(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】セコステロイド構造を有する化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 401/00 20060101AFI20241016BHJP
C07C 35/08 20060101ALI20241016BHJP
C07C 29/56 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C07C401/00 CSP
C07C35/08
C07C29/56 B
(21)【出願番号】P 2020112582
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】小竹 英一
(72)【発明者】
【氏名】今場 司朗
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-089442(JP,A)
【文献】特表2002-516307(JP,A)
【文献】GUO, W. et al.,Synthesis of 24(28)-methylene-1α-hydroxyvitamin D3, a novel vitamin D3 analogue,JOURNAL OF CHEMICAL RESEARCH,2014年,Vol.38,pp.231-235,DOI:10.3184/174751914X13941144023496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】
(I)
(式中、
R
1は、OH基、O-C
2~C
18アシル基、又はグリコシド基であり、
R
2は、H、OH基、又はO-C
2~C
18アシル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、H、メチル基、若しくはOH基であるか、又は、R
3及びR
4は、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す)
で表される化合物又はその立体異性体。
【請求項2】
実線及び破線からなる前記二重線が、単結合を表す、請求項1に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項3】
R
1がOH基であり、R
2がHである、請求項1又は2に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項4】
R
1がOH基であり、R
2がOH基である、請求項1又は2に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項5】
R
3がメチル基であり、かつR
4がHであるか、又は、R
3及びR
4が、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項6】
R
3がメチル基であり、かつR
4がOHである、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項7】
R
1
がOH基であり、
R
2
がH又はOH基であり、
R
3
がメチル基であり、かつR
4
がH又はOHであるか、又は、R
3
及びR
4
が、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる前記二重線が、単結合を表す、
請求項1に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項8】
R
1
がOH基であり、
R
2
がHであり、
R
3
がメチル基であり、かつR
4
がHであるか、又は、R
3
及びR
4
が、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる前記二重線が、単結合を表す、
請求項1に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項9】
前記化合物又はその立体異性体が、以下の式:
【化2】
【化3】
【化4】
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項10】
前記化合物又はその立体異性体が、以下の式:
【化5】
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物又はその立体異性体。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の化合物又はその立体異性体を含む組成物。
【請求項12】
一般式I:
【化6】
(I)
(式中、
R
1は、OH基、O-C
2~C
18アシル基、又はグリコシド基であり、
R
2は、H、OH基、又はO-C
2~C
18アシル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、H、メチル基、若しくはOH基であるか、又は、R
3及びR
4は、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す)
で表される化合物又はその立体異性体の製造方法であって、
一般式II:
【化7】
(II)
(式中の記号は一般式Iのものと同じ)
で表される化合物を、一般式III:
【化8】
(式中の記号は一般式Iのものと同じ)
で表される化合物に変換する工程と、
一般式IIIで表される前記化合物を、一般式Iで表される前記化合物に変換する工程と、
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セコステロイド構造を有する化合物、それを含む組成物、及びその製造方法に関しており、特に新規ビタミンD誘導体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDは、カルシウム及びリンの腸管吸収、骨代謝、細胞分化・増殖、及び免疫などと関わっていることが知られている。そして、ビタミンDが不足すると、骨形成に関連して、クル病、骨軟化症、又は、妊婦及び胎児の骨量低下などが引き起こされたり、高齢者の要介護状態又はフレイルのリスクが高まったりすることが知られている。また、ビタミンDは、日光に当たることによって皮膚で合成され得るが、緯度の高い地方では日照時間が短いため、十分な量のビタミンDが合成されないことがあり、日照不足や過剰な美白ケア、又は、コレステロール合成経路の阻害薬の使用などによって、ビタミンDの合成量が低下することもある。一方、ビタミンDが含まれている食品は魚介類、卵黄、及びキノコ類に限られており、これを通常の食事から十分に摂取することは難しい。
【0003】
ビタミンDとしてはビタミンD2~D7が知られており、ビタミンD2~D4は市販もされているが、ビタミンD5~7及びこれらの前駆体は市販されていない。非特許文献1には、商業的に入手可能な植物ステロール混合物からビタミンD2及びビタミンD4~D7を同時に合成し、純粋なコレステロールからビタミンD3を合成したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Komba, S., et al., Metabolites, 2019, 9(6), 107, doi: 10.3390/metabo9060107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天然に存在する未知のビタミンDを探索し、ビタミンDを含有する食品の摂取機会を増やしてビタミンD不足の解消を図ったり、機能性素材として活用したりすることが望まれているが、そのためには標準物質を合成して用意する必要がある。そこで、本発明は、ビタミンDの共通構造であるセコステロイド構造を有する新規化合物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、末端構造に特徴のあるセコステロイド構造を有する新規化合物を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す化合物、それを含む組成物、及びその製造方法を提供するものである。
〔1〕一般式I:
【化1】
(I)
(式中、
R
1は、OH基、O-C
2~C
18アシル基、又はグリコシド基であり、
R
2は、H、OH基、又はO-C
2~C
18アシル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、H、メチル基、若しくはOH基であるか、又は、R
3及びR
4は、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す)
で表される化合物又はその立体異性体。
〔2〕実線及び破線からなる前記二重線が、単結合を表す、前記〔1〕に記載の化合物又はその立体異性体。
〔3〕R
1がOH基であり、R
2がHである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の化合物又はその立体異性体。
〔4〕R
1がOH基であり、R
2がOH基である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の化合物又はその立体異性体。
〔5〕R
3がメチル基であり、かつR
4がHであるか、又は、R
3及びR
4が、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物又はその立体異性体。
〔6〕R
3がメチル基であり、かつR
4がOHである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の化合物又はその立体異性体。
〔7〕以下の式:
【化2】
のいずれかで表される化合物又はその立体異性体。
〔8〕前記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の化合物又はその立体異性体を含む組成物。
〔9〕一般式I:
【化3】
(I)
(式中、
R
1は、OH基、O-C
2~C
18アシル基、又はグリコシド基であり、
R
2は、H、OH基、又はO-C
2~C
18アシル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、H、メチル基、若しくはOH基であるか、又は、R
3及びR
4は、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す)
で表される化合物又はその立体異性体の製造方法であって、
一般式II:
【化4】
(II)
(式中の記号は一般式Iのものと同じ)
で表される化合物を、一般式III:
【化5】
(式中の記号は一般式Iのものと同じ)
で表される化合物に変換する工程と、
一般式IIIで表される前記化合物を、一般式Iで表される前記化合物に変換する工程と、
を含む製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、新規ビタミンD誘導体化合物が提供される。したがって、利用可能なビタミンD誘導体化合物のバリエーションが広がる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】シリカカラムクロマトグラフィーで得られた画分の薄層クロマトグラフを示す。四角で囲われている部分を画分aとして回収した。
【
図2】シリカカラムクロマトグラフィーで得られた画分の薄層クロマトグラフを示す。四角で囲われている部分を画分bとして回収した。
【
図3】シリカカラムクロマトグラフィーで得られた画分の薄層クロマトグラフを示す。四角で囲われている部分を画分cとして回収した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、セコステロイド構造を有する化合物又はその立体異性体に関しており、その化学構造は、一般式I:
【化6】
(I)
で表される。ここで、実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合、好ましくは単結合を表す。本発明の化合物又はその立体異性体は、ビタミンDと共通する構造を基本骨格として有しているため、生体内ではビタミンDと同様の代謝を受け、同様の作用を奏すると期待される。なお、ビタミンDは、肝臓においてセコステロイド構造の25位の水酸化を受け、その後腎臓において当該構造の1α位の水酸化を受けて、活性型ビタミンDに変換されることが知られている。
【0010】
R1は、OH基、O-C2~C18アシル基、又はグリコシド基である。前記アシル基部分は、直鎖であってもいいし、分岐鎖であってもよい。前記アシル基部分は、例えば、-C(=O)-Q1であって、Q1は、C1~C17、C1~C11、又はC1~C5の飽和炭化水素鎖、又は、C2~C17、C2~C11、又はC2~C5の不飽和炭化水素鎖であってもよい。R1がO-C2~C18アシル基又はグリコシド基であるときに形成されるエステル結合及びグリコシド結合は、生体内で加水分解を受け得るため、当該加水分解の結果として水酸基を有する化合物、すなわちR1がOH基である化合物が生じ得る。
【0011】
R2は、H、OH基、又はO-C2~C18アシル基である。前記アシル基部分は、直鎖であってもいいし、分岐鎖であってもよい。前記アシル基部分は、例えば、-C(=O)-Q2であって、Q2は、C1~C17、C1~C11、又はC1~C5の飽和炭化水素鎖、又は、C2~C17、C2~C11、又はC2~C5の不飽和炭化水素鎖であってもよい。R2がO-C2~C18アシル基であるときに形成されるエステル結合は、生体内で加水分解を受け得るため、当該加水分解の結果として水酸基を有する化合物、すなわちR2がOH基である化合物が生じ得る。また、R2がHである化合物は、腎臓で水酸化を受けてR2がOH基である化合物を生じ得る。ある態様では、R1及びR2がHであるか、又は、R1がHであり、R2がOHである。
【0012】
R3及びR4は、それぞれ独立して、H、メチル基、若しくはOH基であるか、又は、R3及びR4は、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成する。ある態様では、R3及びR4は同時にメチル基ではなく、例えば、R3又はR4がHである化合物又はR3及びR4がこれらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成している化合物は、肝臓で水酸化を受けてR3又はR4がOH基である化合物を生じ得る。ある態様では、R3がメチル基であり、かつR4がHであるか、又は、R3及びR4が、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成する。ある態様では、R3がメチル基であり、かつR4がOHである。
【0013】
特定の態様では、本発明の化合物は、以下の群から選択される式で表されるか、又はその立体異性体である。
【化7】
【化8】
【化9】
【0014】
本発明の化合物は、対応する前駆体から常法により合成することができる。例えば、以下のようなスキームにより、ステロイド骨格を有する化合物1を出発物質として本発明の化合物(化合物3及び4)を合成してもよい。なお、化合物3及び4は混合物として生成され得て、その後それぞれ単離され得る。
【化10】
Ac
2O = 無水酢酸
Pyr = ピリジン
NBS = N-ブロモスクシンイミド
CYH = シクロヘキサン
BHA = 3-ターシャルブチル-4-ヒドロキシアニソール
Bu
4NF = テトラブチルアンモニウムフルオリド
NaOMe = ナトリウムメチラート
THF = テトラヒドロフラン
MeOH = メタノール
CH
2Cl
2 = ジクロロメタン
rt = 室温
【0015】
本発明の化合物は、ビタミンD誘導体化合物の探索に用いるための標準物質として有用であり得る。また、本発明の化合物は、ビタミンDとしての活性に基づいて、ビタミンD欠乏状態、ビタミンD欠乏に起因する疾患若しくは症状、又はビタミンDにより治療される疾患の改善又は予防のための有効成分として有用であり得る。前記ビタミンD欠乏に起因する疾患若しくは症状又は前記ビタミンDにより治療される疾患は、特に限定されないが、例えば、低カルシウム血症、低リン血症、骨量を維持するか又は増加させることが望まれる代謝性骨疾患(クル病、骨軟化症、及び骨粗鬆症など)、及びがんなどであってもよい。本発明の化合物は、ビタミンDが奏し得る広範な生理作用に関して、公知の化合物とは、異なる活性スペクトルを示し得るため、利用可能なビタミンD誘導体化合物のバリエーションを広げることができる。
【0016】
別の態様では、本発明は、一般式I:
【化11】
(I)
(式中、
R
1は、OH基、O-C
2~C
18アシル基、又はグリコシド基であり、
R
2は、H、OH基、又はO-C
2~C
18アシル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、H、メチル基、若しくはOH基であるか、又は、R
3及びR
4は、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す)
で表される化合物又はその立体異性体を含む組成物に関している。本発明の組成物は、ビタミンD誘導体化合物の探索に用いるための試薬として有用であり得る。また、本発明の組成物は、医薬、食品、又は飼料としても有用であり得る。
【0017】
本発明の組成物は、当技術分野で通常使用される任意の緩衝液又は添加剤などをさらに含んでもよい。また、本発明の組成物が、医薬、食品、又は飼料の形態である場合には、そこに含まれている化合物の作用を妨げない限り、任意で他の有効成分及び/又は不活性成分をさらに含んでもよい。前記不活性成分としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、溶剤、増量剤、増粘剤、香料、保存料、及び安定化剤などを採用してもよい。
【0018】
また別の態様では、本発明は、一般式I:
【化12】
(I)
(式中、
R
1は、OH基、O-C
2~C
18アシル基、又はグリコシド基であり、
R
2は、H、OH基、又はO-C
2~C
18アシル基であり、
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、H、メチル基、若しくはOH基であるか、又は、R
3及びR
4は、これらが結合している炭素原子と一緒にメチレン基を形成し、
実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す)
で表される化合物又はその立体異性体の製造方法に関している。本発明の製造方法は、
一般式II:
【化13】
(II)
(式中の記号は一般式Iのものと同じ)
で表される化合物を、一般式III:
【化14】
(式中の記号は一般式Iのものと同じ)
で表される化合物に変換する工程と、
一般式IIIで表される前記化合物を、一般式Iで表される前記化合物に変換する工程と、を含んでいる。場合によっては、一般式IIで表される前記化合物及び一般式IIIで表される前記化合物の置換基は、任意の保護基によって保護されていてもよい。
【0019】
一般式IIで表される前記化合物を一般式IIIで表される前記化合物に変換する手段としては、当技術分野で通常使用される任意の手段を特に制限されることなく採用することができるが、例えば、一般式IIで表される前記化合物に紫外レーザー光を照射することによって、ステロイド構造の9-10位の結合を開裂させてもよい。前記紫外レーザー光は、特に制限されないが、例えば、約190~310nmの波長を有するものであってもよい。また、前記紫外レーザー光は、当技術分野で通用使用される発振装置により発振させることができ、例えば、アルゴンイオンレーザー、フッ化クリプトンエキシマレーザー、フッ化アルゴンエキシマレーザー、塩化クリプトンエキシマレーザー、塩化キセノンエキシマレーザー、色素レーザー、YAGレーザー、YAGレーザー励起色素レーザー、エキシマレーザー励起色素レーザー、又はルビーレーザーなどによって発振させてもよい。
【0020】
一般式IIIで表される前記化合物を一般式Iで表される前記化合物に変換する手段としては、当技術分野で通常使用される任意の手段を特に制限されることなく採用することができるが、例えば、一般式IIIで表される前記化合物に熱を加えて(例えば約80~約120℃で約1~約4時間加熱して)、当該化合物を異性化させてもよい。
【0021】
各変換工程は、任意の溶媒中で行うことができる。前記溶媒としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、リグロイン、ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの炭化水素系溶媒、ブロムベンゼン、クロルベンゼン、四塩化炭素、1,2-ジクロルエタン、及び1,2-ジブロムエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びエチルセロソルブなどのエーテル系溶媒、又は、メタノール、エタノール、及びプロパノールなどのアルコール系溶媒などを用いてもよい。また、本発明の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常実施される任意の工程をさらに含んでもよい。
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
〔調製例〕
(1)フコステロール(化合物1)988mg(2.39mmol)をピリジン7mLに溶解し、無水酢酸3.0mL(31.7mmol)を加え、45℃で3.5時間撹拌した。その後氷を加えさらに1時間撹拌した。反応終了後、2N塩酸で洗いクロロホルムで抽出した。エバポレーターで溶媒を除去し、エタノールから再結晶後、化合物2aを得た(収量1061mg、収率97%)。旋光度測定、プロトン核磁気共鳴測定、及び精密質量分析の結果を以下に示す。
【0024】
【化15】
化合物2a
[α]
25
D = -45.2 (c = 0.847, クロロホルム)
1H-NMR (400 MHz, 重クロロホルム):δ= 0.69 (s, 3H, Me-18), 0.92-1.32 (m, 8H, H-1a, H-9, H-12a, H-14, H-16a, H-17, H-22a, H-23a), 0.978 (d, 3H, J = 6.8 Hz, Me-26 or Me-27), 0.981 (d, 3H, J = 6.8 Hz, Me-26 or Me-27), 0.99 (d, 3H, J = 6.5 Hz, Me-21), 1.02 (s, 3H, Me-19), 1.37-1.64 (m, 8H, H-2a, H-7a, H-11a, H-11b, H-20, H-22b, H-23b, H-25), 1.57 (d, 1H, J = 6.6 Hz, Me-24
2), 1.82-1.91 (m, 4H, H-1b, H-2b, H-15a, H-16b), 1.94-2.10 (m, 3H, H-7b, H-12b, H-15b), 2.03 (s, 3H, Ac), 2.20 (m, 1H, H-8), 2.32 (m, 2H, H-4a, H-4b), 4.60 (m, 1H, H-3), 5.18 (q, 1H, J =6.7 Hz, H-24
1), 5.37 (d, 1H, J = 4.9 Hz, H-6);
13C-NMR (100 MHz, CDCl
3), δ = 11.8 (C-18), 13.2 (C-24
2), 18.8 (C-21), 19.3 (C-19), 21.0 (C-11), 21.4 (CO
CH
3), 22.1 (C-26 or C-27), 22.2 (C-26 or C-27), 24.3 (C-23), 25.7 (C-15), 27.8 (C-2), 28.2 (C-16), 31.9 (C-7 or C-25), 31.9 (C-7 or C-25), 34.8 (C-8), 35.2 (C-22), 36.4 (C-20), 36.6 (C-10), 37.0 (C-1), 38.1 (C-4), 39.7 (C-12), 42.4 (C-13), 50.0 (C-9), 55.8 (C-17), 56.7 (C-14), 74.0 (C-3), 115.6 (C-24
1), 122.6 (C-6), 139.7 (C-5), 147.0 (C-24), 170.5 (C=O)
APCI-Orbitrap-MS:calcd. for C
31H
51O
2
+ (M + H)
+: 455.3884, found m/z: 455.3869.
【0025】
(2)(1)で得られた化合物2aの300mg(0.66mmol)をシクロヘキサン7.5mL中に65℃で溶解し、N-ブロモスクシンイミド(NBS)176mg(0.989mmol)を加え、100℃で1.5時間、還流条件下で撹拌した。反応温度を室温まで低下させて、水15mLを加えてさらに室温で1時間撹拌した。反応物を水で洗いノルマルヘキサンで抽出し、溶媒を真空留去した。得られた混合物に1Mテトラブチルアンモニウムフルオリド・テトラヒドロフラン(Bu4NF・THF)溶液1.5mLを加えて室温で12時間撹拌した。反応物を水で洗いノルマルヘキサンで抽出し、濃縮した。これをシリカカラムクロマトグラフィーに供し、酢酸エチル/ノルマルヘキサン(1:30)で溶出して分離・精製し、UV吸収領域を持つ(5,7-ジエン構造を有する)化合物2bを含む画分を得た(184mg)。
【0026】
(3)(2)で得られた化合物2bを含む画分の184mgをジクロロメタン2mLとメタノール5mLに溶解し、28%ナトリウムメチラート(NaOMe)メタノール溶液をpH12になるまで加えた後、室温で4時間撹拌した。反応物を濃縮し、これをシリカカラムクロマトグラフィーに供し、酢酸エチル/ノルマルヘキサン(3:7)で溶出して脱アセチル化された化合物2cを含む画分a(
図1)を得た(104.31mg)。
【0027】
(4)(3)で得られた化合物2cを含む画分a95.31mgを0.1%3-ターシャルブチル-4-ヒドロキシアニソール(BHA)を含むシクロヘキサン25mLに溶解し、ペトリ皿に移した。撹拌しながら、280nmのUV(9.71mW/cm
2)を室温で2時間照射した。照射後、反応物を濃縮し、これをシリカカラムクロマトグラフィーに供し、酢酸エチル/ノルマルヘキサン(2:8)で溶出して化合物2dを含む画分b(
図2)を得た(10.71mg)。これを0.1%BHAを含むシクロヘキサン10mLに溶解し、100℃で2時間、還流条件下で撹拌した。反応物を濃縮し、これをシリカカラムクロマトグラフィーに供し、酢酸エチル/ノルマルヘキサン(2:8)で溶出して化合物3及び4を含む画分c(
図3)を得た。画分cをさらに高速液体クロマトグラフィー(ポンプ:ウォーターズ社製システム、検出器:UV検出器、検出波長215nm、カラム:関東化学社製Mightysil RP-18 GP、移動相:アセトニトリル、流速:5mL/分)により主要な2ピーク(ピークA、ピークB)として溶出する画分を分取・精製し、化合物3(ピークB、4.10mg)と化合物4(ピークA、1.13mg)を得た。旋光度測定、プロトン核磁気共鳴測定、及び精密質量分析の結果を以下に示す。
【0028】
【化16】
化合物3
[α]
25
D = +25.6 (c = 0.098, クロロホルム)
1H-NMR (400 MHz, 重クロロホルム), δ= 0.55 (s, 3H, Me-18), 0.979 (d, 3H, J = 6.7 Hz, Me-26 or Me-27), 0.983 (d, 3H, J = 6.8 Hz, Me-26 or Me-27), 0.99 (d, 3H, J = 5.2 Hz, Me-21), 1.06 - 1.17 (m, 1H, H-22a), 1.26 - 1.42 (m, 5H, H-12a, H-16a, H-17, H-20, H-22b), 1.46 - 1.72 (m, 6H, H-2a, H-9a, H-11a, H-11b, H-15a, H-15b), 1.57 (d, 3H, J = 6.9 Hz, Me-24
2), 1.83 - 2.11 (m, 6H, H-2b, H-12b, H-14, H-16b, H-23a, H-23b), 2.14 - 2.23 (m, 2H, H-1a, H-25), 2.29 (dd, 1H, J = 13.3, 7.6 Hz, H-4a), 2.40 (m, 1H, H-1b), 2.57 (dd, 1H, J = 13.0, 3.8 Hz, H-4b), 2.82 (m, 1H, H-9b), 3.95 (m, 1H, H-3), 4.82 (d, 1H, J = 2.4 Hz, H-19a), 5.05 (1H, H-19b), 5.19 (q, 1H, J = 6.7 Hz, H-24
1), 6.03 (d, 1H, J = 11.3 Hz, H-7), 6.24 (d, 1H, J = 11.2 Hz, H-6)
13C-NMR (100 MHz, CDCl
3), δ= 12.0 (C-18), 13.2 (C-24
2), 18.9 (C-21), 22.1 (C-15 or C-26 or C-27), 22.2 (C-15 or C-26 or C-27), 22.3 (C-15 or C-26 or C-27), 23.6 (C-11), 25.7 (C-23), 27.7 (C-16), 29.0 (C-9), 31.9 (C-1), 34.8 (C-25), 35.2 (C-2 and C-22), 36.7 (C-20), 40.5 (C-12), 45.87 (C-4 or C-13), 45.92 (C-4 or C-13), 56.25 (C-14 or C-17), 56.33 (C-14 or C-17), 69.2 (C-3), 112.4 (C-19), 115.6 (C-24
1), 117.5 (C-7), 122.5 (C-6), 135.1 (C-5), 142.3 (C-8), 145.1 (C-10), 147.0 (C-24); NOESY-NMR (400 MHz, CDCl
3), δ= 5.19 (H-24
1) → 0.979 or 0.983 (Me-26), 5.19 (H-24
1) → 1.57 (Me-24
2), 5.19 (H-24
1) → 2.14 - 2.23 (H-25)
APCI-Orbitrap-MS, calcd. for C
29H
47O
+ (M + H)
+: 411.3621, found m/z: 411.3620.
【0029】
【化17】
化合物4
[α]
25
D = +8.9 (c = 0.023, クロロホルム)
1H-NMR (400 MHz, 重クロロホルム), δ= 0.55 (s, 3H, Me-18), 1.02 (d, 3H, J = 6.4 Hz, Me-21), 1.13 (m, 1H, H-22a), 1.23 - 1.35 (m, 3H, H-12a, H-16a, H-17), 1.38 - 1.59 (m, 5H, H-11a, H-15a, H-15b, H-20, H-22b), 1.64 - 1.72 (m, 3H, H-2a, H-9a, H-11b), 1.71 (d, 3H, J = 6.9 Hz, Me-24
2), 1.85 - 2.02 (m, 4H, H-2b, H-12b, H-14, H-16b), 1.87 (d, 1H, J = 0.8 Hz, Me-26), 2.08 - 2.21 (m, 2H, H-1a, H-23a), 2.26 - 2.43 (m, 3H, H-1b, H-4a, H-23b), 2.57 (dd, 1H, J = 13.0, 3.7 Hz, H-4b), 2.82 (m, 1H, H-9b), 3.95 (m, 1H, H-3), 4.82 (d, 1H, J = 2.5 Hz, H-19a), 4.86 (s, 1H, H-27a), 4.96 (s, 1H, H-27b), 5.05 (1H, H-19b), 5.63 (q, 1H, J = 6.9 Hz, H-24
1), 6.03 (d, 1H, J = 11.3 Hz, H-7), 6.24 (d, 1H, J = 11.3 Hz, H-6)
13C-NMR (100 MHz, CDCl
3), δ= 12.0 (C-18), 13.9 (C-24
2), 18.9 (C-21), 21.3 (C-26), 22.3 (C-15), 23.6 (C-11), 24.2 (C-23), 27.7 (C-16), 29.0 (C-9), 31.9 (C-1), 35.0 (C-2 or C-22), 35.2 (C-2 or C-22), 36.7 (C-20), 40.5 (C-12), 45.87 (C-4 or C-13), 45.92 (C-4 or C-13), 56.2 (C-14 or C-17), 56.3 (C-14 or C-17), 69.2 (C-3), 110.3 (C-27), 112.4 (C-19), 117.5 (C-7), 121.6 (C-24
1), 122.5 (C-6), 135.1 (C-5), 141.3 (C-24), 142.2 (C-8), 143.6 (C-25), 145.1 (C-10); NOESY-NMR (400 MHz, CDCl
3), δ= 5.63 (H-24
1) → 1.71 (Me-24
2), 5.63 (H-24
1) → 1.87 (Me-26), 4.86 (H-27a) → 1.87 (Me-26), 4.96 (H-27b) → 2.08 - 2.21 (H-23a), 4.96 (H-27b) → 2.26 - 2.43 (H-23b)
APCI-Orbitrap-MS, calcd. for C
29H
47O
+ (M + H)
+: 411.3621, found m/z: 411.3620.
【0030】
〔生物学的活性〕
化合物3及び化合物4は、肝臓で25位の水酸化を受けて、以下の化合物5を生じ得る。
【化18】
化合物5
【0031】
化合物5は、腎臓で1位の水酸化を受けて、以下の化合物6を生じ得る。この化合物6が、活性型ビタミンDとして生体内で作用し得る。
【化19】
化合物6
【0032】
また、化合物3及び4は、腎臓で1位の水酸化を受けて、それぞれ以下の化合物7及び8を生じ得る。これらの化合物も、活性型ビタミンDとして生体内で作用し得る。
【化20】
化合物7
【化21】
化合物8
【0033】
化合物の構造式に基づいて生物学的活性スペクトルを予測するツールとして、PASS(Prediction of Activity Spectra for Substances)オンラインが広く用いられている(http://www.way2drug.com/PASSOnline/index.php;後掲の参考文献を参照)。PASSオンラインは、公知の生物学的活性化合物の構造活性相関に基づいて試験化合物の生物学的活性を予測するツールである。ビタミンD誘導体としては種々の構造を有するものが公知となっているから、本発明の化合物のように公知のビタミンDと共通する構造を有する化合物の場合には、高い信頼性を以て、その生物学的活性を予測することが可能であると考えられる。そこで、化合物3及び4の活性型である化合物6~8の化学構造をPASSオンラインによって解析し、Pa値(1に近いほど活性が高い)を取得した。活性型ビタミンD3(VD3)及び活性型ビタミンD5(VD5)と比較した結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
PASSオンラインによる解析の結果、本発明の化合物は、ビタミンDに共通して見られるような生理作用を有することが推測された。そして、その活性スペクトルは特徴的なものだった。例えば、本発明の化合物のPa値の多くはビタミンD5よりも低かったものの、アポトーシスアゴニストについてのPa値はビタミンD5よりも高かった。このような特徴的な活性スペクトルを有する化合物を揃えることは、ビタミンD誘導体化合物の探索だけでなく、機能性素材としての活用においても有用である。
【0036】
一般に、活性型ビタミンDは、細胞の分化誘導能を有し、抗がん剤としての効果も期待できるものであるが(Rao D.S. et al., Steroids, 2001, 66, 423-431)、活性型ビタミンD3は強いカルシウム吸収刺激作用を有するため、当該活性型を直接摂取すると、高カルシウム血症や軟組織の石灰化亢進などの副作用が起こり得る。そのため、活性型ビタミンD3には、抗癌剤としては使いにくい面がある。これに対して、1-OH-ビタミンD5は、活性型ビタミンD3よりもカルシウム吸収刺激作用が低いことを利用して、抗がん剤としての活用が試みられている(Lazzaro G., et al., Eur. J. Cancer, 2000, 36, 780-786及びGuyton K.Z. et al., Nutr. Rev., 2003, 61, 227-238)。1-OH-ビタミンD5は、活性型ビタミンD3のような副作用がなく、乳癌、大腸癌、及び前立腺癌などに対して効果があることが示されている。本発明の化合物も、カルシウム調節のPa値が低いことから、高カルシウム血症や軟組織の石灰化亢進などの副作用のリスクが低い抗がん剤として利用できる可能性がある。
【0037】
*PASSについての参考文献
(a) Komba S., et al., J. Oleo Sci., 2015, 64(9), 1009-1018
(b) Lagunin, A., et al., Bioinformatics, 2000, 16, 747-748
(c) Poroikov, V., et al., Sar Qsar Environ. Res., 2001, 12, 327-344
(d) Stepanchikova, A., et al., Curr. Med. Chem., 2003, 10, 225-233
(e) Lagunin, A., et al., Curr. Pharm. Des. 2010, 16, 1703-1717
(f) Filimonov, D., et al., Chem. Heterocycl. Compd., 2014, 50, 444-457
【0038】
以上より、新規ビタミンD誘導体化合物を製造することができた。したがって、利用可能なビタミンD誘導体化合物のバリエーションが広がり、目的に応じて使用できるビタミンD誘導体化合物の選択肢を増やすことができた。