(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】白金族元素含有物から塩素浸出液を得る方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/04 20060101AFI20241016BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20241016BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20241016BHJP
C22B 5/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C22B3/04
C22B11/00 101
C22B3/22
C22B5/00
(21)【出願番号】P 2020197148
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】中井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】新宮 正寛
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-270250(JP,A)
【文献】特開2013-104064(JP,A)
【文献】特開2017-133084(JP,A)
【文献】特開2016-148064(JP,A)
【文献】特開平11-229053(JP,A)
【文献】特開2012-126611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金を不純物元素として含
み、銅電解スライムから得られる白金族元素含有物を塩素浸出に供し、その後固液分離処理によって塩素浸出液を得る方法であって、
前記塩素浸出により得られ
、金の含有量が2g/L以上であるスラリー
に対して、前記固液分離処理の前に、還元剤を添加して該スラリーに含まれる金を還元し、
前記固液分離処理により、前記塩素浸出液と、還元金の沈澱物を含む浸出残渣とを分離
し、該塩素浸出液を溶媒抽出法により金を抽出する工程に供する
方法。
【請求項2】
前記還元剤は、ヒドラジンを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒドラジンを、前記スラリーの上澄み液1000Lに対して0.1容量%~0.3容量%の範囲となるように定量添加する、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤は、亜硫酸ナトリウムを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記スラリーの酸化還元電位に基づいて、前記亜硫酸ナトリウムの添加量を制御する、
請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金を不純物元素として含む白金族元素含有物を塩素浸出に供し、その後固液分離処理によって塩素浸出液を得る方法に関するものであり、より詳しくは、金の含有量を効果的に低減させた塩素浸出液を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅電解スライムから貴金属元素を回収する方法として、銅電解スライムを湿式法により脱銅した後、乾式法によりセレン、アンチモン、鉛、錫、ビスマス、テルル等を分離し、最後に金、銀、白金族の合金を得て、この合金を電解操作することを中心とした方法が行われていた。しかしながら、このような従来法では、貴金属を回収するまでの期間が長いために、系内滞留期間中の金利負担が大きくなるという問題のほか、エネルギーの消費量が大きいという問題、工程毎に固形物の運搬をするため自動化が困難であるという問題、排ガスによる作業環境の汚染があるという問題、スライムの組成及び化合物の形態への対応力が低い等の問題があった。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1では、銅電解スライムから簡単な湿式操作のみによって、金、白金族元素、セレン、テルルを選択的に且つ高収率で回収する方法が提案されている。特許文献1に開示の方法によれば、従来法の問題を有効に解決することができる。
【0004】
また、特許文献1に開示の方法を改良する方法として、特許文献2では、大部分の金を回収した後に、イオン交換樹脂により白金族元素を濃縮する工程を付加し、白金族元素濃縮物(以下、「PGM濃縮物」ともいう。PGM:Platinum Group Metals)を得て、白金族元素を優先的に回収する方法が提案されている。
【0005】
具体的には、PGM濃縮物を出発原料として、白金族元素が浸出しやすい条件で塩素浸出を行い、固液分離工程にてPGM浸出液(以下、「塩素浸出液」ともいう)と残渣(浸出残渣)とを得る方法が行われている。得られたPGM浸出液は、塩素浸出によって白金族元素が優先的に浸出されているため、更に後工程で処理することにより白金族元素を効果的に回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-207223号公報
【文献】特開2013-104064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、上述した特許文献2に開示の方法において、塩素浸出により得られたPGM浸出液には、例えば0.2g/L以下程度のわずかな金が含まれていることが知られている。これは、金の大部分を出発原料であるPGM濃縮物に回収していることから、PGM濃縮物に対する浸出処理で得られるPGM浸出液には不可避的に金が残留してしまうことによる。そのため従来から、後工程において溶媒抽出法を利用した処理(Au・Sb-SX)にて金を抽出している。抽出した金は、有機溶媒から還元逆抽出することで還元金粉として回収され、前工程である銅電解スライム浸出工程に繰り返して処理される。
【0008】
ところが、原料事情によっては、PGM濃縮物中の金が従来よりも多く含まれる場合があり、従来通りの操業では、PGM浸出液中に例えば2~4g/L程度(従来比で10倍以上)の金が残留することがある。すると、後工程での溶媒抽出を利用した処理の負荷が大きくなり、操業効率が低下することがある。例えば単純には、単位時間あたり処理液量が10分の1程度となることもあり、溶媒抽出の条件を調整して解決できる範囲ではなく、溶媒抽出装置を増加させる必要も生じて操業コストを増大させてしまう。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、少なくとも金を不純物元素として含む白金族元素含有物を塩素浸出して得られる浸出液中に含まれることになる金を効果的に低減し、例えば後工程での溶媒抽出処理の操業効率低下を防ぐことができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、金を含む白金族元素含有物に対して塩素浸出を施した後、固液分離処理に先立ち、得られたスラリーに対して還元剤を添加して金を還元することで、還元金として効率的に沈澱除去して、浸出液中の金の含有量を有効に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、金を不純物元素として含む白金族元素含有物を塩素浸出に供し、その後固液分離処理によって塩素浸出液を得る方法であって、前記塩素浸出により得られたスラリー対して、前記固液分離処理の前に、還元剤を添加して該スラリーに含まれる金を還元し、前記固液分離処理により、前記塩素浸出液と、還元金の沈澱物を含む浸出残渣とを分離する、方法である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記還元剤は、ヒドラジンを含む、方法である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記ヒドラジンを、前記スラリーの上澄み液1000Lに対して0.1容量%~0.3容量%の範囲となるように定量添加する、方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1の発明において、前記還元剤は、亜硫酸ナトリウムを含む、方法である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記スラリーの酸化還元電位に基づいて、前記亜硫酸ナトリウムの添加量を制御する、方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、得られる浸出液中の金の含有量を効果的に低減することができる。また、これにより、後工程における溶媒抽出処理の操業効率低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態に係る方法の流れの一例を示す工程図である
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
本実施の形態に係る方法は、金を不純物元素として含む白金族元素含有物を塩素浸出に供し、その後固液分離処理によって塩素浸出液を得る方法である。
【0020】
白金族元素含有物は、特に限定されず、銅、ニッケル、コバルト等の非鉄金属製錬からの副産物、自動車排ガス処理触媒等の各種の使用済み廃触媒等から得られる種々の不純物元素を含む白金族元素の濃縮物(以下、「PGM濃縮物」という)等を用いることができる。この方法に用いるPGM濃縮物には、不純物元素として少なくとも金が含まれている。その他の不純物元素としては、主金属である銅、ニッケル、コバルト、鉄等、他の構成元素である銀、鉛、スズ、セレン、テルル、ヒ素、アンチモン、ビスマス等が挙げられる。このような、少なくとも金を不純物元素として白金族元素含有物としては、例えば、アノードスライムを処理して貴金属を濃縮したもの(PGMconc)等が挙げられる。
【0021】
例えば、特許文献2に開示されているように、白金族元素の分離回収においては、PGM濃縮物を塩素浸出に供して、白金族元素を浸出させた浸出液(PGM浸出液、塩素浸出液)を得る処理が行われる。
【0022】
このようなPGM濃縮物を出発原料としてPGM浸出液を得る操業においては、例えば銅電解スライムの成分として金の含有量が多くなる場合や、PGM濃縮物に他工程から回収される白金族元素を含有する残渣や固形物等の雑原料が混合されている場合などでは、塩素浸出により得られるPGM浸出液中の金の含有量が多くなることがある。なお、銅電解スライムの成分として金の含有量が多くなるのは、事業上の要請として金を増産させる必要があって、銅製錬の原料である金鉱石中の金含有量を増加させるような場合があるからである。また、同じく事業上の要請として、雑原料から白金族元素を回収する必要があり、その雑原料には金が高濃度で含まれる場合があるためである。
【0023】
従来、塩素浸出により得られるPGM浸出液中の金の含有量は0.2g/L程度であり、後工程の溶媒抽出処理によって金を分離回収するようにしていたが、上述した実情からPGM浸出液の金の含有量が2~4g/L程度まで増加してしまうと、溶媒抽出処理(Au・Sb-SX)で金を分離するための負荷が限界を超えて高くなる。言い換えると、金が多すぎて溶媒抽出では処理しきれなくなり、例えば処理液量を減らす等の措置が必要となる。
【0024】
このような問題に対して、PGM浸出液中の金の濃度を低下させればよいことは容易に想起されるが、上述した事業上の要請等からプロセスの上流側において原料中の金を減少させる方法の選択はできない。そのため、PGM濃縮物(雑原料との混合物を含む場合がある)を塩素浸出する以降の工程において、適切な手段を講じる必要がある。塩素浸出直後のスラリーの液相(上澄み液)の金濃度を低下させるために、PGM濃縮物の浸出程度を抑える方法も考えられるが、白金族元素の浸出率も低下してしまうため、その手段は選択できない。したがって、PGM濃縮物から白金族元素を優先的に最大限浸出できる条件のもと、得られるPGM浸出液中の金の含有量を有効に低減することが必要となる。
【0025】
そこで、本実施の形態に係る方法では、金を不純物元素として含む白金族元素含有物を塩素浸出に供し、その後固液分離処理によって塩素浸出液を得る方法において、塩素浸出により得られたスラリーに対して、還元剤を添加してそのスラリー(スラリー中の浸出液)に含まれる金を還元する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係る方法の流れを示す工程図である。
図1の工程図に示すように、塩素浸出処理(塩素浸出工程)の後、浸出処理により得られるスラリー(液相の浸出液と浸出残渣との含むスラリー)に対して、還元剤を添加して金を還元する脱金処理を施す(脱金工程)。そして、その後、スラリーを濾過等により固液分離処理を施すことによって、塩素浸出液と、還元金の沈澱物を含む浸出残渣とを分離する(固液分離工程)。なお、「還元金」とは、スラリー中の金イオンを還元して生成する金(金粉末)をいう。
【0027】
このように、上述のように原料事情によって塩素浸出直後のスラリーの液相中の金濃度が例えば2~4g/L程度又はそれ以上に高くなっても、スラリーに対して還元剤を添加して金を還元する処理(脱金処理)を施すことにより、得られるPGM浸出液中の金の含有量を効果的に低減することができる。また、後工程における溶媒抽出処理の操業効率低下を有効に防ぐことができる。
【0028】
ここで、PGM浸出液中の金の含有量を低減させるための脱金処理としては、塩素浸出により得られたスラリー(浸出スラリー)を固液分離し、浸出残渣から分離して回収された浸出液を処理対象とすることも考えられる。また、このような固液分離後の浸出液に還元剤を添加して処理する方法の場合、浸出スラリーに還元剤を添加して処理する場合に比べて、還元剤が液相に対してのみ作用するため、浸出残渣を含むスラリーに対して還元剤を添加したときのその浸出残渣への還元剤の消費分を節約できるメリットがある。
【0029】
しかしながら、固液分離処理の以降で、分離回収した浸出液に対して還元剤を添加して脱金処理を行う方法の場合、その還元反応により浸出液中において金を含む沈澱物が生成するため、改めてその浸出液を固液分離する必要(固液分離工程を別途備える必要)が生じる。このことは、還元剤の使用量が増加すること以上に処理コスト負荷が大きく、操業効率を著しく低下させる原因にもなる。
【0030】
このことから、本実施の形態に係る方法では、塩素浸出により得られたスラリーを脱金処理の対象として、スラリーの固液分離処理の前(固液分離工程の前)に、還元剤を添加して金を還元することを特徴としている。このような方法によれば、浸出液中の金濃度を有効に低減させたことに伴って生成する還元金を主成分とする沈殿物を除去するための固液分離工程を新たに備える必要がなく、効率的な処理を行うことができる。
【0031】
脱金処理において、添加する還元剤としては特に限定されないが、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等を用いることが好ましい。これらの還元剤は、特に安価であり入手が用意であるため、経済効率的な処理を実現しながら、効果的に金を還元することができる。
【0032】
例えば、還元剤のヒドラジンは、上述したように安価で入手しやすい還元剤であるだけでなく、処理温度の範囲において安定して液体状態にある還元剤である。この点において、ヒドラジンを含む還元剤を用いることにより、スラリーが保持された処理槽への還元剤の供給において、供給経路の閉塞等を生じさせることなく、安定的な処理を行うことが可能となる。
【0033】
ただし一方で、ヒドラジンを含む還元剤を用いた処理では、そのヒドラジンの添加に伴うスラリーの酸化還元電位(ORP)の変化が緩やかであるという性質を有する。そのため、スラリーのORPを監視しながら処理を行った場合には、必然的にヒドラジンの添加量が増加する傾向にある。PGM濃縮物を塩素浸出して得られるPGM浸出液には、当然に、分離回収するための白金族元素が含まれているため、ヒドラジンの過剰な添加は、白金族元素の白金(Pt)やパラジウム(Pd)の還元をもたらし、これら白金族元素が浸出残渣(還元されて生成した沈澱物を含む浸出残渣)に分配されてロスとなり、白金族元素の実収率低下を招く原因にもなる。
【0034】
このことから、ヒドラジンを含む還元剤を用いた脱金処理では、スラリーのORPに基づく還元剤添加量の制御よりも、ヒドラジンを定量添加することの方が好ましい。具体的に、ヒドラジンの添加量としては、特に限定されるものではないが、スラリーの上澄み液(液相)1000Lに対して、好ましくは0.1容量%~1.2容量%の範囲、より好ましくは0.2容量%~0.5容量%の範囲、となるように定量添加することが好ましい。このような範囲で定量添加することで、金を優先的に還元して沈澱物化することができ、スラリーに含まれる白金族元素の還元を抑えながら、効果的に処理することができる。
【0035】
ヒドラジンの添加量が0.1容量%未満であると、還元剤量の少なすぎてスラリーの液相に含まれる金を有効に還元できない可能性がある。一方で、ヒドラジンの添加量が1.2容量%を超えると、添加量が過剰となり白金やパラジウム等の白金族元素をも還元する可能性があり、白金族元素の実収率低下を招く。
【0036】
また、例えば、還元剤の亜硫酸ナトリウムは、上述したように安価で入手しやすい還元剤であるため容易に処理プロセスに適用でき、経済効率的な処理を実現しながら、効果的に金を還元することができる。また、亜硫酸ナトリウムは、反応性や応答性という点で優れた還元剤であり、その亜硫酸ナトリウムの添加に伴ってスラリーのORPが適切に応答変化して短時間で安定する。
【0037】
このことから、亜硫酸ナトリウムを含む還元剤を用いた脱金処理では、スラリーのORPを監視し、酸化還元電位の変化に基づいて亜硫酸ナトリウムの添加量を制御することが好ましい。これにより、金を優先的に還元して沈澱物化することができるとともに、還元剤の過剰な添加を防いで白金族元素の白金やパラジウム等の還元を抑制し、それら白金族元素の実収率低下を防止することができる。また、ORPに基づいて還元剤添加量を制御することができるため、処理の自動化も可能となる。
【0038】
ただし一方で、亜硫酸ナトリウムは、ナトリウム塩であることから結晶化する性質があり、その亜硫酸ナトリウムを含む還元剤の供給において、供給経路を構成する配管を閉塞する問題が生じる可能性があり、この点において注意することが好ましい。
【0039】
なお、上述したヒドラジンや亜硫酸ナトリウム等の還元剤の添加に際しては、例えば、予めスラリー中の液相だけに添加する最適量を把握しておき、金の回収量(液からの金の除去量)を監視しながら、添加量を適宜調整するようにしてもよい。
【0040】
脱金処理後(脱金工程後)のスラリーに対する固液分離処理(固液分離工程)について、その方法は特に限定されず、スラリーの液相(上澄み液)を構成する浸出液と、還元により得られた還元金の沈澱物を含む浸出残渣とを効果的に分離できればよい。例えば、濾過等の処理により行うことができる。
【0041】
また、上述したように、脱金処理を、塩素浸出により得られた浸出スラリーを対象として行っていることから、従来と同様に浸出残渣を分離する固液分離処理によって還元生成物である還元金の沈澱物を分離することができ、例えば固液分離処理後に回収されたPGM浸出液を処理対象として脱金処理を行った場合と比較して、その還元金の沈澱物を分離するための別途の固液分離処理が不要となり、効率的な操業が可能となる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[共通条件]
操業中のPGM濃縮物を塩素浸出する現場から、塩素浸出処理を行った直後のスラリー(浸出スラリー)を採取し、スラリーの上澄み(液相のみ)を元液として処理試験を実施した。なお、スラリー採取時期は、PGM濃縮物中の金濃度が高い時期から3通りの時期を選び、下記表1に示す元液を用いた。表1には、塩素浸出した後の液相(残渣なし)の成分組成と性状として酸化還元電位(ORP)を示す。
【0044】
【0045】
処理対象の元液として、脱ガス処理後の液1000Lを採取し、残渣無しの上澄みを使用してバッチ試験を実施した。脱ガス処理においては、元液に対して蒸気を吹き込んで酸性ガスを除去した。引き続き、蒸気を吹き込んで液温が60℃程度となるように元液を調整した。
【0046】
また、実施例1~実施例7における脱金処理においては、還元剤[1]及び還元剤[2]のいずれかを用い、下記する添加量で元液に添加した。
・還元剤[1]:
(種類)亜硫酸ナトリウム(粉体,無水亜硫酸ソーダ)(神州化学社製)
(添加量):ORPを監視して560mV以下となるまで添加。
・還元剤[2]:
(種類)ヒドラジン(液状,水加ヒドラジン60%)(エムジーシー大塚ケミカル社製)
(添加量)液相100mLに対して、0.2、0.4、0.6、0.8vol%(=それぞれ0.2、0.4、0.6、0.8mL)を添加。
【0047】
浸出液中の金属成分分析は、ICP-AES法(測定装置:アジレント社製、型番5100)により行った。
【0048】
[実施例1]
実施例1では、元液Aに対して、還元剤[1]の亜硫酸ナトリウムを用いた脱金処理を行い、ORPを監視して560mVとなるまで還元剤を添加し、元液Aに含まれる金(Au)を還元して還元金の沈澱物を生成させ除去した。下記表2に、脱金処理後の液(脱金後液)の成分分析結果と除去率を示す。
【0049】
【0050】
表2に示すように、脱金後液のAu濃度は0.2g/L未満となり(除去率96.7%)、効果的にAuを低減することができた。また、元液Aに含まれていた白金(Pt)、パラジウム(Pd)の除去率は1.5%未満と低水準となり、脱金処理による白金族元素のロスはほとんど生じなかった。
【0051】
また、その後の脱金後液に対する溶媒抽出処理においても、処理負荷の増大を含めて問題は生じなかった。
【0052】
[実施例2]
実施例2では、脱金処理において、ORPが540mVとなるまで還元剤を添加したこと以外は、実施例1と同様の処理を行った。下記表3に、脱金後液の成分分析結果と除去率を示す。
【0053】
【0054】
表3に示すように、脱金後液のAu濃度は0.2g/L未満となり(除去率99.9%)、効果的にAuを低減することができた。また、元液Aに含まれていたPt、Pdの除去率は1.7%未満と低水準となり、脱金処理による白金族元素のロスはほとんど生じなかった。
【0055】
また、その後の脱金後液に対する溶媒抽出処理においても、処理負荷の増大を含めて問題は生じなかった。
【0056】
[実施例3]
実施例3では、元液Bに対して、還元剤[2]のヒドラジンを用いた脱金処理を行い、元液Bの容量(1000L)に対して0.2容量%(2L)を添加し、元液Bに含まれるAuを還元して還元金の沈澱物を生成させ除去した。下記表4に、脱金後液の成分分析結果と除去率を示す。
【0057】
【0058】
表4に示すように、脱金後液のAu濃度は0.2g/L未満となり(除去率98.8%)、効果的にAuを低減することができた。また、元液Bに含まれていたPt、Pdの除去率は3.5%未満と低水準となり、脱金処理による白金族元素のロスはほとんど生じなかった。
【0059】
また、その後の脱金後液に対する溶媒抽出処理においても、処理負荷の増大を含めて問題は生じなかった。
【0060】
[実施例4]
実施例4では、元液Bの容量(1000L)に対して0.4容量%(4L)の還元剤を添加したこと以外は、実施例3と同様の処理を行った。下記表5に、脱金後液の成分分析結果と除去率を示す。
【0061】
【0062】
表5に示すように、脱金後液のAu濃度は0g/Lとなり(除去率100%)、効果的にAuを低減することができた。また、元液Bに含まれていたPt、Pdの除去率は3.5%未満と低水準となり、脱金処理による白金族元素のロスはほとんど生じなかった。なお、Auの除去率が100%であった結果からして、それ以上の還元剤添加は必要無いことがわかる。
【0063】
また、その後の脱金後液に対する溶媒抽出処理においても、処理負荷の増大を含めて問題は生じなかった。
【0064】
[実施例5]
実施例5では、元液Cを用い、その元液Cに対して実施例3と同様の処理を行った。下記表6に、脱金後液の成分分析結果と除去率を示す。
【0065】
【0066】
表6に示すように、脱金後液のAu濃度は0.2g/L未満となり(除去率99.7%)、効果的にAuを低減することができた。また、元液Cに含まれていたPt、Pdの除去率は3.0%未満と低水準となり、脱金処理による白金族元素のロスはほとんど生じなかった。
【0067】
また、その後の脱金後液に対する溶媒抽出処理においても、処理負荷の増大を含めて問題は生じなかった。
【0068】
[実施例6]
実施例6では、元液Cの容量(1000L)に対して0.4容量%(4L)の還元剤を添加したこと以外は、実施例5と同様の処理を行った。下記表7に、脱金後液の成分分析結果と除去率を示す。
【0069】
【0070】
表7に示すように、脱金後液のAu濃度は0g/Lとなり(除去率100%)、効果的にAuを低減することができた。また、元液Cに含まれていたPt、Pdの除去率は3.6%未満と低水準となり、脱金処理による白金族元素のロスはほとんど生じなかった。なお、Auの除去率が100%であった結果からして、それ以上の還元剤添加は必要無いことがわかる。
【0071】
また、その後の脱金後液に対する溶媒抽出処理においても、処理負荷の増大を含めて問題は生じなかった。
【0072】
[実施例7]
実施例7では、元液Dを用い、その元液Dの容量(1000L)に対して還元剤であるヒドラジンを少量ずつ0.66容量%まで添加したこと以外は、実施例6と同様の処理を行った。下記表7に、少量ずつ添加したヒドラジンの添加量ごとの、得られた脱金後液(脱金後液1~5)の成分分析結果と除去率を示す。
【0073】
【0074】
表8に示すように、ヒドラジンの添加量を増加させるに従って、脱金後液のAu濃度をより低減することができた。例えば特に、還元剤添加量が0.3vol%のときにAu濃度は0.1g/L未満となり(除去率98%)、一方でPtの除去率については6.5%に留めることができた。
【0075】
また、いずれの添加量での処理により得られた脱金後液に対する、その後の溶媒抽出処理においても、処理負荷の増大を含めて問題は生じなかった。
【0076】
[比較例1]
比較例1では、脱金処理を行わず(脱金工程を設けず)に、元液Aに対して溶媒抽出処理を施した。その結果、元液Aに含まれるAuのためか、例えば実施例1、2での溶媒抽出処理に比べて5倍以上の時間が掛かるという問題が生じた。