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特許7572102腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの新規用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの新規用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/768 20150101AFI20241016BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241016BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20241016BHJP
   C12N 15/45 20060101ALN20241016BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20241016BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
A61K35/768
A61P35/00
A61P35/04
A61P37/04
C07K14/705 ZNA
C12N15/45
C12N5/09
C12N7/01
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024508259
(86)(22)【出願日】2023-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2023010385
(87)【国際公開番号】W WO2023176938
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022041183
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 知惠子
(72)【発明者】
【氏名】米田 美佐子
(72)【発明者】
【氏名】藤幸 知子
(72)【発明者】
【氏名】森藤 可南子
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047645(WO,A1)
【文献】PACKIRISWAMY, N. et al.,Oncolytic measles virus therapy enhances tumor antigen-specific T-cell responses in patients with mu,Leukemia,2020年,Vol. 34,pp. 3310-3322,DOI: 10.1038/s41375-020-0828-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C07K、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを含む、腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導して、腫瘍を治療するための医薬組成物であり、
前記腫瘍細胞が、PVRL4/Nectin4を発現する腫瘍細胞であり、
前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、野生型麻疹ウイルスに遺伝子改変を行ったrMV-SLAM-blind又はrMV-V(-)-SLAM-blindであり、
腫瘍塊への直接投与により、前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが直接投与されていない腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導するための、医薬組成物。
【請求項2】
前記細胞性免疫を誘導する対象の腫瘍が、乳がん、肺がん、大腸がん、又は膵臓がんである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記細胞性免疫を誘導する対象の腫瘍細胞が、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの直接導入後にも残存する腫瘍細胞である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記残存する腫瘍細胞が、深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、転移した腫瘍細胞からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記細胞性免疫を誘導する対象の腫瘍が、ステージ2~ステージ4の進行した腫瘍である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
薬物療法、放射線療法、又は手術療法が施される前の腫瘍患者に投与される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
薬物療法、放射線療法、又は手術療法が施された後の腫瘍患者に投与される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接導入した腫瘍細胞以外の腫瘍細胞(ただし、ヒトの生体内の腫瘍細胞を除く。)に対する細胞性免疫を誘導するための方法であって、
生体内の腫瘍細胞(ただし、ヒトの生体内の腫瘍細胞を除く。)に対して腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを腫瘍塊に直接導入して細胞死を生じさせること
を含み、
前記腫瘍細胞が、PVRL4/Nectin4を発現する腫瘍細胞であり、
前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、野生型麻疹ウイルスに遺伝子改変を行ったrMV-SLAM-blind又はrMV-V(-)-SLAM-blindであり、
前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接導入した腫瘍細胞以外の腫瘍細胞が、前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの直接導入によっても排除できなかった生体内に残存する腫瘍細胞あるいは転移・再発した腫瘍細胞である、方法。
【請求項9】
前記残存する腫瘍細胞が、深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、転移した腫瘍細胞からなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接導入した腫瘍細胞以外の腫瘍細胞が、ステージ2~ステージ4の進行した腫瘍の腫瘍細胞である、請求項又はに記載の方法。
【請求項11】
腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを含む、ヒトの腹膜播種又はスキルス胃がんを治療するための医薬組成物であり、
前記腹膜播種又はスキルス胃がんが、PVRL4/Nectin4を発現するものであり、
前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、野生型麻疹ウイルスに遺伝子改変を行ったrMV-SLAM-blind又はrMV-V(-)-SLAM-blindであり、
腹腔内投与される、医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの有効性を高める、新たな用途に関するものである。具体的には、本発明は、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの新たな用途、その新たな用途を利用した医薬組成物、並びに腫瘍の新たな治療方法に関するものである。
本願は、2022年3月16日に、日本に出願された特願2022-041183号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍溶解性ウイルス治療は、伝統的な治療方法と組み合わることができる、腫瘍治療のための新しい戦略として、非常に有望と考えられている。現在のところ、多くのウイルス種由来の幅広いウイルスが、腫瘍溶解性薬剤として評価されている最中であり、いくつかのウイルスでは臨床試験も行われている。
【0003】
麻疹ウイルス(Measles virus;MV)は、パラミクソウイルス科モービリウイルス属に属し、ヒトを自然宿主として感染し、完全に細胞質中で増殖する(すなわち、ウイルス配列が宿主の染色体DNA中に組み込まれることがない)、免疫抑制や呼吸器症状を引き起こす病原性ウイルスである。麻疹ウイルスが腫瘍細胞に感染し、腫瘍の退縮を誘導することが明らかになったことから(非特許文献1)、麻疹ウイルスは、腫瘍のウイルス治療のツールとして注目されてきた。
【0004】
この特徴を利用して、発明者らの研究グループは、野生型麻疹ウイルスHL株をベースにして、野生型麻疹ウイルスが病原性を示すためのレセプターであるシグナル伝達リンパ球活性化分子(Signaling lymphocyte activation molecule; SLAM)を認識しない組換え麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind)を作製した(特許文献1、非特許文献1)。この文献において、発明者らは、in vitro又はin vivoにおいて、rMV-SLAMblindを乳がん細胞に感染させると、これを死滅させることができること、そしてその抗腫瘍活性は、従来の麻疹ウイルスワクチン株よりも高いことを示した。また、rMV-SLAMblindは、完全に弱毒化されており、サルへ皮下接種しても麻疹の典型的な臨床症状を引き起こすことがなく、安全性も高いことが確認されたことを示した(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
発明者らの研究グループはさらに、SLAMを認識しない遺伝子改変麻疹ウイルスとして、rMV-V(-)-SLAMblindを作成するとともに、このrMV-V(-)-SLAMblindもまた乳がん、及び、転移したがんの治療が可能であることを見出した(特許文献2)。さらに、SLAMを認識しない遺伝子改変麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind及びrMV-V(-)-SLAMblind)がいずれも、腫瘍内投与のみならず、静脈内投与によっても腫瘍の退縮効果があることを示した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-216609号公報
【文献】国際公開第2016/047645号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sugiyama et al., Gene Therapy, 2013, vol.20, p.338-347.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind及びrMV-V(-)-SLAMblind)は、腫瘍細胞に感染して腫瘍細胞を溶解することで、腫瘍組織の退縮を誘導することを特徴としている。しかし、当該ウイルスを直接感染させることができない腫瘍細胞、例えば深部腫瘍や治療後に発生する転移腫瘍に対しては、直接感染させる方法以外の手法を開発することが必要であった。そこで、本発明は、SLAMを認識しない遺伝子改変麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind及びrMV-V(-)-SLAMblind)を、腫瘍治療のためのツールとして開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを導入した腫瘍細胞において細胞死が誘導された結果、全身性に腫瘍細胞に対する強い細胞性免疫を誘導することができることを見出し、前記課題を解決できることを示した。
【0010】
より具体的には、本願は、前述した課題を解決するため、以下の発明を提供する。
[1] 腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを含む、腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導して治療するための医薬組成物。
[2] 治療対象の前記腫瘍細胞が、PVRL4/Nectin4を発現する腫瘍細胞である、前記[1]の医薬組成物。
[3] 治療対象の前記腫瘍が、乳がん、肺がん、大腸がん、又は膵臓がんである、前記[1]又は[2]の医薬組成物。
[4] 治療対象の前記腫瘍細胞が、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの直接導入によって排除できず残存する腫瘍細胞である、前記[1]~[3]のいずれかの医薬組成物。
[5] 前記残存する腫瘍細胞が、深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、及び転移した腫瘍細胞からなる群から選択される、前記[4]の医薬組成物。
[6] 前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、rMV-SLAM-blind又はrMV-V(-)-SLAM-blindである、前記[1]~[5]のいずれかの医薬組成物。
[7] 前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、静脈投与、腫瘍塊への直接投与、又は腹腔内投与により用いられる、前記[1]~[6]のいずれかの医薬組成物。
[8] 前記腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、腫瘍溶解作用に加えて細胞性免疫も誘導する、前記[1]~[7]のいずれかの医薬組成物。
[9] 治療対象である前記腫瘍細胞に対して腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接導入して細胞死を生じさせることを含む、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの直接導入によっても排除できなかった生体内に残存する腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導する方法。
[10] 残存する腫瘍細胞が、深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、転移した腫瘍細胞、からなる群から選択される、[9]に記載の方法。
[11] 腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、rMV-SLAM-blind又はrMV-V(-)-SLAMblindである、[9]又は[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind及びrMV-V(-)-SLAMblind)は、腫瘍内導入によって直接的に当該腫瘍細胞に対して顕著な細胞死を誘導するだけでなく(直接的抗腫瘍効果)、直接ウイルスを感染させていない腫瘍細胞(転移した腫瘍細胞や直接ウイルスを感染できない部位に広がる深部腫瘍細胞など)に対しても間接的な細胞性免疫を誘導し腫瘍増大の抑制効果を有することができる(二次的抗腫瘍効果)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの二次的抗腫瘍効果を検討するための実験プロトコルを示す図である。
図2図2は、腫瘍溶解性ウイルスを投与した場合の腫瘍体積の増加をまとめた図である。図2において、左図はウイルス投与側(左側皮下)の腫瘍成長を、MOCK投与した群(陰性対照)と比較して示した図であり、右図は非ウイルス投与側(右側皮下)の腫瘍成長を、MOCK投与した群(陰性対照)と比較して示した図を示す。
図3図3は、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの二次的抗腫瘍効果の作用機序を検討するための実験プロトコルを示す図である。
図4図4は、腫瘍溶解性ウイルスを投与した場合の腫瘍体積の増加をまとめた図である。図2において、左図はウイルス投与側(左側皮下)の腫瘍成長を、MOCK投与した群(陰性対照)と比較して示した図であり、右図は非ウイルス投与側(右側皮下)の腫瘍成長を、MOCK投与した群(陰性対照)と比較して示した図を示す。
図5図5は、腫瘍組織内の腫瘍溶解性ウイルスのゲノムを検出した結果を示す図である。
図6図6は、ウイルス投与側の腫瘍組織及び非ウイルス投与側の腫瘍組織における腫瘍浸潤免疫細胞の数を示す図である。
図7図7は、ウイルス投与側の腫瘍組織及び非ウイルス投与側の腫瘍組織における活性化T細胞の数を示す図である。
図8図8は、腫瘍近傍リンパ節(Draining LN)に存在するNK細胞、NK T細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞上の活性化マーカーCD44を高発現する細胞数を測定した結果を示す図である。
図9図9は、ウイルス投与側の腫瘍組織近傍の排出リンパ節及び非ウイルス投与側の腫瘍組織腫瘍組織近傍の排出リンパ節における免疫細胞の数を示す図である。
図10図10は、腫瘍溶解性ウイルスを投与したマウスの脾臓組織における様々な免疫細胞の数を示す図である。
図11図11は、腫瘍溶解性ウイルスを投与したマウスの脾臓組織における様々な免疫細胞の数を示す図である。
図12図12は、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの二次的抗腫瘍効果を検討するための実験プロトコルを示す図である。
図13図13は、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの接種処置により、処置が腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞反応を誘導することを示す図である。
図14図14は、スキルス胃がん細胞株及び非スキルス胃がん細胞株細胞表面における、Nectin-4の発現を調べた結果を示す図である。
図15図15は、スキルス胃がん細胞株及び非スキルス胃がん細胞株における、腫瘍溶解性ウイルスのrMV-SLAMblindに対する感染感受性を調べた結果を示す図である。
図16図16は、スキルス胃がん細胞株及び非スキルス胃がん細胞株における、腫瘍溶解性ウイルスのrMV-SLAMblindに感染させたのちの細胞生存率を調べた結果を示す図である。
図17図17は、HSC60細胞及びHSC43細胞の皮下異種移植モデルを例として、腫瘍溶解性ウイルスのrMV-SLAMblindの抗腫瘍活性を調べた結果を示す図である。
図18図18は、ルシフェラーゼを発現するHSC-60細胞(HSC60-Luc)を腹膜転移させたモデルにおける、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍溶解活性を調べた結果を示す図である。
図19図19は、実施例8において、腫瘍細胞を移植した免疫保有マウスに腫瘍溶解性ウイルスと各免疫応答細胞に対する抗体とを投与した場合の、腫瘍体積の経時的変化をまとめた図である。
図20図20は、実施例8において、腫瘍細胞を移植した免疫保有マウスに腫瘍溶解性ウイルスと各免疫応答細胞に対する抗体とを投与した場合の、生存率の経時的変化をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
腫瘍溶解性ウイルスは、従来から使用されている治療方式と組み合わせて使用することができる腫瘍の新たな治療剤として、非常に有望視されている。本発明の発明者らは、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind及びrMV-V(-)-SLAMblind)が、腫瘍細胞内導入によって直接的に当該腫瘍細胞に対して顕著な細胞死を誘導するだけではなく(直接的抗腫瘍効果)、直接ウイルスを感染させていない腫瘍細胞(転移した腫瘍細胞や直接ウイルスを感染できない部位に広がる深部腫瘍細胞など)に対する、間接的だが強い細胞性免疫を誘導して腫瘍増大の抑制効果を有することができること(二次的抗腫瘍効果)を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
<医薬組成物>
すなわち、本発明は、一態様において、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを含む、腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導して治療するための医薬組成物を提供する。この発明により、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接感染させることができない腫瘍細胞、例えば深部腫瘍細胞や治療後に発生する転移腫瘍細胞、再発がん細胞に対して、直接感染させる方法以外の手法で治療する手法を提供するものである。
【0015】
本発明において使用する「腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス」は、腫瘍溶解活性を有する麻疹ウイルスについて、安全性を高めるような遺伝子改変、あるいは腫瘍細胞に対する感染効率を高めるような遺伝子改変を行った麻疹ウイルスのことをいう。例えば、本発明において使用される腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスとしては、PVRL4/Nectin4を発現する様々な腫瘍細胞に対して効率的に感染して、細胞内で増殖し、効率的な細胞死を引き起こすことが見出された野生型麻疹ウイルス(MV HL株)などを使用することができる。
【0016】
本発明に係る腫瘍溶解性ウイルスの作成のために使用される遺伝子改変としては、腫瘍細胞には感染性を有するが正常細胞に対する感染性を有さないようにする遺伝子改変が好ましく、例えば、SLAM陽性細胞に対する感染性を喪失させるようSLAMに対して結合する能力を欠損させる遺伝子改変が含まれる。SLAMに対して結合する能力を欠損させることにより、麻疹ウイルスの通常の標的細胞でありSLAM陽性である免疫系の細胞などには、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは感染せず、サルへの感染実験でもSLAM欠損ウイルスが麻疹病態を生じさせない(特許文献1、非特許文献1)。また、免疫細胞への感染性の喪失は、治療の際の効力及び安全性を向上させることができる。
【0017】
本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの例としては、上述した腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスとしての特徴を有するものであれば、特に限定されることなく使用することができる。当該腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスとしては、例えば、本発明の発明者らが以前に作出し、実際に直接的抗腫瘍効果が認められたrMV-SLAM-blind又はrMV-V(-)-SLAM-blindを挙げることができる。
【0018】
本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの例である「rMV-SLAMblind」は、特許文献1及び特許文献2に記載している腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスである。このウイルス株は、リバースジェネティクス手法を使用して、SLAMを選択的に利用することができない組換えMVとして作成された遺伝子改変麻疹ウイルス株である。この遺伝子改変麻疹ウイルス株は、SLAM陽性の細胞に対する感染性を喪失しており、また、CD46陽性細胞に対しても、もともと感染せず細胞傷害作用を誘導しないが、細胞への感染のためのレセプターとして、PVRL4/Nectin4を使用するため、PVRL4陽性の腫瘍細胞に特異的に感染し、その細胞死を誘導する。したがって、SLAM-陰性腫瘍細胞(例えば、乳がんの細胞)に対して特異的な腫瘍溶解活性をもつ。
【0019】
本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの別の例である「rMV-V(-)-SLAMblind」は、特許文献2に記載している腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスである。このウイルス株は、基本的には「rMV-SLAMblind」に対してさらにP遺伝子中に改変を追加しているものの、「rMV-SLAMblind」の腫瘍溶解性と同様の腫瘍溶解性を有する遺伝子改変麻疹ウイルス株である。この遺伝子改変麻疹ウイルス株は、rMV-SLAMblind株の特徴(感染特異性、腫瘍溶解活性)と同様の特徴を有するとともに、病原性に関与するV遺伝子を発現させないように遺伝子改変しており、弱毒化されているという特徴を有する。
【0020】
具体的には、rMV-SLAMblindは、麻疹ウイルス株のHタンパク質のアミノ酸配列の533番目のアミノ酸残基を、野生型株などにおけるアルギニンをアラニンに置換したものである。他方、rMVV(-)-SLAMblindは、Hタンパク質のアミノ酸配列の533番目のアミノ酸残基のアルギニンをアラニンに置換し、さらにP遺伝子中の687、690番目の塩基をそれぞれUからC、CからUに置換したものである。
rMV-SLAMblindは、例えば、麻疹ウイルスHL野生型株の全長アンチゲノムcDNAをコードするプラスミドpMV-HL(7+)を使用して、そのHタンパク質の533番目のアミノ酸残基のアルギニンをアラニンによりアミノ酸置換したベクター(pMV-SLAMblind)を調製し、これを利用して、リバースジェネティクス手法により調製することができる。ここで使用される533番目アミノ酸残基のアルギニンをアラニンによりアミノ酸置換した麻疹ウイルスHL野生型株の全長アンチゲノムcDNAは、配列番号1に示される塩基配列を含んでおり、この塩基配列によってコードされるタンパク質のうち、Nタンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、Pタンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなり、Mタンパク質は、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなり、Fタンパク質は、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなり、Hタンパク質は、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなり、Lタンパク質は、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる。これらのタンパク質によって、ウイルスが構成される。
他方、rMV-V(-)-SLAMblindは、例えば、麻疹ウイルスHL野生型株の全長アンチゲノムcDNAをコードするプラスミドpMV-HL(7+)を使用して、そのHタンパク質の533番目のアミノ酸残基のアルギニンをアラニンによりアミノ酸置換したベクター(pMV-SLAMblind)のP遺伝子にさらに2カ所の変異(687番目をUからC、690番目をCからU)に置換したベクター(pMV-V(-)SLAMblind)を調製し、これを利用して、リバースジェネティクス手法により調製することができる。なお、pMV-V(-)SLAMblindによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、rMV-SLAMblindと全く同じである。
MV-SLAMblind又はrMV-V(-)-SLAMblindを作製するための、元のウイルス株は、野生型MV-HL株以外の株であってもよい。従って、本発明において腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスとして用いられるrMV-SLAMblind又はrMV-V(-)-SLAMblindは、上述のpMV-SLAMblindベクターやpMV-V(-)SLAMblindを利用したものには限定されない。
【0021】
本発明に係る医薬組成物の治療対象の腫瘍細胞は、PVRL4/Nectin4を発現する腫瘍細胞であることを特徴とし、VRL4/Nectin4を高発現する腫瘍細胞であることが好ましい。PVRL4/Nectin4を高発現する腫瘍細胞としては、例えば、乳がん、肺がん、結腸直腸がんなどの大腸がん、及び卵巣がんなどの上皮がんの細胞を挙げることができるが、PVRL4/Nectin4高発現する腫瘍細胞である限り、これらのみに限定されない。
【0022】
本発明においては、特に、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが、PVRL4/Nectin4を発現する様々な腫瘍細胞に対して効率的に感染するものであることが好ましいことから、PVRL4/Nectin4を発現する腫瘍細胞(乳がん、肺がん、結腸直腸がんなどの大腸がん、膵臓がんなどの細胞)が本発明に係る医薬組成物の治療対象として好ましい。
【0023】
本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスは、腫瘍細胞に直接導入した場合に、その腫瘍細胞により形成される腫瘍塊の増大を著しく抑制する効果がある。このような、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接的に導入して腫瘍細胞に細胞死を生じさせる反応を「直接的抗腫瘍効果」と呼ぶ。
【0024】
従来から、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを使用して腫瘍の治療を行った場合に、直接的抗腫瘍効果によっては排除しきれずに生体内に残存する腫瘍細胞(深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、転移した腫瘍細胞など)が存在する可能性が指摘されていた。このような残存する腫瘍細胞あるいは腫瘍に対する治療において有効性を示す方法の開発が求められていた。
【0025】
本発明は、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを、標的となる腫瘍あるいは腫瘍細胞に直接導入することにより、その腫瘍細胞に細胞死を誘導する(直接的抗腫瘍効果)だけでなく、その結果として、生体内の細胞性免疫系の作用により、生体内で当該腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導することができることを示した。この細胞性免疫の作用により、治療対象とする腫瘍細胞のうち、直接的抗腫瘍効果によっては細胞死させることができず、生体内に残存する腫瘍細胞をも、排除することができる。本発明においては、このような生体内に残存する腫瘍細胞を細胞性免疫により排除する作用を、「二次的抗腫瘍効果」という。
【0026】
本発明は、このような作用に基づいて、腫瘍に対する細胞性免疫を誘導して治療するための医薬組成物を提供するものである。すなわち、本発明に係る医薬組成物の治療対象としては、腫瘍の原発巣内において直接的抗腫瘍効果を有する抗腫瘍剤による治療によってもその後も残存する腫瘍細胞(深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、転移した腫瘍細胞などを含む)が含まれるが、これらに限定されるものではない。腫瘍に対する治療法は数多く開発されており、様々な抗腫瘍剤等が存在するものの、難治性の腫瘍は依然として数多く、特に転移腫瘍では悪性度が高く、治療の要望が高いものである。
【0027】
本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを、標的となる腫瘍あるいは腫瘍細胞に直接導入することにより、その腫瘍細胞に細胞死を誘導する(直接的抗腫瘍効果)だけでなく、生体内で当該腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導することができるものである。この目的を達成するため、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスは、直接的抗腫瘍効果を生じさせることができる方法で、被検体に投与されるものである。本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスは、静脈投与、腫瘍塊への直接投与、又は腹腔内投与などにより、投与することができる。
【0028】
本発明に係る医薬組成物は、有効成分である腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス(例えば、rMV-SLAMblindあるいはrMV-V(-)-SLAMblind)のみを投与してもよいが、1又は2以上のその他の有効成分と組み合わせて使用することもできる。
【0029】
医薬組成物の剤型は、腫瘍溶解性ウイルスを投与する形態として適したものであれば、当該技術分野において使用されるどのようなものであってもよく、例えば、液体製剤などとして使用することができる。
【0030】
また、本発明に係る医薬組成物を投与する場合、様々な単位投与量を含んでいてもよい。単位投与量は、所定量の本発明の組換え麻疹ウイルスの含有量のことであり、この単位投与量を1回の注入として投与してもよく、あるいは、設定された期間にわたる連続的注入を含んでもよい。具体的な単位投与量は、直接的抗腫瘍効果のためにすでに検討されている単位投与量とすることができる(特許文献2)。
【0031】
<腫瘍細胞に対して細胞性免疫を誘導する方法>
本発明は、別の一態様において、治療対象である腫瘍細胞に対して腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接導入して細胞死を生じさせること(直接的抗腫瘍効果)を含む、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの直接導入によっても排除できなかった生体内に残存する腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘導する方法(二次的抗腫瘍効果)もまた、提供する。
【0032】
一般的に、腫瘍細胞に対する細胞性免疫(二次的抗腫瘍効果)は、
・腫瘍細胞由来の抗原が抗原提示細胞(APC;マクロファージや樹状細胞)に取り込まれ、小さなペプチドへと分解され、
・分解された抗原断片は、エンドソーム内でMHCクラスII分子と結合して抗原提示細胞表面に移行し、ヘルパーT細胞のT細胞受容体(TCR)に結合することにより抗原決定基を提示され、
・その結果、ヘルパーT細胞が活性化し、Th1細胞が産生するIL-2やインターフェロンγ(IFN-γ)によって、細胞傷害性T細胞が活性化され、
・傷害性T細胞は、腫瘍細胞が提示するMHCクラスIと複合体を形成した抗原ペプチドを認識することで、それらを異物として捉え活性化し、
・その結果、傷害性T細胞は、認識した腫瘍細胞に対してパーフォリンと呼ばれるタンパク質を分泌し、標的腫瘍細胞に穴を開けたうえでグランザイムという酵素を注入することによりアポトーシスを誘導、若しくはFas-Fasリガンド系を介して破壊し、
・さらに、マクロファージもヘルパーT細胞による刺激を受けて活性化し、より強力な食作用を持つことでキラーT細胞によって攻撃された腫瘍細胞を貪食する、
という機序により生じると考えられている。
【0033】
本発明の方法においても、直接的に確認できてはいないものの、腫瘍細胞由来の抗原が抗原提示細胞(APC;マクロファージや樹状細胞)に提示されること(すなわち、直接的抗腫瘍効果を生じさせること)が必要と考えられる。本発明の方法においては、直接的抗腫瘍効果したがって、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを治療対象である腫瘍細胞に対して直接的に導入して細胞死を生じさせ、細胞死を生じた腫瘍細胞由来の抗原が、抗原提示細胞に取り込まれ、マクロファージ、細胞傷害性T細胞(CTL、キラーT細胞)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)などのエフェクター細胞の活性化を伴って、結果として、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスが直接は導入されていない腫瘍細胞に対する細胞性免疫を生じさせることができると考えられる。本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスによる二次的抗腫瘍効果には、特に、活性化キラーT細胞が重要な役割を果たしている。
【0034】
生体内で誘導される細胞性免疫は、セントラルメモリー(CM)T細胞とエフェクターメモリー(EM)T細胞という2種類のメモリーT細胞が長期間にわたり生存することで、同一の抗原(例えば病原体など)が再度出現した場合にも、速やかな免疫応答を発動することが可能となる。
【0035】
本発明の方法により直接的抗腫瘍効果が生じることで、生体内において細胞性免疫のメモリーが成立することが明らかになったことから、将来的に再発性の腫瘍細胞が増殖を始める場合にも、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを投与することなく、生体内において当該腫瘍細胞に対する細胞性免疫を再び誘導することができる。麻疹ウイルスの特長として、強い細胞性免疫を誘導し、かつそれが終生免疫と言えるほど長く持続することが知られていることから、この免疫効果によって、転移がんや再がんに対しても長期・持続的な抑制効果が期待できる。
【0036】
<腫瘍細胞に対する細胞性免疫を介した腫瘍の治療方法>
本発明は、上述した腫瘍細胞に対して細胞性免疫を誘導する方法を利用する別の一態様において、治療対象である腫瘍細胞に対して腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを直接導入して細胞死を生じさせること(直接的抗腫瘍効果)を含む、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの直接導入によっても排除できなかった生体内に残存する腫瘍細胞に対する細胞性免疫を介した腫瘍の治療方法(二次的抗腫瘍効果)もまた、提供する。
【0037】
本発明における治療方法は、直接的抗腫瘍効果では排除できなかった、生体内に残存する腫瘍細胞に対する二次的抗腫瘍効果により、直接的抗腫瘍効果によっても排除しきれない生体内に残存する腫瘍細胞(深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、転移した腫瘍細胞など)を治療することができる。
【0038】
この方法により、直接的抗腫瘍効果の結果として生体内に生じる細胞性免疫によって排除できなかった、生体内に残存する腫瘍細胞に対する二次的抗腫瘍効果により、直接的抗腫瘍効果によっても排除しきれない生体内に残存する腫瘍細胞(深部腫瘍細胞、再発性の腫瘍細胞、転移した腫瘍細胞など)を治療することができる。このような治療効果が得られるため、本発明における治療方法は、ステージ2~ステージ4の進行した腫瘍や再発性の腫瘍に対する治療法として好適である。
【0039】
本発明における治療方法は、薬物療法、放射線療法、手術療法等のその他のがん治療法が施された後の腫瘍患者に対して適用されてもよく、その他のがん治療法が施される前の腫瘍患者に適用されてもよい。例えば、本発明における治療方法は、がん治療において最初に選択される治療法として好適である。
【実施例
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。下記に示す実施例は、いかなる方法によっても本発明を限定するものではない。
【0041】
[実施例1]腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの抗腫瘍効果の検討
本実施例は、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの抗腫瘍効果を検討するため、マウスリンパ腫由来の腫瘍細胞を移植した免疫保有マウスを使用して、本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを投与した際のウイルス投与側腫瘍細胞と非ウイルス投与側腫瘍細胞の成長を調べたものである。
【0042】
実験のプロトコルは図1に記載する通りである。具体的には、C57BL/6Jマウス(n=5)の脇腹部分両側に、3×106 個のE.G-7細胞(T細胞リンパ腫細胞株、ova発現腫瘍、ATCCより入手)又はB16/細胞(メラノーマ細胞株、ATCCより入手)を皮下移植した(移植日をD0とする)。その後、清浄な環境で飼育しながら、移植3日後(D3)、4日後(D4)、5日後(D5)、6日後(D6)、7日後(D7)、8日後(D8)、10日後(D10)、12日後(D12)の各日に、右側移植部位内部にのみ、1×106 TCID50のEGFP遺伝子を保持するrMV-SLAMblind(rMV-EGFP-SLAMblind)あるいは陰性対照として生理食塩水を投与し、右側移植部位には何も投与しなかった。rMV-EGFP-SLAMblindは、すでに報告されている方法により調製した(特許文献1)。腫瘍のサイズは、D14まで、ノギスにて長短径を測定し、その体積を計算によって算出した。
【0043】
腫瘍体積の増加は、図2にまとめた通りである。図2において、左図はウイルス投与側(左側皮下)の腫瘍成長を、MOCK投与した群(陰性対照)と比較して示した図であり、右図は非ウイルス投与側(右側皮下)の腫瘍成長を、MOCK投与した群(陰性対照)と比較して示した図を示す。
【0044】
ウイルス投与側の腫瘍体積は、腫瘍溶解性ウイルスの本来の作用により大幅に抑制されることが示された(直接的抗腫瘍効果図2左)。それに対して、非ウイルス投与側の腫瘍体積は、腫瘍内に腫瘍溶解性ウイルスを投与していないにも関わらず、腫瘍体積の増加が抑制されることが示された(図2右)。この実施例において使用した腫瘍溶解性ウイルス(rMV-SLAMblind)は、生体内で血液循環に乗ることはないと考えられており、腫瘍溶解性ウイルスの直接投与以外の機序を介して、非ウイルス投与側の腫瘍体積の増加が抑制されたことが考えられた。
【0045】
[実施例2]腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の機序検討(1)
本実施例は、実施例1で明らかになった本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を検討することを目的として行った。
【0046】
実験のプロトコルは図3に記載する通りである。具体的には、C57BL/6Jマウス(n=5)の脇腹部分両側に、1.4×106 個のE.G-7細胞(T細胞リンパ腫細胞株、ova発現腫瘍、ATCCより入手)を皮下移植した(移植日をD0とする)。その後、清浄な環境で飼育しながら、移植5日後(D5)、6日後(D6)、7日後(D7)、8日後(D8)、9日後(D9)の各日に、右側移植部位内部にのみ、1×106 TCID50のEGFP遺伝子を保持するrMV-SLAMblind(rMV-EGFP-SLAMblind)を投与し、右側移植部位には何も投与しなかった。rMV-EGFP-SLAMblindは、すでに報告されている方法により調製した(特許文献1)。腫瘍のサイズは、D15まで、ノギスで長短径を測定し、D16に試験を終了し、安楽死させて移植した腫瘍組織を採取した。
【0047】
この実験中の腫瘍体積の増加は、図4にまとめた通りである。実施例1と同様に、ウイルス投与側の腫瘍体積は、腫瘍溶解性ウイルスの本来の作用により大幅に抑制されること(直接的抗腫瘍効果、図4左)、非ウイルス投与側の腫瘍体積は、腫瘍内に腫瘍溶解性ウイルスを投与していないにも関わらず腫瘍体積の増加が抑制されること、がそれぞれ示された(図4右)。
【0048】
非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を解明することを目的として、D16に採取した腫瘍組織内のウイルスゲノムの検出を試みた。2μgのtotal RNAをRT-PCRし、反応終了後4倍希釈してtemplate 4μLをMV genomeのprimer setを用いてThunderbird SYBR qPCR mixを用いてreal time PCRを行った。反応後、電気泳動法によりウイルスゲノムの有無を解析した。使用したプライマーセットは、cDNA合成のために、RT-1プライマー(ACCAAACAAAGT)、PCRのためにMV-genome-F1プライマー(5'-CAATCAATGATCATATTCTAGTACAC-3')、MV genome-R1プライマー(5'-TATAATAATGTGTTTGATTCCTCTG-3’)を用いた。
【0049】
この結果、ウイルス投与側の腫瘍組織内からは麻疹ウイルスのゲノム由来の配列が検出されたが(図5左)、非ウイルス投与側の腫瘍組織内からは麻疹ウイルスのゲノム由来の配列は検出されなかった(図5右)。ここで、図5中、rMV-投与側腫瘍のレーン3、並びにrMV-非投与側腫瘍のレーン4及び5における*印は、上記のプライマーがダイマーを形成していることを示している。この結果から、図4右で示された非ウイルス投与側の腫瘍組織の腫瘍体積の抑制は、ウイルスの感染による直接的な抗腫瘍効果とは異なる機序で生じていることが示された(二次的抗腫瘍効果)。
【0050】
[実施例3]腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの二次的抗腫瘍効果の機序検討(2)
本実施例においては、実施例1及び実施例2で明らかになった本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を検討することを目的として、実施例2の実験の結果採取された腫瘍組織への腫瘍浸潤免疫細胞の構成を確認した。
【0051】
非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を解明することを目的として、D16に採取した腫瘍組織近傍のリンパ節中の各種免疫細胞の検出を行った。方法は、各種免疫細胞の表面抗原に対する抗体を用いて染色後BD FACSVerseフローサイトメトリーによって解析した。
【0052】
ウイルス投与側の腫瘍組織から浸潤免疫細胞を採取し、NK 細胞(NK1.1陽性細胞)、NKT細胞(NK1.1陽性かつCD3陽性)、CD3陽性T細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞について、細胞表面抗原を染色してフローサイトメトリー法によってそれぞれの細胞数を解析した。NK細胞、T細胞の活性化マーカーとしてCD44、メモリーT細胞マーカーとしてCD62Lを用い、CD44hiCD62L陽性T細胞をセントラルメモリー細胞、CD44hiCD62L陰性T細胞をエフェクター/エフェクターメモリー細胞として解析した。さらに、NK細胞とT細胞の活性化の指標となるサイトカインのGranzyme-B、IFN-γも染色することによって、活性化NK細胞、活性化T細胞の数を解析した。一方、非ウイルス投与側の腫瘍組織における免疫細胞の数も同様に解析した。
【0053】
ウイルス投与側の腫瘍組織と非ウイルス投与側の腫瘍組織におけるNKT細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、NK細胞のそれぞれの細胞の数を比較したところ、ウイルス投与群で有為に細胞浸潤が認められたのはCD4陽性T細胞のみであったが、ウイルス投与群で両側の腫瘍組織に浸潤免疫細胞が多い傾向が認められた(図6)。
【0054】
次に、活性化T細胞の数を同様に解析したところ、CD69+CD4+ T細胞及びIFN-γ+CD4 T細胞の数は、ウイルス投与群のウイルス投与側腫瘍組織において有為に多く浸潤していることが示された。非投与側の腫瘍組織においても、多い傾向が認められた(図7)。
【0055】
この各種免疫担当細胞の状況から、ウイルス投与側の腫瘍組織においてウイルスの投与による腫瘍細胞の細胞死の結果としてCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、NK細胞が活性化し、これらの細胞が非ウイルス投与側の腫瘍組織にも移動して、非ウイルス投与側の腫瘍組織に腫瘍溶解性ウイルス非依存的な増殖抑制あるいは細胞死を誘導したことが示唆された。
【0056】
[実施例4]腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの二次的抗腫瘍効果の機序検討(3)
本実施例においては、実施例1で明らかになった本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を検討することを目的として、実施例2の実験の結果採取された腫瘍組織近傍の排出リンパ節における免疫細胞の構成を確認した。
【0057】
非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を解明することを目的として、D16に採取した腫瘍組織近傍の排出リンパ節における各種免疫細胞の検出を行った。手法は上記と同様、免疫染色後フローサイトメトリーにより解析した。
【0058】
まず、腫瘍近傍リンパ節(Draining LN)に存在するNK細胞、NK T細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞上の活性化マーカーCD44を高発現する細胞数を測定した。
【0059】
結果を図8に示す。ウイルス投与側の腫瘍近傍リンパ節において、CD44を高発現する活性化したNK細胞、NK T細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞の数の上昇が有意に認められた。一方、ウイルス非投与側の排出リンパ節では、それぞれの細胞について上昇傾向はあるものの、有意差は認められなかった。
【0060】
次に、腫瘍近傍排出リンパ節に存在するT細胞の活性化をIFN-γ、GrBの発現を指標に解析した結果、ウイルス投与側の排出リンパ節中のIFN-γ陽性CD4 T細胞、GrB陽性CD8 T細胞の数の有意な上昇が観察された(図9上段、中央と右グラフ)。すなわち活性型CD4 T細胞、CD8 T細胞の数が上昇していることが示された。
【0061】
一方、ウイルス非投与側の排出リンパ節では、IFN-γ陽性CD4 T細胞の細胞数は上昇していたが、有意な上昇は認められなかった(p=0.102)(図9下段、中央)。しかし、CD4 T細胞中のIFN-γ陽性細胞の割合は有意差をもって上昇していることから(図9下段、左)、活性型T細胞の割合は増加していることが明らかになった。また、非投与側のGrB陽性 CD8T細胞(活性型CD8 T細胞)の数は有意に上昇しており(図9下段、右)、ウイルス非投与側の腫瘍近傍排出リンパ節に、活性型のCD4細胞、CD8細胞が集簇していることが明らかになった。
【0062】
[実施例5]腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを投与した場合の免疫細胞の反応(1)
本実施例においては、実施例1で明らかになった本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を検討することを目的として、実施例2の実験の結果採取された脾臓組織における免疫細胞の構成を確認した。
【0063】
全身性の免疫細胞の反応を確認することを目的として、D16に採取した脾臓組織における各種免疫細胞の検出を行った。この実験において、NK1.1+CD3+細胞をNKT細胞、NK1.1+CD3-細胞をNK細胞、NK1.1-CD4+細胞をCD4+T細胞、NK1.1-CD8+細胞をCD8+T細胞として、染色しその細胞数を算出した。
【0064】
図10において示されるように、CD8 T細胞とNK細胞において有意な細胞数の上昇が観察された。すなわち、活性型CD8+T細胞と活性型NK細胞が増殖し、全身性に回っていることが明らかになった。
【0065】
さらに、脾臓組織におけるエフェクターメモリー(EM)CD4陽性(CD4+)T細胞、セントラルメモリー(CM)CD4陽性T細胞の細胞数、GrB陽性・CD8陽性(CD8+)T細胞、IFN-γ陽性・CD8陽性T細胞の細胞数を比較して表現系解析を行った。
【0066】
一般に、セントラルメモリーT細胞は、ケモカインレセプターCCR7や、接着因子CD62Lを発現し、主にリンパ節や脾臓などの二次リンパ組織のT細胞領域に存在する細胞であり、過去に暴露されたことがある抗原に再度暴露された場合に、IL-2を産生して速やかに増殖する機能を持つ。一方で、一般に、エフェクターメモリーT細胞は、CCR7やCD62Lなどの接着因子の発現が低下し、主に炎症の局所(例えば、肺、肝臓や腸管など)に存在しており、過去に暴露されたことがある抗原の刺激によりIL-4、IFN-γ、IL-5などのサイトカインを大量に産生する機能を持つ。これらの二種類のメモリーT細胞が長期間にわたり生存することで、同一の抗原(例えば病原体など)が再度出現した場合にも、速やかな免疫応答を発動することが可能となる。
【0067】
その結果、MOCK投与した群(陰性対照)の脾臓組織の場合と比較して、
・GrBとIFN-γの解析の結果、活性化の指標であるGrBとIFN-γを発現するT細胞である、GrB+CD8 T細胞とIFN-γ+CD8 T細胞(いずれも活性型CD8 T細胞)の数の上昇が有意に認められた(図11上段、下段の右グラフ)。
・また、がん細胞に対する強力な免疫力を発揮するのに必要なセントラルメモリー細胞(CM;CD62L+CD44hi T細胞)を解析したところ、CMCD4 T細胞及びCMCD8 T細胞ともに有意な上昇があることが明らかになった(図11下段、左、中央)。
・一方、エフェクター/エフェクターメモリー細胞の表現系を持つCD8 T細胞数の上昇は
認められたが、CD4 T細胞数は上昇しなかった。
【0068】
[実施例6]腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスを投与した場合の免疫細胞の反応(2)
rMV-SLAMblind処置は、IFN-γ産生1型CD4+ T細胞(Th1)を急速にそして有意に誘導することが示された。Th1細胞は、CTL機能及びメモリCD8+ T細胞の分化を補助することによって、抗腫瘍反応の確立において極めて重要な役割を果たす細胞である。そこで、本実施例において、腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞が、rMV-SLAMblind処置によって誘導されるかどうかを分析した。
【0069】
E.G-7細胞をB6マウスに移植し、続いて腫瘍移植後3日目及び5日目にMOCK又はrMV-SLAMblind処置を行った(n=5/群)。13日目にマウスを安楽死させ、それらの動物のTDLNを採取した。
【0070】
腫瘍抗原特異的T細胞を評価するため、未成熟骨髄由来樹状細胞(BMDC)、C57BL/6Jマウスの骨髄細胞から調製した。簡単に説明すると、成体マウスの大腿骨由来の骨髄細胞を、20 ng/mLのGM-CSF(PeproTech)を添加したcRPMIで培養した。3日間経過時に、培養培地に対して新鮮なcRPMI及びGM-CSFを補充し、さらに3日間培養した。
【0071】
6日目には、未熟なBMDCを収集し、次のように刺激した。腫瘍抗原を有する未熟DCを刺激するため、ヒートショックをかけた腫瘍細胞溶解物を、次のように調製した。簡単に説明すると、E.G-7細胞を42℃で1時間インキュベートし、その後37℃で2時間インキュベートし、インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、1.5×107/mLの密度でPBSにより細胞を再懸濁し、細胞懸濁物を、凍結融解及び20,400 gで10分間の遠心分離を3サイクル行うことで、溶解し、上清を使用するまで-30℃で保存した。
【0072】
未熟なBMDCは、20 ng/mLのGM-CSFの存在下で、一晩、ヒートショックをかけた腫瘍細胞溶解物(腫瘍抗原パルスDC)と4:1(腫瘍細胞:DC)で処理して刺激した。rMV-SLAMblind処置したE.G-7担持マウス又はMOCK処置したE.G-7担持マウスから得たリンパ球と混合した。一晩共培養した後、それらの動物のCD8+ T細胞におけるIFN-γ及びGrB発現を、フローサイトメトリーで分析した(図12)。
【0073】
DCの成熟状態は、CD11c(CD11c-FITC(クローン;HL3)(BD Biosciences))、I-A/IE(I-A/I-E Pacific Blue(クローン;M5/114.15.2)(BioLegend))、CD80(CD80-PerCP-Cy5.5(クローン;16-10A1)(BioLegend))、及びCD86(CD86-APC(クローン;GL1)(BD Biosciences))の発現によって、フローサイトメトリー(データは示されていない)によってモニタリングした。
【0074】
刺激後、DCを50μg/mLのマイトマイシンC(WAKO)で1時間処理し、その後cRPMIで2回洗浄した。さらに、リンパ球を、MOCKで処理されたE.G-7腫瘍を持つマウス又はrMV-SLAMblindで処理されたE.G-7腫瘍を持つマウスの腫瘍排出リンパ節(TDLN)から調製し、その後、efluor450(eBioscience)で標識して、DC混合物から細胞を識別した。次いで、リンパ球とDCとを比率5:1(リンパ球:DC)で混合した。一晩の共培養の後、細胞を、ブレフェルディンAの存在下で、4時間、PMAとイオノマイシンで刺激し、続いて染色及びフローサイトメトリーを行った。
【0075】
MOCK処置マウスから得られたCD8+ T細胞の割合と比較して、より高い割合のrMV-SLAMblind処置したマウスから得られたCD8+ T細胞が、腫瘍抗原パルスDCに反応して、IFN-γ及びGrBを発現した(図13A、CD8+中%IFN-γ、p<0.05及び図13C、CD8+中%GrB、p=0.103)。また、MOCK処置マウスよりもrMV-SLAMblind処置マウスから採取したCD8+ T細胞において、IFN-γ及びGrBの発現が有意に高かった(図13B及び13D、IFN-γ、p<0.05、GrB、p<0.05)。
【0076】
これらの結果から、rMV-SLAMblind処置が腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞反応を誘導することが示された。
【0077】
[実施例7]胃がん細胞を使用した腫瘍溶解性ウイルスの機能解析
<材料と方法>
【0078】
・細胞
OCUM-1、NUGC-4、及びKatoIII細胞は、Japanese Cancer Research Resources Bank(Tokyo, Japan)から購入し、0.5 mM ピルビン酸ナトリウム(Life Technologies, Carlsbad, CA)、10% ウシ胎児血清(FBS;SAFC Biosciences, Lenexa, KS)、ストレプトマイシン(100 mg/mL)、及びペニシリン(100 U/mL)を含む、ダルベッコ改変Eagle培地(DMEM;Sigma, St Louis, MO)中で増殖させた。GCIY細胞は、RIKEN Bioresource Center(Ibaraki, Japan)から入手し、15% FBSと抗生物質を含む最小必須培地(Sigma)中で培養した。HSC-60、HSC-43、HSC-44PE、HSC-64、MKN28、TMK-1、HSC-39、NKPS、58As1、58As9、及びHSC-59は、胃がん組織(refs)から以前に確立され、10% FBSと抗生物質を含むRPMI 1640培地(Sigma)で培養された。ヒトNectin-4を発現するVero細胞(Vero/N4細胞)は、10% FBSと抗生物質を含むDMEMで増殖させた。すべての細胞は37℃、5% CO2で培養した。
【0079】
・ウイルス調製
rMV-EGFP-SLAMblindはVero/N4細胞で増殖させた。各ウイルス力価は、Vero/N4細胞で、Reed-Munch法を用いて、TCID50として決定された。
【0080】
・フローサイトメトリー
細胞をPBSで洗浄し、0.025% トリプシン/0.24 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)により剥離した。3,300×gで1分間遠心分離した後、細胞を2% FBSを含む100μlのPBSに再懸濁し、0.5μgの抗ヒトNectin-4モノクローナル抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)、抗ヒトSLAM抗体(BioLegend, San Diego, CA)とともに氷上で30分間インキュベートした。
【0081】
・次に、細胞を一度洗浄し、氷上でさらに30分間、0.1μgのAlexa 488結合抗マウスIgG(Molecular Probes, Eugene, OR)で染色した。最後に、細胞を2% FBSを含むPBSで2回洗浄し、7-アミノアクチノマイシンD(Beckman Coulter Immunotech, Massielle, France)を含むPBSに再懸濁した。蛍光強度はFACSCalibur(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)で測定し、データはFlowJoソフトウェア ver. 9.7.5(TreeStar, San Carlos, CA)。
【0082】
・胃がん細胞株のウイルス感染
細胞を12ウェルプレートで培養し、MOI 0.1でrMV-EGFP-SLAMblindに感染させた。ウイルスの感染は、感染後5日(5 dpi)に、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-710; Keyence、Osaka、Japan)で観察した。
【0083】
・細胞増殖アッセイ
細胞をMOI 1でrMV-EGFP-SLAMblindに感染させた。その後、細胞を200μL培地でウェルあたり5×10
3細胞の密度で96ウェルプレートに播種し、37℃で培養した。細胞生存率は、WST-1細胞増殖キット(Takara BIO INC., Otsu, Shiga, Japan)を製造元のプロトコルに従って使用して、1、3、5、及び7 dpiに測定した。ウイルスに感染した細胞の生存率は、平均吸光度値を非感染細胞の平均吸光度値で割ったものとして計算され、パーセンテージで表した。
【0084】
・異種移植モデル
動物実験は、東京大学の実験動物委員会によって承認された。HSC-60細胞(5×106)又はHSC-43細胞(3×106)に、2% FBSを含む50μLのハンクス平衡塩類溶液(HBSS;Thermo Fisher Scientific, Wilmington, DE)中で懸濁し、懸濁液を50μlのマトリゲル(BD Biosciences)と混合した。細胞懸濁液を、HSC-60については7週齢のオス雄NSG(NOD-scidIL2rγnull)マウスの横腹に、HSC-43については6週齢のオス雄SCIDマウス(CB-17/Icrscid/scidJc1)の横腹に、注入した(それぞれのマウスは、Clea Japan(Tokyo, Japan)から購入した)。
【0085】
マウスに、106 TCID50のrMV-EGFP-SLAMblind(n=5)又はHBSS(n=5)を、1週間隔で3回、腫瘍内投与した。腫瘍の直径は、最初の投与後28日間は、3~4日ごとにノギスで測定した。腫瘍体積は、式(幅×幅×長さ)/2に基づいて計算した。最初のウイルス投与の28日後にすべてのマウスを安楽死させ、腫瘍サンプルを回収した。単離された腫瘍におけるEGFPの蛍光は、蛍光顕微鏡(MVX10; Olympus, Tokyo, Japan)によって観察した。
【0086】
・レトロウイルス形質導入
ホタルルシフェラーゼを発現するプラスミドは、以下のように生成した。ホタルルシフェラーゼのコード領域は、ホタルルシフェラーゼに特異的なプライマー(5’-aaa ccg gtg cca cca tgg aag acg cca aaa aca t -3’及び5’-ttg gat cct tac acg gcg atc ttt ccg c -3’)を使用して、Phusion High-Fidelity DNA Polymerase(New England Biolabs, Ipswich, MA)で増幅した。
【0087】
PCR産物は、pQCXIHベクター(Clontech Laboratories, Palo Alto, CA)のAgeIサイトとBamHIサイトの間にクローン化し、pQCXIH-lucと命名した。ポリエチレンイミン「Max」(Mw 40,000)-高力価線形PEI(Polysciences, Inc. Warrington, PA)を製造元の指示に従って使用して、PlatA細胞を、pQCXIH-lucでトランスフェクトした。
【0088】
2日後、上清を回収し、0.45μmのAcrodiscシリンジフィルター(Pall Corporation, Port Washington, NY)を使用してろ過した。ウイルスを、8μg/mL ポリブレン(Sigma)の存在下で、HSC-60細胞とともにインキュベートした。形質導入された細胞は、200~400μg/mLのハイグロマイシンB(Thermo Fisher Scientific)を含む培地で2週間培養した。
【0089】
・腹膜転移モデルにおける抗腫瘍活性のin vivo可視化分析
HSC60-Luc細胞(3×106)を2% FBSを含む300μLのHBSSに懸濁し、7週齢のオスNSGマウスに腹腔内接種した。接種後5日後、マウスに2×106 TCID50のrMV-EGFP-SLAMblindを腹腔内投与した。生物発光分析は、示されたdpiで行った。
【0090】
マウスの腹腔内に、200μLのPBSで希釈した2 mgのD-ルシフェリン(Gold Biotechnology, St. Louis, MO, USA)を感染させた。Xenogen IVIS 100システム(Xenogen, Alameda, CA, USA)を使用して画像を取得した。ルシフェラーゼ活性は、Living Imageソフトウェア ver.2.5(Xenogen)を使用して、総光子/s/cm2/srとして定量化した。
【0091】
・統計解析
in vivoインビボ実験の統計分析は、MacTokei-Kaiseki ver. 1.5ソフトウェア(Esumi, Tokyo, Japan)によるWelchのt検定を使用して行った。P<0.05が、統計的に有意であるとみなされた。
【0092】
<スキルス胃がん細胞株及び非スキルス胃がん細胞株におけるNectin-4の発現>
rMV-SLAMblindの受容体であるNectin-4が胃がん細胞の細胞表面に発現されているかどうかを調べるために、13種のSGCと2種の非SGC細胞株を抗ヒトNectin-4モノクローナル抗体(青いヒストグラム)又は対照IgG(赤いヒストグラム)で染色し、Alexa-Fluor-488結合抗マウス抗体とともにインキュベートすることにより、フローサイトメトリーによりNectin-4の発現を分析し、Nectin-4の発現レベルに応じて、細胞を、高発現群(図14図16中、「High」と記載)、低発現群(図14図16中、「Low」と記載)、無発現群(図14図16中、「Negative」と記載)の3つのグループに分類した(図14)。FlowJoソフトウェアを使用してデータを分析した。
【0093】
Nectin-4は、9種のSGC細胞(69%)及び2種の非SGC細胞(100%)株で検出されたが、4種のSGC細胞株では検出されなかった。Nectin-4発現細胞株の中で、3種のSGC細胞株(HSC-60、HSC-43、及びHSC-44PE)と2種の非SGC細胞株(HSC-64及びMKN28)で高い発現が観察された。他の6種のSGC細胞株(OCUM-1、TMK-1、HSC-39、KATOIII、NUGC-4及びNKPS)におけるNectin-4の発現レベルは低かった。
【0094】
これらの結果から、Nectin-4がSGC細胞では高率に発現しているのに対し、発現レベルは細胞株間で異なることが示唆される。
【0095】
<スキルス胃がん細胞株及び非スキルス胃がん細胞株におけるrMV-SLAMblindの感染力>
rMV-SLAMblindに対する感受性を調べるために、スキルス胃がん及び非スキルス胃がん細胞株を、MOI 0.1でEGFPを発現するrMV-SLAMblind(rMV-EGFP-SLAMblind)に感染させた(図15)。EGFPの蛍光を、蛍光顕微鏡下で5 dpiに観察し、代表的なデータを示した。倍率、×100。
【0096】
ウイルス由来のEGFPシグナルは、ほとんどのNectin-4陽性細胞株で検出され、Nectin-4陰性細胞株ではほとんど検出されなかった。特に、Nectin-4が高レベルで発現している5種の細胞株のうち4種(HSC-60、HSC-43、HSC-64、MKN28)は、強いシグナルを示した(図15の「High」)。
【0097】
次に、細胞毒性を測定するために、rMV-SLAMblindを細胞に対してMOI 1で感染させた後、水溶性テトラゾリウム塩(WST)アッセイシステムを使用して、1、3、5、及び7 dpiに細胞生存率アッセイを行った(図16)。エラーバーは、3回の独立した実験のSDを示す。
【0098】
感染後7日(7 dpi)までに、rMV-SLAMblindはHSC-60、HSC-43、HSC-64、MKN28の75%以上、及びOCUM-1細胞の約50%を殺した。Nectin-4の発現レベルが高いにもかかわらず、HSC-44PEでは細胞生存率の低下は観察されなかった。Nectin-4が低レベル又は無レベルで発現された細胞株の生存率は、OCUM-1を除いて減少しなかった。
【0099】
これらの結果から、rMV-SLAMblindがin vitroでスキルス胃がん及び非スキルス胃がん細胞に対して細胞毒性を示し、Nectin-4の発現レベルとほぼ相関していることが示唆された。
【0100】
<皮下異種移植モデルにおけるrMV-SLAMblindの抗腫瘍活性>
in vivoでのrMV-SLAMblindの抗腫瘍活性を調べるために、HSC60細胞及びHSC43細胞のヒト異種移植モデルを、それぞれNOD-scid IL2rγnull(NSG)マウス及び重症複合免疫不全症(SCID)マウスの皮下に移植して作出した。腫瘍が確立されて90 mm3に達した後(HC-60では9日目、HSC-43では5日目)、106 TCID50の用量のrMV-EGFP-SLAMblind又はコントロールとしてのHBSSを1週間隔で3回、すなわち、最初の接種から7日後と14日後に腫瘍内投与した。Welchのt検定を使用して、2つのグループを比較した。エラーバーはSDを表す。*P<0.05は統計的に有意であるとみなされた。*P<0.05、**P<0.01。rMV-EGFP-SLAMblindの投与は、HSC-60及びHSC-43細胞移植モデルの両方で、有意な抗腫瘍活性を示した(図17A)。
【0101】
最初の投与から28日後、各マウスを安楽死させ、剖検を行って腫瘍サンプルを回収した。回収された腫瘍の重量を、28日目に測定した。エラーバーはSDを表す。P値はWelchのt検定で表された。ウイルス処置群のHSC-60異種移植モデルの腫瘍サイズは明らかに小さく、腫瘍重量も対照群よりも低かった(図17B図17C)。図17Cにおいて、上のサンプルは対照群の腫瘍であり、下のサンプルはウイルス接種群の腫瘍であった。
【0102】
HSC-43モデルも同様の傾向を示した。すなわち、28 dpiに、HBSS(左のパネル)又はrMV-SLAMblind(右のパネル)で処置されたマウスの単離された腫瘍を、免疫蛍光顕微鏡によって観察した。さらに、ウイルスの増殖を表すEGFPの蛍光は、rMV-EGFP-SLAMblindを投与した腫瘍でのみ検出されました(図17D)。
【0103】
これらの結果から、rMV-SLAMblindがin vivoで抗腫瘍活性を有することが示唆された。
【0104】
<腹膜転移モデルに対する腫瘍溶解活性>
SGCは、進行性の浸潤と腹膜への高頻度の転移を特徴としていた。rMV-SLAMblindが腹膜播種に対して腫瘍溶解活性を示すことができるかどうかを調べるために、ルシフェラーゼを発現する3×106 細胞のHSC-60細胞(HSC60-Luc)をNSGマウスに腹腔内注射することにより、腹膜播種異種移植モデルを確立した。5日後、腹腔内のルシフェラーゼ活性が増加した後、2×106 TCID50のrMV-SLAMblind又はHBSSを最初の投与の0、2、及び8日後に計3回、腹腔内投与した(図18A)。
【0105】
腫瘍の増殖を、27日までXenogen IVIS100システムによってモニタリングした。図18Bに示すように、対照群の腫瘍細胞は腹腔内に広く拡散していたが、ウイルス処置群の腫瘍細胞は大幅に限定されていた。最初のウイルス接種から27日後のルシフェラーゼ活性の代表的なデータを示す。
【0106】
さらに、各時点でのルシフェラーゼ活性の値を示す。Welchのt検定を使用して、2つのグループを比較した。エラーバーはSDを表す。*P<0.05は統計的に有意であるとみなされた。ルシフェラーゼ活性の値は、ウイルス処置群の方が対照群よりも有意に低かった(図18C)。
【0107】
ウイルス処置群のマウスはすべて初回投与後43日まで生存したが、半数は初回投与後34日で死亡し、腫瘍の異常増殖のため初回投与後41日で安楽死させた。生存したマウスを死させ、最初の投与から43日後に分析したところ、対照マウスは出血性腹水を発症したが、ウイルス処置マウスは発症しなかった(データは示さず)。
【0108】
これらの結果から、rMV-SLAMblindの腹腔内投与が腹膜播種に対して抗腫瘍活性を発揮する可能性があることが示唆された。
【0109】
[実施例8]腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの二次的抗腫瘍効果の機序検討(4)
本実施例においては、実施例1及び実施例2で明らかになった本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルスの非ウイルス投与腫瘍組織での抗腫瘍効果の作用機序を検討することを目的として、腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス投与により活性化が誘発された各種の免疫応答細胞の抗がん治療への効果を調べた。
【0110】
腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス投与により、NK細胞、CD4+ T細胞、及び腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞の活性化が誘発される。これらの誘発された免疫応答が、がん治療効果に影響するかどうかを調べるために、in vivo細胞特異的枯渇研究を実施した。
【0111】
具体的には、まず、B16F10/N4細胞をB6マウスに移植した(移植日をD0とする)。その後、清浄な環境で飼育しながら、移植3日後(D3)、6日後(D6)、10日後(D10)、及び14日後(D14)の各日に、ラットIgG2B(アイソタイプコントロール)、抗CD8抗体、抗CD4抗体、及び抗NK1.1抗体をそれぞれ注射して、特定の免疫細胞集団を枯渇させた(各抗体の投与群あたりn=8)。また、移植4日後(D4)、5日後(D5)、6日後(D6)、8日後(D8)、及び10日後(D10)の各日に、rMV-SLAMblindを投与した。また、各マウスについて、移植5日後以降、腫瘍体積を経時的に測定し、腫瘍の成長を分析した。免疫細胞サブセットの枯渇は、2回目の抗体注射の2日後に確認された。
【0112】
各群の腫瘍体積(平均値±SEM)を経時的に測定した結果を図19に示し、各群の生存率を経時的に測定した結果を図20に示す。統計的有意性は、Kruskal-Wallis-Testによって分析され、P値はスティールテストによって計算された(図中、*= p <0.05、** = p <0.01)。図19に示すように、移植14日後(D14)における腫瘍体積は、MOCK+アイソタイプコントロール処理マウス(MOCK+isotype)群(D6-D14、P <0.01)と比較して、rMV-SLAMblind+アイソタイプコントロール処理マウス(rMV+isotype)群では有意に抑制されており、rMV-SLAMblind+抗CD4抗体処理マウス(rMV+anti-CD4)群でも、rMV+isotype群よりも若干腫瘍体積はやや大きいものの、有意に抑制されていた。これに対して、rMV-SLAMblind+抗CD8抗体処理マウス(rMV+anti-CD8)群とrMV-SLAMblind+抗NK1.1抗体処理マウス(rMV+anti-NK1.1)群の移植14日後(D14)における腫瘍体積は、MOCK+isotype群よりは小さいものの、統計的に有意な差はなかった。また、図20に示すように、生存率は、rMV+anti-CD4群ではrMV+isotype群と同程度であったのに対して、rMV+anti-CD8群とrMV+anti-NK1.1群では、rMV+isotype群よりも生存率は低下していた。具体的には、rMV+anti-CD8群では、生存期間中央値(MST)が19.5日間に、rMV+anti-NK1.1群では、MSTが22日間に、それぞれ短縮された。これらの結果から、CD8+ T細胞の枯渇とNK細胞の枯渇は、rMV-SLAMblind投与による腫瘍抑制機能を大幅に低下させることが、言い換えると、rMV-SLAMblind投与による腫瘍抑制効果及びがん治療効果には、CD8+ T細胞とNK細胞が必要であることが示された。特に、rMV-SLAMblindの二次的抗腫瘍効果には、rMV-SLAMblind投与により活性化される免疫細胞の中でも、活性化キラーT細胞(CD8+ T細胞)が最も重要な役割を担うことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明において用いられる腫瘍溶解性遺伝子改変麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind及びrMV-V(-)-SLAMblind)は、腫瘍内投与によって当該腫瘍細胞に対して顕著な細胞死を誘導するだけでなく(直接的抗腫瘍効果)、直接ウイルスを感染させていない腫瘍細胞(転移した腫瘍細胞や直接ウイルスを感染できない部位に広がる深部腫瘍細胞など)に対する強い細胞性免疫を誘導すること(二次的抗腫瘍効果)ができた。
【配列表フリーテキスト】
【0114】
配列番号8:cDNA合成のためのRT-1プライマー:ACCAAACAAAGT
配列番号9:PCRのためのMV-genome-F1プライマー:CAATCAATGATCATATTCTAGTACAC
配列番号10:PCRのためのMV genome-R1プライマー:TATAATAATGTGTTTGATTCCTCTG
配列番号11:ホタルルシフェラーゼに特異的なプライマー:aaa ccg gtg cca cca tgg aag acg cca aaa aca t
配列番号12:ホタルルシフェラーゼに特異的なプライマー:ttg gat cct tac acg gcg atc ttt ccg c
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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