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特許7572005位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20241016BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20241016BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
H04W64/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021123666
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023019158
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 信也
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
(72)【発明者】
【氏名】石田 繁巳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 遼
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-100169(JP,A)
【文献】特表2014-533352(JP,A)
【文献】特開2016-213769(JP,A)
【文献】特開2006-118882(JP,A)
【文献】Yogita Chapre at al.,"CSI-MIMO: Indoor Wi-Fi fingerprinting system",39th Annual IEEE Conference on Local Computer Networks,2014年09月,pp.202-209,DOI: 10.1109/LCN.2014.6925773,ISSN: 0742-1303
【文献】Takeru Fukushima et al.," Evaluating Indoor Localization Performance on an IEEE 802.11ac Explicit-Feedback-Based CSI Learning System",2019 IEEE 89th Vehicular Technology Conference (VTC2019-Spring),2019年04月,DOI: 10.1109/VTCSpring.2019.8746628
【文献】Shigemi Ishida et al.,"Room-by-Room Device Grouping for Put-and-Play IoT System",GLOBECOM 2022 - 2022 IEEE Global Communications Conference: IoT and Sensor Networks,2022年12月,pp.4286-4291,DOI: 10.1109/GLOBECOM48099.2022.10001048
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-5/14
G01S 19/00-19/55
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、前記第1の無線装置と無線通信を行う設置位置が既知の複数の第2の無線装置と、無線キャプチャ機能を有する位置推定装置とを備え、前記第1の無線装置と無線通信を行う存在位置が未知の第3の無線装置の位置を推定するように構成された位置推定システムであって、
前記第1の無線装置は、各アンテナから既知信号を送信するように構成され、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置は、受信した前記既知信号から導出される前記第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信するように構成され、
前記位置推定装置は、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報を取得する情報取得処理と、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関を第2の無線装置ごとに判定する相関判定処理と、
前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が最も高い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報を出力する出力処理と、を実行し、
前記相関判定処理では、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対して所定時間における伝搬路状態情報の変動を示す統計値を計算する統計処理と、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対する統計処理で得られた統計値と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対する統計処理で得られた統計値との差を第2の無線装置ごとに計算する比較処理と、を実行し、
前記出力処理では、前記差が最も小さい伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報を出力する、ように構成された
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、
前記位置推定装置は、
前記統計処理では、前記複数の第2の無線装置と前記第3の無線装置のそれぞれについて、伝搬路状態情報の各成分のうち前記所定時間における分散値が所定の閾値を超えた変動成分の個数をカウントし、
前記比較処理では、前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報に含まれる変動成分の個数と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に含まれる変動成分の個数との差を第2の無線装置ごとに計算する、ように構成された
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項3】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、
前記位置推定装置は、
前記統計処理では、前記複数の第2の無線装置と前記第3の無線装置のそれぞれについて、伝搬路状態情報の各成分のうち前記所定時間の時間差に対応した自己相関値が所定の閾値を下回った変動成分の個数をカウントし、
前記比較処理では、前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報に含まれる変動成分の個数と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に含まれる変動成分の個数との差を第2の無線装置ごとに計算する、ように構成された
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項4】
2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、前記第1の無線装置と無線通信を行う設置位置が既知の複数の第2の無線装置と、無線キャプチャ機能を有する位置推定装置とを備え、前記第1の無線装置と無線通信を行う存在位置が未知の第3の無線装置の位置を推定するように構成された位置推定システムであって、
前記第1の無線装置は、各アンテナから既知信号を送信するように構成され、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置は、受信した前記既知信号から導出される前記第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信するように構成され、
前記位置推定装置は、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報を取得する情報取得処理と、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関を第2の無線装置ごとに判定する相関判定処理と、
前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が最も高い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報を出力する出力処理と、を実行し、
前記相関判定処理では、
前記複数の第2の無線装置と前記第3の無線装置のそれぞれについて、伝搬路状態情報の各成分のうち所定時間における変動量が閾値を超えた変動成分を判別する判別処理と、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報の変動成分と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報の変動成分とを第2の無線装置ごとに照合する照合処理と、を実行し、
前記出力処理では、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との間で共通する変動成分の数が最も多い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報を出力する、ように構成された
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項5】
2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、設置位置が既知の複数の第2の無線装置及び存在位置が未知の第3の無線装置との間での無線通信に含まれる情報をキャプチャし、キャプチャした情報に基づいて前記第3の無線装置の位置を推定するように構成された位置推定装置であって、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した前記第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を取得する情報取得処理と、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関を第2の無線装置ごとに判定する相関判定処理と、
前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が最も高い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報を出力する出力処理と、を実行し、
前記相関判定処理では、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対して所定時間における伝搬路状態情報の変動を示す統計値を計算する統計処理と、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対する統計処理で得られた統計値と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対する統計処理で得られた統計値との差を第2の無線装置ごとに計算する比較処理と、を実行し、
前記出力処理では、前記差が最も小さい伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報を出力する、ように構成された
ことを特徴とする位置推定装置。
【請求項6】
2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、設置位置が既知の複数の第2の無線装置及び存在位置が未知の第3の無線装置との間での無線通信に含まれる情報をキャプチャし、キャプチャした情報に基づいて前記第3の無線装置の位置を推定する位置推定方法において、
前記第1の無線装置に各アンテナから既知信号を送信させ、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置に、受信した前記既知信号から導出される前記第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信させ、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報を取得し、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対して所定時間における伝搬路状態情報の変動を示す統計値を計算する統計処理を行い、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対する統計処理で得られた統計値と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報に対する統計処理で得られた統計値との差を第2の無線装置ごとに計算し、
前記差が最も小さい伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置の近傍に前記第3の無線装置が存在すると判定する
ことを特徴とする位置推定方法。
【請求項7】
2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、設置位置が既知の複数の第2の無線装置及び存在位置が未知の第3の無線装置との間での無線通信に含まれる情報をキャプチャし、キャプチャした情報に基づいて前記第3の無線装置の位置を推定する位置推定方法において、
前記第1の無線装置に各アンテナから既知信号を送信させ、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置に、受信した前記既知信号から導出される前記第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信させ、
前記複数の第2の無線装置及び前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報を取得し、
前記複数の第2の無線装置と前記第3の無線装置のそれぞれについて、伝搬路状態情報の各成分のうち所定時間における変動量が閾値を超えた変動成分を判別し、
前記複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報の変動成分と、前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報の変動成分とを第2の無線装置ごとに照合し、
前記第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との間で共通する変動成分の数が最も多い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置の近傍に前記第3の無線装置が存在すると判定する
ことを特徴とする位置推定方法。
【請求項8】
請求項5に記載の前記位置推定装置が行う処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを含む
ことを特徴とする位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線信号を利用して存在位置が未知の無線端末の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線信号を利用して存在位置が未知の無線端末の位置を推定する技術が知られている。そのような技術の一つの例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された方法では、無線LANの基地局と無線端末の間の信号の送受信にかかる時間を元に無線端末の位置が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-124597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された方法では、無線端末の位置を推定するためにはある程度離れた場所に基地局のアンテナを分散して設置せねばならない。つまり、特許文献1に開示された方法では、基地局のアンテナの配置において制限がある。
【0005】
本開示は、基地局となる無線装置のアンテナの位置による制限を受けることなく、存在位置が未知の無線装置の位置を推定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記目的を達成するため、位置推定システムを提供する。本開示の位置推定システムは、2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、第1の無線装置と無線通信を行う設置位置が既知の複数の第2の無線装置と、無線キャプチャ機能を有する位置推定装置とを備え、第1の無線装置と無線通信を行う存在位置が未知の第3の無線装置の位置を推定するように構成されている。第1の無線装置は、各アンテナから既知信号を送信するように構成されている。複数の第2の無線装置及び第3の無線装置は、受信した既知信号から導出される第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信するように構成されている。
【0007】
本開示の位置推定知システムにおいて、位置推定装置は、以下の情報取得処理、相関判定処理、及び出力処理を実行するように構成されている。情報取得処理では、複数の第2の無線装置及び第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報が取得される。相関判定処理では、複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報と、第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が第2の無線装置ごとに判定される。そして、出力処理では、第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が最も高い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報が出力される。
【0008】
本開示は、上記目的を達成するため、位置推定装置を提供する。本開示の位置推定装置は、2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、設置位置が既知の複数の第2の無線装置及び存在位置が未知の第3の無線装置との間での無線通信に含まれる情報をキャプチャし、キャプチャした情報に基づいて第3の無線装置の位置を推定するように構成されている。本開示の測定装置は、以下の情報取得処理、相関判定処理、及び出力処理を実行するように構成されている。情報取得処理では、複数の第2の無線装置及び第3の無線装置が送信した第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報が取得される。相関判定処理では、複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報と、第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が第2の無線装置ごとに判定される。そして、出力処理では、第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が最も高い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置或いは識別情報が出力される。
【0009】
本開示は、上記目的を達成するため、位置推定方法を提供する。本開示の位置推定方法は、2以上のアンテナを有する第1の無線装置と、設置位置が既知の複数の第2の無線装置及び存在位置が未知の第3の無線装置との間での無線通信に含まれる情報をキャプチャし、キャプチャした情報に基づいて第3の無線装置の位置を推定する方法である。本開示の位置推定方法は、以下の第1乃至第5のステップを含む。第1のステップでは、第1の無線装置に各アンテナから既知信号を送信させる。第2のステップでは、複数の第2の無線装置及び第3の無線装置に、受信した既知信号から導出される第1の無線装置までの伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報を送信させる。第3のステップでは、複数の第2の無線装置及び第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報を取得する。第3のステップでは、複数の第2の無線装置が送信した伝搬路状態情報と、第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関を第2の無線装置ごとに判定する。そして、第5のステップでは、第3の無線装置が送信した伝搬路状態情報との相関が最も高い伝搬路状態情報を送信した第2の無線装置の設置位置の近傍に第3の無線装置が存在すると判定する。
【0010】
本開示は、上記目的を達成するため、位置推定プログラムを提供する。本開示の位置推定プログラムは、上記の位置推定装置が行う処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを含む。すなわち、上記の測定装置は、コンピュータと位置推定プログラムとによって実現することができる。位置推定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。位置推定プログラムは、ネットワーク経由で提供されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラムによれば、基地局のアンテナの位置による制限を受けることなく存在位置が未知の無線装置の位置を設置位置が既知の無線端末を利用して推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の各実施形態に共通の位置推定システムの構成例を示す図である。
図2】APとSTAとの無線通信におけるシーケンス例を示す図である。
図3】APから送信されるVHT NDPフレームの一例を示す図である。
図4】圧縮されたCSIの一例を示す図である。
図5】極座標から直交座標への変換方法の一例を示す図である。
図6】本開示の各実施形態に共通の位置推定装置の構成例を示す図である。
図7】CSI蓄積部が有するテーブルの一例を示す図である。
図8】本開示の第1実施形態に係る相関判定処理を示すフローチャートである。
図9】本開示の第2実施形態に係る相関判定処理を示すフローチャートである。
図10】本開示の第3実施形態に係る相関判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラムの実施形態について説明する。
【0014】
1.各実施形態に共通の位置推定システムの構成
図1は、本開示の各実施形態に共通の位置推定システム100の構成例を示す。位置推定システム100は、2以上のアンテナを有する無線LAN基地局(AP:Access Point)101と複数台の無線LAN端末(STA:Station)102とを有する無線LANシステムを利用する。それぞれのSTA102は通信エリア内における設置位置が既知である。図1では、一例として6台のSTA102が通信エリア内に設置されている。ここで、AP101は第1の無線装置に対応し、各STA102は第2の無線装置に対応する。
【0015】
図1には、設置位置が既知のSTA102とは別に、もう1台のSTA104が存在する。AP101との間で無線通信を行うことができれば、STA104の構成はSTA102と同じでもよいし異なっていてもよい。ただし、STA104の存在位置は未知である。このようなSTA104の例としては、ユーザ110によって携帯される移動端末が挙げられる。ここで、STA104は第3の無線装置に対応する。
【0016】
存在位置が未知のSTA104の位置の推定には、無線キャプチャ機能を有する測定装置103が用いられる。測定装置103には、各STA102の設置位置が登録されている。ここで、測定装置103は位置推定装置に対応する。
【0017】
図1に示す無線LANシステムは、無線LAN規格の802.11acに対応し、AP101は、2以上のアンテナを用いてMIMO通信を行う。STA102及びSTA104は、AP101の各アンテナから送信される無線信号を受信する。逆に、STA102及びSTA104は、AP101の各アンテナに無線信号を送信する。このようにして、AP101とSTA102及びSTA104との間で802.11acに対応する無線通信が行われる。802.11acでは、AP101の各アンテナから送信される測定用データに基づいて、STA102及びSTA104は各アンテナと自装置との間の無線伝搬路の状態を測定する。STA102及びSTA104は測定した無線伝搬路の状態を示す伝搬路状態情報をAP101に送信する。
【0018】
測定装置103は、存在位置が未知のSTA104からAP101に送信される伝搬路状態情報をキャプチャするとともに、設置位置が既知の各STA102からAP101に送信される伝搬路状態情報をキャプチャする。そして、測定装置103は、キャプチャした伝搬路状態情報に基づいて、存在位置が未知のSTA104の位置を推定する。測定装置103がSTA104の位置を推定する方法の詳細については後述する。
【0019】
なお、図1に示す測定装置103の位置は一例である。測定装置103の位置はSTA102から送信される無線信号を受信できる位置であればどこでもよい。また、図1の例では、AP101、及びSTA102とは別に測定装置103が配置されているが、独立した測定装置103を使用せずに、測定装置103がAP101またはいずれかのSTA102に一体化されていてもよい。
【0020】
また、図1では、AP101は1台のみ配置されているが、AP101は複数台配置されていてもよい。AP101が複数台ある場合、一つのAP101を除く残りのAP101はSTA102と同様に機能させて、AP101間で無線通信を行ってもよい。さらに、AP101のアンテナは同軸ケーブル等で本体から離して配置されてよい。
【0021】
2.APとSTAとの無線通信の概要
図2は、AP101とSTA102との無線通信におけるシーケンス例を示す。AP101は、伝搬路状態情報、すなわち、CSIを取得するためのサウンディングプロトコルの開始信号として、VHT NDP Announcementフレームをブロードキャストする。その直後に、AP101は、測定用データを含むVHT NDPフレームを宛先のSTA102に送信する。VHTはVery High Throughputの略であり、802.11acでは超高速通信を行うためのVHTフレームを基本とする。また、NDPはNull Data Packetの略であり、VHT NDPフレームは通信用データを含まないフレームである。VHT NDP Announcementフレームは、AP101と宛先のSTA102のアドレスを含み、VHT NDPフレームの送信をSTA102に事前通知するためのフレームである。なお、VHT NDP Announcementフレームは、特定の1以上のアンテナから送信されるが、2以上のアンテナから送信する場合もすべて同じデータの信号が各アンテナから送信される。
【0022】
ここで、AP101から送信されるVHT NDPフレームの一例を図3に示す。図3において、VHT NDPフレームは、ヘッダ151(フレーム種別などを格納)、測定用データ250、及びテイラー156(誤り検出などを格納)により構成される。ヘッダ151、及びテイラー156は、VHT NDP Announcementと同様に送信されるが、測定用データ250は各アンテナ(ANT)から個別に送信される。図3に示す例ではアンテナは4本であり、4本のアンテナから測定用データ152、測定用データ153、測定用データ154、及び測定用データ155が時分割でそれぞれ送信される。各アンテナから送信された測定用データ152、測定用データ153、測定用データ154、及び測定用データ155は、STA102において、一つのVHT NDPフレームとして受信される。
【0023】
再び図2に戻り、AP101とSTA102との無線通信におけるシーケンスについての説明を続ける。AP101からVHT NDPフレームを受信したSTA102は、IEEE802.11acで規定された手法により、圧縮されたCSIの値を導出する(H. Yu and T. Kim, “Beamforming transmission in IEEE 802.11ac under time-varying channels,” The Scientific World J., vol. 2014, pp. 1-11, Jul. 2014, article ID 920937.参照)。
【0024】
ここで、圧縮されたCSIの一例を図4に示す。図4において、左の列から順に、送信アンテナ数×受信アンテナ数、圧縮されたCSIの数、圧縮されたCSIの一例が記載されている。φijは、i番のアンテナとj番のアンテナとから送信された信号のSTA102のアンテナでの位相差を示す。ただし、φij∈[0,2π)である。また、ψijは、i番のアンテナとj番のアンテナとから送信された信号のSTA102のアンテナでの振幅比を角度で表した値(振幅の絶対値の比のtan-1の値)を示す。ただし、ψij∈[0,π/2)である。
【0025】
図4の例によれば、例えば、送信アンテナ数が2本、受信アンテナ数が1本の場合(2×1と記載)、圧縮されたCSIの数は2、圧縮されたCSIはφ11、ψ21である。同様に、2×2の場合、圧縮されたCSIの数は2、圧縮されたCSIはφ11、ψ21である。また、3×1の場合、圧縮されたCSIの数は4、圧縮されたCSIはφ11、φ21、ψ21、ψ31である。以下、同様に、送信アンテナ数と受信アンテナ数の組み合わせに応じて、圧縮されたCSIが得られる。
【0026】
再び図2に戻り、AP101とSTA102との無線通信におけるシーケンスについての説明を続ける。STA102は、導出した圧縮されたCSIをVHT Compressed Beamforming Reportフレームに格納して送信する。前述の通り、VHT NDPフレームの測定用データはAP101のそれぞれのアンテナから個別に送信されるので、STA102は、AP101のアンテナごとのCSIを取得することができる。アンテナ数が多くなるとSTA102からAP101にフィードバックするCSIの情報量は多くなる。このため、すべてのCSIから予め決められた条件により選択されたCSI(圧縮されたCSI)がAP101にフィードバックされる。
【0027】
AP101は、STA102からフィードバックされる圧縮されたCSIの情報に基づいて、AP101の各アンテナとSTA102との間の無線伝搬路の状態を取得する。取得した無線伝搬路の状態に基づいて、AP101とSTA102との間でMIMO通信が行われる。
【0028】
図2に示すシーケンスによる無線通信は、AP101とSTA104との間でも行われる。STA104からAP101に圧縮されたCSIがフィードバックされ、フィードバックされた情報から取得される無線伝搬路の状態に基づいて、AP101とSTA104との間でMIMO通信が行われる。
【0029】
測定装置103は、各STA102がAP101に送信するVHT Compressed Beamforming Reportフレームをモニタしてキャプチャする。また、測定装置103は、STA104がAP101に送信するVHT Compressed Beamforming Reportフレームをモニタしてキャプチャする。そして、測定装置103は、キャプチャしたVHT Compressed Beamforming Reportに格納された圧縮されたCSIを抽出し、抽出したデータに対して前処理を行う。前処理では、例えば、極座標から直交座標への変換が行われる。
【0030】
ここで、極座標から直交座標への変換方法の一例を図5に示す。図5において、x軸からの角度φijは、半径1の円周上の対応するx,y座標に変換することができる。なお、角度0と2πは同一の値であるが、数値として不連続になるため機械学習への入力としては不適切である。そこで、以下の式に示すように、角度φijをx,y座標の数値に変換することにより、数値の連続性が保たれる。同様にして、角度ψijについてもx,y座標の数値への変換が行われる。
xij=cosφij
yij=sinφij
【0031】
このように前処理されたデータ(圧縮されたCSI)が各STA102とSTA104について取得され、これらを用いて測定装置103によるSTA104の位置の推定が行われる。
【0032】
3.各実施形態に共通の測定装置の構成
図6は、各実施形態に共通の測定装置103の構成例を示す。図6において、測定装置103は、アンテナ201、無線インターフェース部202、キャプチャ部203、フィルタリング部204、CSI抽出部205、前処理部206、CSI蓄積部207、及び数値処理・判定部208を備える。測定装置103は、コンピュータもしくはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路で構成することが可能であり、無線インターフェース部202から数値処理・判定部208までの各機能はコンピュータで実行可能なプログラムで実現することができる。このプログラムには、測定装置103を位置推定装置として機能させる位置推定プログラムが含まれる。また、プログラムは、記憶媒体に記録して提供されてもよいし、ネットワークを通して提供されてもよい。
【0033】
アンテナ201は、AP101とSTA102との間で通信される電波とAP101とSTA104との間で通信される電波とをそれぞれ受信し、受信した各電波を受信信号に変換して無線インターフェース部202に出力する。
【0034】
無線インターフェース部202は、アンテナ201から入力される受信信号から無線LANフレームを復調し、キャプチャ部203に出力する。なお、以降で説明する各部の処理は、無線LANフレームが受信されるごとに行われる。
【0035】
キャプチャ部203は、無線インターフェース部202が出力する無線LANフレームをキャプチャする。これにより、各STA102やSTA104が送信した伝搬路状態情が取得される。
【0036】
フィルタリング部204は、キャプチャ部203がキャプチャした無線LANフレームの中から、予め設定された条件のフレームのみを選別し、CSI抽出部205に出力する。ここで、予め設定された条件は、フレームの送信元および送信先が対象となるAP101およびSTA102であること、或いは、AP101およびSTA104であること、フレームの種別がVHT Compressed Beamforming Reportフレームであることである。
【0037】
CSI抽出部205は、フィルタリング部204が選別したVHT Compressed Beamforming Reportフレーム内の圧縮されたCSIの情報を抽出し、これを受信した時刻情報とともに記録する。ここで、AP101がVHT NDPフレームを送信してSTA102及びSTA104がVHT Compressed Beamforming Reportフレームを返信する処理は、繰り返し実施されている。なお、繰り返しの時間間隔は、一定間隔であってもよいし、一定間隔でなくてもよい。
【0038】
前処理部206は、CSI抽出部205で抽出された圧縮されたCSIを座標変換する。具体的には、前処理部206は、圧縮されたCSIの位相差を示すφijと圧縮されたCSIの振幅比を示すψijとをそれぞれ極座標から直交座標に変換する。以下の説明では、特別な断りのない限り、CSIとは、前処理部206で前処理された圧縮されたCSIを意味するものとする。
【0039】
CSI蓄積部207は、前処理部206から入力されるCSIを時系列に蓄積する。図7は、CSI蓄積部207が有するテーブルの一例を示す図である。このテーブルに示すように、CSI蓄積部207には、APアドレスと端末アドレスとの組み合わせごとに一定の時間間隔で時系列にCSIが蓄積されていく。ここで、APアドレスはAP101のMACアドレスである。端末アドレスはSTA102及びSTA104のMACアドレスである。
【0040】
CSI蓄積部207においてCSIの蓄積はCSIの成分ごとに行われる。CSIの成分とは、位相差を角度φijからx,y座標の数値へ変換したx座標値及びy座標値と、振幅比を角度ψijからx,y座標の数値へ変換したx座標値及びy座標値であり、それぞれOFDMのサブキャリア毎に値が存在する。テーブルには現在から過去所定時間までのデータが蓄積され、新たなデータが取得されるたびにテーブルの更新が行われる。
【0041】
数値処理・判定部208は、各STA102から得たCSIとSTA104から得たCSIとの相関をSTA102ごとに判定する相関判定処理を行う。この相関は、各STA102が送信した伝搬路状態情報と、STA104が送信した伝搬路状態情報とのSTA102ごとの相関を表している。
【0042】
数値処理・判定部208は、STA104が送信した伝搬路状態情報との相関が最も高い伝搬路状態情報を送信するSTA102の近傍にSTA104が存在すると判定し、その判定結果を出力する。この処理を出力処理と称す。数値処理・判定部208による出力処理では、STA104の存在位置に最も近いと判定されたSTA102の設置位置(予め測定装置103に登録された設置位置)が判定結果として出力される。或いは、STA104の存在位置に最も近いと判定されたSTA102を識別する識別情報(例えばMACアドレス)が判定結果として出力されてもよい。図1に示す例では、6番のSTA102がSTA104の存在位置に最も近いと判定される。
【0043】
以下、数値処理・判定部208による処理、特に相関判定処理について実施形態ごとにより具体的に説明する。
【0044】
4.第1実施形態に係る相関判定処理
第1実施形態では、数値処理・判定部208による相関判定処理は、統計処理と比較処理とを含む。統計処理では、各STA102から得たCSIとSTA104から得たCSIとに対して、所定時間におけるCSIの変動を示す統計値が計算される。前述のように、CSI蓄積部207のテーブルには現在から過去所定時間までのデータが蓄積されている。統計処理はその蓄積されたデータに対しCSIの成分ごとに行われる。
【0045】
比較処理では、各STA102から得たCSIに対する統計処理で得られた統計値と、STA102から得たCSIに対する統計処理で得られた統計値との差がSTA102ごとに計算される。統計値の差は直近のCSIの変動状況の差を示している。ゆえに、統計値の差が小さいほどCSIの変動状況に差が無く、STA102が送信した伝搬路状態情報とSTA104が送信した伝搬路状態情報との相関が高いと判断することができる。
【0046】
第1実施形態では、所定時間におけるCSIの変動を示す統計値として、CSIの各成分のうち、所定時間における分散値が所定の閾値を超えた成分の個数が用いられる。この場合、数値処理・判定部208は、各STA102とSTA104とについて、CSI蓄積部207に蓄積されたCSIの成分ごとに分散値を計算し、分散値が閾値を超えるCSIの成分の個数を計算する。分散値が閾値を超えるCSIの成分は、所定時間の間での変動が大きい成分であることから、これを変動成分と称す。なお、閾値はCSIの成分間で共通でもよいし、CSIの成分ごとに値が設定されてもよい。
【0047】
2つのCSI間で変動成分の個数の差が小さければ、CSIの変動状況も近いと考えることができる。この場合、数値処理・判定部208は、STA102から得たCSIに含まれる変動成分の個数と、STA104から得たCSIに含まれる変動成分の個数との差をSTA102ごとに計算する。そして、数値処理・判定部208は、STA104から得たCSIとの比較において変動成分の個数の差が最も小さいCSIを与えるSTA102を特定する。こうして特定されたSTA102がSTA104に最も近い位置に存在するSTA102である。数値処理・判定部208は、STA104に最も近い位置に存在すると判定されたSTA102の設置位置或いは識別情報を出力する。
【0048】
なお、数値処理・判定部208は、STA104から得たCSIに所定の程度を超える変動があったことを受けて上述の相関判定処理を実行する。具体的には、STA104から得たCSIに含まれる変動成分の個数が基準個数以上になることが相関判定処理の実行条件である。所定時間におけるCSIの成分の分散値が閾値を超えるということは、CSIの値が時間的にみて大きく変動していることを意味している。このため、分散が大きい成分が多くなるということは、CSIが変動する要素、すなわち何らかの移動物体の存在が想定される。ただし、CSIは雑音の影響や外乱により移動物体がない場合にも大きく変動する可能性がある。上記の基準個数は、移動物体によるCSIの変動と雑音等によるCSIの変動とを区別するための基準である。本実施形態では、雑音の影響や外乱による誤判定を防止するため、STA104から得たCSIに含まれる変動成分の個数が基準個数未満の場合、雑音の影響や外乱によるCSIの変動であると見なし、相関判定処理は実行されない。
【0049】
図8は、数値処理・判定部208による上述の処理の流れを示すフローチャートである。ステップS101では、検知対象端末であるSTA104のCSIの各成分のうち分散値が閾値を超えた変動成分の個数Nxがカウントされる。そして、ステップS102では、変動成分の個数Nxが基準個数以上かどうか判定される。変動成分の個数Nxが基準個数未満である場合、CSIの変動は雑音の影響や外乱によるものである可能性が高いため、以降の処理はスキップされる。
【0050】
変動成分の個数Nxが基準個数以上になった場合、ステップS103及びステップS104の処理が実行される。ステップS103では、既知端末であるSTA102のCSIの各成分のうち分散値が閾値を超えた変動成分の個数Ni(i=1,…,6)がSTA102ごとにカウントされる。ステップS104では、ステップS101とステップS103とでカウントされた変動成分の個数の差|Nx-Ni|がSTA102ごとに計算される。そして、変動成分の個数の差|Nx-Ni|を最小とするSTA102の近傍にSTA104が存在すると判定される。
【0051】
第1実施形態では、以上のような処理が位置推定装置としての測定装置103により行われる。これにより、AP101のアンテナの位置による制限を受けることなく、存在位置が未知のSTA104の位置を設置位置が既知のSTA102を利用して推定することができる。
【0052】
5.第2実施形態に係る相関判定処理
第2実施形態の相関判定処理は、第1実施形態と同様に、統計処理と比較処理とを含む。ただし、第2実施形態では、所定時間におけるCSIの変動を示す統計値として、CSIの各成分のうち、所定時間の時間差に対応した自己相関値が所定の閾値を下回った成分の個数が用いられる。この場合、数値処理・判定部208は、各STA102とSTA104とについて、CSI蓄積部207に蓄積されたCSIの成分ごとに自己相関値を計算し、自己相関値が閾値を下回るCSIの成分の個数を計算する。自己相関値が閾値を下回るCSIの成分は、所定時間の間での変動が大きい成分であることから、これを変動成分と称す。なお、閾値はCSIの成分間で共通でもよいし、CSIの成分ごとに値が設定されてもよい。
【0053】
図9は、第2実施形態に係る相関判定処理の流れを示すフローチャートである。ステップS201では、検知対象端末であるSTA104のCSIの各成分のうち自己相関値が閾値を下回った変動成分の個数Nxがカウントされる。そして、ステップS202では、変動成分の個数Nxが基準個数以上かどうか判定される。変動成分の個数Nxが基準個数未満である場合、CSIの変動は雑音の影響や外乱によるものである可能性が高いため、以降の処理はスキップされる。
【0054】
変動成分の個数Nxが基準個数以上になった場合、ステップS203及びステップS204の処理が実行される。ステップS203では、既知端末であるSTA102のCSIの各成分のうち自己相関値が閾値を下回った変動成分の個数Ni(i=1,…,6)がSTA102ごとにカウントされる。ステップS204では、ステップS201とステップS203とでカウントされた変動成分の個数の差|Nx-Ni|がSTA102ごとに計算される。そして、変動成分の個数の差|Nx-Ni|を最小とするSTA102の近傍にSTA104が存在すると判定される。
【0055】
第2実施形態では、以上のような処理が位置推定装置としての測定装置103により行われる。これにより、AP101のアンテナの位置による制限を受けることなく、存在位置が未知のSTA104の位置を設置位置が既知のSTA102を利用して推定することができる。
【0056】
6.第3実施形態に係る相関判定処理
第3実施形態では、数値処理・判定部208による相関判定処理は、判別処理と照合処理とを含む。判別処理では、STA102から得たCSIの各成分のうち所定時間における変動量が閾値を超えた変動成分が判別され、STA104から得たCSIの各成分のうち所定時間における変動量が閾値を超えた変動成分が判別される。前述のように、CSI蓄積部207のテーブルには現在から過去所定時間までのデータが蓄積されている。判別処理はその蓄積されたデータに対しCSIの成分ごとに行われる。
【0057】
照合処理では、各STA102から得たCSIの変動成分と、STA104から得たCSIの変動成分とがSTA102ごとに照合される。両者間で一致する変動成分の数が多いほどCSIの変動状況に差が無く、STA102が送信した伝搬路状態情報とSTA104が送信した伝搬路状態情報との相関が高いと判断することができる。
【0058】
第3実施形態では、CSIの各成分の所定時間における変動量として、CSIの各成分の所定時間における分散値が用いられる。この場合、数値処理・判定部208は、各STA102とSTA104とについて、CSI蓄積部207に蓄積されたCSIの成分ごとに分散値を計算し、分散値が閾値を超えた成分を判別する。分散値が閾値を超えるCSIの成分は、所定時間の間での変動が大きい成分であることから、これを変動成分と称す。なお、閾値はCSIの成分間で共通でもよいし、CSIの成分ごとに値が設定されてもよい。
【0059】
数値処理・判定部208は、STA104から得たCSIとの間で共通する変動成分の数が最も多いCSIを与えるSTA102を特定する。こうして特定されたSTA102がSTA104に最も近い位置に存在するSTA102である。数値処理・判定部208は、STA104に最も近い位置に存在すると判定されたSTA102の設置位置或いは識別情報を出力する。
【0060】
図10は、第3実施形態に係る相関判定処理の流れを示すフローチャートである。ステップS301では、検知対象端末であるSTA104のCSIの各成分のうち分散値が閾値を超えた変動成分の個数Nxがカウントされる。そして、ステップS302では、変動成分の個数Nxが基準個数以上かどうか判定される。変動成分の個数Nxが基準個数未満である間は、CSIの変動は雑音の影響や外乱によるものである可能性が高いため、以降の処理はスキップされる。
【0061】
変動成分の個数Nxが基準個数以上になった場合、ステップS303乃至ステップS306の処理が実行される。ステップS303では、検知対象端末であるSTA104のCSIの各成分のうち分散値が閾値を超えた変動成分が判別される。ステップS304では、既知端末であるSTA102のCSIの各成分のうち分散値が閾値を超えた変動成分が判別される。変動成分の判別はSTA102ごとに行われる。
【0062】
ステップS305では、ステップS303で判別されたSTA104のCSIの変動成分と、ステップS304で判別された各STA104のCSIの変動成分とが照合される。この照合では、STA102とSTA104との間で一致するCSIの変動成分の個数Nxi(i=1,…,6)がSTA102ごとにカウントされる。そして、ステップS306では、一致するCSIの変動成分の個数Nxiを最大とするSTA102の近傍にSTA104が存在すると判定される。
【0063】
第3実施形態では、以上のような処理が位置推定装置としての測定装置103により行われる。これにより、AP101のアンテナの位置による制限を受けることなく、存在位置が未知のSTA104の位置を設置位置が既知のSTA102を利用して推定することができる。
【0064】
7.その他
上記実施形態は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々に変形して実施することができる。すなわち、上記実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲などの数に言及されている場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術が限定されるものではない。また、上記実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術に必ずしも必須のものではない。
【0065】
例えば、第3実施形態において、CSIの各成分の所定時間における変動量として、CSIの各成分の所定時間における分散値の代わりに、CSIの各成分の所定時間の時間差に対応した自己相関値を用いてもよい。このような変形例であっても、存在位置が未知のSTA104の位置を設置位置が既知のSTA102を利用して推定することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 位置推定システム
101 AP(第1の無線装置)
102 STA(第2の無線装置)
103 測定装置(位置推定装置)
104 STA(第3の無線装置)
201 アンテナ
202 無線インターフェース部
203 キャプチャ部
204 フィルタリング部
205 CSI抽出部
206 前処理部
207 CSI蓄積部
208 数値処理・判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10