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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】封止組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20241016BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241016BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20241016BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/22
H01L23/30 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023032122
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2019562046の分割
【原出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2023067951
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2017254883
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】山浦 格
(72)【発明者】
【氏名】児玉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 実佳
(72)【発明者】
【氏名】堀 慧地
(72)【発明者】
【氏名】姜 東哲
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特許第7238791(JP,B2)
【文献】特開2004-244491(JP,A)
【文献】特開2008-297530(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208694(WO,A1)
【文献】特開2010-024464(JP,A)
【文献】特開2005-290076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01L23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材とを含有し、
前記無機充填材の粒度分布が、少なくとも3つのピークを有し、
前記無機充填材が、粒子径が1μm以下のアルミナを含み、
前記無機充填材の粒度分布が、40μm~70μmの範囲にピークを有し、
前記無機充填材に占めるアルミナの割合が、60質量%~90質量%であり、
前記無機充填材全体としての平均粒子径が、4μm~20μmである封止組成物。
【請求項2】
前記無機充填材の粒度分布が、0.3μm~0.7μmの範囲、7μm~20μmの範囲及び40μm~70μmの範囲にピークを有する請求項1に記載の封止組成物。
【請求項3】
前記無機充填材に含まれる粒子径が1μm以下の無機粒子に占めるアルミナの割合が、1体積%~40体積%である請求項1又は請求項2に記載の封止組成物。
【請求項4】
前記無機充填材の平均円形度が、0.80以上である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の封止組成物。
【請求項5】
半導体素子と、前記半導体素子を封止してなる請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の封止組成物の硬化物と、を含む半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止組成物及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化及び高集積化に伴い、半導体パッケージ内部の発熱が懸念されている。発熱により、半導体パッケージを有する電気部品又は電子部品の性能低下が生じる恐れがあるため、半導体パッケージに使用される部材には、高い熱伝導性が求められている。そのため、半導体パッケージの封止材を高熱伝導化することが求められている。
封止材を高熱伝導化する手法の一つとして、封止材に含まれる無機充填材に高熱伝導性フィラーであるアルミナを用いる方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-273920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、封止材の流動性が悪化することがある。例えば、半導体素子と基板とをワイヤを介して接続するワイヤボンディング構造と呼ばれる方法を採用した半導体パッケージは、半導体素子と、基板と、これらを電気的に接続しているワイヤとを樹脂組成物で封止することにより形成される。その際、封止材の流動によりワイヤに圧力がかかり、ワイヤの位置ずれ(ワイヤ流れ)が生じたり、半導体素子の保護が充分にされないことがある。
このように、封止材の流動性と高熱伝導性とを両立することは、困難な場合がある。
【0005】
本発明の一形態は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、流動性に優れ高い熱伝導性を有する封止組成物及びそれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材とを含有し、
前記無機充填材の粒度分布が、少なくとも3つのピークを有し、
前記無機充填材が、粒子径が1μm以下のアルミナを含む封止組成物。
<2> 前記無機充填材の粒度分布が、0.3μm~0.7μmの範囲、7μm~20μmの範囲及び30μm~70μmの範囲にピークを有する<1>に記載の封止組成物。
<3> 前記無機充填材に含まれる粒子径が1μm以下の無機粒子に占めるアルミナの割合が、1体積%~40体積%である<1>又は<2>に記載の封止組成物。
<4> 前記無機充填材の平均円形度が、0.80以上である<1>~<3>のいずれか1項に記載の封止組成物。
<5> 半導体素子と、前記半導体素子を封止してなる<1>~<4>のいずれか1項に記載の封止組成物の硬化物と、を含む半導体装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一形態によれば、流動性に優れ高い熱伝導性を有する封止組成物及びそれを用いた半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の封止組成物及び半導体装置を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示においては、各成分に該当する粒子を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0009】
<封止組成物>
本開示の封止組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材とを含有し、前記無機充填材の粒度分布が、少なくとも3つのピークを有し、前記無機充填材が、粒子径が1μm以下のアルミナを含む。
本開示の封止組成物は、流動性に優れ高い熱伝導性を有する。その理由は明確ではないが、以下のように推察される。
封止組成物に含まれる無機充填材は、少なくとも3つのピークを有する粒度分布を示す。つまり、無機充填材は、少なくとも、大粒子径の無機粒子と中粒子径の無機粒子と小粒子径の無機粒子とを含んで構成される。無機充填材が大粒子径の無機粒子と中粒子径の無機粒子と小粒子径の無機粒子とを含むため、本開示の封止組成物は流動性に優れると考えられる。
また、無機充填材は、粒子径が1μm以下のアルミナを含むところ、アルミナは上述のように、高い熱伝導性を示す。また、粒子径が1μm以下のアルミナは、封止組成物に含まれる無機充填材としては、小粒子径の無機粒子に該当する。小粒子径の無機粒子としてアルミナを含むことで、大粒子径の無機粒子及び中粒子径の無機粒子の間に小粒子径の無機粒子であるアルミナが介在しやすくなる。高い熱伝導性を示すアルミナが大粒子径の無機粒子及び中粒子径の無機粒子の間に介在することで、大粒子径の無機粒子及び中粒子径の無機粒子の間の熱伝導を促進することができる。その結果として、本開示の封止組成物は高い熱伝導性を有すると推察される。
【0010】
以下、封止組成物を構成する各成分について説明する。本開示の封止組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材とを含有し、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
【0011】
-エポキシ樹脂-
封止組成物は、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂の種類は特に限定されず、公知のエポキシ樹脂を使用することができる。
具体的には、例えば、フェノール化合物(例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA及びビスフェノールF)並びにナフトール化合物(例えば、α-ナフトール、β-ナフトール及びジヒドロキシナフタレン)からなる群より選択される少なくとも1種と、アルデヒド化合物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒド)と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの(例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂);ビスフェノール(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF及びビスフェノールS)及びビフェノール(例えば、アルキル置換及び非置換のビフェノール)からなる群より選択される少なくとも1種のジグリシジルエーテル;フェノール・アラルキル樹脂のエポキシ化物;フェノール化合物とジシクロペンタジエン及びテルペン化合物からなる群より選択される少なくとも1種との付加物又は重付加物のエポキシ化物;多塩基酸(例えば、フタル酸及びダイマー酸)とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ポリアミン(例えば、ジアミノジフェニルメタン及びイソシアヌル酸)とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酸(例えば、過酢酸)で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;並びに脂環族エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0012】
集積回路(Integrated Circuit、IC)等の素子上のアルミニウム配線又は銅配線の腐食防止の観点から、エポキシ樹脂の純度は高い方が好ましく、加水分解性塩素量は少ない方が好ましい。封止組成物の耐湿性の向上の観点からは、加水分解性塩素量は質量基準で500ppm以下であることが好ましい。
【0013】
ここで、加水分解性塩素量は、試料のエポキシ樹脂1gをジオキサン30mLに溶解し、1N-KOHメタノール溶液5mLを添加して30分間リフラックスした後、電位差滴定により求めた値である。
【0014】
封止組成物に占めるエポキシ樹脂の含有率は、1.5質量%~20質量%であることが好ましく、2.0質量%~15質量%であることがより好ましく、3.0質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
無機充填材を除く封止組成物に占めるエポキシ樹脂の含有率は、30質量%~65質量%であることが好ましく、35質量%~60質量%であることがより好ましく、40質量%~55質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
-硬化剤-
封止組成物は、硬化剤を含有する。硬化剤の種類は特に限定されず、公知の硬化剤を使用することができる。
具体的には、例えば、フェノール化合物(例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA及びビスフェノールF)並びにナフトール化合物(例えば、α-ナフトール、β-ナフトール及びジヒドロキシナフタレン)からなる群より選択される少なくとも1種と、アルデヒド化合物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒド)とを、酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂;フェノール・アラルキル樹脂;ビフェニル・アラルキル樹脂;並びにナフトール・アラルキル樹脂;が挙げられる。硬化剤は1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。中でも、硬化剤としては、耐リフロー性向上の観点から、フェノール・アラルキル樹脂が好ましい。硬化剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
硬化剤の官能基(例えば、ノボラック樹脂の場合にはフェノール性水酸基)の当量がエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5当量~1.5当量になるように、硬化剤が配合されることが好ましく、特に、0.7当量~1.2当量になるように硬化剤が配合されることが好ましい。
【0017】
-無機充填材-
封止組成物は、無機充填材を含む。無機充填材を含むことで、封止組成物の吸湿性が低減し、硬化状態での強度が向上する傾向にある。
【0018】
無機充填材は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
無機充填材を2種類以上併用する場合としては、例えば、成分、平均粒子径、形状等が異なる無機充填材を2種類以上用いる場合が挙げられる。
無機充填材の形状は特に制限されず、例えば、粉状、球状、繊維状等が挙げられる。封止組成物の成形時の流動性及び金型摩耗性の点からは、球状であることが好ましい。
【0019】
無機充填材の平均円形度は、0.80以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上であることがさらに好ましく、0.93以上であることが特に好ましい。また、無機充填材の平均円形度は、1.0以下であってもよい。
無機充填材の円形度とは、無機充填材の投影面積と同じ面積を持つ円の直径である円相当径から算出される円としての周囲長を、無機充填材の投影像から測定される周囲長(輪郭線の長さ)で除して得られる数値であり、下記式で求められる。尚、円形度は真円では1.00となる。
円形度=(相当円の周囲長)/(粒子断面像の周囲長)
具体的に平均円形度は、走査型電子顕微鏡で倍率1000倍に拡大した画像を観察し、任意に10個の無機充填材を選択し、上記方法にて個々の無機充填材の円形度を測定し、その算術平均値として算出される値である。なお、円形度、相当円の周囲長及び粒子の投影像の周囲長は、市販されている画像解析ソフトによって求めることが可能である。
無機充填材として2種類以上が併用される場合、無機充填材の平均円形度は、2種類以上の無機充填材の混合物としての値をいう。
【0020】
無機充填材としては、粒度分布が、少なくとも3つのピークを有し、粒子径が1μm以下のアルミナを含むものであれば、材質、粒子径等について特に限定されるものではない。
無機充填材としては、球状シリカ、結晶シリカ等のシリカ、アルミナ、ジルコン、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ベリリア、ジルコニアなどが挙げられる。さらに、難燃効果のある無機充填材としては水酸化アルミニウム、硼酸亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。
無機充填材に占めるアルミナの割合は、60質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~92質量%であることがより好ましく、60質量%~90質量%であることがさらに好ましい。
無機充填材としては、アルミナとシリカとを併用してもよい。無機充填材としてアルミナとシリカとを併用する場合、無機充填材に占めるアルミナの割合が80質量%~95質量%であり、シリカの割合が5質量%~20質量%であることが好ましく、アルミナの割合が82質量%~92質量%であり、シリカの割合が8質量%~18質量%であることがより好ましく、アルミナの割合が85質量%~90質量%であり、シリカの割合が10質量%~15質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
無機充填材の粒度分布は、少なくとも3つのピークを有するものであり、3つのピークを有することが好ましい。無機充填材の粒度分布におけるピークの位置は特に限定されるものではなく、例えば、0.3μm~0.7μmの範囲、7μm~20μmの範囲及び30μm~70μmの範囲にピークを有することが好ましく、0.3μm~0.6μmの範囲、7μm~15μmの範囲及び40μm~70μmの範囲にピークを有することがより好ましい。
【0022】
無機充填材の粒度分布は、下記方法で求めることができる。
溶媒(純水)に、測定対象の無機充填材を0.02質量%~0.08質量%の範囲内で添加し、110Wのバス式超音波洗浄機で1分~10分振動し、無機充填材を分散する。分散液の約40mL程度を測定セルに注入して25℃で測定する。測定装置は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所、LA920(商品名))にて、体積基準の粒度分布を測定する。なお、屈折率はアルミナの屈折率を用いる。無機充填材がアルミナとアルミナ以外の無機充填材の混合物である場合においても、屈折率はアルミナの屈折率を用いるものとする。
【0023】
無機充填材に含まれる粒子径が1μm以下の無機粒子に占めるアルミナの割合は、1体積%~40体積%であることが好ましく、10体積%~35体積%であることがより好ましく、15体積%~30体積%であることがさらに好ましい。
無機充填材に含まれる粒子径が1μm以下の無機粒子に占めるアルミナの割合は、以下の方法により測定することができる。
走査型電子顕微鏡により粒子径が1μm以下と確認された各無機粒子について、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry)により構成元素を同定し、無機粒子の材質を確定する。1μm以下の無機粒子50個に占めるアルミナの体積基準の割合を求めることで、無機充填材に含まれる粒子径が1μm以下の無機粒子に占めるアルミナの割合を求めることができる。各無機粒子の粒子径は、投影面積と同じ面積を持つ円の直径である円相当径とする。
【0024】
無機充填材に含まれる粒子径が10μm以上の無機粒子に占めるアルミナの割合は、20体積%~60体積%であることが好ましく、25体積%~55体積%であることがより好ましく、30体積%~50体積%であることがさらに好ましい。
無機充填材に含まれる粒子径が10μm以上の無機粒子に占めるアルミナの割合は、無機充填材に含まれる粒子径が1μm以下の無機粒子に占めるアルミナの割合と同様にして求めることができる。
【0025】
無機充填材の配合量としては、吸湿性、線膨張係数の低減、強度向上及びはんだ耐熱性の観点から、封止組成物全体に対して75質量%~97質量%の範囲内であることが好ましく、80質量%~95質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0026】
無機充填材が少なくとも3つのピークを有する粒度分布を示すためには、例えば、平均粒子径の異なる3種類の無機充填材を配合する方法が挙げられるが、これに限定されることはない。例えば、平均粒子径が0.3μm~0.7μmの無機充填材と、平均粒子径が7μm~20μmの無機充填材と、平均粒子径が30μm~70μmの無機充填材とを併用してもよい。
無機充填材全体としての平均粒子径は、4μm~30μmであることが好ましく、5μm~25μmであることがより好ましく、6μm~20μmであることがさらに好ましい。
無機充填材の平均粒子径は、無機充填材の粒度分布の測定の場合と同様にして調製した無機充填材の分散液を用い、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所、LA920(商品名))にて測定される体積基準の粒度分布において、小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50%)として求められる。
【0027】
(硬化促進剤)
封止組成物は、硬化促進剤をさらに含有してもよい。硬化促進剤の種類は特に制限されず、公知の硬化促進剤を使用することができる。
具体的には、1,8-ジアザ-ビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザ-ビシクロ[4.3.0]ノネン、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザ-ビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のシクロアミジン化合物;シクロアミジン化合物に無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂などのπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物、3級アミン化合物の誘導体;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、イミダゾール化合物の誘導体;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、上記キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩、テトラフェニルボロン塩の誘導体;トリフェニルホスホニウム-トリフェニルボラン、N-メチルモルホリンテトラフェニルホスホニウム-テトラフェニルボレート等のホスフィン化合物とテトラフェニルボロン塩との付加物などが挙げられる。硬化促進剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
硬化促進剤の含有率は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に対して、0.1質量%~8質量%であることが好ましい。
【0029】
(イオントラップ剤)
封止組成物は、イオントラップ剤をさらに含有してもよい。
本開示において使用可能なイオントラップ剤は、半導体装置の製造用途に用いられる封止材において、一般的に使用されているイオントラップ剤であれば特に制限されるものではなく、ハイドロタルサイト等が挙げられる。イオントラップ剤としては、下記一般式(II-1)又は下記一般式(II-2)で表される化合物を用いてもよい。
【0030】
Mg1-aAl(OH)(COa/2・uHO (II-1)
(一般式(II-1)中、aは0<a≦0.5であり、uは正数である。)
BiO(OH)(NO (II-2)
(一般式(II-2)中、bは0.9≦b≦1.1、cは0.6≦c≦0.8、dは0.2≦d≦0.4である。)
【0031】
イオントラップ剤は、市販品として入手可能である。一般式(II-1)で表される化合物としては、例えば、「DHT-4A」(協和化学工業株式会社、商品名)が市販品として入手可能である。また、一般式(II-2)で表される化合物としては、例えば、「IXE500」(東亞合成株式会社、商品名)が市販品として入手可能である。
【0032】
また、上記以外のイオントラップ剤として、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、アンチモン等から選ばれる元素の含水酸化物などが挙げられる。
イオントラップ剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
封止組成物がイオントラップ剤を含有する場合、イオントラップ剤の含有量は、充分な耐湿信頼性を実現する観点からは、封止組成物中のエポキシ樹脂100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましい。他の成分の効果を充分に発揮する観点からは、イオントラップ剤の含有量は、封止組成物中のエポキシ樹脂100質量部に対し、15質量部以下であることが好ましい。
【0034】
また、イオントラップ剤の平均粒子径は0.1μm~3.0μmであることが好ましく、最大粒子径は10μm以下であることが好ましい。イオントラップ剤の平均粒子径は、無機充填材の場合と同様にして測定することができる。
【0035】
(カップリング剤)
封止組成物は、カップリング剤をさらに含有してもよい。カップリング剤の種類は、特に制限されず、公知のカップリング剤を使用することができる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤及びチタンカップリング剤が挙げられる。カップリング剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン及びγ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。
【0037】
チタンカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート及びテトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートが挙げられる。
【0038】
封止組成物がカップリング剤を含有する場合、カップリング剤の含有率は、封止組成物の全体に対して3質量%以下であることが好ましく、その効果を発揮させる観点からは、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0039】
(離型剤)
封止組成物は、離型剤をさらに含有してもよい。離型剤の種類は特に制限されず、公知の離型剤を使用することができる。具体的には、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、カルナバワックス及びポリエチレン系ワックスが挙げられる。離型剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
封止組成物が離型剤を含有する場合、離型剤の含有率は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に対して、10質量%以下であることが好ましく、その効果を発揮させる観点からは、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0040】
(着色剤及び改質剤)
封止組成物は、着色剤(例えば、カーボンブラック)を含有してもよい。また、封止組成物は、改質剤(例えば、シリコーン及びシリコーンゴム)を含有してもよい。着色剤及び改質剤は、それぞれ、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
着色剤としてカーボンブラック等の導電性粒子を用いる場合、導電性粒子は、粒子径10μm以上の粒子の含有率が1質量%以下であることが好ましい。
封止組成物が導電性粒子を含有する場合、導電性粒子の含有率は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量に対して4質量%以下であることが好ましい。
【0042】
<封止組成物の作製方法>
封止組成物の作製方法は特に制限されず、公知の方法により行うことができる。例えば、所定の配合量の原材料の混合物をミキサー等によって充分混合した後、熱ロール、押出機等によって混練し、冷却、粉砕等の処理を経ることによって作製することができる。封止組成物の状態は特に制限されず、粉末状、固体状、液体状等であってよい。
【0043】
<半導体装置>
本開示の半導体装置は、半導体素子と、前記半導体素子を封止してなる本開示の封止組成物の硬化物と、を含む。
【0044】
封止組成物を用いて半導体素子を封止する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することが可能である。例えば、トランスファーモールド法が一般的であるが、コンプレッションモールド法、インジェクション成形法等を用いてもよい。
【0045】
本開示の半導体装置は、IC、LSI(Large-Scale Integration、大規模集積回路)等として好適である。
【実施例
【0046】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、表中の数値は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0047】
(実施例1~11並びに比較例1及び2)
表1~表3に示す配合の材料を予備混合(ドライブレンド)した後、二軸ロール(ロール表面温度:約80℃)で約15分間混練し、冷却粉砕して粉末状の封止組成物を製造した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表中の材料の詳細は、それぞれ以下の通りである。また表中の「-」は、該当する成分を含有しないことを示す。
【0052】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニル型エポキシ樹脂、エポキシ当量:186g/eq
・エポキシ樹脂2:多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量:167g/eq
・エポキシ樹脂3:ビスフェノール型結晶性エポキシ樹脂、エポキシ当量:192g/eq
・エポキシ樹脂4:ビスF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:159g/eq
【0053】
(硬化剤)
・硬化剤1:多官能フェノール樹脂、水酸基当量が102g/eqのトリフェニルメタン型フェノール樹脂
・硬化剤2:多官能フェノール樹脂、水酸基当量が205g/eqのビフェニル・アラルキル樹脂
・硬化剤3:フェノール・アラルキル樹脂、水酸基当量:170g/eq
【0054】
・硬化促進剤:リン系硬化促進剤
・カップリング剤:エポキシシラン(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
・離型剤:モンタン酸エステル
・着色剤:カーボンブラック
・イオントラップ剤:ハイドロタルサイト
・改質剤:シリコーン
【0055】
(無機充填材)
・無機充填材1:アルミナとシリカの混合物(平均粒子径:8.6μm)
・無機充填材2:シリカ(平均粒子径:9.5μm)
・無機充填材3:アルミナ(平均粒子径:0.4μm)
・無機充填材4:シリカ(平均粒子径:0.8μm)
・無機充填材5:シリカ(平均粒子径:0.1μm)
・無機充填材6:シリカ(平均粒子径:13.0μm)
・無機充填材7:シリカ(平均粒子径:2.2μm)
・無機充填材8:シリカ(平均粒子径:0.8μm)
・無機充填材9:アルミナとシリカの混合物(平均粒子径:7.4μm)
・無機充填材10:シリカ(平均粒子径:1.5μm)
・無機充填材11:シリカ(平均粒子径:22.0μm)
・無機充填材12:アルミナ(平均粒子径:14.9μm)
・無機充填材13:アルミナ(平均粒子径:10.4μm)
・無機充填材14:アルミナ(平均粒子径:2.0μm)
・無機充填材15:アルミナとシリカの混合物(平均粒子径:43.9μm)
【0056】
実施例1~11の無機充填材の粒度分布におけるピークの位置は、以下の通りであり、
3つのピークを有していた。また、実施例1~11に係る封止組成物は全て粒子径が1μm以下のアルミナを含んでいた。合わせて、無機充填材全体の平均粒子径を以下に示す。
実施例1:0.45μm、10μm及び40μm (平均粒子径:8.1μm)
実施例2:0.5μm、10μm及び50μm (平均粒子径:8.7μm)
実施例3:0.5μm、10μm及び50μm (平均粒子径:7.6μm)
実施例4:0.5μm、10μm及び50μm (平均粒子径:7.7μm)
実施例5:0.5μm、10μm及び50μm (平均粒子径:6.6μm)
実施例6:0.5μm、10μm及び51μm (平均粒子径:6.2μm)
実施例7:0.5μm、10μm及び51μm (平均粒子径:7.7μm)
実施例8:0.5μm、10μm及び51μm (平均粒子径:6.6μm)
実施例9:0.5μm、10μm及び51μm (平均粒子径:10.8μm)
実施例10:0.45μm、10μm及び51μm (平均粒子径:6.4μm)
実施例11:0.4μm、9μm及び45μm (平均粒子径:7.8μm)
一方、比較例1の無機充填材の粒度分布におけるピークの位置は、以下の通りであり、2つのピークを有していた。また、比較例1に係る封止組成物は粒子径が1μm以下のアルミナを含んでいた。合わせて、無機充填材全体の平均粒子径を以下に示す。
比較例1:1.5μm及び10μm (平均粒子径:11.3μm)
また、比較例2の無機充填材の粒度分布におけるピークの位置は、以下の通りであり、3つのピークを有していた。また、比較例2に係る封止組成物は粒子径が1μm以下のアルミナを含んでいなかった。合わせて、無機充填材全体の平均粒子径を以下に示す。
比較例2:0.5μm、10μm及び50μm (平均粒子径:6.5μm)
【0057】
<流動性の評価>
封止組成物の流動性の評価は、スパイラルフロー試験により行った。
具体的には、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて封止組成物を成形し、封止組成物の成形物の流動距離(cm)を測定した。封止組成物の成形は、トランスファー成形機を用い、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件下で行った。
また、流動性は160cm以上をAとし、150cm以上160cm未満をB、150cm未満をCとした。
【0058】
<熱伝導率の評価>
封止組成物の熱伝導率の評価は、下記の方法により行った。
具体的には、調製した封止組成物を用いて、金型温度180℃、成形圧力7MPa、硬化時間300秒間の条件でトランスファー成形を行い、金型形状の硬化物を得た。得られた硬化物をアルキメデス法により測定した密度は2.8g/cm~3.0g/cmであった。また硬化物の熱拡散率を熱拡散率測定装置(NETZSCH社、LFA467)を用いてレーザーフラッシュ法により測定した。上記で測定された熱拡散率、アルキメデス法で測定した密度及びDSC(示差熱量計)により測定した比熱の積から熱伝導率(W/(m・K))を算出した。
また、熱伝導率は2.5W/(m・K)以上をAとし、2.5W/(m・K)未満をBとした。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
表4~表6に示されるように、3つのピークを有する実施例1~11と2つのピークを有する比較例1の結果より、無機充填材に占めるアルミナの割合に関わらず、無機充填材の粒度分布でピークを3つ有さないことにより、流動性は極端に低下し、熱伝導率は低下した。
また、無機充填材の中に粒子径が1μm以下のアルミナを含まない比較例2は、無機充填材の中に粒子径が1μm以下のアルミナを特に多く有する実施例1、5、6、8、10及び11と比較し、流動性は同等か又は低下し、熱伝導率は低下する結果となった。
【0063】
2017年12月28日に出願された日本国特許出願2017-254883号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。