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特許7571591還元剤内装ペレットの製造方法、及び、酸化亜鉛鉱の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】還元剤内装ペレットの製造方法、及び、酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/24 20060101AFI20241016BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20241016BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20241016BHJP
   C22B 19/30 20060101ALI20241016BHJP
   C22B 19/34 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C22B1/24
C22B1/02
C22B7/02 Z
C22B19/30
C22B19/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021016608
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119464
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】原 博之
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 常久
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-084235(JP,A)
【文献】特開2015-120948(JP,A)
【文献】特開2016-166381(JP,A)
【文献】特開2018-104733(JP,A)
【文献】特開2003-293019(JP,A)
【文献】特開2009-097065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼ダストから酸化亜鉛鉱を製造する酸化亜鉛鉱の製造方法に用いる、還元剤内装ペレットの製造方法であって、
前記鉄鋼ダスト及び還元剤に水を加えて混錬する、混錬工程と、
前記混錬工程で得た混錬物に更に水を加えて水分率が10%以上20%以下の含水ペレットを得る、造粒工程と、
前記含水ペレットの水分率が5%以上10%未満となるまで乾燥させて、還元剤内装ペレットを得る、乾燥工程と、
を備え、
前記混錬工程及び前記造粒工程において添加する全ての水を100%としたとき、20%以上の割合の水を前記混錬工程において前記鉄鋼ダスト及び還元剤に添加し、
前記混錬工程及び前記造粒工程においては、混錬を行う混錬機及び造粒を行う造粒機の回転数を、前記含水ペレットの粒度分布が粒径1mm未満の割合が4%以下となるように調整する、
還元剤内装ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記混錬工程及び前記造粒工程において添加する全ての水を100%としたとき、30%以上80%以下の割合の水を前記混錬工程において前記鉄鋼ダスト及び還元剤に添加する、
請求項1に記載の還元剤内装ペレットの製造方法。
【請求項3】
前記混錬工程に投入する前記鉄鋼ダスト及び前記還元剤と合わせたペレット原材料全体の粒度分布を、粒径1.0mm未満の割合が30%以上となるようにペレット原材料の配合を調整する、
請求項1又は2に記載の還元剤内装ペレットの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の還元剤内装ペレットの製造方法によって得た還元剤内装ペレットを還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、
前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施して、粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、
前記粗酸化亜鉛ケーキに乾燥加熱処理を施して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程と、を備え、
前記酸化亜鉛鉱のクロム含有量が0.1重量%以下である、
酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造に用いる還元剤内装ペレットに関する。本発明は、詳しくは、還元焙焼処理によって鉄鋼ダスト等に含まれている亜鉛成分を揮発させて分離回収する工程を含む酸化亜鉛鉱の製造方法に好適に用いることができる、還元剤内装ペレットの製造方法と、これを用いた酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛鉱の一般的な製造方法として、還元焙焼工程(ウェルツ法)により得られた粗酸化亜鉛ダストを、湿式工程においてハロゲン成分を除去し、湿式工程において得られる酸化亜鉛含有の湿式ケーキ(以下、「粗酸化亜鉛ケーキ」と言う)を、乾燥加熱工程において焼成することにより、酸化亜鉛鉱を得る製造方法が広く行われている。
【0003】
上記の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、鉄鋼業における高炉や電気炉から発生し、主成分である酸化鉄以外に、亜鉛成分が相当量含有されている鉄鋼ダストが原材料として広く用いられている。
【0004】
鉄鋼ダストを原材料として用いる酸化亜鉛鉱の製造においては、鉄鋼ダストは、カーボン等の炭素質還元剤とともに、還元焙焼処理を行う還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に投入される。この際に、亜鉛の回収率をより向上させるために、ロータリーキルンに投入する鉄鋼ダストを炭素質還元剤と混合造粒して、予め還元剤が内装されている大きさ5~10mm程度のペレット(以下、「還元剤内装ペレット」と称する)に成形することが広く行われている(特許文献1参照)。
【0005】
又、還元焙焼処理を行うRRKに投入する上記の「還元剤内装ペレット」について、その圧壊強度をペレットとしての許容強度範囲の下限に近い低強度範囲に調整することによって、亜鉛の揮発を促し、これにより亜鉛の回収率を向上させることを企図した「還元剤内装ペレット」の製造方法も提案されている(特許文献2)。
【0006】
ここで、鉄鋼ダストには、通常、一定量以上のクロム(Cr)が含有されている。一方、「還元剤内装ペレット」に含まれる粉コークス等の還元剤は、濡れ性が悪く、鉄鋼ダストに水を加えてペレットとしても、時間の経過に伴い、ペレット自体の崩壊が少しずつ進行していく。このため、必要な乾燥を終えた「還元剤内装ペレット」を、ウェルツ法による還元焙焼工程を行うロータリーキルンに投入した場合、ペレットの上記崩壊部分が、キャリーオーバーして下流側の工程に混入し、最終的には酸化亜鉛焼鉱側に分配されていた。但し、従来においては、鉄鋼ダストのCr品位は、ウェルツ法による粗酸化亜鉛の製造において、問題となるような高品位であることは少なく、酸化亜鉛鉱の品質管理をする上で、鉄鋼ダストのCr品位については、ペレットとして造粒する前の材料段階でCr品位を確認して、特段に高品位な材料の混入を排除することで足りていた。
【0007】
しかしながら、近年、鉄鋼ダストに含まれるクロム量が全体的に増加する傾向にあり、「還元剤内装ペレット」由来の粉末がロータリーキルンからキャリーオーバーすることに起因して、最終製品である酸化亜鉛鉱のクロム品位が、許容範囲を超えて増加してしまうことが頻発するようになっている。これに伴い、「還元剤内装ペレット」のキャリーオーバーをより有効に抑制する手段が求められるようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-261005号公報
【文献】特開2015-120948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、鉄鋼ダストを原材料として用いる酸化亜鉛鉱の製造において、最終製品である酸化亜鉛鉱のクロム品位を、安定的に望ましい低品位範囲に保持することができる「還元剤内装ペレット」を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、還元焙焼工程に投入する「還元剤内装ペレット」の製造を、下記に示す独自のプロセスによって行うことによって、最終製品である酸化亜鉛鉱のクロム品位を、安定的に望ましい低品位範囲に保持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より、具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 鉄鋼ダストから酸化亜鉛鉱を製造する酸化亜鉛鉱の製造方法に用いる、還元剤内装ペレットの製造方法であって、前記鉄鋼ダスト及び還元剤に水を加えて混錬する、混錬工程と、前記混錬工程で得た混錬物に更に水を加えて水分率が10%以上20%以下の含水ペレットを得る、造粒工程と、前記含水ペレットの水分率が5%以上10%未満となるまで乾燥させて、還元剤内装ペレットを得る、乾燥工程と、を備え、前記混錬工程及び前記造粒工程においては、前記鉄鋼ダスト及び還元剤、又は、それらの混錬物に添加する全ての水のうち、20%以上の水を前記混錬工程において、前記鉄鋼ダスト及び還元剤に添加し、前記混錬工程及び前記造粒工程においては、混錬を行う混錬機及び造粒を行う造粒機の回転数を、前記含水ペレットの粒度分布が粒径1mm未満の割合が4%以下となるように調整する、還元剤内装ペレットの製造方法。
【0012】
(2) 前記混錬工程及び前記造粒工程において、前記鉄鋼ダスト及び還元剤、又は、それらの混錬物に添加する全ての水のうち、30%以上80%以下の水を前記混錬工程において、前記鉄鋼ダスト及び還元剤に添加する、(1)に記載の還元剤内装ペレットの製造方法。
【0013】
(3) 前記混錬工程に投入する前記鉄鋼ダスト及び前記還元剤と合わせたペレット原材料全体の粒度分布を、粒径1.0mm未満の割合が30%以上となるようにペレット原材料の配合を調整する、(1)又は(2)に記載の還元剤内装ペレットの製造方法。
【0014】
(4) (1)から(3)の何れかに記載の還元剤内装ペレットの製造方法によって得た還元剤内装ペレットを還元焙焼炉に投入して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程と、前記粗酸化亜鉛ダストに湿式処理を施して、粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、前記粗酸化亜鉛ケーキに乾燥加熱処理を施して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程と、を備え、前記酸化亜鉛鉱のクロム含有量が0.1重量%以下である、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉄鋼ダストを原材料として用いる酸化亜鉛鉱の製造において、最終製品である酸化亜鉛鉱のクロム品位を、安定的に望ましい低品位範囲に保持することができる「還元剤内装ペレット」を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の還元剤内装ペレットの製造方法、及び、本発明に係る「還元剤内装ペレット」を用いて行うことができる酸化亜鉛鉱の製造方法の好ましい実施態様について説明する。但し、本発明は、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0017】
<全体プロセス>
本発明によって得ることができる「還元剤内装ペレット」は、以下に説明する酸化亜鉛鉱の製造を行う全体プロセスに投入する原材料として好ましく用いることができる。このプロセスにおいては、少なくともその一部が「還元剤内装ペレット」である一次原材料を還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストから、塩素、フッ素及びカドミウムを分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキと二次原材料とを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱(焼鉱)を得る乾燥加熱工程が順次行われる。
【0018】
<還元剤内装ペレット、及び、その製造方法>
[還元剤内装ペレット]
本発明の還元剤内装ペレット(以下、単に「還元剤内装ペレット」とも言う)は、鉄鋼ダストから酸化亜鉛鉱を製造する酸化亜鉛鉱の製造方法において、還元焙焼工程を行うロータリーキルンに投入する一次原材料として用いることができる。
【0019】
「還元剤内装ペレット」は、混錬、造粒、乾燥に係る各製造条件を独自の範囲内に特定した本発明の「還元剤内装ペレットの製造方法」によって得ることができる。この「還元剤内装ペレット」は、適切に乾燥させた後、ロータリーキルンに投入する直前における粒度分布が、-1mmの割合が6%以下とされている。尚、この粒度分布は、3%以下であることがより好ましい。このような「還元剤内装ペレット」を用いることにより、不要なキャリーオーバーを抑制して、本来、残滓としてクリンカー側に分配されるべきであるクロム成分が粗酸化亜鉛ダスト側に分配されてしまうことを防ぎ、酸化亜鉛鉱のクロム品位を好ましい低品位範囲に維持することができる。本発明の「還元剤内装ペレット」を用いることにより、具体的には、酸化亜鉛鉱のクロム含有量を0.1重量%以下とすることができ、より好ましくは、0.05重量%とすることもできる。又、製品である酸化亜鉛鉱のクロム品位を監視しながら、1%のクロムを含有する鉄鋼ダストであっても増処理が可能となり、製品の生産性を向上させることが出来る。
【0020】
[還元剤内装ペレットの製造方法]
「還元剤内装ペレット」は、鉄鋼ダスト及び還元剤に水を加えて混錬する、混錬工程、混錬工程で得た混錬物に更に水を加えて含水ペレットを得る、造粒工程、含水ペレットを乾燥させて、還元剤内装ペレットを得る、乾燥工程と、を順次行う工程である。
【0021】
(混錬工程)
混錬工程は、鉄鋼ダスト及び還元剤に水を加えて混錬する工程である。この工程は、具体的には、鉄鋼ダストと還元剤に水を加え、例えば、二軸に撹拌羽根を取り付け、これを回転させることで混錬する混錬機である不等速二軸型混錬機を使用して混錬することによって行うことができる。
【0022】
本発明の製造方法においては、ペレット原材料に水分を加える全工程(即ち、この混錬工程と引続き行われる造粒工程)において、ペレットを形成するペレット原材料(即ち、鉄鋼ダスト及び還元剤、又は、それらの混錬物)に添加する全ての水のうち、20%以上の水を、この混錬工程において、上記ペレット原材料に加えるようにする。又、上記のペレット原材料に添加する全ての水のうち、この混錬工程において加えられる水の上記割合は、30%以上80%以下とすることがより好ましく、45%以上55%以下とすることが最も好ましい。
【0023】
又、混錬工程においては、この工程、及び、この工程に引続き行われる造粒工程を経た直後のペレット(本明細書において「含水ペレット」と称する)の粒度分布が、粒径1mm未満の割合が4%以下、より好ましくは1%以下となるような条件で混錬工程を行う。具体的には、上記粒度分布がそのような分布となるように、混錬を行う混錬機(一例として上述の「不等速二軸型混錬機」)の回転数を調整する。又、上記の含水ペレットの粒度分布の上限側については、粒径4.0mm以上の割合が50%以上となる程度にまで造粒を促進させることが好ましいが、一方で、亜鉛揮発促進の観点から、粒径11.2mm以上の割合は20%以下、より好ましくは15%以下に留めることが好ましい。尚、混錬機の回転数は、上記の粒度分布が達成できる限りにおいて、最も大きな回転数とすることがより好ましい。
【0024】
又、本発明の製造方法においては、この混錬工程に投入する鉄鋼ダスト及び還元剤と合わせたペレット原材料全体の粒度分布を、粒径1.0mm未満の割合が30%以上となるように、使用するペレット原材料の配合を調整することが好ましい。例えば、石油コークスから得られるPCカーボンは、上記の粒度分布要件を満たしており、本発明に主として用いる還元剤として好ましい。このように、粒径の小さい原料を一定量、混ぜることで、その他の部分が濡れ性の悪い原料であっても、還元剤内装ペレットの乾燥後の崩壊を最小限に抑えることができる。
【0025】
[造粒工程]
造粒工程は、混錬工程で得た混錬物に更に水を加えて「含水ペレット」を得る工程である。この「含水ペレット」の水分率は10%以上20%以下とすればよく、12%以上18%以下とすることが好ましい。又、この工程は、具体的には、混錬工程を経たペレット原材料の混錬物に更に水を加え、例えば、二軸に羽根を取り付け、これを回転させることで造粒する不等速二軸型造粒機を使用して造粒することによって行うことができる。
【0026】
本発明の製造方法においては、ペレット原材料に水分を加える全工程(即ち、混錬工程及び造粒工程)において、ペレットを形成するペレット原材料(即ち、鉄鋼ダスト及び還元剤、又は、それらの混錬物)に添加する全ての水のうち、80%以下の水を、この造粒工程において、上記混錬工程を経たペレット原材料に添加する。又、上記のペレット原材料に添加する全ての水のうち、この造粒工程において添加する水の上記割合は、20%以上70%以下とすることがより好ましく、45%以上55%以下とすることが最も好ましい。
【0027】
又、造粒工程においては、この工程を経た直後の「含水ペレット」の粒度分布が、粒径1mm未満の割合が4%以下、より好ましくは1%以下となるような条件で造粒工程を行う。具体的には、記粒度分布がそのような分布となるように、造粒を行う造粒機(一例として上述の「不等速二軸型造粒機」)の回転数を調整する。又、上記の含水ペレットの流動分布の上限側については、粒径4.0mm以上の割合が50%以上となる程度にまで造粒を促進させることが好ましいが、一方で、亜鉛揮発促進の観点から、粒径11.2mm以上の割合は20%以下、より好ましくは15%以下に留めることが好ましい。尚、造粒機の回転数は、上記の粒度分布が達成できる限りにおいて、最も大きな回転数とすることがより好ましい。
【0028】
[乾燥工程]
乾燥工程は、造粒工程で得た、水分率を10%以上20%以下とした「含水ペレット」を、水分率が5%以上10%未満となるまで乾燥させて、「還元剤内装ペレット」を得る工程である。この工程は、所謂エイジング処理を行う工程であるが、目安として、屋内で7日間以上、自然乾燥させることで十分な乾燥を行うことができる。
【0029】
ここで、未加工で還元ロータリーキルンに投入する鉄鋼ダストの水分率は、通常7~8%程度である。従来において、この鉄鋼ダストについては、還元焙焼ロータリーキルン等への搬送設備への付着や発塵は生じておらず、問題無く搬送することができている。「還元剤内装ペレット」も、同程度の水分率とすることによって、各搬送設備への付着や発塵を防止することができる。この観点から、「還元剤内装ペレット」の水分率は、5%以上8%以下とすることがより好ましい。
【0030】
<酸化亜鉛鉱の製造方法>
[還元焙焼工程]
還元焙焼工程は、上記の「還元剤内装ペレット」を含む亜鉛を含有する一次原材料を還元焙焼することによって粗酸化亜鉛ダストを得る工程である。還元焙焼処理は、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)によって行われる。還元焙焼工程において、「還元剤内装ペレット」は、還元剤を内装する処理が行われていない鉄鋼ダスト、コークス等の還元剤、石灰石等のフラックスとともにRRKに投入され、還元雰囲気で炉内最高温度の平均が1050~1200℃の下で焙焼される。このRRKでは鉄鋼ダストに含まれる亜鉛が還元、揮発、再酸化され、塩素、フッ素等の不純物を含む粗酸化亜鉛ダストとして回収される。
【0031】
[湿式工程]
湿式工程は、還元焙焼工程において回収された粗酸化亜鉛ダストから、湿式処理によって水溶性不純物を除去して、粗酸化亜鉛ケーキを得る工程である。
【0032】
湿式工程においては、粗酸化亜鉛ダストをレパルプすることにより、粗酸化亜鉛を含有するスラリーとする。この処理により、粗酸化亜鉛ダストに含有されていた主に塩素等のハロゲン不純物、カドミウムが処理液中に分配される。そして、不純物が十分に除去された上記のスラリーが、真空吸引型脱水機等によって脱水されて、酸化亜鉛含有の湿式ケーキ(粗酸化亜鉛ケーキ)となる。又、鉄鋼ダストに主成分として含まれる鉄は、フラックスとして加えられた石灰石とともに、クリンカーとして排出される。
【0033】
[乾燥加熱工程]
乾燥加熱工程は、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを焼成して乾燥加熱処理を施すことによって、酸化亜鉛鉱(焼鉱)を得る工程である。焼成処理は、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)によって行われる。乾燥加熱工程においては、粗酸化亜鉛ケーキを、DRKに投入して焼成することにより、塩素等のハロゲン不純物、カドミウムの濃度を更に低減させて、酸化亜鉛鉱(焼鉱)とする。
【0034】
尚、この乾燥加熱工程においては、他所で亜鉛含有原料を還元揮発して得られた粗酸化亜鉛を二次原材料として併せて処理することもできる。
【実施例
【0035】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(ペレット原材料)
各実施例及び比較例の還元剤内装ペレットを製造するためのペレット原材料として、鉄鋼ダスト及び還元剤としてのPCカーボンを用いた。ペレット原材料中における、鉄鋼ダストと還元剤との含有量比は、重量比において1130:181とした。尚、鉄鋼ダストに含まれている亜鉛を還元揮発させるために必要な還元剤量を所定の計算方法からカーボン率13%と求め、鉄鋼ダストの水分率8.8%、PCカーボンの水分率15.3%を加味して、上記含有量比を決定した。又、上記の「ペレット原材料」中におけるクロム含有量は(平均)0.8%であった。
【0037】
上記のペレット原材料の粒度分布、即ち、混錬工程に投入する前の段階における鉄鋼ダストとPCカーボンとを合わせたペレット原材料全体の粒度分布は、下記表1に示す通りであった。同表に示す通り、粒径の小さいPCカーボンを13%の割合で添加した結果、上記粒度分布は、-1mmの割合が30%以上を占めている。
【0038】
尚、本実施例における粒度分布の測定方法は、以下の何れにおいても、測定対象とする粉体又は粒体から抽出したサンプルを、最も大きいメッシュサイズから1サイズずつ小さいメッシュに変更しながら、各メッシュサイズ毎に10回ずつの篩かけを行う方法により行った。
【0039】
【表1】
【0040】
(混錬工程・造粒工程)
鉄鋼ダスト及び還元剤からなる上記のペレット原材料を、不等速二軸型混錬機(株式会社新日南製の「ダウ・ミキサー(登録商標)」)によって混錬し、これに続いて、上記ペレット原材料の混錬物を、不等速二軸型造粒機(株式会社新日南製の「ダウ・ペレタイザー(登録商標)」)によって造粒することによって、各実施例及び比較例の「含水ペレット」を得た。上記の一連の工程(混錬工程及び造粒工程)における、単位時間当りのペレット原材料の処理量は、鉄鋼ダスト:16.6wt/h、PCカーボン:2.67wt/hとした。
【0041】
上記の一連の工程(混錬工程及び造粒工程)における、単位時間当りの全ての水(淡水)の添加量の合計は、1.3mとした。そして、この全ての水の添加量の各工程毎における添加量の割合(単位時間当りの添加量の重量比)は、各実施例・比較例毎に、下記表2に記載の通りの割合とした。
【0042】
又、上記各混錬機及び造粒機の回転数は、各実施例・比較例毎に、下記表2に記載の通りとした。
【0043】
【表2】
【0044】
(乾燥工程)
表2において、実施例1~3、比較例として示した4つの異なる混錬及び造粒条件の下でそれぞれ得られた、各含水ペレットを、屋内(気温20°~40°、湿度40%~80%)において4日~最大17日間の乾燥工程に付すことによって、各実施例・比較例の還元剤内装ペレットを得た。
【0045】
(還元剤内装ペレット)
【0046】
表2において、実施例1~3、比較例としてそれぞれ示した4つの異なる混錬及び造粒条件の下でそれぞれ得られた、含水ペレットについて、乾燥工程の初日、3日目、7日目、17日目において、水分率を測定した。水分率の測定方法は、105℃で24時間乾燥させ、この乾燥前後の重量差から算定した。各実施例、比較例の含水ペレット(或いは乾燥の進んだ還元剤内装ペレット)の乾燥工程中における水分率の推移を、表3に示した。
【0047】
又、上記各含水ペレットについて、乾燥工程の初日と、17日目において、粒度分布を測定した。粒度分布の測定は、含水ペレット(乾燥工程初日)、或いは、十分に乾燥の進んだ還元剤内装ペレット(乾燥工程17日目)から、それぞれ500gを抽出したサンプルについて、上述した篩分けによる「粒度分布の測定方法」を行うことによって実施した。各実施例、比較例の含水ペレット(或いは乾燥の進んだ還元剤内装ペレット)の乾燥工程前後における粒度分布の推移を表4に示した。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
(酸化亜鉛鉱)
上述の「全体プロセス」、即ち、還元焙焼工程、湿式工程、乾燥加熱工程を順次行うプロセスによって、酸化亜鉛鉱の製造を行う製造プラントにおいて、実施例1~3及び比較例それぞれの製造条件で製造した還元剤内装ペレットを用いて、試験操業を行い、それぞれ異なる還元剤内装ペレットを用いた場合毎の最終製品(酸化亜鉛鉱)中のクロム含有量を測定した。クロム含有量の測定は蛍光X線分析法によって行った。結果は、表5に示す通りであった。尚、表5には、各実施例、比較例の還元剤内装ペレットについて、-1.0mmの微粉末の割合(粒度分布(%))を合わせて示した。
【0051】
【表5】
【0052】
(乾燥工程における含水ペレットの水分率の推移について)
表3に示す通り、乾燥工程初日の水分率は、全ての実施例及び比較例の平均値で、15.7%であった。乾燥工程を終えた17日目には、水分率は、同様の平均値で、6.2%となった。製造条件の異なる何れの含水ペレットについても、自然乾燥中は、7日目までは、比較的急速に、平均で7.1%まで水分率が減少し、それ以降17日目までは水分率の減少速度は比較的緩やかになっている。このことから、本発明の還元剤内装ペレットの製造における乾燥工程の実施日数は屋内での自然乾燥で7日間とすることが好ましいことが分かる。
【0053】
(乾燥工程における含水ペレットの粒度分布の推移について)
実施例1:乾燥工程初日(造粒直後の含水ペレットの状態)においては、+4.0mm~+6.7mmの占める割合が50%程度であり、造粒が十分に進んでいることが確認できる。乾燥工程17日目(十分な乾燥が進んだ還元剤内装ペレットの状態)においては、-1mmの割合が2%を下回るところに留まっている。
実施例2:乾燥工程初日(造粒直後の含水ペレットの状態)においては、+4.0mm~+6.7mmの占める割合が50%程度であり、造粒が十分に進んでいることが確認できる。しかしながら+11.2mmも20%程度にまで増加している点は、亜鉛揮発促進の面からは実施例1よりは、やや不利となる。しかし、乾燥工程17日目(十分な乾燥が進んだ還元剤内装ペレットの状態)においては、-1mmの割合が2%を僅かに上回る範囲内に留まっている。
実施例3:乾燥工程初日(造粒直後の含水ペレットの状態)においては、+1.0mm~+2.0mm、或いは+4.0mm~+6.7mmの占める割合が、何れも40%程度であるので、造粒は進んではいるが、+1.0mmの比率が10%以上あることから、実施例1、2と比較するとやや不足と言える。又、+11.2mmも20%近くまで増加している点は、実施例2と同様、亜鉛揮発促進の面からは実施例1よりは、やや不利となる。しかし、乾燥工程17日目(十分な乾燥が進んだ還元剤内装ペレットの状態)においては、-1mmの割合が5%程度であり、比較例1の1/3未満に留まっている。
比較例1:乾燥工程初日(造粒直後の含水ペレットの状態)においては、+1.0mm~+2.0mmの占める割合が50%程度であり、+4.0mm~+6.7mmまで造粒が進んでいない。そして、乾燥工程17日目(十分な乾燥が進んだ還元剤内装ペレットの状態)においては、-1mmの割合が18%超まで増加した。この結果、酸化亜鉛鉱のクロム含有量は、0.28%まで増加している。これは、造粒された微粒径の鉄鋼ダストやPCカーボンが、乾燥工程の過程で、剥離、或いは、崩落し、この影響で、投入された還元剤内装ペレットの一部がキャリーオーバーしていることによるものと考えられる。
【0054】
(酸化亜鉛鉱のクロム含有量について)
表5から、酸化亜鉛鉱の製造において、還元焙焼工程に投入する一次原材料として、本発明の還元剤内装ペレット(実施例1~3)を用いることによって、クロム含有量の高い鉄鋼ダストを用いた場合であっても、還元剤内装ペレットの不要なキャリーオーバーを抑制して、酸化亜鉛鉱のクロム含有量を0.1重量%以下の低品位に制御することができることが分かる。