(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】物体検知システム、物体検知装置、物体検知方法、及び物体検知プログラム
(51)【国際特許分類】
G01V 3/12 20060101AFI20241016BHJP
G01S 13/04 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G01V3/12 A
G01S13/04
(21)【出願番号】P 2021118877
(22)【出願日】2021-07-19
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 信也
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
(72)【発明者】
【氏名】牟田 修
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-156037(JP,A)
【文献】特開2015-117974(JP,A)
【文献】特開2021-032697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/12
G01S 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置位置を固定された送信アンテナと、設置位置が可変の一つ又は複数の受信アンテナと、前記送信アンテナと前記一つ又は複数の受信アンテナとの間の無線通信に含まれる情報をキャプチャして通信エリア内での物体を検知する物体検知装置と、を備える物体検知システムにおいて、
前記送信アンテナは、予め決められた既知信号を送信するように構成され、
前記一つ又は複数の受信アンテナは、受信した前記既知信号から導出される前記送信アンテナまでの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信するように構成され、
前記物体検知装置は、
前記一つ又は複数の受信アンテナが送信した伝搬路状態情報を取得する情報取得処理と、
取得した伝搬路状態情報を前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置及び検知対象物体の配置状態に関連付けて蓄積する情報蓄積処理と、
前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置ごとに、前記検知対象物体が第1の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報と、前記検知対象物体が第2の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報との相互相関値を導出する導出処理と、
前記相互相関値に基づいて前記一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置を選択する選択処理と、
前記最適設置位置の選択結果を出力する出力処理と、を実行するように構成された
ことを特徴とする物体検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の物体検知システムにおいて、
前記物体検知装置は、
前記導出処理では、前記検知対象物体が前記通信エリア内に配置されていない状態或いは第1の所定位置に配置された状態で取得された伝搬路状態情報と、前記検知対象物体が前記通信エリア内の第2の所定位置に配置された状態で取得された伝搬路状態情報との相互相関値を導出し、
前記選択処理では、前記相互相関値が最小となる前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置を前記最適設置位置として選択する、ように構成された
ことを特徴とする物体検知システム。
【請求項3】
請求項1に記載の物体検知システムにおいて、
前記物体検知装置は、
前記導出処理では、前記検知対象物体が前記通信エリア内に配置されていない状態で取得された伝搬路状態情報と、前記検知対象物体が前記通信エリア内に配置された状態で取得された伝搬路状態情報との相互相関値を前記通信エリア内での前記検知対象物体の複数の配置位置のそれぞれについて導出し、
前記選択処理では、前記検知対象物体の前記複数の配置位置のそれぞれについて導出された前記相互相関値の代表値が最小となる前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置を前記最適設置位置として選択する、ように構成された
ことを特徴とする物体検知システム。
【請求項4】
請求項1に記載の物体検知システムにおいて、
前記物体検知装置は、
前記導出処理では、
前記通信エリア内での前記検知対象物体の複数の配置位置のそれぞれに関し、
前記検知対象物体が前記配置位置に配置された状態で取得された伝搬路状態情報と、前記検知対象物体が前記配置位置の近傍位置に配置された状態で取得された伝搬路状態情報との相互相関値を前記配置位置の複数の近傍位置について導出する処理と、
前記配置位置の前記複数の近傍位置について導出された前記相互相関値の代表値を前記配置位置についての代表相互相関値として導出する処理と、を実行し、
前記選択処理では、前記検知対象物体の前記複数の配置位置のそれぞれについて導出された前記代表相互相関値の代表値が最小となる前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置を前記最適設置位置として選択する、ように構成された
ことを特徴とする物体検知システム。
【請求項5】
請求項1に記載の物体検知システムにおいて、
前記物体検知装置は、
前記情報取得処理では、前記通信エリア内に設置された一つの受信アンテナが送信した伝搬路状態情報を取得し、
前記情報蓄積処理では、取得した伝搬路状態情報を前記一つの受信アンテナの設置位置及び検知対象物体の配置位置に関連付けて蓄積し、
前記導出処理では、前記一つの受信アンテナの設置位置ごと且つ前記検知対象物体の配置位置ごとに取得された伝搬路状態情報に基づき前記通信エリア内に複数の受信アンテナが設置された場合の相互相関値を導出し、
前記選択処理では、前記相互相関値が最小となる前記複数の受信アンテナの設置位置を前記最適設置位置として選択する、ように構成された
ことを特徴とする物体検知システム。
【請求項6】
設置位置を固定された送信アンテナと、設置位置が可変の一つ又は複数の受信アンテナとの間で行われる無線通信に含まれる情報をキャプチャして通信エリア内での物体を検知する物体検知装置において、
前記一つ又は複数の受信アンテナと前記送信アンテナとの間の伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を取得する情報取得処理と、
取得した伝搬路状態情報を前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置及び検知対象物体の配置状態に関連付けて蓄積する情報蓄積処理と、
前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置ごとに、前記検知対象物体が第1の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報と、前記検知対象物体が第2の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報との相互相関値を導出する導出処理と、
前記相互相関値に基づいて前記一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置を選択する選択処理と、
前記最適設置位置の選択結果を出力する出力処理と、を実行するように構成された
ことを特徴とする物体検知装置。
【請求項7】
設置位置を固定された送信アンテナと、設置位置が可変の一つ又は複数の受信アンテナとの間で行われる無線通信に含まれる情報をキャプチャして通信エリア内での物体を検知する物体検知方法において、
前記送信アンテナに予め決められた既知信号を送信させ、
前記一つ又は複数の受信アンテナに、受信した前記既知信号から導出される前記送信アンテナまでの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信させ、
前記一つ又は複数の受信アンテナが送信した伝搬路状態情報を取得し、
取得した伝搬路状態情報を前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置及び検知対象物体の配置状態に関連付けて蓄積し、
前記一つ又は複数の受信アンテナの設置位置ごとに、前記検知対象物体が第1の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報と、前記検知対象物体が第2の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報との相互相関値を導出し、
前記相互相関値に基づいて前記一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置を選択する
ことを特徴とする物体検知方法。
【請求項8】
請求項6に記載の前記物体検知装置が行う処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを含む
ことを特徴とする物体検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、送信アンテナと受信アンテナとの間の無線伝搬路の状態を示す情報を取得して物体を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線信号を利用して物体の検知を行う技術が知られている。そのような技術の一つの例が非特許文献1に開示されている。非特許文献1に開示されたシステムでは、物体を検知する対象となるエリアの周囲を囲うように、そのエリアの対角線もしくは隅にアンテナを設置して物体の検知が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】大槻信也,村上友規,小川智明“インテリジェント空間形成のための無線センシング技術高度化に向けた評価,” B5-24, 2020年電子情報通信学会ソサエティ大会,2020年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1には、物体検知を行うアンテナを検知対象となるエリアの対角に設定した場合と四隅に設置した場合のそれぞれについて、物体を正しく検知した割合を測定した結果が記載されている。この測定結果にもあるように、単に複数のアンテナを用いたとしても必ずしも検知率の向上にはつながらない。検知率を向上させるためにはアンテナをどのように設置するかが重要である。
【0005】
本開示は、アンテナの設置位置の最適化によって、物体の検知精度を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記目的を達成するため、物体検知システムを提供する。本開示の物体検知システムは、設置位置を固定された送信アンテナと、設置位置が可変の一つ又は複数の受信アンテナと、物体検知装置とを備えるシステムである。第1のアンテナは、予め決められた既知信号を送信するように構成されている。一つ又は複数の受信アンテナは、受信した既知信号から導出される送信アンテナまでの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信するように構成されている。物体検知装置は、送信アンテナと一つ又は複数の受信アンテナとの間の無線通信に含まれる情報をキャプチャして通信エリア内での物体を検知するように構成されている。
【0007】
本開示の物体検知システムにおいて、物体検知装置は、以下の情報取得処理、情報蓄積処理、導出処理、選択処理、及び出力処理を実行するように構成されている。情報取得処理では、一つ又は複数の受信アンテナが送信した伝搬路状態情報が取得される。情報蓄積処理では、取得された伝搬路状態情報が一つ又は複数の受信アンテナの設置位置及び検知対象物体の配置状態に関連付けて蓄積される。導出処理では、一つ又は複数の受信アンテナの設置位置ごとに、検知対象物体が第1の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報と、検知対象物体が第2の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報との相互相関値が導出される。選択処理では、導出された相互相関値に基づいて一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置が選択される。そして、出力処理では、一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置の選択結果が出力される。
【0008】
本開示は、上記目的を達成するため、物体検知装置を提供する。本開示の物体検知装置は、設置位置を固定された送信アンテナと、設置位置が可変の一つ又は複数の受信アンテナとの間で行われる無線通信に含まれる情報をキャプチャして通信エリア内での物体を検知する装置である。本開示の物体検知装置は、以下の情報取得処理、情報蓄積処理、導出処理、選択処理、及び出力処理を実行するように構成されている。情報取得処理では、一つ又は複数の受信アンテナと送信アンテナとの間の伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報が取得される。情報蓄積処理では、取得された伝搬路状態情報が一つ又は複数の受信アンテナの設置位置及び検知対象物体の配置状態に関連付けて蓄積される。導出処理では、一つ又は複数の受信アンテナの設置位置ごとに、検知対象物体が第1の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報と、検知対象物体が第2の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報との相互相関値が導出される。選択処理では、導出された相互相関値に基づいて一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置が選択される。そして、出力処理では、一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置の選択結果が出力される。
【0009】
本開示は、上記目的を達成するため、物体検知方法を提供する。本開示の物体検知方法は、設置位置を固定された送信アンテナと、設置位置が可変の一つ又は複数の受信アンテナとの間で行われる無線通信に含まれる情報をキャプチャして通信エリア内での物体を検知する方法である。本開示の物体検知方法は、以下の第1乃至第6のステップを含む。第1のステップでは、送信アンテナに予め決められた既知信号を送信させる。第2のステップでは、一つ又は複数の受信アンテナに、受信した既知信号から導出される送信アンテナまでの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信させる。第3のステップでは、一つ又は複数の受信アンテナが送信した伝搬路状態情報を取得する。第4のステップでは、取得した伝搬路状態情報を一つ又は複数の受信アンテナの設置位置及び検知対象物体の配置状態に関連付けて蓄積する。第5のステップでは、一つ又は複数の受信アンテナの設置位置ごとに、検知対象物体が第1の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報と、検知対象物体が第2の配置状態にあるときに取得された伝搬路状態情報との相互相関値を導出する。そして、第6のステップでは、相互相関値に基づいて一つ又は複数の受信アンテナの最適設置位置を選択する。
【0010】
本開示は、上記目的を達成するため、物体検知プログラムを提供する。本開示の物体検知プログラムは、上記の物体検知装置が行う処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを含む。すなわち、上記の物体検知装置は、コンピュータと物体検知プログラムとによって実現することができる。物体検知プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。物体検知プログラムは、ネットワーク経由で提供されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る物体検知システム、物体検知装置、物体検知方法、及び物体検知プログラムによれば、設置位置が可変の一つ又は複数の受信アンテナの設置位置の最適化によって、通信エリア内での物体の検知精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の各実施形態に共通の物体検知システムの構成例を示す図である。
【
図2】APとSTAとの無線通信におけるシーケンス例を示す図である。
【
図3】APから送信されるVHT NDPフレームの一例を示す図である。
【
図5】極座標から直交座標への変換方法の一例を示す図である。
【
図6】本開示の各実施形態に共通の物体検知装置の構成例を示す図である。
【
図7】APのアンテナ(ANT)の設置位置とSTAの設置位置候補と検知対象場所の例を示す図である。
【
図8】本開示の第1実施形態に係る1台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図9】本開示の第1実施形態に係る複数台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図10】本開示の第2実施形態に係る1台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図11】本開示の第2実施形態に係る複数台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図12】本開示の第3実施形態に係る1台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図13】本開示の第3実施形態に係る複数台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図14】本開示の第4実施形態に係る1台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図15】本開示の第4実施形態に係る複数台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【
図16】本開示の第5実施形態に係る複数台のSTAの設置位置の選択方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の物体検知システム、物体検知装置、物体検知方法、及び物体検知プログラムの実施形態について説明する。
【0014】
1.各実施形態に共通の物体検知システムの構成
図1は、本開示の各実施形態に共通の物体検知システム100の構成例を示す。物体検知システム100は、2以上のアンテナ104を有するAP(Access Point)101と少なくとも1台のSTA(Station)102とを有する無線LAN(Local Area Network)システムを利用する。そして、物体検知装置103が無線LANシステムの通信エリア内の物体を検知する。
図1において、AP101は、3つのアンテナ104を有する。ただし、AP101が2以上のアンテナ104を備える場合であれば、本実施形態の適用が可能である。なお、本実施形態では、STA102は少なくとも1本のアンテナを備えていればよい。ここで、AP101の各アンテナ104は「送信アンテナ」に対応し、STA102は「受信アンテナ」に対応する。
【0015】
図1に示す無線LANシステムは、無線LAN規格の802.11acに対応し、AP101は、3つのアンテナ104を用いてMIMO通信を行う。STA102は、AP101と通信を行う無線LAN端末である。STA102は、AP101の3つのアンテナ104から送信される無線信号を受信する。逆に、STA102は、AP101の3つのアンテナ104に無線信号を送信する。このようにして、AP101とSTA102との間で802.11acに対応する無線通信が行われる。
【0016】
802.11acでは、AP101の3つのアンテナ104からそれぞれ送信される測定用データに基づいて、STA102は各アンテナ104と自装置との間の無線伝搬路の状態を測定する。STA102は測定した無線伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報をAP101に送信する。
【0017】
物体検知装置103は、AP101とSTA102との間で通信される無線信号をモニタして、無線LANシステムの通信エリア内における人間などの物体を検知する。特に本実施形態では、物体検知装置103は、STA102からAP101に送信される伝搬路状態情報をキャプチャする。そして、物体検知装置103は、キャプチャした伝搬路状態情報に基づいて、無線LANシステムの通信エリア内における物体を検知する。
【0018】
なお、
図1に示す物体検知装置103の位置は一例である。物体検知装置103の位置はSTA102から送信される無線信号を受信できる位置であればどこでもよい。また、
図1の例では、AP101、及びSTA102とは別に物体検知装置103が配置されているが、独立した物体検知装置103を使用せずに、物体検知装置103がAP101またはSTA102に一体化されていてもよい。
【0019】
また、
図1では、AP101、及びSTA102はそれぞれ1台ずつ配置されているが、AP101またはSTA102の少なくとも一方が複数台配置されていてもよい。また、AP101が複数台ある場合に、AP101間の無線通信に本実施形態を適用してもよい。この場合、一方のAP101が本実施形態におけるSTA102と同様の機能を有する。
【0020】
また、
図1では、AP101のみが複数のアンテナ104を有するが、STA102が複数のアンテナを有してもよい。さらに、
図1では、アンテナ104がAP101に直結されているが、同軸ケーブル等で延長する構成でもよい。これにより、アンテナ104を広く張り出して設置することができるので、検知エリアの拡大が可能になる。
【0021】
このように、本実施形態に係る物体検知システム100は、802.11acに準拠する無線LANシステムの通信を利用して、AP101とSTA102との間の通信エリア内の物体を検知する。
【0022】
2.無線LANシステムの通信を利用した物体の検知方法の概要
図2は、AP101とSTA102との無線通信におけるシーケンス例を示す。AP101は、伝搬路状態情報、すなわち、CSIを取得するためのサウンディングプロトコルの開始信号として、VHT NDP Announcementフレームをブロードキャストする。その直後に、AP101は、測定用データを含むVHT NDPフレームを宛先のSTA102に送信する。VHTはVery High Throughputの略であり、802.11acでは超高速通信を行うためのVHTフレームを基本とする。また、NDPはNull Data Packetの略であり、VHT NDPフレームは通信用データを含まないフレームである。VHT NDP Announcementフレームは、AP101と宛先のSTA102のアドレスを含み、VHT NDPフレームの送信をSTA102に事前通知するためのフレームである。なお、VHT NDP Announcementフレームは、特定の1以上のアンテナ104から送信されるが、2以上のアンテナ104から送信する場合もすべて同じデータの信号が各アンテナ104から送信される。
【0023】
ここで、AP101から送信されるVHT NDPフレームの一例を
図3に示す。
図3において、VHT NDPフレームは、ヘッダ151(フレーム種別などを格納)、測定用データ250、及びテイラー156(誤り検出などを格納)により構成される。ヘッダ151、及びテイラー156は、VHT NDP Announcementと同様に送信されるが、測定用データ250は各アンテナ104から個別に送信される。
図3に示す例ではアンテナ104は4本であり、4本のアンテナ104から測定用データ152、測定用データ153、測定用データ154、及び測定用データ155が時分割でそれぞれ送信される。各アンテナ104から送信された測定用データ152、測定用データ153、測定用データ154、及び測定用データ155は、STA102において、一つのVHT NDPフレームとして受信される。
【0024】
再び
図2に戻り、AP101とSTA102との無線通信におけるシーケンスについての説明を続ける。AP101からVHT NDPフレームを受信したSTA102は、IEEE802.11acで規定された手法により、圧縮されたCSIの値を導出する(H. Yu and T. Kim, “Beamforming transmission in IEEE 802.11ac under time-varying channels,” The Scientific World J., vol. 2014, pp. 1-11, Jul. 2014, article ID 920937.参照)。
【0025】
ここで、圧縮されたCSIの一例を
図4に示す。
図4において、左の列から順に、送信アンテナ数×受信アンテナ数、圧縮されたCSIの数、圧縮されたCSIの一例が記載されている。φijは、i番のアンテナ104とj番のアンテナ104とから送信された信号のSTA102のアンテナでの位相差を示す。ただし、φij∈[0,2π)である。また、ψijは、i番のアンテナ104とj番のアンテナ104とから送信された信号のSTA102のアンテナでの振幅比を角度で表した値(振幅の絶対値の比のtan
-1の値)を示す。ただし、ψij∈[0,π/2)である。
【0026】
図4の例によれば、例えば、送信アンテナ数が2本、受信アンテナ数が1本の場合(2×1と記載)、圧縮されたCSIの数は2、圧縮されたCSIはφ11、ψ21である。同様に、2×2の場合、圧縮されたCSIの数は2、圧縮されたCSIはφ11、ψ21である。以下、同様に、送信アンテナ数と受信アンテナ数の組み合わせに応じて、圧縮されたCSIが得られる。
図1に示す物体検知システム100では、送信アンテナ数はAP101のアンテナ104の数(3本)であり、受信アンテナ数はSTA102のアンテナの数(1本)である。この場合、
図4の例の3×1に対応し、圧縮されたCSIの数は4、圧縮されたCSIはφ11、φ21、ψ21、ψ31である。
【0027】
再び
図2に戻り、AP101とSTA102との無線通信におけるシーケンスについての説明を続ける。STA102は、導出した圧縮されたCSIをVHT Compressed Beamforming Reportフレームに格納して送信する。前述の通り、VHT NDPフレームの測定用データはAP101のそれぞれのアンテナ104から個別に送信されるので、STA102は、AP101のアンテナ104ごとのCSIを取得することができる。アンテナ数が多くなるとSTA102からAP101にフィードバックするCSIの情報量は多くなる。このため、すべてのCSIから予め決められた条件により選択されたCSI(圧縮されたCSI)がAP101にフィードバックされる。
【0028】
AP101は、STA102からフィードバックされる圧縮されたCSIの情報に基づいて、送信アンテナとしての各アンテナ104と受信アンテナとしてのSTA102との間の無線伝搬路の状態を取得し、MIMO通信を行うことができる。
【0029】
物体検知装置103は、受信アンテナとしてのSTA102がAP101に送信するVHT Compressed Beamforming Reportフレームをモニタしてキャプチャする。そして、物体検知装置103は、キャプチャしたVHT Compressed Beamforming Reportに格納された圧縮されたCSIを抽出し、抽出したデータに対して前処理を行う。前処理では、例えば、極座標から直交座標への変換が行われる。通信エリア内に物体が存在する場合、CSIに変動が生じる。物体検知装置103は、前処理したデータを特徴量とした機械学習により通信エリア内の物体を検知する。
【0030】
ここで、極座標から直交座標への変換方法の一例を
図5に示す。
図5において、x軸からの角度φijは、半径1の円周上の対応するx,y座標に変換することができる。なお、角度0と2πは同一の値であるが、数値として不連続になるため機械学習への入力としては不適切である。そこで、以下の式に示すように、角度φijをx,y座標の数値に変換することにより、数値の連続性が保たれる。
xij=cosφij
yij=sinφij
【0031】
3.各実施形態に共通の物体検知装置の構成
図6は、各実施形態に共通の物体検知装置103の構成例を示す。ただし、
図6には物体の検知に関わる構成に限定してAP101とSTA102の構成も示されている。AP101はM(M>1)本のアンテナ104を備え、STA102はN(N≧1)本のアンテナ301を備える。AP101とSTA102とはOFDM方式で信号を送受信する。STA102は各アンテナ301で受信された信号をFFT部302でFFT処理し、複数のサブキャリア信号を再生する。STA102は、再生されたサブキャリア信号に基づき、チャネル推定・CSI生成部303においてチャネル推定とCSIの生成とを行う。チャネル推定で得られた推定値は、サブキャリア信号の復調に用いられる。そして、圧縮されたCSIを含む信号がSTA102からAP101にフィードバックされる。
【0032】
図6において、物体検知装置103は、アンテナ201、CSI抽出部202,データ前処理部203、機械学習部204、判定部205、CSI情報蓄積部206、相互相関導出部207、及び設置位置選択部208を備える。物体検知装置103は、コンピュータもしくはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路で構成することが可能であり、CSI抽出部202から設置位置選択部208までの各機能はコンピュータで実行可能なプログラムで実現することができる。また、プログラムは、記憶媒体に記録して提供されてもよいし、ネットワークを通して提供されてもよい。
【0033】
AP101とSTA102との間で通信される電波はアンテナ201で受信され、受信信号に変換されてCSI抽出部202に出力される。CSI抽出部202は、受信信号から復調される無線LANフレームをキャプチャし、キャプチャした無線LANフレームの中から予め設定された条件のフレームのみを選別する。予め設定された条件は、フレームの送信元、及び送信先が対象となるAP101、及びSTA102であること、フレームの種別がVHT Compressed Beamforming Reportフレームであることである。CSI抽出部202は、選別したVHT Compressed Beamforming Reportフレーム内の圧縮されたCSIのデータを抽出する。
【0034】
データ前処理部203は、CSI抽出部202で抽出された圧縮されたCSIを座標変換する。具体的には、データ前処理部203は、圧縮されたCSIの位相差を示すφijと圧縮されたCSIの振幅比を示すψijとをそれぞれ極座標から直交座標に変換する。データ前処理部203で前処理された圧縮されたCSIの出力先は、機械学習部204、判定部205、及びCSI情報蓄積部206の中から物体検知装置103の動作フェーズに応じて選択される。
【0035】
物体検知装置103は、3つの動作フェーズ、すなわち、学習フェーズ、検知フェーズ、及び設置位置選択フェーズを有する。学習フェーズでは、データ前処理部203で前処理された圧縮されたCSIは機械学習部204に入力される。機械学習部204は、物体の有無を示すラベル(教師データ)とCSIとの組み合わせを学習し、その学習データを蓄積する。
【0036】
検知フェーズでは、データ前処理部203で前処理された圧縮されたCSIは判定部205に入力される。判定部205は、機械学習部204に蓄積された学習データと実際に得られたCSIとの比較に基づいて、通信エリア内での物体の有無を判定する。物体検知装置103は、判定部205による判定結果を通信エリア内での物体の検知結果として出力する。
【0037】
このように、物体検知装置103は、802.11acに準拠する無線LANシステムの通信を利用して、通信エリア内の物体を検知することができる。ただし、物体検知装置103による物体の検知精度は、AP101のアンテナ104とSTA102との位置関係と通信エリアの環境とに依存する。特に、AP101のアンテナ104の設置位置が固定されている場合、物体検知装置103による物体の検知精度は受信アンテナであるSTA102の設置位置によって決まる。設置位置選択フェーズは、通信エリア内での物体の検知精度を向上させることができるSTA102の設置位置を選択するために用意されている。
【0038】
設置位置選択フェーズでは、データ前処理部203で前処理された圧縮されたCSIはCSI情報蓄積部206に入力される。以下、設置位置選択フェーズに関する説明では、データ前処理部203で前処理された圧縮されたCSIを単にCSIと表記する。CSI情報蓄積部206は、入力されたCSIを通信エリア内でのSTA102の設置位置と検出対象物体の配置状態に関連付けて蓄積する。CSI情報蓄積部206に蓄積された情報は相互相関導出部207で処理され、相互相関導出部207での処理結果に基づいて設置位置選択部208によりSTA102の設置位置が選択される。設置位置選択部208で選択されたSTA102の設置位置は、STA102の最適設置位置として物体検知装置103から出力される。
【0039】
本明細書はSTA102の設置位置の選択方法に特徴がある5つの実施形態を開示する。相互相関導出部207と設置位置選択部208では、実施形態間で共通の技術思想のもと実施形態ごとに特徴のある処理が行われる。以下、相互相関導出部207と設置位置選択部208による処理と、それにより実現されるSTA102の設置位置の選択方法について実施形態ごとに説明する。
【0040】
なお、以下に説明する各実施形態では、
図7に示すように、閉ざされた通信エリア内においてAP101のアンテナ104の設置位置とSTA102の設置位置候補と検知対象場所とが定められているものとする。
図7に示す例では、1番から3番までの二重丸で示す位置にAP101の各アンテナ104が設置されている。アンテナ104の設置位置は固定である。検知対象物体は1番から20番までの白丸で示す位置のいずれかに配置される。そして、STA102は、検知対象物体の配置状態に応じて1番から15番までの黒丸で示す位置の少なくとも一つに設置される。なお、STA102に備えられるアンテナは複数あったとしてもほぼ同一の場所に設置されるので、STA102全体が1つの受信アンテナとみなされる。
【0041】
以下に説明する各実施形態では、検出対象物体がいずれかの位置に配置された状態でSTA102をいずれかの設置位置候補に設置した場合に取得されるCSIが用いられる。ただし、前述のとおり、ここで取得されるCSIとは、圧縮されたCSIを前処理によって極座標から直交座標へ変換することで得られるCSIである。
【0042】
ここで、以下に説明する全実施形態に共通の記載上の取り決めとして、検出対象物体が位置nに配置されている状態で位置iにSTA102を設置した場合に取得されるCSIをCSI
n(i)と記載する。nは
図7に示す白丸の番号に対応する1から20までの自然数である。ただし、検出対象物体がどこにも配置されていない場合、n=0とする。iは
図7に示す黒丸の番号に対応する1から15までの自然数である。
【0043】
また、以下に説明する各実施形態では、STA102の設置位置ごとに、検知対象物体が第1の配置状態にあるときに取得されたCSIと、検知対象物体が第2の配置状態にあるときに取得されたCSIとの相互相関値が導出される。全実施形態に共通の記載上の取り決めとして、STA102が位置iに設置され且つ検出対象物体がn番の位置に配置された状態でのCSIn(i)と、STA102が位置iに設置され且つ検出対象物体がm番の位置に配置された状態でのCSIm(i)との相互相関値をCOR(n,m)(i)と記載する。
【0044】
CSI
n(i)とCSI
m(i)とは同じ次元を持つベクトルである。ゆえに、一例として相互相関値COR
(n,m)(i)は以下の式1で算出することができる。以下の式1において、A・BはベクトルAとベクトルBの内積を表し、|A|はベクトルAの絶対値を表している。
【数1】
【0045】
また、全実施形態に共通の記載上の取り決めとして、検出対象物体が位置nに配置された状態で位置iと位置jとにSTA102を設置した場合に取得されるCSIをCSI
n(i,j)と記載する。CSI
n(i,j)は、以下の式2に示すように、STA102が位置iに設置され且つ検出対象物体がn番の位置に配置された状態でのCSI
n(i)と、STA102が位置jに設置され且つ検出対象物体がn番の位置に配置された状態でのCSI
n(j)とで表すことができる。ただし、CSI
n(i)=(a,b,c,…)とし、CSI
n(j)=(d,e,f,…)とする。
【数2】
【0046】
さらに、全実施形態に共通の記載上の取り決めとして、STA102が位置iと位置jとに設置され且つ検出対象物体がn番の位置に配置された状態でのCSI
n(i,j)と、STA102が位置iと位置jとに設置され且つ検出対象物体がm番の位置に配置された状態でのCSI
m(i,j)との相互相関値をCOR
(n,m)(i,j)と記載する。CSI
n(i,j)とCSI
m(i,j)とは同じ次元を持つベクトルであるから、一例として相互相関値COR
(n,m)(i,j)は以下の式3で算出することができる。
【数3】
【0047】
STA102が3つ以上の位置i,j,k,…に設置されている場合にも、上記の式2と同様にして伝搬路状態情報としてのCSIn(i,j,k,…)を計算することができる。また、上記の式3と同様にして相互相関値としてのCOR(n,m)(i,j,k,…)を計算することができる。
【0048】
4.第1実施形態に係るSTAの設置位置の選択方法
4-1.STAを1台設置する場合
第1実施形態は、単純にある特定の位置での物体の有無を検知するために最適なSTA102の設置位置を決定することが目的である。第1実施形態におけるSTA102の設置台数は1台でもよいし複数台でもよい。以下、STA102の設置台数が1台の場合の設置位置の選択方法と、STA102の設置台数が複数台の場合の設置位置の選択方法について順に説明する。なお、以下に説明する方法は、レイトレースのような計算機モデルでのシミュレーションにより実施してもよいし、実際の空間における実験により実施してもよい。
【0049】
設置されるSTA102が1台の場合の設置位置の選択方法は、
図8を参照して説明することができる。ここでは一例として、13番の白丸の位置にある物体を検知するものとする。
【0050】
まず、
図8Aに示すように、検出対象物体がどこにも配置されていない状態でSTA102をいずれか一つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図8Aに示す例では、1番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
0(1)を取得する。
【0051】
次に、
図8Bに示すように、STA102の設置位置は1番の位置から変えずに検出対象物体を13番の位置に配置し、その状態においてCSI
13(1)を取得する。CSI
0(1)とCSI
13(1)とが取得された場合、相互相関導出部207は、上記の式1を用いて、CSI
0(1)とCSI
13(1)との相互相関値COR
(0,13)(1)を導出する。
【0052】
相互相関導出部207は、以上のような計算を1番から15番までのSTA102の全ての設置位置候補について行い、全ての設置位置候補について相互相関値COR(0,13)(i)を導出する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値COR(0,13)(i)が最小となるSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、13番の位置にある物体を最も高い精度で検知できる設置位置として選択する。
【0053】
4-2.STAを複数台設置する場合
次に、設置されるSTA102が複数台の場合の設置位置の選択方法について
図9を参照して説明する。ここでは一例として、13番の白丸の位置にある物体を検知するものとする。また、設置されるSTA102の台数は2台であるとする。もちろん、より多くの台数のSTA102を設置してもよいが、ここでは説明を簡単にするために設置台数を2台に限定する。
【0054】
まず、
図9Aに示すように、検出対象物体がどこにも配置されていない状態でSTA102をいずれか2つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図9Aに示す例では、1番と3番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
0(1)とCSI
0(3)とをそれぞれ取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
0(1)とCSI
0(3)とからCSI
0(1,3)を計算する。
【0055】
次に、
図9Bに示すように、STA102の設置位置は1番と3番の位置から変えずに検出対象物体を13番の位置に配置し、その状態においてCSI
13(1)とCSI
13(3)とをそれぞれ取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
13(1)とCSI
13(3)とからCSI
13(1,3)を計算する。CSI
0(1,3)とCSI
13(1,3)とが取得された場合、相互相関導出部207は、上記の式3を用いて、CSI
0(1,3)とCSI
13(1,3)との相互相関値COR
(0,13)(1,3)を導出する。
【0056】
相互相関導出部207は、以上のような計算をSTA102の設置位置候補の全ての組み合わせについて行い、全ての組み合わせについて相互相関値COR(0,13)(i,j)を導出する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値COR(0,13)(i,j)が最小となる2台分のSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、13番の位置にある物体を最も高い精度で検知できる設置位置として選択する。
【0057】
上述のSTA102の設置位置の選択方法は、STA102の台数が3台以上の場合にも適用できる。相互相関導出部207は、設置台数分の全ての組み合わせについて相互相関値COR(0,13)(i,j,k,…)を計算する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値COR(0,13)(i,j,k,…)が最小となるSTA102の設置位置i,j,k,…を最適設置位置として選択する。
【0058】
5.第2実施形態に係るSTAの設置位置の選択方法
5-1.STAを1台設置する場合
第2実施形態は、2つの地点での物体の有無を検知するために最適なSTA102の設置位置を決定することが目的である。第2実施形態におけるSTA102の設置台数は1台でもよいし複数台でもよい。以下、STA102の設置台数が1台の場合の設置位置の選択方法と、STA102の設置台数が複数台の場合の設置位置の選択方法について順に説明する。なお、以下に説明する方法は、レイトレースのような計算機モデルでのシミュレーションにより実施してもよいし、実際の空間における実験により実施してもよい。
【0059】
設置されるSTA102が1台の場合の設置位置の選択方法は、
図10を参照して説明することができる。ここでは一例として、13番と14番の白丸の位置にある物体を検知するものとする。
【0060】
まず、
図10Aに示すように、検出対象物体を13番の位置に配置した状態でSTA102をいずれか一つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図8Aに示す例では、1番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
13(1)を取得する。
【0061】
次に、
図10Bに示すように、STA102の設置位置は1番の位置から変えずに検出対象物体を14番の位置に配置し、その状態においてCSI
14(1)を取得する。CSI
13(1)とCSI
14(1)とが取得された場合、相互相関導出部207は、上記の式1を用いて、CSI
13(1)とCSI
14(1)との相互相関値COR
(13,14)(1)を導出する。
【0062】
相互相関導出部207は、以上のような計算を1番から15番までのSTA102の全ての設置位置候補について行い、全ての設置位置候補について相互相関値COR(13,14)(i)を導出する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値COR(13,14)(i)が最小となるSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、13番の位置にある物体と14番の位置にある物体とを最も高い精度で検知できる設置位置として選択する。
【0063】
5-2.STAを複数台設置する場合
次に、設置されるSTA102が複数台の場合の設置位置の選択方法について
図11を参照して説明する。ここでは一例として、13番と14番の白丸の位置にある物体を検知するものとする。また、設置されるSTA102の台数は2台であるとする。もちろん、より多くの台数のSTA102を設置してもよいが、ここでは説明を簡単にするために設置台数を2台に限定する。
【0064】
まず、
図11Aに示すように、検出対象物体を13番の位置に配置した状態でSTA102をいずれか2つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図9Aに示す例では、1番と3番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
13(1)とCSI
13(3)とをそれぞれ取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
13(1)とCSI
13(3)とからCSI
13(1,3)を計算する。
【0065】
次に、
図11Bに示すように、STA102の設置位置は1番と3番の位置から変えずに検出対象物体を14番の位置に配置し、その状態においてCSI
14(1)とCSI
14(3)とをそれぞれ取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
14(1)とCSI
14(3)とからCSI
14(1,3)を計算する。CSI
14(1,3)とCSI
14(1,3)とが取得された場合、相互相関導出部207は、上記の式3を用いて、CSI
13(1,3)とCSI
14(1,3)との相互相関値COR
(13,14)(1,3)を導出する。
【0066】
相互相関導出部207は、以上のような計算をSTA102の設置位置候補の全ての組み合わせについて行い、全ての組み合わせについて相互相関値COR(13,14)(i,j)を導出する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値COR(13,14)(i,j)が最小となる2台分のSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、13番の位置にある物体と14番の位置にある物体とを最も高い精度で検知できる設置位置として選択する。
【0067】
上述のSTA102の設置位置の選択方法は、STA102の台数が3台以上の場合にも適用できる。相互相関導出部207は、設置台数分の全ての組み合わせについて相互相関値COR(13,14)(i,j,k,…)を計算する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値COR(13,14)(i,j,k,…)が最小となるSTA102の設置位置i,j,k,…を最適設置位置として選択する。
【0068】
6.第3実施形態に係るSTAの設置位置の選択方法
6-1.STAを1台設置する場合
第3実施形態は、通知エリア内のいずれかの位置にある物体を検知するために最適なSTA102の設置位置を決定することが目的である。第3実施形態におけるSTA102の設置台数は1台でもよいし複数台でもよい。以下、STA102の設置台数が1台の場合の設置位置の選択方法と、STA102の設置台数が複数台の場合の設置位置の選択方法について順に説明する。なお、以下に説明する方法は、レイトレースのような計算機モデルでのシミュレーションにより実施してもよいし、実際の空間における実験により実施してもよい。
【0069】
設置されるSTA102が1台の場合の設置位置の選択方法は、
図12を参照して説明することができる。
【0070】
まず、
図12Aに示すように、検出対象物体がどこにも配置されていない状態でSTA102をいずれか一つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図12Aに示す例では、1番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
0(1)を取得する。
【0071】
次に、
図12Bに示すように、STA102の設置位置は1番の位置から変えずに検出対象物体を1番の位置に配置し、その状態においてCSI
1(1)を取得する。さらに、STA102の設置位置は1番の位置から変えずに残りの2番から20番までの全ての検出対象物体の配置位置についてCSI
2(1)~CSI
20(1)を取得する。
【0072】
相互相関導出部207は、上記の式1を用いて、CSI0(1)と1番から20番までの全てのCSI1(1)~CSI20(1)のそれぞれとの相互相関値COR(0,1)(1)~COR(0,20)(1)を導出する。次に、相互相関導出部207は、これら20個の相互相関値COR(0,1)(1)~COR(0,20)(1)の代表値CORrep(1)を計算する。なお、本実施形態において代表値CORrep(i)とは、例えば、平均値CORave(i)でもよいし最大値CORmax(i)でもよい。
【0073】
相互相関導出部207は、以上のような計算を1番から15番までのSTA102の全ての設置位置候補について行い、全ての設置位置候補について相互相関値の代表値CORrep(i)を計算する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値の代表値CORrep(i)が最小となるSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、1番から20番のいずれかの位置にある物体を最も高い精度で検知できる設置位置として選択する。
【0074】
6-2.STAを複数台設置する場合
次に、設置されるSTA102が複数台の場合の設置位置の選択方法について
図13を参照して説明する。設置されるSTA102の台数は2台であるとする。もちろん、より多くの台数のSTA102を設置してもよいが、ここでは説明を簡単にするために設置台数を2台に限定する。
【0075】
まず、
図13Aに示すように、検出対象物体がどこにも配置されていない状態でSTA102をいずれか2つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図13Aに示す例では、1番と3番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
0(1)とCSI
0(3)とをそれぞれ取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
0(1)とCSI
0(3)とからCSI
0(1,3)を計算する。
【0076】
次に、
図13Bに示すように、STA102の設置位置は1番と3番の位置から変えずに検出対象物体を1番の位置に配置し、その状態においてCSI
1(1)とCSI
1(3)とをそれぞれ取得する。さらに、STA102の設置位置は1番と3番の位置から変えずに残りの2番から20番までの全ての検出対象物体の配置位置についてCSI
2(1)~CSI
20(1)とCSI
2(3)~CSI
20(3)とをそれぞれ取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
1(1)~CSI
20(1)とCSI
1(3)~CSI
20(3)とからCSI
1(1,3)~CSI
20(1,3)を計算する。
【0077】
相互相関導出部207は、上記の式3を用いて、CSI0(1,3)と1番から20番までのCSI1(1,3)~CSI20(1,3)のそれぞれとの相互相関値COR(0,1)(1,3)~COR(0,20)(1,3)を導出する。次に、相互相関導出部207は、これら20個の相互相関値COR(0,1)(1,3)~COR(0,20)(1,3)の代表値CORrep(1,3)を計算する。なお、本実施形態において代表値CORrep(i,j)とは、例えば、平均値CORave(i,j)でもよいし最大値CORmax(i,j)でもよい。
【0078】
相互相関導出部207は、以上のような計算をSTA102の設置位置候補の全ての組み合わせについて行い、全ての組み合わせについて相互相関値の代表値CORrep(i,j)を計算する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値の代表値CORrep(i,j)が最小となる2台分のSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、1番から20番のいずれかの位置にある物体を最も高い精度で検知できる設置位置として選択する。
【0079】
上述のSTA102の設置位置の選択方法は、STA102の台数が3台以上の場合にも適用できる。相互相関導出部207は、設置台数分の全ての組み合わせについて相互相関値の代表値CORrep(i,j,k,…)を計算する。そして、設置位置選択部208は、相互相関値の代表値CORrep(i,j,k,…)が最小となるSTA102の設置位置i,j,k,…を最適設置位置として選択する。
【0080】
7.第4実施形態に係るSTAの設置位置の選択方法
7-1.STAを1台設置する場合
第4実施形態は、通知エリア内に物体を検知したい場所が多くある状況において隣接する検知対象場所を弁別するために最適なSTA102の設置位置を決定することが目的である。第4実施形態におけるSTA102の設置台数は1台でもよいし複数台でもよい。以下、STA102の設置台数が1台の場合の設置位置の選択方法と、STA102の設置台数が複数台の場合の設置位置の選択方法について順に説明する。なお、以下に説明する方法は、レイトレースのような計算機モデルでのシミュレーションにより実施してもよいし、実際の空間における実験により実施してもよい。
【0081】
設置されるSTA102が1台の場合の設置位置の選択方法は、
図14を参照して説明することができる。
【0082】
まず、
図14Aに示すように、検出対象物体がいずれか一つの場所に配置されている状態でSTA102をいずれか一つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図14Aに示す例では、検出対象物体が6番の位置に配置されている場合に、1番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
6(1)を取得する。
【0083】
次に、
図14Bに示すように、STA102の設置位置は1番の位置から変えずに検出対象物体を6番の位置に隣接する2番、5番、7番、及び10番の位置に順に配置し、それぞれの状態においてCSI
2(1)、CSI
5(1)、CSI
7(1)、及びCSI
10(1)を取得する。
【0084】
相互相関導出部207は、上記の式1を用いて、CSI6(1)とCSI2(1)、CSI5(1)、CSI7(1)、及びCSI10(1)のそれぞれとの相互相関値COR(6,2)(1)、COR(6,5)(1)、COR(6,7)(1)、及びCOR(6,10)(1)を導出する。次に、相互相関導出部207は、これらの相互相関値COR(6,2)(1)、COR(6,5)(1)、COR(6,7)(1)、及びCOR(6,10)(1)の代表値を6番の検知対象場所に対応する代表相互相関値COR(6)(1)として算出する。代表値は、例えば、平均値でもよいし最大値でもよい。同様にして、相互相関導出部207は、1番から20番までの全ての検出対象場所について代表相互相関値COR(1)(1)~COR(20)(1)を計算する。
【0085】
次に、相互相関導出部207は、得られた20個の代表相互相関値COR(1)(1)~COR(20)(1)の代表値CORrep(1)を計算する。なお、本実施形態において代表値CORrep(i)とは、例えば、平均値CORave(i)でもよいし最大値CORmax(i)でもよい。
【0086】
相互相関導出部207は、以上のような計算を1番から15番までのSTA102の全ての設置位置候補について行い、全ての設置位置候補について代表相互相関値の代表値CORrep(i)を計算する。そして、設置位置選択部208は、代表相互相関値の代表値CORrep(i)が最小となるSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、隣接する検知対象場所にある物体を最も高い精度で弁別できる設置位置として選択する。
【0087】
7-2.STAを複数台設置する場合
次に、設置されるSTA102が複数台の場合の設置位置の選択方法について
図15を参照して説明する。設置されるSTA102の台数は2台であるとする。もちろん、より多くの台数のSTA102を設置してもよいが、ここでは説明を簡単にするために設置台数を2台に限定する。
【0088】
まず、
図15Aに示すように、検出対象物体がいずれか一つの場所に配置されている状態でSTA102をいずれか2つの設置位置候補に設置し、その状態においてCSIの取得を行う。
図15Aに示す例では、検出対象物体が6番の位置に配置されている場合に、1番と3番の位置にSTA102を設置し、その状態においてCSI
6(1)とCSI
6(3)とをそれぞれ取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
6(1)とCSI
6(3)とからCSI
6(1,3)を計算する。
【0089】
次に、
図15Bに示すように、STA102の設置位置は1番と3番の位置から変えずに検出対象物体を6番の位置に隣接する2番、5番、7番、及び10番の位置に順に配置する。それぞれの状態においてCSI
2(1)、CSI
5(1)、CSI
7(1)、及びCSI
10(1)を取得するとともに、CSI
2(3)、CSI
5(3)、CSI
7(3)、及びCSI
10(3)を取得する。そして、上記の式2を用いて、CSI
2(1,3)、CSI
5(1,3)、CSI
7(1,3)、及びCSI
10(1,3)を計算する。
【0090】
相互相関導出部207は、上記の式1を用いて、CSI6(1,3)とCSI2(1,3)、CSI5(1,3)、CSI7(1,3)、及びCSI10(1,3)のそれぞれとの相互相関値COR(6,2)(1,3)、COR(6,5)(1,3)、COR(6,7)(1,3)、及びCOR(6,10)(1,3)を導出する。次に、相互相関導出部207は、これらの相互相関値COR(6,2)(1,3)、COR(6,5)(1,3)、COR(6,7)(1,3)、及びCOR(6,10)(1,3)の代表値を6番の検知対象場所に対応する代表相互相関値COR(6)(1,3)として算出する。代表値は、例えば、平均値でもよいし最大値でもよい。同様にして、相互相関導出部207は、1番から20番までの全ての検出対象場所について代表相互相関値COR(1)(1,3)~COR(20)(1,3)を計算する。
【0091】
次に、相互相関導出部207は、得られた20個の代表相互相関値COR(1)(1,3)~COR(20)(1,3)の代表値CORrep(1,3)を計算する。なお、本実施形態において代表値CORrep(i,3)とは、例えば、平均値CORave(i,3)でもよいし最大値CORmax(i,3)でもよい。
【0092】
相互相関導出部207は、以上のような計算をSTA102の設置位置候補の全ての組み合わせについて行い、全ての組み合わせについて代表相互相関値の代表値CORrep(i,j)を計算する。そして、設置位置選択部208は、代表相互相関値の代表値CORrep(i,j)が最小となる2台分のSTA102の設置位置を最適設置位置、すなわち、隣接する検知対象場所にある物体を最も高い精度で弁別できる設置位置として選択する。
【0093】
上述のSTA102の設置位置の選択方法は、STA102の台数が3台以上の場合にも適用できる。相互相関導出部207は、設置台数分の全ての組み合わせについて代表相互相関値の代表値CORrep(i,j,k,…)を計算する。そして、設置位置選択部208は、代表相互相関値の代表値CORrep(i,j,k,…)が最小となるSTA102の設置位置i,j,k,…を最適設置位置として選択する。
【0094】
8.第5実施形態に係るSTAの設置位置の選択方法
第1乃至第4実施形態では、STA102の設置台数が複数台である場合、STA102の設置位置の組み合わせが膨大になる。このため、レイトレースのような計算機モデルでのシミュレーションではなく、実際の空間における実験によりCSIを取得する場合には多大な工数を要することになる。第5実施形態は、伝搬環境の時間変動が小さいことを前提として個別にCSIを取得し、個別に取得したCSIを用いて相互相関を求めることにより、複数台のSTA102の設置位置の決定のための時間を削減することが目的である。
【0095】
本実施形態に係るSTA102の設置位置の選択方法は、
図16を参照して説明することができる。
【0096】
まず、
図16Aに示すように、1番の位置にSTA102を設置し、検出対象物体の配置位置を順に移動させて1番から20番までの全ての検出対象物体の配置位置についてCSI
1(1)~CSI
20(1)を取得する。次に、
図16Bに示すように、2番の位置にSTA102を設置し、検出対象物体の配置位置を順に移動させて1番から20番までの全ての検出対象物体の配置位置についてCSI
1(2)~CSI
20(2)を取得する。以上の処理を1番から15番までのSTA102の全ての設置位置候補について行い、全ての設置位置候補についてCSI
n(i)(n=1,2,…,20)(i=1,2,…,15)を取得する。
【0097】
相互相関導出部207は、STA102の設置位置候補ごと且つ検知対象物体の配置位置ごとに取得されたCSIn(i)に基づき、通信エリア内に複数台のSTA102が設置された場合の相互相関値を導出する。具体的には、例えばSTA102を3台設置する場合には、上記の式2を用いて、CSIn(i)、CSIn(j)、及びCSIn(k)からCSIn(i,j,k)を計算する。相互相関導出部207は、このように計算されたCSIn(i,j,k)を用いて第1乃至第4実施形態のいずれかの方法にて相互相関値を導出する。そして、設置位置選択部208は、相互相関導出部207で導出された相互相関値が最小となるSTA102の設置位置i,j,kを最適設置位置として選択する。
【0098】
9.その他
上記実施形態は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々に変形して実施することができる。すなわち、上記実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲などの数に言及されている場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術が限定されるものではない。また、上記実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術に必ずしも必須のものではない。
【0099】
例えば、STA102の本体からアンテナ301を分離し、アンテナ301のみを
図7に黒丸で示す設置位置に設置してもよい。この場合は、アンテナ301が「受信アンテナ」に対応する。
【符号の説明】
【0100】
100 物体検知システム
101 AP
102 STA(受信アンテナ)
103 物体検知装置
104 アンテナ(送信アンテナ)
202 CSI抽出部
203 データ前処理部
204 機械学習部
205 判定部
206 CSI情報蓄積部
207 相互相関導出部
208 設置位置選択部