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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】欠陥検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
H01L21/66 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023206511
(22)【出願日】2023-12-06
【審査請求日】2024-05-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 久之
(72)【発明者】
【氏名】小針 淳
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-61116(JP,A)
【文献】特開2006-303134(JP,A)
【文献】特開2001-257243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/64-21/66
G01N 21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に存在する突起状欠陥の検出サイズを拡大させるために、前記基板上に膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成するシリコン窒化膜形成工程と、
前記シリコン窒化膜形成工程後、前記突起状欠陥上の前記シリコン窒化膜の表面に拡大形成された突起部のサイズを表面検査装置で検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された前記突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを推定する欠陥サイズ推定工程と、
を含むことを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項2】
前記シリコン窒化膜形成工程において、前記シリコン窒化膜の形成温度を500℃以上580℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載の欠陥検査方法。
【請求項3】
前記予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係は、予め別の基板で検出したシリコン窒化膜形成前後の検出サイズの変化量を元に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の欠陥検査方法。
【請求項4】
前記検出工程において、前記表面検査装置による検出時の測定感度を19nmより高感度とすることを特徴とする請求項1または2に記載の欠陥検査方法。
【請求項5】
前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを10.6nm未満とすることを特徴とする請求項1または2に記載の欠陥検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の欠陥検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板に代表される基板の表面に存在する欠陥はデバイス不良の原因となるため、近年のデバイスの高度化による微細化の進展に伴って、欠陥の低減や評価がより重要になっている。基板表面に存在する欠陥は、主に代表的な表面検査装置として知られているパーティクルカウンターによって検出される。パーティクルカウンターは、基板表面に光を入射し、基板の表面に存在する突起状欠陥(パーティクルともいう)による散乱光を検出することで基板表面を検査する。散乱光の強度はパーティクルの大きさや形状、組成等により変化し、例えば大きなパーティクルほど散乱光強度が大きくなる。また、パーティクルカウンターでは、前記散乱光強度と標準粒子のサイズごとの散乱光強度を元に検出サイズを算出することができる。つまり、散乱光強度が大きいほど検出サイズが大きくなる。検出サイズが小さいパーティクルを検出するためには、パーティクルカウンターによる測定を長時間行う必要がある。また、散乱光強度が非常に小さいパーティクルの場合、基板表面の粗さ(ヘイズ)に起因する散乱光と区別ができないため、検出することができない。
【0003】
特許文献1には、パーティクルカウンターでは直接検出できない微小なパーティクルを検出するため、シリコン窒化膜(以下単に窒化膜ともいう)を成膜することで、元のパーティクルよりサイズを大きくすることが開示されている。
【0004】
この技術では、窒化膜を形成することにより、微小なパーティクルを核として窒化膜に盛り上がりが生じるため、窒化膜形成後にパーティクルカウンターで基板を測定する事で、高感度でパーティクル測定ができる。その際の膜厚は、膜厚≧(検査装置検出感度-欠陥サイズ)×安全率とし、安全率は100%以上としている。ここで検出感度は測定感度ともいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-212009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化膜をはじめとするCVD膜を基板上に成膜する際に、基板上に凸状の突起があれば、そこを元として、周辺にCVD膜が成膜され、凸状の突起のサイズが大きくなる。特に窒化膜は屈折率が大きいため、よりサイズを大きくして検出することができる。
【0007】
この現象をレンズ効果と言い、一般的な現象であるが、CVD膜は一様に成膜されるわけではない為、CVD膜の形成後のラフネスはCVD膜の形成前の基板のラフネスより悪くなるのが一般的である。そのため、CVD膜を厚く形成すると粗さ起因のヘイズの悪化が起こり、パーティクルカウンターの検出感度は低くなる。
【0008】
しかし、特許文献1ではCVD膜の形成によって欠陥サイズが大きくなることだけに注目しており、ヘイズによる感度低下については考慮されていない。
【0009】
また、CVD膜の形成による欠陥サイズの拡大のみに着目した場合、50nmのCVD膜の形成によりパーティクルサイズが一般的な測定感度の19nmにまで拡大が見込めるのは、CVD膜形成前の時点で12nmより大きなパーティクルである。つまり、12nm以下のパーティクルは50nmのCVD膜の形成では検出できないという事になる。
【0010】
近年、パーティクルカウンターの性能が上がり、12nm以下のパーティクルがCVD膜を形成しなくても測れるようになった。この高感度のパーティクルカウンターの最小サイズの検出感度は10.6nmである。この場合、従来の方法でCVD膜を形成すると、ヘイズの影響により逆に検出感度が悪化してしまう現象が発生する。このため、高感度のパーティクルカウンターで微少な突起状欠陥を測定する場合は、窒化膜の形成をしないで測定した方が高感度であり、その限界(最小感度)は10.6nmということになる。
【0011】
このように、今後さらなるデバイスの高度化による微細化の進展に伴って、より小さな突起状欠陥を調べることが望まれるが、従来は10.6nmより小さな突起状欠陥を検出できる検査方法が無いという問題があった。
【0012】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、より小さな突起状欠陥のサイズを推定できる欠陥検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の欠陥検査方法は、基板の表面に存在する突起状欠陥の検出サイズを拡大させるために、前記基板上に膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成するシリコン窒化膜形成工程と、
前記シリコン窒化膜形成工程後、前記突起状欠陥上の前記シリコン窒化膜の表面に拡大形成された突起部のサイズを表面検査装置で検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された前記突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを推定する欠陥サイズ推定工程と、
を含む欠陥検査方法である。
【0014】
このような欠陥検査方法とすれば、膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成することで、突起状欠陥上のシリコン窒化膜の表面に突起部を拡大形成できるとともに、シリコン窒化膜の形成によるラフネスの悪化や粗さ起因のヘイズの悪化を抑制することができるので、検出した突起部のサイズに基づいて、より小さな突起状欠陥のサイズを推定できる。
【0015】
また、本発明の欠陥検査方法は、前記シリコン窒化膜形成工程において、前記シリコン窒化膜の形成温度を500℃以上580℃以下とすることが好ましい。
【0016】
このような温度範囲とすれば、よりヘイズの悪化が抑えられたシリコン窒化膜を形成できる。
【0017】
また、本発明の欠陥検査方法は、前記予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係は、予め別の基板で検出したシリコン窒化膜形成前後の検出サイズの変化量を元に設定されることが好ましい。
【0018】
適切な膜厚の範囲(1~4nm)においてシリコン窒化膜形成前後の検出サイズには相関があり、また膜厚が大きいほどシリコン窒化膜形成後の検出サイズは拡大する(つまり、拡大量が大きくなる)。よって、予め別の基板で求めたシリコン窒化膜形成前後の検出サイズの変化量を元に、膜厚と検出サイズの拡大量の関係を設定することは容易である。従って、シリコン窒化膜形成後に検出された突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、シリコン窒化膜形成前の突起状欠陥のサイズを容易に推定することができる。
【0019】
また、本発明の欠陥検査方法は、前記検出工程において、前記表面検査装置による検出時の測定感度を19nmより高感度とすることが好ましい。
【0020】
このような測定感度とすれば、一般的な表面検査装置の測定感度の19nmでは検出できない小さな突起部のサイズを検出でき、この検出された突起部のサイズを元に、より小さな突起状欠陥のサイズを推定できる。
【0021】
また、本発明の欠陥検査方法は、前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを10.6nm未満とすることが好ましい。
【0022】
このような10.6nm未満の突起状欠陥は、代表的な表面検査装置である最新のパーティクルカウンターの最小感度よりも小さいので、従来の方法では突起状欠陥のサイズを推定できなかったが、上記本発明の手段によって、より小さな突起状欠陥のサイズでも推定できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の欠陥検査方法であれば、膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成することで、突起状欠陥上のシリコン窒化膜の表面に突起部を拡大形成できるとともに、シリコン窒化膜の形成によるラフネスの悪化や粗さ起因のヘイズの悪化を抑制することができるので、検出した突起部のサイズに基づいて、より小さな突起状欠陥のサイズを推定できる。具体的には、代表的な表面検査装置である最新のパーティクルカウンターの最小感度(10.6nm)よりも小さな突起状欠陥のサイズでも検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の欠陥検査方法の一例を示すフローチャートである。
図2】膜厚50nmのシリコン窒化膜形成前後のLPDマップである。
図3】膜厚50nmのシリコン窒化膜形成前後のLPDマップである。
図4】膜厚と測定感度の違いを比較したLPDマップである。
図5】膜厚4nmのシリコン窒化膜形成前後のLPDマップである。
図6】膜厚4nmのシリコン窒化膜形成前後の欠陥サイズ変化グラフである。
図7】膜厚4nmのシリコン窒化膜形成後のパーティクルサイズ分布を示すグラフである。
図8】膜厚6nmと9.5nmのシリコン窒化膜形成前後の欠陥サイズ変化グラフである。
図9】膜厚0.4nmのシリコン窒化膜形成前後の欠陥サイズ変化グラフである。
図10】膜厚1.2nmのシリコン窒化膜形成前後のLPDマップである。
図11】膜厚1.2nmのシリコン窒化膜形成前後の欠陥サイズ変化グラフである。
図12】膜厚1.2nmのシリコン窒化膜形成後のパーティクルサイズ分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
前述の通り、より小さな突起状欠陥のサイズを検出できる欠陥検査方法を提供することが求められていた。
【0027】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ね、高感度のパーティクルカウンターで測定する場合であっても、窒化膜の形成によるレンズ効果を利用して、より高感度に微少な突起状欠陥を測定できる方法が無いかを重点的に検討した。
【0028】
まず従来から、シリコン窒化膜のようなCVD膜でパーティクルがコートされると、サイズが大きくなり検出しやすくなることが知られており、これを利用すれば、本来は高感度測定を達成できるはずである。そしてCVD膜形成後に感度を落とすのはCVDによるヘイズ悪化が原因であるので、ヘイズ悪化が起きずに、小さな欠陥を少しだけ大きくする薄膜CVDを利用することで高感度化を達成できると考えた。現在、パーティクルカウンターの最小感度は10nm程度であり、検出に利用する散乱光強度は非常に弱く、パーティクルカウンターの改良で、10nmサイズからさらに数nm高感度化するのは非常に難しい。しかし本発明者らによる研究では、数nmの窒化膜の成膜を行うことで、パーティクルに数nmのコーティングをして拡大し、最終的に10nmより、数nm小さな欠陥を検出することができるようになった。
【0029】
振り返ると、従来の方法では、サイズが12nm前後以上の欠陥はCVD膜の形成によるヘイズによる感度悪化よりも、パーティクルサイズが大きくなる効果が大きかったため、CVD膜の成膜によって高感度が達成できていたが、10nm前後のサイズの欠陥では、CVD膜の成膜によるサイズの拡大が小さく、それよりもヘイズの悪化によって、かえって欠陥が見えなくなってしまっていたと考えられる。
今回は、薄膜CVDを行うことで、ヘイズの悪化が少ない状態を維持しつつ、10nm以下のサイズの欠陥を大きくして検出することができた。その結果、最新のパーティクルカウンターの感度以上の小さな欠陥を検出することができるようになった。
【0030】
こうして、本発明者らは、より高感度に微小な突起状欠陥を測定できる方法を見出し、本発明を完成させた。
【0031】
即ち、本発明の欠陥検査方法は、基板の表面に存在する突起状欠陥の検出サイズを拡大させるために、前記基板上に膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成するシリコン窒化膜形成工程と、前記シリコン窒化膜形成工程後、前記突起状欠陥上の前記シリコン窒化膜の表面に拡大形成された突起部のサイズを表面検査装置で検出する検出工程と、前記検出工程で検出された前記突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを推定する欠陥サイズ推定工程と、を含む欠陥検査方法である。
【0032】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
図1は本発明の欠陥検査方法の一例を示すフローチャートである。
【0034】
<ステップS1:シリコン窒化膜形成工程>
ステップS1は、基板の表面に存在する突起状欠陥の検出サイズを拡大させるために、基板上に膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成する工程である。
【0035】
従来は数十nmの膜厚とするところを、あえて1~4nmの薄膜とすることで、突起状欠陥上のシリコン窒化膜の表面に突起部を拡大形成できるとともに、シリコン窒化膜の形成によるラフネスの悪化や粗さ起因のヘイズの悪化を抑制することができる。
【0036】
ここで、シリコン窒化膜の形成温度を500℃以上580℃以下とすることが好ましい。このような温度範囲とすれば、よりヘイズの悪化が抑えられたシリコン窒化膜を形成できる。
【0037】
<ステップS2:検出工程>
ステップS2は、ステップS1のシリコン窒化膜形成工程後、突起状欠陥上のシリコン窒化膜の表面に拡大形成された突起部のサイズを表面検査装置で検出する工程である。
【0038】
表面検査装置として使用するパーティクルカウンターは、欠陥(この場合は突起部)の検出、欠陥数および欠陥サイズの測定が可能なものであれば良く、特に限定されない。例えば従来から市販されているものを用いることができ、KLA-Tencor社製のSP7などが挙げられる。このようなパーティクルカウンターを用い、LPD(Light Point Defect)マップ、すなわち、ウェーハ面内の欠陥分布を取得する。
【0039】
このようなLPDマップを取得することにより、ウェーハ面内に存在する欠陥の数(およびその位置座標(単に座標とも言う))を測定することができる。また同時に、検出感度を調整し、検出する欠陥サイズのレベルを設定しておくことにより、所定の欠陥サイズの欠陥が面内にどの程度の数で存在するのかを、各々の位置座標とともに測定可能である。検出感度の調整は求める欠陥サイズに応じてその都度決定することができる。検出感度は例えば一般的な19nmや、SP7の最高感度である10.6nmなどとすることができる。欠陥サイズはLPDのサイズから測定することができる。
【0040】
なお、後述するように窒化膜を形成した後にも測定し、各測定時のウェーハ面内での各欠陥の座標に基づき比較することで、各欠陥サイズの情報と共に、例えば、窒化膜形成前の測定で検出された欠陥の欠陥数、窒化膜形成後の測定で窒化膜形成前の測定時と同様の位置に検出された欠陥の欠陥数、窒化膜形成前の測定時に検出されたが窒化膜形成後の測定では同様の位置には検出されなかった欠陥の欠陥数、窒化膜形成後の測定で新たに検出された欠陥の欠陥数など、欠陥数に関する種々のデータを取得することができる。
【0041】
なお、ステップS2の検出工程において、表面検査装置による検出時の測定感度を19nmより高感度とすることが好ましい。このような測定感度とすれば、一般的な表面検査装置の測定感度の19nmでは検出できない小さな突起部のサイズを検出でき、この検出された突起部のサイズを元に、より小さな突起状欠陥のサイズを推定することで測定できる。
【0042】
さらに、シリコン窒化膜形成前の突起状欠陥のサイズを10.6nm未満とすることが好ましい。このような10.6nm未満の突起状欠陥は、最新のパーティクルカウンターの最小感度である10.6nmよりも小さいので、従来の方法では突起状欠陥のサイズを測定できなかったが、本発明の実施形態においては、より小さな突起状欠陥のサイズでも推定して測定できる。
【0043】
<ステップS3:欠陥サイズ推定工程>
ステップS3は、ステップS2の検出工程で検出された突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、シリコン窒化膜形成前の突起状欠陥のサイズを推定する工程である。
【0044】
予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係は、予め別の基板で検出したシリコン窒化膜形成前後の検出サイズの変化量を元に設定されることが好ましい。
【0045】
適切な膜厚の範囲(1~4nm)においてシリコン窒化膜形成前後の検出サイズには相関があり、また膜厚が大きいほどシリコン窒化膜形成後の検出サイズは拡大する(つまり、拡大量が大きくなる)。よって、予め別の基板で求めたシリコン窒化膜形成前後の検出サイズの変化量を元に、膜厚と検出サイズの拡大量の関係を設定することは容易である。従って、シリコン窒化膜形成後に検出された突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、シリコン窒化膜形成前の突起状欠陥のサイズを容易に推定することができる。
【0046】
次に、上記の欠陥検査方法の一例に基づいて小さな突起状欠陥のサイズを推定し、従来の方法による推定結果との比較を試みる。
【0047】
まず、従来の方法として、特許文献1では、パーティクルを拡大するための数十nmの厚さの窒化膜を形成していた。これに倣い、図2に、50nm厚さの窒化膜を750℃で形成した一例を示す。ここで図2は、膜厚50nmのシリコン窒化膜形成前後のLPDマップであり、図2(a)は窒化前のパーティクルを検出感度15nmで測定した結果、図2(b)は窒化後のパーティクルを検出感度19nmで測定した結果である。
【0048】
この場合、窒化膜の形成によるパーティクルのサイズの拡大が進み、窒化後の検出感度19nmの測定では窒化前の検出感度15nmで検出された欠陥以外に、新たに欠陥が検出された。すなわち、窒化膜の形成でより小さな欠陥が検出されている。
【0049】
一方、窒化膜の形成を行うと、パーティクルサイズは増すが、同時にヘイズも悪くなり、50nmの成膜を行うと、成膜後の最小サイズの検出感度は19nmになった。検出感度18nmでの測定はヘイズの影響でパーティクル測定ができなかった。
【0050】
上記実験の結果、50nmの窒化膜の形成でサイズが19nmまで拡大するのは元のサイズが約12nmのパーティクルであることが分かった。つまり窒化前に12nm以下のパーティクルは50nmの窒化膜の形成を行ってもサイズが19nm以上に拡大しないので、最高感度が19nmのパーティクルカウンターでは窒化後に検出されないという事になる。
【0051】
最近のパーティクルカウンターの最高感度は10nm程度であるので、12nmよりも小さな欠陥は、最新のパーティクルカウンターでは窒化膜を形成しなくても測れ、窒化膜の形成を行うと、ヘイズの影響により逆に測れなくなってしまうという事になる。
【0052】
図3は、膜厚50nmのシリコン窒化膜形成前後のLPDマップである。図3(a)は窒化前の検出感度12.5nmの測定結果、図3(b)は窒化前の検出感度10.6nmの測定結果、図3(c)は窒化後の検出感度19nmの測定結果である。
【0053】
窒化膜の形成前後の欠陥数を比較すると、50nmの窒化膜形成後の検出感度19nmよりも窒化膜形成前の検出感度10.6nmの方の欠陥数が遙かに多い。また、窒化膜形成前の検出感度12.5nmと窒化膜形成後の検出感度19nmの比較では、窒化膜形成前の検出感度12.5nmの方の欠陥数がやや少ない程度の差なので、窒化膜形成前の検出感度12nm程度が窒化膜形成後の検出感度19nmに相当すると推定した。
【0054】
窒化膜形成後のパーティクルの検出感度を上げるには、窒化膜形成で欠陥をより大きくするとともに、窒化によるヘイズの悪化を抑える必要がある。そこで、これを実現する方法について鋭意検討を重ねた結果、窒化膜の膜厚を薄くすることで、上記課題を達成できることが分かった。具体的には、膜厚を1nm~4nmとすることが必要である。
【0055】
なお、窒化膜の形成温度を下げることがより好ましいとわかった。具体的には、窒化膜形成温度を500℃~580℃とすることよりが好ましい。
【実施例
【0056】
以下、本発明の実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1、比較例1)
直径300mmの基板に窒化膜厚さ50nm、窒化膜形成温度750℃で窒化膜を形成した場合(比較例1)と窒化膜厚さ4nm、窒化膜形成温度630℃で窒化膜を形成した場合(実施例1)の、窒化膜形成による欠陥の検出感度の違いを比較した。
【0058】
パーティクルカウンターはKLA-Tencor社製のSP7xp(最高感度は10.6nm)。窒化膜はSiHClとNHからSi膜を形成した。窒化膜形成前のSP7xpの測定感度は10.6nmとした。
【0059】
以下に窒化膜形成前後の欠陥マップの比較を示す。図4は膜厚と測定感度の違いを比較したLPDマップである。上段が比較例1、下段が実施例1であり、横方向には窒化前か窒化後かと、それぞれの検出感度(測定感度ともいう)の違いによる結果を示す。
【0060】
(比較例1)
50nmの窒化膜形成では、窒化膜形成前の検出感度10.6nmの結果に対して、窒化膜形成後の検出感度19nmの方の欠陥数が少なくなっており、窒化膜の形成を行うことで検出感度が低下している。
【0061】
また窒化膜形成後の測定を15nmの検出感度で行うと、窒化膜形成によるヘイズ悪化の為、オーバーフローして測定できなかった。
【0062】
(実施例1)
膜厚を4nmに薄くする(窒化膜形成温度は630℃)と、窒化後に15nmの測定感度まで測れるようになり、同時に基板の紙面の6時方向(下方向)の位置の近傍に新たに欠陥の流れ模様が見えている。
【0063】
4nmの窒化膜では、検出感度13nmの測定はヘイズ悪化によるオーバーフローで測定ができなかった。薄い窒化膜形成でも、基板表面のヘイズは悪くなるため、窒化膜の成膜前に測定できた検出感度10.6nmの高感度測定はできなかった。
【0064】
検出感度15nmで発生した紙面の6時方向(下方向)の欠陥の流れ模様について、この基板は、基板搬送用BOXのくし部分からの汚染を受けた基板であり、汚染の影響によりサイズが10.6nm以下の微小パーティクルが付着し、その後の窒化膜形成で突起部のサイズが大きくなり検出可能となったと考えられる。つまり、必要条件である窒化膜厚を薄くすることで、ヘイズの悪化を抑え、最高感度が10.6nmのような高感度のパーティクルカウンターで測定した場合でも、窒化膜形成により10.6nmよりも高感度な測定が可能(即ち、より小さな突起状欠陥のサイズを推定可能)であることが分かった。
【0065】
次に窒化膜の形成で、パーティクルサイズがどのように変化するのかについて説明する。今回、窒化膜形成前に検出されなった欠陥が、窒化膜形成後に検出されることで、高感度測定を実現しているが、窒化膜形成後の検出サイズから窒化膜形成前の元のサイズを想定する手法を示す。
【0066】
以下に窒化膜形成前後で検出されたパーティクルの位置を比較した。図5は、膜厚4nmのシリコン窒化膜形成前後のLPDマップである。図5は窒化膜を形成する前に測定感度10.6nmで測定した場合と、580℃で4nmの窒化膜を形成した後に測定感度14nmで測定した場合の結果であるが、窒化膜形成で新たに検出されるようになった欠陥が大量にあることが分かる。
【0067】
図中、三角で示した点は窒化膜の成膜前後の共通にみられる欠陥である。この欠陥について窒化膜形成前後のサイズ変化を調べると図6のようになった。図6は、膜厚4nmのシリコン窒化膜形成前後の欠陥サイズ変化グラフである。平均で5.9nmのサイズ上昇がみられた。ただしすべてが5.9nm大きくなったわけではなく、10nm以上大きくなったものもあれば、さほど変わらなかった欠陥もあったが、この関係を用いておおよその元のサイズを推定することが可能となる。
【0068】
この時の窒化後のパーティクルサイズ分布を図7に示す。図5の欠陥マップ上に□記号で示された、窒化膜形成前にはなく窒化膜形成後に発生した欠陥は、14nm台の欠陥が多く、図7でも14nmが多いとわかる。窒化前は検出感度10.6nmで測定して未検出であったこと、平均サイズで5.9nm程度大きくなっていたことを考えると、窒化膜形成前におおよそ9~10.6nmのサイズだった欠陥が、窒化膜によるサイズ拡大で14nmまで大きくなったものと推定できる。
【0069】
(比較例2)
次に610℃で6nm、600℃で9.5nmの窒化膜形成前後で、どのような欠陥サイズ変化が起きたのかを図8に示す。図8(a)は膜厚6nmの窒化膜形成で平均7.4nmのサイズアップ、図8(b)は膜厚9.5nmの窒化膜形成で平均14nmのサイズアップが期待できる結果となったが、個々のサイズアップ量のばらつきが大きく、窒化膜形成後の検出サイズから、窒化膜形成前の元のサイズを推定するのは難しいという事が分かった。(このときの窒化膜形成後のSP7xpの測定感度は15nmである。)
【0070】
(比較例3)
次に膜厚が0.4nmの薄い窒化膜を形成した場合のサイズ変化の様子を図9に示す。500℃で膜厚0.4nm厚の窒化膜の形成(膜厚1.2nmを形成したときより短い時間で窒化膜を形成)では窒化膜形成前後にサイズ変化が見られなかった。このとき、窒化膜形成後でも測定感度10.6nmupの測定が可能であったが、サイズが大きくならないので、窒化膜を形成しても高感度化は期待できないという結果となった。
【0071】
(実施例2)
そこで、比較例2と比較例3の中間である膜厚1.2nmの窒化膜の形成を500℃で行ったところ、窒化膜形成後でも測定感度10.6nmでの測定ができ、かつ図10のLPDマップに示すように新たな欠陥が検出され、図11の欠陥サイズ変化グラフに示すように窒化膜形成により1.5nm拡大すると推定され、しかもサイズアップ量のばらつきが小さいことがわかった。よって、新たに発生した欠陥の元のサイズは9~10.6nmであると推定することができる。図12は膜厚1.2nmのシリコン窒化膜形成後のパーティクルサイズ分布を示すグラフであり、小さなサイズの個数が多く見られる。
【0072】
以上の、実施例1、2、比較例2、3で示した例の膜厚、窒化膜形成前のSP7測定サイズ、窒化膜形成後のSP7測定サイズ、サイズアップ量をまとめ、表1に膜厚の小さい順に並べた。またそれぞれの条件で、窒化前のサイズを推定した。
【0073】
【表1】
【0074】
このうち、膜厚0.4nm(比較例3)は、サイズアップ量のばらつきは小さいものの、10.6nm未満の突起状欠陥のサイズを推定できない。膜厚6nm、9.5nm(いずれも比較例2)は、サイズアップ量のばらつきが大きいため、窒化前サイズを推定しようと計算したとしても精度が悪く、10.6nm未満の突起状欠陥のサイズを正しく推定することはできない。
【0075】
サイズアップ量のばらつきが小さく、10.6nm未満の突起状欠陥のサイズを推定できるのは、膜厚1.2nm(実施例2)、4nm(実施例1)である。また、それぞれの窒化前サイズの推定値は、9.1nm、8.1nmであり、最新のパーティクルカウンターの最小感度(10.6nm)よりも小さな突起状欠陥のサイズを推定できるとわかった。上記表1はこれらの実施例1、2及び比較例1~3の結果をまとめたものである。
【0076】
さらに、膜厚4nmの窒化膜形成で5.9nmのサイズアップ(実施例1)、膜厚1.2nmの窒化膜形成で1.5nmのサイズアップ(実施例2)が実現できる。これを、前述の特許文献1の、膜厚≧(検査装置検出感度-欠陥サイズ)×安全率の式において安全率=100%とした場合にあてはめると、実施例1の検査装置検出感度14nm、元の欠陥サイズ8.1nmのケースでは窒化膜厚>5.9nmとする必要があり、実際の実施例1の膜厚4nmが含まれない。同様に、実施例2の検査装置検出感度10.6nm、元の欠陥サイズ9.1nmのケースでは窒化膜厚>1.5nmとする必要があり、実際の実施例2の膜厚1.2nmが含まれない。即ち、特許文献1の範囲には、本実施例1、2が含まれない。
【0077】
このように本発明は突起状欠陥を検査する際に、特許文献1の範囲とは異なる、より薄いシリコン窒化膜(膜厚1~4nm)を形成することにより、ラフネスの悪化や粗さ起因のヘイズの悪化によるばらつきを抑制することができ、最新のパーティクルカウンターの最小感度(10.6nm)よりも小さな突起状欠陥のサイズを推定できる。
【0078】
本発明は以下の態様を包含する。
[1]:
基板の表面に存在する突起状欠陥の検出サイズを拡大させるために、前記基板上に膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成するシリコン窒化膜形成工程と、
前記シリコン窒化膜形成工程後、前記突起状欠陥上の前記シリコン窒化膜の表面に拡大形成された突起部のサイズを表面検査装置で検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された前記突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを推定する欠陥サイズ推定工程と、
を含むことを特徴とする欠陥検査方法。
[2]:
前記シリコン窒化膜形成工程において、前記シリコン窒化膜の形成温度を500℃以上580℃以下とすることを特徴とする上記[1]に記載の欠陥検査方法。
[3]:
前記予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係は、予め別の基板で検出したシリコン窒化膜形成前後の検出サイズの変化量を元に設定されることを特徴とする上記[1]または上記[2]に記載の欠陥検査方法。
[4]:
前記検出工程において、前記表面検査装置による検出時の測定感度を19nmより高感度とすることを特徴とする上記[1]から上記[3]のいずれかに記載の欠陥検査方法。
[5]:
前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを10.6nm未満とすることを特徴とする上記[1]から上記[4]のいずれかに記載の欠陥検査方法。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0080】
S1、S2、S3…ステップ。
【要約】
【課題】より小さな突起状欠陥のサイズを推定できる欠陥検査方法を提供する。
【解決手段】基板の表面に存在する突起状欠陥の検出サイズを拡大させるために、前記基板上に膜厚1~4nmのシリコン窒化膜を形成するシリコン窒化膜形成工程と、前記シリコン窒化膜形成工程後、前記突起状欠陥上の前記シリコン窒化膜の表面に拡大形成された突起部のサイズを表面検査装置で検出する検出工程と、前記検出工程で検出された前記突起部のサイズと、予め設定されたシリコン窒化膜の膜厚と検出サイズの拡大量の関係から、前記シリコン窒化膜形成前の前記突起状欠陥のサイズを推定する欠陥サイズ推定工程と、を含むことを特徴とする欠陥検査方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12