(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】印刷膜とその処理方法および印刷物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 3/00 20060101AFI20241016BHJP
B05D 3/04 20060101ALI20241016BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20241016BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241016BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241016BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20241016BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B41M3/00 Z
B05D3/04 C
B05D3/06 Z
B05D7/24 303C
B05D7/24 301M
B32B27/18 Z
C09D11/037
B41M1/30 B
(21)【出願番号】P 2021007799
(22)【出願日】2021-01-21
【審査請求日】2023-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-205378(JP,A)
【文献】特開2006-206803(JP,A)
【文献】特開2000-177048(JP,A)
【文献】特開2009-120727(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084774(WO,A1)
【文献】特開2021-70798(JP,A)
【文献】特開2019-25918(JP,A)
【文献】特開2023ー33309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00-3/18
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される印刷膜であって、
印刷膜の表面若しくは近傍において、該印刷膜に含まれる一部の金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部が露出して
おり、
かつ、上記印刷膜の膜厚が0.5μm~100μm、上記金属粒子または金属の酸化物粒子における粒度分布のメジアン値が上記膜厚の1/3以下であることを特徴とする印刷膜。
【請求項2】
抗菌・抗ウィルス性の上記金属粒子が、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子、亜鉛粒子のいずれかで構成されることを特徴とする請求項
1に記載の印刷膜。
【請求項3】
抗菌・抗ウィルス性の上記金属の酸化物粒子が、亜酸化銅粒子で構成されることを特徴とする請求項
1に記載の印刷膜。
【請求項4】
抗菌・抗ウィルス性の金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される印刷膜であって、
印刷膜の表面若しくは近傍において、該印刷膜に含まれる一部の金属の酸化物粒子表面の一部が露出しており、
かつ、抗菌・抗ウィルス性の上記金属の酸化物粒子が、亜酸化銅粒子で構成されることを特徴とする印刷膜。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の印刷膜が基材の表面に形成されていることを特徴とする印刷物。
【請求項6】
上記基材が、紙、木皮、布、プラスチック板、金属板、セラミック板、ガラス板のいずれかで構成されることを特徴とする請求項5に記載の印刷物。
【請求項7】
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを基材の表面に印刷して印刷インクの被膜を形成する印刷工程と、
上記被膜に活性エネルギー線を加えて硬化させ、印刷硬化膜を形成する硬化工程と、
上記印刷硬化膜の表面に大気圧プラズマを照射し、印刷硬化膜の表面若しくは近傍に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆う上記バインダー樹脂を除去して上記金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部を露出させる大気圧プラズマ処理工程、
を有することを特徴とする印刷物の製造方法。
【請求項8】
上記大気圧プラズマ処理工程で用いるプロセスガスが窒素、アルゴンガス、ヘリウムのいずれかを主成分とし、酸素、窒素、水素、水、アンモニアから選択される1種類以上を活性種として上記プロセスガスに添加することを特徴とする請求項7に記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
上記大気圧プラズマ処理工程において、リモート型の大気圧プラズマ発生装置を用いて活性化された活性種を上記印刷硬化膜の表面に照射することを特徴とする請求項7または8に記載の印刷物の製造方法。
【請求項10】
上記印刷工程で用いる抗菌・抗ウィルス性の金属粒子が、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子、亜鉛粒子のいずれかで構成されることを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項11】
上記印刷工程で用いるバインダー樹脂がロジン変性フェノール樹脂で構成されかつ抗菌・抗ウィルス性の金属粒子が銅粒子で構成されると共に、上記大気圧プラズマ処理工程で用いるプロセスガスがアルゴンガスで、かつ、酸素10%と水素4%の混合ガスを上記プロセスガスに添加し、リモート型大気圧プラズマ発生装置の大気圧プラズマヘッドに高周波電源から50W~100Wの電力を印加して、速度30m/分~60m/分で搬送される基材の印刷硬化膜に対し大気圧プラズマを照射することを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項12】
上記印刷工程で用いる抗菌・抗ウィルス性の金属の酸化物粒子が、亜酸化銅粒子で構成されることを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項13】
上記基材が、紙、木皮、布、プラスチック板、金属板、セラミック板、ガラス板のいずれかで構成されることを特徴とする請求項7~12のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【請求項14】
抗菌・抗ウィルス性の亜酸化銅粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される印刷膜であって、一部の亜酸化銅粒子の表面が印刷膜表面から露出している印刷膜の処理方法において、
上記印刷膜表面から露出する亜酸化銅粒子の表面に大気圧プラズマを照射して酸化された一部の酸化銅を亜酸化銅に還元し、上記亜酸化銅粒子の抗菌・抗ウィルス性を活性化させることを特徴とする印刷膜の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される印刷膜に係り、特に、印刷膜表面若しくはその近傍に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部が露出している印刷膜とその処理方法および印刷物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅、銀、ニッケル、亜鉛には、抗菌・抗ウィルス効果を有することが古くから知られている。その中でも、銅や銀の抗菌・抗ウィルス効果は極めて高く、流しの三角コーナーや洗面器、ドアノブ等生活用品にも採用されている。抗菌・抗ウィルス効果は、金属と周囲の水分が反応して生成される活性酸素若しくは水分へ溶け出した微量の金属イオンが細菌の増殖を抑制し、ウィルスを不活性化させるため、あるいは、金属固体表面の接触によるためと考えられている。
【0003】
特に、銅を含む化合物の抗菌・抗ウィルス効果は金属固体表面との接触によることが実証され、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPC)が銅の抗菌効果を2008年に認可し、銅の抗菌・抗ウィルス効果は一層注目されている。
【0004】
現在においては、伸銅品をプレス加工した物品以外に、物品の表面に銅をコーティングし若しくは銅箔を張る方法、銅粒子を繊維やフィルムに含有させる方法、あるいは、銅粒子を紙や布に印刷する方法等その用途は多岐に亘っている。
【0005】
そして、特許文献1には、亜酸化銅粒子を含有する亜酸化銅粒子分散液、該分散液とバインダー樹脂を含有するコーティング剤組成物、および、基材と該基材上に設けられたコーティング剤組成物の被膜とで構成される抗菌・抗ウィルス性部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/132606号パンフレツト(請求項1~3、段落0039参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、抗菌・抗ウィルス性の金属粒子や金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有するコーティング剤組成物の被膜を基材上に形成して特許文献1に記載の抗菌・抗ウィルス性部材とした場合、被膜表面若しくはその近傍に金属粒子や金属の酸化物粒子が存在しても、これ等粒子の表面は、上記被膜で覆われていることがある。
【0008】
このため、コーティング剤組成物の被膜により金属粒子や金属の酸化物粒子の抗菌・抗ウィルス効果が抑制されてしまうことがあった。
【0009】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成され、上記金属粒子や金属の酸化物粒子の抗菌・抗ウィルス効果が十分に発揮される印刷膜とその処理方法、および、該印刷膜が基材表面に形成された印刷物とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者が、抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成された印刷膜の表面に大気圧プラズマを照射してその効果を確認したところ、印刷膜表面若しくはその近傍に存在する金属粒子や金属の酸化物粒子の表面を覆っている印刷膜の樹脂成分が均一に除去され、金属粒子や金属の酸化物粒子の抗菌・抗ウィルス効果が十分に発揮されることを見出すに至った。本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される印刷膜であって、
印刷膜の表面若しくは近傍において、該印刷膜に含まれる一部の金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部が露出しており、
かつ、上記印刷膜の膜厚が0.5μm~100μm、上記金属粒子または金属の酸化物粒子における粒度分布のメジアン値が上記膜厚の1/3以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載の印刷膜において、
抗菌・抗ウィルス性の上記金属粒子が、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子、亜鉛粒子のいずれかで構成されることを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明に記載の印刷膜において、
抗菌・抗ウィルス性の上記金属の酸化物粒子が、亜酸化銅粒子で構成されることを特徴とし、
第4の発明は、
抗菌・抗ウィルス性の金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される印刷膜であって、
印刷膜の表面若しくは近傍において、該印刷膜に含まれる一部の金属の酸化物粒子表面の一部が露出しており、
かつ、抗菌・抗ウィルス性の上記金属の酸化物粒子が、亜酸化銅粒子で構成されることを特徴とし、
第5の発明は、
印刷物において、
第1の発明~第4の発明のいずれかに記載の印刷膜が基材の表面に形成されていることを特徴とし、
第6の発明は、
第5の発明に記載の印刷物において、
上記基材が、紙、木皮、布、プラスチック板、金属板、セラミック板、ガラス板のいずれかで構成されることを特徴とする。
【0013】
次に、第7の発明は、
印刷物の製造方法において、
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを基材の表面に印刷して印刷インクの被膜を形成する印刷工程と、
上記被膜に活性エネルギー線を加えて硬化させ、印刷硬化膜を形成する硬化工程と、
上記印刷硬化膜の表面に大気圧プラズマを照射し、印刷硬化膜の表面若しくは近傍に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆う上記バインダー樹脂を除去して上記金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部を露出させる大気圧プラズマ処理工程、
を有することを特徴とし、
第8の発明は、
第7の発明に記載の印刷物の製造方法において、
上記大気圧プラズマ処理工程で用いるプロセスガスが窒素、アルゴンガス、ヘリウムのいずれかを主成分とし、酸素、窒素、水素、水、アンモニアから選択される1種類以上を活性種として上記プロセスガスに添加することを特徴とし、
第9の発明は、
第7の発明または第8の発明に記載の印刷物の製造方法において、
上記大気圧プラズマ処理工程において、リモート型の大気圧プラズマ発生装置を用いて活性化された活性種を上記印刷硬化膜の表面に照射することを特徴とし、
第10の発明は、
第7の発明~第9の発明のいずれかに記載の印刷物の製造方法において、
上記印刷工程で用いる抗菌・抗ウィルス性の金属粒子が、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子、亜鉛粒子のいずれかで構成されることを特徴とし、
第11の発明は、
第7の発明~第10の発明のいずれかに記載の印刷物の製造方法において、
上記印刷工程で用いるバインダー樹脂がロジン変性フェノール樹脂で構成されかつ抗菌・抗ウィルス性の金属粒子が銅粒子で構成されると共に、上記大気圧プラズマ処理工程で用いるプロセスガスがアルゴンガスで、かつ、酸素10%と水素4%の混合ガスを上記プロセスガスに添加し、リモート型大気圧プラズマ発生装置の大気圧プラズマヘッドに高周波電源から50W~100Wの電力を印加して、速度30m/分~60m/分で搬送される基材の印刷硬化膜に対し大気圧プラズマを照射することを特徴とし、
第12の発明は、
第7の発明~第9の発明のいずれかに記載の印刷物の製造方法において、
上記印刷工程で用いる抗菌・抗ウィルス性の金属の酸化物粒子が、亜酸化銅粒子で構成されることを特徴とし、
第13の発明は、
第7の発明~第12の発明のいずれかに記載の印刷物の製造方法において、
上記基材が、紙、木皮、布、プラスチック板、金属板、セラミック板、ガラス板のいずれかで構成されることを特徴とし、
また、第14の発明は、
抗菌・抗ウィルス性の亜酸化銅粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される印刷膜であって、一部の亜酸化銅粒子の表面が印刷膜表面から露出している印刷膜の処理方法において、
上記印刷膜表面から露出する亜酸化銅粒子の表面に大気圧プラズマを照射して酸化された一部の酸化銅を亜酸化銅に還元し、上記亜酸化銅粒子の抗菌・抗ウィルス性を活性化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される本発明に係る印刷膜によれば、
印刷膜の表面若しくは近傍において、該印刷膜に含まれる一部の金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部が露出しているため、該金属粒子や金属の酸化物粒子の抗菌・抗ウィルス効果を十分に発揮させることが可能となる。
【0015】
また、基材の表面に印刷膜が形成された本発明に係る印刷物の製造方法によれば、
大気圧プラズマ処理工程において、印刷硬化膜の表面に大気圧プラズマを照射し、印刷硬化膜の表面若しくは近傍に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆うバインダー樹脂を除去して上記金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部を露出させるため、金属粒子や金属の酸化物粒子の抗菌・抗ウィルス効果が十分に発揮される印刷物を製造することが可能となる。
【0016】
更に、金属の酸化物粒子が亜酸化銅粒子で構成され、一部の該亜酸化銅粒子の表面が印刷膜表面から露出している本発明に係る印刷膜の処理方法によれば、
印刷膜表面から露出する上記亜酸化銅粒子の表面に大気圧プラズマを照射して酸化された一部の酸化銅を亜酸化銅に還元するため、亜酸化銅粒子の抗菌・抗ウィルス性を活性化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る印刷物の製造方法に用いられる第一実施形態に係る装置の説明図。
【
図2】本発明に係る印刷物の製造方法に用いられる第二実施形態に係る装置の説明図。
【
図3】上記印刷物の製造方法に係る説明図で、
図3(A)は本発明に係る印刷インクを基材の表面に印刷した直後における被膜の断面説明図、
図3(B)は乾燥後の上記被膜が硬化して形成された印刷硬化膜の断面説明図、
図3(C)は上記印刷硬化膜の表面に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆うバインダー樹脂を除去して金属粒子または金属の酸化物粒子の表面が露出された状態を示す断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
[印刷膜]
(1)印刷膜
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成される本発明に係る印刷膜は、
印刷膜の表面若しくは近傍において、該印刷膜に含まれる一部の金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部が露出していることを特徴とする。
【0020】
金属粒子や金属の酸化物粒子による抗菌・抗ウィルス効果は、上述したように、金属と周囲の水分が反応して生成される活性酸素若しくは水分へ溶け出した微量の金属イオンが、細菌の増殖を抑制し、ウィルスを不活性化させるため、あるいは、金属固体表面の接触によるためと考えられている。
【0021】
しかし、金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを用いて形成された印刷膜(印刷硬化膜)において、金属粒子や金属の酸化物粒子が該印刷膜(印刷硬化膜)の表面若しくは近傍に存在していても、これ等粒子の表面が上記バインダー樹脂で覆われていれば、金属粒子から金属イオンが溶け出し難く、抗菌・抗ウィルス作用が発現され難くなる。
【0022】
そこで、本発明においては、上記印刷硬化膜の表面に大気圧プラズマを照射し、印刷硬化膜の表面若しくは近傍に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆うバインダー樹脂を除去し、金属粒子や金属の酸化物粒子の抗菌・抗ウィルス効果が十分に発揮されるようにしたことを特徴とする。
【0023】
すなわち、表面の一部が大気に露出された金属粒子や金属の酸化物粒子は、微量の金属イオンを発生して、抗菌・抗ウィルス効果を十分に発揮することが可能となる。
【0024】
上述した抗菌・抗ウィルス作用に係るいずれのメカニズムにおいても、抗菌・抗ウィルス効果を有効に発揮するには、金属表面が大気に暴露されている方が望ましいことは明らかである。
【0025】
(2)金属粒子、金属の酸化物粒子および印刷膜の膜厚
(2-1)適用される金属粒子としては、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子、亜鉛粒子のいずれかで構成されることが好ましい。これ等の金属粒子は、抗菌・抗ウィルス作用を有し、かつ、安価に入手が可能である。これ等金属の箔や板、メッキ膜は抗菌・抗ウィルス作用を有している。また、適用される金属の酸化物粒子としては、亜酸化銅粒子で構成されることが望ましい。
【0026】
例えば、金属粒子として銅粒子が適用された場合、銅が銅イオンとなり、細菌の増殖を抑制し、ウィルスを不活性化させる。また、金属の酸化物粒子として亜酸化銅粒子が適用された場合、亜酸化銅(Cu2O)と酸化第二銅(CuO)の不均化反応により、細菌の増殖を抑制し、ウィルスを不活性化させる。
【0027】
(2-2)印刷膜の膜厚は0.5μm~100μmが望ましく、1μm~50μmがより好ましい。上記膜厚が100μmを超えると、金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクの使用が大量となり経済的でない。また、上記膜厚が0.5μm未満であると、印刷膜中における金属粒子や金属の酸化物粒子の固着が不十分となることがある。
【0028】
(2-3)一方、上記金属粒子や金属の酸化物粒子における粒度分布のメジアン値は、印刷膜における上記膜厚の1/3以下であることが望ましく、より望ましくは、膜厚の1/3以下でかつ0.05μm以上10μm以下である。上記粒度分布のメジアン値が、膜厚の1/3または10μmの一方を超える金属粒子や金属の酸化物粒子が適用されると、印刷膜の平滑性が損なわれる場合がある。また、上記粒度分布のメジアン値が0.05μm未満であると、印刷インクを調製する際に金属粒子や金属の酸化物粒子の分散が困難となる場合がある。尚、上記金属粒子や金属の酸化物粒子における粒度分布は、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定することができる。
【0029】
[印刷物]
本発明に係る印刷物は上記印刷膜が基材表面に形成されて成るものである。上記基材には、紙、木板、布、プラスチック板、金属板、セラミック板、ガラス板等を用いることができ、これ等基材は、枚葉式であっても、帯状に連続する長尺式であってもよく任意である。また、基材の厚みや大きさは、印刷物の用途に応じて適宜選択される。
【0030】
印刷物の用途としては、紙幣、出版物、包装紙、袋等の包装部材、化粧板や化粧紙等の建築資材、電気機器、衛生用陶器等、広範囲の印刷用品が含まれる。
【0031】
尚、印刷膜表面から露出する金属粒子または金属の酸化物粒子の表面が汚染される等してその抗菌・抗ウィルス性が低下した場合、該印刷膜の表面を、再度、大気圧プラズマ処理することにより、上記抗菌・抗ウィルス性を復活させることも可能である。
【0032】
[印刷物の製造方法]
(1)印刷物の製造方法
本発明に係る印刷物の製造方法は、
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを基材の表面に印刷して印刷インクの被膜を形成する印刷工程と、
上記被膜に活性エネルギー線を加えて硬化させ、印刷硬化膜を形成する硬化工程と、
上記印刷硬化膜の表面に大気圧プラズマを照射し、印刷硬化膜の表面若しくは近傍に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆う上記バインダー樹脂を除去して上記金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部を露出させる大気圧プラズマ処理工程、
を有することを特徴とする。
【0033】
(2)印刷工程
(2-1)印刷インクの構成
本発明の印刷工程で用いる印刷インクは、抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を必須成分とし、着色インクとする場合、着色剤として無機系顔料若しくは有機系顔料(染料)が含まれる。尚、着色剤を含まない印刷インクはOPニス(オーバープリント用ニス)と称される場合がある。
【0034】
上記バインダー樹脂として、セルロース系樹脂、ロジン変性樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂、エポキシ系樹脂、紫外線硬化樹脂等を用いることができる。また、ロジン変性樹脂には、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性ペンタエリスリトールエステル等のロジンエステル類、ロジン変性マレイン酸樹脂類が含まれる。上記紫外線硬化樹脂には、アクリル系紫外線硬化樹脂、ロジン変性エポキシアクリレートが含まれ、光重合開始剤と併用される。また、上記エポキシ系樹脂は、重合開始剤と併用される。これ等のバインダー樹脂は、基材との密着を考慮して適宜選択される。
【0035】
また、印刷インクには、印刷のための流動性が必要で、流動性を付与する水や有機溶剤等の溶剤を含有してもよい。有機溶剤として、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、エーテル系、エステル系溶剤、油脂、炭化水素等を用いることができる。上記エポキシ系樹脂を用いる場合、溶剤としてエポキシ系樹脂と反応して樹脂を硬化させる反応性希釈剤を用いてもよい。紫外線硬化樹脂を用いる場合も、紫外線硬化樹脂と反応して樹脂を硬化させる反応性希釈剤を溶剤として用いてもよい。尚、印刷工程において基材が侵食されない溶剤を選択する必要がある。
【0036】
また、抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子が印刷膜内に均一に分散されるためには、これ等粒子を印刷インクに均一に分散させる必要がある。このため、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有し、金属粒子または金属の酸化物粒子の分散安定性を向上させる分散剤を併用してもよい。
【0037】
市販の分散剤における好ましい具体例としては、
日本ルーブリゾール(株)製 SOLSPERSE3000、SOLSPERSE9000、SOLSPERSE11200、SOLSPERSE13000、SOLSPERSE13240、SOLSPERSE13650、SOLSPERSE13940、SOLSPERSE16000、SOLSPERSE17000、SOLSPERSE18000、SOLSPERSE20000、SOLSPERSE21000、SOLSPERSE24000SC、SOLSPERSE24000GR、SOLSPERSE26000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE28000、SOLSPERSE31845、SOLSPERSE32000、SOLSPERSE32500、SOLSPERSE32550、SOLSPERSE32600、SOLSPERSE33000、SOLSPERSE33500、SOLSPERSE34750、SOLSPERSE35100、SOLSPERSE35200、SOLSPERSE36600、SOLSPERSE37500、SOLSPERSE38500、SOLSPERSE39000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE53095、SOLSPERSE55000、SOLSPERSE56000、SOLSPERSE76500等;
ビックケミー・ジャパン(株)製 Disperbyk-101、Disperbyk-103、Disperbyk-107、Disperbyk-108、Disperbyk-109、Disperbyk-110、Disperbyk-111、Disperbyk-112、Disperbyk-116、Disperbyk-130、Disperbyk-140、Disperbyk-142、Disperbyk-145、Disperbyk-154、Disperbyk-161、Disperbyk-162、Disperbyk-163、Disperbyk-164、Disperbyk-165、Disperbyk-166、Disperbyk-167、Disperbyk-168、Disperbyk-170、Disperbyk-171、Disperbyk-174、Disperbyk-180、Disperbyk-181、Disperbyk-182、Disperbyk-183、Disperbyk-184、Disperbyk-185、Disperbyk-190、Disperbyk-2000、Disperbyk-2001、Disperbyk-2020、Disperbyk-2025、Disperbyk-2050、Disperbyk-2070、Disperbyk-2095、Disperbyk-2150、Disperbyk-2155、Anti-Terra-U、Anti-Terra-203、Anti-Terra-204、BYK-P104、BYK-P104S、BYK-220S、BYK-6919等;
BASFジャパン(株)社製 EFKA4008、EFKA4046、EFKA4047、EFKA4015、EFKA4020、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4060、EFKA4080、EFKA4300、EFKA4330、EFKA4400、EFKA4401、EFKA4402、EFKA4403、EFKA4500、EFKA4510、EFKA4530、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA4800、EFKA5220、EFKA6230、JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL-JDX5050等;
味の素ファインテクノ(株)製 アジスパーPB-711、アジスパーPB-821、アジスパーPB-822等が挙げられる。
【0038】
更に、印刷膜に柔軟性を与えるため、印刷インクに公知の可塑剤を添加してもよい。
【0039】
(2-2)印刷インクの製造方法
公知の分散方法を用いて抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する本発明に係る印刷インクを製造することができる。
【0040】
公知の分散方法としては、樹脂と溶剤で構成されるビヒクル(ワニスとも称される)と溶剤を3ロールミルで混錬してミルベースを調製し、かつ、追加のビヒクルや溶剤および上記金属粒子または金属の酸化物粒子を上記ミルベースに加えレットダウンして分散させる方法、あるいは、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用い、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで金属粒子または金属の酸化物粒子を粉砕かつ溶剤に分散させて分散液を調製し、該分散液にビヒクルを添加する方法等が挙げられる。また、金属粒子または金属の酸化物粒子を分散させる際、上述した分散剤を適宜添加してもよい。更に、印刷適正を図るために印刷インクの粘度が適宜調整される。
【0041】
また、印刷インクにおける金属粒子または金属の酸化物粒子の含有率については、バインダー樹脂と金属粒子または金属の酸化物粒子の合計に対し、0.1質量%~20質量%含まれることが望ましく、0.1質量%~15質量%がより望ましく、0.1質量%~10質量%が更に望ましい。上記含有率が0.1質量%未満である場合、金属粒子や金属の酸化物粒子の抗菌・抗ウィルス作用を発現し難いことがあり、20質量%を超えた場合、印刷膜の色合いにこれ等粒子の色が付き、印刷膜の着色自由度を損なうことがある。また、20質量%を超えてこれ等粒子を含有させた場合、印刷膜中のバインダー樹脂量が少なくなり、一部の金属粒子や金属の酸化物粒子が印刷膜から剥がれることもある。これ等のことを考慮し、バインダー樹脂と金属粒子や金属の酸化物粒子の合計に対し0.1質量%~20質量%の範囲で、印刷膜の色合を加味し適宜設定する。
【0042】
(2-3)印刷方式
抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インクを基材の表面に印刷する方式については、公知の凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷、インクジェット方式等を用いることができる。また、印刷装置については、枚葉式の印刷機、あるいは、輪転機やロータリースクリーン等連続式の印刷機でもよい。
【0043】
(3)硬化工程
印刷された印刷インクの被膜を硬化させて印刷硬化膜にする活性エネルギー線としては、適用されるバインダー樹脂の種類に対応させて、電子線(電子線硬化樹脂)、紫外線(例えばアクリル系紫外線硬化樹脂)、赤外線(例えばエポキシ系熱硬化樹脂)、および、X線、α線、β線、γ線等が例示される。
【0044】
(4)大気圧プラズマ処理工程
(4-1)大気圧プラズマ装置
上記印刷硬化膜の表面に大気圧プラズマを照射し、印刷硬化膜の表面若しくは近傍に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆うバインダー樹脂を除去して金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部を露出させる大気圧プラズマ処理工程で使用する「大気圧プラズマ装置」は、真空設備を必要とせずにプラズマを照射できる装置であり、表面改質や表面汚染物除去、表面を粗化する等の目的で広く使用されている。真空プラズマ装置と同様、電源のタイプは中周波(MHz)、高周波(MHz)、マイクロ波(GHz)があり、周波数が高いほど表面の荒れが少なく均一な効果が期待できるとされている。プラズマガスの主成分(プロセスガス)には窒素、アルゴン、ヘリウム等が用いられ、目的に応じて微量の添加ガス(活性種)が混合される。プロセスガスは設備サイズによるガスコストを加味し決定されることが殆どである。
【0045】
また、添加ガス(活性種)によって有機物の分解除去効果が異なるため、活性種として酸素、窒素、水素、水、アンモニアから選択される1種類以上を上記プロセスガスに添加することが好ましい。活性種として水素を添加した場合、金属の酸化物粒子における表面の還元効果が期待される。すなわち、金属の酸化物粒子として、酸化銅(CuO)粒子と亜酸化銅(Cu2O)粒子を比較した場合、二価の酸化銅(CuO)より一価の亜酸化銅(Cu2O)の方が抗菌・抗ウィルス効果に優れていることが知られている。このため、長期間大気に放置されて亜酸化銅(Cu2O)から酸化銅(CuO)に酸化された金属の酸化物粒子に対し、活性種として水素が添加された大気圧プラズマ処理を行うことで粒子の一部を亜酸化銅(Cu2O)の状態に戻してその抗菌・抗ウィルス性を活性化させることが可能となる。
【0046】
また、大気圧プラズマ装置には、大きく分けて「ダイレクトタイプ」と「リモートタイプ」がある。「ダイレクトタイプ」では大気圧プラズマを照射する対象物がアースとなるのに対し、「リモートタイプ」では大気圧プラズマ装置の内部にアースがあり、プラズマのみが対象物に照射される。大気圧プラズマを照射する対象物表面が均一な導電体あるいは絶縁体でなく導電体と絶縁体が混在する場合、プラズマが不安定になり、雷のようなアークが対象物に向かって発生し、特に、アークは導電体に向かって発生するため対象物にダメージを与えてしまうことがある。大気圧プラズマ装置の内部にアースを有する上記「リモートタイプ」ではアークが発生し難いため、極めて好ましい。
【0047】
(4-2)大気圧プラズマ処理工程の作用効果
図3は、上述した印刷物の製造方法に係る工程説明図で、
図3(A)は本発明に係る印刷インクを基材の表面に印刷した直後における被膜の断面説明図、
図3(B)は乾燥後の上記被膜が硬化して形成された印刷硬化膜の断面説明図、
図3(C)は上記印刷硬化膜の表面に存在する金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆うバインダー樹脂を除去して金属粒子または金属の酸化物粒子の表面が露出された状態を示す断面説明図である。
【0048】
印刷工程の直後における被膜断面を示す
図3(A)から分かるように、乾燥前における印刷インクの被膜302内では、未硬化のバインダー樹脂や溶剤等により金属粒子または金属の酸化物粒子301の一部は基材300から離れ浮いた状態で存在している。
【0049】
硬化工程後における印刷硬化膜303内では、
図3(B)に示すように溶剤が除去されて金属粒子または金属の酸化物粒子301は基材300と接した状態で存在し、かつ、金属粒子または金属の酸化物粒子301の表面は硬化したバインダー樹脂301aで覆われているため、金属粒子または金属の酸化物粒子301から抗菌・抗ウィルス性の金属イオンが溶け出し難くなっている。
【0050】
しかし、大気圧プラズマ処理後における金属粒子または金属の酸化物粒子301表面は、
図3(C)に示すように上記バインダー樹脂301aが除去されて露出しているため、金属粒子や金属の酸化物粒子301の抗菌・抗ウィルス効果が十分に発揮される印刷物を製造することが可能となる。
【0051】
ところで、大気圧プラズマを照射して金属粒子や金属の酸化物粒子表面を処理すると、プロセスガスに含ませた上記活性種のガスにより粒子表面が改質され、金属粒子や金属の酸化物粒子の活性が改善されることがある。例えば、金属粒子として銅粒子が適用された場合、銅は大気中に放置すると酸化銅(CuO)に酸化されるが、上述したように二価の酸化銅(CuO)より一価の亜酸化銅(Cu2O)の方が抗菌・抗ウィルス効果に優れている。このため、プロセスガスに活性種が含まれる大気圧プラズマを照射することにより、二価の酸化銅(CuO)を抗菌・抗ウィルス効果に優れた一価の亜酸化銅(Cu2O)に改質することが可能となる。
【0052】
[印刷物の製造方法に用いられる装置]
(1)第一実施形態に係る装置
第一実施形態に係る装置は、長尺基材が適用されたグラビア印刷装置に関する。
【0053】
すなわち、この装置は、
図1に示すように、紙や布のような長尺基材100を巻き出す巻出コア101と、巻出コア101から巻き出された長尺基材100の表面に抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インク111を印刷するグラビアロール108と、印刷された印刷インクの被膜(
図3Aの符号302で示す被膜参照)を乾燥、硬化させて印刷硬化膜(
図3Bの符号303で示す印刷硬化膜参照)を形成する乾燥ボックス114と、乾燥ボックス114から搬出された長尺基材100に形成された上記印刷硬化膜の表面に大気圧プラズマを照射する大気圧プラズマヘッド126と、照射された大気圧プラズマにより金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆っていたバインダー樹脂が除去されて金属粒子または金属の酸化物粒子表面が露出した長尺基材100を巻き取る巻取コア127とでその主要部が構成されている。
【0054】
以下、第一実施形態に係る装置を用いて本発明に係る印刷物を製造する方法について説明すると、
図1に示すように、巻出コア101から巻き出された長尺基材100は、ガイドロール102、張力センサロール103、ガイドロール104、駆動ロール105、張力センサロール106を経由して圧ロール107に搬入され、かつ、張力センサロール112、駆動ロール113を介して乾燥ボックス114方向へ搬出される。尚、上記巻出コア101から巻き出される長尺基材100の巻出し張力は、張力センサロール103から巻出コア101にフィードバック制御され、かつ、長尺基材100の圧ロール107にかかる抗力は、張力センサロール106から駆動ロール105へ、張力センサロール112から駆動ロール113へフィードバック制御される。
【0055】
また、圧ロール107上を搬送される長尺基材100の表面に、グラビアロール108により抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インク111が印刷される。また、印刷インク111はインクバット110に収容されており、この印刷インク111が
図1に示すようにグラビアロール108表面に付着し、余分なインクはドクターブレード109によりそぎ落とされる。
【0056】
次いで、表面に印刷インク111の被膜が形成された上記長尺基材100は、乾燥ヒータ120、121、122が配置された乾燥ボックス114内へ搬入され、ガイドロール115、116、張力センサロール117、ガイドロール118、駆動ロール119を経由し、上記被膜が乾燥、硬化された印刷硬化膜を表面に有する長尺基材100は乾燥ボックス114から搬出される。また、乾燥中の張力は張力センサロール117から駆動ロール119へフィードバック制御される。
【0057】
尚、第一実施形態においては、乾燥処理や加熱処理で硬化する印刷インクが用いられているため、乾燥ボックス114内に上記乾燥ヒータ120、121、122を配置しているが、紫外線等の活性エネルギー線を加えて硬化する印刷インクが用いられる場合には、上記乾燥ボックス114と大気圧プラズマヘッド126との間に活性エネルギー線照射装置を配置して対応させることが可能である。
【0058】
そして、上記印刷硬化膜が表面に形成された長尺基材100は、ガイドロール123、張力センサロール124、ガイドロール125を経由して巻取コア127に巻き取られるが、ガイドロール123と張力センサロール124間に組み込まれた大気圧プラズマヘッド126から長尺基材100の印刷硬化膜表面に向け大気圧プラズマが照射されて金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆っていたバインダー樹脂は除去される。
【0059】
また、上記大気圧プラズマヘッド126と長尺基材100における印刷硬化膜との間隔は、外乱を避けるため1~5mm程度と狭く設定され、巻取コア127に巻き取られる巻取り張力は、張力センサロール124から巻取コア127へフィードバック制御される。
【0060】
尚、
図1中、モータで駆動するロールにM(モータ)、張力センサロールにTP(テンションピックアップ)、フリーロールにF(フリー)の記号を付している。
【0061】
(2)第二実施形態に係る装置
第二実施形態に係る装置も、長尺基材が適用されたグラビア印刷装置に関する。
【0062】
すなわち、この装置は、
図2に示すように、長尺基材200を巻き出す巻出コア201と、巻出コア201から巻き出された長尺基材200の表面に抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インク211を印刷するグラビアロール208と、印刷された印刷インクの被膜(
図3Aの符号302で示す被膜参照)を乾燥、硬化させて印刷硬化膜(
図3Bの符号303で示す印刷硬化膜参照)を形成する乾燥ボックス214と、水冷駆動ロール
229と対向する位置に配置されかつ乾燥ボックス214から搬出された長尺基材200の印刷硬化膜表面に大気圧プラズマを照射する大気圧プラズマヘッド226と、照射された大気圧プラズマにより金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆っていたバインダー樹脂が除去されて金属粒子または金属の酸化物粒子表面が露出した長尺基材200を巻き取る巻取コア227とでその主要部が構成されている。
【0063】
以下、第二実施形態に係る装置を用いて本発明に係る印刷物を製造する方法について説明すると、
図2に示すように、巻出コア201から巻き出された長尺基材200は、ガイドロール202、張力センサロール203、ガイドロール204、駆動ロール205、張力センサロール206を経由して圧ロール207に搬入され、かつ、張力センサロール212、駆動ロール213を介して乾燥ボックス214方向へ搬出される。尚、上記巻出コア201から巻き出される長尺基材200の巻出し張力は、張力センサロール203から巻出コア201にフィードバック制御され、かつ、長尺基材200の圧ロール207にかかる抗力は、張力センサロール206から駆動ロール205へ、張力センサロール212から駆動ロール213へフィードバック制御される。
【0064】
また、圧ロール207上を搬送される長尺基材200の表面に、グラビアロール208により抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子とバインダー樹脂を含有する印刷インク211が印刷される。また、印刷インク211はインクバット210に収容されており、この印刷インク211が
図2に示すようにグラビアロール208表面に付着し、余分なインクはドクターブレード209によりそぎ落とされる。
【0065】
次いで、表面に印刷インク211の被膜が形成された上記長尺基材200は、乾燥ヒータ220、221、222が配置された乾燥ボックス214内へ搬入され、ガイドロール215、216、張力センサロール217、ガイドロール218、駆動ロール219を経由し、上記被膜が乾燥、硬化された印刷硬化膜を表面に有する長尺基材200は乾燥ボックス114から搬出される。また、乾燥中の張力は張力センサロール217から駆動ロール219へフィードバック制御される。
【0066】
尚、第二実施形態においても、乾燥処理や加熱処理で硬化する印刷インクが用いられているため、乾燥ボックス214内に乾燥ヒータ220、221、222を配置しているが、紫外線等の活性エネルギー線を加えて硬化する印刷インクが用いられる場合には、上記乾燥ボックス214と大気圧プラズマヘッド226との間に活性エネルギー線照射装置を配置して対応させることが可能である。
【0067】
そして、印刷硬化膜が表面に形成された長尺基材200は、張力センサロール228、水冷駆動ロール229、ガイドロール223、張力センサロール224、および、ガイドロール225を経由して巻取コア227に巻き取られるが、上記水冷駆動ロール229と対向する位置に配置された大気圧プラズマヘッド226から長尺基材200の印刷硬化膜表面に向け大気圧プラズマが照射されて金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆っていたバインダー樹脂は除去される。
【0068】
また、上記大気圧プラズマヘッド226と水冷駆動ロール229上を搬送される長尺基材200における印刷硬化膜との間隔は、外乱を避けるため1~5mm程度と狭く設定され、巻取コア227に巻き取られる巻取り張力は、張力センサロール224から巻取コア227へフィードバック制御される。
【0069】
第二実施形態に係る装置においては、上述したように、水冷駆動ロール229上を搬送される長尺基材200に対し大気圧プラズマを照射するため、
図1に示すフローティング状態(空中で)の長尺基材100に対し大気圧プラズマを照射する第一実施形態に係る装置に較べて冷却効果が高く、印刷硬化膜が形成された長尺基材にダメージを与え難い利点を有する。
【0070】
尚、
図2中、モータで駆動するロールにM(モータ)、張力センサロールにTP(テンションピックアップ)、フリーロールにF(フリー)の記号を付している。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0072】
[抗菌・抗ウィルス性印刷物の製造]
本実施例では、抗菌性・抗ウィルス性の金属粒子として粒度分布におけるメジアン値が0.5μmの銅粉末[住友金属鉱山株式会社製UCP-030]を用い、バインダー樹脂として分子量100000のロジン変性フェノール樹脂を用い、油脂である大豆油と炭化水素であるAF7ソルベント(ENEOS社製)を配合して調製した溶剤を用い、かつ、基材にはインクが染み込み難い光沢紙を用いた。
【0073】
(印刷インクの調製)
ロジン変性フェノール樹脂50質量%と上記溶剤50質量%とで構成されるビヒクルを用意し、該ビヒクルと銅粉末と上記溶剤を3ロールミルで混錬してミルベースを調製し、表1の「銅粒子含有量(重量%)」欄に記載した3種類の組成[銅粒子含有量が0重量%、10重量%、20重量%]が調整されるようにビヒクルを上記ミルベースに加えるレットダウンを3ロールミル上で行った。その際、印刷インクの粘度を調整するため上記溶剤を添加した。尚、銅粒子含有量が0重量%の印刷インクについては、上記ビヒクルに粘度調整用の上記溶剤を加えて調製した。また、いずれの印刷インクも、印刷、乾燥後における印刷硬化膜の膜厚が3μmとなるように溶剤で粘度を調整している。
【0074】
(印刷、硬化、大気圧プラズマ処理)
調製された印刷インクを用い、長尺基材である光沢紙表面に、
図1に示した装置により膜厚3μmの印刷硬化膜が形成された印刷物を製造し、更に、下記条件に従って上記印刷硬化膜表面に大気圧プラズマを照射して抗菌・抗ウィルス性印刷物を製造した。
【0075】
すなわち、銅粒子含有量が0重量%の印刷硬化膜が形成された印刷物、銅粒子含有量が10重量%の印刷硬化膜が形成された印刷物、および、銅粒子含有量が20重量%の印刷硬化膜が形成された印刷物に対し、印刷硬化膜との間隔が3mmに設定された大気圧プラズマヘッドによる大気圧プラズマ処理を行った。
【0076】
尚、プロセスガスにはアルゴンを用い、表1の「水素添加有/無」欄に記載された混合ガス(「水素添加有」は酸素10%と水素4%の混合ガス、「水素添加無」は酸素のみ)を上記プロセスガスに添加し、リモート型大気圧プラズマ発生装置の大気圧プラズマヘッド(ヘッド幅は100mm)に高周波電源(13.5MHz)から表1の「プラズマ電力(W)」欄に記載された電力(0W、50W、100W)を印加し、表1の「搬送速度(m/分)」欄に記載された速度(30m/分、60m/分)で搬送される印刷物の印刷硬化膜表面に対して大気圧プラズマを照射した。また、大気圧プラズマの連続照射による熱負荷で各印刷物がダメージを受けないようにするため、印刷物の搬送停止中は高周波電源の高周波をオフにし、印刷物の搬送中のみ高周波電源の高周波をオンにしている。
【0077】
[抗菌・抗ウィルス性印刷物の評価]
(評価サンプル)
表1に記載された条件で製造された各印刷物について50mm四方の正方形を切り出し、試料番号1~30の評価サンプルを得た。
【0078】
(評価)
表1に示す試料番号1~30の評価サンプルに対して、抗菌・抗ウィルス性の評価を行った。
【0079】
(1)抗菌性の評価
抗菌性の評価は、JIS Z 2801に基づき行い、
抗菌活性値が2.0未満を×、
抗菌活性値が2.0以上を〇とした。
【0080】
また、JIS Z 2801に記載の無加工試験片は、印刷加工していない光沢紙とした。
【0081】
(2)抗ウィルス性の評価
抗ウィルス性の評価は、ISO21702に基づき行い、
抗菌活性値が2.0未満を×、
抗菌活性値が2.0以上を〇とした。
【0082】
また、ISO21702に記載の無加工試験片は、印刷加工していない光沢紙とした。
【0083】
(評価結果)
表1に評価結果を示す。
【0084】
【0085】
(1)評価〇の試料番号11[プラズマ電力50(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加有、銅粒子含有量10(重量%)]および試料番号12[プラズマ電力50(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加有、銅粒子含有量20(重量%)]の評価結果、
評価〇の試料番号23[プラズマ電力100(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加有、銅粒子含有量10(重量%)]および試料番号24[プラズマ電力100(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加有、銅粒子含有量20(重量%)]の評価結果、
評価〇の試料番号29[プラズマ電力100(W)、搬送速度60(m/分)、水素添加有、銅粒子含有量10(重量%)]および試料番号30[プラズマ電力100(W)、搬送速度60(m/分)、水素添加有、銅粒子含有量20(重量%)]の評価結果から、
プラズマ電力が50W~100W、搬送速度が30m/分~60(m/分)、かつ、プラズマガスに水素が添加される(水素添加有)条件であると、抗菌・抗ウィルス効果が確認された。
【0086】
(2)他方、「水素添加無」の条件を除き試料番号11、12と同一の条件である試料番号8[プラズマ電力50(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加無、銅粒子含有量10(重量%)]および試料番号9[プラズマ電力50(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加無、銅粒子含有量20(重量%)]では評価が×であり、
「水素添加無」の条件を除き試料番号23、24と同一の条件である試料番号20[プラズマ電力100(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加無、銅粒子含有量10(重量%)]および試料番号21[プラズマ電力100(W)、搬送速度30(m/分)、水素添加無、銅粒子含有量20(重量%)]では評価が×で、
「水素添加無」の条件を除き試料番号29、30と同一の条件である試料番号26[プラズマ電力100(W)、搬送速度60(m/分)、水素添加無、銅粒子含有量10(重量%)]および試料番号27[プラズマ電力100(W)、搬送速度60(m/分)、水素添加無、銅粒子含有量20(重量%)]でも評価が×であることから、
プラズマ電力が50W~100W、搬送速度が30m/分~60(m/分)であると印刷硬化膜表面近傍の銅粒子表面を覆っているバインダー樹脂は除去されるが、添加ガスの酸素により銅粒子表面が酸化され、抗菌・抗ウィルス効果を発揮できないと推測される。
【0087】
(3)尚、活性種としてプロセスガス(アルゴンガス)に添加される酸素と水素の混合ガス(表1の「水素添加有」は酸素10%と水素4%の混合ガス)については、銅粒子の表面を覆っているバインダー樹脂の種類や被膜の厚さ、更には大気圧プラズマの照射条件等によって影響を受けることが考えられるため、混合ガスの酸素と水素の割合は、得られる印刷物の抗菌・抗ウィルス効果を確認して適宜設定すべきと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る印刷物によれば、印刷膜に含まれる一部の抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子表面の一部が露出しているため、これ等粒子の抗菌・抗ウィルス効果を十分に発揮させることが可能となる。このため、上記印刷物を加工して得られる印刷製品は医療分野等で利用される産業上の可能性を有している。
【符号の説明】
【0089】
100 長尺基材
101 巻出コア
102、104、115、116、118、123、125 ガイドロール
103、106、112、117、124 張力センサロール
105、113、119、 駆動ロール
107 圧ロール
108 グラビアロール
109 ドクターブレード
110 インクバット
111 インク
114 乾燥ボックス
120、121、122 乾燥ヒータ
126 大気圧プラズマヘッド
127 巻取コア
200 長尺基材
201 巻出コア
202、204、215、216、218、223、225 ガイドロール
203、206、212、217、228、224 張力センサロール
205、213、219 駆動ロール
229 水冷駆動ロール
207 圧ロール
208 グラビアロール
209 ドクターブレード
210 インクバット
211 インク
214 乾燥ボックス
220、221、222 乾燥ヒータ
226 大気圧プラズマヘッド
227 巻取コア
300 基材
301 抗菌・抗ウィルス性の金属粒子または金属の酸化物粒子
302 乾燥前における印刷インクの被膜
303 印刷硬化膜
301a 金属粒子または金属の酸化物粒子表面を覆うバインダー樹脂