(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】金属箔用又は金属層を有するシート用コーティング剤及び該コーティング剤を用いた積層体並びに包装体、電磁波シールド
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20241016BHJP
B65D 75/34 20060101ALI20241016BHJP
B65D 81/24 20060101ALI20241016BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20241016BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20241016BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241016BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20241016BHJP
C09D 129/14 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B65D75/34
B65D81/24 D
B32B7/025
B32B15/082 Z
B32B27/00 H
C09D175/04
C09D129/14
(21)【出願番号】P 2021167289
(22)【出願日】2021-10-12
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】田原 裕介
(72)【発明者】
【氏名】藤野 浩二
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-515953(JP,A)
【文献】特開2018-2922(JP,A)
【文献】特開2015-120856(JP,A)
【文献】特開2012-63719(JP,A)
【文献】特開2009-202588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B65D65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルブチラール樹脂と、ポリイソシアネート化合物を含有し、
表面保護コーティング剤中に含有される樹脂全量に対して、前記ポリビニルブチラール樹脂及び前記ポリイソシアネート
化合物の総量が50質量%以上である、
金属箔用又は金属層を有するシート用表面保護コーティング剤
であり、
前記金属箔又は金属層を有するシートがプレススルーパッケージ包装用の蓋材に用いられる、金属箔用又は金属層を有するシート用表面保護コーティング剤。
【請求項2】
ポリビニルブチラール樹脂の固形分含有量は、コーティング剤100質量%に対して10~50質量%含有する請求項1に記載の金属箔用又は金属層を有するシート用表面保護コーティング剤。
【請求項3】
前記ポリビニルブチラール樹脂が、数平均分子量5000~150000であり、水酸基
含有率が10~50mo
l%の範囲にある請求項1又は2に記載の金属箔用又は金属層を有するシート用表面保護コーティング剤。
【請求項4】
前記金属箔がアルミニウム箔である請求項1~3のいずれかに記載の金属箔用又は金属層を有するシート用表面保護コーティング剤。
【請求項5】
金属箔又は金属層を有するシートと、
前記金属箔又は金属層を有するシートの一方の面上に請求項1~4のいずれかに記載の金属箔用表面保護コーティング剤を塗工したコーティング層と、
を有する
プレススルーパッケージ包装用の蓋材。
【請求項6】
前記金属箔において前記表面保護コーティング剤が設けられた面とは異なる他方の面上にヒートシール剤を塗工したヒートシール層
を有する請求項
5に記載の
プレススルーパッケージ包装用の蓋材。
【請求項7】
前記金属箔と前記表面保護コーティング層との間に印刷層を有する請求項
5又は
6に記載の
プレススルーパッケージ包装用の蓋材。
【請求項8】
請求項
5~
7のいずれか一項に記載の
プレススルーパッケージ包装用の蓋材を用いたプレススルーパッケージ包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用PTP包材(Press Through Package)、食品や飲料パック、電磁波シールド等に用いられる金属箔又は金属層を有するシートへの塗工を目的とするコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬品や食品等の包装部材として、アルミニウム箔(アルミ箔ともいう)等の金属箔が使用されている。また、食品や医薬品のバリア性を高めるためのバリアシートや電磁波シールドシートとして、金属層を有するフィルム、シートが使用されている。
【0003】
例えば、アルミニウム箔を積層体の一部として、アルミニウム箔などの金属箔基材とポリエチレンやポリプロピレンなどの熱融着性フィルム(以下シーラントと記載する)を、ポリウレタン系接着剤などを用いて積層することによって食品包装材料として使用すること、アルミ箔とヒートシール剤とを、接着剤等を使用して医薬品包装容器(PTP包装容器)として使用すること、ヨーグルトや乳酸飲料などの液状流動乳製品等の液状流動食品の蓋材として使用すること、収容する容器のガスバリア機能を期待した用途として、アルミ箔やアルミ蒸着膜をプラスチックフィルムと積層させて使用すること、電磁波や高周波をシールドするための金属層を有する電磁波シールドシートを電子機器等に使用することが挙げられる。
【0004】
一方、アルミ箔等の金属箔は薄いため耐擦性等に劣ることから、アルミ箔を最表層とする積層体は今まであまり流通はしていない。しかしながら近年、包装部材の軽量化や低コスト化、あるいはリサイクル性を考慮して、従来の複雑な積層構造ではない、簡便な積層構造を有する包装材が要求されるようになり、アルミ箔を最表層とする積層体の検討が試みられるようになってきている。
【0005】
これらの金属箔又は金属蒸着等による金属層を有するシートの耐擦性や耐熱性を向上させたり、他の部材との密着性を高めるために、金属箔又は金属層用のコーティング剤が使用されている。
【0006】
このような金属箔又は金属層用のコーティング剤を医薬品や食品用に使用する場合には、コーティング剤の人体安全性が重要である。そのため、アルミ箔等の金属箔用のコーティング剤として、プレススルーパッケージ(以下、「PTP」という)包装の蓋材に用いられるPTP包装用コート剤として、メラミンに代表されるアミン系の硬化剤を使用しないことにより、ホルマリン発生を抑えて安全性を向上させることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年は人体安全性や環境安全性に対する要求が更に高まっている。例えば特許文献1に記載のコーティング剤はメラミンの発生を抑えるものの、硝化綿(ニトロセルロース)を使用しており、硝化綿はニトロソアミン発生の原因となるため、安全性の観点から十分とは言えない。
【0009】
しかしながら、ホルムアルデヒド及びニトロソアミンの発生の抑制により人体安全性が高く、且つ、密着性、耐擦性及び耐熱性のようなコーティング剤としての基本的性能を満たすものは知られていない。
【0010】
更に、コーティング剤にはトルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤が配合上含まれているものが多いが、環境安全性の観点から、これらを含有しない組成が求められている。
【0011】
一方で、金属箔又は金属層を有するシートは、ヒートシールした包装材として用いられることが多いが、ヒートシールの際300℃近くもの熱がかかるため、金属箔又は金属層にクラックが生じたり、印刷層がにじんだりする問題が生じやすい。そのため、コーティング剤の更なる耐熱性や耐擦性等の機能性向上も求められている。
【0012】
そこで、本発明の課題は、ホルムアルデヒド及びニトロソアミンの発生を抑制でき、且つ、金属箔又は金属層に対する密着性、耐熱性、耐擦性に優れる金属箔用又は金属層を有するシート用のコーティング剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ホルマリンの発生原因となるメラミン、及びニトロソアミンの発生原因となる硝化綿を用いずに、金属箔又は金属層に対する密着性、耐熱性、耐擦性に優れた組成を種々検討した結果、ポリビニルブチラール樹脂と、ポリイソシアネート化合物を含有する組成により、人体及び環境安全性に優れ、且つ、金属箔又は金属箔又は金属層に対する密着性、耐熱性、耐擦性にも優れたコーティング剤を得られることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、ポリビニルブチラール樹脂と、ポリイソシアネート化合物を含有する金属箔用又は金属層を有するシート用コーティング剤である。
【0015】
また、本発明は、金属箔又は金属層を有するシートと、金属箔又は金属層を有するシートの一方の面上にポリビニルブチラール樹脂と、ポリイソシアネート化合物を含有する金属箔用又は金属層を有するシート用コーティング剤を塗工したコーティング層とを有する積層体である。
【0016】
また、本発明は、上記積層体を用いたプレススルーパッケージ包装体または電磁波シールドである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、ホルマリンやニトロソアミンの発生が抑えられるため安全性が高く、且つ、
金属箔や金属層に対する密着性に優れ、且つ耐熱性、耐擦性に優れる金属箔用又は金属層を有するシート用のコーティング剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔ポリビニルブチラール樹脂〕
ポリビニルブチラール樹脂としては、特に限定なく公知のものを使用することができる。一般的には、ポリビニルアルコールにブチルアルデヒドを公知の反応によりアセタール化することにより得られた反応物を使用することができる。
【0019】
ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量は、5000~150000であることが好ましく、6000~100000であることがより好ましく、7000~50000であることが更に好ましい。ポリビニルブチラール樹脂の重量平均分子量を上記範囲にすることにより、コーティング組成物の流動性と分散性、及び塗膜の強度のバランスに優れたコーティング剤を得ることができる。
【0020】
ポリビニルブチラール樹脂のガラス転移温度(以下Tgと称する場合がある)は、50℃~120℃の範囲であることが好ましく、中でも55℃~115℃の範囲が好ましく、60~90℃の範囲がより好ましい。本発明においてガラス転移温度は、示差走査熱量計による測定により得られるものである。
【0021】
ポリビニルブチラール樹脂の水酸基価は10~50mol/%の範囲にあることが好ましく、30~40mol/%であることがより好ましい。ポリビニルブチラール樹脂の水酸基価を上記範囲にすることにより、架橋剤と反応させたときの硬化性に優れ、塗膜の強度と適度な柔軟性を両立させることができる。
【0022】
ポリビニルブチラール樹脂含有量(ポリビニルブチラール樹脂の固形分含有量)は、コーティング剤100質量%に対して10~50質量%含有することが好ましく、より好ましくは15~40質量%であり、最も好ましくは20~30質量%である。
【0023】
本発明のコーティング剤に含有されるポリビニルブチラール樹脂は、1種類を用いても2種類以上を併用して用いてもよい。
〔ポリイソシアネート〕
本発明のコーティング剤は、ポリイソシアネート化合物を含有する。ポリビニルブチラールとポリイソシアネート化合物を含有することにより、これらの硬化反応によって架橋状態の樹脂を形成できる。そのため、密着性、耐擦性及び耐熱性を向上させることができる。
【0024】
本発明で使用するポリイソシアネートは、特に限定なくポリビニルブチラールと反応しうるイソシアネート基を複数有するイソシアネート化合物であれば特に限定されない。例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのポリイソシアネート;これらのポリイソシアネートのアダクト体、これらのポリイソシアネートのビュレット体、または、これらのポリイソシアネートのイソシアヌレート体などのポリイソシアネートの誘導体(変性物)などが挙げられる。
【0025】
本発明に用いるポリイソシアネート化合物は、硬化剤として作用し適宜選択して用いることができるが、芳香族系であっても脂肪族系であってもよい。本発明で好ましく用いられるポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等のポリイソシアネート、を挙げることができる。
【0026】
中でもキシリレンジイソシアネート(XDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)が好ましい。
【0027】
〔イソシアネート基含有率(当量)〕
本発明においては、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基価に対するポリイソシアネートのイソシアネート基含有率(当量)が0.1~5.0の範囲であることが好ましく、0.2~4.0の範囲であることがより好ましく、0.3~3.0の範囲であることが更に好ましい。この範囲とすることで、金属箔や金属層に対する密着性と耐擦性とを両立させることができる。なお本発明において、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基価に対するポリイソシアネートのイソシアネート基含有率(当量)は次の方法により算出した。
ポリビニルブチラール樹脂の水酸基価:A(mgKOH/g)
ポリビニルブチラール樹脂の質量:B(g)
ポリイソシアネートのNCO%:C(%)
ポリイソシアネートの質量:D(g)
NCO/OH比=C×D×561/(A×B×42)
D(g)=((A×B)/C)×(42/561)×NCO/OH(当量比)
【0028】
〔その他の原料〕
本発明の金属箔用コーティング剤は、前記ポリビニルブチラール樹脂と、前記ポリイソシアネート以外に、汎用の樹脂を含有することもできる。例えば、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル-アクリル系共重合樹脂、ロジン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ダンマル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ポリアセタール樹脂、石油樹脂、およびこれらの変性樹脂等があげられる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。医薬品や食品用途の場合は、安全衛生の観点から、エポキシ樹脂や塩素系樹脂を用いないことが好ましい。
【0029】
本発明のコーティング剤は、本発明の効果を発現するために、本発明のコーティング剤中に含有される樹脂全量に対して、前記ポリビニルブチラール樹脂及び前記ポリイソシアネートの総量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましく、95質量%であることが好ましい。
【0030】
また、耐摩性を上げる為、耐摩剤、滑り剤等を配合しても良い。脂肪酸アミド、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、PTFE等を単独で、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0031】
また、硬化性を上げる為、触媒を添加しても良い。
前記触媒としては、有機系スズ化合物、三級アミン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0032】
必要に応じて上記以外の例えば、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、高級脂肪酸等の有機化合物系ブロッキング防止剤を使用することが好ましい。これら有機化合物系ブロッキング防止剤は、ヒートシール層表面にブリードアウトすることでブロッキングを防止する。そのため、粒子系ブロッキング防止剤と有機化合物系ブロッキング防止剤を併用してもよい。有機化合物系ブロッキング防止剤は多量に配合すると接着性を阻害し、接着不良を起こし易いので、少量添加に留めることが好ましい。
【0033】
実際に本発明の金属箔用コーティング剤を金属箔に塗布するに当っては、その塗布性能を上げるべく、各種有機溶剤で固形分20%質量となる様に溶解して使用する。
【0034】
使用できる希釈溶剤としては、特に制限はないが、たとえばトルエン、キシレン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の芳香族炭化水素系、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系の各種有機溶剤が挙げられる。また水混和性有機溶剤としてメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、シクロハキサノン等のケトン系、エチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、エチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル等のグリコールエーテル系の各種有機溶剤が挙げられる。これらの中でも、アルコール系、メチルエチルケトン等のケトン系や、これらの混合物を使用するのが好ましい。近年、作業環境の観点から、トルエン、キシレンといった芳香族系溶剤やケトン系溶剤を用いないことがより好ましい。
【0035】
金属箔や金属層への塗工法としては、例えば、バーコーター、グラビアコート法、ロールコート法、ナイフコート法、キスコート法、その他等の方法で塗工することができる。本発明の効果を最大限発揮するためには、金属箔や金属層への塗膜量としては0.5~5g/m2が好ましく、乾燥条件は120~200℃で5~100秒の範囲が好ましい。
【0036】
本発明の金属箔用又は金属層を有するシート用のコーティング剤の具体的な用途としては、錠剤やカプセルを充填した医療用PTP包材(Press Through Package)、ヨーグルト、コーヒーパック、乳飲料パック、電磁波シールド等の金属箔又は金属層を有するシートを用いた蓋材への塗工を挙げることができる。金属箔は、アルミニウム箔が好ましい。金属層を有するシートは、プラスチックフィルム等のシート状の基材に、例えば金属箔、金属蒸着膜、金属メッキ膜等を設けたものを使用できる。金属箔又は金属層と本発明のコーティング剤は直接接することが好ましいが、例えば金属箔又は金属層と本発明のコーティング剤の間に印刷層等の他の層を有していてもよい。
【0037】
<積層体>
本発明の積層体は、金属箔又は金属層を有するシート基材の一方の面上に本発明のコーティング剤を塗布、乾燥させて得られる。金属層を有するシート基材を用いる場合は、コーティング剤は金属層上に設けられる。以下、本発明の積層体して錠剤又はカプセル剤などの医薬品などの包装体として使用されるPTP包装体の蓋材を一例に挙げて説明する。
【0038】
PTP包装体の蓋材は、金属箔等を基材として、当該基材の一方の面上に本発明のコーティング剤を有し、コーティング剤が設けられた面とは異なる他方の面上にヒートシール剤を塗工したヒートシール層を有することが好ましい。金属箔は特に限定されるものではなくが、例えばアルミニウム箔が好ましい。金属箔の厚みは特に限定されるものではないが、例えば厚み5~50μmの金属箔が使用できる。
【0039】
金属箔の一方の面、すなわち、PTP包装体の蓋材の外側の面には、通常、金属箔の着色や錠剤やカプセル剤の商品名等を表示するために印刷層が設けられる。印刷層はグラビアインキ、フレキソインキ、オフセットインキ、孔版インキ、インクジェットインク等各種印刷インキにより、従来ポリマーフィルムへの印刷に用いられてきた公知の材料及び印刷方法で形成される。印刷層に用いるインキ組成物を、本発明のコーティング剤と同様のポリビニルブチラール樹脂と、ポリイソシアネート化合物を含有する樹脂組成とし、これに着色剤を含有させたものとしてもよい。本発明のコーティング剤は上記印刷層の上に設けられることが好ましい。
【0040】
金属箔の他方の面、コーティング剤が設けられた面とは異なる面上にはヒートシール剤が設けられることが好ましい。PTP包装体の蓋材は、錠剤又はカプセル剤などの内容物を収容する凹部を有するプラスチックシートと、ヒートシール剤により接着される。ヒートシール剤は特に限定なく、公知の材料を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、エポキシ系樹脂、ポリビニル、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、及びこれらの混合物等が挙げられる。金属箔とヒートシール剤の間に印刷層を設けてもよい。
【0041】
上述した積層体は、表面に本発明のコーティング剤を有するため金属箔に対する密着性、耐熱性、耐摩擦性を向上できる。そのため、PTP包装体の蓋材としてプラスチックシートとヒートシールしても、金属箔または印刷層がヒートシール処理による熱でダメージを受け、クラックが発生するのを防止することができる。また、金属箔の上に設けられた印刷層もコーティング剤で保護されるため、印刷層が擦れて剥がれたり、ヒートシール処理によって印刷がにじんだりすることを防止できる。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。以下、「部」及び「%」は、いずれも質量基準によるものとする。
【0043】
なお、本発明におけるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による重量平均分子量(ポリスチレン換算)の測定は東ソー(株)社製HLC8220システムを用い以下の条件で行った。
分離カラム:東ソー(株)製TSKgelGMHHR-Nを4本使用。カラム温度:40℃。移動層:和光純薬工業(株)製テトラヒドロフラン。流速:1.0ml/分。試料濃度:1.0重量%。試料注入量:100マイクロリットル。検出器:示差屈折計。
粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃において測定した。
【0044】
〔コーティング剤の作製〕
〔実施例1〕
ポリビニルブチラール樹脂(重量平均分子量15000、水酸基価約35mol/%、ガラス転移点70℃)を、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールが質量比で45:55の混合溶剤で固形分が25%となるように溶解しポリビニルブチラール溶液とした。
【0045】
続いて、ポリビニルブチラール樹脂の水酸基価に対して、イソシアネートのNCO基含有率(当量)が0.5~2.5となる様に、ポリビニルブチラール溶液100部に対して、ポリイソシアネートとして、タケネートD-110NB(キシリレンジイソシアネート(XDI)を12部、混合攪拌し、実施例1のコーティング剤を作製した。
【0046】
〔実施例2〕
実施例1において、ポリイソシアネートとして、コロネート2037(トリレンジイソシアネート(TDI)を17部添加した以外は実施例1と同様にして、実施例2のコーティング剤を作製した。なお、実施例2においてポリビニルブチラール樹脂の水酸基価に対して、イソシアネートのNCO基含有率(当量)は0.5~2.5の範囲である。
【0047】
〔比較例1〕
市販のリン酸変性エポキシ樹脂溶液(固形分55%)と、市販のメラミン樹脂(固形分98%)と、混合溶剤とを質量比で42:13:45になるように混合し、固形分36%の比較例1のコーティング剤を作製した。混合溶剤は、イソプロピルアルコールとトルエンを質量比で20:80になるよう混合したものを用いた。
【0048】
〔比較例2〕
市販の工業用硝化綿(固形分70%)と、市販のアクリル樹脂(固形分50%)と、市販のメラミン樹脂(固形分98%)と、混合溶剤と、添加剤として酸触媒を、質量比で15:11:4:69:1になるように混合し、固形分20%の比較例2のコーティング剤を作製した。混合溶剤は、メチルエチルケトンと酢酸エチルとイソプロピルアルコールを質量比で50:30:20になるよう混合したものを用いた。
【0049】
〔比較例3〕
市販の工業用硝化綿(固形分70%)と、混合溶剤を、質量比で30:70になるように混合し、21%の比較例3のコーティング剤を作製した。混合溶剤は、酢酸エチルとイソプロピルアルコールを質量比で40:60になるよう混合したものを用いた。
【0050】
〔蓋材への塗装〕
硬質アルミ箔へ焼き付け後の塗膜量が2g/m2となるようにグラビアコーターを使用して塗工し、180℃10秒で乾燥させた。
【0051】
〔評価基準1:折り曲げ密着性〕
作成した塗膜を外側に180°折り曲げ、アルミ箔上の塗膜に直線状の折り曲げ痕をつけ、塗膜を元に戻す。直線状の折り曲げ痕をつけたアルミ箔上の塗膜を平らな台に置き、直線状の折り曲げ痕部分を中心になる様にニチバンの24mm幅セロファンテープを貼り、セロファンテープが塗膜に完全に接着する様に、布等でセロファンテープの上から擦りつける。貼り付けたセロファンテープより2mm程大きい枠を、セロファンテープの外側の塗膜に強く押し当てながら、塗膜に貼り付けたセロファンテープを上方に、勢い良く剥がし、塗膜のアルミ箔への密着度合を目視判定する。
【0052】
(評価基準)
5:セロファンテープ接着部分の塗膜の剥離は見られない。
4:セロファンテープ接着部分の塗膜の10%未満が剥離した
3:セロファンテープ接着部分の塗膜の10%以上30%未満が剥離した
2:セロファンテープ接着部分の塗膜の30%以上50%未満が剥離した。
1:簡単に:セロファンテープ接着部分の塗膜の50%以上が剥離した。
【0053】
〔評価基準2:耐摩耗性〕
作成した塗膜を適当な大きさに切断し、学振型摩擦試験機(大栄科学精器製作所製RT-100、曲面半径200mm)にセットする。磨耗子の先端にガーゼを取り付け、試験荷重500(g)で100往復させた後、塗膜表面の傷付き、磨耗具合を目視判定する。
【0054】
(評価基準)
5:塗膜表面の傷付き、磨耗部分の面積が0%
4:塗膜表面の傷付き、磨耗部分の面積が10%未満
3:塗膜表面の傷付き、磨耗部分の面積が10%以上30%未満
2:塗膜表面の傷付き、磨耗部分の面積が30%以上50%未満
1:塗膜表面の傷付き、磨耗部分の面積が50%以上
〔評価基準3:耐熱性〕
作成した塗膜をヒートシールテスター(テスター産業株式会社製TP-701-B)にセットして、設定温度230、250、270℃、設定圧力0.3MPa、設定時間2秒でシールする。シール後の塗膜の膨れや変色具合を目視判定する。
【0055】
(評価基準)
5:塗膜表面に変色や膨れが全く無い
4:塗膜表面に極小量の変色や膨れがある
3:塗膜表面に小量の変色や膨れがある
2:塗膜表面に変色や膨れがある
1:塗膜表面に大きな変色や膨れがある
結果を以下の表1に示す。
【0056】
【0057】
本発明のコーティング剤は、ホルマリンやニトロソアミンの発生を抑えられ、且つ、アルミ箔等の金属箔に対する密着性に優れ、耐熱性、及び耐摩耗性を兼備する結果となった。