(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/02 20060101AFI20241016BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B29C55/02
C08J5/18 CES
C08J5/18 CEZ
(21)【出願番号】P 2019178380
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-04-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 聖
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】井口 猶二
【審判官】西岡 貴央
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む結晶性樹脂からなる樹脂層を備える延伸前フィルムを用意する工程1と、
前記延伸前フィルムを、「Tc-10℃」以上、「Tc+35℃」以下の温度Tpで時間tp熱する工程2と(ただし、Tcは、前記結晶性樹脂の結晶化ピーク温度[℃]を表す)、
前記工程2を行った前記延伸前フィルムを、前記温度Tp以下の延伸温度Tsにおいて、面倍率1.6倍以上6.3倍以下で延伸して、延伸フィルムを得る工程3と、
前記延伸フィルムの温度を常温まで低下させる工程4と、を含み、
前記工程3と前記工程4とは連続して行われ、
前記温度Tp[℃]及び前記時間tp[秒]が、下記式(i)を満たし、
10000≦{Tp-(Tc-15)}
2×tp≦30000 (i)
前記工程3で前記延伸フィルムを得た後、工程4で前記延伸フィルムの温度が常温になるまでの間に、前記延伸フィルムの温度がTs以下に維持される、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記の脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記延伸前フィルムが、前記樹脂層を2層以上備え、
前記樹脂層の間に、前記結晶性樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる1層以上の中間層を備える、請求項1又は2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、前記結晶性樹脂のガラス転移温度以上、「Ts+20℃」以下である、請求項3に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルムが、静摩擦係数が0.7以下の面を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂フィルム
の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂フィルムの内部ヘイズが、1.0%以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂フィルム
の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂フィルムのCIE-Lab表色系のb
*が、1.0以下である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂フィルム
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法、及び、樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂のフィルムに関し、当該フィルムを加熱することにより、その重合体の結晶化を進行させる技術が知られている。例えば、特許文献1~3には、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂のフィルムを、延伸し、更に加熱して結晶化を進行させて、フィルムを製造する技術が提案されている(特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/052303号
【文献】国際公開第2018/061841号
【文献】国際公開第2018/062067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いてフィルムを製造する従来の製造方法では、滑り性に優れる樹脂フィルムを製造することが難しかった。
【0005】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いて滑り性に優れる樹脂フィルムを製造できる製造方法、及び、その製造方法で製造される樹脂フィルム、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む結晶性樹脂からなる結晶性樹脂層を備える延伸前フィルムを用意する工程1と、この延伸前フィルムを特定の温度で特定の時間熱する工程2と、延伸前フィルムを特定の延伸温度において特定の面倍率で延伸して延伸フィルムを得る工程3と、延伸フィルムの温度を常温まで低下させる工程4と、を含む製造方法により、前記の課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0007】
〔1〕 脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む結晶性樹脂からなる樹脂層を備える延伸前フィルムを用意する工程1と、
前記延伸前フィルムを、「Tc-10℃」以上、「Tc+35℃」以下の温度Tpで時間tp熱する工程2と(ただし、Tcは、前記結晶性樹脂の結晶化ピーク温度[℃]を表す)、
前記工程2を行った前記延伸前フィルムを、前記温度Tp以下の延伸温度Tsにおいて、面倍率1.6倍以上6.3倍以下で延伸して、延伸フィルムを得る工程3と、
前記延伸フィルムの温度を常温まで低下させる工程4と、を含み、
前記温度Tp[℃]及び前記時間tp[秒]が、下記式(i)を満たし、
10000≦{Tp-(Tc-15)}2×tp≦30000 (i)
前記工程3で前記延伸フィルムを得た後、工程4で前記延伸フィルムの温度が常温になるまでの間に、前記延伸フィルムの温度がTs以下に維持される、樹脂フィルムの製造方法。
〔2〕 前記の脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体が、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物である、〔1〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔3〕 前記延伸前フィルムが、前記樹脂層を2層以上備え、
前記樹脂層の間に、前記結晶性樹脂以外の熱可塑性樹脂からなる1層以上の中間層を備える、〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔4〕 前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、前記結晶性樹脂のガラス転移温度以上、「Ts+20℃」以下である、〔3〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムが、静摩擦係数が0.7以下の面を有する、樹脂フィルム。
〔6〕 前記樹脂フィルムの内部ヘイズが、1.0%以下である、〔5〕に記載の樹脂フィルム。
〔7〕 前記樹脂フィルムのCIE-Lab表色系のb*が、1.0以下である、〔5〕又は〔6〕に記載の樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂を用いて滑り性に優れる樹脂フィルムを簡単に製造できる製造方法、及び、その製造方法で製造される樹脂フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0011】
以下の説明において、長尺のフィルムの長手方向は、通常は製造ラインにおけるフィルム搬送方向と平行である。また、MD方向(mashine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの搬送方向であり、通常は長尺のフィルムの長手方向と平行である。さらに、TD方向(transverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、前記MD方向に垂直な方向であり、通常は長尺のフィルムの幅方向と平行である。
【0012】
以下の説明において、フィルムの面内レタデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0013】
[1.樹脂フィルムの製造方法の概要]
本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂としての結晶性樹脂を用いて、その結晶性樹脂からなる樹脂層を備える樹脂フィルムを製造する方法である。以下の説明において、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を「脂環式結晶性重合体」ということがある。また、結晶性樹脂からなる樹脂層を「結晶性樹脂層」ということがある。結晶性樹脂層は、結晶性樹脂によって形成された層であるので、通常、結晶性樹脂のみを含む層でありうる。
【0014】
本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、
脂環式結晶性重合体を含む結晶性樹脂からなる結晶性樹脂層を備える延伸前フィルムを用意する工程1と、
延伸前フィルムを、特定の温度Tpで特定の時間tp熱する工程2と、
工程2を行った延伸前フィルムを、特定の延伸温度Tsにおいて、特定の面倍率で延伸して、延伸フィルムを得る工程3と、
前記延伸フィルムの温度を常温まで低下させる工程4と、この順に含む。
【0015】
この製造方法によれば、脂環式結晶性重合体を含む結晶性樹脂からなる結晶性樹脂層を備える樹脂フィルムが得られる。こうして得られる樹脂フィルムは、優れた滑り性を有することができる。
【0016】
以下の説明では、工程2において延伸前フィルムを熱する温度Tpを「予熱温度」ということがある。また、工程2において延伸前フィルムを予熱温度Tpに熱する時間tpを「予熱時間」ということがある。
【0017】
[2.工程1(延伸前フィルムの用意)]
工程1では、結晶性樹脂からなる結晶性樹脂層を備える延伸前フィルムを用意する。結晶性樹脂は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体としての脂環式結晶性重合体を含む樹脂であり、必要に応じて脂環式結晶性重合体以外の任意の成分を含みうる。この結晶性樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。
【0018】
脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を含有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。脂環式構造を含有する重合体としての脂環式結晶性重合体を用いることにより、樹脂フィルムの機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。
【0019】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0020】
脂環式結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を含有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を含有する構造単位の割合が前記のように多い場合、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を含有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、脂環式結晶性重合体において、脂環式構造を含有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0021】
脂環式結晶性重合体は、結晶性を有する。「結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する〔すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる〕重合体をいう。
【0022】
脂環式結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する脂環式結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた樹脂フィルムを得ることができる。
【0023】
重合体の融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷する。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体の融点Tmを測定しうる。
【0024】
脂環式結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0025】
具体的には、脂環式結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0026】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0027】
上記重合体(α)~重合体(δ)は、例えば、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により製造できる。
【0028】
脂環式結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する脂環式結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0029】
脂環式結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する脂環式結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
【0030】
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0031】
工程2の前の延伸前フィルムの結晶性樹脂層に含まれる脂環式結晶性重合体の結晶化度は、滑り性に優れる樹脂フィルムを特に容易に製造する観点から、小さいことが好ましい。具体的な結晶化度は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、特に好ましくは3%未満である。また、延伸前フィルムの結晶性樹脂層に含まれる脂環式結晶性重合体は、結晶化していなくてもよい。重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0032】
脂環式結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
結晶性樹脂における脂環式結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、樹脂フィルムの複屈折の発現性及び耐熱性を高めることができる。脂環式結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下でありうる。
【0034】
結晶性樹脂は、脂環式結晶性重合体に組み合わせて、更に任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、脂環式結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0035】
脂環式結晶性重合体を含む結晶性樹脂は、通常、結晶化ピーク温度Tcを有する。結晶化ピーク温度Tcは、特に限定されないが、好ましくは120℃以上であり、好ましくは220℃以下である。
【0036】
脂環式結晶性重合体を含む結晶性樹脂は、通常、ガラス転移温度Tgを有する。以下、結晶性樹脂のガラス転移温度を、他の成分のガラス転移温度と区別するために、「Tg(1)」との略称で示すことがある。結晶性樹脂のガラス転移温度Tg(1)は、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0037】
樹脂のガラス転移温度Tg及び結晶化ピーク温度Tcは、以下の方法によって測定できる。樹脂を窒素雰囲気下で300℃に加熱して溶融させ、溶融した樹脂を液体窒素で急冷する。この樹脂を試料として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して樹脂のガラス転移温度Tgおよび結晶化ピーク温度Tcをそれぞれ求めうる。
【0038】
延伸前フィルムが備える結晶性樹脂層の数は、1層でもよく、2層以上でもよい。延伸前フィルムが2層以上の結晶性樹脂層を備える場合、それら結晶性樹脂層の組成及び厚みは、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0039】
延伸前フィルムに含まれる結晶性樹脂層の1層の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下、特に好ましくは80μm以下である。
【0040】
延伸前フィルムは、結晶性樹脂層のみを備えるフィルムであってもよい。この場合、通常は、結晶性樹脂層のみを備える樹脂フィルムを製造することができる。また、延伸前フィルムは、結晶性樹脂層に組み合わせて、結晶性樹脂以外の樹脂からなる任意の層を備えていてもよい。この場合、通常は、結晶性樹脂層と任意の層とを組み合わせて備える樹脂フィルムを製造することができる。
【0041】
任意の層の数及び位置は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意である。例えば、結晶性樹脂層の片側に任意の層が設けられていてもよく、結晶性樹脂層の両側に任意の層が設けられていてもよい。結晶性樹脂層の両側に任意の層が設けられている場合、例えば、第四工程の後で任意の層を剥離して結晶性樹脂層を露出させることにより、その露出した結晶性樹脂層の面が有する優れた滑り性を活用できる。
【0042】
任意の層は、特に、2層以上の結晶性樹脂層を備える延伸前フィルムにおいて、前記の結晶性樹脂層の間に設けられることが好ましい。このように結晶性樹脂層の間に設けられる任意の層を「中間層」ということがある。中間層の数は、1層でもよく、2層以上でもよい。結晶性樹脂層の間に中間層が設けられることにより、結晶性樹脂層が発現する優れた滑り性を活用しながら、中間層に力学的又は光学的な特性を発揮させることができる。よって、中間層の組成に応じて、多様な特性を有し且つ滑り性に優れる樹脂フィルムを得ることができる。
【0043】
中間層等の任意の層は、上述した結晶性樹脂以外の熱可塑性樹脂によって形成しうる。このような熱可塑性樹脂は、通常、脂環式結晶性重合体以外の重合体と、必要に応じて任意の成分を含みうる。重合体としては、例えば、脂環式構造を含有し結晶性を有さない重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル重合体、メタクリル重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、アラミド、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらのうち、結晶性樹脂層との密着力に優れ、配向規制力が高く、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れるという観点から、脂環式構造を含有し結晶性を有さない重合体が好ましい。脂環式構造を含有し結晶性を有さない重合体としては、ノルボルネン系重合体がより好ましい。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0044】
任意の層に含まれる熱可塑性樹脂が含みうる任意の成分としては、例えば、結晶性樹脂が含みうる任意の成分と同じ例が挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0045】
中間層等の任意の層に含まれる熱可塑性樹脂は、通常、ガラス転移温度Tgを有する。以下、この熱可塑性樹脂のガラス転移温度を、結晶性樹脂のガラス転移温度Tg(1)と区別するために、「Tg(2)」との略称で示すことがある。熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(2)は、好ましくはTg(1)以上、より好ましくは「Tg(1)+10℃」以上、特に好ましくは「Tg(1)+20℃」以上であり、また、好ましくは「Ts+20℃」以下、より好ましくは「Ts+15℃」以下、特に好ましくは「Ts+10℃」以下である。前記「Ts」は、工程3における延伸前フィルムの延伸温度を表す。熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(2)が前記範囲の下限以上である場合、延伸処理の際の破断を抑制できる。また、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(2)が前記範囲の上限以下である場合、延伸後のフィルムの膜厚制御性を十分担保することができる。
【0046】
延伸前フィルムの厚みは、樹脂フィルムの厚みに応じて適切に設定しうる。延伸前フィルムの具体的な厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0047】
延伸前フィルムは、枚葉のフィルムであってもよいが、長尺のフィルムであることが好ましい。長尺の延伸前フィルムを用いることにより、ロール・トゥ・ロール法による樹脂フィルムの連続的な製造が可能であるので、樹脂フィルムの生産性を効果的に高めることができる。
【0048】
延伸前フィルムの製造方法に制限は無い。有機溶媒を含まない延伸前フィルムが得られることから、延伸前フィルムの製造方法としては、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法が好ましい。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法が好ましい。
【0049】
また、2層以上の層を備える複層構造の延伸前フィルムは、例えば、共押出成形法によって各層に対応する樹脂を成形することで、製造しうる。共押出成形法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられる。中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法には、フィードブロック方式及びマルチマニホールド方式があり、厚みのばらつきを少なくできる点で、マルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0050】
押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20℃」以上であり、好ましくは「Tm+100℃」以下、より好ましくは「Tm+50℃」以下である。また、フィルム状に押し出された溶融樹脂が最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは「Tg(1)-50℃」以上であり、好ましくは「Tg(1)+70℃」以下、より好ましくは「Tg(1)+40℃」以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは「Tg(1)-70℃」以上、より好ましくは「Tg(1)-50℃」以上であり、好ましくは「Tg(1)+60℃」以下、より好ましくは「Tg(1)+30℃」以下である。このような条件で延伸前フィルムを製造する場合、厚み1μm~1mmの延伸前フィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は、脂環式結晶性重合体の融点を表し、「Tg(1)」は結晶性樹脂のガラス転移温度を表す。
【0051】
[3.工程2(予熱工程)]
工程1において延伸前フィルムを得た後で、その延伸前フィルムを特定の予熱温度Tpで予熱時間tp熱する工程2を行う。工程2によれば、後述する工程3を行う前に延伸前フィルムの温度を延伸温度Ts付近に調整できるので、工程3での延伸を円滑に行うことができる。また、このような工程2においては、結晶性樹脂に含まれる脂環式結晶性重合体の結晶化が、部分的に進行しうる。
【0052】
予熱温度Tpは、通常「Tc-10℃」以上、好ましくは「Tc-5℃」以上であり、また、通常「Tc+35℃」以下、好ましくは「Tc+30℃」以下、特に好ましくは「Tc+25℃」以下である。「Tc」は、結晶性樹脂の結晶化ピーク温度を表す。予熱温度Tpが前記の範囲にある場合に、本実施形態に係る製造方法で得られる樹脂フィルムの滑り性を高めることができ、更に通常は内部ヘイズ及び呈色を小さくできる。
【0053】
予熱時間tpは、通常、予熱温度Tp[℃]及び予熱時間tp[秒]が下記式(i)を満たすように設定される。式(i)において、予熱温度Tp及び結晶性樹脂の結晶化ピーク温度Tcの単位は「℃」であり、予熱時間tpの単位は「秒」である。
10000≦{Tp-(Tc-15)}2×tp≦30000 (i)
【0054】
より詳細には、{Tp-(Tc-15)}2×tpで表されるパラメータは、通常10000以上、好ましくは12000以上、特に好ましくは14000以上であり、通常30000以下、好ましくは28000以下、より好ましくは26000以下、特に好ましくは24000以下である。以下の説明では、「{Tp-(Tc-15)}2×tp」で表されるパラメータを、「予熱パラメータ」ということがある。予熱パラメータが前記の範囲にある場合に、本実施形態に係る製造方法で得られる樹脂フィルムの滑り性を高めることができ、更に通常は内部ヘイズ及び呈色を小さくできる。また、予熱パラメータが前記の範囲の下限値以上である場合、工程2において脂環式結晶性重合体の結晶化を進行させることができる。さらに、予熱パラメータが前記の範囲の上限値以下である場合、脂環式結晶性重合体の結晶化の過剰な進行を抑制できる。
【0055】
工程2は、例えば、予熱温度Tpに調整された雰囲気に、延伸前フィルムを、予熱時間tp曝すことにより行いうる。この場合、工程2は、例えばオーブンのように、延伸前フィルムの雰囲気の温度を調整可能な温度調整装置によって行いうる。延伸前フィルムが一般に薄いので、前記の温度調整装置を用いる場合、延伸前フィルムの温度は、通常、その温度調整装置で調整された雰囲気の温度に一致しうる。したがって、予熱温度Tpは、温度調整装置の設定温度に一致しうる。
【0056】
もしくは、工程2は、例えば、予熱温度Tpに温度調整された加熱部に、延伸前フィルムを、予熱時間tp接触させることにより行いうる。この場合、工程2は、例えばホットプレートのように、前記の加熱部を有する加熱装置によって行いうる。前記の加熱装置を用いる場合、延伸前フィルムの温度は、通常、加熱部の温度に一致しうる。したがって、予熱温度Tpは、加熱装置の設定温度に一致しうる。
【0057】
中でも、工程2は、非接触で延伸前フィルムを熱することができる装置を用いて行うことが好ましい。そのような装置の具体例を挙げると、オーブン及び加熱炉が挙げられる。
【0058】
好ましい具体例を挙げると、工程2は、温度調整可能なオーブンを用いて行いうる。例えば、オーブン内に延伸前フィルムを収納した状態で、そのオーブンの温度を上述した条件を満たすように調整することにより、工程2を行うことができる。
別の好ましい具体例を挙げると、工程2は、内部にフィルム搬送路を有するオーブンを用いて行いうる。例えば、上述した条件を満たすように温度が調整されたオーブンのフィルム搬送路を、上述した条件を満たす時間をかけて通るように延伸前フィルムを搬送することにより、工程2を行うことができる。
【0059】
工程2は、通常、延伸前フィルムが実質的に延伸されないように行う。延伸前フィルムが「実質的に延伸される」とは、延伸前フィルムのいずれかの方向への延伸倍率が1.1倍以上になることをいう。
【0060】
さらに、工程2では、延伸前フィルムは緊張させた状態になっていることが好ましい。延伸前フィルムを「緊張させた状態」とは、延伸前フィルムに張力がかかった状態をいう。ただし、この緊張させた状態には、延伸前フィルムが実質的に延伸される状態を含まない。
【0061】
例えば、延伸前フィルムの一部又は全体を適切な保持具で保持することにより、延伸前フィルムを緊張させた状態にしうる。通常は、延伸前フィルムの縁部にある辺を保持具で保持する。保持具は、延伸前フィルムの辺の全長を連続的に保持しうるものでもよく、間隔を空けて間欠的に保持しうるものでもよい。例えば、所定の間隔で配列された保持具によって延伸前フィルムの辺を間欠的に保持してもよい。
【0062】
延伸前フィルムは、当該延伸前フィルムの少なくとも二辺を保持されて緊張した状態にされることが好ましい。この場合、保持された辺の間の領域において延伸前フィルムの熱収縮による変形が妨げられる。延伸前フィルムの広い面積において変形を妨げるためには、対向する二辺を含む辺を保持して、その保持された辺の間の領域を緊張した状態にすることが好ましい。例えば、矩形の枚葉の延伸前フィルムでは、対向する二辺(例えば、長辺同士、又は、短辺同士)を保持して前記二辺の間の領域を緊張した状態にすることで、その枚葉の延伸前フィルムの全面において変形を妨げることができる。また、長尺の延伸前フィルムでは、幅方向の端部にある二辺(即ち、長辺)を保持して前記二辺の間の領域を緊張した状態にすることで、その長尺の延伸前フィルムの全面において変形を妨げることができる。このように変形を妨げられた延伸前フィルムは、熱収縮によってフィルム内に応力が生じても、シワ等の変形の発生が抑制される。
【0063】
加熱による変形をより確実に抑制するためには、より多くの辺を保持することが好ましい。よって、例えば、枚葉の延伸前フィルムでは、その全ての辺を保持することが好ましい。具体例を挙げると、矩形の枚葉の延伸前フィルムでは、四辺を保持することが好ましい。
【0064】
延伸前フィルムの辺を保持しうる保持具としては、延伸前フィルムの辺以外の部分では延伸前フィルムと接触しないものが好ましい。このような保持具を用いることにより、より平滑性に優れる樹脂フィルムを得ることができる。
【0065】
また、保持具としては、当該保持具が延伸前フィルムを保持する期間において、保持具同士の相対的な位置を固定しうるものが好ましい。このような保持具は、保持具同士の位置が相対的に移動しないので、延伸前フィルムの実質的な延伸を抑制しやすい。
【0066】
好適な保持具としては、例えば、矩形の延伸前フィルム用の保持具として、枠材に所定間隔で設けられ延伸前フィルムの辺を把持しうるクリップ等の把持子が挙げられる。また、例えば、長尺の延伸前フィルムの幅方向の端部にある二辺を保持するための保持具としては、テンター延伸機に設けられ延伸前フィルムの辺を把持しうる把持子が挙げられる。
【0067】
長尺の延伸前フィルムを用いる場合、その延伸前フィルムの長手方向の端部にある辺(即ち、短辺)を保持してもよいが、前記の辺を保持する代わりに延伸前フィルムの工程2を施される領域の長手方向の両側を保持してもよい。例えば、延伸前フィルムの工程2を施される領域の長手方向の両側に、延伸前フィルムを熱収縮しないように保持して緊張させた状態にしうる保持装置を設けてもよい。このような保持装置としては、例えば、2つのロールの組み合わせ、押出機と引き取りロールとの組み合わせ、などが挙げられる。これらの組み合わせによって延伸前フィルムに搬送張力等の張力を加えることで、工程2を施される領域において当該延伸前フィルムの熱収縮を抑制できる。そのため、前記の組み合わせを保持装置として用いれば、延伸前フィルムを長手方向に搬送しながら当該延伸前フィルムを保持できるので、樹脂フィルムの効率的な製造ができる。
【0068】
[4.工程3(延伸工程)]
工程2を行った後で、その延伸前フィルムを特定の延伸温度Tsにおいて、特定の面倍率で延伸する工程3を行う。この工程3での延伸により、結晶性樹脂層及び必要に応じて任意の層を備える延伸後のフィルムとしての延伸フィルムが得られる。通常、工程2と工程3とは連続して行われるので、工程2と工程3との間に他の工程は行われない。
【0069】
工程3における延伸前フィルムの延伸温度Tsは、通常、予熱温度Tp以下である。延伸温度Tsは、予熱温度Tpより低温でもよく、例えば、Tp-5℃以下、Tp-10℃以下、などであってもよい。延伸温度Tsの下限は、結晶性樹脂を十分に軟化させて延伸を均一に行うことにより、均一性に優れる樹脂フィルムを得る観点から、好ましくは「Tg+5℃」以上、より好ましくは「Tg+10℃」以上である。
【0070】
工程3における延伸前フィルムの延伸の面倍率は、通常1.6倍以上、好ましくは1.8倍以上、特に好ましくは2.0倍以上であり、通常6.3倍以下、好ましくは5.0倍以下、特に好ましくは4.0倍以下である。延伸の面倍率とは、「延伸前フィルムの面積」に対する「延伸フィルムの面積」の比で表される延伸倍率であり、よって、下記式(ii)で表される。
面倍率 = {(延伸フィルムの面積)/(延伸前フィルムの面積)} (ii)
【0071】
工程3における延伸の面倍率が前記の範囲にある場合に、本実施形態に係る製造方法で得られる樹脂フィルムの滑り性を高めることができ、更に通常は内部ヘイズ及び呈色を小さくできる。また、延伸の面倍率が前記の範囲の下限値以上である場合、延伸によって結晶性樹脂層の表面に充分に高い凹凸を形成できる。さらに、延伸の面倍率が前記の範囲の上限値以下である場合、配向結晶化の過剰な進行を抑制できる。
【0072】
延伸方法に格別な制限は無く、任意の延伸方法を用いうる。例えば、延伸前フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、延伸前フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;延伸前フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、延伸前フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;延伸前フィルムを幅方向に平行でもなく垂直でもない斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。
【0073】
前記の縦一軸延伸法としては、例えば、ロール間の周速の差を利用した延伸方法などが挙げられる。
また、前記の横一軸延伸法としては、例えば、テンター延伸機を用いた延伸方法などが挙げられる。
さらに、前記の同時二軸延伸法としては、例えば、ガイドレールに沿って移動可能に設けられ且つ延伸前フィルムを固定しうる複数のクリップを備えたテンター延伸機を用いて、クリップの間隔を開いて延伸前フィルムを長手方向に延伸すると同時に、ガイドレールの広がり角度により延伸前フィルムを幅方向に延伸する延伸方法などが挙げられる。
また、前記の逐次二軸延伸法としては、例えば、ロール間の周速の差を利用して延伸前フィルムを長手方向に延伸した後で、その延伸前フィルムの両端部をクリップで把持してテンター延伸機により幅方向に延伸する延伸方法などが挙げられる。
さらに、前記の斜め延伸法としては、例えば、延伸前フィルムに対して長手方向又は幅方向に左右異なる速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加しうるテンター延伸機を用いて延伸前フィルムを斜め方向に連続的に延伸する延伸方法などが挙げられる。
【0074】
[5.工程4(冷却工程)]
工程3を行った後で、延伸フィルムの温度を常温まで低下させる工程4を行う。常温は、特段の温度制御を行わない環境温度を表し、例えば10℃以上40℃以下の温度でありうる。このように常温にまで延伸フィルムの温度を低下させることにより、当該延伸フィルムを樹脂フィルムとして得ることができる。通常、工程3と工程4とは連続して行われるので、工程3と工程4との間に他の工程は行われない。
【0075】
前記の工程4は、通常、工程3で延伸フィルムを得た後、工程4で延伸フィルムの温度が常温になるまでの間に、延伸フィルムの温度が延伸温度Ts以下に維持されるように行う。よって、工程4は、通常、延伸フィルムの温度が一時的に延伸温度Tsよりも高温になることを含まない。
【0076】
工程4で延伸フィルムの温度を低下させる期間において、延伸フィルムは緊張させた状態になっていることが好ましい。これにより、収縮によるシワ等の変形の発生を抑制できる。延伸フィルムに張力を与える場合、例えば、適切な保持具によって延伸フィルムを保持することによって延伸フィルムを緊張させた状態にしてもよい。この保持具としては、例えば、工程2において延伸前フィルムに張力を与えるために用いうる保持具として説明したものと同じものを用いうる。
【0077】
通常は、工程3で用いた延伸機から延伸フィルムを取り出すことにより、速やかにその延伸フィルムの放冷が進行し、短時間で延伸フィルムの温度は常温にまで低下する。詳細には、工程3における延伸は、通常、オーブンを備える延伸機において行われるので、その延伸機のオーブンの外に取り出されることにより延伸フィルムの放冷が進行する。一般に延伸フィルムは薄いので、前記の放冷は速やかに進行し、よって延伸フィルムの温度は短時間で常温になることができる。よって、工程4は、例えば、延伸機から延伸フィルムを取り出すことにより行いうる。
【0078】
[6.任意の工程]
上述した実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
【0079】
上述した製造方法によれば、長尺の延伸前フィルムを用いて、長尺の樹脂フィルムを製造することができる。そこで、樹脂フィルムの製造方法は、例えば、このように製造された長尺の樹脂フィルムをロール状に巻き取る工程を含んでいてもよい。さらに、樹脂フィルムの製造方法は、長尺の樹脂フィルムを所望の形状に切り出す工程を含んでいてもよい。
【0080】
[7.製造される樹脂フィルム]
上述した製造方法によれば、結晶性樹脂層を備え、更に必要に応じて任意の層を備えた樹脂フィルムを製造できる。この樹脂フィルムは、結晶性樹脂層の表面が優れた滑り性を有する。よって、上述した製造方法によれば、易滑処理を表面に施したり、マスキングフィルムを貼り合わせたりする必要が無く、優れた滑り性を有する樹脂フィルムを簡単に製造できる。
【0081】
前記の滑り性は、静摩擦係数によって表すことができる。上述した製造方法で製造される樹脂フィルムは、静摩擦係数が小さい面を有することができる。具体的な静摩擦係数は、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.60以下、特に好ましくは0.50以下である。通常は、樹脂フィルムの結晶性樹脂層の表面が、前記のように小さい静摩擦係数を有しうる。
静摩擦係数は、JIS K7125に準拠して測定しうる。具体的には、後述する実施例で説明する方法により、樹脂フィルムの表面同士の静摩擦係数を測定しうる。
【0082】
上述した製造方法で製造される樹脂フィルムは、通常、内部ヘイズを小さくできる。具体的な内部ヘイズは、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。このように内部ヘイズが小さい樹脂フィルムは、透明性に優れるので、当該樹脂フィルムを備える画像表示装置の画像鮮明性を向上させることができる。樹脂フィルムの内部ヘイズの下限は、理想的には0.0%であるが、0.0%超であってもよい。
【0083】
一般に、ヘイズには、フィルムの表面にある微細な凹凸による光散乱によるものと、フィルム内部の屈折率分布によるものとが含まれる。内部ヘイズとは、フィルムのヘイズ全体から、フィルムの表面にある微細な凹凸による光散乱によるヘイズを差し引いたものをいう。このようなフィルムの内部ヘイズは、下記の方法で測定しうる。
シクロオレフィンフィルム、透明光学粘着フィルム、透明光学粘着フィルム、及び、シクロオレフィンフィルムをこの順に備える貼合積層体を形成する。この貼合積層体のヘイズ値を、ヘイズメーターを用いて測定する。測定された貼合積層体のヘイズ値は、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和に該当する。
他方、樹脂フィルムの両面に、前記の透明光学粘着フィルムを介して、前記のシクロオレフィンフィルムを貼合して、積層試験片を得る。次いで、この積層試験片のヘイズを、ヘイズメーターを用いて測定する。測定の結果得られた積層試験片のヘイズ値から、上述したシクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和を差し引いて、樹脂フィルムの内部ヘイズを得ることができる。
【0084】
上述した製造方法で製造される樹脂フィルムは、通常、呈色を小さくできる。樹脂フィルムの呈色の程度は、CIE-Lab表色系のb*の値により表すことができる。樹脂フィルムの具体的なb*の値は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。このようにb*が小さい樹脂フィルムは、呈色が小さいので、画像表示装置の画面の呈色を抑制できる。
【0085】
樹脂フィルムのb*の値は、下記の方法で測定しうる。樹脂フィルムの380nmから780nmまでの透過率を、日本分光社製「V-7200」を用いて1nm間隔で測定する。この測定結果から、CIE-Lab表色系のb*を算出しうる。
【0086】
上述した製造方法によって前記のような特性を有する樹脂フィルムを製造できる仕組みを、本発明者は下記のように推察する。ただし、本発明は、下記に説明する仕組みに限定されるものではなく、本発明の効果を得られる範囲で任意に変更して実施しうる。
【0087】
工程2において結晶性樹脂層を含む延伸前フィルムに熱が加えられると、その熱によって結晶性樹脂層に含まれる脂環式結晶性重合体の結晶化が進行しうる。この結晶化は、通常、前記の脂環式結晶性重合体において部分的に進行する。これにより、結晶性樹脂層には、脂環式結晶性重合体が結晶化したドメイン(以下、「結晶化ドメイン」ということがある。)と、脂環式結晶性重合体が結晶化していないドメイン(以下、「非結晶ドメイン」ということがある。)とが生じる。通常は、微小な結晶化ドメインが結晶性樹脂層に均一に分散し、それら結晶化ドメイン間を非結晶ドメインが充填した状態となっていると考えられる。その後、この延伸前フィルムが工程3で延伸されると、脂環式結晶性重合体の分子の配向が進行する。この際、非結晶ドメインの脂環式結晶性重合体の分子は、当該分子が動きやすいので、相対的に大きく配向する。他方、結晶化ドメインの脂環式結晶性重合体の分子は、当該分子が動きにくいので、相対的に小さく配向するか、配向を生じない。よって、延伸によって得られる延伸フィルムの結晶性樹脂層では、相対的に大きく配向した分子を含む非結晶ドメインと相対的に小さく配向した分子を含む結晶化ドメインとが含まれる。そして、結晶性樹脂層の表面には、前記のドメイン間の配向の程度の違いに応じて、その表面形状に差が生じうる。このような表面形状の差は、結晶化ドメインのサイズに対応した微小な凹凸として現れうる。
【0088】
工程2では、特定の予熱パラメータを満たすように予熱温度Tp及び予熱時間tpが設定されることで、脂環式結晶性重合体の結晶化の進行の程度が調整されている。よって、工程2では、フィルム中の脂環式結晶性重合体の全てが結晶化されるのではなく、特定量の中途半端な結晶化が進行するから、上述した結晶化ドメインのサイズ及び分散の程度が適切な範囲に調整される。さらに、工程3では、延伸温度Ts及び延伸の面倍率が特定の条件を満たすように設定されることで、脂環式結晶性重合体の分子の配向の程度が調整されるので、フィルム表面の凹凸のサイズが適切な範囲に調整される。そして、このフィルム表面の凹凸により、優れた滑り性が得られる。
【0089】
工程3での延伸後、仮に更に脂環式結晶性重合体の結晶化が進行すると、結晶化の進行によって脂環式結晶性重合体の分子の配向の程度がフィルム全体として向上し、表面の凹凸が小さくなって、滑り性が低下することが考えられる。これに対し、上述した実施形態に係る製造方法では、工程4において、延伸フィルムの温度が延伸温度Tsより高温にならないように制御しながら、当該延伸フィルムを常温にまで冷却して、樹脂フィルムを得ている。よって、工程4では、滑り性が損なわれる程大きな結晶化が進行しない。したがって、工程3で得られた延伸フィルムの優れた滑り性を損なうことなく、工程4で冷却が行われるので、滑り性に優れる樹脂フィルムが得られる。
【0090】
また、上述した実施形態に係る製造方法では、工程2において生じる結晶化ドメインのサイズが小さい。さらに、工程3での延伸の面倍率が過大でないので、強い配向結晶化の進行が抑制され、前記の結晶化ドメインの拡大が抑制できる。よって、樹脂フィルムに含まれる結晶化ドメインが小さいので、上述したようにフィルム表面の凹凸のサイズを適切な範囲に調整できるだけでなく、当該結晶化ドメインによる光の散乱を抑制することもできる。したがって、結晶化による樹脂の白化が抑制されるので、樹脂フィルムの内部ヘイズを小さくできる。
【0091】
さらに、上述した実施形態に係る製造方法では、工程2~4にかけて過剰な熱が結晶性樹脂に与えられない。よって、結晶性樹脂の熱による劣化が抑制されるので、樹脂の呈色を抑制できる。一般に、劣化による樹脂の呈色は、黄色として現れる。よって、前記の劣化を抑制できることにより、フィルムが黄色に呈色することを抑制できるので、樹脂フィルムのb*を小さくできる。
【0092】
従来、脂環式結晶性重合体を用いた製造方法では、一般に、結晶化した脂環式結晶性重合体の優れた特性を活用するため、当該脂環式結晶性重合体の結晶化を積極的に進行させる工程を含むことが多かった。しかし、このような結晶化の進行は、熱処理によって行われるので、重合体の劣化及びそれに伴う呈色を発生させ易い傾向があった。このような従来の事情に鑑みると、呈色を抑制できる上述した製造方法は、脂環式結晶性重合体を含むフィルムの製造方法として優れており、特に、滑り性の向上と呈色の抑制とを両立できる樹脂フィルムは上述した製造方法によって初めて実現できたと言える。
【0093】
また、樹脂フィルムが複数の結晶性樹脂層の間に設けられた中間層を備える場合、結晶性樹脂層によって中間層を保護することができる。結晶性樹脂層が、通常、機械的強度、耐薬品性、耐熱性等の特性に優れるので、中間層を備える樹脂フィルムも、全体として前記の特性に優れることができる。よって、結晶性樹脂層の作用による優れた滑り性を有し且つ耐久性に優れる樹脂フィルムを得ることができる。
【0094】
樹脂フィルムの面内レターデーションReは、樹脂フィルムの用途に応じて任意である。本実施形態に係る製造方法によれば、広範な範囲で樹脂フィルムの面内方向の複屈折を調整できるので、用途に応じた面内レターデーションReを有することができる。
【0095】
例えば、樹脂フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、特に好ましくは3nm以下であってもよい。この場合、樹脂フィルムは、当該樹脂フィルムを厚み方向に透過する光に対して光学等方性のフィルムとして機能できる。
【0096】
また、例えば、樹脂フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上でありえ、また、好ましくは180nm以下、より好ましく170nm以下、特に好ましくは160nm以下でありうる。この場合、樹脂フィルムは、1/4波長板として機能できる。
【0097】
さらに、例えば、樹脂フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは245nm以上、より好ましくは265nm以上、特に好ましくは270nm以上でありえ、また、好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは295nm以下でありうる。この場合、樹脂フィルムは、1/2波長板として機能できる。
【0098】
工程2において脂環式結晶性重合体の結晶化が進行しているので、得られる樹脂フィルムが含む脂環式結晶性重合体は、ある程度以上の結晶化度を有しうる。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上、特に好ましくは30%以上である。このように結晶化が進行した脂環式結晶性重合体を有することにより、樹脂フィルムは、前述した優れた効果に加えて、更に高い耐屈曲性及び耐薬品性を有しうる。結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0099】
樹脂フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。樹脂フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0100】
樹脂フィルムの厚みは、所望の用途に応じて適切に設定でき、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下である。樹脂フィルムの厚みが前記範囲の下限値以上である場合、ハンドリング性を良好にしたり、強度を高くしたりできる。また、樹脂フィルムの厚みが上限値以下である場合、長尺の樹脂フィルムの巻き取りを容易にできる。
【0101】
樹脂フィルムは、枚葉のフィルムであってもよく、長尺のフィルムであってもよい。
【0102】
樹脂フィルムは、任意の用途に用いうる。中でも、樹脂フィルムは、例えば、光学等方性フィルム及び位相差フィルム等の光学フィルム、電気電子用フィルム、バリアフィルム用の基材フィルム、並びに、導電性フィルム用の基材フィルムとして好適である。前記の光学フィルムとしては、例えば、液晶表示装置用の位相差フィルム、偏光板保護フィルム、有機EL表示装置の円偏光板用の位相差フィルム、等が挙げられる。電気電子用フィルムとしては、例えば、フレキシブル配線基板、フィルムコンデンサー用絶縁材料、などが挙げられる。バリアフィルムとしては、例えば、有機EL素子用の基板、封止フィルム、太陽電池の封止フィルム、などが挙げられる。導電性フィルムとしては、例えば、有機EL素子や太陽電池のフレキシブル電極、タッチパネル部材、などが挙げられる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0104】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0105】
[評価方法]
〔重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法〕
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0106】
〔ガラス転移温度Tg、結晶化ピーク温度Tcの測定方法〕
樹脂を窒素雰囲気下で300℃に加熱して溶融させ、溶融した樹脂を液体窒素で急冷した。この樹脂を試料として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して樹脂のガラス転移温度Tgおよび結晶化ピーク温度Tcをそれぞれ求めた。
【0107】
〔重合体の水素化物率の測定方法〕
重合体の水素化物率は、オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、145℃で、1H-NMR測定により測定した。
【0108】
〔重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法〕
オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果から、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0109】
〔延伸前フィルムの厚みおよび樹脂フィルムの厚みの測定方法〕
フィルムの厚みは、スナップゲージID-C112BS(ミツトヨ社製)により測定した。
【0110】
〔樹脂フィルム同士の静摩擦係数の測定方法〕
樹脂フィルムを、50mm×50mmのサイズに切り出して、試験片を得た。この試験片を用いて、JIS K7125に準拠して、親東科学社製の表面性測定器「Type 32」を用い、樹脂フィルムの表面の静摩擦係数を測定した。この測定の相手材(測定時に試験片の表面と接触する部材)としては、試験片を切り出したのと同じ樹脂フィルムを用いた。
【0111】
〔樹脂フィルムの内部ヘイズの測定方法〕
樹脂フィルムを、50mm×50mmのサイズに切り出して、試験片を得た。続いて、試験片の両面に、厚み50μmの透明光学粘着フィルム(3M社製「8146-2」)を介して、シクロオレフィンフィルム(日本ゼオン社製「ゼオノアフィルム ZF14-040」、厚さ40μm)をそれぞれ貼合して、積層試験片を得た。この積層試験片のヘイズを、ヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定した。
【0112】
別途、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値との和を、以下の方法により求めた。シクロオレフィンフィルム、透明光学粘着フィルム、透明光学粘着フィルム、及び、シクロオレフィンフィルムをこの順に備える貼合積層体を形成した。当該貼合積層体のヘイズ値を、前記のヘイズメーターを用いて、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値との和として測定した。
【0113】
積層試験片のヘイズ値から、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値との和(0.04)を差し引いて、樹脂フィルムとしての試験片の内部ヘイズを求めた。
【0114】
〔樹脂フィルムの色度(b*)の測定方法〕
樹脂フィルムを、50mm×50mmのサイズに切り出して、試験片を得た。この試験片の380nmから780nmまでの透過率を、日本分光社製「V-7200」を用いて1nm間隔で測定し、その測定結果からCIE-Lab表色系のb*を算出した。
【0115】
[製造例1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の製造]
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0116】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解した溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0117】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0118】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0119】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化物率は99%以上、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0120】
[製造例2:樹脂ペレットの製造]
製造例1で得たジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合して、フィルムの材料となる結晶性樹脂を得た。当該結晶性樹脂のガラス転移温度Tg(1)は93℃、結晶化ピーク温度Tcは135℃であった。
【0121】
前記の結晶性樹脂を、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。前記の二軸押出機によって、結晶性樹脂を熱溶融押出成形によりストランド状の成形体に成形した。この成形体をストランドカッターにて細断して、結晶性樹脂のペレットを得た。前記の二軸押出機の運転条件を、以下に示す。
・バレル設定温度:270℃~280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
【0122】
[実施例1]
製造例2で得られた結晶性樹脂のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。供給された結晶性樹脂を、フィルム成形機で溶融させ、Tダイを通して押し出し、15m/分の巻取速度でロールに巻き取る方法にて、結晶性樹脂からなる長尺の延伸前フィルム(厚み50μm、幅1350mm)を製造した(工程1)。前記のフィルム成形機の運転条件を、以下に示す。
・バレル温度設定:280℃~290℃
・ダイ温度:270℃
・スクリュー回転数:30rpm
【0123】
こうして得た延伸前フィルムを、MD方向に200mm、TD方向に200mmのサイズに切り出して、矩形の延伸前フィルムを得た。切り出された延伸前フィルムを、バッチ式二軸延伸装置(東洋精機製作所社製)に取り付けた。この取り付けは、延伸前フィルムの四辺を前記の二軸延伸機のクリップで固定し、当該延伸前フィルムが緊張した状態となるように行った。このように延伸前フィルムの四辺をクリップで固定した状態で、当該延伸前フィルムを、一定の予熱温度Tp=130℃で予熱時間tp=180秒間保持した(工程2)。
【0124】
その後直ちに、前記の二軸延伸機を用いて、一定の延伸温度Ts=130℃で20秒間かけて、延伸前フィルムをMD方向及びTD方向に同時に延伸した(工程3)。MD方向の延伸倍率は1.6倍、TD方向の延伸倍率は1.6倍であり、よって延伸の面倍率は2.6倍であった。この延伸により、延伸後のフィルムとしての延伸フィルムを得た。
【0125】
その後直ちに、得られた延伸フィルムを二軸延伸機から取り外して自然放冷させた。放冷により、延伸フィルムの温度は、延伸温度Tsより高温になること無く直ちに常温まで低下した(工程4)。これにより、結晶性樹脂からなる層を備えた単層構造の樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムを、上述した方法で評価した。
【0126】
[実施例2]
工程2において、予熱時間tpを290秒に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0127】
[実施例3]
工程2において、予熱温度Tpを145℃に変更し、予熱時間tpを40秒に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0128】
[実施例4]
工程2において、予熱温度Tpを127℃に変更し、予熱時間tpを250秒に変更した。さらに、工程3において、延伸温度Tsを127℃に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0129】
[実施例5]
工程1において、フィルムの巻取速度を7.5m/分に変更することにより、長尺の延伸前フィルムの寸法を厚み100μm、幅1350mmに変更した。また、工程3において、MD方向の延伸倍率を2.45倍、TD方向の延伸倍率を2.45倍に変更することにより、延伸の面倍率を6.0倍に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0130】
[実施例6]
工程1において、フィルムの巻取速度を25m/分に変更することにより、長尺の延伸前フィルムの寸法を厚み30μm、幅1350mmに変更した。また、工程3において、MD方向の延伸倍率を1.3倍、TD方向の延伸倍率を1.3倍に変更することにより、延伸の面倍率を1.7倍に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0131】
[実施例7]
工程1において、フィルムの巻取速度を25m/分に変更することにより、長尺の延伸前フィルムの寸法を厚み30μm、幅1350mmに変更した。また、工程3において、延伸温度Tsを110℃に変更し、更に、MD方向の延伸倍率を1.3倍、TD方向の延伸倍率を1.3倍に変更することにより、延伸の面倍率を1.7倍に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0132】
[実施例8]
工程2において、予熱温度Tpを160℃に変更し、予熱時間tpを10秒に変更した。さらに、工程3において、延伸温度Tsを160℃に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0133】
[実施例9]
製造例2で得られた結晶性樹脂のペレット、及び、熱可塑性樹脂としてのノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製「ZEONOR 1430」;ガラス転移温度Tg(2)=143℃)のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。供給された樹脂を、フィルム成形機で溶融させ、Tダイを通して共押し出しをし、15m/分の巻取速度でロールに巻き取る方法にて、長尺の共押出フィルム(厚み50μm、幅1350mm)を製造した(工程1)。得られた共押出フィルムは、「結晶性樹脂の層(厚み10μm)/ノルボルネン系樹脂の層(厚み30μm)/結晶性樹脂の層(厚み10μm)」という2種3層の層構成を有していた。前記のフィルム成型機の運転条件を、以下に示す。
・各バレル温度設定:280℃~290℃
・ダイ温度:270℃
・各スクリュー回転数:10rpm
【0134】
延伸前フィルムとして、上述した共押出フィルムを用いた。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0135】
[実施例10]
工程2において、延伸前フィルムとして、実施例9で製造した共押出フィルムを用い、予熱温度Tpを145℃に変更し、予熱時間tpを40秒に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0136】
[比較例1]
工程2において、予熱時間tpを90秒に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0137】
[比較例2]
工程2において、予熱時間tpを360秒に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0138】
[比較例3]
工程1において、フィルムの巻取速度を25m/分に変更することにより、長尺の延伸前フィルムの寸法を厚み30μm、幅1350mmに変更した。また、工程2において、予熱温度Tpを115℃に変更した。さらに、工程3において、延伸温度Tsを115℃に変更し、更に、MD方向の延伸倍率を1.3倍、TD方向の延伸倍率を1.3倍に変更することにより、延伸の面倍率を1.7倍に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0139】
[比較例4]
工程1において、フィルムの巻取速度を25m/分に変更することにより、長尺の延伸前フィルムの寸法を厚み30μm、幅1350mmに変更した。また、工程3において、MD方向の延伸倍率を1.1倍、TD方向の延伸倍率を1.1倍に変更することにより、延伸の面倍率を1.2倍に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0140】
[結果]
上述した実施例及び比較例の結果を、それぞれ表1及び表2に示す。
【0141】
【0142】