(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】原料融液の表面の状態の検出方法、単結晶の製造方法、及びCZ単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20241016BHJP
C30B 15/26 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C30B29/06 502A
C30B15/26
(21)【出願番号】P 2021031774
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-02-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】北川 勝之
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055718(JP,A)
【文献】国際公開第2017/068754(WO,A1)
【文献】特開2000-264780(JP,A)
【文献】国際公開第2010/047039(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/010486(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法により、石英ルツボ内に収容した原料をヒーターにより溶融した原料融液から単結晶を引き上げる単結晶製造において、前記石英ルツボ内の前記原料融液の表面の状態を検出する方法であって、
前記石英ルツボ内の前記原料融液の表面の任意の同一の検査領域を、2台のCCDカメラを用いて異なる方向から同時に撮影し、前記検査領域の測定画像を得て、
前記2台のCCDカメラの前記測定画像の視差データを用いて、前記原料が完全に溶融した状態から該原料融液の表面に固化が形成された状態になった固化タイミング、および、前記原料融液の表面に固化が形成されている状態から完全に溶融した状態になった溶融完了タイミングのうち1つ以上を自動的に検出する
とき、
前記測定画像の視差データとして、前記検査領域内の視差が生じている画素数を前記検査領域の面積分の画素数で除した視差率を用いることを特徴とする原料融液の表面の状態の検出方法。
【請求項2】
前記固化タイミングの検出を、前記視差率が10%以上となったときとすることを特徴とする
請求項1に記載の原料融液の表面の状態の検出方法。
【請求項3】
前記溶融完了タイミングの検出を、前記視差率が3%以下の状態が5分以上継続したときとすることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の原料融液の表面の状態の検出方法。
【請求項4】
前記単結晶を引き上げた後、前記原料のリチャージを行う前に、前記固化タイミングの検出を行い、
前記リチャージした原料を溶融中で、次の単結晶を引き上げる前に、前記溶融完了タイミングの検出を行うことを特徴とする請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載の原料融液の表面の状態の検出方法。
【請求項5】
CZ法により、石英ルツボ内に収容した原料をヒーターにより溶融した原料融液から単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、
前記単結晶を引き上げた後、前記原料をリチャージして溶融し、その後に次の単結晶を引き上げるとき、
請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の原料融液の表面の状態の検出方法により、前記固化タイミングまたは前記溶融完了タイミングを自動的に検出したら、前記ヒーターのパワー、前記石英ルツボの位置、および前記ヒーターの位置が次工程の条件になるように自動的に制御することを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項6】
原料を収容する石英ルツボと、該石英ルツボ内の原料を溶融して原料融液とするヒーターとを備えており、前記原料融液から単結晶を引き上げるCZ単結晶製造装置であって、
前記石英ルツボ内の前記原料融液の表面の任意の同一の検査領域を、異なる方向から同時に撮影する2台のCCDカメラと、
該2台のCCDカメラの撮影により得られた前記検査領域の測定画像から、該測定画像の視差データを得る画像処理部と、
さらに、固化検出処理部および溶融完了検出処理部のうち1つ以上を備えており、
前記固化検出処理部は、前記測定画像の視差データから、前記原料が完全に溶融した状態から該原料融液の表面に固化が形成された状態になった固化タイミングを自動的に検出するものであり、
前記溶融完了検出処理部は、前記測定画像の視差データから、前記原料融液の表面に固化が形成されている状態から完全に溶融した状態になった溶融完了タイミングを自動的に検出するもので
あり、
前記測定画像の視差データが、前記検査領域内の視差が生じている画素数を前記検査領域の面積分の画素数で除した視差率であることを特徴とするCZ単結晶製造装置。
【請求項7】
前記固化タイミングの検出が、前記視差率が10%以上となったときであることを特徴とする
請求項6に記載のCZ単結晶製造装置。
【請求項8】
前記溶融完了タイミングの検出が、前記視差率が3%以下の状態が5分以上継続したときであることを特徴とする
請求項6または請求項7に記載のCZ単結晶製造装置。
【請求項9】
前記ヒーターのパワー、前記石英ルツボの位置、および前記ヒーターの位置を制御する制御部をさらに備えており、
該制御部は、前記固化検出処理部による前記固化タイミング、または、前記溶融完了検出処理部による前記溶融完了タイミングの検出により、前記ヒーターのパワー、前記石英ルツボの位置、および前記ヒーターの位置が次工程の条件になるように自動的に制御するものであることを特徴とする
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のCZ単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CZ法(チョクラルスキー法)による単結晶製造における原料融液の表面の状態を検出する方法、単結晶の製造方法、及びCZ単結晶製造装置に関し、特には、単結晶引上げの準備工程における単結晶製造装置での固化の検出方法および溶融完了の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法による単結晶引上げ装置において、同一のルツボ(石英ルツボ)から複数本の単結晶棒を製造するために、単結晶を育成して引上げた後、融液原料の減少分に見合う量の固形原料を供給管によりルツボ内に追加供給(以下、リチャージともいう)して溶融させた後、再度、次の単結晶を育成し引上げる方法をとることが知られている。リチャージする際にルツボ内の融液に直接固形原料を投入すると融液が飛散し、ルツボ外や供給管に原料が付着するような不具合が起こり得る。
【0003】
そこで、当初の単結晶を引上げた後、ルツボ内に残留する融液の表面をある程度固化させ、この固化面上にリチャージにより原料を供給した後、溶融させる技術が採用されている。従来技術では融液表面の固化状態をオペレータが目視で監視する方法、または、特許文献1のように直径制御用視覚センサで検知した信号を画像処理で処理する方法が開示されている。
溶融完了の検知については、石英ルツボ内の状態をオペレータが目視で定期的に監視する方法、特許文献2のようにルツボ内を撮像する2次元CCDカメラ画像を2値化し白画素数の数から検知する方法、特許文献3のように湯面温度データ変動幅の変化、又は2値化処理した炉内撮像カメラ画像データが全て0(黒)となることを利用して溶融完了を検知する方法、特許文献4のように排ガス中の一酸化炭素濃度変化を利用して溶融完了を検知する方法が開示されている。
特許文献5において、溶融工程中の原料位置検出手段として2台のCCDカメラを用いる技術が開示されているが、これは2台のカメラの見え方の違い(視差)を元に三角測量の原理に基づき距離を測定することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3632427号
【文献】特開2000-264780号公報
【文献】特許第3704710号
【文献】特許第6390606号
【文献】特開2017-77981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
まず、固化の検知に関して、従来技術では直径制御用視覚センサを利用するため、結晶の直径検出に必要なカメラ視野しか得られないためルツボ内全体の固化の状況を把握できないという課題がある。また、主な目的が結晶の直径検出であるため、一般にメニスカスリング部とメルトのコントラストが高くなるようにカメラの絞りやシャッタースピード等の撮像条件を合わせる。更に、直径検出を安定化させるために2値化処理した後、検査領域内のある一定の走査方向からメニスカスリングのエッジを直径信号として抽出し、この信号を用いて所望の結晶直径になるように制御している。しかし、融液面上に形成される固化は、直径検出時のメニスカスリング部に対し輝度が低いために直径値の変化として現れ難い問題がある。また、固化の張る方向が一様ではないために一定の走査方向からエッジを抽出する方法は固化の検出には適さないという理由から従来技術での固化の検出には課題があった。
【0006】
次に、溶融完了の検知に関して、上記のように従来技術の視覚センサを用いる方法の例としては2値化処理を行った後の画像の白または黒画素の数で溶融完了の判断を行っているが、溶融完了を検知するタイミングの精度に問題があった。いずれにしても、従来より、精度よく固化、溶融完了のタイミングを検出できる手法が求められている。固化が進行し過ぎると石英ルツボへダメージを与えてしまうし、また、溶融完了の発見の遅れはその装置での単結晶生産性の低下につながるからである。また、目視などのオペレータ作業の軽減化も求められている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、CZ法による単結晶製造において、原料融液の固化や溶融完了のタイミングを精度よく自動的に検出することができ、かつ、オペレータの負担も軽減できる原料融液の表面の状態の検出方法、単結晶の製造方法、及びCZ単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、CZ法により、石英ルツボ内に収容した原料をヒーターにより溶融した原料融液から単結晶を引き上げる単結晶製造において、前記石英ルツボ内の前記原料融液の表面の状態を検出する方法であって、
前記石英ルツボ内の前記原料融液の表面の任意の同一の検査領域を、2台のCCDカメラを用いて異なる方向から同時に撮影し、前記検査領域の測定画像を得て、
前記2台のCCDカメラの前記測定画像の視差データを用いて、前記原料が完全に溶融した状態から該原料融液の表面に固化が形成された状態になった固化タイミング、および、前記原料融液の表面に固化が形成されている状態から完全に溶融した状態になった溶融完了タイミングのうち1つ以上を自動的に検出することを特徴とする原料融液の表面の状態の検出方法を提供する。
【0009】
このような本発明の検出方法であれば、視差データの使用により石英ルツボ内の原料融液(メルト)の状態変化を簡単かつ確実に把握することができ、高い検出精度で得られる。しかも、固化、溶融完了の検出を同様に実現可能である。したがって、固化の進行し過ぎによる石英ルツボへのダメージや、溶融完了の発見遅れによる装置生産性の低下を防ぐことができる。その上、固化や溶融完了の検出を自動的に行うため、目視での監視を省くこともでき、オペレータの作業負担を軽減化できる。
【0010】
このとき、前記測定画像の視差データとして、前記検査領域内の視差データを前記検査領域の面積で除した視差率を用いることができる。
【0011】
このように、上記視差率を用いて簡便に原料融液の固化や溶融完了の検出を行うことができる。
【0012】
また、前記固化タイミングの検出を、前記視差率が10%以上となったときとすることができる。また、前記溶融完了タイミングの検出を、前記視差率が3%以下の状態が5分以上継続したときとすることができる。
【0013】
これらのような基準であれば、固化や溶融完了のタイミングをより適切に安定して把握することができる。また、固化が形成されていないのに形成されたと判断したり、原料や固化の溶け残りがあるのに溶融完了したと判断したりする誤検出をより確実に防ぐことができる。
【0014】
また、前記単結晶を引き上げた後、前記原料のリチャージを行う前に、前記固化タイミングの検出を行い、
前記リチャージした原料を溶融中で、次の単結晶を引き上げる前に、前記溶融完了タイミングの検出を行うことができる。
【0015】
このようにすれば、リチャージによる複数本の単結晶製造において、固化や溶融完了のタイミングを簡単かつ確実に検出することができ、ひいては単結晶の生産性の向上を図ることができる。
【0016】
また本発明は、CZ法により、石英ルツボ内に収容した原料をヒーターにより溶融した原料融液から単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、
前記単結晶を引き上げた後、前記原料をリチャージして溶融し、その後に次の単結晶を引き上げるとき、
上記本発明の原料融液の表面の状態の検出方法により、前記固化タイミングまたは前記溶融完了タイミングを自動的に検出したら、前記ヒーターのパワー、前記石英ルツボの位置、および前記ヒーターの位置が次工程の条件になるように自動的に制御することを特徴とする単結晶の製造方法を提供する。
【0017】
このような本発明の製造方法であれば、リチャージによる複数本の単結晶製造において、単結晶製造装置を簡便かつ効率的に稼働させることができ、生産性高く単結晶を引き上げることができる。
【0018】
また本発明は、原料を収容する石英ルツボと、該石英ルツボ内の原料を溶融して原料融液とするヒーターとを備えており、前記原料融液から単結晶を引き上げるCZ単結晶製造装置であって、
前記石英ルツボ内の前記原料融液の表面の任意の同一の検査領域を、異なる方向から同時に撮影する2台のCCDカメラと、
該2台のCCDカメラの撮影により得られた前記検査領域の測定画像から、該測定画像の視差データを得る画像処理部と、
さらに、固化検出処理部および溶融完了検出処理部のうち1つ以上を備えており、
前記固化検出処理部は、前記測定画像の視差データから、前記原料が完全に溶融した状態から該原料融液の表面に固化が形成された状態になった固化タイミングを自動的に検出するものであり、
前記溶融完了検出処理部は、前記測定画像の視差データから、前記原料融液の表面に固化が形成されている状態から完全に溶融した状態になった溶融完了タイミングを自動的に検出するものであることを特徴とするCZ単結晶製造装置を提供する。
【0019】
このような本発明の装置であれば、原料融液の状態変化(固化や溶融完了)を簡単かつ確実に把握することができるものであり、高い検出精度で得られる。これにより、固化の進行し過ぎによる石英ルツボへのダメージの防止、溶融完了の発見遅れによる装置生産性の低下の防止、オペレータの作業負担の軽減化が可能なものとなる。
【0020】
このとき、前記測定画像の視差データが、前記検査領域内の視差データを前記検査領域の面積で除した視差率であるものとすることができる。
【0021】
このようなものであれば、簡便に原料融液の固化や溶融完了の検出を行うことができるものとなる。
【0022】
また、前記固化タイミングの検出が、前記視差率が10%以上となったときであるものとすることができる。また、前記溶融完了タイミングの検出が、前記視差率が3%以下の状態が5分以上継続したときであるものとすることができる。
【0023】
これらのような基準であれば、固化や溶融完了のタイミングをより適切に安定して把握することができ、誤検出をより確実に防ぐことができるものとなる。
【0024】
また、前記ヒーターのパワー、前記石英ルツボの位置、および前記ヒーターの位置を制御する制御部をさらに備えており、
該制御部は、前記固化検出処理部による前記固化タイミング、または、前記溶融完了検出処理部による前記溶融完了タイミングの検出により、前記ヒーターのパワー、前記石英ルツボの位置、および前記ヒーターの位置が次工程の条件になるように自動的に制御するものとすることができる。
【0025】
このようなものであれば、簡便かつ効率的に稼働させて、生産性高く単結晶を引き上げることができるものとなる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明の原料融液の表面の状態の検出方法、単結晶の製造方法、CZ単結晶製造装置であれば、高い検出精度で、原料融液の状態変化(固化や溶融完了)を簡単かつ確実に把握することができる。これにより、固化のし過ぎを起因とする石英ルツボへのダメージの発生や溶融完了の発見遅れを起因とする引き上げ単結晶の生産性の低下を防ぐことができ、また、オペレータの作業負担の軽減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のCZ単結晶製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】一方のCCDカメラによる撮影画像の一例を示すイメージ図である。
【
図3】実施例1における、単結晶引上げ後に固化を形成している時の視差率の変化を示すグラフである。
【
図4】実施例2における、原料投入後の溶融完了を監視している時の視差率の変化を示すグラフである。
【
図5】比較例における、単結晶引上げ後に固化を形成している時の直径検出用視覚センサの出力(直径データ)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
前述したように、従来より、CZ法での単結晶引き上げ(特にはリチャージを行う場合)において、原料融液の固化、溶融完了について検出できる手法が求められていた。
本発明者が鋭意研究を行ったところ、固化の検出では、融液の状態ではメルト上を観察しても特徴的なエッジがないため、左右の2つのCCDカメラの見え方が同じであり、視差はほぼゼロである。しかし、固化が形成されると様々な方向にコントラストのある直線状の模様が固化面上に現れるため、非常に多くの視差が得られる。これは2台のCCDカメラの角度の違いにより、固化が発生するとその検出位置が異なって撮影されるので、これが2台のCCDカメラの視差となる。また溶融完了の検出でも同様の考えで、原料が完全に溶けてなくなれば、特徴的な模様がなくなり、得られる視差は減る。
本発明者は、この視差に関するデータの量(例えば、視差が生じている画素数)の増減に着目し、固化又は溶融完了の検出に応用することができると考え、本発明を完成させた。
【0029】
以下、本発明について図面を参照して実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は本発明に係るCZ単結晶製造装置の一例の概略を示している。
この装置20は、メインチャンバー1とプルチャンバー2とを有し、プルチャンバー2の下部からメインチャンバー1の上部にかけて、カーボン製のパージチューブ3が配置されている。メインチャンバー1内では、原料4(原料融液が固化したものを含む)および原料融液5を収容する石英ルツボ6およびその外側の黒鉛ルツボ7が、支持軸8によって上下動自在に支持されている。石英ルツボ6および黒鉛ルツボ7の周囲には例えば炭素材からなり、原料4を溶融するための円筒状のヒーター9が配され、さらにヒーター9の周囲には断熱部材10が配置されている。ヒーター9は不図示の手段により駆動可能であり、位置を調整できるようになっている。
【0030】
メインチャンバー1の上部には監視窓12が設けられており、その外側には監視窓12を通じて、石英ルツボ6内の原料融液5の表面の状態を撮影するための2台のCCDカメラ(単にカメラとも言う)11が設けられている。この2台のCCDカメラ11は、原料融液5の表面の任意の同一の検査領域を異なる方向から同時撮影可能なものである。
さらには、画像処理部13、固化検出処理部14、溶融完了検出処理部15、制御部16を備えており、これらは例えばコンピュータ(プログラム等)とすることができる。このコンピュータはCCDカメラ11、ヒーター9(およびその駆動手段)、支持軸8とつながっており、CCDカメラ11からの画像の処理や、ヒーター9のパワー調整や位置調整、支持軸8の上下動の調整(石英ルツボ6および黒鉛ルツボ7の位置調整)の指令を自動的にできるようになっている。
【0031】
以下、各部についてより詳細に説明する。
2台のカメラ11は、それぞれ検査領域の測定画像を同時に取得できれば特に限定されず、原料融液の表面状態確認のための専用のカメラを設けることができるし、あるいは、例えば従来から使用されているような原料位置検出用もしくは直径検出用のCCDカメラを用いることもできる。石英ルツボ6内の原料融液の表面に対し、より広くカメラ視野をとることができるように、その種類や配置を適宜設定することが可能である。
【0032】
ここでカメラ11により撮影される画像について説明する。
図2に一方のカメラにより撮影された画像(撮影画像)の例を示す。外枠がカメラの視野(撮影画像)の範囲である。また、パージチューブ3が映っており、該パージチューブ3には開口部が設けられており、その開口部を通して映っているのが原料融液5の表面である(原料融液面監視領域)。そして検査領域が任意に設定されており(ここでは点線で囲まれた領域)、原料融液5の表面の一部が検査領域内に映っているのが分かる。また、異なる角度で配置されたもう一方のカメラも同一の検査領域について同時撮影するものである。本発明において、この検査領域の部分の画像を測定画像という。
【0033】
画像処理部13は、2台のカメラ11の撮影により得られた検査領域の測定画像から、その測定画像の視差データを取得するものである。
まず視差について説明する。一般的に2台のCCDカメラより得られる撮像画像についてステレオマッチングを行うことで、2つの画像間で対応する場所の位置の差(視差)を求められる。視差は三角測量の原理に基づき距離計測に使われるが、本発明では視差データの数量に着目する。
ここで本発明における「測定画像の視差データ」について説明する。「測定画像の視差データ」として、例えば、「検査領域内の視差データ」を「検査領域内の面積」で除した値である視差率を用いることができる。上記のように監視窓12より石英ルツボ6内の原料融液5を監視可能な範囲で検査領域を設定し、例えば、その検査領域内の視差の画素数を面積分の画素数で除したものを視差率として固化、溶融完了の検知に用いることができる。
【0034】
以下、より具体的に説明する。前述したように、原料融液の表面に固化が形成されていない状態だと特徴的なエッジがなく、左右の2台のカメラでの見え方は一見すると同じであり視差はほぼゼロとなる(本来であれば2台のカメラで別に撮影している以上、視差は生じるが、メルト状態における検査領域に関しては2つの測定画像間で差が生じない)。しかし、固化が形成されるとコントラストのある直線状の模様が形成された固化面上に現れるため、視差が明確に得られるようになる。すなわち、撮影された検査領域内において、2台のカメラによる2つの測定画像間で対応する場所(上記の直線状の模様等)の位置の差(視差)が明確に得られようになる。検査領域内における、このような違う位置に見られる場所(複数の場所があるならばそれらの全ての場所)が占めるポイント(例えば画素)の総数を「検査領域内の視差データ」とすることができる。そして、「検査領域内の面積」は、例えば検査領域が占めるポイント(画素)の数とすることができ、上記のようにその「検査領域内の視差データ」の値を「検査領域内の面積」の値で除したものが視差率(「測定画像の視差データ」の一例)である。このようなデータを利用するものであれば、測定原理が単純であり、測定画像から簡便に得ることができ、ひいては原料融液の固化や溶融完了の検出を簡便に行うことができる。
なお、視差についての判定基準(2つの測定画像の画素間で同じであると判定するか、違うと判定するかの基準)は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0035】
また固化検出処理部14は、画像処理部により得られた測定画像の視差データ(視差率)から、原料が完全に溶融した状態から該原料融液5の表面に固化が形成された状態になった固化タイミングを自動的に検出するものである。固化タイミングの検出は、例えば、視差率が10%以上となったときに設定することができる。このようにすれば安定して固化を検出することができる。
【0036】
一方、溶融完了検出処理部15は、測定画像の視差データ(視差率)から、原料融液5の表面に固化が形成されている状態から完全に溶融した状態になった溶融完了タイミングを自動的に検出するものである。溶融完了タイミングの検出は、例えば、視差率が3%以下の状態が5分以上継続したときに設定することができる。溶け残りの小さな原料が原料融液内で浮遊することがあるので5分程度視差がない状態であれば溶融が完了したと十分に判断できる。
【0037】
これらのような基準(閾値)により、固化や完全溶融のタイミングをより適切に把握することができ、誤検出をより確実に防ぐことができる。ただし、これらの基準に限定されるものではなく、適宜決定することができる。
なお、固化検出処理部14および溶融完了検出処理部15は、少なくともいずれか一方だけ備えていても良いし、両方備えていても良い。両方備えている方が、固化タイミングの検出と溶融完了タイミングの検出の双方を適切に行うことができるため好ましい。
【0038】
そして制御部16は、固化検出処理部14による固化タイミング、または、溶融完了検出処理部15による溶融完了タイミングの検出により、ヒーター9のパワー、石英ルツボ6の位置、およびヒーター9の位置が次工程の条件になるように自動的に制御するものである。
特にはリチャージによる複数の単結晶の製造に使用する装置において、単結晶を引き上げ後に原料をリチャージするにあたって原料融液の表面を一旦固化させたり、あるいは、リチャージした原料や固化している原料を完全溶融させたり、また、完全溶融後に次の単結晶を引き上げたりする場合に、それぞれ適したヒーター9のパワーや位置、石英ルツボ6の位置という条件がある。固化検出処理部14による固化タイミングの検出の場合には、次工程である原料のリチャージやその原料の完全溶融に適した設定条件通りになるように、また、溶融完了検出処理部15による溶融完了タイミングの検出の場合には、次工程である単結晶の引き上げに適した設定条件通りになるように、制御部16によりヒーター9や石英ルツボ6の各種調整が制御可能になっている。自動制御であるとより好ましい。
【0039】
以上のような本発明のCZ単結晶製造装置20によって、原料融液の固化、溶融完了、またはその両方を高い検出精度で簡単に検出することができる。このため、特には原料リチャージによる複数の単結晶の製造において、必要以上に原料融液を固化させてしまったり、溶融完了に気づかなかったりして、石英ルツボを損傷させたり単結晶製造の生産性を低下させたりすることを簡便かつ確実に防ぐことができる。しかも、自動的に検出することができるので、従来行っていたオペレータによる目視による観察を省いたり軽減することができる。
【0040】
次に、
図1のCZ単結晶製造装置20を用いた本発明の原料融液の表面の状態の検出方法および単結晶の製造方法について説明する。原料融液の表面状態の検出を行いつつ、原料をリチャージして複数本の単結晶を製造する工程について説明する。
CZ単結晶製造装置20を用いて単結晶を引き上げる際には、プルチャンバー2の上方からAr等の不活性ガスが供給されるとともにメインチャンバー1の下方から排気され、両チャンバー1、2内は減圧下の不活性ガスで満たされる。
また、石英ルツボ6内には原料として例えば多結晶シリコンが収容され、この原料はヒーター9によって加熱溶融されて原料融液5となる。その後、プルチャンバー2の上方からワイヤーが徐々に下げられ、その下端に取り付けられた種結晶が石英ルツボ6内の原料融液5に浸漬(接触)される。
【0041】
石英ルツボ6がモータ等により支持軸8を介して所定の速度で回転駆動される一方、ワイヤーは石英ルツボ6とは反対方向に軸回転して上方にゆっくり巻き取られる。これにより、種結晶に続いて単結晶が成長しながら引き上げられ、絞り部、コーン部に続いて直胴部、そして最後にはテール部が形成されてプルチャンバー2内へと引き上げられる。
【0042】
上記のようにして単結晶を引き上げた後、次の工程であるリチャージ作業に入る前に、ヒーター9、石英ルツボ6に関して、固化形成のためのヒーターパワー、ルツボ位置、ヒーター位置へ制御する。そして所定通りに制御された後、固化の監視を開始する。すなわち、2台のカメラ11、画像処理部13、固化検出処理部14により、検査領域の測定画像から視差率を逐次自動的に得る。そして、所定の基準に達したとき(例えば、視差率が10%以上となったとき)、固化タイミングとして自動的に検出する。このような固化タイミングを検出したら、制御部16により自動的に所望の溶融時のヒーターパワー等へ制御し、リチャージにより原料を追加投入する。
【0043】
原料の投入が完了したら、該原料の溶融をしつつ、溶融完了の監視を行う。すなわち、再度、2台のカメラ11、画像処理部13、固化検出処理部14により、検査領域の測定画像から視差率を逐次自動的に得る。そして、所定の基準に達したとき(例えば、視差率が3%以下の状態が5分以上継続したとき)、溶融完了タイミングとして自動的に検出する。このような溶融完了タイミングを検出したら、制御部16により自動的に所望の単結晶引き上げ時のヒーターパワー等へ制御し、次の単結晶の引き上げを行う。
これらの一連の作業を自動で行う。
【0044】
このような検出方法および製造方法によって、原料融液の固化や溶融完了を簡便に高精度で把握しつつ、生産性高く単結晶を次々に製造することができるし、オペレータの負担も軽減することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示す本発明のCZ単結晶製造装置20を用い、単結晶を引き上げた後に原料をリチャージする前に、原料融液の固化の形成工程で固化タイミングについて本発明の検出方法を実施した。
なお、ルツボ口径:800mm、原料融液(メルト)重量:400kgの製造条件で、
図1のように2台のCCDカメラをメインチャンバーの監視窓の外に取付けて実施した。原料融液表面の監視のイメージは
図2と同様である。パージチューブ内の開口部から同一の検査領域の原料融液表面が確認できるように、CCDカメラの視野をX方向で約500mm、Y方向で約375mmとし、固化および溶融完了の検査領域がX方向で300mm、Y方向で100mm相当とし、どちらの場合でも(450×150画素、面積67500画素)とした。
【0046】
単結晶引上げ後に固化を形成している時の視差率の変化を
図3に示す。横軸は工程中の任意の点からの経過時間、縦軸は固化を監視する検査領域内の視差率を表す。メルト状態では2つの測定画像間で対応する場所の位置の差としての情報がほとんどないため視差率は0付近で安定している。しかし、原料融液表面に固化が張った瞬間に様々な方向にコントラストのある直線状の模様が現れるため視差率が急増する。固化タイミングの検出の閾値を10%以上と設定していたところ、固化タイミングの検出は212minであった。
なお、検証のため、同時にオペレータにより目視で監視していたところ、上記とほぼ同様のタイミングで固化が形成されたと判断された(
図3の「固化が張ったポイント」であり、211min)。
【0047】
(実施例2)
実施例1の終了後、原料を追加投入し、その原料を溶融する工程で溶融完了タイミングについて本発明の検出方法を実施した。
【0048】
原料投入後の溶融完了を監視している時の視差率の変化を
図4に示す。横軸は工程中の任意の点からの経過時間、縦軸は溶融完了を監視する検査領域内の視差率を表す。実施例1の固化の時のようには急激に視差率が減少しないのは、溶融の後半に原料の溶け残りの小さな塊が石英ルツボ内を遊離するためである。しかし、完全にメルトの状態となれば視差率はほぼ0付近で安定するようになる。溶融完了の検出の閾値を3%以下の状態が約5分継続すれば溶融完了と設定していたところ、溶融完了タイミングの検出は406minであった(
図4の「溶融完了を検出したポイント」)。
なお、検証のため、同時にオペレータにより目視で監視していたところ、上記とほぼ同様のタイミングで溶融が完了されたと判断された(405min)。
【0049】
(比較例)
実施例1の固化の検出を行った時に、併せて、従来技術による直径検出用視覚センサを用いて固化の検出を行った。
このとき、カメラの視野はX方向で約220mm、Y方向で約165mmであり、固化の検出領域はX方向で約80mm、Y方向で約80mm(582×582画素)相当とした。固化を検出するためのエッジを検出する走査方向は石英ルツボ壁から中心に向かう方向とし、直径検出用視覚センサの出力信号である直径データが150mm以上となった場合に固化が完了したものとして検出を行った。
【0050】
この場合の出力の変化を
図5に示す。横軸は工程中の任意の点からの経過時間、縦軸は直径検出用視覚センサの出力(直径データ)を表す。実際に固化が張っても出力データの変化が見られず固化の検出はできなかった。直径制御のためにメルト内で最も高い輝度のメニスカス部が安定検出できるよう撮像条件、及び2値化処理を優先するため、固化監視中のメルトと固化部のコントラストの差では固化検知に利用できるような出力値の変化は期待できない。
なお、工程に応じて撮像条件や2値化処理の閾値を変更すれば検出できる可能性があるが複雑となる。
これに対して本発明では、実施例1のように簡便かつ高精度に検出することができる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0052】
1…メインチャンバー、 2…プルチャンバー、 3…パージチューブ、
4…原料、 5…原料融液、 6…石英ルツボ、 7…黒鉛ルツボ、
8…支持軸、 9…ヒーター、 10…断熱部材、 11…CCDカメラ(2台)、
12…監視窓、 13…画像処理部、 14…固化検出処理部、
15…溶融完了検出処理部、 16…制御部、 20…CZ単結晶製造装置。