(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】アルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/04 20060101AFI20241016BHJP
C07C 31/08 20060101ALI20241016BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20241016BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
C07C29/04
C07C31/08
B01J23/30 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020195107
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 季弘
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/090756(WO,A1)
【文献】特開2019-042697(JP,A)
【文献】特開2003-190786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/04
C07C 31/08
B01J 23/30
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸又はその塩が、シリカ担体に担持されたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒の存在下で、炭素原子数2~5のオレフィンを水和反応させてアルコールを製造する、アルコールの製造方法であって、
前記シリカ担持ヘテロポリ酸触媒は、孔径が6nm以下である細孔の総容積が0.05mL/g以下
であり、
前記ヘテロポリ酸又はその塩の担持量は、前記シリカ担体100質量部に対して85~200質量部である、アルコールの製造方法。
【請求項2】
前記ヘテロポリ酸は、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ケイバナドタングステン酸、リンバナドタングステン酸、及びリンバナドモリブデン酸よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記オレフィンはエチレンであり、前記アルコールはエタノールである、請求項1
又は2に記載のアルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィンの水和反応によるアルコールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用エタノールは、有機溶剤、有機合成原料、消毒剤、化学品等の中間体として広く使用される、重要な工業化学製品である。工業用エタノールは、硫酸、スルホン酸といった液体の酸、ゼオライト触媒、タングステン、ニオブ、タンタル等の金属酸化物触媒、あるいはタングストリン酸、タングストケイ酸等のヘテロポリ酸又はリン酸がシリカ担体又は珪藻土担体に担持された固体触媒の存在下で、エチレンの水和反応により得られることが知られている。
【0003】
硫酸、スルホン酸等の液体の酸を触媒とした、液相のエチレン水和反応の場合には、反応に使用された酸の後処理が必要であり、加えて、活性が低いといった問題があり、工業的な利用には制限があった。一方、担体担持型の固体触媒を用いたエチレンの水和反応は、気相反応で実施することができるため、反応物と触媒との分離が容易であり、反応速度的に有利な高温、又は平衡論的に有利な高圧条件で、反応を行うことができる利点がある。
【0004】
固体酸触媒に関しては、これまでに多くの提案がなされており、特に、リン酸が担体に担持された固体酸触媒を用いた気相反応プロセスは、既に工業的に実施されている。しかし、このリン酸が担体に担持された触媒を用いる工業プロセスでは、活性成分であるリン酸の流出が連続的に起こり、その結果、活性及び選択性が低下して、継続的なリン酸の供給が必要となっていた。また、流出したリン酸が装置を腐食するため、反応器やその他の設備の定期的なメンテナンスが必要となり、設備の維持に多くのコストがかかるといった問題があった。加えて、担持リン酸触媒は、水蒸気との接触により、触媒の物理的、及び化学的な劣化が起きる。長期間の使用により、活性の低下をきたし、且つ甚だしいときには担体粒子同士が互いに凝集してブロック状となるため、触媒の取替え、あるいは抜き出し時に、困難性を有する場合があった。このため、エチレンの水和反応において、これらの問題点を解決する新規な担体、及び担持型の触媒開発が行われている。
【0005】
例えば、リン酸が流出するおそれのない、酸化チタンを担体として、酸化チタン及び酸化タングステンを必須成分とする触媒を用いた、エチレンの水和反応が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
また、少なくとも1.23mL/gの平均細孔容積を有するシリカ担体に、リン酸を担持させた担持リン酸触媒を用いた、エチレンの水和反応によるエタノールの製造方法が開示されている(特許文献2参照)。特許文献2に開示された方法によれば、従来の担持リン酸触媒に比べて、収率、及び選択性に優れ、担体の粒子強度の低下を抑制できるとされている。
【0007】
更に、性能の改良されたエチレンの水和反応によるエタノール製造担持型触媒として、ヘテロポリ酸を燃焼法のフュームドシリカに担持した、ヘテロポリ酸系触媒が開示されている(特許文献3参照)。ヘテロポリ酸系触媒の性能を改善する方法として、熱酸で処理されたクレー担体に、ヘテロポリ酸を担持させた触媒も提案されている(特許文献4参照)。
【0008】
一方、オレフィンの水和反応に好適な担持型触媒の担体として、細孔容積、比表面積、及び細孔直径が特定範囲にあるシリカ担体が開示されており、該担体を用いたエチレンの水和反応によるエタノールの製造が例示されている(特許文献5参照)。
【0009】
しかし、特許文献1~5は、触媒の担持成分の流出があったり、エチレン水和の選択性が悪いために、触媒劣化の一因であるコーキングを引き起こしたり、アセトアルデヒド、ブテン等の副生物の生成が十分に抑制されていなかったりして、工業的に利用するにはいまだ十分な状況ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-298122号公報
【文献】特開平10-101601号公報
【文献】特開平8-192047号公報
【文献】特開平8-225473号公報
【文献】特開2003-190786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、副生物であるアセトアルデヒド及びブテンの生成が抑制された、オレフィンの水和反応によるアルコールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、適切な細孔径を有する担体材料を使用して、当該担体材料への触媒担持量を調整して得られる、特定の大きさの細孔の総容積が特定の範囲にあるシリカ担持ヘテロポリ酸触媒を用いれば、エチレン水和反応によるエタノール製造において、副生物の生成を有意に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下の[1]~[4]に関する。
[1]
ヘテロポリ酸又はその塩が、シリカ担体に担持されたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒の存在下で、炭素原子数2~5のオレフィンを水和反応させてアルコールを製造する、アルコールの製造方法であって、
前記シリカ担持ヘテロポリ酸触媒は、孔径が6nm以下である細孔の総容積が0.05mL/g以下である、アルコールの製造方法。
[2]
前記ヘテロポリ酸は、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ケイバナドタングステン酸、リンバナドタングステン酸、及びリンバナドモリブデン酸よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]に記載のアルコールの製造方法。
[3]
前記シリカ担持ヘテロポリ酸触媒における前記ヘテロポリ酸又はその塩の担持量は、前記シリカ担体100質量部に対して50~200質量部である、[1]又は[2]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
[4]
前記オレフィンはエチレンであり、前記アルコールはエタノールである、[1]~[3]のいずれか一項に記載のアルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、孔径が6nm以下である細孔の総容積が0.05mL/g以下であるシリカ担持ヘテロポリ酸触媒を、オレフィン、例えばエチレンの水和反応によるアルコールの製造に使用することで、副生物である、アセトアルデヒド及びブテンの生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例及び比較例で作製したシリカ担持ヘテロポリ酸触媒の細孔径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能である。
【0017】
<アルコールの製造方法>
一実施形態に係るアルコールの製造方法は、シリカ担体にヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸塩が担持されている固体酸触媒(以降、「アルコール製造用触媒」と記載する場合がある。)を用いて、水と炭素原子数2~5のオレフィンとを反応器へ供給し、気相中で水和反応させることで、アルコールを得る方法である。
【0018】
炭素原子数2~5のオレフィンの水和反応によるアルコール製造反応の具体例を、下記式(1)に示す。
【化1】
(式中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、R
1~R
4の合計の炭素原子数は0~3である。)
【0019】
アルコール製造用触媒を用いるオレフィンの水和反応は平衡反応であり、オレフィンの転化率は、最大でも平衡転化率となる。例えば、エチレンの水和によるエタノールの製造における平衡転化率は、温度200℃、圧力2.0MPaGのとき、7.5%と計算される。したがって、オレフィンの水和によるアルコールの製造方法においては、平衡転化率によって最大の転化率が決まり、エチレンの例に見られるように、オレフィンの水和反応は平衡転化率が小さい傾向があるため、工業的には、オレフィンの水和反応を穏やかな条件下で高効率に実施することが強く求められている。
【0020】
一実施形態のアルコールの製造方法に適用される炭素原子数2~5のオレフィンは、特に限定されるものではない。炭素原子数2~5のオレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテン、ペンテン、又はこれらの二種以上の混合物であり、好ましくはエチレンである。
【0021】
オレフィンと水との使用割合に制限はないが、反応速度に対するオレフィンの濃度依存性が大きいこと、水濃度が高い場合には、アルコール製造プロセスのエネルギーコストが上昇することから、オレフィンと水とのモル比は、水:オレフィン=0.01~2.0であることが好ましく、水:オレフィン=0.1~1.0であることがより好ましい。
【0022】
アルコール製造用触媒を用いるオレフィンの水和反応の形式に制限はなく、いずれの反応形式も用いることができる。好ましい形式としては、触媒との分離のし易さ、及び反応効率の観点から、例えば、固定床形式、流動床形式、懸濁床形式等を挙げることができ、より好ましくは、触媒との分離に最もエネルギーを必要としない固定床形式である。
【0023】
固定床形式を用いる場合のガス空間速度は、特に制限されないが、エネルギー、及び反応効率の観点から、好ましくは、500~15000/hr、より好ましくは1000~10000/hrである。ガス空間速度が500/hr以上であれば、触媒の使用量を効果的に削減することができ、15000/hr以下であれば、ガスの循環量を低減することができるため、上記範囲内ではアルコールの製造をより効率的に行うことができる。
【0024】
アルコール製造用触媒を用いるオレフィンの水和反応における反応圧力に制限はない。オレフィンの水和反応は、分子数が減る反応であるから、一般に高圧で行うことが有利である。反応圧力は、好ましくは0.5~7.0MPaGであり、より好ましくは1.5~4.0MPaGである。ここで、「G」はゲージ圧を意味する。反応圧力が0.5MPaG以上であれば、十分な反応速度を得ることができ、7.0MPaG以下であれば、オレフィンの凝縮対策及びオレフィンの蒸発に係る設備の設置、高圧ガス保安対策に係る設備の設置が必要なくなり、更にエネルギーに関するコストをより低減することができる。
【0025】
アルコール製造用触媒を用いるオレフィンの水和反応の反応温度は、特に制限されず、幅広い温度で実施することができる。好ましい反応温度としては、ヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸塩の熱安定性、及び原料の一つである水が凝縮しない温度を考慮すると、100~550℃であり、より好ましくは150~350℃である。
【0026】
アルコール製造用触媒を用いるオレフィンの水和反応では、未反応のオレフィンを反応器へリサイクルすることにより、オレフィンのロスを削減することができる。反応器へ未反応オレフィンをリサイクルする方法に制限はなく、反応器から出てきたプロセス流体からオレフィンを単離してリサイクルしてもよいし、その他の不活性成分と一緒にリサイクルしてもよい。通常、工業グレードのエチレンには、極少量のエタンが含まれていることが多い。したがって、エタンを含んだエチレンを使用して、未反応のエチレンを反応器へリサイクルする際は、エタンの濃縮及び蓄積を防止するために、回収したエチレンガスの一部を系外にパージすることが望ましい。
【0027】
アルコール製造用触媒を用いるオレフィンの水和反応においては、生成したアルコールが脱水し、副生物としてエーテル化合物が生じることがある。例えば、エチレンの水和によりエタノールを得る場合には、ジエチルエーテルが副生する。このジエチルエーテルは、エタノール2分子からの脱水反応により生じるものと考えられ、エチレンの水和反応によりエタノールを製造する場合には、反応の収率を著しく低下させてしまう。副生したジエチルエーテルを反応器にリサイクルすることにより、ジエチルエーテルがエタノールに変換され、エチレンからエタノールを、極めて高効率で製造することができる。副生したエーテル化合物の反応器へのリサイクル方法は、特に制限されないが、例えば、反応器から留出した成分からエーテル化合物を単離して反応器へリサイクルする方法、未反応のオレフィンと一緒にガス成分として反応器へリサイクルする方法などがある。
【0028】
<シリカ担持ヘテロポリ酸触媒(アルコール製造用触媒)>
一実施形態のアルコールの製造方法においては、アルコール製造用触媒として、ヘテロポリ酸又はその塩(本開示において「ヘテロポリ酸塩」ともいう。)が、シリカ担体に担持された固体酸触媒である、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒を用いる。
【0029】
(ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸塩)
ヘテロポリ酸とは、中心元素、及び酸素が結合した周辺元素からなる酸である。中心元素は、通常、ケイ素又はリンであるが、元素周期表の第1族~第17族の多種の元素から選ばれる任意の1つから選択することができる。
【0030】
ヘテロポリ酸を構成する中心元素としては、例えば、第二銅イオン;二価のベリリウム、亜鉛、コバルト又はニッケルのイオン;三価のホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、セリウム、ヒ素、アンチモン、リン、ビスマス、クロム又はロジウムのイオン;四価のケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、バナジウム、硫黄、テルル、マンガン、ニッケル、白金、トリウム、ハフニウム、セリウムのイオン及び他の希土類イオン;五価のリン、ヒ素、バナジウム、アンチモンイオン;六価のテルルイオン;及び七価のヨウ素イオン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ヘテロポリ酸を構成する周辺元素としては、例えば、タングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
このようなヘテロポリ酸は、「ポリオキソアニオン」、「ポリオキソ金属塩」又は「酸化金属クラスター」として、知られている。よく知られているアニオン類のいくつかの構造には、この分野の研究者本人にちなんで名前が付けられたものがあり、例えば、ケギン(Keggin)型構造、ウエルス-ドーソン(Wells-Dawson)型構造、及びアンダーソン-エバンス-ペアロフ(Anderson-Evans-Perloff)型構造が知られている。詳しくは、「ポリ酸の化学」(社団法人日本化学会編、季刊化学総説No.20、1993年)の記載を参照できる。ヘテロポリ酸は、通常、高分子量であり、例えば、700~8500の範囲の分子量を有し、その単量体だけでなく、二量体錯体をも含む。
【0033】
ヘテロポリ酸塩とは、上記のヘテロポリ酸の水素原子の一部又は全てを置換した金属塩又はオニウム塩である。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、バリウム、銅、金、及びガリウムの金属塩、並びにアンモニア等のオニウム塩を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
ヘテロポリ酸は、特に、ヘテロポリ酸が遊離酸又はいくつかの塩の形態である場合には、水又は酸素化溶媒のような他の極性溶媒に対して、比較的高い溶解度を有する。ヘテロポリ酸の溶解度は、適当な対イオンを選択することにより、制御することができる。
【0035】
シリカ担体に触媒として担持させることができるヘテロポリ酸としては、例えば、以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ケイタングステン酸 H4[SiW12O40]・xH2O
リンタングステン酸 H3[PW12O40]・xH2O
リンモリブデン酸 H3[PMo12O40]・xH2O
ケイモリブデン酸 H4[SiMo12O40]・xH2O
ケイバナドタングステン酸 H4+n[SiVnW12-nO40]・xH2O
リンバナドタングステン酸 H3+n[PVnW12-nO40]・xH2O
リンバナドモリブデン酸 H3+n[PVnMo12-nO40]・xH2O
ケイバナドモリブデン酸 H4+n[SiVnMo12-nO40]・xH2O
ケイモリブドタングステン酸 H4[SiMonW12-nO40]・xH2O
リンモリブドタングステン酸 H3[PMonW12-nO40]・xH2O
(式中、nは1~11の整数であり、xは1以上の整数である。)
【0036】
ヘテロポリ酸としては、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ケイバナドタングステン酸、リンバナドタングステン酸、又はリンバナドモリブデン酸が好ましく、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイバナドタングステン酸、又はリンバナドタングステン酸がより好ましい。
【0037】
このようなヘテロポリ酸の合成方法としては、特に制限はなく、どのような方法を用いてもよい。例えば、モリブデン酸又はタングステン酸の塩とヘテロ原子の単純酸素酸又はその塩を含む酸性水溶液(pH1~pH2程度)を熱することによって、ヘテロポリ酸を得ることができる。ヘテロポリ酸化合物は、例えば、生成したヘテロポリ酸水溶液から金属塩として晶析分離して単離することができる。
【0038】
ヘテロポリ酸の製造の具体例は、「新実験化学講座8 無機化合物の合成(III)」(社団法人日本化学会編、丸善株式会社発行、昭和59年8月20日、第3版)の1413頁に記載されているが、これに限定されるものではない。合成したヘテロポリ酸の構造確認は、化学分析のほか、X線回折、UV、又はIRの測定により、行うことができる。
【0039】
ヘテロポリ酸塩の好ましい例としては、上記の好ましいヘテロポリ酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、銅塩、金塩、ガリウム塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。
【0040】
ヘテロポリ酸塩の具体例としては、ケイタングステン酸のリチウム塩、ケイタングステン酸のナトリウム塩、ケイタングステン酸のセシウム塩、ケイタングステン酸の銅塩、ケイタングステン酸の金塩、ケイタングステン酸のガリウム塩;リンタングステン酸のリチウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩、リンタングステン酸のセシウム塩、リンタングステン酸の銅塩、リンタングステン酸の金塩、リンタングステン酸のガリウム塩;リンモリブデン酸のリチウム塩、リンモリブデン酸のナトリウム塩、リンモリブデン酸のセシウム塩、リンモリブデン酸の銅塩、リンモリブデン酸の金塩、リンモリブデン酸のガリウム塩;ケイモリブデン酸のリチウム塩、ケイモリブデン酸のナトリウム塩、ケイモリブデン酸のセシウム塩、ケイモリブデン酸の銅塩、ケイモリブデン酸の金塩、ケイモリブデン酸のガリウム塩;ケイバナドタングステン酸のリチウム塩、ケイバナドタングステン酸のナトリウム塩、ケイバナドタングステン酸のセシウム塩、ケイバナドタングステン酸の銅塩、ケイバナドタングステン酸の金塩、ケイバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドタングステン酸のリチウム塩、リンバナドタングステン酸のナトリウム塩、リンバナドタングステン酸のセシウム塩、リンバナドタングステン酸の銅塩、リンバナドタングステン酸の金塩、リンバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドモリブデン酸のリチウム塩、リンバナドモリブデン酸のナトリウム塩、リンバナドモリブデン酸のセシウム塩、リンバナドモリブデン酸の銅塩、リンバナドモリブデン酸の金塩、リンバナドモリブデン酸のガリウム塩;ケイバナドモリブデン酸のリチウム塩、ケイバナドモリブデン酸のナトリウム塩、ケイバナドモリブデン酸のセシウム塩、ケイバナドモリブデン酸の銅塩、ケイバナドモリブデン酸の金塩、ケイバナドモリブデン酸のガリウム塩等を挙げることができる。
【0041】
ヘテロポリ酸塩としては、ケイタングステン酸のリチウム塩、ケイタングステン酸のナトリウム塩、ケイタングステン酸のセシウム塩、ケイタングステン酸の銅塩、ケイタングステン酸の金塩、ケイタングステン酸のガリウム塩;リンタングステン酸のリチウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩、リンタングステン酸のセシウム塩、リンタングステン酸の銅塩、リンタングステン酸の金塩、リンタングステン酸のガリウム塩;リンモリブデン酸のリチウム塩、リンモリブデン酸のナトリウム塩、リンモリブデン酸のセシウム塩、リンモリブデン酸の銅塩、リンモリブデン酸の金塩、リンモリブデン酸のガリウム塩;ケイモリブデン酸のリチウム塩、ケイモリブデン酸のナトリウム塩、ケイモリブデン酸のセシウム塩、ケイモリブデン酸の銅塩、ケイモリブデン酸の金塩、ケイモリブデン酸のガリウム塩;ケイバナドタングステン酸のリチウム塩、ケイバナドタングステン酸のナトリウム塩、ケイバナドタングステン酸のセシウム塩、ケイバナドタングステン酸の銅塩、ケイバナドタングステン酸の金塩、ケイバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドタングステン酸のリチウム塩、リンバナドタングステン酸のナトリウム塩、リンバナドタングステン酸のセシウム塩、リンバナドタングステン酸の銅塩、リンバナドタングステン酸の金塩、リンバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドモリブデン酸のリチウム塩、リンバナドモリブデン酸のナトリウム塩、リンバナドモリブデン酸のセシウム塩、リンバナドモリブデン酸の銅塩、リンバナドモリブデン酸の金塩、リンバナドモリブデン酸のガリウム塩;ケイバナドモリブデン酸のリチウム塩、又はケイバナドモリブデン酸のナトリウム塩が好ましい。
【0042】
ヘテロポリ酸塩としては、ケイタングステン酸のリチウム塩、ケイタングステン酸のナトリウム塩、ケイタングステン酸のセシウム塩、ケイタングステン酸の銅塩、ケイタングステン酸の金塩、ケイタングステン酸のガリウム塩;リンタングステン酸のリチウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩、リンタングステン酸のセシウム塩、リンタングステン酸の銅塩、リンタングステン酸の金塩、リンタングステン酸のガリウム塩;ケイバナドタングステン酸のリチウム塩、ケイバナドタングステン酸のナトリウム塩、ケイバナドタングステン酸のセシウム塩、ケイバナドタングステン酸の銅塩、ケイバナドタングステン酸の金塩、ケイバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドタングステン酸のリチウム塩、リンバナドタングステン酸のナトリウム塩、リンバナドタングステン酸のセシウム塩、リンバナドタングステン酸の銅塩、リンバナドタングステン酸の金塩、又はリンバナドタングステン酸のガリウム塩がより好ましい。
【0043】
ヘテロポリ酸塩としては、ケイタングステン酸のリチウム塩、又はリンタングステン酸のセシウム塩が特に好適である。
【0044】
(シリカ担体)
ヘテロポリ酸又はヘテロポリ酸塩は、シリカ担体に担持させて使用する。
【0045】
シリカ担体となるシリカに制限はなく、例えば、天然で得られるシリカや、各種シリカ原料を合成して得られる合成シリカを使用することができる。一般に、合成非晶質シリカは、乾式法又は湿式法のいずれかで製造される。四塩化ケイ素を酸素存在下、水素炎中で燃焼する燃焼法は、乾式法に分類され、ケイ酸ナトリウムと鉱酸の中和反応を酸性のpH領域で進行させることにより、一次粒子の成長を抑えた状態で凝集を起こさせるゲル法、アルコキシシランの加水分解を行うゾルゲル法、及びケイ酸ソーダをイオン交換し、活性ケイ酸を調製後、加熱下でpH調整した種粒子含有水溶液中で粒子成長させる水ガラス法は、湿式法に分類される。
【0046】
一般に、燃焼法で得られたシリカは、フュームドシリカ、ゲル法で得られたシリカは、シリカゲル、ゾルゲル法及び水ガラス法で得られたシリカ粒子を水等の媒体に分散させたシリカは、コロイダルシリカ、と呼ばれている。
【0047】
一実施形態のシリカ担体は、燃焼法により得られたフュームドシリカと、ゲル法で得られたシリカゲルと、ゾルゲル法又は水ガラス法で得られたコロイダルシリカとを混練して混練物を得て、得られた混練物を成形して成形体とし、次いで成形体を焼成することにより得ることができる。
【0048】
フュームドシリカ、シリカゲル、及びコロイダルシリカを混練し、成形加工を行い、焼成した場合には、各成分の配合割合、混練方法、焼成条件等によって、焼成後のシリカ担体の一次粒子及び二次粒子の大きさ、及び多孔体の内部状態等が変化する。このため、シリカ担体の高次構造は、規定することができない。シリカ担体の組成式は、SiO2である。
【0049】
フュームドシリカを用いる場合には、特に制限はなく、一般的なフュームドシリカを使用することができる。市販されているフュームドシリカとしては、例えば、アエロジル(商標)(日本アエロジル株式会社製)、レオロシール(商標)(株式会社トクヤマ製)、CAB-O-SIL(商標)(キャボットコーポレーション社製)等を挙げることができる。市販されているフュームドシリカには、親水性と疎水性のグレードがあるが、いずれのものも使用することができる。
【0050】
代表的なフュームドシリカは、物性値として、例えば、一次粒子径7~40nm、比表面積50~500m2/gを有し、多孔質ではなく、内部表面積がなく、非晶質であり、酸化ケイ素としての純度が99%以上と高く、金属及び重金属を殆ど含まないといった特徴を有する。
【0051】
シリカゲルにも特に制限はなく、一般的なシリカゲルを使用することができる。市販されているシリカゲルとしては、例えば、NIPGEL(東ソー・シリカ株式会社製)、MIZUKASIL(水澤化学工業株式会社製)、CARiACT(富士シリシア化学株式会社製)、サンスフェア(AGCエスアイテック株式会社製)等を挙げることができる。
【0052】
一般に、シリカゲルは、珪砂(SiO2)とソーダ灰(Na2CO3)とを混合溶融して得られるケイ酸ソーダガラス(カレット)を水に溶解したケイ酸ソーダを原料に用いて、酸性条件下で、当該ケイ酸ソーダと硫酸のような鉱酸との反応を行って、一次粒子の成長を抑えた状態で凝集を起こさせて、反応液全体をゲル化させることにより製造される。
【0053】
シリカゲルの物性としては特に制限されないが、シリカゲルは、一次粒子が小さく、比表面積が高く、二次粒子が硬いといった特徴を有する。シリカゲルの具体的な物性としては、例えば、BET比表面積が200~1000m2/g、二次粒子径が1~30μm、窒素ガス吸着法(BJH法:Barrett,Joyner,Hallender法)による細孔容積が0.3~2.5mL/gであることが挙げられる。シリカゲルの純度は高いほど好ましく、好ましい純度としては95質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。
【0054】
コロイダルシリカも特に制限されず、一般的なコロイダルシリカを使用することができる。市販されているコロイダルシリカとしては、例えば、スノーテックス(商標)(日産化学株式会社製)、シリカドール(日本化学工業株式会社製)、アデライト(株式会社ADEKA製)、CAB-O-SIL(商標)TG-Cコロイダルシリカ(キャボットコーポレーション社製)、クォートロン(商標)(扶桑化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0055】
コロイダルシリカは、シリカ微粒子を水等の媒体に分散させたものである。コロイダルシリカの製造方法として、水ガラス法と、アルコキシシランの加水分解によるゾルゲル法とがあり、どちらの製法で製造されたコロイダルシリカでも用いることができる。水ガラス法で製造されたコロイダルシリカとゾルゲル法で製造されたコロイダルシリカを組み合わせて使用してもよい。
【0056】
コロイダルシリカの代表的な物性としては、例えば、粒子径が4~80nm、水又は有機溶剤中に分散しているシリカの固形分濃度が5~40質量%であることが挙げられる。コロイダルシリカ中の不純物濃度は、担持する触媒活性成分に影響を及ぼすおそれがあるため、低い方が望ましい。固形分中のシリカ純度は、99質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以上であることがより好ましい。
【0057】
シリカ担体は、フュームドシリカ、シリカゲル、及びコロイダルシリカを混練して混練物を得て、得られた混練物を成形して成形体とした後、成形体を焼成することにより得ることができる。混練の際、適当な添加剤を加えてもよい。
【0058】
フュームドシリカ、シリカゲル、及びコロイダルシリカの配合比は、フュームドシリカ5~50質量部、シリカゲル40~90質量部、コロイダルシリカの固形分5~30質量部とすることが好ましい。より好ましくは、フュームドシリカ15~40質量部、シリカゲル45~70質量部、コロイダルシリカの固形分5~15質量部である。
【0059】
フュームドシリカ、シリカゲル、及びコロイダルシリカを混ぜ合わせる際に、成形性の改善、最終的なシリカ担体の強度向上等を目的として、水又は添加剤を加えることができる。添加剤としては、特に制限されず、一般的なセラミックス成形物を製造する際に使用される添加剤を用いることができる。その目的に応じて、結合剤、可塑剤、分散剤、潤滑剤、湿潤剤、消泡剤等を用いることができる。
【0060】
結合剤としては、例えば、ワックスエマルション、アラビアゴム、リグニン、デキストリン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、澱粉、メチルセルロース、Na-カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギンアンモニウム、トラガントゴム等を挙げることができる。結合剤の種類と濃度によって、混練物の粘性は大きく変化するため、使用する成形法に適した粘性となるように、結合剤の種類と量を適宜選定する。
【0061】
可塑剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート等が挙げられ、可塑剤により混練物の柔軟性を高めることができる。
【0062】
分散剤としては、水系では、例えば、カルボキシメチルセルロースアンモニウム(CMC-NH4)、アクリル酸又はそのアンモニウム塩のオリゴマー、アニオン系界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム、ワックスエマルジョン、モノエチルアミン等の各種アミン、ピリジン、ピペリジン、水酸化テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。非水系では、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステル、合成界面活性剤、ベンゼンスルホン酸等を挙げることができる。これらの分散剤を添加することで、凝集粒子の生成を避け、焼成後に均一な微細構造を持つ、シリカ担体を得ることができる。
【0063】
潤滑剤としては、炭化水素系では、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、塩素化炭化水素等が挙げられ、脂肪酸系では、例えば、ステアリン酸、ラウリル酸、及びその金属塩等、脂肪酸アミド系等を挙げることができる。潤滑剤を添加することにより、粉末間の摩擦を少なくして、流動性をよくし、成形を容易とすることができ、また、型からの成形品の抜き取りが容易となる。
【0064】
シリカ粉末と分散剤とのぬれ特性を向上させるために、湿潤剤を添加することができる。湿潤剤としては、水系では、例えば、非イオン系界面活性剤、アルコール、グリコール等が挙げられ、非水系では、例えば、ポリエチレングリコールエチルエーテル、ポリオキシエチレンエステル等が挙げられる。これらの物質は固液界面に吸着されやすく、界面張力を低下させることにより、固体の濡れをよくする。
【0065】
スラリー系の混練物を取り扱う場合には、非イオン系界面活性剤、ポリアルキレングリコール系誘導体、ポリエーテル系誘導体等の消泡剤を添加することもできる。
【0066】
これらの添加剤は、単独でも使用でき、複数を同時に組み合わせて使用することもできる。添加剤としては、できるだけ少量の添加で効果があり、安価であること、粉末と反応しないこと、水又は溶媒に溶けること、酸化又は非酸化雰囲気中で、例えば400℃以下の比較的低温で完全に分解すること、分解爆発した後に灰分、特にアルカリ金属及び重金属が残らないこと、分解ガスは毒性及び腐食性が無いこと、製品とならなかった破片の再生利用を妨げないことが望ましい。
【0067】
シリカ担体の形状は、特に限定されない。例えば、球状、円柱状、中空円柱状、板状、楕円状、シート状、ハニカム状等が挙げられる。好ましくは、反応器への充填及び触媒活性成分の担持を容易にすることから、球状、円柱状、中空円柱状、又は楕円状であり、更に好ましくは、球状、又は円柱状(ペレット状)である。
【0068】
シリカ担体の粒径も、特に制限はない。担体の粒径は、反応の形態により異なるが、固定床方式で用いる場合には、2mm~10mmであることが好ましく、3mm~7mmであることがより好ましい。
【0069】
シリカ担体の成形方法は、特に限定されない。型込成形、押出成形、転動造粒、噴霧乾燥等の任意の都合のよい方法によって、フュームドシリカ、シリカゲル、及びコロイダルシリカを含む混練物から成形される。
【0070】
一般的な型込成形は、混練物を金属製の型に入れて何度も槌等で打ちながらよく詰め、更にピストンで加圧した後に型から取り出すことを含み、スタンプ成形とも呼ばれている。押出成形は、一般的に、混練物をプレスに詰めてダイス(口金)から押出し、適当な長さに切断して希望する形に成形することを含む。転動造粒は、混練物を斜めに置いた回転円盤上に落とし、粒を円盤上で転がして成長させ、球形とすることを含む。噴霧乾燥は、一般に、あまり大きな粒子にはならないが、濃厚なスラリーを熱風中に噴霧させて多孔質の粒子を得ることを含む。
【0071】
シリカ担体のサイズは、特に制限されない。触媒活性成分を担持する触媒の製造時又は触媒充填時のハンドリング、反応器に充填した後の差圧、触媒反応の反応成績等に影響を与えるため、これらを考慮した大きさとすることが望ましい。シリカ担体は、成形体の焼成時に担体の収縮が起こるため、焼成条件によってサイズが決まる。
【0072】
シリカ担体の大きさ(焼成後)は、シリカ担体が球状の場合には、その直径が0.5mm~12mmであることが好ましく、1mm~10mmであることがより好ましく、2mm~8mmであることが更に好ましい。シリカ担体が球状ではない形状の場合のシリカ担体の大きさ(焼成後)は、大きさを測定した際に最大となる次元の長さが、0.5mm~12mmであることが好ましく、1mm~10mmであることがより好ましく、2mm~8mmであることが更に好ましい。
【0073】
シリカ担体の粒径が0.5mm以上であると、担体製造時の生産性の低下、及び触媒として使用した場合の圧力損失の増大を防止することができる。シリカ担体の粒径が12mm以下であれば、担体内の拡散律速による反応速度の低下、及び副生成物の増加を防止することができる。
【0074】
焼成前又は焼成後に、必要に応じて、マルメライザー(登録商標)(不二パウダル株式会社製)等を用いた処理を行い、シリカ担体の形状を調整してもよい。例えば、焼成前の円柱状の成形体を前記マルメライザー(登録商標)で処理することで、球状に成形することができる。
【0075】
焼成方法は特に制限されないが、添加物を分解し、シリカの構造破壊を防止する観点から、適切な焼成温度の範囲がある。焼成温度は、300℃~1000℃であることが好ましく、500℃~900℃であることがより好ましい。焼成温度がこの範囲であると、添加物が完全に分解され、シリカ担体の性能に悪影響を与えることがない。また、シリカ担体の比表面積も向上する。
【0076】
焼成処理は、酸化及び非酸化のいずれの条件でも実施することができる。例えば、焼成処理を空気雰囲気下で行ってもよく、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。焼成処理の時間についても特に制限はなく、成形体の形状及び大きさ、使用する添加剤の種類及び量等に応じて、適宜決定することができる。
【0077】
シリカ担体のガス吸着法(BJH法:Barrett,Joyner,Hallender法)によるメソ細孔の平均細孔径は、5~16nmであることが好ましい。シリカ担体のガス吸着法(BJH法)によるメソ細孔の平均細孔径は、より好ましくは6~14nmであり、更に好ましくは7~12nmである。シリカ担体のガス吸着法(BJH法)によるメソ細孔の平均細孔径が5~16nmの範囲であると、BET法による比表面積が十分な値となる。
【0078】
シリカ担体のBET法による比表面積(BET比表面積)は、200~500m2/gであることが好ましい。シリカ担体のBET比表面積は、より好ましくは220~400m2/gであり、更に好ましくは240~400m2/gである。シリカ担体のBET比表面積が200~500m2/gの範囲であると、触媒化した場合に十分な反応速度を得ることができる。
【0079】
シリカ担体の嵩密度は、300~700g/Lであることが好ましい。シリカ担体の嵩密度は、より好ましくは400~650g/Lであり、更に好ましくは450~600g/Lである。シリカ担体の嵩密度が300~700g/Lの範囲であると、必要量の活性成分を担持できるとともに、担体の強度も維持できる。
【0080】
(ヘテロポリ酸のシリカ担体への担持方法)
ヘテロポリ酸又はその塩をシリカ担体に担持させる方法には、特に制限はない。一般的には、ヘテロポリ酸又はその塩を溶媒に溶解又は懸濁させて、得られた溶液又は懸濁液を担体に吸収させた後に、溶媒を蒸発させることにより行うことができる。
【0081】
ヘテロポリ酸塩の担体への担持方法としては、例えば、担体にヘテロポリ酸を担持させた後に塩を形成する元素の原料を担持させる方法、ヘテロポリ酸及び塩を形成する元素の原料を担体に一緒に担持させる方法、あらかじめ調製したヘテロポリ酸塩を担体に担持させる方法、塩を形成する元素の原料を担体に担持させた後にヘテロポリ酸を担持させる方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記のいずれの方法においても、ヘテロポリ酸、その塩、及び塩を形成する元素の原料は、適当な溶媒に溶解又は懸濁させて、担体に担持させることができる。このとき用いる溶媒は、ヘテロポリ酸、その塩、又は塩を形成する元素の原料を、溶解又は懸濁できるものであればよく、例えば、水、有機溶媒、又はそれらの混合物等が用いられ、好ましくは水、アルコール、又はそれらの混合物が用いられる。
【0082】
(ヘテロポリ酸のシリカ担体への担持量)
ヘテロポリ酸又はその塩のシリカ担体への担持量は、例えば、ヘテロポリ酸又はその塩を担体の吸水液量相当の蒸留水等に溶解させて、その溶液を担体に含浸させることにより調整することができる。
【0083】
別の実施態様では、ヘテロポリ酸又はその塩のシリカ担体への担持量は、シリカ担体を過剰量のヘテロポリ酸又はその塩の溶液中に適度に動かしながら浸漬し、その後に濾過して、過剰のヘテロポリ酸又はその塩を取り除くことにより調整することもできる。
【0084】
溶液又は懸濁液の容積は、用いる担体、担持方法等により異なる。ヘテロポリ酸又はその塩が含浸された担体を、加熱オーブン内に数時間おいて溶媒を蒸発させることにより、担体に担持された固体酸触媒である、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒を得ることができる。乾燥方法に特に制限はなく、例えば、静置式、ベルトコンベア式等、様々な方法を用いることができる。また、ヘテロポリ酸又はその塩の担体への担持量は、ICP、XRF等の化学分析によって、正確に測定することができる。
【0085】
ヘテロポリ酸又はその塩の担体への担持量は、シリカ担体100質量部に対して、ヘテロポリ酸又はその塩の合計質量を10~300質量部とすることが好ましく、50~200質量部とすることがより好ましく、80~130質量部とすることが更に好ましい。
【0086】
(孔径が6nm以下である細孔の総容積)
ヘテロポリ酸担持量の増加に伴い、シリカ担体の細孔は閉塞していくため、ヘテロポリ酸の担持量を調整することで、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒の細孔径分布を制御することが可能である。
【0087】
シリカ担持ヘテロポリ酸触媒において、ガス吸着法(BJH法:Barrett,Joyner,Hallender法)による孔径が6nm以下である細孔のシリカ担持ヘテロポリ酸触媒1gあたりの総容積は、0.05mL/g以下である。上記総容積は、より好ましくは0.04mL/g以下であり、更に好ましくは0.02mL/g以下である。
【0088】
なお、ガス吸着法(BJH法)による径が6nm以下である細孔の総容積は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0089】
孔径が6nm以下である細孔は、生成されたエタノール及び基質であるエチレンの拡散性が悪いと考えられる。このため、孔径が6nm以下である細孔を減らすことで、エタノールやエチレンの触媒外への拡散性が向上し、触媒内での滞留時間の短縮につながり、その結果、エタノールの逐次反応により生成されるアセトアルデヒド、エチレンの二量化により生成されるブテン等の副生物の生成が抑制される。
【実施例】
【0090】
本発明を更に以下の実施例及び比較例を参照して説明するが、これらの実施例等は本発明の概要を示すものであり、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0091】
(シリカ担持ヘテロポリ酸触媒の細孔径の測定方法)
BJH法により、細孔分布を測定した。具体的には、ガス吸着装置(TriStar3000、株式会社島津製作所製)を用いて、窒素ガス吸着によるシリカ担持ヘテロポリ酸触媒の細孔径分布を測定した。
【0092】
(孔径6nm以下である細孔の総容積の解析)
BJH法により、上記細孔分布の測定と同時に、孔径が6nm以下である範囲の細孔の触媒1g当たりの総容積を解析した。
【0093】
(反応ガスの分析)
サンプリングしたガスは、ガスクロマトグラフィー装置(装置名:7890、アジレント(Agilent)社製)を使用して、複数のカラムと二つの検出器によるシステムプログラムにて、以下の条件で分析した。
・ガスクロマトグラフィー条件:
オーブン:40℃で3分間保持後、20℃/分で200℃まで昇温
キャリアガス:ヘリウム
スプリット比:10:1
・使用カラム:アジレント・テクノロジー社製
HP-1(2m)+GasPro(30m)32m×320μm×0μm
DB-624:60m×320μm×1.8μm
・検出器:
フロント検出器:FID(ヒーター:230℃、水素流量40mL/分、空気流量400L/分)
バック検出器:FID(ヒーター:230℃、水素流量40mL/分、空気流量400L/分)
Aux検出器:TCD(ヒーター:230℃、リファレンス流量45mL/分、メークアップ流量2mL/分)
【0094】
(反応液の分析)
サンプリングした反応液は、ガスクロマトグラフィー装置(装置名:6850、アジレント(Agilent)社製)を使用して分析した。また、反応液中の水濃度は、三菱化学株式会社製のカールフィッシャー分析装置で分析した。
・使用カラム:PoraBONDQ 25m×0.53mmID×10μm
・オーブン温度:100℃で2分間保持後、5℃/分で240℃まで昇温
・インジェクション温度:250℃
・検出器温度:300℃
【0095】
(反応成績の算出方法)
エタノール空時収率、エタノール選択率、アセトアルデヒド選択率、及びブテン選択率は次の式にて求めた。
エタノール空時収率(kg/h/m3)=(1時間あたりに生成したエタノールの質量)/(使用した触媒の体積)
エタノール選択率(%)=(生成したエタノールのモル数/供給したエチレンのモル数)×100
アセトアルデヒド選択率(モル%)=(生成したアセトアルデヒドのモル数/供給したエチレンのモル数)×100
ブテン選択率(モル%)=(生成したブテンのモル数/供給したエチレンのモル数)×100
なお、ブテンは、1-ブテン、2-ブテンの合計量とした。
【0096】
<実施例1>
(シリカ担体Aの作製)
フュームドシリカ(Aerosil(商標)300、日本アエロジル株式会社製)40質量部、シリカゲル(CARiACT G8、富士シリシア化学株式会社製)60質量部、及びコロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学株式会社社製)40質量部をニーダーにて混練した後、水、及び添加剤としてメチルセルロース(SM-4000、信越化学工業株式会社製)と、樹脂系バインダー(セランダー(登録商標)YB-132A、ユケン工業株式会社製)をニーダーに適量入れて更に混練し、混練物を調製した。
【0097】
次いで、3mmφの円孔を先端に設けたダイスを取り付けた押出成形機に、調製した混練物を投入した。押出成形機から押し出された中間物を、長さが3mmになるようにカッターで切断することで、円柱状の焼成前成形体を得た。得られた焼成前成形体を、マルメライザー(登録商標)で球状に成形し、70℃で予備乾燥を行い、次いで、空気雰囲気下、820℃の温度で焼成処理を行うことで、シリカ担体Aを得た。
【0098】
(シリカ担体Aの吸水率の測定)
得られたシリカ担体Aにつき、以下の方法でその吸水率を測定した。
(1)担体約5gを天秤で計量(W1(g))し、100mLのビーカーに入れた。
(2)担体を完全に覆うように、純水(イオン交換水)約15mLをビーカーに加えた。
(3)30分間放置した。
(4)金網の上に担体と純水とを流して、金網によって純水をきり、担体を取り出した。
(5)担体の表面に付着した水を、表面の光沢がなくなるまで紙タオルで軽く押して除去した。
(6)(5)で得られた担体+純水の合計質量を測定した(W2(g))。
(7)以下の式を用いて、担体の吸水率を算出した。
吸水率(g-水/g-担体)(%)=(W2-W1)/W1×100
したがって、担体の吸水量(g)は、「担体の吸水率(g-水/g-担体)(%)×使用した担体の質量(g)」により計算できる。
【0099】
(シリカ担持ヘテロポリ酸触媒1の作製)
市販のKeggin型ケイタングステン酸・26水和物(H4SiW12O40・26H2O、日本無機化学工業株式会社製)15.0gを、100mLのビーカーに量りとり、少量の蒸留水を加えて溶解した後、200mLのメスシリンダーに移液した。次いで、メスシリンダーのケイタングステン酸溶液の液量が、担持するシリカ担体Aの吸水率の95%になる様に蒸留水を加え、全体が均一になるように撹拌した。撹拌後、ケイタングステン酸の水溶液を、200mLのメスフラスコに移液し、次いで、シリカ担体A、30mL(約16g)を200mLメスフラスコに投入し、ケイタングステン酸の水溶液が担体全体に行きわたる様にメスフラスコ内を混合し、ケイタングステン酸をシリカ担体Aに担持させた。ケイタングステン酸が担持されたシリカ担体Aを磁性皿に移し、1時間風乾させた後、130℃に調節した熱風乾燥器で5時間乾燥した。乾燥後、デシケーター内に移して室温になるまで冷却することで、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒1を得た。
【0100】
(ヘテロポリ酸担持量)
作製に用いたヘテロポリ酸の全量が担持されているとみなして、担体100質量部当たりのヘテロポリ酸(ケイタングステン酸)の担持量を表1に示す。
【0101】
(細孔径分布の測定)
得られたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒1について、上記の方法により、細孔径分布を測定した。結果を
図1に示す。
【0102】
(孔径6nm以下である細孔の総容積の解析)
得られたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒1について、上記の方法により、孔径が6nm以下である範囲の細孔の触媒1g当たりの総容積を解析した。結果を表1に示す。
【0103】
(エチレンの水和反応)
得られたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒1を30mL秤量し、SUS製の縦型気相固定床反応器に充填し、窒素ガスで置換した後、2.0MPaGまで昇圧した。次いで、反応器を180℃に加熱し、温度が安定した段階で、GHSV(Gas Hourly Space Velocity)が3000/hr、エチレンに対するモル比が0.3となる量の、蒸発器により気化した水と、エチレンとを反応器にフィードして、エチレンの水和反応を行った。
【0104】
(反応成績の算出)
水とエチレンのフィード後、温度が安定してから、表1に示す目的の触媒層平均温度となるように、反応器の温度を調整した。温度が安定して2時間後から、反応器を通過したガスを冷却し、凝縮した液体(反応液)と、凝縮液(反応液)が取り除かれた反応ガスを、それぞれ1時間サンプリングした。取得した凝縮液(反応液)と反応ガスを、上記の方法でそれぞれ分析し、質量、ガス流量、及び分析結果から、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒1の反応成績を算出した。表1に結果を示す。
【0105】
<実施例2>
(シリカ担体Bの作製)
天然のシリカ粉(純度99.0%、平均細孔径8nm)に、添加剤としてメチルセルロースSM-4000、信越化学工業株式会社製)と、樹脂系バインダー(セランダー(登録商標)YB-132A、ユケン工業株式会社製)を加えて混練物を調製して3mmの球形に転動造粒し、空気雰囲気下、650℃で焼成処理後を行った以外は、シリカ担体Aと同様の方法で、シリカ担体Bを作製した。また、実施例1と同様の方法で、シリカ担体Bの吸水率を測定した。
【0106】
(シリカ担持ヘテロポリ酸触媒2の作製)
シリカ担体Bを30mL(約18g)使用した以外は、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒1と同様にして、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒2を作製した。
【0107】
得られたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒2について、実施例1と同様の方法で、ヘテロポリ酸担持量を算出し、細孔径分布を測定するとともに孔径6nm以下である細孔の総容積の解析を実施した。続いて、実施例1と同様にして、エチレンの水和反応を実施し、反応成績を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
<実施例3>
(シリカ担体Cの準備)
シリカ担体Cとして、シリカゲル(キャリアクトG6、富士シリシア化学社製)を30mL(約19g)用い、実施例1と同様の方法で、シリカ担体Cの吸水率を測定した。
【0109】
(シリカ担ヘテロポリ酸触媒3の作製)
シリカ担体Cを使用し、ケイタングステン酸・26水和物を22.7g用いた以外は、実施例1と同様にして、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒3を作製した。
【0110】
得られたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒3について、実施例1と同様の方法で、ヘテロポリ酸担持量を算出し、細孔径分布を測定するとともに孔径6nm以下である細孔の総容積の解析を実施した。続いて、実施例1と同様にして、エチレンの水和反応を実施し、反応成績を評価した。結果を表1に示す。
【0111】
<比較例1>
(シリカ担体Cの準備)
実施例3と同様のシリカ担体Cを準備した。
【0112】
(シリカ担持ヘテロポリ酸触媒4の作製)
シリカ担体Cを使用した以外は、実施例1と同様にして、シリカ担持ヘテロポリ酸触媒4を作製した。
【0113】
得られたシリカ担持ヘテロポリ酸触媒4について、実施例1と同様の方法で、ヘテロポリ酸担持量を算出し、細孔径分布を測定するとともに孔径6nm以下である細孔の総容積の解析を実施した。続いて、実施例1と同様にして、エチレンの水和反応を実施し、反応成績を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、孔径が6nm以下である細孔の総容積が0.05mL/g以下であるシリカ担持ヘテロポリ酸触媒を用いる、オレフィンの水和反応によるアルコール製造法を提供することで、該反応における副生物の生成を低減することができ、産業上有用である。