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特許7571914ニオブ酸塩粒子、ニオブ酸塩粒子の製造方法、樹脂組成物及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ニオブ酸塩粒子、ニオブ酸塩粒子の製造方法、樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/00 20060101AFI20241016BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241016BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20241016BHJP
   C01G 33/00 20060101ALN20241016BHJP
   C01G 35/00 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
C01G39/00 Z
C08L101/00
C08K3/24
C01G33/00 A
C01G35/00 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024504939
(86)(22)【出願日】2023-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2023015590
(87)【国際公開番号】W WO2023204242
(87)【国際公開日】2023-10-26
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022070229
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】新川 高見
(72)【発明者】
【氏名】大道 浩児
(72)【発明者】
【氏名】清岡 隆一
(72)【発明者】
【氏名】丹下 睦子
(72)【発明者】
【氏名】魚田 将史
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-012827(JP,A)
【文献】PORNSUDA, Bomlai et al.,Effect of Calcination Conditions and Excess Alkali Carbonate on the Phase Formation and Particle Morphology of Na0.5K0.5NbO3 Powders,J.Am.Ceram.Soc.,2007年,Vol.90,No.5,pp.1650-1655
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
C01G 35/00
C01G 39/00
C08L 101/00
C08K 3/24
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na(1-x)NbTa(1-y)(ただし、0.16≦x≦0.77、0.21≦y≦1である。)で表されるニオブ酸塩の結晶構造を含み、
キュービック状の形状を有し、
粒子サイズが0.1μm以上100μm以下であり、
前記結晶構造は、X線回折測定により得られる、前記ニオブ酸塩の2θ=23.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズが80nm以上であり、
更にモリブデンを含む、ニオブ酸塩粒子。
【請求項2】
前記結晶構造はペロブスカイト結晶構造を含む、請求項1に記載のニオブ酸塩粒子。
【請求項3】
前記結晶構造は、X線回折測定により得られる、前記ニオブ酸塩の2θ=32.0±1.2°のピークから求められる平均結晶子サイズが50nm以上である、請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子。
【請求項4】
レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50が、0.1~100μmである、請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子。
【請求項5】
X線回折測定により得られる、前記ニオブ酸塩の2θ=23.0±1.0°のピークのピーク強度I(100)と、2θ=32.0±1.2°のピークのピーク強度I(110)と、の比(R)が1以上である、請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子。
R=I(100)/I(110)
【請求項6】
前記ニオブ酸塩粒子におけるニオブ、又はニオブ及びタンタルの合計含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するNb換算及びTa換算での合計含有率が50~99質量%である、請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子。
【請求項7】
前記ニオブ酸塩粒子におけるカリウム及び/又はナトリウム含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するKO換算及びNaO換算での合計含有率が0.5~40質量%である、請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子。
【請求項8】
前記ニオブ酸塩粒子におけるモリブデン含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するMoO換算での含有率が0.01~20質量%である、請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子。
【請求項9】
請求項1に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法であって、
カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物の存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む、ニオブ酸塩粒子の製造方法。
【請求項10】
前記ナトリウム化合物が炭酸ナトリウムであり、前記カリウム化合物が炭酸カリウムである、請求項に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法であって、モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物との存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む、請求項に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
【請求項12】
前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、請求項11に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
【請求項13】
ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程と、前記混合物を焼成する工程とを含み、
前記混合物中の、カリウム原子及びナトリウム原子と、ニオブ原子及びタンタル原子とのモル比(K+Na)/(Nb+Ta)が1.1以上である、請求項又は10に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のニオブ酸塩粒子と、
樹脂と、を含む樹脂組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸塩粒子、ニオブ酸塩粒子の製造方法、樹脂組成物及び成形体に関する。
本願は、2022年4月21日に日本に出願された、特願2022-070229号に基づき優先権主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ニオブ酸アルカリ金属塩は、圧電体、フィラー、触媒、浄水材料などとして幅広く使用されている。
【0003】
特許文献1の実施例には、NaCO、KCO、Nbを原料粉末とし、この原料粉末の混合物を1100℃で2時間焼結した後、解砕することを行う、ニオブ酸ナトリウムカリウム粒子の製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-145408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニオブ酸塩粒子の結晶成長の制御は、得られるニオブ酸塩粒子の用途の汎用性を高めるうえで、非常に重要な技術である。KNa(1-x)NbO(0≦x≦1)はペロブスカイト構造を有し、例えば、圧電体として利用可能である。圧電体材料としては、結晶子サイズが大きいほど優れた圧電効果を発揮できることが期待される。しかし、従来のニオブ酸塩粒子の製造方法で得られたニオブ酸塩粒子の結晶成長の向上について、未だ検討の余地がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、結晶成長の程度に優れるニオブ酸塩粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
【0008】
(1) KNa(1-x)NbTa(1-y)(ただし、0≦x≦1、0<y≦1である。)で表されるニオブ酸塩の結晶構造を含み、
前記結晶構造は、X線回折測定により得られる、前記ニオブ酸塩の2θ=23.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズが80nm以上である、ニオブ酸塩粒子。
(2) 前記結晶構造はペロブスカイト結晶構造を含む、前記(1)に記載のニオブ酸塩粒子。
(3) キュービック状の形状を有する、前記(1)又は(2)に記載のニオブ酸塩粒子。
(4) 前記結晶構造は、X線回折測定により得られる、前記ニオブ酸塩の2θ=32.0±1.2°のピークから求められる平均結晶子サイズが50nm以上である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子。
(5) レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50が、0.1~100μmである、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子。
(6) X線回折測定により得られる、前記ニオブ酸塩の2θ=23.0±1.0°のピークのピーク強度I(100)と、2θ=32.0±1.2°のピークのピーク強度I(110)と、の比(R)が1以上である、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子。
R=I(100)/I(110)
(7) 前記ニオブ酸塩粒子におけるニオブ、又はニオブ及びタンタルの合計含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するNb換算及びTa換算での合計含有率が50~99質量%である、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子。
(8) 前記ニオブ酸塩粒子におけるカリウム及び/又はナトリウム含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するKO換算及びNaO換算での合計含有率が0.5~40質量%である、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子。
(9) モリブデンを含む、前記(1)~(8)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子。
(10) 前記ニオブ酸塩粒子におけるモリブデン含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するMoO換算での含有率が0.01~20質量%である、前記(9)に記載のニオブ酸塩粒子。
(11) 前記(1)~(10)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子の製造方法であって、
カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物の存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む、ニオブ酸塩粒子の製造方法。
(12) 前記ナトリウム化合物が炭酸ナトリウムであり、前記カリウム化合物が炭酸カリウムである、前記(11)に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
(13) モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物との存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む、前記(11)又は(12)に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
(14) 前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である、前記(13)に記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
(15)
ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程と、前記混合物を焼成する工程とを含み、
前記混合物中の、カリウム原子及びナトリウム原子と、ニオブ原子及びタンタル原子とのモル比(K+Na)/(Nb+Ta)が1.1以上である、前記(11)~(14)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子の製造方法。
(16) 前記(1)~(10)のいずれか一つに記載のニオブ酸塩粒子と、樹脂と、を含む樹脂組成物。
(17) 前記(16)に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、結晶成長の程度に優れるニオブ酸塩粒子を提供できる。
また、本発明によれば、前記ニオブ酸塩粒子の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、前記ニオブ酸塩粒子を含む樹脂組成物、及びその成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のKNa(1-x)NbO粒子のSEM画像である。
図2】実施例2のKNa(1-x)NbO粒子のSEM画像である。
図3】実施例3のKNa(1-x)NbO粒子のSEM画像である。
図4】実施例4のKNa(1-x)NbO粒子のSEM画像である。
図5】実施例5のKNa(1-x)NbO粒子のSEM画像である。
図6】実施例6のNaNbO粒子のSEM画像である。
図7】実施例7のKNbO粒子のSEM画像である。
図8】実施例8のKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子のSEM画像である。
図9】実施例9のKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子のSEM画像である。
図10】実施例10のKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子のSEM画像である。
図11】実施例11のKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子のSEM画像である。
図12】実施例12のKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子のSEM画像である。
図13】実施例13のKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子のSEM画像である。
図14】比較例1のKNa(1-x)NbO粒子のSEM画像である。
図15】実施例1~5の粉末試料のX線回折(XRD)パターンである。
図16】実施例6~7の粉末試料のX線回折(XRD)パターンである。
図17】実施例8~12の粉末試料のX線回折(XRD)パターンである。
図18】実施例13の粉末試料のX線回折(XRD)パターンである。
図19】比較例1の粉末試料のX線回折(XRD)パターンである。
図20】実施例において、圧電性能の評価に用いたスピーカーの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のニオブ酸塩粒子、ニオブ酸塩粒子の製造方法、樹脂組成物及び成形体の実施形態を説明する。
【0012】
≪ニオブ酸塩粒子≫
実施形態のニオブ酸塩粒子は、KNa(1-x)NbTa(1-y)(ただし、0≦x≦1、0<y≦1である。)で表されるニオブ酸塩の結晶構造を含み、前記結晶構造は、X線回折測定により得られる、前記ニオブ酸塩の2θ=23.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズが80nm以上である。
【0013】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、KNa(1-x)NbTa(1-y)で表されるニオブ酸塩化合物を含む。前記式KNa(1-x)NbTa(1-y)において、xは0≦x≦1であり、yは0<y≦1である。
xが0<x<1で、yが0<y<1の場合には、KNa(1-x)NbTa(1- y)はニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムである。
x=0で、yが0<y<1の場合には、KNa(1-x)NbTa(1-y)はニオブ酸タンタル酸ナトリウム(NaNbTa(1-y))である。
x=1で、yが0<y<1の場合には、KNa(1-x)NbTa(1-y)はニオブ酸タンタル酸カリウム(KNbTa(1-y))である。
xが0<x<1で、y=1の場合には、KNa(1-x)NbTa(1-y)はニオブ酸カリウムナトリウム(KNa(1-x)NbO)である。
x=0で、y=1の場合には、KNa(1-x)NbTa(1-y)はニオブ酸ナトリウム(NaNbO)である。
x=1で、y=1の場合には、KNa(1-x)NbTa(1-y)はニオブ酸カリウム(KNbO)である。
【0014】
圧電材料は、異なる結晶系(単斜晶系と直方晶系、直方晶系と正方晶系など)の境目のモルフォトロピック相境界(MPB)と呼ばれる組成を含むことが特性上好ましいことが知られている。この相境界付近の組成となるように、前記x及び前記yの値を調整することができる。KNa(1-x)NbTa(1-y)において、例えば、xが0.4≦x≦0.6であることが好ましく、0.45≦x≦0.55であることがより好ましい。KNa(1-x)NbTa(1-y)において、例えば、yが0.5≦y≦1であることが好ましい。
なお、耐久性など、圧電性能以外の特性向上のため、MPB組成そのものではなく、外れた組成を含むことができる。したがって、実施形態のニオブ酸塩粒子の組成はこの好ましい範囲に限られず、0≦x≦1、0<y≦1の範囲全体において有効である。
【0015】
また、リーク電流を抑え、絶縁性を保つことを目的として、Nbより価数の低い元素、例えばMn、Cr、Co、Ni、Znなどの元素をNbに対して数モル(1~3モル)%以内の範囲で適宜含んでいてもよい。また、原材料の不可避不純物として、例えばFeなどの元素が含まれていてもよい。
【0016】
本明細書においては、前記x及び前記yの数値が、上記いずれの場合のKNa(1- x)NbTa(1-y)を含む粒子であっても、単に「ニオブ酸塩粒子」と称する場合がある。また、前記x及び前記yの数値範囲の記載を省略することがある。
【0017】
実施形態のニオブ酸塩粒子に含有されるニオブ酸塩の種類や組成、結晶構造は、XRD分析にて得られたスペクトルのXRDパターンにより特定できる。
【0018】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の平均結晶子サイズは、以下の測定方法により特定できる。
【0019】
[結晶子サイズの測定]
X線回折装置(例えば、株式会社リガク製、SmartLab)を用い、検出器として高強度・高分解能結晶アナライザ(CALSA)を用い、解析ソフト用いて測定を行う。測定方法は2θ/θ法であり、対象ピーク(対象の2θの範囲にピークトップを有するピーク)の半値幅からシェラー式を用いて平均結晶子サイズを算出する。なお、測定条件として、スキャンスピードは0.05度/分であり、スキャン範囲は20~70度であり、ステップは0.002度であり、装置標準幅は0.028°(Si)とする。
【0020】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=23.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズは、80nm以上であり、90nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。
ニオブ酸塩粒子の該平均結晶子サイズが上記下限値以上であることで、優れた圧電性能が発揮される。
【0021】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=23.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズの上限値は、特に制限されるものではないが、1000nm以下であってよく、800nm以下であってよく、500nm以下であってよい。
【0022】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=23.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズの、上記数値範囲の一例としては、80nm以上1000nm以下であってよく、90nm以上800nm以下であってよく、100nm以上500nm以下であってよい。
【0023】
Na(1-x)NbTa(1-y)は、組成により単斜晶系、直方晶系、又は正方晶系と異なる結晶系を示し得るものであり、結晶系によって面の帰属は異なる。 本明細書において特に断りのない限り、面指数の表記については、結晶構造を立方晶系と仮定した場合を示す。
【0024】
上記の結晶子サイズの測定で得られる対象ピークについて、ピーク分裂を考慮せず立方晶系と仮定して帰属した場合、上記の2θ=23.0±1.0°のピークは、立方晶系の(100)面に相当する位置となる。ピークが分裂している場合は、強度の一番強いピークにて結晶子サイズを定義する。
【0025】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=32.0±1.2°のピークから求められる平均結晶子サイズは、50nm以上であることが好ましく、80nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。
ニオブ酸塩粒子の該平均結晶子サイズが上記下限値以上であることで、より一層優れた圧電性能が発揮される。
【0026】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=32.0±1.2°のピークから求められる平均結晶子サイズの上限値は、特に制限されるものではないが、1000nm以下であってよく、800nm以下であってよく、700nm以下であってよい。
【0027】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=32.0±1.2°のピークから求められる平均結晶子サイズの、上記数値範囲の一例としては、50nm以上1000nm以下であってよく、80nm以上800nm以下であってよく、100nm以上700nm以下であってよい。
【0028】
上記の結晶子サイズの測定で得られる対象ピークについて、ピーク分裂を考慮せず立方晶系と仮定して帰属した場合、上記の2θ=32.0±1.2°のピークは、立方晶系の(110)面に相当する位置となる。ピークが分裂している場合は、強度の一番強いピークにて結晶子サイズを定義する。
【0029】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=57.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズは、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。
ニオブ酸塩粒子の該平均結晶子サイズが上記下限値以上であることで、より一層優れた圧電性能が発揮される。
【0030】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=57.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズの上限値は、特に制限されるものではないが、500nm以下であってよく、400nm以下であってよく、300nm以下であってよい。
【0031】
実施形態のニオブ酸塩粒子が含む結晶構造の、2θ=57.0±1.0°のピークから求められる平均結晶子サイズの、上記数値範囲の一例としては、15nm以上500nm以下であってよく、20nm以上400nm以下であってよく、30nm以上300nm以下であってよい。
【0032】
上記の結晶子サイズの測定で得られる対象ピークについて、ピーク分裂を考慮せず立方晶系と仮定して帰属した場合、上記の2θ=57.0±1.0°のピークは、立方晶系の(211)面に相当する位置となる。対象ピークについてピークが分裂している場合は、強度の一番強いピークにて結晶子サイズを定義する。
【0033】
後述の実施形態の製造方法によれば、製造されるニオブ酸塩粒子の結晶成長の制御に優れており、平均結晶子サイズが向上されたニオブ酸塩粒子を容易に取得できる。
【0034】
平均結晶子サイズは、後述する製造方法におけるフラックス剤の使用量や種類、焼成条件により制御可能である。
【0035】
実施形態のニオブ酸塩粒子の前記結晶構造は、ペロブスカイト結晶構造を含むことができる。
【0036】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、キュービック状の形状を有することができる。
【0037】
本明細書において、「キュービック状」とは、ペロブスカイト構造に由来する形状であってよく、好ましくは略立方体である六面体の形状を有し、六面体を構成する各面は、平面であってもよく、湾曲や凹凸のある面であってもよい。
【0038】
X線回折測定により取得される上記に示した各ピークの、2θ=23.0±1.0°にピークトップを有するピークのピーク強度I(100)と、2θ=32.0±1.2°にピークトップを有するピークのピーク強度I(110)と、の比(R)を求めることができる。
R=I(100)/I(110)
ピーク強度は、該当のピークのピークトップにおける値を採用する。
【0039】
実施形態のニオブ酸塩粒子における前記Rの値は、1以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましく、3以上であることが特に好ましい。
【0040】
2θ=23.0±1.0°にピークトップを有するI(100)の回折が強く計測されること、即ち上記Rの値が1以上であることは、測定対象の試料において、粒子同士が(100)面に対応する六面体の一面の方向を揃えて配置されていることを表していると考えられる。これは、粒子形状が整っているほどに生じやすいと考えられる。
即ち、前記Rの値が1以上である実施形態のニオブ酸塩粒子は、粒子形状の整った高品質なものである。
前記Rの値が1以上である実施形態のニオブ酸塩粒子は、後述の樹脂組成物としたときに、充填性に優れる。
【0041】
後述の実施形態の製造方法によれば、ペロブスカイト結晶構造を有し、キュービック状の形状を有するニオブ酸塩粒子を製造可能である。
【0042】
焼成温度が高温になるほど、平均結晶子サイズが大きく、粒子サイズも大きな、ニオブ酸塩粒子が得られる傾向にある。
【0043】
ニオブ酸塩粒子が、キュービック状の形状を有する場合の粒子サイズは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。
ニオブ酸塩粒子が、キュービック状の形状を有する場合の粒子サイズの上限値は、特に制限されるものではないが、一例として、100μm以下であってよく、80μm以下であってよく、50μm以下であってよい。
ニオブ酸塩粒子が、キュービック状の形状を有する場合の粒子サイズの上限数値範囲の一例としては、0.1~100μmであってよく、0.5~80μmであってよく、1~50μmであってよい。
【0044】
本明細書において、キュービック状の形状を有するニオブ酸塩粒子の「粒子サイズ」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された二次元画像において、ニオブ酸塩粒子の一次粒子の粒子像から判別される六面体の一辺の長さである。
当該キュービック状の形状を有するニオブ酸塩粒子サイズの値は、上記の測定対象の自形を有する粒子のなかから、無作為に選出した50個以上のニオブ酸塩粒子から得られた平均値とする。
【0045】
キュービック状の形状を有するニオブ酸塩粒子を含む場合、質量基準又は個数基準で50%以上の粒子がキュービック状の形状を有することが好ましく、80%以上の粒子がキュービック状の形状を有することがより好ましく、90%以上の粒子がキュービック状の形状を有することがさらに好ましい。
【0046】
実施形態のニオブ酸塩粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、0.1~100μmであってよく、0.5~80μmであってよく、1~50μmであってよい。
【0047】
実施形態のニオブ酸塩粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるD10は、0.05~70μmであってよく、0.1~50μmであってよく、0.5~20μmであってよい。
【0048】
実施形態のニオブ酸塩粒子の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D90は、0.5~150μmであってよく、1~100μmであってよく、3~70μmであってよい。
【0049】
ニオブ酸塩粒子試料の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、レーザー回折式粒度分布計を用いて乾式で測定された粒子径分布において、体積積算%の割合が50%となる粒子径として求めることができる。ニオブ酸塩粒子試料の、レーザー回折・散乱法により算出されるD10は、体積積算%の分布曲線が小粒子側から10%の横軸と交差する点の粒子径として求めることができ、D90は、体積積算%の分布曲線が小粒子側から90%の横軸と交差する点の粒子径として求めることができる。
【0050】
実施形態のニオブ酸塩粒子の、BET法により求められる比表面積は、0.02~20m/gであってもよく、0.04~10m/gであってもよく、0.05~3m/gであってもよい。
【0051】
上記の比表面積は、比表面積計(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法(Brunauer-Emmett-Teller法)による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出する。
【0052】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、KNa(1-x)NbTa(1-y)(ただし、0≦x≦1、0<y≦1である。)を含むものである。
【0053】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、前記ニオブ酸塩粒子100質量%に対して、前記KNa(1-x)NbTa(1-y)を65質量%以上含むことが好ましく、65~99.999質量%含むことが好ましく、70~99.97質量%含むことがより好ましく、75~99.95質量%含むことがさらに好ましい。
【0054】
実施形態のニオブ酸塩粒子はニオブを含み、更にタンタルを含んでもよい。
【0055】
前記ニオブ酸塩粒子における、ニオブ、又はニオブ及びタンタルの合計含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するNb換算及びTa換算での合計含有率が、50質量%以上であってもよく、50~99質量%であってもよく、60~98質量%であってもよく、70~95質量%であってもよい。
【0056】
Nb換算及びTa換算での合計含有率とは、XRF分析することによって求められるニオブ含有量を、Nb換算の検量線を用いて換算したNb量と、XRF分析することによって求められるタンタル含有量を、Ta換算の検量線を用いて換算したTa量と、の総和から求めた値とを云う。なお、ニオブ酸塩粒子の組成が、KNa(1-x)NbTa(1-y)においてy=1である場合には、タンタル含有量は0であってもよい。
【0057】
実施形態のニオブ酸塩粒子はカリウム及び/又はナトリウム含む。
【0058】
前記ニオブ酸塩粒子における、カリウム及び/又はナトリウム含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するKO換算及びNaO換算での合計含有率が0.5質量%以上であってもよく、0.5~40質量%であってもよく、1~30質量%であってもよく、3~25質量%であってもよい。
【0059】
O換算及びNaO換算での合計含有率とは、XRF分析することによって求められるカリウム含有量を、KO換算の検量線を用いて換算したKO量と、XRF分析することによって求められるナトリウム含有量を、NaO換算の検量線を用いて換算したNaO量と、の総和から求めた値とを云う。なお、ニオブ酸塩粒子の組成が、KNa(1-x)NbTa(1-y)においてx=0又は1である場合には、カリウム含有量又はナトリウム含有量は0であってもよい。
【0060】
実施形態のニオブ酸塩粒子は更にモリブデンを含むことができる。
【0061】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、後述する製造方法において使用されてよいモリブデン化合物に由来したモリブデンを含むことができる。また、実施形態のニオブ酸塩粒子は、後述する製造方法においてモリブデン化合物を使用することで、高効率な結晶成長を達成できる。
【0062】
実施形態のニオブ酸塩粒子に含まれるモリブデンとしては、その存在状態や量は特に制限されず、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物等としてニオブ酸塩粒子に含まれてよい。モリブデンは、MoOとしてニオブ酸塩粒子に含まれると考えられるが、MoO以外にもMoOやMoO等としてニオブ酸塩粒子に含まれてもよい。
【0063】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、ニオブ酸塩粒子の表面に付着する形態で含まれていても、ニオブ酸塩粒子の結晶構造の一部に置換された形態で含まれていても、アモルファスの状態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0064】
実施形態のニオブ酸塩粒子がモリブデンを含む場合のモリブデン含有量は、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対するMoO換算での含有率が0.01質量%以上であってもよく、0.01~20質量%であってもよく、0.05~15質量%であってもよく、0.06~10質量%であってもよい。
【0065】
MoO換算での含有率とは、XRF分析することによって求められるモリブデン含有量を、MoO換算の検量線を用いて換算したMoO量から求めた値を云う。
【0066】
上記のモリブデン含有量、ニオブ及びタンタルの合計含有量、並びにカリウム及びナトリウムの合計含有量の値は、自由に組み合わせることができる。
【0067】
実施形態のニオブ酸塩粒子の一例として、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対する、モリブデンのMoO換算での含有率が0~20質量%であり、ニオブ及びタンタルのNb換算及びTa換算での合計含有率が50~99質量%であり、カリウム及びナトリウムのKO換算及びNaO換算での合計含有率が0.5~40質量%であるニオブ酸塩粒子を例示できる。
実施形態のニオブ酸塩粒子の別の一例として、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対する、モリブデンのMoO換算での含有率が0.01~20質量%であり、ニオブ及びタンタルのNb換算及びTa換算での合計含有率が50~99質量%であり、カリウム及びナトリウムのKO換算及びNaO換算での合計含有率が0.5~40質量%であるニオブ酸塩粒子を例示できる。
実施形態のニオブ酸塩粒子の別の一例として、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対する、モリブデンのMoO換算での含有率が0.05~15質量%であり、ニオブ及びタンタルのNb換算及びTa換算での合計含有率が60~98質量%であり、カリウム及びナトリウムのKO換算及びNaO換算での合計含有率が1~30質量%であるニオブ酸塩粒子を例示できる。
実施形態のニオブ酸塩粒子の別の一例として、前記ニオブ酸塩粒子をXRF分析することによって求められる、前記ニオブ酸塩粒子の総質量100質量%に対する、モリブデンのMoO換算での含有率が0.06~10質量%であり、ニオブ及びタンタルのNb換算及びTa換算での合計含有率が70~95質量%であり、カリウム及びナトリウムのKO換算及びNaO換算での合計含有率が3~25質量%であるニオブ酸塩粒子を例示できる。
【0068】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、ニオブ酸塩粒子の集合体として提供可能である。上記の結晶子サイズ、粒度分布、比表面積、x及びyの数値、モリブデン含有量、ニオブ含有量、タンタル含有量、カリウム含有量、並びにナトリウム含有量の値は、前記集合体を試料として求められた値を採用することができる。
【0069】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、例えば、後述の≪ニオブ酸塩粒子の製造方法≫により製造することができる。
なお、本発明のニオブ酸塩粒子は、下記実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法で製造されたものに限定されるものではない。
【0070】
実施形態のニオブ酸塩粒子は、圧電体、触媒、浄水材料などとして使用可能である。
【0071】
≪ニオブ酸塩粒子の製造方法≫
実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法は、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物の存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む。
【0072】
本実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法によれば、上記の本発明の一実施形態にかかるニオブ酸塩粒子を製造可能である。
【0073】
また、本実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法によれば、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物の存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することにより、製造されるニオブ酸塩粒子の結晶成長の程度に優れる。
さらに、本実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法によれば、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムの存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することにより、製造されるニオブ酸塩粒子の結晶成長の程度により優れる。
【0074】
ニオブ酸塩粒子の好ましい製造方法は、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)と、を含むことができる。
【0075】
実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法において、更にモリブデン化合物を用いることが好ましい。モリブデン化合物を使用することで、ニオブ酸塩粒子の結晶成長を更に促進させ、高効率にニオブ酸塩粒子を製造可能である。
【0076】
かかるニオブ酸塩粒子の製造方法として、モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物との存在下で、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む方法を例示できる。
【0077】
ニオブ酸塩粒子の好ましい製造方法は、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物と、モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)と、を含むことができる。
【0078】
ここで、少なくとも一部のモリブデン化合物及びカリウム化合物に代えて、モリブデン酸カリウムのような、モリブデンとカリウムとを含有する化合物を使用することもできる。同様に、少なくとも一部のモリブデン化合物及びナトリウム化合物に代えて、モリブデン酸ナトリウムのような、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物を使用することもできる。
そのため、モリブデンとカリウム及び/又はナトリウムとを含む化合物と、を混合することも、モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合することとみなす。
【0079】
[混合工程]
混合工程は、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物と、所望によりモリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程である。
【0080】
製造されるニオブ酸塩粒子がニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムを含む場合、ニオブ化合物と、タンタル化合物と、所望によりモリブデン化合物と、カリウム化合物と、ナトリウム化合物とを混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができる。
【0081】
製造されるニオブ酸塩粒子がニオブ酸カリウムナトリウムを含む場合、ニオブ化合物と、所望によりモリブデン化合物と、カリウム化合物と、ナトリウム化合物とを混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができる。
【0082】
製造されるニオブ酸塩粒子がニオブ酸カリウムを含む場合、ニオブ化合物と、所望によりモリブデン化合物と、カリウム化合物とを混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができる。
【0083】
製造されるニオブ酸塩粒子がニオブ酸ナトリウムを含む場合、ニオブ化合物と、所望によりモリブデン化合物と、ナトリウム化合物とを混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができる。
【0084】
以下、混合物の内容について説明する。
【0085】
(ニオブ化合物)
前記ニオブ化合物としては、原料化合物とともに焼成してニオブ酸塩となり得る化合物であれば限定されず、酸化ニオブや、水酸化ニオブ、硫化ニオブ、窒化ニオブ、フッ化ニオブ、塩化ニオブ、臭化ニオブ、ヨウ化ニオブ等のハロゲン化ニオブ、ニオブアルコキシド等を例示でき、水酸化ニオブ及び酸化ニオブが好ましく、酸化ニオブがより好ましい。
酸化ニオブとしては、五酸化ニオブ(Nb)、二酸化ニオブ(NbO)、一酸化ニオブ(NbO)が挙げられる。また上記の酸化数の酸化ニオブ以外にも、価数の異なる任意のニオブ酸化物を用いることができる。
これら前駆体としてのニオブ化合物の形状、粒子径、比表面積等の物理形態については、特に限定されるものではない。
【0086】
焼成後の形状は、原料のニオブ化合物の形状が殆ど反映されていないため、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤー、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0087】
(タンタル化合物)
前記タンタル化合物としては、原料化合物とともに焼成してタンタル酸塩となり得る化合物であれば限定されず、酸化タンタルや、水酸化タンタル、硫化タンタル、窒化タンタル、フッ化タンタル、塩化タンタル、臭化タンタル、ヨウ化タンタル等のハロゲン化タンタル、タンタルアルコキシド等を例示でき、水酸化タンタル及び酸化タンタルが好ましく、酸化タンタルがより好ましい。
酸化タンタルとしては、五酸化タンタル(Ta)、二酸化タンタル(TaO)、一酸化タンタル(TaO)が挙げられる。また上記の酸化数の酸化タンタル以外にも、価数の異なる任意のタンタル酸化物を用いることができる。
これら前駆体としてのタンタル化合物の形状、粒子径、比表面積等の物理形態については、特に限定されるものではない。
【0088】
焼成後の形状は、原料のタンタル化合物の形状が殆ど反映されていないため、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤー、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0089】
(モリブデン化合物)
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸、硫化モリブデン、モリブデン酸塩化合物等が挙げられ、酸化モリブデン又はモリブデン酸塩化合物が好ましい。
【0090】
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン(MoO)、三酸化モリブデン(MoO)等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
【0091】
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が好ましく、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがより好ましく、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムであることがさらに好ましい。
【0092】
本実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法において、前記モリブデン化合物は、水和物であってもよい。
【0093】
モリブデン化合物は、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であること好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることがより好ましい。
【0094】
フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下とみなす。
【0095】
フラックス剤として好適な、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びナトリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下とみなす。
【0096】
なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
また、モリブデン酸カリウム(KMo3n+1、n=1~3)は、カリウムを含むため、後述するカリウム化合物としての機能も有しうる。
【0098】
また、モリブデン酸ナトリウム(NaMo3n+1、n=1~3)は、ナトリウムを含むため、後述するナトリウム化合物としての機能も有しうる。
【0099】
(カリウム化合物)
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましく、炭酸カリウム、及び/又はモリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0100】
なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
また、上記と同様に、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0102】
(ナトリウム化合物)
ナトリウム化合物としては、特に制限されないが、炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、金属ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、工業的に容易入手と取扱いし易さの観点から炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることが好ましく、炭酸ナトリウム、及び/又はモリブデン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0103】
なお、上述のナトリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
また、上記と同様に、モリブデン酸ナトリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0105】
このように、分類上モリブデン化合物としての重複する表記となる場合があるが、一例として、前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であり、
前記ナトリウム化合物が炭酸ナトリウム又はモリブデン酸ナトリウムであり、前記カリウム化合物が炭酸カリウム又はモリブデン酸カリウムであることが好ましい。
【0106】
好ましくは、モリブデン化合物と、カリウム化合物及びナトリウム化合物との存在下で、ニオブ化合物を焼成することを含む、ニオブ酸カリウムナトリウム粒子の製造方法を例示できる。
【0107】
好ましくは、モリブデン化合物と、ナトリウム化合物との存在下で、ニオブ化合物を焼成することを含む、ニオブ酸ナトリウム粒子の製造方法を例示できる。
【0108】
好ましくは、モリブデン化合物と、カリウム化合物との存在下で、ニオブ化合物を焼成することを含む、ニオブ酸カリウム粒子の製造方法を例示できる。
【0109】
好ましくは、モリブデン化合物と、カリウム化合物及びナトリウム化合物との存在下で、ニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む、ニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウム粒子の製造方法を例示できる。
【0110】
好ましくは、カリウム化合物及びナトリウム化合物の存在下で、ニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することを含む、ニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウム粒子の製造方法を例示できる。
【0111】
本実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法において、カリウム化合物、ナトリウム化合物及びモリブデン化合物は、フラックス剤として用いられる。
フラックス剤としてカリウム化合物および/またはナトリウム化合物を用いた場合は、かかる焼成により、一部のカリウム化合物及び/又はナトリウム化合物から酸化物(NaOやKO)が形成され、これがフラックスとして機能し、ニオブ酸塩の結晶成長が進行すると推測される。
【0112】
さらに、炭酸カリウム化及び/又は炭酸ナトリウムの存在下でニオブ化合物を焼成させると、一部の炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムから酸化物(NaOやKO)及び/又はCOが形成され、これらの酸化物及び/又はCOがフラックスとして機能し、ニオブ酸塩粒子の結晶成長が進行すると推測される。
かかる焼成で反応により、フラックスとして機能する酸化物(NaOやKO)及び/又はCOの形成とともにニオブ酸塩粒子(KNa(1-x)NbTa(1-y))が形成されるものと考えられる。酸化物(NaOやKO)及び/又はCOがフラックス機能することで、結晶子サイズの大きいニオブ酸塩粒子(KNa(1-x)NbTa(1-y))の形成が促進されていると考えられる。
【0113】
フラックス剤としてモリブデン化合物を用いた場合には、かかる焼成により、ニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物と、モリブデン化合物と、ナトリウム化合物又はカリウム化合物と(モリブデンとナトリウムとを含有する化合物と、或いはモリブデンとカリウムとを含有する化合物と、の場合も包含される)、が高温で反応し、フラックスとして機能するモリブデン酸塩化合物(例えば、KaMoやNaMo
、KaNaa’Mo)の形成とともにニオブ酸塩粒子(KNa(1-x)Nb
Ta(1-y))が形成されるものと考えられる。ニオブ酸塩粒子が形成(結晶成長)される際に、一部のモリブデン化合物がニオブ酸塩粒子内に取り込まれるものと考えられる。ニオブ酸塩粒子に含まれるモリブデン化合物の生成機構について、より詳しくは、焼成時に系の中にMo-O-NbやMo-O-Taの形成および分解、またはフラックス剤であるモリブデン酸塩化合物を介して、ニオブ酸塩粒子の結晶成長の過程でモリブデン化合物、例えばモリブデン酸化物が形成されるものと考えられる。さらに、上記のメカニズムを考慮し、モリブデン酸化物がMo-O-NbやMo-O-Taの結合を介して、ニオブ酸塩粒子の表面に存在することも考えられる。ニオブ酸塩粒子にモリブデン化合物(例えばモリブデン酸化物)が含まれることで、ニオブ酸塩粒子の物性向上につながり、例えばニオブ酸塩粒子の触媒性能を向上できる。
【0114】
上記フラックスとしてのモリブデン酸塩化合物は、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0115】
本実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法において、フラックス剤として機能すると考えられる、原料のモリブデン化合物、カリウム化合物、及びナトリウム化合物(以下、フラックス剤ともいう。)の総使用量、ニオブ化合物及びタンタル化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、原料の前記ニオブ化合物及びタンタル化合物の合計使用量100質量部に対して、10質量部以上のフラックス剤を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。より好ましくは、前記ニオブ化合物及びタンタル化合物の合計使用量100質量部に対して、20~5000質量部のフラックス剤を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。さらに好ましくは、前記ニオブ化合物及びタンタル化合物の合計使用量100質量部に対して、100~1000質量部のフラックス剤を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
【0116】
効率的な結晶成長の観点からは、原料の前記ニオブ化合物に対するフラックス剤の使用量が上記下限値以上であることが好ましい。原料の前記ニオブ化合物に対するフラックス剤の使用量を増やすことで、製造されるニオブ酸塩粒子の結晶子サイズの制御が容易であり、結晶子サイズが向上されたニオブ酸塩粒子を容易に得られる。一方、使用するフラックス剤の削減と製造効率向上の観点からは、上記上限値以下が好ましい。フラックス剤量が多い場合は大型の単結晶が生産されることで生産性が低下するおそれがあるため、製造されるニオブ酸塩粒子の粒径が所望の大きさとなるように適宜フラックス量を選定することができる。
【0117】
同様の観点から、実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法において、前記混合物中の、カリウム原子及びナトリウム原子と、ニオブ原子及びタンタル原子とのモル比(K+Na)/(Nb+Ta)が1.1以上であることが好ましく、1.5~10であることがより好ましく、2.0~5であることがさらに好ましく、2.0~2.7であることが特に好ましい。
上記モル比(K+Na)/(Nb+Ta)が上記範囲内であると、結晶子サイズの向上されたニオブ酸塩粒子が容易に得られる。
製造される、ペロブスカイト構造を有するニオブ酸塩粒子(KNa(1-x)NbTa(1-y))における(K+Na)/Nb+Taの比は、通常(K+Na)/(Nb+Ta)=1付近(ペロブスカイト構造を有する範囲内の値)となるが、前記混合物中の余剰の(K+Na)は、所謂セルフフラックスとして、ニオブ酸塩の良好な結晶成長に寄与するものと考えられる。
【0118】
実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法において、前記混合物中のカリウム原子及び又はナトリウム原子とモリブデン原子とのモル比が、(K+Na)/Mo=1~4であることが好ましく、1.5~4であることがより好ましい。特に、(K+Na)/Mo=2~4であると、製造されるニオブ酸塩粒子においてKNa(1-x)Nbの単一組成を容易に形成できる。
【0119】
実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法では、原料のK/Naの配合比率に応じて、製造されるニオブ酸塩粒子のK/Naの比率を変えることができる。前記混合物中のカリウム原子及び又はナトリウム原子とモリブデン原子とのモル比は、製造されるニオブ酸塩粒子においてKNa(1-x)NbTa(1-y)の、所望のX及び1-Xの値に応じて適宜してよい。前記Xが0<X<1である場合の、前記混合物中のカリウム原子とナトリウム原子とのモル比は、一例として、K/Na=0.01~10であってよく、0.1~5であってよい。
【0120】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られるニオブ酸塩粒子が含むモリブデン化合物の量がより適当なものとなるとともに、結晶形状の制御されたニオブ酸塩粒子が容易に得られる。
【0121】
[焼成工程]
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。実施形態に係るニオブ酸塩粒子は、前記混合物を焼成することで得られる。上記の通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0122】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質及びフラックスの混合物を加熱していくと、溶質及びフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質及びフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0123】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0124】
フラックス法によるニオブ酸塩粒子の製造において、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物の存在下でニオブ化合物を焼成させると、一部のカリウム化合物及び/又はナトリウム化合物から酸化物(NaOやKO)が形成され、これがフラックスとして機能し、ニオブ酸塩粒子の結晶成長が進行すると推測される。
さらに、炭酸カリウム化及び/又は炭酸ナトリウムの存在下でニオブ化合物を焼成させると、一部の炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムから酸化物(NaOやKO)及び/又はCOが形成され、これらの酸化物及び/又はCOがフラックスとして機能し、ニオブ酸塩粒子の結晶成長が進行すると推測される。
【0125】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いた場合のニオブ酸塩粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でニオブ化合物を焼成すると、一部のニオブ化合物からモリブデン酸ニオブが形成され、モリブデン化合物からはモリブデン酸塩(例えば、KaMoやNaMo、KaNaa’Mo)が形成される。この際、上述の説明からも理解されるように、モリブデン酸塩のフラックス機能により、ニオブ酸塩の融点よりも低温でニオブ酸塩結晶を成長させることができる。また、例えば、一部形成されたモリブデン酸ニオブが分解し、ニオブ酸塩粒子の結晶成長を促進する。すなわち、モリブデン化合物(モリブデン酸塩)がフラックスとして機能し、モリブデン酸ニオブという中間体を経由してニオブ酸塩粒子が製造されるのである。
【0126】
上記のメカニズムは、ニオブ化合物に代えて、ニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成する場合であっても同様である。
【0127】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。モリブデン化合物を用いた場合では、焼成温度が500℃を超えると、一部のニオブ化合物やタンタル化合物がモリブデン化合物と反応しモリブデン酸ニオブ等が形成され、モリブデン化合物からはモリブデン酸塩(KaMoやNaMo、KaNaa’Mo)が形成されると考えられる。さらに、焼成温度が800℃以上になると、一部形成されたモリブデン酸ニオブ等が分解し、モリブデン酸塩のフラックス機能によりニオブ酸塩粒子が形成されると考えられる。また、ニオブ酸塩粒子では、モリブデン酸ニオブの分解や粒子結晶成長の過程で、モリブデン化合物がニオブ酸塩粒子内に取り込まれるものと考えられる。
【0128】
また、焼成する際に使用され得る、ニオブ化合物、タンタル化合物、モリブデン化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物等の状態は特に限定されず、モリブデン化合物、ニオブ化合物、タンタル化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物等の原料化合物が互いに作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、原料化合物の粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0129】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とするニオブ酸塩粒子の粒子サイズ、ニオブ酸塩粒子におけるモリブデン化合物の形成、ニオブ酸塩粒子の形状等を考慮して、適宜、決定される。焼成温度は、モリブデン酸塩がフラックスとして機能できる温度に近い700℃以上であってもよく、750℃以上であってもよく、800℃以上であってもよく、850℃以上であってもよく、900℃以上であってもよい。
結晶子サイズが向上されたニオブ酸塩粒子を効率よく製造するとの観点からは、上記焼成温度は、800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好ましい。
【0130】
一般的に、焼成後に得られるニオブ酸塩の形状を制御しようとすると、酸化ニオブの融点に近い1500℃超の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0131】
本発明の一実施形態によれば、例えば、ニオブ化合物を焼成する最高焼成温度が1500℃以下の条件であっても、ニオブ酸塩粒子の形成を低コストで効率的に行うことができる。
また、実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法によれば、焼成温度が1300℃以下という酸化ニオブの融点よりもはるかに低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなく、自形をもつニオブ酸塩粒子を形成することができる。また、ニオブ酸塩粒子を効率よく製造するとの観点からは、上記焼成温度は、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましい。
【0132】
焼成工程における、ニオブ化合物を焼成する焼成温度の数値範囲は、一例として、700~1300℃であってもよく、750~1300℃であってもよく、800~1200℃であってもよく、850~1200℃であってもよく、900~1100℃であってもよく、1000~1100℃であってもよい。
【0133】
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、80~400℃/hであってもよい。
【0134】
焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行い、且つ焼成温度における保持時間を5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。ニオブ酸塩粒子の形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることが好ましく、2~15時間の焼成温度保持時間であることがより好ましい。
焼成温度が700~1100℃、且つ2~15時間の焼成温度保持時間の条件を選択することで、結晶子サイズの向上されたニオブ酸塩粒子が、容易に得られる。
【0135】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0136】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
【0137】
[冷却工程]
ニオブ酸塩粒子の製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長したニオブ酸塩粒子を冷却する工程である。
【0138】
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0139】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0140】
[後処理工程]
本実施形態の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、焼成物に含まれるニオブ酸塩粒子とフラックス剤とを分離する工程であってよく、焼成容器から焼成物を取り出して行うことができる。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行うことができる。また、必要に応じて、2度以上繰り返し行ってもよい。
【0141】
フラックス剤を除去する方法としては、洗浄、高温処理等が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0142】
前記洗浄方法としては、特に制限されないが、上記のカリウム化合物、ナトリウム化合物、モリブデン酸塩化合物のようにフラックスが水溶性である場合には、水洗等が挙げられる。
【0143】
また、高温処理の方法としては、フラックスの昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
【0144】
[粉砕工程]
焼成工程を経て得られる焼成物は、ニオブ酸塩粒子が凝集して、検討される用途における好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、ニオブ酸塩粒子は、必要に応じて、好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0145】
[分級工程]
焼成工程により得られたニオブ酸塩粒子を含む焼成物は、粒子サイズの範囲の調整のために、適宜、分級処理されてもよい。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られるニオブ酸塩粒子の平均粒径を調整することができる。
【0146】
実施形態のニオブ酸塩粒子、或いは実施形態の製造方法で得られるニオブ酸塩粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。
【0147】
なお、上記の実施形態のニオブ酸塩粒子の製造方法によれば、凝集が少ない又は凝集のないニオブ酸塩粒子を容易に製造可能であるので、上記の粉砕工程や分級工程は行わなくとも、目的の優れた性質を有するニオブ酸塩粒子を、生産性高く製造することができるという優れた利点を有する。
【0148】
≪樹脂組成物≫
実施形態のニオブ酸塩粒子は、樹脂とともに配合されて樹脂組成物として提供することができる。一実施形態として、実施形態のニオブ酸塩粒子と、樹脂とを含有する樹脂組成物を提供する。
樹脂としては特に限定はなく、ポリマーであってもオリゴマーであってもモノマーであってもよく、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂であってよく、活性エネルギー線硬化性樹脂であってもよい。
【0149】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、加熱または放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂である。例えば、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂であってよい。具体的には、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;(メタ)アクリル樹脂やビニルエステル樹脂等のビニル樹脂:不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、ポリマーであってもオリゴマーであってもモノマーであってもかまわない。
【0150】
上記した熱硬化性樹脂は、硬化剤とともに用いてもかまわない。その際に用いられる硬化剤は、熱硬化性樹脂と公知慣用の組み合わせで用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化剤として常用されている化合物を何れも使用することができ、例えば、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノール系化合物などが挙げられる。具体的には、アミン系化合物としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾール、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる
。アミド系化合物としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独でも2種類以上の併用でも構わない。
【0151】
実施形態の樹脂組成物における、熱硬化性樹脂と前記の硬化剤の配合量は、特に限定されないが、例えば、硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合は、得られる硬化物特性が良好である点から、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計1当量に対して、硬化剤中の活性基が0.7~1.5当量になる量の使用が好ましい。
【0152】
また必要に応じて、実施形態の樹脂組成物における、熱硬化性樹脂に硬化促進剤を適宜併用することもできる。例えば、硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化促進剤としては種々のものが使用できるが、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0153】
また必要に応じて、熱硬化性樹脂に、硬化触媒を適時併用することもでき、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が挙げられる。
【0154】
(熱可塑性樹脂)
実施形態の樹脂組成物に使用されてもよい熱可塑性樹脂としては、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が挙げられる。具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体などが挙げられる。少なくとも1種の熱可塑性樹脂が選択されて使用可能であるが、目的に応じて、2種以上の熱可塑性樹脂を組み合わせての使用も可能である。
【0155】
圧電体用途として提供する場合には、前記樹脂が高誘電率を示すことが好ましく、前記樹脂としては電子吸引性基を有するポリマーが好ましく、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体等のフッ素含有ポリマーや、シアノエチル化ポリビニルアルコール、シアン化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロース、シアノエチルポリアクリルアミド、シアノエチルポリアクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロース及びシアノエチルソルビトール等のシアノ基或はシアノエチル基を有するポリマー等であることが好ましい。
【0156】
実施形態の樹脂組成物は、必要に応じてその他の配合物を含有してもよく、発明の効果が得られる範囲で、外部滑剤、内部滑剤、酸化防止剤、難燃剤、光安定剤、紫外線吸収剤、シラン系やチタネート系、アルミネート系のカップリング剤、ガラス繊維やカーボン繊維等の補強材、フィラー、各種の着色剤等を添加してもよい。また、シリコーンオイル、液状ゴム、ゴム粉末、アクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体などのブタジエン系共重合体ゴムやシリコーン系化合物などの低応力化剤(応力緩和剤)の使用も可能である。
【0157】
実施形態の樹脂組成物は、実施形態のニオブ酸塩粒子と、樹脂と、さらに必要に応じてその他の配合物を混合することにより得られる。その混合方法に特に限定はなく、公知慣用の方法により、混合される。
【0158】
樹脂が熱硬化性樹脂である場合の一般的な手法としては、熱硬化性樹脂と、実施形態のニオブ酸塩粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、三本ロール等で混練し、流動性ある液状の組成物として、あるいは、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、実施形態のニオブ酸塩粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、ミキシングロール、押出機等で、溶融混練した後、冷却することで、固形の組成物として得られる。その混合状態は、硬化剤や触媒等を配合した場合は、硬化性樹脂とそれらの配合物が充分に均一に混合されていることが好ましく、実施形態のニオブ酸塩粒子も均一に分散混合された方がより好ましい。
【0159】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の一般的な手法としては、熱可塑性樹脂、実施形態のニオブ酸塩粒子、および必要に応じてその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロールなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、240~320℃の範囲が挙げられる。
【0160】
実施形態の樹脂組成物を調製するに当たっての、実施形態のニオブ酸塩粒子と、樹脂の不揮発分との混合比は特に制限されるものではないが、樹脂の不揮発分の質量換算100部当たり、例えば0.1~1800部のニオブ酸塩粒子の範囲としてよく、10~900部の範囲としてよい。
【0161】
実施形態の樹脂組成物の総質量(100質量%)に対する、ニオブ酸塩粒子の含有量の割合は、30質量%以上であってよく、50~90質量%であってよく、60~85質量%であってよい。
【0162】
≪成形体≫
実施形態の樹脂組成物を成形することで、成形体を得ることができる。一実施形態として、実施形態の樹脂組成物を成形してなる成形体を提供する。樹脂成形体を得るには、公知慣用の方法で行うことができる。
【0163】
例えば樹脂組成物に含有される樹脂が熱硬化性樹脂である場合、一般的なエポキシ樹脂組成物等の熱硬化性の樹脂組成物の硬化方法に準拠すればよい。例えば、樹脂がエポキシ樹脂である樹脂組成物などは、熱で硬化を行うことができ、その際の加熱温度条件は、組み合わせる硬化剤の種類や用途等によって、適宜選択すれば良く、室温~250℃程度の温度範囲で加熱すればよい。活性エネルギー線硬化性樹脂の場合、紫外線や赤外線といった活性エネルギー線を照射することで硬化成形することができる。
【0164】
また、実施形態の樹脂が熱可塑性樹脂の場合も、公知慣用の成形方法で成形物とすることができる。例えば、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0165】
樹脂組成物の成形体がシート状又は層状である場合、その厚さは、10~100μmであってよく、10~80μmであってよい。
【0166】
実施形態の樹脂組成物及びその成形体は、適宜、分極処理を行うことで、圧電体として提供及び使用可能である。
【実施例
【0167】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0168】
<分析・評価>
各実施例および比較例の粉末を試料として、以下の測定を行った。
【0169】
[XRF(蛍光X線)分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、試料粉末約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて次の条件でXRF(蛍光X線)分析を行った。測定条件
EZスキャンモード
測定元素:F~U
測定時間:標準
測定径:10mm
残分(バランス成分):なし
【0170】
前記試料粉末のXRF分析を行い、試料粉末におけるニオブ含有量を求め、前記試料粉末の総質量100質量%に対するNb換算での含有率(質量%)として算出した。
前記試料粉末のXRF分析を行い、試料粉末におけるタンタル含有量を求め、前記試料粉末の総質量100質量%に対するTa換算での含有率(質量%)として算出した。
前記試料粉末のXRF分析を行い、試料粉末におけるモリブデン含有量を求め、前記試料粉末の総質量100質量%に対するMoO換算での含有率(質量%)として算出した。
前記試料粉末のXRF分析を行い、試料粉末におけるカリウム含有量を求め、前記試料粉末の総質量100質量%に対するKO換算での含有率(質量%)として算出した。 前記試料粉末のXRF分析を行い、試料粉末におけるナトリウム含有量を求め、前記試料粉末の総質量100質量%に対するNaO換算での含有率(質量%)として算出した。
【0171】
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
試料粉末を、0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40k
V/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°又は走査範囲10~90°の条件で測定を行った。
【0172】
[XRDシフトによるxの算出]
Taを含まないKNa(1-x)NbOに関しては、XRDのピーク位置を既報(Bo-Ping Zhang et al. J. Am. Ceram. Soc., 89 [5] 1605-1609 (2006))に記載のデータ
と照合させ、内挿により組成xを定めた。
【0173】
[粒子サイズの測定]
(キュービック状の形状を有する粒子の場合)
試料粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した。二次元画像上に認められる最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、キュービック状の形状を有すると認められる場合、その一次粒子の粒子像から判別される六面体の一辺の長さを、粒子サイズとして計測した。
同様の操作を50個の一次粒子に対して行い、各平均値を求めた。
【0174】
[結晶子サイズの測定]
X線回折装置としてSmartLab(株式会社リガク製)を用い、検出器として高強度・高分解能結晶アナライザ(CALSA)を用い、解析ソフトとしてPDXLを用いて測定を行った。測定方法は2θ/θ法であり、2θ=23.0±1.0°に出現するピーク、2θ=32.0±1.2°に出現するピーク、及び2θ=57.0±1.0°に出現するピークの半値幅からシェラー式を用いて平均結晶子サイズを算出した。なお、測定条件として、スキャンスピードは0.05度/分であり、スキャン範囲は20~70度であり、ステップは0.002度であり、装置標準幅は0.028°(Si)とした。
【0175】
[粒度分布測定]
レーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として求めた。体積積算%の分布曲線が小粒子側から10%の横軸と交差する点の粒子径をD10として求めた。体積積算%の分布曲線が小粒子側から90%の横軸と交差する点の粒子径をD90として求めた。
【0176】
[比表面積測定]
試料粉末の比表面積は、比表面積計(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
【0177】
<1.KNa(1-x)NbTa(1-y)粒子の製造>
[実施例1]
酸化ニオブ(関東化学株式会社製試薬、Nb)10.0g、酸化モリブデン(関東化学株式会社製試薬、MoO)6.8g、炭酸カリウム(関東化学株式会社製試薬、KCO)7.53g、及び炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製試薬、NaCO)4.0g、を乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて1100℃で10時間焼成を行なった。降温後、坩堝をセラミック電気炉から取り出した。
続いて、得られた焼成物を水で5回超音波洗浄した後、ろ過により洗浄水を除く水洗浄と、乾燥とを行うことで、残存するフラックス剤を除去し、実施例1の粉末10.8gを得た。
【0178】
上記の合成条件を表1に示す。
【0179】
【表1】
【0180】
[実施例2~13]
実施例1において、原料化合物の配合及び焼成温度を表1に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同様の操作により、実施例2~13の粉末をそれぞれ得た。
表1中の原料Taは、酸化タンタル(関東化学株式会社製試薬、Ta)を使用した。
【0181】
[比較例1]
市販のニオブ酸カリウムナトリウム(日本化学工業製)を、比較例1の粉末として使用した。
【0182】
<結果>
上記の実施例1~13および比較例1の粉末のSEMの画像を図1~14に示す。
【0183】
上記の各評価の結果を表2に示す。「-」は該当の化合物を使用していないことを表す
。「N.D.」はnot detectedの略であり、不検出であることを表す。
【0184】
【表2】
【0185】
表2に、SEMの画像から判別される、各実施例及び比較例の粒子の形状及びサイズを記す。
異なる形状の粒子が混在していると認められる場合には、代表的な形状(最も多く観察される形状)を記した。キュービック状の粒子の凝集体も、キュービック状の形状を有するものに含めて記した。特定の形状が観察されない場合には、無定形と判定した。
【0186】
XRD分析の結果を図15~19に示す。
各実施例1~5の試料において、KNa(1-x)NbOのペロブスカイト構造の(100)面、(110)面、(221)面に由来する2θ=23.0±1.0°、2θ=32.0±1.2°、及び2θ=57.0±1.0°のそれぞれのピークが認められた。
【0187】
実施例6の試料において、NaNbOのペロブスカイト構造の(100)面、(110)面、(221)面に由来する2θ=23.0±1.0°、2θ=32.0±1.2°、及び2θ=57.0±1.0°のそれぞれのピークが認められた。
実施例7の試料において、KNbOのペロブスカイト構造の(100)面、(110)面、(221)面に由来する2θ=23.0±1.0°、2θ=32.0±1.2°、及び2θ=57.0±1.0°のそれぞれのピークが認められた。
【0188】
各実施例8~13の試料において、KNa(1-x)NbTa(1-y)のペロブスカイト構造の(100)面、(110)面、(221)面に由来する2θ=23.0±1.0°、2θ=32.0±1.2°、及び2θ=57.0±1.0°のそれぞれのピークが認められた。
【0189】
比較例1の試料においても、KNa(1-x)NbOのペロブスカイト構造の(100)面、(110)面、(221)面に由来する2θ=23.0±1.0°、2θ=32.0±1.2°、及び2θ=57.0±1.0°のそれぞれのピークが認められた。
【0190】
上記のSEM観察およびXRD解析の結果から、実施例1~13で得られた各粉末は、キュービック状の形状であり、ペロブスカイト構造を有するKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子であることが確認された。
【0191】
X線回折測定により取得される上記に示した各ピークのうち、2θ=23.0±1.0°にピークトップを有するピークのピーク強度I(100)と、2θ=32.0±1.2°にピークトップを有するピークのピーク強度I(110)と、の比(R)を求めた。 R=I(100)/I(110)
ピーク強度は、該当のピークのピークトップにおける値を採用した。
【0192】
上記Rの値を表2に示す。図15~19に示される結果からも明らかなように、実施例1~13ではRの値が1以上であるのに対し、比較例1ではRの値が0.9であり、実施例よりも低い値であった。
SEMでの観察結果によれば、比較例1の粉末試料には無定形の粒子が混在することが確認されている。比較例1では、無定形の粒子の含有割合が多いことで、XRD測定時に各粒子の向きが揃い難く、(100)面よりも(110)面に由来する回折がより多く検出されたと考えられる。
このことから、上記Rの値が1以上である実施例1~13で得られた粉末は、粒子形状の整ったKNa(1-x)NbO粒子を多く含む、高品質なものであることが示された。
【0193】
また、実施例1~13の粉末試料は、XRF分析により求められた表2に示す酸化物換算量で、ニオブ、タンタル、モリブデン、カリウム、ナトリウムを含有することが示された。
【0194】
各粒子サイズ(SEM観察、D50)、及び結晶子サイズに着目すると、実施例1~13の粒子は、比較例の粒子よりも、一次粒子サイズ及び結晶子サイズの大きいものが得られていた。これは、各実施例の製造方法において使用した原料化合物の、MoO、NaCo、及びKCOの大部分(それらの生成物や分解物も含む)がフラックス剤として機能したことで、粒子の結晶成長が良好に進行可能であった結果であると考えられる。
【0195】
また、焼成温度が高いほど、より大きなサイズの粒子が得られる傾向にあった(実施例1~5)。
【0196】
実施例1~13及び比較例1の各粒子は、表2に示すBET比表面積を有することが確認された。
【0197】
実施例1~13の結果から、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物の存在下でニオブ化合物、或いはニオブ化合物及びタンタル化合物を焼成することにより、平均結晶子サイズの値が大きく、ペロブスカイト構造を有する、高品質なKNa(1-x)NbTa(1-y)粒子を焼成可能であることが示された。
【0198】
なお、モリブデン化合物を使用した実施例1~12では、KNa(1-x)NbTa(1-y)粒子の実収量/理論収量×100(質量%)で計算した収率がいずれも80質量%以上であったが、モリブデン化合物を使用していない実施例13では、KNa(1-x)NbTa(1-y)粒子の収率が28質量%であった。
このことから、モリブデン化合物を使用することにより、KNa(1-x)NbTa(1-y)粒子を高効率に製造可能であることが示された。
【0199】
<2.樹脂組成物の製造>
2.1.KNa(1-x)NbO粒子の製造
[実施例14]
酸化ニオブ(関東化学株式会社製、Nb)40.3g、酸化モリブデン(日本無機化学工業製、MoO)27.21g、炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製、NaCO)x=8.0g、及び炭酸カリウム(関東化学株式会社製、KCO)46.1g-xg、をアブソリュートミル(大阪ケミカル社製)にて30秒間混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナルツボ4個に分けて充填し、セラミック電気炉にて900℃で10時間焼成した。
続いて、得られた焼成物を250mLの純水中に入れ、超音波洗浄機にて10分間処理した後30分静置し、デカンテーションを行う超音波洗浄を4回繰り返し、乾燥を行い、実施例14の粉末を得た。
【0200】
上記の合成条件を表3に示す。
【0201】
【表3】
【0202】
[実施例15~17]
実施例14において、原料化合物の配合及び焼成温度を表3に記載のとおり変更した以外は、実施例14と同様の操作により、実施例15~17の粉末をそれぞれ得た。
【0203】
<結果>
上記の各評価の結果を表4に示す。「-」は該当の化合物を使用していないことを表す
。「N.D.」はnot detectedの略であり、不検出であることを表す。
【0204】
【表4】
表4に示される結果から、実施例14~17で得られた粉末は、ペロブスカイト構造を有するKNa(1-x)NbO粒子であることが確認された。
【0205】
2.2.樹脂組成物の製造
シアノエチル化ポリビニルアルコール(信越化学工業株式会社製、シアノレジン(登録商標)CR-V)30質量%をN,N-ジメチルホルムアミド70質量%に溶解させ、ポリマー溶液を得た。このポリマー溶液7.33gと、実施例14~17及び比較例1のいずれかで得られた粉末13.5gと、をバイアル瓶の中に入れ、ミキサー(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて2分間混合し、実施例15~17、及び比較例1の樹脂組成物を得た。
【0206】
<圧電性能の評価>
圧電性能の評価のため、以下の手順にて、簡易的なスピーカー(図20)を作製した。
【0207】
厚さ50μmのPETフィルム10上に、蒸着装置にて厚さ100nmの銅電極を蒸着し、これを下部電極20とした。
ベーカー式アプリケータ(テスター産業製、SA-201)を用いて、上記で得られた樹脂組成物を、乾燥後の厚さが50μmとなるように上記の銅電極上に塗工し、コンポジット層30(樹脂組成物の成形体)を形成した。その後、80℃の乾燥機にて10分間乾燥させた。なお、塗工の際は、マスキングテープを用いて銅電極の一部を覆い、銅電極の一部が露出するようにした。
【0208】
コロナ放電システム(エレメント有限会社製、ELC-01N型)を用い、銅電極をアースに落とした後、上記で得た積層体を100℃に加熱し、コンポジット層30の表面に-7kV電圧を印加して分極処理を実施した。
【0209】
下部電極20の露出部、及びコンポジット層の周辺部をカプトンテープにてマスキングして、コンポジット層30の領域より少し小さめの領域においてAl電極を蒸着し、これを上部電極40とした。
【0210】
得られた、PETフィルム10(50μm)/下部電極20(Cu,100nm)/コンポジット層30(50μm)/上部電極40(Al,100nm)がこの順に積層された積層体の、下部電極20と上部電極40とに、導電性テープ61,62(銅箔,3M社製、CU-35C)を取り付けた後、積層体をO-リング51,52にて挟み、コンポジット層をたわませた。
【0211】
ワニ口クリップで挟んだ導電性テープ61,62を介して、1kHz、20Vppの電圧を印加し、コンポジット層から2cm離れた場所で、マイクロホン(アコー社製、4152N)で計測して音圧(比較例1を1とした相対値)を取得した。
【0212】
結果を表5に示す。なお、表5に記載のK/(K+Na)で定義するモル比は、表4に記載するXRF分析により算出されたKO換算およびNaO換算での含有率(質量%
)から換算した。
【0213】
【表5】
【0214】
実施例14~17の粉末を含有するコンポジット層を備えるスピーカーは、比較例1の粉末を含有するコンポジット層を備えるスピーカーに比べ、音圧の値が非常に高かった。このことから、実施例14~17の粉末を含有するコンポジット層が優れた圧電効果を示すことが明らかとなった。
【0215】
音圧の向上は、実施例14~17の粉末に含まれるKNa(1-x)NbO粒子の結晶子サイズが、比較例1の粉末に含まれるKNa(1-x)NbO粒子の結晶子サイズよりも大きいことで、優れた圧電性能が発揮されたからであると考えられる。
例えば、xの値(K/(K+Na)の値)が近しい比較例1と実施例15とを比べると、実施例15の粉末に含まれるKNa(1-x)NbO粒子の2θ=23.0±1.0°のピークから求められる結晶子サイズのほうが、比較例1の粉末における結晶子サイズよりも大きいことが分かる。
【0216】
更には、上記ピーク強度の比のRの値が高いことからも示されるように、実施例14~17の粉末が、粒子形状の整ったKNa(1-x)NbO粒子を多く含む高品質なものであることも、優れた圧電性能の発揮に寄与したと考えられる。
【0217】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0218】
1…スピーカー、10…フィルム、20…下部電極、30…コンポジット層、40…上部電極、51,52…O-リング、61,62…導電性テープ
図1
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