(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】分散液及び成形物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20241016BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241016BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20241016BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20241016BHJP
C08K 7/26 20060101ALI20241016BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241016BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20241016BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241016BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K3/22
C08K3/34
C08K7/18
C08K7/26
B32B27/30 D
B32B27/20 Z
B05D7/24 302L
B05D7/24 303H
B05D7/24 303L
B05D7/24 301E
B05D7/24 301K
B05D3/02 Z
(21)【出願番号】P 2021520784
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019671
(87)【国際公開番号】W WO2020235532
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019095078
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019144674
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019212480
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/094238(WO,A1)
【文献】特開平05-128912(JP,A)
【文献】特開昭61-266451(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104098897(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C09D、C08J、B32B、B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融温度が200~320℃であり熱可塑性を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーの平均粒子径(D50)が1μm以上20μm以下のパウダーと
、平均粒子径(D50)が
0.02~200μ
mである
酸化アルミニウム若しくは酸化マグネシウムの粒子である金属酸化物フィラーと
、球状であり平均粒子径(D50)が0.1~10μmである
シリカフィラー、タルクフィラー又はステアタイトフィラーである酸化ケイ素フィラーと、極性の液状分散媒とを含み、
前記金属酸化物フィラーの含有量が5質量%以上であり、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量、前記金属酸化物フィラーの含有量及び前記酸化ケイ素フィラーの含有量の和が20質量%以上80質量%以下であり、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記金属酸化物フィラーの含有量の質量比と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記酸化ケイ素フィラーの含有量の質量比とが、それぞれ0.1以上2以下である、分散液。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含有するポリマーと、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)に基づく単位を2モル%以上含有するポリマーと、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(メチルビニルエーテル)に基づく単位を含有するポリマーとからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記金属酸化物フィラーが、さらに酸化ケイ素を含む、請求項1
又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記酸化ケイ素フィラーの構造が、中空状である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記金属酸化物フィラーの含有量に対する、前記酸化ケイ素フィラーの含有量の質量比が、1未満である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
25℃における粘度が10000mPa・s以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
25℃におけるチキソ比が1.0~2.5である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の分散液を、基材層に付与し、加熱して前記液状分散媒を揮発させ、さらに加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成させて、前記基材層と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー、前記金属酸化物フィラー及び前記酸化ケイ素フィラーを含むポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項9】
溶融温度が200~320℃であり熱可塑性を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーと
、平均粒子径(D50)が
0.02~200μ
mである
酸化アルミニウム若しくは酸化マグネシウムの粒子である金属酸化物フィラーと
、球状であり平均粒子径(D50)が0.1~10μmである
シリカフィラー、タルクフィラー又はステアタイトフィラーである酸化ケイ素フィラーとを含み、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が50質量%以上であり、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記金属酸化物フィラーの含有量の質量比と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記酸化ケイ素フィラーの含有量の質量比とが、それぞれ0.1以上2以下であり、
かつ、前記金属酸化物フィラーの含有量と前記酸化ケイ素フィラーの含有量との総和が10質量%以上である、成形物。
【請求項10】
厚さが、1~1000μmである、請求項
9に記載の成形物。
【請求項11】
熱伝導率が、1W/mK以上である、請求項
9又は
10に記載の成形物。
【請求項12】
誘電正接が、0.005以下である、請求項
9~
11のいずれか1項に記載の成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマー、金属酸化物フィラー及び酸化ケイ素フィラーを含む分散液、並びにその成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等の物性に優れており、そのパウダーを含む分散液は、基板表面をテトラフルオロエチレン系ポリマーの層で被覆する材料として有用である。
【0003】
かかる分散液は、液自体の物性と、それから形成される層の物性とに優れる必要がある。さらに、近年では、金属基板等の表面を被覆する用途において、後者の物性の内、層の接着性、熱伝導性(放熱性)、耐擦傷性及び電気特性をさらに向上させる要求がされている。かかる用途に適した分散液として、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと金属酸化物のフィラーとを含む分散液が提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-110220号
【文献】特開2018-059032号
【文献】国際公開2018/110644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液自体の物性を保持しつつ、かかる物性にも優れた層を容易に形成できる、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む分散液の調製は困難である。
特許文献1、2の分散液は、分散媒の状態と金属酸化物のフィラーの粒径とによって、金属酸化物のフィラーの含有量が制約されるか、又は、その分散性が低下する(例えば、特許文献1中の、段落番号[0050]の表1、段落番号[0054]の表5を参照。)。その結果、分散液の態様が限定され、熱伝導性、接着性及び粘着性に優れる層、特に、熱伝導性(放熱性)に優れた層を形成しにくいという課題がある。
特許文献3の分散液は、接着成分として、テトラフルオロエチレン系ポリマー以外のポリマー(スルホン酸基を含む水溶性アクリルポリマー等)を多量に含むため、形成される層におけるテトラフルオロエチレン系ポリマーの物性(耐久耐候性等)が充分に発現しにくいという課題がある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーを所定のフィラーと組み合せることにより、各フィラーの物性とテトラフルオロエチレン系ポリマーの物性とを高度に具備する層を容易に形成できる分散液が得られることを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]溶融温度が200~320℃であり熱可塑性を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、金属酸化物を50質量%超含有する金属酸化物フィラーと、酸化ケイ素を50質量%超含有する酸化ケイ素フィラーと、極性の液状分散媒とを含み、前記金属酸化物フィラーの含有量が5質量%以上である、分散液。
[2]前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含有するポリマーと、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)に基づく単位を2モル%以上含有するポリマーと、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(メチルビニルエーテル)に基づく単位を含有するポリマーとからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、[1]の分散液。
[3]前記金属酸化物が、酸化アルミニウム、酸化鉛、酸化鉄、酸化錫、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、五酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化ネオジウム、酸化セリウム及び酸化ニオブからなる群より選択される少なくとも1種の金属酸化物である、[1]又は[2]の分散液。
[4]前記金属酸化物フィラーが、さらに酸化ケイ素を含む、[1]~[3]のいずれかの分散液。
[5]前記金属酸化物フィラーが、粒子状であり、かつ、平均粒子径が前記パウダーの平均粒子径以上であるフィラーであるか、繊維状であり、かつ、平均繊維長が前記パウダーの平均粒子径以上である、[1]~[4]のいずれかの分散液。
[6]前記酸化ケイ素フィラーの形状が、球状又は鱗片状である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の分散液。
[7]前記酸化ケイ素フィラーの構造が、中空状である、[1]~[6]のいずれかの分散液。
[8]前記金属酸化物フィラーの含有量に対する、前記酸化ケイ素フィラーの含有量の質量比が、1未満である、[1]~[7]のいずれかの分散液。
[9]25℃における粘度が10000mPa・s以下である、[1]~[8]のいずれかの分散液。
[10]25℃におけるチキソ比が1.0~2.5である、[1]~[9]のいずれかの分散液。
[11][1]~[10]のいずれかの分散液を、基材層に付与し、加熱して前記液状分散媒を揮発させ、さらに加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成させて、前記基材層と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー、前記金属酸化物フィラー及び前記酸化ケイ素フィラーを含むポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
[12]溶融温度が200~320℃であり熱可塑性を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーと、金属酸化物を50質量%超含有する金属酸化物フィラーと、酸化ケイ素を50質量%超含有する酸化ケイ素フィラーとを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が50質量%以上であり、かつ、前記金属酸化物フィラーの含有量と前記酸化ケイ素フィラーの含有量との総和が10質量%以上である、成形物。
[13]厚さが、1~1000μmである、[12]の成形物。
[14]熱伝導率が、1W/mK以上である、[12]又は[13]の成形物。
[15]誘電正接が、0.005以下である、[12]~[14]のいずれかの成形物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液自体の物性(分散性、塗工性)が良好であり、かつ熱伝導性、耐擦傷性、電気特性等に優れるポリマー層を容易に形成できる分散液、並びにかかるポリマー層を有する積層体及び成形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定した値である。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「パウダーの平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められるパウダーの体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダーの粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「パウダーのD90」は、同様にして測定される、パウダーの体積基準累積90%径である。
パウダーのD50及びD90は、パウダーを水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「分散液の粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「分散液のチキソ比」とは、回転数が30rpmの条件で測定される粘度η1を回転数が60rpmの条件で測定される粘度η2で除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAで規定される値である。
「剥離強度」とは、矩形状(長さ100mm、幅10mm)に切り出した積層体の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分、長さ方向の片端から積層体に対して90°で、ポリマー層と基板(アルミニウム箔)とを剥離させた際にかかる最大荷重(N/cm)である。
「成形物の熱伝導率」は、ASTM D5470に準じて測定される値である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマーから直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0009】
本発明の分散液は、溶融温度が200~300℃であり熱可塑性を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)と、金属酸化物を50質量%超含有する金属酸化物フィラー(以下、「MOフィラー」とも記す。)と、酸化ケイ素を50質量%超含有する酸化ケイ素フィラー(以下、「SOフィラー」とも記す。)と、極性の液状分散媒とを含む。本発明の分散液に含まれるMOフィラーの含有量は、5質量%以上である。本発明の分散液は、Fパウダー、MOフィラー及びSOフィラーのそれぞれが分散した分散液である。
【0010】
本発明の分散液は、分散性に優れており、MOフィラー及びSOフィラーが高度に分散した緻密なFポリマーの成形物(塗膜、フィルムに加えて、基材の表面に形成されるポリマー層等の態様を含む。以下同様。)を容易に形成できる。この理由は必ずしも明確ではないが、Fポリマーが所定の物性を有するため、Fパウダーの分散性が優れており、層の形成に際してFパウダーが高度に流動して、層中のフィラーの均質な分布が促されるためと考えられる。また、SOフィラーに含まれる酸化ケイ素により、層物性(線膨張性の低減、電気物性の向上等)が向上するだけでなく、MOフィラーの均質分布性及び配向性が向上しているとも考えられる。
その結果、成形物中においても、Fポリマーから形成されるマトリックスにMOフィラー及びSOフィラーが均一かつ強固に保持され、それぞれの物性が成形物に良好に付与されたと推察される。
以上のような効果は、後述する本発明の好ましい態様において、より顕著に発現する。
【0011】
本発明におけるFパウダーのD50は、40μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、8μm以下が特に好ましい。FパウダーのD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上が特に好ましい。また、FパウダーのD90は、80μm以下が好ましく、50μm以下がさらに好ましい。この範囲のD50及びD90において、Fパウダーの流動性と分散性とが良好となり、成形物の優れた電気特性(低誘電率、低伝送損失等)、耐熱性、及び耐擦傷性が最も発現し易い。
Fパウダーの疎充填嵩密度は、0.08~0.5g/mLがより好ましい。Fパウダーの密充填嵩密度は、0.1~0.8g/mLがより好ましい。疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が上記範囲にある場合、Fパウダーのハンドリング性が優れる。
【0012】
本発明におけるFパウダーは、Fポリマー以外の樹脂を含んでいてもよいが、Fポリマーを主成分とするのが好ましい。パウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
上記樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド等の耐熱性ポリマーが挙げられる。
【0013】
本発明におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位を含む(以下、「TFE単位」とも記す。)、熱可塑性ポリマーである。
Fポリマーの溶融温度は、200~320℃であり、260~320℃であるのが好ましい。この場合、成形物の形成においてフィラーの分散が高度に進行しやすく、成形物の接着性と表面平坦性を向上させやすい。
Fポリマーの380℃における溶融粘度は、1×102~1×106Pa・sが好ましく、1×103~1×106Pa・sがより好ましい。
【0014】
Fポリマーの好適な態様としては、TFE単位及び酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含有するポリマー(以下、「Fポリマー1」とも記す。)が挙げられる。Fポリマー1は、極性の液状分散媒に対する分散性が高く、MOフィラー及びSOフィラーのそれぞれとの親和性も高いため、Fポリマー1及び液状分散媒と高度に相互作用し、分散液中におけるFパウダー及び両者のフィラーの沈降が効果的に抑制されやすい。また、その表面に微小な球晶構造を含みやすい。その結果、かかる分散液から形成される成形品中においても、Fポリマー1から形成されるマトリックスに両者のフィラーが均一かつ強固に保持され、金属酸化物と酸化ケイ素に基づく物性が成形品に良好に付与されやすい。
【0015】
Fポリマー1が有する酸素含有極性基は、ポリマー主鎖末端部に含まれていてもよい。また、表面処理(放射線処理、電子線処理、コロナ処理、プラズマ処理等)によりポリマー中に含まれていてもよい。また、Fポリマー1が有する酸素含有極性基は、酸素含有極性基を形成し得る基を有するポリマーを変性して調製された基であってもよい。ポリマー末端基に含まれる酸素含有極性基は、そのポリマーの重合に際して使用する成分(重合開始剤、連鎖移動剤等)を調整することにより得られる。
酸素含有極性基は、酸素原子を含有する極性の原子団である。ただし、本発明における酸素含有極性基には、エステル結合自体とエーテル結合自体とは含まれず、これらの結合を特性基として含む原子団は含まれる。
【0016】
酸素含有極性基としては、水酸基、カルボニル基含有基、アセタール基及びオキシシクロアルカン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が好ましく、-CF2CH2OH、-C(CF3)2OH、1,2-グリコール基(-CH(OH)CH2OH)、アセタール基、>C(O)、-CF2C(O)OH、>CFC(O)OH、カルボキシアミド基(-C(O)NH2等。)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等。)、ジカルボン酸残基(-CH(C(O)OH)CH2C(O)OH等。)、カーボネート基(-OC(O)O-)、エポキシ基及びオキセタニル基がより好ましく、酸無水物残基がさらに好ましい。
また、Fパウダーの接着性を損ないにくい観点から、酸素含有極性基としては、極性基であり環状基であるかその開環基である、環状酸無水物残基、環状イミド残基、環状カーボネート基、環状アセタール基、1,2-ジカルボン酸残基及び1,2-グリコール基が特に好ましく、環状酸無水物残基が最も好ましい。
【0017】
Fポリマー1は、TFE単位と、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)又はフルオロアルキルエチレン(FAE)に基づく単位(以下、「PAE単位」とも記す。)と、酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位とを有するポリマーがより好ましい。
Fポリマー1を構成する全単位のうち、TFE単位の割合、PAE単位の割合、前記モノマーに基づく単位の割合は、この順に、50~99モル%、0~10モル%、0.01~3モル%が好ましい。
【0018】
PAVEとしては、CF2=CFOCF3(PMVE)、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3(PPVE)、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)8Fが挙げられ、PMVE又はPPVEが好ましい。
FAEとしては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F(PFBE)、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4Hが挙げられる。
PAE単位は、PAVEに基づく単位が好ましい。
【0019】
酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位は、酸無水物残基を有するモノマーに基づく単位が好ましく、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸がより好ましく、NAHがさらに好ましい。極性単位は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0020】
また、Fポリマー1は、さらに他の単位を含んでいてもよい。他の単位は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
他の単位を形成するモノマーとしては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレンが挙げられる。
【0021】
Fポリマーの好適な態様としては、TFE単位及びペルフルオロプロピルビニルエーテルに基づく単位(以下、「PPVE単位」とも記す。)を2モル%以上含有するポリマー(以下、「Fポリマー2」とも記す。)が挙げられる。PPVE単位を2モル%以上で含有するFポリマー2は、微小結晶が生成しやすく、フィラーを高度に取り込み緻密な成形物を形成しやすい。Fポリマー2は、TFE単位とPPVE単位とからなり、TFE単位を96~98モル%、PPVE単位を2~4モル%で含有するのが好ましい。
【0022】
Fポリマーの好適な態様としては、TFE単位及びペルフルオロメチルビニルエーテルに基づく単位(以下、「PMVE単位」とも記す。)を含有するポリマー(以下、「Fポリマー3」とも記す。)が挙げられる。Fポリマー3は、側鎖の短いPMVE単位を含有するため、微小結晶が生成しやすく、フィラーを高度に取り込み緻密な成形物を形成しやすい。Fポリマー3は、PMVE単位を10~20モル%で含有するのが好ましい。Fポリマー3は、TFE単位とPMVE単位とからなり、TFE単位を80~90モル%、PMVE単位を10~20モル%で含有するのが好ましい。
【0023】
本発明におけるMOフィラーは、金属酸化物を50質量%超含むフィラーである。MOフィラーに含まれる金属酸化物は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
MOフィラーにおける金属酸化物の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。金属酸化物の含有量は、100質量%以下が好ましい。
【0024】
金属酸化物は、成形物の熱伝導性と耐擦傷性を向上させる観点から、酸化アルミニウム、酸化鉛、酸化鉄、酸化錫、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、五酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化ネオジウム、酸化セリウム及び酸化ニオブからなる群より選択される少なくとも1種であるのが好ましく、熱伝導率の観点から、酸化アルミニウム又は酸化マグネシウムであるのがより好ましく、低誘電正接性の観点から、酸化マグネシウムであるのがさらに好ましい。
【0025】
酸化マグネシウムとしては、電融マグネシア、マグネシアクリンカー等の硬焼酸化マグネシウムが挙げられ、その具体例としては、マグネシアRF-10C、マグネシアRF-50(宇部マテリアルズ株式会社製)が挙げられる。
【0026】
MOフィラーは、さらに、酸化ケイ素(シリカ)を含むのが好ましい。この場合、分散液における各成分間の相互作用が亢進して、分散性が向上しやすい。MOフィラーに含まれる酸化ケイ素の含有量は、0質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、0質量%以上20質量%以下であるのがより好ましい。
MOフィラーに含まれる酸化ケイ素は、フィラーの表面に含まれているのが好ましく、フィラーの表面を被覆するように含まれているのが好ましい。この場合、分散液の分散性が向上するだけでなく、それから形成される成形物における金属酸化物に由来する物性のバランスが向上する。また、成形物の耐水性が向上しやすい。
【0027】
MOフィラーに含まれる酸化ケイ素は、酸化ケイ素のフィラー又は、シランカップリング剤、反応性シリコーン若しくはシロキサンの硬化物に由来するのが好ましい。
シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランであるのが好ましい。
シロキサンは、ポリシロキサン又はオリゴマー状シロキサンが好ましく、オリゴマー状シロキサンがより好ましい。オリゴマー状シロキサンは、側鎖に反応性基を有するオリゴマー状シロキサンが好ましい。反応性基としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、メルカプト基が挙げられる。オリゴマー状シロキサンの平均重合度は、2~20が好ましい。
【0028】
オリゴマー状シロキサンは、反応性基を有するシランカップリング剤の単独重合体、又は反応性基を有するシランカップリング剤と反応性基を有しないシランカップリング剤の共重合体であるのが好ましく、ビニルメトキシシランの単独重合体、又は、アミノ基を有するトリメトキシシランとアルキル基を有するトリメトキシシランとの共重合体であるのがより好ましい。
オリゴマー状シロキサンの具体例として、特開平5-194544号公報、特開2000-178449号公報に記載されるオリゴマー状シロキサンが挙げられ、より具体的には、Dynasylan6490やDynasylan1146(エボニックデグサジャパン株式会社製)が挙げられる。
酸化ケイ素を含むMOフィラーの具体例としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及び酸化ケイ素を、この順に、94.0~99.7質量%、0.1~1.5質量%、0.1~3.0質量%を含むフィラーが挙げられる。かかるMOフィラーは、それぞれの成分を混合して焼成して得るのが好ましい。
【0029】
MOフィラーは、粒子状であってもよく、繊維状であってよい。粒子状のフィラーを使用すれば、成形品の表面にフィラー粒子の一部が露出し、成形品の表面の耐摩耗性と耐擦傷性とがより高まりやすい。一方、繊維状のフィラーを使用すれば、成形物の表面平坦性が向上し、その表面の摺動性が良好となるので、やはり耐擦傷性がより高まりやすい。
【0030】
粒子状のフィラーの平均粒子径(D50)は、0.02~200μmが好ましい。また、繊維状のフィラーの平均繊維長は、0.05~300μmが好ましい。繊維状のフィラーの平均繊維径は、0.01~15μmが好ましい。
粒子状のフィラーの平均粒子径は、パウダーの平均粒子径以上であるのが好ましい。また、繊維状のフィラーの平均繊維長は、パウダーの平均粒子径以上であるのが好ましい。
この場合、分散液におけるフィラーの沈降性が抑制されるだけでなく、成形物の物性(伝熱性、耐擦傷性、電気特性等。)がより向上しやすい。
【0031】
MOフィラーの好適な態様としては、酸化アルミニウム若しくは酸化マグネシウムの粒子、又は、酸化アルミニウム若しくは酸化マグネシウムの繊維が好ましい。かかる粒子を使用すれば、成形品の表面の耐摩耗性と耐擦傷性とが一層高まりやすい。一方、かかる繊維を使用すれば、成形品の表面の耐擦傷性が一層高まりやすい。
また、MOフィラーの好適な態様としては、反応性基を有するオリゴマー状シロキサンで表面処理された酸化マグネシウム粒子及び酸化ケイ素と酸化カルシウムを含む酸化マグネシウム粒子も挙げられる。かかるフィラーは、成形物の低誘電正接性と低伝送損失性を向上させやすい。
【0032】
MOフィラーは、さらに窒化物(窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等)を含んでいてもよい。かかる好適な態様における窒化物の含有量は、5~75質量%が好ましい。また、窒化物を含むMOフィラーの態様としては、金属酸化物をコアとし、窒化物をシェルとするコアシェル構造を有する態様が挙げられる。かかるコアシェル型のMOフィラーの形成に際しては、さらに焼結助剤を用いてもよい。
【0033】
本発明におけるSOフィラーは、MOフィラーとは異なる、酸化ケイ素を含むフィラーである。SOフィラーにおける、酸化ケイ素の含有量は、50質量%超であり、90質量%以上であるのが好ましい。酸化ケイ素の含有量は、100質量%以下であるのが好ましい。
SOフィラーは、シリカフィラー、タルクフィラー又はステアタイトフィラーであるのが好ましい。この場合、分散液における各成分間の相互作用が亢進して、分散性が向上しやすい。また、成形物における酸化ケイ素に由来する物性のバランスが向上しやすく、特に、電気特性(低誘電正接性等)が向上しやすい。
【0034】
SOフィラーは、その表面の少なくとも一部が、表面処理されているのが好ましい。
SOフィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。SOフィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。
SOフィラーの形状は、球状又は鱗片状であるのが好ましい。この場合、分散液における各成分間の相互作用が亢進して分散性が向上し、それから形成される成形物における各成分に由来する物性のバランスが向上する。
【0035】
SOフィラーの平均粒子径は、0.1~10μmであるのが好ましい。
球状の酸化ケイ素を含むフィラーの具体例としては、略真球状の酸化ケイ素を含むフィラーが挙げられる。なお、略真球状のフィラーとは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した際に、長径に対する短径の比が0.7以上である球形の粒子の占める割合が95%以上である無機フィラーを意味する。
【0036】
球状の酸化ケイ素を含むフィラーは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。また、球状のSOフィラーは、焼結されたセラミックスであってもよい。
鱗片状のSOフィラーの具体例としては、平均長径(長手方向の直径の平均値)が1μm以上10μm以下であり、かつ平均短径が0.01μm以上1μm以下であるフィラーが挙げられる。
鱗片状のSOフィラーは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。また、鱗片状のSOフィラーは、焼結されたセラミックスであってもよい。
【0037】
SOフィラーの構造は、中空状であるのが好ましい。この場合、それから得られる成形物の、線膨張性と電気特性(特に低誘電性と低誘電正接性)とがバランスしやすい。
中空状のSOフィラーの中空率(フィラー粒子1個当たりの空隙の体積割合の平均)は、50~80%であるのが好ましい。また、中空状のSOフィラーの耐圧強度は、20MPa以上であるのが好ましい。
【0038】
SOフィラーの具体例としては、球状シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン」シリーズ、デンカ社製の「SFP」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)が挙げられる。
SOフィラーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。SOフィラーは、中空状のフィラーと、非中空状のフィラーとを併用してもよい。かかる場合、分散液が分散安定性に優れやすく、成形物が低線膨張性と低誘電正接性に優れやすい。
【0039】
本発明における極性の液状分散媒は、Fパウダー、MOフィラーとSOフィラーを分散させる液体成分であり、25℃で液体な化合物である。
液状分散媒は、プロトン性であってもよく、非プロトン性であってもよい。また、液状分散媒は、水性溶媒であってもよく、非水性溶媒であってもよい。液状分散媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
液状分散媒は、水、アミド、アルコール、スルホキシド、エステル、ケトン又はグリコールエーテルであるのが好ましく、水、ケトン又はアミドであるのがより好ましく、ケトン又はアミドであるのがさらに好ましい。
【0040】
液状分散媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。
液状分散媒は、水、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン又はN-メチル-2-ピロリドンであるのが特に好ましい。
【0041】
本発明の分散液は、Fパウダー、MOフィラー及びSOフィラーの分散性をより向上させる観点から、さらにノニオン性界面活性剤(分散剤)を含むのが好ましい。また、ノニオン性界面活性剤は、分散液の粘度を高めるようにも作用し、Fパウダー及び両者のフィラーの分散液中での沈降を防止する沈降防止剤としても機能すると考えられる。
かかるノニオン性界面活性剤としては、水酸基及びポリオキシアルキレン基を含有する非ポリマー状化合物(1)、加水分解性シリル基を含有する化合物(2)、含フッ素基及び水酸基を有する非ポリマー状化合物(3)、ポリヒドロキシ化合物(4)、アセタール基又はヘミアセタール基を含有するポリマー(5)、水酸基又はポリオキシアルキレン基を含有するポリマー(6)が挙げられる。
【0042】
化合物(1)の具体例としては、オキシアルキレングリコール、オキシアルキレングリコールモノエーテルが挙げられ、より具体的には、一般式:R1O(CH2CH2O)m1Hで表される化合物(式中、R1は、水素原子又は炭素原子数10~15のアルキル基であり、m1は、平均付加モル数を表し、1~15の整数である。)が挙げられる。
化合物(2)の具体例としては、一般式:(R21)m21-Si-(OR22)4-m21で表されるケイ素化合物(式中、R21は、炭素原子数1~12のアルキル基、R22は、炭素原子数1~4のアルキル基であり、m21は1~3の整数である。)が挙げられる。
化合物(3)の具体例としては、一般式:R33-O-(CH2CH2O)m31(CH2CH(CH3)O)m32Hで表される化合物(式中、R31は、炭素原子数1~12のポリフルオロアルキル基であり、m31は、1~12の整数であり、bは、1~20の整数であり、m32は、0~12の整数である。)が挙げられる。
【0043】
ポリヒドロキシ化合物(4)の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、アガロース、ラクトースが挙げられる。
ポリマー(5)の具体例としては、ビニルブチラールに基づく単位と、酢酸ビニルに基づく単位と、ビニルアルコールに基づく単位とを含有する三元重合体が挙げられる。なお、各単位の比率は、特に限定されないが、Fポリマー、金属酸化物及び溶媒との相互作用のしやすさを考慮して設定される。
ポリマー(6)の具体例としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤が挙げられる。
【0044】
ノニオン性界面活性剤としては、アルコール性水酸基又はポリオキシアルキレン基と、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基とをそれぞれ側鎖に有するポリマー状のノニオン性界面活性剤(以下、「ポリマー分散剤F」とも記す。)が好ましい。
この場合、各成分に対するノニオン性界面活性剤の親和性がバランスして、分散液中におけるパウダー及びフィラーの分散性に加えて、その成膜性がさらに向上しやすい。
【0045】
ポリマー分散剤Fは、フッ素含有量が10~50質量%かつ水酸基価が10~35mgKOH/gであるのがより好ましい。
ポリマー分散剤Fとしては、フルオロ(メタ)アクリレートに基づく単位とオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートに基づく単位とを含むポリマーが挙げられる。なお、このポリマーは、Fポリマー以外のポリマーである。
前者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)6F、CH2=CHC(O)OCH2CH2(CF2)6F、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)4F、CH2=CClC(O)OCH2CH2(CF2)4F、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2CH2CH2OCF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)、CH2=CH3C(O)OCH2CH2CH2CH2OCF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)が挙げられる。
【0046】
後者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)4OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)9OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)23OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)66OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)90OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)120OH、CH2=CHC(O)(OCH2CH2)4OH、CH2=CHC(O)(OCH2CH2)8OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH(CH3))4OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH(CH3))8OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH(CH3))9OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH(CH3))13OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)4・(OCH2CH(CH3))3OH、CH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)10・(OCH2CH2CH2CH2)5OHが挙げられる。
【0047】
本発明の分散液は、分散液の塗工性(分散液からポリマー層を形成する際のFパウダーの粉落の抑制等)と、成形物の平滑性を向上させる観点から、さらに結着剤を含むのが好ましい。
結着剤としては、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂、ポリアミドイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、グリオキサザール樹脂又はフェノール樹脂が好ましく、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂又はポリアミック酸樹脂でがより好ましい。なお、これらの樹脂は、熱可塑性樹脂が好ましく、そのガラス転移温度がFポリマーの溶融温度以下である熱可塑性樹脂が特に好ましい。また、これらの樹脂は、液状の液状分散媒に溶解する結着樹脂が好ましい。
【0048】
本発明の分散液におけるFポリマーの含有量は、5質量%以上が好ましく、10~60質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。この場合、物性(特に、電気特性)に優れた成形品を形成しやすい。
本発明の分散液におけるMOフィラーの含有量は、5質量%以上であり、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。なお、その上限は、通常、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。
本発明の分散液におけるSOフィラーの含有量は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。なお、その上限は、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。
本発明の分散液におけるMOフィラーの含有量に対する、SOフィラーの含有量の比は、1未満であり、0.8以下が好ましい。かかる比は、0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
【0049】
本発明の分散液における液状分散媒の含有量は、15~55質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましい。この場合、分散液の塗布性が優れ、かつ成膜性も向上しやすい。
また、本発明の分散液がノニオン性界面活性剤を含む場合、その含有量は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。この場合、分散液中におけるパウダー及びフィラーの分散性がより高まり、成形物の物性(熱伝導性、耐擦傷性等)がより向上しやすい。
また、本発明の分散液が結着剤を含む場合、その含有量は、0.1~30質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。Fポリマーの含有量に対する結着樹脂の含有量の比は、1.0以下が好ましく、0.01~0.5がより好ましい。
【0050】
本発明の分散液に含まれる、Fポリマーの含有量、MOフィラーの含有量及びSOフィラーの含有量の和は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。上述したとおり、分散液中でFポリマーと両者のフィラーとが高度に相互作用するため、上記和が高い場合においても、本発明の分散液は、分散性と塗工性とに優れる。上記和は、80質量%以下が好ましい。
また、Fポリマーの含有量に対するMOフィラーの含有量の質量比は、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。かかる質量比は、2以下が好ましく、1以下がより好ましい。Fポリマーの含有量に対するSOフィラーの含有量の質量比は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。かかる質量比は、2以下が好ましく、1以下がより好ましい。
上述したとおり、分散液中でFポリマー、MOフィラー及びSOフィラーが高度に相互作用するため、上記質量比が高い場合においても、本発明の分散液は、分散性と塗工性とに優れる。その結果、本発明の分散液から、両者のフィラーが均一に高濃度に含まれる成形品を容易に形成できる。上記質量比は、2以下が好ましく、1以下がより好ましい。
【0051】
本発明の分散液は、さらに、他の樹脂を含んでいてもよい。
かかる他の樹脂としては、エポキシ樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シアン酸エステル樹脂、ビニルエステル樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテルが挙げられる。
これらの他の樹脂は、分散液に溶解してもよく、溶解しなくてもよい。また、他の樹脂は、熱硬化性であってもよく、熱可塑性であってもよい。また、他の樹脂は、変性されていてもよい。
また、本発明の分散液は、さらに、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤を含んでいてもよい。
【0052】
本発明の分散液の25℃における粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、50~5000mPa・sがより好ましく、100~1000mPa・sがさらに好ましい。この場合、分散液は分散性に優れるだけでなく、ハンドリング性にも優れる。
また、本発明の分散液のチキソ比は、1.0~2.5が好ましく、1.2~2.0がより好ましい。この場合、分散液の分散性に優れるだけでなく、成形物の均質性が向上しやすい。
【0053】
本発明の分散液は、Fパウダー並びにMOフィラー及びケイ酸フィラーを多量に含みつつ、分散安定性に優れている。また、その成形物は、Fポリマーの物性とかかるフィラーの物性を高度に具備できる。本発明の分散液を使用すれば、熱伝導率が1W/mK以上である厚い成形物や、誘電正接が0.005以下である成形物が容易に得られる。
【0054】
本発明の積層体の製造方法は、本発明の分散液を基材層に付与し、加熱して極性の液状分散媒を揮発させ、さらに加熱してFポリマーを焼成させて、基材層と、Fポリマー、MOフィラー及びSOフィラーを含むポリマー層とを有する積層体(以下、「本積層体」とも記す。)を得る方法である。
【0055】
本発明における基材層としては、金属基板(銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等)、樹脂フィルム(ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等のフィルム)、プリプレグ(繊維強化樹脂基板の前駆体)が挙げられる。
基材層としては、金属基板及び樹脂フィルムが好ましい。
【0056】
金属基板としては、銅箔が好ましく、表裏の区別のない圧延銅箔又は表裏の区別のある電解銅箔がより好ましく、圧延銅箔がさらに好ましい。圧延銅箔は、表面粗さが小さいため、本積層体をプリント配線板に加工した場合でも、伝送損失を低減できる。
金属基板の表面には、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜等)、耐熱層、粗化処理層、シランカップリング剤処理層が設けられていてもよい。
樹脂フィルムとしては、ポリイミドフィルムが好ましい。
基材層の厚さは、0.1~150μmが好ましい。具体的には、基材層が金属箔であれば、基材層の厚さは、1~30μmが好ましい。基材層が樹脂フィルムであれば、基材層の厚さは、1~150μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。
【0057】
分散液は、基材層の一方の表面にのみ付与してもよく、基材層の両面に付与してもよい。前者においては、基材層と、基材層の片方の表面にポリマー層を有する積層体が得られ、後者においては、基材層と、基材層の両方の表面にポリマー層を有する積層体が得られる。後者の積層体は、より反りが発生しにくいため、その加工に際するハンドリング性に優れる。
分散液の塗布は、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等の方法によって実施できる。
なお、加熱は、Fポリマーが焼成する温度領域で行うのが好ましい。
加熱は、一定温度にて行ってもよく、異なる温度にて行ってもよい。
加熱の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法が挙げられる。
加熱は、常圧下および減圧下のいずれの状態で行ってもよい。
【0058】
なお、本積層体は、基材層の少なくとも一方の表面に接するポリマー層を有していればよい。その層構成としては、基材層/ポリマー層、基材層/ポリマー層/基材層、ポリマー層/基材層/ポリマー層、基材層/ポリマー層/他の基材層/ポリマー層/基材層が挙げられる。なお、「基材層/ポリマー層」とは、基材層とポリマー層とがこの順に積層されていることを示し、他の層構成においても同様である。
なお、他の基材層の定義は、範囲及び好適な態様も含めて、上述した基材層におけるそれらと同様である。
【0059】
本積層体において、ポリマー層の厚さは、1~100μmが好ましく、5~75μmがより好ましく、10~50μmがさらに好ましい。
本積層体は、ポリマー層と基材層との剥離強度も高い。この剥離強度は、10N/cm以上が好ましい。
また、ポリマー層の熱伝導率は、1W/m・K以上が好ましく、2W/m・K以上がより好ましく、3W/m・K以上がさらに好ましい。ポリマー層の熱伝導率の上限は、100W/m・Kである。
【0060】
本積層体は、Fパウダー、MOフィラー及びSOフィラーを含むポリマー層を備えるため、耐熱性、電気特性、熱伝導性(放熱性)、耐擦傷性等の物性に優れ、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等の電子基板材料や放熱基板、特に自動車向けの放熱基板として有用である。
例えば、本積層体の基材層が金属箔であれば、その金属箔をエッチング処理して所定パターンの金属導体配線(伝送回路)に加工する方法によって、プリント配線基板を製造できる。かかるプリント配線基板は、金属導体配線とポリマー層とをこの順に有する。その構成としては、金属導体配線/ポリマー層、金属導体配線/ポリマー層/金属導体配線が挙げられる。また、上記構成のプリント配線基板の複数を多層化してもよい。
また、本発明の分散液によって、プリント配線基板における、ボンディングシート、層間絶縁膜、ソルダーレジスト、カバーレイフィルムを形成してもよい。
【0061】
本積層体から形成するプリント配線基板の好適な態様としては、金属箔又はこれを加工して形成された伝送回路と、ポリマー層と、アルミ基板とをこの順に有する態様も挙げられる。
上記態様の構成としては、金属箔/ポリマー層/アルミ基板、金属箔を加工して形成された伝送回路/ポリマー層/アルミ基板、金属箔/ポリマー層/アルミ基板/ポリマー層/金属箔、上記伝送回路/ポリマー層/アルミ基板/ポリマー層/上記伝送回路、上記伝送回路/ポリマー層/アルミ基板/ポリマー層/金属箔が挙げられる。
【0062】
本積層体から形成するプリント配線基板の好適な態様としては、金属箔又はこれを加工して形成された伝送回路と、ポリマー層と、樹脂フィルム層とをこの順に有する態様も挙げられる。
上記態様の構成としては、金属箔/ポリマー層/樹脂フィルム層、金属箔を加工して形成された伝送回路/ポリマー層/樹脂フィルム層、金属箔/ポリマー層/樹脂フィルム層/ポリマー層/金属箔、上記伝送回路/ポリマー層/樹脂フィルム層/ポリマー層/上記伝送回路、上記伝送回路/ポリマー層/樹脂フィルム層/ポリマー層/金属箔が挙げられる。
【0063】
本発明におけるポリマー層は、高い均一性で、接着性と耐熱性とに優れたFポリマーと、電気特性に優れたSOフィラーを含み、かつMOフィラーを多量に含むため、いずれの基板(金属箔又は伝送回路とアルミ基板)とも強固に接着しやすい。かかる態様の本積層体又はプリント配線基板は、耐熱性と熱伝導性とにも優れたアルミベースの積層体又はアルミベースのプリント配線基板とも言え、高温雰囲気下にて使用され、高い放熱性が要求される、パワーモジュール(LED照明用等)の用途に好適に使用できる。
【0064】
これらの態様におけるポリマー層は、さらに接着性を向上させる観点から、表面処理されていてもよい。表面処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ処理、電子線処理等による方法が挙げられる。なお、ポリマー層の表面には、接着性をより向上させる観点から、さらに接着剤層(シランカップリング剤により形成される層等)が形成されていてもよい。
ポリマー層の厚さは、1~200μmが好ましく、3~20μmがより好ましい。
アルミ基板の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金が挙げられる。耐焼鈍性の観点から、アルミニウム合金は、アルミニウムと、マンガン、マグネシウム又はクロムとの合金が好ましい。
アルミ基板の表面は、粗化処理されていてもよく、被膜処理されていてもよい。
アルミ基板の厚さは、0.5~3mmが好ましい。
ポリマー層及びアルミ基板の厚さが、それぞれ上記範囲にあれば、より高い放熱性の回路基板を形成しやすい。
【0065】
本発明の成形物は、Fポリマーと、MOフィラーと、SOフィラーとを含む。成形物に含まれるポリマーの含有量は50質量%以上であり、かつ、成形物に含まれるMOフィラーとSOフィラーの含有量との総和は10質量%以上である。
本発明の成形物におけるFポリマー、MOフィラー及びSOフィラーの定義は、その好適な態様と範囲も含めて、本発明の分散液及び積層体の製造方法における説明と同様である。
本発明の成形物は、ポリマー層からなる単層フィルムであるのが好ましい。
【0066】
本発明の成形物においては、FポリマーのマトリックスにMOフィラーとSOフィラーとが均一かつ強固に保持され、金属酸化物と酸化ケイ素に基づく物性(熱伝導性、耐擦傷性、電気特性等)が良好に発揮されると考えられる。また、Fポリマーが酸素含有極性基を有するため、成形物は、その表面に高い接着性を発現する。
したがって、本発明の成形物は、半導体チップを実装した回路基板に、半導体チップを覆うように接着すれば、放熱フィルム、保護フィルム等として使用できる。また、本発明の成形物は、発熱を伴う電子部品とヒートシンクとの接着層としても好適に使用できる。
【0067】
本発明の成形物に含まれるFポリマーの含有量は、50質量%以上が好ましく、60~80質量%がより好ましい。この場合、物性(特に、電気特性)に優れたポリマー層を形成しやすい。
本発明の成形物に含まれるMOフィラーの含有量と、SOフィラーの含有量との総和は、10質量%以上であり、20質量%以上が好ましい。なお、本発明の成形物に含まれるMOフィラーとSOフィラーとの含有量の総和の上限値は、50質量%である。多量の金属酸化物のフィラーを含むポリマー層は、金属酸化物に基づく物性(熱伝導性、耐擦傷性等)をより好適に発揮できる。また、多量のSOフィラーを含むポリマー層は、酸化ケイ素に基づく物性(電気特性、低線膨張性等)をより好適に発揮できる。
【0068】
本発明の成形物に含まれるMOフィラーの含有量は、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。なお、上限値は、通常、45質量%である。
成形物に含まれるSOフィラーの含有量は、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。なお、上限値は、通常、45質量%である。
【0069】
本発明の成形物の厚さは、1~1000μmが好ましく、5~100μmがより好ましく、10~50μmがさらに好ましい。かかる厚さの成形物であれば、十分な機械的強度を確保しつつ、高い可撓性(柔軟性)を発揮できる。したがって、放熱フィルム、保護フィルム等として有用である。
【0070】
本発明の成形物の熱伝導率は、1W/mK以上が好ましく、2W/m・K以上がより好ましく、3W/m・K以上がさらに好ましい。成形物の熱伝導率の上限は、100W/m・Kである。成形物は熱伝導性に優れるため、放熱フィルムとして有用である。
成形物の誘電正接は、0.005以下であるのが好ましく、0.003以下であるのがより好ましい。成形物の誘電正接の下限は、0である。本発明の成形物は、低誘電正接性に優れるため、プリント基板等の電子機器用基板の材料として有用である。
【0071】
また、電気絶縁性や機械的強度を高める目的で、成形物中には繊維基材を埋設してもよい。
繊維基材としては、加熱に耐える耐熱性織布が好ましく、ガラス繊維織布、カーボン繊維織布、アラミド繊維織布又は金属繊維織布がより好ましく、ガラス繊維織布又はカーボン繊維織布がさらに好ましい。
特に、電気絶縁性を高める観点からは、繊維基材として、JIS R 3410:2006で定められる電気絶縁用Eガラスヤーンより構成される平織のガラス繊維織布を使用するのが好ましい。この際、繊維基材をシランカップリング剤で処理すれば、Fポリマーとの密着性がより向上する。
【0072】
本発明の成形物は、本発明の分散液を基材層の表面に塗布し加熱して、Fポリマー、MOフィラー及びSOフィラーを含むポリマー層を形成し、基材層を除去して得てもよい。換言すれば、本発明の成形物は、本発明の積層体から基板を除去して得られるとも言える。ここで、繊維基材を埋設する成形物は、本発明の分散液を繊維基材に含浸させ、さらに繊維基材を加熱してFパウダーを焼成させて作製できる。
【0073】
本成形物の製造において、基材層の除去には、ウエットエッチング及びドライエッチングのいずれも使用できる。基材層が金属箔である場合、金属箔は、ウエットエッチングにより除去するのが好ましい。この場合、ウエットエッチングは、酸溶液を用いて行うのが好ましい。
Fポリマーが酸素含有極性基を有すれば、酸溶液により活性化するので、金属箔が除去された後の成形物の表面(接触面)の接着性がより高まりやすい。ここで、酸素含有極性基の活性化の一例としては、酸無水物基の1,2-ジカルボン酸基への変換が挙げられる。なお、酸溶液には、塩酸、希硝酸又はフッ酸等の無機酸水溶液を使用できる。
また、粗化処理された金属箔を使用する場合、フィルムの表面(接触面)には、微小な凹凸が転写される。このため、成形物の表面に他の基材を接着する際には、他の基材との接着性がより良好となる。
【0074】
上述のように、金属箔の除去にウエットエッチングを使用すれば、成形物の表面に転写された微小な凹凸形状にダメージを与えるのを防止しつつ金属箔を確実に除去できる。
本発明の成形物を、基材層と熱圧着すれば、基材層と、成形物とを有する積層体が得られる。かかる基材層の定義は、その好適な態様と範囲も含めて、本発明の積層体における説明と同様である。
【0075】
以上、本発明の分散液、積層体の製造方法及び成形物について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の分散液及び成形物は、それぞれ上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明の積層体の製造方法は、それぞれ上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[パウダー]
パウダー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含み、酸素含有極性基を有するコポリマー(溶融温度:300℃)からなるパウダー(D50:1.8μm、D90:5.2μm)
パウダー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含み、酸素含有極性基を有しないコポリマー(溶融温度305℃)からなるパウダー(D50:18.8μm、D90:52.3μm)
パウダー3:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含み、酸素含有極性基を有しないコポリマー(溶融温度305℃)からなるパウダー(D50:0.3μm、D90:0.9μm)
パウダー4:非溶融性のPTFEからなるパウダー(D50:3.2μm)
【0077】
[フィラー]
MO1:粒状の酸化マグネシウムフィラー(D50:10μm。宇部マテリアルズ株式会社製、「マグネシアRF-10C」。酸化マグネシウムの含有量:50質量%超。)
MO2:酸化アルミニウムフィラー(D50:3μm。住友化学社製、「AA-3」。酸化アルミニウムの含有量:50質量%超。)
SO1:球状かつ中空状のシリカフィラー(D50:4μm。太平洋セメント社製、「E-SPHERES」。酸化ケイ素の含有量:50質量%超。)
SO2:鱗片状のステアタイトフィラー(D50:4.8μm、平均長径:5.7μm、平均短径:0.3μm、アスペクト比:20、日本タルク社製「BST」。酸化ケイ素の含有量:50質量%超。)
[結着剤]
ワニス1:熱可塑性の芳香族ポリイミド(PI1)がNMPに溶解したワニス
[ノニオン性界面活性剤]
界面活性剤1:CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)6FとCH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)23OHとのコポリマー
[液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0078】
2.分散液の調製
(例1)
まず、ポットに、パウダー1とワニス1と界面活性剤1とNMPとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、組成物を調製した。別のポットに、フィラーMO1とフィラーSO1と界面活性剤1とNMPとを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、組成物を調製した。
さらに別のポットに、両者の組成物を投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、パウダー1(20質量部)、フィラーMO1(10質量部)、フィラーSO1(5質量部)、PI1(1質量部)、界面活性剤1(4質量部)及びNMP(60質量部)を含む分散液1を得た。
【0079】
(例2~8)
パウダー、フィラー、ワニス、界面活性剤及び液状分散媒の、種類と量とを、下表1に示す通り変更した以外は、例1と同様にして、分散液2~8を得た。
【0080】
【0081】
3.評価
3-1.分散液の評価
3-1-1.分散安定性の評価
それぞれの分散液を容器中に25℃にて保管保存後、その分散性を目視にて確認し、下記の基準に従って分散安定性を評価した。
[評価基準]
〇:凝集物が視認されない。
△:容器底部にも凝集物が沈殿しているのが視認される。せん断をかけて撹拌すると均一に再分散する。
×:容器底部にも凝集物が沈殿しているのが視認される。せん断をかけて撹拌しても再分散が困難である。
3-1-2.粘度の測定
それぞれの分散液の粘度を、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で測定した。それぞれの粘度の測定は3回繰り返し、3回分の測定値の平均値を粘度とした。
3-1-3.チキソ性の評価
それぞれ分散液の粘度を、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で粘度を測定し粘度η1とした。同様に、回転数が60rpmの条件下で粘度を測定し、粘度η2とした。η1をη2で除してチキソ比を算出した。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とした。
【0082】
3-2.積層体の評価
3-2-1.接着性の評価
まず、厚さ18μmの銅箔の表面に、分散液1をグラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して、液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜が形成された銅箔を、120℃の乾燥炉にて5分間、通し、加熱により乾燥させた。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を340℃にて3分間、加熱した。これにより、銅箔の表面にポリマー層(厚さ10μm)が形成された積層体1を製造した。
【0083】
分散液1を、分散液2~8に示す通り変更した以外は、積層体1と同様にして、積層体2~8を得た。その際、分散液8から形成した乾燥被膜は、分散液1から形成した液状被膜に比較して粉落ちし易かった。
得られた積層体1~3及び5~8から矩形状(長さ100mm、幅10mm)の試験片に切り出した。そして、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分、長さ方向の片端から試験片に対して90°で、銅箔とポリマー層とを剥離させた。
そして、この際にかかる最大荷重を剥離強度(N/cm)として測定し、以下の基準に従って評価した。なお、積層体4は均一なポリマー層を有さなかったため評価しなかった。
[評価基準]
○:10N/cm以上
△:5N/cm以上10N/cm未満
×:5N/cm未満
【0084】
3-2-2.伝送損失の評価
積層体1~3及び5~8のそれぞれに伝送線路を形成してプリント基板とした。伝送線路の形成には、マイクロストリップラインを用いた。プリント基板における28GHzの信号を、ベクトルネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製、「E8361A」)を用いて処理し、Universal Test Fixtureをプローブとして伝送損失を表すS21パラメーターを測定した。その際、線路の特性インピーダンスは50Ωとし、プリント基板の伝送線路の長さは50mmとして、伝送損失を測定した。
【0085】
伝送損失の尺度としては、高周波電子回路や高周波電子部品の特性を表すために使用される回路網パラメーターの一つである「S21-parameter」を伝送損失値とした。この値は、その値が0に近い程、伝送損失が小さいことを意味する。
[評価基準]
○:-1.0dB以上0dB未満
△:-1.2dB以上―1.0dB未満
×:-1.2dB未満
【0086】
3-3.フィルムの評価
3-3-1.熱伝導性の評価
積層体1の銅箔を塩化第二鉄水溶液でエッチングにより除去して、フィルム1を得た。
積層体1を、積層体2、3及び5~8に変更した以外は、フィルム1と同様にして、フィルム2、3及び5~8を得た。なお、フィルム8は、フィルム1に比較して脆かった。
【0087】
次に、それぞれのフィルムの中心部から10mm×10mm角の試験片を切り出し、その面内方向における熱伝導率(W/m・K)を測定し、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
○:3W/m・K以上
△:1W/m・K以上3W/m・K未満
×:1W/m・K未満
【0088】
3-3-2.誘電正接の評価
フィルム1~3及び5~8の中心部から5cm×10cm角の試験片を切り出し、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、フィルムの誘電正接(測定周波数:10GHz)を測定した。
[評価基準]
〇:0.0010未満
△:0.0010以上0.0025以下
×:0.0025超
【0089】
以上の結果をまとめて表2に示す。
【0090】
【0091】
なお、フィルム7は、その表面にはアルミナ粒子が一部露出していた。また、フィルム3の表面を、酢酸ビニルを含む窒素ガス雰囲気下にてコロナ処理すると、その接着性が向上することが確認された。
【0092】
4.アルミベースの回路基板の作製
厚さ12μmの銅箔の表面に、分散液7をグラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して、液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜が形成された銅箔を、120℃の乾燥炉に5分間で通し、加熱により乾燥させた。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を340℃にて3分間、加熱した。これにより、銅箔の表面にポリマー層(厚さ:5μm)が形成された積層体を製造した。
次に、この積層体のポリマー層とアルミ基板とを対向させ、300℃にて熱圧着させて、銅箔、ポリマー層及びアルミ基板とがこの順に積層された積層体を得た。さらに、積層体の銅箔をエッチング加工して伝送回路を形成して、アルミベースの回路基板を得た。この回路基板の熱伝導率は10W/m・K以上であり、放熱性に優れていた。
【0093】
5.スプレーコーティングによるフィルムの作製
分散液7を用い、厚さ18μmのアルミニウム箔の表面に、スプレーコーティング法により塗工して液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜が形成されたアルミニウム箔を、120℃の乾燥炉に5分間で通し、加熱により乾燥させた。その後再度スプレーコーティング法により塗工し、乾燥させる工程を4回繰り返した。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を340℃にて3分間、加熱した。これにより、アルミニウム箔の表面にポリマー層(厚さ:200μm)が形成された積層体9を得た。積層体9のアルミニウム箔をエッチングにより除去して、フィルム9を得た。
上記「3-3-1」に記載の方法と同様にしてフィルム9の熱伝導率を測定した結果、フィルム9の熱伝導性評価は、「〇」であった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の分散液及び成形物は、アンテナ部品、プリント配線板、航空機用部品、自動車用部品、パワー半導体の部品、熱交換器、スポーツ用具、食品工業用品、のこぎり、パッキン、ガスケット、すべり軸受け等における被覆層を形成する材料として有用である。本発明の分散液及び成形物から形成した被覆層は、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等に優れ、特に、接着性、熱伝導性(放熱性)、電気特性及び耐擦傷性に優れている。
本発明の分散液及び成形物は、放熱性と高周波特性とが必要とされるレーダー、ネットワークのルーター、バックプレーン、無線インフラ等の電子機器用基板や自動車用各種センサ用基板、エンジンマネージメントセンサ用基板に用いられるプリント配線板の材料として特に好適である。また、本発明の分散液及び成形物は、放熱性と防汚性とが必要とされる、冷熱機器等の熱交換器(フィン、伝熱管等)の外面コーティング層を形成する材料としても好適である。
なお、2019年5月21日に出願された日本特許出願2019-095078号、2019年8月6日に出願された日本特許出願2019-144674号および2019年11月25日に出願された日本特許出願2019-212480号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。