IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越半導体株式会社の特許一覧

特許7571691シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法
<>
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図1
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図2
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図3
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図4
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図5
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図6
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図7
  • 特許-シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/306 20060101AFI20241016BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241016BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01L21/306 B
H01L21/304 647Z
H01L21/66 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021144950
(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公開番号】P2023038054
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-208468(JP,A)
【文献】特開2012-182201(JP,A)
【文献】特開2004-200672(JP,A)
【文献】特開2015-126067(JP,A)
【文献】特開2008-194638(JP,A)
【文献】特開2003-194732(JP,A)
【文献】特開2000-208475(JP,A)
【文献】特開平10-183185(JP,A)
【文献】特開平08-017775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/306
H01L 21/304
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハを粗化する洗浄方法であって、
自然酸化膜がないベア面が露出した調査用シリコンウェーハを、水酸化アンモニウムを含み、かつ、過酸化水素濃度が0~0.15wt%の水溶液である洗浄液で洗浄することで粗化された前記調査用シリコンウェーハの表裏面又は裏面の粗化量と、
前記洗浄液の温度と、
前記洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度と、
前記洗浄液中の過酸化水素濃度との相関関係を予め取得しておく洗浄液濃度調査工程と、
該洗浄液濃度調査工程で取得しておいた前記相関関係に基づいて、所望の粗化量から、前記洗浄液の温度、前記洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度及び過酸化水素濃度の粗化洗浄条件を決定する粗化洗浄条件決定工程と、
該粗化洗浄条件決定工程で決定した粗化洗浄条件で、自然酸化膜がないベア面が露出した粗化対象シリコンウェーハを洗浄することで、該粗化対象シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化する粗化洗浄工程とを有することを特徴とするシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄液濃度調査工程において、
前記調査用シリコンウェーハの前記洗浄前後にパーティクルカウンターにてHaze値を取得し、前記洗浄後のHaze値の増加量を前記粗化量とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項3】
前記粗化洗浄条件決定工程において前記粗化洗浄条件を決定するとき、
前記過酸化水素濃度が、該過酸化水素濃度の変動に対する前記粗化量の変動が所定値以下の濃度範囲内であり、かつ、前記粗化洗浄工程における前記洗浄後の粗化対象シリコンウェーハ表面に、該洗浄中に形成された自然酸化膜が残るように、
前記粗化洗浄条件を決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項4】
前記粗化洗浄条件決定工程において、前記洗浄液の温度を80℃以上とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの洗浄方法により洗浄され、表裏面が粗化されたシリコンウェーハの片方の面に対し、CMP加工を行い、前記片方の面とは反対側の面のみが選択的に粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの洗浄方法により、枚葉方式で裏面のみが洗浄されて粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
洗浄液中の過酸化水素濃度を評価する方法であって、
自然酸化膜を有する調査用シリコンウェーハを、水酸化アンモニウムを含み、かつ、過酸化水素濃度が0~0.15wt%の水溶液である洗浄液で洗浄することで粗化された前記調査用シリコンウェーハの表裏面又は裏面の粗化量と、
前記洗浄液の温度と、
前記洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度と、
前記洗浄液中の過酸化水素濃度との相関関係を予め取得しておく洗浄液濃度調査工程と、
該洗浄液濃度調査工程で取得しておいた前記相関関係に基づいて、
自然酸化膜を有するシリコンウェーハを、少なくとも水酸化アンモニウムを含む水溶液である評価対象洗浄液で洗浄することで粗化された前記シリコンウェーハの表裏面又は裏面の粗化量と、
前記評価対象洗浄液の温度と、
前記評価対象洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度とから、
前記評価対象洗浄液中の過酸化水素濃度を評価する過酸化水素濃度評価工程とを有することを特徴とする洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法。
【請求項8】
洗浄液中の過酸化水素濃度管理方法であって、
請求項7に記載の洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法により、前記評価対象洗浄液中の過酸化水素濃度を評価し、
該評価結果に基づき、評価後の洗浄液中の過酸化水素濃度を調整することを特徴とする洗浄液中の過酸化水素濃度管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化することができるシリコンウェーハの洗浄方法および製造方法、並びに洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法および過酸化水素濃度管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用のシリコンウェーハの製造工程は、チョクラルスキー(CZ)法等を使用して単結晶インゴットを育成する単結晶製造工程と、この単結晶インゴットをスライスし、鏡面状に加工するウェーハ加工工程とから構成され、さらに付加価値をつけるために、熱処理をするアニール工程やエピタキシャル層を形成するエピタキシャル成長工程を含む場合がある。
【0003】
この鏡面状に加工する工程には、DSP(両面研磨)工程とその後のCMP(片面研磨)工程がある。より具体的には、パーティクル品質や搬送の観点からDSP加工されたウェーハは乾燥させず、必要に応じて洗浄した後、水中保管でCMP工程へ搬送される。したがってCMP工程では水中保管されたウェーハをロボット等でチャックしCMP装置へ搬送する必要がある。また、CMP加工後も同様に研磨剤や純水などで濡れたウェーハをチャックし、必要に応じて洗浄工程へ搬送する必要がある。
【0004】
このようにウェーハの加工工程では、ドライではなくウェットな環境下でウェーハを搬送することが必須であるが、特にこのようなウェット環境下では、チャックで吸着されたウェーハを脱離させる際に、チャックを解除しても脱離されず、搬送不良を引き起こすことがあった。この原因としてはチャックされるウェーハ面の粗さが影響していると考えられ、チャックされるウェーハ面粗さが良好過ぎると、チャックとの接触面積が増え、チャックを解除してもウェーハが脱離しにくくなると考えられ、対してウェーハの面粗さが悪いと接触面積が減り、ウェーハが脱離しやすくなると考えられる。一般的にチャックされた面は少なからずチャック痕が形成されやすく、品質が低下することからチャック面はシリコンウェーハの裏面であることが多い。したがって、搬送不良低減の観点からは特にシリコンウェーハ裏面のみ粗い方が良く、そのようなウェーハの製造方法が求められている。
【0005】
一般的なシリコンウェーハの洗浄方法として、RCA洗浄と呼ばれる方法がある。このRCA洗浄とはSC1(Standard Cleaning 1)洗浄、SC2(Standard Cleaning 2)洗浄、DHF(Diluted Hydrofluoric Acid)洗浄を、目的に応じて組み合わせて行う洗浄方法である。
このSC1洗浄とは、アンモニア水と過酸化水素水を任意の割合で混合し、アルカリ性の洗浄液によるシリコンウェーハ表面のエッチングによって付着パーティクルをリフトオフさせ、さらにシリコンウェーハとパーティクルの静電気的な反発を利用して、シリコンウェーハへの再付着を抑えながらパーティクルを除去する洗浄方法である。また、SC2洗浄とは、塩酸と過酸化水素水を任意の割合で混合した洗浄液で、シリコンウェーハ表面の金属不純物を溶解除去する洗浄方法である。また、DHF洗浄とは、希フッ酸によってシリコンウェーハ表面のケミカル酸化膜を除去する洗浄方法である。さらに、強い酸化力を有するオゾン水洗浄も使用される場合があり、シリコンウェーハ表面に付着している有機物の除去やDHF洗浄後のシリコンウェーハ表面のケミカル酸化膜形成を行っている。シリコンウェーハの洗浄は、目的に応じてこれらの洗浄を組み合わせて行われている。
この中でSC1洗浄はエッチングを伴う洗浄であるため、SC1洗浄後はウェーハの面粗さが増加することが一般的に知られている。
【0006】
また、ウェーハの面粗さを評価する手法としては、AFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscopy)により得られるSa(3次元算出平均高さ)値やパーティクルカウンターにより得られるHaze値を指標とすることができる。Hazeとはいわゆる曇りとして表現されるものであり、シリコン表面の粗さの指標として広く用いられており、このHazeレベルが高いとはウェーハの面が粗いことを示す。パーティクルカウンターによるHaze検査はスループットが非常に高く、ウェーハ全面を検査することができる。
【0007】
特許文献1には水酸化アンモニウムと過酸化水素と水の組成が1:1:5~1:1:2000の範囲の希釈水溶液でシリコンウェーハを洗浄し、異なる厚さの自然酸化膜を形成させる方法が記載されている。
特許文献2にはSC1洗浄において、水酸化アンモニウムから電離されたOHの濃度が高いとSiの直接エッチングが優先的に起こり、ウェーハ表面粗さが増加することが記載されている。
また、特許文献3~6にも、シリコンウェーハなどの半導体基板の洗浄に関する技術が開示されている。
【0008】
また、SC1洗浄液は特に高温下で用いられる場合には分解や蒸発反応により水酸化アンモニウムや過酸化水素濃度が低下する。そのため薬液濃度をモニターし、濃度が一定になるように調整することが望ましい。SC1洗浄液の濃度を評価する方法としては吸光度や屈折率による濃度測定方法があり、その精度も高いことが知られているが、その濃度範囲は限られる。特に低濃度の薬液の場合は現状評価することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平7-66195号公報
【文献】特開2011-82372号公報
【文献】特開平7-240394号公報
【文献】特開平10-242107号公報
【文献】特開平11-121419号公報
【文献】特表2012-523706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、加工工程中の搬送不良低減のためにチャックされる裏面が粗いシリコンウェーハが必要とされている。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化できる洗浄方法、片側の面のみが選択的に粗化されたシリコンウェーハを得ることができるシリコンウェーハの製造方法、及び粗化挙動に影響を与える洗浄液中の微量の過酸化水素濃度の評価方法、管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコンウェーハを粗化する洗浄方法であって、
自然酸化膜がないベア面が露出した調査用シリコンウェーハを、水酸化アンモニウムを含み、かつ、過酸化水素濃度が0~0.15wt%の水溶液である洗浄液で洗浄することで粗化された前記調査用シリコンウェーハの表裏面又は裏面の粗化量と、
前記洗浄液の温度と、
前記洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度と、
前記洗浄液中の過酸化水素濃度との相関関係を予め取得しておく洗浄液濃度調査工程と、
該洗浄液濃度調査工程で取得しておいた前記相関関係に基づいて、所望の粗化量から、前記洗浄液の温度、前記洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度及び過酸化水素濃度の粗化洗浄条件を決定する粗化洗浄条件決定工程と、
該粗化洗浄条件決定工程で決定した粗化洗浄条件で、自然酸化膜がないベア面が露出した粗化対象シリコンウェーハを洗浄することで、該粗化対象シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化する粗化洗浄工程とを有することを特徴とするシリコンウェーハの洗浄方法を提供する。
【0012】
このようなシリコンウェーハの洗浄方法であれば、表裏面又は裏面が所望の粗化量で粗化されたウェーハの製造が可能となる。さらに、粗化量に対する過酸化水素濃度依存性を調査することで、より好適な粗化洗浄条件を選定出来る。特には、粗化量のバラツキが小さくなるように粗化洗浄条件を選定して洗浄することができる。
【0013】
このとき、前記洗浄液濃度調査工程において、
前記調査用シリコンウェーハの前記洗浄前後にパーティクルカウンターにてHaze値を取得し、前記洗浄後のHaze値の増加量を前記粗化量とすることができる。
【0014】
このような方法であれば、簡便かつスループット良く粗化挙動、粗化量をモニターできる。
【0015】
また、前記粗化洗浄条件決定工程において前記粗化洗浄条件を決定するとき、
前記過酸化水素濃度が、該過酸化水素濃度の変動に対する前記粗化量の変動が所定値以下の濃度範囲内であり、かつ、前記粗化洗浄工程における前記洗浄後の粗化対象シリコンウェーハ表面に、該洗浄中に形成された自然酸化膜が残るように、
前記粗化洗浄条件を決定することができる。
【0016】
このような方法であれば、洗浄液中の過酸化水素濃度が変化したとしても所望の粗化量で粗化されたウェーハを一層安定的に供給することができる。また、粗化度合いが一層十分なウェーハを得ることができる。
【0017】
また、前記粗化洗浄条件決定工程において、前記洗浄液の温度を80℃以上とすることができる。
【0018】
このような方法であれば、過酸化水度濃度の変動に対する粗化量の変動をより小さくでき、粗化されたウェーハをより一層安定的に供給することができる。
【0019】
また、本発明は、本発明のシリコンウェーハの洗浄方法により洗浄され、表裏面が粗化されたシリコンウェーハの片方の面に対し、CMP加工を行い、前記片方の面とは反対側の面のみが選択的に粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【0020】
このように、表裏面を粗化した後、片方の面のみ研磨することで、片方の面は良好な面状態で、該片方の面とは反対側の面のみが選択的に粗化されたウェーハを作製することができる。
【0021】
また、本発明は、本発明のシリコンウェーハの洗浄方法により、枚葉方式で裏面のみが洗浄されて粗化されているシリコンウェーハを得ることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【0022】
このように、裏面のみ洗浄して粗化されたウェーハを作製することができる。
【0023】
また、本発明は、洗浄液中の過酸化水素濃度を評価する方法であって、
自然酸化膜を有する調査用シリコンウェーハを、水酸化アンモニウムを含み、かつ、過酸化水素濃度が0~0.15wt%の水溶液である洗浄液で洗浄することで粗化された前記調査用シリコンウェーハの表裏面又は裏面の粗化量と、
前記洗浄液の温度と、
前記洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度と、
前記洗浄液中の過酸化水素濃度との相関関係を予め取得しておく洗浄液濃度調査工程と、
該洗浄液濃度調査工程で取得しておいた前記相関関係に基づいて、
自然酸化膜を有するシリコンウェーハを、少なくとも水酸化アンモニウムを含む水溶液である評価対象洗浄液で洗浄することで粗化された前記シリコンウェーハの表裏面又は裏面の粗化量と、
前記評価対象洗浄液の温度と、
前記評価対象洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度とから、
前記評価対象洗浄液中の過酸化水素濃度を評価する過酸化水素濃度評価工程とを有することを特徴とする洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法を提供する。
【0024】
このような洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法であれば、粗化挙動に影響を与える微量の過酸化水素濃度を精度良く評価することができる。
【0025】
また、本発明は、洗浄液中の過酸化水素濃度管理方法であって、
本発明の洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法により、前記評価対象洗浄液中の過酸化水素濃度を評価し、
該評価結果に基づき、評価後の洗浄液中の過酸化水素濃度を調整することを特徴とする洗浄液中の過酸化水素濃度管理方法を提供する。
【0026】
このような洗浄液中の過酸化水素濃度管理方法であれば、過酸化水素濃度を精度良く管理することができ、粗化を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のシリコンウェーハの洗浄方法であれば、シリコンウェーハの表裏面又は裏面を粗化することができる。
また、本発明のシリコンウェーハの製造方法であれば、片方の面は良好な面状態で、該片方の面とは反対側の面のみが選択的に粗化されたウェーハを作製することができる。
また、本発明の洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法及び管理方法であれば、粗化洗浄に用いる洗浄液中の微量の過酸化水素濃度を精度良く評価及び管理をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のシリコンウェーハの洗浄方法の一例を示すフローチャートである。
図2】ベア面のシリコンウェーハに対し、様々な液組成で洗浄した後のHaze増加量、LLS数、面状態を示した関係図、及び水準5と水準9のSEM像を示した図である。
図3】洗浄液の温度が80℃でNHOH濃度3水準における、H濃度に対するHaze増加量を示したグラフである。
図4】洗浄液の温度が45℃または60℃におけるH濃度に対するHaze増加量を示したグラフである。
図5】NHOH濃度が0.03wt%、H濃度が0.05wt%の洗浄液で、洗浄温度が80℃で洗浄した後の、洗浄時間に対するHaze増加量を示したグラフである。
図6】本発明の洗浄液中の過酸化水素濃度を評価、管理する方法の一例を示すフローチャートである。
図7】洗浄液の温度が80℃で、洗浄液中のNHOH濃度が0.03wt%の場合のH濃度に対するHaze増加量を示したグラフであり、実施例で実施したS11の洗浄液濃度調査工程の結果(相関関係)を示すグラフである。
図8】洗浄液の温度が80℃でNHOH濃度2水準における、H濃度に対するHaze増加量を示したグラフであり、実施例で実施したS1の洗浄液濃度調査工程の結果(相関関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
初めに本発明における粗化現象についてその方法とメカニズムを述べる。図2には、ベア面が露出したDSP後ウェーハをSC1組成(液組成NHOH:H:HO)、洗浄温度及び洗浄時間を変えて洗浄し(水準1から水準12と表記)、パーティクルカウンターにて粗さ指標であるHaze値を取得し、予め洗浄前に取得しておいたHaze値との差分を示した。この洗浄後のHaze値の増加量(以下、Haze増加量とも言う)は粗化量の一例である。この値が高いほど面があれていることを示す。併せて、粗化処理なしのRefと水準5,9のSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electronic Microscopy)の表面観察結果も示した。
【0030】
用いた薬液は28質量%のアンモニア水(NHOH)、30質量%の過酸化水素水(H)で、それぞれ質量(wt)%でも表記した。尚、質量%とは洗浄溶液とそれに含まれる溶質(水酸化アンモニウム、過酸化水素)の質量比を百分率で表した濃度で、wt%とも表記する。
【0031】
水準5,6,8,9,12において顕著にHaze値が増加していることがわかる。さらにSEM画像を見ると、水準5と水準9は凹凸形状が観察され、Refではこのような凹凸形状は観察されていない。以上より、これらの水準では面が大きくあれており、粗化されていることがわかる。
一方、水準3,4,11では0.8~0.9ppm程度増加しているが、その増加量、即ち粗化度合いが小さく、粗化されているとは言えない。さらにLLS(局所光散乱欠陥:Localized Light Scatter)数も非常に多く、欠陥品質が大きく悪化していた。洗浄後の面状態が撥水面であることから、洗浄中にベア面が露出し、Siのエッチングが顕著に進行し、エッチピットが形成されたためと考えられる。残りの水準では面状態は親水面であったが、Haze増加量も僅かであった。
【0032】
この粗化メカニズムについて詳しく述べる。SC1洗浄では過酸化水素は酸化剤として機能しSiは酸化されSiO(自然酸化膜。以下、単に酸化膜とも言う。)が形成される。水酸化アンモニウムは電離反応によりOHを放出し、このOHによりウェーハ表面のSiOがエッチングされる。一般的な薬液(洗浄液)組成(例えばNHOH:H:HO=1:1:10)では洗浄中は常にウェーハには酸化膜が存在しており、ベア面(Si)が露出することなく、形成される酸化膜厚さは洗浄時間に依存せず常に約1nm程度である。これは酸化速度とエッチング速度のバランスに起因することが知られている。つまり、Hが所定濃度以上である薬液ではHによるSiの酸化速度の方がOHによるSiOのエッチング速度よりも速いために、Siが露出することなく常にウェーハには酸化膜が存在していると解釈できる。言い換えれば、Hが所定濃度以下になるとOHによるエッチング速度の方がHによるSiの酸化速度よりも速くなるため、酸化が追い付かず、OHによるSiのエッチング反応が進行する。このような場合は洗浄後にSiが露出しているため、撥水面となる。
【0033】
ここで粗化された水準の薬液組成は、例えば水準5のNHOH:H:HO=1:0.4:1000のようにH比率がNHOHよりも低いことが分かる。したがって、このような薬液でベア面のシリコンウェーハを洗浄すると、洗浄後の面状態が親水面であることから、初めに酸化反応が進行し酸化膜が形成されるが、酸化速度が遅いため、SiOのエッチングが相対的に優勢となり、SiOがエッチングされ局所的にSiが露出された箇所でSiのエッチングが進行し、粗化が進行すると考えられる。
【0034】
このように本発明における粗化現象は酸化反応とエッチング反応のバランスがある範囲内であると進行する現象である。また安定して粗化を進行させるには、これらの反応が安定した液組成、薬液濃度で洗浄を行う必要がある。
【0035】
これらを踏まえ、本発明の洗浄方法について述べる。
図1は本発明のシリコンウェーハの洗浄方法の一例を示すフローチャートである。
(工程S1:洗浄液濃度調査工程)
図1のS1では、安定して粗化現象が進行する粗化洗浄条件を選定するための予備試験として洗浄液濃度調査工程を行う。すなわち、粗化量と、洗浄液の温度と、洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度と、洗浄液中の過酸化水素濃度との相関関係を予め取得しておく工程である。ここで、上記の粗化量とは、調査用シリコンウェーハ(自然酸化膜がなくベア面が露出している)を洗浄液(水酸化アンモニウムを含み、かつ、過酸化水素濃度が0~0.15wt%の水溶液)で洗浄することで粗化された表裏面(又は裏面)の粗化量を言い、例えば、前述したHaze増加量とすることができる。Haze増加量であれば、簡便かつスループット良く粗化挙動、粗化量をモニターできるので好ましい。
なお、上記洗浄液の例としては、過酸化水素濃度が0wt%のときは、水酸化アンモニウムを含む水溶液とすることができ、また、過酸化水素濃度が0wt%ではないときは、水酸化アンモニウムと過酸化水素水を含む水溶液とすることができる。
【0036】
以下、洗浄液濃度調査工程について、より具体的な例を挙げて説明する。
図3には、NHOH濃度を0.03,0.13,0.25wt%の3水準でH濃度を変化させ、自然酸化膜がないベア面の調査用シリコンウェーハを80℃で3min洗浄したときの、洗浄前後のHaze増加量を示した。NHOH濃度が0.03wt%の場合については、洗浄後の面状態についても示した(〇は撥水面、●は親水面)。
【0037】
例えばNHOH濃度が0.03wt%の場合に着目すると、H濃度に依存してHaze増加量が変動していることが分かる。H濃度が0wt%や0.007wt%ではHaze増加量が小さかった。Hが低濃度過ぎるため、酸化速度が遅すぎてしまい、Siへのエッチング作用のみが働いたためである。このことはHが低濃度の水準のみ洗浄後の面状態が撥水面(ベアSi面が露出)であることと一致する。
前述のように撥水面の場合はSiのエッチングが顕著となりLLS品質(LLS数)が悪化することから、親水面となる範囲で粗化を進行させることが望ましい。H濃度が0.019wt%から0.078wt%では面状態は親水面でHaze増加量が大きく粗化が進行していた。次いで0.09wt%以降は親水面であったが、Haze増加量が小さくなった。これはHが高濃度過ぎるため、Siの酸化速度がエッチング速度よりも著しく速くなり、相対的にエッチング作用が弱くなったためである。
【0038】
尚、この洗浄液濃度調査工程は複数水準のNHOH濃度、洗浄温度で実施することが好ましい。図示したようにHaze増加量はNHOH濃度が高いほど大きくなることから、後述する工程S2で所望のHaze増加量(悪化量)を設定する際に、複数水準の調査結果がある方が粗化洗浄条件の選定が容易となる。
【0039】
また、本発明者らが調査した結果、H濃度が0.15wt%より大では、NHOHを現実的な範囲で高濃度化しても酸化速度の方が速くなってしまい、粗化が進行しなかったことから、工程S1では前述したようにH濃度が0~0.15wt%以下で行う。
【0040】
(工程S2:粗化洗浄条件決定工程)
続いて、S1の結果に基づき、S2の粗化洗浄条件決定工程を行う。すなわち、S1の相関関係に基づいて、所望の粗化量(Haze増加量)から、洗浄液の温度、洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度及び過酸化水素濃度の粗化洗浄条件を決定する工程である。
なお、所望のHaze増加量の値については、その都度決定することができる。
【0041】
この工程では、特には、S1で得られた相関関係からH濃度の変動に対するHaze増加量の変動が安定した粗化洗浄条件を選定することが目的である。
図3において、NHOH濃度が0.03wt%の場合では、0.032~0.078wt%の範囲でHaze増加量の変動が小さく、安定していることが分かる。この場合、例えば0.05wt%のH濃度にすることで、意図せず洗浄液中のH濃度が変動したとしても、その変動に対してHaze増加量の変動は比較的小さく安定しているので、所望のHaze増加量から大きく外れることもなく、より安定して所望のHaze増加量で粗化を進行させることができる。このように、粗化洗浄条件の一つとして選定するH濃度は、H濃度の変動に対するHaze増加量の変動が比較的小さな値(所定値)以下に収まるようなH濃度の範囲から決定すると好ましい。この所定値は、要求される精度等に応じて、0以上の数値から適宜設定することができる。
【0042】
次にNHOH濃度が0.13wt%、0.25wt%の場合に着目すると、H濃度が小さい場合は酸化速度が遅く、エッチング優勢となりHaze増加量が大きく変動しており、不安定であると判断できる。したがって、この範囲で粗化を行うことは好ましくない。NHOH濃度が高いほど、エッチング速度が速くなったため、0.03wt%よりもその変動が大きくなっていると考えられる。
ただ、H濃度が高くなると、0.03wt%の場合と同様に、Haze増加量が安定となるH濃度範囲が存在していることが分かる。NHOH濃度が異なるとHaze増加量が安定するために必要なH濃度範囲が変化するため、予めHの適正濃度範囲を求めておくことでより安定して粗化を進行させることができる。
【0043】
また、NHOH濃度が高いほど、Haze増加量が大きくなることから、NHOH濃度を調整することで、所望の粗さ(Haze増加量)を形成させることもできる。例えばHaze増加量が5ppmのウェーハを得たい場合は、NHOH濃度が0.03wt%でH濃度を0.05wt%とし、80℃かつ3minで粗化洗浄条件を選定することができる。一方、例えばHaze増加量を30ppmのウェーハを得たい場合は、NHOH濃度を0.25wt%で、H濃度を0.07wt%とし、80℃かつ3minで粗化洗浄条件を選定することができる。このようにH濃度に対するHaze増加量の変動を把握しておくことで、より安定して粗化を進行させる粗化洗浄条件を選定することができる。
【0044】
また、この工程S2では、後述する工程S3における洗浄後の粗化対象シリコンウェーハ表面に、S3での洗浄中に形成された自然酸化膜が残るような粗化洗浄条件を決定すれば、粗化度合いもより一層十分なものとすることができるため好ましい。親水面の表面を得ることもでき、LLS数が悪化するのを防ぐこともできる。
【0045】
続いて、洗浄液の温度(洗浄温度)の影響について述べる。
図4にはNHOH濃度が0.03wt%、0.25wt%で洗浄時間3minとして、洗浄温度を45℃、60℃で洗浄した場合のHaze増加量の変動を示した。全3水準ともHaze増加量が大きくなる条件はあるが、80℃の場合の図3に比べて、前述のようなHaze増加量が安定したH濃度範囲が狭いことが分かる。したがって、洗浄温度を80℃以上で、S1の洗浄液濃度調査工程を実施したり、S2の粗化洗浄条件決定工程での選定を行った方がより安定した粗化洗浄条件を選定しやすいと解釈できる。この理由としては温度が高い方が過酸化水素の酸化作用が安定するためと考えられる。洗浄温度の上限値は特には決められないが、例えば90℃もあれば十分である。
【0046】
ただし、必ずしも80℃やそれ以上である必要はなく、60℃以下でもHaze増加量が大きくなる領域が存在することから、粗化を進行させることは可能で、例えば薬液ライフを短くすることなどで洗浄液中のH濃度の変動に起因したHaze増加量のバラツキを抑制することもできる。
【0047】
続いて、洗浄時間の影響について述べる。
図5には、NHOH濃度が0.03wt%、H濃度が0.05wt%の洗浄液で、洗浄温度が80℃で、洗浄時間を30,60,180,360secで洗浄した際のHaze増加量を示した。洗浄時間が長いほど、Haze増加量が増加していることが分かる。したがって、NHOH濃度、H濃度、洗浄温度の他、さらには洗浄時間を調整することで粗化度合いを調整することもできる。上述のようにNHOH濃度を調整しても良いし、洗浄時間を調整して粗化度合いを制御しても良く、適宜必要に応じて使い分ければよい。このように、S1での相関関係取得やS2での粗化洗浄条件の決定を、洗浄時間をさらに考慮して行うことも可能である。
【0048】
(工程S3:粗化洗浄工程)
続いてS3の粗化洗浄工程では、S2で決定した粗化洗浄条件で、自然酸化膜がないベア面の粗化対象シリコンウェーハを洗浄する。該洗浄により、粗化対象シリコンウェーハの表裏面(又は裏面)を粗化する工程である。このように、前述したS1、S2を経てこのS3の工程を行うことで、前述した所望のHaze増加量の粗化ウェーハを確実に得ることができる。しかも、特には、所望のHaze増加量から大きく外れることがなく(すなわち、Haze増加量のバラツキが小さく)、安定した粗化度合いで作製することができる。
【0049】
続いて、本発明の洗浄を実施する際の洗浄方式について述べる。現在、ウェーハの洗浄方式は大半が薬液や純水などの液体を使用するものでウェット洗浄と呼ばれる。その中で主な方式としては一度に多くのウェーハをまとめて洗浄するバッチ方式とウェーハを1枚ずつ処理する枚葉方式に分かれる。バッチ方式は装置構成上ウェーハの表面及び裏面の両方が薬液に浸漬するため、本発明の洗浄を行うと表裏面が粗化される。対して、枚葉方式はウェーハを回転させながら、薬液をスプレーするため、ウェーハの片面のみを洗浄することができる。本発明者らが調査したところ、本発明ではバッチ方式及び枚葉方式どちらの方式でも粗化することができる。ウェーハの製造工程を考慮し、適宜方式を選定することができる。
【0050】
上述のように裏面のみが粗いウェーハを作製するには、枚葉方式の場合は裏面のみを洗浄すればよく、バッチ方式の場合は表裏面両方ともが粗化されてしまう。そこで本発明のシリコンウェーハの製造方法のように、本発明の洗浄方法により洗浄した後、研磨工程により、特には表面側の品質を良好にすることが望ましい。
例えば、本発明のシリコンウェーハの洗浄方法をバッチ式の洗浄機で行ってシリコンウェーハの表裏面共に粗化し、その後CMP加工のような片面研磨を片方の面(すなわち表面)に対して行うことで、該片方の面とは反対側の面(すなわち裏面)のみが選択的に粗化されたウェーハを製造することができる。
このようなウェーハであれば、ウェット環境下でもチャック不良を引き起こさず、安定した製造が可能となる。
【0051】
続いて、前述した本発明の洗浄方法において粗化に用いる洗浄液に関し、該洗浄液中の過酸化水素濃度を評価する方法及び管理する方法について述べる。
上述のように本発明の粗化挙動は過酸化水素濃度に強く依存することから、過酸化水素濃度を管理することでより安定的に粗化を進行させることができる。一般的なSC1洗浄液の薬液濃度を評価する方法としては吸光度や屈折率による濃度測定方法があり、その精度も高いことが知られている。しかし、本発明者らが、粗化洗浄を行うため、例えばNHOHが0.25wt%、H濃度が0.07wt%で配合した洗浄液を吸光度方式の濃度計にて濃度を計測したところ、NHOH濃度は0.24wt%と計測されたが、H濃度は検出下限値以下となり、計測できなかった。
【0052】
そこで本発明者らは上述した粗化挙動を利用してH濃度を評価及び管理できないか鋭意検討を行った。図6は本発明の洗浄液中の過酸化水素濃度の評価方法および管理方法のフローである。
(工程S11:洗浄液濃度調査工程)
初めにS11の洗浄液濃度調査工程のように、調査用シリコンウェーハ(自然酸化膜を有する)について、粗化量(例えばHaze増加量)と、洗浄液(水酸化アンモニウムを含み、かつ、過酸化水素濃度が0~0.15wt%の水溶液)の温度と、洗浄液中の水酸化アンモニウム濃度と、洗浄液中の過酸化水素濃度との相関関係を取得しておく工程である。
なお、上記洗浄液の例としては、過酸化水素濃度が0wt%のときは、水酸化アンモニウムを含む水溶液とすることができ、また、過酸化水素濃度が0wt%ではないときは、水酸化アンモニウムと過酸化水素水を含む水溶液(SC1洗浄液)とすることができる。
【0053】
ここで、前述した本発明のシリコンウェーハの洗浄方法における工程S1の洗浄液濃度調査工程(調査用シリコンウェーハとして自然酸化膜がないものを使用)とは異なり、本発明の洗浄液中の過酸化水素濃度評価方法のこの工程S11の洗浄液濃度調査工程で自然酸化膜を有するものを使用する理由は以下の通りである。
洗浄方法では、特には過酸化水素量の変動に対する粗化量のバラツキが小さく、安定した領域を求めるため図3のような傾向が得られるように自然酸化膜がないものを用いたが、この場合は逆に言えば粗化量に対応する過酸化水素濃度を一義的に求められなくなる。一方で自然酸化膜を有する場合は、後述するように過酸化水素濃度が高いほど粗化量が減少する傾向があり、粗化量から過酸化水素濃度を一義的に求めることができるからである。
【0054】
以下、洗浄液濃度調査工程について、より具体的な例を挙げて説明する。
まず、自然酸化膜を有する調査用シリコンウェーハを用意し、Haze増加量を算出するため、洗浄前にパーティクルカウンターにてHaze値を取得する。
なお、自然酸化膜の形成方法としては、一般的なSC1洗浄やオゾン水洗浄が挙げられる。これらの洗浄は洗浄後に自然酸化膜が形成されれば特に制限されない。SC1洗浄液の混合比(体積比)は例えばNHOH:H:HO=1:1:10、温度は30~80℃、洗浄時間は90~360秒が好ましい。オゾン水の濃度は3~25ppmの範囲で、温度は10~30℃、洗浄時間は60~360秒が好ましい。
【0055】
次に、前述した洗浄液を種々の温度で用意し、NHOH濃度やH濃度を振って(さらには必要に応じて洗浄時間も振って)、自然酸化膜が存在する調査用シリコンウェーハを洗浄して表裏面(又は裏面)を粗化した後、パーティクルカウンターにてHaze値を取得する。
図7は、洗浄温度が80℃で、洗浄時間3min、洗浄液中のNHOH濃度が0.03wt%の場合のH濃度に対するHaze増加量を示した結果である。ベア面の場合(例えば図3)とは傾向が異なり、H濃度が高いほど、Haze増加量が減少する傾向が分かる。このように、予め、洗浄温度と、NHOH濃度と、H濃度と、Haze増加量との相関関係を取得しておく。
尚、本発明者らが調査した結果、H濃度が0.15wt%より大きい場合では、Haze増加量はほぼ0に近い値となり、指標とすることが難しい。一方、本発明はH濃度が0.15wt%以下の洗浄液に対する評価方法であり、このような微量の場合でも精度よくH濃度を評価することでできる。
【0056】
(工程S12:過酸化水素濃度評価工程)
次にS12の過酸化水素濃度評価工程のように、H濃度を計測したい評価対象洗浄液(少なくとも水酸化アンモニウムを含む水溶液)で、S11のときと同様の自然酸化膜を有するシリコンウェーハを、S11で取得した相関関係のうちの所定の洗浄温度(さらには所定の洗浄時間)で洗浄し、Haze増加量を取得する。なお、NHOH濃度は例えば従来法により測定して求めておいても良い。
特には、洗浄温度(および洗浄時間)を予め設定しておき、S11とS12の工程を同じ洗浄温度(および洗浄時間)で行うと簡便である。
次いで、S11で求めた相関関係に基づいて、上記で得られたHaze増加量、洗浄温度(および洗浄時間)、NHOH濃度から、H濃度を評価することができる。
【0057】
(工程S13:過酸化水素濃度管理工程)
また、さらにはS13の過酸化水素濃度管理工程のように、S12で得られた評価結果に応じて、洗浄液中の過酸化水素濃度を調整することもできる。
例えば、初めにNHOH濃度が0.03wt%、H濃度が0.05wt%となるように配合した洗浄液を用いて、所定時間洗浄した後、本発明の評価方法でH濃度を評価したところ、0.04wt%と判定された場合は、H濃度が0.05wt%となるように過酸化水素水を注加することができる。逆に0.06wt%と判定された場合はH濃度が0.05wt%となるように純水を注加することができる。このような管理方法を行うことで、薬液ライフを長くすることもでき、Haze増加量が安定した粗化ウェーハを製造することができる。
このようにして、洗浄液中の0~0.15wt%という微量のH濃度を精度良く評価し、また管理することができ、ひいては所望の粗化ウェーハを安定して製造可能である。
【実施例
【0058】
以下、本発明を実施例に基づきさらに説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきではない。
(実施例1)
図1の本発明の洗浄方法に示すように、初めに予備試験のS1の洗浄液濃度調査工程を実施した。
KLA社製パーティクルカウンター SP3にて、DSP加工後の自然酸化膜のないベア面のシリコンウェーハ(調査用シリコンウェーハ)のHaze値を取得した。続いて、28質量%のアンモニア水(NHOH)と、さらには必要に応じて30質量%の過酸化水素水(H)を用いて、洗浄液の温度が80℃で、NHOH濃度が0.03wt%と0.25wt%の2水準の洗浄液を準備し、H濃度を0~0.15wt%の範囲内で変えて上記のベア面のシリコンウェーハを洗浄時間3minで洗浄した後、SP3にてHaze値を取得し、洗浄前後の差分から粗化量の指標であるHaze増加量を算出した。
洗浄温度が80℃の場合における、Haze増加量、NHOH濃度、およびH濃度の相関関係を図8に示す。
【0059】
次にS2の粗化洗浄条件決定工程を実施した。
Haze増加量が10ppmと30ppmの2水準のウェーハを作製することを目的とした。S1で求めた図8の相関関係からこれらのHaze増加量を得られるような粗化洗浄条件を決定した。
10ppmについては、NHOH濃度が0.03wt%の場合に着目すると、H濃度が約0.03~0.08wt%範囲でHaze増加量が約5~6ppm程度と安定した範囲が存在していること分かる。したがって、次のS3の工程で、粗化対象シリコンウェーハに対して用いる洗浄液は、NHOH濃度を0.03wt%とし、H濃度を0.03~0.08wt%の範囲内のうちの0.05wt%とし、洗浄温度は80℃とした。洗浄時間については、Haze増加量と洗浄時間には正の相関があり、3minで5~6ppmのHaze増加量であることを踏まえ、洗浄時間を3minの2倍の6minと設定した。この設定により、約10ppmのHaze増加量が見込まれる。
【0060】
30ppmについては、NHOH濃度が0.25wt%の場合に着目すると、H濃度が0.05~0.09wt%の範囲でHaze増加量が約30ppmと安定している。このことから、洗浄液は、NHOH濃度を0.25wt%とし、H濃度を0.05~0.09wt%の範囲内の0.07wt%とし、洗浄温度は80℃とした。洗浄時間は、3minで30ppmのHaze増加量であることから、S1のときと同様に3minとした。
【0061】
次いで、S3の粗化洗浄工程を実施した。
S2で決定したHaze増加量が10ppmと30ppm狙いの2水準の粗化洗浄条件にて、DSP加工後の自然酸化膜がないベア面のシリコンウェーハ(粗化対象シリコンウェーハ)を各水準5枚をバッチ式洗浄機で洗浄して両面を粗化し、SP3にてHaze値を取得し、Haze増加量を算出した。10ppm狙いのウェーハのHaze増加量の平均値は10.7ppm、30ppm狙いのウェーハのHaze増加量の平均値は31.2ppmとなり、狙いHaze増加量と同等の粗さを形成したウェーハを作製することができた。またLLS品質は10ppm狙いのウェーハでは1pcs、30ppm狙いのウェーハでは0pcsとなり良好であった。
【0062】
このように両面が粗化された狙いHaze増加量が10ppmと30ppmの各1枚について、その表面側に対して取り代500nmのCMP加工を行った。CMP加工後の各ウェーハのKLA社製SP5/19nmUpにてLLS数を評価したところ、10ppm狙いでは12pcs、30ppm狙いでは9pcsとなり、後述する比較例の水準1と同等で良好な品質であった。
その後、水中保管した各ウェーハの裏面側をチャックし研磨機のステージにウェーハをアンチャックさせる搬送テストを繰り返し200回行ったところ、2水準とも200回ともすべて不良なく搬送することができた。
【0063】
(実施例2)
次に、図6の本発明の評価方法に基づき、粗化洗浄を安定的に行うための洗浄液中の過酸化水素濃度の評価を行った。
Haze増加量が10ppmとなるように、実施例1のS2,S3の結果を元に、NHOH濃度が0.03wt%でH濃度が0.05wt%、温度が80℃の洗浄液の過酸化水素濃度を評価した。
初めにS11の洗浄液濃度調査工程のように、洗浄温度(80℃)、NHOH濃度(0.03wt%)、H濃度および粗化量の相関関係を取得した。
具体的には、まず、シリコンウェーハをNHOH:H:HO=1:1:10の洗浄液にて80℃で3min洗浄し自然酸化膜が存在するウェーハを作製し(調査用シリコンウェーハ)、SP3にてHaze値を取得した。次に、NHOH濃度が0.03wt%、洗浄温度が80℃の洗浄液でH濃度を変えて自然酸化膜が存在するシリコンウェーハを3min洗浄した。洗浄後のウェーハのHaze値をSP3にて取得し、Haze増加量を算出した。その結果は図7と同様であった。すなわち、例えばH濃度が0.05wt%の場合は41ppm、0.02wt%の場合は181ppmとなり、H濃度の増加に伴い粗化量(即ちHaze増加量)が小さくなる相関関係が得られた。
【0064】
次に、S12の過酸化水素濃度評価工程を行った。
まず、この洗浄液にてシリコンウェーハを200枚洗浄し、両面粗化されたシリコンウェーハを製造した。200枚洗浄後の洗浄液(評価対象洗浄液)中の過酸化水素濃度を評価するため、Haze値を取得してある自然酸化膜が存在するウェーハを洗浄した後、SP3にてHaze値を取得し、Haze増加量を算出した。その結果、Haze増加量は60ppmとなった。
図7の相関関係を参照すると、評価対象洗浄液中のH濃度が約0.04wt%と求まった。200枚洗浄前の狙いH濃度が0.05wt%であることから、約0.01wt%濃度が低下したと判断した。恐らく、200枚洗浄したことで、ウェーハに薬液が付着したことや、純水(リンス)槽からの持ち込みが原因と考えられる。
【0065】
次にS13の過酸化水素濃度管理工程にて、狙いH濃度である0.05wt%になるように、Hを洗浄液に注加した。
その後、確認のため、Haze値を取得してある自然酸化膜が存在するウェーハを洗浄した後、SP3にてHaze値を取得し、Haze増加量を算出した。その結果、40ppmと求まり、相関関係からHが約0.05wt%と求まり、H濃度が狙い通りであることを確認できた。
【0066】
以上の結果から、本発明の洗浄方法を用いることで、シリコンウェーハの表裏面(特に裏面)を、チャックによる吸着に適した粗さを示すのに十分に粗化することができたことが分かる。さらに本発明の洗浄液中の過酸化水素濃度の評価方法や管理方法を用いることで、従来困難であった微量の過酸化水素濃度を評価でき、また管理できることが分かる。
【0067】
(比較例)
DSP加工後の自然酸化膜がないベア面のシリコンウェーハを用意し、SP3にてHaze評価を行った。次にバッチ式洗浄機にて、表1に示した6つの水準の条件(液組成、洗浄温度、洗浄時間)にて洗浄を行った。洗浄液の調製には28質量%のアンモニア水(NHOH)、30質量%の過酸化水素水(H)を用いた。洗浄後のウェーハをSP3で評価し、Haze値を取得し、Haze増加量を算出した。
【0068】
表1の全水準ともHaze増加量は1ppm以下となり、実施例1の10ppmや30ppmと比較すると小さいことから粗化されていないと判断した。
水準1及び水準5のウェーハに対し、取り代500nmのCMP加工を行った後、SP5/19nmUPにてLLS数を評価したところ、水準1では10pcs、水準5では342pcsとなった。水準1のLLSレベルは実施例1と同等であったが、水準5は粗化洗浄工程時にエッチング優勢となり形成されたエッチピットがCMP工程で残留したためLLS品質が悪化したと考えられる。次に水準1と水準5のウェーハに対し、実施例1と同様のチャックテストを200回行った。ウェーハがチャックから脱離しない不良が水準1は4回、水準5では3回発生した。
また水準5の洗浄液のH濃度を吸光度方式の濃度計で計測したが、検出下限値以下となり評価することができなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8