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特許7571902SiC単結晶、SiC種結晶及びSiCインゴットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】SiC単結晶、SiC種結晶及びSiCインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241016BHJP
   C30B 23/06 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024002798
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2018152318の分割
【原出願日】2018-08-13
(65)【公開番号】P2024032023
(43)【公開日】2024-03-08
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】鷹羽 秀隆
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-111372(JP,A)
【文献】特開2015-117143(JP,A)
【文献】特開2004-269297(JP,A)
【文献】特開2020-26374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を備え、前記主面はカーボン面、又は、カーボン面から10°以下のオフ角を有し、原子配列面の湾曲量の最大値が20μm以上のSiC単結晶であり、
前記SiC単結晶の反り量と前記原子配列面の湾曲量との差分の絶対値が、10μm以下であり、
他の部材に貼り付けられていない、SiC単結晶。
【請求項2】
厚みが5mm以下である、請求項1に記載のSiC単結晶。
【請求項3】
インゴット状である、請求項1又は2に記載のSiC単結晶。
【請求項4】
原子配列面の湾曲量の最大値が20μm以上のSiC種結晶であり、
前記SiC種結晶の反り量と前記原子配列面の湾曲量との差分の絶対値が、10μm以下であり、
他の部材に貼り付けられていない、SiC種結晶。
【請求項5】
厚みが5mm以下である、請求項4に記載のSiC種結晶。
【請求項6】
主面を備え、前記主面はカーボン面、又は、カーボン面から10°以下のオフ角を有する、請求項4又は5に記載のSiC種結晶。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載のSiC種結晶を用いて、結晶成長を行う、SiCインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶、SiC種結晶及びSiCインゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって設けられたエピタキシャル膜が、SiC半導体デバイスの活性領域となる。
【0004】
そのため、割れ等の破損が無く、欠陥の少ない、高品質なSiCウェハが求められている。なお、本明細書において、SiCエピタキシャルウェハはエピタキシャル膜を形成後のウェハを意味し、SiCウェハはエピタキシャル膜を形成前のウェハを意味する。
【0005】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、種結晶として使用されるSiC単結晶の外形の反り及びうねりを制御することで、この種結晶を起点に得られたSiCインゴット及びSiCウェハが高品質になることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-117143号公報
【文献】特許第4494856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SiCウェハのキラー欠陥の一つとして、基底面転位(BPD)がある。SiCウェハのBPDの一部はSiCエピタキシャルウェハにも引き継がれ、デバイスの順方向に電流を流した際の順方向特性の低下の要因となる。BPDは、基底面において生じるすべりが発生の原因の一つであると考えられている欠陥である。
【0008】
BPDは、特許文献1及び2に記載のように、種結晶として使用されるSiC単結晶の外形の反り及びうねりを制御しても十分抑制することができない。そのため、BPDの低減が求められている。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、結晶成長時において原子配列面の湾曲を低減できるSiC単結晶の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、SiC単結晶の原子配列面(格子面)の湾曲量と、基底面転位(BPD)密度との間に、相関関係があることを見出した。そこで、種結晶裏面を原子配列面の湾曲に沿う形状に加工し、平坦な坩堝の貼付面に貼り付けることで、結晶成長時の原子配列面を平坦化できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかるSiC単結晶の加工方法は、SiC単結晶の原子配列面の形状を少なくとも平面視中央を通る第1の方向と前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って測定する測定工程と、測定結果を基に、前記SiC単結晶の少なくとも第1面を前記原子配列面に沿って加工する加工工程と、前記第1面を貼り付け面として、前記SiC単結晶を設置面に貼りつける貼付工程と、を有する。
【0012】
(2)上記態様にかかるSiC単結晶の加工方法における前記加工工程は、前記SiC単結晶を前記原子配列面の湾曲方向と反対方向に湾曲する湾曲面を有するスペーサに貼りつけ、前記原子配列面を平坦化する平坦化工程と、平坦化した前記原子配列面に沿って前記SiC単結晶を切断又は研削する面出し工程と、を有してもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかるSiC単結晶の加工方法における前記加工工程は、前記SiC単結晶を前記原子配列面の湾曲量に応じて吸着力の異なる吸着面に真空吸着し、前記原子配列面を平坦化する真空吸着工程と、平坦化した前記原子配列面に沿って前記SiC単結晶を切断又は研削する面出し工程と、を有してもよい。
【0014】
(4)上記態様にかかるSiC単結晶の加工方法における前記加工工程は、前記SiC単結晶を前記原子配列面に対応する形状の電極に近づけ、放電により前記SiC単結晶の前記第1面を加工する放電加工工程を有してもよい。
【0015】
(5)上記態様にかかるSiC単結晶の加工方法において、前記貼付工程を行う際の前記SiC単結晶の厚みが5mm以下であってもよい。
【0016】
(6)上記態様にかかるSiC単結晶の加工方法の前記貼付工程において、前記第1面が前記設置面に向って凸に湾曲する場合は、前記SiC単結晶の外周側の荷重を内側より強くし、前記第1面が前記設置面に向って凹に湾曲する場合は、前記SiC単結晶の内側の荷重を外周側より強くしてもよい。
【0017】
(7)上記態様にかかるSiC単結晶の加工方法は、前記貼付工程中に前記SiC単結晶の周囲を減圧する減圧工程をさらに有してもよい。
【0018】
(8)第2の態様にかかるSiCインゴットの製造方法は、上記態様にかかるSiC単結晶の加工方法において、前記設置面に貼り付けられた前記SiC単結晶を種結晶として結晶成長を行う。
【0019】
(9)第3の態様にかかるSiC単結晶は、原子配列面の湾曲量の最大値が20μm以上のSiC単結晶であり、前記SiC単結晶の反り量と前記原子配列面の湾曲量との差分の絶対値が、10μm以下である。
【発明の効果】
【0020】
上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法を用いると、結晶成長時の原子配列面を平坦化でき、基底面転位(BPD)の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】SiC単結晶を平面視中心を通る第1の方向に延在する直線に沿って切断した切断面の模式図である。
図2】SiC単結晶の原子配列面の一例を模式的に示した図である。
図3】SiC単結晶の原子配列面の別の例を模式的に示した図である。
図4】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
図5】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
図6】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
図7】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
図8】複数のXRDの測定点から原子配列面の曲率半径を求めた例を示す。
図9】原子配列面の形状の測定方法の別の例を具体的に説明するための図である。
図10】原子配列面の形状の測定方法の別の例を具体的に説明するための図である。
図11】第1の加工方法を説明するための模式図である。
図12】吸着面を平面視した模式図である。
図13】第3の加工方法を説明するための模式図である。
図14】貼付工程を説明するための模式図である。
図15】昇華法に用いられる製造装置の一例の模式図である。
図16】SiC単結晶の原子配列面の曲率半径と、BPD密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
「SiC単結晶の加工方法」
本実施形態にかかるSiC単結晶の加工方法は、測定工程と、加工工程と、貼付工程とを有する。測定工程では、SiC単結晶の原子配列面の形状を、少なくとも平面視中央を通る第1の方向と、第1の方向と直交する第2の方向とに沿って測定する。また加工工程では、測定結果を基に、SiC単結晶の少なくとも第1面を原子配列面に沿って加工する。さらに貼付工程では、SiC単結晶の第1面を貼り付け面として、SiC単結晶を設置面に貼りつける。以下、各工程について具体的に説明する。
【0024】
<測定工程>
図1は、SiC単結晶1を平面視中心を通る第1の方向に延在する直線に沿って切断した切断面の模式図である。第1の方向は、任意の方向を設定できる。図1では、第1の方向を[1-100]としている。図1において上側は[000-1]方向、すなわち<0001>方向に垂直に切断をした時にカーボン面(C面、(000-1)面)が現れる方向である。以下、第1の方向を[1-100]とした場合を例に説明する。
【0025】
ここで結晶方位及び面は、ミラー指数として以下の括弧を用いて表記される。()と{}は面を表す時に用いられる。()は特定の面を表現する際に用いられ、{}は結晶の対称性による等価な面の総称(集合面)を表現する際に用いられる。一方で、<>と[]は方向を表す特に用いられる。[]は特定の方向を表現する際に用いられ、<>は結晶の対称性による等価な方向を表現する際に用いられる。
【0026】
図1に示すように、SiC単結晶1は、複数の原子Aが整列してなる単結晶である。そのため図1に示すように、SiC単結晶の切断面をミクロに見ると、複数の原子Aが配列した原子配列面2が形成されている。切断面における原子配列面2は、切断面に沿って配列する原子Aを繋いで得られる切断方向と略平行な方向に延在する線として表記される。
【0027】
原子配列面2の形状は、SiC単結晶1の最表面の形状によらず、切断面の方向によって異なる場合がある。図2及び図3は、原子配列面2の形状を模式的に示した図である。図2に示す原子配列面2は、中心に向かって凹形状である。そのため、図2に示す原子配列面2は、[1-100]方向と、[1-100]方向に直交する[11-20]方向とで湾曲方向が一致する。これに対し図3に示す原子配列面2は、所定の切断面では凹形状、異なる切断面では凸形状のポテトチップス型(鞍型)の形状である。そのため、図3に示す原子配列面2は、[1-100]方向と、[1-100]方向に直交する[11-20]方向とで湾曲方向が異なる。
【0028】
つまり、原子配列面2の形状を正確に把握するためには、少なくとも平面視中央を通り互いに直交する2方向(第1の方向及び第2の方向)に沿って、SiC単結晶の原子配列面2の形状を測定する必要がある。またSiC単結晶1の結晶構造は六方晶であり、中心に対して対称な六方向に沿って原子配列面2の形状を測定することが好ましい。中心に対して対称な六方向に沿って原子配列面2の形状を計測すれば、原子配列面2の形状をより精密に求めることができる。
【0029】
原子配列面2の形状はX線回折(XRD)により測定できる。測定する面は測定する方向に応じて決定される。測定方向を[hkil]とすると、測定面は(mh mk mi n)の関係を満たす必要がある。ここで、mは0以上の整数であり、nは自然数である。例えば、[11-20]方向に測定する場合は、m=0、n=4として(0004)面、m=2、n=16として(22-416)面等が選択される。一方で、[11-20]方向に測定する場合は、m=0、n=4として(0004)面、m=3、n=16として(3-3016)面等が選択される。すなわち測定面は、測定方向によって異なる面であってもよく、測定される原子配列面2は必ずしも同じ面とはならなくてもよい。上記関係を満たすことで、結晶成長時に及ぼす影響の少ないa面又はm面方向の格子湾曲をc面方向の格子湾曲と誤認することを防ぐことができる。また測定はC面、Si面のいずれの面を選択してもよいが、坩堝の設置面に貼りつける貼付面(第1面)に対して行う。
【0030】
X線回折データは、所定の方向に沿って中心、端部、中心と端部との中点の5点において取得する。原子配列面2が湾曲している場合、X線の反射方向が変わるため、中心とそれ以外の部分とで出力されるX線回折像のピークのω角の位置が変動する。この回折ピークの位置変動から原子配列面2の湾曲方向を求めることができる。また回折ピークの位置変動から原子配列面2の曲率半径も求めることができ、原子配列面2の湾曲量も求めることができる。そして、原子配列面2の湾曲方向及び湾曲量から原子配列面2の形状を求めることができる。
【0031】
(原子配列面の形状の測定方法(方法1)の具体的な説明)
SiC単結晶をスライスした試料(以下、ウェハ20と言う)の外周端部分のXRDの測定値から原子配列面の湾曲方向及び湾曲量を測定する方法について具体的に説明する。一例としてウェハ20を用いて測定方法を説明するが、スライスする前のインゴット状のSiC単結晶においても同様の方法を用いて測定できる。
【0032】
図4に平面視中心を通り原子配列面の測定の方向、例えば[1-100]方向に沿って切断した切断面を模式的に示す。ウェハ20の半径をrとすると、断面の横方向の長さは2rとなる。また図4にウェハ20における原子配列面22の形状も図示している。図4に示すように、ウェハ20自体の形状は平坦であるが、原子配列面22は湾曲している場合がある。図4に示す原子配列面22は左右対称であり、凹型に湾曲している。この対称性は、SiC単結晶(インゴット)の製造条件が通常中心に対して対称性があることに起因する。なお、この対称性とは、完全対称である必要はなく、製造条件の揺らぎ等に起因したブレを容認する近似としての対称性を意味する。
【0033】
次いで、図5に示すように、XRDをウェハ20の両外周端部に対して行い、測定した2点間のX線回折ピーク角度の差Δθを求める。このΔθが測定した2点の原子配列面22の傾きの差になっている。X線回折測定に用いる回折面は、上述のように切断面にあわせて適切な面を選択する。
【0034】
次に、図6に示すように、得られたΔθから湾曲した原子配列面22の曲率半径を求める。図6には、ウェハ20の原子配列面22の曲面が円の一部であると仮定して、測定した2箇所の原子配列面に接する円Cを示している。図6から幾何学的に、接点を両端とする円弧を含む扇型の中心角φは、測定したX線回折ピーク角度の差Δθと等しくなる。原子配列面22の曲率半径は、当該円弧の半径Rに対応する。円弧の半径Rは以下の関係式で求められる。
【0035】
【数1】
【0036】
そして、この円弧の半径Rとウェハ20の半径rとから、原子配列面22の湾曲量dが求められる。図7に示すように、原子配列面22の湾曲量dは、円弧の半径から、円弧の中心からウェハ20に下した垂線の距離を引いたものに対応する。円弧の中心からウェハ20に下した垂線の距離は、三平方の定理から算出され、以下の式が成り立つ。なお、本明細書では曲率半径が正(凹面)の場合の湾曲量dを正の値とし、負(凸面)の場合の湾曲量dを負の値と定義する。
【0037】
【数2】
【0038】
上述のように、XRDのウェハ20の両外側端部の測定値だけからRを測定することもできる。一方で、この方法を用いると、測定箇所に局所的な歪等が存在した場合において、形状を見誤る可能性もある。その為、複数箇所でX線回折ピーク角度の測定を行って、単位長さ辺りの曲率を以下の式から換算する。
【0039】
【数3】
【0040】
図8に、複数のXRDの測定点から原子配列面の曲率半径を求めた例を示す。図8の横軸はウェハ中心からの相対位置であり、縦軸はウェハ中心回折ピーク角に対する各測定点の相対的な回折ピーク角度を示す。図8は、ウェハの[1-100]方向を測定し、測定面を(3-3016)とした例である。測定箇所は5カ所で行った。5点はほぼ直線に並んでおり、この傾きから、dθ/dr=8.69×10-4deg/mmが求められる。この結果を上式に適用することでR=66mの凹面であることが計算できる。そして、このRとウェハの半径r(75mm)から、原子配列面の湾曲量dが42.6μmと求まる。
【0041】
ここまで原子配列面の形状が凹面である例で説明したが、凸面の場合も同様に求められる。凸面の場合は、Rはマイナスとして算出される。
【0042】
(原子配列面の形状の別の測定方法(方法2)の説明)
原子配列面の形状は、別の方法で求めてもよい。図9に平面視中心を通り原子配列面の測定の方向、例えば[1-100]方向に沿って切断した切断面を模式的に示す。図9では、原子配列面22の形状が凹状に湾曲している場合を例に説明する。
【0043】
図9に示すように、ウェハ20の中心とウェハ20の中心から距離xだけ離れた場所の2箇所で、X線回折の回折ピークを測定する。インゴットの製造条件の対称性からウェハ20の形状は、近似として左右対称とすることができ、原子配列面22はウェハ20の中央部で平坦になると仮定できる。そのため、図10に示すように測定した2点における原子配列面22の傾きの差をΔθとすると、原子配列面22の相対的な位置yは以下の式で表記できる。
【0044】
【数4】
【0045】
中心からの距離xの位置を変えて複数箇所の測定をすることで、それぞれの点でウェハ中心と測定点とにおける原子配列面22の相対的な原子位置を求めることができる。
この方法は、それぞれの測定箇所で原子配列面における原子の相対位置が求められる。そのため、局所的な原子配列面の湾曲量を求めることができる。また、ウェハ20全体における原子配列面22の相対的な原子位置をグラフとして示すことができ、原子配列面22のならびを感覚的に把握するために有益である。
【0046】
ここでは、測定対象をウェハ20の場合を例に説明した。測定対象がSiCインゴットやSiCインゴットから切断された切断体の場合も、同様に原子配列面の湾曲量を求めることができる。
【0047】
上述の手順で、少なくとも平面視中央を通り互いに直交する2方向(第1の方向及び第2の方向)に沿って、SiC単結晶の原子配列面2の湾曲量を測定する。それぞれの方向の湾曲量及び湾曲方向を求めることで、図2及び図3に示すような原子配列面2の概略形状を求めることができる。
【0048】
<加工工程>
加工工程では、測定工程の測定結果を基に、SiC単結晶1の貼付面(第1面)を原子配列面2に沿って加工する。加工方法については特に限定するものではないが、例えば以下の3つの方法を用いることができる。
【0049】
(第1の加工方法)
第1の加工方法は、SiC単結晶を原子配列面の湾曲方向と反対方向に湾曲する湾曲面を有するスペーサに貼りつけ、原子配列面2を平坦化する平坦化工程と、平坦化した原子配列面2に沿ってSiC単結晶を切断又は研削する面出し工程と、を有する。第1の加工方法を用いる場合は、SiC単結晶の厚みは弾性変形可能な5mm以下とすることが好ましい。
【0050】
図11は、第1の加工方法を説明するための模式図である。図11(a)に示すように、スペーサ30と、支持台31とを準備する。スペーサ30の第1面30Aは平坦面であり、第2面30Bは原子配列面2の湾曲方向と反対方向に湾曲する湾曲面である。
【0051】
スペーサ30の第2面30Bは、SiC単結晶1の原子配列面2の形状を測定してから加工してもよいし、予め事前に湾曲方向及び湾曲量の異なる複数のスペーサを準備しておき、それらの中から貼付後に原子配列面2を最も平坦化できるものを選択してもよい。
【0052】
スペーサ30および支持台31には、ガラス、セラミックス等を用いることができる。加工性の観点からは、セラミックスを用いてスペーサ30を作製することが好ましい。支持台31は、表面の平坦性に優れ、剛性を有するものを用いることが好ましい。
【0053】
次いで、図11(b)に示すように、支持台31上にスペーサ30を設置し、スペーサ30の第2面30BにSiC単結晶1を貼りあわせる。SiC単結晶1は、原子配列面2の湾曲方向が第2面30Bの湾曲方向と反対となるように貼りあわせる。貼りあわせは、例えば、接着剤を用いて行う。接着剤は、精密加工の際に通常使用される熱可塑性樹脂系の固形ワックスを使用することができ、接着力の強いものを選択することが好ましい。接着剤によりSiC単結晶に弾性変形を与えた状態で支持台31に固定しても、変形した状態で固定できる。
【0054】
スペーサ30に貼りあわせた後のSiC単結晶1の原子配列面2は、貼りあわせ前の原子配列面2と比較して平坦化する。スペーサ30に貼りあわせ後の原子配列面2は、支持台31の表面と平行になっていることが最も好ましい。
【0055】
次いで、図11(c)に示すように、SiC単結晶1を切断する。切断面は、支持台31の表面と平行にする。原子配列面2は、支持台31の表面に対して平坦化されているため、支持台31の表面と平行に切断すると、必然的に平坦化した原子配列面2に沿ってSiC単結晶1が切断される。切断には、例えば、ワイヤーソー等を用いることができる。また面出し工程では切断以外の方法で、原子配列面2の面出しを行ってもよい。切断以外の方法としては、例えば、SiC単結晶1を支持台31と反対側の面から研削してもよい。
【0056】
上述の過程を経ることで、図11(d)に示すように、切断後には第1面10Aが原子配列面2に沿うSiC単結晶10が得られる。
【0057】
(第2の加工方法)
第2の加工方法は、SiC単結晶1を原子配列面2の湾曲量に応じて吸着力の異なる吸着面に真空吸着し、原子配列面2を平坦化する真空吸着工程と、平坦化した原子配列面2に沿ってSiC単結晶を切断又は研削する面出し工程と、を有する。第2の加工方法は、スペーサ30を用いずに、吸着力の強度差によって原子配列面2を平坦化している点が、第1の加工方法と異なる。その他の加工手順は同じであり、説明を省く。第2の加工方法を用いる場合においても、SiC単結晶の厚みは弾性変形可能な5mm以下とすることが好ましい。
【0058】
図12は、吸着面40を平面視した模式図である。吸着面40は、複数の吸着穴41を備える。第2の加工方法は、これらの吸着穴41の吸着力の違いにより原子配列面2を平坦化する。
【0059】
例えば、図2に示すように、SiC単結晶1の原子配列面2が中心に向かって凹形状の場合は、吸着穴41Iの吸着力を他の吸着穴41A~41Hの吸着力より小さくする。すると、原子配列面2の外周側が内側より相対的に強く吸着し、原子配列面2が平坦化する。また例えば、図3に示すように、SiC単結晶1の原子配列面2が、[1-100]方向と[11-20]方向とで湾曲方向が異なる鞍型の場合は、[11-20]方向の中心軸から離れた位置の吸着穴41ほど吸着力を大きくする。すなわち、吸着穴41G,41I,41Cの吸着力を吸着穴41H,41B,41F,41Dより小さくし、吸着穴41H,41B,41F,41Dの吸着力を吸着穴41A,41Eより小さくする。
【0060】
上述のように、吸着穴41の吸着力の違いを用いると、原子配列面2を平坦化できる。そして原子配列面2が平坦化したSiC単結晶1を、図11(c)及び図11(d)と同様に、設置面と平行に切断する。上述の過程を経ることで、第1面10Aが原子配列面2に沿ったSiC単結晶10が得られる。
【0061】
(第3の加工方法)
第3の加工方法は、SiC単結晶1を原子配列面2に対応する形状の電極に近づけ、放電によりSiC単結晶1の第1面1Aを加工する放電加工工程を有する。第3の加工方法を用いる場合は、第1の加工方法及び第2の加工方法と異なり、SiC単結晶1の厚みは問わない。
【0062】
図13は、第3の加工方法を説明するための模式図である。図13(a)に示すように、電極50を準備する。図13(a)に示す電極50のSiC単結晶1と対向する第1面50Aは原子配列面2に沿って加工された湾曲面である。
【0063】
電極50の第1面50Aは、SiC単結晶1の原子配列面2の形状を測定してから加工してもよいし、予め事前に湾曲方向及び湾曲量の異なる複数の電極を準備しておき、それらの中から原子配列面2の形状に最も近いものを選択してもよい。
【0064】
次いで、電極50の第1面50AをSiC単結晶1と対向させた状態で、電極50をSiC単結晶1に近づける。電極50とSiC単結晶1との距離が近いほど強く放電するため、電極50の第1面50Aの形状に沿ってSiC単結晶1の第1面1Aが蒸発する。その結果、図13(b)に示すように、第1面10Aが原子配列面2に沿ったSiC単結晶10が得られる。
【0065】
<貼付工程>
図14は、貼付工程を説明するための模式図である。図14(a)に示すように、貼付工程では、加工により得られたSiC単結晶10の第1面10Aを貼り付け面として、SiC単結晶10を設置台60の設置面60Aに貼りつける。設置台60は、例えば、坩堝の単結晶設置部に対応する。
【0066】
貼付工程を行う際のSiC単結晶10の厚みは5mm以下であることが好ましい。SiC単結晶10の厚みが厚いと、貼付時にたわみが生じにくいため、台座に対して平坦に貼り付けにくくなり、SiC単結晶の原子配列面(格子面)を平坦に配置しにくい場合がある。
【0067】
また貼付工程において、設置面60Aに対してSiC単結晶10を押し付ける荷重は、第1面10Aの設置面60Aに対する湾曲量に応じて変えることが好ましい。例えば、SiC単結晶10の第1面10Aが設置面60Aに向って凸に湾曲する場合は、SiC単結晶1の外周側の荷重を内側より強くすることが好ましい。またSiC単結晶10の第1面10Aが設置面60Aに向って凹に湾曲する場合は、SiC単結晶10の内側の荷重を外周側より強くすることが好ましい。
【0068】
また貼付工程は、例えば、接着剤を用いて行う。接着剤は、熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0069】
また貼付工程中、接着剤の硬化をさせる前に、SiC単結晶10の周囲を減圧する減圧工程をさらに行ってもよい。接着面に気泡等が噛みこんだ場合でも減圧環境にすることで脱泡できる。その結果、塗布時の接着剤の厚みムラをより抑制できる。
【0070】
また貼りつける設置台60の熱膨張係数は、SiC単結晶10の熱膨張係数と近いことが好ましい。具体的には、熱膨張係数差が0.3×10-6/℃以下であることが好ましい。なお、ここで示す熱膨張係数とは、SiC単結晶10を種結晶として結晶成長する温度領域における熱膨張係数を意味し、2000℃近傍の温度を意味する。例えば、黒鉛の熱膨張係数は、製造条件、含有材料等により、4.3×10-6/℃~7.1×10-6/℃の範囲で選択できる。設置台60とSiC単結晶10の熱膨張率差が近いことで、単結晶成長時に熱膨張率差によってSiC単結晶10が反り、原子配列面2が湾曲することを防ぐことができる。
【0071】
そして上述のように貼付工程を行うと、図14(b)に示すように原子配列面2が設置面60Aに対して平行な湾曲の少ないSiC単結晶10が得られる。
【0072】
「SiC単結晶」
上述の貼付工程の前段階まで加工されたSiC単結晶は、第1面が原子配列面の湾曲に沿う形状に加工されている。その結果、図14(a)に示すように、SiC単結晶10の第1面10Aの反り形状と、原子配列面2の湾曲形状が略平行になる。換言すると、SiC単結晶10の反り量と原子配列面2の湾曲量との差分の絶対値が10μm以下となる。ここで「反り量」とは、SiC単結晶を平坦面上に載置した際に、載置面と載置面側のSiC単結晶の第1面との距離の最大値を意味する。SiC単結晶10の原子配列面2の湾曲量の最大値が20μm以上の場合において上述のような加工を施さずに、SiC単結晶10の第1面10Aの反り形状と原子配列面2の湾曲形状が略平行にはなることは考えにくい。つまり、原子配列面の湾曲量の最大値が20μm以上であり、SiC単結晶10の反り量と原子配列面2の湾曲量との差分の絶対値が10μm以下であるSiC単結晶10は、上記の工程を経て実現できるものである。
【0073】
「SiCインゴットの製造方法」
本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法は、上述のSiC単結晶の加工方法において、設置面60Aに貼り付けられたSiC単結晶10を種結晶として結晶成長を行う。SiCインゴットは、例えば昇華法を用いて製造できる。昇華法は、原料を加熱することによって生じた原料ガスを単結晶(種結晶)上で再結晶化し、大きな単結晶(インゴット)を得る方法である。
【0074】
図15は、昇華法に用いられる製造装置の一例の模式図である。製造装置200は、坩堝100とコイル101とを有する。坩堝100とコイル101との間には、コイル101の誘導加熱により発熱する発熱体(図視略)を有してもよい。
【0075】
坩堝100は、原料Gと対向する位置に設けられた設置台60を有する。設置台60には、上述のSiC単結晶の加工方法によって加工されたSiC単結晶10が種結晶として貼り付けられている。また坩堝100の内部には、設置台60から原料Gに向けて拡径するテーパーガイド102が設けられている。
【0076】
コイル101に交流電流を印加すると、坩堝100が加熱され、原料Gから原料ガスが生じる。発生した原料ガスは、テーパーガイド102に沿って設置台60に設置されたSiC単結晶10に供給される。SiC単結晶10に原料ガスが供給されることで、SiC単結晶10の主面にSiCインゴットIが結晶成長する。SiC単結晶10の結晶成長面は、カーボン面、又は、カーボン面から10°以下のオフ角を設けた面とすることが好ましい。
【0077】
SiCインゴットIは、SiC単結晶10の結晶情報の多くを引き継ぐ。SiC単結晶10の原子配列面2は平坦化されているため、SiCインゴットI内にBPDが発生することを抑制できる。
【0078】
図16は、SiC単結晶の原子配列面の曲率半径と、BPD密度の関係を示すグラフである。図16に示すように、原子配列面2の曲率半径とSiCインゴットI内のBPD密度とは対応関係を有する。原子配列面2の曲率半径が大きい(原子配列面2の湾曲量が小さい)ほど、BPD密度は少なくなる傾向にある。内部に応力が残留した結晶は、結晶面のすべりを誘起させ、BPDの発生と共に原子配列面2を湾曲させると考えられる。あるいは、逆に、湾曲量が大きい原子配列面2が、ひずみを有し、BPDの原因となることも考えられる。いずれの場合においても、原子配列面の曲率半径が大きい(すなわち、原子配列面の湾曲量が小さい)ほど、BPD密度が小さくなる。
【0079】
上述のように、本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法は、種結晶として用いられるSiC単結晶10の原子配列面2が平坦化されているため、SiCインゴットI内にBPDが生じることが抑制されている。そのため、BPD密度の少ない良質なSiCインゴットIが得られる。
【0080】
最後に得られたSiCインゴットIをスライスしてSiCウェハを作製する。切断する方向は、<0001>に垂直または0~10°のオフ角をつけた方向に切断し、C面に平行、またはC面から0~10°オフ角をつけた面をもつウェハを作製する。ウェハの表面加工は、(0001)面側すなわちSi面側に鏡面加工を施してもよい。Si面は、通常エピタキシャル成長を行う面である。SiCインゴットIはBPDが少ないため、BPDの少ないSiCウェハを得ることができる。キラー欠陥であるBPDが少ないSiCウェハを用いることで、高品質なSiCエピタキシャルウェハを得ることができ、SiCデバイスの歩留りを高めることができる。
【0081】
また坩堝100を加熱し原料Gを昇華させる際に、周方向の異方性が生じないように、坩堝100を回転させることが好ましい。回転速度は、0.1rpm以上とすることが好ましい。また成長時の成長面における温度変化は少なくすることが好ましい。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1,10 SiC単結晶
10A 第1面
2,22 原子配列面
20 ウェハ
30 スペーサ
30A 第1面
30B 第2面
31 支持台
40 吸着面
41 吸着穴
50 電極
50A 第1面
60 設置台
60A 設置面
100 坩堝
101 コイル
102 テーパーガイド
A 原子
I SiCインゴット
G 原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16