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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20241016BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01L21/318 B
C23C16/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021017307
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120422
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大越 顕
(72)【発明者】
【氏名】戸根川 大和
(72)【発明者】
【氏名】田吹 圭司
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-179819(JP,A)
【文献】特表2009-500857(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0148806(US,A1)
【文献】特開2004-119629(JP,A)
【文献】特開2006-049809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にシリコン窒化膜を成膜する方法であって、
基板を収容した処理容器内にトリシリルアミンを含む処理ガスを間欠的に供給することにより、前記基板の表面にシリコン窒化膜を成膜する工程を有
前記シリコン窒化膜を成膜する工程は、前記トリシリルアミンを窒化する窒化剤を供給することなく行われ、
前記シリコン窒化膜を成膜する工程において、前記基板の温度を450℃以上に設定し、前記トリシリルアミンのSi-H結合を切断して前記トリシリルアミンから水素を脱離させながら前記シリコン窒化膜を成膜する、
成膜方法。
【請求項2】
前記シリコン窒化膜を成膜する工程は、
前記処理容器内に前記トリシリルアミンを供給する工程と、
前記処理容器内に不活性ガスを供給する工程と、
を交互に行うことにより、前記処理容器内にトリシリルアミンを間欠的に供給する、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、窒素ガスである、
請求項2に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空引き可能になされた処理容器内に、シラン系ガスと窒化ガスと不純物含有ガスとを供給してウエハの表面に不純物含有シリコン窒化膜を形成する成膜方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-270016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、エッチング耐性が高いシリコン窒化膜を成膜できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様による成膜方法は、基板の表面にシリコン窒化膜を成膜する方法であって、基板を収容した処理容器内にトリシリルアミンを含む処理ガスを間欠的に供給することにより、前記基板の表面にシリコン窒化膜を成膜する工程を有前記シリコン窒化膜を成膜する工程は、前記トリシリルアミンを窒化する窒化剤を供給することなく行われ、前記シリコン窒化膜を成膜する工程において、前記基板の温度を450℃以上に設定し、前記トリシリルアミンのSi-H結合を切断して前記トリシリルアミンから水素を脱離させながら前記シリコン窒化膜を成膜する
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、エッチング耐性が高いシリコン窒化膜を成膜できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の処理装置の一例を示す概略図
図2】実施形態の成膜方法の一例を示すフロチャート
図3】シリコン窒化膜の屈折率を比較した図
図4】シリコン窒化膜のWERを比較した図
図5】シリコン窒化膜の組成を比較した図
図6】シリコン窒化膜の膜中水素濃度とWERとの関係を測定した結果を示す図
図7】シリコン窒化膜の膜中水素濃度及び膜中塩素濃度を比較した図
図8】シリコン窒化膜の断面形状及び段差被覆性を比較した図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一又は対応する部材又は部品については、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
〔処理装置〕
図1を参照し、実施形態の成膜方法を実施可能な処理装置の一例について説明する。図1に示されるように、処理装置1は、複数の基板に対して一度に処理を行うバッチ式の装置である。基板は、例えば半導体ウエハ(以下単に「ウエハW」という。)であってよい。
【0010】
処理装置1は、処理容器10、ガス供給部30、排気部40、加熱部50、制御部80等を有する。
【0011】
処理容器10は、内部を減圧可能であり、ウエハWを収容する。処理容器10は、下端が開放された有天井の円筒形状の内管11と、下端が開放されて内管11の外側を覆う有天井の円筒形状の外管12とを有する。内管11及び外管12は、石英等の耐熱性材料により形成されており、同軸状に配置されて2重管構造となっている。
【0012】
内管11の天井は、例えば平坦になっている。内管11の一側には、その長手方向(上下方向)に沿ってガスノズルを収容する収容部13が形成されている。本実施形態では、内管11の側壁の一部を外側へ向けて突出させて凸部14を形成し、凸部14内を収容部13として形成している。
【0013】
収容部13に対向させて内管11の反対側の側壁には、その長手方向(上下方向)に沿って矩形状の開口15が形成されている。
【0014】
開口15は、内管11内のガスを排気できるように形成されたガス排気口である。開口15の長さは、ウエハボート16の長さと同じであるか、又は、ウエハボート16の長さよりも長く上下方向へそれぞれ延びるようにして形成されている。
【0015】
処理容器10の下端は、例えばステンレス鋼により形成される円筒形状のマニホールド17によって支持されている。マニホールド17の上端にはフランジ18が形成されており、フランジ18上に外管12の下端を設置して支持するようになっている。フランジ18と外管12との下端との間にはOリング等のシール部材19を介在させて外管12内を気密状態にしている。
【0016】
マニホールド17の上部の内壁には、円環状の支持部20が設けられており、支持部20上に内管11の下端を設置して支持するようになっている。マニホールド17の下端の開口には、蓋体21がOリング等のシール部材22を介して気密に取り付けられており、処理容器10の下端の開口、すなわち、マニホールド17の開口を気密に塞ぐようになっている。蓋体21は、例えばステンレス鋼により形成される。
【0017】
蓋体21の中央部には、磁性流体シール23を介してウエハボート16を回転可能に支持する回転軸24が貫通させて設けられている。回転軸24の下部は、ボートエレベータよりなる昇降機構25のアーム25Aに回転自在に支持されている。
【0018】
回転軸24の上端には回転プレート26が設けられており、回転プレート26上に石英製の保温台27を介してウエハWを保持するウエハボート16が載置されるようになっている。従って、昇降機構25を昇降させることによって蓋体21とウエハボート16とは一体として上下動し、ウエハボート16を処理容器10内に対して挿脱できるようになっている。ウエハボート16は、処理容器10内に収容可能であり、複数(例えば、50~150枚)のウエハWを上下方向に間隔を有して略水平に保持する。
【0019】
ガス供給部30は、マニホールド17に設けられている。ガス供給部30は、内管11内へ処理ガスを導入する。本実施形態において、処理ガスは、トリシリルアミン(TSA:(SiHN)及び不活性ガスを含む。不活性ガスとしては、例えば窒素ガス(N)、アルゴンガス(Ar)が挙げられる。ガス供給部30は、ガスノズル31を有する。
【0020】
ガスノズル31は、例えば石英製であり、内管11内にその長手方向に沿って設けられると共に、その基端がL字状に屈曲されてマニホールド17を貫通するようにして支持されている。ガスノズル31には、その長手方向に沿って複数のガス孔32が形成されており、ガス孔32より水平方向に向けてガスを放出する。複数のガス孔32は、例えばウエハボート16に支持されるウエハWの間隔と同じ間隔で配置される。ガスノズル31は、成膜ガス、クリーニングガス、パージガス等のガスを供給するノズルであり、流量を制御しながら必要に応じて処理容器10内に該ガスを供給する。
【0021】
なお、図1の例では、ガス供給部30が1つのガスノズル31を有する場合を説明したが、ガス供給部30の形態はこれに限定されず、例えばガス供給部30は複数のガスノズルを有していてもよい。この場合、TSAとNとは、内管11内へ同じガスノズルから導入されてもよく、内管11内へ異なるガスノズルから導入されてもよい。
【0022】
排気部40は、内管11内から開口15を介して排出され、内管11と外管12との間の空間P1を介してガス出口41から排出されるガスを排気する。ガス出口41は、マニホールド17の上部の側壁であって、支持部20の上方に形成されている。ガス出口41には、排気通路42が接続されている。排気通路42には、圧力調整弁43及び真空ポンプ44が順次介設されて、処理容器10内を排気できるようになっている。
【0023】
加熱部50は、外管12の周囲に設けられている。加熱部50は、例えばベースプレート28上に設けられている。加熱部50は、外管12を覆うように円筒形状を有する。加熱部50は、例えば発熱体を含み、処理容器10内のウエハWを加熱する。
【0024】
制御部80は、処理装置1の各部の動作を制御する。制御部80は、例えばコンピュータであってよい。処理装置1の各部の動作を行うコンピュータのプログラムは、記憶媒体90に記憶されている。記憶媒体90は、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、フラッシュメモリ、DVD等であってよい。
【0025】
〔成膜方法〕
図2を参照し、実施形態の成膜方法の一例について説明する。以下では、前述の処理装置1においてシリコン窒化膜(SiN膜)を成膜する場合を例に挙げて説明する。以下の成膜方法は、制御部80が処理装置1の各部の動作を制御することにより実施される。
【0026】
まず、複数のウエハWを搭載したウエハボート16を処理容器10内にその下方から上昇させることにより搬入する。続いて、蓋体21でマニホールド17の下端の開口を閉じることにより処理容器10内を密閉空間とする。
【0027】
続いて、処理容器10内を真空引きしてプロセス圧力に維持すると共に、加熱部50への供給電力を制御してウエハ温度をプロセス温度に上昇させる。プロセス温度は、TSAのSi-H結合が切断される温度、例えば450℃以上に設定される。ウエハ温度がプロセス温度に安定した後、ウエハボート16を回転させながら成膜処理を開始する。
【0028】
成膜処理では、処理容器10内にTSAを間欠的に供給することにより、ウエハWの表面にシリコン窒化膜を成膜する。本実施形態において、図2に示されるように、TSA供給工程S1と不活性ガス供給工程S2とを判定工程S3において設定された設定回数に到達するまで繰り返すことにより、ウエハWの表面にシリコン窒化膜を成膜する。
【0029】
TSA供給工程S1では、ガスノズル31のガス孔32から処理容器10内にTSAを供給する。これにより、ウエハWの表面にTSAが吸着し、窒化シリコン層が形成される。このとき、ウエハWがTSAのSi-H結合が切断される温度、例えば450℃以上に加熱されているので、TSAのSi-H結合が切断され、TSAからHが脱離する。TSA供給工程S1において、TSAを供給する時間は、例えば5秒~10秒である。
【0030】
不活性ガス供給工程S2では、ガスノズル31のガス孔32から処理容器10内に不活性ガスとしてNを供給する。これにより、処理容器10内に残留するTSAが処理容器10内から排出される。また、TSA供給工程S1においてTSAから脱離したHがNと共に処理容器10内から排出される。不活性ガス供給工程S2において、Nを供給する時間は、例えば20秒~60秒である。
【0031】
判定工程S3では、TSA供給工程S1及び不活性ガス供給工程S2を実施した回数が設定回数に到達したか否かを判定する。判定工程S3において、TSA供給工程S1及び不活性ガス供給工程S2を実施した回数が設定回数に到達したと判定された場合、成膜処理を終了する。一方、判定工程S3において、TSA供給工程S1及び不活性ガス供給工程S2を実施した回数が設定回数に到達していないと判定された場合、TSA供給工程S1に戻る。
【0032】
成膜処理が終了した後、処理容器10内にウエハWを搬入した手順と逆の順で処理容器10内からウエハWを搬出する。
【0033】
以上に説明したように、実施形態の成膜方法によれば、TSA供給工程S1と不活性ガス供給工程S2とを判定工程S3において設定された設定回数に到達するまで繰り返すことにより、ウエハWの表面にシリコン窒化膜を成膜する。これにより、TSAのSi-H結合を切断してTSAからHを脱離させながら、シリコン窒化膜を成膜できる。その結果、膜中水素濃度が低いシリコン窒化膜を成膜できる。また、後述するが、シリコン窒化膜においては、膜中水素濃度が低いほどウエットエッチング耐性が高いことから、実施形態の成膜処理によれば、ウエットエッチング耐性が高いシリコン窒化膜を成膜できる。
【0034】
なお、上記の実施形態では、TSA供給工程S1と不活性ガス供給工程S2とを交互に繰り返すことにより、処理容器10内にTSAを間欠的に供給する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、不活性ガス供給工程S2に代えて、処理容器10内に不活性ガスを供給することなく処理容器10内を排気する真空引き工程を行ってもよい。すなわち、TSA供給工程S1と真空引き工程とを交互に繰り返すことにより、処理容器10内にTSAを間欠的に供給するようにしてもよい。
【0035】
〔実施例〕
前述の実施形態の成膜方法により成膜したシリコン窒化膜の膜特性を評価した実施例について説明する。実施例では、TSAの供給とNの供給とを交互に繰り返すことによりウエハWの表面にシリコン窒化膜を成膜し、該シリコン窒化膜の膜特性を評価した。また、比較例として、ジクロロシラン(DCS)の供給とプラズマにより活性化したアンモニア(NH)の供給とを交互に繰り返すことによりウエハWの表面にシリコン窒化膜を成膜し、該シリコン窒化膜の膜特性を評価した。
【0036】
図3は、シリコン窒化膜の屈折率を比較した図である。図3中、横軸はシリコン窒化膜を成膜したときのウエハ温度[℃]を示し、縦軸はシリコン窒化膜の屈折率を示す。図3において、実施例の結果を三角印で示し、比較例の結果を丸印で示す。
【0037】
図3に示されるように、実施例では、ウエハ温度が450℃~500℃の場合、シリコン窒化膜の屈折率が3.5程度である。一方、比較例では、ウエハ温度が350℃~650℃の場合、シリコン窒化膜の屈折率が2.0程度である。この結果から、実施例では、比較例と比べて屈折率が高いシリコン窒化膜を成膜できることが示された。また、シリコン窒化膜では、屈折率が高いほどシリコン含有率が高いシリコンリッチな膜となることから、実施例では、比較例と比べてシリコンリッチなシリコン窒化膜を成膜できると考えられる。すなわち、TSAの供給とNの供給とを交互に繰り返す成膜方法によれば、シリコンリッチなシリコン窒化膜を成膜できると考えられる。
【0038】
図4は、シリコン窒化膜のWERを比較した図である。図4中、横軸はシリコン窒化膜を成膜したときのウエハ温度[℃]を示し、縦軸はシリコン窒化膜を0.5%の希フッ酸(DHF)でエッチングしたときのエッチングレートであるWER[Å/min]を示す。図4において、実施例の結果を三角印で示し、比較例の結果を丸印で示す。
【0039】
図4に示されるように、実施例では、ウエハ温度が450℃~500℃の場合、WERが4.0Å/min程度である。一方、比較例では、ウエハ温度が550℃以下になると、WERが10Å/min以上となっている。この結果から、実施例では、比較例と比べて低温(例えば500℃以下)でWERが低いシリコン窒化膜を成膜できることが示された。すなわち、TSAの供給とNの供給とを交互に繰り返す成膜方法によれば、低温でWERが低いシリコン窒化膜を成膜できると考えられる。
【0040】
図5は、シリコン窒化膜の組成を比較した図である。図5では、RBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)/HFS(Hydrogen Forward-scattering Spectroscopy)法により測定したシリコン窒化膜に含まれる珪素(Si)、窒素(N)及び水素(H)の組成を示す。図5中、比較例の結果をグラフAで示し、実施例の結果をグラフB~Fで示す。より具体的には、グラフAは、ウエハ温度を500℃に設定した状態でDCSの供給とプラズマにより活性化したNHの供給とを交互に繰り返して成膜したシリコン窒化膜の膜組成である。グラフBは、ウエハ温度を450℃に設定した状態でTSAの供給とNの供給とを交互に繰り返して成膜したシリコン窒化膜の膜組成を示す。グラフC~Fは、ウエハ温度を500℃に設定した状態でTSAの供給とNの供給とを交互に繰り返して成膜したシリコン窒化膜の膜組成である。また、グラフB~Fは、TSAの供給時間とNの供給時間(TSA/N)を、それぞれ10秒/60秒、10秒/60秒、5秒/60秒、10秒/20秒、5秒/20秒に設定したときの膜組成である。
【0041】
図5に示されるように、実施例では、ウエハ温度やTSA/Nを変更しても、シリコン窒化膜におけるSiとNの組成比(Si:N)が3:1であり、H濃度がほぼ0%である。この結果から、実施例では、プロセスマージンが大きいことが示された。また、実施例では、ウエハ温度が450℃~500℃の場合、シリコン窒化膜の成膜中にTSAのSi-H結合が切断され、TSAからHが脱離していると考えられる。一方、比較例では、シリコン窒化膜におけるSiとNとHの組成比(Si:N:H)が38.5:52.9:8.6である。この結果から、比較例では、シリコン窒化膜の成膜中にHが脱離しにくいと考えられる。
【0042】
図6は、シリコン窒化膜の膜中水素濃度とWERとの関係を測定した結果を示す図である。図6中、横軸はシリコン窒化膜の膜中水素濃度[at%]を示し、縦軸はシリコン窒化膜を0.5%のDHFでエッチングしたときのWER[Å/min]を示す。図6において、実施例の結果を三角印で示し、比較例の結果を丸印で示す。
【0043】
図6に示されるように、シリコン窒化膜の膜中水素濃度とWERとの間には正の相関があり、シリコン窒化膜の膜中水素濃度が低いほどWERが低くなることが分かる。この結果から、エッチング耐性が高いシリコン窒化膜を成膜するためには、シリコン窒化膜の膜中水素濃度を低くすることが重要であると言える。
【0044】
図7は、シリコン窒化膜の膜中水素(H)濃度及び膜中塩素(Cl)濃度を比較した図である。図7では、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したシリコン窒化膜の膜中H濃度及び膜中Cl濃度を示す。なお、SIMSによるCl濃度の検出下限値は1×1017である。図7(a)は膜中H濃度を測定した結果を示し、図7(b)は膜中Cl濃度を測定した結果を示す。図7(a)中、横軸はシリコン窒化膜を成膜したときのウエハ温度[℃]を示し、縦軸はシリコン窒化膜の膜中H濃度[atoms/cm]を示す。図7(b)中、横軸はシリコン窒化膜を成膜したときのウエハ温度[℃]を示し、縦軸はシリコン窒化膜の膜中Cl濃度[atoms/cm]を示す。図7(a)及び図7(b)において、実施例の結果を三角印で示し、比較例の結果を丸印で示す。
【0045】
図7(a)に示されるように、実施例では、比較例と比べて膜中H濃度が1桁~2桁程度低くなっている。また、図7(b)に示されるように、実施例では、膜中Cl濃度が検出下限値であり、シリコン窒化膜中にはClが存在しないことが分かる。これは、実施例ではハロゲンを含まないプリカーサであるTSAを用いているためと考えられる。
【0046】
図8は、シリコン窒化膜の断面形状及び段差被覆性を比較した図であり、左側に実施例の結果を示し、右側に比較例の結果を示す。より具体的には、図8の左側には、ウエハ温度を500℃に設定した状態でTSAの供給とNの供給とを交互に繰り返すことにより凹部に成膜されたシリコン窒化膜の断面形状及び段差被覆性を示す。図8の右側には、ウエハ温度を550℃に設定した状態でDCSの供給とプラズマにより活性化したNHの供給とを交互に繰り返すことにより凹部に成膜されたシリコン窒化膜の断面形状及び段差被覆性を示す。
【0047】
なお、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により断面形状を観察し、観察した断面形状に基づいて段差被覆性を算出した。
【0048】
段差被覆性とは、凹部110の側壁111の上部におけるシリコン窒化膜120の膜厚に対する凹部110の側壁111の下部におけるシリコン窒化膜120の膜厚の割合(%)を意味する。すなわち、凹部110の側壁111の下部におけるシリコン窒化膜120の膜厚と凹部110の側壁111の上部におけるシリコン窒化膜120の膜厚とが等しい場合、段差被覆性は100%となる。また、凹部110の側壁111の下部におけるシリコン窒化膜120の膜厚が凹部110の側壁111の上部におけるシリコン窒化膜120の膜厚よりも相対的に薄い場合、段差被覆性は100%未満となる。一方、凹部110の側壁111の下部におけるシリコン窒化膜120の膜厚が凹部110の側壁111の上部におけるシリコン窒化膜120の膜厚よりも相対的に厚い場合、段差被覆性は100%よりも大きくなる。
【0049】
図8に示されるように、実施例と比較例との間で、断面形状及び段差被覆性にほとんど違いが見られないことが分かる。この結果から、実施例における凹部へのシリコン窒化膜の埋込特性は、比較例における凹部へのシリコン窒化膜の埋込特性と同等であることが示された。
【0050】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0051】
上記の実施形態では、処理装置が複数のウエハに対して一度に処理を行うバッチ式の装置である場合を説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、処理装置はウエハを1枚ずつ処理する枚葉式の装置であってもよい。また、例えば処理装置は処理容器内の回転テーブルの上に配置した複数のウエハを回転テーブルにより公転させ、第1のガスが供給される領域と第2のガスが供給される領域とを順番に通過させてウエハに対して処理を行うセミバッチ式の装置であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 処理装置
10 処理容器
W ウエハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8