(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】シートモールディングコンパウンド及びその製造方法、炭素繊維強化プラスチック成形品及びその製造方法、並びに電着塗装品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/18 20060101AFI20241016BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20241016BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20241016BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B29C70/18
B29C70/42
C08J5/24 CFC
C08G59/50
(21)【出願番号】P 2022557572
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2021038701
(87)【国際公開番号】W WO2022085707
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2020177598
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021096121
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宮原 由希
(72)【発明者】
【氏名】太田 智
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-70771(JP,A)
【文献】特開2019-157057(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190329(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
C08J 5/00-5/24
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と炭素繊維補強材とからなり、前記エポキシ樹脂組成物は、140℃で硬化させたとき、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の8%以上である硬化樹脂を与える、シートモールディングコンパウンド。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物に、更に、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が配合された、請求項1に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項3】
ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)と硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と、炭素繊維補強材と、からなるシートモールディングコンパウンド。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項5】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノールA型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上である、請求項5に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の80重量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物に配合された[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の20重量%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項9】
前記硬化剤成分が潜在性硬化剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項10】
前記潜在性硬化剤が、ジシアンジアミド、イミダゾール類およびアミンアダクトから選ばれる1種以上の硬化剤を含む、請求項9に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂組成物に増粘剤成分が配合された、請求項1~10のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂組成物に、25℃において0.5Pa・s未満の粘度を有するカルボン酸無水物が配合された、請求項1~11のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドを硬化させることを含む、炭素繊維強化プラスチック成形品の製造方法。
【請求項14】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドの硬化物からなる炭素繊維強化プラスチック成形品。
【請求項15】
請求項14に記載の炭素繊維強化プラスチック成形品に電着塗装を施す、電着塗装品の製造方法。
【請求項16】
ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合され、140℃で硬化させたとき、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の8%以上である硬化樹脂を与える、エポキシ樹脂組成物で、炭素繊維補強材を含浸させることを含む、シートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項17】
前記エポキシ樹脂組成物に、更に、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が配合された、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)と硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物で、炭素繊維補強材を含浸させることを含む、シートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項19】
前記エポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が30Pa・s以下である、請求項16~18のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記エポキシ樹脂組成物がワニスではない、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記エポキシ樹脂組成物において、配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上である、請求項16~20のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記エポキシ樹脂組成物において、前記ビスフェノール型エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、請求項16~21のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項23】
前記エポキシ樹脂組成物において、配合されたビスフェノールA型エポキシ樹脂の合計量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上である、請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記エポキシ樹脂組成物において、配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の80重量%以下である、請求項16~23のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項25】
前記エポキシ樹脂組成物において、配合された[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の20重量%以上である、請求項16~24のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項26】
前記硬化剤成分が潜在性硬化剤を含む、請求項16~25のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項27】
前記潜在性硬化剤が、ジシアンジアミド、イミダゾール類およびアミンアダクトから選ばれる1種以上の硬化剤を含む、請求項26に記載の製造方法。
【請求項28】
前記エポキシ樹脂組成物に増粘剤成分が配合された、請求項16~27のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項29】
前記エポキシ樹脂組成物に、25℃において0.5Pa・s未満の粘度を有するカルボン酸無水物が配合された、請求項16~28のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項30】
前記含浸後に前記エポキシ樹脂組成物を増粘させることを含む、請求項16~29のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装品の製造方法、プリプレグおよびエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、自動車、自動二輪車、自転車、船舶、鉄道車両、有人航空機、無人航空機その他の輸送用機器の部品に適した、軽量かつ力学特性に優れた材料であり、近年その重要度はますます高くなっている。
炭素繊維強化プラスチックからなる構造体の製造方法のひとつに、SMC(シートモールディングコンパウンド)のようなプリプレグを用いる方法がある(特許文献1)。プリプレグは、炭素繊維補強材(carbon fiber reinforcement)を予め樹脂で含浸させてなる成形用中間材料である。
SMCを硬化させて得た炭素繊維強化プラスチックを電着塗装してなる電着塗装品が公知である(特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/190329号
【文献】特開2009-13306号公報
【文献】国際公開第2016/104416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電着塗装においてワークが最も高温となるのは乾燥工程であり、同工程においてワークの温度は最高で約200℃に達する。
従って、200℃に加熱したときの剛性低下が抑制された炭素繊維強化プラスチックが実現できれば、電着塗装品の材料として好適に使用できると考えられる。
本発明は、かかる考えに基づいて本発明者等が行った検討を通してなされたものであり、炭素繊維強化プラスチックからなる電着塗装品の製造に適した電着塗装品製造方法を提供すること、電着塗装品の製造に好ましく用い得る炭素繊維強化プラスチックを与えるプリプレグを提供すること、および、かかるプリプレグの製造に好ましく用いるエポキシ樹脂組成物を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と炭素繊維補強材とからなるプリプレグを硬化させて炭素繊維強化プラスチック成形品を得る成形工程と、前記炭素繊維強化プラスチック成形品に電着塗装を施す電着塗装工程と、を有する電着塗装品の製造方法が提供される。
本発明の他の一態様によれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と炭素繊維補強材とからなり、前記エポキシ樹脂組成物は、140℃で硬化させたとき、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは12%以上である硬化樹脂を与える、プリプレグが提供される。
本発明の更に他の一態様によれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)と硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と、炭素繊維補強材と、からなるプリプレグが提供される。
本発明の更に他の一態様によれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合され、140℃で硬化させたとき、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは12%以上である硬化樹脂を与える、エポキシ樹脂組成物が提供される。
本発明の更に他の一態様によれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)と硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一実施形態によれば、炭素繊維強化プラスチックからなる電着塗装品の製造に適した電着塗装品製造方法が提供される。
他の一実施形態によれば、電着塗装品の製造に好ましく用い得る炭素繊維強化プラスチックを与えるプリプレグが提供される。
更に他の一実施形態によれば、かかるプリプレグの製造に好ましく用い得るエポキシ樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電着塗装品製造方法のフロー図である。
【
図2】
図2は、3種類のエポキシ樹脂組成物からそれぞれ作製した硬化樹脂の、動的貯蔵弾性率G´の温度依存性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、シートモールディングコンパウンド製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.電着塗装品の製造方法
本発明の一実施形態は、
図1にフローを示す、プリプレグを硬化させて炭素繊維強化プラスチック成形品を得る硬化工程と、前記炭素繊維強化プラスチック成形品に電着塗装を施す電着塗装工程と、を有する電着塗装品製造方法に関する。
【0009】
例えば自動車部品用の電着塗装品を製造する場合には特に製造効率が重視されることから、硬化工程においては、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下という硬化温度で、プリプレグの硬化が行われる。
圧縮成形の場合、硬化温度は金型の温度である。
【0010】
電着塗装工程では通常の電着塗装技法を用いて、硬化工程で得られた炭素繊維強化プラスチック成形品に電着塗装が行われる。前述の特許文献3で開示された技法も、電着塗装工程で採用し得る電着塗装技法に含まれる。
電着塗装工程にはサブ工程として電着工程、水洗工程、乾燥工程が含まれるところ、乾燥工程において被塗装物は最高で約200℃の高温に晒される。そこで、実施形態に係る電着塗装品製造方法では、被塗装物である炭素繊維強化プラスチック成形品の200℃における剛性の向上が図られている。より詳しくいえば、該炭素繊維強化プラスチック成形品の200℃における剛性が改善されるように、その材料であるプリプレグの改善が図られている。
【0011】
2.プリプレグ
実施形態に係る電着塗装品製造方法で使用されるプリプレグは、次の第一ステップおよび第二ステップ、または、第一ステップから第三ステップを、順次実行することにより製造される。
(第一ステップ)エポキシ樹脂成分と硬化剤成分を含む複数の成分を混合してエポキシ樹脂組成物を調製する。
(第二ステップ)第一ステップで調製したエポキシ樹脂組成物で繊維補強材を含浸させて複合体を形成する。
(第三ステップ)第二ステップで形成した複合体中のエポキシ樹脂組成物を増粘させる。
【0012】
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物の、密封容器に入れて25℃で調製から30分間静置した後に測定する25℃での粘度(以下「初期粘度」ともいう)は、好ましくは30Pa・s以下、より好ましくは15Pa・s以下、更に好ましくは10Pa・s以下であり、5Pa・s以下であってもよい。
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物の初期粘度が低い程、作業に適した気温17℃以上28℃以下の室内で、このエポキシ樹脂組成物を加温することなく第二ステップを効率よく実行することができる。
【0013】
エポキシ樹脂組成物の初期粘度は、例えばサーモフィッシャーサイエンティフィック社製のHAAKE(登録商標) MARS(登録商標) 40のようなレオメータを用いて、振動モード(oscillatory mode)、角速度10rad/s、プレート直径25mm、ギャップ(プレート間距離)0.5mmという条件で測定される。
【0014】
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂成分として少なくともビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンが配合される。エポキシ樹脂成分は、エポキシ基を有する化合物からなる成分であり、プレポリマーであってもよいしモノマーであってもよい。
好ましいビスフェノール型エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂であり、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂である。ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂は、それぞれ単独で用いてもよいし、他のビスフェノール型エポキシ樹脂と共に用いてもよい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂を併用することもできる。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、下記式(a)においてn=0である化合物すなわちビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)を必須として含有し、通常は更に、下記式(a)においてnが1以上である化合物を含有するプレポリマーである。
【0015】
【化1】
室温で液体のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品においては、式(a)にいうnの平均が約0.1~0.2である。
【0016】
[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンは、下記式(b)で表されるエポキシ化合物である。
【0017】
【化2】
例えば、25℃での粘度が0.5~1Pa・sの[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミン製品である三菱ケミカル(株)製jER630(jERは登録商標)を、市販ビスフェノール型エポキシ樹脂の中でも25℃で液状となるように成分調整されたものと共に使用することにより、初期粘度が前述の好ましい範囲内にあるエポキシ樹脂組成物を容易に調製することができる。
当業者にはよく知られているように、市販のビスフェノール型エポキシ樹脂の中には、25℃における粘度が5Pa・s以下である品種がいくつもある。
【0018】
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物におけるビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの配合量は、該エポキシ樹脂組成物を硬化させたときに、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは12%以上である硬化樹脂(cured resin)が形成されるように調整される。
動的貯蔵弾性率G´は、例えばTAインスツルメント社製ARES-G2のような動的粘弾性測定装置を用いて、ねじりモード、昇温速度5℃/分、周波数1Hz、歪0.1%、温度25~250℃という条件で測定される貯蔵せん断弾性率である。ガラス転移温度G´-Tgは、logG´を温度に対しプロットしたグラフの平坦領域の近似直線と、該グラフのlogG´が急激に低下する領域の近似直線との、交点の温度である。
【0019】
動的貯蔵弾性率G´の測定には、厚さ2mmの樹脂板から切り出した長さ50mm、幅12.5mmの試験片を用いることができる。樹脂板を作製するには、まず、調製直後のエポキシ樹脂組成物を真空脱泡したうえで、スペーサーを用いることによって2枚の4mm厚ガラス板の間に形成された厚さ2mmの隙間に注入する。次いで、この2枚のガラス板で挟んだエポキシ樹脂組成物を70℃に予熱した熱風循環式恒温槽に入れ、ガラス板の表面温度が10℃/分のレートで70℃から140℃となるように槽内温度を上昇させる。続いて、更に30分間、該表面温度が140℃に保たれるように槽内を加熱することで、エポキシ樹脂組成物を硬化させる。最後にガラス板を除去し、厚さ2mmの樹脂板を得る。
【0020】
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物にビスフェノール型エポキシ樹脂、とりわけビスフェノールA型エポキシ樹脂を配合する目的のひとつは、硬化収縮の抑制である。
マトリックス樹脂の硬化収縮が大きい程、プリプレグを硬化させたときに割れ、反り等の不具合が生じ易い傾向がある。
従って、第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物に配合されるビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量は、好ましくは、該エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上である。
好適例において、エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上がビスフェノールA型エポキシ樹脂であってもよい。
ビスフェノール型エポキシ樹脂は、他のエポキシ樹脂に比べて安価であることから、その配合量を多くすることはプリプレグの低コスト化にも寄与する。
【0021】
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物に[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンを配合する目的は、エポキシ樹脂組成物から得られる硬化樹脂を200℃近くまで加熱したときの剛性を改善するためである。
本発明者等が見出したところによれば、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンを配合したエポキシ樹脂組成物の硬化物においては、動的貯蔵弾性率G´の100℃における値に対する200℃における値の比率が、[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの配合量に応じて高くなる傾向があった。このような傾向は、少なくとも他の3種のグリシジルアミン、具体的には4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)、[3-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンおよびN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンでは、観察されなかった。
【0022】
エポキシ樹脂組成物から得られる硬化樹脂の200℃における剛性の改善の程度を高める観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂の総配合量は、エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂成分全体の80重量%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。同じ観点から、[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの配合量は、エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂成分全体の20重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましく、30重量%以上が更に好ましく、35重量%以上や40重量%以上であってもよい。
【0023】
エポキシ樹脂組成物には、発明の効果が生じる範囲内で、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミン以外のエポキシ樹脂成分が配合され得る。
そのようなエポキシ樹脂成分の好適例のひとつは、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)である。ビスフェノール型エポキシ樹脂の一部を4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)で置き換えることで、エポキシ樹脂組成物から得られる硬化樹脂の200℃における剛性の改善の程度が高くなり得る。
【0024】
エポキシ樹脂組成物に配合し得る、ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミン以外のエポキシ樹脂成分の他の例には、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、オキサゾリドン環構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物に配合し得る好ましい硬化剤成分は潜在性硬化剤である。潜在性硬化剤は、熱をトリガーとしてエポキシ樹脂の硬化を開始させる硬化剤であり、常温ではエポキシ樹脂に対する溶解性が低い固体であって、加熱することにより融解またはエポキシ樹脂に溶解したときに初めて硬化剤として十分な機能を発揮する。
潜在性硬化剤を用いることは、エポキシ樹脂組成物の初期粘度の上昇を抑えるうえで、また、完成したプリプレグの貯蔵安定性を高めるうえで有利である。
【0026】
各種のイミダゾール類、ジシアンジアミドおよび三フッ化ホウ素-アミン錯体は、潜在性硬化剤の典型例である。
イミダゾール類とはイミダゾール環を有する化合物であり、イミダゾールの水素原子が置換基で置換された置換イミダゾールの他、イミダゾリウム塩、イミダゾール錯体などもイミダゾール類に含まれる。
潜在性硬化剤として働く置換イミダゾールの好適例には、限定するものではないが、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールおよび1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールのような、分子中にヘテロ芳香族環であってもよい芳香族環を有する置換イミダゾールが含まれる。
【0027】
1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイトおよび1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイトのようなイミダゾリウム塩も、イミダゾール系潜在性硬化剤の好適例である。
2-フェニルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールおよび2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールのような各種の置換イミダゾールのイソシアヌル酸付加物、とりわけ、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、1-(4,6-ジアミノ-s-トリアジン-2-イル)エチル-2-ウンデシルイミダゾールおよび2,4-ジアミノ-6-[2-(2-エチル-4-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-s-トリアジンのようなトリアジン環を有する置換イミダゾールのイソシアヌル酸付加物は、特に好ましいイミダゾール系潜在性硬化剤の例に含まれる。
【0028】
アミンアダクトも潜在性硬化剤の好適例のひとつである。アミンアダクトは、置換イミダゾールや3級アミンをエポキシ樹脂やイソシアネートと反応させて高分子量化したもので、エポキシ樹脂への溶解性が比較的低い。
イミダゾール類を含め、潜在性硬化剤は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
潜在性硬化剤としてジシアンジアミドを用いるときは、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)や2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化促進剤として好ましく併用することができる。
【0029】
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物に配合し得る硬化剤成分は、潜在性硬化剤に限定されるものではない。
第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物には、潜在性硬化剤に加えて、あるいは潜在性硬化剤に代えて、カルボン酸無水物、芳香族アミンおよびフェノール樹脂のような、潜在性硬化剤以外の硬化剤を配合してもよい。
【0030】
カルボン酸無水物の中でも、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびメチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸)は、いずれも25℃における粘度が0.5Pa・s未満であることから、初期粘度を下げる目的で、第一ステップで調製するエポキシ樹脂組成物に配合し得る。
カルボン酸無水物は、グリシジルアミンであってもよい3級アミンの触媒作用によって、低温でエポキシ化合物と反応し、結合を形成することが知られている。カルボン酸無水物は、エポキシ樹脂組成物に対し比較的少量、例えばエポキシ樹脂成分100重量部に対し20重量部未満の量を配合したとき、増粘剤として作用する。
カルボン酸無水物による増粘は、カルボン酸無水物がエポキシ化合物と結合を形成することにより生じる。従って、増粘と共にエポキシ樹脂組成物中のカルボン酸無水物は消費される。
【0031】
アミン化合物も、エポキシ基当たり活性水素が0.1~0.5当量となる程度の量をエポキシ樹脂組成物に配合することにより、増粘剤として作用する。増粘剤として好ましく使用し得るアミン化合物の例には、限定するものではないが、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが含まれる。
アミン化合物による増粘は、アミン化合物がエポキシ化合物と結合を形成することにより生じる。従って、増粘と共に、エポキシ樹脂組成物中に増粘剤として添加されたアミン化合物は消費される。
【0032】
ビス(4-イソシアナトフェニル)メタンやトルエンジイソシアネートのようなジイソシアネートであってもよいポリイソシアネートは、増粘剤の好適例である。エチレングリコール、ポリエチレングリコール、イソソルビド、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールおよび1,6-ヘキサンジオールのようなジオールであってもよいポリオールをポリイソシアネートと共に用いたとき、エポキシ樹脂組成物の増粘が促進される傾向がある。
ポリイソシアネートによる増粘は、ポリイソシアネートがエポキシ化合物または共に配合されるポリオールと結合を形成することにより生じる。従って、増粘と共に、エポキシ樹脂組成物中のポリイソシアネートは消費される。
【0033】
第一ステップで調製されるエポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂成分と硬化剤成分に加えて、任意成分が配合され得る。任意成分としては、限定するものではないが、増粘剤や、内部離型剤や、低収縮剤や、着色剤や、難燃剤や、酸化防止剤や、ゴム、エラストマーまたは熱可塑性樹脂からなる改質剤や、導電性フィラーや、無機フィラーが例示される。
【0034】
難燃剤の好適例は非ハロゲン系難燃剤である。非ハロゲン化難燃剤としては、限定するものではないが、赤リンのような無機リン系難燃剤、リン酸エステルや有機リン酸塩やホスホン酸塩やホスフィン酸塩のような有機リン系難燃剤、トリアジン化合物やシアヌル酸化合物やイソシアヌル酸化合物のような窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物や金属酸化物のような無機系難燃剤、フェロセンやアセチルアセトン金属錯体のような有機金属塩系難燃剤などが例示される。これらから選ばれる2種以上の難燃剤を併用してもよく、例えば、有機リン系難燃剤と窒素系難燃剤を併用することができる。
生産性の観点から、エポキシ樹脂組成物はワニスでないことが好ましい。エポキシ樹脂組成物がワニスである場合には、第二ステップで繊維補強材を含浸させた後に、エポキシ樹脂組成物から溶剤を除去するステップを更に設ける必要がある。
【0035】
第二ステップでは、予め準備した繊維補強材を、第一ステップで調製したエポキシ樹脂組成物で含浸させることにより、繊維補強材とエポキシ樹脂組成物とからなる複合体を形成する。
繊維補強材は炭素繊維を含有することが好ましく、例えば、炭素繊維マット、炭素繊維織物、炭素繊維不織布、炭素繊維ノンクリンプファブリック等であり得る。
製造すべきプリプレグがシートモールディングコンパウンドであるとき、繊維補強材は、例えば5mm~10cm、好ましくは1~6cmの範囲内の所定長を有するチョップド炭素繊維トウをキャリアフィルム上にばらまくことにより堆積される炭素繊維マットである。典型例において、前記所定長は0.5インチ(約1.3cm)、1インチ(約2.5cm)、1.5インチ(約3.8cm)または2インチ(約5.1cm)であり得る。
【0036】
一例では、第二ステップにおいて、繊維補強材の含浸を短時間で確実に行うために、第一ステップで調製したエポキシ樹脂組成物を加温して、粘度を下げて用いてもよい。かかる加温は、エポキシ樹脂組成物の温度が80℃を超えないように、好ましくは70℃を超えないように、より好ましくは50℃を超えないように、更に好ましくは40℃を超えないように、行われる。
【0037】
必要に応じて実行される第三ステップでは、第二ステップで形成した複合体中のエポキシ樹脂組成物を増粘させる。このステップは、好ましくは、複合体を所定の増粘温度に保持することにより行われる。
増粘温度は、通常、室温~約80℃の間で選ばれる。保持時間は、エポキシ樹脂組成物のみを密閉容器に入れて、増粘温度で静置したときの粘度変化を調べることにより設定することができる。増粘後のエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は、少なくとも500Pa・s、好ましくは1000Pa・s以上であり、また、通常100000Pa・s以下、好ましくは50000Pa・s以下、より好ましくは20000Pa・s以下であって、10000Pa・s以下、8000Pa・s以下、6000Pa・s以下などでもよい。
【0038】
製造すべきプリプレグがシートモールディングコンパウンドである場合について特に説明すると、次の通りである。
シートモールディングコンパウンドの製造には、例えば、
図3に示すシートモールディングコンパウンド製造装置が使用され得る。
図3を参照すると、繊維補強材の原料である連続繊維束10が繊維パッケージPから引き出され、ロータリーカッター1に送られる。
連続繊維束10は、束当たり例えば1000~100000本、好ましくは3000~50000本の炭素繊維フィラメントからなる炭素繊維束であり、部分的にスプリットされていてもよい。
連続繊維束10はロータリーカッター1により切断されてチョップド繊維束20となる。
チョップド繊維束20の繊維長は、例えば5mm~100mmの範囲内であり、1cm以上2cm未満、2cm以上3cm未満、3cm以上4cm未満、4cm以上6cm未満などであり得る。
【0039】
チョップド繊維束20は、ロータリーカッター1の下方を走行する第一キャリアフィルム51の表面上に落下し、繊維マット30を形成する。
繊維マット30を堆積させる前に、ドクターブレードを備える第一塗工機2aによって、第一キャリアフィルム51の表面に第一樹脂ペースト41からなる第一樹脂ペースト層41Lが塗布される。第一樹脂ペースト41は、第一ステップで調製されるエポキシ樹脂組成物である。
第一キャリアフィルム51は、第一樹脂ペースト41の成分に対し耐性を有する合成樹脂フィルムである。
第一キャリアフィルム51の材料は、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル樹脂、ポリアミド等から適宜選択することができる。
第一キャリアフィルム51は多層フィルムであってもよい。
【0040】
第一樹脂ペースト41の粘度が25℃において0.1Pa・s以上、更には0.5Pa・s以上であり、かつ、30Pa・s以下、更には15Pa・s以下であるとき、第一樹脂ペースト41を加温することなく、気温17℃以上28℃以下の室内で、容易に、第一キャリアフィルム51上に第一樹脂ペースト層41Lを均一な厚さで形成することができる。
繊維マット30の目付と、第一樹脂ペースト層41Lの厚さ、および後述する第二樹脂ペースト層42Lの厚さは、製造すべきシートモールディングコンパウンドの繊維含有量および目付を考慮して設定される。
繊維補強材が炭素繊維からなるシートモールディングコンパウンドの繊維含有量は、例えば、40wt%以上45wt%未満、45wt%以上55wt%未満、55wt%以上65wt未満、65wt%以上80wt%未満などであり得る。
シートモールディングコンパウンドの目付は、例えば、500g/m2以上1000g/m2以下、1000g/m2以上1500g/m2以下、1500g/m2以上2500g/m2以下、2500g/m2以上3500g/m2以下、3500g/m2以上5000g/m2以下などであり得る。
UDプリプレグと比べるとシートモールディングコンパウンドは目付が大きく、厚みも例えば1~4mmと大きいのが普通である。
【0041】
繊維マット30の形成に続いて、第一キャリアフィルム51と第二キャリアフィルム52が、間に繊維マット30を挟んで貼り合わされることにより、積層体60が形成される。
貼り合わせの前に、ドクターブレードを備える第二塗工機2bによって、第二キャリアフィルム52の一方の表面に、第二樹脂ペースト42からなる第二樹脂ペースト層42Lが塗布される。第二樹脂ペースト42は、第一ステップで調製されるエポキシ樹脂組成物である。
積層体60は、第一キャリアフィルム51の第一樹脂ペースト層41Lが塗布された面と、第二キャリアフィルム52の第二樹脂ペースト層42Lが塗布された面とが、向かい合うように形成される。
第二キャリアフィルム52は、第二樹脂ペースト42の成分に対し耐性を有する合成樹脂フィルムであり、その材料と構造は第一キャリアフィルム51と同じであってもよい。
【0042】
繊維マット30を第一樹脂ペースト41および第二樹脂ペースト42で含浸させるために、積層体60は含浸機3で加圧される。
含浸機3を通過した積層体60はボビンに巻き取られる。
ここまでの工程が、
図3に示すシートモールディングコンパウンド製造装置を用いて実行される。
ボビン上の積層体60を所定温度で一定時間保持し、繊維マット30に浸透したエポキシ樹脂組成物を増粘させることにより、シートモールディングコンパウンドが完成する。
増粘後のエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は、1000Pa・s以上2000Pa・s未満、2000Pa・s以上3000Pa・s未満、3000Pa・s以上4000Pa・s未満、4000Pa・s以上5000Pa・s未満、5000Pa・s以上6000Pa・s未満、6000Pa・s以上8000Pa・s未満、8000Pa・s以上10000Pa・s未満、10000Pa・sPa・s以上15000Pa・s未満、15000Pa・s以上20000Pa・s未満、20000Pa・s以上50000Pa・s未満、50000Pa・s以上100000Pa・s未満などであり得る。
【0043】
以上に説明した製造方法により製造されるプリプレグは、実施形態に係る前述の電着塗装品製造方法において好ましく使用し得るだけではない。電着塗装されないものを含む各種の炭素繊維強化プラスチック製品において、該プリプレグを材料に用いて製造することで、ガラス転移温度G´-Tgよりも高温に晒されたときの剛性を改善することができる。
【0044】
3.エポキシ樹脂組成物
本発明の一実施形態はエポキシ樹脂組成物に関する。
前記2.に記したプリプレグの製造方法において、第一ステップで調製されるエポキシ樹脂組成物は、本発明の実施形態に含まれる。
【0045】
4.実験結果
下記表1に示す材料を用いて9種類のエポキシ樹脂組成物を調製し、各エポキシ樹脂組成物を硬化させて得た硬化樹脂の動的粘弾性測定を行った。
【0046】
【0047】
調製した9種類のエポキシ樹脂組成物(組成物1~9)の配合を下記表2に示す。
【0048】
【0049】
表2に示す組成物1~9を調製するとき、潜在性硬化剤である2MZA-PWとPN-23Jは、それぞれjER827またはjER828に分散させてマスターバッチとしたうえで、他の成分と混合した。組成物1~8では、マスターバッチにおける潜在性硬化剤とjER827との重量比は2:1(潜在性硬化剤:エポキシ樹脂)とした。組成物9では、マスターバッチにおける潜在性硬化剤とjER828との重量比は1:1とした。
組成物1~9を調製するとき、HN-2200以外の成分の混合物を調製した後、その混合物にHN-2200を添加した。
【0050】
表2には、組成物1~9それぞれについて測定した初期粘度および増粘後粘度と、組成物1~9それぞれを硬化させて得た硬化樹脂の、動的粘弾性測定から得たガラス転移温度G´-Tgおよび100℃および200℃における動的貯蔵弾性率G´を合わせて示している。
初期粘度は、エポキシ樹脂組成物を調製後直ぐに密封容器に入れ、25℃で30分間静置した後に測定した25℃での粘度である。
増粘後粘度は、エポキシ樹脂組成物を調製後直ぐに密封容器に入れ、25℃で7日間静置した後に測定した25℃での粘度である。
【0051】
動的粘弾性測定では、厚さ2mmの樹脂板から切り出した長さ50mm、幅12.5mmの試験片を用いた。樹脂板の作製にあたっては、まず、調製直後のエポキシ樹脂組成物を真空脱泡したうえで、スペーサーを用いることによって2枚の4mm厚ガラス板の間に形成された厚さ2mmの隙間に注入した。次いで、この2枚のガラス板で挟んだエポキシ樹脂組成物を70℃に予熱した熱風循環式恒温槽に入れ、ガラス板の表面温度が10℃/分のレートで70℃から140℃となるように槽内温度を上昇させた。続いて、更に30分間、該表面温度が140℃に保たれるように槽内を加熱することでエポキシ樹脂組成物を硬化させ、厚さ2mmの樹脂板を得た。
動的粘弾性測定はTAインスツルメント社製ARES-G2を使用して、ねじりモードで、昇温速度5℃/分、周波数1Hz、歪0.1%、温度25~250℃という条件で行った。
表2に示すB/Aは、動的貯蔵弾性率G´の100℃における値Aに対する、200℃における値Bの比率である。この比率が大きい樹脂ほど、200℃近くに加熱したときの剛性率低下が小さいといえる。
【0052】
組成物1~9には、それぞれ、エポキシ樹脂成分としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER827またはjER828)とグリシジルアミン(jER630、jER604、MY0600、TETRAD-X)が配合されている。このうち、グリシジルアミンとしてjER630([4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミン)が配合された組成物2および組成物3から得た硬化樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に対するグリシジルアミンの配合重量比が同じでjER630を配合しなかった組成物4および5から得た硬化樹脂に比べ、B/Aが明らかに大きかった。
組成物1~3から得た硬化樹脂の間では、jER630の配合量が多いほど、B/Aが大きい傾向があった。
組成物4~7から得た硬化樹脂の間では、使用したグリシジルアミンの種類や配合量に関係なくB/Aは同等であった。
組成物2、組成物4、組成物5からそれぞれ作製した硬化樹脂の、動的貯蔵弾性率G´の温度依存性を表すグラフを
図2に示す。
【0053】
5.実施形態のまとめ
本発明の実施形態は以下を含むが、これらに限定されるものではない。
[実施形態1]ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と炭素繊維補強材とからなるプリプレグを硬化させて炭素繊維強化プラスチック成形品を得る成形工程と、前記炭素繊維強化プラスチック成形品に電着塗装を施す電着塗装工程と、を有する電着塗装品の製造方法。
[実施形態2]前記成形工程において、前記プリプレグは好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下の温度で硬化される、実施形態1に係る製造方法。
[実施形態3]前記エポキシ樹脂組成物は、140℃で硬化させたとき、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは12%以上である硬化樹脂を与える、実施形態1または2に係る製造方法。
[実施形態4]前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは50重量%以上である、実施形態1~3のいずれかに係る製造方法。
[実施形態5]前記ビスフェノール型エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、実施形態1~4のいずれかに係る製造方法。
[実施形態6]前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノールA型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは50重量%以上である、実施形態5に係る製造方法。
[実施形態7]前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは80重量%以下であり、より好ましくは75%以下である、実施形態1~6のいずれかに係る製造方法。
[実施形態8]前記エポキシ樹脂組成物に配合された[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上であり、35重量%以上や40重量%以上であってもよい、実施形態1~7のいずれかに係る製造方法。
[実施形態9]前記エポキシ樹脂組成物に、更に、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が配合された、実施形態1~8のいずれかに係る製造方法。
[実施形態10]前記硬化剤成分が潜在性硬化剤を含む、実施形態1~9のいずれかに係る製造方法。
[実施形態11]前記潜在性硬化剤が、ジシアンジアミド、イミダゾール類およびアミンアダクトから選ばれる1種以上の硬化剤を含む、実施形態10に係る製造方法。
[実施形態12]前記エポキシ樹脂組成物に増粘剤成分が配合された、実施形態1~11のいずれかに係る製造方法。
[実施形態13]前記エポキシ樹脂組成物に、25℃において0.5Pa・s未満の粘度を有するカルボン酸無水物が配合された、実施形態1~12のいずれかに係る製造方法。
[実施形態14]前記プリプレグがシートモールディングコンパウンドである、実施形態1~13のいずれかに係る製造方法。
[実施形態15]実施形態1~14のいずれかに係る製造方法を用いて製造された電着塗装品。
[実施形態16]ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と炭素繊維補強材とからなり、前記エポキシ樹脂組成物は、140℃で硬化させたとき、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは12%以上である硬化樹脂を与える、プリプレグ。
[実施形態17]前記エポキシ樹脂組成物に、更に、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が配合された、実施形態16に係るプリプレグ。
[実施形態18]ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)と硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物と、炭素繊維補強材と、からなるプリプレグ。
[実施形態19]前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは50重量%以上である、実施形態16~18のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態20]前記ビスフェノール型エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、実施形態16~19のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態21]前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノールA型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは50重量%以上である、実施形態20に係るプリプレグ。
[実施形態22]前記エポキシ樹脂組成物に配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは80重量%以下であり、より好ましくは75%以下である、実施形態16~21のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態23]前記エポキシ樹脂組成物に配合された[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの量が、前記エポキシ樹脂組成物に配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは20重量%以上、より好ましく25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上であり、35重量%以上や40重量%以上であってもよい、実施形態16~22のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態24]前記硬化剤成分が潜在性硬化剤を含む、実施形態16~23のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態25]前記潜在性硬化剤が、ジシアンジアミド、イミダゾール類およびアミンアダクトから選ばれる1種以上の硬化剤を含む、[実施形態24]に係るプリプレグ。
[実施形態26]前記エポキシ樹脂組成物に増粘剤成分が配合された、実施形態16~25のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態27]前記エポキシ樹脂組成物に、25℃において0.5Pa・s未満の粘度を有するカルボン酸無水物が配合された、実施形態16~26のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態28]シートモールディングコンパウンドである、実施形態16~27のいずれかに係るプリプレグ。
[実施形態29]実施形態16~28のいずれかに係るプリプレグを硬化させることを含む、炭素繊維強化プラスチック成形品の製造方法。
[実施形態30]実施形態16~29のいずれかに係るプリプレグの硬化物からなる炭素繊維強化プラスチック成形品。
[実施形態31]実施形態30に係る炭素繊維強化プラスチック成形品に電着塗装を施す、電着塗装品の製造方法。
[実施形態32]ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと硬化剤成分とが配合され、140℃で硬化させたとき、ガラス転移温度G´-Tgが100℃より高く200℃未満であるとともに動的貯蔵弾性率G´の200℃における値が100℃における値の好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは12%以上である硬化樹脂を与える、エポキシ樹脂組成物。
[実施形態33]更に、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が配合された、実施形態32に係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態34]ビスフェノール型エポキシ樹脂と[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンと4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)と硬化剤成分とが配合されたエポキシ樹脂組成物。
[実施形態35]25℃における粘度が好ましくは30Pa・s以下、より好ましくは15Pa・s以下、更に好ましくは10Pa・s以下であり、5Pa・s以下であってもよい、実施形態32~34のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態36]ワニスではない、実施形態35に係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態37]配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは50重量%以上である、実施形態32~36のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態38]前記ビスフェノール型エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、実施形態32~37のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態39]配合されたビスフェノールA型エポキシ樹脂の合計量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは50重量%以上である、実施形態38に係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態40]配合されたビスフェノール型エポキシ樹脂の合計量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは80重量%以下であり、より好ましくは75%以下である、実施形態32~39のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態41]配合された[4-(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミンの量が、配合されたエポキシ樹脂成分全体の好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上であり、35重量%以上や40重量%以上であってもよい、実施形態32~40のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態42]前記硬化剤成分が潜在性硬化剤を含む、実施形態32~41のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態43]前記潜在性硬化剤が、ジシアンジアミド、イミダゾール類およびアミンアダクトから選ばれる1種以上の硬化剤を含む、実施形態42に係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態44]増粘剤成分が配合された、実施形態32~43のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態45]25℃において0.5Pa・s未満の粘度を有するカルボン酸無水物が配合された、実施形態32~44のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物。
[実施形態46]実施形態32~45のいずれかに係るエポキシ樹脂組成物で炭素繊維補強材を含浸させることを含む、プリプレグの製造方法。
[実施形態47]前記含浸後に前記エポキシ樹脂組成物を増粘させることを含む、実施形態46に係る製造方法。
[実施形態48]前記プリプレグがシートモールディングコンパウンドである、実施形態47に係る製造方法。
【0054】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
実施形態に係る電着塗装品製造方法は、自動車、自動二輪車、自転車、船舶、鉄道車両、有人航空機、無人航空機その他の輸送用機器、スポーツ用品、レジャー用品、家電製品、農機具、建材などに含まれる、様々な電着塗装品の製造に使用することができる。
実施形態に係るプリプレグは、自動車、自動二輪車、自転車、船舶、鉄道車両、有人航空機、無人航空機その他の輸送用機器、スポーツ用品、レジャー用品、家電製品、農機具、建材などに含まれる、様々な炭素繊維強化プラスチック部品の製造に使用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ロータリーカッター
2a 第一塗工機
2b 第二塗工機
3 含浸機
10 連続繊維束
20 チョップド繊維束
30 繊維マット
41 第一樹脂ペースト
41L 第一樹脂ペースト層
42 第二樹脂ペースト
42L 第二樹脂ペースト層
51 第一キャリアフィルム
52 第二キャリアフィルム
60 積層体