施形態の極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体は、式(1)、式(2)、及び式(3)
【化11】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、Xは酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表し、l、m、及びnはそれぞれのモノマー構造単位のモル比を表す数値であり、l又はmのいずれか一方が0であってもよい。)
で示されるモノマー構造単位を有する共重合体である。共重合体は必要に応じて第四のモノマー構造単位を含んでいてもよい。
【0018】
式(1)、式(2)、及び式(3)におけるR1、R2、及びR4は水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、それぞれが異なっていてもよい。
【0019】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR1、R2、及びR4としては、水素原子又はメチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、水素原子が特に好ましい。
【0020】
式(2)におけるR3は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
【0021】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR3としては、メチル基又はエチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、メチル基が特に好ましい。
【0022】
式(3)におけるXは、酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表す。
【0023】
2価の有機基としては、アルキレン基及びアリーレン基が挙げられる。酸素原子を含む2価の有機基としては、アルキレン基又はアリーレン基に2個のカルボニルオキシ基(-C(=O)-O-)が結合した基があげられる。
【0024】
2価の有機基の例としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-、-C6H4-、-C6H4-C6H4-、-C(=O)-O-(CH2)2-O-C(=O)-、-C(=O)-O-(CH2)2-O-(CH2)2-O-C(=O)-、及び-C(=O)-O-(C6H4)-O-C(=O)-が挙げられる。これらの中でもXとしては、-C6H4-(フェニレン基)、又は-C(=O)-O-(CH2)2-O-C(=O)-が好ましく、-C6H4-が特に好ましい。Xが-C6H4-のとき、共重合体中のXは、それぞれ独立に、o-置換体、m-置換体、又はp-置換体であってもよい。
【0025】
一実施形態の共重合体は以下の要件(A)、(B)、及び(C)を満たす。
(A)式(1)で示されるモノマー構造単位のモル比l、式(2)で示されるモノマー構造単位のモル比m、及び式(3)で示されるジアルケニルモノマー構造単位のモル比nが、次式:
0.1≦[n/(l+m+n)]×100≦65の関係を満たす。
(B)重量平均分子量Mwが10,000~1,000,000である。
(C)ゲル化しておらず、所定の溶媒に溶解する。
【0026】
(A)モノマー構造単位のモル比
モル比l、モル比m、及びモル比nは、次式の関係を満たす。
0.1≦[n/(l+m+n)]×100≦65
【0027】
[n/(l+m+n)]×100が0.1以上であると共重合体の分子量が向上し成形品の強度を高めることができる。[n/(l+m+n)]×100が65以下であると共重合体をゲル化させずに所定の溶媒への溶解性を高めることができる。[n/(l+m+n)]×100は、1以上が好ましく、5以上がより好ましい。[n/(l+m+n)]×100は、20以下が好ましく、15以下がより好ましい。[n/(l+m+n)]×100の値は実施例に記載の1H-NMR法により決定される。式(1)、式(2)、及び式(3)のl、m、及びnは単に対応するモノマーの量比を示すものであり、式(1)、式(2)、及び式(3)のモノマー構造単位が、それぞれl個、m個、及びn個連続して結合していることを必ずしも意味しない。
【0028】
一実施形態では、l又はmのいずれか一方が0である。
【0029】
(B)重量平均分子量
一実施形態の共重合体の重量平均分子量Mwは、10,000~1,000,000である。Mwは、成形性と、成形品の強度のバランスから、10,000~500,000であることが好ましく、10,000~100,000であることがより好ましい。Mwが10,000未満であると成形品の強度が低下する。Mwが100,000を越えると溶液粘度又は溶融粘度が高すぎて成形が困難になる。Mwは、実施例記載のGPCによる方法で決定される。
【0030】
(C)ゲル化しておらず、所定の溶媒に溶解する。
「ゲル化している」とは、架橋構造の存在により、いかなる溶媒にも溶解しない成分が存在する状態をいう。ゲル化した共重合体は、その主鎖部分が良溶媒へ溶解しようとしても架橋構造部分は膨潤するのみで溶解はしない。「ゲル化しておらず、所定の溶媒に溶解する。」とは適切な良溶媒及び温度を選択すれば共重合体のすべての成分が溶解することをいう。溶解したか否かは目視の観察で判断される。
【0031】
共重合体は、固形分濃度0.1~10質量%の範囲で、温度20~30℃の所定の溶媒に溶解することが好ましい。
【0032】
所定の溶媒とは共重合体の良溶媒である。所定の溶媒としては、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどの含窒素溶媒、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄溶媒、テトラヒドロフランなどの環状エーテル溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、2-ブタノール、n-ブタノールなどのアルコール溶媒、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ溶媒などが挙げられる。
【0033】
所定の溶媒としての良溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、N,N-ジメチルホルムアミド、又はジメチルスルホキシドを含むことが好ましい。
【0034】
所定の溶媒は、単一溶媒であってもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。混合溶媒の場合、共重合体におけるそれぞれのモノマー構造単位のモル比l、m及びnに応じて最適な溶媒組成は異なるが、lが大きいほど、アルコール溶媒又はセロソルブ溶媒の比率を高めることが好ましい。
【0035】
共重合体を溶媒に溶解させる際に、溶解の促進を目的として溶媒を加熱してもよい。加熱温度は、40~200℃の範囲が好ましく、共重合体の分解を避ける観点から40~150℃の範囲がより好ましく、40~100℃の範囲が特に好ましい。
【0036】
2.極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体の製造方法
いくつかの実施形態の極性基含有2-アルケニルモノマー-ジアルケニルモノマー共重合体は、以下の方法により製造することができる。
(A)前記式(4)、式(5)、及び式(6)で示される化合物、及び必要に応じて第四のモノマー単位に対応するその他のモノマーを後述のラジカル重合開始剤の存在下で共重合する。
(B)前記式(4)、及び式(5)で示される化合物、及び必要に応じて第四のモノマー単位に対応するその他のモノマーを後述のラジカル重合開始剤の存在下で共重合する。
(C)前記式(4)及び式(5)で示される化合物、及び必要に応じて第四のモノマー単位に対応するその他のモノマーを共重合して得られた共重合体に対して、後述の触媒の存在下、アルコール溶媒中でけん化反応を行う。
(D)前記式(6)、及び式(5)で示される化合物、及び必要に応じて第四のモノマー単位に対応するその他のモノマーを後述のラジカル重合開始剤の存在下で共重合する。
【0037】
一実施形態では、方法(C)により製造される共重合体において、式(2)で示されるモノマー構造単位のモル比mは0である。この実施形態では、けん化反応が完全に進行している。
【0038】
共重合体において式(2)で示されるモノマー構造単位の元であるモノマーは、式(4)
【化12】
で示される2-アルケニルエステル化合物である。
【0039】
式(4)におけるR2は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
【0040】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR2としては、水素原子又はメチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、水素原子が特に好ましい。
【0041】
式(4)におけるR3は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
【0042】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR3としては、メチル基又はエチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、メチル基が特に好ましい。
【0043】
共重合体において式(1)で示されるモノマー構造単位の元であるモノマーは、式(6)
【化13】
で示される2-アルケニルアルコール化合物である。
【0044】
式(6)におけるR1は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
【0045】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR1としては、水素原子又はメチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、水素原子が特に好ましい。
【0046】
式(1)で示されるモノマー構造単位は、上記式(4)
【化14】
で示される2-アルケニルエステル化合物を重合した後に、後述の触媒を使用して、アルコール溶媒中で加水分解(けん化反応)を行うことでも得ることができる。
【0047】
式(4)におけるR2は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、式(1)で示されるモノマー単位のR1と式(2)で表されるモノマー単位のR2は式(4)におけるR2に由来するため、R1とR2は同一である。
【0048】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR2としては、水素原子又はメチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、水素原子が特に好ましい。
【0049】
式(4)におけるR3は、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
【0050】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR3としては、メチル基又はエチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、メチル基が特に好ましい。
【0051】
式(4)で示されるモノマーと、式(6)で示されるモノマーとを混合して重合してもよい。反応速度を向上させる観点からは、式(6)で示されるモノマーを使用せずに式(4)で示されるモノマーのみを重合させることが好ましい。
【0052】
共重合体において式(3)で示されるモノマー構造単位の元であるジアルケニルモノマーは、式(5)
【化15】
で示されるジアルケニル化合物である。
【0053】
式(5)におけるR4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
【0054】
炭素原子数1~3のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中でもR4としては、水素原子又はメチル基が好ましく、原料の入手しやすさの観点からは、水素原子が特に好ましい。
【0055】
式(5)におけるXは、酸素原子を含んでいてもよい、炭素原子数1~20の2価の有機基を表す。
【0056】
2価の有機基としては、アルキレン基及びアリーレン基が挙げられる。酸素原子を含む2価の有機基としては、アルキレン基又はアリーレン基に2個のカルボニルオキシ基(-C(=O)-O-)が結合した基があげられる。
【0057】
2価の有機基の例としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-、-C6H4-、-C6H4-C6H4-、-C(=O)-O-(CH2)2-O-C(=O)-、-C(=O)-O-(CH2)2-O-(CH2)2-O-C(=O)-、及び-C(=O)-O-(C6H4)-O-C(=O)-が挙げられる。これらの中でもXとしては、-C6H4-(フェニレン基)、又は-C(=O)-O-(CH2)2-O-C(=O)-が好ましく、-C6H4-が特に好ましい。Xが-C6H4-のとき、o-置換体、m-置換体、又はp-置換体であってもよい。
【0058】
ジアルケニルモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
式(5)で示されるジアルケニルモノマーの例としては、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジアクリレートが挙げられる。これらの中でも、p-ジビニルベンゼン、及びエチレングリコールジメタクリレートが好ましい。
【0060】
一実施形態の共重合体の製造方法では、必要に応じて、第四のモノマー単位に対応するその他のモノマーを共重合してもよい。その他のモノマーとして、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、スチレンなどのα-オレフィン;ノルボルネン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどの環状オレフィン;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、アクリロニトリル、アクロレインなどの極性基を有するオレフィンなどが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて重合させてもよい。共重合体に含まれるその他のモノマーの含有率は5mol%未満であることが好ましく、2mol%未満であることがより好ましい。
【0061】
一実施形態の共重合体の製造方法では、公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0062】
ラジカル重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系化合物;メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシドなどのケトンパーオキシド化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド化合物;ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシドなどのジアルキルパーオキシド化合物;1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどのパーオキシケタール化合物;t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレートなどのアルキルパーオキシエステル化合物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロプルカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシカーボネート化合物;過酸化水素などの熱ラジカル重合開始剤を例示することができるが、これらに限定されるものではない。これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度は、50℃以下であることが好ましい。特に、ラジカル重合開始剤は、10時間半減期温度が48℃であるジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートであることが好ましい。10時間半減期温度が50℃を超えると、共重合体の分子量が低くなりすぎることがある。
【0064】
ラジカル重合開始剤の使用量は、反応温度及び各モノマーの組成比に基づき決定することができる。ラジカル重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性のモノマー総量に対して0.1~15mol%であることが好ましく、0.5~10mol%であることが特に好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.1mol%以上であれば、重合反応の進行を促進することができる。ラジカル重合開始剤の添加量が15mol%以下であれば、所望の分子量を有する共重合体を経済的に製造することができる。
【0065】
一実施形態の共重合体の製造方法では、重合温度は20~70℃の範囲とすることが好ましく、30~65℃の範囲とすることが特に好ましい。重合温度が20℃以上であれば、重合反応を経済的な速度で進行させることができる。重合温度が70℃以下であれば、2-アルケニルモノマーへの連鎖移動速度を抑制して、所望の分子量を有する共重合体を製造することができる。
【0066】
一実施形態の共重合体の製造方法では、式(4)で示される2-アルケニルエステル化合物と式(6)で示される2-アルケニルアルコール化合物の合計モル量をx、式(5)で示されるジアルケニル化合物のモル量をyとしたとき、次式:
0.1≦[y/(x+y)]×100≦65
の範囲でラジカル重合を行うことが好ましく、
0.5≦[y/(x+y)]×100≦20
の範囲でラジカル重合を行うことが特に好ましい。
【0067】
[y/(x+y)]×100の値が0.1以上とすることで、共重合体の分子量を所望の程度まで高めることができ、65以下とすることで共重合体のゲル化を抑制することができる。
【0068】
共重合体の重合方法は、特に制限されるものではなく、一般に使用される方法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、又は気相重合を使用することができる。特に塊状重合、及び溶液重合が好ましい。重合様式は、バッチ様式でもよく、連続様式でもよく、一段重合でもよく、多段重合でもよい。上記のモノマー仕込み比の範囲でモノマーを追添してもよい。ラジカル重合開始剤を追添してもよい。
【0069】
重合時間は、重合方法及び重合様式、開始剤の半減期などにより適宜調整することができる。重合時間は、数分程度の短時間であってもよく、数千時間の長時間であってもよい。
【0070】
開始効率の低下を防ぐため、重合系中の雰囲気は、モノマー以外の空気、酸素ガス、水分などが混入しないように、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガスで満たされることが好ましい。ガラスアンプルなどにモノマー又はラジカル重合開始剤を仕込み、凍結脱気を行うことにより、気相をモノマー蒸気で満たすことも好ましい。
【0071】
溶液重合の場合、モノマー以外に不活性溶媒を使用することができる。不活性溶媒は、特に限定されないが、例えば、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪族エステル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの芳香族エステル、及びアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、t-ブチルメチルケトンなどの脂肪族ケトンが挙げられる。
【0072】
重合反応終了後、生成物である共重合体は、公知の操作又は処理方法(例えば、中和、溶媒抽出、水洗、分液、溶媒留去、凍結乾燥、再沈殿など)により後処理することにより単離してもよい。
【0073】
共重合体に対するアルコール溶媒中でのけん化反応は、公知の方法で行うことができる。
【0074】
けん化反応は、酸性触媒又は塩基性触媒の存在下で、アルコールを含む溶媒中で行うことができる。酸性触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、トルフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トルフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、及びp-トルエンスルホン酸が挙げられ、工業的入手容易さの観点から、塩酸、硫酸、又は酢酸が好ましく、塩酸がより好ましい。塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド、及びナトリウムエトキシドが挙げられ、工業的入手容易さの観点から、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムが好ましく、ナトリウムメトキシド、又は水酸化ナトリウムがより好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、2-ブタノール、及びn-ブタノールが挙げられ、工業的入手容易さの観点から、メタノール又はエタノールが好ましく、メタノールがより好ましい。アルコールを含む溶媒は、アルコール単独であってもよく、他の溶媒との混合物であってもよい。他の溶媒の例として、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロベンゼン、及び水が挙げられる。
【0075】
共重合体は、通常の熱可塑性樹脂の成形方法及び条件を用いて、ペレット状、フィルム状、シート状などに成形することができる。
【0076】
共重合体は、射出成形、押出成形、フィルム成形などの成形により、それ自体を製品にすることができる。共重合体は、ポリオレフィンなどに添加される接着性、印刷性などの表面特性の改質剤、無極性のポリオレフィンと極性の高い他の樹脂との相溶化剤、顔料などの分散剤として使用することもできる。共重合体は、塗料、インキ、接着剤、バインダー、可塑剤、滑剤、潤滑油、界面活性剤などとして使用することもできる。
【0077】
3.酸素バリア性積層体
一実施形態の共重合体を含む少なくとも1層の酸素バリア層を、少なくとも1層のプラスチックフィルムに積層することにより、酸素バリア性積層体を製造することができる。
【0078】
酸素バリア性を向上させる観点からは、式(1)で示されるモノマー構造単位のモル比lと、式(2)で示されるモノマー構造単位のモル比mは、次式:
90≦[l/(l+m)]×100≦100
の関係を満たすことが好ましく、
95≦[l/(l+m)]×100≦100
の関係を満たすことがより好ましく、
98≦[l/(l+m)]×100≦100
の関係を満たすことが特に好ましい。
[l/(l+m)]×100が90未満であると酸素バリア性が低下しやすくなる。
【0079】
一実施形態の酸素バリア性積層体は、一般の高分子成形加工分野で知られた成形方法を用いて製造することができる。具体的には、溶液キャスト、Tダイ成形、インフレーション成形、ドライラミネート成形、押出コーティング、共押出成形などの方法を採用することができる。これらの中でも、製膜の容易さ、及び工程の簡略さの観点から、溶液キャストが好ましい。
【0080】
溶液キャストは、共重合体を溶媒に溶解した溶液を、プラスチックフィルムの上に塗布又は流延し、その後、乾燥することにより積層体を形成する方法である。
【0081】
溶媒としては、共重合体の良溶媒を用いることができる。乾燥工程での留去の容易さ、及び安全性の観点から、アルコール、及びグリコールモノエーテルが好ましく、エタノール、及びエチルセロソルブが特に好ましい。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0082】
溶液の固形分濃度(溶媒以外の成分濃度)は特に限定されないが、1~50質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましく、5~20質量%が特に好ましい。固形分濃度が1質量%以上であれば、乾燥工程での溶媒留去にかかる時間を短縮でき、製造コストを抑えることができる。固形分濃度が20質量%以下であれば、溶液の粘度を適正な範囲として、塗布又は流延時の厚みムラ又はスジの発生を抑制することができる。
【0083】
共重合体の溶液には、酸素バリア性を損なわない範囲で、必要に応じて添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤など)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、フィラー、結晶核剤、無機充填材、及び板状無機化合物が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
共重合体の溶液を塗布又は流延する方法としては、特に限定されないが、バーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、マイクログラビア塗工、マイクロリバースグラビアコーター塗工、ダイコーター塗工、スロットダイコーター塗工、バキュームダイコーター塗工、ディップ塗工、スピンコート塗工、スプレー塗工、はけ塗りなどの公知の方法を使用することができる。
【0085】
乾燥方法は、特に限定されないが、ドライヤーなどを用いた熱風の吹き付け、赤外線照射などの公知の方法を使用することができる。
【0086】
乾燥温度は、プラスチックフィルムの耐熱性によるが、室温~150℃が好ましく、50~120℃がより好ましく、60~90℃が特に好ましい。乾燥温度が室温以上であれば、乾燥にかかる時間を短縮することができる。乾燥温度が150℃以下であれば、塗布層又は流延層中の気泡の発生、及びプラスチックフィルムの熱変形を抑制することができる。
【0087】
乾燥時間は、特に限定されないが、1秒~30分が好ましく、3秒~15分がより好ましく、5秒~5分が特に好ましい。乾燥時間が1秒以上であれば溶媒の留去を十分に行うことができる。乾燥時間が30分以内であれば製造コストを適正な範囲とすることができる。
【0088】
酸素バリア層の厚みは、特に限定されないが、0.1~50μmが好ましく、0.2~30μmがより好ましく、0.5~10μmが特に好ましい。酸素バリア層の厚みが0.1μm以上であれば、酸素バリア層におけるピンホール又はクラックの発生を抑えて、酸素バリア性の低下を防止することができる。酸素バリア層の厚みが50μm以下であれば、酸素バリア性積層体の柔軟性を保つことができる。
【0089】
プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリナフタレンテレフタレート(PEN)フィルムなどのポリエステルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリエチレンフィルム(LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、及びHDPE:高密度ポリエチレンフィルムを含む)、ポリプロピレンフィルム(CPP:未延伸ポリプロピレンフィルム、及びOPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルムを含む)などのポリオレフィンフィルム、ポリシクロオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、及びこれらの透明蒸着フィルムが挙げられる。プラスチックフィルムにコロナ処理などの表面処理を施してもよい。
【0090】
プラスチックフィルムは、積層体の酸素バリア性向上、及び入手のし易さの観点から、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、又はポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましく、ポリプロピレンフィルムであることが特に好ましい。これらのプラスチックフィルムを用いると、水蒸気バリア性と酸素バリア性の両方に優れた積層体を、安価に製造することができる。
【0091】
酸素バリア性積層体の酸素透過度は、低湿度下の条件(0%RH)において、300cc/(m2・day・atm)以下であることが好ましく、250cc/(m2・day・atm)以下であることがより好ましく、200cc/(m2・day・atm)以下であることが特に好ましい。低湿度下の条件(0%RH)での酸素透過度が300cc/(m2・day・atm)以下であれば、酸素バリア積層体を包装用袋として使用したときに、内容物の酸素劣化を遅らせる効果が期待できる。
【0092】
酸素バリア性積層体の酸素透過度は、高湿度下の条件(90%RH)において、低湿度下の条件と比べてバリア性が低下しないような範囲であることが好ましい。具体的には、次式:
酸素透過度の比=高湿度(90%RH)での酸素透過度/低湿度(0%RH)での酸素透過度
で表される酸素透過度の比が、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが特に好ましい。
【0093】
一実施形態の酸素バリア性積層体には、少なくとも一軸の延伸が施されていてもよい。延伸方法としては、特に限定されず、公知の方法を利用することができる。例えば、テンター式同時二軸延伸機を用いて、未延伸の酸素バリア性積層体に縦方向(MD)及び横方向(TD)に同時二軸延伸を施すことで、同時二軸延伸された酸素バリア性積層体を得ることができる。
【0094】
一実施形態の酸素バリア性積層体には、必要に応じて、紫外線、X線、電子線などの高エネルギー線照射が施されていてもよい。この場合、ガスバリア性又は柔軟性を損なわない範囲で、高エネルギー照射により架橋又は重合する成分が酸素バリア性積層体を構成する層に配合されていてもよい。
【0095】
一実施形態の酸素バリア性積層体には、必要に応じて、コロナ処理などの表面処理を施してもよい。
【0096】
一実施形態の酸素バリア性積層体にシーラント樹脂を積層することにより、種々の積層フィルムとすることができる。
【0097】
シーラント樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、及びポリ酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。これらの中でも、ヒートシール強度又は材質自体の強度が高いポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィンが好ましい。シーラント樹脂は、単独で用いてもよく、他の樹脂と共重合させて又は溶融混合して用いてもよく、更に酸変性などが施されていてもよい。
【0098】
シーラント層を酸素バリア性積層体の上に形成する方法としては、例えば、シーラント樹脂を含むフィルム又はシートを、接着剤を介して酸素バリア性積層体にラミネートする方法、及びシーラント樹脂を酸素バリア性積層体に押出ラミネートする方法が挙げられる。前者の方法においては、シーラント樹脂を含むフィルム又はシートは、未延伸状態であっても、低倍率の延伸状態であってもよい。シーラント樹脂を含むフィルム又はシートは、実用的には未延伸状態であることが好ましい。
【0099】
シーラント層の厚みは、特に限定されないが、20~100μmであることが好ましく、40~70μmであることがより好ましい。
【0100】
一実施形態の酸素バリア性積層体を用いて包装用袋を作製することができる。包装用袋は、例えば、果物、ジュース、飲料水、酒、調理食品、水産練り製品、冷凍食品、肉製品、煮物、餅、液体スープ、調味料などの飲食料品、液体洗剤、化粧品、化成品などを内容物とする充填包装に好適に用いることができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0102】
(1)共重合体の分子量
PLgel 5μm MIXED Bカラム(2本直列)を備えたGPC-120“PolymerLabs”(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(溶媒:0.1質量%LiBr-DMF、温度:50℃、流速:1.0mL/min)により、分子量の標準物質としてポリスチレンを用いて共重合体の分子量を分析した。
【0103】
(2)重合体の共重合比
式(1)、式(2)及び式(3)で示されるモノマー構造単位のそれぞれの含有率は、核磁気共鳴装置VARIAN XR-400又は日本電子株式会社製核磁気共鳴装置JNM-ECS400を使用した、室温における1H-NMR解析によって決定した。
【0104】
(3)共重合体の溶解性
共重合体に対し、固形分濃度が5質量%になるように所定の溶媒を加え、(A)室温(20~30℃)で24時間静置する方法、又は(B)40~70℃で5時間加熱した後に室温(20~30℃)に冷却する方法のいずれかの後、目視観察により不溶分及びゲル状に膨潤した成分が残っていない場合に「良好」と判定し、不溶分又はゲル状に膨潤した成分が残っている場合は「不良」と判定した。
【0105】
(4)酸素バリア性
JIS K 7126-2:2006(附属書A)に従って、20℃、相対湿度0%RH及び90%RHでの酸素透過度を測定した。
【0106】
(5)原料
酢酸アリル(昭和電工株式会社製)、及びアリルアルコール(Aldrich製)は、市販品を蒸留して使用した。ジビニルベンゼン(Aldrich製)は、アルミナカラムを通して精製したものを使用した。2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(Aldrich製)は、メタノールで再結晶したものを使用した。ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートは、米国特許第7968753号明細書に従って合成して使用した。
【0107】
(実施例1)
100mLガラスフラスコをアルゴンガスで置換し、酢酸アリル(45mL、418mmol)に、ジビニルベンゼン(0.7mL、4.9mmol)及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(2g、5.0mmol)をトルエン(4mL)に溶解した溶液として添加した。得られた混合物を40℃で18時間加熱して重合反応を行った後、室温に冷却し、ベンゼンを用いた凍結乾燥により精製して共重合体1を得た。酢酸アリルの転化率は9%であった。共重合体1はベンゼン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミドに溶解した。サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した共重合体1の重量平均分子量(Mw)は26,000であり、多分散度(Mw/Mn)は15.8であった。重クロロホルムを溶媒とする1H-NMR測定より、3.5~4.2ppm付近に見られる酢酸アリル由来のメチレンプロトン(-CH2-OC(O)-)の積分比と、6.2~7.7ppm付近に見られるジビニルベンゼン由来プロトン(-C6H4-)の積分比から算出した、共重合体1におけるモノマー構造単位のモル比は、l=0モル%、m=80モル%、n=20モル%であった。
【0108】
(実施例2)
実施例1と同様に18時間加熱した後に、再びジビニルベンゼン(0.7mL、4.9mmol)及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(2g、5.0mmol)をトルエン(4mL)に溶解して加え、40℃で18時間加熱した。その後、再び同様にジビニルベンゼンとジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを加えて40℃で48時間加熱することを2回繰り返し、合計で132時間加熱して重合反応を行った後に、実施例1と同様の手順で共重合体2を得た。分析結果を表1に示す。
【0109】
(実施例3)
酢酸アリル(26mL、242mmol)に、ジビニルベンゼン(0.34mL、2.4mmol)及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(0.96g、2.4mmol)をガラスアンプル中で混合して溶液とし、凍結脱気(5×10
-3mmHg)を4回行った後にアンプルを封止した。アンプルを40℃で46時間加熱した後に室温に冷却し、ベンゼンを用いた凍結乾燥により精製して共重合体3を得た。酢酸アリルの転化率は17.0%であった。実施例1と同様にして分析を行ったところ、共重合体3はベンゼン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミドに溶解し、共重合体3の重量平均分子量(Mw)は10,500であり、多分散度(Mw/Mn)は7.8であり、共重合体3におけるモノマー構造単位のモル比は、l=0モル%、m=89モル%、n=11モル%であった。共重合体3の
1H-NMRスペクトルを
図1に、SECクロマトグラムを
図2にそれぞれ示す。
【0110】
(実施例4)
実施例3と同様に46時間加熱した後に、再びジビニルベンゼン(0.34mL、2.4mmol)及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(0.96g、2.4mmol)を加え、凍結脱気の後にアンプルを封止し、40℃で24時間加熱を行った。この操作を更に3回繰り返し、合計で118時間加熱して重合反応を行った後に、実施例1と同様の手順で共重合体4を得た。分析結果を表1に示す。
【0111】
(実施例5)
モノマーを酢酸アリルからアリルアルコールに変え、加熱時間を18時間とした他は、実施例1と同様に重合を行い、共重合体5を得た。分析結果を表1に示す。
【0112】
(実施例6)
酢酸アリル(13mL、120mmol)、ジビニルベンゼン(0.17mL、1.2mmol)及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(0.48g、1.2mmol)をガラスアンプル中で混合して溶液とし、凍結脱気(5×10-3mmHg)を4回行った後にアンプルを封止した。アンプルを60℃で4時間加熱した後に、ジビニルベンゼン(0.17mL、1.2mmol)及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(0.048g、0.12mmol)を加え、再び60℃で16時間加熱して重合反応を行った後に、実施例1と同様の手順で共重合体6を得た。分析結果を表1に示す。
【0113】
(実施例7)
追添するジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートの量を0.24g(0.60mmol)に変えた他は、実施例6と同様に重合を行い、共重合体7を得た。分析結果を表1に示す。
【0114】
(比較例1)
ジビニルベンゼンを添加しなかった他は、実施例1と同様に重合を行い、重合体C1を得た。分析結果を表1に示す。
【0115】
(比較例2)
温度を80℃に変え、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを用いた他は、実施例1と同様に重合を行い、共重合体C2を得た。分析結果を表1に示す。
【0116】
(比較例3)
ジビニルベンゼンの添加量を1.9mL(12.9mmol)に変えた他は、実施例1と同様に重合を行った。得られた共重合体C3はベンゼン、クロロホルムなどに不溶であり、重量平均分子量及びモノマー構造単位のモル比を算出することができなかった。
【0117】
表1に重合条件及び得られた共重合体又は重合体の測定値を示す。
【0118】
【0119】
実施例1~7では、重量平均分子量が高く、かつ溶媒への溶解性の高い共重合体を製造することができた。比較例1及び2に示すとおり、ジアルケニルモノマーを添加しない、又は高温でのラジカル重合を行うと、共重合体の分子量が低くなる。比較例3に示すとおり、ジアルケニルモノマーの仕込み量を上げ過ぎると、共重合体がゲル化する。
【0120】
(精製例1)
実施例4で得られた共重合体をベンゼンに溶解し、得られた溶液にメタノールに滴下して再沈殿し、沈殿物をろ過して回収し、実施例1と同様に分析を行った。生成された共重合体は、ベンゼン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、及びテトラヒドロフランに溶解し、共重合体の重量平均分子量(Mw)は24,000であり、多分散度(Mw/Mn)は3.0であり、モノマー構造単位のモル比は、l=0モル%、m=87モル%、n=13モル%であった。
【0121】
(実施例8)けん化
実施例3で得られた共重合体3(2g)をメタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、30mL)とテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製、5mL)の混合溶媒に溶解し、ナトリウムメトキシドの10質量%メタノール溶液を加えた後、60℃の油浴で20時間加熱した。室温に冷却し、イオン交換樹脂(Dowex)を加えて撹拌した後にろ過し、得られたろ液をアセトンで再沈殿し、得られた固体を乾燥してけん化体(共重合体8)を得た。メタノール-d
4を溶媒とする
1H-NMR測定より、3.3~3.8ppm付近に見られるアリルアルコール由来のメチレンプロトン(-CH
2-OH)の積分比と、6.0~7.5ppm付近に見られるジビニルベンゼン由来プロトン(-C
6H
4-)の積分比から算出した、共重合体8におけるモノマー構造単位のモル比は、l=85モル%、m=0モル%、n=15モル%であった。共重合体8の
1H-NMRスペクトルを
図3に示す。
【0122】
(製膜例1)
実施例8で得られた共重合体8を、固形分濃度が5質量%となるようにエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)に溶解し、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した。得られたろ液を、60μmのコロナ処理した二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムにバーコーターで塗布した後、40℃に設定した熱風乾燥オーブンで10分間加熱乾燥した。その後、80℃に設定した熱風乾燥オーブンで更に10分間加熱乾燥して、共重合体8が5μmの厚みでOPPフィルムの表面にコートされた積層体を得た。この積層体の温度20℃における酸素透過度は、相対湿度0%RHでは150cc/(m2・day・atm)、相対湿度90%RHでは360cc/(m2・day・atm)であり、次式:
酸素透過度の比=高湿度(90%RH)での酸素透過度/低湿度(0%RH)での酸素透過度
で表される酸素透過度の比は、2.4であった。
【0123】
(比較例4)
厚み21μm(バリア層厚み1μm)のPVA(Tg=71.0℃)コートOPPフィルム(三井化学東セロ株式会社製)の酸素透過度は、0%RHでは0.1cc/(m2/day/atm)、90%RHでは600cc/(m2/day/atm)であり、高湿度と低湿度での酸素透過度の比は6000であった。